(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20230123BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20230123BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20230123BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
B60N2/90
B60N2/58
A47C31/02 A
B68G7/05 A
(21)【出願番号】P 2020532179
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2019020311
(87)【国際公開番号】W WO2020021834
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018138830
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 紘之
【審査官】五閑 統一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-240249(JP,A)
【文献】特開2005-261568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00
A47C 31/02
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
前記フレームに設置されるクッションパッドと、
前記クッションパッドを覆うトリムカバーと、
前記クッションパッドの前記フレームに対する設置面に設けられる留め具と、
を備え、
前記留め具は、前記フレームに固定されるフレーム固定部と、前記トリムカバーの端末部を係止しているカバー係止部と、を有し、前記クッションパッドに接合されている乗物用シート。
【請求項2】
請求項1記載の乗物用シートであって、
前記留め具は、少なくとも一つの貫通孔が形成されているパッド接合部を有し、
前記パッド接合部は、前記クッションパッドの材料が前記貫通孔に充填されている状態で、前記クッションパッドに埋設されている乗物用シート。
【請求項3】
請求項1又は2記載の乗物用シートであって、
前記フレーム固定部は、
前記クッションパッドの前記設置面に沿って配置される基部と、
前記基部から前記フレーム側に突出して設けられ、前記フレームに係止される係止片と、
前記係止片との間に間隔をあけて前記基部から前記フレーム側に突出して設けられ、前記係止片との間に前記フレームを挟む支持片と、
を有する乗物用シート。
【請求項4】
請求項3記載の乗物用シートであって、
前記支持片は、前記係止片よりも前記フレーム側に突出している乗物用シート。
【請求項5】
請求項3又は4記載の乗物用シートであって、
前記カバー係止部は、前記係止片によって構成され、前記トリムカバーの前記端末部に設けられている係止孔に挿通されることによって前記端末部を係止しており、
前記トリムカバーの前記端末部は、前記フレーム固定部の前記基部と、前記フレームとの間に挟まれている乗物用シート。
【請求項6】
請求項5記載の乗物用シートであって、
前記フレームは、板材からなり、前記フレーム固定部の前記支持片に隣設されるフレーム本体と、前記フレーム本体から前記フレームの前記係止片に向けて延びているフランジと、を有し、
前記フレーム固定部の前記係止片は、前記フランジのエッジ部に係止されており、
前記フランジの前記エッジ部は、当該エッジ部の先端側ほど前記フレーム固定部の前記基部から離間する向きに傾斜している乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、特許文献1に記載された車両用シートを示す。
【0003】
車両用シート111のシートクッションは、シートフレーム115と、シートフレーム115上に配置されるクッションパッド116と、シートフレーム115及びクッションパッド116を覆うトリムカバー117とを備える。
【0004】
シートフレーム115は、シート前後方向に延びる左右一対のサイドフレーム113と、この一対のサイドフレーム113同士を連結する前側フレーム114とを有する。サイドフレーム113に重なるトリムカバー117の縁部には、複数のフック部を有するトリムカバー用固定具118が設けられている。トリムカバー用固定具118のフック部がサイドフレーム113に引っ掛けられることにより、トリムカバー117がシートフレーム115に固定される。クッションパッド116は、シートフレーム115とトリムカバー117との間に挟み込まれることによって、シートフレーム115上に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された車両用シート111が組み立てられる場合に、まずクッションパッド116がシートフレーム115上に配置される。次いで、クッションパッド116を覆うようにトリムカバー117が配置され、トリムカバー117のフック部がサイドフレーム113に引っ掛けられる。このように車両用シートの組み立てに複数の作業が必要であり、作業効率の改善が望まれる。また、クッションパッド116は、シートフレーム115とトリムカバー117との間に挟み込まれているだけであり、シートフレーム115及びトリムカバー117に対するクッションパッド116の位置ずれが生じる虞がある。
【0007】
本発明は、組み立ての作業効率に優れ、フレームとクッションパッドとトリムカバーとの相互の位置ずれを抑制可能な乗物用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の乗物用シートは、フレームと、前記フレームに設置されるクッションパッドと、前記クッションパッドを覆うトリムカバーと、前記クッションパッドの前記フレームに対する設置面に設けられる留め具と、を備え、前記留め具は、前記フレームに固定されるフレーム固定部と、前記トリムカバーの端末部を係止しているカバー係止部と、を有し、前記クッションパッドに接合されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、組み立ての作業効率に優れ、フレームとクッションパッドとトリムカバーとの相互の位置ずれを抑制可能な乗物用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、乗り物用シートの一例の斜視図である。
【
図3】
図1の乗り物用シートのクッションパッドとフレームとの固定部分を示す断面図である。
【
図4】
図3の固定部分に用いられる留め具の斜視図である。
【
図5A】
図1の乗り物用シートの組み立て方法を順に説明するための断面図である。
【
図5B】
図1の乗り物用シートの組み立て方法を順に説明するための断面図である。
【
図5C】
図1の乗り物用シートの組み立て方法を順に説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び
図2は、本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例を示す。
【0012】
図1及び
図2に示す乗物用シート11のシートクッションは、フレーム15と、フレーム15に設置されるクッションパッド16と、クッションパッド16を覆うトリムカバー17とを備える。
【0013】
フレーム15は、乗物用シート11の前後方向に延びる左右一対のサイドフレーム13と、サイドフレーム13の前端部及び後端部をそれぞれ連結する一対の連結フレーム14とを有する。クッションパッド16は、例えばウレタンフォーム等の発泡材からなる。トリムカバー17は、複数の表皮材が接合されてなり、表皮材には、例えば皮革(天然皮革、合成皮革)、布(ニット、織布、不織布)等が用いられる。表皮材は、皮革又は布の単層構造であってもよいし、皮革又は布を表地として、皮革又は布にワディング(例えば弾性変形可能な軟質ポリウレタンフォームなどの樹脂発泡体)が積層された多層構造であってもよい。
【0014】
クッションパッド16の裏面、即ち、フレーム15に対する設置面には、フレーム15に固定され且つトリムカバー17を係止するための留め具が設けられている。トリムカバー17は、クッションパッド16を覆った状態でクッションパッド16の留め具に係止され、クッションパッド16に組み付けられる。そして、クッションパッド16が留め具によってフレーム15に固定される。
【0015】
図3は、フレーム15とクッションパッド16との固定部分を示し、
図4は
図3の固定部分に用いられる留め具を示す。
【0016】
図3に示すフレーム15とクッションパッド16との固定部分は、サイドフレーム13における固定部分である。なお、
図3には、一方のサイドフレーム13における固定部分のみが示されているが、他方のサイドフレーム13における固定部分も同様に構成される。
【0017】
サイドフレーム13は、金属製の板材からなり、シート前後方向に延びるフレーム本体18及びフランジ19を有する。フレーム本体18は、クッションパッド16の設置面16aに対して略垂直に起こされた状態に配置されている。フランジ19は、フレーム本体18の上側(設置面16a側)の縁部がシート外方に向けて折り曲げられてなり、設置面16aに沿って配置されている。シート外方に向けられたフランジ19のエッジ部19aは、エッジ部19aの先端側ほど設置面16aから離間するように下向きに傾斜している。
【0018】
留め具30は、クッションパッド16の設置面16aにおいてサイドフレーム13と重なる領域に設けられている。留め具30は、サイドフレーム13に固定されるフレーム固定部31と、トリムカバー17を係止するカバー係止部32と、クッションパッド16に接合されるパッド接合部33と、を有する。留め具30は樹脂材料からなり、フレーム固定部31と、カバー係止部32と、パッド接合部33とは一体に形成されている。
【0019】
フレーム固定部31は、クッションパッド16の設置面16aに沿って配置される基部34と、基部34からフレーム側に突出している係止片35と、基部34からフレーム側に突出している支持片36とを有する。係止片35は、シート前後方向に間隔をあけて複数設けられており、
図4に示す例では3つ設けられている。支持片36は、3つの係止片35との間に間隔をあけてシート前後方向に延びており、係止片35よりもフレーム側に突出している。各係止片35の先端部には、支持片36側に向けて突出する爪37が形成されている。サイドフレーム13は、係止片35と支持片36との間に差し込まれており、係止片35の爪37がフランジ19のエッジ部19aに係止され、フレーム固定部31はサイドフレーム13に固定されている。
【0020】
カバー係止部32は、
図3及び
図4に示す例では、フレーム固定部31の複数の係止片35によって構成されている。トリムカバー17の端末部には、複数の係止孔20が形成されており、各係止孔20には係止片35が挿通される。これにより、トリムカバー17の端末部が複数の係止片35によって係止され、トリムカバー17がクッションパッド16に組み付けられる。係止孔20が形成されているトリムカバー17の端末部は、表皮材に縫い付けられたサスペンダー(吊り布)21によって形成されており、サスペンダー21は、表皮材よりも引き裂き強度が高い材料からなる。さらに、係止孔20よりも端末側に位置するサスペンダー21の縁部には、テープ等の補強材22が接合されている。
【0021】
パッド接合部33は、フレーム固定部31の基部34からクッションパッド16側に突出して設けられている。パッド接合部33には複数の貫通孔38が形成されており、クッションパッド16の材料が貫通孔38に充填されている状態で、パッド接合部33はクッションパッド16に埋設されている。クッションパッド16の材料が貫通孔38に充填されていることにより、パッド接合部33がクッションパッド16に強固に接合される。かかる接合は、留め具30と一体にクッションパッド16を発泡成形する一体発泡成形によって行うことができる。ただし、パッド接合部33のクッションパッド16に対する接合方法は一体発泡成形に限定されず、例えばパッド接合部33がクッションパッド16に接着されてもよい。
【0022】
図5A~
図5Cは本実施形態に係る乗り物用シートの組み立て方法を示す。
【0023】
図5Aに示すように、トリムカバー17はクッションパッド16を覆っており、トリムカバー17の端末部に形成されている係止孔20に、留め具30の係止片35(カバー係止部32)が挿通され、トリムカバー17はクッションパッド16に予め組み付けられている。
【0024】
次に、
図5Bに示すように、クッションパッド16がフレーム15に押し付けられ、サイドフレーム13が、留め具30の複数の係止片35と支持片36との間に差し込まれる。係止片35よりもフレーム側に突出している支持片36が、サイドフレーム13のフレーム本体18を摺動することによって、サイドフレーム13は係止片35と支持片36との間に案内される。これにより、クッションパッド16をサイドフレーム13に対して位置決めでき、組み立て作業性を高めることができる。
【0025】
図5Cに示すように、サイドフレーム13がフレーム固定部31の係止片35と支持片36との間に完全に差し込まれると、係止片35の爪37がフランジ19のエッジ部19aに係止され、フレーム固定部31がサイドフレーム13に固定される。
【0026】
このように構成された乗物用シート11は、トリムカバー17をクッションパッド16に予め組み付けた状態で、トリムカバー17とクッションパッド16とを同時にフレーム15に組み付けることができるので、組み立ての作業効率に優れる。
【0027】
また、クッションパッド16は留め具30によってフレーム15に固定され、トリムカバー17は留め具30によってクッションパッド16に係止されているので、フレーム15とクッションパッド16とトリムカバー17との相互の位置ずれを抑制できる。そして、トリムカバー17をクッションパッド16に係止している留め具30がフレーム15に固定されていることから、クッションパッド16が変形しても留め具30は変位せず、トリムカバー17の係止が外れることを抑制できる。
【0028】
また、留め具30のフレーム固定部31は、係止片35と支持片36とによってサイドフレーム13を挟んでいるので、クッションパッド16の変形にかかわらず、係止片35がサイドフレーム13のフランジ19によって係止されている状態を確実に維持でき、クッションパッド16のフレーム15に対する固定強度を高めることができる。
【0029】
また、トリムカバー17の端末部は、係止片35(カバー係止部32)が係止孔20に挿通されることによって係止されており、フレーム固定部31の基部34と、係止片35を係止しているサイドフレーム13のフランジ19との間に挟まれている。これにより、係止片35が係止孔20から抜け、トリムカバー17の端末部の係止が外れることを確実に防止することができる。
【0030】
また、フランジ19のエッジ部19aが、エッジ部19aの先端側ほどフレーム固定部31の基部34から離間する向きに傾斜しており、基部34とエッジ部19aとの間にスペースが形成される。基部34とフランジ19との間に挟まれるトリムカバー17の端末部(サスペンダー21及び補強材22)を、基部34とエッジ部19aとの間のスペースに収納することにより、基部34とフランジ19とを密接させることができ、クッションパッド16の安定性を高めることができる。
【0031】
ここまで、乗物用シート11のシートクッションを例にして本発明を説明したが、シートバックについても同様に構成することができる。また、自動車等の車両に設置される乗物用シート11を例にして本発明を説明したが、本発明は、船舶や航空機といった車両以外の乗物用シートにも適用可能である。
【0032】
以上、説明したとおり、本明細書に開示された乗物用シートは、フレームと、前記フレームに設置されるクッションパッドと、前記クッションパッドを覆うトリムカバーと、前記クッションパッドの前記フレームに対する設置面に設けられる留め具と、を備え、前記留め具は、前記フレームに固定されるフレーム固定部と、前記トリムカバーの端末部を係止しているカバー係止部と、を有し、前記クッションパッドに接合されている。
【0033】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記留め具が、少なくとも一つの貫通孔が形成されているパッド接合部を有し、前記パッド接合部は、前記クッションパッドの材料が前記貫通孔に充填されている状態で、前記クッションパッドに埋設されている。
【0034】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記フレーム固定部が、前記クッションパッドの前記設置面に沿って配置される基部と、前記基部から前記フレーム側に突出して設けられ、前記フレームに係止される係止片と、前記係止片との間に間隔をあけて前記基部から前記フレーム側に突出して設けられ、前記係止片との間に前記フレームを挟む支持片と、を有する。
【0035】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記支持片が、前記係止片よりも前記フレーム側に突出している。
【0036】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記カバー係止部が、前記係止片によって構成され、前記トリムカバーの前記端末部に設けられている係止孔に挿通されることによって前記端末部を係止しており、前記トリムカバーの前記端末部は、前記フレーム固定部の前記基部と、前記フレームとの間に挟まれている。
【0037】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記フレームが、板材からなり、前記フレーム固定部の前記支持片に隣設されるフレーム本体と、前記フレーム本体から前記フレームの前記係止片に向けて延びているフランジと、を有し、前記フレーム固定部の前記係止片は、前記フランジのエッジ部に係止されており、前記フランジの前記エッジ部は、当該エッジ部の先端側ほど前記フレーム固定部の前記基部から離間する向きに傾斜している。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、車両、船舶、航空機等の乗物用シートであって、組み立ての作業効率に優れ、フレームとクッションパッドとトリムカバーとの相互の位置ずれを抑制可能な乗物用シートを提供することができる。
【0039】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。本出願は、2018年7月24日出願の日本特許出願(特願2018-138830)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0040】
11 乗物用シート
13 サイドフレーム
14 連結フレーム
15 フレーム
16 クッションパッド
16a クッションパッドの設置面
17 トリムカバー
18 フレーム本体
19 フランジ
19a フランジのエッジ部
20 係止孔
21 サスペンダー
22 補強材
30 留め具
31 フレーム固定部
32 カバー係止部
33 パッド接合部
34 フレーム固定部の基部
35 フレーム固定部の係止片
36 フレーム固定部の支持片
37 爪
38 パッド接合部の貫通孔