(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】酸性pHで活性の増強を示す抗真菌剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4439 20060101AFI20230123BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230123BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
A61K31/4439 ZMD
A61P31/10
A61P15/02
(21)【出願番号】P 2020505869
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(86)【国際出願番号】 US2018044619
(87)【国際公開番号】W WO2019028034
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-27
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519363018
【氏名又は名称】サイネクシス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】アングロ・ゴンザレス,デイビット・エー
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0207956(US,A1)
【文献】27th ECCMID abstract,2017年04月,P1478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外陰膣カンジダ症(VVC)感染の治療または予防を要する対象における外陰膣カンジダ症(VVC)感染の治療または予防方法に用いるための
医薬組成物であって、式(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩
を含み、
【化1】
前記化合物が、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸であり、
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、前記化合物の1日の総投与量が150~600mgで
前記対象に投与され、
前記VVC感染が、pHが約5より低い条件または解剖学的領域で起こる、前記
医薬組成物。
【請求項2】
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、前記化合物の1日の総投与量が300~600mgで投与される、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、1日に2回、前記化合物の投与量が150~300mgでBID(1日2回)投与され、前記化合物の合計投与量が300mg~600mgである、請求項1または2に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、前記化合物の1日の総投与量が150mg、300mg、または600mgで投与される、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、前記化合物の1日の総投与量が600mgで投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
前記式(IIa)の化合物のクエン酸塩が投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、経口投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、錠剤で経口投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
前記化合物または前記化合物の薬学的に許容される塩は、局所投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pHが約7より低い酸性条件中または酸性条件下で生じる真菌感染症(真菌感染)を治療または予防するための、エンフマファンギン(enfumafungin)誘導体トリテルペノイド抗真菌化合物の使用に関する。より詳細には、本発明は、酸性pHを有する条件または解剖学的領域において生じる酵母(yeast)またはカビ感染症の治療または予防における、(1,3)-β-D-グルカン合成のインヒビターであるエンフマファンギン誘導体トリテルペノイド(またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物)の使用に関する。そのような感染症には、pHが典型的には約4~約4.5であるカンジダ膣炎(膣酵母感染症)、pHが典型的には約5.5~約6.8である膿瘍、および上部消化管の感染症が含まれる。酸性pHで抗真菌効力の増強を示す抗真菌剤は、低pH条件下で生じる真菌感染症、例えば外陰膣カンジダ症(VVC)、膿瘍および上部消化管感染症の治療において有利であると予想される。
【背景技術】
【0002】
真菌感染症は重大な医療問題であり、侵襲性または全身性真菌性疾患(例えば、カンジダ血症、侵襲性アスペルギルス症)、局所性真菌感染症(例えば、膿胸、および腹部、脳、肺などに局在する膿瘍)および粘膜皮膚感染症(例えば、口腔、食道および外陰膣カンジダ症)として最も一般的に見られる。感染症のタイプおよび範囲は真菌病原体の病原性因子、宿主の防御および関与する解剖学的領域に左右される。
【0003】
重度の全身性または侵襲性真菌感染症は、免疫無防備状態の患者、例えば、悪性疾患を治療するために化学療法を受けている患者、または慢性炎症状態を治療するために免疫調節剤の投与を受けている患者、または後天的な若しくは遺伝性障害による免疫不全に罹患している患者において、より一般的である。現在利用可能な抗真菌療法にもかかわらず、全身性真菌感染症は、病原体および患者の基礎疾患に応じて、50%までの死亡率に関連している。
【0004】
局所的真菌感染症は、典型的には、酵母が通常定着する局所領域から、通常は無菌状態である領域へと酵母が広がることにより生じ(例えば、腸穿孔または手術の後の腹腔内の膿瘍)、あるいは、特定の器官(例えば、肺、肝臓、脾臓)に到達し深在性感染症を発生させる血液またはリンパ系に侵入する真菌により生じる。外傷または手術後の胃腸漏出に続発する膿瘍は、しばしば、カンジダ属種(Candida spp.)および細菌の関与による混合感染であり、膿瘍内では一般に低いpH(例えば、膿瘍内では約5.5~約6.8のpH)を有する。
【0005】
粘膜皮膚真菌感染症は免疫無防備状態の個体および非免疫無防備状態の個体において生じうる。最も一般的な粘膜皮膚真菌感染症は外陰膣酵母感染症であり、これは主にカンジダ(Candida)属種により引き起こされ、一般に外陰膣カンジダ症(VVC)と称される。VVCは、女性の70%~75%が生涯の間に少なくとも1回罹患すると推定されており(Sobel J.,Vulvovaginal candidiasis,Lancet 369:1961-71(2007))、生命を脅かすものではないものの、それは、特に再発エピソードを患っている者においては、罹患個体における生活の質に相当な影響を及ぼしうる。VVCの診断および治療は、病状による生産性の低下も考慮すると、米国では約10億ドルのコストを要すると見積もられている(Foxman Bら,Candida vaginitis:self-reported incidence and associated costs,Sex Transm Dis 2000,27:230-35(2000))。ほとんどの女性はVVCの散発的エピソードを示すに過ぎないが、一部の女性はより慢性的な症状および/または再発エピソード(一般に再発性VVC(rVVC)と称される)を示す。rVVCに対する承認された療法は存在しないが、幾つかの局所抗真菌剤および2つの経口抗真菌剤(フルコナゾールおよびイトラコナゾール)がVVCの治療に関して世界的に承認されている。米国では、フルコナゾールはVVCに関して承認された唯一の経口治療剤であり、世界的には、それは、この病態を治療するために最も一般的に使用されている経口抗真菌剤である。しかし、Diflucan(登録商標)のラベルにおいて報告された経口フルコナゾールの研究においては、徴候および症状の完全な消散ならびに陰性水酸化カリウム検査および陰性培養として該研究において定められた治療的治癒はVVC症例の約半分で達成されたに過ぎなかった。Diflucan(登録商標)(フルコナゾール)ラベル(2011年5月)を参照されたい。膣環境のpHは酸性(約4~約4.5のpH)であり、カンジダ属種感染中は不変のままである。この低pH環境はVVCの現在の抗真菌療法による最適とは言えない治療結果の少なくとも部分的な原因とみなされている(Danby CSら,Effect of pH on in vitro susceptibility of Candida glabrata and Candida albicans to 11 antifungal agents and implications for clinical use,Antimicrob Agents Chemother 56:1403-6(2012))。
【0006】
被検分離体の50%(MIC50)または90%(MIC90)において生物の増殖を阻止することが示される最小阻止濃度(MIC)として表される抗真菌剤の効力は、しばしば、pHの影響を受ける。MICを決定するために用いられる方法に起因する変動を考慮すると、いずれかの方向において4倍以下であるMICの差異の臨床的関連性を確定することは困難である可能性があり、したがって、例えば4倍の差異は臨床的に有意でない可能性がある。一方、4倍より大きな変化は臨床的に有意義であると一般にみなされ、有意である可能性がある。感染症が生じる環境のpHは様々である可能性があり、感染症の治療を意図した抗真菌剤の臨床効果に影響を及ぼしうることを考慮して、抗真菌効力に対するpHの影響が研究され、報告されている。低いpHにおける抗真菌活性に関する研究のほとんどは、VVCを引き起こす分離体に焦点が合されているが、同じカンジダ属種は、pHが酸性であると予想される他の感染症(例えば、腹部膿瘍、逆流を伴う食道カンジダ症、膿胸など)を引き起こす。したがって、低いpHにおける抗真菌剤の効力の低下を示すこれらの報告からの知見は、低いpHが共通要因である、より広範な臨床状態に適用可能であると予想される。
【0007】
Danbyら(2012)は、VVCを引き起こす最も一般的なカンジダ属種に対する11個の抗真菌剤の抗真菌効力に対するpHの影響を評価する非常に包括的な研究を行った。その研究の結果は、それらの抗真菌剤のほとんどに関して、中性pH条件(例えば、pH7)と比較した場合、酸性条件下(例、pH4)の抗真菌効力の低下を示すMICの増加(例えば、4倍以上)が認められることを示した。一般に、アゾール化合物クラスに属する抗真菌剤の全て、そして特にフルコナゾール(世界の大部分におけるVVCに対する唯一の利用可能な経口アゾール剤)は、この現象による有意な影響を受けた。このことは、中性pH条件(例えば、pH約7)で感染が生じた場合に感受性であるとみなされる多数のカンジダ株が、pH環境が酸性(例えば、pH約4~4.5)である場合、例えばVVCの場合には、抵抗性であることを示している。Danby Cら(2012)は、酸性pHにおける抗真菌効力の低下が、pHが典型的には4~4.5であるVVCにおける幾つかの抗真菌剤の有効性の欠如を説明する重要な要因であると結論づけた。この実験においてDanbyら(2012)により試験された抗真菌剤の幾つかはpHの低下による影響をそれほど受けないようであったが、酸性条件下で抗真菌効力の有意な増強(例えば、MICにおける4倍を超える減少)を示したものは無かった。
【表1】
【0008】
抗真菌効力に対するpHの影響およびVVCの治療に対するその潜在的関連性はBoikovら,In vitro activity of the novel echinocandin CD101 at pH 7 and 4 against Candida spp.isolates from patients with vulvovaginal candidiasis,J Antimicrob Chemother 72:1355-1358(2017)においても報告されている。Boikovらの研究においては、VVCに関して承認されたアゾール(フルコナゾールおよびイトラコナゾール)および3つの承認されたエキノカンジン(カスポファンギン、ミカファンギンおよびアニデュラファンギン)および開発中の1つのエキノカンジン(CD101)の抗真菌活性が、VVCに一般に関連しているカンジダ属種に対して、pH7およびpH4において評価された。アゾールおよびエキノカンジン(利用可能な唯一のグルカン合成インヒビター)の両方の特性は低pHによる負の影響を受けた。このことは、幾つかの薬物クラスは他のものより大きな影響を受けるようであるものの、この現象が1つの抗真菌剤クラス(アゾール)に特有のものではないという以前の研究の結果を証明している。また、以前に報告された結果に合致して、酸性条件下での抗真菌効力の有意な増加(例えば、MICにおける4倍を超える減少)は認められなかった。したがって、当技術分野からの一般的な予想は、抗真菌剤の効力が低pH条件によって少なくとも或る程度は負の影響を受けるというものである。
【0009】
エンフマファンギン(enfumafungin)は、ジュニペルス・コムニス(Juniperus communis)の生きた葉に付随するホルモネマ(Hormonema)属種の発酵で産生されるヘミアセタールトリテルペングリコシドである(米国特許第5,756,472号;Pelaezら,Systematic and Applied Microbiology,23:333-343(2000);Schwartzら,JACS,122:4882-4886(2000);Schwartz,R.E.,Expert Opinion on Therapeutic Patents,11(11):1761-1772(2001))。エンフマファンギンは、インビトロ抗真菌活性を有する幾つかのトリテルペングリコシドの1つである。エンフマファンギンおよび他の抗真菌トリテルペノイドグリコシドの抗真菌作用の様式は、(1,3)-β-D-グルカンシンターゼに対するそれらの特異的作用による、真菌細胞壁グルカン合成の阻害であると決定された(Onishiら,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,44:368-377(2000);Pelaezら,(2000))。1,3-β-D-グルカンシンターゼは依然として抗真菌薬作用の魅力的な標的である。なぜなら、それは多数の病原性真菌に存在し、したがって、広範な抗真菌スペクトルをもたらすからである。また、(1,3)-β-D-グルカンシンターゼの哺乳類対応物は存在しないため、本明細書に記載されているエンフマファンギン誘導体は、メカニズムに基づく毒性をほとんど又は全く有さない。本発明に従い使用されるエンフマファンギンのトリテルペノイド化合物誘導体は、アゾールまたは他のグルカンシンターゼインヒビター(例えば、リポペプチド剤、例えば、エキノカンジン)に耐性である分離体を含むカンジダ属種の真菌分離体に対する活性を示している。ことのことは、エンフマファンギン誘導体の生物学的および分子的標的が他のグルカンシンターゼインヒビターのものとは異なることを示している。
【0010】
種々のエンフマファンギン誘導体が、例えば国際特許公開番号WO 2007/126900およびWO 2007/127012に開示されている。
【0011】
これらエンフマファンギン誘導体の或る代表例は経口投与可能であり、カンジダ属種に対する抗真菌活性を示しており、膣組織を含む組織への十分な分布を示している。しかし、同時に、以前の研究は、酸性pH環境における、そしてより詳細には、膣環境(それは約4~4.5のpHを有する)に類似したpH環境における、カンジダ属種に対する種々の薬剤の抗真菌効力の一般的な低下を示している。Danbyら(2012)およびBoikoyら(2017)を参照されたい。
【0012】
本明細書に記載されているエンフマファンギン誘導体の代表的化合物であるSCY-078の抗真菌活性が、VVCの治療に関する実施可能性研究において評価された。
【0013】
実施可能性評価の第1段階として、中等度ないし重度の急性VVCを有する96名の患者において概念実証調査試験が実施された。被験者は第1日に1250mgの用量のSCY-078錠剤の経口投与を受け、ついで、1日1回、2または4日間、その750mgの投与を受けた。承認された用量(150mg、単回投与)の経口フルコナゾールを投与を受けた患者の比較群も含まれていた。SCY-078の両方の投与レジメンは類似した活性を示した。有効性の結果を以下の表に要約する。
【表2】
【0014】
現在までに利用可能な全ての臨床的に重要なクラスの抗真菌剤(例えば、アゾール、ポリエンおよびエキノカンジン)を含む種々の化合物が、酸性pH環境(Danbyら(2012)およびBoikoyら(2017))において、そして更に詳細には、膣環境(それは約4~4.5のpHを有する)に類似したpH環境において、効力の低下を示していることを考慮して、低いpHが予想される真菌感染症に対するエンフマファンギン誘導体クラスの抗真菌剤を開発するための実施可能性評価における次の段階として、種々のpH条件でSCY-078の抗真菌活性が評価された。
【0015】
ヒトに対する抗真菌療法、特に、外陰膣カンジダ症のような低いpH条件下で生じる真菌感染症および消化管の感染症の治療における抗真菌療法であって、低pH条件において抗真菌剤が効力を維持する抗真菌療法が、当技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0016】
発明の概括
驚くべきことに、エンフマファンギン由来トリテルペノイド化合物SCY-078(本明細書に記載されているエンフマファンギン誘導体の代表的化合物)が、低pH条件下で効力の低下を示さないことが見出された。更に、該化合物は、意外にも、そのような条件下で活性の増強を示した。エンフマファンギン由来トリテルペノイド化合物は、驚くべきことに、膣環境を代表する低いpH(pH4.5)で抗真菌活性の有意な増強を示した。また、SCY-078はマウスにおける経口投与の後に良好なバイオアベイラビリティおよび広範な組織分布を示した。そのような特徴は、そのような治療または予防が経口投与を含む場合、VVCを含む真菌感染症の治療および予防に重要である。
【0017】
本発明は、酸性条件(例えば、約5未満のpH)中または酸性条件下で生じる真菌感染症の治療または予防のため、エンフマファンギン誘導体の使用に関する。エンフマファンギン誘導体およびその薬学的に許容される塩または水和物は、(1,3)-β-D-グルカンシンターゼの阻害において有用であり、強力な抗真菌活性が当技術分野で必要とされる感染状況である例えばpHが約5以下である酸性局所条件下で生じる真菌感染症の予防または治療において特に有用である。
【0018】
本発明は、例えば前記に記載されているものなどの当技術分野における要求に対処するものである。なぜなら、本明細書に記載されているエンフマファンギン誘導体は、(a)酸性pHにおいて活性を意外にも保有するだけでなく、(b)より一層驚くべきことに、低pH条件下で抗真菌効力の有意な増強をも示すからである。これらの特性は、酸性pHが予想される領域および他の抗真菌剤が低pH局所環境ゆえに効力の低下を示すと予想される領域における真菌感染症の治療において特に有用かつ重要である。低pH環境が予想される真菌感染症の幾つかの例には、外陰膣カンジダ症(VVC)、腹部膿瘍、膿胸、肺膿瘍、肝膿瘍および中咽頭または食道膿瘍が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
これらの化合物の抗真菌活性は、驚くべきことに、酸性条件下で増強されるため、本発明の用途には、酸性条件における真菌感染症を治療または予防するのに有効である(エンフマファンギン誘導体の)濃度を、感染部位において、より容易に達成しうること(例えば、酸性条件下の真菌感染症を治療または予防するのに必要なMICを超える濃度をより容易に達成しうること)が含まれるが、これに限定されるものではない。酸性条件下で抗真菌活性が増強されるため、低pH条件下で感染症を治療または予防するのに要求される本エンフマファンギン誘導体のMICは、約7のpH条件で感染症を治療または予防するのに要求されるエンフマファンギン誘導体のMICより低い。本発明はまた、酸性pH条件下(例えば、約5以下のpH)で生じる真菌感染症の治療または予防において、約7のpH条件下で真菌感染症を治療するのに要求される用量より低いエンフマファンギン誘導体の用量を投与することを可能にする。
【0020】
本発明は、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防のための、対象における、式(I):
【化1】
【0021】
[式中、
XはOまたはH,Hである;
Reは、C(O)NRfRg、または1個もしくは2個の窒素原子を含有する6員環ヘテロアリール基であり、ここで、該ヘテロアリール基は、所望により、フルオロもしくはクロロにより環炭素上で、または酸素により環窒素上でモノ置換(一置換)されていてもよい;
Rf、Rg、R6およびR7は、それぞれ独立して、水素またはC1-C3アルキルである;
R8はC1-C4アルキル、C3-C4シクロアルキルまたはC4-C5シクロアルキル-アルキルである;
R9はメチルまたはエチルである;ならびに
R8およびR9は、所望により、一緒になって、1個の酸素原子を含有する6員飽和環を形成していてもよい]
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、例えば約5、約4.5もしくは約4のpHを含む約7より低いpHを有する条件または解剖学的領域で生じる酵母またはカビ感染症でありうる。そのような感染症には、膣酵母感染症、任意の位置における真菌性膿瘍または蓄膿および上部消化管における感染症が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明はまた、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を投与することによる、対象における、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防方法を提供する。更に、本発明は、対象において酸性pH条件下で生じる真菌感染症を治療するための医薬の製造における、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。
【0023】
発明の詳細な説明
過去の報告は、ほとんどの抗真菌剤の効力が、低いpHで低下することを示している。現在までの抗真菌剤はいずれも、酸性条件においてカンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(ヒトにおいて感染症を引き起こす最も一般的なカンジダ属種)に対して試験された場合、効力の有意な増強(例えば、MICにおける4倍を超える減少により示されるもの)を示していない。意外にも、本明細書に記載されているエンフマファンギン誘導体は、低いpHで試験された場合に、それらの抗真菌効力の有意な増強を示し、低pH条件下の真菌感染症の治療または予防において該化合物を使用する場合の予想外の臨床的利益の基礎をもたらす。酸性条件下のエンフマファンギン誘導体の活性の増強の潜在的な臨床的利点の例には、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:酸性条件下で生じる真菌感染症の治療または予防における効力の改善、原因真菌病原体のMICを超える組織濃度に達する可能性の増加(病原体を殺し又はその増殖を妨げる、より大きな機会をもたらす)、および中性pH条件下で感染を治療または予防するのに要求される用量より低いエンフマファンギン誘導体の用量を投与することによっても結果の成功を達成する機会が得られること。
【0024】
本発明は、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防のための、対象における、式(I):
【化2】
【0025】
[式中、
XはOまたはH,Hである;
Reは、C(O)NRfRg、または1個もしくは2個の窒素原子を含有する6員環ヘテロアリール基であり、ここで、該ヘテロアリール基は、所望により、フルオロもしくはクロロにより環炭素上で、または酸素により環窒素上でモノ置換(一置換)されていてもよい;
Rf、Rg、R6およびR7は、それぞれ独立して、水素またはC1-C3アルキルである;
R8はC1-C4アルキル、C3-C4シクロアルキルまたはC4-C5シクロアルキル-アルキルである;
R9はメチルまたはエチルである;ならびに
R8およびR9は、所望により、一緒になって、1個の酸素原子を含有する6員飽和環を形成していてもよい]
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、例えば約4~約6.8のpHを含む約7より低いpHを有する条件または解剖学的領域で生じる酵母またはカビ感染症でありうる。幾つかの実施形態においては、pHは約4~約6の範囲であり、ある実施形態、例えば膣酵母感染症においては、pHは約5より低く、より詳細には約4~約4.5でありうる。本発明の方法により治療可能および/または予防可能な感染症には、膣酵母感染症、任意の位置における真菌性膿瘍または蓄膿および上部消化管における感染症が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明はまた、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を投与することによる、対象における、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防方法を提供する。更に、本発明は、対象において酸性pH条件下で生じる真菌感染症を治療するための医薬の製造における、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。
【0027】
本発明はまた、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防のための、対象における、式(Ia):
【化3】
【0028】
[式中、置換基は、式(I)に記載されているとおりである]
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、例えば約4~約6.8のpHを含む約7より低いpHを有する条件または解剖学的領域で生じる酵母またはカビ感染症でありうる。幾つかの実施形態においては、pHは約4~約6の範囲であり、ある実施形態、例えば膣酵母感染症においては、pHは約5より低く、より詳細には約4~約4.5でありうる。本発明の方法により治療可能および/または予防可能な感染症には、膣酵母感染症、任意の位置における真菌性膿瘍または蓄膿および上部消化管における感染症が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明はまた、式(Ia)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を投与することによる、対象における、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防方法を提供する。更に、本発明は、対象において酸性pH条件下で生じる真菌感染症を治療するための医薬の製造における、式(Ia)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。
【0030】
実施形態1においては、XはH,Hであり、その他の置換基は、式(I)に記載されているとおりである。
【0031】
実施例2においては、Reは、フルオロもしくはクロロにより環炭素上で、または酸素により環窒素上で、所望によりモノ置換(一置換)されていてもよいピリジルまたはピリミジニルであり、その他の置換基は、実施形態1または式(I)に記載されているとおりである。
【0032】
実施形態3においては、Reは4-ピリジルであり、その他の置換基は、実施形態1または式(I)に記載されているとおりである。
【0033】
実施形態4においては、ReはC(O)NH2またはC(O)NH(C1-C3アルキル)であり、その他の置換基は、実施形態1または式(I)に記載されているとおりである。
【0034】
実施形態5においては、R8はC1-C4アルキルであり、R9はメチルであり、その他の置換基は、実施形態1、2、3もしくは4または式(I)に記載されているとおりである。
【0035】
実施形態6においては、R8はt-ブチルであり、R9はメチルであり、その他の置換基は、実施形態1、2、3もしくは4または式(I)に記載されているとおりである。
【0036】
実施形態7においては、R6およびR7は、それぞれ独立して、水素またはメチルであり、その他の置換基は、実施形態1、2、3、4、5もしくは6または式(I)に記載されているとおりである。
【0037】
実施形態1’においては、XはH,Hであり、その他の置換基は、式(Ia)に記載されているとおりである。
【0038】
実施形態2’においては、Reは、フルオロもしくはクロロにより環炭素上で、または酸素により環窒素上で、所望によりモノ置換(一置換)されていてもよいピリジルまたはピリミジニルであり、その他の置換基は、実施形態1’または式(Ia)に記載されているとおりである。
【0039】
実施形態3’においては、Reは4-ピリジルであり、その他の置換基は、実施形態1’または式(Ia)に記載されているとおりである。
【0040】
実施形態4’においては、ReはC(O)NH2またはC(O)NH(C1-C3アルキル)であり、その他の置換基は、実施形態1’または式(Ia)に記載されているとおりである。
【0041】
実施形態5’においては、R8はC1-C4アルキルであり、R9はメチルであり、その他の置換基は、実施形態1’、2’、3’もしくは4’または式(Ia)に記載されているとおりである。
【0042】
実施形態6’においては、R8はt-ブチルであり、R9はメチルであり、その他の置換基は、実施形態1’、2’、3’もしくは4’または式(Ia)に記載されているとおりである。
【0043】
実施形態7’においては、R6およびR7は、それぞれ独立して、水素またはメチルであり、その他の置換基は、実施形態1’、2’、3’、4’、5’もしくは6’または式(Ia)に記載されているとおりである。
【0044】
好ましい実施形態においては、本発明は、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防のための、対象における、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である式(II):
【化4】
【0045】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、例えば約4~約6.8のpHを含む約7より低いpHを有する条件または解剖学的領域で生じる酵母またはカビ感染症でありうる。幾つかの実施形態においては、pHは約4~約6の範囲であり、ある実施形態、例えば膣酵母感染症においては、pHは約5より低く、より詳細には約4~約4.5でありうる。本発明の方法により治療可能および/または予防可能な感染症には、膣酵母感染症、任意の位置における真菌性膿瘍または蓄膿および上部消化管における感染症が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明はまた、式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を投与することによる、対象における、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防方法を提供する。更に、本発明は、対象において酸性pH条件下で生じる真菌感染症を治療するための医薬の製造における、式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。
【0047】
他の好ましい実施形態においては、本発明は、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防のための、対象における、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である式(IIa):
【化5】
【0048】
の化合物(本明細書においてはSCY-078と称される)またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、例えば約4~約6.8のpHを含む約7より低いpHを有する条件または解剖学的領域で生じる酵母またはカビ感染症でありうる。幾つかの実施形態においては、pHは約4~約6の範囲であり、ある実施形態、例えば膣酵母感染症においては、pHは約5より低く、より詳細には約4~約4.5でありうる。本発明の方法により治療可能および/または予防可能な感染症には、膣酵母感染症、任意の位置における真菌性膿瘍または蓄膿および上部消化管における感染症が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明はまた、式(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を投与することによる、対象における、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防方法を提供する。更に、本発明は、対象において酸性pH条件下で生じる真菌感染症を治療するための医薬の製造における、式(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物の使用を提供する。
【0050】
好ましい実施形態においては、式(I)、(Ia)、(II)または(IIa)の化合物のリン酸塩が、本明細書に記載されているとおりに使用または投与される。
【0051】
好ましい実施形態においては、式(I)、(Ia)、(II)または(IIa)の化合物のクエン酸塩が、本明細書に記載されているとおりに使用または投与される。
【0052】
本発明はまた、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防のための、対象における、式(I)、(Ia)、(II)もしくは(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物と薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルとを含む医薬組成物の使用を提供する。真菌感染症は、約7より低いpH、例えば、約4~約6の範囲のpH、より詳細には約5、約4.5または約4のpHを有する条件または解剖学的領域で生じる酵母またはカビ感染症でありうる。そのような感染症には、膣酵母感染症、任意の位置における真菌性膿瘍または蓄膿および上部消化管における感染症が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、膣環境におけるpHは約4~4.5であり、膿瘍のpHは約5.5~約6.8の範囲でありうる。
【0053】
本発明はまた、式(I)、(Ia)、(II)もしくは(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を含む医薬組成物を投与することによる、対象における、酸性pH条件下で生じる真菌感染症の治療または予防方法を提供する。
【0054】
前記の実施形態における化合物の説明においては、示されている置換は、定義に合致した安定化合物を該置換が与える場合に限り、含まれる。
【0055】
一般式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにその薬学的に許容される塩および/または水和物形態は、以下のものの1以上を含む酵母および他の真菌に対する抗微生物(例えば、抗真菌)活性を有する:アクレモニウム(Acremonium)、アブシジア(Absidia)(例えば、アブシジア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera))、アルテルナリア(Alternaria)、アスペルギルス(Aspergillus)(例えば、アスペルギルス・クラバツス(Aspergillus clavatus)、アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)およびアスペルギルス・ベルシコロール(Aspergillus versicolor))、ビポラリス(Bipolaris)、ブラストミセス(Blastomyces)(例えば、ブラストミセス・デルマチチディス(Blastomyces dermatitidis))、ブラストシゾミセス(Blastoschizomyces)(例えば、ブラストシゾミセス・カピタツス(Blastoschizomyces capitatus))、カンジダ(Candida)(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・ギリエルモンジイ(Candida guilliermondii)、カンジダ・ケフィル(Candida kefyr)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・ルシタニエ(Candida lusitaniae)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・シュードトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、カンジダ・ステラトイデ(Candida stellatoidea)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)、カンジダ・リポリチカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ファマタ(Candida famata)およびカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa))、クラドスポリウム(Cladosporium)(例えば、クラドスポリウム・カルリオニイ(Cladosporium carrionii)およびクラドスポリウム・トリクロイデス(Cladosporium trichloides))、コクシジオイデス(Coccidioides)(例えば、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis))、クリプトコッカス(Cryptococcus)(例えば、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans))、クルブラリア(Curvularia)、クニンガメラ(Cunninghamella)(例えば、クニンガメラ・エレガンス(Cunninghamella elegans))、デルマトファイト(皮膚糸状菌)(Dermatophyte)、エクソフィアラ(Exophiala(例えば、エクソフィアラ・デルマチチディス(Exophiala dermatitidis)およびエクソフィアラ・スピニフェラ(Exophiala spinifera))、エピデルモフィトン(Epidermophyton)(例えば、エピデルモフィトン・フロッコスム(Epidermophyton floccosum))、フォンセカエ(Fonsecaea)(例えば、フォンセカエ・ペドロソイ(Fonsecaea pedrosoi))、フザリウム(Fusarium)(例えば、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani))、ゲオトリクム(Geotrichum)(例えば、ゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candiddum)およびゲオトリクム・クラバツム(Geotrichum clavatum))、ヒストプラズマ(Histoplasma)(例えば、ヒストプラズマ・カプスラーツム・バール・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum var.capsulatum))、マラセジア(Malassezia)(例えば、マラセジア・フルフール(Malassezia furfur))、ミクロスポルム(Microsporum)(例えば、ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)およびミクロスポルム・ギプセウム(Microsporum gypseum))、ムコール(Mucor)、パラコクシジオイデス(Paracoccidioides)(例えば、パラコクシジオイデス・ブラシリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis))、ペニシリウム(Penicillium)(例えば、ペニシリウム・マルネッフェイ(Penicillium marneffei))、フィアロフォラ(Phialophora)、ピチロスポルム・オバレ(Pityrosporum ovale)、ニューモシスチス(Pneumocystis)(例えば、ニューモシスチス・カリニイ(Pneumocystis carinii))、シュードアレシェリア(Pseudallescheria)(例えば、シュードアレシェリア・ボイディ(Pseudallescheria boydii))、リゾプス(Rhizopus)(例えば、リゾプス・ミクロスポルス・バール・リゾポジフォルミス(Rhizopus microsporus var.rhizopodiformis)およびリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae))、サッカロミセス(Saccharomyces)(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、スケドスポリウム(Scedosporium)(例えば、スケドスポリウム・アピオスペルム(Scedosporium apiosperum))、スコプラリオプシス(Scopulariopsis)、スポロトリックス(Sporothrix)(例えば、スポロトリックス・シェンキィ(Sporothrix schenckii))、トリコデルマ(Trichoderma)、トリコフィトン(Trichophyton)(例えば、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)およびトリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum))、およびトリコスポロン(Trichosporon)(例えば、トリコスポロン・アサヒイ(Trichosporon asahii)、トリコスポロン・ベイゲリイ(Trichosporon beigelii)およびトリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum)。該化合物は、全身性ヒト病原性真菌感染症を引き起こす生物に対して有用であるだけでなく、表在性真菌感染症を引き起こす生物、例えばトリコデルマ属種(Trichoderma spp.)および他のカンジダ属種(Candida spp.)に対しても有用である。該化合物はカンジダ属種およびアスペルギルス属種(Aspergillus species)に対して特に有効である。
【0056】
それらの抗真菌活性を考慮すると、式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにそれらの薬学的に許容される塩および/または水和物形態は、外陰部、膣、皮膚、眼、毛、爪、口腔粘膜、消化管、気管支、肺、胸膜、腹膜、心内膜、脳、髄膜、尿器官、膣部、口腔、全身、腎臓、気管支、心臓、外耳道、骨、鼻腔、副鼻腔、脾臓、肝臓、皮下組織、リンパ管、胃腸、関節、筋肉、腱、肺における間質形質細胞、血液などにおける種々の表在性、皮膚、粘膜皮膚、皮下および全身性真菌感染症の1以上の治療および/または予防に有用である。
【0057】
式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにその薬学的に許容される塩および/または水和物形態は、例えば外陰膣カンジダ症(VVC)、皮膚糸状菌症(例えば、トリコフィトン感染症、白癬または白癬感染症)、爪周囲炎、澱風、紅色陰癬、間擦疹、真菌性おむつかぶれ、外陰部カンジダ、カンジダ粘液炎、外耳炎、カンジダ症(皮膚および粘膜皮膚)、慢性粘膜カンジダ症(例えば、鵞口瘡および膣カンジダ症)、クリプトコッカス症、ジオトリクム症、砂毛症、アスペルギルス症、ペニシリウム症、フザリウム症、接合菌症、スポロトリクム症、黒色真菌症、コクシジオイデス症、ヒストプラスマ症、ブラストミセス症、パラコクシジオイデス症、シュードアレシェリア症(pseudallescheriosis)、菌腫、真菌性角膜炎、耳真菌症、ニューモシスチス症、真菌性膿瘍、真菌性膿胸および真菌血症のような種々の感染症の1以上の予防および治療に有用である。式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにその薬学的に許容される塩および/または水和物形態は、全身性真菌感染症および局所性真菌感染症を予防するための予防剤としても使用されうる。
【0058】
式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにその薬学的に許容される塩および/または水和物形態は、再発性VVCに罹患している患者におけるVVCの再発を予防するために使用されうる。予防剤としての使用は、例えば、免疫無防備状態の患者(例えば、エイズ患者、癌治療を受けている患者または移植患者)の感染予防における選択的腸内汚染除去レジメンの一部として適切でありうる。幾つかの疾患症候群または医原性状態においては、抗生物質治療中の真菌増殖の予防も望ましいかもしれない。特に、抗生物質治療を受けている患者またはカンジダ属種増殖に関する無制御リスク因子(例えば、高血糖)を有する者における膣でのカンジダ属種増殖の予防が望ましいかもしれない。
【0059】
式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにその薬学的に許容される塩および/または水和物形態は、米国特許第8,188,085号(その内容の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている合成方法に従い製造されうる。
【0060】
本明細書中で用いる「アルキル」なる語は、示された範囲内の炭素原子数を有する任意の直鎖または分枝鎖アルキル基を意味する。したがって、例えば、「C1-6アルキル」(または「C1-C6アルキル」)は、ヘキシルアルキルおよびペンチルアルキル異性体の全て、ならびにn-、iso-、sec-、t-ブチル、n-およびイソプロピル、エチルおよびメチルを意味する。もう1つの例としては、「C1-4アルキル」はn-、iso-、sec-およびt-ブチル、n-およびイソプロピル、エチルおよびメチルを意味する。
【0061】
「シクロアルキル」なる語は、示された範囲内の炭素原子数を有するアルカンの任意の環状環を意味する。したがって、例えば、「C3-4シクロアルキル」(または「C3-C4シクロアルキル」)はシクロプロピルおよびシクロブチルを意味する。
【0062】
本明細書中で用いる「シクロアルキル-アルキル」(または同等のものとして「アルキル-シクロアルキル」)なる語は、前記のアルキル部分を含むと同時に前記のシクロアルキル部分をも含む系を意味する。「シクロアルキル-アルキル」(または「アルキル-シクロアルキル」)への結合は該シクロアルキルまたはアルキル部分を介したものでありうる。「シクロアルキル-アルキル」系における示された炭素原子数は、アルキル部分とシクロアルキル部分との両方における炭素原子の総数を意味する。C4-C5シクロアルキル-アルキルの例には、メチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、エチルシクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチルおよびシクロブチルメチルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
「ハロゲン」(または「ハロ」)なる語はフッ素、塩素、臭素およびヨウ素(あるいは、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードと称される)を意味する。
【0064】
本明細書中で用いる「または」なる語は、適切な場合に組合されてもよい選択肢を示す。
【0065】
特に明示されていない限り、本明細書中に示されている全ての範囲は包括的である。例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されている複素環は、該環が1、2、3または4個のヘテロ原子を含みうることを意味する。また、本明細書中に示されている任意の範囲は、その範囲内に、その範囲内の下位範囲の全てを含むと理解されるべきである。したがって、例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されている複素環は、その態様として、2~4個のヘテロ原子、3または4個のヘテロ原子、1~3個のヘテロ原子、2または3個のヘテロ原子、1または2個のヘテロ原子、1個のヘテロ原子、2個のヘテロ原子などを含むと意図される。
【0066】
本明細書中に定義されている種々のシクロアルキルおよび複素環/ヘテロアリール環および環系はいずれも、安定な化合物が得られる限り、任意の環原子(すなわち、任意の炭素原子または任意のヘテロ原子)において該化合物の残部に結合可能である。適切な5または6員ヘテロ芳香族環には、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニルおよびトリアゾリルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
「安定」な化合物は、製造可能かつ単離可能な化合物であって、本明細書に記載されている目的(例えば、対象への治療的または予防的投与)のための該化合物の使用を可能にするのに十分な時間にわたってその構造および特性が実質的に不変のままである又は実質的に不変のままにされうる化合物である。化合物に対する言及は、該化合物の安定な複合体、例えば安定な水和物をも含む。
【0068】
置換基および置換基パターンの選択の結果として、式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物の或るものは不斉中心を有することがあり、立体異性体の混合物として、または個々のジアステレオマーもしくはエナンチオマーとして存在しうる。特に示されていない限り、これらの化合物の全異性体(ならびにそれらの薬学的に許容される塩および/または水和物形態)は、単離されたものであるか混合物中のものであるかにかかわらず、本発明の範囲内である。示されている化合物(およびその薬学的に許容される塩および/または水和物形態)の互変異性形態も本発明の範囲内に含まれる。
【0069】
任意の構成成分において、または式(I)、(Ia)、(II)もしくは(IIa)において、いずれかの可変物が2つ以上存在する場合、各存在におけるその定義は、それぞれの他の存在におけるその定義から独立している。また、置換基および/または可変物の組合せは、そのような組合せが安定化合物をもたらす場合にのみ許容される。
【0070】
「置換(された)」なる語は、示されている置換基によるモノ置換(一置換)およびポリ置換(多置換)を含む。ただし、そのような一置換および多置換(同一部位における複数の置換を含む)は化学的に許容されるものでなければならない。特に明示されていない限り、示されている置換基による置換は、環(例えば、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリールまたはヘテロシクリル)内の任意の原子上で許容される。ただし、そのような環置換は、化学的に許容され安定化合物を与えるものでなければならない。
【0071】
波線により終結している結合は、本明細書においては、置換基または部分構造の結合点を示すために用いられる。この使用例を以下の例により示す。
【化6】
【0072】
式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにその薬学的に許容される塩および/または水和物形態は抗真菌化合物に関するスクリーニングアッセイの調製および実施においても有用である。例えば、該化合物は、更なる抗真菌化合物を特定するための優れたスクリーニング手段である突然変異体を単離するのに有用である。
【0073】
式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物は、適宜、「薬学的に許容される塩」または水和物の形態で投与されうる。一方、他の塩は、該化合物またはそれらの薬学的に許容される塩の製造において有用でありうる。例えば、該化合物が塩基性アミン基を含有する場合、それらは(例えば、HPLC精製後に)トリフルオロ酢酸塩として簡便に単離されうる。トリフルオロ酢酸塩から、薬学的に許容される塩を含む他の塩への変換は、当技術分野で公知の多数の標準的な方法により達成されうる。例えば、所望の塩を得るために、適切なイオン交換樹脂が使用されうる。あるいは、トリフルオロ酢酸塩から親遊離アミンへの変換は、当技術分野で公知の標準的な方法(例えば、NaHCO3のような適切な無機塩基での中和)により達成されうる。ついで、遊離塩基を適切な有機酸または無機酸と反応させることにより、他の所望のアミン塩が常法により製造されうる。代表的な薬学的に許容される第四級アンモニウム塩には以下のものが含まれる:塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、フマル酸塩、馬尿酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、アジピン酸塩、グルセプト酸塩、グルタミン酸塩、グルコロン酸塩(glucoronate)、プロピオン酸塩、安息香酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、オレイン酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリル硫酸塩、ベシル酸塩、カプリル酸塩、イセチオン酸塩、ゲンチジン酸塩、マロン酸塩、ナプシル酸塩、エジシル酸塩、パモ酸塩、キシナホ酸塩、ナパジシル酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、桂皮酸塩、マンデル酸塩、ウンデシレン酸塩およびカンシル酸塩。式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物の多くは酸性カルボン酸部分を有し、その場合、その適切な薬学的に許容される塩には、アルカリ金属塩、例えばナトリウムまたはカリウム塩;アルカリ土類金属塩、例えばカルシウムまたはマグネシウム塩;および適切な有機リガンドと共に形成される塩、例えば第四級アンモニウム塩が含まれうる。
【0074】
本発明は、その範囲内に、式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物のプロドラッグの使用を含む。一般に、そのようなプロドラッグは、必要な化合物へとインビボで容易に変換可能である、該化合物の機能的誘導体である。したがって、本発明の治療方法においては、「投与する」なる語は、具体的に開示されている化合物で、または患者への投与後に、特定されている化合物へとインビボで変換される化合物で、記載されている種々の病態を治療することを含むものとする。適切なプロドラッグ誘導体の選択および製造のための通常の手順は、例えば、“Design of Prodrugs”,H.Bundgaard編,Elsevier,1985(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物の代謝産物には、生物学的環境中への該化合物の導入に際して産生される活性種が含まれる。
【0075】
「投与」なる語およびその派生語(例えば、化合物を「投与する」)は、化合物(所望により、その塩または水和物の形態)または該化合物のプロドラッグを、治療を要する対象に与えることを意味する。式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物もしくはプロドラッグを、第2の活性剤(例えば、真菌および/または細菌感染症の治療に有用な他の抗真菌および/または抗細菌剤)と組合せて投与する場合、「投与」およびその派生語は、それぞれ、該化合物(またはその塩、水和物またはプロドラッグ)とその他の活性剤との同時供与および連続的供与を含むと理解される。
【0076】
本明細書中で用いる「組成物」なる語は、特定されている成分を含む産物、および特定されている成分を組合せることによって直接的または間接的に生じる任意の産物を含むと意図される。
【0077】
「薬学的に許容される」は、医薬組成物の成分が互いに適合していなければならず、その被投与者に有害でないことを意味する。
【0078】
本明細書中で用いる「対象」(あるいは、本明細書においては「患者」と称される)なる語は、治療、観察または実験の対象である動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを意味する。
【0079】
「抗真菌活性の増強」なる語は、例えばpHが約4~4.5である条件(これは膣感染症に臨床的に関連している)のような臨床的に関連した酸性条件下で試験された場合に、インビトロ最小阻止濃度(MIC50)において、約7の中性pHで試験された場合に観察されるMIC50と比較して4倍より大きな低下を示す、式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物もしくはプロドラッグの効果を意味する。
【0080】
本明細書中で用いる「有効量」なる語は、研究者、獣医、医師または他の臨床家により求められている組織、系、動物またはヒトにおける生物学的または医学的応答を誘発する有効成分または医薬物質の量を意味する。1つの実施形態においては、「有効量」は、治療される疾患または状態の症状を軽減する治療的有効量でありうる。もう1つの実施形態においては、「有効量」は、予防される疾患または状態の症状の予防のための、あるいは発生の可能性を低減するための予防的有効量でありうる。該用語は、(1,3)-β-D-グルカンシンターゼを阻害することにより、求められている応答を惹起するのに十分な、エンフマファンギン誘導体の阻害有効量をも意味しうる。
【0081】
「治療する」、「治療し」、「治療」およびそれらの派生語に対する言及は、一般に、それが投与された後、真菌感染症に関連した1以上の徴候または症状の消散または改善、あるいは感染症を引き起こす真菌の根絶、あるいはこれらの結果の任意の組合せをもたらす治療を意味する。
【0082】
真菌感染症の予防または治療の目的には、式(I)、(Ia)、(II)または(IIa)の化合物(所望により、塩または水和物の形態)は、医薬との併用に利用可能な通常の方法で投与されうる。
【0083】
酸性pHを有する条件または解剖学的領域において生じる真菌感染症の予防または治療の目的には、式(I)、(Ia)、(II)または(IIa)の化合物(所望により、塩または水和物の形態)は、個々の治療剤として単独で、または複数の治療剤の組合せとして1以上の他の抗真菌剤と共に(連続的または同時に)投与されうる。
【0084】
真菌感染症の予防または治療の目的には、式(I)、(Ia)、(II)または(IIa)の化合物(所望により、塩または水和物の形態)は、選択される投与経路および標準的な医薬慣例に基づいて選択される医薬担体と共に投与されうる。
【0085】
例えば、式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにそれらの薬学的な塩および/または水和物形態は、例えば、個々の又は組合された該化合物の有効量と通常の薬学的に許容される無毒性担体、アジュバントおよびビヒクルとを含有する医薬組成物の1以上の単位用量の形態で、以下の経路の1以上により、すなわち、経口的、非経口的(皮下注射、静脈内、筋肉内、病変内注射または注入技術を含む)に、吸入(例えば、鼻または頬吸入スプレー、定量吸入器からのエアロゾルおよび乾燥粉末吸入器)により、ネブライザーにより、眼内、局所的、経皮的または直腸経路により投与されうる。経口投与に適した液体製剤(例えば、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤など)は、当技術分野で公知の技術に従い製造可能であり、通常の媒体、例えば水、グリコール、油、アルコールなどを使用することが可能である。経口投与に適した固体製剤(例えば、散剤、丸剤、カプセル剤および錠剤)は、当技術分野で公知の技術に従い製造可能であり、例えばデンプン、糖、カオリン、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などのような固体賦形剤を使用することが可能である。非経口組成物は、当技術分野で公知の技術に従い製造可能であり、典型的には、担体としての無菌水を使用することが可能であり、そして所望により、他の成分、例えば溶解補助剤を使用してもよい。注射用溶液は当技術分野で公知の方法に従い製造可能であり、この場合、担体は生理食塩水、グルコース溶液、または生理食塩水とグルコースとの混合物を含有する溶液を含む。
【0086】
医薬組成物の製造における使用に適した方法および該組成物における使用に適した成分の更に詳細な説明は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,20th edition,A.R.Gennaro編,Mack Publishing Co.,2000に記載されている。
【0087】
式(I)、(Ia)、(II)および(IIa)の化合物ならびにそれらの薬学的に許容される塩および/または水和物形態は、単回投与または分割投与で1日当たり例えば0.001~1000mg/kg哺乳動物(例えば、ヒト)体重の用量範囲で、例えば経口的または静脈内に投与されうる。用量範囲の一例は、経口的なまたは静脈内への単回投与または分割投与で1日当たり0.01~500mg/kg体重である。用量範囲のもう1つの例は、経口的なまたは静脈内への単回投与または分割投与で1日当たり0.1~50mg/kg体重である。経口投与の場合、該組成物は、例えば1.0~1000ミリグラムの有効成分、特に1、5、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、750および1000ミリグラムの有効成分を含有する錠剤またはカプセル剤の形態で、用量の症候的調節のために、治療される患者に投与されうる。いずれかの特定の患者に対する具体的な用量レベルおよび投与頻度は変動可能であり、使用される具体的な化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、全身健康状態、性別、食事、投与の様式および時間、排泄速度、薬物の組合せ、個々の状態の重症度ならびに宿主が受けている療法を含む種々の要因に左右されるであろう。例えば、幾つかの実施形態においては、式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩を、式(IIa)の化合物の総1日量が150~600mgとなるように、対象に投与する。ある実施形態においては、式(IIa)の化合物の総1日量150mg、総1日量300mgまたは総1日量600mgを投与する。総1日量は1日1回投与されることが可能であり、あるいはそれはBID(1日2回)投与またはTID(1日3回)投与のように分割されうる。幾つかの実施形態においては、式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩をBIDで投与して、式(IIa)の化合物の150~300mgを1日2回で、式(IIa)の化合物の300mg~600mgの総1日量として投与する。1つの実施形態においては、式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩を含有する2つの錠剤(各錠剤は式(IIa)の化合物150mgを与える)を対象に投与し、ついで、12時間後に、更に2つのそのような錠剤を対象に投与する(600mgの総1日量)。もう1つの実施形態においては、式(IIa)の化合物の150mgを与える式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩を含有する錠剤を対象に投与し、ついで、12時間後に、もう1つのそのような錠剤を対象に投与する(300mgの総1日量)。
【0088】
本発明は、式(I)、(Ia)、(II)または(IIa)の化合物(またはその薬学的に許容される塩または水和物)の有効量を投与することを含む、低pH環境(例えば、pHが約5未満の環境)において生じる真菌感染症の治療または予防方法を提供し、ここで、該有効量は、pHが約7の場合に生じる真菌感染症を治療または予防するために必要とされる該化合物の量より少ない。
【0089】
例えば、pHが例えば約4~4.5であるpH条件下で真菌感染症を治療または予防するのに有効な式(I)、(Ia)、(II)または(IIa)の化合物の量は、pHが約7である条件下の真菌感染症を治療または予防するために必要とされる該化合物の量より約90%、約80%、約70%、約60%または約50%少ないことが可能である。本明細書に示されているとおり、本発明の方法の例示的な実施形態においては、式(I)、(Ia)、(II)もしくは(IIa)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物は、pHが4.5である環境を含む低pH環境において効力の増強を示した。また、経口投与後の組織(膣組織を含む)への良好な吸収および送達がマウスにおいて示された。したがって、本発明は、式(I)、(Ia)、(II)もしくは(IIa)の化合物(またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物)の低減投与量を、感染部位における該化合物の有効量を達成するために使用する可能性を提供する。
【0090】
化合物の抗真菌活性は、当技術分野で公知の種々のアッセイにより、例えば、マウスまたはウサギモデルにおける抗カンジダおよび抗アスペルギルス活性のインビボ評価において、あるいはブロス微量希釈アッセイにおいて、糸状カビおよび皮膚糸状菌に対する最小有効濃度(MEC)、および酵母に対するその最小阻止濃度(MIC)により示されうる。米国特許第8,188,085号の実施例に記載されている式(I)の化合物は、一般に、<0.03~32μg/mLの範囲でカンジダ属種の増殖を抑制すること、および<0.03~32μg/mLの範囲でアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)に対するMECを示すことが判明した。
【0091】
実施例
以下の実施例は本発明およびその実施を単に例示するために用いられるに過ぎない。これらの実施例は本発明の範囲または精神を限定するものと解釈されるべきではない。
【0092】
実施例1
臨床的膣カンジダ・グラブラタおよびカンジダ・アルビカンス分離体の感受性に対するpHの影響の評価
この研究の目的は、エンフマファンギン誘導体の代表的化合物(例えば、SCY-078のクエン酸塩)に対するカンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)膣分離体のインビトロ感受性に試験培地pHの変化が影響を及ぼすかどうかを、フルコナゾールおよびミカファンギンを比較物質として使用して判定することであった。
【0093】
材料および方法
臨床分離体および抗真菌剤
カンジダ・グラブラタ(C.glabrata)およびカンジダ・アルビカンス(C.albicans)膣分離体のそれぞれ10株を試験した。該株は、治療前に外陰膣カンジダ症(VVC)を有する最近の臨床試験患者から得た。カンジダ株はMycology Reference Library(MRL)(Case Western Reserve University School of Medicine,Ohio,United States)から得た。
【0094】
抗真菌感受性試験
CLSI M27-A3ガイドライン(CLSI.2008.Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts;Approved Standard-Third Edition.Clinical and Laboratory Standards Institute,CLSI document M27-A3)に従いブロス微量希釈法を用いて、感受性試験を行った。試験した抗真菌剤および濃度はSCY-078およびミカファンギン(共に濃度は0.015~8μg/mlの範囲内)およびフルコナゾール(濃度は0.125~64μg/mlの範囲内)であった。0.1mlのカンジダ・アルビカンス(C.albicans)およびカンジダ・グラブラタ(C.glabrata)接種物(RPMI 1640培地内の0.5~2.5×103個の分芽胞子)を各微量希釈ウェルに加えた。品質管理を保証するために、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)およびカンジダ・クルセイ(Candida krusei)QC分離体のATCC株も同時に含めた。NaOHまたはHClを使用して培地のpHを調節することにより、pH7(CLSI M-27A3文書による酵母の感受性を試験する際に使用さえたRPMI培地を模倣するため)、pH5.7およびpH4.5(膣腔のpHを模倣するため)において、RPMI 1640内で各分離体に関して抗真菌感受性試験を行った。Marrら,The trailing end point phenotype in antifungal susceptibility testing is PH dependent,Antimicrob.Agents Chemother.,43:1383-1386(1999)に記載されているとおりにモルホリンプロパンスルホン酸(MOPS;0.165M)を使用して、培地の緩衝化を行った。
【0095】
35℃で24時間のインキュベーションの後、対照の増殖と比較して、光学密度により決定される、増殖における50%の減少として、阻害エンドポイントを読取った。SCY-078粉末はAvista,Laboratories,NCにより製造された。ミカファンギンおよびフルコナゾールはLGM Pharmaから入手された。
【0096】
結果
カンジダ・グラブラタに対するSCY-078の活性
表1a~1cはカンジダ・グラブラタ(C.glabrata)に対する試験化合物のMIC範囲およびMIC50およびMIC90を示す。カンジダ・グラブラタ分離体に対するpH7.0、pH5.72およびpH4.5におけるSCY-078のMIC範囲は、それぞれ、0.5~1μg/mL、0.5μg/mLおよび0.031~0.063μg/mLであった。pH7.0におけるSCY-078のMIC50およびMIC90は1μg/mLであった。pH5.72におけるSCY-078のMIC50およびMIC90は0.5μg/mLであった。pH4.5におけるSCY-078のMIC50およびMIC90は0.063μg/mLであった。これらの結果は、pH7.0でのMIC50と比較して、pH4.5でのMIC50における有意な16倍の減少を示した。これはカンジダ・グラブラタに対するpH4.5での抗真菌効力の有意な増強を示している。
【0097】
カンジダ・アルビカンスに対するSCY-078の活性
表2a~2cはカンジダ・アルビカンス(C.albicans)に対する試験化合物のMIC範囲およびMIC50およびMIC90を示す。カンジダ・アルビカンス分離体に対するpH7.0、pH5.72およびpH4.5におけるSCY-078のMIC範囲は、それぞれ、0.125~0.5μg/mL、0.125~0.25μg/mLおよび<0.016~0.031μg/mLであった。pH7.0およびpH5.72におけるSCY-078のMIC50は0.25μg/mLであり、MIC90は、それぞれ、0.5および0.25μg/mLであった。pH4.5におけるSCY-078のMIC50およびMIC90は<0.016μg/mLであった。これらの結果は、pH7.0でのMIC50と比較して、pH4.5でのMIC50における有意な16倍の減少を示した。これはカンジダ・アルビカンスに対するpH4.5での抗真菌効力の有意な増強を示している。
【0098】
カンジダ・グラブラタおよびカンジダ・アルビカンスの両方に関して、4.5にpHを低下させることは、中性pH条件(pH7.0)と比較して有意に低いMIC値をもたらした。この結果は、pHがSCY-078の抗真菌活性に影響を及ぼすことを示した。この傾向は48時間続いた。
【0099】
カンジダ・グラブラタに対するミカファンギン
試験したカンジダ・グラブラタ(C.glabrata)分離体に対するpH7.0、pH5.72およびpH4.5におけるミカファンギンのMIC範囲は、それぞれ、0.25~0.5μg/mL、0.25μg/mLおよび0.25μg/mLであった。3つ全てのpHのカンジダ・グラブラタのMIC50ならびにpH5.72およびpH4.5のMIC90は同じ(0.25μg/mL)であったが、pH7.0におけるミカファンギンのMIC90は0.5μg/mLであった。
【0100】
カンジダ・アルビカンスに対するミカファンギン
試験したカンジダ・アルビカンス(C.albicans)分離体に対するH7.0、pH5.72およびpH4.5におけるミカファンギンのMIC範囲は、それぞれ、0.25μg/mL、0.063~1μg/mLおよび0.25~0.5μg/mLであった。カンジダ・アルビカンスに対するミカファンギンのMIC50およびMIC90は各pHで差がなく、pH条件間で有意差はなかった(pH7.0 MIC50およびMIC90 = 0.25μg/mL、pH5.72 MIC50およびMIC90 = 1μg/mL、pH4.5 MIC50およびMIC90 = 0.5μg/mL)。
【0101】
カンジダ・アルビカンスまたはカンジダ・グラブラタに関する前記の3つの異なるpHにおけるミカファンギンの最小阻止濃度(MIC)の間に有意差はなかった。
【0102】
カンジダ・グラブラタに対するフルコナゾール
試験したカンジダ・グラブラタ(C.glabrata)分離体に対するpH7.0、pH5.72およびpH4.5におけるフルコナゾールのMIC範囲は、それぞれ、0.5~2μg/mL、2~16μg/mLおよび1~16μg/mLであった。pH7.0、5.72および4.5におけるフルコナゾールのMIC50は、それぞれ、1μg/mL、8μg/mLおよび8μg/mLであった。pH7.0、5.72および4.5におけるフルコナゾールのMIC90は、それぞれ、2μg/mL、16μg/mLおよび16μg/mLであった。これらの結果は、pH7でのフルコナゾールの活性をpH4.5でのその活性と比較した場合、MIC50における有意な8倍の増加を示した。これはカンジダ・グラブラタに対するpH4.5での抗真菌効力の有意な低下を示している。
【0103】
カンジダ・アルビカンスに対するフルコナゾール
試験したカンジダ・アルビカンス(C.albicans)分離体に対するpH7.0、pH5.72およびpH4.5におけるフルコナゾールのMIC範囲は、それぞれ、<0.125~1μg/mL、<0.125~1μg/mLおよび0.25~8μg/mLであった。pH7.0、pH5.72およびpH4.5におけるフルコナゾールのMIC50およびMIC90は、それぞれ、0.25μg/mLおよび0.25μg/mL、<0.125および0.25μg/mL、ならびに0.25および1μg/mLであった。カンジダ・アルビカンスに対するフルコナゾールのMICはpH減少と共に増加する傾向にあった。しかし、その差は有意ではなかった。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
これらのデータは、カンジダ・グラブラタおよびカンジダ・アルビカンスに対するSCY-078のMICがpH低下と共に減少することを示した。比較物質のMIC値は、これまでの報告と合致して、ミカファンギンの場合にはpHによる影響を受けないようであり、あるいはフルコナゾールの場合にはpHによる影響を有意に受けるようであり、これは、特にカンジダ・グラブラタに関しては、pH低下と共にMIC値の増加を示した。
【0108】
品質管理株であるカンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)ATCC 22019およびカンジダ・クルセイ(Candida krusei)ATCC 6258は、フルコナゾールおよびミカファンギンに関して、それらの範囲内であった。
【0109】
この実験で試験されたpH範囲は、酸性pHが真菌感染に関連している最も一般的な臨床条件を含んでいた。
【0110】
実施例2
マウスにおける経口投与後のSCY-078の膣濃度
この研究の目的は、カンジダ感染に関する認められたモデルであるSCY-078マウスへの経口投与の後の、膣組織および分泌物におけるSCY-078の曝露ならびに血漿中のSCY-078の濃度とのこの曝露の関係を決定することであった。
【0111】
方法
雌CD-1マウス(n=3/時点/投与群)に、以下のとおりに、ローディング用量の存在下または非存在下、QD(1日1回)およびBID(1日2回)の投与レジメンからなる10~80mg/kgの範囲の合計1、2、または8用量のSCY-078を経口強制飼養により投与した。
【0112】
QD(第1日):10、20、40、80mg/kg
BID(第1日):10/5、20/10、40/20、80/40mg/kg
BID反復用量(第1~4日):第1日に10/5、20/10、40/20、80/40mg/kg;第2~4日に5、20、20、40mg/kg BID
群ごとに投与前ならびに最終用量投与後1、2、4、6、8、12、18および24時間の時点で血液、外陰膣組織および膣分泌物を採取した。ついでサンプルを処理し、タンパク質沈殿により抽出し、LC MS/MSによりSCY-078に関して分析した。
【0113】
結果
経口投与後、膣組織および膣分泌物の両方において、血漿濃度と比較してSCY-078の高濃度が達成された。
【0114】
膣組織においては、SCY-078曝露は用量比例より大きく、各投与レジメンのAUC0-24(0~24時間の時点で測定された曲線下面積)は、それぞれ、26.7~171、24.6~337、および24.4~1798μg*時間/gの範囲であった。反復投与レジメンにおいては、膣組織におけるSCY-078の蓄積能は用量増加と共に増強し、最終用量投与後の膣組織における濃度と最初の用量投与後の膣組織における濃度との比は1~10.5倍の範囲であった。
【0115】
膣分泌物においては、各投与レジメンのAUC0-24は、それぞれ、1.32~12.3、1.55~17.8、および4.32~120μg*時間/mLの範囲であった。血漿においては、各投与レジメンのAUC0-24は、それぞれ、8.33~75.5、7.47~101、および7.47~101μg*時間/mLの範囲であった。表4は投与群ごとの曝露(AUC0-24)を要約したものである。
【0116】
【0117】
マウスへの経口投与の後、膣組織、膣分泌物および血漿においてSCY-078曝露が示された。経口投与後に膣組織においてSCY-078の高濃度が達成され、反復投与により、血漿と比較して10倍を超える、膣組織における蓄積の可能性が示された。
【0118】
実施例3
中等度および重度の外陰膣カンジダ症(VVC)におけるSCY-078第2相試験
この研究は、中等度ないし重度のVVCを示す被験者における経口SCY-078(リン酸塩として投与)の2投与レジメンの安全性および有効性を評価するために行った概念実証研究であった。
【0119】
方法
試験参加(包含)に関する主要基準には以下のものが含まれた。
1.膣分泌物サンプルからの水酸化カリウム(KOH)試験陽性結果により確認された中等度ないし重度のVVCを有する被験者。
2.カンジダ属種(Candida spp.)に起因することが確認された又は抗真菌療法に応答した、過去1年間の3つの膣炎エピソード。
【0120】
以下の3つの治療群のいずれかに1:1:1の比で被験者を無作為化した:1250mgのSCY-078の経口SCY-078ローディング用量、ついで750mgのSCY-078 QDの2日間または4日間、あるいは経口フルコナゾール150mgの1日間。
【0121】
第24日(治療試験来院)、第60日、第90日および第120日(試験の終了)に被験者を評価した。
【0122】
分析は臨床的治癒[ベースラインにおいて存在する全ての徴候および症状が少なくとも2点の改善(例えば、中等度から非存在へ、または重度から軽度へ);試験開始後、FDAは、臨床的治癒の達成は、ベースラインにおいて存在する全ての徴候および症状の非存在であると提示した]、真菌根絶(ベースライン酵母病原体の陰性培養)、および治療的治癒(臨床的治癒と真菌根絶との両方)を含むものであった。臨床的治癒はVVCにおける有効性の評価のための主要エンドポイントとしてFDAにより提示されている。
【0123】
96名の被験者が登録され(治療意図(ITT)集団)、70名の被験者が培養証明カンジダ属種感染を有していた(パープロトコール集団)。
【0124】
表5は結果を要約したものである。
【0125】
【0126】
第24日および第4月における真菌根絶の割合はSCY-078組合せ群では70%および74%であり、一方、フルコナゾール群では65%および60%であった。SCY-078組合せ群およびフルコナゾール群では第24日の治療試験来院時の治療的治癒(臨床的治癒と真菌根絶との両方として定義される)は56.3%であった。いずれの治療群においても重度または重大な有害事象は認められなかった。SCY-078治療群では、GI有害事象(この事象は軽度ないし中等度の重症度を示し、一過性の性質を示す)(例、悪心、下痢)の、より高い割合が報告された。
【0127】
表6に示されているとおり、パープロトコール(PP)集団からの結果は、治療意図(ITT)集団(該試験投薬の少なくとも1用量の投与を受けた患者)からの結果に合致した。
【0128】
【0129】
この研究で認められた高い臨床的治癒率および再発率の減少はVVCにおけるSCY-078の強力な抗カンジダ作用の証拠をもたらした。
【0130】
実施例4
酸性条件下のSCY-078の活性の増強が、VVCにおける有効性を達成するのに必要な用量の減少を可能にすることを実証するための実験を行う。これは、中等度ないし重度のVVCを有する18歳以上の成人女性被験者における経口SCY-078の有効性を評価するための無作為化二重盲検二重ダミー実薬対照またはプラセボ対照試験である。この研究は、低pH条件下のSCY-078の活性の増強の驚くべき知見を考慮して、他の研究において応答を誘発することが示されている用量より低い用量を評価する。以下の投与レジメンを評価する。
・治療群1:第1日のみ経口SCY-078 750mg QD
・治療群2:第1日のみ経口SCY-078 300mg BID
・治療群3:第1日のみ経口SCY-078 450mg BID
・治療群4:第1日~3日に経口SCY-078 150mg BID
・治療群5:第1日~3日に経口SCY-078 300mg BID
SCY-078を、50mgまたは100mgまたは150mgまたは200mgまたは250mgまたは300mgまたは500mgまたは750mgの有効成分を含有する適切な経口剤形で経口投与する。適切な経口剤形には、例えば、錠剤、カプセル、懸濁液、散剤、顆粒剤などが含まれる。
【0131】
治療群当たり約30名の被験者を含むことは各投与レジメンの効果の大きさの指標をもたらす。承認された投与レジメンで経口フルコナゾールの投与を受ける対照群が含まれる。
【0132】
この研究においては患者を、有効性を評価するために第1日のベースライン来院時および第10日に評価する。各投与レジメンで膣組織において及び血漿において達成されたSCY-078の曝露を評価するために薬物動態評価を行う。
【0133】
この研究における被験者は以下の組み入れ基準を満たすことを要する。
1.被験者は18歳以上の女性であり、良好な全身健康状態を有する。
2.被験者は、以下の基準を満たす症候性VVCの診断を有する。
a.ベースラインにおいてVSSスケールにおいて2(中等度)以上のスコアを有する少なくとも2つの徴候または症状を伴う、7以上の最小複合外陰膣徴候および症状として定義される中等度ないし重度の疾患。
b.酵母形態(菌糸/偽菌糸)または出芽酵母およびそれに伴う酵母に関する陽性培養の後続確認を示す、膣サンプルにおける10%水酸化カリウム(KOH)での陽性顕微鏡検査。
c.4.5以下の膣pH。
【0134】
有効性は、主に、第10日における臨床的治癒(徴候および症状の消散)および真菌根絶(陰性培養)を示す被験者の割合により決定される。データは、標準的な統計ソフトウェア、例えばSAS(登録商標)バージョン9.3以降を使用して分析される。統計的検定は両側であり、5%有意水準で解釈される。この研究は、正式な統計比較のために増強される必要はなく、むしろ、それは、例えば実施例3で使用した用量および投与レジメンと比較された、SCY-078の、より低い用量またはより短い投与レジメンの有効性の指向性指標(directional indication)をもたらす。記述統計(平均、標準偏差、中央値、最小、最大など)は全連続変数に関して与えられ、頻度および割合は発生率およびカテゴリ変数に関して作表されている。全ての分析は治療群ごとに示されている。
【0135】
実施例5
酸性条件下のSCY-078の活性の増強が、SCY-078の局所製剤でのVVCの治療における有効性の改善を可能にすることを実証するための実験を行う。低pHのSCY-078の活性の増強は、感染症を引き起こす酵母の治療または予防に必要なMICより高い局所濃度を容易に達成することにより、膣腔において適用され有効性の改善をもたらす局所製剤の開発を促進する。適切な局所剤形の例には、例えば、クリーム剤、ゲル剤、坐剤、膣錠剤または泡剤などが含まれる。
【0136】
この研究は、中等度ないし重度のVVCを有する18歳以上の成人女性被験者におけるSCY-078の局所製剤の有効性を評価するための無作為化二重盲検実薬対照またはプラセボ対照試験である。この研究はSCY-078およびプラセボまたは活性比較物質(例えば、局所ナイスタチンまたは局所クロトリマゾールまたは局所ミコナゾール)の2~5個の異なる投与レジメンを含む。
【0137】
SCY-078を、5mgまたは10mgまたは20mgまたは25mgまたは50mgまたは75mgまたは100mgまたは150mgの有効成分を含有する適切な剤形で局所投与する。活性比較物質を、この意図される使用に関して承認された用量で投与する。
【0138】
治療群当たり約30名の被験者を含むことは各投与レジメンの効果の大きさの指標をもたらす。
【0139】
この研究においては患者を、有効性を評価するために第1日のベースライン来院時および第10日に評価する。
【0140】
この研究における被験者は以下の組み入れ基準を満たすことを要する。
1.被験者は18歳以上の女性であり、良好な全身健康状態を有する。
2.被験者は、以下の基準を満たす症候性VVCの診断を有する。
a.酵母形態(菌糸/偽菌糸)または出芽酵母およびそれに伴う酵母に関する陽性培養の後続確認を示す、膣サンプルにおける10%水酸化カリウム(KOH)での陽性顕微鏡検査。
b.4.5以下の膣pH。
【0141】
有効性は、主に、第10日における臨床的治癒(徴候および症状の消散)および真菌根絶(陰性培養)を示す被験者の割合により決定される。データは、標準的な統計ソフトウェア、例えばSAS(登録商標)バージョン9.3以降を使用して分析される。統計的検定は両側であり、5%有意水準で解釈される。この研究は、正式な統計比較のために増強される必要はなく、むしろ、それはSCY-078の種々の用量または種々の投与レジメンの有効性の指向性指標(directional indication)をもたらす。記述統計(平均、標準偏差、中央値、最小、最大など)は全連続変数に関して与えられ、頻度および割合は発生率およびカテゴリ変数に関して作表されている。全ての分析は治療群ごとに示されている。
【0142】
実施例6
酸性条件下のSCY-078の活性の増強が、再発性VVC(rVVC)を有する患者におけるVVCエピソードの予防における有効性を可能にすることを実証するための実験を行う。rVVCに罹患している患者におけるVVCの予防に関して承認された療法は現在存在せず、膣環境において活性の増強を示す抗真菌剤は、感染症を引き起こす酵母の、より有効な死滅および再増殖の予防を可能にすることにより、この疾患の再発性エピソードの予防に有効である可能性を有するであろう。
【0143】
この実験は、中等度ないし重度のVVCを有する18歳以上の成人女性被験者におけるSCY-078の経口製剤の有効性を評価するための無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。この研究はSCY-078の1~4個の異なる投与レジメンを含む。試験される投与レジメンは、一部を挙げると、経口SC-078の1~3用量を月1回で3または6か月間、または週1回で3または6か月間投与することを含む。
【0144】
SCY-078を、50mgまたは100mgまたは150mgまたは200mgまたは250mgまたは300mgまたは500mgまたは750mgの有効成分を含有する錠剤として経口投与する。
【0145】
この研究における被験者は以下の組み入れ基準を満たすことを要する。
1.被験者は18歳以上の女性であり、良好な全身健康状態を有する。
2.被験者は、以下の基準を満たす、過去1年間にVVCの少なくとも3つのエピソードとして定義される症候性再発性VVCの診断を有する。
a.酵母形態(菌糸/偽菌糸)または出芽酵母およびそれに伴う酵母に関する陽性培養の後続確認を示す、膣サンプルにおける10%水酸化カリウム(KOH)での陽性顕微鏡検査。
b.4.5以下の膣pH。
【0146】
有効性は、主に、観察期間中に再発を示さない被験者の割合により決定される。
【0147】
実施例7
急性VVCを有する被験者において経口SCY-078と経口フルコナゾールとの安全性および有効性を比較する第2相多施設無作為化二重盲検二重ダミー実薬対照試験
中等度ないし重度の急性VVC(7以上の徴候および症状(S&S)スコアを有するものとして定義される)を有する成人女性患者において、経口フルコナゾールと比較して、経口SCY-078(クエン酸塩として投与される)の5つの投与レジメンの安全性、有効性、忍容性および薬物動態を評価するために、第2相試験を行った。合計186名の治療意図(ITT)患者を以下のとおりに6つの異なる治療群に無作為化した:経口SCY-078の5つの異なる投与レジメンおよび1つの経口フルコナゾール治療群。有効性分析のために修飾治療意図(mITT)集団を用いた。それは、ベースラインにおいて培養証明カンジダ属種膣感染(酵母を示す膣分泌物の陽性顕微鏡検査;膣pHは4.5以下)を有する153名の患者を含んでいた。試験したSCY-078の用量は、治療持間にわたって投与される600mg~1800mgの総用量の範囲であり、治療期間は1または3日であった。
【0148】
【0149】
主要有効性エンドポイントは臨床的治癒であった。これは、現在のFDAガイダンスに従い、追加的な抗真菌療法を要さない、第10日の治療試験来院時の全ての徴候および症状の完全な消散(スコア=0)として定義される。副次的エンドポイントは、真菌根絶(陰性培養)、および臨床的治癒と真菌根絶との両方を含む複合エンドポイントを含むものであった。また、0もしくは1のS&Sスコアを達成することにより、あるいはベースラインからの平均複合S&Sスコアの絶対的変化(減少)を達成することにより、徴候および症状における顕著な改善を達成した患者の割合に基づいて、応答を評価した。S&Sスコアは、患者の報告された症状(灼熱感、掻痒および刺激)および調査者が評価した徴候(腫脹、発赤および不快感)に基づいている。各徴候および症状は、0~3の対応スコアにより、非存在、軽度、中等度または重度であることが可能であり、合計複合スケールは0~18点である。レスキュー(rescue)抗真菌療法を受けた患者の数を評価することにより、応答を更に評価した。第10日の治療試験来院時、そしてまた、第25日のフォローアップ来院時に患者を評価した。この研究は、評価エンドポイントのいずれにおいても、統計的に有意な差を達成するようには設計されなかった。
【0150】
試験したSCY-078の全投与レジメンが、有意義な臨床的治癒および真菌根絶率を達成した。特に、BIDスケジュール(300mgを1日2回投与)で1日間投与された総用量600mgのSCY-078の投与は最適な臨床的および真菌学的活性ならびに良好な忍容性をもたらした。1日投与レジメンに関するこの300mgのBIDでの推定曝露は約3~約8μM*時間の範囲のAUC0-24および約200~約500nMの範囲のCmaxである。
【0151】
SCY-078の1日投薬レジメンで300mgのBID(総用量600mg)の投与を受けた患者は、第10日の治療試験来院時に、参照フルコナゾール群における被験者の応答率に合致した臨床的および真菌学的応答率を示した。特に、600mg SCY-078投与群では27名中14名(52%)の患者、そしてフルコナゾール群では24名中14名(58%)の患者において、臨床的治癒が報告された。0または1のS&Sスコアを示した患者の割合も同等であり、70%および71%の患者が、それぞれ、600mg SCY-078投与群およびフルコナゾール群において、この改善を報告した。この時点での平均S&SスコアはSCY-078 600mg投与群では1.0であったが、フルコナゾール投与群では1.8であった。この時点での真菌根絶は両群で63%であった。
【0152】
第25日のフォローアップ来院時に、600mgのSCY-078投与群は、フルコナゾール群と比較して、臨床的および真菌学的結果の改善の傾向を示した。患者が治療試験来院時以降にVVCの徴候および症状を示し続けた場合には、レスキュー抗真菌投薬が処方されうるであろう。フルコナゾールで治療された24名中7名(29%)の患者がレスキュー抗真菌投薬を受けたが、600mg SCY-078で治療された27名中1名の患者しかレスキュー抗真菌投薬を受けなかった。また、フォローアップ来院時に臨床的治癒(徴候および症状の完全消散)を示した患者の割合はSCY-078 600mg投与群では70%であったが、フルコナゾール群では50%であった。0または1 S&Sスコア分析でも同様の差異が認められ、600mg SCY-078の投与を受けた患者の81%がこの改善を達成したが、フルコナゾール群の患者は58%が達成したに過ぎなかった。更に、第25日の平均S&Sスコアは600mg SCY-078投与群では0.4であったが、フルコナゾール投与群では2.6であった。このエンドポイントでは、それらの2つの治療は統計的に有意な差をもたらした(p=0.1)。更に、第25日に、SCY-078 600mg投与群では、患者の48%で真菌根絶が達成されたが、フルコナゾール群では、患者の38%で達成されたに過ぎなかった。
【0153】
経口SCY-078 600mg用量は一般に良好に忍容され、自己制限的(一般に1日の持続期間)な軽度ないし中等度の胃腸有害事象が最も一般的に報告された。
【0154】
本発明は特にその好ましい実施形態に関して示され記載されているが、特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更がそれにおいて施されうる、と当業者によって本開示に照らして理解されるであろう。