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特許7214476乾燥および/またはUV損傷および/または炎症から皮膚を保護するための組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】乾燥および/またはUV損傷および/または炎症から皮膚を保護するための組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/00 20060101AFI20230123BHJP
   A01H 4/00 20060101ALI20230123BHJP
   A01H 6/00 20180101ALN20230123BHJP
【FI】
C12P1/00 Z
A01H4/00
A01H6/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018552851
(86)(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2017057511
(87)【国際公開番号】W WO2017178238
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】16165271.4
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521042714
【氏名又は名称】ユニリーバー・アイピー・ホールディングス・ベスローテン・ヴェンノーツハップ
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ベリー,マーク・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ガンガビッスーン,ラビーン・アンソニー
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-100325(JP,A)
【文献】特開2010-161989(JP,A)
【文献】特表2012-512661(JP,A)
【文献】特開平06-105628(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0031801(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0021734(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0033957(KR,A)
【文献】国際公開第2009/008503(WO,A1)
【文献】特開平04-253916(JP,A)
【文献】Natural Health News,Green tea helps protect skin from sun damage,2013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 - 41/00
A01H 1/00 - 6/88
A61K 36/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)脱分化幹細胞抽出物の製造方法であって、
(a)カメリア・シネンシス脱分化幹細胞を含む細胞培養物を調製する工程と、
(b)抽出溶媒としてエタノールのみを用いて前記細胞培養物を一段階で抽出して、カメリア・シネンシス脱分化幹細胞抽出物を製造する工程と
を含む製造方法。
【請求項2】
前記細胞培養物が、カメリア・シネンシス植物カルス細胞を培養することによって製造される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記細胞培養培地が、ホルモンである2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、ナフタレン酢酸(NAA)および6-ベンジルアミノプリン(BAP)を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記細胞培養培地が5.6~6.0のpHを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)脱分化幹細胞培養抽出物の製造方法、かかる抽出物を含んだ組成物、および、かかる抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人々が健康な皮膚を好むことが望ましい。しかし、環境要因は皮膚/髪に損傷を引き起こし、皮膚/髪の健康を低下させ、UVや乾燥などのストレスに対して弾力性を低下させる。
【0003】
一般的に、消費者は、皮膚の外観または保護を改善するために、局所用組成物を皮膚に塗布し、特定の製品を消費することが好都合であることを見出している。
【0004】
さらに、消費者は、特に組成物を消費する場合、一般に天然成分を好み、より合成的な組成物の使用には一般に気が進まない。
【0005】
米国特許出願公開第2014/0186315号は、緑茶幹細胞抽出物を含む化粧品組成物を開示している。この組成物は、老化防止組成物であると述べられている。緑茶幹細胞は、細胞培養物中の全能性カルスを培養することによって作製される。活性成分は、細胞培養物から抽出されたと考えられる。ただし、抽出方法に関する詳細は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2014/0186315号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、この領域におけるさらなる改善が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カメリア・シネンシスの特定の細胞培養抽出物が皮膚の健康を改善するために使用できることを見出した。より具体的には、本発明者らは、カメリア・シネンシスの脱分化幹細胞培養抽出物が、皮膚細胞の環境的損傷に対して抵抗性をもたらすことを見出した。
【0009】
したがって、第1の態様において、本発明は、カメリア・シネンシス脱分化幹細胞抽出物の製造方法であって、
(a)脱分化したカメリア・シネンシス幹細胞を含む細胞培養物を調製する工程と、
(b)抽出溶媒としてエタノールおよび/またはメタノールを用いて細胞培養物を抽出して、カメリア・シネンシス脱分化細胞培養抽出物を製造する工程と
を含む方製造法に関する。
【0010】
脱分化幹細胞のそのような抽出物は、乾燥および紫外線によって引き起こされる細胞損傷に対する皮膚細胞の驚くべき保護を提供し、抗炎症効果を提供することが見出されている。
【0011】
エタノールおよびメタノールは、フラバノン、ポリフェノールおよびテルペノイドのような、幹細胞抽出物内の特定の活性物質をより高い濃度で提供すると考えられている。他の溶媒は幹細胞抽出物の製造が著しく低いことが見出されている。
【0012】
したがって、第2の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法によって得ることができるカメリア・シネンシス脱分化幹細胞抽出物を含む組成物に関する。
【0013】
このような脱分化幹細胞抽出物は、乾燥またはUV照射に曝された場合に皮膚細胞に対して強力かつ明確な保護効果を有し、また炎症を減少させることがさらに見出されている。
【0014】
したがって、第3の態様において、本発明は、皮膚を乾燥および/またはUV損傷および/または炎症から保護するためのカメリア・シネンシス脱分化幹細胞抽出物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
茶は、カメリア/シネンシス変種シネンシス(Camellia sinensis var.sinensis)および/またはカメリア・シネンシス変種アッサミカ(Camellia sinensis var.assamica)の科に属する1または複数の植物を指す。茶は世界で2番目に最も消費される飲み物である。これは、フラボノイドの単量体および重合体形態の豊富な供給源であり、フラボノイドを10~30重量%まで含むことができる。
【0016】
本発明において、抽出物は、脱分化茶幹細胞から調製される。脱分化茶幹細胞は、創傷への応答であるカルスから簡便に調製することができる。
【0017】
植物カルスは、植物組織(外植片)に由来する組織化されていない柔細胞の塊である。植物生物学において、カルス細胞は、植物創傷を覆う細胞である。カルス形成は、表面滅菌およびインビトロ組織培養培地へのプレーティング後に植物組織から誘導される。オーキシン、サイトカイニン、およびジベレリンなどの植物成長調節因子を培地に補充して、カルス形成または体細胞胚発生を開始させる。
【0018】
一般に、植物カルス細胞は、培養細胞を増殖させることによって得られる。植物カルス材料は、外植片から得られ、切断され、培養培地に移され得る。培養培地中に移したら、細胞は、十分な量が得られるまで、必要に応じて増殖させることができる。カルスを、寒天のような固体増殖培地上で増殖させ、次いで液体増殖培地に移して産生を増大させ、抽出によって活性成分を収穫することができる。
【0019】
細胞培養方法は、当技術分野で公知の方法で行うことができる。
【0020】
好ましくは、細胞培養培地は、ホルモンである2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、ナフタレン酢酸(NAA)および6-ベンジルアミノプリン(BAP)を含む。
【0021】
好ましくは、細胞培養培地は、5.6~6.0のpHを有する。
【0022】
好ましくは、本発明の組成物は、0.01重量%を超える濃度の幹細胞抽出物を含む。
【0023】
本発明の組成物は、局所組成物である場合には化粧品として許容される基剤を含む。本発明による化粧品として許容される基剤は、クリーム、ローション、ゲルまたはエマルションである。化粧品として許容される基剤は、好ましくは、脂肪酸またはシリコーン化合物を含む。化粧品として許容される基剤が脂肪酸を含む場合、それは好ましくは組成物の1~25重量%で存在する。化粧品として許容される基剤が、クリーム、ローション、またはエマルションの形態の製品を有するようなものである場合、それは一般に脂肪酸を含む。これらの形態のうち、より好ましい形態はクリームまたはローションであり、さらに好ましくはクリームである。バニシングクリーム基剤は、3~25%、より好ましくは5~20%の脂肪酸を含むものであり、これは本発明の組成物の好ましい形態である。この場合、基剤は、好ましくは0.1~10%、より好ましくは0.1~3%の石鹸を含む。C12~C20脂肪酸は、バニシングクリーム基剤中で特に好ましく、さらにより好ましくはC14~C18脂肪酸である。クリームにおいて、脂肪酸は、好ましくは、実質的にステアリン酸とパルミチン酸との混合物である。バニシングクリーム基剤中の石鹸としては、ナトリウム塩またはカリウム塩のような脂肪酸のアルカリ金属塩が挙げられる。石鹸は、好ましくは、脂肪酸混合物のカリウム塩である。バニシングクリーム基剤中の脂肪酸は、多くの場合、大部分は(一般に約90~95%)、ステアリン酸とパルミチン酸との混合物(通常55%のステアリン酸と45%のパルミチン酸)であるヒストリック酸(hystric acid)を用いて調製される。したがって、バニシングクリーム基剤を調製するためのヒストリック酸およびその石鹸の包含は、本発明の範囲内である。組成物が少なくとも6%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも12%の脂肪酸を含むことが特に好ましい。化粧品として許容される基剤は、通常、組成物の10~99.9重量%、好ましくは50~99重量%である。別の好ましい基剤はローションである。ローションは、一般に1~20%の脂肪酸を含む。化粧品として許容される基剤は、好ましくは水を含む。水は、好ましくは組成物の35~90重量%、より好ましくは50~85重量%、さらに好ましくは50~80重量%で含まれる。
【0024】
特に好適な化粧品として許容される基剤は、シリコーン油を連続相として含む油中水型エマルションを含むものである。油中水型エマルションは、好ましくは架橋シリコーンエラストマーブレンドを含む。
【0025】
油中水型エマルション中にシリコーンエラストマーブレンドを包含させることにより、本発明の組成物を調製するための化粧品として許容される基剤として使用することができる。シリコーン流体を用いることはできるが、架橋されたシリコーンエラストマーが特に好ましい。ジメチコンのような線状ポリマー間の架橋結合の生成は、線状ポリマーをシリコーンエラストマーに変換する。シリコーン流体ポリマーとは対照的に、エラストマーの物理的性質は、典型的には、分子量よりもむしろ架橋の数に依存する。膨潤するシリコーンエラストマーの能力は、それらを油相のための理想的な増粘剤にする。エラストマーは、皮膚または毛髪に塗布すると、非常に滑らかで柔らかい感触を有する。エラストマーは、化粧品組成物中の香料、ビタミンおよび他の添加剤の送達剤として使用することもできる。
【0026】
市販されている、本発明の組成物に含めるのに適し、そして向上した安定性を提供することが見出されている適切なシリコーンエラストマーブレンドまたはゲルは以下のものである:Dow Corning(登録商標)EL-8051 IN シリコーン有機エラストマーブレンド[INCI名:イソデシルネオペンタノエート(および)ジメチコン/ビスイソブチルPPG-20 架橋ポリマー];EL-8050[INCI名:イソドデカン(および)ジメチコン/ビスイソブチルPPG 20架橋ポリマー]DC9040、DC9041、DC9045 (ジメチコン架橋ポリマー);DC9506、9509(ジメチコンビニルジメチコン架橋ポリマー);Shin-Etsu KSG-15、KSG-16、KSG-17(ジメチコンビニルジメチコン架橋ポリマー)。組成物は、組成物の5~50重量%のシリコーンエラストマーを含むことがさらに好ましい。
【0027】
有用な日焼け防止剤、例えば、無機サンブロックを本発明に用いることが好ましいと思われる。これらには、例えば、酸化亜鉛、酸化鉄、ヒュームドシリカのようなシリカ、または二酸化チタンが含まれる。本発明による組成物に組み込まれる日焼け止めの総量は、組成物の0.1~5重量%であることが好ましくい。
【0028】
本発明の局所用組成物としては、皮膚美白剤をさらに挙げることができる。皮膚美白剤は、好ましくは、ビタミンB3化合物またはその誘導体、例えば、ナイアシン、ニコチン酸、ナイアシンアミド、または他の周知の皮膚美白剤、例えば、アロエ抽出物、乳酸アンモニウム、アゼライン酸、コウジ酸、クエン酸エステル、エラグ酸、グリコール酸、緑茶抽出物、ハイドロキノン、レモン抽出物、リノール酸、リン酸アスコルビルマグネシウム、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンAのようなビタミン類、ジカルボン酸、レゾルシノール誘導体、乳酸のようなヒドロキシカルボン酸およびそれらの塩、例えば、乳酸ナトリウム、ならびにそれらの混合物から選択される。ビタミンB3化合物またはその誘導体、例えば、ナイアシン、ニコチン酸、ナイアシンアミドが本発明のより好ましい皮膚美白剤であり、最も好ましくはナイアシンアミドである。ナイアシンアミドは、使用する場合、好ましくは組成物の0.1~10重量%、より好ましくは0.2~5重量%の範囲の量で存在する。
【0029】
本発明による局所用組成物は、他の希釈剤を含むこともできる。希釈剤は、組成物中に存在する他の物質の分散剤または担体として作用し、組成物が皮膚に塗布されたときにそれらの分配を容易にする。水以外の希釈剤は、液体または固体の皮膚軟化剤、溶媒、湿潤剤、増粘剤および粉末を含み得る。
【0030】
本発明の局所用組成物は、広範囲の他の任意選択の成分を含むことができる。CTFA Cosmetic Ingredient Handbook,Second Edition,1992は、その全体が参照により本明細書に組み込まれ、スキンケア産業において一般に使用される広範囲の非限定的な化粧品および医薬品成分を記載しており、これらは本発明の組成物への使用にも適している。例としては、酸化防止剤、結合剤、生物学的添加剤、緩衝剤、着色剤、増粘剤、ポリマー、収斂剤、芳香剤、湿潤剤、乳白剤、コンディショナー、皮膚剥脱剤、pH調節剤、防腐剤、天然抽出物、精油、皮膚感覚剤(skin sensates)、皮膚鎮静剤(skin soothing agent)および皮膚治癒剤が挙げられる。
【0031】
組成物が経口用組成物である場合、該組成物は、食品または飲料製品の形態をとり得る。一般に、このような経口製品は、飲料、バー、食事、またはサプリメントのような消費可能な製品の任意の適切な形態を取ることができる。
【0032】
[実施例]
茶カルス細胞培養
・スリランカクローン2(カメリア・シネンシス・アッサミカ)の若葉を以下のように滅菌した。
【0033】
○数滴のトウィーン20を含む水に30分間浸す
○流水下で15分間洗う
○表面を過酸化水素で2分間滅菌する
○流水下で洗う
○70%エタノール中で2分間表面を滅菌する
○流水下で洗う
○フローフードに移し、10%の家庭用漂白剤で30分間表面滅菌する
○蒸留水で洗う(フード内)
○葉を四角形(外植片)に切断し、ペトリ皿中の培地に移す
・固体培地組成:
○MS培地(塩類およびビタミン)
○30g/Lのスクロース
○0.8%の寒天
○pHを0.2M KOHで5.8に調整
○ホルモン0.25mgのL-1 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、0.25mgのL-1ナフタレン酢酸(NAA)および1mgのL-1 6-ベンジルアミノプリン(BAP)。
【0034】
・培地を121℃で30分間オートクレーブ処理して滅菌した。オートクレーブ処理した後、培地を60℃に冷却し、その後9cmのペトリ皿に注いだ(約10ml/プレート)。寒天を4℃に冷却することによりセットした。
【0035】
・5~10個の茶葉外植片を、植物成長キャビネット中で、16時間の光および8時間の暗期のサイクルで、25℃±2で各ペトリ皿中の固体培地で増殖させた
・外植片の創傷領域に発生するカルスの集塊を十分に増殖させた後、注意深く取り出し、固体培地の新鮮なペトリ皿上で継代培養した。
【0036】
・カルス細胞の集塊を4週間ごとに新鮮な固体培地に継代培養した。継代培養はカルス培養物を新鮮な培地に移すだけである。これは、固体寒天ゲル培地が時間の経過とともに乾燥し(約3~4週間)、増殖カルスを水和状態に保つ必要があるために必要である。
【0037】
・12週間後、カルスは、さらなる実験に十分な大きさ(直径約1~2cm)となった。
【0038】
・この段階でカルスを48時間完全に凍結乾燥させ、必要になるまで-20℃で保存した
茶カルス細胞抽出物の調製
・凍結乾燥カルス材料の20%懸濁液を96%エタノール中で調製した
・0.1gの凍結乾燥材料を0.9gの96%エタノールと混合した。
【0039】
注:これは、カルス材料の大部分が不溶性であり、懸濁状態のままであるので、10/90重量%カルス:エタノール溶液ではない。溶媒抽出後の不溶性物質の乾燥質量を秤量することにより、可溶性抽出物のおよその最終濃度が10mg/mlであると計算した。したがって、細胞生存アッセイにおいて、1%=0.1mg/mlの可溶性抽出物である。
【0040】
・懸濁液を1分間激しくボルテックス混合し、次いで超音波処理浴に入れ、0~4℃で30分間超音波処理した
・懸濁液を4℃、13,000rpmで10分間遠心分離し、上清を保持した(幹細胞抽出物のストック溶液)
・幹細胞抽出物のストック溶液を、使用まで-20℃で保存した
皮膚細胞乾燥保護アッセイ
・ヒト成人真皮線維芽細胞(カタログ番号C-013-5C、Life Technologies)を、低血清増殖補助剤(カタログ番号S-003-10、Life Technologies)を補添した0.5mlのMedium 106(カタログ番号M-106-500、Life Technologies)を含む24ウェルプレートにおいて、約90%培養密度まで37℃、5%COにおいて培養した。
【0041】
・幹細胞抽出物を、最終濃度が0.1%、0.5%または1%のいずれかの培地に加えた。
【0042】
・1%エタノール(担体のみ)を含有する実験対照も調製した
・その後、細胞をさらに24時間増殖させた
・ウェルから培地を完全に吸引し、室温で層流細胞培養フード中に10分間放置することにより、細胞を乾燥させた。
【0043】
・乾燥していない対照を各条件に含めた
・0.5mlの新鮮培地を各ウェルに加え、細胞を37℃、5%COにおいてインキュベートした
・1時間後、50μlのAlamarBlue Cell Viability Reagent(Molecular Probes、カタログ番号DAL1025)を各ウェルに添加した
・37℃、5%COにおいてさらに4時間インキュベートした後、200μlの培地を各ウェルから取り出し、96ウェルプレートに入れた。次いで、試料の蛍光強度を励起550nm/発光612nmで読み取った。AlamarBlueは、代謝的に活性な細胞における還元反応を介して、非蛍光色素(レサズリン)を高蛍光色素(レゾルフィン)に変換することにより、細胞生存度指標として働く。
【0044】
皮膚細胞紫外線保護アッセイ
・ヒト成人真皮線維芽細胞(カタログ番号C-013-5C、Life Technologies)を、1mMのピルビン酸、2mMのグルタミンおよび10%のウシ胎仔血清を補添加した1mlのDMEM (Life Technologies、カタログ番号21063-029)を含む6cmのペトリ皿において、約90%集密まで37℃、5%COにおいて培養した。
【0045】
・幹細胞抽出物を、最終濃度が0.1%、0.5%または1%のいずれかの培地に加えた。
【0046】
・1%エタノール(担体のみ)を含有する実験対照も調製した
・その後、細胞をさらに24時間増殖させた
・ペトリ皿から蓋を取り外し、細胞にUvacube400紫外線チャンバー(Honle UV technology)で30分間照射した
・古い培地を取り除き、同じ種類の新鮮な培地を加えた。
【0047】
・細胞を、37℃、5%CO下で24時間インキュベートした。
【0048】
・100μlのAlamarBlue Cell Viability Reagent(Molecular Probes、カタログ番号DAL1025)を、その後各ウェルに添加し、インキュベーションをさらに24時間続けた。
【0049】
・200μlの培地を各ウェルから取り出し、96ウェルプレートに入れた。次いで、試料の蛍光強度を励起550nm/発光612nmで読み取った。AlamarBlueは、代謝的に活性な細胞における還元反応を介して、非蛍光色素(レサズリン)を高蛍光色素(レゾルフィン)に変換することにより、細胞生存度指標として働く。
【0050】
抗炎症アッセイ
・ヒト成人真皮線維芽細胞(カタログ番号C-013-5C、Life Technologies)を、1%ウシ胎仔血清を補添した1mlのDMEM GlutaMAX(Gibco、カタログ番号10566016)を含む12ウェルプレートにおいて、60,000細胞/ウェルの濃度まで37℃、5%COにおいて増殖させた。
【0051】
・1mlの培地を含む各ウェルに、最終濃度1%で茶カルス抽出物を添加した。同時に、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA、カタログ番号P8139 Sigma)を最終濃度100nmで各ウェルに添加した。
【0052】
・1%エタノール(担体のみ)および100nmのPMAを含有する実験対照も調製した
・細胞を37℃、5%COでさらに24時間インキュベートした
・その後、細胞培養培地を除去し、16,000RPMで1分間遠心分離した。上清を回収し、必要になるまで-20℃で保存した。
【0053】
・細胞をPBSで3回洗浄した後、1ウェルあたり1 mlのRIPA Lysis and Extraction Buffer(カタログ番号8990、Thermo Scientific)を氷上で添加して30分間溶解させた。
【0054】
・細胞溶解物を回収し、16,000RPMで1分間遠心分離した。溶解物上清を回収し、BCA Protein Assay Kit(カタログ番号23225、Thermo Scientific)を用いて全タンパク質含量についてアッセイした。
【0055】
・細胞培地上清中のIL-6含量を、Quantikine ELISA Human IL-6 Immunoassay Kit(カタログ番号D6050、R&D Systems)を用いて測定した。測定されたIL-6濃度を正規化するために各ウェルの全タンパク質含量を使用した。これにより、各試料中のIL-6レベルを直接比較することができた。
【0056】
皮膚細胞乾燥アッセイ(茶抽出物)
表1:ヒト真皮線維芽細胞由来培地のAlamarBlue蛍光測定値を、励起550nm/発光612nmで読み取った。各条件について3回反復した(試料1~3)。培地およびAlamarBlue単独の蛍光強度(バックグラウンド蛍光)を平均値から差し引いた。
【表1】
【0057】
これらの結果は、茶幹細胞抽出物により処理した試料中の乾燥後の生存細胞数が、担体(エタノール)単独で処理した生存細胞数よりも多いことを示す。さらに、0.01重量%を超えるレベルが、非常に重要な保護効果を提供することを示している。
【0058】
カルスを生成しない茶葉由来の抽出物が生成される比較実施例も示している。これにはいくつかの保護効果があるが、カルス抽出物によってもたらされる保護効果ほど大きくはない。
【0059】
異なる抽出溶媒を用いた皮膚細胞乾燥アッセイ(茶抽出物)
・粉砕し、凍結乾燥したカルス材料の20%懸濁液を、以下の溶媒:エタノール、メタノール、クロロホルム、エーテル、アセトン、水中で調製した。
【0060】
・懸濁液を1分間激しくボルテックス混合し、次いで超音波処理浴に入れ、4℃で30分間超音波処理した
・懸濁液を4℃、13,000rpmで10分間遠心分離し、上清を保持した
・上清を真空乾燥して溶媒を蒸発させた
・残留固体抽出物を1mlのDMSOに溶解した(激しく1分間ボルテックス混合した)
・抽出物を、記載のように最終培地中1%の濃度で皮膚細胞乾燥アッセイに使用した
・1%DMSOを含有する実験対照(担体のみ)も調製した
表2:ヒト真皮線維芽細胞由来培地のAlamarBlue蛍光測定値を、励起550nm/発光612nmで読み取った。各条件について3回反復した(試料1~3)。培地およびAlamarBlue単独の蛍光強度(バックグラウンド蛍光)を平均値から差し引いた。
【表2】
【0061】
溶媒のエタノールおよびメタノールを用いて得られた細胞培養抽出物で処理した皮膚細胞は、他の溶媒で得られたものよりも著しく良好な結果をもたらすことが分かる。
【0062】
皮膚細胞紫外線保護アッセイ(茶抽出物)
表3:ヒト真皮線維芽細胞由来培地のAlamarBlue蛍光測定値を、励起550nm/発光612nmで読み取った。各条件について3回反復した(試料1~3)。培地およびAlamarBlue単独の蛍光強度(バックグラウンド蛍光)を平均値から差し引いた。
【表3】
【0063】
これらの結果は、茶カルス細胞抽出物により処理した試料中のUV照射後の生存細胞数が、担体(エタノール)単独で処理した生存細胞数よりも多いことを示す。この効果は用量依存的であると思われる。
【0064】
抗炎症アッセイ
表4:炎症経路アクチベーターPMAと、1%茶カルス抽出物または1%エタノール(対照)のいずれかで処理したヒト成人真皮線維芽細胞によって産生されるインターロイキン-6の濃度(IL-6のpg/全細胞タンパク質1μg)を示す。各処理について3回反復した(試料1~3)。結果は、茶カルス抽出物が、抗炎症活性を示すPMA処理細胞で産生されるIL-6の量を低下させることを示す。
【表4】
【0065】
茶カルス抽出物中の一般的なガレート型および非ガレート型カテキンの化学分析
試料:
・茶葉-2015年6月に収穫された葉
・茶カルス(旧)-2015年初めに培養された茶カルスの古いバッチ。
【0066】
・茶カルス(新)-2015年末/2016年初めに培養された新しい茶カルスの新しいバッチ。
【0067】
Xevoトリプル四重極質量分析計を備えたWaters Acquity UPLC上のBEH C18カラム(100×2.1mm、1.7μm、Waters)上に10μlのアリコートを注入した。移動相は、流速0.2ml/分およびカラム温度40℃におけるメタノール(0.1%v/vギ酸)/水(0.1%v/vギ酸)勾配(10分かけて10:90から60:40;1分かけて2:98;2分保持;1分かけて10:90;1分間保持)からなる。データは、Waters MassLynx 4.1ソフトウェアで提示された。各代謝産物の量は、MRMモードで特定の推移をモニタリングすることによって確立した(エピカテキン/カテキン:289>245、エピガロカテキン:305>125、没食子酸エピカテキン:441>169、没食子酸エピガロカテキン:457>169、没食子酸メチル:183.1>124、没食子酸:169>125)。
【0068】
これは、茶葉試料がカルス試料よりも有意に多い没食子酸塩を有することを示す(例えば、EGCGの場合には約100倍)。
【0069】
表5:様々な茶成分の測定レベル。このデータは、曲線下面積(AUC)として相対的な用語で表される。
【表5】