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特許7214260CNF含有体、管状体、および管状体の製造方法
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  • 特許-CNF含有体、管状体、および管状体の製造方法 図1
  • 特許-CNF含有体、管状体、および管状体の製造方法 図2
  • 特許-CNF含有体、管状体、および管状体の製造方法 図3
  • 特許-CNF含有体、管状体、および管状体の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】CNF含有体、管状体、および管状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 29/00 20060101AFI20230123BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20230123BHJP
   B65H 75/18 20060101ALI20230123BHJP
   B65H 75/10 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
B32B29/00
D21H11/18
B65H75/18 Z
B65H75/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021131269
(22)【出願日】2021-08-11
(62)【分割の表示】P 2016196240の分割
【原出願日】2016-10-04
(65)【公開番号】P2021192979
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000145987
【氏名又は名称】株式会社昭和丸筒
(74)【代理人】
【識別番号】100141092
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英生
(72)【発明者】
【氏名】澤井 卓也
(72)【発明者】
【氏名】神田 智賀
(72)【発明者】
【氏名】岡本 保
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D21H 11/18
B65H 75/10,75/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNF含有紙が径方向へ積層された管状体であって、当該CNF含有紙はそのCNFの配向の方向が前記管状体の軸方向と略一致するように巻かれており、前記積層の隣接する層同士は接着剤により固定されて一体化されていることを特徴とする管状体。
【請求項2】
前記積層は平巻きで数十層以上であることを特徴とする請求項1に記載の管状体。
【請求項3】
前記CNF含有紙は、厚さが24μm~44μmであることを特徴とする請求項1又は
請求項2に記載の管状体。
【請求項4】
前記接着剤は酢酸ビニール系接着剤又はCNFを含有した接着剤であることを特徴とす
る請求項1~3の何れかに記載の管状体。
【請求項5】
紙以外の材質で形成された管状部材の補強材として用いられるものであって、当該管状部材の外周にCNF含有紙が径方向へ積層するように巻かれている請求項1~4の何れかに記載の管状体。
【請求項6】
請求項1~の何れかに記載の管状体の製造方法であって、
前記CNF含有紙を伸ばす工程と、
前記CNF含有紙に、接着剤を塗布する工程と、
筒状或いは柱状の中芯の外周面に、前記接着剤を塗布済みのCNF含有紙を巻き付ける
工程と、
管状に一体化したCNF含有紙の積層体から前記中芯を抜き出す工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の管状体の製造方法であって、
前記CNF含有紙を伸ばす工程と、
前記CNF含有紙に、接着剤を塗布する工程と、
前記管状部材の外周面に、接着剤を塗布済みの前記CNF含有紙を巻き付ける巻き付け
工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNFを含有するCNF含有体、巻芯等に利用可能な管状体、および当該管状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強度やガスバリア性等に優れた素材として、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」と称することがある)の利用に関する研究開発が進められている。CNFは、木材等から得られる植物繊維を解きほぐしてナノオーダーにまで微細化されたものであり、植物繊維に由来するため生産や廃棄に伴う環境負荷が小さい。しかもCNFは軽くて強く、熱膨張し難い上にガスバリア性にも優れ、各種用途への利用が期待されている。
【0003】
特許文献1には、CNFを含有するシート(セルロースナノファイバーシート)の製造方法の一例が開示されている。また特許文献2には、シートに含有されるCNFの配向を制御する技術が開示されている。CNFを含有する部材としては、製造時の乾燥工程などにおいて有利であるシート状のものが一般的である。
【0004】
一方で従来、紙等により形成された管状体や板状体など(以下、「管状体等」と総称することがある)が、各種用途に広く利用されている。例えば特許文献3には、各種シートの巻芯として使用可能な巻芯用紙管が開示されている。このような紙管は、他の材質で形成される管状体に比べ経済的で加工容易であり、再生紙の利用も可能である等の点で有利である。
【0005】
なお管状体等については、低重量と高強度の両立を求められることが多い。例えば巻芯用の管状体は、扱い易さ等の観点から軽量化が望まれる一方、フィルムやシートを巻きつける工程にも耐え得るように一定以上の強度も必要とされる。また車体や建材などの構成部材として用いられる場合についても、完成品の軽量化や強度向上を図るため低重量と高強度の両立が重視される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-044892号公報
【文献】特開2015-040358号公報
【文献】特開2011-241064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CNFの特性を利用して強度の高い管状体等を得ることが出来れば、低重量と高強度を高い水準で両立できることが期待される。しかしCNFを含有するシート状部材そのものは、上述した乾燥工程の行い易さ等を考慮して非常に薄く形成される。そのため、強度の高い管状体等を得る目的で当該シート状部材を利用しようとしても、例えば当該シート状部材を単に管状体等へ張り付けるだけでは、所望の強度を得ることは難しい。
【0008】
本発明は上述した問題点に鑑み、CNFを含有するシート状部材を用いて強度の高い管状体等を得ることが可能となるCNF含有体、ならびにその一形態である管状体、および管状体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るCNF含有体は、CNFを含有するシート状部材を積層して一体化した積層構造を、少なくとも一部に備えた構成とする。本構成によれば、CNFを含有するシート状部材を用いて強度の高い管状体等を得ることが可能となる。なおここでのCNF含有体は、シート状部材を積層して一体化した積層構造を一部に備えたものに限られず、全体が当該積層構造であるものも含む概念である。
【0010】
また本発明に係る管状体は、上記構成のCNF含有体として管状に形成された管状体であって、前記シート状部材は、前記管状の径方向へ積層するように巻かれて一体化された構成とする。本構成によれば、強度の高い管状体を得ることが可能となる。
【0011】
また上記構成としてより具体的には、前記シート状部材は、含有するCNFそれぞれが所定方向へ配向するように形成されており、前記配向の方向が前記管状の軸方向と略一致するように、巻かれている構成としてもよい。本構成によれば、管状体の強度をより高めることが出来るとともに、管状体における軸方向の皺の発生を極力抑えることが可能となる。なおここでの「前記配向の方向が前記管状の軸方向と略一致するように、巻かれている」とは、シート状部材の全体が当該軸方向と略一致するように巻かれている形態に限られず、シート状部材の一部のみが当該軸方向と略一致するように巻かれている形態や、複数のシート状部材が逐次巻かれている場合に、一部のシート状部材のみが当該軸方向と略一致するように巻かれている形態も含む概念である。
【0012】
また上記構成としてより具体的には、管状部材の外周面に、前記シート状部材が積層するように巻き付けられて補強された構成としてもよい。本構成によれば、管状部材に対して有効な補強効果を得ることが可能となる。
【0013】
また上記構成としてより具体的には、前記管状部材と前記シート状部材、および、前記シート状部材における隣接する層同士は、それぞれ接着剤により固定されている構成としてもよい。また上記構成としてより具体的には、前記管状部材は紙管であり、被巻回物を巻き取る巻芯として用いられる構成としてもよい。
【0014】
また本発明に係る第1の製造方法は、上記構成の管状体の製造方法であって、前記シート状部材を伸ばす工程と、前記シート状部材に、接着剤を塗布する工程と、前記管状部材の外周面に、前記接着剤を塗布済みのシート状部材を巻き付ける工程と、を含む方法とする。本方法によれば、シート状部材を伸ばしておき、接着剤を塗布し易くすることが可能となる。
【0015】
また本発明に係る第2の製造方法は、上記構成の管状体の製造方法であって、前記管状部材の外周面に、接着剤を塗布済みの複数枚の前記シート状部材を順に巻き付ける巻き付け工程と、前記接着剤を乾燥させる乾燥工程と、を含み、一枚の前記シート状部材を前記管状部材へ巻き付けた後から、全ての前記シート状部材を前記管状部材へ巻き付ける前までの間に、少なくとも1回の前記乾燥工程が行われる方法とする。本方法によれば、例えば全てのシート状部材を管状部材へ巻き付けた後に接着剤を乾燥させる場合に比べ、接着剤の乾燥をより確実かつ容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るCNF含有体によれば、CNFを含有するシート状部材を用いて強度の高い管状体等を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る巻芯用管状体の端部近傍の外観図である。
図2】本実施形態に係る巻芯用管状体の端部の模式的な構成図である。
図3】本実施形態に係る巻芯用管状体の製造装置の概念図である。
図4】当該製造装置を用いた製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。但し本発明の内容は、当該実施形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
1.巻芯用管状体の構成
図1は、本実施形態に係る巻芯用管状体1の端部近傍の外観図である。また図2は、巻芯用管状体1の端部(図1にαで示す部分)の模式的な構成図である。巻芯用管状体1(本発明に係るCNF含有体の一形態)は、管状部材11の外周面にシート状部材12が数十層以上に積層するよう巻き付けられ、補強された構成となっている。
【0020】
管状部材11とシート状部材12、および、シート状部材12における隣接する層同士は、それぞれ接着剤により強固に固定されている。複数層のシート状部材12は、このような接着固定により一体化された補強部1aを形成し、CNFの特性を活かして管状部材11を効果的に補強することが可能である。
【0021】
管状部材11は、従来の一般的な紙管あるいはこれに準じたものであり、シート状部材12を巻き付ける芯として利用される。管状部材11は、従来の巻芯用紙管であっても良い。なお管状部材11として、紙以外の材質で形成された管状の部材が適用されても構わないが、紙管を適用すれば接着剤を用いたシート状部材12との接着固定が容易であり、経済性や加工性などの点でも有利となる。また本実施形態における管状部材は円筒状であるが、シート状部材を巻き付けることが可能であれば、円筒状以外の管状部材が採用されても構わない。
【0022】
シート状部材12は、CNFを多く含有する薄いシート状の部材である。シート状部材12はCNFを含有することから、軽くて高強度であるとともに熱膨張し難く、ガスバリア性にも優れた特性を有している。シート状部材12としては、CNFを含有したコンデンサーペーパー等が採用されても良い。
【0023】
またシート状部材12は、含有するCNFそれぞれが所定方向へ配向するように形成されている。なお、このようにCNFを配向させたシート状部材の形成方法自体は公知であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0024】
2.巻芯用管状体の製造方法
次に、巻芯用管状体1の製造方法の一例について、図3および図4を参照しながら説明する。図3は、巻芯用管状体1の製造装置の概略的なブロック図を示している。なお、以下の説明における前後と左右の方向(互いに直交する方向)は、図3に示すとおりとする。図4は、図3に示す装置を用いた製造方法のフローチャート(各工程の流れ)を示している。
【0025】
図3には示していないが、当該製造装置には、各工程の一部または全部を自動的に行う機構(例えば、シート状部材12を自動搬送する機構や、管状部材11を移動させる機構など)が設けられても良い。また、各工程の一部または全部を手作業で行うようにしても構わない。
【0026】
図3に示す巻芯用管状体1の製造装置は、ロールスタンド21、カット装置22、伸ばし装置23、接着剤塗布装置24、巻き付け装置25、および乾燥装置26を有している。ロールスタンド21には、シート状部材12の元となるロール状に巻かれたシート原反が回転自在に支持され、巻き付け装置25の左寄り位置には管状部材11がセットされる。
【0027】
シート原反に含有されているCNFの配向方向は、シート原反のロール状に巻かれている方向(つまり、当該ロール状の周方向)に一致している。当該ロール状の中心軸は左右方向に伸びており、シート原反を端から順に前方へ引き出し可能である。
【0028】
ロールスタンド21に支持されているシート原反は、管状部材11の軸方向長さに合わせた分量だけ前方へ引き出され、伸ばし装置23に向けて搬送される。またこのように引き出されたシート原反は、ロールスタンド21の前方に配置されたカット装置22によってカットされる(図4のS1を参照)。これにより一枚分のシート状部材12が得られる。
【0029】
伸ばし装置23は、このようにして得られたシート状部材12を、適度な力で拡げる方向へ引っ張ることが可能に形成されている。伸ばし装置23は、このようにシート状部材12を引っ張って伸ばし(図4のS2を参照)、シート状部材12をより適切な状態とする。なお伸ばし装置23は、シート状部材12を引っ張って伸ばす装置に限られるものではなく、他の手法でシート状部材12を伸ばす装置であっても構わない。また、伸ばし装置23は、シート状部材12が伸びることを促す装置であっても良い。本発明における「シート状部材を伸ばす工程」は、シート状部材を積極的に伸ばす工程の他、シート状部材が伸びることを促す工程も含む概念である。
【0030】
上記のように伸ばされたシート状部材12は、更に前方に配置された接着剤塗布装置24へ搬送される。接着剤塗布装置24は、伸ばし装置23から受取ったシート状部材12の表面全体に接着剤を塗布する。なお、シート状部材12は伸ばし装置23によって適度に伸ばされているため、接着剤を適切に塗布することが容易となっている。
【0031】
接着剤塗布装置24は、例えば、シート状部材12を両面側から挟んで前方へ送り出すように回転する上下一対のローラ(ローラ対)を備え、当該ローラ対がシート状部材12を挟んで送り出す際に、シート状部材12に接着剤を塗布するように構成される。但し、接着剤塗布装置24の構成は、シート状部材12に接着剤を適切に塗布可能である限り、種々の構成が採用され得る。
【0032】
なお通常、接着剤はシート状部材12の片面(管状部材11へ巻かれる際の内面側)にのみ塗布されるが、必要に応じて両面に塗布されるようにしても構わない。シート状部材12に塗布する接着剤としては、酢酸ビニル樹脂を主成分とした接着剤などが利用可能であるが、CNFを含有した接着剤(例えば、株式会社ダイセルファインケム製CNF(登録商標「セリッシュ」)を含有した接着剤)を利用することにより、強度或いは耐熱性等の向上が見込まれる。
【0033】
接着剤塗布装置24から送り出されたシート状部材12は、前後左右に拡がる平らな状態で巻き付け装置25にセットされる。一方、巻き付け装置25にセットされる管状部材11は、この平らな状態のシート状部材12の左側縁近傍に配置される。なお、シート状部材12に含有されるCNFの配向方向、および、管状部材11の軸方向(伸びる方向)は、前後方向で一致している。
【0034】
このようにセットされている管状部材11は、右方へ転がすように移動させられる。この際に、上記平らな状態のシート状部材12は、左側縁から順に管状部材11の外周面へ巻き付けられる(図4のS4を参照)。つまり、管状部材11を芯として、シート状部材12がこれに完全に巻き付けられる。一枚分のシート状部材12を管状部材11へ巻き付ける際の巻き数は、シート状部材12の幅(左右方向寸法)により決まる。この巻き数は特に限定されないが、少な過ぎると生産効率が悪くなり、多過ぎると接着剤が乾燥し難くなること等に鑑み、適切な巻き数(例えば1~数巻き程度)に設定されることが好ましい。
【0035】
このようにして一枚分のシート状部材12の巻き付け(一回分のシート状部材12の巻き付け)が行われた後、管状部材11は所定時間放置され、シート状部材12に塗布されている接着剤の乾燥がなされる(図4のS5を参照)。この際、管状部材11を乾燥装置26へ移行させるようにしても良い。乾燥装置26は、巻き付け装置25の右側に隣接して設置されており、巻き付け装置25内にて右方へ移動した管状部材11を円滑に乾燥装置26内へ導くことが可能である。乾燥装置26内にはヒータが配置されており、シート状部材12に塗布されている接着剤の乾燥を効率良く行うことが可能である。
【0036】
上記乾燥を行った後、管状部材11は巻き付け装置25の左寄り位置に再度セットされる(図4のS6を参照)。一方で巻き付け装置25には、ロールスタンド21にセットされているシート原反から新たなシート状部材12が供給される。当該シート状部材12も、先述した各工程(図4のS1~S3)を経ることにより接着剤が塗布されており、平らな状態で巻き付け装置25にセットされる。この状態において、管状部材11は再度右方へ転がすように移動させられ、その結果、管状部材11には更にシート状部材12が巻き付けられる(図4のS4を参照)。その後、今回巻き付けられたシート状部材12に塗布されている接着剤を乾燥させるように、先述した乾燥工程が再度行われる(図4のS5を参照)。
【0037】
上述した一連の工程(図4のS1~S6)は、管状部材11へのシート状部材12の巻き付け回数が規定回数に達するまで繰り返される(図4のS7を参照)。この規定回数は、管状部材11に対する必要な補強効果が得られるように、予め適切な回数に設定されている。上記乾燥工程(図4のS5を参照)の終了後、シート状部材12の巻き付け回数が規定回数に達していれば(図4のS7で「YES」の場合)、巻芯用管状体1の製造は完了する。
【0038】
以上に説明した製造工程により、管状部材11の外周面にシート状部材12が積層するように巻き付けられて補強された巻芯用管状体1が得られる。また、シート状部材12が十分に乾燥していないと補強効果が得られ難いが、本実施形態ではシート状部材12を十分に乾燥させ、所期の補強効果が得られるよう配慮されている。
【0039】
本実施形態では、一枚のシート状部材12を巻き付ける毎に乾燥工程を行うため、シート状部材12を極力確実かつ容易に乾燥させることが可能である。なお、一枚のシート状部材12を巻き付ける毎に乾燥工程を行う代わりに、十分な乾燥を妨げない範囲内で、例えば複数枚のシート状部材12を巻き付ける毎に乾燥工程を行うようにしても良い。一枚のシート状部材12を管状部材11へ巻き付けた後から、全てのシート状部材12を管状部材11へ巻き付ける前までの間に、少なくとも1回の乾燥工程が行われるようにすれば、シート状部材12の巻き付けを全て行った後に乾燥工程を行う場合に比べ、シート状部材12をより確実かつ容易に乾燥させることが可能である。
【0040】
またシート状部材12は、CNFの配向方向が管状部材11の軸方向と一致するように、管状部材11に巻き付けられることになる。CNFを含有するシート状部材12は、CNFの配向方向において引張弾性率や引張強度が高く(後述する表1およびその説明を参照)、このようにシート状部材12を巻き付けることで効率よく補強効果を得ることができ、曲げ弾性率や曲げ強度のより高い巻芯用管状体1とすることが可能である。当該補強効果の観点から、本実施形態のとおり全てのシート状部材12をこのように巻きつけるのが好ましいが、一部のシート状部材12のみをこのように巻きつけるようにしても良い。
【0041】
更にシート状部材12は、例えば塗布された接着剤が乾燥した場合に、含有するCNFが伸びている方向、すなわちCNFの配向方向において最も皺が発生し難くなっている。本実施形態ではCNFの配向方向が管状部材11の軸方向と一致するため、巻芯用管状体1の品質等に比較的大きな影響を及ぼす軸方向の皺を、極力抑えることが可能である。但し、本発明はこの形態に限定されるものではなく、シート状部材12は、CNFの配向方向が管状部材11の軸方向と異なるように巻き付けられても構わない。
【0042】
3.各実施例による評価試験
(1)シート状部材の評価
CNFを含有したシート状部材12の具体例として、CNF含有紙A~Cの3種類を挙げ、それぞれの特性を上質紙と比較した結果を表1に示す。なお、表1におけるMD方向は、シート原反の状態でロール状に巻かれている方向(CNF含有紙においてはCNFの配向方向)であり、CD方向は、MD方向と直交する方向である。また強度比は、引張弾性率または引張強度についての上質紙の値に対する比を示す。
【表1】
【0043】
補強効果による変形の生じ難さおよび強度の向上の観点から、シート状部材の引張弾性率および引張強度は高い方が好ましい。表1に示すとおり、何れのCNF含有紙も上質紙に比べて概ね良好な特性を有している。特に、他に比べて密度の高いCNF含有紙Aは、非常に優れた特性を有している。
【0044】
(2)巻芯用管状体の評価
上述したCNF含有紙A~Cをシート状部材21とした巻芯用管状体1(標準内径12mm、標準外径14.6mm)をそれぞれ実施例1~3とし、各実施例について曲げ試験を行った結果を表2に示す。シート状部材21の代わりに上質紙を適用した巻芯用管状体を比較例とし、比較例についての結果も同様に示す。なお強度比は、曲げ弾性率または曲げ強度についての比較例の値に対する比を示す。また何れの例についても、シート状部材が巻き付けられている管状部材11(芯材)は、内径が約12mmで厚みが約0.5mmの円筒形状である。曲げ試験の条件としては、スパン長を80mmとし、試料の中央を曲げくさび治具により5mm/minの速さで押し付けることとした。
【表2】
【0045】
表2に示すとおり、曲げ弾性率と曲げ強度の何れについても、全ての実施例において比較例よりも良好な結果が得られた。特に、シート状部材12としてCNF含有紙Aを採用した実施例1については、比較例に比べて曲げ弾性率で6.6倍、曲げ強度で2.4倍となり、非常に優れた結果を得ることができた。
【0046】
また、CNF含有紙AおよびBをシート状部材12とした径寸法の比較的小さい巻芯用管状体1(標準内径6mm、標準外径8.6mm)をそれぞれ実施例4および5とし、これらの実施例についても同様の曲げ試験を行った結果を表3に示す。なお、管状部材11の厚み(標準厚み0.5mm)および補強部X(シート状部材12の積層部分)の厚み(標準厚み0.85mm)は、全ての実施例において共通である。表3に示すとおり、厚みを変えずに巻芯用管状体1の径寸法を小さくすると、曲げ弾性率および曲げ強度は大幅に向上する。
【表3】
【0047】
なお上述した評価試験結果の他、シート状部材の層間の接着が十分ではない場合(良好な接着状態が得られ難い接着剤を用いた場合)には、接着が十分である場合に比べて、曲げ強度が劣るという試験結果が得られた。この結果より、層間の接着に用いる接着剤としては、シート状部材同士を良好に接着できるもの(例えば、酢酸ビニル系の接着剤)を使用することが望ましいと言える。
【0048】
4.総括
以上に説明したとおり本実施形態に係る巻芯用管状体1は、管状部材11の外周面に、CNFを含有するシート状部材12が積層するように巻き付けられて補強されている。そのため巻芯用管状体1によれば、シート状部材12を用いて有効に補強効果が得られている。
【0049】
紙製の管状部材11(芯材)とシート状部材12により形成された巻芯用管状体1は、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)により形成された巻芯用部品(FRPコア)に比べて環境に優しく、リサイクル性にも優れ、ガラス繊維等が露出することも無いため表面の平滑性にも優れる。更に本実施形態に係る巻芯用管状体1は、シート状部材12を用いた補強効果により、FRPコアと同等以上の強度を有するに至っている。
【0050】
なお本発明に係る管状体は、本実施形態のような巻芯用に限られず、種々の用途に利用可能である。特に当該管状体は、CNFの特性(植物繊維に由来するため生産や廃棄に伴う環境負荷が小さく、軽くて強い上に熱膨張もし難く、更にガスバリア性にも優れる)を活かした用途に好適である。また、ガラス繊維等を含む管状体では適用が難しい用途にも、本発明に係る管状体であれば適用の余地がある。
【0051】
例えば本発明に係る管状体は、(A)自動車や自転車、(B)家電や家具、(C)建材、および(D)スポーツ用品などへの適用が見込まれる。上記(A)に関して、本発明に係る管状体をフレームやリムに使用すれば、アルミニウムやチタン等の金属素材に比べて軽量化が図れ、燃費や走行性能の向上が見込まれる。上記(B)に関して、本発明に係る管状体は、セルロース素材の音響特性を利用した音響用家電の筐体、緩衝特性を利用したエアコン等の大型家電用緩衝材、或いは、素材をそのまま用いるナチュラル志向の家具部品や支柱等への適用が期待できる。上記(C)に関して、本発明に係る管状体は、触れても冷たくない紙の感触を活かした手すりや、吸放湿性を利用した芯材への適用が期待できる。上記(D)に関して、本発明に係る管状体は、高強度、軽量化、緩衝性、或いは靭性といった特性が競技内容に合うよう設計し、ゴルフクラブ、野球用バット、或いは釣竿等の金属やカーボン繊維製部材の代替部材として適用され得る。
【0052】
なおCNFを含有するシート状部材の巻き方について、上述した実施形態では、巻きつける位置が軸方向で変化しない手法(平巻き)を採用しているが、巻きつける位置を軸方向へずらしながら巻く手法(つまり、螺旋状に巻きつけるスパイラル巻き)を採用しても良い。
【0053】
また、本発明の実施形態に係る管状体の形態としては、CNFを含有するシート状部材を積層するように巻き付けて管状部材を補強した形態の他、管状部材を有さずに当該シート状部材だけで構成した形態も挙げられる。この形態の管状体は、例えば、円筒状あるいは円柱状の中芯に、接着剤を塗布したシート状部材を径方向へ積層するように巻きつけておき、円筒状に一体化したシート状部材の積層体から当該中芯を抜き出すことにより得られる。なおこの形態においても、シート状部材の巻き方について、上述した平巻きとスパイラル巻きの何れを採用しても構わない。
【0054】
なお本発明に係るCNF含有体は、CNFを含有するシート状部材を積層して一体化した積層構造を、少なくとも一部に備えていれば良く、この構成により、CNFを含有するシート状部材を用いて強度の高い管状体等を得ることが可能である。そのため本発明の実施形態としては、上述した管状体である形態の他、板状体とした形態などを挙げることも出来る。板状体であるCNF含有体を得るためには、シート状部材を順次積み重ねるように積層して一体化すれば良い。本発明に係るCNF含有体は、シート状部材の積層形態等を変えることにより、各種の形状とすることが可能である。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、一例として被巻回物を巻き取る巻芯に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 巻芯用管状体
1a 補強部
11 管状部材
12 シート状部材
12a シート原反
21 ロールスタンド
22 カット装置
23 伸ばし装置
24 接着剤塗布装置
24a 上流側ローラ対
24b 下流側ローラ対
25 巻き付け装置
26 乾燥装置
26a ヒータ
図1
図2
図3
図4