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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】焼結含油軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20230123BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20230123BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
F16C33/10 A
F16C17/02 Z
F16C33/12 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019083222
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020180636
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】竹添 真一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】坂井 圭
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-079225(JP,U)
【文献】特開昭60-172724(JP,A)
【文献】特開2000-192945(JP,A)
【文献】特開2012-167818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結金属からなる多孔質の軸受本体に、潤滑油を含浸させてなる焼結含油軸受であって、
前記軸受本体の両端面に、前記軸受本体から漏出する潤滑油を保持可能な油溜り凹部が形成されており、
前記油溜り凹部は、前記端面の軸受孔を、間隔をあけて囲む全周に形成された全周溝と、前記端面の軸受孔を中心とする放射状の放射状溝と、を有し、
前記放射状溝は、前記全周溝の内側に形成されるとともに、前記放射状溝の外周側端と前記全周溝の内周端とが連結されていることを特徴とする焼結含油軸受。
【請求項2】
片側の前記端面における前記油溜り凹部の体積は、前記軸受本体の気孔の総体積の3%以上であることを特徴とする請求項1に記載の焼結含油軸受。
【請求項3】
前記放射状溝は、前記端面の外周に向かうに従って漸次深さが小さく形成されていることを特徴とする請求項又はに記載の焼結含油軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に潤滑油を含浸させて潤滑を円滑に行わせることができる焼結含油軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結含油軸受は、気孔内に潤滑油を含浸させた軸受であり、モータ等の軸を支える軸受として用いられている。この焼結含油軸受は、外周面がハウジング等により固定されており、軸受孔内に挿通された軸を支持する。このような焼結含油軸受は、多孔質とされているため、軸孔部内の摺動面や外周面の表面には、気孔が形成されている。このため、モータが駆動して軸が回転すると、軸と焼結含油軸受との摩擦によって生じる摩擦熱により、潤滑油の膨張及び粘性低下に伴い、軸と焼結含油軸受の摺動面との間に内部から潤滑油が浸み出し、軸と焼結含油軸受との金属接触を抑制している。一方、モータが停止して軸の回転が停止されると、焼結含油軸受の表面に漏れ出した余分な潤滑油が毛細管力により、焼結含油軸受内の気孔に吸収される。このようなサイクルを繰り返すため、無給油で長時間使用できることから、車載用モータの軸受など、広く軸受として利用されている。
【0003】
ところで、モータが駆動して軸が回転し、焼結含油軸受の端面に漏れ出した潤滑油は、端面に溜り、一定量溜まると焼結含油軸受から落下する。このため、軸が回転及び停止するサイクルが繰り返されると、焼結含油軸受内の潤滑油量が徐々に減少して、最終的には潤滑作用が働かなくなり、異常摩耗を引き起こす可能性がある。このような焼結含油軸受の端面からの潤滑油の漏出を抑制するため、例えば、特許文献1及び2に記載の焼結含油軸受が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の焼結含油軸受は、軸受本体の端面及び外周面にブラッシングを施して表面に通じる気孔の周囲を構成する材料を塑性変形させて気孔を封止している。これにより、焼結含油軸受の端面に形成された気孔からの潤滑油の漏出を抑制している。
また、特許文献2に記載の焼結含油軸受は、軸受本体の軸方向の端面にエアロゾルデポジション法により形成された封止膜を有している。このため、端面に露出している気孔がばらつきなく十分に封止され、焼結含油軸受内に含浸された潤滑油の漏出を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-333014号公報
【文献】特開2007-247775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載したような焼結含油軸受は、端面をブラッシングするブラッシング工程や、端面に封止膜を形成する封止膜形成工程を施す必要があり、作業工程が多くなる他、製造コストが高くなる。また、特許文献1及び2に記載したような焼結含油軸受では、端面からの潤滑油の漏出を抑制できるものの、焼結含油軸受の軸が摺動する摺動面から漏れ出して、軸を伝って端面に漏れ出した潤滑油が端面に溜り、一定量を超えた際に落下することを抑制できない。このため、軸の回転が止まって焼結含油軸受に潤滑油が戻っても、すべての潤滑油を回収することができず、結果として焼結含油軸受の寿命が短くなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、より簡易な構成で焼結含油軸受から漏れ出した潤滑油の端面からの落下を抑制できる焼結含油軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の焼結含油軸受は、焼結金属からなる多孔質の軸受本体に、潤滑油を含浸させてなる焼結含油軸受であって、前記軸受本体の両端面に、前記軸受本体から漏出する潤滑油を保持可能な油溜り凹部が形成されている。前記油溜り凹部は、前記端面の軸受孔を、間隔をあけて囲む全周に形成された全周溝と、前記端面の軸受孔を中心とする放射状の放射状溝と、を有し、前記放射状溝は、前記全周溝の内側に形成されるとともに、前記放射状溝の外周側端と前記全周溝の内周端とが連結されている。
【0009】
軸受本体に支持された軸が回転すると、軸受本体の温度が上昇することにより潤滑油の体積が大きくなって軸受本体の摺動面に漏れ出すとともに、端面にも潤滑油が漏れ出す。本発明では、軸受本体の両端面に油溜り凹部が形成されているので、端面から漏れ出した潤滑油及び軸を伝って端面に漏れ出した潤滑油を表面張力により油溜り凹部に付着した状態で溜めることができ、潤滑油の端面からの落下を抑制できる。このため、軸の回転が止まって軸受本体の温度が低下した際に、軸受本体に略全ての潤滑油を戻すことができ、焼結含油軸受の寿命を長くすることができる。
【0010】
また、焼結含油軸受の製造方法は、一般的に、原料粉末を成形金型に充填して加圧し、筒状の圧粉体を成形する成形工程と、この圧粉体を焼結する焼結工程と、焼結体の内周面及び外周面を矯正金型により矯正する矯正工程と、矯正後の矯正体に潤滑油を浸油する浸油工程とからなる。本発明の焼結含油軸受は、成形工程における成形金型や矯正工程における矯正金型に上記油溜り凹部を形成する部位を設けておくことで、製造でき、焼結含油軸受の製造コストを低減できる。
【0011】
本発明の焼結含油軸受の好ましい態様としては、片側の前記端面における前記油溜り凹部の体積は、前記軸受本体の気孔の総体積の3%以上であるとよい。
【0012】
ここで、焼結含油軸受の気孔率は、20%前後とされており、この焼結含油軸受の温度が20℃から100℃まで上昇すると、気孔の総体積の略2%の潤滑油が染み出す。例えば、焼結含油軸受の軸方向が重力方向に直交している場合、軸受本体から漏れ出した潤滑油は、両端面にそれぞれ1%程度ずつ漏れ出す。この1%程度の潤滑油の大半は、重力により端面に沿って垂れ下がることから、端面の下方側の1/3程度の領域で潤滑油を保持できればよい。一方、焼結含油軸受の軸方向と重力方向とが一致している場合、最大2%の潤滑油が焼結含油軸受の下方側に漏れ出たとしても、下方側の端面の全領域により保持できればよい。
上記態様では、片側の端面における油溜り凹部の体積が軸受本体の気孔の総体積の3%以上とされているので、焼結含油軸受の軸方向が重力方向に沿っている場合及び重力方向に直交している場合のいずれの場合においても、潤滑油を油溜り凹部に確実に溜めることができる。
【0014】
上記態様では、軸受本体の端面に全周溝が形成されているので、端面のいずれの位置に潤滑油が漏れ出した場合でも、全周溝により潤滑油を溜めることができる。
【0016】
上記態様では、端面に放射状溝が形成されているので、端面のいずれの位置に潤滑油が漏れ出した場合でも、放射状溝により潤滑油を溜めることができる。
【0018】
上記態様では、端面に放射状溝及び全周溝の両方が形成されているので、放射状溝及び全周溝の両方により潤滑油を確実に溜めることができ、端面から潤滑油が落下することを確実に抑制できる。また、放射状溝の外周端と全周溝の内周端とが連結していることから、放射状溝から漏れ出た潤滑油が全周溝により保持できるので、潤滑油の端面からの落下を確実に抑制できる。
【0019】
本発明の焼結含油軸受の好ましい態様としては、前記放射状溝は、前記端面の外周に向かうに従って漸次深さが小さく形成されているとよい。
【0020】
上記態様では、放射状溝が端面の外周に向かうに従って漸次深さが小さく形成されているので、放射状溝の深さが同じ場合に比べて、放射状溝の面積を拡大でき、放射状溝での潤滑油の保持能力をより高めることができる。また、製造工程での成形金型や矯正金型の構造を簡易化でき、例えば、成形工程においてシングルパンチで端面に上記油溜り凹部を形成できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より簡易な構成で焼結含油軸受から染み出した潤滑油の落下を抑制でき、焼結含油軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る焼結含油軸受の斜視図である。
図2図1に示す焼結含油軸受の正面図である。
図3図2に示すA1-A1線に沿う焼結含油軸受の縦断面図である。
図4図1に示す焼結含油軸受の一部を拡大した斜視図である。
図5】焼結含油軸受の軸の回転により生じるポンプ作用を説明するための模式図である。
図6】上記実施形態の変形例に係る焼結含油軸受の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
[焼結含油軸受の概略構成]
本実施形態の焼結含油軸受1は、焼結金属からなる多孔質の軸受本体10に、潤滑油を含浸させてなる筒状の軸受であり、図1及び図2に示すように、軸17が挿通され、この軸17の外周面18を支持する軸受孔11と、軸受本体10の端面13に形成された油溜り凹部14と、を備えている。この軸受孔11は、挿通された軸17を回転自在に支持する。
【0025】
この焼結含油軸受1は、金属粉末の焼結体により形成されていることから、内部に複数の気孔が形成された多孔質体により形成されている。この焼結含油軸受における気孔率は、18%以上(例えば、本実施形態では23%)に設定されており、この気孔内に潤滑油が含浸される。この気孔内に含浸された潤滑油は、軸17が回転して軸受本体10の温度が上昇することにより、潤滑油が膨張する他、軸17の回転により軸受本体10の気孔内の潤滑油が吸い出されるポンプ作用により、軸受孔11及び両端面13から漏れ出し、軸17の回転が止まって焼結含油軸受1の温度が低下すると漏れ出した潤滑油が軸受本体10内に引き込まれて回収される。
【0026】
油溜り凹部14は、軸受本体10の両端面13のそれぞれに形成され、軸受本体10から漏出する潤滑油を保持可能に構成されている。
ここで、焼結含油軸受1の温度が20℃から100℃まで上昇すると、気孔の総体積の略2%の潤滑油が染み出す。例えば、焼結含油軸受1の軸方向が重力方向に直交している場合、軸受本体10から漏れ出した潤滑油は、両端面13にそれぞれ1%程度ずつ漏れ出す。この1%程度の潤滑油の大半は、重力により端面13に沿って垂れ下がることから、端面13の下方側の1/3程度の領域で潤滑油を保持する必要がある。一方、焼結含油軸受1の軸方向と重力方向とが一致している場合、最大2%の潤滑油が焼結含油軸受1の下方側の端面13に漏れ出したとしても、下方側の油溜り凹部14で潤滑油を保持できればよい。このため、片側の端面13における油溜り凹部14の体積は、軸受本体10の気孔の総体積の3%以上に設定されている。
【0027】
この油溜り凹部14は、端面13の軸受孔11を囲むように形成された全周溝15と、端面13の軸受孔11を中心とする放射状の放射状溝16と、を有している。この全周溝15は、端面13の軸受孔11と間隔をあけて形成されており、その内側に放射状溝16が形成されている。放射状溝16は、図2に示すように、端面13の周方向に所定の間隔をあけて、12個形成されている。すなわち、これら隣り合う放射状溝16は、周方向にθ2(例えば、30°)ごとに配置され、軸受孔11を挟んで対向する位置(180°反対側の位置)に放射状溝16が配置されている。これら放射状溝16のそれぞれは、端面13の外周に向かうにしたがって漸次深さが小さく形成され、かつ、放射状溝16の外周端と全周溝15の内周端とが連結されている。すなわち、放射状溝16は、端面13に対して傾斜して延びている。また、放射状溝16の内周側の先端は、図2に示すように、平面視で略半円形状に形成され、放射状溝16の幅寸法は、図4に示すように、外周に向かうにしたがって漸次拡大しており、外周端の幅寸法が最も大きく形成されている。
【0028】
また、本実施形態における全周溝15の外周に位置する先端面が端面13である。すなわち、全周溝15及び放射状溝16は、いずれも全周溝15の外周に位置する端面13(先端面)よりも軸方向に凹んでいる。
【0029】
このような焼結含油軸受1について、各種寸法を例示すると、図2図4に示すように、焼結含油軸受1の軸受本体10の長さH1が8mm、軸受本体10の直径D1が18mm、軸受孔11の直径D2が8mm、軸受孔11を挟んで対向する一対の一方側の放射状溝16の外周端から、他方側の放射状溝16の外周端までの距離D3が11.8mmに設定されている。
また、全周溝15は、外周の直径D4が15mm、幅w2が1.6mm、深さG1が0.15mmに設定されている。また、放射状溝16のそれぞれは、端面13に対する傾斜角度θ1が18°、最大幅w1が1.52mm、最大深さG2が0.42mm、長さL1が1.55mmに設定されている。
【0030】
例えば、本実施形態では、溝が形成されていない場合の軸受本体10の全体の体積は、1.5784cm、気孔の総体積が0.363cmとされている。また、一方の端面13における全周溝15の体積は、0.010cmとされ、12個の放射状溝16の体積は、0.006cmとされている。すなわち、本実施形態では、一方の端面13における油溜り凹部14の体積は、0.016cm、両端面13における油溜り凹部14の体積は、0.032cmとなり、気孔の総体積の略9%に設定されている。すなわち、片側の端面13における油溜り凹部14の体積は、気孔の総体積の略4.5%に設定されている。
【0031】
なお、軸受本体10の気孔の総体積の測定は、以下の式1に基づいて算出される。
開放気孔率=[{(B-A)×ρ}/{(B-C)×S}]×100…(式1)
A:気孔に潤滑油が含まれていない試料を空中で秤量したときの重量(g)
B:潤滑油を気孔内に含浸させた試料を空中で秤量したときの重量(g)
C:潤滑油を含浸した試料を水中で秤量したときの重量(g)
S:試験温度(常温)における潤滑油の密度(g/cm
ρ:試験温度(常温)における水の密度(g/cm
【0032】
次に、この焼結含油軸受1の製造方法について説明する。
この焼結含油軸受1の製造方法は、原料粉末を成形用金型に充填して加圧し、筒状の圧粉体を成形する成形工程と、この圧粉体を焼結して焼結体を形成する焼結工程と、焼結体の内周面及び外周面を矯正する矯正工程と、矯正体に潤滑油を浸油する浸油工程とからなる。
【0033】
焼結含油軸受1の材料となる金属としては、特に限定されるものではないが、原料粉末は、銅系粉末あるいは鉄銅系粉末が好適である。
銅系粉末は、主成分が銅、銅‐錫、銅‐錫‐リンあるいは銅‐亜鉛等の銅合金からなる銅粉であり、融点が焼結温度以下である低融点金属粉(例えば、錫粉)を5~12質量%、あるいは黒鉛等の固体潤滑剤を0.5~9質量%含有してもよい。
鉄銅系粉末は、銅粉が15~80質量%、残部が鉄粉とされるが、低融点金属粉が0.1~5質量%、固体潤滑剤が0.5~5質量%を含有してもよい。
なお、本実施形態では、原料粉末は、銅粉が50質量%、錫粉が2質量%、残部が鉄粉からなる。
【0034】
圧粉体成形工程では、成形用金型(図示省略)が用いられ、成型用金型内により形成される空間内に原料粉末を投入し、上方から円筒状の成形用上パンチを挿入して成形用下パンチと成形用上パンチとの間隔を狭めて原料粉末を150~500MPaで圧縮することにより、圧粉体を形成する。この成形用下パンチ及び成形用上パンチには、油溜り凹部14の形状に対応する凸部が形成され、この圧縮の際に油溜り凹部14が形成される。
次に、焼結工程では、この圧粉体を680~1000℃の温度で焼結する。その後、矯正工程において、焼結体の内周面及び外周面を矯正用金型(図示省略)で矯正する。そして、矯正体に潤滑油を浸油する。これにより、端面13に油溜り凹部14が形成された焼結含油軸受1が製造される。
【0035】
本実施形態では、軸受本体10の両端面13に油溜り凹部14が形成されているので、軸受本体10に支持された軸17が回転することにより、軸受本体10の温度が上昇して軸受本体10の気孔内に含浸された潤滑油の体積が大きくなって軸受本体10の摺動面12に漏れ出すとともに、ポンプ作用により焼結含油軸受1内を循環しても、端面13から漏れ出した潤滑油及び軸17を伝って端面13に漏れ出した潤滑油を表面張力により油溜り凹部14に付着した状態で溜めることができ、潤滑油の端面13からの落下を抑制できる。このため、軸17の回転が止まって軸受本体10の温度が低下した際に、軸受本体10に略全ての潤滑油を戻すことができ、焼結含油軸受1の寿命を長くすることができる。
また、本実施形態の焼結含油軸受1は、圧粉体成形工程における成形金型に上記油溜り凹部14を形成するための凸部を設けておくだけで、製造でき、焼結含油軸受1の製造コストを低減できる。
【0036】
本実施形態では、油溜り凹部14の体積が軸受本体10の気孔の総体積の3%以上とされているので、焼結含油軸受1の軸方向が重力方向に沿っている場合及び重力方向に直交している場合のいずれの場合においても、潤滑油を油溜り凹部14に確実に溜めることができる。
また、端面13に放射状溝16及び全周溝15の両方が形成されているので、放射状溝16及び全周溝15の両方により潤滑油を確実に溜めることができ、端面13から潤滑油が落下することを確実に抑制できる。
【0037】
ここで、焼結含油軸受1の軸方向が重力方向に直交している場合において、軸17が回転すると、ポンプ作用により、図5に示すように、軸受本体10の内部の潤滑油が吸い出され、軸受孔11の下方の油圧が高まるとともに、軸受孔11の上方の油圧が低下する。具体的には、軸受本体10内を図5に破線で示した矢印に示すように、軸受孔11の油圧の低い上方から潤滑油が漏れ出して、油圧の高い摺動面12に向かって潤滑油が流れる。この潤滑油の流れによって生じる潤滑油のくさびS1が摺動面12から軸17を持ち上げて、金属同士の接触を抑制している。また、軸17は、入り込む潤滑油の流れによって、回転方向に片寄せられる。なお、図5では、軸17の位置や潤滑油の流れをわかりやすくするため、軸17の直径を小さく示しているが、実際の軸17の直径は、軸受孔11の直径よりわずかに小さく設定されている。
【0038】
これらのことから、軸受孔11から端面13に漏れ出した潤滑油は、端面13の上方に位置する第1領域Ar1に漏れ出すとともに、端面13の下方(潤滑油のくさびS1の下方)に溜まる。
これに対し、本実施形態では、焼結含油軸受1の軸方向が重力方向に直交している場合に、端面13におけるいずれの部位が端面13の上方側及び下方側に位置しても、端面13の上方側(上記第1領域Ar1近傍)及び下方側(潤滑油のくさびS1が生じる位置近傍)の両側から漏れ出した潤滑油をその近傍に溜める(保持する)ことができる。すなわち、潤滑油を端面13において分散して保持できるので、潤滑油の端面13からの落下を確実に抑制できる。
【0039】
また、放射状溝16が端面13の外周に向かうに従って漸次深さが小さく形成されているので、放射状溝が端面の外周に向かうに従って漸次深さが小さく形成されているので、放射状溝の深さが同じ場合に比べて、放射状溝の面積を拡大でき、放射状溝での潤滑油の保持能力をより高めることができる。また、製造工程での成形金型や矯正金型の構造を簡易化でき、例えば、成形工程においてシングルパンチで端面13に油溜り凹部14を形成できる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、油溜り凹部14は、端面13に形成された溝(全周溝15及び放射状溝16)により構成されることとしたが、これに限らず、例えば、図6に示す状態であってもよい。
図6は、上記実施形態の変形例に係る焼結含油軸受1Aを示す断面図である。
本変形例の焼結含油軸受1Aの軸受本体10Aは、軸方向の両面に軸方向から視て円周状の突出部19を有している。この突出部19の高さH2は、特に限定されないが、例えば、0.15mmとされる。また、突出部19の内側面から軸受孔11の端部までの幅w3は、3.5mmとされる。本変形例では、軸17を除く突出部19により囲まれた領域が油溜り凹部14Aとなる。この油溜り凹部14Aの体積は、軸受本体10Aの気孔の総体積の3%以上に設定されている。なお、本変形例における端面13は、図6に示すように、突出部19の軸方向の先端側に位置する面となる。
本変形例においても、軸受本体10Aの端面13に油溜り凹部14Aが形成されているので、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0041】
なお、上記変形例では、突出部19の外周側の端面と軸受本体10の外周面との間には、隙間が形成されているが、この隙間はなくてもよい。すなわち、突出部19の外周側の端面と軸受本体10の外周面が一致していてもよい。
【0042】
上記実施形態では、油溜り凹部14は、全周溝15及び放射状溝16を備えることとしたが、これに限らず、いずれか一方のみを備えることとしてもよい。この場合、放射状溝16は、端面13の外周縁までは到達しない長さとするのが好ましい。
また、油溜り凹部14は、溝状に限らず、複数のスポット状やディンプルにより構成されてもよい。
さらに、片側の端面13における油溜り凹部14の体積は、軸受本体10の気孔の総体積の3%以上とすることとしたが、これに限らず、3%未満でもよい。この場合であっても、油溜り凹部14が端面13に形成されていない場合に比べて、端面13からの潤滑油の漏出を抑制できる。
【0043】
上記実施形態では、放射状溝16は、端面13に12個形成されることとしたが、これに限らず、24個形成されてもよいし、6個でもよい。すなわち、放射状溝16は、端面13の上方側及び下方側の両側で漏れ出した潤滑油を分散して保持できれば、その個数は問わない。
上記実施形態では、放射状溝16は、端面13の外周端に向かうに従って漸次深さが小さく形成されることとしたが、これに限らず、端面13の外周端に向かうに従って漸次深さが大きく形成されてもよいし、同じ深さであってもよい。
また、上記実施形態では、全周溝15は、同じ深さで形成されていることとしたが、これに限らず、端面13の外周端に向かうに従って漸次深さが小さく形成されてもよいし、暫時深さが大きく形成されてもよい。
【0044】
上記実施形態では、端面13における全周溝15の内側に放射状溝16が形成されていることとしたが、これに限らず、全周溝15の外側に放射状溝16が形成されていてもよい。この場合、全周溝15は、端面13の軸受孔11と間隔をあけて形成されていなくてもよい。
【0045】
上記実施形態では、圧粉体成形工程において、成形用下パンチ及び成形用上パンチには、油溜り凹部14の形状に対応する凸部が形成され、この圧縮の際に油溜り凹部14が形成されることとしたが、これに限らず、例えば、矯正用金型に油溜り凹部14の形状に対応する凸部が形成され、矯正時に油溜り凹部14が形成されることとしてもよい。
また、通常の圧粉体成形工程及び矯正工程を経た後、端面13に油溜り凹部14を形成する工程を設けてもよい。
【実施例
【0046】
本発明の効果を実証するために行った試験結果について説明する。
試験には原料粉末として鉄、銅、錫等を混合した鉄銅系粉末を用いた。鉄銅系粉末からなる原料粉末は、銅粉が50質量%、錫粉が2質量%、そして残部を鉄粉として調整した。そして、成形工程において原料粉末を150~500MPaで圧縮成形して圧粉体を成形し、焼成工程において800~950℃の温度で焼結して焼結体を形成した後、矯正工程を得て気孔率23%の焼結含油軸受(以下、試料という。)を形成した。
【0047】
実施例1~3及び比較例1の試料は、軸受本端の高さH1を8mm、軸受本体の直径D1を18mm、軸受孔の直径D2を8mmとし、実施例1~3の端面には、油溜り凹部を形成した。具体的には、実施例1~3の試料の端面に形成した油溜り凹部の全周溝の外周の直径D4、幅w2、深さG1の各種寸法を表1に示す値とし、その内側に形成した12個の放射状溝のそれぞれの端面に対する傾斜角θ1、最大幅w1、最大深さG2、長さL1の各種寸法を表1に示す値とした。これら各種条件に合わせて形成された実施例1~3の各試料の全周溝や放射状溝の片側の体積、及び気孔に体積に対する片側の油溜り凹部の体積の割合は、表2に示すとおりである。また、比較例1の試料には、油溜り凹部を形成しなかった。
【0048】
このようにして製造した各試料に5質量%の蛍光塗料を含有させた潤滑油(ポリオールエステル)を含浸させた後、軸方向を重力方向に直交している方向に配置した各試料の軸受孔に軸を挿入して、軸を回転させ、各試料の油溜め性能を評価した。油溜め性能の評価は、実施例1~3及び比較例1の試料について、軸を1MPa(6kgf)、回転数5000(rpm)で4分間回転させた場合に、試料の端面に漏出した潤滑油が試料から落下した場合を不可「B」と評価し、潤滑油が試料から落下しなかった場合を可「A」と評価し、その結果を表2に示した。
【0049】
また、潤滑油の保持位置が端面において分散しているか否か(油溜め分散性)を各試料について目視にて評価した。この各試料の端面において、下方にのみ潤滑油が溜まっている場合を不可「B」と評価し、端面の下方及び上方のいずれにも潤滑油が溜まっている場合を可「A」と評価し、その結果を表2に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1及び表2に示すように、焼結含油軸受の端面に油溜り凹部が形成され、片側の端面における油溜り凹部の総体積が軸受本体の気孔の総体積の3%以上であった実施例1~3では、油溜め性能及び油溜め分散性の評価がいずれも可「A」であった。一方、焼結含油軸受の端面に油溜り凹部が形成されていない比較例1では、油溜め性能及び油溜め分散性の評価がいずれも不可「B」であった。このため、焼結含油軸受の端面に油溜り凹部を形成することで、端面からの潤滑油の落下を抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0053】
1 1A焼結含油軸受
10 10A 軸受本体
11 軸受孔
12 摺動面
13 端面
14 14A 油溜り凹部
15 全周溝
16 放射状溝
17 軸
18 軸の外周面
19 突出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6