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特許7214936抗菌・抗ウィルス性組成物およびその製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウィルス性組成物およびその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/00 20060101AFI20230124BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20230124BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230124BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230124BHJP
   A61K 31/30 20060101ALI20230124BHJP
   A01P 9/00 20060101ALI20230124BHJP
   A01P 15/00 20060101ALI20230124BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20230124BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230124BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230124BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20230124BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20230124BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20230124BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230124BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230124BHJP
【FI】
B01J13/00 C
A61K33/34
A61K9/10
A61P31/14
A61K31/30
A01P9/00
A01P15/00
A01P13/00
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/04
A01N59/20 Z
A01N37/36
C09D201/00
C09D7/61
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022025788
(22)【出願日】2022-02-22
【審査請求日】2022-07-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】322013177
【氏名又は名称】野村 悦雄
(74)【代理人】
【識別番号】100195039
【弁理士】
【氏名又は名称】古城 耕一
(72)【発明者】
【氏名】野村 悦雄
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132606(WO,A1)
【文献】特開2015-147987(JP,A)
【文献】国際公開第2005/007328(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/00
A61K 33/34
A61K 9/10
A61P 31/14
A61K 31/30
A01P 9/00
A01P 15/00
A01P 13/00
A01P 1/00
A01P 3/00
A01N 25/04
A01N 59/20
A01N 37/36
C09D 201/00
C09D 7/61
C01G 3/02
C01G 3/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化銅と塩化第一銅とクエン酸銅がコロイドの主成分である有色透明な銅含有分散水溶液であって、
界面活性剤を含有しない分散水溶液であって、
動的散乱法で測定し、キュムラント法によって算出した結果、3つの粒度分布(第1ピークの平均粒子径:21.23nm~23.5nm、第2ピークの平均粒子径:165.6nm~211.3nm、第3ピークの平均粒子径:4316nm~5114nm)を有し、全体の平均粒子径が34nm~75nmであることを特徴とする分散水溶液であって、
常温で長期間に亘って凝集沈殿しない、pH3.5~4.5の銅含有コロイド分散水溶液
【請求項2】
塗装資材と、
請求項1に記載の界面活性剤を含有しない銅含有コロイド分散液を塗布して乾燥させた塗装表面と、
からなる抗菌・抗ウイルス塗装材。
【請求項3】
〔S1〕亜酸化銅(CuO)5gを水(HO)200mLに入れて、さらに水(HO)を300mL加えて、20℃~40℃で500rpmの回転数で撹拌して、亜酸化銅懸濁液を作る工程を第1工程とし、
〔S2〕還元性のある有機酸であるクエン酸3gを加えて溶解させ、pH4のほぼ透明な水溶液を作る工程を第2工程とし、
〔S3〕濃度35%の塩酸を6g加えて、60℃に温度を上げて、pH2~2.5の透明で赤色の水溶液とし、静置して清澄液を得る工程を第3工程とし、
〔S4〕pH調整のため、還元機能のあるアルカリ性のクエン酸3ナトリウム3gを加えて溶解させ、pH4~5の透明な青緑色から緑色を帯びた水溶液とし、95℃以上で2~3分間沸騰させる工程を第4工程とし、
〔S5〕約480mLの水(HO)を加えて、1000mLの亜酸化銅分散液であって、pH3.5~4.5の有色透明な水溶液が得られる工程を第5工程とし、
〔S6〕不純物を濾過する工程を第6工程とからなる、
界面活性剤を含有しない、亜酸化銅と塩化第一銅とクエン酸銅をコロイドの主成分とする有色透明な銅含有分散水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化銅を原料として、Cuイオンおよび、コロイド粒子の主成分として、Cu(CCuCuClやCuOなどの銅化合物を含有する有色透明な溶液であって、優れた密着性を有する溶液であり、抗菌・抗ウイルス性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、亜酸化銅分散液の凝集を抑え、分散性を向上させるためには、界面活性剤を使用する事が一般的であり、特許文献1のWO2014/132606公報の3頁目の段落0015にはリン酸エステル型アニオン界面活性剤を用い、当該分散液にはリン酸エステル型アニオン界面活性剤を含有することが記載されている。特許文献2のWO2019/045110公報の6頁目の13行目から17行目には、分散剤として可溶な界面活性剤等を使用して凝集を防ぐことが記載されている。また、特許文献3の特開2013-082654号公報、特許文献4の特開2016-003234号公報および特許文献5の特開2017-052880号公報の何れにも界面活性剤の使用が記載されている。
【0003】
しかし、特許文献1の4頁目の段落0017によれば、界面活性剤の含有量が少ない場合には、分散液が凝集沈降して抗菌・抗ウィルス性能が低下し、逆に界面活性剤の含有量が多い場合にも、界面活性剤の残存量が多くなり、やはり抗菌・抗ウィルス性能が低下するという欠点が生じると言うことであった。
【0004】
その改善策として、界面活性剤を使用しないで、亜酸化銅を原料とする凝集・沈降しない、高い抗菌・抗ウィルス性能を有する分散液およびその製造方法を提供することで、銅イオンや銅化合物の有する抗菌・抗ウィルス性を高める効果である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/132606号公報
【文献】WO2019/045110号公報
【文献】特開2013-082654号公報
【文献】特開2016-003234号公報
【文献】特開2017-052880号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】松本健、木羽敏泰「高純度金属銅表面の酸化銅(1)と酸化銅(2)の分別定量」 1979年6月、第40回分析化学討論会における一部発表論文(https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/30/1/30_1_12/_pdf/-char/ja)
【文献】「安全な銅」一般社団法人日本銅センターHP(http://www.jcda.or.jp/recruit/tabid/87/Default.aspx)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、界面活性剤を使用しないで、亜酸化銅すなわちCuOを原料とした沈殿物の無い透明なコロイド分散液の製造は非常に難しい点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸化第1銅を主原料として、還元性の高い有機酸を用いて溶解し、少量の無機酸を添加して清澄化した後、有機酸のアルカリ塩でpH調整した、Cu2+イオン、Cu+イオンや、CuOやクエン酸銅やCuClやCuOなどの銅化合物が混在する透明な水溶液であって、各種基板に優れた密着性を持ち、界面活性剤を含有しない分散液であり、高い抗菌・抗ウィルス性を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の亜酸化銅(古河ケミカル社製「微粒子亜酸化銅 FRC-05」:CuO含有量98.8重量%、乾燥減量0.1重量%、比表面積2.8m/g)を主原料とした分散液(以下、「亜酸化銅分散液」と称する)は、長期間に亘って凝集沈殿せず、塗装基板に対して適切な水性無機バインダーを使用すれば形成される塗膜は優れた密着性を有し、鉛筆硬度で7H~8H以上を有する強靱な膜となるため、耐久性に優れているという利点および、黄色ブドウ球菌に対する24時間後の抗菌活性値が4.6~4.9以上を有し、ウィルスに対する開始から10時間後のTCID50/mLが検出限界未満となるほどの高い抗ウィルス性能を有する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は亜酸化銅分散液の製造方法を示した工程図である。(実施例1)
図2図2は亜酸化銅分散液(1)の粒度分布を示した図である。(実施例1)
図3図3は亜酸化銅分散液(1)の自己相関関数を示した図である。(実施例1)
図4図2は亜酸化銅分散液(2)の粒度分布を示した図である。(実施例2)
図5図3は亜酸化銅分散液(2)の自己相関関数を示した図である。(実施例2)
図6図2は亜酸化銅分散液(3)の粒度分布を示した図である。(実施例3)
図7図3は亜酸化銅分散液(3)の自己相関関数を示した図である。(実施例3)
図8図2は亜酸化銅分散液(4)の粒度分布を示した図である。(実施例4)
図9図3は亜酸化銅分散液(4)の自己相関関数を示した図である。(実施例4))
図10図4は亜酸化銅分散液の代用写真である。(実施例1)
図11図5はウィルス不活化試験を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(亜酸化銅分散液の製造方法)
図1に示す様な製造工程に基づいて、基本的な製造方法を説明する。
〔S1〕亜酸化銅(CuO)5gを水(HO)200mLに入れて、さらに水(HO)を300mL加えて、20℃~40℃で500rpmの回転数で撹拌して(pH6~7)、亜酸化銅懸濁液(スラリー溶液)を作る。
〔S2〕還元性のある有機酸であるクエン酸3gを加えて溶解させ、pH4のほぼ透明な水溶液を作る。
〔S3〕濃度35%の塩酸を6g加えて、60℃に温度を上げて、pH2~2.5の透明で赤色の水溶液とし、静置して清澄液を得る。
〔S4〕pH調整のため、還元機能のあるアルカリ性のクエン酸3ナトリウム3gを加えて溶解させ、pH4~5の透明な青緑色から緑色を帯びた水溶液とし、95℃以上で2~3分間沸騰させる。
〔S5〕約480mLの水(HO)を加えて、1000mLの亜酸化銅分散液であって、pH3.5~4.5の透明な水溶液が得られる。ただし、水溶液の色は、青みがかった緑色である青緑から緑色を帯びたものとなっている。
〔S6〕不純物を濾過する。
以上の工程では、界面活性剤などの分散剤が不要であり、当該工程で製造された亜酸化銅分散液は、当然界面活性剤の成分を含有しない透明なコロイド分散液であり、長期間に凝集しない分散水溶液が得られたが、当該分散液の発色が青緑色から緑色までの多様性を有している。尚、当該分散液の原料として使用した「微粒子亜酸化銅 FRC-05」の特定粒子径以下・以上の粒子量のパーセンテージを示す積分分布10%径であるD10は、0.47μm、50%径であるD50は0.75μm、90%径であるD90は1.57μmとなっている。また、上記の工程〔S2〕の有機酸としてアスコルビン酸やリンゴ酸を用いても構わないので、クエン酸にこだわるものではない。
【0012】
(本願発明の分散液が凝集しない理由の推定)
本コロイド溶液が凝集・造粒して沈殿を生じないメカニズムの推定として、コロイド粒子の主な組成と考えられる亜酸化銅CuO、塩化第一銅CuCl、クエン酸銅Cu(Cを含有しているものと考えられる。
そして、これらの混在した微粒子を形成するのは、成分のクエン酸第銅の構造に起因するものと思われる。このように形成されたコロイド微粒子に存在するクエン酸銅の1分子中に配位するCu2+が2個、更にクエン酸が持つ3個のヒドロキシル基からHが脱離したC=Oが他の粒子のそれらと電荷で相互に反発し合うためであると考えられる。
以上のことから、本願発明の亜酸化銅分散液は、クエン酸第二銅をコロイドの主成分とする水系分散液であり、あるいは、CuO、CuCl、Cu(Cなどの銅化合物が混在したコロイド粒子を主成分とした銅含有分散水溶液であるとも考えている。
【実施例1】
【0013】
亜酸化銅分散液(1)を5倍に希釈した水溶液の粒度分布を測定した結果が図2であり、その自己相関関数を図3に示している。また、図10の右側は分散工程実施前の亜酸化銅懸濁溶液(スラリー溶液)であり、左側は当該亜酸化銅分散液のサンプルを示した代用写真であり、右側の水溶液は混濁しているが、左側の分散液は有色透明な水溶液となっている。当該亜酸化銅分散液(1)は、Cu2+と、かすかに存在するかもしれないCuなどのCuイオンと、CuOやCuOやCuClやCu(CなどのCu化合物が混在した状態であり、100Wの超音波を2分間照射して分散させた後、動的光散乱法で測定した。平均粒子径はキュムラント法によって算出した結果を表1に示している。当該測定は、某社に委託し、測定機器は、スペクトリス(株)製の「ゼータサイザーPro」を使用した。
【0014】
【表1】
【0015】
上記の表1から、平均粒子径は65.19nmであり、自己相関関数は0.4041となっている。第1ピークの平均粒子径は22.82nmであり、第2ピークの平均粒子径は207.8nmであり、第3ピークの平均粒子径は5083nmの3つのピークを示す混合分散液であり、緩やかな減衰成分と急激な減衰成分が混じった自己相関関数を示している。
【実施例2】
【0016】
亜酸化銅分散液(1)と異なる日に製造した亜酸化銅分散液(2)を5倍に希釈した水溶液の粒度分布を測定した結果が図4であり、その自己相関関数を図5に示している。
表2の結果から、当該亜酸化銅分散液(2)の平均粒径は43.64nmであり、自己相関関数は0.6191である。また、第1ピークの平均粒子径は22.8nmであり、第2ピークの平均粒子径は211.3nmであり、第3ピークの平均粒子径は4316nmの3つのピークを示す混合分散液であり、やはり緩やかな減衰成分と急激な減衰成分が混じった自己相関関数を示している。
【0017】
【表2】
【実施例3】
【0018】
亜酸銅分散液(1)、(2)と異なる日に製造した亜酸化銅分散液(3)を5倍に希釈した水溶液の粒度分布を測定した結果が図6であり、その自己相関関数を図7に示している。
表3の結果から、当該亜酸化銅分散液(3)の平均粒径は75.91nmであり、自己相関関数は0.4525である。また、第1ピークの平均粒子径は21.23nmであり、第2ピークの平均粒子径は208.1nmであり、第3ピークの平均粒子径は5114nmの3つのピークを示す混合分散液であり、やはり緩やかな減衰成分と急激な減衰成分が混じった自己相関関数を示している。
【0019】
【表3】
【実施例4】
【0020】
亜酸銅分散液(1)、(2)、(3)と異なる日に製造した亜酸化銅分散液(4)を5倍に希釈した水溶液の粒度分布を測定した結果が図8であり、その自己相関関数を図9に示している。
表4の結果から、当該亜酸化銅分散液(3)の平均粒径は34.27nmであり、自己相関関数は0.5966 である。また、第1ピークの平均粒子径は23.5nmであり、第2ピークの平均粒子径は165.6nmであり、第3ピークの平均粒子径は4969nmの3つのピークを示す混合分散液であり、やはり緩やかな減衰成分と急激な減衰成分が混じった自己相関関数を示している。
【0021】
【表4】
【0022】
実施例1~実施例4の結果から、本願発明の亜酸化銅分散液を5倍に希釈した水溶液は、全体の平均粒子径が34nm~75nmであり、3つの粒度分布を有する有色透明な水溶液であることが判明した。また、第1のピークの平均粒径は、21.23~23.5nmの範囲にあり、平均値は.59nmであり、第2のピークの平均粒径は、165.6~211.3nmの範囲にあり、平均値は198.2nmであり、第3のピークの平均粒径は、4316~5114nmの範囲にあり、平均値は4879.5nmであることを特徴とした分散液である。このように、3つの粒度ピークを有することを特徴とする本願発明の亜酸化銅分散液は、使用する有機酸や無機酸の組み合わせで、粒度ピークが1つになる場合もあり、2つになる場合がある。
【0023】
製造から半年以上経過した出願当時においても、何れの亜酸化銅分散液は、凝集・沈殿物が観察されないことから、界面活性剤を助剤として用いなくても分散効果が維持されていることも判明した。
尚、実施例1~4の亜酸化銅分散液の製造日は異なるが、凝集沈降しないため、粒度解析は同じ日に行なった。
【0024】
(抗菌試験)
黄色ブドウ球菌を使って抗菌活性試験を「JIS Z 2801:2010 5」に準用して実施例1で作成した亜酸化銅分散液(1)を使用して行なった。実施例1の亜酸化銅分散液(1)の濃度を100とした場合、試料Aは1/100に希釈した水溶液を5cm角の試験片Aに塗布して乾燥させた表面に0.4mLの黄色ブドウ球菌を接種して4cm角のフィルムで被覆し、温度35±1℃、相対湿度90%以上で24時間培養した後の生菌数(個/cm)を測定した。同様に、試料Bは、亜酸化銅分散液を1/50に希釈した水溶液を5cm角の試験片Bに塗布して乾燥させて試験を行ない、試料Cは、亜酸化銅分散液を1/20に希釈した水溶液を5cm角の試験片Cに塗布して乾燥させて試験を行った。比較対象として、無加工試験片としてポリエチレンフィルムを使用した。結果として、表5で示す様に、試料Aでは、24時間後の生菌数が0.11なので、抗菌活性値は4.6となり、試料Bおよび試料Cでは生菌数が-0.2以下なので、抗菌活性値は4.9以上という数値を示し、抗菌性能基準が2.0以上とされていることから、当該試験において、試料A~Cはいずれも高い抗菌性能を有している。尚、抗菌活性値は、次式(数1)で算出した。
【0025】
【数1】
【0026】
【表5】
【0027】
(被膜強度)
実施例1の亜酸化銅分散液(1)を塗装基板に対し、適切な水性無機バインダー(例として、日産化学製コロイダルシリカXS等)を選定し適量を配合して塗布すれば、形成される乾燥塗膜は優れた密着性を有し、鉛筆硬度試験(JIS K5400)に準じて手書き法で測定したところ、鉛筆強度で7H~8H以上を有する強靱な膜となるため、耐久性に優れている。
【0028】
(抗ウィルス試験)
本願発明の亜酸化銅分散液のウィルスの不活化効果試験を某衛生研究所に委託して行なった。供試微生物は、人の唾液からvero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来株化細胞)を用いて培養した人由来分離株で、分離培養後、リアルタイムPCR検査を用いてSARS-CoV-2遺伝子の増幅を確認(厚生労働省通知法)したウィルス株を用いた。段落0011に記載の本願発明の亜酸化銅分散液の濃度を100とした場合、ウィルス不活化試験に用いた亜酸化銅分散液は25倍に希釈した水溶液を使用して、試験資材(1)~(4)としてそれぞれ10mL使用した。再現性の確認のため、製造日が異なる4つの亜酸化銅分散液(1)~(4)を用意して、同じ日に当該試験を行なうこととした。その試験結果を表6に示している。
比較対照として、リン酸緩衝液10mL使用して対照区とした。試験区1~4および対照区の水溶液から各1mLを分取して、10TCID50/mL以上の濃度のウィルス液を添加して、室温(25℃)で10時間静置した。
【0029】
【表6】
【0030】
10時間経過後の試験区のウィルス混合液をさらにそれぞれ10倍希釈し、96ウェルプレートに培養した細胞に各100μL接種して、室温37℃、CO濃度5%で5日間培養した。培養細胞を顕微鏡観察し、培養細胞に現れる細胞変異効果( Cytopathic effect: CPE)をもって、ウィルスの増殖を確認し、数2で示す計算式に基づいて、その濃度を算出したものを表6に示している。
【0031】
【数2】
【0032】
表6の結果から、リン酸緩衝液を使った対照区では試験開始から10時間の経過までに、107.3から106.5TCID50/mLへウィルス量が自然減退しているが、その原因はつかめていない。一方、亜酸化銅分散液を用いた試験区1、3および4でのウィルス濃度は、検出限界濃度である102.5TCID50/mLとなり、99.99%以上の減少率が確認され、試験区2でもウィルス濃度は103.3TCID50/mLとなり99.93%の減少率が確認され、対照区の自然減少以上の効果があることが分かった。そこで、表6の結果をグラフとして示した図11からも、当該ウィルス不活化試験の減少していることが判明した。当該不活化試験の結果として、本願発明の亜酸化銅分散液は、高い抗ウィルス性組成物であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明の亜酸化銅分散液は、沈殿物のない有色透明なコロイド分散溶液であって、適切な無機バインダーを配合すれば、優れた密着性を有し、ガラス等の硬い塗装基板に塗布してできた塗装薄膜の硬度は、鉛筆硬度7H以上であることから、抗菌・抗ウイルス性能を必要とする用途として、医療現場や介護施設の施設内の装材として利用することができる。また、常温で半年以上の長期間に亘って、凝集沈殿が観察されない分散液であることから、保管が容易であり、高い抗菌性と高い抗ウイルス不活化性能を有する塗装材として利用することが可能である。本願発明の亜酸化銅分散液の色は緑色や青色などの有色透明な分散液であるが、一般社団法人日本銅センターHPの「安全な銅」によれば、緑青すなわち青水が安全であることは昭和59年8月には、厚生省(現 厚生労働省)が緑青猛毒説を間違いであることを認めていたとの記載からも安全である。
【要約】
【課題】本発明は、亜酸化銅を原料として得られる沈殿物の無い透明なコロイド分散液であって、抗菌・抗ウィルス性組成物およびその製造方法である。
【解決手段】亜酸化銅を分散させた亜酸化銅懸濁溶液(スラリー溶液)に有機酸を加え加熱して溶解し、更に塩酸を加えて清澄化した溶液に、クエン酸3ナトリウムを用いてpH調整して得られた平均粒子径が10~100nmの沈殿物の無い水溶液であって、CuイオンやCuO・CuO・CuCl・CuClなどの銅化合物が混在する有色透明な分散液であり、長期間に亘って凝集沈殿せず、適切な無機バインダーを選定して配合すれば、優れた密着性のある、高い抗菌・抗ウィルス及び防藻性の水系組成物を提供することである。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11