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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】肝機能改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/137 20060101AFI20230123BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230123BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230123BHJP
   A61P 39/06 20060101ALN20230123BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20230123BHJP
【FI】
A61K31/137
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A23L33/10
A61P39/06
A61P1/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022043177
(22)【出願日】2022-03-17
(62)【分割の表示】P 2020195482の分割
【原出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022084029
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2022-07-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596120326
【氏名又は名称】株式会社サン・クロレラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】鄭 屹峰
(72)【発明者】
【氏名】藤島 雅基
(72)【発明者】
【氏名】奥村 衣梨
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070569(JP,A)
【文献】J. Food Bioact.,2020年03月31日,Vol.9,pp.52-57
【文献】PLoS ONE,2012年,Vol.7, Issue 4, e35143,pp.1-7
【文献】Nutrients,2019年,Vol.11,462,doi:10.3390/nu11020462
【文献】Life Sciences,2005年,Vol.76,pp.3001-3013
【文献】Food Funct.,2014年,Vol.5,pp.3252-3260
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェネチルアミン又はその塩を有効成分とするGAPDH増強剤(非アルコール性脂肪性肝疾患予防又は治療剤を除く)。
【請求項2】
フェネチルアミン又はその塩を有効成分とするメチルグリオキサール又はグリオキサールの生成抑制剤(非アルコール性脂肪性肝疾患予防又は治療剤を除く)。
【請求項3】
経口摂取用である請求項1又は2記載の剤。
【請求項4】
フェネチルアミン又はその塩を含有するGAPDH増強用食品組成物(非アルコール性脂肪性肝疾患予防又は治療用食品組成物を除く)。
【請求項5】
フェネチルアミン又はその塩を含有するメチルグリオキサール又はグリオキサールの生成抑制用食品組成物(非アルコール性脂肪性肝疾患予防又は治療用食品組成物を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、代謝、排出、解毒、体液の恒常性の維持、十二指腸への胆汁の分泌など多くの機能を担っている、体内最大の臓器である。肝臓の疾患としては、脂肪肝、肝炎、肝硬変、肝がんなどが知られているが、脂肪肝や肝炎では、血液中のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)値、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値に代表される肝機能マーカーが上昇することが知られている。
肝機能が低下すると、生体で必要な物質の合成ができなくなる、生体で生成した老廃物の分解ができなくなる、体外からの有害物質や薬物の分解ができなくなり、肝臓の機能がさらに低下する。
【0003】
これらの肝機能を改善する薬剤としては、ウルソデオキシコール酸、グリチルリチンなどが挙げられる。また、肝機能を改善するために、アルコール摂取の制限、糖質、脂質の制限などの食事療法、肥満を防ぐための運動などが勧められている。
【0004】
また、肝機能改善剤として、ニンニクと梅と牡蠣の組み合わせ(特許文献1)、マルチトール(特許文献2)、種々の植物抽出物とアミノ酸などの組み合わせ(特許文献3)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-241340号公報
【文献】特開2014-129324号公報
【文献】特開2017-141199号公報
【文献】米国特許出願公開第2006/0204599号
【文献】米国特許出願公開第2008/0260881号
【文献】米国特許第9526793号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本香料工業会ホームページ
【文献】Toxicol.Res.Vol.30,No.3,pp193-198(2014)
【文献】Can.J.Physiol.Pharmacol.88;273-284(2010)
【文献】Biochimica et Biophysica Acta 1637(2003)98-106
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF MOLECULAR MEDICINE 41;3527-3536,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでに報告されている肝機能改善剤の有効性は十分でなく、さらに新たな肝機能改善剤が求められていた。
従って、本発明の課題は、高い有効性を有する新たな肝機能改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々の成分を用いて肝機能マーカーに対する作用だけでなく、解糖系の酵素、酸化ストレスなどのマーカーに対する作用も検討したところ、全く意外にも、フェニルアルキルアミン又はその塩が、微量の経口投与で、血液中のASTおよびALTから選ばれる肝機能マーカーを低下させ、酸化ストレスを軽減し、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)を増強し、短鎖アルデヒドの生成を抑制し、肝機能改善剤又は肝機能改善用食品組成物として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[13]を提供するものである。
[1]フェニルアルキルアミン又はその塩を有効成分とする肝機能改善剤。
[2]フェニルアルキルアミン又はその塩を有効成分とする、血液中のASTおよびALTから選ばれる肝機能マーカーの低下剤。
[3]フェニルアルキルアミン又はその塩を有効成分とする酸化ストレス軽減剤。
[4]フェニルアルキルアミン又はその塩を有効成分とするGAPDH増強剤。
[5]フェニルアルキルアミン又はその塩を有効成分とする短鎖アルデヒド生成抑制剤。
[6]有効成分が、フェニルアルキルアミン又はその塩を含む藻類抽出物である[1]~[5]のいずれかに記載の剤。
[7]経口摂取用である[1]~[6]のいずれかに記載の剤。
[8]フェニルアルキルアミン又はその塩を含有する肝機能改善用食品組成物。
[9]フェニルアルキルアミン又はその塩を含有する、血液中のASTおよびALTから選ばれる肝機能マーカーの低下用食品組成物。
[10]フェニルアルキルアミン又はその塩を含有する酸化ストレス軽減用食品組成物。
[11]フェニルアルキルアミン又はその塩を含有するGAPDH増強用食品組成物。
[12]フェニルアルキルアミン又はその塩を含有する短鎖アルデヒド生成抑制用食品組成物。
[13]フェニルアルキルアミン又はその塩を含む藻類抽出物を含有するものである[8]~[12]のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の肝機能改善剤は、微量のフェニルアルキルアミン又はその塩の経口投与により、血液中のASTおよびALTを低下させるだけでなく、GAPDHを増強することにより短鎖アルデヒドの生成を抑制し、酸化ストレスを軽減し、抗酸化酵素活性も増強して、結果的に肝機能を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】体重と肝臓重量の変化を示す図である。ND:通常食群、HFD:高脂肪食群、WEC:クロレラ熱水抽出物摂取群、PL:フェネチルアミン低用量群、PH:フェネチルアミン高用量群(以下の図において同じ)。
図2】血漿中AST濃度およびALT濃度の変化を示す図である。
図3】TBARS、GSH/GSSGおよびSOD様活性の変化を示す図である。
図4】SOD-1の変化を示す図である。
図5】GOX-1の変化を示す図である。
図6】GAPDHの変化を示す図である。
図7】β-アクチンの変化を示す図である。
図8】メチルグリオキサールの変化を示す図である。
図9】システインの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の肝機能改善剤の有効成分は、フェニルアルキルアミン又はその塩である。
フェニルアルキルアミンとしては、フェニル-C1-C6アルキルアミンが挙げられ、フェニルC1-C4アルキルアミンがより好ましい。具体的には、ベンジルアミン、フェネチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、2-フェニルプロピルアミン、4-フェニルブチルアミン、5-フェニルペンチルアミンなどが挙げられる。このうち、フェネチルアミンがさらに好ましい。
また、フェニルアルキルアミンのフェニル基には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-C3アルキル基、アルコキシ基などが置換していてもよい。
【0013】
フェネチルアミンは、チーズ、魚の加工品、ワイン、キャベツ、ココア、ビールなどに存在する化合物である。欧米では、種々の食品に対して、香りの再現、風味向上の目的で、着香剤として用いられている。日本においても、食品添加物香料としての使用が認められている(非特許文献1)。
【0014】
アカシアが体重増加抑制作用を示し、フェネチルアミンがアカシアに含まる成分であることが知られている(特許文献4)。藍藻類がダイエットサプリメントとして有用であり、当該藍藻類にはフィコシアニンおよびフェネチルアミンが含まれていることが報告されている(特許文献5)。また、フェネチルアミンの硝酸塩又は亜硝酸塩が、ダイエットサプリメントとして使用できることが報告されている(特許文献6)。
しかし、フェネチルアミンなどのフェニルアルキルアミンについての肝臓に対する作用は、全く知られていない。
【0015】
フェニルアルキルアミンの塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩などの有機酸塩が挙げられる。
【0016】
フェニルアルキルアミン又はその塩は、後記実施例に記載のように、マウスに対し10μg/kg/dayという低用量の経口投与で、高脂肪食で上昇したASTおよびALTを有意に低下させる。
また、フェニルアルキルアミン又はその塩は、前記同様の低用量で、高脂肪食で上昇した酸化ストレス(脂質過酸化)のマーカーであるTBARS(2-チオバルビツール酸反応性物質)を有意に低下させる。また、抗酸化酵素であるSOD様活性を増強する。
また、フェニルアルキルアミン又はその塩は、前記同様の低用量で、高脂肪食で減少した解糖系酵素であるGAPDHを有意に増強する。さらに、フェニルアルキルアミン又はその塩は、前記同様の低用量で、グルタチオンを増強し、システインも増強し、一方、短鎖アルデヒド(メチルグリオキサール)を減少させる。
【0017】
ここで、短鎖アルデヒドであるメチルグリオキサールは、生体に、糖化ストレス、酸化ストレスをかけ、肝疾患の進行に影響していることが知られている(非特許文献2および3)。一方、メチルグリオキサールは、グリセルアルデヒド3-リン酸(GAP)又はその異性体であるジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)から生成し、その両者を代謝する酵素がGAPDHである。またメチルグリオキサールはシステインと反応することが知られている。メチルグリオキサールの量は、赤血球のGAPDH活性と反比例し、DHAPと比例する。GAPDHがGAP/DHAPを代謝すればメチルグリオキサールは減少する(非特許文献4)。しかし、GAPDHは変動が少ないとされており、いわゆるHouse keeping 遺伝子として考えられている。マウスにエタノールを投与して急性肝炎を誘発しても減少傾向を示すが有意な差は認められない(非特許文献5)。
今回、高脂肪食をマウスに投与すると、肝臓に脂肪が蓄積し、遊離のシステインが激減していた。これは高脂肪食により生じたアルデヒドがシステインと反応して、肝臓中のシステインを枯渇させたと考えられる。これに対し、フェニルアルキルアミンは、GAPDHを2倍弱増加し、その結果、短鎖アルデヒドのメチルグリオキサールを減少させ、酸化ストレスを低下させ、その結果短鎖アルデヒドと反応しやすいシステインを維持する。これがSODなどのシステインを活性中に持つ抗酸化酵素活性を増加させ、抗酸化システムを維持する。このようにフェニルアルキルアミンは、高脂肪食による酸化ストレスを軽減し、GAPDHの発現増加により短鎖アルデヒドの生成を抑制することによって、肝機能を改善するものと考えられる。
【0018】
フェニルアルキルアミン又はその塩は、前記のような種々の生理作用により肝機能改善剤および肝機能改善用食品組成物として有用である。従って、本発明の肝機能改善剤および肝機能改善用食品組成物には、フェニルアルキルアミン又はその塩を含有すればよいが、フェニルアルキルアミン又はその塩を含有する種々の植物抽出物を含有させてもよい。
このようなフェニルアルキルアミン又はその塩を含有する植物抽出物としては、フェネチルアミン又はその塩を含有する藻類抽出物が好ましく、フェネチルアミン又はその塩を含有するクロレラ抽出物がより好ましい。クロレラとしては、Chlorella pyrenoidosaが好ましい。
また、植物抽出物としては、水、アルコール、多価アルコールなどによる抽出物が挙げられるが、水抽出物が好ましい。なお、ここで水は冷水でも熱水でもよい。抽出方法は、浸漬法、ソックスレー法等でもよい。
【0019】
本発明の肝機能改善剤又は肝機能改善用食品組成物は、経口摂取用の形態とするのが好ましい。経口摂取用の形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、糖衣錠、丸剤、細粒剤、散剤、粉剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、乳剤、凍結乾燥剤、液剤、エリキシル剤、経口ゼリー剤、ドリンク剤、ガム、菓子類等が挙げられる。
【0020】
また、肝機能改善剤又は肝機能改善用食品組成物の経口摂取用の形態は、常法によって製造でき、フェニルアルキルアミン又はその塩、あるいはフェニルアルキルアミン又はその塩を含む植物抽出物を単独で使用してもよく、薬学的又は食品として許容される担体と組み合わせて使用してもよい。当該薬学的又は食品に許容される担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料、希釈剤、殺菌剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定化剤、吸収助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、湿潤剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、等張化剤、無痛化剤、矯臭剤等が挙げられる。
【0021】
結合剤としては、例えば、デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0022】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0023】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
流動性促進剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0024】
希釈剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の肝機能改善剤又は肝機能改善用食品組成物の有効成分であるフェニルアルキルアミン又はその塩を使用する際の投与量に厳格な制限はない。対象者や症状等の様々な使用態様によって得られる効果が異なるため、適宜投与量を設定することが望ましいが、肝機能改善作用の点で、フェニルアルキルアミン又はその塩として成人1日当たり、0.1mg~200mgとするのが好ましく、0.5mg~150mgとするのがより好ましく、1mg~100mgとするのがより好ましい。
【実施例
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0027】
実施例1
【0028】
(1)材料および方法
ア.材料
Chlorella pyrenoidosa (WEC)の熱水抽出物を調製し、Sun Chlorella (Kyoto, Japan)から供給を受けた。
フェネチルアミン、プロテイナーゼ阻害剤カクテル、ブチルヒドロキシトルエン(BHA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,1,3,3‐テトラエトキシプロパン(TEP)、チオバルビツール酸(TBA)、グルタチオン(GSH)、グルタチオンジスルフィド(GSSG)、N‐エチルマレイミド(NEM)、および増強化学蛍光(ECL)試薬をNacalai Tesque(日本、京都)から入手した。
ヘパリンナトリウムはニプロ(大阪、日本)から入手した。
細胞溶解試薬は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO,USA)から入手した。マウススーパーオキシドジスムターゼ(SOD)-1およびマウスグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)1に対するウサギ免疫グロブリンG(IgG)は、Abcam(Cambridge,UK)から入手した。
マウスモノクローナル抗体を、GAPDHおよびβ-actinに反応できる、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびβ-actinは、Proteintech Group(Chicago,IL,USA)およびSanta Cruz Biotechnology(Dallas,TX,USA)から入手した。
ウサギおよびマウスIgGに対するヤギIgG-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体を、Cell Signaling Technology(Danvers,MA,USA)から入手した。
【0029】
イ.動物実験
雄C57bl/6Jマウス(7週齢、21~23g)を日本SLC(静岡、日本)から購入した。全てのマウスを以下のように無作為に6群に分けた(n=6)。
マウスには通常食と水道水(ND群)、高脂肪食(カロリーベースで60%、CLEA日本)と水道水(HFD群)、100mg/kg体重の水道水中の高脂肪食とWEC(WEC群)、および10と100μg/kg体重の水道水中の高脂肪食とフェネチルアミン(PLとPH群)をそれぞれ与えた。
すべてのマウスを12週間後、絶食せずにイソフルラン麻酔下で屠殺した。
ヘパリンナトリウム処理シリンジで下大静脈から血液を採取した。
血漿は、3500rpmで5分間遠心分離することによって調製した。
肝臓を採取し、肝臓中の血液を、冷PBSを門脈に注入することによってパージした。血漿および肝臓は-30℃で保存した。
【0030】
メチルグリオキサールは2,3-diaminonaphthalene(DAN)により誘導化した後、液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC-MS/MS)により定量した。
肝臓を同量のリン酸緩衝液中で磨砕し、破砕物に肝臓重量あたり6倍量(v/w)のエタノールを加えよく撹拌した。懸濁液を14200gで遠心分離し上清を得た。10μLの上清または標準物質の溶液に50μLの0.1% DAN溶液を加え50℃で1時間反応させた。反応後、500μLの酢酸エチルを加え、よく撹拌した。酢酸エチル層を400μL取り、乾固した。残渣を30%アセトニトリル水溶液に溶解し、濾過後、LC-MS/MSで分析した。0.1%ギ酸で平衡化したInertsil ODS-3カラム(2.1mm×250mm,GL Science)を用いて流速0.2mL/分で0.1%ギ酸溶液(A液)と0.1%ギ酸を含む80%アセトニトリル(B液)を用いたグラジエント溶出により分離した。グラジエント条件は以下のとおり;0-15分;0-10%B溶液、15-18分;100%B溶液、18.1-25分;0%B。カラムは40℃に保った。検出はmulti reaction monitoringモードで行った。
【0031】
システインは4-ビニルピリジン(4-VP)によりチオール基をラベルし、アミノ基を6-aminoquinolyl-N-hydroxysuccinimidyl carbamate(AccQ)によりラベルし、LC-MS/MSにより定量した。前述のマウスの肝臓の抽出物75μLに純水22.5μLを加え、さらに4-VP 2.5μLを加え37℃で2時間反応させた。反応液に酢酸エチル 500μLと純水 100μLを加えよく撹拌し、水相50μLを採取して、乾固した。ここに50mM ホウ酸ナトリウム緩衝液 pH8.8を80μL加え、さらに0.3% AccQ アセトニトリル溶液20μLを加え50℃で10分反応させた。
反応液を前述のLC-MS/MSによりMRMモードにより定量した。
【0032】
ウ.肝臓SOD様活性
肝臓組織を、BioMasher II (Nippi, 24 Tokyo, Japan)を使用することによって、0.25Mスクロースおよび1mM EDTAを含有する5体積(w/v)%の10mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)中でホモジナイズした。
ホモジネートを10000gで60分間遠心分離し、肝臓中の可溶性化合物のSOD様活性アッセイのために上清を収集した。さらに、肝臓組織を同体積(w/v)のPBS中でホモジナイズし、次いで6体積(w/v)%のエタノールを添加した。得られた溶液を10000gで10分間遠心分離し、上清を回収し、低分子量化合物画分として使用した。上記上清中のSOD様活性は、WST-1 SODアッセイキット(同仁、熊本、日本)を用いてアッセイした。
【0033】
エ.血漿生化学的分析
血漿アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性は、東洋酵母に委託して測定した。
チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)アッセイDTPAを1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)に溶解し、2mM溶液を得た。BHAをメタノールに溶解し、10%(w/v)溶液を得た。5ミリリットルのDTPA溶液、45mLの熱水、および100μLのBHA溶液を0.1グラムのTBAに添加して、0.2%のTBA溶液を得た。
この溶液をTBA試薬として用いた。
10ミリリットルのメタノールを、マロンジアルデヒド前駆体である4.8μLのTEP中に添加して、2mMのTEP溶液を得た。TEP溶液をメタノールで2~50mMに希釈し、標準溶液とした。肝臓組織を9体積(w/v)の1.15% KCl溶液中でホモジナイズした。ホモジネートを2000gで1分間遠心分離した。
上清または標準溶液(25μL)をTBA試薬(100μL)と混合し、ボルテックスし、次いで95℃で60分間加熱した。氷上で5分間冷却することによって反応を停止させた。反応剤を14200gで10分間遠心分離した。上清の515nmにおける吸光度を測定した。TBARS値は、μMのマロンジアルデヒドとして表した。
グルタチオンおよびグルタチオンジスルフィドグルタチオンおよびそのジスルフィドの測定は、山田らの方法によるNEMおよびAccQでの誘導体化に続く液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)によって決定した。
【0034】
オ.ウエスタンブロット法
肝臓のアリコート(約50mg)を、BioMasher II中で1%のプロテイナーゼ阻害剤を含有する300μLの細胞溶解試薬中でホモジナイズした。12000gで15分間(4℃)遠心分離した後、上清中のタンパク質濃度をBCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific,Rockford,IL,USA)によって測定し、同じ緩衝液で10μg/15μLに調整した。タンパク質を、12.5%ゲルを使用するSDS-PAGEによって分離し、次いで、半乾燥ブロッティング装置(WSE 4020、ATTO、Tokyo、Japan)を使用することによって、PVDF膜(0.45μm毛穴、GE healthcare Life Sciences、シカゴ、IL、米国)に移した。
次いで、膜を4%ブロックでブロックしたエース(Megmilk Snow Brand,Sapporo,Japan)を室温で30分間、続いて、2.68mM KCl、0.05%(v/v)Tween 20(TBST)を含有する137mM NaClを含有するpH7.5の50mM Tris-HCl緩衝液で、室温で5分間(5回)洗浄した。
SOD-1、GPX-1、β-アクチン、およびGAPDHに対する一次抗体を、0.05%(v/v)Tween 20を含有する0.4%ブロックエース溶液でそれぞれ1:5000、1:5000、1:1000、および1:8000に希釈した。一次抗体と一晩インキュベートした後、膜をTBSTで5分間(5回)洗浄した。HRP-二次抗体結合体を、0.05%(v/v) Tween 20を含有する0.4%ブロックAceで1:10000に希釈した。膜をHRP-二次抗体結合体と共に1時間インキュベートし、続いて室温で5分間(5回)TBSTで洗浄した。膜をECL試薬に1分間浸漬し、LuminoグラフI(ATTO)を使用することによってバンドを検出した。
【0035】
カ.統計解析
ある群とHFD群の間の同じ膜におけるウエスタンブロット法によって検出された蛋白質のバンド強度の差をt検定によって分析した。
HFD群と他群間の他のパラメータの統計学的差は、一元配置分散分析を用いて分析し、続いて多重比較のためにDunnett試験を行った。
この差はp<0.05で有意とみなされ、0.05<p<0.1で一定の傾向があった。
統計解析にはGraphPad Prism 7ソフトウェア(GraphPad Software,CA,USA)を使用した。
【0036】
(2)結果
ア.体重と肝臓重量
図1に示すように、高脂肪食を与えた群(HFD、WEC、PL、PH群)の体重は、4週間後に通常食を与えた群(ND群)よりも有意に高かった。しかし、WECおよびフェネチルアミンの投与は体重増加に有意な影響を及ぼさなかった。HFD群の肝重量(図1C)はND群より有意に高値であった。HFD群の肝臓/体重比(図1B)は、ND群より高い傾向にあったが、統計学的な差はなかった。この比率は、HFD群と比較してフェネチルアミン(PLおよびPH群)を投与したマウスで減少する傾向があった(p<0.1)。
【0037】
イ.血漿生化学的パラメータ
血漿ASTおよびALT活性(図2AおよびB)は、HFD群でND群よりも有意に高く、このことは高脂肪食摂食により肝障害が誘発されたことを示している。
これに対し、低用量のフェネチルアミン(10μg/kg/日、PL群)の投与はHFD群と比較して血漿ASTおよびALT活性を有意に低下させたが、高用量のフェネチルアミン(100μg/kg/日、PH群)の投与はALTの低下傾向のみを示した。
【0038】
ウ.肝臓における酸化ストレス
高脂肪食摂取(HFD群)は、通常食摂取(ND群)と比較して、肝臓抽出物中の脂質過酸化の指標であるチオバルビツール酸反応性物質(TBARS、図3A)値を有意に増加させ、SOD様活性を低下させた(図3C)。
さらに、高脂肪食摂取群は、酸化ストレスマーカーであるグルタチオンジスルフィドに対するグルタチオンの比率(GSH/GSSG、図3B)を低下させる傾向があった。これらの事実は、高脂肪食が肝臓における酸化ストレスを増加させ、内因性抗酸化系を減少させることを示している。
これに対し、WEC、低および高用量の両方のフェネチルアミンの投与は、高脂肪食誘導脂質酸化を有意に抑制した。
WECと低用量のフェネチルアミンの投与は、HFD群と比較して肝臓抽出物中のSOD様活性を有意に増加させた。
肝臓のGSH/GSSGもHFD群と比較してPL群で有意に増加した(図3B)。
【0039】
エ.肝臓中の内因性抗酸化酵素、SOD-1(図4)およびGPX-1(図5)の抗酸化酵素レベルを、ウエスタンブロット分析法により評価した。
驚くべきことに、高脂肪食摂取および/またはWECおよびフェネチルアミンの投与は、GAPDHおよびβ‐アクチンレベルに有意に影響した(図6,7)。
さらに、α-tublinのバンド強度は、標的タンパク質よりもはるかに低かった(データは示されていない)。
各群の蛋白質バンドの強度を、同じ膜上で分割したHFD群のそれとt検定で比較した。
SOD様活性はWECおよび低用量のフェニルエチルアミンによって有意に増加した(図4)。高脂肪食摂取は、ND群と比較して肝臓におけるGPX‐1およびβ‐アクチン蛋白質レベルを有意に減少させた(図5,7)。
低用量のフェネチルアミンの投与は、HFD基と比較してGPX-1を増加させる傾向があり(p= 0.058、図5)、β-アクチンレベルを有意に増加させた(図7)。
HFD群とND群の間でGAPDHレベルの有意差はなかったにもかかわらず、フェネチルアミンとWECの経口投与用はHFD群と比較してGAPDHレベルを有意に増加させた(図6)。
【0040】
肝臓中の、短鎖アルデヒドであるグリオキサールレベルおよびメチルグリオキサールレベルは、WEC、フェネチルアミンの経口投与によって有意に低下した(図8)。
また、肝臓中の遊離システインレベルは、WEC、フェネチルアミンの経口投与によって有意に増加した(図9)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9