(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】鉛ボタンの作成用鋳型、鉛ボタンの作成方法
(51)【国際特許分類】
B22D 21/00 20060101AFI20230123BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20230123BHJP
B22D 29/00 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
B22D21/00 Z
B22C9/06 H
B22C9/06 N
B22D29/00 G
(21)【出願番号】P 2019008468
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】519024371
【氏名又は名称】DOWAテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】多田 圭吾
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/007911(WO,A1)
【文献】中国実用新案第205826388(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第103575609(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D
B22C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式試金法において鉛ボタンを作成するための鋳型であって、
漏斗状に形成された容器部の底部に直方体形状の成形部を有することを特徴とする、鉛ボタンの作成用鋳型。
【請求項2】
前記容器部を複数備えることを特徴とする、請求項1に記載の鉛ボタンの作成用鋳型。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鋳型を用いて鉛ボタンを作成する方法であって、
前記成形部で直方体形状の鉛ボタンを鋳造することを特徴とする、鉛ボタンの作成方法。
【請求項4】
前記成形部から取り出された鉛ボタンをハンマーで叩くことにより、鉛ボタンの表面に付着したスラグを除去することを特徴とする、請求項3に記載の鉛ボタンの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛ボタンを作成するための鋳型に関し、さらに、鉛ボタンの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金や銀などの貴金属を定量するために乾式試金法による分析が行われている。乾式試金法では、試料に融剤と共に酸化鉛を加え、坩堝内で加熱融解して鋳型で鉛ボタンを作成する。そして、灰吹き時に滓の発生を少なくし、正常な貴金属ビードを得るために、鋳型から取り出した鉛ボタンの表面に付着したスラグを除去することが必要となる。
【0003】
そこで従来より、鉛ボタンの表面に付着したスラグの除去は、鉛ボタンをハンマーで叩いたり、やすりで磨くことで行われている。また、かかる作業を容易にするための手段として、特許文献1に示すように、鉛ボタンをゴム製のバレル槽に入れて湿式研磨する方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鋳型内で作成される鉛ボタンは円錐形状や半球形状であるのが一般的であり、例えば鋳型から取り出した円錐形状の鉛ボタン表面に付着したスラグを除去する際、鉛ボタンをハンマーで叩くことにより行う場合、スラグを除去するにはハンマーで10回以上叩く必要があった。円錐形状や半球形状の鉛ボタンは、特許文献1に示すような湿式研磨する場合も表面に付着したスラグを効率よく全面に渡って効果的に除去することが困難であった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鉛ボタンに付着したスラグを効果的に除去できる手段を提供することを目的とする。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、安定した形状の鉛ボタンを容易に得られる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によれば、乾式試金法において鉛ボタンを作成するための鋳型であって、漏斗状に形成された容器部の底部に直方体形状の成形部を有することを特徴とする、鉛ボタンの作成用鋳型が提供される。なお、前記容器部を複数備えていても良い。
【0008】
また、本発明によれば、この鋳型を用いて鉛ボタンを作成する方法であって、前記成形部で直方体形状の鉛ボタンを鋳造することを特徴とする、鉛ボタンの作成方法が提供される。なお、前記成形部から取り出された鉛ボタンをハンマーで叩くことにより、鉛ボタンの表面に付着したスラグを除去するようにしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉛ボタンの表面に付着したスラグを容易に除去できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態にかかる鉛ボタンの作成用鋳型の平面図である。
【
図2】本発明の実施の形態にかかる鉛ボタンの作成用鋳型の正面図である。
【
図4】従来技術において円錐形状や半球形状の鉛ボタンが形成される状態の説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態において直方体形状の鉛ボタンが形成される状態の説明図である。
【
図6】鉛ボタンの表面に付着したスラグを除去する作業の説明図である。
【
図7】比較例の鉛ボタンと実施例の鉛ボタンを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態の一例を説明する。なお、本明細書および図面において、同じ構成要素については共通の符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0013】
図1~3に示すように、本発明の実施の形態にかかる鉛ボタンAの作成用鋳型1は、複数の耐熱性を備える容器部10を上面プレート11によって連結した構成を有している。各容器部10は、上に行くほど広く、下に行くほど狭くなる漏斗状(略円錐形状)に形成されており、各容器部10の底部には、底面と側面がほぼ90°となり、4つの各側面がほぼ90°で隣り合うように構成された直方体形状の成形部12を有している。なお、直方体形状は、4つの各側面が同じ幅(長さ)を有する立方体が含まれる。
【0014】
上面プレート11の両側方には、支持脚13が設けられており、この支持脚13で例えば床面や適当な台などの上に作成用鋳型1が載置される。また、そのように作成用鋳型1が床面や適当な台などの上に載置されることにより、上面プレート11によって連結された各容器部10は、上面が開口し、底部に直方体形状の成形部12を配置した状態となる。
【0015】
以上のように構成された鋳型1を用いて鉛ボタンAを作成する場合、先ず、乾式試金法の分析対象となる試料を坩堝内で加熱融解し、融解した熔体を鋳型1の各容器部10に流し込む。そして、熔体を冷却することにより、鋳込みを行う。これにより、比重の大きい鉛が各容器部10の底部にある成形部12の中に隙間なく入り込んで鋳込まれ、ほぼ直方体形状の、スラグの付着量が少ない状態の鉛ボタンAが得られる。
【0016】
ここで、従来技術では、
図4に示すように、容器部10’の底部において、円錐形状や半球形状の鉛ボタンA’が作成されていた。これに対して、本発明の実施の形態にかかる鋳型1では、容器部10の底部にある成形部12で鉛ボタンAが形成される。これにより、ほぼ直方体形状の鉛ボタンAが作成されることとなる。
【0017】
こうして作成された鉛ボタンAを成形部12から取り出し、次に、
図6に示すように、鉛ボタンAを平坦な作業台15などの上に鉛ボタンAを置いてハンマー16で叩くことにより、鉛ボタンAの表面に付着したスラグを除去する。ここで、
図6に示すように、鉛ボタンAをハンマー16で上から叩くことにより、ハンマー16の下面と鉛ボタンAの上面との間に生じる摩擦力(衝撃力)によって、鉛ボタンAの上面に付着していたスラグが除去され、同様に、作業台15などの上面と鉛ボタンAの下面との間に生じる摩擦力(衝撃力)によって、鉛ボタンAの下面に付着していたスラグが除去されることとなる。直方体形状の鉛ボタンAは3対の合計6面の外側面を有しているので、鉛ボタンAの各外側面を上(下)にした姿勢に適宜変更させ、ハンマー16で上から叩くことによって、各対(3対)をなす外側面に付着していたスラグを従来よりも少ない回数で、かつ、効果的に除去することが可能となる。
【0018】
また、直方体形状の鉛ボタンAは、いずれの面を上(下)にした場合も、作業台15などの上面に接する面は平面であるため、作業台15などの上で鉛ボタンAが安定し、手で押さえずにハンマー16で叩くことができる。このため、誤って手を叩いてしまう恐れも無くなり、安全である。なお、鉛ボタンAからスラグが除去されたことは、鉛ボタンAをハンマー16で叩いた際に、鉛ボタンAの表面からスラグがそれ以上剥離しなくなることによって確認できる。
【0019】
こうして作成された鉛ボタンAは、表面のスラグが良好に除去されており、試料の元素分析として好適に用いることができる。また、作業時間の短縮や作業負担の軽減といった製造効率も向上する。
【0020】
適当な台などに鉛ボタンの側面を下にして置くと、鉛ボタンが転がりやすい。同様に、半球形状の鉛ボタンの曲面を下にして置いた場合も転がりやすい。そのため、ハンマーで叩いたり、やすりで磨く際に、台上で鉛ボタンを手で押さえなければならず、作業がし辛いという欠点がある。さらに、鉛ボタンを手で押さえながらハンマーで叩くのでは、誤って手を叩いてしまう恐れもある。
【0021】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0022】
例えば、
図3中に一点鎖線で記入したように、鋳込んだ鉛ボタンAを成形部12から取り出しやすくするために、成形部12の底面にエゼクタピンなどを挿入させる孔20を形成しても良い。また、
図1、2では、5個の容器部10を横一列に並べて配置した鋳型1を例示したが、容器部10は1個のみでも良いし、2個以上の任意の複数でも良い。また、複数の容器部10を複数列並べて備えていても良い。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
乾式試金法で分析を行っているリファレンス試料を用いて分析値で差がないかどうかを比較した。
図7において、左側が従来技術(現行鋳型)で作成した円錐形状(半球形状)の鉛ボタンを示し、右側が本発明の実施例(改良鋳型)で作成した直方体形状の鉛ボタンを示している。表1に分析結果を示す。Au、Ag共に分析値に有意差はなく、品質上の影響はなかった。鉛ボタンへのスラグの付着の程度は目視ではそれほど違いは見受けられなかった。鉛ボタンの表面にスラグの剥片が付着しており、鉛ボタンがスラグと接している面にスラグの付着が多い点も同じであった。従来技術(現行鋳型)で作成した円錐形状(半球形状)の鉛ボタンは成型するために何回もハンマーで叩なければならずその際にスラグも除去された。これに対して、本発明の実施例(改良鋳型)で作成した直方体形状の鉛ボタンは既に成形されてるため3回叩けば6面すべてのスラグが除去された。本発明者が検討を重ねた結果、従来の叩いて成型していた後の形状に近い直方体形状の鉛ボタンを予め成型し、鋳込みで得られた鉛ボタンに対してスラグ落としのみ行うことで、作業効率と安全性が向上することを見出した。
【0025】
【符号の説明】
【0026】
A 鉛ボタン
1 鋳型
10 容器部
11 上面プレート
12 成形部
13 支持脚
15 作業台
16 ハンマー
20 孔