(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】予測プログラム、予測方法及び予測装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20230124BHJP
【FI】
G06Q10/04
(21)【出願番号】P 2018202222
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 利雄
(72)【発明者】
【氏名】濱田 直希
【審査官】毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-031559(JP,A)
【文献】特開2006-079426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0016354(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107356710(CN,A)
【文献】阿南 泰三ほか,運航ビッグデータと人工知能を活用した船舶の燃費改善とCO2排出量の削減,FUJITSU,日本,富士通株式会社,2017年03月01日,第68巻,第2号,通巻第399号,第22~27頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G06F 17/00-17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不連続でない環境条件で運動する移動体に関する最適化問題に用いられる予測プログラムであって、
コンピュータに、
環境条件と前記移動体の
性能との組み合わせである学習データのうち、予測データの環境条件に応じて選択された特定の数の学習データである区間データを用いて、
入力された環境条件から前記移動体の性能の予測値を出力するカーネル回帰関数を生成し、
前記カーネル回帰関数に基づき、前記予測
データの環境条件に対する
前記移動体の性能の予測値を算出する
処理を実行させることを特徴とする予測プログラム。
【請求項2】
前記生成する処理は、前記
学習データから、予測対象の環境条件を表す予測データとのユークリッド距離が小さい順に前記特定の数だけ選択した区間データを用いて前記カーネル回帰関数を生成することを特徴とする請求項1に記載の予測プログラム。
【請求項3】
前記算出する処理は、前記区間データを用いて生成された前記カーネル回帰関数、及び前記区間データごとの環境条件を基に、前記
予測値の信頼区間を算出することを特徴とする請求項1に記載の予測プログラム。
【請求項4】
前記算出する処理は、前記信頼区間が所定の閾値以上である場合、前記
学習データの全てを用いて生成されたカーネル回帰関数に基づき前記
予測値を算出することを特徴とする請求項3に記載の予測プログラム。
【請求項5】
前記生成する処理は、前記特定の数として、前記区間データを用いて生成された前記カーネル回帰関数に基づき算出された
前記移動体の性能の予測値と、前記
学習データの全てを用いて生成されたカーネル回帰関数に基づき算出された
前記移動体の性能の予測値との差が所定値以下になるようにあらかじめ設定された数を
前記特定の数として用いることを特徴とする請求項1に記載の予測プログラム。
【請求項6】
前記生成する処理は、前記移動体から所定の距離以内の領域における媒質の変動速度、形状及び前記移動体の動力資源の残量の少なくともいずれかを含む
前記学習データから選択された前記区間データを用いて、前記カーネル回帰関数を生成することを特徴とする請求項1に記載の予測プログラム。
【請求項7】
不連続でない環境条件で運動する移動体に関する最適化問題に用いられる予測方法であって、
コンピュータが、
環境条件と前記移動体の
性能との組み合わせである学習データのうち、予測データの環境条件に応じて選択された特定の数の学習データである区間データを用いて、
入力された環境条件から前記移動体の性能の予測値を出力するカーネル回帰関数を生成し、
前記カーネル回帰関数に基づき、前記予測
データの環境条件に対する
前記移動体の性能の予測値を算出する
処理を実行することを特徴とする予測方法。
【請求項8】
不連続でない環境条件で運動する移動体に関する最適化問題に用いられる予測装置であって、
環境条件と前記移動体の
性能との組み合わせである学習データのうち、予測データの環境条件に応じて選択された特定の数の学習データである区間データを用いて、
入力された環境条件から前記移動体の性能の予測値を出力するカーネル回帰関数を生成する生成部と、
前記カーネル回帰関数に基づき、前記予測
データの環境条件に対する
前記移動体の性能の予測値を算出する算出部と、
を有することを特徴とする予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測プログラム、予測方法及び予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境条件に対する移動体の性能(例えば、燃料の消費量)を予測し、予測結果に基づいて移動体の経路を最適化することが行われている。ここで、移動体の性能の予測は、環境条件を説明変数とし、性能の予測値を目的変数とするカーネル回帰によって行われる。このとき、カーネル回帰に用いられるカーネル回帰関数は、説明変数及び目的変数が既知の学習データから生成される。また、カーネル回帰関数に環境条件を入力することで、当該環境条件に対する移動体の性能の予測値が得られる。
【0003】
カーネル回帰による予測値の算出を高速化するための手法として、k近傍交叉カーネル回帰が知られている。k近傍交叉カーネル回帰は、学習データのそれぞれについて多変量ガウス密度からなるカーネルを算出する際に、各カーネルの平均値と分散値を、各学習データのk近傍から計算する手法である。k近傍交叉カーネル回帰では、各学習データのk近傍を使ってカーネルの計算が行われるため、各学習データについて他の全ての学習データを使ってカーネルの計算を行う場合と比べて、計算時間の短縮が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術では、移動体の性能予測を高速かつ高精度に行うことが困難な場合がある。
【0006】
例えば、上記のk近傍交叉カーネル回帰では、カーネル回帰関数の生成においては学習データをk近傍に絞り込んだ上で計算が行われる。一方で、カーネル回帰関数を用いた予測値の算出においては、全学習データを用いた計算が行われることになり、高速な計算が難しい場合がある。
【0007】
また、環境条件が近い場合、移動体の運動に関する性能は近くなるという物理特性がある。このため、カーネル回帰関数を用いた予測値の算出に用いる学習データを、発生時刻又は特定の説明変数の値が予測データに近いものに絞り込むことが考えられる。しかしながら、環境条件は複数次元であることが多く、上記のような単純な絞り込みでは、予測の精度を向上させることが困難な場合がある。
【0008】
1つの側面では、移動体の性能予測を高速かつ高精度に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様において、予測プログラムは、不連続でない環境条件で運動する移動体に関する最適化問題に用いられる。また、予測プログラムは、コンピュータに、移動体の運動に関する入力データのうち、予測対象の環境条件に応じ特定の数で選択された区間のデータである区間データを用いて、移動体の運動に関するカーネル回帰関数を生成する処理を実行させる。また、予測プログラムは、コンピュータに、カーネル回帰関数に基づき、予測対象の環境条件に対する目的変数を算出する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1実施態様によれば、移動体の性能予測を高速かつ高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例に係る予測装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、説明変数空間におけるk2近傍を説明する図である。
【
図3】
図3は、k近傍の学習データを説明する図である。
【
図4】
図4は、学習データの信頼区間幅を説明する図である。
【
図5】
図5は、k2の設定について説明する図である。
【
図6】
図6は、経路の決定について説明する図である。
【
図7】
図7は、予測処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる予測プログラム、予測方法及び予測装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、各実施例は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【実施例1】
【0013】
実施例に係る予測装置は、環境条件に対する移動体の性能予測を行う。また、性能予測の結果は、移動体の経路最適化に用いられる。例えば、移動体は、自動車、航空機及び船舶等である。つまり、予測装置は、環境条件の入力を受け付け、予測値を出力する。さらに、予測装置は、予測値に基づいて最適な経路を決定してもよい。
【0014】
例えば、環境条件は、移動体から所定の距離以内の領域における媒質の変動速度、形状、及び移動体の動力資源の残量等である。具体的には、環境条件は、移動体が置かれた場所の周囲の風速、風向、波速、波高、道路の勾配、ガソリンや電池等の動力資源の残量等である。
【0015】
また、予測装置によって予測される性能は、例えば、移動体の速度、動力資源の消費量等である。また、予測装置によれば、複数の経路から、最も短時間で目的地に到達可能な経路、又は最も燃料の消費量が少ない経路等を決定することができる。
【0016】
予測装置は回帰モデルを用いて予測値を出力する。このとき、環境条件及び予測値は、それぞれ回帰モデルにおける説明変数及び目的変数である。また、回帰モデルにおける説明変数は、複数の環境条件を多次元ベクトルで表したものであってよい。また、予測装置は、カーネルを用いたカーネル回帰モデルを用いる。
【0017】
学習データは、環境条件及び当該環境条件に対する移動体の性能の両方が既知のデータである。また、予測データは、環境条件が既知の、移動体の性能を予測する対象のデータである。
【0018】
[機能構成]
図1を用いて、実施例に係る予測装置の機能構成について説明する。
図1は、実施例に係る予測装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、予測装置10は、入力部11、出力部12、通信部13、記憶部14及び制御部15を有する。
【0019】
入力部11は、ユーザが情報を入力するための装置である。例えば、入力部11は、マウス及びキーボードである。また、出力部12は、画面を表示するディスプレイ等である。また、入力部11及び出力部12は、タッチパネルディスプレイであってもよい。
【0020】
通信部13は、他の装置との間でデータの通信を行うためのインタフェースである。例えば、通信部13はNIC(Network Interface Card)であり、インターネットを介してデータの通信を行う。
【0021】
記憶部14は、データや制御部15が実行するプログラム等を記憶する記憶装置の一例であり、例えばハードディスクやメモリ等である。記憶部14は、学習データ記憶部141及びカーネル情報記憶部142を有する。
【0022】
学習データ記憶部141は、あらかじめ収集された、環境条件及び移動体の性能の組み合わせである学習データを記憶する。説明変数をxi、目的変数をyiとして、学習データは(xi,yi)(i=1,2,…,n)のように表される。ただし、nは学習データの個数である。また、xiは、多次元ベクトルであってよい。
【0023】
カーネル情報記憶部142は、カーネル回帰で用いられる計算値等を記憶する。例えば、カーネル情報記憶部142は、学習データのそれぞれについて事前に計算されたカーネル及び信頼区間幅を記憶する。なお、カーネル及び信頼区間幅の計算方法については後述する。
【0024】
制御部15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等によって、内部の記憶装置に記憶されているプログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、制御部15は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されるようにしてもよい。制御部15は、生成部151、算出部152及び決定部153を有する。
【0025】
本実施例では、入力部11に入力された移動体の運動に関する入力データを学習データとして扱う。言い換えれば、学習データは入力データの一例であるとも言える。生成部151は、学習データのうち、予測対象の環境条件に応じ特定の数で選択された区間のデータである区間データを用いて、移動体の運動に関するカーネル回帰関数を生成する。また、生成部151は、移動体から所定の距離以内の領域における媒質の変動速度、形状、及び移動体の動力資源の残量の少なくともいずれかを含む学習データから選択された区間データを用いて、カーネル回帰関数を生成する。
【0026】
学習データは、学習データ記憶部141に格納される。また、本実施例では、予測対象の環境条件に応じた特定の数を、k2と呼ぶ。また、区間データは、k2近傍に含まれる学習データと言い換えることができる。また、例えば、媒質は、空気、水及び地面等である。また、例えば、動力資源はガソリン及び電池等である。また、前述の通り、環境条件は、移動体が置かれた場所の周囲の風速、風向、波速、波高、道路の勾配、ガソリンや電池等の残量等である。
【0027】
生成部151は、k2として、例えば、k2近傍を用いて生成されたカーネル回帰関数に基づき算出された目的変数と、移動体の運動に関する学習データの全てを用いて生成されたカーネル回帰関数に基づき算出された目的変数との差が所定値以下になるようにあらかじめ設定された数を用いる。また例えば、生成部151は、k2の値を1からnまで設定できるが、推定精度が落ちずに高速に計算できるよう、チューニングして決定された値をk2として用いる。例えば、生成部151は、学習データの数が10,000を超えるような場合であっても、k2を100以下の小さい数に設定することができる場合がある。このように、実施例では、カーネル関数の生成に用いるデータの数を非常に小さくすることができるため、高速なカーネル回帰の計算が可能になる。
【0028】
生成部151は、移動体の運動に関する学習データから、予測対象の環境条件を表す予測データとのユークリッド距離が小さい順に特定の数だけ選択したk2近傍を用いてカーネル回帰関数を生成する。ここで、予測対象の環境条件は、予測データの回帰モデルにおける説明変数と言い換えることができる。つまり、生成部151は、予測データの説明変数と学習データそれぞれの説明変数とのユークリッド距離を計算する。
【0029】
図2は、説明変数空間におけるk2近傍を説明する図である。x
1及びx
2は、説明変数の項目である。ここでは簡単のため、説明変数を2次元とするが、実際には説明変数は3次元以上であってもよい。また、
図2の○は予測データの説明変数である。また、
図2の×は、学習データの説明変数である。
【0030】
図2のNG例は、予測データが発生するより前の特定の時間の範囲で発生したデータの近傍を、カーネル回帰関数の生成に用いる場合の例である。この場合、予測データの説明変数201のk2近傍の領域202は、学習データの説明変数203bを含むのに対し、説明変数203aを含まない。
【0031】
一方、
図2のk2近傍は、本実施例の方法を示すものである。この場合、予測データの説明変数201の近傍の領域204は、学習データの説明変数203aを含むのに対し、説明変数203bを含まない。
【0032】
ここで、前述の、環境条件が近い場合、移動体の運動に関する性能は近くなるという物理特性を鑑みると、説明変数203bよりも、説明変数203aの方が予測精度の向上に寄与することが考えられる。このため、
図2のNG例と比べて、本実施例の方法は移動体の性能の予測精度を向上させることができる。
【0033】
ここで、k2近傍に含まれる学習データは、(1)式のように表される。
【0034】
【0035】
また、k2近傍Xk2は、(2)式のように表される。ただし、j=1,2,…,k2である。
【0036】
【0037】
生成部151は、各学習データについて、あらかじめカーネルK(x,xi)を計算し、カーネル情報記憶部142に格納する。このとき、生成部151は、従来のk近傍交叉カーネル回帰と同様の方法でカーネルを計算することができる。すなわち、生成部151は、xiのカーネルを、xiのk近傍に含まれる学習データの説明変数から計算する。なお、ここでのkは、k2近傍におけるk2とは別個に設定される自然数である。
【0038】
生成部151は、計算したカーネルを用いて、(3)式に示すカーネル回帰関数を生成する。
【0039】
【0040】
k近傍は、学習データの説明変数x
iによって、
図3のように決定される。
図3は、k近傍の学習データを説明する図である。
図3に示すように、k近傍の学習データの説明変数は、説明変数x
iを中心とする一定の範囲内に含まれる。
【0041】
また、生成部151は、(4)式により、学習データそれぞれについて信頼区間幅を計算する。信頼区間とは、カーネル回帰関数により出力された予測値が、どれくらいばらつくかを示す分散値である。
【0042】
【0043】
さらに、生成部151は、(5)式に示すような予測データの信頼区間幅を算出する関数を生成する。
図4は、信頼区間幅を説明する図である。
【0044】
【0045】
なお、関数の生成とは、単に関数を使って計算を行う際に必要なパラメータを計算し記憶しておくことを指すものであってもよい。例えば、生成部151は、(3)式及び(5)式で用いられるパラメータとして、学習データのそれぞれのカーネルK(x,xi)及び信頼区間Vp(xi)を計算し記憶部14に格納しておくだけでもよい。
【0046】
算出部152は、カーネル回帰関数に基づき、予測対象の環境条件に対する目的変数を算出する。具体的には、算出部152は、(3)式のxに予測データの説明変数を代入し、予測値を算出する。
【0047】
算出部152は、区間データを用いて生成されたカーネル回帰関数、及び区間データごとの環境条件を基に、目的変数の信頼区間を算出する。具体的には、算出部152は、(5)式のxに予測データの説明変数を代入し、信頼区間を算出する。
【0048】
算出部152は、信頼区間が所定の閾値以上である場合、移動体の運動に関する学習データの全てを用いて生成されたカーネル回帰関数に基づき予測対象の環境条件に対する目的変数を算出することができる。この場合、まず、算出部152は、予測データの信頼区間を算出する。ここで、信頼区間が大きいほど、算出される予測値の精度は低くなる。このため、算出部152は、算出した予測データの信頼区間が閾値以上である場合、k2近傍を使わずに、全学習データを使って予測値の計算を行う。なお、この場合の予測結果は、k2を学習データの総数nに置き換えた場合と同様の結果になる。また、算出部152は、信頼区間幅により不連続な環境の変化が発生したことを検知した場合、n未満の範囲でk2の値を大きくしてもよい。
【0049】
ここで、
図5を用いて、k2の値を大きくする必要が生じる場合の例について説明する。
図5は、k2の設定について説明する図である。
図5に示すように、ある地点にある移動体は、風を受けて移動するものとする。移動体の西方の地点(1,1)~(p,1)で、東向きの風が吹いているものとする。そして、初めに風は壁によって遮られており、ある時点に壁が取り外されると、風は移動体の方に向かっていくものとする。また、壁が取り外された瞬間の環境条件を予測データとする。
【0050】
このとき、
図5に示すように、k2の値がk2
1~k2
3である場合、予測装置10は、k2近傍に含まれるデータだけでは、地点(1,1)~(p,1)の風の状況を考慮した予測を行うことができない。一方、k2の値がk2
4まで大きくなると、予測装置10は、k2近傍に含まれるデータを用いて、地点(1,1)~(p,1)の風の状況を考慮した予測を行うことができる。
【0051】
図5は、風が壁によって遮られ、ある時点で壁が取り外されるという状況を仮想的に発生させた場合の例である。この場合、環境条件は壁が取り外された時点を境に不連続に変化する。このような状況においては、k2を小さい値に限定すると予測精度が低下する場合がある。
【0052】
逆に、環境条件の変化が不連続でない場合、k2近傍を使った予測の精度は高くなる。自動車、航空機及び船舶といった移動体が置かれる環境においては、
図5のような極端な環境条件の変化は起きにくいことが考えられる。このため、このような移動体の最適化問題には、本実施例のk2近傍によるカーネル回帰が有用であると考えられる。なお、環境条件の変化が不連続でない場合は、環境条件の変化が連続である場合を含む。
【0053】
決定部153は、算出部152によって算出された予測値を基に経路を決定する。
図6を用いて、経路の決定について説明する。
図6は、経路の決定について説明する図である。例えば、移動体が
図6の出発点にある場合、算出部152は、候補経路点のそれぞれについて、移動資源の消費量を予測する。このとき、各候補経路点の方向及び各候補経路点の方向までの距離が、予測データの説明変数に含まれていてもよい。
【0054】
図6の例では、候補経路点が7つあるため、算出部152は7個の予測値を算出する。そして、決定部153は、7個の予測値のうち最適なものを選択し、当該選択した予測値に対応する候補経路点へ向かう経路を次の経路に決定する。予測装置10は、これを繰り返し最適な経路を決定する。
【0055】
[処理の流れ]
図7を用いて、予測装置10による予測処理の流れを説明する。
図7は、予測処理の流れを示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、予測装置10は、学習データそれぞれのk近傍を作成する(ステップS11)。次に、予測装置10は、学習データそれぞれについて、k近傍に含まれる学習データを用いてカーネル及び信頼区間幅を計算する(ステップS12)。
【0056】
ここで、ステップS11及びステップS12の処理は、学習フェーズにおいて行われる。予測装置10は、学習フェーズの処理を、実際に移動体が運動を行う前に事前に行っておくことができる。一方、ステップS13以降の処理は、予測フェーズにおいて行われる。予測装置10は、予測フェーズの処理を、移動体が運動に合わせて行う。このため、予測フェーズにおける処理には、特に高速化が求められる。
【0057】
予測装置10は、予測データが得られると、説明変数空間における予測データのk2近傍を作成する(ステップS13)。次に、k2近傍に含まれる学習データ及びカーネルから、カーネル回帰関数を生成する(ステップS14)。そして、予測装置10は、カーネル回帰関数を用いて予測値及び信頼区間幅を算出する(ステップS15)。
【0058】
[効果]
上述したように、予測装置10は、移動体の運動に関する入力データのうち、予測対象の環境条件に応じ特定の数で選択された区間のデータである区間データを用いて、移動体の運動に関するカーネル回帰関数を生成する。また、予測装置10は、カーネル回帰関数に基づき、予測対象の環境条件に対する目的変数を算出する。このように、予測装置10は、学習データの全てではなく、予測データの近傍の特定の数の学習データを使ってカーネル回帰関数を生成する。このため、予測装置10は、高速かつ高精度に目的変数を算出することができる。
【0059】
また、予測装置10は、移動体の運動に関する学習データから、予測対象の環境条件を表す予測データとのユークリッド距離が小さい順に特定の数だけ選択した区間データを用いてカーネル回帰関数を生成する。このように、予測装置10は、容易にk2近傍を作成することができる。
【0060】
また、予測装置10は、区間データを用いて生成されたカーネル回帰関数、及び区間データごとの環境条件を基に、目的変数の信頼区間を算出する。このように、予測装置10は、カーネル回帰関数を使って信頼区間幅を算出することができる。このため、予測装置10によれば、k2の妥当性及び予測精度の評価を行うことが可能になる。
【0061】
また、予測装置10は、信頼区間が所定の閾値以上である場合、移動体の運動に関する学習データの全てを用いて生成されたカーネル回帰関数に基づき予測対象の環境条件に対する目的変数を算出する。このように、予測装置10は、k2近傍を用いるか否かを、状況に合わせて柔軟に切り替えることができる。
【0062】
また、予測装置10において、k2は、必要とされる予測精度に応じてあらかじめ設定することができる。このため、予測装置10は、必要な予測精度を維持しつつ算出速度を高速化することができる。
【0063】
また、予測装置10は、移動体から所定の距離以内の領域における媒質の速度、及び移動体の動力資源の残量の少なくともいずれかを含む入力データから選択された区間データを用いて、カーネル回帰関数を生成する。このように、変化が不連続でない環境条件を説明変数とすることで、k2近傍を用いたカーネル回帰を有効に活用することができる。
【0064】
なお、上記の実施例では、k2の値について、あらかじめ設定されるか、又は信頼区間幅に応じて変化させるものとしたが、予測装置10は他の方法でk2を設定してもよい。例えば、予測装置10は、ユーザによるk2の値の指定を随時受け付けるようにしてもよいし、あらかじめ設定された計算時間の上限を超えない範囲でk2をできるだけ大きい値に設定してもよい。
【0065】
[実験結果]
本実施例の方法及び従来の方法について、予測精度及び処理速度を比較する実験を行った結果を示す。ここで、従来の方法は、k2近傍を用いずに全ての学習データを使って予測値を算出するものである。つまり、従来の方法は、(3)式の計算を、n個の学習データ全てについて行うものである。このため、従来の方法では、k2近傍の作成は不要であるが、予測値の算出自体の計算量は多くなることが考えられる。一方で、本実施例では、予測値の算出自体の計算量は少なくなるが、k2近傍の作成により処理量が増加することが考えられる。
【0066】
また、ここでは、k2近傍を用いた予測値の算出を「近似計算」と呼ぶ。このため、例えば、本実施例の方法を「近似計算がある場合」、従来の方法を「近似計算がない場合」のように表記する場合がある。
【0067】
また、実験用のデータセットは、UCI Machine Learning(URL:https://archive.ics.uci.edu/ml/index.php)で公開されているPower Plantである。Power Plantは、不連続に変化する環境条件に関するデータセットといえるので、移動体の場合と同様の実験結果が得られるものと考えられる。また、Power Plantの説明変数は4次元、目的変数は1次元、学習データの数は8575、検証用の予測データの数は952である。
【0068】
図8は、誤差率を示す図である。
図8に示すように、k2=8で、近似計算がある場合とない場合とで誤差率がほぼ等しくなる。さらに、k2>8で、近似計算がある場合の誤差率は、近似計算がない場合の誤差率に収束していく。
【0069】
図9は、学習時間を示す図である。
図9の学習時間には、(4)式の信頼区間幅の計算時間が含まれる。
図9に示すように、近似計算がある場合、k2が大きくなるにつれて学習時間が長くなる。これは、k2近傍の作成の際にツリー探索を行うためである。また、k2>8192になると、近似計算がある場合の学習時間が、近似計算がない場合の学習時間より長くなる。
図10に示す予測時間についても、
図9と同様の傾向がみられる。
図10は、予測時間を示す図である。
【0070】
以上より、例えばk2=8に設定した場合、本実施例の方法は従来の方法と同等の予測精度を実現でき、さらに、学習フェーズの処理を53倍の高速に行い、予測フェーズの処理を8.7倍高速に行うことができることがわかる。
【0071】
図11は、信頼区間幅を示す図である。
図11に示すように、近似計算があるk2=8の場合とない場合とで、信頼区間幅はほぼ同じ値になる。このことは、本実施例では、近似計算を行っているにもかかわらず、近似計算を行わない場合と同等の信頼区間幅を実現できていることを示している。
【0072】
計算速度が高速化されることにより、移動体の経路選択の幅を大きくし、より細かい経路設定が可能になる。例えば、本実施例によれば、
図6に示すように、従来使用されていた円で示される経路点に、三角形で示される経路点を加えたとしても、従来と同等以上の速度で経路の最適化を行うことが可能になる。
【0073】
[システム]
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。また、実施例で説明した具体例、分布、数値等は、あくまで一例であり、任意に変更することができる。
【0074】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0075】
[ハードウェア]
図12は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図12に示すように、予測装置10は、通信インタフェース10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図12に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0076】
通信インタフェース10aは、ネットワークインタフェースカード等であり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、
図1に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0077】
プロセッサ10dは、
図1に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図3等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。すなわち、このプロセスは、予測装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、生成部151、算出部152及び決定部153と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、生成部151、算出部152及び決定部153等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0078】
このように予測装置10は、プログラムを読み出して実行することで分類方法を実行する情報処理装置として動作する。また、予測装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、予測装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータ又はサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0079】
このプログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 予測装置
11 入力部
12 出力部
13 通信部
14 記憶部
15 制御部
141 学習データ記憶部
142 カーネル情報記憶部
151 生成部
152 算出部
153 決定部