(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】電池性能評価装置および電池性能評価方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20230123BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20230123BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20230123BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230123BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2021080843
(22)【出願日】2021-05-12
【審査請求日】2022-06-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595098011
【氏名又は名称】東洋システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗像 一郎
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】丹野 諭
(72)【発明者】
【氏名】庄司 秀樹
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特許第6842212(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0088181(US,A1)
【文献】特開2020-153881(JP,A)
【文献】特開2018-009939(JP,A)
【文献】特開2016-211923(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0124051(US,A1)
【文献】特開2016-048617(JP,A)
【文献】特開2016-023967(JP,A)
【文献】特表2005-524089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
19/00-19/32、
H01M 10/42-10/48、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照二次電池のインピーダンスの測定結果を認識する第1認識処理要素と、
前記第1認識処理要素により認識された前記参照二次電池のインピーダンスの測定結果に基づき、指定条件が満たされていない場合には複数の第1モデルパラメータのそれぞれの値を同定することにより当該複数の第1モデルパラメータにより定義される第1電池モデルを確定し、前記指定条件が満たされている場合には前記複数の第1モデルパラメータよりも少数であって、複数の第2モデルパラメータのそれぞれの値を同定することにより当該複数の第2モデルパラメータにより定義される第2電池モデルを確定する第1演算処理要素と、
前記参照二次電池と同一諸元を有する対象二次電池に対して指定電流が入力された際に当該対象二次電池から出力される電圧の変化態様の計測結果としての実測出力電圧を認識する第2認識処理要素と、
前記第1演算処理要素により確定された前記第1電池モデルまたは前記第2電池モデルに対して、前記指定電流が入力された際に当該第1電池モデルまたは当該第2電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を特定する第2演算処理要素と、
前記第2認識処理要素により認識された前記実測出力電圧と前記第2演算処理要素により特定された前記モデル出力電圧との対比結果に基づき、前記対象二次電池の性能を評価する電池性能評価要素と、を備え、
前記第1演算処理要素が、前記指定電流が基準周波数より低い低周波電流成分により構成されていること、前記第1演算処理要素の演算処理負荷が基準値以上であることおよび今回性能評価の対象となる前記対象二次電池の前回性能評価時点からの経過期間が指定期間未満であることのうち少なくとも1つを前記指定条件として前記第1電池モデルまたは前記第2電池モデルを確立する
電池性能評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池性能評価装置において、
前記第1認識処理要素が、前記参照二次電池の異なる温度のそれぞれにおけるインピーダンスの測定結果を認識し、
前記第1演算処理要素が、前記第1認識処理要素により認識された前記参照二次電池の前記異なる温度のそれぞれにおけるインピーダンスの測定結果に基づき、前記指定条件が満たされていない場合には前記複数の第1モデルパラメータのそれぞれの値の温度依存性を特定することにより前記第1電池モデルを確定し、前記指定条件が満たされている場合には前記複数の第2モデルパラメータのそれぞれの値の温度依存性を特定することにより前記第2電池モデルを確定し、
前記第2認識処理要素が、前記対象二次電池の前記実測出力電圧に加えて当該対象二次電池の温度の計測結果を認識し、
前記第2演算処理要素が、前記第1演算処理要素により確定された前記第1電池モデルまたは前記第2電池モデルに対して、前記指定電流に加えて前記第2認識処理要素により認識された前記対象二次電池の温度の計測結果が入力された際の前記モデル出力電圧を特定する
電池性能評価装置。
【請求項3】
参照二次電池のインピーダンスの測定結果を認識する第1認識処理過程と、
前記第1認識処理過程において認識された前記参照二次電池のインピーダンスの測定結果に基づき、指定条件が満たされていない場合には複数の第1モデルパラメータのそれぞれの値を同定することにより当該複数の第1モデルパラメータにより定義される第1電池モデルを確定し、前記指定条件が満たされている場合には前記複数の第1モデルパラメータよりも少数の複数の第2モデルパラメータのそれぞれの値を同定することにより当該複数の第2モデルパラメータにより定義される第2電池モデルを確定する第1演算処理過程と、
前記参照二次電池と同一諸元を有する対象二次電池に対して指定電流が入力された際に当該対象二次電池から出力される電圧の変化態様の計測結果としての実測出力電圧を認識する第2認識処理過程と、
前記第1演算処理過程において確定された前記第1電池モデルまたは前記第2電池モデルに対して、前記指定電流が入力された際に当該第1電池モデルまたは当該第2電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を特定する第2演算処理過程と、
前記第2認識処理過程において認識された前記実測出力電圧と前記第2演算処理過程において特定された前記モデル出力電圧との対比結果に基づき、前記対象二次電池の性能を評価する電池性能評価過程と、を含み、
前記第1演算処理過程が、前記指定電流が基準周波数より低い低周波電流成分により構成されていること、前記第1演算処理
過程の演算処理負荷が基準値以上であることおよび今回性能評価の対象となる前記対象二次電池の前回性能評価時点からの経過期間が指定期間未満であることのうち少なくとも1つを前記指定条件として前記第1電池モデルまたは前記第2電池モデルを確立する電池性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリ等の二次電池の劣化状態を判定するシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人により、対象となる二次電池それ自体の特性パラメータの初期測定結果が存在しない場合でも、当該二次電池の劣化状態を判定しうる技術的手法が提案されている(特許文献1参照)。具体的には二次電池の電圧今回測定値V(k)および電流今回測定値I(k)に基づき、初期特性モデルを表わす多変数関数Gにしたがって、電圧Vの過去値が初期特性推定値V(0←k)として特定されている。「初期特性モデル」は、劣化状態判定対象となる二次電池と同一規格の参照二次電池の初期特性を表わすモデルである。
【0003】
本出願人により、IIRシステムおよびFIRシステムのそれぞれを表わすインパルス応答により二次電池の内部抵抗のインピーダンスが表現されている二次電池モデルを用いて、二次電池の電池性能を評価する技術的手法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6745554号公報
【文献】特許第6842212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、モデルを定義するモデルパラメータの数が多いと、当該モデルパラメータの値の同定に要する演算処理負荷が過大になる場合がある。このため、機器に搭載されている二次電池の電池性能評価処理が当該機器においてオンボードで実行困難になるなど、その適用範囲が限定されてしまう可能性があった。
【0006】
そこで、本発明は、二次電池の性能を評価するために用いられるモデルを定義するモデルパラメータの値の同定に要する演算処理負荷を低減しながら、当該二次電池の性能を評価しうる装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電池性能評価装置は、
参照二次電池のインピーダンスの測定結果を認識する第1認識処理要素と、
前記第1認識処理要素により認識された前記参照二次電池のインピーダンスの測定結果に基づき、指定条件が満たされていない場合には複数の第1モデルパラメータのそれぞれの値を同定することにより当該複数の第1モデルパラメータにより定義される第1電池モデルを確定し、前記指定条件が満たされている場合には前記複数の第1モデルパラメータよりも少数であって、複数の第2モデルパラメータのそれぞれの値を同定することにより当該複数の第2モデルパラメータにより定義される第2電池モデルを確定する第1演算処理要素と、
前記参照二次電池と同一諸元を有する対象二次電池に対して指定電流が入力された際に当該対象二次電池から出力される電圧の変化態様の計測結果としての実測出力電圧を認識する第2認識処理要素と、
前記第1演算処理要素により確定された前記第1電池モデルまたは前記第2電池モデルに対して、前記指定電流が入力された際に当該第1電池モデルまたは当該第2電池モデルから出力される電圧の変化態様としてのモデル出力電圧を特定する第2演算処理要素と、
前記第2認識処理要素により認識された前記実測出力電圧と前記第2演算処理要素により特定された前記モデル出力電圧との対比結果に基づき、前記対象二次電池の性能を評価する電池性能評価要素と、を備え、
前記第1演算処理要素が、前記指定電流が基準周波数より低い低周波電流成分により構成されていること、前記第1演算処理要素の演算処理負荷が基準値以上であることおよび今回性能評価の対象となる前記対象二次電池の前回性能評価時点からの経過期間が指定期間未満であることのうち少なくとも1つを前記指定条件として前記第1電池モデルまたは前記第2電池モデルを確立する。
【0008】
本発明に係る電池性能評価装置によれば、指定条件の充足および不充足の別に応じて、対象二次電池の性能評価のために用いられる電池モデルとして異なる電池モデルが確定される。具体的には、指定条件が満たされている場合、複数の第1モデルパラメータよりも少数の複数の第2モデルパラメータにより定義されている分だけ、当該複数の第1モデルパラメータにより定義される第1電池モデル(指定条件が満たされていない場合に確定される電池モデル)よりも簡素な電池モデルである第2電池モデルが確定される。このため、指定条件の充足性とは無関係に第1電池モデルが確立される場合と比較して、対象二次電池の性能評価のために用いられる電池モデルのモデルパラメータの同定処理に要する演算処理負荷の低減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態としての電池性能評価装置の構成に関する説明図。
【
図2】対象二次電池の電池性能評価方法の手順を示すフローチャート。
【
図3A】第1電池モデル(フルモデル)に関する説明図。
【
図3B】第2電池モデル(簡素化モデル)に関する説明図。
【
図4A】二次電池のフルモデルによるナイキストプロットに関する説明図。
【
図4B】二次電池の簡素化モデルによるナイキストプロットに関する説明図。
【
図5B】二次電池および電池モデルの電圧応答特性に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(電池性能評価装置の構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としての電池性能評価装置100は、データベース10および対象機器200のそれぞれとネットワークを介して通信可能な一または複数のサーバにより構成されている。電池性能評価装置100は、対象機器200に電源として搭載されている二次電池220の性能を評価する。
【0011】
電池性能評価装置100は、第1認識処理要素111と、第2認識処理要素112と、第1演算処理要素121と、第2演算処理要素122と、電池性能評価要素130と、情報提供要素132と、を備えている。第1認識処理要素111、第2認識処理要素112、第1演算処理要素121、第2演算処理要素122、電池性能評価要素130および情報提供要素132のそれぞれは、プロセッサ(演算処理装置)、メモリ(記憶装置)およびI/O回路等により構成されている。メモリまたはこれとは別個の記憶装置には、指定電流に対する二次電池220の電圧応答特性の測定結果などの様々なデータのほか、プログラム(ソフトウェア)が記憶保持されている。例えば、二次電池220またはこれが搭載されている対象機器200の種類(規格および諸元により特定される。)を識別するための複数の識別子のそれぞれと、複数の二次電池モデルのそれぞれとが対応付けられてメモリに記憶保持されている。
【0012】
プロセッサがメモリから必要なプログラムおよびデータを読み取り、当該データに基づき、当該プログラムにしたがった演算処理を実行することにより、各要素111、112、121、122、130および132に割り当てられた後述する演算処理またはタスクが実行される。各要素が情報を「認識する」とは、情報を受信すること、データベース10等の情報源から情報を検索することもしくは読み取ること、基礎情報に対して演算処理を実行することにより情報を算定、推定、特定、同定、予測することなど、後続する演算処理において必要な情報またはデータを準備するあらゆる演算処理を実行することを意味する。
【0013】
対象機器200は、入力インターフェース202と、出力インターフェース204と、制御装置210と、二次電池220と、センサ群230と、を備えている。対象機器200は、パソコン、携帯電話(スマートフォン)、家電製品または電動自転車等の移動体など、二次電池220を電源とするあらゆる機器を含んでいる。
【0014】
制御装置210は、プロセッサ(演算処理装置)、メモリ(記憶装置)およびI/O回路等により構成されている。当該メモリまたはこれとは別個の記憶装置には、二次電池220の電圧応答特性の計測結果などの様々なデータが記憶保持される。制御装置210は、二次電池220から供給電力に応じて作動し、通電状態において対象機器200の動作を制御する。対象機器200の動作には、当該対象機器200を構成するアクチュエータ(電動式アクチュエータなど)の動作が含まれる。制御装置210を構成するプロセッサがメモリから必要なプログラムおよびデータを読み取り、当該データに基づき、当該プログラムにしたがって割り当てられた演算処理を実行する。
【0015】
二次電池220は、例えばリチウムイオンバッテリであり、ニッケル・カドミウム電池等のその他の二次電池であってもよい。センサ群230は、二次電池220の電圧応答特性および温度のほか、対象機器200の制御に必要なパラメータの値を測定する。センサ群230は、例えば二次電池220の電圧、電流および温度のそれぞれに応じた信号を出力する電圧センサ、電流センサおよび温度センサにより構成されている。
【0016】
電池性能評価装置100は対象機器200に搭載されていてもよい。この場合、ソフトウェアサーバ(図示略)が、対象機器200が備えている制御装置210を構成する演算処理装置に対して劣化判定用ソフトウェアを送信することにより、当該演算処理装置に対して電池性能評価装置100としての機能を付与してもよい。
【0017】
(電池性能評価方法)
前記構成の電池性能評価装置100により実行される二次電池220(対象二次電池)の電池性能評価方法について説明する。
【0018】
(インピーダンスの測定結果の認識)
電池性能評価装置100において、第1認識処理要素111により、さまざまな種類の参照二次電池としての二次電池220の複素インピーダンスZなどのインピーダンスの測定結果が認識される(
図2/STEP112)。参照二次電池の複素インピーダンスZは、交流インピーダンス法により測定され、当該測定結果は参照二次電池の種類を識別するための識別子と関連付けられてデータベース10に登録される。
【0019】
対象機器200に搭載されていない状態における参照二次電池としての二次電池220の複素インピーダンスZが測定される。そのほか、対象機器200に搭載されている状態における参照二次電池としての二次電池220の複素インピーダンスZが測定されてもよい。例えば、対象機器200が二次電池220の充電のために商用電源等の電源に接続され、当該電源から供給される電力によって正弦波信号が出力されうる。
【0020】
図3には、二次電池220の複素インピーダンスZの実測結果を表わすナイキストプロットの一例が、当該プロットの近似曲線とともに示されている。横軸は複素インピーダンスZの実部ReZであり、縦軸は複素インピーダンスZの虚部-ImZである。-ImZ>0の領域においてReZが大きくなるほど低周波数の複素インピーダンスZを表わしている。-ImZ=0におけるReZの値は二次電池220の電解液中の移動抵抗に相当する。-ImZ>0の領域における略半円形状の部分の曲率半径は、二次電池220の電荷移動抵抗に相当する。当該曲率半径は、二次電池220の温度Tが高温になるほど小さくなる傾向がある。-ImZ>0の領域の低周波数領域において約45°で立ち上がる直線状の部分には、二次電池220のワールブルグインピーダンスの影響が反映されている。
【0021】
(二次電池モデルの確立)
電池性能評価装置100において、第1演算処理要素121により、指定条件が満たされているか否かが判定される(
図2/STEP114)。指定条件は、例えば、対象二次電池としての二次電池220に対して印加される指定電流がサンプリング周波数より低い低周波電流成分により構成されているという条件である。例えば、
図3に示されているナイキストプロットにおいて、-ImZ>0の領域の低周波数領域における約45°の直線状の立ち上がり箇所に相当する周波数(~1Hz)がサンプリング周波数として採用されていてもよい。例えば、二次電池220の充放電電流に相当する低周波電流成分により構成されている電流が指定電流に該当する。
【0022】
この条件に加えてまたは代えて、第1演算処理要素121の演算処理負荷(CPU使用率など)が基準値以上であるという条件、対象機器200が二次電池220の性能評価の要請精度または緊急度が閾値以下である機器(例えば、スマートホン、パーソナルコンピュータなど、二次電池220の性能低下による機能低下の程度が低い機器)であるという条件、および/または、今回性能評価の対象となる二次電池220の前回性能評価時点からの経過期間が指定期間未満であるという条件が指定条件として定義されていてもよい。
【0023】
指定条件が満たされていないと判定された場合(
図2/STEP114‥NO)、第1認識処理要素111により認識された参照二次電池としての二次電池220の複素インピーダンスZの測定結果に基づき、第1電池モデルを定義する複数の第1モデルパラメータのそれぞれの値が異なる温度ごとに同定される(
図2/STEP116)。
【0024】
第1電池モデルは、電流I(z)が二次電池220に入力された際に当該二次電池220から出力される電圧V(z)を表わすモデルである。第1電池モデル(フルモデル)は、例えば、
図4Aに示されているように、電解液中の移動抵抗に相当する抵抗r
0、ワールブルグインピーダンスW、電荷移動抵抗に相当する抵抗r
iおよびキャパシタC
iからなる第iのRC並列回路(i=1,2,‥,m)、ならびに、コイルLおよび抵抗r
LからなるLR並列回路が直列接続された等価回路により定義されている。
【0025】
直列接続されるRC並列回路の数は3より少なくてもよく、3より多くてもよい。ワールブルグインピーダンスWは、少なくともいずれか1つのRC並列回路において抵抗Rと直列接続されていてもよい。キャパシタCがCPE(Constant Phase Element)に置換されていてもよい。
【0026】
第1電池モデルは、二次電池220の開放電圧OCV(z)および内部抵抗の伝達関数H1(z)を用いて関係式(11)により定義される。
【0027】
V(z)=OCV(z)+H1(z)・I(z) ‥(11)。
【0028】
ここでOCV(z)は、電流I(z)の充電および/または放電に伴い開放電圧が増減することを表わしている。
【0029】
第1電池モデルにおける内部抵抗の伝達関数H1(z)は、関係式(12)により定義されている抵抗r0の伝達関数H0(z)、関係式(13)により定義されている第iのRC並列回路の伝達関数Hi(z)、関係式(14)により定義されているワールブルグインピーダンスWの伝達関数HW(z)、および、関係式(15)により定義されているLR並列回路の伝達関数HL(z)を用いて、関係式(16)により定義される。
【0030】
H0(z)=r0 ‥(12)。
【0031】
Hi(z)=(bi0+bi1z-1)/(1+ai1z-1) ‥(13)。
【0032】
ここでサンプリング周期Tを用いて、係数関係式(131)および(132)で表わされる。
【0033】
ai=-(T-2riCi)/(T+riCi) ‥(131)。
【0034】
bi0=bi1=riT/(T+riCi) ‥(132)。
【0035】
実験データにフィットするワールブルグインピーダンスWの伝達関数hW(s)は、周波数領域では関係式(141)または(142)で表わされる。
【0036】
hW(s)=w1・tanh{(sw2)w3}/(sw2)w3 ‥(141)。
【0037】
hW(s)=w1・coth{(sw2)w3}/(sw2)w3 ‥(142)。
【0038】
当該伝達関数は、インパルス応答に対応させるためにはFIRに展開して関係式(14)~(16)により表わされる。
【0039】
HW(z)=Σk=0-nhkz-k ‥(14)。
【0040】
HL(z)=(2L0/T)(1-z-1)/(1+z-1) ‥(15)。
【0041】
H1(z)=HL(z)+Σi=1-mHi(z)+HW(z)+H0(z) ‥(16)。
【0042】
図4Aに実線で示されているナイキストプロットにより表わされる二次電池の複素インピーダンスZの近似曲線を求める際、関係式(16)にしたがって二次電池の内部抵抗の等価回路モデルの伝達関数H(z)が定義されるという仮定下で求められる。これにより、第1モデルパラメータr
0、r
i、C
i、w
1、w
2、w
3、r
LおよびLの値が求められる(関係式(12)~(15)参照)。表1には、第1モデルパラメータの値の同定結果および時定数の一例が示されている。
【0043】
【0044】
開放電圧OCVの測定値により二次電池モデルにおける開放電圧OCVの値が同定される(関係式(11)参照)。そして、当該パラメータの値により第1電池モデルが様々な諸元または仕様の参照二次電池としての二次電池220について確立される。
【0045】
その一方、指定条件が満たされていると判定された場合(
図2/STEP114‥YES)、第1認識処理要素111により認識された参照二次電池としての二次電池220の複素インピーダンスZの測定結果に基づき、第2電池モデルを定義する複数の第2モデルパラメータのそれぞれの値が異なる温度ごとに同定される(
図2/STEP118)。
【0046】
第2電池モデルは、第1電池モデルと同様に電流I(z)が二次電池220に入力された際に当該二次電池220から出力される電圧V(z)を表わすモデルである。第2電池モデルは、関係式(13)により定義されている第iのRC並列回路の伝達関数H
i(z)の時定数が、サンプリング周期Tより十分に小さい場合において第1電池モデルと比較して簡素化されたモデルであり、例えば、
図4Bに示されているように、単一の抵抗R
0およびワールブルグインピーダンスWが直列接続された等価回路により定義されている。
【0047】
第2電池モデルは、二次電池220の開放電圧OCV(z)および内部抵抗の伝達関数H2(z)を用いて関係式(21)により定義される。
【0048】
V(z)=OCV(z)+H2(z)・I(z) ‥(21)。
【0049】
第2電池モデルにおける内部抵抗の伝達関数H1(z)は、関係式(22)により定義されている抵抗R0の伝達関数H0(z)および関係式(14)により定義されているワールブルグインピーダンスWの伝達関数HW(z)を用いて、関係式(26)により定義される。抵抗R0は、電解液中の移動抵抗に相当する抵抗r0および電荷移動抵抗に相当する抵抗ri(i=1,2,‥,m)が集約された結果としての単一の抵抗とみなされる。
【0050】
H0(z)=R0=r0+Σi=1-mri ‥(22)。
【0051】
H2(z)=HW(z)+H0(z) ‥(26)。
【0052】
図4Bに実線で示されているナイキストプロットにより表わされる二次電池の複素インピーダンスZの近似曲線(特に-ImZ>0の領域での直線状部分)を求める際、関係式(26)にしたがって二次電池の内部抵抗の等価回路モデルの伝達関数H(z)が定義されるという仮定下で求められる。これにより、第2モデルパラメータr
0、r
i、w
1、w
2およびw
3の値が求められる(関係式(22)および(14)参照)。開放電圧OCVの測定値により二次電池モデルにおける開放電圧OCVの値が同定される(関係式(21)参照)。そして、当該パラメータの値により第2電池モデルが様々な諸元または仕様の参照二次電池としての二次電池220について確立される。
【0053】
第2モデルパラメータ(R0、w1、w2、w3)の数は「4」であり、第1モデルパラメータ(r0、ri(i=1~3)、Ci(i=1~3)w1、w2、w3、rL、L)の数「12」よりも少ない。また、第2モデルパラメータの一部であってワールブルグインピーダンスWを定義するパラメータ(w1、w2、w3)は、第1モデルパラメータの一部であって同じくワールブルグインピーダンスWを定義するパラメータ(w1、w2、w3)と共通している。
【0054】
(二次電池性能評価)
対象機器200において、通電状態の制御装置210により第1条件が満たされているか否かが判定される(
図2/STEP212)。「第1条件」としては、対象機器200において入力インターフェース202を通じて二次電池220の電池性能評価の要請があったこと、対象機器200が二次電池220の充電のために外部電源に接続されたことなどの条件が採用される。電池性能評価装置100により、対象機器200との適当なタイミングでの通信に基づき、対象二次電池としての二次電池220の諸元および/または仕様等を識別するための識別子IDが認識される。
【0055】
第1条件が満たされていないと判定された場合(
図2/STEP212‥NO)、第1条件の充足性判定処理が再び実行される(
図2/STEP212)。第1条件の充足性判定処理(
図2/STEP212)は省略されてもよい。
【0056】
第1条件が満たされていると判定された場合(
図2/STEP212‥YES)、
図5Aに示されている態様で時間変化する指定電流I(t)が対象二次電池としての二次電池220に対して入力される(
図2/STEP214)。指定電流I(t)の波形信号は、電池性能評価装置100および対象機器200の相互通信によって、第2認識処理要素112により指定されたものであってもよい。例えば、対象機器200が接続された外部電源からの供給電力により、対象機器200に搭載されているパルス電流発生器が駆動されることにより、当該パルス電流発生器において発生された指定電流I(t)が二次電池220に対して入力される。指定電流発生のための補助電源が対象機器200に搭載されていてもよい。
【0057】
センサ群230の出力信号に基づき、制御装置210により二次電池220の電圧応答特性V(t)および温度Tが測定される(
図2/STEP216)。これにより、例えば、
図5Bに実線で示されているように変化する二次電池220の電圧応答特性V(t)が測定される。
【0058】
続いて、制御装置210により第2条件が満たされているか否かが判定される(
図2/STEP218)。「第2条件」としては、電圧応答特性V(t)を特定するために十分な波形信号が取得されたこと、最後に第1条件が満たされたと判定された第1時点から所定時間が経過した第2時点に至ったこと、対象機器200において入力インターフェース202を通じて二次電池220の電池性能評価の要請があったことなどの条件が採用される。
【0059】
第2条件が満たされていないと判定された場合(
図2/STEP218‥NO)、第1条件の充足性判定処理が再び実行される(
図2/STEP212)。第2条件の充足性判定処理(
図2/STEP218)は省略されてもよい。
【0060】
第2条件が満たされていると判定された場合(
図2/STEP218‥YES)、二次電池220の電圧応答特性V(t)および温度Tの測定結果が、出力インターフェース204を構成する送信装置により対象機器200から電池性能評価装置100に対して送信される(
図2/STEP220)。また、電圧応答特性V(t)が測定された際に二次電池220に入力された指定電流I(t)を特定するための測定条件情報が対象機器200から電池性能評価装置100に対して送信されてもよい。
【0061】
電池性能評価装置100において、第2認識処理要素112により、二次電池220の電圧応答特性V(t)および温度Tの測定結果が第2測定結果として認識される(
図2/STEP122)。
【0062】
第2演算処理要素122により、データベース10に登録されている多数の二次電池モデルの中から、第2測定結果に付随する識別子IDおよび第2測定結果に含まれている温度Tの測定結果のそれぞれに関連付けられている第1電池モデルまたは第2電池モデルが選定される(
図2/STEP124)。対象二次電池としての二次電池220の性能を評価するための第1電池モデルが存在しない場合、または、第2電池モデルが存在する場合、第2電池モデルが選定されてもよい。第1電池モデルおよび第2電池モデルの両方が存在する場合、いずれか一方の電池モデル(例えば、性能評価精度に若干優れている第1電池モデル)が優先的に選定されてもよい。
【0063】
さらに、第2演算処理要素122により、当該選定された第1電池モデルまたは第2電池モデルに対して、指定電流I(t)が入力される(
図2/STEP126)。指定電流I(t)は、第2認識処理要素112により指定された波形信号に基づいて認識されてもよく、対象機器200から電池性能評価装置100に対して送信された測定条件情報に基づいて認識されてもよい。
【0064】
第2演算処理要素122により、第1電池モデルまたは第2電池モデルから出力される電圧応答特性V
model(t)が当該第1電池モデルまたは当該第2電池モデルの出力信号として特定される(
図2/STEP128)。これにより、例えば、
図5Bに破線で示されているように変化する第2電池モデルの電圧応答特性V
model(t)が二次電池モデルの出力信号として特定される。
【0065】
続いて、電池性能評価要素130により、対象二次電池としての二次電池220の電圧応答特性V(t)と第1電池モデルまたは第2電池モデルの電圧応答特性V
model(t)との対比結果に基づき、当該二次電池220の性能が評価される(
図2/STEP130)。例えば、対象二次電池としての二次電池220の電圧応答特性V(t)および二次電池モデルの電圧応答特性V
model(t)のそれぞれを表わす曲線の類似度xが特定される。そして、類似度xを主変数とする減少関数fにしたがって、二次電池220の劣化度D(i)=f(x)が特定される(「i」は二次電池220の種類の別を意味する指数である)。すなわち、当該類似度xが高いほど劣化度Dが低く評価され、これとは反対に当該類似度xが低いほど劣化度Dが高く評価される。
【0066】
電池性能評価要素130により、二次電池220の劣化度D(i)に応じた劣化診断情報Info(D(i))が生成される(
図2/STEP132)。電池性能評価要素130により、診断情報Info(D(i))が電池性能評価装置100から対象機器200に対して送信される(
図2/STEP134)。
【0067】
対象機器200において、入力インターフェース202を構成する受信装置が劣化診断情報Info(D(i))が受信される(
図2/STEP222)。出力インターフェース204を構成するディスプレイ装置に、劣化診断情報Info(D(i))が出力表示される(
図2/STEP224)。これにより、二次電池220の劣化度D(i)を示すグラフ表示のほか、「バッテリーの劣化度は30%です。あと150日で交換することをおススメします。」といった劣化度D(i)に応じた対処方法などに関するメッセージがディスプレイ装置に表示される。
【0068】
(本発明の他の実施形態)
前記実施形態では、参照二次電池および対象二次電池のそれぞれの電圧応答特性V(t)の測定時の温度Tが勘案されたうえで第1電池モデルおよび/または第2電池モデルが選定され、当該対象二次電池としての二次電池220の性能が評価されたが、他の実施形態として、参照二次電池および対象二次電池のそれぞれの電圧応答特性V(t)の測定時の温度Tが勘案されずに、対象二次電池の諸元等を表わす識別子に基づいて第1電池モデルおよび/または第2電池モデルが選定され、当該対象二次電池としての二次電池220の性能が評価されてもよい。
【0069】
(発明の効果)
本発明に係る電池性能評価装置100およびこれにより実行される電池性能評価方法によれば、指定条件の充足および不充足の別に応じて、対象二次電池の性能評価のために用いられる電池モデルとして異なる電池モデルが確定される。具体的には、指定条件が満たされている場合、複数の第1モデルパラメータよりも少数の複数の第2モデルパラメータにより定義されている分だけ、当該複数の第1モデルパラメータにより定義される第1電池モデル(指定条件が満たされていない場合に確定される電池モデル)よりも簡素な電池モデルである第2電池モデルが確定される(
図2/STEP114‥YES→STEP118参照)。このため、指定条件の充足性とは無関係に第1電池モデルが確立される場合と比較して、対象二次電池としての二次電池220の性能評価のために用いられる電池モデルのモデルパラメータの同定処理に要する演算処理負荷の低減が図られる。
【符号の説明】
【0070】
10‥データベース、100‥電池性能評価装置、111‥第1認識処理要素、112‥第2認識処理要素、121‥第1演算処理要素、122‥第2演算処理要素、130‥電池性能評価要素、200‥対象機器、202‥入力インターフェース、204‥出力インターフェース、210‥制御装置、220‥二次電池、221‥参照二次電池、222‥対象二次電池、230‥センサ群。