(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/10 20060101AFI20230123BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20230123BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20230123BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230123BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20230123BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
B01J35/10 301F
B01J35/04 301E
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/28 301P
F01N3/035 A
(21)【出願番号】P 2020538166
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2019016526
(87)【国際公開番号】W WO2020039649
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018155776
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 広樹
(72)【発明者】
【氏名】永井 祐喬
(72)【発明者】
【氏名】秋田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶徳
(72)【発明者】
【氏名】森 武史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 孝行
(72)【発明者】
【氏名】津山 智子
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051442(JP,A)
【文献】特開2017-185464(JP,A)
【文献】特開2016-078016(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051458(WO,A1)
【文献】特開2011-104524(JP,A)
【文献】特表2016-527427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/94
F01N 3/28
F01N 3/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材に設けられた触媒部とを備え、
前記基材は、
排ガス流通方向の流入側が開口し且つ流出側が閉塞されている空間からなる流入側セルと、
排ガス流通方向の流入側が閉塞されており且つ流出側が開口している空間からなる流出側セルと、
該流入側セルと該流出側セルとを隔てる多孔質の隔壁とを有し、
前記触媒部は、
前記隔壁における前記流入側セルに臨む面のうち、前記排ガス流通方向の上流側の少なくとも一部に設けられた第一触媒部と、
前記隔壁における前記流出側セルに臨む面のうち、前記排ガス流通方向の下流側の少なくとも一部に設けられた第二触媒部とを有する排ガス浄化用触媒であって、
前記触媒は、前記排ガス流通方向において、前記隔壁に前記第一触媒部が設けられ且つ前記第二触媒部が設けられていない第1の部位と、前記隔壁に前記第二触媒部が設けられ且つ前記第一触媒部が設けられていない第2の部位を有しており、
前記基材及び前記触媒について測定した細孔径に対する細孔容積の分布が、下記式を満たす、排ガス浄化用触媒。
I
B1/I
A×100≧60(%)、I
B2/I
A×100≧60(%)、I
C1/I
A×100≧3(%)及びI
C2/I
A×100≧3(%)。
ただし、I
C1/I
A×100及びI
C2/I
A×100のうち少なくとも一方が4.5(%)以上である。
式中、I
Aは、前記基材の前記隔壁を対象に測定した、細孔径10,000~100,000nmの第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
I
B1は、前記触媒の前記第1の部位において該第一触媒部及び前記隔壁を対象に測定した、前記第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
I
B2は、前記触媒の前記第2の部位において該第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、前記第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
I
C1は、前記触媒の前記第1の部位において該第一触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、細孔径20~500nmの第二範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
I
C2は、前記触媒の前記第2の部位において該第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、前記第二範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積である。
【請求項2】
前記第一触媒部及び前記第二触媒部はそれぞれ独立に、Pt、Pd及びRhから選択される少なくとも1種の触媒活性成分を含む、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記第一触媒部及び前記第二触媒部のうち少なくとも一方が、上層及び下層からなる積層構造を有し、該上層と該下層とはそれぞれ異なる触媒活性成分又は同じ触媒活性成分を含む、請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記第一触媒部が触媒活性成分としてRhを含み、
前記第二触媒部が、上層及び下層からなる積層構造を有し、該下層が触媒活性成分としてPdを含み、該上層が触媒活性成分としてRhを含む、請求項1~3の何れか1項記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項記載の排ガス浄化用触媒を用いた排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンからなる内燃機関に関しては年々厳しくなる燃費基準に対応するために、直噴エンジン(Gasoline Direct Injection engine、以下GDIともいう)の採用が広がっている。GDIは低燃費及び高出力である一方で、従来のポート噴射式エンジンに比べて排ガス中の粒子状物質(Particulate Matter、以下PMともいう。ススを含む)の排出量が5~10倍以上であることが知られている。このPM排出に関する環境規制に対応するため、GDI等のガソリンエンジン搭載車両においてもディーゼルエンジン搭載車両のようにPM捕集機能を有するフィルタ(Gasoline Particulate Filter、以下GPFともいう)の設置が求められている。
一般に排ガス浄化用触媒の搭載スペースは限られていることから、上述のフィルタにPd、Pt、Rh等の貴金属三元触媒を担持させて、PMの捕集とともに窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等の浄化を行うものが近年用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質の隔壁とを有するウォールフロー構造の基材と、前記隔壁の内部に設けられ、前記基材の排ガス流入側の端部を含む排ガス流通方向における上流側部分に配置された上流側触媒層と、前記隔壁の内部に設けられ、前記基材の排ガス流出側の端部を含む排ガス流通方向における下流側部分に配置された下流側触媒層とを備え、前記上流側触媒層に含まれる貴金属と、前記下流側触媒層に含まれる貴金属が異なる、排ガス浄化用触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のウォールフロー構造を有するフィルタ触媒において、PM捕集率は十分なものではなかった。
【0006】
本発明は、従来よりもPM捕集率の高い排ガス浄化用触媒を提供することを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ウォールフロー構造を有するフィルタ触媒において、PM捕集率を高めるための構成について鋭意検討した。その結果、基材に触媒層が形成されたフィルタ触媒について測定した細孔容積と、基材そのものの細孔容積とが特定の関係を有する場合に、PM捕集率が高いフィルタ触媒が得られることを知見した。
【0008】
本発明は上記知見に基づくものであり、
基材と該基材に設けられた触媒部とを備え、
前記基材は、排ガス流通方向の流入側が開口し且つ流出側が閉塞されている空間からなる流入側セルと、
排ガス流通方向の流入側が閉塞されており且つ流出側が開口している空間からなる流出側セルと、
該流入側セルと該流出側セルとを隔てる多孔質の隔壁とを有し、
前記触媒部は、
前記隔壁における前記流入側セルに臨む面のうち、前記流通方向の上流側の少なくとも一部に設けられた第一触媒部と、
前記隔壁における前記流出側セルに臨む面のうち、前記流通方向の下流側の少なくとも一部に設けられた第二触媒部とを有する排ガス浄化用触媒であって、
前記基材及び前記触媒について測定した細孔径に対する細孔容積の分布が、下記式を満たす、排ガス浄化用触媒を提供するものである。
IB1/IA×100≧60(%)、IB2/IA×100≧60(%)、IC1/IA×100≧3(%)及びIC2/IA×100≧3(%)。
式中、IAは、前記基材の前記隔壁を対象に測定した、細孔径10,000~100,000nmの第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IB1は、前記触媒の前記第一触媒部が設けられている部位において該第一触媒部及び前記隔壁を対象に測定した、前記第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IB2は、前記触媒の前記第二触媒部が設けられている部位において該第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、前記第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IC1は、前記触媒の前記第一触媒部が設けられている部位において該第一触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、細孔径20~500nmの第二範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IC2は、前記触媒の前記第二触媒部が設けられている部位において該第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、前記第二範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PM捕集性能を高めることができる、ウォールフロー構造を有するフィルタ触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である排ガス浄化用触媒の模式断面斜視図を示す。
【
図2】
図2は、
図1において四角で囲まれた部分について基材の軸方向に沿う断面を示した図である。
【
図3】
図3は、
図2において四角で囲まれた部分を拡大して示した図である。
【
図4】
図4は、第二触媒層が二層からなる場合における
図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明するが、本発明は下記実施形態に限定されない。
本実施形態の排ガス浄化用触媒10の例を
図1ないし
図4に示す。これら図面は単に、排ガス浄化用触媒の模式的な例の一つを示すものであり、何ら本発明を限定するものではない。
【0012】
排ガス浄化用触媒10は、ガソリンエンジン、特に車両のGDIエンジンなどの内燃機関の排気経路に設けられている。排ガス浄化用触媒10は、例えばGPFとして用いられる。
【0013】
図1に示すように、排ガス浄化用触媒10は、いわゆるウォールフロー構造を有する基材11を有する。基材11は、種々の材料のものを用いることができ、例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックス等から形成された基材を好適に採用することができる。基材は、通常、
図1に示すように筒状の外形を有しており、筒状外形の軸方向が排ガス流通方向Xと略一致するように、内燃機関の排気経路に配置されている。
図1には、外形が円筒形状である基材が例示される。ただし、基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
【0014】
図1に示すように、基材11は、排ガス流通方向Xに沿って延びるとともに、該流通方向Xの流入側が開口し且つ流出側が閉塞されている空間からなる流入側セル21と、該流通方向Xに沿って延びるとともに、該流通方向Xの流入側が閉塞されており且つ流出側が開口している空間からなる流出側セル22とを有している。
【0015】
流入側セル21は、排ガス流通方向Xの下流側端部R2に位置する排ガス流出側端部が封止部24で閉塞されており、上流側端部R1に位置する排ガス流入側端部が開口している。流出側セル22は、上流側端部R1に位置する排ガス流入側端部が封止部25で閉塞されており、下流側端部R2に位置する排ガス流出側端部が開口している。流入側セル21及び流出側セル22は、開口端部(以下、「開口部」ともいう)から気体や液体等の流通が可能であり、閉塞した封止部24及び封止部25では排ガスの流通が遮断されている。流入側セル21及び流出側セル22は基材11の軸方向に沿って延びる有底孔状の空間である。基材11の軸方向と直交する断面における流入側セル21及び流出側セル22の断面形状は、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、六角形、八角形などの多角形、円形、楕円形など種々の幾何学形状であってよい。
【0016】
流入側セル21と、隣接する流出側セル22との間には、これらを区画する多孔質の隔壁23が形成されている。この隔壁23によって、流入側セル21と流出側セル22とが仕切られている。隔壁23は、有底孔状の流入側セル21と流出側セル22の内側壁を構成している。隔壁23は、排ガス等の気体が通過可能な多孔質構造である。隔壁23の厚みとしては例えば150μm~400μmが好ましい。ここでいう厚みは、流入側セル21と流出側セル22との間の隔壁23の厚みが一定でない場合は、最も薄い部分の厚みを指す。
【0017】
基材11は、流入側端部R1におけるひとつの流入側セル21の開口部面積と、流出側端部R2におけるひとつの流出側セル22の開口部の面積とが同じであってもよく、異なっていてもよい。ここでいう開口部の面積とは、基材11の軸方向と直交する平面の面積である。
【0018】
基材11には、触媒活性成分を有する触媒部が担持されている。
図2に示すように、触媒部は、隔壁23の流入側セル21に臨む面のうち、排ガス流通方向X(以下、X方向ともいう)上流側に少なくとも設けられた層状の第一触媒部14(以下、第一触媒層14ともいう)と、隔壁23の流出側セル22に臨む面のうち、少なくとも排ガス流通方向Xの下流側に設けられた層状の第二触媒部15(以下、第二触媒層15ともいう)を有している。
【0019】
本発明者は、排ガス浄化用触媒10について、細孔容積分布を測定した場合に、基材の隔壁に由来するピークの細孔容積と、基材の隔壁及び各触媒層の両者に由来するピークにおける細孔容積とを比較し、これらの比が特定の範囲内であり、且つ、各触媒層の触媒担持成分自体に由来するピークの細孔容積が一定以上であると、PM捕集性能を効果的に向上させることができることを見出した。本実施形態において触媒担持成分は金属酸化物粒子であり、その詳細は後述する。
【0020】
具体的には、排ガス浄化用触媒10は、log微分細孔容積分布を測定した場合に、下記式を満たす。
IB1/IA×100≧60%、IB2/IA×100≧60%、IC1/IA×100≧3%、及びIC2/IA×100≧3%。
式中、IAは、前記基材の前記隔壁を対象に測定した、細孔径10,000~100,000nmの第一範囲内で最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IB1は、前記触媒の前記第一触媒部が設けられている部位において該第一触媒部及び前記隔壁を対象に測定した、前記第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IB2は、前記触媒の前記第二触媒部が設けられている部位において該第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、前記第一範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IC1は、前記触媒の前記第一触媒部が設けられている部位において該第一触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、細孔径20~500nmの第二範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積であり、
IC2は、前記触媒の前記第二触媒部が設けられている部位において該第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した、前記第二範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積である。
【0021】
上記IAは、触媒部が形成されていない基材の隔壁を測定対象とした値である。通常、GPFに用いられるウォールフロー型基材は、累積細孔容積を微分した微分細孔容積分布において細孔径10,000~100,000nmの第一範囲内に、隔壁に由来する細孔容積のピークを有する。ここで、隔壁に触媒層を設けた場合、隔壁中の細孔に浸透して細孔表面を覆うようにして形成される触媒層と、隔壁中の細孔には浸透せずに隔壁の表層部分に形成される触媒層とが存在し得る。これらの触媒層のうち、細孔に浸透した触媒層の量が増えるほど、当該基材由来の細孔径を有する細孔に由来する細孔容積は低減し、IB1/IA×100の値及びIB2/IA×100の値が低くなる。すなわち、IB1/IA×100及びIB2/IA×100の値を測定することにより、細孔に浸透した触媒層の量を推測することができる。
また、上記IC1、IC2は、各触媒層を構成する触媒担持成分(後述する金属酸化物粒子)自体が有する細孔に由来するピークの強度(細孔径20~500nmの第二範囲内における最大ピークのlog微分細孔容積)であり、通常、触媒層の形成量が増えるほど、また触媒層中の触媒担持成分の含有割合が増えるほど、IC1/IA×100及びIC2/IA×100の値が大きくなる。すなわち、IC1/IA×100及びIC2/IA×100の値を測定することにより、触媒層の形成量を推測することができる。
【0022】
本実施形態によれば、排ガス浄化用触媒10について、IB1/IA×100及びIB2/IA×100の値をそれぞれ60%以上とし、且つ、IC1/IA×100の値及びIC2/IA×100の値をそれぞれ3%以上とする。これにより、本実施形態によれば、得られる排ガス浄化用触媒10について、第一触媒層14及び第二触媒層15の形成量が一定以上であり、且つ、第一触媒層14及び第二触媒層15の基材の隔壁内における存在量が一定以下である状態に制御することができる。本発明者は、これらのパラメーターが満たされる本発明の触媒は、PM捕集に有効な細孔径を有する第一触媒層14及び第二触媒層15が隔壁の表面に適度な量で存在する構成となるため、PM捕集率が高まるものと考えている。さらに、第一触媒層14及び第二触媒層15が隔壁の表面に適度な量で存在する構成とすることにより、排ガス浄化用触媒10を通過する排ガスが第一触媒層14及び第二触媒層15と接触しやすくなり排ガス浄化性能を高めることもできる。
【0023】
IC1/IA×100の値は4%以上であることが、PMが第一触媒層14によっても捕集されやすくなりPM捕集率を高める点及び排ガスが第一触媒層14と接触しやすくなり排ガス浄化性能を高める点でより好ましく、4.5%以上であることがより好ましく、6%以上であることが更に好ましく、8%以上であることが特に好ましい。また、IC1/IA×100の値は、触媒層の密着性の観点から、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0024】
IC2/IA×100の値は4%以上であることが、PMが第二触媒層15によっても捕集されやすくなりPM捕集率を高める点及び排ガスが第二触媒層15と接触しやすくなり排ガス浄化性能を高める点でより好ましく、4.5%以上であることがより好ましく、6%以上であることが更に好ましく、8%以上であることが特に好ましい。IC2/IA×100の値は、触媒層の密着性の観点から、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0025】
IB1/IA×100の値は70%以上であることが、PM捕集率を高める点及び排ガス浄化性能を高める点でより好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0026】
IB2/IA×100の値は60%以上であることが、PM捕集率を高める点及び排ガス浄化性能を高める点でより好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0027】
更に、第一触媒層14及び第二触媒層15の形成量や細孔容積の分布を適度にバランスさせることで、排ガス浄化用触媒10全体として、圧損をより抑制しながら、PM捕集性能及び排ガス浄化性能をより高めることができるという観点から、IB1/IB2×100の値は、75%以上135%以下であることが好ましく、90%以上110%以下であることがより好ましい。
【0028】
排ガス浄化用触媒10は、特に以下の構成を有することが好ましい。
触媒10は、流通方向Xにおいて、隔壁に第一触媒部が設けられ且つ第二触媒部が設けられていない第1の部位と、隔壁に第二触媒部が設けられ且つ前記第一触媒部が設けられていない第2の部位を有しており、IB1及びIC1は前記触媒の第1の部位の第一触媒部及び隔壁を対象に測定され、IB2及びIC2は前記触媒の第2の部位の第二触媒部及び隔壁を対象に測定され、
IC1/IA×100及びIC2/IA×100のうち少なくとも一方が4.5(%)以上である。
上記のように第1の部位と第2の部位を設けることは、例えば隔壁における流入側セルに臨む面及び流出側セルに臨む面の全体に触媒部を設ける場合に比して圧損を低減できる。本発明はこのように圧損を低減しながら、PM捕集性能を高いレベルとすることができるものである。この観点からIC1/IA×100及びIC2/IA×100の両方が4.5(%)以上であることが更に好ましい。
【0029】
IB1及びIC1は、隔壁23における、第一触媒層14が形成され、且つ第二触媒層15が形成されていない部分(前記第1の部位)を切り出してサンプルとし、以下の方法で測定すればよい。また、IB2及びIC2は、隔壁23において第二触媒層15が形成され第一触媒層14が形成されていない部分(前記第2の部位)を切り出してサンプルとし、以下の方法で測定すればよい。IAは、触媒部が形成されていない基材11の隔壁23を切り出してサンプルとし、以下の方法で測定すればよい。あるいは、触媒部を形成後の基材11であっても、基材11について触媒部が形成されていない部分を切り出してサンプルとし、以下の方法で測定してもよい。
【0030】
サンプルの具体的な調製方法は、例えば以下の通りである。なお、切断の際には、基材11の軸方向と直交する断面で隔壁を切断することが好ましい。
IB1及びIC1測定用サンプルの調製:基材の上流側端部R1から全長Lに対して10%離間した箇所にて1cm3(1辺が1cmの立方体形状)を切り出す。
IB2及びIC2測定用サンプルの調製:基材の下流側端部R2から全長Lに対して10%離間した箇所にて1cm3(1辺が1cmの立方体形状)を切り出す。
サンプルの数:IB1及びIC1に対して5つ、IB2及びIC2に対して5つ。
【0031】
IA測定用サンプルの調製:触媒部形成前の基材、または触媒部が形成されていない部分の基材について、上流側端部R1から全長Lに対して10%離間した箇所にて1cm3(1辺が1cmの立方体形状)を切り出したサンプルを5個、基材の下流側端部R2から全長Lに対して10%離間した箇所にて1cm3(1辺が1cmの立方体形状)を切り出したサンプルを5個、合計10個を用意する。
【0032】
本実施形態において細孔容積分布とは、log微分細孔容積分布をいう。log微分細孔容積分布は、JIS R 1655:2003の水銀圧入法によって測定される。詳細には、切り出したサンプルを、必要に応じて150℃、1時間乾燥させた後、そのサンプルを室温にて細孔分布測定用水銀圧入ポロシメータを用いて細孔容積を測定する。水銀の圧入の圧力は、開始時を0.0048MPaとし、最高圧力を255.106MPaとする。これらの値を含む合計131点の圧力において細孔容積を測定する。各圧力は10秒間保持する。
【0033】
IB1及びIC1を測定することにより得られる細孔容積分布は例えば典型的には、細孔径1~1,000,000nm の測定範囲中の最大ピークが、10,000~100,000nmの第一範囲内に観察されることが好ましく、また、1~1,000nm、特に1~2,000nmの範囲中の最大ピークが、20~500nmの第二範囲内に観察されることが好ましい。更に、2,000~10,000nmの範囲にもピークが観察されていてもよい。2,000~10,000nmの範囲のピークは、主に第一触媒層14を構成するアルミナ等の金属酸化物粒子同士の隙間に由来する。
【0034】
同様に、IB2及びIC2を測定することにより得られる細孔容積分布は例えば典型的には、細孔径1~1,000,000nm の測定範囲中の最大ピークが、10,000~100,000nmの第一範囲内に観察されることが好ましく、また、1~1,000nm、特に1~2,000nmの範囲中の最大ピークが、20~500nmの第二範囲内に観察されることが好ましい。更に、2,000~10,000nmの範囲にもピークが観察されていてもよい。2,000~10,000nmの範囲のピークは、主に第二触媒層15を構成するアルミナ等の金属酸化物粒子同士の隙間に由来する。
【0035】
IB1/IA×100、IB2/IA×100、IC1/IA×100、IC2/IA×100及びIB2/IB1×100について、上記の好ましい数値を実現するためには、第一触媒層14及び第二触媒層15を構成する触媒担持成分である金属酸化物粒子の種類、粒径、第一触媒層14及び第二触媒層15のコート量等を調整すればよい。
【0036】
第一触媒層14及び第二触媒層15が含有する触媒活性成分は、同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。このような触媒活性成分としては白金族金属が挙げられ、具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)のうちのいずれか1種又は2種以上が挙げられる。排ガス浄化性能の観点から、第一触媒層14及び第二触媒層15に含まれる触媒活性成分は、それぞれ独立して、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、第二触媒層15は、触媒活性成分として第一触媒層14に含まれる触媒活性成分以外の触媒活性成分を含有することが好ましい。例えば、第一触媒層14が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)から選ばれる貴金属を含有し、且つ、第二触媒層15が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)から選ばれると共に第一触媒層14の含有する貴金属以外の貴金属を含有していることが、NOx、CO、HCといった排ガス有害成分を効率的に浄化できる点で特に好ましい。特にNOx浄化性能を高める点から、第一触媒層14及び第二触媒層15の何れか一方が、ロジウム(Rh)を含有することがより好ましく、特に第一触媒層14がロジウム(Rh)を含有することが更に好ましい。
【0037】
更に第一触媒層14及び第二触媒層15のうち少なくとも一方が、上層及び下層からなる積層構造を有し、上層と下層とはそれぞれ同じ触媒活性成分を含んでいてもよく、異なる触媒活性成分を含んでもよいが、異なる触媒活性成分を含むことが好ましい。このようにすると一層に複数の触媒活性成分を含有した場合に起こる触媒性能の低下を回避しながら、NOx、HC、COのバランスのよい浄化を、PM捕集率を高めつつ実現することができる。また、第一触媒層14及び第二触媒層15は、このような積層構造の他に、更に別の触媒層を有していてもよい。
【0038】
特に
図4に示す通り排ガス浄化用触媒10は第二触媒層15が下層15A及び上層15Bを有する構成を有し、これら下層15A及び上層15Bが互いに異なる触媒活性成分を有することが好ましい。
これは以下の理由による。
図4に示す通り、流入側セルから流入した排ガスは上流側に位置する第一触媒層14ごと隔壁23を通過した後に第二触媒層15の表面に接触するか、或いは、第一触媒層14の表面に接触した後に第一触媒層14存在部位よりもX方向下流側で隔壁23を通過する。I
B2/I
A×100≧60%及びI
C2/I
A×100≧3%を満たす第一触媒層14及び第二触媒層15は、隔壁23表面にその構成成分が一定量存在する。このため排ガスがどのようなルートを通って隔壁23を通過したとしても、第一触媒層14及び第二触媒層15のいずれとも接触確率を高めることができる。従って、第一触媒層14及び第二触媒層15により、効率よく排ガス浄化を図ることが可能となる。特に、触媒活性成分が異なる二層を有する第二触媒層15により、より効率よく排ガス浄化を図ることが可能となる。また、I
B1/I
A×100≧60%及びI
C1/I
A×100≧3%を第一触媒層14が満たすことにより、排ガスと第一触媒層14の接触確率も高いものと考えられる。
下層15A及び上層15Bは互いに直接接触していることが好ましく、下層15Aは直接隔壁23と接触していることが好ましい。
【0039】
とりわけ、排ガス浄化用触媒10は、第一触媒層14がロジウム(Rh)を含有し、第二触媒層15がパラジウム(Pd)を有する下層15Aと、ロジウム(Rh)を有する上層15Bとを有すると、上記のようにIB1/IA×100≧60%、IB2/IA×100≧60%、IC1/IA×100≧3%、IC2/IA×100≧3%という構成と、第二触媒層15に触媒活性成分の異なる二層を有することによる効果と相まって、NOx浄化性能に顕著に優れた作用を発揮する。
これは、排ガス浄化用触媒10に流入する排ガスと第二触媒層下層15Aとの接触確率を高めてPdによるHC及びCO酸化を促進できると共に、排ガスと第二触媒層上層15Bとの接触確率を高めてPdによるHC及びCO酸化とRhによるNOx還元とを好適なバランスで行うことができるためと考えられる。しかも、X方向上流側の第一触媒層14及びX方向下流側の第二触媒層上層15Bとによって、触媒のX方向において、NOx還元能力の高いロジウム(Rh)を広範囲で存在させることができる。このため、排ガス浄化用触媒10中、X方向の広範囲でNOx浄化を効率的に行うことができる。第一触媒層14がロジウム(Rh)を含有し、第二触媒層15がパラジウム(Pd)を有する下層15Aと、ロジウム(Rh)を有する上層15Bとを有する排ガス浄化用触媒10は、特に高速運転時のNOx浄化性能に優れている。このため排ガス浄化用触媒10を搭載することで効果的にNOx排出量を低減させることができる。
【0040】
第一触媒層14中の触媒活性成分の含有割合は、排ガス浄化性能をより向上させることができるという観点より、第一触媒層14に含まれる全成分量の中で0.001質量%以上を占めることが好ましく、0.01質量%以上を占めることがより好ましく、0.05質量%以上を占めることが最も好ましい。一方、上限としては25質量%以下であることが排ガス浄化性能及びコストとのバランスの観点から好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0041】
同様に、第二触媒層15中の触媒活性成分の含有割合は、排ガス浄化性能をより向上させることができるという観点より、第二触媒層15に含まれる全成分量の中で0.001質量%以上を占めることが好ましく、0.01質量%以上を占めることがより好ましく、0.05質量%以上を占めることが最も好ましい。上限としては25質量%以下であることが排ガス浄化性能及びコストとのバランスの観点から好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
排ガス浄化用触媒10の耐熱性をより一層高める点から、第一触媒層14に含まれる触媒活性成分の含有量は、基材の体積1L当たり、概ね0.01g以上が好ましく、0.05g以上がより好ましい。また第二触媒層15に含まれる触媒活性成分の含有量は、基材の体積1L当たり、概ね0.01g以上が好ましく、0.05g以上がより好ましい。
第一触媒層14及び第二触媒層15に含まれる基材体積1L当たりの触媒活性成分の含有量の上限は10g/L以下であることが好ましく、場合により5g/L以下、更に3g/L以下とすることも可能である。
ここでいう基材の体積は、基材部分だけでなく第一触媒層14及び第二触媒層15、隔壁23中の空孔、セル21及び22内の空間を含めた見掛けの体積である。
【0043】
第二触媒層15が上層15B及び下層15Aを有する場合、下層15Aに含まれる触媒活性成分の量は、上層15Bに含まれる触媒活性成分100質量部に対して、100質量部以上5000質量部以下であることが排ガス浄化性能や貴金属の総量の低減の点で好ましく、特に600質量部以上3000質量部以下であることが好ましい。特に、この範囲は、第一触媒層14がロジウム(Rh)を含有し、第二触媒層15がパラジウム(Pd)を有する下層15Aと、ロジウム(Rh)を有する上層15Bとを有する構成である場合に好ましい。
【0044】
触媒活性成分の量は、例えば、触媒層を全溶解して得られる溶液中の貴金属の量をICP-AESで測定することにより測定できる。
なお、基材の隔壁内に触媒層が含まれる場合には、各触媒層及び基材を全溶解して得られる溶液中の貴金属の量から、基材のみを全溶解して得られる溶液中の貴金属の量を差し引くことにより測定できる。
【0045】
第一触媒層14の好ましい組成について、更に説明する。第一触媒層14には、触媒活性成分を担持する触媒担持成分を更に含有することが、触媒活性成分による排ガス浄化性能を効率よく発揮する点で好ましい。ここでいう触媒担持成分としては、金属酸化物粒子が挙げられる。金属酸化物粒子を構成する金属酸化物としては、具体的には、酸素貯蔵成分(OSC材料ともいう、OSCはoxygen storage capacityの略)である無機酸化物や、酸素貯蔵成分以外の無機酸化物が挙げられる。第一触媒層14において、酸素貯蔵成分である無機酸化物の粒子と酸素貯蔵成分以外の無機酸化物の粒子との両方が触媒活性成分を担持していることが好ましい。
なお、本明細書において金属酸化物粒子という場合、焼成により金属酸化物粒子同士が結合して焼結体となったものも含む。
【0046】
本明細書中、触媒活性成分が金属酸化物粒子に「担持されている」とは、金属酸化物粒子の外表面又は細孔内表面に触媒活性成分が物理的又は化学的に吸着又は保持されている状態をいう。具体的には、金属酸化物粒子が触媒活性成分を担持していることは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した時の粒径の測定により確認できる。例えば、金属酸化物粒子の表面上に存在している触媒活性成分の平均粒径は当該金属酸化物粒子の平均粒径に対して、10%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。ここでいう平均粒径とは、SEMで観察した時の30個以上の粒子のフェレ径の平均値である。
【0047】
酸素貯蔵成分である無機酸化物としては、多価状態を有する金属酸化物であって酸素を貯蔵する能力を有するものであればよく、例えば、CeO2やCZ材(Ce及びZrを含有するセリア-ジルコニア複合酸化物や、CeO2とZrO2との固溶体)、酸化鉄、酸化銅が挙げられる。これらに加えて、Ce以外の希土類元素の酸化物が熱的安定性の観点等から好ましく用いられる。Ce以外の希土類元素の酸化物としては、Sc2O3、Y2O3、La2O3、Pr6O11、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb4O7、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3及びLu2O3が挙げられる。
なお、CeO2-ZrO2はCeO2とZrO2との固溶体である。CeO2及びZrO2が固溶体となっていることは、X線回折装置(XRD)を用い、CeO2-ZrO2に由来する単相が形成されているか否かにより確認することができる。CeO2-ZrO2には上記のCe以外の希土類元素の酸化物が固溶していてもよい。
特に、耐熱性とOSCとのバランスの観点、及び上述したIC1/IA×100の値を上記範囲に制御しやすくなるという観点から、第一触媒層14中の好ましいCeO2の量は5~40質量%であり、更に好ましくは10~30質量%である。第一触媒層14中の好ましいZrO2の量は10~80質量%であり、更に好ましくは25~60質量%である。ここでいう好ましいCeO2及びZrO2の量は、固溶体となっているCeO2やZrO2の量をそれぞれ含むほか、セリア-ジルコニア複合酸化物を構成するCeのCeO2換算量及び該複合酸化物を構成するZrのZrO2換算量をそれぞれ含む。
【0048】
CeO2及びZrO2の量は、例えば、触媒層を全溶解して得られる溶液中のCe及びZrの量をICP-AESで測定し、酸化物換算することにより測定できる。
なお、基材の隔壁内に触媒層が含まれる場合には、各触媒層及び基材を全溶解して得られる溶液中のCe及びZrの量から、基材のみを全溶解して得られる溶液中のCe及びZrの量を差し引くことにより測定できる。
【0049】
第一触媒層14に含まれうる酸素貯蔵成分以外の無機酸化物としては、酸素貯蔵成分以外の金属酸化物が挙げられ、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、チタニア、アルミノシリケート類が挙げられる。特にアルミナが耐熱性に優れるという観点で好ましく用いられる。第一触媒層14中における酸素貯蔵成分以外の無機酸化物の含有量は、上述したIC1/IA×100の値を上記範囲に制御しやすくなるという観点より、好ましくは4~50質量%であり、更に好ましくは7~30質量%である。
【0050】
アルミナの量は、例えば、触媒層を全溶解して得られる溶液中のアルミニウムの量をICP-AESで測定し、酸化物換算することにより測定できる。
なお、基材の隔壁内に触媒層が含まれる場合には、各触媒層及び基材を全溶解して得られる溶液中のAlの量から、基材のみを全溶解して得られる溶液中のAlの量を差し引くことにより測定できる。
【0051】
第二触媒層15の好ましい組成について、更に説明する。第二触媒層15には、触媒活性成分を担持する触媒担持成分を更に含有することが、触媒活性成分による排ガス浄化性能を効率よく発揮する点で好ましい。ここでいう触媒担持成分としては、第一触媒層14で列挙した金属酸化物粒子と同様に、酸素貯蔵成分である無機酸化物の粒子及び酸素貯蔵成分以外の無機酸化物の粒子が挙げられる。
【0052】
酸素貯蔵成分である無機酸化物としては、第一触媒層14で列挙した酸素貯蔵成分である無機酸化物と同様のものが挙げられる。中でも特に、セリア、あるいはセリア-ジルコニア複合酸化物を有することが、排ガス浄化用触媒のOSCが高いために好ましい。特に、耐熱性及びOSCのバランスの観点、及び上述したIC2/IA×100の値を上記範囲に制御しやすくなるという観点から、第二触媒層15中の好ましいCeO2の量は5~40質量%であり、更に好ましくは10~30質量%である。第二触媒層15中の好ましいZrO2の量は10~70質量%であり、更に好ましくは30~50質量%である。ここでいう好ましいCeO2及びZrO2の量は固溶体となっているCeO2やZrO2の量を含む。
【0053】
第二触媒層15に含まれうる酸素貯蔵成分以外の無機酸化物としては、第一触媒層14で列挙した無機酸化物と同様のものが挙げられる。特にアルミナが、高い耐熱性を有する点から好ましい。第二触媒層15中における酸素貯蔵成分以外の無機酸化物の含有量は、上述したIC2/IA×100の値を上記範囲に制御しやすくなるという観点より、好ましくは5~50質量%であり、更に好ましくは10~30質量%である。
【0054】
PM捕集能を一層高める点や高速運転時の排ガス浄化性能を高める点から、第一触媒層14は、隔壁23の内部ではなく、主に隔壁23の表面に存在することが好ましい。第一触媒層14が隔壁23の表面に主として存在しているとは、第一触媒層14が設けられた基材11の断面において、基材11の隔壁23の表面に存在する第一触媒層14の質量が隔壁23の内部に存在する第一触媒層14の質量よりも多いことをいう。例えば第一触媒層14が設けられた隔壁の断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F」)で観察すると共に、エネルギー分散型X線分析(EDS:Energy dispersive X-ray spectrometry)で分析し、基材にのみ存在する元素(例えばSi、Mg等)と触媒層にのみ存在する元素(例えばCe、Zr等)との境界をライン分析することや、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により分析する方法等によって、表面に主に存在していることを確認できる。同様に、第二触媒層15は、隔壁23の内部ではなく、主に隔壁23の表面に存在することが好ましい。
図3及び
図4では、第一触媒層14が隔壁23の表面に主として存在し、第二触媒層15が隔壁23の表面に主として存在する状態を模式的に示している。
【0055】
本実施形態の排ガス浄化用触媒10によれば、上述したように第一触媒層14及び第二触媒層15を主に隔壁23の表面に存在させるようにし、IB1/IA×100、IB2/IA×100、IC1/IA×100及びIC2/IA×100の値をそれぞれ上記範囲に制御することにより、PM捕集に有効な第一触媒層14及び第二触媒層15が隔壁の表面に適度な量で存在する構成となるため、PM捕集率を顕著に向上させることができる。さらに、第一触媒層14及び第二触媒層15が隔壁の表面に適度な量で存在することにより、排ガス浄化用触媒10を通過する排ガスが第一触媒層14及び第二触媒層15と接触しやすくなり排ガス浄化性能を向上させることもできる。
なお、従来、触媒層を基材の隔壁の内部に形成してなる排ガス浄化用触媒が知られているが、このような触媒層が隔壁の内部に形成された構成では、触媒層によるPM捕集性能の向上効果は低いものとなってしまうため、PM捕集性能の面で不利である。しかも、触媒層が隔壁の内部に形成された構成では、排ガスが第一触媒層14及び第二触媒層15と接触し難くなってしまうため、排ガス浄化性能の面でも不利である。
これに対して、本実施形態の排ガス浄化用触媒10は、上述したように、PM捕集率を向上させることができ、さらに排ガス浄化性能も向上させることが可能なものである。
【0056】
第一触媒層14のX方向の長さL1(
図2参照)は、基材11のX方向の長さL(
図2参照)の10%~80%であることが、圧力損失を低減しつつ排ガス浄化性能を高める点やPMの好適な捕集性能の点で好ましく、30%~60%であることがさらに好ましい。また、第二触媒層15のX方向の長さL2(
図2参照)は、基材11のX方向の長さLの30%~90%であることが、圧力損失を低減しつつ排ガス浄化性能を高める点やPMの好適な捕集性能の点で好ましく、50%~80%であることがさらに好ましい。なお、第一触媒層14は排ガス流通方向の上流側端部から形成されることが好ましく、第二触媒層15は下流側端部から形成されることが好ましい。
第一触媒層14のX方向の長さL1と、第二触媒層15のX方向の長さL2との合計長さL1+L2は、基材11のX方向の長さLを超えることが、排ガス浄化性能を高める点で好ましく、(L1+L2)/L=1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましい。
第一触媒層14及び第二触媒層15は
図3のように一層からなるものであってもよく、
図4に示すように、いずれか一方が二層以上であってもよい。例えば第二触媒層15が下層15A及び上層15Bを有するものであってもよい。この場合、下層15A及び上層15Bのいずれもが、基材11のX方向の長さLの30%~90%であることが好ましく、50%~80%であることがさらに好ましい。
【0057】
第一触媒層14及び第二触媒層15の長さは以下の方法にて測定することができる。すなわち、排ガス浄化用触媒10を目視で観察し、第一触媒層14の境界と、第二触媒層15の境界とをそれぞれ特定し、第一触媒層14及び第二触媒層15をそれぞれ測長することが好ましい。この際には、例えば排ガス浄化用触媒10の任意の10ヶ所について第一触媒層14及び第二触媒層15を測長し、その平均値を、第一触媒層14及び第二触媒層15の長さとして求めることが好ましい。目視で第一触媒層14、第二触媒層15、下層15A及び/又は上層15Bに係る排ガス流通方向における境界が判断できない場合には、排ガス浄化用触媒における排ガス流通方向に沿う多数(例えば8~16か所)の位置における組成を分析し、各箇所における触媒活性成分の濃度に基づき特定することができる。各箇所における触媒活性成分の濃度は、例えば、蛍光X線分析(XRF)やICP発光分光分析(ICP-AES)により求めることができる。
【0058】
第一触媒層14は、基材11のX方向の上流側端部R1から下流側に延びて形成されていることが、製造容易性と排ガス浄化性能との両立の点で好ましく、同様に、第二触媒層15は、基材11のX方向の下流側端部R2から上流側に延びて形成されていることが好ましい。更に、第二触媒層15が後述するように、第二触媒層15が下層15A及び上層15Bを有する場合、下層15A及び上層15Bが基材11のX方向の下流側端部R2から上流側に延びて形成されていることが好ましい。
【0059】
次いで、以下、本発明の排ガス浄化用触媒の好ましい製造方法について説明する。
本製造方法は、以下の(1)及び(2)の工程を有する。(1)及び(2)の工程はいずれを先に行ってもよい。
(1)触媒活性成分と、金属酸化物粒子とを含有する第一触媒層14用スラリーを、流入側セル21側の隔壁23における少なくともX方向上流側に塗布した後、乾燥又は焼成する工程。
(2)触媒活性成分と、金属酸化物粒子とを含有する第二触媒層15用スラリーを、流出側セル22側の隔壁23における少なくともX方向下流側に塗布した後、乾燥又は焼成する工程。
【0060】
第二触媒層15を二層以上とする場合は(2)工程の代わりに、例えば以下の(2’-1)及び(2’-2)工程を行う。第一触媒層14を二層とする場合も同様の変更を行う。
(2’-1)触媒活性成分と、金属酸化物粒子とを含有する下層用スラリーを、流出側セル22側の隔壁23における少なくともX方向下流側に塗布して乾燥又は焼成させる。
(2’-2)触媒活性成分と、金属酸化物粒子とを含有する上層用スラリーを、流出側セル22側の隔壁23における下層用スラリー塗布箇所の少なくとも一部に塗布し、乾燥又は焼成させる。
【0061】
金属酸化物粒子としては、第一触媒層14及び第二触媒層15の構成成分として上述した酸素貯蔵成分である無機酸化物の粒子及び酸素貯蔵成分以外の無機酸化物の粒子が挙げられる。(1)、(2)、(2’-1)及び(2’-2)の触媒活性成分は、硝酸塩などの水溶性塩の状態で金属酸化物粒子と混合してそれぞれ第一触媒層14用スラリー及び第二触媒層15用スラリーを得、これらを基材11に塗布した後、乾燥又は焼成を行ってもよい。あるいは、触媒活性成分は、予め金属酸化物粒子に担持させ、担持後の金属酸化物粒子をスラリーとしてもよい。触媒活性成分を予め担持する場合は金属酸化物粒子を触媒活性成分の水溶性塩の水溶液に含浸させたのち、350~550℃で焼成する方法が挙げられる。
【0062】
(1)の第一触媒層14用スラリー、(2)の第二触媒層15用スラリー、(2’-1)の上層用スラリー及び(2’-2)の下層用スラリーには、基材に触媒活性成分を担持した金属酸化物粒子を密着させる目的で、バインダーを含有させてもよい。バインダーとしては、例えばアルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、シリカゾル等が挙げられる。
【0063】
(1)の第一触媒層14用スラリーにおける金属酸化物粒子の粒径は、上述したIB1/IA×100及びIB2/IA×100の値をそれぞれ上記範囲に制御しやすくなるという観点より、D50が1μm以上であることが好ましく、D90が7μm以上であることが好ましく、更にD50が2μm以上であることがより好ましく、D90が15μm以上であることがより好ましい。すなわち、金属酸化物粒子のD50及びD90が大きいほどIB1及びIB2の値が大きくなる傾向にあり、一方でD50及びD90が小さいほどIB1及びIB2の値が小さくなる傾向にあるため、D50及びD90を調整することで、IB1/IA×100、IB2/IA×100及びIB2/IB1×100をより適切に制御することができるようになる。(1)の第一触媒層14用スラリーにおける金属酸化物粒子の粒径の上限は触媒活性成分の分散性を高める点から、(1)の第一触媒層14用スラリーにおける金属酸化物粒子はD50が40μm以下であることがより好ましく、D90が80μm以下であることがより好ましい。
【0064】
同様に、(2)の第二触媒層15用スラリーにおける金属酸化物粒子の粒径は、上述したIB1/IA×100及びIB2/IA×100の値をそれぞれ上記範囲に制御しやすくなるという観点より、D50が1μm以上であることが好ましく、D90が7μm以上であることが好ましく、更にD50が2μm以上であることがより好ましく、D90が15μm以上であることがより好ましい。(2)の第二触媒層15用スラリーにおける金属酸化物粒子の粒径の上限は触媒活性成分の分散性を高める点から、(2)の第二触媒層15用スラリーにおける金属酸化物粒子はD50が40μm以下であることがより好ましく、D90が80μm以下であることがより好ましい。
【0065】
更に、第二触媒層15が下層15A及び上層15Bを有する場合、下層15A用スラリーの金属酸化物粒子の粒径は、上述したIB1/IA×100及びIB2/IA×100の値をそれぞれ上記範囲に制御しやすくなるという観点より、D50が1μm以上であることが好ましく、D90が7μm以上であることが好ましく、更にD50が2μm以上であることがより好ましく、D90が15μm以上であることがより好ましい。触媒活性成分の分散性を高める点から、下層15A用スラリーの金属酸化物粒子はD50が40μm以下であることがより好ましく、D90が80μm以下であることがより好ましい。
【0066】
同様に、第二触媒層15の上層15B用スラリーの金属酸化物粒子の粒径は、上述したIB1/IA×100及びIB2/IA×100の値をそれぞれ上記範囲に制御しやすくなるという観点より、D50が1μm以上であることがより好ましく、D90が7μm以上であることがより好ましく、更にD50が2μm以上であることがより好ましく、D90が15μm以上であることがより好ましい。触媒活性成分の分散性を高める点から、上層15B用スラリーの金属酸化物粒子はD50が40μm以下であることがより好ましく、D90が80μm以下であることがより好ましい。
【0067】
なおここでいう金属酸化物粒子の粒径とは触媒活性成分を担持する成分の粒径を意味し、スラリーがバインダーとしてアルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、シリカゾル等を含む場合、それらのゾルを含んだ粒径を示すものである。
【0068】
金属酸化物粒子のD50及びD90は、触媒活性成分を担持した状態の粒径であっても、触媒活性成分担持前の状態の粒径であってもよく、触媒活性成分を担持後及び担持前の何れかの状態において、上記の好ましい下限以上或いは上限以下であればよい。
また、金属酸化物粒子のD50及びD90は、例えば以下のように測定することができる。すなわち、レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(マイクロトラック・ベル社製「Microtorac SDC」)を用い、金属酸化物粒子を水性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間照射した後、レーザー回折散乱式粒度分布計(マイクロトラック・ベル社製「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて測定する。測定条件は、粒子屈折率1.5、粒子形状真球形、溶媒屈折率1.3、セットゼロ30秒、測定時間30秒、2回測定の平均値として求める。水性溶媒としては純水を用いる。
【0069】
(1)の第一触媒層14用スラリー及び(2)の第二触媒層15用スラリー、(2’-1)の上層用スラリー及び(2’-2)の下層用スラリーは、造孔材を含有させて、各層の細孔容積を調整してもよい。造孔材としては、例えば架橋ポリ(メタ)アクリル酸メチル粒子、架橋ポリ(メタ)アクリル酸ブチル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリアクリル酸エステル粒子などを用いることができる。
なお、スラリー中の造孔材の含有割合は、第一触媒層14用スラリー、第二触媒層15用スラリー、上層用スラリー及び下層用スラリーについて、それぞれ、スラリー中の固形分に対して、1~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。造孔材の含有割合を上記範囲に制御することにより、第一触媒層14及び第二触媒層15中に、適度な数及び大きさの細孔が形成され、これにより、第一触媒層14及び第二触媒層15によるPM捕集性能及び排ガス浄化性能をより向上させることができる。
【0070】
(1)の第一触媒層14用スラリーを基材11に塗布するためには、当該スラリーに基材11の排ガス流通方向上流側を浸漬させる方法が挙げられる。当該浸漬と同時にスラリーを下流側から吸引してもよい。このような方法により、第一触媒層14用スラリーが基材11のX方向上流側の流入側セル開口部を通じて、当該上流側における、隔壁23の流入側セルに臨む面に塗工される。上述した金属酸化物粒子の粒径により、第一触媒層14を構成する金属酸化物はその少なくとも一部が隔壁23表面に位置することとなる。
【0071】
(2)第二触媒層15用スラリー、(2’-1)の上層用スラリー及び(2’-2)の下層用スラリーを基材11に塗工するためには、これらのスラリーに基材11の排ガス流通方向下流側を浸漬させる方法が挙げられる。当該浸漬と同時にスラリーを上流側から吸引してもよい。このような方法により、第二触媒層15用スラリーが基材11のX方向下流側の流出側セル開口部を通じて、当該下流側における、隔壁23の流出側セルに臨む面に塗工される。上述した金属酸化物粒子の粒径により、第二触媒層15を構成する金属酸化物はその少なくとも一部が隔壁23表面に位置することとなる。
【0072】
(1)、(2)、(2’-1)及び(2’-2)のスラリーの乾燥温度は、いずれも40~120℃が好ましく、焼成温度は、いずれも350~550℃が好ましい。
【0073】
更に本実施形態の排ガス浄化用触媒10においては、第一触媒層14のコート量は、コートする触媒活性成分の量に応じて制御すればよいが、上述したIC1/IA×100及びIC2/IA×100の値を上記範囲に制御しやすくなるという観点より、乾燥後の重量で、基材の体積1Lあたり10g以上であることが好ましく、特に20g以上であることがより好ましい。第一触媒層14のコート量は、乾燥後の重量で、基材の体積1Lあたり60g以下であることが圧力損失の低減の観点、及び、高速運転時の排ガス浄化性能の向上などの点で好ましく、50g以下であることがより好ましい。
また、第二触媒層15のコート量は、コートする触媒活性成分の量に応じて制御すればよいが、上述したIC1/IA×100及びIC2/IA×100の値を上記範囲に制御しやすくなるという観点より、乾燥後の重量で、基材の体積1Lあたり20g以上であることが好ましく、30g以上であることがより好ましい。圧力損失の低減のために、第二触媒層15のコート量は、乾燥後の重量で、基材の体積1Lあたり80g以下であることが好ましく、60g以下であることがより好ましい。また、下層15A及び上層15Bのコート量の質量比は例えば好ましくは100:10~200、より好ましくは100:50~150であることが、排ガス浄化性能がより向上するという観点から好ましい。
【0074】
上記の製法にて得られた排ガス浄化用触媒は、
図2に示すように、基材11の流入側セル21から排ガスが流入する。流入側セル21から流入した排ガスは、多孔質の隔壁23を通過して流出側セル22に到達する。
図2においては、流入側セル21から流入した排ガスが隔壁23を通過して流出側セル22に到達するルートを矢印で示している。このとき、隔壁23は多孔質構造を有しているので、排ガスがこの隔壁23を通過する間に、PMが隔壁23の表面や隔壁23の内部の細孔内に捕集される。また、隔壁23には、第一触媒層14及び第二触媒層15が設けられているので、排ガスが隔壁23の内部及び表面を通過する間に、第一触媒層14及び第二触媒層15の触媒活性成分と接触して、排ガス中の有害成分が浄化される。隔壁23を通過して流出側セル22に到達した排ガスは、排ガス流出側の開口から基材11に流入した後、排ガス浄化用触媒10の外部へと排出される。
【0075】
このように製造された排ガス浄化用触媒10は、そのPM捕集性能と排ガス浄化性能を活かし、ガソリンエンジンなど化石燃料を動力源とする内燃機関の排ガス浄化用触媒として、種々の用途に用いることができる。また、本実施形態によれば、このような排ガス浄化用触媒10を用いた排ガス浄化方法も提供することができる。例えば、排ガス浄化用触媒10を、ガソリンエンジン、特に車両のGDIエンジンなどの内燃機関の排気経路に設けて、GPF等として用いることで、ガソリンエンジンからの排ガスを良好に浄化することが可能となる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、乾燥及び焼成はすべて大気中で行った。
【0077】
<実施例1>
〔1.スラリーの調製〕
(第1のスラリー)
D50=8μm、D90=22μmのCeO2-ZrO2固溶体粉末(CeO2-ZrO2固溶体中にCeO215質量%、ZrO270質量%、Ce以外の希土類元素の酸化物15質量%を含有)及びD50=8μm、D90=22μmのアルミナ粉末を用意した。CeO2-ZrO2固溶体粉末とアルミナ粉末とを質量比84:8で混合し、硝酸ロジウム水溶液中に含浸させた。
次いで、この混合液と、該混合液の固形分に対して25質量%の造孔材(架橋ポリ(メタ)アクリル酸メチル粒子)と、該混合液の固形分に対して3質量%のアルミナゾルと、該混合液の固形分に対して5質量%のジルコニアゾルと、液媒として水と、を混合して、第1のスラリーを調製した。この第1のスラリーの造孔材を除く固形分中、硝酸ロジウムはロジウム金属換算で0.3質量%含まれている。
【0078】
(第2のスラリー)
D50=8μm、D90=22μmのCeO2-ZrO2固溶体粉末(CeO2-ZrO2固溶体中にCeO240質量%、ZrO250質量%、Ce以外の希土類元素の酸化物10質量%を含有)、D50=8μm、D90=22μmのアルミナ粉末を質量比60:22で混合し、硝酸パラジウム水溶液中に含浸させた。
次いで、この混合液と、該混合液の固形分に対して25質量%の造孔材(架橋ポリ(メタ)アクリル酸メチル粒子)と、該混合液の固形分に対して3質量%のアルミナゾルと、該混合液の固形分に対して3質量%のジルコニアゾルと、液媒として水と、を混合して、第2のスラリーを調製した。この第2のスラリーの造孔材を除く固形分中、硝酸パラジウムはパラジウム金属換算で3.8質量%含まれている。
【0079】
〔2.触媒層の形成〕
基材11として、
図1に示す構造を有し、厚さが200μmの隔壁で区画された軸方向に延びるセルを、軸方向と直交する面において、300セル/inch
2有し、体積が1.4Lである基材11を用いた。基材11について、後述する方法でlog微分細孔容積分布を測定したところ、細孔容積のピーク位置は細孔径18,120nmであり、当該ピーク位置のlog微分細孔容積はI
A=1.84cm
3/gであった。基材11は、流入側端面におけるひとつの流入側セル21の開口部の面積と、流出側端面におけるひとつの流出側セル22の開口部の面積とが概ね同じであった。
【0080】
第1のスラリー中に基材11の排ガス流通方向の上流側端部を浸漬し、下流側から吸引した後に70℃で10分乾燥させた。
【0081】
乾燥後の基材11の排ガス流通方向の下流側端部を、第2のスラリー中に浸漬し、上流側から吸引した後に70℃で10分乾燥させた。続いて第2のスラリー乾燥後の基材11における排ガス流通方向の下流側端部を今度は第1のスラリーに浸漬し、再度上流側から吸引した後に70℃で10分乾燥させて下層に上層を積層させた。
【0082】
その後、450℃、1時間で焼成した。これにより、実施例1の排ガス浄化用触媒10を得た。得られた第一触媒層14は、一層からなる。一方、第二触媒層15は、二層からなる。
【0083】
また、実施例1の排ガス浄化用触媒において、排ガス浄化用触媒10の第一触媒層14は、排ガス流通方向Xの上流側端部R1から下流側に全長Lの40%までの範囲にかけて、流入側セル21側の隔壁23の表面に形成されており、基材の体積に対するコート量は乾燥後の重量で21.6g/Lであった。第一触媒層14に含まれたRh量は、基材の体積に対して0.065g/Lであった。
排ガス浄化用触媒10の第二触媒層15における下層15A及び上層15Bは、排ガス流通方向Xの下流側端部R2から上流側に全長Lの70%までの範囲にかけて、流出側セル22側の隔壁23の表面に形成されていた。基材の体積に対するコート量は乾燥後の重量で下層15Aが26.9g/L、上層15Bが12.6g/Lであった。第二触媒層の下層15Aに含まれたPd量は基材の体積に対して1.022/Lであり、第二触媒層の上層15Bに含まれたRh量は基材の体積に対して0.038g/Lであった。
【0084】
<実施例2>
第一触媒層14のコート量を26.1g/Lとし、第二触媒層15の上層15Bのコート量を8.1g/Lとした。それらの点以外は実施例1と同様にして排ガス浄化用触媒を得た。
【0085】
<実施例3>
第一触媒層14のコート量を17.1g/Lとし、第二触媒層15の上層15Bのコート量を17.1g/Lとした。それらの点以外は実施例1と同様にして排ガス浄化用触媒を得た。
【0086】
<実施例4>
基材11として、
図1に示す構造を有し、厚さが250μmのセル隔壁で区画された軸方向に延びるセルを、軸方向と直交する面において、300セル/inch
2有し、体積が1.4Lであり、平均細孔径が実施例1で用いたものとは異なる基材11を用いた。基材11について後述する方法でlog微分細孔容積分布を測定したところ、細孔容積のピーク位置は細孔径16,469nmであり、当該ピーク位置のlog微分細孔容積はI
A=1.72cm
3/gであった。
また第1のスラリー及び第2のスラリーのいずれにも造孔材を添加しなかった。
更に、第一触媒層14のコート量を25.1g/Lとし、第二触媒層15の下層15Aのコート量を23.9g/Lとし、上層15Bのコート量を12.1g/Lとした。それらの点以外は実施例1と同様にして排ガス浄化用触媒を得た。
【0087】
<実施例5>
第1のスラリーの造孔材の量を、CeO2-ZrO2固溶体粉末及びアルミナ粉末を含む混合溶液の固形分に対して10質量%とするとともに、第2のスラリーの造孔材の量を、CeO2-ZrO2固溶体粉末及びアルミナ粉末を含む混合溶液の固形分に対して25質量%とした。
それらの点以外は、実施例4と同様とした。
【0088】
<実施例6>
第1のスラリー及び第2のスラリーにおいて、それぞれ、粒径がD50=2μm、D90=7μmのCeO2-ZrO2固溶体粉末及び粒径がD50=2μm、D90=7μmのアルミナ粉末を用いた。
それらの点以外は、実施例5と同様とした。
【0089】
<実施例7>
第1のスラリー及び第2のスラリーにおいて、それぞれ、粒径がD50=14μm、D90=42μmのCeO2-ZrO2固溶体粉末及び粒径がD50=14μm、D90=42μmのアルミナ粉末を用いた。
それらの点以外は、実施例5と同様とした。
【0090】
<実施例8>
第1のスラリーの造孔材の量を、CeO2-ZrO2固溶体粉末及びアルミナ粉末を含む混合溶液の固形分に対して10質量%とするとともに、第2のスラリーの造孔材の量を、CeO2-ZrO2固溶体粉末及びアルミナ粉末を含む混合溶液の固形分に対して10質量%とした。
第1のスラリーにおいて硝酸ロジウムではなく、硝酸パラジウムを用いた。
第2のスラリーにおいて硝酸パラジウムではなく、硝酸ロジウムを用いた。
第二触媒層15の上層15Bを設けず、第一触媒層14のコート量を25.2g/Lとし、第2のスラリーからなる第二触媒層15のコート量を45.9g/Lとした。
それらの点以外は、実施例1と同様とした。なお、得られた第一触媒層14に含まれたPd量は、基材の体積に対して0.075g/Lであった。また、第二触媒層15に含まれたRh量は、基材の体積に対して1.744g/Lであった。
【0091】
<比較例1>
第1のスラリーの造孔材の量を、CeO2-ZrO2固溶体粉末及びアルミナ粉末を含む混合溶液の固形分に対して25質量%とした。一方、第2のスラリーに造孔材を添加しなかった。
第1のスラリーにおけるCeO2-ZrO2固溶体粉末とアルミナ粉末の質量比を3:1とし、第2のスラリーにおけるCeO2-ZrO2固溶体粉末とアルミナ粉末の質量比を7:1とした。
第一触媒層14のコート量を10.0g/Lとし、第2のスラリーからなる第二触媒層15のコート量を50.0g/Lとした。
それらの点以外は、実施例8と同様とした。なお、得られた第一触媒層14に含まれたPd量は、基材の体積に対して0.030g/Lであった。また、第二触媒層15に含まれたRh量は、基材の体積に対して1.9g/Lであった。
【0092】
<比較例2>
第1のスラリーに造孔材を添加しなかった。
第1のスラリーにおいて、CeO2-ZrO2固溶体粉末とアルミナ粉末の質量比を1:1とした。
それらの点以外は、比較例1と同様とした。
【0093】
[細孔容積の測定]
実施例及び比較例の各触媒を、上記の方法にて、排ガス浄化用触媒10における上流側端部R1から下流側に基材11の全長Lの10%離間した位置における隔壁23の一部を上流側サンプルとして1cm3(1辺が1cmの立方体形状)切り出した。同様に、下流側端部R2から上流側に全長Lの10%離間した位置における隔壁23の一部を下流側サンプルとして1cm3(1辺が1cmの立方体形状)切り出した。
そして、得られた結果から、IA、IB1、IB2、IC1及びIC2を求め、IB1/IA×100(%)、IB2/IA×100(%)、IC1/IA×100(%)及びIC2/IA×100(%)を算出した。得られた値を表1にそれぞれ示す。
なお、具体的な測定条件は以下の通りとした。
[排ガス浄化用触媒におけるlog微分細孔容積分布の測定]
測定装置としては、株式会社島津製作所製自動ポロシメータ「オートポアIV9520」を用いて、下記条件・手順で測定を行った。
(測定条件)
測定環境:25℃
測定セル:試料室体積 3cm3、圧入体積 0.39cm3
測定範囲:0.0048MPa から 255.106MPa まで
測定点:131点(細孔径を対数でとったときに等間隔になるように点を刻んだ)
圧入体積:25%以上80%以下になるように調節した。
(低圧パラメーター)
排気圧力:50μmHg
排気時間:5.0min
水銀注入圧力:0.0034MPa
平衡時間:10sec
(高圧パラメーター)
平衡時間:10sec
(水銀パラメーター)
前進接触角:130.0degrees
後退接触角:130.0degrees
表面張力:485.0mN/m(485.0dyne/cm)
水銀密度:13.5335g/mL
(測定手順)
(1)低圧部で0.0048MPaから0.2068MPa以下の範囲で46点測定。
(2)高圧部で0.2241MPaから255.1060MPa以下の範囲で85点測定。
(3)水銀注入圧力及び水銀注入量から、細孔容積分布を算出する。
なお、前記(1)、(2)、(3)は、装置付属のソフトウエアにて、自動で行った。その他の条件はJIS R 1655:2003に準じた。
【0094】
なお、各実施例において、IB1及びI C1測定時における第一触媒層14及び隔壁23を対象に測定したlog微分細孔容積分布には、細孔径1~1,000,000nm の測定範囲中の最大ピークが、10,000~100,000nmの第一範囲に観察された。また1~2,000nmの範囲中の最大ピークが、20~500nmの第二範囲に観察された。更に、2,000~10,000nmの範囲にもピークが観察された。同様に、各実施例において、IB2及びI C2測定時における第二触媒層15及び隔壁23を対象に測定したlog微分細孔容積分布には、細孔径1~1,000,000nmの測定範囲中の最大ピークが、10,000~100,000nmの第一範囲に観察された。また1~2,000nmの範囲中の最大ピークが、20~500nmの第二範囲に観察された。更に、2,000~10,000nmの範囲にもピークが観察された。
【0095】
[PM捕集性能]
排ガス浄化用触媒10を用いた車両を、国際調和排ガス試験モード(WLTC)の運転条件に従って運転した。運転開始から、589秒までの低速運転時、運転開始589秒から1022秒までの中速運転時、運転開始1022秒から1477秒までの高速運転時、運転開始から1477秒から1800秒までの超高速運転時のそれぞれにおける排ガス浄化用触媒10を通過した排ガス中のPM粒子数(PNcat)を測定した。さらに、エンジンから直接排出されるPM粒子数(PNall)を測定し、下記式によりPM捕集率を求めた。結果を表1に示す。
PM捕集率(%)=100-(PNcat/PNall)×100
(PM捕集率測定条件)
・評価車両:1.5L直噴ターボエンジン
・使用ガソリン:認証試験用燃料
・PM測定装置:堀場製作所社製
【0096】
[NOx排出量の測定]
実施例及び比較例の排ガス浄化用触媒を、エンジンの排気経路に配置し、10~20万キロ走行を想定した劣化処理として、次のような耐久条件を課した。
(耐久条件)
・耐久用エンジン:乗用NA 2L ガソリンエンジン
・使用ガソリン:市販レギュラーガソリン
・耐久温度・時間:900℃、100hr
【0097】
上記条件にて耐久試験を行った後に、耐久後の排ガス浄化用触媒を下記車両に設置した。次いで、該車両を、国際調和排ガス試験モード(WLTC)の運転条件に従って運転した。運転開始から、589秒までの低速運転時、運転開始589秒から1022秒までの中速運転時、運転開始1022秒から1477秒までの高速運転時、運転開始から1477秒から1800秒までの超高速運転時のそれぞれにおける排ガス浄化用触媒10を通過した排ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量(エミッション値)を測定した。結果を表1に示す。なお、NOx排出量の測定は、実施例1~4,8及び比較例1,2についてのみ行った。
(浄化率測定条件)
・評価車両:1.5L直噴ターボエンジン
・使用ガソリン:認証試験用燃料
・排ガス測定装置:堀場製作所社製
【0098】
【0099】
表1に示す通り、IB1/IA×100≧60%、IB2/IA×100≧60%、IC1/IA×100≧3%、IC2/IA×100≧3%を満たす各実施例は、PM捕集率が高い。これに対し、IB2/IA×100≧60%或いはIC1/IA×100≧3%を満たさない比較例1及び2はPM捕集率に劣る。また、第一触媒層14にPdを含有させ、第二触媒層15にRhを含有させ、第二触媒層15を一層とする実施例8及び比較例1はいずれもNOx排出量が比較的多かった(9mg/km超)に比して、第一触媒層14にRhを含有させ、第二触媒層15の下層にPdを、上層にRhを含有させる実施例1~4の構成により、NOx排出量を8.3mg/km以下まで低減させることができ、NOx浄化性能を向上させることができることも判る。また、各実施例で用いた排ガス浄化用触媒は、圧損の低いものであった。
【符号の説明】
【0100】
10 排ガス浄化用触媒
11 基材
14 第一触媒層
15 第二触媒層
21 流入側セル
22 流出側セル
23 隔壁