(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】靴下
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20230124BHJP
A41D 13/06 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
A41B11/00 D
A41D13/06
(21)【出願番号】P 2018206213
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】517250790
【氏名又は名称】株式会社からだクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【氏名又は名称】泉谷 透
(72)【発明者】
【氏名】森村 良和
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-165432(JP,A)
【文献】特開2006-348406(JP,A)
【文献】特開2018-178323(JP,A)
【文献】特開2013-230316(JP,A)
【文献】特開2005-312512(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0230131(US,A1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0486583(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00
A41D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足裏部の内面または外面のいずれかにおいて、
足趾の第3~第5趾の中足趾節間関節の部位にのみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第1の帯状刺戟体と、第2趾と第3趾の中足趾節間関節の間の趾股部から第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球にかけての
中足趾節間関節下の部位に
のみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第2の帯状刺戟体とを設けたことを特徴とする、靴下。
【請求項2】
足裏部の内面または外面のいずれかにおいて、
足趾の第1及び第2趾の中足趾節間関節の部位に
のみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第3の帯状刺戟体と、第2趾と第3趾の中足趾節間関節の間の趾股部から第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球にかけての
中足趾節間関節下の部位に
のみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第2の帯状刺戟体とを設けたことを特徴とする、靴下。
【請求項3】
前記靴下の足裏部の内面または外面のいずれかには、さらに、足裏の踵骨の前方の部位に当接する略ハの字型
に分離した一対の薄い帯状の弾性体からなる第4の帯状刺戟体を設けたことを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴下に関する。詳しくは、足裏の特定部位への刺戟により足の特定の筋肉に無意識の体性反射を惹起させることで足裏のアーチ構造を適正化し、偏平足や浮き指、足底筋膜炎、踵骨滑液包炎等の足の症状の改善・防止を図るとともに、身体の運動能力の向上に有効な靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
人間が二足歩行をするために、本来、足裏はアーチ構造の土踏まずを形成している。具体的には、
図1に示すように、足の第1趾(親指)の付け根から踵骨の内側にかけての内側縦方向のアーチA1、第5趾(小指)の付け根から踵骨の外側にかけての外側縦方向のアーチA2、第1趾から第5趾までのMP関節(中足趾節関節)に沿った横方向のアーチA3の、3つのアーチ構造がみられ、「土踏まず」を形成するとともに、それぞれが前後方向、左右方向、水平回転の姿勢制御を容易にする機能を果たしている。また、各アーチ構造はバネのように作用することで、足にかかる衝撃を吸収して緩和している。かかるアーチ構造は、直立二足歩行をすることで次第に形成されるため、生まれたばかりの乳児には備わっていない。なお、直立二足歩行は人間以外の動物にもみられるが、土踏まずが形成されるのは人間だけである。
【0003】
しかし、近年では、いわゆる偏平足、あるいは起立時に足の指先が地面に付かない「浮き指」の状態の人が増加している。偏平足や浮き指は、足裏のアーチ構造が十分に機能していない状態であり、地面をつかむように足指を使って歩行できないため、歩行時の身体の姿勢が不安定で、運動能力も十分に発揮できない。また、足裏のアーチ構造が不完全であると、衝撃を十分に吸収しきれず、足裏の筋肉や関節が損傷を受けて炎症を起こしやすくなり、足底筋膜炎、種子骨障害、外脛骨障害、踵骨々端症、踵骨滑液包炎等、足の各種の疾患の原因となる。かかる問題への対応として、従来から足裏のアーチ構造の適正化を図ることを狙いとした様々な矯正器具、あるいは、矯正機能を有する靴やインソール、靴下等の先行技術が提案されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、足に装着した際に、足部の立方骨端部の楔立方関節部近傍から第2中足骨と第3中足骨の間のMP関節の基節骨近傍までの部位に当接し、当該部位を盛り上げてアーチ状に保持する隆起部と、MP関節部に対してはMP関節が嵌合する凹部とからなる足裏接触アーチ形成部を設けた靴下が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、足の母指内転筋の斜頭から長腓骨筋に沿って配置される第1サポート部と、この第1サポート部と連続して形成され前記足の後側部分に係止される第2サポート部とを備え、前記第1サポート部と前記第2サポート部の少なくとも何れか一方が伸縮性を有するフットバランス用ベルト及びフットバランス用靴下が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、足の骨格の所定のアーチ構造を足裏側から甲側に向かって押し出すことにより、前記内側縦アーチを甲側に間接的に押動する間接押出構造を、靴下本体の足裏側に設けた靴下が開示されている。
【文献】特開2009-41141号公開特許公報
【文献】特開2016-165432号公開特許公報
【文献】特開2018-40103号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記先行技術はいずれも、隆起部や押出構造といった構成を用い、直接的または間接的に土踏まずを押し上げたり、伸縮性を有するベルトの弾性により足の骨格を牽引したりして、機械的かつ強制的に足裏のアーチ構造を矯正するものである。そして、このように機械的かつ強制的に足裏の骨格構造を矯正する以上、隆起部や押出構造、ベルトといった構成は、当然に足の特定の筋肉や靭帯、腱に持続的な刺戟や負荷を与えることとなる。
【0008】
一方、人間の骨格筋には、その伸展度合を感知する器官である筋紡錘が存在することが知られている。筋紡錘は横紋筋の内部にあり、普通の横紋筋繊維よりはるかに細い筋繊維(錘内筋繊維)が紡錘形に集まっていて、結合組織の膜で包まれている。内部の筋繊維には細かく枝分れした感覚神経繊維の末端が入り込み、骨格筋の伸長につれて錘内筋繊維が伸びると、この神経末端が興奮してインパルスを発する。
【0009】
そのため、足の特定の筋肉や靭帯、腱に持続的に刺戟や負荷が与えられると、筋紡錘が常時興奮状態となって筋肉が固まった状態となり、無意識にバランスを取ろうとして関連する他の筋肉を緊張させ、結果的に身体の姿勢自体を歪める場合がある。かかる現象としては、たとえば、靴の中に小さな石が入り込んだまま歩行すると、足指に石から持続的に強い刺戟が加わるため、石の刺戟から逃れようと無意識に足指等の筋肉が拘縮する結果、下腿の筋肉も緊張して歩行姿勢が不均整になることが経験上知られている。
【0010】
また、足裏のアーチ構造は、足趾を屈曲させるように筋肉が働くことによって適正に形成されるのであり、足趾とは無関係に無理やり土踏まずを押し上げたり引き上げたりして足裏のアーチ構造を作ろうとすると、むしろ浮き指の状態を招く形になる。従って、先行技術のように機械的な構成によって強制的に足裏のアーチ構造の適正化を図ろうとする手段は、却って身体の姿勢やバランスを歪める弊害を招く可能性があり、生理学的な問題を有するものといえる。
【0011】
本発明は、以上の先行技術の問題点に鑑みて創案されたものであり、機械的・強制的な手段ではなく、人体の皮膚が備える感覚受容器(メカノレセプター)への微細な刺戟により惹起される体性反射による無意識の筋収縮という生理的な作用を通じて、自律的に足裏のアーチ構造の適正化を図り、偏平足や浮き指、それらに伴う足の疾患を改善・防止できる靴下を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載した靴下は、足裏部の内面または外面のいずれかにおいて、足趾の第3~第5趾の中足趾節間関節の部位にのみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第1の帯状刺戟体と、第2趾と第3趾の中足趾節間関節の間の趾股部から第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球にかけての中足趾節間関節下の部位にのみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第2の帯状刺戟体とを設けたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載した靴下は、足裏部の内面または外面のいずれかにおいて、足趾の第1及び第2趾の中足趾節間関節の部位にのみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第3の帯状刺戟体と、第2趾と第3趾の中足趾節間関節の間の趾股部から第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球にかけての中足趾節間関節下の部位にのみ当接する薄い帯状の弾性体からなる第2の帯状刺戟体とを設けたことを特徴とする。すなわち、請求項1に記載の靴下における第1の帯状刺戟体に代えて、第1及び第2趾の中足趾節間関節(MP関節)の部位に当接する第3の帯状刺戟体を設けたものであり、第2の帯状刺戟体は請求項1に記載の靴下と同じである。
【0014】
また、請求項3に記載した靴下は、請求項1または2のいずれかに記載した靴下であって、前記靴下の足裏部の内面または外面のいずれかには、さらに、足裏の踵骨の前方の部位に当接する略ハの字型に分離した一対の薄い帯状の弾性体からなる第4の帯状刺戟体を設けたことを特徴とする。
【0015】
前記帯状刺戟体は、一定の幅を有する薄厚テープ状の弾性体であり、靴下本体の足裏部の生地内面または外面の所定の位置に所定の長さで接着またはプリントすることにより設ける。生地内面に設ける場合は、帯状刺戟体が直接足裏の皮膚に当接して刺戟を与えるので、帯状刺戟体の厚さはごく薄いものでよい。一方、生地外面に設ける場合は、足裏との間に生地を挟む形で間接的に刺戟を与えるので、やや厚みを増加させることが望ましい。帯状刺戟体の素材としては、装着時に足裏の動きにより伸縮する靴下の足裏部に追従する伸縮性と、足裏の皮膚に後述する体性反射を惹起可能な適度な刺戟を与える弾力性を有するものが望ましい。たとえば、シリコン樹脂は、弾力性があって硬度を任意に調整でき、耐水性も有し、テープ状に成型して接着することも溶融状態で生地に直接プリントすることも可能であるため、好適である。
【0016】
ここで体性反射について具体的に説明する。人体には多種の反射が備わっているが、その機能からは、自律神経系を介して内臓筋を収縮させたり腺の分泌を促進したりする内臓反射(自律神経反射)と、骨格筋を収縮させる体性反射とに大別される。体性反射には、関係する筋肉の運動を直接に誘起する深部反射と皮膚表面が反応する表在反射とがあり、膝をハンマーで叩くと無意識に足が上がる膝蓋腱反射は代表的な体性反射の一つである。
【0017】
また、人体は外部からの物理的刺戟を受容器によって感知している。受容器には、皮膚、粘膜、皮下組織に分布する表在性受容器と、筋肉、腱、靭帯、関節、骨膜等に分布する深部受容器とがあるが、触覚・圧覚といった機械的刺戟は、マイスナー小体等の「メカノレセプター」と総称される表在性受容器により感知される。メカノレセプターが微小な触刺戟を感知すると、その部位によって無意識に特定の筋肉を収縮させて運動としての反応を生じる体性反射を誘起することが知られている。
【0018】
なお、体性反射は、上述のとおりメカノレセプターへの微細な刺戟によって惹起され無意識に骨格筋を収縮させる生理作用であり、一般に「ツボ」と呼ばれる経穴への刺戟による特定の臓器や筋肉への作用とはまったく異なるものである。指圧等におけるツボへの刺戟は、身体の深部の経絡に及ぶ強さが必要とされるため、足踏み健康器具や足ツボ刺戟効果のあるサンダルやインソールなどに設けられた刺戟を与える突起等はある程度の高さを有する。しかし、これらの突起等が与える大きな刺戟は、皮膚のメカノレセプターではなく筋肉や骨格への直接的な刺戟となるため、体性反射は惹起されない。同様に、前述の先行技術による機械的・強制的な手段による作用によっても、やはり体性反射は惹起されない。
【0019】
一方、本発明に係る帯状刺戟体は、皮膚のメカノレセプターにごく微細な刺戟を与えるものであり、いわゆるツボを刺激するものではないが、メカノレセプターには存在が検知されて体性反射を惹起する。帯状刺戟体は、靴下の足裏部の生地の内面(足裏の皮膚に触れる側の面)に設けてもよいし、外面(床や履物に触れる面)に設けてもよい。足裏の皮膚は、人体でも特にメカノレセプターが集中した敏感な部位であるため、素材をシリコン樹脂とした場合に、帯状刺戟体の厚さ(生地からの突出高さ)は、1mm以下が望ましく、足裏部の内面に設ける場合は厚さ0.3~0.5mmが好適である。一方、足裏部の外面に設ける場合は厚さ0.5~1.0mmが好適である。また、帯状刺戟体の幅は、広過ぎた場合は突起物として足裏の皮膚のメカノレセプターに認識されにくくなるため、5mm以下が望ましく、3mm程度が好適である。なお、帯状刺戟体の長さについては、後述のとおり体性反射を惹起させるべき部位に対応して適宜決定される。
【0020】
本発明に係る靴下を着装した場合、帯状刺戟体は前述のように極めて厚みが薄いものであるため、着装者はその存在をほとんど意識しない。しかし、帯状刺戟体が足裏の特定のメカノレセプターの集中部位の皮膚に当接すると体性反射が惹起され、特定の足指の屈筋群を無意識に収縮させて足指を屈曲させる。そのため、後述の通り適切な部位に帯状刺戟体を設けることで、機械的・強制的な手段によることなく、自律的に足裏のアーチ構造の適正化を図ることが可能となる。
【0021】
ここで、足裏の骨格や筋肉の構造及び帯状刺戟体を設ける部位について説明する。
図2は、右足の足裏側から見た足の骨格構造の略図である。足の骨格は大きく趾骨群、中足骨群、足根骨群から構成されている。メカノレセプターは足裏全面に分布するが、特に、趾骨群と中足骨群が接続する中足趾節関節(MP関節)と、踵骨の前端部のショパール関節の周辺に集中している。MP関節は、趾骨の基節骨と中足骨が接続する各足趾の屈曲運動の基点となる関節であるが、足の指股よりも後方に位置する。また、MP関節の位置の足裏は、拇趾の付け根の母指球から小趾の付け根の小指球にかけて肉厚の内側足根小球を形成している。立位においてはこの内側足根小球が踵(踵骨の直下の部位)とともに体重の大部分を支えており、歩行時には内側足根小球が各足趾先の腹部と連携して地面を後方に蹴り出すため、足の運動において最も重要かつ負荷の掛かる部位である。
【0022】
また、
図1に示すように、中足骨の前端から踵骨の前端にかけて足底筋膜(腱膜)という厚い膜状の筋肉が張られており、この足底筋膜が前述の足裏のアーチ構造A1、A2を保持するとともに、足への衝撃や歩行時のバランス保持を主に担っている。そして、近年では、足を酷使したり大きな衝撃や負荷を受けることで足底筋膜に損傷や炎症を生じる足底筋膜炎が問題となっている。また、現代人には、足の指の力が弱い、ふくらはぎの筋肉の柔軟性が低下している、猫背による骨盤後傾で歩行時に踵が地面から離れるのが遅いといった傾向がみられる。これらは足裏のアーチ構造が十分に機能していない状態であり、偏平足や浮き指の原因となっている。その結果、足底筋膜が過度に伸長状態に置かれて負荷が掛かるため、足底筋膜炎を発症し易くなる。さらに、足裏のアーチ構造が不十分であると、足への衝撃がうまく吸収できないだけでなく、体重移動の際の身体のバランス保持や地面の蹴り出しにも不利となるため、スポーツ等の運動のパフォーマンスも低下することになる。
【0023】
図3~6は、足裏の適正なアーチ構造の保持に関与する主な筋肉の配置と、それらの筋肉を支配する神経の概略の支配域を示す略図である。図中の筋肉は起始・停止の位置を線で結んで示しており、各筋肉の具体的な形状を示すものではない。神経の支配域についても同様である。そして、
図7は、個々の筋肉の起始・停止の位置と働き、及び支配神経等の概要を整理した表である。
【0024】
ここでまず、本発明の請求項1に記載した靴下の構成のうち、第3~第5趾のMP関節の部位に当接する第1の帯状刺戟体の作用について説明する。靴下の着装者の足裏の内側足根小球の前側のMP関節下の皮膚に第1の帯状刺戟体が微弱な刺戟を与えることにより、外側足底神経N1に体性反射が惹起され、
図3、4に示すように、その支配下にある小趾外転筋M1、短小趾屈筋M2、小趾対立筋M3、及び短趾屈筋M4、長趾屈筋M5が無意識に収縮する。このため、足裏は小趾側の優位として屈曲(底屈)し、外側縦方向のアーチ構造A2が適正な形状に保持される。また、
図4に示すように、虫様筋M6は、長趾屈筋M5の腱を起点とし第2~第5趾のMP関節を終点とするため、惹起された体性反射はこれら長趾屈筋M5とともにこれら4趾を屈曲させるとともに、足底筋膜自体を収縮させてアーチ構造A2を適正な形状に保持させる。さらに、小趾外転筋M1、短趾屈筋M4は、脛骨神経N3の支配域にある踵骨を起点としているため、これらの筋肉の収縮は、
図6に示すように脛骨神経N3の支配下にあるふくらはぎの後脛骨筋M7、ヒラメ筋M8を収縮させる上行筋肉連鎖を生じさせる。このため、やはり足裏の屈曲(底屈)が促されるとともに、踵を内旋(つま先を外旋)させるように作用する。これにより、歩行時には、踵が正中線下の一本線の上を踏んで、骨盤を交互に転回させながら歩く、いわゆる「一軸歩行」を促す効果も奏する。一軸歩行はストライドを大きく取れ、効率的に推進力を得られるため、ウォーキングやランニングといった直線歩行(走行)に適しているほか、つま先が外旋することで足指と履物の接触が軽減されるため、外反母趾や内反小趾の症状を軽減できる。なお、本発明における足指の「屈曲」とは、実際に足指を大きく屈曲させた状態ではなく、足指を屈曲させる方向に屈筋を収縮するように働いている状態をいう。
【0025】
次に、第2の帯状刺戟体の作用につて説明する。第2の帯状刺戟体は、第2趾と第3趾の中足趾節間関節の間の趾股部から第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球にかけてのMP関節下の部位に当接する。第2の帯状刺戟体は、前記虫様筋M6のう特に内側足底神経N2に支配される第2趾と第3趾に係る筋肉に当接して刺戟を与えるため、この二趾を特に強く屈曲させる体性反射が生じることにより、第4趾、第5趾が引き寄せられるよう作用し、足裏の横方向のアーチ構造A3が適正に保持される。この際、小趾を外転させる唯一の筋肉である小趾外転筋M1、および、短小趾屈筋M2、小趾対立筋M3の収縮も、このアーチ構造A3を保持する作用を促進する。
【0026】
請求項2に記載した靴下は、第1の帯状刺戟体の代わりに、足趾の第1趾、第2趾のMP関節の部位に当接する第3の帯状刺戟体を設けている。
図5に示すように、当該部位には、内側足底神経N2の支配下の短拇趾屈筋M9、拇指外転筋M10の停止点が集中しており、両筋肉は拇趾のMP関節を屈曲させる屈筋である。第3の帯状刺戟体によるこの部位への刺戟で惹起された体性反射により、両筋肉が自律的に収縮し、縦方向内側のアーチ構造A1が適正に保持される。また、拇指内転筋M11は、足根骨のリスフラン間接付近から起始して拇指の基節骨底に停止して同じくアーチ構造A1の保持を担うだけでなく、第3~5趾の各MP関節からも起始しており、拇指を小趾側に近づける内転動作に関与するため、横向きのアーチ構造A3を保持する作用も促進する。また、第3の帯状刺戟体の刺戟による体性反射は、短拇趾屈筋M9、拇指外転筋M10、拇指内転筋M11という足の内側の屈筋群を優先的に収縮させるため、踵を外旋(つま先を内旋)させるように作用する。これにより、歩行時には、逆に骨盤を転回させることなく足を直線的に運ぶ、いわゆる「二軸歩行」を促す効果も奏する。二軸歩行は、左右方向からの外力への対抗力が大きく全身の力をバランスよく発揮できるため、各種の作業や格闘技のようなスポーツに適した歩行方法といえる。
【0027】
請求項3に記載した靴下は、請求項1、2のいずれかに記載の靴下の足裏部の内面に、さらに足裏の踵骨の前方の部位に当接する略ハの字型の一対の第4の帯状刺戟体を設けたものである。
図3に示したように、足趾の第2~5趾を屈曲させる短趾屈筋M4は踵骨の前方のショパール関節付近の踵骨隆起下面及び足底筋膜で起始している。そのため、この部位で惹起された体性反射は、第2~5趾すべてと足底筋膜を屈曲させるように作用し、第1、第2の帯状刺戟体によるアーチ構造A1、A2の適正化の効果をより促進する。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る靴下は、以下のような効果を奏する。
(1)着装するだけで無意識のうちに足裏のアーチ構造を適正に保持するように促すことで、足への衝撃の吸収という土踏まずの本来の機能を十分に発揮させる。これにより、偏平足や浮き指、足底筋膜炎等の足の疾患の防止・改善の効果を奏する。
(2)従来技術のように、外部からの機械的・強制的な作用で足裏を適正なアーチ構造に矯正するのではなく、人体に備わる体性反射を利用して自律的にアーチ構造の適正化を図るため、身体の姿勢や筋肉・骨格への負荷が少ない。
(3)帯状刺戟体の配設箇所を一部変更することにより、靴下を装着して歩行する際の踵の外旋・内旋(つま先の内旋・外旋)の作用を選択できるため、身体活動の目的に応じて適切な歩行姿勢を促す効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図8は本発明の第1実施形態に係る靴下S1の左足側の足裏部を下方から見た図である。図中の各帯状刺戟体1、2、4は、靴下の足裏部の生地の内面側に設置されているものとする。また、
図9は靴下S1を着装した場合に、各帯状刺戟体1、2、4が体性反射により足の特定の筋肉を収縮させる作用の方向や大きさを図示したものである。なお、靴下S1の足裏部以外の部分は一般的な靴下と同様であってよく、ボディ部と呼ばれる足首から上の筒状部分の長さや、口ゴム部の構造、足裏部を除くフット部、つま先側の先縫い部、踵のゴアライン等の構成は任意である。
【0030】
図8に示すように、靴下S1は、足裏部の生地の内面(すなわち足裏に触れる面)の第3~5趾のMP関節の部位に第1の帯状刺戟体1を、また、第2趾と第3趾のMP関節の間の趾股部から第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球を縦断する形で当接する第2の帯状刺戟体2を、さらに、足裏の踵骨の前方の部位に当接する略ハの字型の一対の第4の帯状刺戟体をそれぞれ設けている。各帯状刺戟体1、3、4は、シリコン樹脂を生地に直接プリント接着して構成したものであり、幅約3mm、厚さ約0.5mmとし、長さは靴下S1のサイズに応じて適宜設定する。
【0031】
着装者が靴下S1を履いて歩行すると、各帯状刺戟体1、3、4が足裏の所定の部位に当接する。帯状刺戟体は極めて厚みが薄いものであるため、着装者はその存在をほとんど意識せずに歩行するが、当該部位の皮膚に存在するメカノレセプターに微弱な刺戟を与えることで体性反射が惹起され、以下のように特定の筋肉を収縮させる作用を生じる。
【0032】
第1の帯状刺戟体1は、内側足根小球の第3趾~第5趾のMP関節下の皮膚を刺戟し、外側足底神経N1の支配下にある小趾外転筋M1、短小趾屈筋M2、小趾対立筋M3、及び短趾屈筋M4を無意識に収縮させる体性反射を生じる。これにより、第3趾、第4趾、第5趾をそれぞれ
図9中のm3~m5の方向に屈曲させる作用が働く。
【0033】
一方、第2の帯状刺戟体2は、第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球の皮膚を刺戟し、両側の第2趾、第3趾に係る虫様筋M6を無意識に収縮させる体性反射を生じる。前述のように、第3~第4趾には前後方向に屈曲する作用が働いているため、虫様筋M6の収縮は第2の帯状刺戟体2に向けて第2趾と第3趾を互いに引き寄せるように作用する。
【0034】
さらに、略ハの字型の一対の第4の帯状刺戟体4は、踵骨前方のショパール関節下の皮膚を刺戟して、この部位で起始する短趾屈筋M4を収縮させる体性反射を生じるため、第2~第5趾にm2~m5の方向に屈曲させるとともに、足底筋膜自体を収縮させて踵骨をm7の方向に引き寄せるように作用する。
【0035】
足の外側(第5趾側)では、第3~第5趾を屈曲させる作用m3~m5と踵骨をm7の方向に引き寄せる作用とにより前後方向からいずれも比較的強い引き寄せ効果が生じ、縦方向のアーチ構造A2の形成を促す。また、第2趾、第3趾に係る虫様筋M6の収縮により第2趾と第3趾を互いに引き寄せる作用は、横方向のアーチ構造A3の形成を促す。一方、足の内側(第1趾側)では、第1趾を屈曲させる体性反射は弱く、第4の帯状刺戟体4による短趾屈筋M4や足底筋膜の収縮による踵骨をm7に引き寄せる作用のみが働くため、アーチ構造A1を適正に形づくる効果は生じるものの、前後方向の引き寄せ効果は比較的弱くなる。また、第1の帯状刺戟体1の刺戟による体性反射で小趾外転筋M1が収縮し、小趾の外転が促される。その結果、足の外側の引き寄せ効果が優位となり、足全体としては踵を内旋(つま先を外旋)させる効果を生じる。
【0036】
(第2実施形態)
図10は本発明の第2実施形態に係る靴下S2の左足側の足裏部を下方から見た図である。また、
図11は靴下S2を着装した場合に、各帯状刺戟体1、3、4が体性反射により足の特定の筋肉を収縮させる作用の方向や大きさを図示したものである。
図10に示すように、靴下S2は、第1の帯状刺戟体1の代わりに、第1趾、第2趾のMP関節の部位に当接する第3の帯状刺戟体3を設けているほかは、第1実施形態に係る靴下S1と同じ構成である。
【0037】
第3の帯状刺戟体3は、内側足根小球の第1趾と第2趾のMP関節下の皮膚を刺戟して内側足底神経N2に体性反射を惹起し、支配下の短拇趾屈筋M9、拇指外転筋M10を無意識に収縮させる。これにより、第1趾、第2趾をそれぞれ
図11中のm1、m2の方向に屈曲させる作用が働く。また、靴下S2は、靴下S1と同様に略ハの字型の第4の帯状刺戟体を有するため、短趾屈筋M4の収縮によってm1、m2の作用が増加され、さらに足底筋膜自体の収縮によって踵骨をm7の方向に引き寄せる作用も加わる。そのため、足の内側(第1趾側)では、前後方向からいずれも比較的強い引き寄せ効果が生じ、縦方向のアーチ構造A1の形成が促される。
【0038】
一方、足の外側(第5趾側)では、第3~5趾を屈曲させる体性反射は弱く、第4の帯状刺戟体4による短趾屈筋M4や足底筋膜の収縮による踵骨をm7に引き寄せる作用のみが働くため、アーチ構造A2を適正に形づくる効果は生じるものの、前後方向の引き寄せ効果は比較的弱くなる。その結果、足の内側の引き寄せ効果が優位となり、足全体としては踵を外旋(つま先を内旋)させる効果を生じる。
【0039】
なお、第2の帯状刺戟体2が、第2及び第3中足骨の間に沿って内側足根小球の皮膚を刺戟して両側の第2趾、第3趾に係る虫様筋M6を無意識に収縮させる体性反射を生じ、横方向のアーチ構造A3の形成を促す点は、靴下S1と同様である。
【0040】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明したが、本発明は、必ずしも上述した構成にのみ限定されるものではなく、本発明の目的を達成し、効果を有する範囲内において、適宜変更実施することが可能なものであり、本発明の技術的思想の範囲内に属する限り、それらは本発明の技術的範囲に属する。
【0041】
たとえば、足裏部内面に第1~第4の帯状刺戟体のすべてを設けた靴下も実施可能であり、その場合、足裏のアーチ構造A1、A2の両方の形成を促す効果を奏するが、踵の内旋・外旋に関しては中立となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る靴下は、靴下本体自体に特段の構造を設けることなく、足裏生地内面に帯状刺戟体を追加するだけで構成できる。通常通りに履いて日常生活を送るだけで、無意識のうちに足裏のアーチ構造の適正化が図られる。これにより、土踏まずの本来の機能が発揮され、偏平足や浮き指、足底筋膜炎等の疾患の改善・予防の効果が期待できる。また、機械的な構成によって強制的に足裏のアーチ構造の適正化を図るものではないため、身体のバランスや姿勢への悪影響といった弊害もない。
【0043】
また、第1、第2の帯状刺戟体を選択的に設けることで、起立時や歩行時における踵の内旋・外旋の傾向を誘導可能であるため、行おうとする身体活動やスポーツの特性に応じた靴下を選択して着装することにより、身体のパフォーマンス発揮の最適化も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図3】足裏のアーチ構造に関与する筋肉の配置図(その1)
【
図4】足裏のアーチ構造に関与する筋肉の配置図(その2)
【
図5】足裏のアーチ構造に関与する筋肉の配置図(その3)
【
図6】足裏のアーチ構造に関与する筋肉の配置図(その4)
【
図11】第2実施形態に係る靴下S2の作用を示す図
【符号の説明】
【0045】
S1 靴下(第1実施形態)
S2 靴下(第2実施形態)
1 第1の帯状刺戟体
2 第2の帯状刺戟体
3 第3の帯状刺戟体
4a 第4の帯状刺戟体(内側)
4a 第4の帯状刺戟体(外側)
m1~m7 筋収縮の方向