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特許7214782晶析方法、晶析装置、および晶析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】晶析方法、晶析装置、および晶析システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 9/02 20060101AFI20230123BHJP
   B01F 27/94 20220101ALI20230123BHJP
【FI】
B01D9/02 602E
B01D9/02 603B
B01D9/02 603E
B01D9/02 604
B01D9/02 605
B01D9/02 609A
B01F27/94
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021076192
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022170211
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2022-12-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000225016
【氏名又は名称】プライミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】津崎 裕也
(72)【発明者】
【氏名】神戸 達哉
(72)【発明者】
【氏名】春藤 晃人
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-112892(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008393(WO,A1)
【文献】特開2010-137183(JP,A)
【文献】特開平11-347388(JP,A)
【文献】特開2016-087590(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0280910(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111841475(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D9/00-9/04
B01J19/00-19/32
B01F27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面を有する有底円筒状の反応槽と、
前記反応槽の内部に前記反応槽と同心状かつ回転可能に配置されるとともに径方向に貫通する複数の孔を備える円筒状の撹拌翼と、
前記反応槽の内部に第1反応液を供給するための第1給液部と、
前記反応槽の内部に第2反応液を供給するための第2給液部と、を備える晶析装置において、
前記第1反応液を前記第1給液部から前記反応槽の内部に供給する第1給液ステップと、
前記撹拌翼の回転に伴い前記反応槽の前記内周面に前記第1反応液の液膜を形成する液膜形成ステップと、
前記撹拌翼の内周面と前記第1反応液の前記液膜とから離れた位置から前記液膜に向けて前記第2反応液を供給し前記第1反応液と前記第2反応液を反応させる第2給液ステップと、
を備えることを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
前記液膜の表面は、回転する前記撹拌翼の前記内周面から前記撹拌翼の径方向内側に2mm以内に位置することを特徴とする請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
前記撹拌翼の周速は、5m/秒以上55m/秒以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の晶析方法。
【請求項4】
内周面を有する有底円筒状の反応槽と、
前記反応槽の内部に前記反応槽と同心状かつ回転可能に配置されるとともに径方向に貫通する複数の孔を備える円筒状の撹拌翼と、
前記反応槽に設けられるとともに前記反応槽の内部に第1反応液を供給し、前記撹拌翼の回転に伴い前記反応槽の前記内周面に前記第1反応液の液膜を形成するための第1給液部と、
前記撹拌翼の内周面と前記第1反応液の前記液膜とから離れた前記反応槽の内部の前記第1給液部と異なる位置から前記液膜に向けて第2反応液を供給し前記第1反応液と前記第2反応液を反応させるための第2給液部と、
を備えることを特徴とする晶析装置。
【請求項5】
前記撹拌翼よりも上部の前記反応槽の前記内周面に円環状の堰板が設けられており、前記反応槽の中心軸に平行な断面で見た場合、前記堰板の内周端は前記第2給液部の外周端よりも前記反応槽の径方向外側に位置することを特徴とする請求項4に記載の晶析装置。
【請求項6】
前記第2給液部は複数設けられていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の晶析装置。
【請求項7】
前記撹拌翼の外周面と前記反応槽の前記内周面との間のクリアランスが5mm以下であることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の晶析装置。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の晶析装置と、前記反応槽から圧送される生成物を貯留又は外部に排出する滞留槽と、前記生成物を前記滞留槽と前記晶析装置との間で循環させる循環ポンプと、を備えることを特徴とする晶析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、晶析方法、晶析装置、および晶析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の原料溶液を混合し、原料溶液中の原料に由来する粒子を得る晶析装置として、特許文献1~特許文献3に記載される晶析装置が知られている。
【0003】
上記のような晶析装置においては、複数の原料溶液の混合液中に設けられた撹拌翼を回転させて、混合液に剪断力を与えることで撹拌を促進させている。より粒子径が均一で高品質な微粒子を生成するためには、複数の原料溶液が互いに接触して粒子が生成する反応が行われる場である反応場に、撹拌翼を高速で回転して発生させた剪断力を効率的に伝達して反応を促進することが重要である。効率的な剪断力の伝達を達成するために、回転子である撹拌翼と、固定子である反応槽や反応液供給ノズルなどとのクリアランスを最小化する試みがなされている。
【0004】
しかしながら、撹拌翼の回転速度が早くなればなるほど、工業規模スケールの装置を製作するにあたり、撹拌翼と反応槽や、撹拌翼と反応液供給ノズルとのクリアランスを最小化することは、製作精度の観点から難易度が高く困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-137183号公報
【文献】特開2010-022894号公報
【文献】特許第3256801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景の下になされ、撹拌翼と反応液供給ノズルとの間にクリアランスを設けることで高い製作精度を要することなく剪断力が最も高い撹拌翼の内周に形成される液膜の表面を反応が始まる反応開始ポイントとすることができる晶析方法、晶析装置、および晶析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の第1の態様は、内周面を有する有底円筒状の反応槽と、前記反応槽の内部に前記反応槽と同心状かつ回転可能に配置されるとともに径方向に貫通する複数の孔を備える円筒状の撹拌翼と、前記反応槽の内部に第1反応液を供給するための第1給液部と、前記反応槽の内部に第2反応液を供給するための第2給液部と、を備える晶析装置において、前記第1反応液を前記第1給液部から前記反応槽の内部に供給する第1給液ステップと、前記撹拌翼の回転に伴い前記反応槽の前記内周面に前記第1反応液の液膜を形成する液膜形成ステップと、前記撹拌翼の内周面と前記第1反応液の前記液膜とから離れた位置から前記液膜に向けて前記第2反応液を供給し前記第1反応液と前記第2反応液を反応させる第2給液ステップと、を備えることを特徴とする晶析方法である。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、反応槽の内周面に第1反応液の液膜を形成してから、撹拌翼の内周面と第1反応液の液膜とから離れた第2給液部から、第1反応液の液膜に向けて第2反応液が供給される。そのため、高い製作精度を要することなく剪断力が最も高い撹拌翼の内周に形成される液膜の表面を反応開始ポイントとすることができ、さらに第2給液部を第1反応液と接触させることなく供給することができ、第2給液部におけるスケーリングの発生を防止することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1に態様において、前記液膜の表面は、回転する前記撹拌翼の前記内周面から前記撹拌翼の径方向内側に2mm以内に位置することを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、液膜の表面は、回転する撹拌翼の内周面から前記撹拌翼の径方向内側に2mm以内に位置するため、反応開始ポイントを剪断力が最も高い撹拌翼の内外周から至近距離、例えば2mm以内、の範囲に設けることができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記撹拌翼の周速は、5m/秒以上55m/秒以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、撹拌翼の周速を、5m/秒以上55m/秒以下とすることができる。
【0013】
本発明の第4の態様は、内周面を有する有底円筒状の反応槽と、前記反応槽の内部に前記反応槽と同心状かつ回転可能に配置されるとともに径方向に貫通する複数の孔を備える円筒状の撹拌翼と、前記反応槽に設けられるとともに前記反応槽の内部に第1反応液を供給し、前記撹拌翼の回転に伴い前記反応槽の前記内周面に前記第1反応液の液膜を形成するための第1給液部と、前記撹拌翼の内周面と前記第1反応液の前記液膜とから離れた前記反応槽の内部の前記第1給液部と異なる位置から前記液膜に向けて第2反応液を供給し前記第1反応液と前記第2反応液を反応させるための第2給液部と、を備えることを特徴とする晶析装置である。
【0014】
本発明の第4の態様によれば、第2反応液が、反応槽の内周面に形成される第1反応液の液膜に向けて、撹拌翼の内周面と第1反応液の液膜とから離れた位置にある第2給液部から供給される。そのため、高い製作精度を要することなく剪断力が最も高い撹拌翼の内周に形成される液膜の表面を反応開始ポイントとすることができる。また、第2給液部を第1反応液と接触させることなく第2反応液を第1反応液の液膜に供給可能であり、第2給液部におけるスケーリングの発生を防止することができる。
【0015】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記撹拌翼よりも上部の前記反応槽の前記内周面に円環状の堰板が設けられており、前記反応槽の中心軸に平行な断面で見た場合、前記堰板の内周端は前記第2給液部の外周端よりも前記反応槽の径方向外側に位置することを特徴とする。
【0016】
本発明の第5の態様によれば、反応槽の中心軸に平行な断面で見た場合、堰板の内周端は第2給液部の外周端よりも反応槽の径方向外側に位置するため、反応槽の内周面に形成される第1反応液の液膜の表面を第2給液部の外周端よりも径方向外側に位置させることができる。そのため、第2給液部を第1反応液と接触させることなく第2反応液を供給することができるので、第2給液部におけるスケーリングの発生をより確実に防止することができる。
【0017】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記第2給液部は複数設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の第6の態様によれば、第2給液部は複数設けられているため、第2反応液と第1反応液との撹拌を促進することができる。
【0019】
本発明の第7の態様は、第5又は第6の態様において、前記撹拌翼の外周面と前記反応槽の前記内周面との間のクリアランスが5mm以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明の第7の態様によれば、撹拌翼の外周面と反応槽の内周面との間のクリアランスが5mm以下であるため、反応開始ポイントを剪断力が最も高い撹拌翼の内外周から至近距離、例えば2mm以下、の範囲に設けることができる。
【0021】
本発明の第8の態様は、第5から第7の態様のいずれか一つに記載の前記晶析装置と、前記反応槽から圧送される生成物を貯留又は外部に排出する滞留槽と、前記生成物を前記滞留槽と前記晶析装置との間で循環させる循環ポンプと、を備えることを特徴とする晶析システムである。
【0022】
本発明の第8の態様によれば、第5から第7の態様のいずれか一つに記載の晶析装置の技術的効果を得ることができる晶析システムを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、撹拌翼と反応液供給ノズルとの間にクリアランスを設けることで高い製作精度を要することなく剪断力が最も高い撹拌翼の内周に形成される液膜の表面を反応開始ポイントとすることができ、さらに原料溶液の供給口において、反応生成物のスケーリングの発生を防止することができる晶析方法、晶析装置、および晶析システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る第1実施形態の晶析装置の縦断面図である。
図2】本発明に係る第1実施形態の晶析装置を含む晶析システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の第1実施形態に係る晶析装置4を、図1を参照しながら説明する。
晶析装置4は、鉛直方向を向いた中心軸O1を備えるとともに内周面1iを有する有底円筒状の反応槽1と、円筒状の撹拌翼Wと、を備える。この実施形態の反応槽1は中心軸O1を鉛直に立てた状態で配置されているが必要に応じて中心軸O1を傾けたり横倒しに配置したりすることも可能である。撹拌翼Wは、撹拌翼Wの中心から上方に延びる回転軸3を中心に回転可能であり、中心軸O1を同一の中心軸として反応槽1の内部に収容されている。回転軸3は、晶析装置4の外部に設けられる不図示の原動機から例えば不図示のベルトを介して供給される回転力により回転する。なお、原動機はモータやエンジンなど回転動力を発生させる装置であれば、いずれも採用可能であり特に限定されない。また、原動機の回転力を回転軸3に伝達する手段は、ベルト、チェーン、歯車など回転力を伝達できれば特に限定されないし、原動機の回転軸に直結されていても良い。なお、反応槽1の底面は、図示されるような平面状である代わりに、下方に対して凸となる円錐形状等であっても良い。反応槽1の上部には反応槽1で生成された粒子(結晶)を含むスラリを次工程に排出可能な排出口6が設けられている。排出口6は、反応槽1の内周面1iの全周に亘って形成された環状の溝の底面に接続されていてもよいし、内周面1iの周方向に間隔を空けて複数の排出口6が形成されていても良い。
【0026】
撹拌翼Wは、円筒状をなす円筒部2と、円筒部2の内周面2iに外縁部が固定される円盤状の円盤部8と、を備えている。円盤部8の中心に回転軸3がボス部30を介して垂直に固定されている。
【0027】
反応槽1の下部には、第1反応液L1が供給される第1給液部5aが設けられている。第1反応液L1は、第1給液部5aから反応槽1に所望の量だけ供給される。図1の例では、第1給液部5aは、反応槽1の底部に、中心軸O1と同心状に設けられているが、中心軸O1と同心状には限定されず、中心軸O1から偏心していても良い。
【0028】
反応槽1の下部には、第2反応液L2を供給する第2給液部Nが設けられている。第2給液部Nは、第2反応液L2を噴霧状に噴射する噴霧ノズルである。なお、噴霧ノズルは、反応液を噴霧状に噴射できるものであれば、その種類は特に限定されない。図1に示されるように、第2給液部Nは、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iから反応槽1の径方向内側に離れた位置から、第2反応液L2を撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iに向けて噴霧する。この第2給液部Nは複数設けられていても良く、その場合、複数の第2給液部Nは反応槽1の周方向に等間隔で設けられることが第1反応液L1と第2反応液L2の均一な混合の観点から望ましい。また、複数種類の第2反応液L2を複数の第2給液部Nから噴霧しても良い。
【0029】
撹拌翼Wよりも上部の反応槽1の内周面1iには、排出口6よりも下方位置に円環状の堰板9が設けられている。この堰板9は、図1のような、反応槽1の中心軸O1に平行な断面(縦断面)で見た場合、堰板9の内周端は第2給液部Nの外周端よりも反応槽1の径方向外側に位置している。この堰板9は、撹拌翼Wの回転に伴い、反応槽1に供給される第1反応液L1が反応槽1内で回転した際に、自身の遠心力により反応槽1の内周面1iに押し付けられて形成される第1反応液L1の液膜の厚みを、堰板9の反応槽1の内周面1iからの高さを調整することで調整することができる。堰板9の反応槽1の内周面1iからの高さの調整は、反応槽1の内周面1iからの高さが異なる不図示の堰板に交換することにより行う。ここで、堰板9の内周端は、堰板9において反応槽1の径方向内側の端を意味し、第2給液部Nの外周端は、第2給液部Nにおいて反応槽1の径方向外側の端であり、第2反応液L2が噴射される箇所を意味する。従って、第2反応液L2は第2給液部Nの外周端から噴射されるが、第2反応液L2は第2給液部Nから噴射されると表記する場合もある。
【0030】
本実施例においては、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iと第2給液部Nの外周端との間の反応槽1の径方向の距離は2~15mm、好ましくは5~10mm程度とされている。そのため、撹拌翼Wの内周面2iと第2給液部Nの外周端との間に十分なクリアランスが設けられているため高い製作精度が要求されることはない。また、撹拌翼Wの円筒部2の外周面2oと反応槽1の内周面1iとの距離(クリアランス)L3は5mm以下、好ましくは2mm以下とされている。ここで、撹拌翼W(円筒部2)の中心軸O1に沿う高さをHとすると、HとL3との比であるH/L3が10以上であることが好ましい。また、H/L3が25以上であることがより好ましい。従って、この実施例と異なるサイズの装置を使用する場合であっても、この比を基に同様の装置を製作することができる。撹拌翼Wの周速は可変であり、5m/秒以上55m/秒以下の周速で回転する。堰板9の反応槽1の内周面1iからの高さは、2mm~7mmとされている。なお、撹拌翼Wの円筒部2の高さは55mm程度、厚さは3mm程度、内径が80mm程度である。また、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iと撹拌翼Wの円筒部2の外周面2oとを、それぞれ撹拌翼Wの内周面2i、撹拌翼Wの外周面2oと呼んでも良い。
【0031】
撹拌翼Wの円筒部2には、円筒部2の径方向に貫通する複数の孔hが設けられている。この複数の孔hは、第1反応液L1、第2反応液L2、或いはその混合液が流通可能とされている。そのため、第1反応液L1、第2反応液L2、或いはその混合液は、複数の孔hを通じて、回転する撹拌翼Wの内側から外側に、又は撹拌翼Wの外側から内側に移動可能である。なお、複数の孔hに加えて、円盤部8に中心軸O1方向に貫通する不図示の複数の縦孔が設けられていても良い。この場合、第1反応液L1、第2反応液L2、或いはその混合液は、複数の孔hに加えて複数の縦孔を通じて、撹拌翼Wの円盤部8の上側から下側に、又は撹拌翼Wの円盤部8の下側から上側に移動可能となる。
【0032】
このような晶析装置4において、第1給液部5aから所望量の第1反応液L1を反応槽1に供給する。供給する第1反応液L1の量は、撹拌翼Wの回転に伴い、第1反応液L1が反応槽1の中心軸O1を中心として反応槽1内で円運動を行うことにより第1反応液L1に発生する遠心力により反応槽1の内周面1iに押し付けられて第1反応液L1の液膜が形成されるように供給する。この際、液膜の表面7は撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iよりも反応槽1の径方向内側に形成され、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iから液膜の表面7までの距離が2mm以下であることが好ましい。ここで、前述の堰板9に加えて、後述の不図示の循環量調節バルブの開度を調整することで、第1反応液L1の供給量を調整することでも液膜の厚みを調整することができる。第1反応液L1の供給量が多ければ第1反応液L1の液膜の厚みは増し、第1反応液L1の供給量が少なければ第1反応液L1の液膜の厚みは減る。また、前述のように、堰板9の反応槽1の内周面1iからの高さにより第1反応液L1の液膜の厚みを調整することができる。すなわち、堰板9の反応槽1の内周面1iからの高さが高い程、第1反応液L1の液膜の厚みは増し、堰板9の反応槽1の内周面1iからの高さが低い程、第1反応液L1の液膜の厚みは減る。また、反応槽1の内周面1iに第1反応液L1の液膜が形成されるように適量の第1反応液L1を供給した後に第1反応液L1の供給を止めてから第2反応液L2を噴霧して反応槽1で反応をさせても良い。又は、反応槽1の内周面1iに第1反応液L1の液膜が形成される第1反応液L1の供給量を維持しながら第2反応液L2を噴霧することで、反応槽1での反応を継続的に行っても良い。
【0033】
反応槽1の内周面1iに第1反応液L1の液膜が形成された状態において、第2給液部Nの外周端は第1反応液L1の液膜の表面7よりも反応槽1の径方向内側に位置する。すなわち、第2給液部Nは、反応槽1の内周面1iに形成された第1反応液L1の液膜よりも反応槽1の径方向内側に形成された空間内に位置しているため第1反応液L1の液膜から離れている。この状態で第2反応液L2を第2給液部Nから反応槽1の内周面1iに形成された第1反応液L1の液膜の表面7に向けて噴霧することで、第2反応液L2を反応槽1内に供給する。反応槽1に固定されている第2給液部Nから、反応槽1の内周面1iに形成された第1反応液L1の液膜の表面7に向けて噴霧された第2反応液L2は、撹拌翼Wの回転に伴って回転している第1反応液L1の液膜と接触する。こうして第1反応液L1と第2反応液L2とが接触することにより反応が生じて粒子が生成される。粒子を生成する反応が発生している時に、第2給液部Nが第1反応液L1の液膜と接触せずに離れているので生成される粒子が第2給液部Nの開口部に付着するスケーリングの発生を防止することができる。
【0034】
この際、撹拌翼Wの回転に伴って回転している第1反応液L1に、反応槽1に固定されている第2給液部Nから第2反応液L2を供給することで、第2反応液L2を第1反応液L1と均一に混合することができる。
【0035】
ここで、撹拌翼Wの回転に伴って回転している液膜状の第1反応液L1と、反応槽1に固定されている第2給液部Nから噴射される第2反応液L2と、これらの混合液に発生する遠心力により、第1反応液L1、第2反応液L2、及び混合液(以下、まとめて混合液と呼ぶ場合がある)は撹拌翼Wの円筒部2の径方向外側に移動し、撹拌翼Wの円筒部2に設けられた複数の孔hを通って反応槽1の内周面1iに衝突する。第1反応液L1が連続的に供給されている場合には、反応槽1の下方から上方へ向かう第1反応液L1の流れに沿って反応しながら混合液も上方に向けて移動する。第1反応液L1を連続的に供給しない場合は、遠心力により複数の孔hを通って反応槽1の内周面1iに衝突した混合液は反応槽1の上下方向に移動し、円筒部2の上端及び下端から円筒部2の径方向内側にまわり込むことで再び遠心力により複数の孔hを通って反応槽1の内周面1iに移動する対流が発生する。
【0036】
5m/秒以上55m/秒以下の周速で回転する撹拌翼Wの円筒部2の外周面2o及び内周面2iと、固定されている反応槽1の内周面1iとの間に存在する混合液には、反応槽1の周方向に剪断力が与えられる。ここで、撹拌翼Wの周速を可変とすることで、混合液に与える剪断力を調整することができる。混合液に与えられる剪断力は撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iと外周面2oとに近ければ近い程大きい。混合液に与えられる剪断力は、得られる粒子の粒子径と均一性を決定する大きな要因となる。特に与えられる剪断力が大きければ大きい程、微細な粒子径を持つ粒子を得ることができる。
【0037】
本実施形態の晶析装置4では、撹拌翼Wの円筒部2の外周面2oと反応槽1の内周面1iとの距離L3が5mm以下、好ましくは2mm以下、第2給液部Nの外周端と撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iとの距離が2~15mm、好ましくは5~10mm程度、および撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iから第1反応液L1の液膜の表面7までの距離が2mm以下とされている。そのため、第2給液部Nの外周端から反応槽1の内周面1iに形成される第1反応液L1の液膜の表面7に向けて噴霧される第2反応液L2と、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2i及び外周面2o近傍で撹拌翼Wの回転に伴って回転している第1反応液L1の液膜と、が初めて接触して反応を開始する反応開始ポイントを、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2i及び外周面2oから至近距離、例えば2mm以下、の剪断力が最も高い領域に高い製作精度を要することなく形成することができる。特に、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iから第1反応液L1の液膜の表面7までの距離が2mm以下とされているため、撹拌翼Wの円筒部2の内周面2iから至近距離、例えば2mm以下、の剪断力が最も高い領域に高い製作精度を要することなく確実に反応開始ポイントを形成することができる。よって、剪断力が最も高い領域を反応開始ポイントとすることで第1反応液L1と第2反応液L2との混合及び撹拌を促進することができる。ここで、混合液は上記の複数の孔hを通って円筒部2の内周側から外周側に移動可能である。従って、剪断力により周方向に撹拌されつつ遠心力により径方向外側にも撹拌されるため、反応開始ポイントにおける第1反応液L1と第2反応液L2との撹拌を促進することができる。このように、第1反応液L1と第2反応液L2との混合が反応開始ポイントから開始され、撹拌に伴う混合液の流れに沿って、第1反応液L1と第2反応液L2との撹拌が反応場で継続的に行われることで微細かつ均一な径を有する粒子を生成することができる。ここで、反応開始ポイントは反応が開始される領域を指し、反応場は反応が起きる場全体を指す。従って、反応開始ポイントは反応場に含まれる。
【0038】
図2は、第1実施形態の晶析装置4を備える晶析システムSの概略図である。なお、図2に表示される晶析装置4では、図1に表示される晶析装置4の構成部材が一部省略されている。
晶析装置4を備える晶析システムSは、晶析装置4の下流に滞留槽10が設けられており、晶析装置4で生成された粒子を含むスラリD1が滞留槽10に移送される。滞留槽10の上部にはスラリD1を排出する排出口が設けられるとともに、滞留槽10には第1反応液L1の第1の原液S3が不図示のタンクから供給される。滞留槽10には、第1の原液S3とスラリD1の混合液を外部に排出する管路が設けられており、この管路がポンプPを介して晶析装置4に接続されている。この管路が滞留槽10から晶析装置4に至るまでに、必要に応じてポンプPの上流に第1反応液L1の第2の原液S2を供給しても良いし、ポンプPの下流から残留スラリD2をさらに排出しても良い。
ここで、第1の原液S3とスラリD1の混合液の循環量は、ポンプPの回転数を変化させるか、もしくは、ポンプPの下流側に設置された循環量調節バルブ(図示せず)の開度調節により調整される。滞留槽10における混合液の滞留時間は、滞留槽10内に保有されるスラリの液レベルを変化させることで調整される。滞留槽10内のスラリの液レベルは、滞留槽10の側面の異なる高さに多数設置されたスラリD1の排出口(図示は1つのみ)の何れかを選択して使用するか、滞留槽10のレベルを検知するレベル計Lv1の数値が所定値となるように、ポンプPの下流から晶析システムS外へ残留スラリD2を排出する流量を排出口に取り付けられた自動弁V2の開度調整により自動調節するかにより調整される。
【0039】
このような晶析装置4を含む晶析システムSによれば、晶析装置4における反応生成物の粒子径、粒度分布、真球度などの粒子品質に影響を与える剪断力、第1反応液L1の循環量、スラリの滞留時間を個別に調整することができ、より一層、粒子品質の制御性能を向上することができる。
【0040】
なお、上記実施形態に記載される晶析装置4を使用することで粒子を生成することを、晶析方法として見なすことができる。
例えば、第1実施形態の晶析装置4は、内周面1iを有する有底円筒状の反応槽1と、 反応槽1の内部に反応槽1と同心状かつ回転可能に配置されるとともに径方向に貫通する複数の孔hを備える円筒状の撹拌翼Wと、反応槽1の内部に第1反応液L1を供給するための第1給液部5aと、反応槽1の内部に第2反応液L2を供給するための第2給液部Nと、を備える晶析装置4において、第1反応液L1を第1給液部5aから反応槽1に供給する第1給液ステップと、撹拌翼Wの回転に伴い反応槽1の内周面1iに第1反応液L1の液膜を形成する液膜形成ステップと、撹拌翼Wの内周面2iと第1反応液L1の液膜とから離れた位置から第1反応液L1の液膜に向けて第2反応液L2を供給し第1反応液L1と第2反応液L2を反応させる第2給液ステップと、を備える晶析方法であると見なすことができる。このような晶析方法によれば、第1実施形態の晶析装置4と同様の効果を得ることができる。
【0041】
上記のような晶析方法において、反応槽1の内周面1iに形成される液膜の表面は、回転する撹拌翼Wの内周面2iから撹拌翼Wの径方向内側に2mm以内に位置する晶析方法においては、撹拌翼Wの内周面2i及び外周面2oから至近距離、例えば2mm以内、の剪断力が最も高い領域に反応開始ポイントを形成することができる。
【0042】
さらに、上記のような晶析方法において、撹拌翼の周速を、5m/秒以上55m/秒以下で可変することができる。
【0043】
以上、この発明の実施形態とその変形例について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態とその変形例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等や実施形態と変形例の相互の組み合わせも含まれる。
【0044】
例えば、上記実施形態では、第1反応液L1と第2反応液L2との2種類の反応液を混合させて生成物を得たが、3種類以上の反応液を混合させても良い。また、上記実施形態では、第2反応液L2を反応槽1に設けられた第2給液部Nから噴霧するとしたが、この限りではない。例えば、撹拌翼Wの上側から回転軸3を介して第2反応液L2を供給し、ボス部30の下端から反応槽1の内周面1iに形成される第1反応液L1の液膜の表面7に向けて、第2反応液L2を噴霧する不図示の第2給液部を設けても良い。また、上記実施形態では撹拌翼Wを回転させるとしたが、撹拌翼Wのみならず、反応槽1を撹拌翼Wと逆方向に回転させても良い。この場合、より高い剪断力を得ることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 反応槽
2 円筒部
3 回転軸
4 晶析装置
5a 第1給液部
6 排出口
8 円盤部
h 孔
N 第2給液部
図1
図2