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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】加湿装置、加湿器及び加湿方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 6/00 20060101AFI20230123BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230123BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20230123BHJP
   F24F 6/04 20060101ALI20230123BHJP
   F24F 7/003 20210101ALI20230123BHJP
   F24F 6/14 20060101ALN20230123BHJP
【FI】
F24F6/00 A
A61L9/01 B
A61L9/14
F24F6/04
F24F7/003 100
F24F6/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021017171
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120335
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】高塚 威
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-337846(JP,A)
【文献】特開2005-312604(JP,A)
【文献】特開2002-039576(JP,A)
【文献】特開2016-185506(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159630(WO,A1)
【文献】特開2007-268402(JP,A)
【文献】特開平11-009919(JP,A)
【文献】特開2001-081006(JP,A)
【文献】特開2015-124959(JP,A)
【文献】特開2008-309357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 6/00
F24F 6/04
F24F 7/003
A61L 9/01
A61L 9/14
F24F 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸水が雰囲気中に吹き出される吹出部と、
前記吹出部に炭酸水を供給する炭酸水供給手段と、
前記炭酸水供給手段に設けられ、銀イオンを発生させる銀イオン発生機構とを備え、
前記銀イオン発生機構は、銀型ゼオライトを有し、前記銀型ゼオライトから銀イオンが溶出されるものであり、
前記銀型ゼオライトは、ナイロン樹脂に、銀イオンが担持されたゼオライトを混錬して加工されたものであり、
炭酸水は、前記炭酸水供給手段によって前記吹出部へ流れ、この流れの中で銀イオンと混じり、粒子化されて吹き出され、雰囲気中を加湿するものである、
ことを特徴とする加湿装置。
【請求項2】
雰囲気中に吹き出される炭酸水は、気化されて又は霧状化されて、吹き出されるものである、
請求項1に記載の加湿装置。
【請求項3】
前記炭酸水供給手段は、水を供給する水供給手段と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段とを有し、供給された水に二酸化炭素が混合されて得られた炭酸水を前記吹出部に供給するものである、
請求項1又は請求項2に記載の加湿装置。
【請求項4】
前記二酸化炭素供給手段は、二酸化炭素の濃度が95%以上であるガスを供給するものである、
請求項3に記載の加湿装置。
【請求項5】
前記炭酸水は温度が5~40℃であり、かつpHが4.5~5.6となるものである、
請求項3又は請求項4に記載の加湿装置。
【請求項6】
銀イオンが混じった炭酸水中に含まれる銀イオンの濃度が40~1000ppbである、
請求項1~5のいずれか1項に記載の加湿装置。
【請求項7】
炭酸水を吸水する吸水部材と、
前記吸水部材に炭酸水を供給する炭酸水供給手段と、
前記炭酸水供給手段に設けられ、銀イオンを発生させる銀イオン発生機構とを備え、
前記銀イオン発生機構は、銀型ゼオライトを有し、前記銀型ゼオライトから銀イオンが溶出されるものであり、
前記銀型ゼオライトは、ナイロン樹脂に、銀イオンが担持されたゼオライトを混錬して加工されたものであり、
炭酸水は、前記炭酸水供給手段によって前記吸水部材へ流れ、この流れの中で銀イオンと混じり、前記吸水部材に吸水されるものである、
ことを特徴とする加湿器。
【請求項8】
銀イオンを発生させる銀イオン発生機構を備え、
前記銀イオン発生機構は、銀型ゼオライトを有し、前記銀型ゼオライトから銀イオンが溶出されるものであり、
前記銀型ゼオライトは、ナイロン樹脂に、銀イオンが担持されたゼオライトを混錬して加工されたものであり、
炭酸水に前記銀イオン発生機構で発生した銀イオンを混入させ、
銀イオンが混入された炭酸水を粒子化して吹出部から吹き出させて、雰囲気中を加湿する、
ことを特徴とする加湿方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加湿装置、加湿器及び加湿方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人が生活する室内を満たす空気には、雑菌やウイルス等が含まれ、これらの物質は人体に悪影響を及ぼす場合がある。雑菌に対しては室内空気から雑菌を取り除く機器、例えば空気清浄機を設置して、室内空気の清浄化を図る試みがなされる。
【0003】
この機器は、室内空気から雑菌を分離するフィルタが設けられているものがあるが、この機器の使用を続けると、雑菌がフィルタに付着して増殖したり、増殖した雑菌が空気中に再び飛散したりする場合があり、衛生上好ましくない。
【0004】
この雑菌の増殖を抑える技術として、例えば、特許文献1に記載の加湿装置がある。この加湿装置は、加湿フィルタに、水槽内にイオンが溶出する金属体を配し、静止部材に金属体の表面を摩擦する摩擦体を配してあることを特徴とするものであり、加湿用水の雑菌による汚染を抑制することができ、快適な空間を創出する効果があるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-257093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術は、金属体又は摩擦体がすり減ると金属体の表面が摩擦されがたくなってイオン化する量が減り、結果として雑菌の増殖を抑制する効果が奏されなくなるおそれがある。また、空気中に漂うウイルスに対しては言及がなく効果が不明である。そこで、本発明が解決する課題は、抗菌性及び抗ウイルス性を有する加湿装置及び加湿方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ね、金属体の中でも銀がイオン化した銀イオンが効果的な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、しかもその銀イオンの濃度が高いほどより優れた効果が奏されることを突き止めた。この観点をもとに完成させた発明の態様が次に示すものである。
【0008】
(第1の態様)
炭酸水が雰囲気中に吹き出される吹出部と、
前記吹出部に炭酸水を供給する炭酸水供給手段と、
前記炭酸水供給手段に設けられ、銀イオンを発生させる銀イオン発生機構とを備え、
炭酸水は、前記炭酸水供給手段によって前記吹出部へ流れ、この流れの中で銀イオンと混じり、粒子化されて吹き出され、雰囲気中を加湿するものである、
ことを特徴とする加湿装置。
【0009】
銀イオンは抗菌性を有する。本態様における加湿装置は、銀イオンを含む炭酸水が吹き出されるため、銀イオンの抗菌作用により、雰囲気中における雑菌の増殖を抑制するとの効果を奏する。そして、吹き出されるものを銀イオンを含む炭酸水としたときは、抗菌性に加え、抗ウイルス性を有するとの知見を、発明者等は得た。また、銀イオンは、酸性の媒体下では容易に溶出することから、銀の溶出を促進するための手段を別途設けなくても、酸性を帯びた炭酸水の流れの中で容易に溶出が促進される。そのため、吹き出される炭酸水に含まれる銀イオンの濃度が相対的に高くなり、当該炭酸水が優れた抗菌性及び抗ウイルス性を備えるものとなる。
【0010】
(第2の態様)
雰囲気中に吹き出される炭酸水は、気化されて又は霧状化されて、吹き出されるものである、
第1の態様の加湿装置。
【0011】
炭酸水が気化又は霧状化された粒子で吹き出されるので、雰囲気中への拡散が促進され、抗菌効果、抗ウイルス効果が雰囲気全体に及ぶ。
【0012】
(第3の態様)
前記炭酸水供給手段は、水を供給する水供給手段と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段とを有し、供給された水に二酸化炭素が混合されて得られた炭酸水を前記吹出部に供給するものである、
第1の態様又は第2の態様の加湿装置。
【0013】
二酸化炭素供給手段による二酸化炭素の供給量を適宜変えて炭酸水のpHを調節することで、銀イオンの溶出量を制御することができる。
【0014】
(第4の態様)
前記二酸化炭素供給手段は、二酸化炭素の濃度が95%以上であるガスを供給するものである、
第3の態様の加湿装置。
【0015】
仮に、二酸化炭素供給手段によって供給されるガスに空気を用いるとすれば、空気中に占める二酸化炭素の割合が相対的に低いので、炭酸水のpHを所望の値にするためには、供給量や供給圧を高める等の処置をすることになるが、本態様であれば、二酸化炭素の濃度が95%以上なので、容易に炭酸水のpHを調節することができる。
【0016】
(第5の態様)
前記炭酸水は温度が5~40℃であり、かつpHが4.5~5.6となるものである、
第3の態様又は第4の態様の加湿装置。
【0017】
水の温度が低温であれば、水に二酸化炭素が多く溶けるが、銀イオンの溶出量は低減する。また、銀イオンは酸性溶液でより多く溶出するとの知見を発明者等は得ている。上記態様であれば、二酸化炭素のみならず銀も水に相対的に多く溶けるので、炭酸水中の銀イオンの濃度が相対的に高くなり、抗菌性及び抗ウイルス性に優れたものとなる。
【0018】
(第6の態様)
銀イオンが混じった炭酸水中に含まれる銀イオンの濃度が40~1000ppbである、
第1~第5のいずれかの態様の加湿装置。
【0019】
上記態様であれば、炭酸水中の銀イオンの濃度が相対的に高いので、優れた抗菌性及び抗ウイルス性を有する炭酸水となる。
【0020】
(第7の態様)
炭酸水を吸水する吸水部材と、
前記吸水部材に炭酸水を供給する炭酸水供給手段と、
前記炭酸水供給手段に設けられ、銀イオンを発生させる銀イオン発生機構とを備え、
炭酸水は、前記炭酸水供給手段によって前記吸水部材へ流れ、この流れの中で銀イオンと混じり、前記吸水部材に吸水されるものである、
ことを特徴とする加湿器。
【0021】
吸水部材に吸水された、銀イオンが混じった炭酸水は、抗菌性、抗ウイルス性を備えるので、吸水部材や吸水部材近傍の雰囲気で雑菌の増殖が抑制される。
【0022】
(第8の態様)
炭酸水に銀イオンを混入させ、
銀イオンが混入させた炭酸水を粒子化して吹出部から吹き出させて、雰囲気中を加湿する、
ことを特徴とする加湿方法。
【0023】
当該態様であれば、優れた抗菌性、抗ウイルス性を有する炭酸水が吹出部から雰囲気中に拡散して加湿することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、抗菌性及び抗ウイルス性を有する加湿装置、加湿器及び加湿方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】加湿装置の一実施形態を表す図である。
図2】加湿装置の別の実施形態を表す図である。
図3】炭酸水におけるpHと銀イオン濃度の関係を表した図である。
図4】炭酸水におけるpHと銀イオン濃度の関係を表した図である。
図5】塩酸水及びクエン酸水におけるpHと銀イオン濃度の関係を表した図である。
図6】炭酸水における銀イオン濃度とpHの関係を表した図である。
図7】感染価の測定結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0027】
本発明に係る加湿装置1は、炭酸水が雰囲気中に吹き出される吹出部36と、前記吹出部36に炭酸水を供給する炭酸水供給手段と、前記炭酸水供給手段に設けられ、銀イオンを発生させる銀イオン発生機構20とを備え、炭酸水は、前記炭酸水供給手段によって前記吹出部へ流れ、この流れの中で銀イオンと混じり、粒子化されて吹き出され、雰囲気中を加湿するものであることを特徴とする。また、本発明に係る加湿器は、炭酸水を吸水する吸水部材35と、前記吸水部材35に炭酸水を供給する炭酸水供給手段と、前記炭酸水供給手段に設けられ、銀イオンを発生させる銀イオン発生機構とを備え、炭酸水は、前記炭酸水供給手段によって前記吸水部材35へ流れ、この流れの中で銀イオンと混じり、前記吸水部材35に吸水されるものである、ことを特徴とする。さらに本発明に係る加湿方法は、炭酸水に銀イオンを混入させ、銀イオンが混入された炭酸水を粒子化して吹出部から吹き出させて、雰囲気中を加湿する、ことを特徴とするものである。以下、加湿装置1について図1を参照しつつ説明する。
【0028】
(炭酸水供給手段)
加湿装置1は炭酸水供給手段を有する。当該炭酸水供給手段は、水供給手段、二酸化炭素供給手段、混合器10、銀イオン発生機構20、流路、開閉弁、吸水部材35(加湿エレメントともいう。)を有するものである。水供給手段は、水Wが流れる流路51を有し、当該流路51の下流に設置された吸水部材35に水Wを供給するものである。流路51は、上流側からポンプ40、分岐する流路55、開閉弁53a、分岐する流路56、開閉弁53b、開閉弁53cを有し、流路55が混合器10に接続されている。流路55には、開閉弁53gを設けることができる。二酸化炭素供給手段は、開閉弁53dを備え、二酸化炭素Cが流れる流路52を有し、当該流路52の下流端が混合器10に接続されるものである。混合器10は、水Wと二酸化炭素Cとを混合して炭酸水を得るものであり、混合器10で得られた炭酸水は、混合器10と銀イオン発生機構20とを接続する流路57を流れ、銀イオン発生機構20に達する。流路57には、上流側から、流路57と流路51を接続する流路56、開閉弁53eを設けることができる。流路56には開閉弁53hを設けてもよく、流路51側から流路57側へ液体が流れるようにしてもよいし、流路57側から流路51側へ液体が流れるようにしてもよい。銀イオン発生機構20に流入した炭酸水は、銀イオンと混じり合って銀イオン発生機構20から流出し、銀イオン発生機構20と流路51のうちの吸水部材35近傍とを接続する流路58及び流路51を流れて、吸水部材35に供給される。なお、流路58には、開閉弁53fを設けるとよい。なお、流路としては、液体や気体が流れるものであれば特に限定されないが、液体や気体を通すことができる配管やチューブを例示できる。
【0029】
水Wの流れの経路は、開閉弁53a,53b,…,53h各々の開閉の状態により複数選択することができる。例えば、流路51の上流端から供給された水Wが、上流側から流路55、混合器10、流路57、銀イオン発生機構20、流路58、流路51、吸水部材35へと流れる経路を挙げることができる。また、二酸化炭素を含めないものとする場合は、二酸化炭素供給手段からの二酸化炭素の供給を停止すればよい。具体的には、流路51の上流端から供給された水Wが、上流側から流路55、混合器10、流路57、銀イオン発生機構20、流路58、流路51、吸水部材35へと流れる経路とする、又は、上流側から流路56、流路57、銀イオン発生機構20、流路58、流路51、吸水部材35へと流れる経路とするとよい。この経路では、加湿装置1から吹き出されるものが、銀イオンを含む水となる。室内の空気を加湿装置1に通すことで、例えば、夏場に室内の空気中に含まれる細菌やウイルスを軽減するとき等に選択される。さらに、銀イオン発生機構20を経由しない経路、具体的には、流路51の上流端から供給された水Wが、上流側から流路55、混合器10、流路57、流路51、吸水部材35へと流れる経路を挙げることができる。この経路では、加湿装置1から吹き出されるものが、銀イオンを含まない炭酸水となる。室内の有害なガス状化学物質を除去するとき等に選択される。空気中に存在する有害なガス成分で水に可溶なものを、炭酸水と接触させることで、その一部を溶解、除去することができる。また、炭酸水を噴霧すれば、アルカリ性のガスを中和除去することができる。
【0030】
炭酸水供給手段を流れる水Wの流量は、加湿装置1や加湿装置1が設置される室内の規模等を考慮して適宜調節できるものとするとよいが、例えば、18~180L/h程度とする。
【0031】
吸水部材35は、筐体30(ケーシングともいう。)内に設けることができる。筐体30は、このほか、送風機31、フィルタ32、冷却コイル33、加熱コイル34、吹出部36を設けることができる。筺体30内では、送風機31の起動により、筐体30の外の空気が、筐体30の壁に設けられた開口部(図示しない)から筐体内に流れ込み、フィルタ32で空気に含まれる塵埃等が取り除かれて、残りの空気が透過され、冷却コイル33で冷却され、又は加熱コイル34で加熱されて、吸水部材35に達し、加湿されて、吹出部36から筐体30の外へ吹き出される。
(吹出部)
吹出部36は、特に限定されず、公知の吹出部を適宜用いることができる。筐体30内で気化又は霧状化された粒子状の炭酸水が筐体30の外へ放出されるための開口が設けられている形態を例示できる。
【0032】
(水供給手段)
水供給手段により供給される水は、特に限定されないが、例えば、水道の水を用いることができる。この水は所望の温度範囲内であることが好ましく、供給される水が所望の温度の範囲から外れる場合は、所望の温度範囲になるように、あらかじめ水を温めたり、冷やしたりする手段(図示しない)を設けておくとよい。
【0033】
(二酸化炭素供給手段)
二酸化炭素供給手段により、二酸化炭素Cが高濃度に含まれるガスが混合器10に供給される。当該ガスは例えば、二酸化炭素が封入されたガスボンベから供給されるものとすることができる。当該ガスに含まれる二酸化炭素の濃度は、95%以上であれば好ましく、99.9%以上であればより好ましく、99.98%以上であれば好適である。当該ガスに含まれる二酸化炭素の濃度が95%未満だと、得られる炭酸水は、pHが相対的に高いので、銀イオンの溶け込み量が少なく、所望の抗菌効果や抗ウイルス効果が奏されないおそれがある。二酸化炭素供給手段は、二酸化炭素の供給量が調節可能なものとするとよい。当該供給量を調節することで、炭酸水に含まれる二酸化炭素の濃度を調節することができ、pHの調整もできるので、銀イオンの溶け込み量を想定することができる。例えば、抗菌効果や抗ウイルス効果を高めたいときは、二酸化炭素の供給量を増加させればよい。
【0034】
銀イオンは、抗菌、抗ウイルス作用があり、高濃度ほどその作用が高まる。また、銀イオンは、媒体が酸性であれば相対的に多く溶ける性質を有する。そこで、銀イオンが溶け込む媒体としては、酸性を有する媒体を用いるとよい。酸性を有する媒体としては、例えば、炭酸水、塩酸水、クエン酸水を挙げることができる。特に、炭酸水であれば、二酸化炭素を容易に入手でき、また、誤飲しても健康を害することがなく安全性に優れるので好ましい。
【0035】
(混合器)
混合器10は特に限定されないが、例えば、回分式容器や連続式容器とすることができる。炭酸水は例えば次のように製造することができる。流路52の下流端を混合器10の底部に位置するように設置し、当該下流端よりも水面が高い位置になるように、水Wを注入しておき、当該下流端から二酸化炭素Cを注入する。これにより水Wに二酸化炭素が溶け込み、炭酸水が得られる。
【0036】
(銀イオン発生機構)
銀イオン発生機構は、銀から銀イオンを発生させるものである。銀イオンの発生には、銀板電極に電流を流し電気分解を行い、銀イオンを溶出させる電解法によるものを例示できる。このほか、ゼオライトのもつイオン交換機能を利用して硝酸銀溶液中でイオン交換反応を行なって製造した銀型ゼオライトを用いる方法によるものや、水溶性ガラスのSi原子の一部を銀に置換し、ガラスの溶解とともに銀イオンが溶出する銀含有水溶性ガラスを用いる方法によるもの、樹脂の表面に銀の微粉末をコーティングして、銀イオンを溶出させる金属微粉末を用いる方法によるもの、ナイロン樹脂に銀イオンが担持されたゼオライトを混錬し、ペレット状に加工したものを用いる方法によるものを挙げることができる。特にゼオライトのもつイオン交換機能を利用して硝酸銀溶液中でイオン交換反応を行なって製造した銀型ゼオライトを用いる方法によるもの及びナイロン樹脂に銀イオンが担持されたゼオライトを混錬し、ペレット状に加工したものを用いる方法によれば、イオンの過剰な放出がないので好ましい。
【0037】
銀イオン発生機構による銀イオン濃度の制御手法については、電流値や投入量を調節することによって、銀イオンの溶出量を制御して、炭酸水における銀イオン濃度を所望の値にする手法や、電極を用いずに炭酸水の流れの中に銀型ゼオライトを浸漬させて銀イオンを溶出させ、炭酸水の濃度を調節することによって、炭酸水における銀イオン濃度を所望の値にする手法を挙げることができる。
【0038】
銀型ゼオライトは、市中のものを適宜用いることができるが、特に略球形状やペレット状に加工されたものは銀イオンの溶出性に優れるので好ましい。略球形状の銀型ゼオライトとしては、例えば、平均粒径約2.5μmの微粉末をバインダーと混錬し、平均粒径が約4mmの略球形状に造粒された、銀含有率が約2.5wt%とするものを挙げることができる。ペレット状の銀型ゼオライトとしては、例えばナイロン樹脂と微粉末を混錬して3φ×3mm程度に成形された、銀含有率が約1.5wt%とするものを挙げることができる。親水性のナイロン樹脂を用いて混錬されているため、水との濡れ性も良く、粉落ちもし難い。また、ペレット状の銀型ゼオライトは微粉末として表面に存在することで起伏に富み、平滑な表面である略球形状の銀型ゼオライトよりも比表面積が大きく、水とより多く接触するので、銀イオンが溶出しやすいという点で優れる。
【0039】
水への二酸化炭素の溶け込み量は、水の温度に依存し、温度が高いほど少なくなる傾向にある。また、下記の数式1(数1)により、炭酸水中に二酸化炭素がより多く溶け込むほど、炭酸水のpHは、酸性に富んだものとなる。
【数1】
ここで、[H+]は水素イオン濃度、cは炭酸水中の二酸化炭素のモル濃度、Ka(=4.4×10-7)は電離定数である。
【0040】
一方で、炭酸水への銀イオンの溶け込み量は、水の温度に依存し、温度が高いほど多くなる傾向にある。また、炭酸水への銀イオンの溶け込み量は、炭酸水のpHが小さいほど多くなる傾向にある。
【0041】
これらの点を考慮すると、炭酸水は温度が5~40℃であり、かつpHが4.5~5.6であると好ましく、当該温度が5~20℃であり、かつ当該pHが4.8~5.1となるものであるとより好ましく、また、当該温度が10~15℃であり、かつ当該pHが4.86~4.97であると好適である。上記範囲内であれば、二酸化炭素の溶け込み量及び銀イオンの溶け込み量が相対的に多いので、抗菌効果及び抗ウイルス効果に優れたものとなる。当該温度が5℃未満だと炭酸水が冷たく取り扱い難く、当該温度が40℃超だと二酸化炭素の溶け込みが少なくなるおそれがある。当該pHが4.5未満だと雰囲気中に吹き出される炭酸水が相対的に強い酸性を帯びたものとなるので、生活空間にある器材等を傷めるおそれがあり、当該pHが5.6超だと銀イオンの溶け込み量が少なくなるおそれがある。
【0042】
銀イオン発生機構20で発生した銀イオンが混じった炭酸水は、銀イオンの濃度が40~1000ppb、好ましくは400~700ppbであるとよい。当該銀イオンの濃度が40ppb未満だと雰囲気中に吹き出される炭酸水による抗菌効果及び抗ウイルス効果が弱まるおそれがある。炭酸水は銀イオンの濃度が高すぎると有害となる場合があるが、銀イオンの濃度の上限が1000ppbであれば、有害性はなく、かつ十分な抗菌性及び抗ウイルス性を備えたものとなる。
【0043】
(吸水部材)
吸水部材35の形態は特に限定されないが、例えば、空気が透過可能な膜状のものを挙げることができる。この形態であれば、送風機31の運転により生ずる気流の向きに対して対向するように吸水部材35を設置することで、空気が効率よく加湿され好ましい。気流に沿って吸水部材35を透過した空気は、吸水部材35に付着された炭酸水が気化した粒子を含んで、吹出部36から筐体30の外の雰囲気中に吹き出される。吸水部材35に用いられる素材としては、例えば、不織布やセラミックペーパーなどを材質とするほか、プラスチックや金属であってもよい。ただし、水を吸収して滞留しておくことが必要であるために、繊維系のものが望ましい。
【0044】
炭酸水は、銀イオン発生機構で発生した銀イオンと混じり合ってから、時間を空けずに吸水部材35又は吹出部36に供給されるものとしてもよいが、少なくとも1分間、より好ましくは60分間、滞留させた後に、吸水部材35又は吹出部36に供給されるものとすると好ましい。少なくとも1分間滞留させておくことによって、炭酸水が混和され、抗菌性及び抗ウイルス性に優れたものとなる。
【0045】
(加湿器)
本実施形態に係る加湿器は、吸水部材35を備えるものであり、この吸水部材35が気流にさらされることで、吸水された水分が気中に拡散することになる。また加湿器の吸水部材35を筐体30内に設置することで加湿装置1として用いることができる。
【0046】
<実施形態の変形例>
以上、本発明の加湿装置について、気化式のものを説明したが、噴霧式のものにも適用することができる。そこで、噴霧式の加湿装置について以下に説明する。噴霧式の加湿装置は、気化式の加湿装置と以下の点において相違するほかは、同様とすることができるため、相違する点について説明する。
【0047】
相違点は、気化式の加湿装置では吸水部材35が備わっているが、噴霧式の加湿装置では吸水部材35が備わっておらず、炭酸水を噴霧して粒子化、特に霧状化する噴霧ノズル61と、噴霧された炭酸水のうち水滴化したものが飛散するのを防ぐエリミネータ62(除水板)が備わっている点である。
【0048】
噴霧ノズル61とエリミネータ62は、筐体30内に備えることができる。筐体30内では、送風機31の起動により、筐体30の外の空気が、筐体30内に流れ込み、フィルタ32で空気に含まれる塵埃等が取り除かれて、残りの空気が透過され、冷却コイル33で冷却され、又は加熱コイル34で加熱されて、噴霧ノズル61に達して加湿され、水滴化したものがエリミネータ62によって取り除かれ、残りの霧状化した炭酸水を含む空気が、吹出部36から筐体30の外へ吹き出される。
【実施例
【0049】
(測定1)
測定1では、加湿装置1を用いて、炭酸水供給手段により得られた銀イオンが混じった炭酸水中に含まれる銀イオンの濃度を測定した。銀イオン濃度は、炭酸水のpHを様々に変えて測定した。炭酸水のpHは、二酸化炭素供給手段から供給される二酸化炭素の供給量を調節することで制御した。炭酸水の温度は、23℃とした。銀イオン発生機構は、ナイロン樹脂に銀イオンが担持されたゼオライトを混錬してペレット状に加工したもの(新日本空調株式会社製品「ゼオシルバー」)を用い、当該加工したものを炭酸水の流れの中に設置して、銀イオンを発生させるものとした。
【0050】
測定結果を図3に示した。図中、「〇(丸)」は測定値、曲線は炭酸水のpH(横軸)と銀イオンの濃度(縦軸)との関係を表す線である。
【0051】
(測定2)
測定2では、測定1と同様に、炭酸水供給手段により得られた、銀イオンが混じった炭酸水中に含まれる銀イオンの濃度を測定した。測定2と測定1との違いは、銀イオン発生機構であり、そのほかの測定条件については、測定2と測定1とで違いはなかった。測定2では、銀イオン発生機構に、ナイロン樹脂に銀イオンが担持されたゼオライトを混錬して粒状に加工したもの(新日本空調株式会社製品「Ag-ion Master(登録商標)」)を用いた。
【0052】
測定結果を図4に示した。図中、「〇(丸)」は測定値、曲線は炭酸水のpH(横軸)と銀イオンの濃度(縦軸)との関係を表す線である。
【0053】
(測定3)
測定3では、炭酸水供給手段によって供給される媒体として、炭酸水ではなく、塩酸水又はクエン酸水を用いた。塩酸水又はクエン酸水のpHは、塩酸水又はクエン酸水中に含まれる塩酸又はクエン酸の濃度を調節することで制御した。塩酸水又はクエン酸水の温度は、23℃とした。銀イオン発生機構に、ナイロン樹脂に銀イオンが担持されたゼオライトを混錬して粒状に加工したもの(新日本空調株式会社製品「Ag-ion Master(登録商標)」)を用いた。
【0054】
測定結果を図5に示した。図中、「〇(丸)」は媒体を塩酸水としたときの測定値、「□(四角)」は媒体をクエン酸水としたときの測定値、曲線は塩酸水及びクエン酸水のpH(横軸)と銀イオンの濃度(縦軸)との関係を表す線である。なお、図5において曲線は、媒体を塩酸水としたときの銀イオン濃度の測定点と、媒体をクエン酸水としたときの銀イオン濃度の測定点を区別することなくプロットしたものである。
【0055】
(測定4)
測定4では、加湿装置1を用いて、炭酸水供給手段により得られた、銀イオンが混じった炭酸水中に含まれる銀イオンの濃度、及び炭酸水のpHを測定した。銀イオン濃度は、炭酸水の温度を様々に変えて測定した。銀イオン発生機構は、ナイロン樹脂に銀イオンが担持されたゼオライトを混錬して粒状に加工したもの(新日本空調株式会社製品「Ag-ion Master(登録商標)」)を用い、当該加工したものを炭酸水の流れの中に設置して、銀イオンを発生させるものとした。
【0056】
測定結果を図6に示した。図中、「△(三角)」は銀イオンの濃度の測定値(実測値)を表し、「□(四角)」は炭酸水のpHの測定値(実測値)を表し、「〇(丸)」は炭酸水のpHの理論値を表す。銀イオンの濃度の測定値(実測値)は左側の縦軸で、炭酸水のpHの測定値(実測値)は右側の縦軸で、炭酸水のpHの理論値は右側の縦軸でそれぞれ読み取るものとする。
【0057】
(測定5)
測定5では、ウイルスの感染価(TCID50/mL)をTCID50法に準拠して測定した。A型インフルエンザウイルス溶液0.1mLとサンプル液0.9mLを均一になるように混ぜて混合液とした。この混合液のうちの0.1mLを、MCDK細胞(イヌ腎臓上皮細胞株 Madin-Darby kidney cell)に混ぜ、当該MCDK細胞をSCDLP培地(レシチン、ポリソルベート80添加ソイビーンカゼイン寒天培地)に添加して4日間培養した後、計数して感染価とした。なお、上記混合液は、混ぜてから1分間放置したものと60分間放置したものをそれぞれ用意した。サンプル液は、下記に示すサンプル液1~サンプル液4のうちのいずれかである。
サンプル液1:水
サンプル液2:銀イオンの濃度が16ppbである水(銀イオン溶解水)
サンプル液3:炭酸水(pH5.06)
サンプル液4:銀イオンの濃度が404ppbである炭酸水(銀イオン溶解炭酸水)(pH5.06)
【0058】
測定結果を図7に示した。図中、「○(丸)」はサンプル液1を表し、「□(四角)」はサンプル液2を表し、「△(三角)」はサンプル液3を表し、「◇(菱形)」はサンプル液4を表す。サンプル液3及びサンプル液4は、サンプル液1及びサンプル液2よりも感染価が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、加湿装置、加湿器及び加湿方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 加湿装置
10 混合器
20 銀イオン発生機構
35 吸水部材
36 吹出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7