(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20230124BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20230124BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2018171863
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅敏
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-186691(JP,A)
【文献】特開2010-234108(JP,A)
【文献】特開2016-093335(JP,A)
【文献】特開2013-244416(JP,A)
【文献】特開2004-049559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、
フェース部、クラウン部及びソール部を含み、
前記ソール部は、ソール底部とスカート部とを含み、
前記スカート部は、前記ヘッドが規定のライ角及びロフト角で水平面に置かれた基準状態でのヘッド底面視において、ソール輪郭線から、ヘッド中心側へ前記ヘッドのトウ・ヒール方向長さの15%までの領域であり、
前記ソール底部には、前記ソール底部よりも比重が大きい材料からなる重量物と、前記重量物の周囲から前記スカート部のトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びる厚肉の補強部とが設けられており、
前記補強部は、前記重量物の周囲の少なくとも3箇所を前記スカート部に接続して
おり、
前記補強部は、前記スカート部のトウ側に延びる第1補強部及び第2補強部を含み、
前記第1補強部は、トウ・ヒール方向に沿ってのびており、
前記第2補強部は、前記第1補強部よりも前記フェース部の側から、トウ側かつバック側に向かって延びており、
前記第2補強部の前記スカート部の側は、前記第1補強部の前記スカート部の側と交わっている、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記基準状態でのヘッド重心を通るトウ・ヒール方向に沿った垂直断面において、前記ソール底面の曲率半径は、前記スカート部の曲率半径よりも大きい、請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記補強部は、前記スカート部のトウ側、ヒール側及びバック側の3方向に延びている、請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記ソール底部には、前記重量物の周囲を取り囲む厚肉の囲み部が設けられており、前記補強部は、前記囲み部から前記スカート部に延びている、請求項1ないし3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記重量物は、ヘッド平面視において、四角形状であり、
前記補強部は、前記四角形状の角のうち3以上の角から前記スカート部に延びている、請求項1ないし4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記補強部は、前記スカート部と3mm以上で重なる、請求項1ないし5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記補強部は、前記ソール輪郭線の位置まで達することなく前記スカート部内で終端する、請求項1ないし6のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記補強部の延在方向と直交する横断面において、前記補強部の幅が、前記補強部の高さよりも大きい、請求項1ないし7のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、
フェース部、クラウン部及びソール部を含み、
前記ソール部は、ソール底部とスカート部とを含み、
前記スカート部は、前記ヘッドが規定のライ角及びロフト角で水平面に置かれた基準状態でのヘッド底面視において、ヘッド外周輪郭線から、ヘッド中心側へ前記ヘッドのトウ・ヒール方向長さの15%までの領域であり、
前記ソール底部には、前記ソール底部の他の部分よりも厚肉化された高重量部と、前記高重量部の周囲から前記スカート部のトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びる厚肉の補強部とが設けられており、
前記補強部は、前記高重量部の周囲の少なくとも3箇所を前記スカート部に接続して
おり、
前記補強部は、前記スカート部のトウ側に延びる第1補強部及び第2補強部を含み、
前記第1補強部は、トウ・ヒール方向に沿ってのびており、
前記第2補強部は、前記第1補強部よりも前記フェース部の側から、トウ側かつバック側に向かって延びており、
前記第2補強部の前記スカート部の側は、前記第1補強部の前記スカート部の側と交わっている、
ゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
打球の飛距離を増大させるために、ゴルフクラブヘッドにおいて、低重心化の要請がある。低重心化は、フェースのスイートスポットをフェースセンター(実打点付近)に近づけるので、打球の打出し角度を大きく、かつ、スピン量を小さくする。したがって、ゴルフクラブヘッドの低重心化は、打球の飛距離の増大をもたらす。
【0003】
下記特許文献1には、クラウン部と、フェース部と、少なくとも1つの開口を有するソール部と、前記ソール部の開口に取り付けられる、少なくとも1つのウエイト部材と、を具えたゴルフクラブヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ゴルフクラブヘッドのソール部にウエイト部材等の大きな重量を配置すると、ボール打撃時、ソール部の中央付近が大きく撓み、打撃音が低くなることがあった。一般に、多くのゴルファーは、高い打撃音を好む傾向があるため、打撃音が低いゴルフクラブヘッドは、多くのゴルファーのフィーリングを損ねるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、低重心化を図りながら、高い打撃音を生成しうるゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、フェース部、クラウン部及びソール部を含み、前記ソール部は、ソール底部とスカート部とを含み、前記スカート部は、前記ヘッドが規定のライ角及びロフト角で水平面に置かれた基準状態でのヘッド底面視において、ソール輪郭線から、ヘッド中心側へ前記ヘッドのトウ・ヒール方向長さの15%までの領域であり、前記ソール底部には、前記ソール底部よりも比重が大きい材料からなる重量物と、前記重量物の周囲から前記スカート部のトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びる厚肉の補強部とが設けられており、前記補強部は、前記重量物の周囲の少なくとも3箇所を前記スカート部に接続している、ゴルフクラブヘッドである。
【0008】
第2の発明は、内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、フェース部、クラウン部及びソール部を含み、前記ソール部は、ソール底部とスカート部とを含み、前記スカート部は、前記ヘッドが規定のライ角及びロフト角で水平面に置かれた基準状態でのヘッド底面視において、ヘッド外周輪郭線から、ヘッド中心側へ前記ヘッドのトウ・ヒール方向長さの15%までの領域であり、前記ソール底部には、前記ソール底部の他の部分よりも厚肉化された高重量部と、前記高重量部の周囲から前記スカート部のトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びる厚肉の補強部とが設けられており、前記補強部は、前記高重量部の周囲の少なくとも3箇所を前記スカート部に接続している、ゴルフクラブヘッドである。
【0009】
第1の発明及び第2の発明(以下、これらをまとめて「本発明」ということがある。)の他の態様では、前記基準状態でのヘッド重心を通るトウ・ヒール方向に沿った垂直断面において、前記ソール底面の曲率半径は、前記スカート部の曲率半径よりも大きく構成することができる。
【0010】
本発明の他の態様では、前記補強部は、前記スカート部のトウ側、ヒール側及びバック側の3方向に延びることができる。
【0011】
本発明の他の態様では、前記ソール底部には、前記重量物の周囲を取り囲む厚肉の囲み部が設けられており、前記補強部は、前記囲み部から前記スカート部に延びることができる。
【0012】
本発明の他の態様では、前記重量物は、ヘッド平面視において、四角形状であり、前記補強部は、前記四角形状の角のうち3以上の角から前記スカート部に延びることができる。
【0013】
本発明の他の態様では、前記補強部は、前記スカート部と3mm以上で重なることができる。
【0014】
本発明の他の態様では、前記補強部は、前記ソール輪郭線の位置まで達することなく前記スカート部内で終端することができる。
【0015】
本発明の他の態様では、前記補強部の延在方向と直交する横断面において、前記補強部の幅が、前記補強部の高さよりも大きくても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明のゴルフクラブヘッドは、前記ソール底部に、前記ソール底部よりも比重が大きい材料からなる重量物、又は、前記ソール底部の他の部分よりも厚肉化された高重量部が設けられている。したがって、本発明のゴルフクラブヘッドは、低重心化を図ることができる。
【0017】
発明者らの種々の解析の結果、ヘッド底面視において、ソール輪郭線から、ヘッド中心側へ前記ヘッドのトウ・ヒール方向長さの15%までの領域であるスカート部は、ヘッド構造上、ソール底部に比べて高い剛性を有することがわかった。発明者らは、このようなスカート部の特性に着目し、前記重量物(又は高重量部で、以下同様である。)の周囲から前記スカート部のトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びる厚肉の補強部を設け、かつ、前記補強部で、前記重量物の周囲の少なくとも3箇所を前記スカート部に接続するように構成した。前記接続の箇所に関して、2箇所であれば、前記重量物は、その接続箇所(2つの位置)を結ぶ直線を中心として回転する方向に動き易い。これに対して、本発明のように、前記接続の箇所が3箇所以上とされることで、上述のような重量物の動きを抑制することができる。これにより、本発明のゴルフクラブヘッドは、ボール打撃時、重量物が設けられた前記ソール底部の振動が大幅に抑制され、ひいては、高い打撃音を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の発明の一実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
【
図4】本実施形態のゴルフクラブヘッドの組立前の分解斜視図である。
【
図5】
図3のV-V線の位置に相当するゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図6】(A)及び(B)は、ソール底部及びスカート部を説明するためのゴルフクラブヘッドの正面図及び底面図である。
【
図8】(A)及び(B)は、補強部の変形例を説明するためのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図9】第2の発明の一実施形態のゴルフクラブヘッドの組立前の分解斜視図である。
【
図10】第2の発明の一実施形態のゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図11】比較例のヘッドのソール部の構造を示す断面図である。
【
図12】(A)及び(B)は、比較例及び実施例の振動解析シミュレーション結果を示すコンター図である。
【
図13】比較例及び実施例の振動解析シミュレーションにおける周波数と音圧レベルとの関係を示すグラフである。
【
図14】比較例及び実施例の打球音のオクターブ解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のゴルフクラブヘッドの実施の一形態が、図面に基づき説明される。以下に詳述される実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容を理解するためのものであって、本発明は、それらの具体的な構成に限定されるものではない。また、以後の説明では、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0020】
[第1の発明]
図1~5は、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に、「ヘッド」ということがある。)1の斜視図、平面図、
図2のIII-III線の断面図、分解斜視図及び
図3のV-V線の一に相当する断面図をそれぞれ示している。また、
図1~3は、基準状態とされたヘッド1が描かれている。
【0021】
[ヘッドの基準状態]
ヘッド1の基準状態とは、ヘッド1が、水平面HPに対して、そのロフト角α(
図3)及びライ角(図示省略)に保たれた状態である。基準状態では、
図2に示されるように、ヘッド1のシャフト軸中心線CLが、任意の垂直面VP内に配される。垂直面VPに沿った水平な方向yが、ヘッド1のトウ・ヒール方向であり、垂直面VPと直交する水平な方向xがヘッド前後方向とされる。なお、ヘッド1の前側を「フェース側」と、ヘッド1の「後側」をバック側として、それぞれ慣例的に説明される場合がある。また、上記x及びyにともに直交する方向zが、ヘッド上下方向とされる。特に言及されていない場合、ヘッド1は、基準状態に置かれているものとして理解されなければならない。
【0022】
[ヘッドの基本構成]
図1~5において、本実施形態のヘッド1は、内部に中空部i(
図3に示す)を有し、例えば、典型的なウッド型として構成される。ウッド型のヘッドは、ドライバー(#1)の他、少なくともブラッシー(#2)、スプーン(#3)、バフィ(#4)及びクリーク(#5)を含む。また、本実施形態のヘッド1は、先に列挙されたものと番手又は名称が異なっていても、略類似した形状を持つヘッドを含む。本発明の他の実施形態では、ヘッド1は、例えば、ユーティリティー型として構成されても良い。
【0023】
本実施形態のヘッド1は、例えば、フェース部2、クラウン部3及びソール部4を含んでおり、さらに、重量物10を含んでいる。フェース部2、クラウン部3及びソール部4により、ヘッド内部の中空部iが画定される。
【0024】
フェース部2の前面は、ボールを打撃するための打撃面であるフェース2aとして機能する。
【0025】
クラウン部3は、フェース部2に連なってヘッド上面を構成している。
【0026】
ソール部4は、フェース部2に連なってヘッド底面側を構成している。
図6(A)及び(B)には、ヘッド1の基準状態の正面図及び底面図が示されている。
図6(A)及び(B)に示されるように、ソール部4は、ソール底部4aとスカート部4bとを含む。
【0027】
ソール底部4aは、ソール部4のうち低所部分(水平面HPに近い部分)を構成しており、平面又は比較的大きな曲率半径の湾曲面で構成されている。一方、スカート部4bは、ソール部4のうち高所部分を構成する。スカート部4bは、ソール底部4aをクラウン部3に接続する部分であり、ソール底部4aに比べると小さい曲率半径の湾曲面で構成されている。このような構造上の差異により、スカート部4bは、一般的に、ソール底部4aよりも高い曲げ剛性を具える。
【0028】
本明細書では、スカート部4bは、
図6(B)に示されるように、ヘッド底面視において、ソール輪郭線Eから、ヘッド中心側へ、ヘッド1のトウ・ヒール方向長さL1の15%までの領域Aとして定義される。ソール底部4aは、ヘッド底面視において、ソール部4からスカート部4bを除いた部分として定義される。ソール輪郭線Eは、ヘッド底面視において、ヘッド1の外周縁を形成する輪郭線を意味する。また、ヘッド1のトウ・ヒール方向長さL1を定める際、ヒール側の端点Pは、R&Aのヘッド寸法測定定義に基づき、、水平面HPから0.875インチの高さBを隔てる位置とされる。
【0029】
好ましい態様では、基準状態において、ヘッド重心Gを通るトウ・ヒール方向に沿ったヘッド1の垂直断面VP1において、ソール底部4aの曲率半径は、その両側のスカート部4bの曲率半径よりも大きく構成される。前記各曲率半径は、便宜上、前記それぞれの断面において、外面輪郭線の両端点及び中間点の3点をつなぐ単一の円弧の曲率半径として定義される。
【0030】
図1及び
図2に示されるように、クラウン部3のヒール側には、例えば、ネック部6が設けられても良い。ネック部6は、シャフト(図示省略)が固定可能なように、シャフト差込孔6aを有する筒状に構成されている。シャフト差込孔6aの軸中心線は、上記シャフト軸中心線CLに対応している。
【0031】
図4に示されるように、本実施形態のヘッド1は、例えば、カップ状のフェース部材20と、カップ状のヘッド本体30とを含み、これらが互いに溶接にて固着されている。ただし、本発明は、このような態様に限定して解釈されるものではなく、例えば、ヘッド本体と板状のフェース部材とが接続された態様(図示省略)など様々な構造のものを含む。
【0032】
本実施形態のフェース部材20は、フェース部2と、フェース2aの周縁からヘッド後方に延びる返し部7とを含んでいる。返し部7は、フェース2の周囲をほぼ環状に形成されている。このようなフェース部材20は、例えば、鋳造、板材のプレス又は鍛造等によって準備することができる。フェース部材20は、金属材料で構成されており、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼又はアルミニウム合金など種々のものが採用される。本実施形態では、Ti-8Al-1Mo-1V(比重約4.2)が採用されている。
【0033】
ヘッド本体30は、フェース側が開口したカップ状に構成されている。本実施形態のヘッド本体30は、ヘッド1からフェース部材20を除いたバック側の主要部分を構成する。このようなヘッド本体30は、例えば、金属材料の鋳造品として、各部が一体成形される。また、ヘッド本体30の金属材料としては、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼又はアルミニウム合金など種々のものが採用可能である。好ましい態様では、ヘッド本体30は、フェース部材20と溶接が可能な金属材料とされる。本実施形態のヘッド本体30は、フェース部材20と同一の金属材料で構成されている。
【0034】
図3~
図5に示されるように、本実施形態では、ソール底部4aのヘッド内部側に、重量物10と、補強部12とが設けられている。
【0035】
[重量物]
重量物10は、ソール底部4aよりも比重が大きい例えば金属材料からなる。ヘッド平面視において、重量物10の重心は、ソール底部4aに位置している。本実施形態のヘッド1は、重量物10よって、ソール部4に集中的に大きな重量が配分されるため、低重心化を図ることができる。好ましい態様では、重量物10の重量は、フェース部材20とヘッド本体30との合計重量の10%以上とされる。これにより、ソール部4に十分に大きな重量が配分され、ヘッド1のさらなる低重心化が図られる。好ましい態様では、
図6(A)に示されるように、水平面HPからのヘッド重心Gの高さCは、9~13mmとされる。
【0036】
重量物10としては、例えば、高比重の金属材料が望ましい。具体的には、重量物10は、Wを含む合金が望ましく、とりわけ、W、Ni及びFeを含むタングステン・ニッケル・鉄合金で構成されるのが望ましい。このような合金は、その化学成分中のWの割合を高めるによって、より高い比重を持つように調整され得る。より好ましい態様では、重量物10の比重は、7以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10~15の範囲とされる。
【0037】
ヘッド1のさらなる低重心化を図るためには、重量物10の厚さt1(
図4に示す)は、極力小さくすることが好ましい。好ましい態様では、重量物10において、厚さt1は、10mm以下、より好ましくは5mm以下の薄いプレート状とされる。このような態様によれば、ヘッド1のさらなる低重心化を図ることができる。
【0038】
重量物10は、その平面視において、本質的に、複数の直線の辺からなる多角形状であるのが望ましい。本実施形態の重量物は、ヘッド平面視において、4つの角を有する四角形状である。より詳細には、本実施形態の重量物10は、ヘッド1のトウ・ヒール方向にほぼ平行な2つの辺を有する台形状である。重量物10は、トウ側かつフェース側の第1角10a、トウ側かつバック側の第2角10b、ヒール側かつフェース側の第3角10c及びヒール側かつバック側の第4角10dを含む。
【0039】
本実施形態の重量物10は、バック側の幅W2がフェース側の幅W1よりも小さい台形状とされている。このため、重量物10の重心は、重量物10のヘッド前後方向の中心位置よりもフェース側に位置する。これは、例えば、ヘッド1の重心深度を浅くし、フェース2aのスイートスポットが高くなるのを効果的に防ぐのにも役立つ。ただし、本発明の他の態様では、重量物10として、様々な形状が採用され得るのはいうまでもない。
【0040】
図4に示されるように、ソール底部4aの内面側には、凹部8を画定するように、厚肉の囲み部9が設けられており、凹部8内に、重量物10が配置される。凹部8は、重量物10が位置決めされるように、重量物10よりもわずかに大きい輪郭形状を有する。重量物10は、凹部8に嵌め込まれ、例えば接着、溶接又はネジ等を用いてソール底部4aに固着されている。これにより、重量物10の周囲は、厚肉の囲み部9によって取り囲まれている。本実施形態では、
図3に示されるように、重量物10と囲み部9との間が溶接部40によって固着されている。
【0041】
[補強部]
図5に示されるように、補強部12は、厚肉の部分として構成されており、重量物10の周囲からスカート部4bのトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びる。また、補強部12は、重量物10の周囲の少なくとも3箇所をスカート部4bに接続している。前記接続の箇所に関して、2箇所であれば、重量物10は、その接続箇所(2つの位置)を結ぶ直線を中心として回転する方向に動き易い。これに対して、本実施形態のように、前記接続の箇所が3箇所以上とされることで、上述のような重量物10の回転方向の動きを抑制することができる。
【0042】
ソール部4のうち、スカート部4bは、ソール底部4aに比べて高い剛性を有する。したがって、重量物10の周囲を、剛性の大きい厚肉の補強部12でスカート部4bに接続することにより、本実施形態のヘッド1は、ボール打撃時、ソール底部4aの振動が抑制され、ひいては、高い打撃音を生成することができる。
【0043】
上述の作用を発揮させるために、補強部12は、重量物10の周囲からスカート部4bのトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びることが必要である。補強部12が、前記3つの側のうち、1方向にのみ延びる場合、ソール底部4aの振動を抑制する効果が得られない。また、補強部12は、ソール底部4aよりも高い剛性を有するスカート部4bに至ることが必要である。
【0044】
本実施形態の補強部12は、重量物10の周囲を取り囲む囲み部9からスカート部4bに延びている。このような態様では、囲み部9を介して、重量物10と補強部12とが実質的に連続する。このため、ボール打撃時、重量物10の振動がさらに効果的に補強部12及びスカート部4bの高剛性によって抑制され、ひいては、さらに高い打撃音が生成される。
【0045】
本実施形態の補強部12は、例えば、スカート部4bのトウ側に延びる第1補強部14及び第2補強部15と、スカート部4bのヒール側に延びる第3補強部16とを含む。
【0046】
第1補強部14は、例えば、重量物10の第2角10bの近傍(第1箇所)から、スカート部4bのトウ側に延びている。この実施形態では、第1補強部14は、実質的にトウ・ヒール方向に沿って直線状にのびている。また、第1補強部14は、ソール輪郭線Eの位置まで達することなく、スカート部4b内で終端する端部14aを有する。
【0047】
第2補強部15は、重量物10の第1角10aの近傍(第2の箇所)から、スカート部4bのトウ側に延びている。この実施形態では、第2補強部15は、トウ・ヒール方向に対して斜め後方、すなわち、トウ側かつバック側に向かって延びている。そして、第2補強部15のスカート部4b側の端部15aは、第1補強部14のスカート部側の端部14aと交わって終端している。これにより、本実施形態では、重量物10のトウ側に、第1補強部14、第2補強部15及び囲み部のトウ側の枠9aにより略三角形状の補強構造体が形成されている。ヘッド1の慣例的な形状では、ソール部4は、ヒール側に比べてトウ側により大きな面積を有するので、このような補強構造体Rは、ソール部のトウ側領域を効果的に補強し、振動抑制効果をさらに高める。
【0048】
第3補強部16は、重量物10のヒール側の縁全体(第3の箇所)から、スカート部4bのヒール側に延びている。この実施形態では、第3補強部16は、トウ・ヒール方向に沿ってヒール側に延びている。そして、第3補強部16のスカート部4b側の端部16aも、ソール輪郭線Eの位置まで達することなく、スカート部4b内で終端する。
【0049】
補強部12は、スカート部4bに達していれば、上述のソール底部4aの振動抑制効果を発揮しうるが、特に好ましい態様では、補強部12は、それらの延在方向において、スカート部4bと3mm以上の長さL2で重ねられる。これにより、ボール打撃時のソール底部4aの振動抑制効果がさらに向上する。他方、好ましい態様では、補強部12のスカート部4b側の端部は、ヘッド底面視において、ソール輪郭線までの距離L3が10mm以内とされる。
【0050】
図7には、補強部12の延在方向と直交する横断面として、
図5のVII-VII線断面図が示されている。
図7に示されるように、厚肉の補強部12は、幅wが高さhよりも大きく構成されるのが望ましい。これにより、ボール打撃時のソール底部4aの振動抑制効果を高めつつ、補強部12自体の重心gもソール部4の低所に位置させることができ、ひいては、ヘッドの低重心化にも役立つ。補強部12のアスペクト比(h/w)は、例えば、80%以下、好ましくは60%以下とされる。
【0051】
補強部12の位置でのソール底部4aの厚さt3は、特に限定されるものではないが、好ましくは5.0mm以上とされ、より好ましくは5.2mm以上とされる。なお、囲み部9の位置でのソール底部4aの厚さについても、補強部12と同一とされるのが望ましい。
【0052】
厚肉の補強部12以外のソール底部4a及びスカート部4bの厚さt2も、特に限定されるものではないが、好ましくは1.4~3.0mmの範囲、より好ましくは、1.4~2.5mm以下とされる。
【0053】
上記実施形態では、重量物10及び補強部12は、いずれもソール部4の内部側(中空部i側)に設けられた態様を示したが、重量物10及び補強部12の一方又は両方が、ソール部4の外面側に設けられても良いのはいうまでもない。
【0054】
[変形例]
図8(A)及び(B)には、補強部12の変形例として、ソール部4の平面図が示されている。
【0055】
図8(A)では、補強部12は、重量物10の周囲からスカート部4bのトウ側、ヒール側及びバック側の3方向に延びるものが示されている。すなわち、補強部12は、第1~第3補強部14~16に加え、重量物10の周囲からバック側に延びる第4補強部17を含んでいる。このようなヘッド1は、
図1~5で示した例に比べて、ボール打撃時の振動抑制効果をさらに高める。
【0056】
図8(B)では、補強部12は、多角形状の重量物10の角ではなく、辺の途中からスカート部4bに延びる態様が示されている。このようなヘッド1においても、ボール打撃時のソール部4の振動抑制効果をさらに高めることができる。
【0057】
[第2の発明]
上記第1の発明の実施形態では、重量物10は、ソール底部4aとは比重が異なる材料で構成されていた。第2の発明では、このような重量物10に代えて、ソール底部4aにおいて、厚肉化された高重量部50が用いられている点で第1の発明と異なっており、その他の構成については同じである。
【0058】
図9は、第2の発明の一実施形態のゴルフクラブヘッド100の組立前の分解斜視図であり、
図10は、その断面図である。
図9及び
図10に示されるように、第2の発明は、内部に中空部を有するゴルフクラブヘッド100であって、フェース部2、クラウン部3及びソール部4を含み、ソール部4は、ソール底部4aとスカート部4bとを含み、ソール底部4aには、ソール底部4aの他の部分よりも厚肉化された高重量部50と、高重量部50の周囲からスカート部4bのトウ側、ヒール側及びバック側の少なくとも2つの方向に延びる厚肉の補強部12とが設けられており、補強部12は、高重量部50の周囲の少なくとも3箇所をスカート部4bに接続するものである。このような第2の態様のヘッド1においても、第1の態様と同様、ボール打撃時のソール部4の振動抑制効果をさらに高めることができる。
【0059】
好ましい態様では、高重量部50は、ソール部4において、最も大きい厚さを有する部分として構成され得るが、補強部12と同一の厚さでも良い。
【0060】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々の態様で実施しうるのは言うまでもない。また、本明細書において、ある実施形態で説明された要素及びそれらの変形例は、明示がなくても、他の実施形態で示された対応する要素に適用することが意図されていると理解されなければならない。
【実施例】
【0061】
本発明の効果を確認するために、以下の仕様に基づいて、複数のウッド型ゴルフクラブヘッドが試作され、それらについて、性能評価が行われた。
<実施例>
ヘッド体積: 185cc
ヘッド本体及びフェース部材: Ti-8Al-1Mo-1V(比重4.2)
重量物: タングステン・ニッケル・鉄合金(比重12)
重量物の形状: 台形状(平面面積225mm
2)、厚さ2.0mm
補強部の構成:
図5
補強部のアスペクト比
第1補強部: 80(%)
第2補強部: 65(%)
第3補強部: 32.5(%)
補強部とスカート部との重なり長さL2
第1補強部: 10(mm)
第2補強部: 14.5(mm)
第3補強部: 13.8(mm)
補強部及び囲み部の位置でのソール底部の厚さt3: 5.2mm
上記以外のソール底部の厚さt2: 2.0mm
<比較例>
基本的に実施例と同様の構成を備えているが、
図11に示されるように、ソール底部4aには、重量物10と、その周囲を取り囲む囲み部9のみが設けられており、補強部は設けられていない。
【0062】
上記2つのヘッドについて、以下の容量で、振動解析シミュレーション及び実際の打球音のオクターブ解析が行われた。
【0063】
<振動解析シミュレーションテスト>
上記各ヘッドを有限要素法で解析可能な数値解析モデルに落とし込み、コンピュータシミュレーションにより、振動解析が行われた。このテストの結果が
図12及び
図13に示される。
【0064】
図12は、比較例の一次の振動モードのコンター図である。振幅の大きさが色の濃淡で表現されている。
図12(A)は、比較例のヘッドであり、その固有振動数は3850Hzであった。
図12(B)は、実施例のヘッドであり、固有振動数は4631Hzであり、比較例に比べて高い数値を示すことが確認できた。また、比較例では、実施例に比べると、ソール部の中央付近に白っぽく表示された領域の面積が大きいことが分かる。これは、ソール部の振幅が大きいことを意味する。
【0065】
図13は、上記数値解析モデルを用いて打球音シミュレーションを行った結果(周波数スペクトル)を示している。
図13から明らかなように、実施例のヘッドの一次の振動ピークpk1は、比較例のヘッドの一次の振動ピークpk2よりも高周波数側にシフトしていることが確認できる。
【0066】
<打球音オクターブ解析>
実施例及び比較例について、実際に同一のゴルフボールを、スイングロボットを使用して打撃し、打球音が測定された。ヘッドスピードは36.0m/s、打撃位置はフェースセンターとされた。打球音は、ティーのトウ側30cmの位置に設置されたマイクロフォンにより採取された。採取された打球音は、FFTアナライザーでフーリエ変換を行い、1/3オクターブバンド処理を行った。このテストの結果が
図14に示される。
図14から明らかなように、実施例の打球音は、比較例の打球音に比べて、約5000~9000Hzの高周波数帯域の音圧レベルが増大している一方、約2500~5000Hzの低周波数帯域の音圧レベルが減少しており、より高い打球音になっていることが確認できた。
【符号の説明】
【0067】
1 ゴルフクラブヘッド
4 ソール部
4a ソール底部
4b スカート部
9 囲み部
10 重量物
12 補強部