(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】電気自動車及びハイブリッド車で使用するための潤滑剤並びに同潤滑剤を使用する方法
(51)【国際特許分類】
C10M 135/18 20060101AFI20230123BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20230123BHJP
【FI】
C10M135/18
C10N40:04
(21)【出願番号】P 2021572344
(86)(22)【出願日】2020-04-26
(86)【国際出願番号】 US2020029997
(87)【国際公開番号】W WO2020220009
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-08-05
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521530244
【氏名又は名称】バルボリン・ライセンシング・アンド・インテレクチュアル・プロパティ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アナント・コルカー
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】フランシス・ロックウッド
(72)【発明者】
【氏名】デイル・リード
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0024016(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0249000(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0209786(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0264666(US,A1)
【文献】米国特許第08400030(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0135374(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0100114(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175927(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0071373(US,A1)
【文献】M. De Feo, et al.,Tribology International,2015年,vol. 92,pp. 126-135,DIO: 10.1016/j.triboint.2015.04.014
【文献】M. De Feo, et al.,RSC Advances,2015年,vol. 5,pp. 93786-93796,DOI: 10.1039/c5ra15250j
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースオイル;
第1のギアオイル添加剤;及び
潤滑剤の約0.5(w/w)%~約1.0(w/w)%の量でモリブデンジチオカルバメート錯体を含む、第2の添加剤であって、前記モリブデンジチオカルバメート添加剤は、所定の時間トランスミッションシステムにおける潤滑剤の使用に対する潤滑剤の色変化を引き起こし、前記色変化は温度、接触荷重、粘度又は作動時間の指標である、第2の添加剤;
を含む、トランスミッション部材での使用のために配合された潤滑剤;並びに
トランスミッション本体の部材が特性に対して所定の時間、所定の条件下で作動された場合の特定の粘度の潤滑剤による予測された潤滑剤の色変化を示す図であって、前記潤滑剤は約40℃から約125℃の温度範囲の間で色変化を示すように構成され、前記図は、トランスミッション本体の部材が約40℃から約125℃の温度範囲で作動される場合、潤滑剤による予測された潤滑剤の色変化を示し、前記潤滑剤の色は40℃で琥珀色であり、125℃で青色又は緑色である、図
を含み、
前記部材の特性は、電動モーターを含む部材を未使用の潤滑剤配合物と直接接触させ、一連の条件下でトランスミッション部材を作動させて使用済み潤滑剤配合物を得て、使用済み潤滑剤配合物の少なくとも一部を部材から取り出し、使用済み潤滑剤配合物に色を割り当て、使用済み潤滑剤配合物の色を前記図と一致させることによって評価され得る、
トランスミッション部材を含むトランスミッション本体の特性を決定するためのシステム。
【請求項2】
前記ベースオイルが、グループIオイル、グループIIオイル、グループIIIオイル、グループIVオイル、グループVオイル、又はそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ベースオイルがグループIIIオイルであり、潤滑剤の約50(w/w)%~約99.9(w/w)%の量で存在する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のギアオイル添加剤が、粘度調整剤、消泡剤、添加剤パッケージ、抗酸化剤、摩耗防止剤、極圧剤、洗剤、分散剤、防錆剤、摩擦調整剤、腐食阻害剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のギアオイル添加剤が、潤滑剤の約0.01(w/w)%~約20(w/w)%の量で存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2の添加剤が、潤滑剤の約0.5(w/w)%の量で存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
電気自動車又はハイブリッド車での使用のためのトランスミッション部材を含むトランスミッション本体を提供する工
程と;
ベースオイル;
第1のギアオイル添加剤;及び
潤滑剤の約0.5(w/w)%~約1.0(w/w)%の量でモリブデンジチオカルバメート錯体を含む、第2の添加剤であって、前記モリブデンジチオカルバメート添加剤は、所定の時間トランスミッションシステムにおける潤滑剤の使用に対する潤滑剤の色変化を引き起こし、前記色変化は温度、接触荷重、粘度又は作動時間の指標であり、前記トランスミッション部材は約40℃から約125℃の温度範囲で作動され
る、第2の添加剤;
を含む、未使用の潤滑剤配合物を提供する工程と、
一連の条件下で電動モーターを含む少なくとも1つのトランスミッション部材を前記未使用の潤滑剤配合物と直接接触させ、トランスミッション部材を作動させて使用済み潤滑剤配合物を得る工程と;
使用済み潤滑剤配合物の少なくとも一部をトランスミッションシステムから取り出し、使用済み潤滑剤配合物に色を割り当てる工程と;
使用済み潤滑剤配合物の色を、実質的に同様の一連の条件下で作られる対照潤滑剤配合物に割り当てられた実質的に同様の色を有する図と一致させて、一致した色の組を得る工程と;
一致した色の組に基づく、トランスミッションシステムにかかる荷重、トランスミッションシステムが作動する温度、トランスミッションシステムが作動する時間、及び未使用の潤滑剤配合物の粘度からなる群から選択される、トランスミッションシステムの特性を決定する工程と
を含む、電気自動車又はハイブリッド車での使用に適したトランスミッションシステムの電気特性を評価する方法。
【請求項8】
前記潤滑剤が、約100kgから約315kgの接触荷重にわたって色変化を示す、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記潤滑剤が、90℃で約1時間の潤滑剤の使用時間にわたって、約6cStから約2.5cStの間で粘度の色変化を示す、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記潤滑剤が、一定の温度で、約5分から約45分の潤滑剤の使用時間にわたって色変化を示す、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記潤滑剤が、約35.4の荷重磨耗係数(LWI)で極圧保護を改善するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記潤滑剤の色変化が、接触荷重が0kgの場合に潤滑剤の色が琥珀色であり、接触荷重が400kgの場合に緑色であることを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記潤滑剤の色変化が、潤滑剤の色が100℃で緑色であることを含む、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、「Specialty Lubricant for Electric and Hybrid vehicles: Predicts Operating Conditions and Protects Yellow Metal and Electrical Breakdown」と題した2019年4月26日出願の米国特許仮出願第62/839,365号に関し、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
この開示は、効率性及び耐久性に関して改善されたレース用ギアオイルを含む、電気自動車及びハイブリッド車のための新規の潤滑剤、並びに同潤滑剤を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電気自動車(EV)の開発競争が激しくなるにつれて、駆動システム液(ギアオイル)、冷却剤、及びグリースの新たな需要が現れる。この需要の増加は主に、今や液体が電気部品と接触し電流及び電磁場により影響を受けることになることに起因する。
【0004】
さらに、モーター冷却剤として使用される駆動システム液は、銅線及び電気部品、特殊なプラスチック、並びに絶縁材料と適合性がある必要がある。電動モーターは多量の熱を発生させ、効率を高めるために高速で作動するが、このことはモーター及びギアから熱を効果的に除去しながらギアボックス(トランスミッション)及び車軸を潤滑することができる改善されたギアオイルを必要とする。さらに、モーターによるより速いスピードは駆動システムの駆動可能なスピードに変換される必要があり、これは増大した荷重(トルク)をギアにかける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、新たな技術は潤滑剤の仕様における相当な変更を求める。本明細書に記載の完成潤滑剤はEVのシングル及びマルチスピードトランスミッションで使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、完成潤滑剤にはモリブデンジアルキルジチオカルバメート(MoDTC)添加剤、具体的にはジイソトリデシルアミンモリブデートが配合される。この配合物の使用は、ユーザーが色変化技術を使用して潤滑剤の最大の付加荷重及び最大動作温度を予測するのに役立つ可能性がある。この配合物はまた、MoDTC添加剤を配合していないベースライン潤滑剤と比較して、イエローメタル保護、極圧(EP)性能を改善し、部材の摩耗を低減する。他の実施形態において、配合物は内燃(IC)エンジン、ハイブリッド車及び電気自動車、並びに産業機器(例えば定置式エンジン、フラッキングポンプ、風車)の駆動システムにおいて使用されてもよい。
【0007】
一実施形態において、電気自動車又はハイブリッド車で使用するための潤滑剤配合物は、ベースオイル、ギアオイル添加剤、及びモリブデンアミン錯体、例えばジアルキルジチオカルバメート添加剤等を含む。モリブデンアミン錯体は、0.1(w/w)%~約1.0(w/w)%の量で存在してもよい。ベースオイルは、米国石油協会によりグループIオイル、グループIIオイル、グループIIIオイル、グループIVオイル、グループVオイル、又はそれらの組み合わせとして分類されるオイルを含む群から選択されてもよい。一実施形態において、ベースオイルは潤滑剤配合物の約50(w/w)%~約99.9(w/w)%であってもよい。
【0008】
ギアオイル添加剤は、粘度調整剤、消泡剤、添加剤パッケージ、抗酸化剤、摩耗防止剤、極圧剤、洗剤、分散剤、防錆剤、摩擦調整剤、腐食阻害剤、及びそれらの組み合わせをさらに含んでいてもよい。ギアオイル添加剤は、配合物の約0.01(w/w)%~約20(w/w)%の量で存在してもよい。
【0009】
モリブデンジアルキルジチオカルバメート添加剤のない液体と比較して、モリブデンジアルキルジチオカルバメート添加剤を含む配合物の存在下で電圧を電極に印加する場合に、潤滑剤配合物は改善された電動モーター保護をもたらし得る。配合物は、モリブデンジアルキルジチオカルバメート添加剤のない液体と比較して、電気抵抗勾配も維持することができる。配合物はまた、銅表面の改善された保護特性を有し、又は接触荷重、温度、時間、又は配合物の粘度を示す色変化を呈し得る。
【0010】
別の実施形態において、電気自動車又はハイブリッド車での使用に適したトランスミッションシステムの電気特性又は性能を評価する方法が提供される。この方法は、トランスミッション部材を含むトランスミッション本体を提供する工程であって、トランスミッション本体及び部材が電気自動車又はハイブリッド車での使用に適している、工程と;電気自動車での使用に適したベースオイル、第1の添加剤、及び、ジイソトリデシルアミンモリブデートを約0.5(w/w)%の量で含む、第2の添加剤を含む、未使用の潤滑剤配合物を提供する工程とを含んでいてもよい。
【0011】
この方法は、一連の条件下で少なくとも1つのトランスミッション部材を未使用の潤滑剤配合物と直接接触させて使用済み潤滑剤配合物を得る工程と;使用済み潤滑剤配合物の少なくとも一部をトランスミッションシステムから取り出し使用済み潤滑剤配合物に色を割り当てる工程と;使用済み潤滑剤配合物の色を、実質的に同様の一連の条件下で作られる対照潤滑剤配合物に割り当てられた実質的に同様の色と一致させて、一致した色の組を得る工程と;一致させた色の組に基づいてトランスミッションシステムの電気特性を決定する工程とをさらに含んでいてもよい。
【0012】
一実施形態において、使用済み潤滑剤配合物を評価するのに使用される一連の条件は、トランスミッションシステムにかけられる荷重、トランスミッションシステムが作動する温度、トランスミッションシステムが作動する時間、及び未使用の潤滑剤配合物の粘度を決定することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】試料IIIの銅線腐食試験の結果を示す図である。
【
図2】試料IVの銅線腐食試験の結果を示す図である。
【
図3】試料Vの銅線腐食試験の結果を示す図である。
【
図4】様々な潤滑剤配合物により処理した銅線の得られる直径を示す図である。
【
図5】未使用の銅線の分析から得られるSEMデータを示す図である。
【
図6】Racing GO潤滑剤により処理した銅線の分析から得られるSEMデータを示す図である。
【
図7】Racing GO潤滑剤に80時間さらされた銅線の顕微鏡像の図である。
【
図8】MoDTCを含む潤滑剤により処理した銅線の分析から得られるSEMデータを示す図である。
【
図9】未処理の銅線及び様々な潤滑剤で20時間処理された銅線に存在する炭素、銅、及び硫黄の相対量を示す図である。
【
図10】未処理の銅線及び様々な潤滑剤で80時間処理された銅線に存在する炭素、銅、及び硫黄の相対量を示す図である。
【
図11】MoDTC添加剤を含む潤滑剤に対する増加させた荷重の色変化効果を示す図である。
【
図12】MoDTC添加剤を含む潤滑剤に対する温度の色変化効果を示す図である。
【
図13】100℃に5~45分さらされたMoDTC添加剤を含む対照群潤滑剤、及びdyno試験に15分さらされた同じ潤滑剤の比較試料の、色変化効果を示す図である。
【
図14】MoDTC添加剤を含む潤滑剤に対する粘度の色変化効果を示す図である。
【
図15】100℃に15分さらされたMoDTC添加剤を含む対照群潤滑剤、及びdyno試験に同じ時間さらされた同じ潤滑剤の、一致した色変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態において、電気自動車又はハイブリッド車で使用するための潤滑剤配合物は、ベースオイル、ギアオイル添加剤、及びモリブデンジアルキルジチオカルバメート添加剤を含む。具体的には、驚くことに、ジイソトリデシルアミンモリブデートをベースオイルへ加えると電気自動車又はハイブリッド車のトランスミッションに予期しない保護特性を与えるだけでなく、以前はユーザーが持っていなかった電気自動車のトランスミッション及びエンジンにおける診断及び設計の手段をユーザーに与えることが分かった。
【0015】
ベースオイルは、米国石油協会によりグループIオイル、グループIIオイル、グループIIIオイル、グループIVオイル、グループVオイル、又はそれらの組み合わせとして分類される任意のオイルであってもよい。一実施形態において、ベースオイルは潤滑剤配合物の約50(w/w)%~約99.9(w/w)%の量で存在するグループIIIのミネラルオイルであってもよい。
【0016】
配合物での使用に適した添加剤としては、粘度調整剤、消泡剤、添加剤パッケージ、抗酸化剤、摩耗防止剤、極圧剤、洗剤、分散剤、防錆剤、摩擦調整剤、腐食阻害剤、ギアオイル添加剤、及びそれらの組み合わせを挙げることができ、配合物の約0.01(w/w)%~約20(w/w)%の量で存在してもよい。
【0017】
一実施形態において、添加剤は、限定はされないが、Afton Hitec 3491LV、Hitec 3491A、Hitec 363、Hitec 3080、Hitec 3460、Hitec 355、又はLubrizol A2140A、Lubrizol A2042、Lubrizol LZ 9001N、Lubrizol A6043、Lubrizol A2000、及びそれらの組み合わせを含めた、ギアオイル添加剤から選択されてもよい。特に適切なギア車軸添加剤は、硫黄ベースを有し、極圧状況における保護を実現する。
【0018】
最後に、ベースオイルをギアオイル添加剤及びモリブデンアミン錯体、例えばジイソトリデシルアミンモリブデート等と組み合わせることによりみられる有益な結果を、全てのMoDTC添加剤がもたらすわけではないことが分かった。具体的には、一実施形態において、ジイソトリデシルアミンモリブデートは、その一般的な化学構造が以下に示され、
【0019】
【0020】
約0.01(w/w)%~約20.0(w/w)%、別の実施形態では約0.1(w/w)%~約1.0(w/w)%、さらに別の実施形態では約0.5(w/w)%の量で組成物中に存在してもよい。適切なモリブデンアミン錯体添加剤としては、限定はされないが、SAKURA-LUBE S710としてADEKA Corp.社より市販されているジイソトリデシルアミンモリブデートが挙げられる。
【0021】
ギアオイル添加剤とモリブデンアミン錯体との組み合わせが、本明細書で開示される有益な相乗効果にとって重要であることがさらに分かった。疑問が生じることがないように、実施例において、MoDTCは、以降で使用される場合、モリブデンアミン錯体添加剤、具体的にはジイソトリデシルアミンモリブデートを指すものとする。
【0022】
定義
「完全配合潤滑剤」は、溶液が混和性、透明、かつ安定である、ベースオイル(グループI、II、III、IV、V)、粘度調整剤、及び添加剤の組み合わせとして定義される。
【0023】
「駆動システム」は、トランスミッション、車軸、トランスアクスル、及び工業用ギアボックスであってもよい。
【0024】
頭字語としては、限定はされないが、MoDTC:モリブデンジアルキルジチオカルバメート;EP:極圧;ASTM:米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials);E3CT:導電率銅腐食試験;SEM:走査電子顕微鏡;EDS:エネルギー分散X線分光法;BL:境界潤滑;HFRR:高周波往復動リグ;EV:電気自動車;、及びIC:内燃、が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下の表1の仕様にしたがって試料を調製した。
【0026】
【0027】
次いで試料を以下に詳細に記載するように試験し比較した。
【0028】
電気特性に対する効果
絶縁破壊
MoDTC添加剤を添加すると、驚くことに、ベースオイルの絶縁破壊又は電気破壊を少なくすることが分かった。具体的には、電極に印加された電圧が既知のオイル破壊電圧を超えるとオイル(電気絶縁体)は導電性になるので、MoDTCを含有する試料はより高い残留電気値をもたらし、そのため液体のより低い絶縁破壊を示す。オイルが受ける絶縁破壊が少ないほど、電動モーター保護の潜在能力がより高い。
【0029】
ASTM規格D887-02及びD1816にしたがい、各システムの破壊電圧を検出するためのMegger OTS60PBを使用して、試料I及びIIの絶縁破壊を試験した。未使用のベースオイル及び未使用の銅電極の絶縁破壊を、ベークした液体とベークした電極、ベークした液体及び未使用の電極、並びに未使用の液体及びベークした電極の絶縁破壊と比較した。ベークしたオイル及び電極を使用して、液体及び電極の両方について典型的な摩耗条件をシミュレートした。未使用の液体を125℃に1時間さらすことにより液体をベークし、一方電極の半分を未使用の液体に浸しこれを125℃に1時間さらすことにより電極をベークした。
【0030】
【0031】
表2に示すように、MoDTC添加剤を含有する試料IIは、全ての試験シナリオで試料Iと比較してベースオイルの性能を高め、より高い絶縁耐力を維持する。
【0032】
銅腐食の試験
導電率銅腐食試験(E3CT)を使用してオイルの性能も評価した。E3CTを使用して、温度(130℃~約160℃)、電流(1mA)、及び銅線径(70ミクロン、純度99.999%)を一定に保ちながら、様々な試験回数で銅線の電気抵抗を評価する。試料潤滑剤を入れたガラス管に銅線を浸すことにより試験を行った。管及び銅線をさらにシリコンオイル浴中に浸して、サンプ温度を制御した。また、Keithley Meterを使用して電流(1mA)及び抵抗を測定した。
【0033】
図1、
図2、及び
図3に示すように、3つの試料の電気抵抗性能を評価した。
図1及び
図2は、MoDTC添加剤が配合されていない広く市販されているオートマチックトランスミッション液である試料III及びIVの性能データを含み、一方
図3はMoDTC添加剤を含むオイル配合物である試料Vの性能データを含む。具体的には、試料IIIはハイブリッド車で広く使用される市販のオイルであり、試料IVは具体的にはEV用途のために開発された市販のオイルである。全ての3つの試験シナリオを80時間の試験時間にわたって行った。
【0034】
図1、
図2、及び
図3に示すように、粘度を一致させたベースオイルにMoDTC添加剤を加えると、試料III及びIVの完全配合の市販の潤滑剤と比較してほぼ平坦である電気抵抗勾配が得られた。具体的には、試料IIIにより得られた勾配は約5.844e-8;試料IVでは約2.259e-7;試料Vでは約2.768e-8であることが分かった。
【0035】
モリブデン化学被膜の評価
図4は分析で使用された銅線の直径の変化:69.52μmの直径を有する未使用の銅線、Valvolineより市販されているレースグレードのギアオイル(Racing GO)に80時間さらした77.14μmの直径を有する銅線;及びMoDTC添加剤を含むベースオイル(試料V)にさらした70.03μmの直径を有する銅線を表す。理論に束縛されるものではないが、オイル中の添加剤は銅線と反応し析出物を形成すると仮定される。しかし、MoDTCを含むベースオイルは市販のRacing GOと比較して非常にわずかな線径の増加を示し、これは
図5~
図8に関して以下に記載される保護効果に寄与する可能性がある。
【0036】
図5、
図6、
図7、及び
図8に示すように、未使用の銅線、レース用(Racing)GOで処理した銅線、及びMoDTC添加剤を有するベースオイルで処理した銅線についてSEMデータを得た。
図5に示すように、銅線の未処理表面は滑らかで清浄であり銅が最大のピークである。
図6及び
図7に示すように、Racing GOは銅線を腐食させて多数の断片にした。
図8はMoDTC添加剤を有するベースオイルについてのSEMデータを示す。像から分かるように、表面は130℃で80時間後に依然として滑らかで清浄である。
【0037】
さらに、MoDTC添加剤を含むベースオイルに銅線をさらすことにより、保護膜が銅線のまわりに形成されるらしいことが発見された。
図8に示すような、MoDTC添加剤を含むベースオイルで処理した銅線のSEM分析を使用して、保護膜が二硫化モリブデン(MoS
2)を含んでいたと仮定される。
【0038】
図9及び
図10は、3種の主な元素(炭素、銅、及び硫黄)が測定された、E3CT試験結果の比較のグラフを表す。化学的微量分析技術であるエネルギー分散X線分光法(EDS)をSEMと併用して未使用の銅、レース用GO測定#1、レース用GO測定#2、試料III、試料IV、及び試料V(上記で定義される通り)を評価した。レース用GO試料、並びに試料III及びIVは、試料Vと比較して銅の減少及び炭素の増加を示し、これはMoDTC添加剤が配合されたベースオイルを使用した場合の銅線に対する保護効果をさらに示す。
【0039】
荷重、温度、粘度、及び時間の効果
オイルの絶縁破壊を低減させ金属部材の劣化を減少させること加えて、MoDTC添加剤を含む潤滑剤は、トランスミッション及び自動車の製造業者が潤滑剤における色変化に基づいて、電気自動車のトランスミッション及びモーターが示すサンプ温度及び最高の接触荷重を予測及び分析するのに役立つ可能性がある。したがって、新規潤滑剤は、自動車システムの接触条件及び熱伝導特性をより正確に予測するための理論的研究及びモデリング研究を改善するのに有用である。
【0040】
MoDTC添加剤を含む新規潤滑剤である、約6cStの粘度を有する試料VIIを使用して、ユーザーは潤滑剤の色変化に基づいてシステムへの荷重を分析することが可能である。ASTM D2783四球EP試験を使用して、時間をかけて0~約400kgに加える圧力を増加させることにより様々な荷重での接触における添加剤の反応を評価する。
図11に示すように、荷重が増加するにつれてオイルの色は薄い琥珀色からより暗い緑色へ変化する。オイルは400kgの圧力で試験に不合格となり、そのため色変化が検出されなかったことに注意するべきである。
【0041】
さらに、ユーザーは新規潤滑剤を使用して、得られるオイルの色に基づいて自動車システム内部の温度条件を評価することができる。
図12は、新規潤滑剤の色に対する温度の効果を示す。色変化がより劇的であったため、オイルの色変化は荷重の効果とは異なることが分かった。示されるように、温度が40℃から125℃まで上昇すると、薄い琥珀色から暗緑色又は青/緑色へ色が変化する。
【0042】
試料Vにしたがって作られたMoDTC添加剤を含むオイルを、外部の動力計試験設備においても試験し、制御された研究室環境の結果と比較する。dyno試験において、サンプ温度は非常に低い荷重及び同様の約1時間の試験時間で約100℃に達した。
図13に示すように、オイルを90℃~107℃で試験し、色はHFRR試験を100℃で15分行ったオイルと一致し、このことは、ユーザーがそれら自身のdyno試験から得られるオイルの色を対照試料と一致させてシステムが機能する荷重及び温度を決定することができることを示す。潤滑剤配合物は
図13(試料V)では
図11及び
図12(試料VII)におけるものと異なっていたことにも注意すべきであり、このことは、様々な添加剤成分をこのMoDTC配合物と共に使用して同様の利益を得ることができることを示す。
【0043】
MoDTC添加剤を活性化する際に液体粘度が重要な役割を果たすことも認められた。
図14に示すように、様々な粘度を有する同様の配合物は、二硫化モリブデン(MoS
2)の形成に起因して純粋なすべり接触条件において異なる振る舞いをし得る。具体的には、3つのオイル試料を以下に示すように調製し、90℃に約1時間さらした。
【0044】
【0045】
6センチストークスの粘度を有する試料VIIは、同じ粘度である未処理、未使用の潤滑剤と比較すると、2.5センチストークス(薄緑色)の粘度を有する配合物である試料VIとは異なる色(薄い琥珀色)を有していた。したがって、潤滑剤の色変化は使用された様々なオイルの粘度の指標として使用されてもよい。
【0046】
図15は、試料VIIにしたがって作られた、MoDTC添加剤を有するベースオイルに対する時間の効果を示す。
図15に示すように、時間と共に(5~45分)オイルは約100℃の温度にさらされると薄い琥珀色からより暗い緑色へ変化する。dyno試験後のオイルの色を制御された条件下で試験されたオイルの色と比較することにより、ユーザーはdyno試験で試験されたシステムが約15分間試験されたと判断することができる。
【0047】
表4に示すように、極圧、摩耗、及び銅腐食の改善も評価した。これらの特性の評価は、極圧保護に関してオイルが有する可能性のある効果を報告するものである。
【0048】
【0049】
表4に示すように、MoDTC添加剤(試料II)を含有するオイルは、四球EP試験(ASTM D2783)にしたがって評価される、結果としての荷重を低下させるのに役立ち、ユーザーが接触表面をより良好に保護するのを可能にする。最大非焼付荷重は金属と金属との接触が生じた時点を示す(それぞれ63対80)。表5に示すように、添加剤は四球摩耗試験の結果も改善した。
【0050】
【0051】
EV駆動システム液において、可動部材を潤滑する際に銅のようなイエローメタルの保護が非常に重要である。MoDTC添加剤の使用は、4時間で約150℃において改善された銅腐食試験の結果も示す。試料Iの1B(暗橙色)と比較して、ASTM D130試験における試料IIの評価は1A(薄橙色、新たに磨いた細片とほぼ同じ)であった。
【0052】
本明細書に記載の潤滑剤は、絶縁破壊、導電率、及びE3CT銅線保護を含めた電気特性を改善することが分かった。さらに、潤滑剤はイエローメタル及びギア及びベアリングの接点を保護し、一方色変化の指標を使用して使用条件の過酷度を示す。記載される潤滑剤は特殊な追加的な保護を保持するが、電気自動車及びハイブリッド車のトランスミッションを保護することにより従来の腐食の問題を解決する。
【0053】
これらの知見は、オイルを使用してモーターから発生した熱を取り除く場合に、電気自動車及びハイブリッド車においてオイルの寿命を延ばすことができることを裏付ける。また、OEMは色変化現象から恩恵を受けて、熱伝導及び駆動システムの耐久性を改善するのに役立つことになる操作条件を予測することができる。
【0054】
特定の実施形態は、実施例の形態で記載されている。あらゆる潜在的可能性のある用途を示すことは不可能である。したがって、実施形態はかなり詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細又は任意の特定の実施形態に、制限する又は決して限定することを意図していない。
【0055】
「含む(include)」又は「含んでいる(including)」という用語が本明細書又は特許請求の範囲において使用される限りにおいて、この用語は請求項において移行的な語として採用される場合に解釈されるので、「含んでいる(comprising)」という用語と同様に包括的であることを意図している。さらに、「又は」が採用される限りにおいて(例えば、A又はB)、「A又はB又は両方」を意味することを意図している。「A又はBのみであるが両方ではない」ことを意図している場合、「A又はBのみであるが両方ではない」という用語が採用されることになる。したがって、本明細書における「又は」という用語の使用は包括的であり、排他的な使用ではない。本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は複数形を含む。最後に、「約」という用語が数と併せて使用される場合、その数の±10%を含むことを意図している。例えば、「約10」は9~11を意味することがある。
【0056】
上記のように、本発明の用途は実施形態の説明により例示されており、実施形態はかなり詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に制限する又は決して限定することを意図していない。さらなる利点及び修正はこの用途の恩恵を受ける当業者にとって容易に明らかとなる。したがって、用途は、そのさらに広い態様において、特定の詳細及び示される実例に限定されない。一般的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、そのような詳細及び実施例から逸脱してもよい。