(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】皮革用表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/12 20060101AFI20230123BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20230123BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20230123BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20230123BHJP
D06M 13/148 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
D06N3/12
D06M15/564
D06M15/53
D06N3/14 102
D06M13/148
(21)【出願番号】P 2022540993
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2022026081
【審査請求日】2022-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雄介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦晃
(72)【発明者】
【氏名】西野 正和
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-139878(JP,A)
【文献】特開2020-097707(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104264500(CN,A)
【文献】特開昭52-090582(JP,A)
【文献】特開昭49-108204(JP,A)
【文献】特開2011-157641(JP,A)
【文献】特開2022-101168(JP,A)
【文献】特開2014-181413(JP,A)
【文献】特開2022-078681(JP,A)
【文献】特開2022-053963(JP,A)
【文献】特開昭63-159049(JP,A)
【文献】特開2007-023201(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104404781(CN,A)
【文献】韓国登録特許第2085548(KR,B1)
【文献】特開2021-098914(JP,A)
【文献】特開2016-089326(JP,A)
【文献】特開2009-299243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B68F1/00-3/04
C14B1/00-99/00
C14C1/00-99/00
D06M10/00-16/00
19/00-23/18
D06N1/00-7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂と、(B)アルカントリオールの
分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオール、
及びアルカンポリオールの分子内又は分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオール
からなる群から選択される少なくとも1種の化合物とを含有する、皮革用表面処理剤。
【請求項2】
前記アルカントリオールの
分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオール及びアルカンポリオールの分子内又は分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールが、1分子中に5個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールである、請求項1に記載の皮革用表面処理剤。
【請求項3】
前記(B)化合物が、1分子中に4個以上の水酸基を有するポリグリセリン
である、請求項1に記載の皮革用表面処理剤。
【請求項4】
前記(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂が、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の皮革用表面処理剤。
【請求項5】
皮革用基材と、前記皮革用基材の表面に請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の皮革用表面処理剤により形成された表面処理層とを備える、皮革。
【請求項6】
軟質ポリウレタンフォームと、前記軟質ポリウレタンフォームの表面に貼り合わせた請求項5に記載の皮革とを備える、クッション性複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革用表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂からなる表皮層(PU表皮層)を有する合成皮革やポリ塩化ビニル(PVC)レザー等に代表される皮革は、軟質ポリウレタンフォームと貼り合わせて、クッション性複合材を形成し、その感触の良さから、自動車の内装材や家具類等の幅広い分野で使用されている。このようなクッション性複合材は、火炎等により軟質ポリウレタンフォームの表面を燃焼させて溶融し、これに合成皮革等を貼り合わせる、いわゆるフレームラミネート法によって製造されている。しかしながら、フレームラミネート法によって製造されたクッション性複合材においては、皮革表面が黄変するという問題があった。従来は、黒色や灰色等の濃色系の合成皮革等が用いられていたため、皮革表面の変色は目立たず、大きな問題となっていなかったが、近年、白色やベージュ等の淡色系の合成皮革等が多く用いられるようになったため、皮革表面の変色が目立ち、大きな問題となっている。このため、フレームラミネート法によって製造されたクッション性複合材において、皮革表面の黄変を抑制することができる方法が求められてきた。
【0003】
なお、軟質ポリウレタンフォーム自体の黄変を抑制する方法としては、例えば、ポリオール、芳香族系ポリイソシアネート、発泡剤及び触媒を含む発泡原料に、リン系酸化防止剤とヒンダードアミン系光安定剤とを配合する方法(特開2010-100717号公報(特許文献1))や、少なくともポリオール成分、脂肪族又は脂環式ポリイソシアネート成分、整泡剤、触媒、発泡剤を含み、前記ポリオール成分が特定のポリオキシアルキレンポリオールを含んでいるポリウレタンフォーム原料を用いて無黄変の軟質ポリウレタンフォームを製造する方法(特開2010-150438号公報(特許文献2))が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-100717号公報
【文献】特開2010-150438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、皮革表面の黄変を抑制することが可能な表面処理剤、及び表面の黄変が抑制された皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、軟質ポリウレタンフォームと各種皮革とをフレームラミネート法によって貼り合わせたクッション性複合材において、皮革表面の黄変の原因が、火炎等による燃焼時に軟質ポリウレタンフォームから発生するガスに含まれるNOxガスにあることを見出し、さらに、1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物を配合した表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理することによって、NOxガスによる皮革表面の黄変を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0008】
[1](A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂と、(B)アルカントリオールの分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオール、及びアルカンポリオールの分子内又は分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物とを含有する、皮革用表面処理剤。
【0009】
[2]前記アルカントリオールの分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオール及びアルカンポリオールの分子内又は分子間脱水物であって1分子中に4個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールが、1分子中に5個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールである、[1]に記載の皮革用表面処理剤。
【0010】
[3]前記(B)化合物が、1分子中に4個以上の水酸基を有するポリグリセリンである、[1]又は[2]に記載の皮革用表面処理剤。
【0011】
[4]前記(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂が、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の皮革用表面処理剤。
【0012】
[5]皮革用基材と、前記皮革用基材の表面に[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の皮革用表面処理剤により形成された表面処理層とを備える、皮革。
【0013】
[6]軟質ポリウレタンフォームと、前記軟質ポリウレタンフォームの表面に貼り合わせた[5]に記載の皮革とを備える、クッション性複合材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、皮革表面の黄変を抑制することが可能な表面処理剤、及び表面の黄変が抑制された皮革を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
〔皮革用表面処理剤〕
先ず、本発明の皮革用表面処理剤について説明する。本発明の皮革用表面処理剤(以下、単に「表面処理剤」ともいう)は、(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂と、(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物とを含有するものである。以下、各成分について説明する。
【0017】
(A)樹脂
本発明に用いられる(A)樹脂は、皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂であれば特に制限はなく、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂等の一般的に樹脂層(樹脂膜)を形成する際にベース樹脂として用いられる樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、皮革用基材表面の材質に応じて適宜選択することができ、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、前記樹脂の中でも、皮革用基材表面の材質がポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂である場合には、表面処理剤により形成される表面処理層と皮革用基材表面との密着性の観点から、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0018】
(ポリウレタン樹脂)
前記ポリウレタン樹脂としては特に制限はなく、例えば、少なくとも、有機ポリイソシアネート、ポリオール、並びにアミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン等を反応させることによって得られるポリウレタン樹脂が挙げられる。このようなポリウレタン樹脂の製造方法としては特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。また、本発明においては、水性及び溶剤系のいずれのポリウレタン樹脂も使用することができる。
【0019】
また、前記ポリウレタン樹脂の中でも、皮革の耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、及び(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物である、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が好ましい。なお、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂における「水性」とは、自己乳化型のポリウレタン樹脂を水に乳化分散させて水中の樹脂分濃度が35質量%である乳化分散液を調製した後に、この乳化分散液を20℃で12時間静置しても分離や沈降が観察されないような状態とすることが可能であることを意味する。
【0020】
(a)有機ポリイソシアネート
前記(a)有機ポリイソシアネートとしては特に制限はなく、従来より一般に用いられている芳香族、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネートが挙げられる。例えば、芳香族ポリイソシアネートとしては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの有機ポリイソシアネートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの有機ポリイソシアネートの中でも、得られる自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が無黄変性のものとなるという観点から、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートが好ましく、耐熱性の観点から、脂環式ポリイソシアネートがより好ましい。
【0021】
(b)ポリオール
前記(b)ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等の従来公知の高分子ポリオール、従来公知の低分子量ジオール、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコール等が挙げられる。これらのポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。なお、本明細書においては、前記高分子ポリオール及び前記低分子ジオールをまとめて「(b1)ポリオール」といい、前記少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを「(b2)多価アルコール」という。前記(b1)ポリオールは、単独で使用しても前記(b2)多価アルコールと併用してもよい。また、前記(b2)多価アルコールは、前記(b1)ポリオールと併用することが好ましい。
【0022】
前記ポリエーテル系ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの重合物が挙げられる。このような重合物は1種類のアルキレンオキサイドの単独重合物であってもよいし、2種類以上のアルキレンオキサイドの共重合物であってもよい。共重合物である場合、ランダム重合物であっても、ブロック重合物であってもよい。また、このようなポリエーテル系ポリオールの分子量としては特に制限はないが、400~5000が好ましい。また、前記ポリエーテル系ポリオールとして、低分子量2価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した化合物を使用することもできる。前記低分子量2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0023】
前記ポリエステル系ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量300~1000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン又はこれらのアルキレンオキサイド付加体等のジオール成分と、ダイマー酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p,p’-ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物又はエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分との脱水縮合反応によって得られるポリエステル系ポリオール、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応により得られるポリエステル系ポリオール、これらを共重合したポリエステル系ポリオール等が挙げられる。
【0024】
前記ポリカーボネート系ポリオールとしては特に制限はなく、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールと、ジフェニルカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。このようなポリカーボネート系ポリオールの重量平均分子量としては特に制限はないが、ポリカーボネート系ポリオールの取扱性や得られる皮革の耐屈曲性の観点から、500~3000が好ましく、800~2500がより好ましい。
【0025】
前記低分子量ジオールとしては特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0026】
前記(b2)多価アルコールとしては特に制限はなく、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上の低分子多価アルコールが挙げられる。また、このような3価以上の低分子多価アルコール又は低分子ポリアルキレンポリアミンに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した分子量500以下の化合物等も前記(b2)多価アルコールとして使用することができる。前記低分子量ポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。このような(b2)多価アルコールのうち、皮革の耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、3~4価の(b2)多価アルコールが好ましく、3価の(b2)多価アルコールがより好ましい。
【0027】
前記ポリウレタン樹脂において、前記(b2)多価アルコールを用いる場合、前記(b2)多価アルコールの割合としては、皮革の耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、前記(b1)ポリオール、前記(b2)多価アルコール及び(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の合計量に対して、0.1~1.5質量%が好ましく、0.3~1.1質量%がより好ましい。
【0028】
(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物
前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物としては特に制限はなく、例えば、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等のアニオン性親水基とヒドロキシ基等の活性水素含有基2個以上とを有する化合物である。この(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を共重合させることによって、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が得られる。前記(c)化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジヒドロキシマレイン酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。これらの(c)化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0029】
また、得られる自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂において、前記アニオン性親水基の含有量としては、乳化安定性、貯蔵安定性及び皮革の耐屈曲性の観点から、0.3~3.0質量%が好ましく、0.5~2.5質量%がより好ましい。
【0030】
(d)ポリアミン
前記(d)ポリアミンは1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有する化合物である。このような(d)ポリアミンとしては特に制限はなく、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’-エチレンヒドラジン、1,1’-トリメチレンヒドラジン、1,1’-(1,4-ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体が挙げられる。これらの(d)ポリアミンは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような(d)ポリアミンの使用量としては、後述するイソシアネート基末端プレポリマーの遊離イソシアネート基に対して、0.8~1.2当量のアミノ基等を含む量が好ましい。
【0031】
(イソシアネート基末端プレポリマー)
前記イソシアネート基末端プレポリマーは、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の反応生成物である。
【0032】
このようなイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法は特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法が挙げられる。反応温度としては40~150℃が好ましい。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等の反応触媒、あるいは燐酸、燐酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0033】
また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルが特に好ましい。また、これらの有機溶剤は、プレポリマーの乳化分散及び鎖伸長後、加熱減圧することによって除去することができる。
【0034】
イソシアネート基末端プレポリマーの製造に際しては、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)が、2.0/1.0~1.1/1.0であることが好ましく、1.7/1.0~1.25/1.0であることがより好ましい。原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比を前記範囲内に調整することによって、所望の遊離イソシアネート基含有量を有するイソシアネート基末端プレポリマーを得ることができる。一方、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比が前記下限未満になると、遊離イソシアネート基の含有量が低下し過ぎる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、遊離イソシアネート基の含有量が増大し過ぎる傾向にある。
【0035】
このようにして得られるイソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量としては、0.2~3.0質量%が好ましい
。前記遊離イソシアネート基含有量が前記下限未満になると、製造時のイソシアネート基末端プレポリマーの粘度が著しく上昇する傾向にあり、多量の有機溶剤が必要となり、コスト的に不利となったり、乳化分散が困難となる傾向にある。他方、前記遊離イソシアネート基含有量が前記上限を超えると、乳化分散後と(d)ポリアミンによる鎖伸長後の水溶性のバランスが大きく変化する傾向にあり、水性ポリウレタン樹脂の経時貯蔵安定性又は加工安定性が低下する場合がある。また、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0036】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物は、いずれも反応点が複数存在するものであり、このような(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を反応させることによって得られる前記イソシアネート基末端プレポリマーは、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0037】
(イソシアネート基末端プレポリマーの中和物)
前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、前記イソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基が中和されたものである。このようなイソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(i)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基を公知の方法で中和することによって製造してもよいし、(ii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を混合した後、前記(c)化合物中のアニオン性親水基を公知の方法で中和し、次いで、この中和した前記(c)化合物、前記(a)有機ポリイソシアネート及び前記(b)ポリオールを反応させることによって製造してもよい。また、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(iii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記アニオン性親水基がアニオン性親水基の塩である前記(c)化合物を反応させることによって製造することもできる。
【0038】
前記(i)及び(ii)の製造方法において、アニオン性親水基の中和に用いられる塩基性化合物としては特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア等が挙げられる。これらの中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
【0039】
前記(i)及び(ii)の製造方法におけるアニオン性親水基の中和に際して、前記中和用塩基性化合物の使用量としては、アニオン性親水基に対して、0.5~1.5当量が好ましく、0.6~1.4当量がより好ましく、0.7~1.3当量が特に好ましい。前記中和用塩基性化合物の使用量が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の乳化性及び保存安定性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超える量の前記中和用塩基性化合物を添加しても、水性ポリウレタン樹脂の乳化性や保存安定性がそれ以上向上しないため、経済的に好ましくない。
【0040】
(水性ポリウレタン樹脂)
前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、前記(d)ポリアミンを用いて鎖伸長させたもの(鎖伸長物)である。
【0041】
(乳化分散)
前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長に際しては、先ず、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を水に乳化分散させる。乳化分散の方法としては特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を用いた従来公知の方法が挙げられる。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物は、特に乳化剤を添加しなくても、0~40℃の範囲内の温度で水に乳化分散させることが可能である。これにより、イソシアネート基と水との反応を抑制することができる。また、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を乳化分散させる際には、必要に応じて、燐酸、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0042】
(鎖伸長)
次に、このようにして水に乳化分散させた前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を、前記(d)ポリアミンを用いて鎖伸長させることにより、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が形成される。
【0043】
鎖伸長の方法としては特に制限はないが、例えば、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物に前記(d)ポリアミンを添加して鎖伸長する方法、或いは、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物を前記(d)ポリアミンに添加して鎖伸長する方法が好ましい。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物とアミンとの反応は、20~50℃の反応温度で、通常、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物と前記(d)ポリアミンとの混合後、30~120分間で完結する。
【0044】
このような鎖伸長は、前記乳化分散と同時に行ってもよいし、前記乳化分散の後に行ってもよいし、前記乳化分散の前に行ってもよい。また、得られた水性ポリウレタン樹脂に有機溶剤が含まれる場合には、減圧下、30~80℃の温度で前記有機溶剤を除去することが好ましい。
【0045】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物と同様に、前記(d)ポリアミンも反応点が複数存在するものであり、このような(d)ポリアミンを用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を鎖伸長させることにより得られる前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長物(自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂)も、前記イソシアネート基末端プレポリマーと同様に、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0046】
このようにして得られた前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂は、水に乳化分散させた状態で使用することが好ましく、その樹脂分濃度としては特に制限はないが、20~60質量%が好ましい。このような自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂の水乳化分散物における樹脂分濃度は、水を追加又は除去することによって調整することができる。
【0047】
(アクリル樹脂)
前記アクリル系樹脂としては、アクリル系モノマーの単独重合体及び共重合体が挙げられる。前記アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸及びその誘導体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。また、これらのアクリル系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記アクリル系樹脂に用いられる共重合モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの共重合モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、-40~+50℃が好ましく、-20~+30℃がより好ましく、-10~+20℃が最も好ましい。アクリル系樹脂のTgが前記下限未満になると、皮革の耐摩耗性及び防汚性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、皮革の耐摩耗性及び防汚性能は向上する傾向にあるものの、耐屈曲性が低下する傾向にある。
【0050】
本発明の表面処理剤においては、前記アクリル系樹脂として、市販のアクリル系樹脂を用いることができる。市販のアクリル系樹脂としては、サイビノールEC-065(Tg=5℃)、サイビノールEC-071(Tg=-20℃)、サイビノールEC-064(Tg=-40℃)、サイビノールUC-6600(Tg=50℃)、サイビノールEC-2020(Tg=17℃)(以上、サイデン化学株式会社製)、DURAFLEX 84S(Tg=0℃)、ORGAL P036V(Tg=0℃)、ORGAL D55HC(Tg=-3℃)、ORGAL DCS80(Tg=-16℃)(以上、ORGANIK KIMYA社製)、トークリルBCX-8111(Tg=-30℃)、トークリルW-168(Tg=-10℃)、トークリルX-4403(Tg=-7℃)、トークリルW463(Tg=11℃)、トークリルBCX-1160R-2(Tg=12℃)、トークリルBCX-8104(Tg=29℃)、トークリルX-4402(Tg=35℃)(以上、トーヨーケム株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
(B)化合物
本発明に用いられる(B)化合物は、1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物である。このような(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物(以下、単に「(B)化合物」ともいう)としては、例えば、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物(多価アルコール、多価フェノール等)、1分子中に2個以上のアミノ基を有する化合物(ポリアミン等)が挙げられる。また、本発明においては、多価アルコールや多価フェノール、アミン、ポリカルボン酸、リン酸といった1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物にアルキレンオキサイドが付加した化合物も前記(B)化合物として使用することができる。さらに、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロール、キサンタンガム、澱粉等の水溶性高分子も前記(B)化合物として使用することができる。このような(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物の中でも、皮革表面の黄変を十分に抑制できるという観点から、1分子中に3個以上(より好ましくは4個以上、更に好ましくは5個以上、特に好ましくは6個以上)の水酸基を有する化合物(特に、グリセリン系化合物(グリセリン及びポリグリセリン))が好ましい。
【0052】
(多価アルコール)
前記多価アルコールとしては、例えば、炭素数2~20の2価のアルコール(脂肪族ジオール、脂環式ジオール等)、炭素数3~20の3価のアルコール(脂肪族トリオール等)、炭素数5~20の4価以上(好ましくは4~8価)の多価アルコール(脂肪族ポリオール、糖類及びその誘導体等)が挙げられる。これらの多価アルコールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0053】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-又は1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルキレングリコールが挙げられる。前記脂環式ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のシクロアルキレングリコールが挙げられる。前記脂肪族トリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール等のアルカントリオールが挙げられる。前記脂肪族ポリオールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン等のアルカンポリオール及びその分子内又は分子間脱水物(例えば、ジペンタエリスリトール)、並びに前記アルカントリオールの分子内又は分子間脱水物(例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリン等のポリグリセリン)が挙げられる。前記糖類としては、例えば、ショ糖、グルコース、マンノース、フルクトース、メチルグルコシド等が挙げられる。
【0054】
(グリセリン系化合物)
前記グリセリン系化合物(グリセリン及びポリグリセリン)は、下記式(1):
【0055】
【0056】
〔式中、nは1~20の整数である。〕
で表される化合物である。このようなグリセリン系化合物の中でも、皮革表面の黄変を十分に抑制できるという観点から、前記式(1)中のnが2~20のポリグリセリンが好ましく、前記式(1)中のnが3~20のポリグリセリンがより好ましく、前記式(1)中のnが4~20のポリグリセリンが更に好ましい。また、前記式(1)中のnの上限としては、風合い、加工液の安定性の観点から、10以下が好ましい。
【0057】
また、本発明において、ポリグリセリンの平均重合度としては、皮革表面の黄変を抑制する性能の観点から、1~10が好ましく、2~10がより好ましい。なお、「ポリグリセリンの平均重合度」とは、末端基分析法により求められるポリグリセリン(グリセリンとポリグリセリンとの混合物を含む)の水酸基価から算出される値である。具体的には、先ず、末端分析法において、ポリグリセリン(グリセリンとポリグリセリンとの混合物を含む)に含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸の量を求め、この量の酢酸を中和するために必要な水酸化カルシウムの量を求める。この水酸化カルシウムの量がポリグリセリン(グリセリンとポリグリセリンとの混合物を含む)の水酸基価〔単位:mgKOH/g〕であり、この水酸基価を用いて下記式(I)及び(II)によりポリグリセリン(グリセリンとポリグリセリンとの混合物を含む)の平均重合度Xnを算出する。
分子量=74×Xn+18 (I)
水酸基価=56110×(Xn+2)/分子量 (II)
なお、グリセリンのみの場合の平均重合度も、上記方法により算出することができ、1となる。
【0058】
本発明において、前記ポリグリセリンとしては、適宜合成したものを使用してもよいが、市販のポリグリセリンを使用してもよい。市販のポリグリセリンとしては、ジグリセリンS、ポリグリセリン#310、ポリグリセリン#500、ポリグリセリン#750(以上、商品名、阪本薬品工業株式会社製)等が挙げられる。
【0059】
(多価フェノール)
前記多価フェノールとしては、例えば、ピロガロール、ハイドロキノン、フロログルシン等の単環の多価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールスルホン等のビスフェノール類;フェノールとホルムアルデヒドの縮合物(ノボラック)等が挙げられる。これらの多価フェノールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0060】
(ポリアミン)
前記ポリアミンは1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有する化合物である。このようなポリアミンとしては特に制限はなく、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’-エチレンヒドラジン、1,1’-トリメチレンヒドラジン、1,1’-(1,4-ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体が挙げられる。これらのポリアミンは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0061】
<表面処理剤>
本発明の表面処理剤は、前記(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂と、前記(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物とを含有するものである。このような表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理することによって、皮革用基材の表面に前記表面処理剤により表面処理層が形成され、前記皮革用基材が黄変し得るものであっても、この表面処理層によって皮革表面の黄変を抑制することが可能となる。
【0062】
本発明の表面処理剤において、前記(A)樹脂と前記(B)化合物との質量比は、皮革表面の黄変の程度に応じて適宜設定することができるが、通常、前記(B)化合物の含有量としては、前記(A)樹脂100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。前記(B)化合物の含有量が前記下限未満になると、皮革表面の黄変が十分に抑制できない傾向にあり、他方、前記(B)化合物の含有量が前記上限を超えると、皮革表面の品位が低下(例えば、にちゃつきが発現し触感が低下)する傾向にある。
【0063】
また、本発明の表面処理剤には、前記(A)樹脂及び前記(B)化合物のほかに、本発明の目的・性能を損なわない範囲において、含フッ素化合物、親水性化合物、艶消し剤、平滑剤、増粘剤、架橋剤、防汚剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、膜形成剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料等の各種添加剤や反応触媒を配合してもよい。
【0064】
(含フッ素化合物)
本発明の表面処理剤には、皮革表面にSG性(Soil Guard:汚れそのものを付着しにくくする性能)を付与するために、含フッ素化合物を配合してもよい。このような含フッ素化合物としては、含フッ素炭化水素基(例えば、フルオロアルキル基(好ましくは炭素数1~6)、フルオロアルケニル基(好ましくは炭素数2~6)、好ましくは、パーフルオロアルキル基(より好ましくは炭素数1~6)、パーフルオロアルケニル基(より好ましくは炭素数2~6))を有する化合物であれば特に制限はないが、前記含フッ素炭化水素基を有するフッ素系モノマーから誘導される繰返し単位を含むフッ素系重合体が好ましい。前記フッ素系重合体は、前記フッ素系モノマーの単独重合体であっても共重合体であってもよく、前記フッ素系モノマーの共重合体は、2種以上の前記フッ素系モノマーの共重合体であっても1種以上の前記フッ素系モノマーと1種以上の非フッ素系モノマーとの共重合体であってもよい。
【0065】
このような含フッ素化合物の含有量としては、SG性の観点から、前記(A)樹脂100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましい。
【0066】
また、前記含フッ素化合物は、以下の撥水試験において、撥水性能が3級以上の性能を有するものである。
【0067】
<撥水試験>
染色したポリエステル100%布(目付100g/m2)に対して、前記含フッ素化合物の付着量が10質量%となるように調整した水溶液を用いて浸漬処理(ピックアップ率60%)を施した後、130℃で1分間乾燥処理を施し、さらに180℃で30秒間加熱処理を施す。次に、得られた処理布に対して、JIS L1092(2009) 7.2 はっ水度試験(スプレー試験)に記載の方法に従って、撥水試験を行い、下記基準で処理布の撥水性能を評価する。
【0068】
(撥水性評価基準)
5級:処理布の表面に湿潤及び水滴の付着がないもの。
4級:処理布の表面にわずかに湿潤及び水滴の付着を示すもの。
3級:処理布の表面に部分的に湿潤を示すもの。
2級:処理布の表面に湿潤を示すもの。
1級:処理布の表裏面に完全に湿潤を示すもの。
【0069】
前記フッ素系モノマーとしては、前記含フッ素炭化水素基と重合性官能基とを有するモノマーが好ましく、前記重合性官能基としては、アクリル酸基、メタクリル酸基、α-置換アクリル酸基が好ましい。なお、α-置換アクリル酸基とは、アクリル酸基のα位の炭素原子に結合している水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基等で置換された基を意味する。
【0070】
このようなフッ素系モノマーとしては、下記式(2):
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z-Rf (2)
で表される化合物が好ましい。
【0071】
前記式(2)において、Xは、水素原子、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、又は1価の有機基を表し;前記1価の有機基としては、炭素数1~21(より好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~5)の直鎖状又は分岐状のアルキル基、-CFX1X2基(X1及びX2は水素原子又はハロゲン原子(より好ましくは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を表す)、シアノ基、炭素数1~21(より好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~5)の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基が好ましい。これらのうち、Xとしては、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、シアノ基、トリフルオロメチル基が好ましく;塩素原子がより好ましい。
【0072】
Yは、-O-又は-NH-を表し;-O-であることが好ましい。
【0073】
Zは、直接結合又は2価の有機基を表し;前記2価の有機基としては、炭素数1~20(より好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~4、特に好ましくは炭素数1~2)の直鎖状又は分岐状の2価の脂肪族基(より好ましくは飽和脂肪族基)、炭素数6~18(より好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の芳香族基、炭素数3~18(より好ましくは炭素数6~18、更に好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の環状脂肪族基、-R1N(R2)-Z1-基(R1は炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~4、更に好ましくは炭素数1~2)の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、R2は炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~4)の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Z1は-SO2-又は-C(=O)-を表す)、-CH2CH(OZ2)CH2-(Ar-O)p-基(Z2は水素原子又は炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~4)のアシル基(ホルミル基、アセチル基等)を表し、Arは炭素数6~18(より好ましくは炭素数6~12)の置換又は非置換のアリーレン基を表し、pは0又は1である)、-(CH2)n-Ar-(O)q-基(Arは炭素数6~18(より好ましくは炭素数6~12)の置換又は非置換のアリーレン基を表し、nは0~10(より好ましくは0~5)の整数であり、qは0又は1である)、-(CH2)m-Z3-(CH2)n-基(Z3は-SO2-又は-S-を表し、mは1~10(より好ましくは1~5)の整数であり、nは0~10(より好ましくは0~5)の整数である)が好ましい。これらのうち、Zとしては、炭素数1~10(更に好ましくは炭素数1~4、特に好ましくは炭素数1~2)の直鎖状又は分岐状の2価の脂肪族基(更に好ましくは飽和脂肪族基)、炭素数6~18(更に好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の芳香族基、炭素数6~18(更に好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の環状脂肪族基、-CH2CH2N(R2)-SO2-基(R2は炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す)、-CH2CH(OZ2)CH2-(Ph-O)p-基(Z2は水素原子又はアセチル基を表し、Phはフェニレン基を表し、pは0又は1である)、-(CH2)n-Ph-O-基(Phはフェニレン基を表し、nは0~10(更に好ましくは0~5)の整数である)、-(CH2)m-Z3-(CH2)n-基(Z3は-SO2-又は-S-を表し、mは1~10(更に好ましくは1~5)の整数であり、nは0~10(更に好ましくは0~5)の整数である)がより好ましい。
【0074】
Rfは、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6、更に好ましくは炭素数4~6、特に好ましくは炭素数6)の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基(好ましくはパーフルオロアルキル基)を表す。
【0075】
前記非フッ素系モノマーとしては、フッ素原子を含有しない、重合性官能基を有するモノマーであり、前記重合性官能基としては、アクリル酸基、メタクリル酸基、α-置換アクリル酸基等のエチレン性不飽和二重結合を有する官能基が好ましい。なお、α-置換アクリル酸基とは、アクリル酸基のα位の炭素原子に結合している水素原子が、フッ素原子以外のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基を意味する。
【0076】
本発明の表面処理剤においては、前記含フッ素化合物として、市販の含フッ素化合物を用いることができる。市販の含フッ素化合物としては、NKガードS-0671、NKガードS-0521、NKガードS-05、NKガードS-0543、NKガードS-740、NKガードS-0546、NKガードS-0545、NKガードS-1115、NKガードS-0672(以上、日華化学株式会社製)、ユニダインTG-5574、ユニダインTG-4575、ユニダインTG-5543、ユニダインTG-5546、ユニダインTG-5545、ユニダインTG-5601、ユニダインTG-5541、ユニダインTG-4571、ユニダインTG-6071、ユニダインTG-6501、ユニダインTG-5671、ユニダインTG-5672、ユニダインTG-5673、ユニダインTG-9011(以上、ダイキン工業株式会社製)、アサヒガードAG-E060、アサヒガードAG-E061、アサヒガードAG-7000、アサヒガードAG-950、アサヒガードAG-E081、アサヒガードAG-E082、アサヒガードAG-E092、アサヒガードAG-E500D(以上、AGC株式会社製)、マックスガードFX-850、マックスガードFX-860、マックスガードFX-880(以上、株式会社京絹化成製)、パラガードAF660(大原パラヂウム化学株式会社製)、NUVA2114(クラリアントジャパン株式会社製)、スコッチガードPM3622、スコッチガードPM490、スコッチガードPM930(以上、スリーエム株式会社製)等が挙げられる。
【0077】
(親水性化合物)
本発明の表面処理剤には、皮革表面にSR性(Soil Release:汚れが付着しても水拭き等により容易に除去できる性能)を付与するために、親水性化合物を配合してもよい。このような親水性化合物としては、ポリエステル系親水性化合物、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂以外のウレタン系親水性化合物、シリコーン系親水性化合物、水溶性高分子化合物等が挙げられる。
【0078】
このような親水性化合物の含有量としては、SR性の観点から、前記(A)樹脂100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、15~40質量部がより好ましい。
【0079】
また、前記親水性化合物は、濃度が10質量%となるように前記親水性化合物を溶解した水溶液を、ポリエステル紗(目開き79μm)を用いて濾過した場合に残渣が認められないものである。
【0080】
このような親水性化合物の中でも、ポリエステル系親水性化合物が好ましく、多価カルボン酸成分単位又はそのエステル形成性誘導体成分単位と多価アルコール成分単位とを含む親水性ポリエステル共重合体がより好ましく、前記親水性ポリエステル共重合体の連鎖単位に芳香族環を有するものが更に好ましい。芳香族環を有する親水性ポリエステル共重合体としては、芳香族多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と多価アルコールとの共重合体が挙げられる。
【0081】
前記芳香族多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。前記芳香族多価カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、前記芳香族多価カルボン酸の低級アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ジブチルエステル等)、前記芳香族多価カルボン酸の塩(例えば、塩化物等)、無水フタル酸等が挙げられる。
【0082】
また、前記芳香族多価カルボン酸として、スルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸を使用していてもよい。スルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸としては、スルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸(例えば、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸等)のスルホン酸金属塩(好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩)、前記スルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルのスルホン酸金属塩(好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩)等が挙げられる。
【0083】
このような芳香族多価カルボン酸(スルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸を含む)及びそのエステル形成性誘導体は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、親水性ポリエステル共重合体の水溶性又は乳化分散性、皮革の防汚性能が向上するという観点から、スルホン酸塩基を有しない芳香族多価カルボン酸とスルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸とを併用することがより好ましい。
【0084】
前記多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2’-ジメチル-3-ヒドロキシプロパネート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-プロピル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、3-オクチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量300~10000のポリエチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのランダム状又はブロック状共重合体等の脂肪族ジオール類;1,3-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)-トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族ジオール;ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ハイドロキノン等の芳香族ジオール;これらのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。これらの多価アルコールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような多価アルコールのうち、親水性ポリエステル共重合体の乳化分散物が経時的に安定であるという観点から、ポリエチレングリコール等のオキシエチレン基を有するジオールが好ましい。
【0085】
前記ポリエステル系親水性化合物の重量平均分子量としては、1000~200000が好ましく、10000~50000がより好ましい。ポリエステル系親水性化合物の重量平均分子量が前記下限未満になると、皮革のSR性が十分に発揮されないおそれがあり、他方、前記上限を超えると、ポリエステル系親水性化合物の粘度が高くなり過ぎて、容易に取り扱うことが困難となるおそれがある。
【0086】
本発明の表面処理剤においては、前記親水性化合物として、市販の親水性化合物を用いることができる。市販の親水性化合物としては、ナイスポールPR-99、ナイスポールPR-9000、ナイスポールPRK-60(以上、日華化学株式会社製)、Hydroperm NIOPOs(Archroma社製)等が挙げられる。
【0087】
(艶消し剤)
本発明の表面処理剤には、皮革表面の艶感・光沢を調整するために、艶消し剤を配合してもよい。このような艶消し剤としては、例えば、有機ビーズ、シリカ粒子、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナシリケート、カオリン、雲母、及びマイカ等が挙げられる。これらの艶消し剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0088】
前記有機ビーズとしては、例えば、ウレタンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、オレフィンビーズ、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。また、前記シリカ粒子としては、乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられ、中でも、散乱効果が高く、グロス値の調整を少量で行うことができるという観点から、乾式シリカが好ましい。乾式シリカの平均粒子径(平均二次粒子径)としては、4~15μmが好ましく、5~12μmがより好ましい。
【0089】
このような艶消し剤の含有量としては、皮革表面のマット感(艶感・光沢)に応じて適量を用いればよいが、通常、前記(A)樹脂100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0090】
(平滑剤)
本発明の表面処理剤には、皮革表面の平滑性及び耐摩耗性を向上させるために、平滑剤を配合してもよい。このような平滑剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ハイドロジェン変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ハロゲン化変性シリコーン、メタクリロキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。これらの平滑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの平滑剤の中でも、耐摩耗性の向上効果が大きいという観点から、ポリジメチルシリコーン及びエポキシ変性シリコーンが好ましい。
【0091】
本発明の表面処理剤には、このような平滑剤として市販のものを用いることができる。前記ポリジメチルシリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM490EX、DOWSIL SM-8706EX、DOWSIL IE-7046T、DOWSIL FBL-3289、DOWSIL Q2-3238(以上、ダウ・東レ株式会社製)、KM-752T、KM-862T、KM-9737A、POLON MF-33(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、前記エポキシ変性シリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM-8701(ダウ・東レ株式会社製)、POLON MF-18T、X-51-1264(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0092】
このような平滑剤の含有量(不揮発分の含有量)としては、皮革表面の平滑性及び耐摩耗性に応じて適量を用いればよいが、通常、前記(A)樹脂100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0093】
(増粘剤)
本発明の表面処理剤には、適切な粘度に調整するために、増粘剤を配合してもよい。このような増粘剤としては、例えば、アルカリ増粘型アクリル樹脂、会合型増粘剤、水溶性有機高分子等が挙げられる。これらの増粘剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0094】
本発明の表面処理剤においては、前記アルカリ増粘型アクリル樹脂として市販のものを用いることができる。前記アルカリ増粘型アクリル樹脂の市販品としては、例えば、ニカゾールVT-253A(日本カーバイド工業株式会社製)、アロンA-20P、アロンA-7150、アロンA-7070、アロンB-300、アロンB-300K、アロンB-500(以上、東亞合成株式会社製)、ジュリマーAC-10LHP、ジュリマーAC-10SHP、レオジック835H、ジュンロンPW-110、ジュンロンPW-150(以上、日本純薬株式会社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615、プライマルRM-5(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、SNシックナーA-818、SNシックナーA-850(以上、サンノプコ株式会社製)、パラガム500(パラケム・サザン株式会社製)、レオレート430(エレメンティス・ジャパン株式会社製)、ネオステッカーV-420(日華化学株式会社製)等が挙げられる。このようなアルカリ増粘型アクリル樹脂は、通常、樹脂の乳化分散物として市販されており、乳化分散させた状態で使用することが好ましい。
【0095】
また、本発明の表面処理剤においては、前記会合型増粘剤として市販のものを用いることができる。前記会合型増粘剤の市販品としては、例えば、アデカノールUH-450、アデカノールUH-540、アデカノールUH-752(以上、旭電化工業株式会社製)、SNシックナー601、SNシックナー612、SNシックナー621N、SNシックナー623N、SNシックナー660T(以上、サンノプコ株式会社製)、レオレート244、レオレート278、レオレート300(以上、エレメンティス・ジャパン株式会社製)、DKシックナーSCT-275(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0096】
前記水溶性有機高分子としては、例えば、天然水溶性有機高分子、半合成水溶性有機高分子、合成水溶性有機高分子が挙げられる。前記天然水溶性有機高分子としては、ばれいしょデンプン、かんしょデンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、コーンスターチ等のデンプン類;アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム、トロロアオイ等の樹脂多糖類;アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、寒天(ガラクタン)、ふのり等の海藻多糖類;キサンタンガム、プルラン、カードラン、デキストリン、レバン等の微生物発酵多糖類;カゼイン、ゼラチン、アラブミン、にかわ、コラーゲン等のタンパク質;ペクチン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0097】
前記半合成水溶性有機高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロース硫酸エステルナトリウム等のセルロース誘導体;デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ジアルデヒドデンプン、リン酸デンプン、アセチルデンプン等のデンプン誘導体;アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
【0098】
前記合成水溶性有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルキルエーテル、無水マレイン酸共重合体、マレイン酸共重合体、マレイン酸塩共重合体等が挙げられる。
【0099】
このような増粘剤の含有量(不揮発分の含有量)としては、表面処理剤の粘度に応じて適量を用いればよいが、通常、前記(A)樹脂100質量部に対して、0.5~40質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましく、2~20質量部が更に好ましい。
【0100】
(架橋剤)
本発明の表面処理剤には、皮革の耐水性及び耐久性を向上させるために、架橋剤を配合してもよい。このような架橋剤としては、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、水分散イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの架橋剤の中でも、風合い、加工液の安定性の観点から、カルボジイミド系架橋剤を配合することが特に好ましい。
【0101】
本発明の表面処理剤においては、このような架橋剤として市販のものを用いることができる。前記カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、例えば、カルボジライトE-02、カルボジライトSV-02、カルボジライトV02-L2、カルボジライトV-10(以上、日清紡ケミカル株式会社製)、NKアシストCI-02(日華化学株式会社製)等が挙げられる。
【0102】
このような架橋剤の含有量(不揮発分の含有量)としては、皮革の耐摩耗性及び耐屈曲性の観点から、前記(A)樹脂100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましい。
【0103】
(反応触媒)
本発明の表面処理剤には、皮革表面の黄変を更に抑制するために、ウレタン化反応触媒を配合してもよい。このような反応触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等が挙げられる。これらの反応触媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの反応触媒の中でも、環境への配慮と黄変の抑制の観点から、アミン系触媒を配合することが好ましい。
【0104】
このような反応触媒の含有量(不揮発分の含有量)としては、皮革表面の黄変を抑制するという観点から、前記(B)化合物100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましい。
【0105】
〔皮革〕
本発明の皮革は、皮革用基材と、前記皮革用基材の表面に形成された表面処理層とを備えるものである。また、これらの層の密着性を向上させるという観点から、前記皮革用基材と前記表面処理層との間にプライマー層を設けてもよい。
【0106】
(皮革用基材)
前記皮革用基材としては、ポリウレタン樹脂(PU)からなる表皮層を有する合成皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等の擬似レザー、人工皮革、天然皮革が挙げられる。
【0107】
前記皮革用基材の構造としては、繊維基材と表皮層とを備える繊維積層体構造が挙げられる。また、このような構造の皮革用基材においては、必要に応じて、繊維基材と表皮層との間に、接着層及び/又は中間層が配置されていてもよい。
【0108】
前記繊維基材としては、織物、不織布、編み物等が挙げられる。前記表皮層としては、ポリウレタン樹脂層が挙げられる。このような表皮層の厚さとしては、5~100μmが好ましい。前記接着層としては、ポリウレタン系接着剤等の公知の接着剤を用いて形成された接着剤層が挙げられる。このような接着層の厚さとしては、5~100μmが好ましい。
【0109】
このような皮革用基材は、例えば、以下の方法により製造することができる。先ず、離型紙上に、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて、表皮剤(例えば、ポリウレタン樹脂)を塗布し、適宜乾燥して表皮層を形成する。次に、この表皮層上に、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて、接着剤(例えば、ポリウレタン系接着剤)を塗布し、乾燥して接着層を形成する。次に、この接着層の表面に繊維基材を配置して圧着し、更に、熟成させる。その後、離型紙を剥離することによって、繊維基材と接着層と表皮層とを備える繊維積層体(皮革用基材)が得られる。
【0110】
(プライマー層)
本発明の皮革においては、このようにして作製した皮革用基材(繊維積層体)の表面(表皮層の表面)にプライマー層を形成して、皮革用基材と表面処理層との密着性を向上させてもよい。前記プライマー層は、樹脂からなる層であり、必要に応じて艶消し剤、平滑剤、増粘剤、顔料、酸化防止剤など公知の添加剤を添加してもよい。前記プライマー層を形成する方法としては、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて前記皮革用基材の表面にプライマーを塗布する方法;前記皮革用基材の表面にプライマーを噴霧する方法;前記皮革用基材をプライマーに浸漬する方法等が挙げられる。
【0111】
(表面処理層)
本発明の皮革は、このようにして作製した皮革用基材(繊維積層体)の表面(表皮層の表面)(前記プライマー層を形成した場合には、前記プライマー層の表面)に表面処理層を形成することによって得ることができる。本発明の皮革において、前記表面処理層は、前記本発明の表面処理剤を用いて形成されたものである。このように、前記皮革用基材の表面に、前記本発明の表面処理剤を用いて表面処理層を形成することによって、前記皮革用基材が黄変し得るものであっても、得られる皮革表面の黄変を抑制することが可能となる。また、このような皮革は、例えば、軟質ポリウレタンフォームとフレームラミネート加工等で貼り合わせることによって、クッション性複合材を形成することができ、このクッション性複合材においても、その皮革表面の黄変(特に、フレームラミネート加工等により発生するNOxによる黄変)を抑制することが可能となる。
【0112】
前記皮革用基材の表面に前記表面処理層を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、前記皮革用基材の表面に前記表面処理剤を塗工した後、乾燥することによって前記表面処理層を形成することができる。
【0113】
前記表面処理剤の塗工方法としては、例えば、前記表面処理剤を、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて前記皮革用基材の表面に塗布する方法;前記表面処理剤を前記皮革用基材の表面に噴霧する方法;前記表面処理剤に前記皮革用基材を浸漬する方法等が挙げられるが、グラビアコーターによるダイレクトコート法、リバースコート法がより好ましい。前記表面処理剤の塗工量としては、乾燥後の塗布量が4~40g/m2となる量が好ましく、6~30g/m2となる量がより好ましい。乾燥後の塗布量が前記下限未満になると、皮革の耐摩耗性や防汚性が不十分となるおそれがあり、他方、前記上限を超えると、皮革の屈曲性が低下するおそれがある。
【0114】
塗工した前記表面処理剤の乾燥方法としては特に制限はなく、例えば、40~160℃の範囲内の温度で30秒~10分間乾燥することが好ましく、80~130℃の範囲内の温度で30秒~2分間乾燥することがより好ましい。また、乾燥後に20~100℃の範囲内の温度で5~72時間のエージング処理を行うことが好ましい。
【0115】
このようにして製造された皮革を用いた皮革製品としては、車両用内装材、オートバイのシート・グリップ、靴、カバン、衣料、サニタリー用品、屋外用テント、家具等が挙げられる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成例において、遊離イソシアネート基含有量は以下の方法により測定した。
【0117】
(遊離イソシアネート基含有量)
ウレタンプレポリマー0.3gを三角フラスコに採取し、0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlを加えてウレタンプレポリマーを溶解させた。次いで、ブロモフェノールブルー液を数滴加え、0.1N塩酸メタノール溶液で滴定し、下記式:
NCO%=(a-b)×0.42×f/x
(前記式中、a:0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlのみを滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、b:ウレタンプレポリマーを溶解させた溶液を滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、f:0.1N塩酸メタノール液のファクター、x:ウレタンプレポリマー量)
により遊離イソシアネート基含有量NCO%を求めた。
【0118】
また、実施例及び比較例で使用したポリウレタン樹脂は以下の方法により合成した。
【0119】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラノールT5652」、平均分子量2,000)71.7質量部、トリメチロールプロパン0.4質量部、ジメチロールプロピオン酸3.1質量部及びメチルエチルケトン32.9質量部を仕込み、これらを均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート23.5質量部及びビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.28%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0120】
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加して均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させ、得られた乳化分散液に水加ヒドラジンの30%水溶液2.2質量部及びジエチレントリアミンの20%水溶液1.8質量部を添加した後、90分間攪拌してポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、不揮発分35.0質量%、粘度50mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定なポリウレタンの水分散液(PUD-1)を得た。
【0121】
(合成例2)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラノールT5651」、平均分子量1,000)61.9質量部、トリメチロールプロパン0.2質量部、ジメチロールプロピオン酸3.1質量部及びメチルエチルケトン32.9質量部を仕込み、これらを均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート32.7質量部及びビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が3.21%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0122】
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加して均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させ、得られた乳化分散液に水加ヒドラジンの30%水溶液3.0質量部及びジエチレントリアミンの20%水溶液2.5質量部を添加した後、90分間攪拌してポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、不揮発分35.0質量%、粘度20mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定なポリウレタンの水分散液(PUD-2)を得た。
【0123】
(合成例3)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(株式会社クラレ製、商品名「クラレポリオールC-2090」、平均分子量2,000)71.7質量部、トリメチロールプロパン0.4質量部、ジメチロールプロピオン酸3.1質量部及びメチルエチルケトン32.9質量部を仕込み、これらを均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート23.5質量部及びビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.28%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0124】
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加して均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させ、得られた乳化分散液に水加ヒドラジンの30%水溶液2.2質量部及びジエチレントリアミンの20%水溶液1.8質量部を添加した後、90分間攪拌してポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、不揮発分40.0質量%、粘度40mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定なポリウレタンの水分散液(PUD-3)を得た。
【0125】
(合成例4)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラノールT5652」、平均分子量2,000)350質量部を仕込み、減圧度0.095MPa、120~130℃で脱水した。脱水後、N,N-ジメチルホルムアミド650質量部及びエチレングリコール11質量部を加え、30℃まで冷却しながら十分に混合した。その後、ヘキサメチレンジイソシアネート21質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート54質量部を加え、80℃で2時間混合した後、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.2質量部を加え、100℃で8時間混合した。次いで、70℃まで冷却しながら、メチルエチルケトン360質量部を加えて混合し、不揮発分30.0質量%のウレタン樹脂組成物(PU-1)を得た。
【0126】
(実施例1)
表1に示したように、(A)樹脂として合成例1で得られたポリウレタンの水分散液(PUD-1)を固形分で10質量部、(B)化合物としてポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」、重合度:4、分子量:314、OH基価:1072、OH基数:6個)を5質量部、会合型増粘剤(サンノプコ株式会社製「SNシックナー612」)を固形分で9質量部、及び水分散性カルボジイミド系架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」)を固形分で3質量部を、ディスパーを用いて均一に混合して表面処理剤を得た。
【0127】
(実施例2~4)
表1に示したように、(A)樹脂として、合成例1で得られたポリウレタンの水分散液(PUD-1)の代わりに、合成例2で得られたポリウレタンの水分散液(PUD-2)、合成例3で得られたポリウレタンの水分散液(PUD-3)、又は合成例4で得られたウレタン樹脂組成物(PU-1)を、それぞれ固形分で10質量部用いた以外は実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0128】
(実施例5)
表1に示したように、(A)樹脂として、合成例1で得られたポリウレタンの水分散液(PUD-1)の代わりに、アクリル樹脂エマルション(サイデン化学株式会社製「サイビノールEC-065」)を固形分で10質量部用いた以外は実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0129】
(実施例6)
表1に示したように、実施例1の配合組成に、平滑剤としてポリジメチルシリコーンの乳化物(信越化学工業株式会社製「KM-862T」)を固形分で30質量部追加した以外は実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0130】
(実施例7)
表1に示したように、実施例1の配合組成に、(A)樹脂として、アクリル樹脂エマルション(サイデン化学株式会社製「サイビノールEC-065」)を固形分で20質量部追加した以外は実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0131】
(実施例8)
表1に示したように、実施例7の配合組成に、平滑剤としてポリジメチルシリコーンの乳化物(信越化学工業株式会社製「KM-862T」)を固形分で30質量部追加した以外は実施例7と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0132】
(実施例9)
表1に示したように、実施例8の配合組成に、艶消し剤として乾式法で製造されたシリカ粒子(エボニックデグサ社製「ACEMATT TS 100」、平均粒子径:10μm)を8質量部追加した以外は実施例8と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0133】
(実施例10)
表1に示したように、実施例9の配合組成に、含フッ素化合物としてフッ素系撥水撥油剤(日華化学株式会社製「NKガードS-740」)を固形分で8質量部及び親水性化合物としてポリエステル系樹脂エマルション(日華化学株式会社製「ナイスポールPR-99」)を固形分で5質量部追加した以外は実施例9と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0134】
(実施例11~12)
ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」)の量を表1に示した量に変更した以外は実施例10と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0135】
(実施例13)
表1に示したように、実施例10の配合組成に、反応触媒としてトリエチレンジアミンを固形分で2質量部追加した以外は実施例10と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0136】
(実施例14~17及び比較例5~11)
表1に示したように、(B)化合物として、ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」)の代わりに、ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#510」、重合度:6、分子量:462、OH基価:972、OH基数:8個)、ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#750」、重合度:10、分子量:758、OH基価:888、OH基数:12個)、トリグリセリン(OH基数:5個)、ジグリセリン(OH基数:4個)、グリセリン(OH基数:3個)、プロパンジオール(OH基数:2個)、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「クラレポバールPVA-105」、重合度:500、けん化度:98.0~99.0%)、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「クラレポバールPVA-117」、重合度:1,700、けん化度:98.0~99.0%)、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「クラレポバールPVA-124」、重合度:2,400、けん化度:98.0~99.0%)、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「クラレポバールPVA-217」、重合度:1,700、けん化度:87.0~89.0%)、又はポリイミン化合物(株式会社日本触媒製「エポミンSP-200」、分子量:10,000)を、それぞれ5質量部用いた以外は実施例10と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0137】
(比較例1)
表1に示したように、(B)化合物を配合しなかった以外は実施例10と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0138】
(比較例2~4)
表1に示したように、(B)化合物として、ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」)の代わりに、2-プロパノール(OH基数:1個)、n-ブタノール(OH基数:1個)、又はヘキシルアミン(NH基数:1個)を、それぞれ5質量部用いた以外は実施例10と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0139】
<皮革用基材の作製>
ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHA-68」、不揮発分35質量%)100質量部、顔料(御国色素株式会社製「SBホワイト11339W」、不揮発分67.2質量%)5質量部、水分散性カルボジイミド系架橋剤(日華化学株式会社製「NKアシストCI-02」、不揮発分40質量%)1質量部、及び会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーS」3質量部を配合した表皮剤を、離型紙(朝日ロール株式会社製「アサヒリリースAR-148」)上に塗布厚100μm(WET塗布量)で塗布した。乾燥機を用いて80℃で2分間予備乾燥し、その後、120℃で3分間乾燥を行い、水分を完全に蒸発させ、ポリウレタン樹脂フィルム(以下、「表皮層」という。)を得た。
【0140】
この表皮層の上に、二液型ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHO-38、接着剤主剤、不揮発分35質量%)100質量部、ポリイソシアネート系硬化剤(日華化学株式会社製「NKアシストNY-27」、不揮発分100質量%)7質量部、会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーN」、不揮発分30質量%)5質量部を配合したポリウレタン接着剤配合液を塗布厚200μm(WET塗布量)で塗布した。
【0141】
次いで、乾燥機を用いて90℃で1分間乾燥を行い、乾燥直後に、その上に、繊維基材としてポリエステルニットを貼り合わせた。その後、120℃で3分間キュアリングを行い、さらに40℃で72時間エージングを行い、離型紙を剥離して、評価用の皮革用基材(繊維積層体)を得た。
【0142】
<皮革の作製>
上記で得られた皮革用基材の表皮層上に、100メッシュのグラビアコーターを用いて、実施例及び比較例で得られた表面処理剤を、乾燥後の塗布量が10~20g/m2になるように塗工し、125℃で3分間熱風乾燥させ、表面処理層を有する評価用の皮革を作製した。この皮革のガス変色性を下記の方法により評価した。その結果を表1~2に示す。
【0143】
(ガス変色性)
上記で得られた皮革(実施例1~17及び比較例1~11)のガス変色性を、JIS L0855(1992)に規定された窒素酸化物試験装置及び窒素酸化物発生装置を用いて測定した。
【0144】
具体的には、先ず、上記で得られた皮革を、縦7cm×横4cmの大きさにカットして試験片を作製し、各試験片の短辺を放射線状の試験ホルダ(容量:約15L)にクリップで取付け、この試料ホルダを窒素酸化物試験装置の試験容器内のフレームに固定した。なお、試験片の1回分の収容数は12枚とした。
【0145】
次に、窒素酸化物発生装置の窒素酸化物貯蔵器から注射器で窒素酸化物50mlを抜き取り、試験容器の注入口から注入した。注入後、直ちに、試験容器内のプロペラを約270rpmで回転させ、試験容器内の窒素酸化物濃度を均一にした。窒素酸化物注入から60分間経過後、プロペラの回転を停止し、試験装置のふたを開け、各試験片を大気中に取出した。各試験片を風乾した後、色差計を用いて、窒素酸化物暴露による変色の程度を黄変度として測定し、この黄変度をJIS L0805(2005)に準拠した汚染色用グレースケールに基づいて5級~1級の9段階により等級評価した。なお、この等級評価においては、等級の数値が大きいほど、変色が少ないことを意味する。
【0146】
【0147】
【0148】
表1~2に示した実施例1~17及び比較例5~11と比較例1とを対比すると明らかなように、(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂に、(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物を配合した表面処理剤を用いて、皮革用基材の表面に前記表面処理剤からなる表面処理層を形成した場合(実施例1~17及び比較例5~11)には、(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物を含まない表面処理剤を用いた場合(比較例1)に比べて、NOxガスによる皮革表面の変色が少なく、NOxガスによる皮革表面の黄変を抑制できることが確認された。また、(B)化合物として、1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物を配合した場合(実施例1~17及び比較例5、7~10)には、プロパンジオール(比較例6)又はポリイミン(比較例11)を配合した場合に比べて、皮革表面の黄変をより抑制できることがわかった。さらに、(B)化合物として、1分子中に5個以上の水酸基を有するポリグリセリン(実施例1~16)を配合した場合には、ジグリセリン(実施例17)、グリセリン(比較例5)又はポリビニルアルコール(比較例7~10)を配合した場合に比べて、皮革表面の黄変を更に抑制できることがわかった。またさらに、(B)化合物として、1分子中に6個以上の水酸基を有するポリグリセリン(実施例1~10及び12~15)を配合した場合には、トリグリセリン(実施例16)を配合した場合に比べて、皮革表面の黄変を特に抑制できることがわかった。
【0149】
一方、表2に示した比較例2~4と比較例1とを対比すると明らかなように、1分子中に1個の活性水素を有する化合物を配合した表面処理剤を用いた場合(比較例2~4)には、得られた皮革の表面は、(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物を含まない表面処理剤を用いた場合(比較例1)の皮革表面と同程度に黄変した。すなわち、1分子中に1個の活性水素を有する化合物を配合して表面処理層を形成しても、皮革表面の黄変を抑制することは困難であることがわかった。
【0150】
以上の結果から、NOxによる皮革用基材の表面の黄変を抑制するためには、(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂に、(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物(好ましくは、1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物、より好ましくは、1分子中に5個以上の水酸基を有するポリグリセリン、更に好ましくは、1分子中に6個以上の水酸基を有するポリグリセリン)を配合して、皮革用基材の表面に表面処理層を形成することが有効であることが確認された。
【0151】
したがって、本発明の皮革用表面処理剤は、例えば、軟質ポリウレタンフォームと各種皮革とをフレームラミネート法によって貼り合わせたクッション性複合材において、火炎等による燃焼時に軟質ポリウレタンフォームから発生するガスに含まれるNOxガスによって起こる皮革表面の黄変を抑制でき、また、本発明の皮革は、軟質ポリウレタンフォームとフレームラミネート法によって貼り合わせた場合であっても、火炎等による燃焼時に表面の黄変が起こりにくいものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上説明したように、本発明によれば、皮革表面の黄変を抑制することが可能となる。したがって、本発明の皮革を用いた皮革製品は、表面が黄変しにくいため、安定且つ高品位の皮革製品として利用することができ、車両、家具、衣料、鞄、靴、袋物、雑貨等の各種産業分野において好適に利用することができる。特に、本発明の皮革と軟質ポリウレタンフォームとをフレームラミネート法によって貼り合わせたクッション性複合材は、フレームラミネート法の燃焼時に軟質ポリウレタンフォームから発生するガスに含まれるNOxガスによる皮革表面の黄変が抑制されており、表面品質に優れた皮革製品として利用することができる。
【要約】
(A)皮革用基材の表面に樹脂層を形成することが可能な樹脂と、(B)1分子中に2個以上の活性水素を有する化合物とを含有する、皮革用表面処理剤。