(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3212 20160101AFI20230123BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
F16J15/3212
F16C33/78 D
(21)【出願番号】P 2021143991
(22)【出願日】2021-09-03
(62)【分割の表示】P 2019562180の分割
【原出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2017250659
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】谷田 昌幸
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-234093(JP,A)
【文献】特開2012-072822(JP,A)
【文献】特開2014-240676(JP,A)
【文献】特開2005-308067(JP,A)
【文献】特開2008-025668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204-15/3236
F16C 33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、該軸よりも外周側において軸線の周りに配置された外周側部材との間に取り付けられ、前記軸の外周面に摺動可能に接触して、前記軸と前記外周側部材との間を密封する密封装置であって、
前記軸線の周りに環状の補強環と、
前記補強環に取り付けられ、前記軸線の周りに環状の導電性の弾性体からなる弾性体部と、
導電性グリースとを備え、
前記弾性体部は、基部と、該基部から前記軸線に沿って延びるリップ部と、環状の弾性部材である緊迫力付与部材とを有しており、
前記リップ部は該リップ部の先端に、前記軸の外周面が摺動可能に前記軸の外周面に接触可能に形成されたリップ接触端を有するリップ先端部分を有しており、
前記緊迫力付与部材は、前記リップ先端部分において前記リップ部の外周側であって、前記リップ部のうち前記リップ接触端と背向する位置に装着され、前記リップ接触端を前記軸の外周面に押し付ける緊迫力を付与し、
前記導電性グリースは、前記弾性体部の内周側に面する環状の面である内周面が形成する環状の空間であるリップ間空間の少なくとも一部を充たし、該リップ間空間を完全に充たさないように前記内周面に付いている
密封装置。
【請求項2】
前記リップ間空間の前記軸線の方向における一端は前記リップ接触端である
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の30%以上である
請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の40%以上である
請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の30%以上100%未満である
請求項3に記載の密封装置。
【請求項6】
前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の40%以上80%以下である
請求項5に記載の密封装置。
【請求項7】
前記弾性体部は、少なくとも1つの前記軸線の周りに環状のダストリップを有しており、前記リップ間空間の他方の端は、前記ダストリップの部分である
請求項2乃至6のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関し、特に自動車等における回転軸の端部からの油漏れや、外部からの埃等の侵入を防止する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化が進んでおり、EV(Electric Vehicle)やHV(Hybrid Vehicle)等の電動自動車が主流になりつつある。これらの電動自動車においては、動力源として駆動モータが用いられており、この駆動モータに生じる誘起電流が電磁ノイズとなり、AMラジオに悪影響を及ぼすことがあった。
【0003】
そこで、金属の導電性ブラシによってケースとドライブシャフトとを導通させ、接地のための導通経路を形成することにより、高周波ノイズの原因となる電動機からのリーク電流を導通経路により逃がす車両用動力伝達装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、電動機ハウジングの貫通孔と電動機の回転軸との間を液密にシールするオイルシールが導電性ゴムにより形成されているため、電動機ハウジングと回転軸とを導電性のオイルシールによって電気的に導通させることによりノイズの発生を抑制する電気自動車用の電磁ノイズ抑制装置が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
さらに、ハブベアリング用の密封装置として、導電性カーボンを含有するゴム材からなるシールリップ部材を使用してノイズ対策を施すベアリングシールがある(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-207534号公報
【文献】特開2000-244180号公報
【文献】特開2015-14296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の車両用動力伝達装置においては、軸受やオイルシールに加えて導電性ブラシを別個追加しなければならないため、設置スペースを確保できない場合には使用できないおそれがあった。
【0008】
また、上述した特許文献2の電磁ノイズ抑制装置においては、例えば回転軸が偏心している場合、あるいは、導電性のオイルシールが長期間使用されて回転軸と接触するリップ先端部にへたりが生じている場合、導電性のオイルシールと回転軸とが離間してしまうことになり、ノイズの発生を抑制することが困難になるおそれがあった。
【0009】
さらに、上述した特許文献3の密封装置においては、ラジオノイズの発生を抑制することはできるが、3個の導電性リップ部がハブ輪と接触しているため、摺動抵抗の更なる低減が求められていた。
【0010】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、密封性能を向上するとともに摺動抵抗を低減し、かつ、ノイズの発生を抑制し得る密封装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、軸と、該軸よりも外周側において軸線周りに配置された外周側部材との間に取り付けられ、前記軸の外周面に摺動可能に接触して、前記軸と前記外周側部材との間を密封する密封装置であって、前記軸線周りに環状の補強環と、前記補強環に取り付けられ、前記軸線周りに環状の導電性の弾性体からなる弾性体部と、導電性グリースとを備え、前記弾性体部は、基部と、該基部から前記軸線に沿って延びるリップ部と、環状の弾性部材である緊迫力付与部材とを有しており、前記リップ部は該リップ部の先端に、前記軸の外周面が摺動可能に前記軸の外周面に接触可能に形成されたリップ接触端を有するリップ先端部分を有しており、前記緊迫力付与部材は、前記リップ先端部分において前記リップ部の外周側に装着され、前記リップ接触端を前記軸の外周面に押し付ける緊迫力を付与し、前記導電性グリースは、前記弾性体部の内周側に面する環状の面である内周面の少なくとも一部に付いている。
【0012】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記緊迫力付与部材は、前記リップ部のうち前記リップ接触端と背向する位置に装着されている。
【0013】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記弾性体部の内周面が形成する環状の空間であるリップ間空間の少なくとも一部に前記導電性グリースが存在するように前記導電性グリースが前記弾性体部の内周面に付いており、前記リップ間空間の前記軸線方向における一端は前記リップ接触端である。
【0014】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の30%以上である。
【0015】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の40%以上である。
【0016】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の30%以上100%未満である。
【0017】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電性グリースの体積は、前記リップ間空間の容積の40%以上80%以下である。
【0018】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記弾性体部は、少なくとも1つの前記軸線周りに環状のダストリップを有しており、前記リップ間空間の他方の端は、前記ダストリップの部分である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る密封装置によれば、密封性能を向上するとともに摺動抵抗を低減し、かつ、ノイズの発生を抑制し得る密封装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る密封装置が用いられた電気自動車用のモータ駆動装置の概略構成を示す部分拡大断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る密封装置がケーシングの開口部と出力軸との隙間に装着された状態を示すための軸線に沿う断面における断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る密封装置の構成を示す軸線に沿う断面における断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係る密封装置が用いられた自動車の駆動系ユニットの概略構成を示す部分拡大断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係る密封装置がハウジングと回転軸との隙間に装着された状態を示すための軸線に沿う断面における断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係る密封装置の構成を示す軸線に沿う断面における断面図である。
【
図7】本発明の第3の実施の形態に係る密封装置の構成を示す軸線に沿う断面における断面図である。
【
図8】本発明の第3の実施の形態に係る密封装置における弾性体部の内周面を示すための部分拡大断面図である。
【
図9】本発明の第3の実施の形態に係る密封装置が用いられたモータ駆動装置の部分拡大断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に係る密封装置の導電性能の評価試験の試験結果を示す図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態に係る密封装置の導電性能の他の評価試験の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施の形態>
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置10が用いられた電気自動車用のモータ駆動装置100の概略構成を示す部分拡大断面図である。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置10がケーシング103の開口部105と出力軸102との隙間に装着された状態を示すための軸線xに沿う断面における断面図である。
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置10の構成を示す軸線xに沿う断面における断面図である。
【0023】
以下、説明の便宜上、図面において密封装置10よりも符号a側を外側、密封装置10よりも符号b側をモータ内部側とする。ここで、外側とはケーシング103の外部であって泥水等が存在する側であり、モータ内部側とはケーシング103の内側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、径方向ともいう。)において、軸線xから遠ざかる方向を外周側とし(矢印c方向)、軸線xに向かう方向を内周側とする(矢印d方向)。
【0024】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る密封装置10は、特に、電気自動車用のモータ駆動装置100に適用される。このモータ駆動装置100は、駆動輪を駆動する電動モータ101と、当該電動モータ101における軸としての出力軸102の動力(回転)を伝達するプーリー121とを備えている。プーリー121は、電動モータ101の出力軸102と一体に固定されるとともに、図示しないベルトが取り付けられており、当該ベルトを回して動力が補機類等に伝達される。
【0025】
電動モータ101の出力軸102は、外周側部材としてのケーシング103にベアリング104を回して軸支されている。モータ駆動装置100の出力軸102を突出させる開口部105において、金属からなるケーシング103の内周面103aと、金属からなる出力軸102の外周面102gとの間の環状の隙間(空間)には、ケーシング103の内部に封入された潤滑油が外部に漏れたり、外部からの砂や泥水等のダストの侵入を防止するための密封装置10が取り付けられている。
【0026】
すなわち、密封装置10は、モータ駆動装置100におけるケーシング103の開口部105から突出した出力軸102を介して電動モータ101の動力を伝達する際、開口部105と出力軸102との間の環状の隙間を密封するものである。
【0027】
ただし、密封装置10による密封対象としては、電気自動車用のモータ駆動装置100に限られるものではなく、インホイールモータのモータ駆動部、ハイブリッド自動車のモータ駆動装置、電動バイクのモータ駆動装置、電動自転車のモータ駆動装置等のその他種々のモータ駆動装置を密封対象とすることができる。
【0028】
図2および
図3に示すように、密封装置10は、ケーシング103の開口部105と出力軸102との間の環状の隙間に嵌着されるものである。密封装置10は、出力軸102の軸線x周りに環状の補強環20と、補強環20と一体に取り付けられて軸線x周りに環状の弾性体からなる弾性体部30とを備えている。ここで、出力軸102の軸線xは、密封装置10の軸線xともに一致していることを前提とする。
【0029】
補強環20は、金属材から形成されており、この金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。また、弾性体部30の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム等の合成ゴムである。
【0030】
補強環20は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部30は成形型を用いて架橋(加硫)成形によって成形される。この架橋成形の際に、補強環20は成形型の中に配置されており、弾性体部30が架橋接着により補強環20に接着され、弾性体部30と補強環20とが一体的に成形される。
【0031】
密封装置10において補強環20は、軸線xを中心又は略中心とする環状の金属製の部材であり、ケーシング103の開口部105を形成している内周面103aに弾性体部30とともに圧入されて嵌合されて嵌着されるように形成されている。
【0032】
補強環20は、例えば、外周側(矢印c方向)に位置する円筒状の部分である円筒部21と、円筒部21の外側(矢印a方向)の端部から更に外側(矢印a方向)および内周側(矢印d方向)へ斜めに延びる円錐筒状の環状の部分である錐環部22、当該錐環部22の外側(矢印a方向)の端部から更に外側(矢印a方向)へ延びる円筒状の部分である円筒部23、当該円筒部23の外側(矢印a方向)の端部から内周側(矢印d方向)へ延びる中空円盤状の部分である円盤部24とを有している。なお、円盤部24は、円筒部23の外側(矢印a方向)の端部から内周側(矢印d方向)へ延びているが、その長さは出力軸102の外周面102gに到達することのない程度である。
【0033】
円筒部21の外周面21aは、密封装置10がケーシング103の開口部105を形成している内周面103aに嵌着された際に、密封装置10の軸線xと出力軸102の軸線xとの一致が図られるように開口部105に嵌め込まれる。補強環20には、当該補強環20を外側(矢印a方向)かつ外周側(矢印c方向)から包み込むように弾性体部30が取り付けられており、当該補強環20が弾性体部30を補強している。
【0034】
弾性体部30は、補強環20における円盤部24の内周側(矢印d方向)の端部近傍に位置する基部31と、補強環20の円筒部23に外周側(矢印c方向)から取り付けられている部分であるガスケット部32と、基部31とガスケット部32との間において外側(矢印a方向)から補強環20に取り付けられている部分であるカバー部33と、基部31から内側(矢印b方向)へ軸線xに沿って延びるとともに、内周側(矢印d方向)へ突出したリップ先端部分36が形成されたリップ部35とを有している。
【0035】
弾性体部30の基部31は、リップ部35のリップ先端部分36を出力軸102の外周面102gに押し付けた状態で摺接させるように支持するとともに、出力軸102の外径102dとリップ部35のリップ先端部分36の内径36dとの差分すなわち締め代f1に応じて当該リップ部35が撓むときの中心となる部分である。
【0036】
ガスケット部32は、大径部32aおよび小径部32bからなり、大径部32aはその外径が、ケーシング103の開口部105を形成している内周面103aの内径と同じか、それよりも僅かに大きくなっている。このため、密封装置10がケーシング103の開口部105に嵌着された場合、ガスケット部32の大径部32aは、補強環20の円筒部23とケーシング103との間で径方向に圧縮され、開口部105を形成しているケーシング103の内周面103aと補強環20の円筒部23との間を密封する。
【0037】
これにより、ケーシング103の開口部105と出力軸102との環状の隙間が密封装置10によって密封される。なお、ガスケット部32は、大径部32aよりも小径の小径部32bを有しているが、これに限らず、小径部32bではなく大径部32aが外側(矢印a方向)へ延長して設けられていてもよい。
【0038】
また、弾性体部30においては、基部31から内側(矢印b方向)かつ内周側(矢印d方向)に向かって環状のリップ部35が延びており、このリップ部35は、軸線x方向において内側(矢印b方向)に向かうに連れて縮径する円錐筒状の形状を有している。つまり、リップ部35は、軸線xに沿う断面(以下、単に断面ともいう。)において、基部31から内側(矢印b方向)及び内周側(矢印d方向)へ、軸線xに対して斜めに延びている。リップ部35は、円錐筒状の形状を有しているものに限られず、例えば、内周側が円錐筒状(円錐面状)に形成されているものであってもよい。
【0039】
また、リップ部35は、基部31から内側(矢印b方向)へ離れた先端側に内周側(矢印d方向)へ楔形状に突出したリップ先端部分36を有している。リップ部35は、リップ先端部分36と背向する外周側(矢印c方向)に凹部35hが設けられており、当該凹部35hに緊迫力付与部材としてのガータスプリング38が装着されている。
【0040】
リップ先端部分36は、内周側(矢印d方向)へ向かって断面が凸の楔形状を有する環状の部分であり、出力軸102の外周面102gと摺動自在に接触するリップ接触端36spを有している。
【0041】
このようなリップ部35を有する弾性体部30は、その全体がカーボンブラック粒子あるいは金属粉等の導電性フィラーを含む導電性ゴムからなる。このような導電性ゴムは、導電性フィラーを含み、比較的低い電気抵抗を備えたものである。より具体的には、導電性ゴムは、任意のゴム材と導電性粒子と導電性繊維とが夫々所望量混ぜ合わされて形成されるものである。ゴム材料は、例えば、上述のニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等である。導電性粒子としては、カーボンブラックの他に、グラファイトやインジウム/スズ酸化物、アンチモン/スズ酸化物等の導電性金属酸化物を使用することもできる。また、これらの材料を適宜選択して用いてもよい。導電性繊維としては、ステンレス繊維、炭素繊維(カーボンファイバー、カーボンチューブ)、あるいはチタン酸カリウムにメッキをした導電性繊維がある。また、導電性繊維の太さ、長さは任意に選択可能である。
【0042】
ガータスプリング38は、例えば金属製のバネ部材であり、リップ先端部分36を径方向において内周側(矢印d方向)へ付勢し、当該リップ先端部分36を出力軸102の外周面102gに押し付ける所定の大きさの緊迫力を付与するものである。なお、ガータスプリング38は、金属製に限らず、樹脂製等のその他種々の材料によるものであってもよい。
【0043】
すなわち、弾性体部30においては、リップ先端部分36の出力軸102の外周面102gに対する締め代f1(
図3)と、ガータスプリング38による緊迫力と、リップ先端部分36におけるリップ接触端36spの出力軸102に対する追随性に応じて、密封度合いおよび出力軸102の外周面102gに対する摺動抵抗が決定される。
【0044】
以上の構成において、密封装置10は、ケーシング103の開口部105と出力軸102との間の環状の隙間に嵌着された際、弾性体部30のリップ部35におけるリップ先端部分36のリップ接触端36spが所定の締め代f1により出力軸102の外周面102gに押し付けられた状態で摺動自在に接触して使用状態となる。
【0045】
密封装置10は、出力軸102がモータ駆動装置100により回転された場合でも、弾性体部30のリップ部35におけるリップ先端部分36が締め代f1およびガータスプリング38の緊迫力により出力軸102の外周面102gに密着した状態を維持する。したがって、密封装置10は、リップ部35のリップ先端部分36のリップ接触端36spが出力軸102の外周面102gに押し付けられて密封対象物であるグリースを密封し、グリースが外側(矢印a方向)へ流出することを防止することができる。
【0046】
また、密封装置10は、導電性ゴムからなる弾性体部30を有し、当該弾性体部30を介して出力軸102とケーシング103との導通を確保することができるので、モータ駆動装置100において発生するリーク電流を出力軸102から弾性体部30を経由してケーシング103へ逃がし、ノイズの発生を抑制することができる。この際、弾性体部30自体が導電性を有しているため、出力軸102とケーシング103との導通を図るために金属ブラシ等を別個に用意する必要がなく、部品点数を最小限として簡素化および省スペース化を図ることができる。
【0047】
また、密封装置10では、ガータスプリング38の緊迫力によりリップ先端部分36のリップ接触端36spが出力軸102の外周面102gを押し付けることにより、出力軸102の外周面102gに対する接触状態すなわち導通状態を安定させることができ、かくしてノイズの発生を安定的に低減することができる。
【0048】
具体的には、密封装置10では、出力軸102が仮に偏心していたとしても、ガータスプリング38の緊迫力によって弾性体部30のリップ先端部分36のリップ接触端36spを当該出力軸102の外周面102gに安定的に接触させるという偏心追従性を持たせることができるため、ノイズの発生を安定的に低減することができる。
【0049】
また、密封装置10では、例えば0℃以下等の低温環境下における弾性体部30のゴム硬化時においても、ガータスプリング38の緊迫力によって弾性体部30のリップ先端部分36のリップ接触端36spを当該出力軸102の外周面102gに対して強く押し付けることができるので、出力軸102とケーシング103との導通状態を維持し、ノイズの発生を安定的に低減することができる。
【0050】
さらに、密封装置10では、長時間使用後における弾性体部30のリップ部35のへたり時や磨耗時にリップ先端部分36のリップ接触端36spと出力軸102の外周面102gとの接触面積が部分的に減少することがある。このような場合でも、密封装置10では、ガータスプリング38の緊迫力によって弾性体部30のリップ先端部分36のリップ接触端36spを当該出力軸102の外周面102gに対して強く押し付けているため、出力軸102とケーシング103との導通状態を維持し、ノイズの発生を安定的に低減することができる。
【0051】
以上の構成によれば、第1の実施の形態における密封装置10では、ガータスプリング38による緊迫力を与えることにより、リップ部35のリップ先端部分36だけで出力軸102の外周面202gを少ない摺動抵抗で密封することができるので、密封性能を向上するとともに、摺動抵抗を低減し、かつ、ノイズの発生を抑制することができる。
【0052】
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0053】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置70が用いられた自動車の駆動系ユニット200の概略構成を示す部分拡大断面図である。
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置70がハウジング221と回転軸222との隙間に装着された状態を示すための軸線xに沿う断面における断面図である。
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置70の構成を示す軸線xに沿う断面における断面図である。
【0054】
以下、説明の便宜上、図面において密封装置70よりも符号a側を外側、密封装置70よりも符号b側を密封対象側とする。ここで、外側とはハウジング221の外部であって泥水等が存在する側であり、密封対象側とはハウジング221の内側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、径方向ともいう。)において、軸線xから遠ざかる方向を外周側とし(矢印c方向)、軸線xに向かう方向を内周側とする(矢印d方向)。
【0055】
図4に示すように、第2の実施の形態に係る密封装置70は、自動車の駆動系ユニット200に適用される。駆動系ユニット200における金属からなるハウジング221とドライブシャフト等の金属からなる回転軸222との間の環状の隙間(空間)には、ハウジング221の内部に封入された潤滑油が外部に漏れたり、外部からの砂や泥水等のダストの侵入を防止するための密封装置70が取り付けられている。
【0056】
図5および
図6に示すように、密封装置70は、ハウジング221と回転軸222との間の環状の隙間に嵌着されるものである。密封装置70は、第1の実施の形態における密封装置10に対してダストシール40を一体に合体した構成を有している。ここでは、密封装置10については、第1の実施の形態の場合と同じ構成であるため説明を省略し、主にダストシール40の構成について以下に説明する。
【0057】
ダストシール40は、回転軸222の軸線x周りに環状の補強環としてのダスト側補強環50と、ダスト側補強環50と一体に取り付けられて軸線x周りに環状の弾性体からなる弾性体部としてのダスト側弾性体部60とを備えている。ここで、回転軸222の軸線xは、密封装置10およびダストシール40の軸線xともに一致していることを前提とする。
【0058】
ダスト側補強環50は、金属材から形成されており、この金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。また、ダスト側弾性体部60の弾性体としては、密封装置10の弾性体部30と同様の各種ゴム材として、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムがある。
【0059】
ダスト側補強環50は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、ダスト側弾性体部60は成形型を用いて架橋(加硫)成形によって成形される。この架橋成形の際に、ダスト側補強環50は成形型の中に配置され、ダスト側弾性体部60が架橋接着によりダスト側補強環50に接着され、ダスト側弾性体部60とダスト側補強環50とが一体的に成形される。
【0060】
密封装置70においてダスト側補強環50は、軸線xを中心又は略中心とする環状の金属製の部材であり、ハウジング221の内周面221aにダスト側弾性体部60と一体となった状態で圧入されて嵌合されて嵌着されるように形成されている。
【0061】
ダスト側補強環50は、例えば、外周側(矢印c方向)に位置する円筒状の部分である円筒部51と、円筒部51の外側(矢印a方向)の端部から内周側(矢印d方向)へ延びる中空円盤状の部分である円盤部52と、当該円盤部52の内周側(矢印d方向)の端部から更に内周側(矢印d方向)および外側(矢印a方向)へ斜めに延びる円錐筒状の環状の部分である錐環部53を有している。ダスト側補強環50の円筒部51は、密封装置70がハウジング221の内周面222aに嵌着された際、密封装置70の軸線xと回転軸222の軸線xとの一致が図られるように嵌め込まれて装着される。
【0062】
このような構成のダスト側補強環50は、密封装置10の弾性体部30の外側(矢印a方向)および外周側(矢印c方向)から当該弾性体部30を部分的に覆うように取り付けられている。具体的には、ダスト側補強環50の円筒部51が弾性体部30のガスケット部32に取り付けられ、円盤部52が弾性体部30のカバー部33に取り付けられている。このダスト側補強環50の錐環部53には、ダスト側弾性体部60が一体に取り付けられており、当該ダスト側補強環50がダスト側弾性体部60を支持するとともに補強している。
【0063】
ダスト側弾性体部60は、ダスト側補強環50における錐環部53の内周側(矢印d方向)の端部近傍において径方向へ延びる環状の基部61と、当該基部61から2方向へそれぞれ延びる内側ダストリップ62、および、外側ダストリップ63を備えている。ダスト側弾性体部60の基部61は、内側ダストリップ62および外側ダストリップ63の中心、かつ、これらのダストリップ62,63を支持する本体部分である。
【0064】
内側ダストリップ62は、基部61から内側(矢印b方向)および内周側(矢印d方向)へ斜めに延びて回転軸222の外周面222gに摺接される環状のリップ部分である。外側ダストリップ63は、基部61から外側(矢印a方向)および内周側(矢印d方向)へ斜めに延びて回転軸222の外周面222gに摺接される環状のリップ部分であり、すなわち内側ダストリップ62とは反対方向へ延びている。
【0065】
以上の構成において、密封装置70は、
図5に示したように、ハウジング221と回転軸222との間の環状の隙間に嵌着された際、密封装置10の弾性体部30のリップ部35におけるリップ先端部分36が所定の締め代f1により回転軸222の外周面222gに押し付けられる。
【0066】
このとき密封装置70は、ダストシール40のダスト側弾性体部60における内側ダストリップ62のリップ接触端62spおよび外側ダストリップ63のリップ接触端63spが所定の締め代により回転軸222の外周面222gに押し付けられて摺動自在に接触する。
【0067】
このように密封装置70では、密封装置10の弾性体部30のリップ部35におけるリップ先端部分36に加えて、ダストシール40のダスト側弾性体部60における内側ダストリップ62および外側ダストリップ63の存在により、更に密封性能を向上させることができる。
【0068】
また、密封装置70は、密封装置10において導電性ゴムからなる弾性体部30を有しているため、当該弾性体部30を介して回転軸222とハウジング221との導通を確保することができ、かくして、駆動系ユニット200において発生するリーク電流を回転軸222から弾性体部30を経由してハウジング221へ逃がし、ノイズの発生を抑制することができる。この際、弾性体部30自体が導電性を有しているため、回転軸222とハウジング221との導通を図るために金属ブラシ等を別個に容易する必要がなく、部品点数を最小限として簡素化および省スペース化を図ることができる。
【0069】
また、密封装置70において、回転軸222が仮に偏心していたとしても、密封装置10のガータスプリング38の緊迫力によって弾性体部30のリップ先端部分36のリップ接触端36spを当該回転軸222の外周面222gに安定的に接触させるという偏心追従性を持たせることができるため、ノイズの発生を安定的に低減することができる。
【0070】
また、密封装置70においても、例えば0℃以下等の低温環境下における密封装置10の弾性体部30のゴム硬化時においても、ガータスプリング38の緊迫力によって弾性体部30のリップ先端部分36のリップ接触端36spを当該回転軸222の外周面222gに強く押し付けることができるので、回転軸222とハウジング221との導通状態を維持し、ノイズの発生を安定的に低減することができる。
【0071】
さらに、密封装置70においても、長時間使用後における密封装置10の弾性体部30のリップ部35のへたり時や磨耗時にリップ先端部分36のリップ接触端36spと回転軸222の外周面222gとの接触面積が部分的に減少することがある。このような場合でも、密封装置70では、ガータスプリング38の緊迫力によって弾性体部30のリップ先端部分36のリップ接触端36spを当該回転軸222の外周面222gに対して強く押し付けているため、回転軸222とハウジング221との導通状態を維持し、ノイズの発生を安定的に低減することができる。
【0072】
以上の構成によれば、第2の実施の形態における密封装置70では、リップ部35のリップ先端部分36に加えて、内側ダストリップ62および外側ダストリップ63により密封するので、密封性能を向上するとともに、摺動抵抗を低減し、かつ、ノイズの発生を抑制することができる。
【0073】
<第3の実施の形態>
以下、本発明の第3の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0074】
図7は、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80の構成を示す軸線xに沿う断面における断面図である。本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80は、上述の密封装置10,70と同様に、軸と、この軸よりも外周側において軸線回りに配置された外周側部材との間に取り付けられ、軸の外周面に摺動可能に接触して、軸と外周側部材との間を密封する密封装置である。また、密封装置80は、上述の密封装置10,70と同様に、電気自動車用のモータ駆動装置100等の種々のモータ駆動装置に適用される。以下、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80について、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置10と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0075】
図7に示すように、密封装置80は、軸線x周りに環状の補強環81と、補強環81に取り付けられ、軸線x周りに環状の導電性の弾性体からなる弾性体部82と、導電性グリースGとを備えている。弾性体部82は、基部31と、基部31から軸線xに沿って延びるリップ部35と、環状の弾性部材である緊迫力付与部材38とを有している。リップ部35はリップ部35の先端に、軸(出力軸102)の外周面(外周面102g)が摺動可能に軸の外周面に接触可能に形成されたリップ接触端36spを有するリップ先端部分36を有している。緊迫力付与部材38は、上述のように、リップ先端部分36においてリップ部31の外周側に装着され、リップ接触端36spを軸の外周面に押し付ける緊迫力を付与する。導電性グリースGは、弾性体部82の内周側に面する環状の面である内周面83の少なくとも一部に付いている。以下、密封装置80の構成を具体的に説明する。
【0076】
補強環81は、
図7に示すように、軸線xを中心又は略中心とする環状の金属製の部材であり、例えば、軸線x方向に延びる円筒状又は略円筒状の部分である円筒部81aと、円筒部81aの外側の端部から内周側に向かって延びる中空円盤状の部分である円盤部81bと、円盤部81bの内周側の端部から内側に向かって内周側に斜めに延びる部分である錐環部81cとを有している。円筒部81aは、後述するように、ケーシング103に形成された貫通孔の内周面103aに密封装置80が嵌合可能となるように形成されており、弾性体部82の部分を介して貫通孔の内周面103aに接触して嵌合可能となっている。円筒部81aは、上述の密封装置1の補強環21の外周側の部分のように、円筒部21、錐環部22、及び円筒部23を形成するような形状となっていてもよく、円筒部81aは、一部分が直接貫通孔の内周面103aに接触して嵌合可能となっていてもよい。補強環81は、上述の補強環20と同様の材料から同様に形成されている。
【0077】
弾性体部82は、
図7に示すように、補強環81に取り付けられており、補強環81を覆うように補強環10と一体的に形成されている。弾性体部82は、上述のように、基部31とリップ部35とを有しており、また、2つのダストリップ84,85を有している。補強環81の錐環部81cは、基部31の内部に入り込んでいる。ダストリップ84,85は、基部31から内周側に向かって斜めに延びている。弾性体部82は、上述の密封装置10の弾性体部30と同様な導電性の弾性体から形成されている。
【0078】
2つのダストリップ84,85のうちの内側にある内側ダストリップ84は、基部31から外側に向かって内周側に斜めに延びており、例えば円錐筒状又は略円錐筒状の形状を呈している。内側ダストリップ84よりも外側にある外側ダストリップ85は、内側ダストリップ84と同様の形状を有しており、基部31から外側に向かって内周側に斜めに延びており、例えば円錐筒状又は略円錐筒状の形状を呈している。内側ダストリップ84及び外側ダストリップ85は、後述する使用状態において、先端側の部分が軸(出力軸102)の外周面(外周面102g)に接触するように形成されている。内側ダストリップ84の内周側の端部が先端84aであり、外側ダストリップ85の内周側の端部が先端85aである。なお、内側ダストリップ84及び外側ダストリップ85は、使用状態において、軸(出力軸102)の外周面(外周面102g)に接触しないように形成されていてもよい。
【0079】
また、弾性体部82は、ガスケット部86と、カバー部87とを有している。ガスケット部86は、弾性体部82において、補強環81の円筒部81aを外周側から覆っている部分であり、後述するように、ケーシング103の貫通孔(内周面103a)に密封装置80が圧入された際に、内周面103aと補強環81の円筒部81aとの間において径方向に圧縮されて、径方向に向かう力である嵌合力が所定の大きさ発生するように、径方向の厚さが設定されている。ガスケット部86は、
図7に示すように円筒部81aの外周側の全体を覆っていてもよく、上述の密封装置10の弾性体部30のガスケット部32のように、円筒部81aの外周側の一部を覆っていてもよい。
【0080】
弾性体部82の内周側に面する環状の面である内周面83は、軸線xに直交する径方向において弾性体部82が内周側で囲む空間に面する弾性体部82の内周側の面であり、この内周側の空間に接する、弾性体部82の内周側の輪郭を形成する表面である。本実施の形態に係る密封装置80においては、
図8に示すように、内周面83は、仮想線lに沿う、リップ部35の内周面83aと、内側ダストリップ84の内周面83bと、外側ダストリップ85の内周面83cから成る面である。リップ部35の内周面83aは、
図8に示す仮想線lに沿うリップ部35の内周側に面する面であり、リップ部35の内周側に面する面のリップ先端36spから外側の部分である。内側ダストリップ部84の内周面83bは、
図8に示す仮想線lに沿う内側ダストリップ84の内周側に面する面の全体である。外側ダストリップ部85の内周面83cは、
図8に示す仮想線lに沿う外側ダストリップ85の内周側に面する面であり、外側ダストリップ85の内周側に面する面の先端85aから内側の部分である。
【0081】
導電性グリースGは、この内周面83に付いており、内周面83が形成する軸線x周りに環状の空間であるリップ間空間Sの少なくとも一部に導電性グリースGが存在するように内周面83に付いている。リップ間空間Sは、具体的には、内周面83の内周側に突出する部分の内周側の端の中で互いに隣接する端の間を延びる面と内周面83とが形成する空間であり、本実施の形態においては、内周面83と、リップ部35のリップ接触端36spと内側ダストリップ84の先端84aとの間に延びる面(円錐面又は円筒面)とが囲む空間S1と、内周面83と、内側ダストリップ84の先端84aと外側ダストリップ85の先端85aとの間に延びる面(円錐面又は円筒面)とが囲む空間S2とがリップ間空間Sとなる。
【0082】
導電性グリースGは、上述のように、空間S1と空間S2とから成るリップ間空間Sの少なくとも一部を充たすように内周面83に取り付けられており、例えば、図示の例のようにリップ間空間Sを完全に充たさないように内周面83に取り付けられている。導電性グリースGは、リップ間空間Sの一部を充たすように内周面83に取り付けられていてもよく、リップ間空間Sを完全に充たすように内周面83に取り付けられていてもよく、リップ間空間Sから溢れるように内周面83に取り付けられていてもよい。また、導電性グリースGは、リップ間空間Sからはみ出すように内周面83に取り付けられていてもよい。
【0083】
導電性グリースGは、導電性物質を含んでいるグリースであればどのようなものであってもよい。導電性グリースGに使用される基油は特に限定されず、潤滑油の基油として使用されている油は全て使用することができる。また、導電性物質は、導電性を有する物質であればよく、この導電性を有する物質は特に制限されるものではない。導電性物質としては導電性が良好な物質が好ましい。また導電性物質は、液体であっても固体であってもよい。導電性物質は、例えばカーボンブラックである。
【0084】
次いで、上述の構成を有する本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80の作用について説明する。
図9は、使用状態における密封装置80を示す図であり、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80が用いられたモータ駆動装置の部分拡大断面図である。
図9においては、上述の密封装置1と同様に、電気自動車用のモータ駆動装置100に適用された密封装置80が示されている。
【0085】
使用状態において、弾性体部82のリップ部35、内側ダストリップ84、及び外側ダストリップ85は、夫々の先端であるリップ接触端36sp、先端84a,85a近傍において、出力軸102の外周面102aに接触しており、内周面83と出力軸102の外周面102aとの間に閉じられた空間を形成している。この接触により、リップ部35、内側ダストリップ84、及び外側ダストリップ85は変形しており、使用状態においてリップ間空間Sは変形して、使用状態においてリップ間空間Sの容積は、取り付けられていない非取付状態における密封装置80のリップ間空間Sの容積よりも小さくなっている。使用状態において、リップ部35、内側ダストリップ84、及び外側ダストリップ85の全てが変形しないようになっていてもよく、いずれかが変形しないようになっていてもよい。
【0086】
本実施の形態においては、上述のように、非取付状態において、導電性グリースGはリップ間空間Sの一部を充たすように内周面83に取り付けられており、使用状態におけるリップ間空間Sの容積よりも内周面83に取り付けられる導電性グリースGの体積が大きくなっていない。このため、使用状態において、導電性グリースGが膨張して導電性グリースGの体積がリップ間空間Sの容積よりも大きくなることをより確実に防止することができ、これによりリップ部35が浮き上がり、リップ接触端36spと出力軸102の外周面102aとの間の接触が解放されることが防止されている。また、同様に、ダストリップ84,85の出力軸102の外周面102aとの間の接触が解放されることが防止されている。なお、取付状態において、リップ部35、内側ダストリップ84、及び外側ダストリップ85が変形しないとしても、非取付状態において導電性グリースGをリップ間空間Sの一部を充たすように内周面83に取り付けることにより、同様にリップの浮き上がり防止の効果を得ることができる。
【0087】
図9に示すように、使用状態において、内周面83に取り付けられた導電性グリースGが、弾性体部82の出力軸102との接触部以外において、弾性体部82の内周面83と出力軸102の外周面102aとの間を電気的に接続させて導通させている。このため、弾性体部82の出力軸102との接触部以外においても、出力軸102とケーシング103との間の導通路を形成することができ、出力軸102とケーシング103との間の電気的な抵抗を低減させることができる。
【0088】
上述のように、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80は、ガータスプリング38及び導電性の弾性体からなる弾性体部82に加えて、弾性体部82の内周面83に付く導電性グリースGを有しているため、上述の本発明の第1の実施の形態に係る密封装置10の奏する作用に加えて、弾性体部82と出力軸102との間に介在する導電性グリースGにより、出力軸102とケーシング103との間の電気的な抵抗を低減させることができ、ノイズの発生を安定的により低減することができる。
【0089】
また、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80においては、リップ部35、内側ダストリップ84、及び外側ダストリップ85の3つのリップを有しているが、導電性グリースGが内周面83に付いているため、グリースの潤滑により摺動抵抗の低減を図ることができ、リップの数が増えたことによる摺動抵抗の増加を抑制することができる。
【0090】
次いで、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80の導電性能について説明する。
【0091】
<評価試験1>
本発明者らは、上記本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80とは異なる密封装置(試験例1)、及び弾性体部82の内周面83に付ける導電性グリースGの体積がそれぞれ異なる上記本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80(試験例2~4)を製作し、これらの密封装置の導電性能の評価試験を行った。試験例1は、内周面83に導電性グリースGが付けられていない点で本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80とは異なる。評価試験は、
図9に示すような使用状態となるような試験機(不図示)に試験例1~4に係る密封装置を取り付け、後述する各回転数で出力軸102に相当する試験機の軸を回転させ、ハウジング103に相当する試験機の部材と試験機の軸との導通路における密封装置80のインピーダンスを測定するものである。インピーダンスの測定は常温環境で行った。試験機の軸の回転数が0rpm、500rpm、1000rpm、1500rpm、2000rpmの時の各試験例1~4のインピーダンスの測定を夫々行った。
【0092】
試験例2においては、弾性体部82の内周面83に付ける導電性グリースGの体積をリップ間空間Sの容積の20%とした。試験例3においては、弾性体部82の内周面83に付ける導電性グリースGの体積をリップ間空間Sの容積の40%とした。試験例4においては、弾性体部82の内周面83に付ける導電性グリースGの体積をリップ間空間Sの容積の80%とした。上述のように、試験例1においては、内周面83に導電性グリースGが付けられておらず、弾性体部82の内周面83に付ける導電性グリースGの体積はリップ間空間Sの容積の0%である。
【0093】
本評価試験の試験結果を表1及び
図10に示す。
【表1】
表1及び
図10の体積比は、導電性グリースGの体積のリップ間空間Sの容積に対する割合(G/S×100)である。また、表1及び
図10において、インピーダンスの値は、試験例1の対応する各回転数のインピーダンスの値に対する試験例2~4の各回転数のインピーダンスの値の相対値(試験例2~4のインピーダンス/試験例1のインピーダンス)である。
【0094】
表1及び
図10に示すように、軸の各回転数おいて、試験例2~4のインピーダンスは、対応する試験例1のインピーダンスよりも低くなった。このように、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80は、導通路におけるそのインピーダンスを小さくすることができ、導電性能を向上させることができることが分かる。
【0095】
また、表1及び
図10に示すように、試験機の軸の回転数が500rpm、1000rpm、1500rpm、及び2000rpmの試験条件における、試験例3(体積比40%)のインピーダンスは、試験例2(体積比20%)のインピーダンスよりも大きく低下しており、また、試験例4(体積比80%)のインピーダンスも、試験例2(体積比20%)のインピーダンスよりも低くなっている。このため、導電性グリースGの体積比は、試験例2と試験例3の間の体積比以上の体積比が好ましいと考えられ、体積比が30%以上となる量の導電性グリースGが好ましいと考えられる。また、体積比が40%以上となる量の導電性グリースGが好ましいと考えられる。上述の導電性グリースGの膨張によるリップの接触の解放(リップの開き)の防止を考慮すると、体積比が100%より小さくなる量の導電性グリースGが好ましいと考えられる。また、リップの変形を考慮すると、体積比が80%以下となる量の導電性グリースGが好ましいと考えられる。
【0096】
<評価試験2>
また、本発明者らは、上記本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80とは異なる密封装置(試験例5)、及び本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80(試験例6)を製作し、これらの密封装置の導電性能の経時変化についての評価試験を行った。試験例5は、ガータスプリング38が取り付けられていない点で本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80とは異なる。評価試験は、上述の評価試験1と同様に、
図9に示すような使用状態となるような試験機(不図示)に試験例5,6に係る密封装置を取り付け、所定の経過時間毎に密封装置(試験例5,6)のインピーダンスを測定するものである。また、試験機の軸を1500rpmで回転させた回転時のインピーダンスの変化と、試験機の軸を回転させない停止時のインピーダンスの変化とを測定した。インピーダンスの測定は、試験開始から24時間後、100時間後、150時間後、200時間後に行った。
【0097】
本評価試験の試験結果を表2,3及び
図11(a),(b)に示す。表2及び
図11(a)は、軸を回転させない試験条件での試験結果であり、表3及び
図11(b)は、回転数1500rpmで軸を回転させる試験条件での試験結果である。
【表2】
【表3】
表2,3及び
図11(a),(b)において、各試験条件における各試験例のインピーダンスの値は、上述の評価試験1と同様に相対値であり、試験時間0の時のインピーダンスの値に対する各試験時間(24,100,150,200)の時のインピーダンスの値の相対値(試験時間24~200のインピーダンス/試験時間0のインピーダンス)である。
【0098】
表2及び
図11(a)に示すように、軸の停止時において、ガータスプリング38を有している本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80である試験例6のインピーダンスの経過時間に伴う変化(経時変化)は、ガータスプリング38を有していない試験例5のインピーダンスの経過時間に伴う変化よりも小さくなっている。同様に、表3及び
図11(b)に示すように、軸の回転時(回転数1500rpm)において、ガータスプリング38を有している試験例6のインピーダンスの経過時間に伴う変化は、ガータスプリング38を有していない試験例5のインピーダンスの経過時間に伴う変化よりも小さくなっている。
【0099】
上述の評価試験2から、ガータスプリング38を有する密封装置10,70,80は、使用状態において、ガータスプリング38を有さない密封装置よりもインピーダンスの時間に伴う変化を小さくすることができることが分かる。このように、ガータスプリング38を有する本発明の第1~3の実施の形態に係る密封装置10,70,80は、導通路におけるそのインピーダンスの時間の経過に伴う変化を小さくすることができ、使用時間に伴うインピーダンスの上昇を抑制することができ、時間の経過に伴う導電性能の低下を抑制することができる。
【0100】
上述の本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80において、弾性体部82は2つのダストリップ84,85を有するとしたが、弾性体部82はダストリップを1つのみ又は3つ以上有していてもよく、また、ダストリップを有していなくてもよい。弾性体部82が2つ以上のダストリップを有する場合、内周面83は、リップ部35のリップ接触端36spから最も外側のダストリップの先端まで延びる弾性体部82の内周面であってもよく、リップ部35のリップ接触端36spから最も外側のダストリップよりも内側にある途中のダストリップの先端まで延びる弾性体部82の内周面であってもよい。また、内周面83は、ダストリップとダストリップとの間の弾性体部82の内周面であってもよい。例えば、密封装置80においては、内周面83は、内周面83a,83b,83cから成るとしたが、内周面83は、内周面83aと内周面83bの先端84aよりも内側の部分とから成るものであってもよく、また、内周面83cと内周面83bの先端84aよりも外側の部分とから成るものであってもよい。また、内周面83は、連続する面でなく、断続する面であってもよい。また、内周面83は、リップ接触端36spとダストリップの先端との間で終わっていてもよく、また、ダストリップの先端とダストリップの先端との間で終わっていてもよい。
【0101】
<他の実施の形態>
以上、本発明の第1~3の実施の形態について説明したが、本発明は上記第1~3の実施の形態に係る密封装置10、70,80に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本考案の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0102】
例えば、第2の実施の形態において、ダストシール40のダスト側弾性体部60は、2つのダストシール62,63を有するとしたが、ダスト側弾性体部60は、内側ダストシール62および外側ダストシール63のいずれか1つのダストシールを有するものであってもよく、内側ダストシール62および外側ダストシール63に加え他のダストシールを有しており、3つ以上のダストシールを有するものであってもよい。また、第2の実施の形態において、回転軸222に環状のデフレクタが取り付けられており、このデフレクタとラビリンスシールを形成するダストシールがダスト側弾性体部60に形成されていてもよい。
【0103】
上述した第2の実施の形態においては、密封装置70のうち密封装置10の弾性体部30が導電性ゴムからなり、ダストシール40のダスト側弾性体部60については、導電性ゴムではないとしたが、本発明はこれに限らず、ダスト側弾性体部60についても弾性体部30と同様の導電性ゴムからなるようにしてもよい。この場合、更に良好な導通状態を確保することが可能となる。
【0104】
また、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置10が、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80の導電性グリースGを有していてもよく、また、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置70が、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置80の導電性グリースGを有していてもよい。この場合、密封装置10において、密封装置80の弾性体部82の内周面83に対応する弾性体部30の内周面は、リップ接触端36spと基部31の外側の端部である外側端31a(
図3参照)との間の内周側空間に面する面となる。また、密封装置70において、密封装置80の弾性体部82の内周面83に対応する内周面は、同様に、弾性体部30のリップ接触端36spと基部31の外側端31aとの間の内周側空間に面する面となり(
図5参照)、ダストシール40のダスト側弾性体部60が導電性の弾性体で形成されている場合は、ダスト側弾性体部60のリップ接触端62spとリップ接触端63spとの間の内周側空間に面する面も内周面83となる。
【符号の説明】
【0105】
10,70,80……密封装置、20,81……補強環、21,23,51,81a……円筒部、22,53,81c……錐環部、24,52,81b……円盤部、30,82……弾性体部、31……基部、32,86……ガスケット部、32a……大径部、32b……小径部、33,87……カバー部、35……リップ部、35h……凹部、36……リップ先端部分、36sp……リップ接触端、38……ガータスプリング(緊迫力付与部材)、40……ダストシール、50……ダスト側補強環、60……ダスト側弾性体部、62,84……内側ダストリップ、63,85……外側ダストリップ、83,83a,83b,83c……内周面、84a,85a……先端、100……モータ駆動装置、101……電動モータ、102……出力軸(軸)、103……ケーシング(外周側部材)、104……ベアリング、105……開口部、121……プーリー、200……駆動系ユニット、221……ハウジング(外周側部材)、222……回転軸(軸)、223……デフレクタ、f1……締め代、G……導電性グリース、S……リップ間空間、x……軸線。