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特許7214935イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/18 20060101AFI20230123BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20230123BHJP
【FI】
C23C4/18
C23C4/11
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022568905
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2022022659
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2021095109
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594146179
【氏名又は名称】株式会社新菱
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】柳井 友里子
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 吉孝
(72)【発明者】
【氏名】松村 知宏
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031457(JP,A)
【文献】特開2018-190985(JP,A)
【文献】特開2002-249864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00- 6/00
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材上にイットリウム系薄膜が形成された被覆アルミニウム部材のアルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法であって、
前記イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させるBHF処理工程を有する、イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
【請求項2】
前記BHF処理工程において、前記イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を噴霧すること、および/または、前記イットリウム系薄膜の表面とバッファードフッ酸溶液を浸み込ませた繊維体とを接触させることによって、前記イットリウム薄膜の表面に前記バッファードフッ酸溶液を接触させる、請求項1に記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
【請求項3】
前記バッファードフッ酸溶液を接触させた前記イットリウム系薄膜を水で洗浄する洗浄工程を有する、請求項1または2に記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
【請求項4】
前記イットリウム系薄膜が、溶射膜である、請求項1または2に記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
【請求項5】
前記イットリウム系薄膜が、蒸着膜である、請求項1または2に記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造において、スパッタやCVD(化学蒸着)、エッチング工程などでプラズマが使用される。半導体製造装置や装置の部材の耐プラズマ性を改善する目的で、装置内面や部材表面をイットリウム系皮膜で被覆することが行われている。例えば、半導体製造装置の部材として、アルミニウム基材の表面をイットリウム系皮膜で被覆した部材などが知られている。しかし、イットリウム系皮膜は、取り扱いの際にわずかな衝撃で装置内面や部材表面から剥離しやすいという欠陥があった。そこで、イットリウム系皮膜の剥離を抑制することが求められている。
【0003】
皮膜の剥離を防止するために、特許文献1には、部品表面にフッ化イットリウム溶射皮膜を形成する前に、酸化イットリウム製の第1の中間層を予め形成しておく方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6378389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、操作が複雑であり、また、使用中の部材の密着性の改良は困難であるため、イットリウム系皮膜のアルミニウム基材に対する密着性をより簡単に改善する方法が求められていた。かかる状況下、本発明の目的は、アルミニウム基材上にイットリウム系薄膜が形成された被覆アルミニウム部材のアルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性をより簡単に改善することができる、イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> アルミニウム基材上にイットリウム系薄膜が形成された被覆アルミニウム部材のアルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法であって、前記イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させるBHF処理工程を有する、イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
<2> 前記BHF処理工程において、前記イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を噴霧すること、および/または、前記イットリウム系薄膜の表面とバッファードフッ酸溶液を浸み込ませた繊維体とを接触させることによって、前記イットリウム薄膜の表面に前記バッファードフッ酸溶液を接触させる、前記<1>に記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
<3> 前記バッファードフッ酸溶液を接触させた前記イットリウム系薄膜を水で洗浄する洗浄工程を有する、前記<1>または<2>に記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
<4> 前記イットリウム系薄膜が、溶射膜である、前記<1>から<3>のいずれかに記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
<5> 前記イットリウム系薄膜が、蒸着膜である、前記<1>から<3>のいずれかに記載のイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性をより簡単に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1を行う前(処理前)のテストピース(Al-1)と、実施例1を行った後(処理後)のテストピース(Al-1)の外観写真である。
図2】比較例2を行う前(処理前)のテストピース(Al-1)と、比較例2を行った後(処理後)のテストピース(Al-1)の外観写真である。
図3】参考例1を行う前(処理前)のテストピース(SUS)と、参考例1を行った後(処理後)のテストピース(SUS)の外観写真である。
図4】密着性の評価方法を説明するための図である。
図5】破断面積率の算出方法を説明するための図である。
図6】実施例2を行う前(処理前)のテストピース(Al-2)と、実施例2を行った後(処理後)のテストピース(Al-2)の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、以下において、「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0011】
<イットリウム系薄膜の密着性改善方法>
本発明は、アルミニウム基材上にイットリウム系薄膜が形成された被覆アルミニウム部材のアルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法であって、前記イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させるBHF処理工程を有する、イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法(以下、「本発明の方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0012】
従来、バッファードフッ酸はアルミニウムを溶解させるため、アルミニウム基材に対しての使用は適さないと考えられていた。しかしながら、本発明者らは、アルミニウム基材上に形成されたイットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させるBHF処理を行うことで、アルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性を簡単に改善できる(向上させられる)ことを発見した。特に、噴霧やバッファードフッ酸溶液を浸み込ませた繊維体を用いてBHF処理を行うことで、アルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性を簡単に改善できることを発見した。
【0013】
[被覆アルミニウム部材]
本発明の方法が適用される被覆アルミニウム部材は、アルミニウム基材上にイットリウム系薄膜が形成された部材である。特に、半導体製造装置内部に用いられる、被覆アルミニウム部材に対して、本発明の方法を適用することが好ましく、未使用の部材に本発明の方法を適用してもよいし、使用中の半導体製造装置の部材に本発明の方法を適用して、イットリウム系薄膜の密着性を改善させてもよい。
【0014】
被覆アルミニウム部材を構成するアルミニウム基材はアルミニウムを含む基材である。アルミニウム基材を構成する材質としては、アルミニウム金属単体、アルミニウム合金、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物等のアルミニウムセラミック、およびそれらの混合物やその他の無機酸化物との混合物などが挙げられる。
【0015】
アルミニウム基材上に形成されるイットリウム系薄膜は、酸化イットリウム(Y)、フッ化イットリウム(YF)、オキシフッ化イットリウム(YOF)のいずれかがが好ましく、酸化イットリウム(Y)またはオキシフッ化イットリウム(YOF)がより好ましく、酸化イットリウム(Y)がさらに好ましい。イットリウム系薄膜の膜厚は特に限定されないが、0.5~500μmが好ましく、0.8~350μmがより好ましく、1~200μmがさらに好ましい。イットリウム系薄膜の膜厚が薄すぎると、イットリウム系薄膜のはがれやアルミニウムの変色が発生しやすい。また、イットリウム系薄膜の膜厚が500μmよりも厚いと、イットリウム系薄膜の密着性が改善されにくい。
【0016】
また、イットリウム系薄膜の膜厚は、5~500μmや、10~500μm、30~350μm、50~200μmなどとすることもできる。
【0017】
イットリウム系薄膜は、被覆アルミニウム部材の用途に応じて耐プラズマ耐性が求められる部分(例えば、半導体製造装置の内壁となる部分など)に形成されていればよい。イットリウム系薄膜の形成方法としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のPVDや、CVD、溶射等が挙げられる。溶射としては、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF)、プラズマ溶射、爆発溶射などの溶射、コールドスプレー、エアロゾルデポジション法等が挙げられ、蒸着(例えば、真空蒸着)で形成された蒸着膜または溶射で形成された溶射膜であることが好ましい。
【0018】
例えば、蒸着膜は、0.1~10μm、0.5~5μm、0.8~3μmなどとすることができる。また、溶射膜は、5~500μmや、10~500μm、30~350μm、50~200μmなどとすることができる。
【0019】
[BHF処理工程]
BHF処理工程は、アルミニウム基材上に形成されたイットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させる工程である。BHF処理工程では、イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を噴霧したり、イットリウム系薄膜の表面とバッファードフッ酸溶液を浸み込ませた繊維体とを接触させたり、イットリウム系薄膜の表面のみをバッファードフッ酸溶液に浸漬したりすることによって、イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させることができる。中でも、イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を噴霧すること、および/または、イットリウム系薄膜の表面とバッファードフッ酸溶液を浸み込ませた繊維体とを接触させることによって、イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させることが好ましい。バッファードフッ酸溶液に浸漬する方法では、アルミニウム基材やイットリウム系薄膜が変色をしやすくなるため、バッファードフッ酸溶液の組成や処理時間、処理温度等をより厳密に制御する必要がある。バッファードフッ酸溶液を噴霧したり、バッファードフッ酸溶液を浸み込ませた繊維体を接触させたりする方法とすることで、変色を起こさず、より簡単にイットリウム系薄膜の密着性を改善することができる。
【0020】
バッファードフッ酸溶液の噴霧は、一般的なスプレー等の噴霧器を用いて行うことができる。イットリウム系薄膜の表面とバッファードフッ酸溶液を浸み込ませた繊維体との接触は、具体的には、バッファードフッ酸溶液で濡らした繊維体でイットリウム系薄膜の表面を撫でて(ワイプして)バッファードフッ酸を塗り広めたり、バッファードフッ酸溶液で濡らした繊維体でイットリウム系薄膜を覆ったりすることで行うことができる。繊維体は、バッファードフッ酸溶液を浸み込ませることができるものであればよく、不織布や、布巾、紙、スポンジ、ローラーなど適宜選択することができる。また、繊維体の素材は、ポリエチレンや、ポリエステル、ポリウレタン、セルロース、天然繊維など適宜選択できる。
【0021】
(バッファードフッ酸溶液)
バッファードフッ酸溶液は、フッ化水素酸および/またはフッ化水素アンモニウムと、フッ化アンモニウムと、を含む溶液である。
【0022】
バッファードフッ酸は、例えば、フッ化水素酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を混合することで調製することができる。このとき、バッファードフッ酸溶液において、フッ化水素酸の濃度は、0.01~50質量%であることが好ましく、1.0~30質量%であることがより好ましく、3.0~10質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満では、イットリウム系薄膜の密着性の改善効果が得にくい。50質量%超ではイットリウム系薄膜のはがれやアルミニウムの変色が発生しやすい。フッ化アンモニウムの濃度は、10~45質量%であることが好ましく、20~42質量%であることがより好ましく、30~40質量%がさらに好ましい。
【0023】
また、バッファードフッ酸は、フッ化水素アンモニウム水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を混合することで調製することができる。このとき、バッファードフッ酸溶液において、フッ化水素アンモニウムの濃度は、0.03~45質量%であることが好ましく、1.0~30質量%であることがより好ましく、5.0~20質量%がさらに好ましい。0.03質量%未満では、イットリウム系薄膜の密着性の改善効果が得にくい。45質量%超ではイットリウム系薄膜のはがれやアルミニウムの変色が発生しやすい。フッ化アンモニウムの濃度は、0.1~45質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~35質量%がさらに好ましい。
【0024】
フッ化水素酸や、フッ化水素アンモニウム、フッ化アンモニウムの濃度を、前記範囲とすることで、イットリウム系薄膜のはがれやアルミニウムの変色をさせずに、イットリウム系薄膜の密着性を改善できる。
【0025】
(処理時間)
バッファードフッ酸溶液での処理時間は特に限定されないが、処理時間が長すぎるとイットリウム系薄膜の剥がれやアルミニウム基材の変色という問題が生じる傾向にあり、処理時間が短すぎるとイットリウム系薄膜の密着性の改善が得られないという問題が生じる傾向にある。そのため、処理時間の下限は、好ましくは0.5分以上であり、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは30分以上である。また、処理時間の上限は、好ましくは180分以下であり、より好ましくは120分以下であり、さらに好ましくは60分以下である。例えば、処理時間は、0.5~180分や、10~120分、30~60分とすることができる。なお、実施例で示すように、BHF処理を行った後に洗浄を行い、再度BHF処理を行うなどBHF処理工程を複数回行ってもよいが、1回あたりのBHF処理の処理時間が前記範囲であることが好ましい。
【0026】
(処理温度)
処理温度は特に限定されないが、処理温度が高すぎるとアルミニウム基材の変色という問題が生じる傾向にあり、処理温度が低すぎるとイットリウム系薄膜の密着性の改善効果が得られないという問題が生じる傾向にある。そのため、処理温度の下限は、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。また、処理温度の上限は、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは25℃以下である。例えば、処理温度は、5~80℃や、10~40℃、15~25℃とすることができる。
【0027】
[洗浄工程]
本発明の方法は、通常、BHF処理工程の後に、バッファードフッ酸溶液を接触させたイットリウム系薄膜を水で洗浄する洗浄工程を有する。洗浄工程で用いる水としては、水道水、超純水、イオン交換水等を用いることができ、超純水、イオン交換水を用いることが好ましい。
【0028】
水で洗浄する方法は、特に限定はないが、浸漬洗浄や、超音波洗浄、加圧水洗浄、流水洗浄等が挙げられる。中でも、イットリウム系薄膜のはがれ防止のため、浸漬洗浄や流水洗浄が好ましい。
【0029】
(洗浄時間)
洗浄時間は特に限定されないが、洗浄時間が短すぎるとバッファードフッ酸が残留するという問題が生じる傾向にある。そのため、洗浄時間の下限は、好ましくは0.5分以上であり、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは60分以上である。洗浄時間の上限は特に限定はなく、例えば、150分以下や90分以下とすることができる。例えば、洗浄時間は、0.5~150分や、10~150分、60~90分とすることができる。
【0030】
(洗浄温度)
洗浄温度は特に限定されないが、洗浄温度が高すぎるとアルミニウム基材の変色という問題が生じる傾向にあり、洗浄温度が低すぎるとバッファードフッ酸が残留するという問題が生じる傾向にある。そのため、洗浄温度の下限は、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。また、洗浄温度の上限は、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは60℃以下であり、さらに好ましくは30℃以下である。例えば、洗浄温度は、5~80℃や、10~60℃、15~30℃とすることができる。
【0031】
洗浄工程後に、真空乾燥や、温風乾燥、送風乾燥などの乾燥を行って乾燥させることで、アルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性が改善された被覆アルミニウム部材が得られる。
【0032】
本発明の方法により、例えば、実施例に示すように、イットリウム系薄膜の引張密着強さを、9.5N/mm以上や、10N/mm以上、10.5N/mm以上、15N/mm以上、20N/mm以上などに改善することもできる。上記の通り、この被覆アルミニウム部材は、半導体製造装置の部材などとして用いることができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<用いたテストピース>
・テストピース(Al-1):Al基材(A5083、40mm角、厚さ2mm)の一方の面に酸化イットリウム(Y)薄膜(120μm)が溶射されたもの。密着性評価のために、基材側(酸化イットリウム薄膜が溶射されていない側)の面を粗面化(スコッチブライト#7440)して用いた。
・テストピース(SUS):SUS基材(SUS304L、40mm角、厚さ2mm)の一方の面に酸化イットリウム(Y)薄膜(120μm)が溶射されたもの。密着性評価のために、基材側(酸化イットリウム薄膜が溶射されていない側)の面を粗面化(スコッチブライト#7440)して用いた。
・テストピース(Al-2):Al基材(A5083、50mm角、厚さ2mm)の一方の面に酸化イットリウム(Y)薄膜(1μm)が真空蒸着されたもの。密着性評価のために、基材側(酸化イットリウム薄膜が真空蒸着されていない側)の面を粗面化(サンドブラストWA#60)して用いた。
【0035】
<用いた処理液等>
・バッファードフッ酸溶液(BHF溶液):110-BHF(森田化学工業株式会社製、フッ化水素アンモニウムが13.5質量%、フッ化アンモニウムが27.5質量%、残部が水)
・酒石酸溶液:富士フイルム和光純薬株式会社製、99.5質量%の酒石酸溶液
・水:超純水(電気抵抗率18MΩ・cm)
【0036】
<実施例1>
テストピース(Al-1)に対して、常温(15~20℃)で、下記s1~s6の順で操作を行った。
s1:テストピース(Al-1)の酸化イットリウム薄膜側の表面を水で洗浄した。
s2:次いで、酸化イットリウム薄膜の表面をバッファードフッ酸溶液で濡らし、10分間放置した。(BHF処理工程)
s3:酸化イットリウム薄膜側の表面を水で洗浄した。(洗浄工程)
s4:再度s2の操作を行い、次いでs3、さらにs2の操作を行った。
s5:3回目のs2の操作後のテストピース(Al-1)を、60℃の温水に1時間浸漬した。
s6:温水からテストピース(Al-1)を取出し、圧水洗浄、超音波洗浄を行い、真空乾燥を65℃1時間行った。
【0037】
図1に、実施例1を行う前(処理前)のテストピース(Al-1)と、実施例1を行った後(処理後)のテストピース(Al-1)の外観写真を示す。処理前と処理後でイットリウム薄膜表面に外観上の有意差は確認されなかった。
【0038】
<比較例1>
テストピース(Al-1)を圧水洗浄、超音波洗浄を行ったのち、真空乾燥を65℃1時間行った。
【0039】
<比較例2>
実施例1においてバッファードフッ酸溶液の代わりに酒石酸溶液を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0040】
図2に、比較例2を行う前(処理前)のテストピース(Al-1)と、比較例2を行った後(処理後)のテストピース(Al-1)の外観写真を示す。処理前と処理後で、イットリウム薄膜表面に外観上の有意差は確認されなかったが、アルミニウム基材部分には変色が認められた。
【0041】
<参考例1>
テストピース(Al-1)に代えてテストピース(SUS)を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0042】
図3に、参考例1を行う前(処理前)のテストピース(SUS)と、参考例1を行った後(処理後)のテストピース(SUS)の外観写真を示す。処理後のテストピースは、イットリウム薄膜側の面がやや黄色みを帯びていた。
【0043】
<参考例2>
テストピース(Al-1)に代えてテストピース(SUS)を用いた以外は、比較例1と同様にした。
【0044】
<密着性の評価>
各テストピースを5枚準備し、密着性の評価を行い、各値の算術平均(Ave.)と標本標準偏差(Stdev.)を求めた。密着性の評価は、図4に示すように、処理後のテストピース(TP)と、φ15mm×30mm(長さ)の凸部を有する治具A(材質:SUS)と、φ25mm×25mm(長さ)の治具B(材質:SUS)を用いて行った。得られた試験片(TP)のイットリウム薄膜(溶射膜)側に治具Aの凸部上面をエポキシ系接着剤で接着し、基材側に治具Bをエポキシ樹脂系接着剤で接着した試料を、引張試験機に取り付け、引張速度1cm/minで引っ張り、引張破断荷重(N)を求めた。さらに、破断面の状態を確認し、接着面積に対する基材と溶射膜との界面における完全なはく離、および溶射膜内の完全なはく離の割合を算出して破断面積率(%)を求め、引張密着強さ(N/mm)=引張破断荷重(N)/(溶射膜と治具Aとの接着面積(mm)×破断面積率(%))を求めた。なお、試料、引張試験機および引張速度以外は、JIS H8402(2004)に基づいて測定を行った。
【0045】
破断面積率(%)は、治具A側の破断面から算出した。具体的には、図5に示すように、溶射膜と治具Aとの接着面積(図5のa1の円の面積)に占める破断面の面積(図5のa2の面積)の割合を破断面積率(%)とした。
【0046】
表1に、実施例1の試験片の密着性の評価の結果を、表2に、比較例1の試験片の密着性の評価の結果を、表3に、比較例2の試験片の密着性の評価の結果を示す。また、表4に、参考例1の試験片の密着性の評価の結果を、表5に、参考例2の試験片の密着性の評価の結果を示す。表1~5に示すように、基材がSUSの場合や処理液として酒石酸を用いた場合には密着性改善の効果はほとんど見られないが、バッファードフッ酸を処理液として用い、アルミニウム基材上に形成されたイットリウム薄膜を処理することで、密着性を改善できることがわかる。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
<実施例2>
テストピース(Al-2)に対して、常温(15~20℃)で、下記s1~s5の順で操作を行った。
s1:テストピース(Al-2)の酸化イットリウム薄膜側の表面を水で洗浄した。
s2:次いで、酸化イットリウム薄膜の表面をバッファードフッ酸溶液で濡らし、10分間放置した。(BHF処理工程)
s3:酸化イットリウム薄膜側の表面を水で洗浄した。(洗浄工程)
s4:60℃の温水に1時間浸漬した。
s5:温水からテストピース(Al-2)を取出し、圧水洗浄、超音波洗浄を行い、真空乾燥を65℃1時間行った。
【0053】
図6に、実施例2を行う前(処理前)のテストピース(Al-2)と、実施例2を行った後(処理後)のテストピース(Al-2)の外観写真を示す。処理後のテストピースは、イットリウム薄膜側の表面がややくすんでいた。
【0054】
<比較例3>
テストピース(Al-2)を圧水洗浄、超音波洗浄を行ったのち、真空乾燥を65℃1時間行った。
【0055】
<密着性の評価>
実施例2と比較例3のテストピースをそれぞれ1枚準備し、密着性の評価を行った以外は、実施例1と同様にして評価した。
【0056】
表6に、実施例2の試験片の密着性の評価と比較例3の試験片の密着性の評価の結果を示す。表6に示すように、バッファードフッ酸を処理液として用い、アルミニウム基材上に真空蒸着で形成されたイットリウム薄膜を処理することで、密着性を改善できることがわかる。
【0057】
また、破断面の状態を確認したところ、実施例2は、基材と蒸着膜との界面または蒸着膜内ではなく、接着剤内で破断していた。そのため、実施例2の基材と酸化イットリウム薄膜との密着力は、算出された引張密着強さよりも大きいと予想される。
比較例3は、実施例1、比較例1、2と同様に、基材と酸化イットリウム薄膜との界面または酸化イットリウム薄膜内での破断であった。
【0058】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、半導体製造装置などの分野において利用することができ、産業上有用である。
【要約】
アルミニウム基材上にイットリウム系薄膜が形成された被覆アルミニウム部材のアルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性をより簡単に改善することができる、イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法を提供する。アルミニウム基材上にイットリウム系薄膜が形成された被覆アルミニウム部材のアルミニウム基材に対するイットリウム系薄膜の密着性を改善する方法であって、前記イットリウム系薄膜の表面にバッファードフッ酸溶液を接触させるBHF処理工程を有する、イットリウム系薄膜の密着性を改善する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6