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特許7215139バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物、バイオ燃料電池用アノード、バイオ燃料電池デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物、バイオ燃料電池用アノード、バイオ燃料電池デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20230124BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230124BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20230124BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20230124BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/90 Y
H01M8/16
C09D11/52
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018235982
(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公開番号】P2020098704
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-005493(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098171(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも導電性炭素材料(A)と、窒素含有複素環化合物(B)と、を含んでなる還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物であって、
前記窒素含有複素環化合物(B)が、分子量250以上、5000未満であり、
前記バイオ燃料電池に用いられる燃料が、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸、エリソルビン酸誘導体、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種以上の有機物を含む、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物。
【請求項2】
導電性炭素材料(A)と窒素含有複素環化合物(B)との質量比が5:95~99:1であることを特徴とする請求項1記載のバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物。
【請求項3】
さらに、バインダー樹脂(C)を含んでなる請求項1又は2に記載のバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物。
【請求項4】
請求項1~いずれかに記載のバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物より形成された塗膜を有する還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード。
【請求項5】
請求項記載のバイオ燃料電池アノードと、バイオ燃料電池カソードと、還元性有機物を含む燃料とを含んでなるバイオ燃料電池デバイスであって、
前記燃料が、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸、エリソルビン酸誘導体、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種以上の有機物を含むことを特徴とするバイオ燃料電池デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物、バイオ燃料電池用アノード、およびバイオ燃料電池デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ラップトップ型コンピュータ等の携帯型電子機器の普及に加え、あらゆるモノがインターネットに接続され情報を交換するIoT社会の到来により、電源の利用形態も多種多様になりつつある。現在、主な携帯型電源としては一次電池や二次電池が挙げられ、電子機器に広く用いられている。また、将来的に使用増加が見込まれるセンサーを始めとする小型デバイスにおいては、従来の電池以外にも燃料電池や太陽光発電等の活用が検討されている。
【0003】
近年開発が進められているバイオ燃料電池は、糖やアルコール、有機酸等の有機物を燃料にして、酵素反応等により生成した電気エネルギーを利用する発電型デバイスである。カソードおよびアノードに酸化還元酵素を用いることがほとんどであり、多種多様な有機物と空気中の酸素を燃料として発電するエネルギーシステムであり、常温作動が可能、豊富な有機エネルギー源が活用可能、生体への高い安全性が利点として挙げられる(特許文献1)。しかしながら、さらなる出力特性の改善が必要なため、カーボンペーパー上に、酵素、メディエーターを固定化した電極を用いたバイオ燃料電池(特許文献2)や、炭素および/または無機化合物に、燃料、酵素、およびピレン化合物などの酵素固定化化合物からなる電極を用いたバイオ燃料電池も報告されている(特許文献3)。
一方、高価な貴金属や酵素を使用しない電極を用いて、燃料となる有機物の直接的な酸化により発電するバイオ燃料電池の検討もされている。例えばアスコルビン酸等を燃料として、アノードの触媒として貴金属を使用せずに、カーボンブラックをカーボンクロスに含浸させたものをアノードとして使用するバイオ燃料電池も報告されている(非特許文献1、特許文献4)。さらに、カーボンブラック、ポリビニルピリジン樹脂を塗布したカーボンフェルトをアノードに用いて、アスコルビン酸にイミダゾール等を併用した溶液を燃料に用いることで、発電特性を改善させる検討例も報告されている(特許文献5)。しかしながら、触媒を使用していないために出力特性はまだまだ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-310613号公報
【文献】特開2006-49215号公報
【文献】WO2012105462
【文献】WO2004019436
【文献】WO2014098171
【非特許文献】
【0005】
【文献】Electrochem.Solid-State Lett.(2003),volume 6,issue 12,257-259
【0006】
上記の燃料電池は生体に安全な有機物を燃料とするところから、生体向けのウェアラブルデバイスやインプラントデバイス等の電源としての利用も期待されている。しかしながら、現状ではカソードやアノードに高価な貴金属触媒が用いられており、材料コストに課題感があり、カソードやアノードに酵素を用いる場合は、材料コストに加えて耐久性も十分とは言えない。また、貴金属触媒や酵素を使用しない場合は、出力のさらなる改善が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、出力や耐久性に優れ、更に低コストで還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物、バイオ燃料電池アノード、バイオ燃料電池デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、少なくとも導電性炭素材料(A)と、窒素含有複素環化合物(B)と、を含んでなる還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、導電性炭素材料(A)と窒素含有複素環化合物(B)との質量比が5:95~99:1であることを特徴とする上記バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、窒素含有複素環化合物(B)が、分子量250以上、5000未満である上記バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、さらに、バインダー樹脂(C)を含んでなる上記バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、上記バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物より形成された塗膜を有する還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノードに関する。
【0013】
また、本発明は、上記バイオ燃料電池アノードと、バイオ燃料電池カソードと、還元性有機物を含む燃料とを含んでなるバイオ燃料電池デバイスに関する。
【0014】
また、本発明は、燃料が、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸、エリソルビン酸誘導体、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種以上の有機物を含むことを特徴とする上記バイオ燃料電池デバイスに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のバイオ燃料電池を用いることにより、出力および耐久性に優れた還元性有機物を燃料とする燃料電池を提供することが可能となる。また、高価な金属材料や酵素の使用を低減できるため、低コストなデバイスが作製可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、詳細に本発明について説明する。
【0017】
<バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物>
本発明のバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物は、バイオ燃料電池アノードの電極形成用として使用できる。バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物は、少なくとも、導電性炭素材料(A)と、窒素含有複素環化合物(B)と、を含有する。
導電性炭素材料と窒素含有複素環化合物との質量比は、導電性が得られれば特に限定されることはないが、好ましくは5:95~99:1、さらに好ましくは15:85~95:5である。
本発明のバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物は、バインダー樹脂、分散剤、溶剤を含んでいてもよい。
また、バインダー樹脂を含有する場合は、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ全体の固形分の0.01~40質量%であり、好ましくは0.1~30質量%であり、さらに好ましくは1~20質量%である。
また、分散剤を含有する場合は、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ全体の固形分の0.01~10質量%であり、好ましくは0.05~8質量%であり、さらに好ましくは0.1~5質量%である。
また、溶剤を含有する場合は、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ全体の固形分100質量%に対して、1~9900質量%であり、好ましくは5~1900質量%であり、さらに好ましくは25~400質量%である。
また、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物の適正粘度は、組成物の塗工方法によるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0018】
<導電性炭素材料(A)>
次に、導電性炭素材料(A)について説明する。導電性炭素材料のみでは燃料を直接酸化する効率は低いが、窒素含有複素環化合物(B)と組み合わせることで、燃料を効率良く直接酸化することが出来る。本発明で使用される導電性炭素材料とは、バイオ燃料電池として機能する導電性炭素材料であれば特に限定されるものではなく、アノード反応から電子を取り出すことが出来るものであれば良いが、電子伝導性が高いほど、アノード反応が起こりやすく、電流の増加に繋がりやすいため、好ましい。
【0019】
本発明に用いる導電性炭素材料としては、無機炭素材料が好ましい。例えば、グラファイト、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック、ナノポーラスカーボン)、活性炭、カーボンナノホーン、炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンフェルト)、グラフェン、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素がドープされた炭素材料等が挙げられる。炭素材料は、種類やメーカーによって、結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性などの様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
【0020】
グラファイトとしては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等を使用することが出来る。人造黒鉛としては、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等を使用することが出来る。また、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)や、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。
【0021】
これら黒鉛の表面は、本発明の特性を損なわない限りにおいてバインダー樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、および酸化処理等が施されていてもよい。
【0022】
また、用いるグラファイトの平均粒径は、0.5~500μmが好ましく、特に、2~100μmが好ましい。
【0023】
本発明でいう平均粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0024】
市販のグラファイトとしては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0025】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0026】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0027】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子同士の接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となるが、カーボンブラックの分散性が低くなるため、具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、10m2/g以上、3000m2/g以下、好ましくは20m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。
【0028】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0029】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラック、クノーベルMHグレード、クノーベルP(2)010グレード、クノーベルP(3)010グレード、クノーベルP(4)050グレード、クノーベルMJ(4)030グレード、クノーベルMJ(4)010グレード等の東洋炭素社製のナノポーラスカーボン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0030】
活性炭としては、具体的にはフェノール系、ヤシガラ系、レーヨン系、アクリル系、石炭-石油系ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を賦活した活性炭を挙げることができる。同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m/g以上が好ましく、より好ましくは500~5000m/g、さらに好ましくは1000~3000m/gである。
【0031】
炭素繊維としては、石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料から焼成して得られるものも用いることが出来る。また、カーボンナノチューブには、グラフェンシートが一層でナノメートル領域の直径を有するチューブを形成する単層カーボンナノチューブと、グラフェンシートが多層である多層カーボンナノチューブがある。そのため、多層カーボンナノチューブの直径は、典型的な単層カーボンナノチューブの0.7~2.0nmに対して、30nmと大きい値を示す。
【0032】
市販の炭素繊維としては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.0,EC1.5,EC2.0,EC1.5-P等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T等が挙げられる。
【0033】
<窒素含有複素環化合物(B)>
次に、窒素含有複素環化合物(B)について説明する。窒素含有複素環化合物のみでは燃料を直接酸化することは出来ないが、導電性炭素材料(A)と組み合わせることで、燃料を直接酸化することが出来る。
本発明で使用される窒素含有複素環化合物(B)としては、少なくとも窒素原子を1つ以上含み、さらに酸素原子、硫黄原子、リン原子を含んでも良い、芳香族あるいは脂肪族の環状化合物のことをいう。
そのような窒素含有複素環化合物(B)の具体例としては、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、アザトロピリデン、チアゾール、イミダゾリン、チアジン、トリアゾール、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、ベンゾトリアゾール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、カルバゾール、アクリジンなどの低分子窒素含有複素環化合物、また、これらの環を含む単量体の重合体を例示できる。
また、窒素含有複素環化合物(B)の好ましい例としては、窒素含有有機顔料が挙げられ、具体的には、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ポルフィリン顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンズイミダゾロン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、キノリン顔料、インダノン顔料、スピロ顔料、アゾバルビツール酸顔料、チアジンインジゴ顔料、トリアジン顔料、カルバゾール顔料などを挙げることが出来る。
これらの顔料は、誘導体や金属錯体であっても良く、例えばフタロシアニンの例を示すと、フタロシアニン、ナフタロシアニンや2,9,16,23-テトラ-tert-ブチルフタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、フタロシアニンの金属錯体やフタロシアニン誘導体の金属錯体などのことを示す。また、金属錯体に使用する遷移金属は、銅、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、バナジウム、亜鉛、スズ、アルミニウム、マグネシウムなどから選ばれる一種以上を含有する。
【0034】
これらの具体的な窒素含有有機顔料としては、
赤色顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、12、14、15、16、17、21、22、23、31、32、37、38、41、47、48、48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、50:1、52:1、52:2、53、53:1、53:2、53:3、57、57:1、57:2、58:4、60、63、63:1、63:2、64、64:1、68、69、81、81:1、81:2、81:3、81:4、112、114、122、123、144、146、147、149、151、166、169、170、173、175、176、177、178、179、181、183、184、185、187、188、190、193、194、200、202、206、207、208、209、210、214、220、221、237、238、239、242、243、245、247、249、250、251、253、254、255、256、257、258、260、262、263、264、266、267、268、269、270、271、272、273、274、276などを挙げることができる。
【0035】
赤色顔料と同様にはたらくオレンジ色顔料としては、例えばC.I.ピグメント オレンジ36、38、43、51、55、59、61、62、64、66、69,71等のオレンジ色顔料を用いることができる。
【0036】
青色顔料としては、例えばC.I.ピグメントブルー1、9、14、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、19、25、56、60、61、61:1、62、63、66、68、75、76、78、79などを挙げることができる。
【0037】
緑色顔料としては、例えばC.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、13、18、36、48、58を挙げることができる。
【0038】
黄色顔料としては、例えばC.I.ピグメントイエロー1、1:1、2、3、4、5、6、9、10、12、13、14、16、17、24、34、55、61、62、62:1、63、64、65、73、74、75、81、83、87、93、94、95、97、100、101、104、105、108、109、110、111、116、117、120、126、127、127:1、128、129、133、134、136、138、139、142、147、148、150、151、153、154、155、165、166、167、168、169、170、172、173、174、175、176、180、181、182、183、185、188、190、191、191:1、192、193、194、195、198、199、202、203、204、205、206などを挙げることができる。
【0039】
紫色顔料としては、例えばC.I.ピグメントバイオレット1、2、2:2、3、19、23、25、27、29、32、37、39、42、44、50などを挙げることができる。
【0040】
本発明で使用する窒素含有複素環化合物の分子量は、電解液に溶解する等の不具合がなければ特に限定はされないが、好ましくは分子量250以上、5000未満である。分子量が小さいと、電解液に溶解して電極構造が崩壊してしまい発電特性を損ねてしまう可能性がある。一方、分子量が大きいと、導電性炭素材料との均一な混合が難しくて導電性炭素材料との接触が不均一になりやすく、電極の導電性を低下させてしまったりして発電特性を損ねてしまうことがある。
【0041】
<バインダー樹脂(C)>
次に、バインダー樹脂(C)について説明する。バインダー樹脂を使用することで、導電性炭素材料(A)と窒素含有複素環化合物(B)や、それらと基材を強く結着させることが出来るため、良好な発電特性や耐久性を向上させることが出来る。バインダー樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、EVA系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、及びシリコン系樹脂等からなる群から選ばれる1種以上を含むことができる。ただし、これらの樹脂に限定されるわけではなく、バインダー樹脂は1種単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
このようなバインダー樹脂は、有機溶剤に溶解させて使用する溶剤系樹脂や、水に溶解ないし分散させて使用する水系樹脂を使用することが出来る。
また、バインダー樹脂は、導電性炭素材料と窒素含有複素環化合物とバインダー樹脂を混合したバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物を作製後に、硬化(架橋)反応を受ける、硬化性樹脂とすることもできる。バインダー樹脂は、自己硬化性のものを選択したり後述する硬化剤と組み合わせたりして、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物を基材上へ塗工後、硬化(架橋)させることもできる。
【0042】
有機溶剤に溶解させて使用する溶剤系樹脂について説明する。
【0043】
<ポリウレタン樹脂>
ポリウレンタン樹脂の合成方法としては特に限定はされないが例えば、ポリオール化合物(a)とジイソシアネート(b)とを反応させたり、ポリオール化合物(a)とジイソシアネート(b)とカルボキシル基を有するジオール化合物(c)とを反応させてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)を得たり、前記ウレタンプレポリマー(d)にポリアミノ化合物(e)をさらに反応させたり、あるいは前記3つの場合において、必要に応じて反応停止剤を反応させて得られるものなどが挙げられる。
【0044】
ポリオール化合物(a) としては、一般にポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分として知られている、各種のポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエングリコール類、またはこれらの混合物等が使用できる。
【0045】
上記ポリオール化合物の数平均分子量(Mn)は、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物を製造する際のポリウレタン樹脂の溶解性、形成されるバイオ燃料電池アノードの耐久性や結着強度等を考慮して適宜決定されるが、通常は580~8000の範囲が好ましく、さらに好ましくは1000~5000である。
上記ポリオール化合物は、単独で用いても、2種類以上併用してもよい。更に、ポリウ
レタン樹脂の性能が失われない範囲内で、上記ポリオール化合物の一部を低分子ジオール類、例えば前記ポリオール化合物の製造に用いられる各種低分子ジオールに替えることもできる。
【0046】
ジイソシアネート化合物(b)としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、またはこれらの混合物を使用できるが、特にイソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0047】
カルボキシル基を有するジオール化合物(c)としては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸等のジメチロールアルカン酸、ジヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。特に反応性、溶解性の点からジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が好ましい。
ポリオール化合物(a)とジイソシアネート(b)とカルボキシル基を有するジオール化合物(c)とを反応させ、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)を得る際の条件は、イソシアネート基を過剰にする他にとくに限定はないが、イソシアネート基/水酸基の当量比が1.05/1~3/1の範囲内であることが好ましい。更に好ましくは1.2/1~2/1である。また、反応は通常常温~150℃の間で行なわれ、更に製造時間、副反応の制御の面から好ましくは60~120℃の間で行なわれる。
【0048】
ポリアミノ化合物(e)は、鎖延長剤として働くものであり、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4′-ジアミン、ノルボルナンジアミンの他、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するアミン類も使用することができる。なかでも、イソホロンジアミンが好適に使用される。
【0049】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)とポリアミノ化合物(e)を反応させてポリウレタン樹脂を合成するときに、得られるポリウレタン樹脂の分子量を調整する為に反応停止剤を併用することができる。反応停止剤としては、ジ-n-ブチルアミン等のジアルキルアミン類、ジエタノールアミン等のジアルカノールアミン類や、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が使用できる。
【0050】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)と、ポリアミノ化合物(e)、および必要に応じて反応停止剤を反応させる際の条件はとくに限定はないが、ウレタンプレポリマーの両末端に有する遊離のイソシアネート基を1当量とした場合、ポリアミノ化合物(e)および反応停止剤中のアミノ基の合計当量が0.5~1.3の範囲内であることが好ましい。更に好ましくは0.8~0.995の範囲内である。
ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、5000~200000の範囲が好ましい。
【0051】
ポリウレタン樹脂の合成時には、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、カーボネート系溶剤、水等から選ばれる一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
<ポリアミド樹脂>
本発明に用いられるポリアミド樹脂とは、基本的に二塩基酸とジアミンの重縮合、アミノカルボン酸の重縮合、或いはラクタムの開環重合などの各種反応で得られるアミド結合を有する高分子の総称であり、各種の変性ポリアミドをはじめ、一部水素添加された反応物で製造されたもの、他のモノマーが一部共重合された製造物、或いは各種添加剤などの他の物質が混合されたものなどを含む広い概念である。
【0053】
本発明に用いられるポリアミド樹脂は上記のような条件が満たされれば特に限定されないが、ダイマー酸を主成分とする二塩基酸とポリアミン類とを縮合重合させて得られるダイマー酸変性ポリアミド樹脂が好ましい。ダイマー酸変性ポリアミド樹脂を製造する際のダイマー酸としては、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸などに含まれる天然の一塩基性不飽和脂肪酸を重合したダイマー酸が工業的に広く用いられるが、原理的には、飽和脂肪族、不飽和脂肪族、脂環式、或いは芳香族などの各種ジカルボン酸などであってもよい。
上記ダイマー酸以外に、適当な柔軟性を有するポリアミド樹脂にするため、二塩基酸として各種のジカルボン酸を用いることができる。
【0054】
さらに、二塩基酸としてフェノール性水酸基を有するものも使用できる。フェノール性水酸基を有する二塩基酸を使用することによって、ポリアミド樹脂の側鎖にフェノール性水酸基を導入することができ、硬化剤との反応に利用することができる。
【0055】
さらに、加熱時に適当な流動性を有するポリアミド樹脂にするため、必要に応じて各種のモノカルボン酸を用いる。
上記ダイマー酸変性ポリアミド樹脂を製造する際の反応物としてのポリアミン類は、例えば、脂肪族、脂環式、芳香族などの各種ジアミン、トリアミン、ポリアミンなどである。
【0056】
<水系樹脂>
次に水系樹脂について説明する。水系樹脂は、水に溶解させて使用する水溶性樹脂や、水には不溶な樹脂微粒子を水中で分散させて使用する水性樹脂微粒子(一般的には水性エマルションと呼ばれる)が挙げられる。これらの樹脂は、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0057】
水溶性樹脂としては、上述の通り水溶性を示す樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール誘導体、キサンタンガム誘導体、グァーガム誘導体、キトサン誘導体、セルロース誘導体、アルギン酸、アルギン酸誘導体、コーンスターチ誘導体等が挙げられる。また、水溶性であれば、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これら水溶性樹脂は、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
水溶性樹脂の分子量は特に限定されないが、好ましくは重量平均分子量が5,000~2,500,000である。重量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリエチレンオキサイド換算分子量を示す。
【0058】
水性樹脂微粒子としては、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(スチレン・ブタジエンゴム(SBR)など)、フッ素系エマルション(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)等が挙げられる。水溶性高分子と異なり、エマルションは粒子間の結着性と柔軟性(膜の可とう性)に優れるものが好ましい。
【0059】
(水性樹脂微粒子の粒子構造)
また、本発明に用いる水性樹脂微粒子の粒子構造は、多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部、またはシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。
【0060】
(水性樹脂微粒子の粒子径)
本発明に用いる水性樹脂微粒子の平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の点から、10~500nmであることが好ましく、10~300nmであることがより好ましい。また、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになると粒子の安定性が損なわれるので、1μmを超える粗大粒子は多くとも5%以下であることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
【0061】
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。架橋型樹脂微粒子分散液は固形分に応じて200~1000倍に水希釈しておく。該希釈液約5mlを測定装置[(株)日機装社製マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)および樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを本発明の平均粒子径とする。
【0062】
<(メタ)アクリル系エマルション>
次に、(メタ)アクリル系エマルションについて説明する。(メタ)アクリル系エマルションとは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体を10質量部以上含有する乳化重合物であり、好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上含有されているとよい。アクリロイル基を有する単量体は反応性に優れるため、樹脂微粒子を比較的容易に作製することができる。また、(メタ)アクリル系エマルションによるバイオ燃料電池アノードは結着性に優れる。
【0063】
<本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の製造方法>
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
【0064】
<乳化重合で用いられる乳化剤>
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0065】
<反応に用いられるその他の材料>
さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0066】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の重合にカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体などの酸性官能基を有する単量体を使用した場合、重合前や重合後に塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;2-ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;モルホリンなどの塩基で中和することができる。ただし、乾燥性に効果が高いのは揮発性の高い塩基であり、好ましい塩基はアミノメチルプロパノール、アンモニアである。
【0067】
<溶剤>
次に、溶剤について説明する。バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物中の材料を均一に混合する場合、溶剤を適宜用いることが出来る。そのような溶剤としては、有機溶剤や水を挙げることが出来る。
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などの内から触媒インキ組成物の組成に応じ適当なものが使用できる。また、溶剤は2種以上用いてもよい。
また、水を使用する場合は、例えば、触媒インキ組成物の分散性や基材への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用しても良い。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。
【0068】
更に、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物には、増粘剤、分散剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0069】
<バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物の調製方法>
バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物の調製方法に特に限定されるものではない。調製方法は、
(1)各成分を同時に分散しても良いし、
(2)導電性炭素材料を溶剤中に分散後、他の材料を添加しても良いし、
(3)導電性炭素材料と窒素含有複素環化合物とを溶剤中に分散後、他の材料を添加しても良いし、
(4)導電性炭素材料とバインダー樹脂とを溶剤中に分散後、他の材料を添加しても良いし、
使用する導電性炭素材料、窒素含有複素環化合物、バインダー樹脂、溶剤により選択することができる。
【0070】
<分散機・混合機>
バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0071】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。また、強い衝撃で触媒担持炭素材料が割れやすいあるいは潰れやすい場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
【0073】
<バイオ燃料電池アノード>
バイオ燃料電池アノードは、バイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物を基材に塗布などして塗膜を形成させ作製することが出来る。
【0074】
<基材>
本発明のアノードで使用する基材としては、耐腐食性、電気伝導性に優れ、表面積が大きく、反応物及び生成物の拡散に優れるものが良く、材質や形状は特に限定されない。例えばグラファイトペーパー(カーボンペーパー)、グラファイトクロス(カーボンクロス)及びグラファイトフェルト(カーボンフェルト)等のカーボン材料の他、ステンレスメッシュ、銅メッシュや白金メッシュ等の金属材料を用いることができるが、この限りではない。電極に用いる導電性基材には、予め撥水処理しても良い。例えば、PTFEの分散液をカソードに含浸させ、乾燥後400℃前後で加熱することで撥水性が発現する。また、PTFE分散液には導電材を分散させても良い。なお、撥水処理はこれらに限定されるものではない。
【0075】
<塗工方法>
本発明のバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物を基材に塗布する方法は、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。例示すると、グラビアコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等が使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0076】
<バイオ燃料電池デバイス>
本発明のバイオ燃料電池デバイスは、前記バイオ燃料電池アノードと、バイオ燃料電池カソードと、還元性有機物を含む燃料とを含んでなる。必要に応じて、セパレーター、イオン伝導体を含んでいてもよい。
【0077】
<バイオ燃料電池カソード>
バイオ燃料電池カソードは、酸素還元触媒を用いる以外には、従来公知の方法や前記アノードと同様の材料構成およびプロセスで作製することが出来る。
酵素還元触媒は、バイオ燃料電池カソードに用いられる公知の酵素を使用することができる。
【0078】
<燃料>
本発明のバイオ燃料電池に用いられる燃料は、電極上で直接酸化可能な1種類以上の還元性有機物を含む。アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸、エリソルビン酸誘導体、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド誘導体、ニコチンアミドアデニンジヌクレオリン酸、クエン酸、酒石酸等が例示できる。ここで、誘導体とは、酸エステル、酸アミドなどのアルコールやアミンとの縮合物のほか、アルキル基などの置換基で置換したものを含む。
中でもアスコルビン酸、エリソルビン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオリン酸、およびそれらの誘導体は好ましく、更にアスコルビン酸は好ましい。
【0079】
<セパレーター>
セパレーターとしては、カソードとアノードを電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、フェルト、濾紙、和紙等を用いることができる。また、カソードとアノードが十分な距離を保ち接触による短絡が無い構造を取るならば、セパレーターを用いなくてもよい。
【0080】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては例えば、リン酸緩衝液などの液体に電解質が溶けている電解液や、固体のポリマー電解質などを使用しても良い。固体のポリマー電解質はセパレーター機能も兼ねる場合もある。
【0081】
<バイオ燃料電池デバイスの用途>
本発明における還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池は前述の様に、発電した電力を用いた電源、電源とセンサーを兼ねる自己発電型センサー、有機物センサーや水分センサー等として機能し、これらは様々な用途での利用が見込まれる。使い方としては、電源として別方式の電池(コイン電池など)、センサーとして本発明の還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイスを利用したり、電源及びセンサーに本発明の還元性有機物を燃料とする燃料電池デバイスを1種類以上利用したり、電源として本発明の還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したりすることができる。
【0082】
本発明における還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイスの電源用途としては、例えば、家庭用電源、モバイル機器用の電源、使い捨て電源、生体用ウェアラブル電源・インプラント電源、バイオマス燃料用電源、IoTセンサー用電源、周囲の還元性有機物を燃料として発電できる環境発電(エネルギーハーベスト)電源などが挙げられる。
【0083】
センサーの用途としては、例えば、還元性有機物を対象とした有機物センサー、血液や汗、尿、便、涙、唾液、呼気などの生体試料中の還元性有機物や体液を対象とした生体センサー、水分を対象にした水分センサー、果物や食品中の還元性有機物を対象にした食品用センサー、IoTセンサー、大気や河川、土壌など環境中の還元性有機物を対象にした環境センサー、動物や昆虫、植物を対象にした動植物センサー等が挙げられ、上記は電源とセンサーを兼ねる自己発電型センサーであっても良いし、電源としては利用しないセンサーとしての利用だけでも良い。生体センサーとしては、例えば、汗や尿中の水分をセンシングする発汗センサーや排尿センサー等が挙げられる。また、生体向けのウェアラブルセンサーとしての用途として例えば、おむつ内にセンサーを仕込んだ排尿センサーや経皮貼付型の発汗センサーなどが挙げられる。
IoTセンサーとしては、無線機とセンサーを組み合わせ、センシング情報をワイヤレスで外部に送信する使い方ができる。その場合、本発明の還元性有機物を燃料とする燃料電池デバイスを好適に使用することができる。
例えば、無線機の電源及びセンサーとして還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイスを利用したり、無線機の電源に還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイス、センサーとして別の還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイスを利用したり、無線機の電源に還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機及びセンサーの電源に1種以上の還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機の電源に別方式の電池(コイン電池など)、センサーとして還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイスを利用したりすることができる。
上記のIoTセンサーをおむつ用の生体センサーとして利用する場合は、おむつ内に還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池デバイスを仕込み、例えば下記の様な使い方が出来る。排尿センサーの場合、予め燃料を内蔵し尿中の水分をセンシング対象とし、また同時に水分を利用し発電し得られた電力で無線機を作動したり、予め燃料を内蔵し尿中の水分を利用し発電し得られた電力で無線機及び別方式の排尿センサーを作動したり、予め燃料を内蔵し尿中の水分をセンシング対象とし、別方式の電池(コイン電池など)の電力で無線機を作動したりできる。
【実施例
【0084】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、部、%は、特に断らない限り、質量部、質量%を表し、Mwは重量平均分子量を意味する。
【0085】
<合成例(1)バインダー樹脂溶液>
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP-2011」、Mn=2011)455.5部、ジメチロールブタン酸16.5部、イソホロンジイソシアネート105.2部、トルエン140部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン360部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、イソホロンジアミン19.9部、ジ-n-ブチルアミン0.63部、2-プロパノール294.5部、トルエン335.5部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液969.5部を添加し、50℃で3時間続いて70℃2時間反応させ、トルエン126部、2-プロパノール54部で希釈し、Mw=61,000、酸価=10mgKOH/g、ウレタンプレポリマーの両末端に有する遊離のイソシアネート基に対してポリアミノ化合物および反応停止剤中のアミノ基の合計当量は0.98である、ポリウレタン樹脂溶液を得た。この溶液をトルエン/メチルエチルケトン/2-プロパノール(1/1/1)で希釈して固形分20%のバインダー樹脂(C-1)の溶液を得た。
【0086】
<還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物の調製>
[実施例A1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)40部、鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)20部、バインダー樹脂としてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)40部(固形分50%)、溶剤として水380部、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液20部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物(1)を得た。
【0087】
[実施例A2~A9]
表1に示す材料を用いて実施例1と同様の方法で、還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物(2)~(9)を得た。
【0088】
[比較例A1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)70部、バインダー樹脂としてポリフッカビニリデン#1700(クレハ社製)30部、溶剤としてN-メチルピロリドン400部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物(I)を得た。
【0089】
[比較例A2]
鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)60部、バインダー樹脂としてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)40部(固形分50%)、溶剤として水380部、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース20部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物(II)を得た。
【0090】
[比較例A3]
アセチレンブラックHS-100(デンカ社製)60部、バインダー樹脂としてポリ(4-ビニルピリジン)(Mw=160,000、Sigma-Aldrich社製)、溶剤としてN-メチルピロリドン400部、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース20部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物(III)を得た。
【0091】
<還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノードの作製>
[実施例B1~B9、比較例B1~B3]
実施例A1~A9、比較例A1~A3の還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード用触媒インキ組成物(1)~(9)、(I)~(III)を、ドクターブレードにより、乾燥後の還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノード触媒層の目付け量が1.5mg/cmとなるように、導電性基材(カーボンペーパー、東レ社製)上に塗布し、100℃オーブン中で、1時間乾燥し、還元性有機物を燃料とするバイオ燃料アノード(1)~(9)、(I)~(III)を作製した。
【0092】
<還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池アノードの発電特性評価>
作用極に表1に示す前記で作製した還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池用アノード、対極に白金線コイル、参照極にAg/AgCl電極、還元性有機物燃料であるアスコルビン酸が10mMとなるように添加した100mMリン酸緩衝液(pH7.0)を電解液として電気化学セルを作製した。次に、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、室温下で、測定電位-0.1~+0.1Vの範囲でLinear Sweep Voltammetry(LSV)測定を行い、測定電位+0.1Vにおける電流(μA/cm)を算出した。評価結果を表2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
A-1:グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)
A-2:アセチレンブラックHS-100(デンカ社製)
A-3:ケッチェンブラックEC-300J(ライオン社製)
B-1:鉄フタロシアニン(山陽色素社製、分子量568.38)
B-2:銅(II) 5,9,14,18,23,27,32,36-オクタブトキシ-2,3-ナフタロシアニン(Sigma-Aldrich社製、分子量1353.15)
B-3:カルバゾール(東京化成社製、分子量167.21)
B-4:ピグメントレッド255(東京化成社製、分子量288.31)
B-5:フタロシアニン(東京化成社製、分子量514.55)
B-6:5-アミノベンゾイミダゾール(東京化成社製、分子量133.15)
B-7:ポリビニルイミダゾール(丸善石油化学社製、分子量10,000)
B-8:イミダゾール(東京化成社製、68.08)
C-1:ポリウレタン樹脂溶液(合成例(1)、固形分20%)
C-2:アクリル樹脂分散溶液W-168(トーヨーケム社製、固形分50%)
C-3:ポリフッ化ビニリデン#1700(クレハ社製)
C-4:ポリ(4-ビニルピリジン)(Sigma-Aldrich社製)

D-1:カルボキシルメチルセルロース
D-2:ポリビニルピロリドン

NMP:N-メチルピロリドン
TMP:トルエン/メチルエチルケトン/2-プロパノール(1/1/1)
【0095】
<還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池カソードの作製>
実施例1のグラフェンナノプレートレットxGnP-C-750と鉄フタロシアニン P-26をカソード用炭素触媒に変更した以外は、実施例A-1と同様の方法でバイオ燃料電池カソード用触媒インキを作製し、実施例B-1と同様の方法でバイオ燃料電池用カソードを作製した。
尚、カソード用炭素触媒は、ケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(ケッチェンブラック/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た後、上記混合物をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行って合成したものを使用した。
【0096】
<還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池の作製>
[実施例C1~C9、比較例C1~C3]
上記で作製したバイオ燃料電池カソード、バイオ燃料電池アノードと、アスコルビン酸が10mMとなるように添加した100mMリン酸緩衝液(pH7.0)を電解液としてろ紙に浸み込ませたセパレーターをカソードとアノードの間に挟んで還元性有機物を燃料とするバイオ燃料電池を作製し、室温下でLSV測定により出力特性を評価した。出力特性は、LSV測定から算出した比較例1の最大出力に対する各実施例における最大出力の百分率(%)で比較し、以下の基準で評価した。
◎:比較例1に対する最大出力の百分率が300%以上。
〇:比較例1に対する最大出力の百分率が200%以上、300%未満。
○△:比較例1に対する最大出力の百分率が150%以上、200%未満。
△:比較例1に対する最大出力の百分率が100%以上150%未満。
×:比較例1に対する最大出力の百分率が100%未満。
【0097】
【表2】
【0098】
実施例B1~B9の結果から、比較例に対して良好な発電特性を示すことが明らかとなったため、本発明の導電性炭素材料と窒素含有複素環化合物を組み合わせたバイオ燃料電池アノード用触媒インキにより、還元性有機物に対して良好な触媒特性を実現出来たものと考えられる。特に実施例B1、B2、B4、B5の出力特性が良好であった。導電性炭素材料と窒素含有複素環化合物の組成比のバランスや、窒素含有複素環化合物の分子量が適度に大きかったため、触媒層の導電パス(ネットワーク)が非常に良好であったことや、窒素含有複素環化合物が電解液に対して溶解しにくくアノードの構造が崩壊しなかったために発電特性が良好であったのではないかと考えられる。
一方、実施例C1~C9の結果から、比較例に対して良好な出力特性を示すバイオ燃料電池として作動することも明らかとなった。本発明の導電性炭素材料と窒素含有複素環化合物を組み合わせたバイオ燃料電池アノード用触媒インキにより、還元性有機物に対して良好な触媒特性を実現出来たことが明らかとなった。