(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 59/46 20060101AFI20230124BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20230124BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C08G59/46
C08G59/32
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2018133900
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2017141642
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英喜
(72)【発明者】
【氏名】小西 大典
(72)【発明者】
【氏名】三好 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】平野 啓之
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/199857(WO,A1)
【文献】特開平06-136242(JP,A)
【文献】特開2016-148020(JP,A)
【文献】特開2016-148021(JP,A)
【文献】特開2016-148022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/46
C08G 59/32
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分[A]、[B]、[C]、[D]を含み、下記条件[a]、[b]、[c]、[d]を満たすエポキシ樹脂組成物。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:ジシアンジアミド
[C]:芳香族ウレア
[D]:ホウ酸エステル
[a]:
0.016≦(成分[D]の含有量/成分[C]の含有量)≦0.045
[b]:動的粘弾性測定で、5℃/分の速度にて40℃から250℃まで温度を上げた際の前記エポキシ樹脂組成物が最低粘度を示す温度が、110℃以上140℃以下。
[c]:前記エポキシ樹脂組成物を示差走査熱量分析計により30℃から300℃まで5℃/分の等速条件にて昇温したときの発熱開始温度(T0)および発熱終了温度(T1)の差が、25℃以下。
[d]:0.9≦(成分[A]の活性基モル数/成分[B]の活性水素モル数)≦1.3
【請求項2】
成分[A]100質量部中、次の成分[A1]を55~100質量部含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
[A1]:式(I)で示されるエポキシ樹脂および/または式(II)で示されるエポキシ樹脂
【化1】
(式(I)において、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。)
【化2】
(式(II)において、nは1以上の整数を表す。)
【請求項3】
下記条件[a]が以下のとおりである、請求項1または2にエポキシ樹脂組成物。
[a]:0.021≦(成分[D]の含有量/成分[C]の含有量)≦0.038
【請求項4】
下記条件[e]を満たす、請求項1
~3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[e]:12≦(成分[A]の含有量/成分[C]の含有量)≦26
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグ。
【請求項6】
請求項
5に記載のプリプレグが硬化されてなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用途、航空宇宙用途および一般産業用途に適した繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好ましく用いられるエポキシ樹脂組成物、ならびに、これをマトリックス樹脂としたプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、高い機械特性、耐熱性、接着性を活かし、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維と組合せてなる繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好適に用いられている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造には、強化繊維にエポキシ樹脂を含浸したシート状の中間基材(プリプレグ)が汎用される。プリプレグを積層後、加熱してエポキシ樹脂を硬化する方法で成形品が得られ、プリプレグの積層設計により多彩な特性を発現できるため、航空機やスポーツなど、様々な分野へ応用されている。近年では自動車などの産業用途への適用も進み、量産性を重視したサイクルタイムの短い速硬化プリプレグが注目され、さらに外板用途などでは、意匠外観の改善が求められている。
【0004】
一方で、速硬化プリプレグは使用されているエポキシ樹脂の反応性を高めて硬化時間を短縮したものであるため、保存安定性や作業中の品質変化がしばしば問題となり、より安定性に優れるプリプレグが求められている。
【0005】
特許文献1には、特定の芳香族ウレアを促進剤として使用した、速硬化性と耐熱性に優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物およびプリプレグが開示されている。
【0006】
特許文献2には、硬化速度に優れ、ガラス転位温度が140℃を超えないエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献3には、ジシアンジアミド、芳香族ウレアおよびホウ酸エステルを含む、保存安定性と機械特性に優れたエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-128764号公報
【文献】特表2016-500409号公報
【文献】特開2016-148020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されたエポキシ樹脂組成物は比較的硬化時間が短く室温での作業性も良好であるが、例えば量産車に求められるサイクルタイムや、保存安定性および作業性を満足するには至っていない。
【0010】
特許文献2に開示されたエポキシ樹脂組成物は、速硬化性に優れるが、保存安定性が不十分であった。
【0011】
特許文献3に開示されたエポキシ樹脂組成物は、保存安定性に優れるが、硬化時間は不十分であった。また、繊維強化複合材料の外観に関する言及もなかった。
【0012】
そこで、本発明では、かかる従来技術の欠点を克服し、速硬化と保存安定性が両立し、かつ優れた外観品位を有する成形品を与えるエポキシ樹脂組成物、および該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、ならびに該プリプレグを硬化して得られる、繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成からなるエポキシ樹脂組成物を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の構成からなる。
【0014】
次の成分[A]、[B]、[C]、[D]を含み、下記条件[a]、[b]、[c]、[d]を満たすエポキシ樹脂組成物。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:ジシアンジアミド
[C]:芳香族ウレア
[D]:ホウ酸エステル
[a]:0.005≦(成分[D]の含有量/成分[C]の含有量)≦0.045
[b]:動的粘弾性測定で、5℃/分の速度にて40℃から250℃まで温度を上げた際の前記エポキシ樹脂組成物が最低粘度を示す温度が、110℃以上140℃以下。
[c]:前記エポキシ樹脂組成物を示差走査熱量分析計により30℃から300℃まで5℃/分の等速条件にて昇温したときの発熱開始温度(T0)および発熱終了温度(T1)の差が、25℃以下。
[d]:0.9≦(成分[A]の活性基モル数/成分[B]の活性水素モル数)≦1.3
【0015】
また、本発明のプリプレグは、上記エポキシ樹脂組成物と強化繊維からなる。
【0016】
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、上記プリプレグが硬化されてなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に記載のエポキシ樹脂組成物を用いることで、優れた速硬化性と保存安定性が両立したプリプレグを提供することに加え、外観に優れた繊維強化複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、成分[A]エポキシ樹脂、成分[B]ジシアンジアミド、成分[C]芳香族ウレア化合物、成分[D]ホウ酸エステルを必須成分として含む。まずはこれらの構成要素について説明する。
【0019】
(成分[A])
本発明における成分[A]はエポキシ樹脂である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂、ジグリシジルレゾルシノール、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、これらを単独で用いても、複数種類を組み合わせても良い。
【0020】
本発明における成分[A]としては、成分[A1]:下記式(I)で示されるエポキシ樹脂および/または下記式(II)で示されるエポキシ樹脂を、成分[A]としての全エポキシ樹脂100質量部中55~100質量部含むことが好ましく、これを満たすことで樹脂硬化物の曲げ弾性率を高めることができる。成分[A1]は、一般にフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、またはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂として知られているものであり、2官能以上の多官能エポキシ樹脂の混合物として市販されている
【0021】
【0022】
(式(I)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。)
【0023】
【0024】
(式(II)において、nは1以上の整数を表す)。
【0025】
成分[A1]の市販品としては、“jER(登録商標)”152、154、180S(以上、三菱化学(株)製)、“Epiclon(登録商標)”N-740、N-770、N-775、N-660、N-665、N-680、N-695、HP7200L、HP7200、HP7200H、HP7200HH、HP7200HHH(以上、DIC(株)製)、PY307、EPN1179、EPN1180、ECN9511、ECN1273、ECN1280、ECN1285、ECN1299(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、YDPN-638、YDPN-638P、YDCN-701、YDCN-702、YDCN-703、YDCN-704(以上、東都化成(株)製)、DEN431、DEN438、DEN439(以上、ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0026】
(成分[B])
本発明における成分[B]は、ジシアンジアミドである。ジシアンジアミドは、化学式(H2N)2C=N-CNで表される化合物である。ジシアンジアミドは、樹脂硬化物に高い力学特性や耐熱性を与える点で優れており、エポキシ樹脂の硬化剤として広く用いられる。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY7、DICY15(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0027】
ジシアンジアミド[B]を粉体としてエポキシ樹脂組成物に配合することは、室温での保存安定性や、プリプレグ製造時の粘度安定性の観点から好ましい。また、ジシアンジアミド[B]を予め成分[A]のエポキシ樹脂の一部に三本ロールなどを用いて分散させておくことは、エポキシ樹脂組成物を均一にし、硬化物の物性を向上させるため好ましい。
【0028】
ジシアンジアミドを粉体として樹脂に配合する場合、平均粒径は10μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは7μm以下である。例えば、プリプレグ製造工程において加熱加圧により強化繊維束にエポキシ樹脂組成物を含浸させる際、平均粒径が10μm以下であれば、繊維束内部への樹脂の含浸性が良好となる。なお、ここでいう平均粒径とは、体積平均を意味し、レーザー回折型の粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0029】
ジシアンジアミド[B]は、後述の成分[C]と併用することにより、成分[B]を単独で配合した場合と比較し、樹脂組成物の硬化温度を下げることができる。本発明においては、硬化時間を短縮するために、成分[B]と成分[C]を併用することが必要である。
【0030】
(成分[C])
本発明における成分[C]は、芳香族ウレアである。
【0031】
成分[C]における芳香族ウレアの具体例としては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、フェニルジメチルウレア、トルエンビスジメチルウレアなどが挙げられる。また、芳香族ウレア化合物の市販品としては、DCMU-99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure(登録商標)”24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)、“Dyhard(登録商標)”UR505(4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア、CVC製)などが挙げられる。
【0032】
(成分[D])
本発明における成分[D]は、ホウ酸エステルである。成分[C]と成分[D]とを併用することにより、保管温度における成分[C]とエポキシ樹脂の反応が抑制されるため、プリプレグの保管安定性が著しく向上する。そのメカニズムは定かではないが、成分[D]はルイス酸性を持つため、成分[C]から遊離したアミン化合物と成分[D]が相互作用し、アミン化合物の反応性を低下させているのではないかと考えられる。
【0033】
成分[D]のホウ酸エステルの具体例としては、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリブチルボレート、トリn-オクチルボレート、トリ(トリエチレングリコールメチルエーテル)ホウ酸エステル、トリシクロヘキシルボレート、トリメンチルボレートなどのアルキルホウ酸エステル、トリo-クレジルボレート、トリm-クレジルボレート、トリp-クレジルボレート、トリフェニルボレートなどの芳香族ホウ酸エステル、トリ(1,3-ブタンジオール)ビボレート、トリ(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)ビボレート、トリオクチレングリコールジボレートなどが挙げられる。
【0034】
また、ホウ酸エステルとして、分子内に環状構造を有する環状ホウ酸エステルを用いることもできる。環状ホウ酸エステルとしては、トリス-o-フェニレンビスボレート、ビス-o-フェニレンピロボレート、ビス-2,3-ジメチルエチレンフェニレンピロボレート、ビス-2,2-ジメチルトリメチレンピロボレートなどが挙げられる。
【0035】
かかるホウ酸エステルを含む製品としては、たとえば、“キュアダクト(登録商標)”L-01B(四国化成工業(株))、“キュアダクト(登録商標)”L-07N(四国化成工業(株))(ホウ酸エステル化合物を5質量部含む組成物)、“キュアダクト(登録商標)”L-07E(四国化成工業(株))(ホウ酸エステル化合物を5質量部含む組成物)などが挙げられる。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の条件[a]を満たす。
[a]:0.005≦(成分[D]の含有量/成分[C]の含有量)≦0.045。
【0037】
条件[a]について、エポキシ樹脂組成物の成分[D]の含有量/成分[C]の含有量で示される値が0.005~0.045の範囲内にあると、速硬化性と保存安定性のバランスが優れたプリプレグが得られる。成分[D]の含有量/成分[C]の含有量が0.005未満の場合、保存安定性が不十分なものとなる。成分[D]の含有量/成分[C]の含有量が0.045を超える場合、硬化時間が不十分なものとなる。なお、成分[C]の含有量または成分[D]の含有量とは、成分[A]のエポキシ樹脂100質量部に対する[C]ホウ酸エステルまたは[D]ホウ酸エステルの配合量のことである。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物の保存安定性は、例えば、示差走査熱量分析(DSC)にて、ガラス転移温度の変化を追跡することで評価できる。具体的には、エポキシ樹脂組成物を、恒温恒湿槽などで所定の期間保管し、保管前後のガラス転移温度変化をDSCにより-20℃から150℃まで5℃/分で昇温して測定することで判定できる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化時間は、例えば、ローターレスタイプの加硫/硬化特性試験機(“キュラストメーター(登録商標)”V型)などを用いて評価することができる。具体的には、調製したエポキシ樹脂組成物を150℃に加熱されたダイスにサンプルを入れ、ねじり応力をかけてサンプルの硬化の進行にともなう粘度上昇をダイスに伝わるトルクとし、最大トルクの70%に達する時間を硬化時間として定義することで、評価が可能である。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の条件[b]を満たす。
[b]:動的粘弾性測定で、5℃/分の速度にて40℃から250℃まで温度を上げた際の前記エポキシ樹脂組成物が最低粘度を示す温度が、110℃以上140℃以下。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物が条件[b]を満たす、つまり動的粘弾性測定で、5℃/分の速度にて40℃から250℃まで温度を上げた際の前記エポキシ樹脂組成物が最低粘度を示す温度が、110℃以上140℃以下であると、該エポキシ樹脂を用いた繊維強化複合材料は優れた外観を示す。これは、加熱成形時の樹脂の流動で材料中のボイドは除去されつつ、適切なタイミングでのゲル化により過剰な樹脂の流出が抑えられ、表面の樹脂枯れ(カスレ)も抑止されるためと推測している。最低粘度を示す温度が110℃に満たないと、樹脂の粘度上昇がはやく、ボイドが残存し、外観不良を起こす場合がある。また、最低粘度を示す温度が140℃を超えると、樹脂の硬化開始が遅くなるため、成形中に樹脂が流出して表面にカスレが生じる場合がある。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物が最低粘度を示す温度、つまり条件[b]を満たすか否かは、例えば、動的粘弾性測定(DMA)にて、粘度の変化を追跡することで評価できる。具体的には、上記方法にて調製されたエポキシ樹脂組成物を、レオメーター(回転型動的粘度弾性測定装置)を用いて、5℃/分の速度にて40℃から250℃まで温度を上げた際の前記エポキシ樹脂組成物が最低粘度を示す温度で評価できる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の条件[c]を満たす。
[c]:前記エポキシ樹脂組成物を示差走査熱量分析計(DSC)により30℃から300℃まで5℃/分の等速条件にて昇温したときの発熱開始温度(T0)および発熱終了温度(T1)の差が、25℃以下。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物が条件[c]を満たす、つまりT0とT1の差が25℃以下であると、速硬化性と保存安定性のバランスにより優れるエポキシ樹脂組成物を与える。T0とT1の差は、DSCの発熱ピークの鋭さを表している。発熱ピークが鋭いものは、発熱ピークトップの温度が同じ場合でも、幅広な発熱ピークを示すものよりも、発熱開始温度(T0)が高いことを意味する。加えて、より広い温度領域で安定性に優れる。発熱反応が開始すると速やかに硬化が完了するため、速硬化性は損なわれない。一方で、T0とT1の差が25℃以上であると、速硬化性と保存安定性が両立することができない。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、[a]、[b]および[c]の条件を同時に満たすことで、速硬化性、保存安定性および繊維強化複合材料の外観を高いバランスで具備することが可能となり、個別の組み合わせでは実現できない。すなわち、[a]から[c]のいずれか1つ、あるいは2つの組み合わせでは、速硬化性、保存安定性および該樹脂を用いた繊維強化複合材料の外観を同時に達成することはできない。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の条件[d]を満たすことが好ましい。
[d]:0.9≦(成分[A]の活性基モル数/成分[B]の活性水素モル数)≦1.3。
【0047】
条件[d]について、成分[A]の活性基モル数/成分[B]の活性水素モル数で示される値が0.9~1.3の範囲にある場合、速硬化性と機械特性のバランスが、より優れるエポキシ樹脂組成物を与える。
【0048】
なお、成分[A]の活性基モル数とは、各エポキシ樹脂活性基のモル数の和のことであり、下式で表される。
成分[A]の活性基モル数=(樹脂A質量/樹脂Aのエポキシ当量)+(樹脂B質量/樹脂Bのエポキシ当量)+・・・・+(樹脂W質量/樹脂Wのエポキシ当量)。
【0049】
また、成分[B]の活性水素モル数は、ジシアンジアミド質量をジシアンジアミドの活性水素当量で除することにより求められ、下式で表される。
成分[B]の活性水素モル数=ジシアンジアミド質量/ジシアンジアミド活性水素当量。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の条件[e]を満たすことが好ましい。
[e]:12≦(成分[A]の含有量/成分[C]の含有量)≦26。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂組成物が条件[c]を満たす、つまりエポキシ樹脂組成物の成分[A]の含有量/成分[C]の含有量で示される値が、12~26の範囲にある場合、速硬化性と保存安定性のバランスにより優れるエポキシ樹脂組成物を与える。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を失わない範囲において、粘弾性を調整し、プリプレグのタッグやドレープ特性を改良する目的や、樹脂組成物の機械特性や靭性を高めるなどの目的で、成分[E]として熱可塑性樹脂を含むことができる。熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子、シリカなどの無機粒子、CNTやグラフェンなどのナノ粒子等を選択することができる。
【0053】
エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、ポリスルホンを挙げることができる。
【0054】
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子を挙げることができる。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、例えばニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機といった機械を用いて混練しても良いし、均一な混練が可能であれば、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜても良い。
【0056】
本発明で得られるエポキシ樹脂組成物を用いて繊維強化複合材料を得るにあたり、あらかじめエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグとしておくことが好ましい。プリプレグは繊維の配置および樹脂の割合を精密に制御でき、複合材料の特性を最大限に引き出すことのできる材料形態である。プリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させて得ることができる。含浸させる方法としては、ホットメルト法(ドライ法)などを挙げることができる。ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、または離型紙などの上にエポキシ樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。
【0057】
積層したプリプレグを成形する方法としては、例えばプレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などを適宜使用することができる。
【0058】
次に、繊維強化複合材料について説明する。本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグを硬化させてなるものである。より具体的には、本発明のエポキシ樹脂組成物からなるプリプレグを積層した後、加熱し硬化させることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の樹脂硬化物をマトリックス樹脂として含む繊維強化複合材料を得ることができる。
【0059】
本発明に用いられる強化繊維は特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが使用できる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られる観点から、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0060】
本発明のエポキシ樹脂組成物の樹脂硬化物と、強化繊維を含む繊維強化複合材料は、スポーツ用途、航空宇宙用途および一般産業用途に好ましく用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット、ホッケーなどのスティック、およびスキーポールなどに好ましく用いられる。また、航空宇宙用途では、主翼、尾翼およびフロアビーム等の航空機一次構造材用途、および内装材等の二次構造材用途に好ましく用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、自転車、船舶および鉄道車両などの構造材に好ましく用いられる。なかでも、本発明のエポキシ樹脂組成物と炭素繊維からなるプリプレグは、保存安定性に優れ、冷凍の必要なく長期保存が可能で、同時に速硬化性にも優れることから、ハイサイクルを必要とする自動車部材に適している。また、本発明のエポキシ樹脂組成物からなるプリプレグは、加熱加圧して硬化させる成形方法、すなわち、プレス成形に好適に用いられる。あらかじめ加熱した金型に、前記プリプレグの積層体を配置し加圧することにより、さらに短時間で繊維強化複合材料を得ることができる。加えて、速硬化性と高い流動性を併せ持つという特徴を生かし、プレス成形でしばしば問題となる繊維の配向乱れと表面の樹脂枯れ(カスレ)を抑制することができるため、成形品の力学特性や意匠性を向上させることができる。なお、本発明において、加熱加圧に用いる金型の形状、および、加圧機構については、特に制限はない。3次元加工が可能な凹凸形状を有していてもよいし、平板状の熱板のみで構成されていてもよい。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0062】
本実施例で用いる構成要素は以下の通りである。
【0063】
<使用した材料>
・成分[A1]
[A1]-1 “jER(登録商標)”154(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、平均官能基数:3.0個/分子、三菱化学(株)製)、
[A1]-2 “Epiclon(登録商標)”N-740(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、平均官能基数:3.7個/分子、DIC(株)製)、
[A1]-3 “Epiclon(登録商標)”N-770(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、平均官能基数:6.0個/分子、DIC(株)製)、
[A1]-4 “Epiclon(登録商標)”HP-7200H(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、平均官能基数:3.0個/分子、DIC(株)製)、
[A1]-5 “Epotec(登録商標)”YDPN-638(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、平均官能基数:3.6個/分子、東都化成(株)製)。
・成分[A]:エポキシ樹脂
[A]-1 “jER(登録商標)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)、
[A]-2 “jER(登録商標)”1007FS(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)、
[A]-3 “jER(登録商標)”1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)、
[A]-4 “Epotec(登録商標)”YD136(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、KUKDO社製)、
[A]-5 “Epon(登録商標)”2005(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、Resolution Performance Products社製)、
[A]-6 “Epiclon(登録商標)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、DIC(株)製)、
[A]-7 “エポトート(登録商標)”YDF-2001(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、東都化成(株)製)、
[A]-8 “jER(登録商標)”4010P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)、
[A]-9 “スミエポキシ(登録商標)”ELM434(ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、住友化学工業(株)製)。
【0064】
・成分[B]:ジシアンジアミド
[B]-1 DICY7(ジシアンジアミド、三菱化学(株)製)。
【0065】
・成分[C]:芳香族ウレア
[C]-1 “Omicure(登録商標)”24(4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア、ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)、
[C]-2 DCMU99(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、保土ヶ谷化学工業(株)製)、
[C]-3 “Dyhard(登録商標)”UR505(4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア、CVC製)。
【0066】
・成分[D]:ホウ酸エステル
[D]-1 “キュアダクト(登録商標)”L-07E(ホウ酸エステル化合物を5質量部含む組成物、四国化成工業(株)製)。
【0067】
・成分[E]:熱可塑性樹脂
[E]-1 “ビニレック(登録商標)”K(ポリビニルホルマール、JNC(株)製)、
[E]-2 “スミカエクセル(登録商標)”PES3600P(ポリエーテルスルホン、住友化学(株)製)、
[E]-3 YP-50(フェノキシ樹脂、新日鉄住金化学(株)製)。
【0068】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
ステンレスビーカーに、[B]ジシアンジアミド、[C]芳香族ウレアおよび[D]ホウ酸エステル以外の成分を所定量入れ、60~150℃まで昇温し、各成分が相溶するまで適宜混練した。60℃まで降温させた後、[D]ホウ酸エステル成分を配合し、混練した。別途、ポリエチレン製カップに所定量の[A]-1(“jER(登録商標)”828)および[B]ジシアンジアミドを添加し、三本ロールを用いて混合物をロール間に2回通し、ジシアンジアミドマスターを作製した。所定の配合割合になるように上記で作製した主剤成分とジシアンジアミドマスターを60℃以下で混練し、最後に[C]芳香族ウレアを添加し、60℃において30分間混練することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0069】
<エポキシ樹脂組成物の硬化時間の評価方法>
エポキシ樹脂組成物の硬化時間は、前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得たエポキシ樹脂組成物を2mL秤量し、キュラストメーター(日合商事(株)製、JSRキュラストメーターV型)を用いて測定した。測定温度150℃、振動波形は正弦波、振動数100cpm、振幅角±1°の条件下で測定を行い、トルクの上昇を観測し、最大トルクの70%に到達するまでの時間を硬化時間とした。
【0070】
<エポキシ樹脂組成物の最低粘度観測温度の評価方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得られたエポキシ樹脂組成物を3g秤量し、直径40mmおよび直径50mmのパラレルプレートで挟み込み、回転型動的粘度弾性測定装置(ARES W/FCO:TAインスツルメント社製)を用いて、周波数3.14rad/s、5℃/分の速度にて40℃から250℃まで温度を上げた際の前記エポキシ樹脂組成物の粘度を測定した。このとき、前記エポキシ樹脂組成物が最も低い粘度を示した際の温度を最低粘度観測温度の値とした。
【0071】
<エポキシ樹脂組成物の発熱開始温度と発熱終了温度の差の評価方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得られたエポキシ樹脂組成物を3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q-2000:TAインスツルメント社製)を用い、30℃から300℃まで5℃/分の等速条件にて昇温して測定した。硬化反応にともなうヒートフローを、JIS K0129(2005)に従って解析した。ヒートフローのベースラインと発熱の開始、および、終了部分の接線の交点を、それぞれ、発熱開始温度(T0)および発熱終了温度(T1)とし、発熱開始温度と発熱終了温度の差、すなわち、T1―T0を算出した。
【0072】
<エポキシ樹脂組成物の保存安定性の評価方法>
エポキシ樹脂組成物の保存安定性は、前記の方法で得た初期のエポキシ樹脂組成物をアルミカップに3g秤量し、40℃、75%RHの環境下で14日間恒温恒湿槽内に静置した後のガラス転移温度をTa、初期のガラス転移温度Tbとした時に、ガラス転移温度の変化量をΔTg=Tb-Taと定義し、ΔTgの値で保存安定性を判定した。ガラス転移温度は、保存後のエポキシ樹脂3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q-2000:TAインスツルメント社製)を用い、-20℃から150℃まで5℃/分で昇温して測定した。得られた発熱カーブの変曲点の中点をガラス転移温度として取得した。
【0073】
<エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率の評価方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得たエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、150℃の温度で2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを10mm/分とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、曲げ弾性率を測定した。この際、サンプル数n=6で測定した値を曲げ弾性率の値として採用した。
【0074】
<プリプレグの作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布し、39g/m2の目付の樹脂フィルムを2枚作製した。次に、シート状に一方向に配列させた炭素繊維“トレカ(登録商標)”T700S-12K-60E(東レ(株)製、目付150g/m2)に、得られた樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、温度90℃、圧力2MPaの条件で加圧加熱してエポキシ樹脂組成物を含浸させ、一方向プリプレグを得た。
【0075】
<繊維強化複合材料の外観評価方法>
上記<プリプレグの作製方法>に従って作製したプリプレグを、縦200mm、横200mmに裁断し、繊維方向が直交するよう5枚重ね、プリプレグ積層体を作製した。前記積層体を150℃に加熱した400mm角の2枚のステンレス製の板に上下から挟み込み、プレス機で3.5MPaで加圧した状態で5分間加熱し、繊維強化複合材料を得た。
【0076】
得られた繊維強化複合材料の外観は、目視により、以下の基準で判定した。
表面が平滑で、繊維蛇行や樹脂枯れ(カスレ)がない。 ・・・A
表面はほぼ平滑だが、ピンホール、シミ、繊維蛇行のいずれかがある。 ・・・B
表面に凹凸やカスレがあり、繊維蛇行や樹脂フローが顕著である。 ・・・C。
【0077】
<一方向繊維強化複合材料のプレス成形方法>
上記<プリプレグの作製方法>に従って作製したプリプレグを240mm角の大きさにカットし、繊維方向を揃え、16プライ積層し、240mm角のプリプレグ積層体を作製した。
【0078】
成形における金型は両面型であって、下型は凹形状となっており、縦横の幅がいずれも250mmであり、25mmのキャビティを有している。上型凸形状となっており、凸部は下型のキャビティ部を埋めるような形状であり、金型の材質はSS400である。あらかじめ、両面型を150℃に加熱・温調した状態で、下型キャビティ部中央に、上記方法で作製したプリプレグの積層体を配置した後、型を閉じ、面圧3MPaで5分間加圧した。5分間経過後、両面型からプリプレグ積層体を脱型し、一方向繊維強化複合材料を得た。
【0079】
<一方向繊維強化複合材料の曲げ強度の評価方法>
上記<一方向繊維強化複合材料のプレス成形方法>に従って得られた積層板から、幅15mm、長さ100mmとなるように切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、JIS K7017(1988)に従って3点曲げを実施した。クロスヘッド速度5.0mm/分、スパン80mm、厚子径10mm、支点径4mmで測定を行い、曲げ強度を測定した。かかる0°曲げ強度は、6個の試料について測定し、繊維質量含有率を60質量%とした換算値を算出して、その平均を0°曲げ強度として求めた。
【0080】
(実施例1)
[A]エポキシ樹脂として“jER(登録商標)”828を80質量部、“jER(登録商標)”154を20質量部[B]ジシアンジアミドとしてDICY7を11.3質量部、および[C]芳香族ウレア化合物として“Omicure(登録商標)”24を4.5質量部、[D]ホウ酸エステルを含む混合物として“キュアダクト(登録商標)”L-07Eを3.0質量部用いて、上記<エポキシ樹脂組成物の作製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物の条件[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0.033である。条件[b]最低粘度を示す温度を<エポキシ樹脂組成物の最低粘度観測温度の評価方法>に従って測定したところ122℃、また、条件[c]T1-T0を<エポキシ樹脂組成物の発熱開始温度と発熱終了温度の差の評価方法>に従って測定したところ17℃であった。
【0081】
このエポキシ樹脂組成物を、<エポキシ樹脂組成物の硬化時間の評価方法>に従って測定したところ、硬化時間は118秒であり、良好であった。また、このエポキシ樹脂組成物を、<樹脂組成物の保存安定性の評価方法>に従って評価したΔTgは14℃であり、良好な保存安定性を示した。
【0082】
<エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率の評価方法>に従って、硬化物の曲げ弾性率を評価したところ、3.5GPaと良好なものであった。
【0083】
<プリプレグの作製方法>に記載の方法で、プリプレグを作製し、<繊維強化複合材料の外観評価方法>に従って評価した外観はA判定であり、良好な外観を示した。また、<一方向繊維強化複合材料のプレス成形方法>に従って作製した繊維強化複合材料を、<一方向繊維強化複合材料の曲げ強度の評価方法>に従って、0°曲げ強度を評価したところ、1588MPaと良好な値を示した。
【0084】
(実施例2~15、比較例8~11)
樹脂組成をそれぞれ表1~3に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。これらのエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0.005~0.045の範囲内、[b]最低粘度を示す温度は110~140℃、[c]T1-T0は25℃以下であった。
【0085】
得られた樹脂組成物は、いずれも実施例1と同様、硬化時間、保存安定性、および、硬化物の曲げ弾性率は良好であった。また、得られた繊維強化複合材料の外観および0°曲げ強度は良好であった。
【0086】
(比較例1)
[D]ホウ酸エステルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。樹脂組成および評価結果は表4に示した通りである。このエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0、[b]最低粘度を示す温度は100℃、[c]T1-T0は30℃であった。
【0087】
得られた樹脂組成物の硬化時間は良好であったが、保存安定性が不十分であった。また、繊維強化複合材料の外観は、表面のカスレが顕著であったため、C判定とした。また、繊維強化複合材料の0°曲げ強度が1468MPaと低いものであった。
【0088】
(比較例2)
[C]芳香族ウレアとして“Omicure(登録商標)”24を3部と減量した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。樹脂組成および評価結果は表4に示した通りである。このエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0.050、[b]最低粘度を示す温度は123℃、[c]T1-T0は30℃であった。
【0089】
得られた樹脂組成物の保存安定性と硬化物の曲げ弾性率は良好であったが、硬化時間が272秒となり、不十分なものとなった。また、繊維強化複合材料の外観は、樹脂フローが顕著で繊維の配向が乱れていたため、C判定とした。また、繊維強化複合材料の0°曲げ強度が1492MPaと不十分なものであった。
【0090】
(比較例3)
[B]ジシアンジアミドとしてDICY7を6.3部に減量した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。樹脂組成および評価結果は表4に示した通りである。このエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0.050、[b]最低粘度を示す温度は123℃、[c]T1-T0は36℃であった。
【0091】
得られた樹脂組成物の保存安定性と硬化物の曲げ弾性率は良好だったが、硬化時間が351秒となり、硬化速度が著しく不足した。また、繊維強化複合材料の外観は、樹脂フローにともなう表面の凹凸が顕著となったため、C判定とした。繊維強化複合材料の0°曲げ強度は、1422MPaと不十分なものであった。
【0092】
(比較例4)
[D]ホウ酸エステルとして“キュアダクト(登録商標)”L-07Eを7部に増量した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。樹脂組成および評価結果は表4に示した通りである。このエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0.048、[b]最低粘度を示す温度は145℃、[c]T1-T0は10℃であった。
【0093】
得られた樹脂組成物の保存安定性は良好であったが、硬化時間が不足した。また、繊維強化複合材料の外観は、表面にカスレに起因したシミが散見されたため、B判定とした。繊維強化複合材料の0°曲げ強度は、1493MPaと不足した。
【0094】
(比較例5)
[D]ホウ酸エステルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。樹脂組成および評価結果は表4に示した通りである。樹脂組成および評価結果は表3に示した。このエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0、[b]最低粘度を示す温度は97℃、[c]T1-T0は37℃であった。
【0095】
得られた樹脂組成物の硬化時間は良好であったが、ΔTgが49となり、保存安定性が著しく損なわれた。また、繊維強化複合材料の外観は、表面全体にカスレによる凹凸が散見されたため、C判定とした。繊維強化複合材料の0°曲げ強度は、1398MPaと低いものであった。
【0096】
(比較例6)
[B]ジシアンジアミドとしてDICY7を5部に減量し、さらに、[D]ホウ酸エステルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。樹脂組成および評価結果は表4に示した通りである。このエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0、[b]最低粘度を示す温度は96℃、[c]T1-T0は41℃であった。
【0097】
得られた樹脂組成物の硬化時間は367秒と不十分であり、また、保存安定性も不足した。また、繊維強化複合材料の外観は、樹脂フローと繊維の蛇行が顕著であったため、C判定とした。繊維強化複合材料の0°曲げ強度は、1356MPaと低いものであった。
【0098】
(比較例7)
[C]芳香族ウレアとしてDCMU99を3部と減量した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および、繊維強化複合材料を作製した。樹脂組成および評価結果は表4に示した通りである。このエポキシ樹脂組成物の[a]成分[D]の含有量/成分[C]の含有量は0.050、[b]最低粘度を示す温度は131℃、[c]T1-T0は34℃であった。
【0099】
得られた樹脂組成物の保存安定性は良好だが、硬化時間が287秒と不足した。また、繊維強化複合材料の外観は、樹脂フローによる表面凹凸が顕著となったため、C判定とした。繊維強化複合材料の0°曲げ強度は、1455MPaと不十分なものであった。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
なお、表中の各成分の単位は質量部である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に記載のエポキシ樹脂組成物を用いることで、速硬化性と保存安定性が共に優れたプリプレグを提供することができ、ハイサイクル成形を必要とする産業用途に好ましく用いられる。さらに、繊維強化複合材料とした時の外観にも優れるために、特に自動車の外板用途などに好ましく用いられる。