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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】水中ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/42 20060101AFI20230123BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
F04D29/42 E
H02K7/14 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019068668
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165407
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片嶋 純司
(72)【発明者】
【氏名】清水 翔太
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-163263(JP,A)
【文献】特開2000-213498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
H02K 5/00- 5/26
H02K 7/00- 7/20
H02K 9/00- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのシャフトに固定されかつ、揚液に浸漬される羽根車と、
前記モータを収容するモータ部と、
前記羽根車の主板の背面に相対すると共に、前記モータ部内を前記揚液から隔てる隔壁と、を備え、
前記隔壁の、前記主板に対向する面は、凹及び凸の少なくとも一方が、周方向に間隔を空けて、複数設けられることによって構成される凹凸面であり
前記隔壁と前記主板との間には、前記隔壁よりも凹凸の小さい蓋が、前記凹凸面に対向するように介在している水中ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の水中ポンプにおいて、
前記モータ部は、前記モータを冷却する冷却液が循環する循環流路を含み、
前記隔壁は、前記冷却液と前記揚液とを隔てると共に、前記冷却液から前記揚液へ熱を伝える熱交換部を構成し、
前記蓋には、前記揚液が通過する通過穴が、少なくとも2箇所設けられている水中ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の水中ポンプにおいて、
前記隔壁は、厚みが一定又は略一定であると共に、前記モータ部側と前記ポンプ部側とのそれぞれ互いに対応する位置に、前記隔壁の中央部から径方向外方に向かって延びる凸条と凹溝とが、周方向に複数形成されることによって、前記シャフトの軸に沿う断面が波形である水中ポンプ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の水中ポンプにおいて、
前記隔壁及び蓋はそれぞれ、前記シャフトの軸に直交する方向に広がり、
前記シャフトは、前記隔壁の中央部及び前記蓋の中央部を貫通しており、
前記通過穴は、径方向内側部分と、当該内側部分よりも径方向外側の部分とのそれぞれに設けられている水中ポンプ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水中ポンプにおいて、
前記蓋は、前記モータ部に取り付けられている水中ポンプ。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水中ポンプにおいて、
前記蓋は、前記羽根車を収容するポンプケーシングに取り付けられている水中ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、水中ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータ部とポンプ部とから構成されかつ、揚液に浸漬される水中モータポンプが開示されている。この水中モータポンプのモータ部には、モータを冷却する冷却水用の循環流路が形成されている。ポンプの羽根車を収容するポンプケーシングの上端部には蓋ケーシングが取り付けられている。蓋ケーシングは、モータ部とポンプ部とを隔てる板状の部材である。蓋ケーシングはまた、循環流路の一部を区画している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-57551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記板状の蓋ケーシングは、水中モータポンプの構造上、冷却水と揚水との間の熱交換を行う熱交換部としても機能する。この蓋ケーシングのポンプ部側の面には、伝熱面積を拡大して熱交換効率が高まるように、フィンが立設している。このフィンによって、蓋ケーシングのポンプ部側の面は、凹凸を有している。
【0005】
蓋ケーシングのポンプ部側の面は、羽根車の主板の背面に対向する面であるが、この面に凹凸があると、羽根車を回転させる動力が増加してしまうという不都合がある。
【0006】
特に、軸荷重を軽減させるために、羽根車の主板の背面に、いわゆる裏羽根を設けていると、この裏羽根によって軸動力が増加する上に、蓋ケーシングのフィンによっても軸動力が増加してしまうため、水中ポンプの軸動力が大幅に増加してしまうという問題がある。
【0007】
ここに開示する技術は、水中ポンプの動力損失を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示する技術は、水中ポンプに関する。水中ポンプは、
モータのシャフトに固定されかつ、揚液に浸漬される羽根車と、
前記モータを収容するモータ部と、
前記羽根車の主板の背面に相対すると共に、前記モータ部内を前記揚液から隔てる隔壁と、を備え、
前記隔壁の、前記主板に対向する面は、凹及び凸の少なくとも一方が、周方向に間隔を空けて、複数設けられることによって構成される凹凸面であり
前記隔壁と前記主板との間には、前記隔壁よりも凹凸の小さい蓋が、前記凹凸面に対向するように介在している。
【0009】
この構成によると、隔壁の、羽根車の主板に対向する面には、凹及び凸の少なくとも一方が設けられている。凹及び/又は凸によって、羽根車を回転させる動力が増加してしまう。
【0010】
前記の構成では、隔壁と羽根車の主板との間に蓋が介在している。蓋は、羽根車の主板に対向する。蓋は、隔壁の面よりも凹凸が小さい。よって、羽根車の回転時の動力損失が低減する。
【0011】
前記モータ部は、前記モータを冷却する冷却液が循環する循環流路を含み、
前記隔壁は、前記冷却液と前記揚液とを隔てると共に、前記冷却液から前記揚液へ熱を伝える熱交換部を構成し、
前記蓋には、前記揚液が通過する通過穴が、少なくとも2箇所設けられている、としてもよい。
【0012】
前記隔壁が熱交換部を構成する場合、隔壁に設けた凹及び/又は凸は、隔壁の伝熱面積を拡大する。隔壁を介した冷却液と揚液との間の熱交換効率が向上する。隔壁は、冷却液を効率的に放熱させることができるから、モータを効率的に冷却することができる。
【0013】
隔壁が熱交換部を構成する場合、隔壁におけるポンプ部側の面に揚液を供給しなければならない。隔壁と羽根車との間に介在する蓋に、少なくとも2箇所の通過穴を設けることにより、羽根車の回転時に、揚液は、通過穴を通じて、ポンプ部側から隔壁側へと流れると共に、通過穴を通じて、隔壁側からポンプ部側へと流れる。隔壁に対して揚液を順次供給することができるから、隔壁を介した冷却液と揚液との間の熱交換効率を向上させることができる。
【0014】
結果として、動力損失の低減と、モータの効率的な冷却とが両立する。
【0015】
前記隔壁は、厚みが一定又は略一定であると共に、前記モータ部側と前記ポンプ部側とのそれぞれ互いに対応する位置に、前記隔壁の中央部から径方向外方に向かって延びる凸条と凹溝とが、周方向に複数形成されることによって、前記シャフトの軸に沿う断面が波形である、としてもよい。
【0016】
隔壁の厚みを一定又は略一定にすると熱伝導率が上がると共に、その断面を波形にすると伝熱面積が拡大するから、隔壁を介した冷却液と揚液との間の熱交換効率が向上する。
【0017】
一方で、前記の隔壁は、モータ部側及びポンプ部側のそれぞれに少なくとも凹又は凸が形成される。しかしながら、この水中ポンプは、前述のように、隔壁と羽根車との間に蓋が介在しているため、動力損失が低減する。
【0018】
前記隔壁及び蓋はそれぞれ、前記シャフトの軸に直交する方向に広がり、
前記シャフトは、前記隔壁の中央部及び前記蓋の中央部を貫通しており、
前記通過穴は、径方向内側部分と、当該内側部分よりも径方向外側の部分とのそれぞれに設けられている、としてもよい。
【0019】
シャフトが、隔壁の中央部及び蓋の中央部を貫通しているため、隔壁と羽根車の主板との間で、揚液は、周方向に旋回しながら径方向に流れる。蓋における、径方向内側の部分と径方向外側の部分とのそれぞれに、通過穴を設けることにより、通過穴を通じて、揚液をスムースに流動させることが可能になる。隔壁が冷却液を効率的に冷却する上で有利になる。
【0020】
前記蓋は、前記モータ部に取り付けられていると、としてもよい。または、前記蓋は、前記羽根車を収容するポンプケーシングに取り付けられていると、としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、前記の水中ポンプによると、動力損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、水中モータポンプの全体構成を例示する断面図である。
図2図2は、モータ部とポンプ部との間のハウジング部の構成を例示する拡大断面図である。
図3図3の左図は、隔壁の平面図、右図は、隔壁及び蓋の底面図である。
図4図4は、図3のIV-IV断面図である。
図5図5は、蓋がある場合と蓋が無い場合とにおいて水中モータポンプの特性を比較する図である。
図6図6は、図2とは異なる隔壁を備えた水中モータポンプの構成を示す図2対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、水中モータポンプの実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する水中モータポンプは例示である。
【0024】
(水中モータポンプの全体構成)
図1は、水中モータポンプ1を例示している。水中モータポンプ1は、例えば下水道におけるポンプ槽内に設置されるポンプである。水中モータポンプ1は、揚液に浸漬される。水中モータポンプ1は、羽根車21を駆動するモータ31を有するモータ部11と、羽根車21を有するポンプ部12と、を備えている。水中モータポンプ1は、モータ部11が上側に、ポンプ部12が下側になるように、上下方向に並んで配置されて構成されている。この水中モータポンプ1はまた、詳細は後述するが、循環する冷却液がモータ31を冷却する循環流路をモータ部11に設けた強制冷却仕様である。ここで、冷却液は、この構成例では水を主成分とし、そこに腐食防止用の添加剤を添加した冷却水である。但し、冷却液を、冷却油によって構成してもよい 。
【0025】
モータ部11は、モータ31と、モータ31を収容するモータケーシング32と、を備えている。モータ31のシャフト33は、上下方向に延びて配設されている。シャフト33は、モータケーシング32の下端から下方に突出している。
【0026】
モータケーシング32は、その上端及び下端が開口した概略円筒状を有している。モータケーシング32の上端開口は、蓋部34によって閉塞されている。蓋部34の下面には、ベアリング351が取り付けられており、このベアリング351は、シャフト33の上端部を軸支している。蓋部34には、モータカバー39が取り付けられ、モータカバー39には、ヘッドカバー36が取り付けられている。
【0027】
モータ部11はまた、アウターケーシング37を備えている。アウターケーシング37は、モータケーシング32の外周囲を囲むように配置されている。アウターケーシング37は、両端開口の概略円筒状であり、その上端部がモータカバー39に固定されている。モータケーシング32の外周面と、アウターケーシング37の内周面とによって、冷却液が流れる円周状の第1流路38が形成されている。第1流路38は、モータ31を囲んでいる。第1流路38を流れる冷却液は、モータ31から受熱する。
【0028】
モータケーシング32及びアウターケーシング37の下端部は、ハウジング4によって閉塞されている。ハウジング4の構成の詳細は、後述する。ハウジング4はモータ部11の一部を構成する。
【0029】
ポンプ部12は、シャフト33の下端に取り付けられた羽根車21と、羽根車21を収容するポンプケーシング22と、を備えている。この水中モータポンプ1は、遠心式の羽根車21を備えた遠心ポンプである。
【0030】
ポンプケーシング22は、その内部に羽根車21を収容する渦形室23を有している。渦形室23は、ポンプケーシング22の底部に開口する吸込口24に連通している。渦形室23はまた、ポンプケーシング22の側方に突出する排出口25に連通している。排出口25は、図示省略の排出管に連結される。
【0031】
ポンプケーシング22の上端は開口している。ポンプケーシング22の上端開口の周縁部が、ハウジング4に固定される。
【0032】
羽根車21は、図例に限らず、各種の形式の羽根車を採用することができる。羽根車21の主板211には、軸荷重を軽減させる裏羽根212が設けられている。
【0033】
ハウジング4は、モータケーシング32の下端及びアウターケーシング37の下端と、ポンプケーシング22の上端との間に配設されている。ハウジング4は、図2にも示すように、第1部材41と、第2部材42とを含んで構成されている。
【0034】
第1部材41は、モータケーシング32の下端及びアウターケーシング37の下端に固定されている。第1部材41は、概略平板状を有している。第1部材41は、モータケーシング32の下端開口及びアウターケーシング37の下端開口を閉塞する。第1部材41の中央部には、モータ31のシャフト33が貫通する貫通孔が形成されている。シャフト33を支持するベアリング412は、第1部材41に保持されている。第1部材41の外周部には、第1流路38に連通する複数の連通穴411が形成されている。尚、図1及び2では、一つの連通穴411のみを図示している。
【0035】
第2部材42は、第1部材41の下側に配設されている。第2部材42は概略円筒状を有している。第2部材42の上端は、第1部材41の下面に固定されている。第2部材42の下端は、ポンプケーシング22の上端部に固定されている。
【0036】
第2部材42の下端は開口している。第2部材42の下端部には隔壁6が取り付けられている。第2部材42の下端は、隔壁6によって閉塞される。隔壁6はまた、ポンプケーシング22の上端開口を閉塞する。尚、後述するように、隔壁6と羽根車21の主板211との間には、蓋7が介設している。
【0037】
第2部材42の内部には、第2流路421及び第3流路422が形成されている。第2流路421及び第3流路422はそれぞれ、連通穴411を介して第1流路38につながっている。尚、図1及び2においては、第2流路421と第1流路38とをつなぐ連通穴411を図示していない。第1流路38、第2流路421及び第3流路422によって、冷却液が循環する循環流路が構成される。
【0038】
隔壁6は、第3流路422の一部を形成している。隔壁6は、モータ部11の冷却液とポンプ部12の揚液とを隔てている。隔壁6はまた、冷却液と揚液との間で熱交換を行う熱交換部として機能する。
【0039】
第2流路421と第3流路422とはシャフト33の周囲において、互いに連通している。つまり、循環流路の一部は、ハウジング4内において、シャフト33の周囲に設けられている。
【0040】
ハウジング4は、その内部にメカニカルシール5を収容している。メカニカルシール5は、シャフト33に取り付けられることによってシャフト33を軸封(シール)する。メカニカルシール5は、第2流路421と第3流路422との連通箇所に配設されている。
【0041】
シャフト33には循環羽根51が取り付けられている。循環羽根51は、第2流路421と第3流路422との連通箇所に配設されている。シャフト33が回転すると、シャフト33と共に循環羽根51が回転する。循環羽根51が回転すると、冷却液は、シャフト33に沿って、第2流路421から第3流路422へ強制的に流動する。その結果、図1及び2に黒い太矢印で示すように、冷却液は、第1流路38、第2流路421及び第3流路422によって構成される循環流路に沿って、モータ31と隔壁6との間を循環する。冷却液は、モータ31の周囲においてモータ31から受熱し、隔壁6の近傍において揚液に放熱する。
【0042】
(隔壁の構成)
図3は、隔壁6及び蓋7を示している。図3の左図は隔壁6の平面図、右図は隔壁6及び蓋7の底面図である。言い替えると、左図は隔壁6の冷却液側の面、右図は隔壁6及び蓋7の揚液側の面である。
【0043】
隔壁6は、シャフト33に直交する方向に広がる円盤状である。隔壁6の中央部には、シャフト33が貫通する貫通孔61が形成されている。隔壁6はまた、図4に断面図を示すように、シャフト33の中心軸に沿う断面が、隔壁6の周方向について波形である。隔壁6の、モータ部側の面には、ポンプ部側からモータ部側へ凸になった凸条62が形成されていると共に、ポンプ部側の面には、ポンプ部側からモータ部側へ凹になった凹溝63が形成されている。
【0044】
前述したように、隔壁6は、冷却液と揚液との間で熱交換を行う熱交換部として機能する。隔壁6の断面を波形にし、それによって、モータ部側の凸条62とポンプ部側の凹溝63とを隔壁6に設けることで、隔壁6の伝熱面積を拡大させることができる。
【0045】
凸条62は、周方向に間隔を空けて、複数形成されている。複数の凸条62はそれぞれ、隔壁6における貫通孔61の縁部から、径方向外方に向かって延びている。
【0046】
隣り合う凸条62と凸条62との間には、冷却液を整流する整流路64が形成されている。ここで、凸条62は、図2に示すように、その突出端部(つまり、上端部)が、ハウジング4の壁に対して間隔Hを空けている。尚、この間隔Hは比較的狭いため、冷却液の流れは、凸条62の突出端部とハウジング4の壁との間を通過する流れよりも、凸条62と凸条62との間の整流路64を通る流れが支配的になる。尚、間隔Hが無くなるように、凸条62の突出端部を、ハウジング4の壁に接触させてもよい。
【0047】
各凸条62は、径方向内方から外方に向かうに従い周方向に湾曲している。凸条62の湾曲方向は、図3に一点鎖線で示すシャフト33の回転方向に一致している。これにより、複数の整流路64は、径方向の内方から外方に向かって放射状に延びていると共に、各整流路64は、径方向内方から外方に向かうに従い周方向に湾曲している。整流路64の湾曲方向は、シャフト33の回転方向に沿う方向である。また、各整流路64は、図3の左図に示すように、径方向の内側の幅W1が狭く、径方向の外側の幅W2が広い。各整流路64の幅は、径方向の内方から外方へ向かって次第に拡大している。
【0048】
冷却液は、前述したように、メカニカルシール5の取付位置において、シャフト33の近傍を、モータ部側からポンプ部側へとシャフト33に沿って流れる。その後、冷却液は、隔壁6の面に沿って、径方向の内方から外方へと流れる(図3の黒矢印参照)。冷却液が隔壁6の面に沿って隔壁6の全体に亘って放射状に流れるため、隔壁6を介した冷却液と揚液との間の熱交換効率が向上する。
【0049】
また、整流路64が周方向に湾曲しているため、湾曲していない場合よりも整流路64の流路長を長くすることができる。流路長が長くなる分、隔壁6の伝熱面積を大きくすることができる。この構成は、隔壁6の外径を大きくせずに、隔壁6の熱交換効率を高めることができる。
【0050】
さらに、整流路64の幅が次第に拡大することにより、冷却液が整流路64内を、隔壁6の中央部から径方向外方へと流れている間に、ディフューザー効果によって運動エネルギを圧力エネルギへ効率よく変換することができる。この構成により、各整流路64の径方向外方の出口部におけるエネルギ損失を下げることができる。
【0051】
隔壁6のポンプ部側の凹溝63は、凸条62に対応している。そのため、凹溝63は、周方向に間隔を空けて、複数形成されている。複数の凹溝63はそれぞれ、隔壁6における貫通孔61の縁部から、径方向外方に向かって延びている。各凹溝63は、径方向内方から外方に向かうに従い周方向に湾曲している。揚液は、凹溝63に沿って、径方向に流れる。
【0052】
隔壁6の厚みは、図4に示すように一定又は略一定である。凸条62と凸条62との間に形成された整流路64に沿って流れる冷却液と、凹溝63内を流れる揚液とを隔てる壁の厚みが比較的薄いため、冷却液と揚液との間の熱交換が促進される。隔壁6の厚みが一定又は略一定であることと、伝熱面積の拡大とが組み合わさって、隔壁6の熱交換効率が高まる。隔壁6は、耐久性や耐摩耗性の観点から、熱伝導率が比較的低い鋳鉄で作成される。熱伝導率が低い鋳鉄製であっても、隔壁6は、冷却液を効率的に冷却することができる。また、隔壁6の断面が波形であるから、厚みを薄くしても、隔壁6の剛性を確保することができる。隔壁6の厚みを可能な限り薄くすれば、熱交換効率の向上にさらに有利になる。
【0053】
ここで、隔壁6の波形は、図4に示すように、シャフト33の中心軸に沿う断面において、シャフト33の中心軸に対し傾いている(角度θ参照)。それによって、凹溝63の周方向の幅が、その底部から開口部に向かって拡大する。つまり、凹溝63の周方向の幅は、図4における上端部から下端の開口に向かって拡大している。尚、図示は省略するが、凹溝63の径方向の幅も、底部から開口部に向かって拡大している。水中モータポンプ1が設置されるポンプ槽内では、揚液中にゴミ等が含まれており、そのゴミ等が、断面波形の隔壁6の凹溝63に溜まる恐れがある。凹溝63の幅が開口に向かって拡大するように隔壁6を形成すると、水中モータポンプ1の運転中の揚液の流れによって、ゴミ等が凹溝63内から掻き出されやすくなる。凹溝63内にゴミ等が溜まることを抑制することができる。ゴミ等が隔壁6の凹溝63内に溜まることで隔壁6の熱交換効率が低下してしまうことを抑制することができる。ここで、波形の傾き角度θは、適宜の角度に設定することが可能である。傾き角度θは、例えば3~15°の範囲で設定してもよい。
【0054】
また、隔壁6の凹溝63の幅が拡大するように波形を形成することは、鋳型を用いて隔壁6を製造する際の抜き勾配となり得るから、隔壁6の製造の観点においても有利になる。
【0055】
隔壁6のモータ部側には、隣り合う凸条62と凸条62とによって冷却液の整流路64が形成されると共に、ポンプ部側には、凹溝63によって揚液の流路が形成される。これらの流路により、隔壁を挟んだモータ部側及びポンプ部側のそれぞれにおいて、冷却液がスムースに流れるから、隔壁6の熱交換効率が高まる。冷却液を効率的に冷却することができ、水中モータポンプ1のモータ31を効率的に冷却することができる。
【0056】
ここで、隔壁6のポンプ部側の面は、羽根車21の主板211に対向する面である。この面に形成した凹溝63は、隔壁6のポンプ部側の面に凹凸を形成する。この凹凸は、羽根車21を回転させる動力を増加させてしまう。特に、羽根車21の主板211には、裏羽根212が形成されているため、裏羽根212と凹溝63との組み合わせは、水中モータポンプ1の動力損失を大幅に増加させてしまう恐れがある。
【0057】
そこで、この水中モータポンプ1は、隔壁6と羽根車21の主板211との間に、蓋7を介在させている。蓋7は、隔壁6よりも厚みの薄い円環状の部材である。蓋7の、少なくとも羽根車21の主板211に対向する面は平坦である。蓋7の面は、隔壁6のポンプ部側の面よりも凹凸が小さい。蓋7は、隔壁6のポンプ部側の面の全体を覆う。尚、図3の右図は、蓋7の一部の図示を省略している。蓋7は、隔壁6に取り付けられる。蓋7と隔壁6のポンプ部側の面との間には、図4に示すように、所定の隙間が設けられている。
【0058】
羽根車21の主板211に対向する蓋7の面が平坦であるため、羽根車21の回転時の動力損失が低減する。
【0059】
ここで、隔壁6は、前述したように冷却液と揚液との熱交換を行う部材である。隔壁6の面を蓋7によって全て覆ってしまうと、隔壁6のポンプ部側の面に揚液を供給することができない。そこで、蓋7には、図3の右図に示すように、通過穴71、72が形成されている。通過穴71、72はそれぞれ、蓋7を厚み方向に貫通していて、蓋7を挟んだ隔壁6側と羽根車21の主板211側とをつないでいる。通過穴71、72は、周方向に複数設けられている。通過穴71、72は,図3では一部のみを図示しているが、周方向に均等に配置されている。通過穴71は、径方向の内方に設けられている。通過穴72は、径方向の外方に設けられている。
【0060】
隔壁6と羽根車21の主板211との間で、揚液は、周方向に旋回しながら径方向に流れる。図2に実線の矢印で示すように、羽根車21の回転時に、揚液は、径方向の外方の通過穴72を通じて、ポンプ部側から隔壁側へと流れると共に、径方向の内方の通過穴71を通じて、隔壁側からポンプ部側へと流れる。径方向の内側と外側とのそれぞれに通過穴71、72を設けることにより隔壁6へ揚液を順次供給することができるから、隔壁6を介した冷却液と揚液との間の熱交換効率を向上させることができる。
【0061】
すなわち、隔壁6と羽根車21の主板211との間に蓋7を介在させると共に、その蓋7に通過穴71、72を設けることで、水中モータポンプ1の動力損失の低減と、モータ31の効率的な冷却とが両立する。
【0062】
図5は、蓋を取り付けた場合と、蓋を取り付けない場合との軸動力、及び、全揚程を比較する図である。図5の上図は、流量(横軸)と軸動力(縦軸)との関係を示している。流量は、図の右に進むほど多くなる。軸動力は図の上に進むほど大きくなる。図5の下図は、流量(横軸)と全揚程(縦軸)との関係を示している。流量は、図の右に進むほど多くなる。全揚程は図の上に進むほど高くなる。
【0063】
図5からわかるように、蓋7を取り付けることによって、蓋7を取り付けない場合よりも、全ての流量域において、軸動力が低下していると共に、全揚程が高くなっている。図5から、蓋7を取り付けることにより得られる大きな動力低減効果を、確認することができる。
【0064】
尚、ここに開示する水中モータポンプ1は、図1及び2に示す構造に限定されない。例えば図6は、水中モータポンプ10の変形例を示している。この水中モータポンプ10は、隔壁60が波形断面でなく、平板状に構成されている。隔壁60は、ポンプ部側へ凸となったフィン601を有している。これにより、隔壁60は、伝熱面積の拡大を図っている。その一方で、隔壁60のポンプ部側の面は、フィン601により凹凸を有している。
【0065】
この構成の隔壁60に対しても、隔壁60と羽根車21の主板211との間に蓋7を介在させることにより、前記と同様に、動力損失の低減を図ることができる。
【0066】
尚、図示は省略するが、隔壁6、60は、ポンプケーシング22に取り付けてもよい。
【0067】
また、前述した各構成は、可能な範囲で互いに組み合わせてもよい。
【0068】
また、ここに開示する技術を適用可能なモータポンプは、図1、2及び6に例示するモータポンプに限定されない。様々な構成のモータポンプに、ここに開示する技術を適用することが可能である。
【0069】
例えば羽根車の主板に対向する、隔壁の面の凹凸は、前述した伝熱面積の拡大を目的とした凹凸には限らない。
【符号の説明】
【0070】
1、10 水中モータポンプ
11 モータ部
21 羽根車
211 主板
31 モータ
33 シャフト
38 第1流路(循環流路)
421 第2流路(循環流路)
422 第3流路(循環流路)
6 隔壁
60 隔壁
7 蓋
71、72 通過穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6