(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】制御装置、制御システム、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230123BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230123BHJP
H02J 3/36 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02M7/48 M
H02J3/38 180
H02J3/36
(21)【出願番号】P 2019163090
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雪菜
(72)【発明者】
【氏名】直井 伸也
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】石黒 崇裕
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-027730(JP,A)
【文献】特開平03-196207(JP,A)
【文献】特開2005-020870(JP,A)
【文献】特開2003-009397(JP,A)
【文献】特開2006-094684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02J 3/38
H02J 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統に対して並列に接続され、交流と直流を相互に変換可能な二以上の自励式の電力変換器と、前記二以上の電力変換器をそれぞれ制御する二以上の制御装置とを有するシステムに含まれる制御装置であって、
単独運転時に、前記電力変換器に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値を生成して出力する指令値生成部を備え、
前記指令値生成部は、前記単独運転の開始時点における前記電力変換器の出力を所定値に決定可能である、
制御装置。
【請求項2】
前記指令値生成部は、
前記指令値を生成するための制御要素であって、繰り返しの中で前回の処理結果を反映させて処理を行う制御要素を含み、
前記単独運転時とは異なる平常運転時において、前記制御要素の出力値を所定値に置換して次回の処理に反映させる、
請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記所定値を設定する設定部を更に備える、
請求項1または2記載の制御装置。
【請求項4】
平常運転時から前記単独運転時に切り替わる際に、外部から入力された指令値を交流電流制御部に出力する状態から、前記指令値生成部の出力を前記交流電流制御部に出力する状態に切り替わるスイッチを更に備え、
前記スイッチと前記交流電流制御部との間に設けられ、前記指令値の変化率を制限する制限部を更に備える、
請求項1から3のうちいずれか1項記載の制御装置。
【請求項5】
交流系統に対して並列に接続され、交流と直流を相互に変換可能な二以上の自励式の電力変換器と、前記二以上の電力変換器をそれぞれ制御する二以上の制御装置とを有するシステムに含まれる制御装置であって、
単独運転時に、CV制御を行う第1モードと、前記電力変換器に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値を生成する第2モードとのいずれかを選択するモード選択部を備え、
前記第2モードにおいて前記指令値を生成する指令値生成部は、前記単独運転の開始時点における前記電力変換器の出力を所定値に決定可能である、
制御装置。
【請求項6】
交流系統に対して並列に接続され、交流と直流を相互に変換可能な二以上の自励式の電力変換器ををそれぞれ制御する二以上の制御装置を備える制御システムであって、
単独運転時にCVCF制御を行う第1制御装置と、
前記単独運転時に、前記電力変換器に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値を生成して出力する指令値生成部を備え、前記指令値生成部は、前記単独運転の開始時点における前記電力変換器の出力を所定値に決定可能である第2制御装置と、
を備える制御システム。
【請求項7】
交流系統に対して並列に接続され、交流と直流を相互に変換可能な二以上の自励式の電力変換器と、前記二以上の電力変換器をそれぞれ制御する二以上の制御装置とを有し、前記二以上の制御装置のうち一つの第1制御装置が単独運転時にCVCF制御を行うものであるシステムに含まれる制御装置のうち、前記第1制御装置とは異なる制御装置が、
単独運転時に、前記電力変換器に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値を生成して出力し、
前記指令値を生成して出力する際に、前記単独運転の開始時点における前記電力変換器の出力を所定値に決定する、
制御方法。
【請求項8】
交流系統に対して並列に接続され、交流と直流を相互に変換可能な二以上の自励式の電力変換器と、前記二以上の電力変換器をそれぞれ制御する二以上の制御装置とを有し、前記二以上の制御装置のうち一つの第1制御装置が単独運転時にCVCF制御を行うものであるシステムに含まれる制御装置のうち、前記第1制御装置とは異なる制御装置に、
単独運転時に、前記電力変換器に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値を生成して出力させ、
前記指令値を生成して出力させる際に、前記単独運転の開始時点における前記電力変換器の出力を所定値に決定させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置、制御システム、制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、連系強化や再生可能エネルギー導入促進などを目的として、直流送電システムや周波数変換システムの技術開発が行われている。これらのシステムにおいて使用される、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の自己消弧型の半導体素子を利用した自励式電力変換器は、自励式電力変換器自身が交流電圧源となって電気機器へ電力を供給することができる。この特徴を生かし、自励式電力変換器は、平常時には指定した有効電力や無効電力を出力させるが、系統事故により交流電源が喪失した場合には、交流電力供給源となり、交流電圧の振幅や位相を維持し、電気機器が必要とする必要な有効電力、無効電力を供給する、という用い方が可能である。以降、系統事故により交流電源が喪失した系統を単独系統と呼ぶ。
【0003】
自励式電力変換器が、平常時の電力系統に対して指定された有効電力と無効電力を出力する場合(以下、平常運転と呼ぶ)と、単独で交流電力供給源として運転する場合(以下、単独運転とよぶ)とでは運転モードが異なる。一つの直流送電システムによって単独で給電する場合には、自励式交直変換器が交流系統母線電圧を一定に維持する制御をすることで、単独系統内の負荷が必要とする必要な有効電力、無効電力を供給するモード(以降CVCF制御モード)によって、単独系統への給電を実現できる。
【0004】
一方、複数の直流送電システムが並列に設けられる構成の場合には、交直変換器および交直変換器の出力電力分担を維持しつつ、単独系統の電圧・周波数を確立する必要がある。例えば、複数のインバータ装置により単独系統に給電するものとして、1台のインバータ装置を電圧制御型とし、これに複数台の電流制御型インバータを従属させる主従制御方式が知られている。以下、前者をマスターモード運転、後者をスレーブモード運転と呼ぶ。この方式では、有効電力と周波数のドループ特性と、無効電力と系統電圧のドループ特性によって、複数のインバータ装置の出力を分担しつつ、系統の電圧・周波数を維持する。この技術を直流送電システムに適用すると、並列に設けられた複数の直流送電システムによる単独系統への電力供給が可能となる。
【0005】
ところが、直流送電システムは電力系統と電力系統を連系するためのシステムであるから、平常時の運転における直流送電潮流は双方向であり得る。更に、単独系統は通常の電力系統の一部の範囲が系統事故によって分離されることで発生するため、直流送電システムで給電すべき単独系統の範囲と負荷容量は系統事故の発生位置によって様々であり得る。直流送電システムの場合には、そのような状況下でも、平常運転から単独運転に移行できる必要がある。従って、前述した技術を直流送電システムにそのまま適用すると、平常運転から単独運転に移行する過程で、過渡的に電圧制御型の交直変換器に出力分担が偏り、電力供給が維持できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、並列に設けられた直流送電システムにおいて、単独運転に移行する際の出力電力の負担が偏らないようにすることができる制御装置、制御システム、制御方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の制御装置は、交流系統に対して並列に接続され、交流と直流を相互に変換可能な二以上の自励式の電力変換器と、前記二以上の電力変換器をそれぞれ制御する二以上の制御装置とを有するシステムに含まれる。制御装置は、指令値生成部を持つ。指令値生成部は、単独運転時に、前記電力変換器に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値を生成して出力する。指令値生成部は、前記単独運転の開始時点における前記電力変換器の出力を所定値に決定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の制御装置を利用した直流送電システムの構成図。
【
図3】単独運転のうちマスターモード運転が行われる際の各スイッチの状態を示す図。
【
図6】単独運転のうちスレーブモード運転が行われる際の各スイッチの状態を示す図。
【
図7】PQ制御指令値生成部170が有効電力指令値Pref2と無効電力指令値Qref2を出力するための特性を示す図。
【
図9】APR176とAQR177のそれぞれにより実行される処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図10】第1実施形態における制御器の出力等の変化の一例を示す図。
【
図11】第2実施形態に係るPQ制御指令値生成部170Aの構成図。
【
図12】第2実施形態のAPR176とAQR177のそれぞれにより実行される処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図13】第2実施形態のAPR176とAQR177のそれぞれにより実行される処理の流れの他の一例を示すフローチャート。
【
図14】第2実施形態における制御器の出力等の変化の一例を示す図。
【
図15】第2実施形態における制御器の出力等の変化の他の一例を示す図である。
【
図16】第1実施形態の制御装置100を用いた場合と、第2実施形態の制御装置100を用いた場合とで、マスターモード運転が行われる電力変換器とスレーブモード運転が行われる電力変換器のそれぞれの出力の推移を比較した図。
【
図17】第3実施形態に係る制御装置100Bの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の制御装置、制御システム、制御方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の制御装置を利用した直流送電システムの構成図である。この構成において、二つの直流送電システム20-1、20-2が、電力系統1と電力系統2の間に並列に設置されている。電力系統1と電力系統2のそれぞれは、交流系統である。直流送電システム20-1では、交直変換器である電力変換器30-1および60-1の直流側が、直流母線(直流系統)50-1によって接続されている。電力変換器30-1は、制御装置100-1によって制御される。直流送電システム20-2では、交直変換器である電力変換器30-2および60-2の直流側が、直流母線(直流系統)50-2によって接続されている。電力変換器30-2は、制御装置100-2によって制御される。制御装置100-1と制御装置100-2を合わせたものが、「制御システム」の一例である。直流母線50-1、50-2は、電力変換器同士を近距離で接続する構成であってもよいし、直流リアクトルや架空送電線や送電ケーブルを介して接続する構成であってもよい。電力変換器30-1、30-2、60-1、60-2のそれぞれは、自励式の電力変換器である。
【0012】
電力変換器30-1、30-2の交流側は、交流母線5に接続されている。交流母線5は、送電線3を介して電力系統1と接続されている。交流母線5と送電線3は遮断器4を介して接続され、遮断器4が開放されると、電力系統1と、交流母線5より電力系統2側のシステムとに分離される。同様に、電力変換器60-1、60-2の交流側は、交流母線6に接続されている。交流母線5は、電力系統2と接続されている。電力系統2の側にも送電線や遮断器が設けられてよいが、図示を省略している。
【0013】
係る構成によって、電力系統1と電力系統2は、並列に設けられた直流送電システム20-1と直流送電システム20-2によって連系される。各直流送電システムを介して電力系統1から電力系統2へ、または電力系統2から電力系統1へ電力が供給される。
【0014】
本実施形態の説明において、ハイフン以下の符号は、いずれの直流送電システムに付随する構成であるかを示すものである。以下の説明において、いずれの直流送電システムに付随するか区別しない場合、ハイフン以下の符号を省略する場合がある。また、
図1では、二つの直流送電システム20が電力系統間に設置されるものとしたが、三つ以上の直流送電システム20が電力系統間に設置されてもよい。その場合、後述する単独運転時には、三つ以上の直流送電システム20のうち一つの直流送電システム20の制御装置100がマスターモード運転を行い、他の二つ以上の直流送電システム20の制御装置100がスレーブモード運転を行う。図中の符号10は、単独運転時における単独系統を示している。
【0015】
直流送電システム20は、電力変換器30と、直流母線50と、電力変換器60と、制御装置100とを含む。電力変換器30と電力変換器60は、交流母線5や交流母線6の交流電力を直流電力に変換し、直流母線50を介して双方向に電力送電が可能である。
【0016】
電力変換器30-1では、交流母線5との連系点の電圧を検出する電圧検出器42-1と、電力変換器30-1の出力する電流を検出する電流検出器40-1の出力する情報に基づいて、所望の有効電力・無効電力を出力するように運転が行われる。電力変換器30-1の運転は、制御装置100-1が生成するゲート信号に基づいて行われる。電力変換器30-1の出力する電流は、電力変換器30-1を構成するアームに設けられた電流検出器の出力に基づいて、電力変換器30-1の出力電流に相当する電流量を演算することで取得されてもよい。
【0017】
電力変換器30-2では、交流母線5との連系点の電圧を検出する電圧検出器42-2と、電力変換器30-2の出力する電流を検出する電流検出器40-2の出力する情報に基づいて、所望の有効電力・無効電力を出力するように運転が行われる。電力変換器30-2の運転は、制御装置100-2が生成するゲート信号に基づいて行われる。電力変換器30-2の出力する電流は、電力変換器30-2を構成するアームに設けられた電流検出器の出力に基づいて、電力変換器30-2の出力電流に相当する電流量を演算することで取得されてもよい。
【0018】
電力変換器30は、例えば、U、V、Wの三相ごとの正側アームと負側アームを備える。正側アームと負側アームのそれぞれは、複数の変換器が直列に接続されたものである。
変換器は、例えば、チョッパ単位変換器である。変換器は、例えば、自己消弧能力を持つ2つのスイッチング素子が直列に接続されたレグとコンデンサとを並列に接続したものである。スイッチング素子には、逆並列にダイオードが接続されている。なお、係る構成はあくまで一例であり、任意に変更されてよい。
【0019】
交流母線5には、直流送電システムの他に負荷8が接続されている。負荷8は必ずしも交流母線5に直接接続されている必要はなく、遮断器4から電力変換器30までの間に接続されていればよい。
【0020】
遮断器4が開放状態になると、電力系統1から負荷8への電力供給が停止する。この場合、専ら電力変換器30-1および30-2から負荷8に電力供給が行われる。この状態が単独運転である。
【0021】
図2は、制御装置100の構成図である。制御装置100は、例えば、交流電流制御部131と、dq変換部133および134と、位相検出部135と、位相算出部136と、スイッチ137、138、139、151、152と、dq逆変換部140と、パルス生成部141と、モード選択部150と、CVCF制御指令値生成部160と、PQ制御指令値生成部170とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0022】
図2に示すスイッチ137、138、139、151、152は全て、単独運転ではない平常運転の状態を示している。
【0023】
(平常運転)
平常運転時において、交流電流制御部131には、電流検出器40により検出された電流検出値がdq変換部133により変換された結果である有効分電流Idおよび無効分電流Iqと、電圧検出器42により検出された電圧検出値がdq変換部134により変換された結果である有効分電圧Vsdおよび無効分電圧Vsqとが入力される。交流電流制御部131は、有効電力指令値Prefおよび無効電力指令値Qrefに相当する電力を電力変換器30が出力するための有効電圧指令値Vcd1および無効電圧指令値Vcq1を生成する。平常時には、スイッチ151および152は
図2に示す状態になっているため、有効電力指令値Prefおよび無効電力指令値Qrefは、平常運転時運転指令として、外部から入力され或いは記憶装置から読み出された値である。
【0024】
平常時には、スイッチ137および138は
図2に示す状態になっているため、交流電流制御部131の出力がdq逆変換部140に入力される。また、スイッチ139は
図2に示す状態になっているため、dq逆変換部140には、更に、位相検出部135により検出された電力系統1の電圧位相θ1が、位相θとして入力される。dq逆変換部140は、位相θと、有効電圧指令値Vcd1および無効電圧指令値Vcq1とに基づいて、二相の電圧指令値を三相の電圧指令値に変換し、変換した三相の電圧指令値をパルス生成部141に出力する。
【0025】
パルス生成部141は、dq逆変換部140により出力された電圧指令値に基づいて、電力変換器30のスイッチング素子に与えるゲート信号を生成し、生成したゲート信号を電力変換器30に出力する。
【0026】
(単独運転(マスターモード運転))
図3は、単独運転のうちマスターモード運転が行われる際の各スイッチの状態を示す図である。モード選択部150は、例えば、単独運転を指示する単独運転指令を受信した場合、自身(制御装置30)がマスターモード運転をする設定になっているのか、スレーブモード運転をする設定になっているのかに基づいて、マスターモード指令またはスレーブモード指令を出力する。ここでは、マスターモード運転をする設定になっているものとする。マスターモード指令は、交流電圧制御部132、スイッチ137、138、139、およびCVCF制御指令値生成部160に対して出力される。スイッチ137、138、139は、マスターモード指令に応じて
図3に示す状態となる。
【0027】
マスターモード運転時には、交流電圧制御部132とCVCF制御指令値生成部160の出力に基づいて制御装置100の出力が決定される。交流電圧制御部132には、有効分電流Id、無効分電流Iq、有効分電圧Vsd、無効分電圧Vsqに加えて、上限電流Ilim、CVCF制御指令値生成部160からの有効分の交流電圧指令値Vsdref、および無効分の交流電圧指令値Vsqrefが入力される。交流電圧制御部132は、これらの情報に基づいて、有効電圧指令値Vcd2および無効電圧指令値Vcq2を生成する。
【0028】
交流電圧制御部132は、例えば、有効分電流Idと無効分電流Iqとに基づいて電流Iを計算し、電流Iが上限電流Ilim以上である場合に過電流であると判定する。交流電圧制御部132は、過電流であると判定した場合、交流電圧指令値Vsdrefと有効分電圧Vsdとの差分を算出し、差分の積分値を求める。交流電圧制御部132は、差分の積分値に代えて、差分の比例積分値や、差分を一次遅れ器に入力した処理結果を求めてもよいし、同様の傾向が得られるのであれば任意の手法で演算等を行ってもよい。そして、交流電圧制御部132は、積分値に基づいて、電力系統1の電圧が交流電圧指令値Vsdrefに合致するように計算した有効電圧指令値Vcd2を出力する。なお、交流電圧制御部132は、入力された無効分の交流電圧指令値Vsdrefを、無効電圧指令値Vcq2として出力する。
【0029】
CVCF制御指令値生成部160は、
図4に示すような有効電力―周波数の特性(以降、P-f特性)と無効電力-交流系統電圧の特性(以降、Q-V特性)に基づいて、電力変換器30が出力している有効電力Pと無効電力Qから、周波数指令値fsrefと交流電圧指令値Vsdrefを生成する。
図4は、P-f特性とQ-V特性を示す図である。
【0030】
図5は、CVCF制御指令値生成部160の構成図である。CVCF制御指令値生成部160は、例えば、PQ算出部161と、P-f特性反映部162と、Q-V特性反映部163と、演算器166、167とを備える。
【0031】
PQ算出部161は、有効分電流Id、無効分電流Iq、有効分電圧Vsd、および無効分電圧Vsqに基づいて、電力変換器30が出力している有効電力Pconvと無効電力Qconvを算出する。
【0032】
P-f特性反映部162は、
図4の左図に示す特性に基づいて周波数指令値を増減させる。P-f特性反映部162は、電力変換器30が出力している有効電力Pconvからバイアス値Pbを差し引いた値が逆変換方向に増加した場合に、周波数指令値fsrefを低減させる。P-f特性反映部162の出力には基準周波数f0(例えば商用周波数である60[Hz])が加算され、演算器166に出力される。演算器166は、例えば、リセット機能付きの一次遅れ演算器である。演算器166は、マスターモード指令が入力されていなければゼロを、入力されていれば、P-f特性反映部162の出力に基準周波数f0を加算した値に一次遅れ演算を行った結果を出力する。
【0033】
Q-V特性反映部163は、
図4の右図に示す特性に基づいて交流電圧指令値を増減させる。Q-V特性反映部163は、電力変換器30が出力している無効電力Qconvからバイアス値Qbを差し引いた値が容量性出力側に増加した場合に、交流電圧指令値Vfdrefを低減させる。Q-V特性反映部163の出力には基準電圧Vs0(例えば交流母線5の定格電圧値)が加算され、演算器167に出力される。演算器167は、例えば、リセット機能付きの一次遅れ演算器である。演算器167は、マスターモード指令が入力されていなければゼロを、入力されていれば、Q-V特性反映部163の出力に基準電圧Vs0を加算した値に一次遅れ演算を行った結果を出力する。
【0034】
単独運転開始時には、系統事故の影響を受けて電力変換器30の出力電力が大きく変動している場合があり、単独運転中に系統擾乱により電力変換器30の出力電力が急変する場合があるが、演算器166および167が上記のように演算を行うことで、周波数指令値や交流電圧指令値が大きく変動して電力変換器30の運転や単独系統の電圧および周波数が不安定となるのを防止することができる。
【0035】
このようにして、マスターモード運転時には、単独系統の電圧および周波数を所望の特性に維持する制御で運転し、CVCF制御指令値生成部160の特性によって、スレーブモード運転をしている電力変換器30と出力を分担しながら単独系統への給電を維持することができる。
【0036】
(単独運転(スレーブモード運転))
図6は、単独運転のうちスレーブモード運転が行われる際の各スイッチの状態を示す図である。ここでは、制御装置100がスレーブモード運転をする設定になっており、モード選択部150が、単独運転指令に応じてスレーブモード指令を出力するものとする。スレーブモード指令は、スイッチ151、152、およびPQ制御指令値生成部170に対して出力される。スイッチ151、152は、スレーブモード指令に応じて
図6に示す状態となる。
【0037】
スレーブモード運転において、制御装置100は、指定された有効電力や無効電力を出力するように電力変換器30を制御する(PQ制御)。スレーブモード運転では、平常時と同様に、交流電流制御部131の出力に基づいて電力変換器30が制御される。スレーブモード運転では、PQ制御指令値生成部170は、
図7に示す特性に基づいて有効電力指令値Pref2と無効電力指令値Qref2を出力する。
【0038】
図8は、PQ制御指令値生成部170の構成図である。PQ制御指令値生成部170は、例えば、PQ算出部171と、f-P特性反映部172と、V-Q特性反映部173と、リミッタ174、175と、APR(有効電力制御器)176と、AQR(無効電力制御器)177とを備える。
【0039】
PQ算出部171は、PQ算出部161と同様、有効分電流Id、無効分電流Iq、有効分電圧Vsd、および無効分電圧Vsqに基づいて、電力変換器30が出力している有効電力Pconvと無効電力Qconvを算出する。
【0040】
f-P特性反映部172には、交流母線5の電圧の周波数fsから基準周波数f0(例えば商用周波数である60[Hz])を差し引いた値が入力される。f-P特性反映部172は、
図7の左図に示す特性に基づいて、交流母線5の電圧の周波数fsが基準周波数f0より大きくなると順変換方向の電力値を出力し、逆にfsがf0より小さくなると、逆変換方向の電力値を出力する。電力変換器30の出力電力が順変換方向であるとは、
図1において電力系統1から電力系統2に向けて電力が供給されていることを意味し、逆変換方向とは、電力系統2から電力系統1に向けて電力が供給されていることを意味する。
【0041】
リミッタ174は、f-P特性反映部172により出力された電力値が、電力変換器30の容量により制限される有効電力出力限界値を超過しないよう制限する。
【0042】
リミッタ174の出力は、バイアス値Pbと加算され、更にPQ算出部171により出力された有効電力Pconvが減算されて、APR176に出力される。Pbはf-P特性をシフトするためのバイアス値であり、通常はゼロとする。
【0043】
APR176は、f-P特性反映部172により出力された電力値と、電力変換器30が出力する有効電力Pconvが一致するように、有効電力指令Pref2を生成する。APR176は、リセット機能及びリミッタ機能を持ち、PI制御器や積分器などの組み合わせで構成される。APR172は、スレーブモード指令が入力されていない時はリセット状態となり、専らスレーブモード指令が入力されている間に動作する。APR176のリセット状態における出力値Pref2はゼロである。APR176のリミッタは、例えば電力変換器30の容量で制限される有効電力出力限界値である。APR176の動作の詳細について後述する。
【0044】
V-Q特性反映部173には、交流母線5の有効分電圧Vsdから基準電圧Vs0(例えば交流母線5の定格電圧値)を差し引いた値が入力される。V-Q特性反映部173は、
図7の右図に示す特性に基づいて、交流母線5の有効分電圧Vsdが基準電圧Vs0より大きくなると遅相方向の無効電力値を出力し、逆にVsdがVs0より小さくなると、進相方向の無効電力値を出力する。
【0045】
リミッタ175は、V-Q特性反映部173により出力された電力値が、電力変換器30の容量により制限される無効電力出力限界値を超過しないよう制限する。
【0046】
リミッタ175の出力は、バイアス値Qbと加算され、更にPQ算出部171により出力された無効電力Qconvが減算されて、AQR177に出力される。QbはV-Q特性をシフトするためのバイアス値であり、通常はゼロとする。
【0047】
AQR177は、V-Q特性反映部173により出力された電力値と、電力変換器30が出力する無効電力Qconvが一致するように、無効電力指令Qref2を生成する。AQR177は、リセット機能及びリミッタ機能を持ち、PI制御器や積分器などの組み合わせで構成される。AQR177は、スレーブモード指令が入力されていない時はリセット状態となり、専らスレーブモード指令が入力されている間に動作する。AQR177のリセット状態における出力値Qref2はゼロである。AQR177のリミッタは、例えば電力変換器30の容量で制限される無効電力出力限界値である。AQR177の動作の詳細について後述する。
【0048】
図9は、APR176とAQR177のそれぞれにより実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。本フローチャートの説明において「サンプリング」とは制御のためのデジタル演算の1サイクルのデータを取得し、演算を行うことである。「制御器」とは、APR176やAQR177を構成するPI制御器や積分器である。制御器は、制御要素の一例である。フローチャートのRETURNの時点における「制御器の出力値」が、1サイクルにおけるAPR176またはAQR177の出力となる。以下では処理主体をAPR176として説明する。
【0049】
まず、APR176は、今回のサンプリングを行う(ステップS200)。次に、APR176は、スレーブモード指令が入力されているか否かを判定する(ステップS202)。
【0050】
スレーブモード指令が入力されている場合、APR176は、制御器の入力値を更新し(ステップS204)、制御器の入力値と前回のサンプリングにおける制御器の出力を用いて制御器の演算を行う(ステップS206)。一方、スレーブモード指令が入力されていない場合、APR176は、制御器の出力値をゼロに更新する(リセットする、ゼロに置換する)(ステップS208)。このゼロは、「所定値」の一例である。
【0051】
次に、APR176は、制御器の出力が上限リミット値より大きいか否かを判定し(ステップS210)、制御器の出力が上限リミット値より大きい場合、制御器の出力を上限リミット値に更新する(ステップS212)。制御器の出力が上限リミットより大きくない場合、APR176は、制御器の出力が下限リミット値より小さいか否かを判定し(ステップS214)、制御器の出力が下限リミット値より小さい場合、制御器の出力を下限リミット値に更新する(ステップS216)。APR176の上限リミット値と下限リミット値は、例えば、電力変換器30の容量で制限される有効電力出力限界値である。また、AQR177の上限リミット値と下限リミット値は、例えば、進相方向と遅相方向の無効電力出力限界値である。
【0052】
上記のような処理を行う結果、APR176またはAQR177の制御器の出力は、
図10に示すようになる。
図10は、制御器の出力等の変化の一例を示す図である。図示するように、スレーブモード指令が入力される直前までは制御器の出力はゼロに固定されている。この結果、スレーブモード指令が入力された直後では、制御器の出力はゼロから開始して所望の方向に変化することになる。これによって、制御器の出力変化が、所望の方向とは反対側の値から開始されることが無くなり、スレーブモード運転として出力する電力の立ち上がりが遅延するのを抑制することができる。
【0053】
ところで、直流送電システムでは、平常運転時の直流送電潮流は双方向であり得る。さらに、単独系統は通常の電力系統の一部の範囲が系統事故によって分離されることで発生するため、直流送電システムで給電すべき単独系統の範囲と負荷容量は系統事故の発生位置によって様々であり得る。直流送電システムの場合には、そのような系統事故発生前後の状況によっては、平常運転から単独運転に移行する過程で、過渡的に電圧制御型の交直変換器に出力分担が偏り、電力供給が維持できない場合がある。
【0054】
例えば、単独系統の負荷8(
図1参照)に対してPloadの電力を供給する場合を考える。
図3および
図4の特性により、単独運転の最終的な出力分担は、電力変換器30-1と30-2で同量ずつ負荷8への供給を分担し、Pload/2となる。Ploadの大きさは事故発生時の状況によって様々であるが、Pload/2が電力変換器30の変換器容量を超過していなければ、定常的には電力変換器30-1と30-2によって負荷8への電力供給を維持できると言える。
【0055】
ところが、Pload/2が電力変換器30の変換器容量を超過していないからと言って、平常運転から単独運転への移行が可能であるとは限らない。なぜならば、マスターモード運転を行う電力変換器30がCVCF制御で運転されるのに対し、スレーブモード運転を行う電力変換器30はPQ制御で運転されるため、最終分担出力Pload/2に至るまでの過程で、マスターモード運転の応答の方がスレーブモード運転の応答より速く、マスターモード運転側に出力分担が偏るために、マスターモード運転を継続できなくなる場合があるからである。
【0056】
例えば、系統事故前にスレーブモード運転が行われる電力変換器30が、電力系統1から電力系統2の方向へPbの電力を送電していた場合、マスターモード運転が行われる電力変換器30は、単独運転に切り替わった直後、過渡的にPload+Pbの電力を分担しなければならない。PloadやPbの大きさによっては、マスターモード運転が行われる電力変換器30の変換器容量を超過して、電力供給を維持できない。
【0057】
別の例では、系統事故前にスレーブモード運転が行われる電力変換器30が、電力系統2から電力系統1の方向へPbの電力を送電していた場合、マスターモード運転が行われる電力変換器30は、単独運転に切り替わった直後、過渡的にPload―Pbの電力を分担しなければならない。なおここでPload―Pbが正の値になる場合には、マスターモード運転が行われる電力変換器30は逆変換方向、逆に負の値になる場合には順変換方向の電力を分担しなければならない。いずれの場合も、PloadやPbの大きさによっては、マスターモード運転が行われる電力変換器30の変換器容量を超過して、電力供給を維持することができなくなる場合がある。無効電力についても同様のことが言える。
【0058】
これに対し、本実施形態の制御装置100では、スレーブモード運転を開始する時点でAPR176またはAQR177の制御器の出力がゼロから開始されるようにしているため、マスターモード運転が行われる電力変換器30の単独運転開始時の負荷が一時的に過大になるのを抑制することができる。
【0059】
以上説明した第1実施形態によれば、単独運転時に、電力変換器30に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値Pref2、Qref2を生成して交流電流制御部131に出力する指令値生成部170を備え、指令値生成部170は、指令値を生成するための制御要素であって、繰り返しの中で前回の処理結果を反映させて処理を行う制御要素を含み、単独運転時とは異なる平常運転時において、制御要素の出力値を所定値(ゼロまたは初期値)に置換して次回の処理に反映させることにより、単独運転に移行する際の出力電力の負担が偏らないようにすることができる。
【0060】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について説明する。第2実施形態の制御装置100は、PQ制御指令値生成部170に代えて、PQ制御指令値生成部170Aを備える。
図11は、第2実施形態に係るPQ制御指令値生成部170Aの構成図である。PQ制御指令値生成部170Aは、第1実施形態のPQ制御指令値生成部170と比較すると、初期値設定部178を更に備える。初期値設定部178は、APR176に初期値Pref2#を、AQR177に初期値Qref2#を、それぞれ出力する。これらの初期値は、「所定値」の他の一例である。
【0061】
APR176は、スレーブモード指令が入力されていない場合、制御器の出力値を初期値Pref2#に更新し続ける。AQR177は、スレーブモード指令が入力されていない場合、制御器の出力値を初期値Qref2#に更新し続ける。こうすることによって、スレーブモード指令が入力された直後から、初期値Pref2#およびQref2#に近い値を出力し始めることができる。従って、第2実施形態の制御装置100は、スレーブモードでの単独運転開始時にどのような出力が望ましいのか、少なくとも単独運転開始の直前までに判っているような場面に、好適に使用される。初期値Pref2#、Qref2#は、電力変換器30の使用場面に応じて任意に設定されてよい。
【0062】
第2実施形態において、APR176の上限リミット値および下限リミット値は、以下のように設定される。
・平常運転時 上限リミット値、下限リミット値ともにPref2#
・スレーブモード運転時 上限リミット値:順変換方向有効電力限界値
下限リミット値:逆変換方向有効電力限界値
【0063】
また、第2実施形態において、AQR177の上限リミット値および下限リミット値は、以下のように設定される。
・平常運転時 上限リミット値、下限リミット値ともにQref2#
・スレーブモード運転時 上限リミット値:進相方向無効電力限界値
下限リミット値:遅相方向無効電力限界値
【0064】
図12は、第2実施形態のAPR176とAQR177のそれぞれにより実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下では処理主体をAPR176として説明する。AQR177の処理に関しては、順変換方向有効電力限界値を進相方向無効電力限界値、逆変換方向有効電力限界値を遅相方向無効電力限界値、Pref#2をQref2#と読み替えればよい。
【0065】
まず、APR176は、今回のサンプリングを行う(ステップS300)。次に、APR176は、スレーブモード指令が入力されているか否かを判定する(ステップS302)。
【0066】
スレーブモード指令が入力されている場合、APR176は、下限リミット値を逆変換方向有効電力限界値に、上限リミット値を順変換方向有効電力限界値に更新し(ステップS304)、制御器の入力値を更新する(ステップS306)。そして、APR176は、制御器の入力値と前回のサンプリングにおける制御器の出力を用いて制御器の演算を行う(ステップS308)。
【0067】
一方、スレーブモード指令が入力されていない場合、APR176は、初期値設定部178から初期値Pref2#を取得し(ステップS310)、上限リミット値と下限リミット値をPref2#に更新する(ステップS312)。
【0068】
次に、APR176は、制御器の出力が上限リミット値より大きいか否かを判定し(ステップS316)、制御器の出力が上限リミット値より大きい場合、制御器の出力を上限リミット値に更新する(ステップS318)。制御器の出力が上限リミットより大きくない場合、APR176は、制御器の出力が下限リミット値より小さいか否かを判定し(ステップS320)、制御器の出力が下限リミット値より小さい場合、制御器の出力を下限リミット値に更新する(ステップS322)。
【0069】
また、第2実施形態のAPR176とAQR177のそれぞれは、
図13に示される処理を実行してもよい。
図13は、APR176とAQR177のそれぞれにより実行される処理の流れの他の一例を示すフローチャートである。以下では処理主体をAPR176として説明する。AQR177の処理に関しては、順変換方向有効電力限界値を進相方向無効電力限界値、逆変換方向有効電力限界値を遅相方向無効電力限界値、Pref#2をQref2#と読み替えればよい。なお、
図13のフローチャートは第1実施形態における
図9のフローチャートと共通する処理が存在するため、共通部分に関して同じ符号を付している。
【0070】
まず、APR176は、今回のサンプリングを行う(ステップS200)。次に、APR176は、スレーブモード指令が入力されているか否かを判定する(ステップS202)。
【0071】
スレーブモード指令が入力されている場合、APR176は、制御器の入力値を更新し(ステップS204)、制御器の入力値と前回のサンプリングにおける制御器の出力を用いて制御器の演算を行う(ステップS206)。一方、スレーブモード指令が入力されていない場合、APR176は、制御器の出力値をPref2#に更新する(ステップS209)。
【0072】
次に、APR176は、制御器の出力が上限リミット値より大きいか否かを判定し(ステップS210)、制御器の出力が上限リミット値より大きい場合、制御器の出力を上限リミット値に更新する(ステップS212)。制御器の出力が上限リミットより大きくない場合、APR176は、制御器の出力が下限リミット値より小さいか否かを判定し(ステップS214)、制御器の出力が下限リミット値より小さい場合、制御器の出力を下限リミット値に更新する(ステップS216)。APR176の上限リミット値と下限リミット値は、例えば、電力変換器30の容量で制限される有効電力出力限界値である。また、AQR177の上限リミット値と下限リミット値は、例えば、進相方向と遅相方向の無効電力出力限界値である。
【0073】
図12で説明した処理を行う結果、APR176の制御器の出力等は、
図14に示すようになる。
図14は、制御器の出力等の変化の一例を示す図である。図示するように、スレーブモード指令が入力される直前までは制御器の出力は初期値Pref2#に固定されている。この結果、スレーブモード指令が入力された直後では、制御器の出力は初期値Pref2#から開始して所望の方向に変化することになる。これによって、制御器の出力を所望の値から開始することができる。スレーブモード運転として出力する電力を、より速やかに所望の状態にすることができる。なお、AQR177に関しては、Pref2#をQref2#と読み替えればよい。
【0074】
また、
図13で説明した処理を行う結果、APR176の制御器の出力等は、
図15に示すようになる。
図15は、制御器の出力等の変化の他の一例を示す図である。
図15の例において、制御器の出力変化は
図14の例と同様であるが、
図14の例と異なり、上限リミット値と下限リミット値は不変である。
【0075】
初期値Pref2#やQref2#にゼロ以外の値を設定することで、その値によってスレーブモード運転が行われる電力変換器30の単独運転開始時の出力電力を積極的に操作し、マスターモード運転が行われる電力変換器30が負担する過渡的な出力電力の偏りを抑制することができる。以下、初期値Pref2#の設定例について説明する。
【0076】
(1)例えば、Pref2#を、電力変換器30の逆変換方向の有効電力出力限界値に設定することで、単独運転開始直後にはスレーブモード運転が行われる電力変換器30が逆変換方向の有効電力を最大限出力し、その後、
図3および
図4の特性に従って出力を分担することを想定する。
図16は、第1実施形態の制御装置100を用いた場合と、第2実施形態の制御装置100を用いた場合とで、マスターモード運転が行われる電力変換器とスレーブモード運転が行われる電力変換器のそれぞれの出力の推移を比較した図である。本図は、順変換方向で変換を行っているときに単独運転が開始され、並列に設けられた電力変換器のうち一つがマスターモード運転を行い、他の一つがスレーブモード運転を行う場合を例示している。
図16の上図は、第1実施形態の制御装置100を用いた場合の電力変換器30の出力の推移を示している。図示する例では、スレーブモード運転が行われる電力変換器30の出力がゼロから逆変換方向へ向けて変化するため、マスターモード運転が行われる電力変換器30の負担が一時的に大きくなっている。これに対し、
図16の下図は、第2実施形態の制御装置100の電力変換器30の出力の推移を示している。図示する例では、スレーブモード運転が行われる電力変換器30の出力が、逆変換方向から開始しており、その分、マスターモード運転が行われる電力変換器30の負荷が軽減されている。このように、第2実施形態の制御装置100によれば、スレーブモード運転を制御するPQ制御指令値生成部170において、単独運転開始時の電力変換器30の出力を所望に設定することができるため、特定の場面において、より適合性の高い制御を行うことができる。この結果、マスターモード運転が行われる電力変換器の負荷増大を機動的に緩和することができる。
【0077】
(2)また、初期値Pref2#を、単独系統が発生した場合に想定される最大の単独系統内の負荷容量値としてもよい。つまり、想定される単独系統の最大負荷容量が、電力変換器30の変換器容量より小さい場合には、初期値Pref2#の絶対値を電力変換器30の逆変換方向の有効電力出力限界値よりも小さく、単独系統の最大負荷容量に設定してもよい。これによって、単独運転前後の直流送電潮流の変化を低減することができ、出力分担の収束を早めることができる。
【0078】
(3)電力変換器30の変換器容量が単独系統の最大負荷容量よりも小さい場合に、初期値Pref2#の絶対値を、電力変換器30の逆変換方向の有効電力出力限界値よりも小さく設定してもよい。また、電力変換器30の変換器容量が単独系統の最大負荷容量よりも大きい場合に、初期値Pref2#の絶対値を、単独系統の最大負荷容量よりも小さく設定してもよい。こうすれば、(1)(2)の設定例を採用した場合に比して、出力分担の収束は遅くなるものの、単独運転前後の直流送電潮流の変化を更に低減することができる。
【0079】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するのに加えて、APR176やAQR177の制御器の出力の初期値としてゼロ以外の所望の値を設定することで、特定の場面において、より適合性の高い制御を行うことができる。なお、初期値設定部178が、所望の値として、初期値Pref2#とQref2#の一方または双方をゼロに設定することがあってもよい。
【0080】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について説明する。
図17は、第3実施形態に係る制御装置100Bの構成図である。制御装置100Bは、第1実施形態と比較すると、変化率制限部180を更に備える。なお、制御装置100Bは、第1実施形態のPQ制御指令値生成部170に代えて第2実施形態のPQ制御指令値生成部170Aを備えてもよい。
【0081】
変化率制限部180は、レートリミッタである。変化率制限部180は、平常時の送電電力の変更や、系統事故発生時にルート断(単独系統化)に至らないまでも送電電力の一時的な抑制・停止、あるいは事故除去後の送電復旧の際などに、交直変換器の制御系が追従できないような指令値の急変や、送電電力の急変による電力系統への影響を抑制するために設けられる。変化率制限部180の制限度合いは、入力指令に基づいて可変であることが好ましい。例えば、変化率制限部180には、スレーブモード指令が入力されるようにしておき、スレーブモード指令が入力されると変化率制限部180が一時的に(例えば0コンマ数[sec]程度の間)変化率の制限度合いを緩和する(あるいは制限することを停止する)ようにするとよい。こうすることで、平常時には電力変換器30の出力変化が緩やかになるように制御し、単独運転の開始時には速やかに電力変換器30に必要な電力を出力させることができる。
【0082】
以上説明した第3実施形態によれば、第1実施形態または第2実施形態と同様の効果を奏するのに加えて、電力変換器30の出力が過剰に変化するのを抑制することができる。
【0083】
<その他>
上記各実施形態において、二つの直流送電システム20-1、20-2が、電力系統1と電力系統2の間に並列に設置されているものとして説明した。これに限らず、三つ以上の直流送電システム20-1、…、20-n(nは3以上の自然数)が、電力系統1と電力系統2の間に並列に設置されている構成に適用されてもよい。この場合、単独運転時には、例えば、制御装置100のうち一つがマスターモード運転を行い、残りの制御装置100がスレーブモード運転を行うように設定される。係る構成および設定によっても、各電力変換器30の出力電力を分担しつつ、単独系統の電圧・周波数を維持することが可能となる。
【0084】
例えば三つの直流送電システム20が、電力系統1と電力系統2の間に並列に設置されている場合、マスターモード運転を行う制御装置100は、スレーブモード運転が行われる電力変換器30の合計出力と負荷供給のバランスをとった電力を電力変換器30に出力させる。例えば、単独系統の負荷8へPload1の電力を供給する必要があるとして、単独運転への移行開始直後のスレーブモード運転が行われる二つの電力変換器30の出力有効電力をPb1、Pc1とすると、マスターモード運転が行われる電力変換器30の出力する有効電力Pa1は、Pa1=Pload1-(Pb1+Pc1)となるように制御される。Pb1とPc1は、スレーブモード運転を行う制御装置100のPQ制御指令値生成器70AにおけるPref2#の値で決定される。
【0085】
この場合において、例えば、スレーブモード運転が行われる電力変換器30-2の変換器容量が、スレーブモード運転が行われる電力変換器30-3の2倍である場合、制御装置100-2におけるPref2#を、制御装置100-3におけるPref2#の2倍の値に設定してよい。この場合、単独運転開始直後の電力変換器30-2の出力Pb1は、Pc1の2倍となる。
【0086】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、単独運転時に、電力変換器30に出力させる有効電力と無効電力とを表す指令値Pref2、Qref2を生成して交流電流制御部131に出力する指令値生成部170を備え、指令値生成部170は、単独運転の開始時点における電力変換器30の出力を所定値に決定可能であるため、単独運転に移行する際の出力電力の負担が偏らないようにすることができる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
30 電力変換器
100 制御装置
131 交流電流制御部
132 交流電圧制御部
133、134 dq変換部
135 位相検出部
136 位相算出部
140 dq逆変換部
141 パルス生成部
150 モード選択部
160 CVCF制御指令値生成部
170 PQ制御指令値生成部
178 初期値設定部
180 指令値変化率制限部