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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】金属ハロゲン化物の還元方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/04 20060101AFI20230123BHJP
   C01G 35/02 20060101ALI20230123BHJP
   C01G 49/10 20060101ALI20230123BHJP
   C01G 3/04 20060101ALI20230123BHJP
   C23C 16/14 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
C01G41/04
C01G35/02
C01G49/10
C01G3/04
C23C16/14
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019560482
(86)(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2018051732
(87)【国際公開番号】W WO2018138150
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】102017101433.0
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】17181487.4
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17185151.2
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク・ズンダーマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】リサ・ハメル
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン・ラモン・ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・リヴァス・ナス
(72)【発明者】
【氏名】アンゲリノ・ドッピウ
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン・ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・カルヒ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/160449(WO,A1)
【文献】Bulletin of the Chemical Society of Japan,2008年,Vol.81, No.1,P.168-170
【文献】INORGANICA CHIMICA ACTA,1993年,Vol.203,P.235 - 238
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
C01G 1/00-23/08
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式MXの前駆体化合物から式MXの化合物[式中、
Mは金属であり、
Xは、F、Cl、Br、Iから選択されるハロゲン化物であり、
mは2~8の数から選択され、
nは1~7の数から選択され、n<mを条件とする]を製造する方法であって、
前記前駆体化合物がシラン化合物で還元されて、式MXの化合物を生成する方法工程を含み、
前記シラン化合物はオリゴシランであり、
MはW、Fe、Cu、及びTaから選択され、
前記式MX の化合物は選択的な最終生成物である、製造方法。
【請求項2】
m-n=1若しくは2、並びに/又はm=4、5、若しくは6及びn=3、4、若しくは5である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属Mが、Wである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
X=Clである、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
WClをWClから製造するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記シラン化合物が、オルガノシラン、シラン、ハロシラン、及びオルガノハロシランからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記シラン化合物が、ケイ素原子に結合したメチル基を少なくとも1つ有するオルガノシランである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記シラン化合物が、ジシランである、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記還元が、芳香族炭化水素を有する溶媒中で実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記前駆体化合物の還元剤に対するモル物質量比が、金属原子対ケイ素原子/金属酸化数差の比に関して2:1~1:2であり、前記還元は、10℃~50℃の温度で実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
少なくとも10kgの式MXの前記前駆体化合物が使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
式MXの前記金属ハロゲン化物が、前記還元後の昇華によって精製される、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記還元後及び/又は前記昇華後に、式MXの前記金属ハロゲン化物が、使用された前記前駆体化合物のモル量に対して>90%の収率で得られる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
式MXの前記化合物の純度が>80重量%である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
式MXの前駆体化合物から式MXの化合物[式中、
Mは金属であり、
Xは、F、Cl、Br、Iから選択されるハロゲン化物であり、
mは2~8の数から選択され、
nは1~7の数から選択され、n<mを条件とする]へと還元するための、シラン化合物の使用であって、
前記シラン化合物はオリゴシランであり、
MはW、Fe、Cu、及びTaから選択され、
前記式MX の化合物は選択的な最終生成物である、シラン化合物の使用。
【請求項16】
前記シラン化合物がヘキサメチルジシランである、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒がトルエンである、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記シラン化合物がオルガノシランである、請求項15に記載の使用。
【請求項19】
前記シラン化合物におけるSiの量が、Mの化学量論的に等量よりも少ない、請求項1~14、16、及び17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ハロゲン化物様の前駆体化合物から金属ハロゲン化物を製造する方法であって、前駆体化合物がシラン化合物で還元される方法工程を含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
無機及び有機金属化学において、様々な酸化数の金属ハロゲン化物が継続的に必要とされている。一般に、より高い酸化数とより低い酸化数の両方の類似金属ハロゲン化物が存在する場合、特定の酸化数の金属ハロゲン化物を提供することは困難である。これは、類似金属ハロゲン化物が比較的安定である場合に特に問題となる。したがって、調製上の問題は、一方では、より低い酸化数の金属ハロゲン化物への有効な還元が起きなければならないが、他方では、望ましくない後続反応によって、酸化数が更に低い金属ハロゲン化物、又は更には元素金属が生成することを防止しなげればならないことにある。したがって、このような反応は、選択的還元剤が提供される場合にのみ成功する。プロセス条件の慎重な調節及びモニタリングも、多くの場合、必要である。一般に、この理由から、このような金属ハロゲン化物を高収率及び高純度で製造することは、困難であることが多い。
【0003】
更なる問題は、より高い酸化数では、多くの金属ハロゲン化物の安定性が低いことである。例えば、このような還元反応は、生成物又は反応物質(educt)が熱的に不安定である場合、必要な高い反応温度で実施されない場合がある。
【0004】
更なる困難は、同じ金属の様々な金属ハロゲン化物の分離が、多くの場合、単純ではないことである。したがって、このような反応では、実際の還元の収率は比較的高いが、精製生成物の高い最終収率が得られないことが多い。更に、このような反応は、還元によって得られる金属ハロゲン化物の精製にも方法を利用できる場合の大規模製造にしか適さない。
【0005】
全体として、望ましくない後続反応、安定性の問題、及び精製問題のために、このような標的を定めた還元反応によって、所望の金属ハロゲン化物を高収率で製造することは困難である。
【0006】
このような標的を定めた還元によって製造され得る化合物の一例は、五塩化タングステン(WCl、塩化タングステン(V))である。この昇華性固体は、安定性が低く、例えば水の存在下で、急速に分解する。従来技術によれば、製造は、典型的には、六塩化タングステン(WCl、塩化タングステン(VI))の還元によって行われる。したがって、望ましくない後続反応により、低酸化数(low-number)のハロゲン化タングステンを形成することを防止するために様々な還元剤が提案されている。このように、従来技術では、六塩化タングステンの還元のための様々な方法が記載されており、当該方法は、還元剤として水素、赤リン、アルミニウム、マグネシウム、又は塩化スズを使用する。これらの方法は、一般に、五塩化タングステンが高収率で得られず、反応混合物からの抽出も問題となることから、改善が必要である。このような反応は、一般に高温で実施され、これにより収率及び生成物の品質が低下することも欠点である。更なる欠点は、これらの方法の多くが、追加の金属を反応配合物に導入し、精製に関して更なる問題を伴うことである。したがって、この方法は、工業規模での調製用途には適さない。
【0007】
更に、従来技術では、六塩化タングステンを塩素化オレフィンで還元することが提案されている。McCann et al.(Inorganic Synthesis,XIII,1972,発行:F.A.Cotton,McGraw-Hill,Inc.)は、テトラクロロエチレンとの選択的反応を記載している。反応は、24時間以内に100℃で実施される。収率は>90%となる。この方法は、比較的高い反応温度に加えて、強い光照射も必要とするため、比較的エネルギー集約的である。したがって、副生成物の形成を防止するために、反応条件を、反応時間及び光強度に関して正確に調節することが必要である。したがって、反応は依然として改善を必要とし、大スケール用途への適性はごくわずかである。
【0008】
オレフィンで六塩化タングステンを還元するための更なる方法は、Thorn-Csanyi et al.の3つの出版物(Journal of Molecular Catalysis,No.65,1991,pp.261~267;No.36,1986,pp.31~38;及びNo.28,1985,pp.37~48)に記載されている。2-ペンテンなどの非置換オレフィンが還元剤として使用される。Thorn-Csanyi(1991)は、六塩化タングステンとオレフィンとの間の反応を記載しており、著者によると、この反応は定量的に進行する。しかしながら、生成物である五塩化タングステンは単離されず、粗反応配合物中に形成していることだけが、UV-VIS分光法により判定された。還元後の粗反応混合物からの精製は、Thorn-Csanyiに記載されていない。したがって、大幅な収率低下を伴わずに様々な熱不安定性のハロゲン化タングステンを分離することが可能か否か、はそもそも不明である。総じて、このように、純粋な五塩化タングステンが実際に生成される方法は開示されていない。
【0009】
Thorn-Csanyiの方法の更なる欠点は、反応剤として使用されるオレフィンが比較的高い反応性を有することである。したがって、所望の生成物、五塩化タングステンは、連続反応において過剰に還元される。Thorn-Csanyi(1986)では、約30分後に、五塩化タングステンが得られ、この五塩化タングステンは反応時間が長くなると再び分解されたことが記載されている。このような連続反応は、所望の生成物の収率を低下させることから、不利である。加えて、反応が定められた時点で終了し得るように、反応過程を正確に調節及びモニタリングしなければならない。
【0010】
Thorn-Csanyiの方法の更なる欠点は、還元剤として使用される2-ペンテンなどのオレフィンが、追加処置なしで大量かつ純粋な形態で利用できないことである。このようなオレフィンは、一般に、化石燃料から分留によって得られる。したがって、オレフィンは、非常に類似した不明確な汚染物質を比較的高い割合で含む。したがって、シス-又はトランス-ペンテン異性体などのペンテンの高純度異性体は、追加処置なしで利用できず、非常に高価であり、これらの理由から、大規模プロセスでの使用にあまり適していない。
【0011】
Thorn-Csanyiの方法の更なる欠点は、ラジカル捕捉剤としてのオレフィンが、WClなどの塩素ラジカル発生剤の存在下で反応して、生成物に接着する接着剤オレフィン二量体及びオレフィンオリゴマーを形成する傾向があるラジカル中間生成物を生成することである。したがって、更なる処置を行わずに、生成物を高純度で得ることができない。
【0012】
ペンテンはまた、20℃~40℃の範囲の比較的低い沸点を有し、したがって比較的揮発性であることから、取り扱いが容易ではない。これらの理由から、Thorn-Csanyiの方法は改善を必要としており、特に産業用途への適性がわずかしかない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的
本発明は、上記の欠点を克服するプロセスを提供するという目的に基づく。それによって生成物が高収率で得られる、単純かつ効率的な金属ハロゲン化物の製造方法が提供されるべきである。この方法は、容易にアクセス可能な出発材料を使用して実行可能であるべきであり、できるだけエネルギー効率的であるべきであり、かつ、特に低温で実行可能であるべきである。したがって、反応バッチから生成物を単純に抽出することも可能であるべきである。生成物を汚染し、分離が困難な添加剤は、避ける必要がある。この方法はまた、工業規模で実行可能でもあるべきである。この方法は、特に、五塩化タングステンの製造に好適であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の開示
驚くべきことに、本発明が基づく目的は、本特許請求の範囲によるプロセスによって達成される。
【0015】
本発明の主題は、式MXの前駆体化合物から式MXの化合物[式中、
Mは金属であり、
Xは、F、Cl、Br、Iから選択されるハロゲン化物であり、
mは2~8の数から選択され、
nは1~7の数から選択され、n<mを条件とする]を製造する方法であって、
前駆体化合物がシラン化合物で還元されて、式MXの化合物を生成する方法工程を含む。
【0016】
本発明による方法は、より高い酸化数の類似金属ハロゲン化物である前駆体化合物からの金属ハロゲン化物の製造に役立つ。変換は、還元反応を介して起こり、還元反応は以下では単に「反応」とも呼ばれる。驚くべきことに、式MXの金属ハロゲン化物は、還元剤としてのシラン化合物、特にオルガノシラン、で還元されて、式MXの、より低い酸化数の金属ハロゲン化物になり得、このとき、生成物MXが、例えば更に低い酸化数、又は金属自体へと更に還元される重大な追加還元(過剰還元)が起きないことが見出された。
【0017】
反応物質は、式MXによって記載され、生成物は、式MXによって記載される。本出願の範囲内で、これらの式は、一般に、金属とハロゲンとのモル比が1:m又は1:nである化合物を表す。したがって、式は、特定の分子MX又はMXが存在する限定的なものと理解されるべきではない。むしろ、化合物は、特定の化学量論の二量体、オリゴマー、又はポリマーでもあってもよい。多くの金属ハロゲン化物について、化合物が、定義された条件下で、例えば、モノマー、二量体、又はオリゴマーとして存在するか否かも明白ではない。したがって、式MXはまた、式(MXの化合物[a=2、3、4、5又は最大で∞]も示す。したがって、例えば、式MX及びMXの化合物は、定義された分子、直鎖若しくは架橋ポリマーなどのポリマー、又は結晶構造を有する塩であってもよい。
【0018】
数値m及びnは、金属原子1個当たりのハロゲン原子の数を示す。ハロゲン化合物の場合、m及びnは常に整数として選択される。したがって、値m又はnは、同時に、化合物中の金属の酸化数を示す。
【0019】
m及びnの選択では、n<mであり、還元が示されることに注意すべきである。これにより、還元は、具体的には、前駆体化合物の酸化数を1~6の値で低下し得る。これは、m-n=1~6を意味する。金属の酸化数が最大で酸化数3減少され、その結果m-n=1、2、又は3となる反応が好ましい。金属の酸化数が酸化数1又は2減少される反応(m-n=1又は2)が好ましい。特に、金属の還元値は、正確に1減少すること(m-n=1)が好ましい。
【0020】
好ましい実施形態では、m=4、5、又は6である。好ましい実施形態では、n=3、4、又は5である。好ましい実施形態では、m=4、5、又は6であり、n=3、4、又は5である。m=6及びn=5が特に好ましい。そのようなより高い酸化数が好ましいのは、対応する金属ハロゲン化物MX、MX、MX、又はMXが、多くの場合、他の価数を有する様々な類似金属ハロゲン化物を有するためである。したがって、本発明によるこのような化合物は、定められた、より低い酸化数を有する特定の生成物への選択的還元を介して変換され得ることが特に有利である。
【0021】
具体的には、本発明による方法は、化合物MXの更なる反応が起きて、nよりも小さい、より低い酸化数の二次生成物(例えば、式MXn-1又はMXn-2のハロゲン化物)を形成することを防止し得る。
【0022】
様々な酸化数の複数のハロゲン化物を形成し得る金属は、特に、元素周期表の遷移元素(Nebengruppe)、並びに主族(Hauptgruppe)第3族~第6族の金属中に見出される。したがって、好ましい実施形態では、金属Mは、遷移金属、ランタニド、アクチニド、In、Tl、Sn、Pb、Sb、及びBiから選択される。金属は、特に好ましくは遷移金属である。したがって、特に、化合物MXは、3、4、5、又は6の酸化数、特に5又は6を有することが好ましい。金属は、特に好ましくは、周期表の1、4、5、6、7、又は8族(Nebengruppe)の金属である。これらの族の金属は、特に、様々な酸化数を有する様々なハロゲン化物を形成し得るという事実が知られている。特に、金属は、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Cu、及びAuから選択されてもよい。W、Ta、Cu、Feは、有利には使用可能である。金属は、特に好ましくは、第6族の金属、特にタングステンである。本方法は、ハロゲン化タングステンで特に効率的に実施することができることが確認された。
【0023】
ハロゲン化物は、F、Cl、Br、及びIから選択される。化合物MX及びMXは、好ましくは単一のハロゲン化物のみを有する。ハロゲン化物は、特に好ましくはX=Cl、Br又はI、特にCl又はBrである。好ましい実施形態では、X=Clである。金属塩化物は、一般に、他のハロゲン化物よりも容易に入手でき、かつ取り扱いがより容易であり、この理由から、有機合成及び有機金属化学において基本材料として使用されることが多い。
【0024】
好ましい実施形態では、本方法は、WClからのWClの製造に役立つ。この反応は、シラン化合物の存在下で特に効率的かつ選択的であることが確認された。
【0025】
本方法は、前駆体化合物をシラン化合物で還元して、所望の金属ハロゲン化物を形成する方法工程を含む。この方法工程は還元であり、シラン化合物が還元剤として作用し、前駆体化合物を還元する。この還元は、前駆体化合物、シラン化合物、及び場合によっては溶媒を含有する反応バッチにおいて実施される。
【0026】
本発明によれば、個々の成分、例えば2種以上の異なるシラン化合物の混合物を使用することも可能である。しかしながら、反応をより容易に制御できることから、反応は、単一のシラン化合物及び単一の前駆体化合物で実施されることが好ましい。
【0027】
本出願の文脈において「シラン化合物」と表記されるものは、少なくとも1つの官能基Si-R[式中、R=炭化水素、ハロゲン、又は水素である]を有する化合物である。シラン化合物は、好ましくは、Si、C、H、及びX[Xは、上記のハロゲン、好ましくはClである]からなる。
【0028】
シラン化合物は、好ましくは、オルガノシラン、シラン、ハロシラン、及びオルガノハロシランを含む群から選択される。
【0029】
化学分野における通常の定義によれば、シランは、ケイ素骨格構造と水素とからなる化合物である。シランは、分枝状又は非分枝状であり得る。シランは、環状又は直鎖状であり得る。非環式シランは、一般全体式Si2y+zを有する。環状シラン(シクロシラン)は、全体式Si2yを有する。本発明によれば、好ましいシランは、1~10個のケイ素原子、特に2~5個のケイ素原子を有するものである。
【0030】
好ましい実施形態では、還元剤はオルガノシランである。典型的な定義によれば、オルガノシランとして表記されるのは、ケイ素と有機基とを有する化合物又はケイ素と有機基とからなる化合物である。有機基は、好ましくは炭化水素基である。還元剤としてのオルガノシランの使用は、本発明による還元反応において多くの利点を有する。オルガノシランは、一般的に、容易に入手でき、安価であり、大量かつ高純度で入手可能である。オルガノシランは、穏やかな条件下で、標的を定めた選択的還元を可能にし、望ましくない追加還元が防止されることが確認された。オルガノシランは、液体形態で使用することができ、したがって投与が容易である。しかしながら、オルガノシランは、反応後、例えば、蒸留によって容易に抽出することもでき、これは熱的に不安定な金属ハロゲン化物との反応において有利である。
【0031】
好ましい実施形態では、オルガノシランは、ケイ素原子及びそれに結合した基Rのみから構成され、基Rは炭化水素である。炭化水素は、アルキル、アルケニル、アリール、又はアラリル(araryl)から選択され、1~20個の炭素原子を有し得る。炭化水素は、飽和又は不飽和であってもよい。不飽和炭化水素基は、単一の二重結合を有してもよい。好ましい実施形態では、炭化水素基は飽和である。炭化水素は、好ましくは1~20個の炭素原子を有する、特に1~5個の炭素原子を有する、アルキル基である。
【0032】
炭化水素は、好ましくはメチル基又はエチル基であり、特にメチル基である。好ましい実施形態では、オルガノシランは、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのメチル基を有する。オルガノシランは、特に好ましくは、ケイ素原子及びメチル基で構成される。オルガノシランは、好ましくは1~5個のケイ素原子、特に1~3個のケイ素原子、特に2個のケイ素原子を有する。
【0033】
シラン化合物は、好ましくは室温(25℃)で液体である。シラン化合物は、好ましくは、方法の実施において液体である。これは、シラン化合物が、溶媒として使用されてもよく、又は溶媒と混合されてもよいという利点を有する。
【0034】
好ましい実施形態では、オルガノシランは、少なくとも1つのSi-H結合を有する。この実施形態は、オルガノシランが1分子当たり1個のみのSi原子を有する場合、特に好ましい。更に好ましい実施形態では、オルガノシランは、ケイ素原子、それに結合した炭化水素である基R、及びS-H基のみから構成される。したがって、好ましくは、Si原子1個当たり、又は1分子当たり1つのSi-H結合が存在する。
【0035】
好ましい実施形態では、オルガノシランはオリゴシランである。これは、少なくとも1つのSi-Si結合を有するオルガノシランを意味する。オリゴシランは、好ましくは、例えば1分子当たり2、3、4、5、又は6個のSi原子を有する。したがって、ジシランは、2個のケイ素原子に加えて、1~5個の炭素原子を有する炭化水素基、特にメチル又はエチルのみを有することが好ましい。オリゴシランは、金属を酸化数1還元するのに特に好適である。
【0036】
オルガノシランは、特に好ましくはジシランである。本発明によれば、ジシランは、特に金属を酸化数1還元するのに特に適していることが確認された。ジシランは、更に、一般的に、容易に入手でき、安価であり、大量かつ高純度で入手可能であり、液体形態で使用可能であり、反応後に容易に除去可能である。オルガノシランは、特に好ましくはヘキサメチルジシランである。この化合物は、室温で液体であるだけでなく、容易に取り扱うことができ、除去可能であり、容易に入手可能であるという利点を有する。本発明によれば、ヘキサメチルジシランによる金属ハロゲン化物の制御された還元は、特に効率的かつ制御可能である。
【0037】
更なる実施形態では、シラン化合物はハロシラン又はオルガノハロシランである。ハロシランと呼ばれるものは、1個以上のハロゲン原子がケイ素原子に結合しているシランの群からの化合物である。好適なハロシランは、例えば、ClSi-SiCl又はHSiClであり得る。ハロシラン分子が有機基を更に含む場合、それはオルガノハロシランと呼ばれる。ハロシラン又はオルガノハロシランは、それによって、Si原子1個当たり、又は1分子当たり、少なくとも1つ、特に正確には1つのSi-H基を有してもよい。ヘキサメチルジシラン又はトリエチルシランなどのオルガノシランが有利である。
【0038】
好ましい実施形態では、還元は溶媒中で実施される。溶媒は、好ましくは有機溶媒である。溶媒は、特に好ましくは炭化水素を含有するか、又は炭化水素で構成され、ハロゲン化されていてもよい。炭化水素は、脂肪族若しくは芳香族炭化水素、又はこれらの混合物であってもよい。好ましい実施形態では、炭化水素は芳香族炭化水素である。置換ベンゼン、特にトルエン、キシレン、エチルベンゼン、又はクメンなどの典型的な溶媒は、芳香族炭化水素として好適である。更に、ナフタレン又はアントラセンなどの環状アレーンが好適である。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、又はクロロベンゼンもハロゲン化炭化水素として使用してもよく、この溶媒群のうち、ジクロロメタンは有利に使用可能である。
【0039】
溶媒は、一般的に、効率的な反応を可能にするように選択される。したがって、溶媒は、好ましくはシラン化合物との良好な混和性を有しており、単一の流体相を形成する。前駆体化合物は、溶媒中に溶解又は懸濁される。
【0040】
トルエンは、溶媒として使用するのに特に好ましい。トルエンの還元は、特に効率的であり、特に数種類の二次反応と共に進行することが確認された。
【0041】
好ましい実施形態では、前駆体化合物の還元剤に対するモル物質量比は、金属原子対ケイ素原子/金属酸化数差の比に関して、2:1~1:2、又は1.5:1~1:1.5、又は、特に1.1:1~1:1.1である。金属酸化数差は、反応物質と生成物との間の差である。したがって、一般に、前駆体化合物の還元剤に対する比は、電子の移動が必要な程度まで起こるように選択される。これにより、金属の酸化数がどれだけの単位で減少するかが考慮される。金属原子対シラン化合物中のケイ素のモル比が約1:1である場合、酸化数差1の還元が特に効率的であることが確認された。モル比が1:2である場合、酸化数差2の還元が特に効率的である。酸化数差が1を超える還元の場合、ケイ素原子の割合がそれに応じて増加する。理想的な化学量論はまた、上記の反応式(I)及び(II)、並びに2を超える酸化数による還元に対応する反応式からも得られる。更なる還元を防止するために、わずかに不足の還元剤が、場合によっては使用され得る。あるいは、還元される金属ハロゲン化物の酸化電位に応じて、特に反応物質がWClではない場合には、過剰の還元剤を使用してもよい。例えば、過剰及び不足は、理想比の最大10モル%又は最大5モル%までの量であってもよい。
【0042】
更なる実施形態では、前駆体化合物に対して明らかに過剰の還元剤が使用される。この実施形態は、過剰反応が起こらないか、又はわずかな程度しか起こらない場合に有利となり得、それによって、特に還元剤が容易に入手可能である場合に有利となり得る。次いで、特に速い還元又は完全な還元は、明らかに過剰の還元剤を介して達成され得る。例えば、前駆体化合物の還元剤に対するモル物質量比は、金属原子対ケイ素原子/金属酸化数差の比に関して、1:10超、若しくは1:20超、又は、1:5~1:500,又は1:10~1:100である。
【0043】
反応は、好ましくは、反応式(I)又は(II)に従って進行する。
2MX+RSi-SiR=2MXm-1+2RSi-X (I)
MX+RSi-SiR=2MXm-2+2RSi-X (II)
【0044】
反応式(I)についてはn=m-1であり、反応式(II)についてはn=m-2である。
【0045】
低温であっても、本発明による還元により、高い収率が達成され得る。式MX及びMXの金属ハロゲン化物は、様々な酸化数で生じ、熱的に不安定であることが多いことから、これは非常に有利である。特に、反応混合物を温める必要がない。好ましい実施形態では、還元は<60℃、特に<50℃又は<40℃で実施される。更なる好ましい実施形態では、還元は、10℃~50℃の温度で実施される。還元は、特に好ましくは、15℃~40℃、特に20℃~30℃、又は室温(25℃)で実施される。したがって、反応は、特に、少なくとも1つの反応物質又は生成物が100℃超、又は150℃超、又は200℃超で分解又は揮発する場合に好適である。更なる好ましい実施形態では、温度は、反応の終了に向かっていくらか増加し得る。これは、金属ハロゲン化物の最適に完全な変換を達成するために有利となり得る。例えば、反応は、最初に上記のように選択され、その過程で更に10~50℃上昇してもよい。
【0046】
還元は、好ましくは酸素を排除して、例えば不活性ガス雰囲気下で実施され、その際、窒素が好ましくは不活性ガスとして使用される。還元は、好ましくは、撹拌しながら行われる。
【0047】
還元は、バッチプロセスとして、又は連続的に実施されてもよい。還元は、好ましくは、常圧で実施される。例えば、光又は放射線の形態のエネルギーの供給は不要である。
【0048】
好ましい実施形態では、反応混合物は、前駆体化合物、シラン化合物、及び場合によっては溶媒のみを含有する。触媒等の補助物質の添加は不要である。特に、アルミニウム、スズ、又はこれらの化合物などの追加の金属又は金属化合物を添加する必要はない。全体として、反応は、わすか数種類の初期物質で、非常に穏やかな条件下で、効率的に実施できることが有利である。
【0049】
本発明による反応は、一般に、比較的迅速に進行することが確認された。しかしながら、反応はまた、最適に完全な変換を達成するために、より長い時間にわたって実施されてもよい。これが可能なのは、本発明によれば、より低い酸化数の金属ハロゲン化物又は金属を形成する潜在的な後続反応が起こらないか、又は限定された程度でしか起こらないからである。したがって、還元剤としてのシラン化合物との反応はまた、より長い期間にわたって選択的に実施され得る。これは、更なる反応を防止するために、特定の時間後に反応を中断する必要がないという利点を有する。対照的に、既知の方法、例えば、Thorn-Csanyi(1986)による還元は、所望の金属ハロゲン化物の更なる還元をできるだけ防止するために、短時間で既に終了する必要がある。したがって、本発明による反応によって、より高い収率が達成され得る。反応は、反応収率の最適化を達成するために、複雑な方法で設定及び制御する必要がないため、実施はより簡単である。この理由から、本発明による方法は、既知の方法よりも単純であり、より効率的である。
【0050】
本発明による方法は、好ましくは、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、又は少なくとも5時間の期間にわたって実施される。反応時間は、例えば、5分から最大48時間、又は20分から最大36時間であってもよい。この時間期間が意味するのは、還元反応の開始から反応が終了するまでの期間である。この時間の後、式MXの金属ハロゲン化物は、好ましくは、>90%、好ましくは>95%の収率で得られる。一般に、反応は、反応物質の混合後に比較的迅速に開始することが確認されており、その結果特定の活性化エネルギーを消費する必要がない。金属ハロゲン化物は溶解性が低く、そのため限られた範囲でしか利用できないことから、反応速度は、反応の更なる過程で制限され得る。
【0051】
好ましい実施形態では、方法は、比較的短い時間、例えば、5分~60分、特に10分~30分の時間で実行される。本発明による反応は非常に迅速に進行するため、所望であれば、生成を加速させることができる。
【0052】
好ましい実施形態では、方法は、比較的長い時間、例えば、少なくとも5時間、又は少なくとも10時間、又は1時間~最大48時間、又は5時間~最大36時間にわたって実施される。したがって、特に金属ハロゲン化物の溶解度が限られるために反応が迅速に進行しない場合には、収率を向上させることができる。
【0053】
好ましい実施形態では、前駆体化合物が提供され、その後、シラン化合物が連続的に添加される。これにより、溶媒中に前駆体化合物を最初に溶解又は懸濁させることが好ましい。例えば、シラン化合物の添加は、5分~5時間、特に10分~90分の期間にわたって行われてもよい。更なる実施形態では、シラン化合物は、一回で、すなわち非連続的に、添加されてもよい。
【0054】
ワンステップで起こることは、この還元反応の利点である。例えば追加の化合物を添加するために、還元中に追加の工程を実施する必要がない。また、定められた時間の後に反応を終了させる必要もない。
【0055】
反応終了後、反応生成物は、一般に沈殿固体として存在する。溶媒及び/又は揮発性成分は、その後、好ましくは分離される。これは、濾過、洗浄、及び乾燥などの典型的な手段で達成され得る。反応生成物は、好ましくは最初に濾過され、洗浄される。洗浄は、プロセスにおいて、溶媒及び/又は他の溶媒、例えばペンタンを用いて実施されてもよい。
【0056】
濾液は、続いて、好ましくは乾燥される。真空中での蒸留は、高すぎる温度を避けるために特に好適である。所望の金属ハロゲン化物から本質的になる固体が得られる。
【0057】
好ましい実施形態では、還元によって生成された式MXの金属ハロゲン化物は、昇華によって精製される。昇華は、溶媒が予め分離された還元反応の未処理生成物を用いて直接行われることが好ましい。二次生成物からの所望の金属ハロゲン化物の効率的な分離は、昇華によって達成され得ることが確立されている。具体的には、シラン化合物、溶媒、反応物質、二次生成物、及び/又は溶媒などの反応配合物に含まれる化合物が揮発性である場合、所望の金属ハロゲン化物を高純度形態で得ることができる。昇華は、特に五塩化タングステンが六塩化タングステンから生成される場合に好適である。
【0058】
大スケールの工業規模で、効率的に高収率でも実施され得ることは、この方法の更なる利点である。好ましい実施形態では、この方法は、>5kg、>10kg、>15kg、又は>50kgという前駆体化合物MXの初期量で実施される。例えば、前駆体化合物の量は、5kg~500kg、特に10kg~100kgであってもよい。驚くべきことに、反応を単純な方法でスケールアップすることができ、80%超又は更には90%超の非常に高い収率が達成され得ることが確認された。工業化学分野では、小スケールの反応をスケールアップすることは通常、著しく低い収率をもたらすか、又はまったく不可能であることが知られていることから、追加処置なしでこの高収率が達成されることは予想されなかった。
【0059】
好ましい実施形態では、本発明による方法では、式MXの金属ハロゲン化物は、還元前に使用される前駆体化合物のモル量に対して、>80%、好ましくは>85%又は>90%、特に好ましくは>93%又は>95%の収率で得られる。このような収率は、好ましくは還元反応後及び/又は昇華後に得られる。このような収率は、生成物が更なる還元によって再度消耗され得る部分的還元においては、比較的高い。
【0060】
第1の昇華後、所望の金属ハロゲン化物は、好ましくは>98重量%、特に>99.5重量%、又は特に好ましくは>99.9重量%の純度で得られる。純度は非常に高く、汚染物質の割合が<500ppb、又は更には<100ppbとなり得る(誘導結合プラズマ質量分析;ICP-MSで測定)。このような高純度生成物は、特に、揮発性成分が反応配合物中で使用される場合に得られる場合がある。
【0061】
反応混合物から昇華することで、還元後にわずかな昇華残渣しか残らないことは、本方法の更なる利点である。昇華後に約1~3%の固体残渣しか残らないことが確認された。これは、高純度生成物が還元において既に達成されており、昇華による反応配合物からの生成物の分離は、比較的問題がないことを示している。昇華により、5%未満、特に3%未満の固体残渣が好ましくは残る。
【0062】
本発明の主題はまた、本発明による方法に従って得ることができる組成物である。当該組成物は、好ましくは、式MXの化合物を、>80重量%、好ましくは>90重量%、又は>95重量%の純度で含有する。好ましい実施形態では、組成物は、還元から得られる固体である。したがって、溶媒及び/又は揮発性成分は、必要に応じて、特に濾過、洗浄、及び/又は乾燥によって分離され得る。
【0063】
組成物は、特に昇華によって組成物から分離され得る高純度金属ハロゲン化物の製造における重要な中間生成物である。しかしながら、組成物はまた、後続反応において金属ハロゲン化物の供給源として直接使用されてもよい。高純度金属ハロゲン化物は、特に、金属又は金属化合物が基材上に堆積される、気相での反応に使用される。このようなプロセスは、具体的には、CVD(化学気相成長)、及び、特にALD(原子層堆積)又はMOCVD(有機金属気相成長法)である。本発明による組成物は、所望の金属ハロゲン化物を高い割合で含有し、更には揮発性成分を用いずに得ることができることから、気相中の反応に金属ハロゲン化物の供給源として直接使用することができる。金属ハロゲン化物は、昇華によって組成物から分離されてもよく、気相中の反応に直接供給される。
【0064】
更なる実施形態では、組成物は、昇華によって得られる高純度の生成物であってもよい。この組成物は、並外れた高い純度を有する場合があり、上記のように、汚染物質の割合が、例えば<100ppbとなり得る。本方法は、通常、更なる金属又は金属化合物を添加することなく実施され得ることから、このような組成物は、検出可能な他の金属の汚染物質が存在しないことも特徴とする。これは、所望の金属が気相から堆積され、汚染物質を絶対的に避けなければならない、半導体製造などの高感度の後続プロセスにとって有利である。
【0065】
本発明の主題はまた、式MXの前駆体化合物から式MXの化合物へ還元するための、シラン化合物、特にオルガノシランの使用であり、ここで、式MX及び式MXは上記のように選択される。
【0066】
本発明による方法及び使用により、本発明の基礎をなす目的が達成される。高収率で金属ハロゲン化物を製造するための単純かつ効率的な方法が提供される。還元剤としてシラン化合物を使用することにより、式MXの前駆体化合物から所望の金属ハロゲン化物への還元が、より低い酸化数の金属ハロゲン化物又は金属への重大な後続反応が起こることなく、選択的に行われることを実現する。これは、反応を単純に調節及び制御することができること、及び一般に高い生成物収率をもたらす長い反応持続時間が可能である、という大きな利点を有する。多くのシラン化合物又はオルガノシランは、一般に、比較的費用効果が高く、大量かつ高純度で入手可能であり、更に単純な方法で取り扱うことができる。反応では、ハロゲン化ケイ素又はハロゲン化ケイ素-アルキル化合物が生成し、これは比較的単純に処理及び廃棄され得る。全体として、本発明による方法は、穏やかな条件下で実施することができ、数種類の構成成分しか必要としないことから、単純かつ費用効果が高い。構成成分は、反応の終了後に単純に除去することができ、したがって収率を低下させないように選択できる。本方法はまた、更なる処置なしに工業規模で実施されてもよく、その際高収率も同様に達成される更なる利点である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
例示的な実施形態
化学物質
実施例1~3で使用した化学物質を表1にまとめる。
【0068】
【表1】
【0069】
熱重量(TGA)-示差熱同時分析(SDTA)
熱重量分析(TGA)並びにそのための計量は、グローブボックス内の窒素雰囲気下で、TGA3+(製造業者:Mettler Toledo;商標名Starのソフトウェアで評価)のデバイスで実施した。測定のために、約6~12mgの試料を酸化アルミニウムるつぼ内で秤量した。TGA(質量減少)及びSDTA(熱流)曲線を結果として得た。一次導関数(DTG曲線、質量変動の速度)は、TGA曲線からそれぞれ計算した。加熱速度は、10K/分又は20K/分であった。
【0070】
実施例1
六塩化タングステンを、以下の反応式に従ってヘキサメチルジシラン(HMDSi)で五塩化タングステンに還元した。表2に示す化学物質及び物質量を使用した。反応時間は24時間であった。
【0071】
【化1】
【0072】
【表2】
【0073】
窒素下に置いた加熱した250mLシュレンク管内で、WClをグローブボックスに秤り入れた。グローブボックスの外側に、トルエン、次いでヘキサメチルジシランをN流下で添加し、管をしっかりと密封した。これを室温で撹拌した。
【0074】
生成した固体を、その後、窒素下で、リバースフリット(reversion frit)(G4、孔径約10~16μmの細孔直径)を通して濾過し、乾燥トルエンで再度洗浄し(10mLで2回)、続いて、乾燥n-ペンタンで洗浄(10mLで2回)した。次に、これを室温及び微真空(10-3mbar)で数時間乾燥した。保管は、窒素雰囲気下のグローブボックス内で実施した。
【0075】
生成物の約半分を昇華装置内に秤量し、160℃の油浴温度で、微真空(10-3mbar)で約5時間昇華させた。紫色の結晶が、クーリングフィンガーで形成された。
【0076】
実施例2
六塩化タングステンを、実施例1に以下の変更を加えて、ヘキサメチルジシランで五塩化タングステンに還元した:表3に従う物質量を使用した。反応時間は1時間であった。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例3
六塩化タングステンを、実施例1に以下の変更を加えて、ヘキサメチルジシランで五塩化タングステンに還元した:表4に記載の物質量を使用した。反応時間は20時間であった。
【0079】
【表4】
【0080】
結果:
昇華前後の五塩化タングステンの収率を表5にまとめる。
【0081】
【表5】
【0082】
小スケールでの反応;したがって、昇華は最初に行われなかった。
【0083】
「昇華収率」と「残渣」の加算から損失しているパーセントは、場合によっては、未処理生成物の乾燥時に除去されなかった溶媒残渣、及び昇華管からの昇華物の掻き取りにおける損失である。
【0084】
結果は、ヘキサメチルジシランを還元剤として用いた場合、所望の生成物は、既に比較的短時間(1時間)の後に、高収率及び高純度で得られ得ることを示す。残渣がほとんどない昇華性の未処理生成物は、約20時間後に得ることができる。金属対Siの比に関して、化学量論的に等量(又はわずかに不足)を使用することで、過剰な還元はほとんど起こらない。
【0085】
いったん昇華した生成物は、真空下での2回目の昇華で完全に昇華する。これは、高温(少なくとも160℃まで)において、真空下で分解が起こらないことを意味する。常圧下での熱分解の測定(窒素雰囲気、TGA測定)では、異なる加熱速度(=「滞留時間」)で分解を検出することができる。これは、TGA測定における質量損失から明らかである。TGA測定における加熱速度の増加は、生成物の完全な質量損失を促進する。
【0086】
実施例4:大スケールでの実施
六塩化タングステンを、ヘキサメチルジシランを用いて、五塩化タングステンに還元した。表1の化学物質を使用し、ここでHMDSi及び溶媒は、製造業者から高純度形態で入手したものを使用した。66Lのトルエンを、窒素で不活性にした100Lの反応器に入れる。19.0kg(47.86モル、2.03当量)の六塩化タングステンを100回転/分で撹拌しながら添加し、続いて10Lのトルエンで洗浄する。流動温度は、30℃に設定する。3.47kg(23.56モル、1当量)のヘキサメチルジシランを1時間以内に投入し、続いて5Lのトルエンで洗浄する。その後の撹拌は、100回転/分、及び20℃の流動温度で1時間実施する。反応混合物を濾過し、濾過ケークを10Lのトルエンで置換洗浄する。続いて、濾過ケークを、1回につき10Lのペンタンを用いて3回洗浄する。生成物を、真空下で40℃で乾燥する。収量は16.2kg(WClに対して94%)であった。
【0087】
結果は、収率及び生成物品質の有意な損失なく反応をスケールアップすることができ、一般的に容易に入手可能な化学物質を使用してもよいことを示す。これらの利点は工業生産において非常に重要である。
【0088】
実施例5:FeBr及びCuBrの還元
FeBr及びCuBrを、HMDSi(ヘキサメチルジシラン、(CH3)Si)を用いて、それぞれ次に低い安定な酸化数まで還元した。
【0089】
一般的な実験手順
0.2gのFeBrを、不活性ガス雰囲気下で加熱したシュレンク管に秤り入れた。3mLのHMDSiを窒素流下で添加した。これを短時間加熱して沸騰させ、続いて70℃で8時間撹拌した。
【0090】
CuBrを用いた場合、プロセスは同様に進行するが、FeBrを用いた方法とは異なり、空気下で充填され、その後排気され、加温されなかった。
【0091】
臭化鉄を用いた場合、黄褐色の流体の変色が、加温後に発生した。70℃に8時間加温した後、溶液及び固体は黄色を有する。臭化銅を用いた場合、室温で数分後に既に変色が起こり、加温を省略した。
【0092】
次いで、生成した固体を、窒素雰囲気下、室温で、G4フィルターフリットを通して濾過した。その後、微真空(10-3mbar)で室温にて数時間乾燥を行い、試料を不活性ガス下に保持した。
【0093】
マイクロX線蛍光分光法(μRFA、Bruker Tornado M4(ロジウム及びタングステンX線管、2つのシリコンドリフト検出器)を使用して、FeBr及びCuBrが反応生成物として得られたことが確認された。
【0094】
実施例6:溶媒としてのジクロロメタン中のWCl及びTaClの還元
金属ハロゲン化物(MH)を、シュレンク管内の不活性ガス雰囲気(グローブボックス)に秤量し、グローブボックスの外側を約40mLの乾燥ジクロロメタンで充満した。計算量のシランを、撹拌しながら窒素流に添加した。試験ごとの入力重量(EW)及び収率(AW)を表6に示す。
【0095】
24時間の撹拌後、不活性ガス下でG4フリットを用いて濾過することにより、室温で処理を行った。沈殿物を乾燥ヘキサンで洗浄し、真空下(10-3mbar)、室温で乾燥した。生成物は、更に使用するまでグローブボックス内に保管した。
【0096】
【表6】
【0097】
注釈:EW-入力重量、AW-出力重量、MH-金属ハロゲン化物、HMDSi-ヘキサメチルジシラン、TESi-トリエチルシラン(EtSiH)、DMCSi-ジメチルクロロシラン(MeSiHCl)
【0098】
観察結果:
試験1:濾過において、生成物の一部がフリットを通過し、その結果、出力重量は当初は低くなるように見えた。この沈殿を分離した後、総収率>90%と判明した。
試験2:気体発生、反応低速。
試験4:反応は遅く、わずか24時間後に終了した。
【0099】
生成物の同定を、生成物として得られた粉末のX線回折測定によって実施し、WCl又はTaClが反応生成物として得られたことを確認した。