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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】外側ジョイント部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/14 20060101AFI20230124BHJP
   B21J 5/12 20060101ALI20230124BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
B21K1/14 A
B21J5/12 Z
F16D3/20 J
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018243518
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020104130
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 陽平
(72)【発明者】
【氏名】中尾 一紀
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 健一
(72)【発明者】
【氏名】福田 修平
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-090332(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179928(WO,A1)
【文献】特開2013-000782(JP,A)
【文献】特開2007-270345(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0098963(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0022314(US,A1)
【文献】米国特許第05295382(US,A)
【文献】特許第6442752(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/14
B21J 5/12
F16D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のカップ部と、
前記カップ部の底部から延びる軸状の部位であって、外周面にスプライン歯が形成されたスプライン軸を有する軸部と、
を備えた外側ジョイント部材の製造方法であって、
成形材料に対する、前記カップ部の外周面の形状、前記カップ部の内周面の形状、及び、前記スプライン軸の形状の鍛造成形を、鍛造ダイス及びパンチを用い、前記パンチで成形材料を前記鍛造ダイスに押しこむ鍛造工程の中の一工程で同時に行う、外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項2】
前記鍛造ダイスは、
前記カップ部の外周面に対するしごき加工を行うしごきダイス部と、
前記しごきダイス部に対して相対的な位置が固定されており、前記軸部の前記スプライン軸に対する鍛造加工を行うスプライン加工ダイス部と、を備え、
前記鍛造工程は、
前記パンチによる前記カップ部の内周面の鍛造加工、前記しごきダイス部による前記カップ部の外周面のしごき加工、及び、前記スプライン加工ダイス部による前記軸部の前記スプライン軸の鍛造加工を同時に行う、請求項1に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項3】
前記鍛造工程は、
成形材料に対し、前記カップ部及び前記軸部の荒鍛造を行う荒鍛造工程と、
荒鍛造された成形材料に対し、前記カップ部の外周面、前記カップ部の内周面及び前記軸部の仕上鍛造を行いつつ、前記スプライン軸の形状を鍛造成形する仕上鍛造工程と、
を備える、請求項1又は2に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項4】
前記カップ部の外周面の形状、前記カップ部の内周面の形状、及び、前記スプライン軸の形状は、温間鍛造により同時に鍛造成形される、請求項1-3の何れか一項に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項5】
前記鍛造ダイスは、前記スプライン軸の外形形状に対応する内周面形状を有し、鍛造加工において前記スプライン軸となる部位に前記スプライン歯を成形するスプライン成形部を備え、
前記スプライン成形部は、
前記スプライン軸に形成される複数の歯溝に対応する複数のスプライン成形歯と、
前記複数のスプライン成形歯の各々に対し、鍛造加工時に前記成形材料が挿入される前記鍛造ダイスの入口側に連続して形成され、前記入口側へ向かうにつれて先細りとなる先端歯と、を備え、
各々の前記スプライン成形歯は、
前記スプライン軸の各々の歯溝底面に対応する成形歯頂面と、
前記スプライン軸の各々の歯溝側面に対応する一対の成形歯側面とを備え、
各々の前記先端歯は、
前記成形歯頂面に対して前記入口側に連続し、前記入口側へ向かうにつれて高さ寸法が小さくなる先端歯頂面と、
前記一対の成形歯側面に対して前記入口側に連続し、前記入口側へ向かうにつれて周方向における幅寸法が小さくなる一対の先端歯側面と、を備える、請求項1-の何れか一項に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項6】
前記先端歯頂面は、前記入口側へ向かうにつれて周方向における幅寸法が小さくなる、請求項に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項7】
前記先端歯は、前記入口側の端部において、前記先端歯頂面と前記先端歯側面とが一点に収束するように尖った槍状に形成される、請求項に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項8】
前記鍛造ダイスは、
前記スプライン軸の外形形状に対応する内周面形状を有し、鍛造加工において前記スプライン軸となる部位に前記スプライン歯を成形するスプライン成形部と、
前記スプライン成形部よりも、鍛造加工時に前記成形材料が挿入される前記鍛造ダイスの入口側に形成され、前記成形材料が径方向へ変位することを規制する規制面を有する規制部と、を備える、請求項1-の何れか一項に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項9】
前記規制面は、鍛造加工において前記スプライン成形部に挿入される前記成形材料の外径に対応する内径を有する円筒内周面である、請求項に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【請求項10】
前記鍛造ダイスは、前記規制部よりも前記入口側に形成され、前記入口側へ向かうにつれて内径が拡径する案内部を備える、請求項に記載の外側ジョイント部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側ジョイント部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有底筒状の外側ジョイント部材と、外側ジョイント部材の内側に配置される内側ジョイント部材と、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との間でトルクの伝達を行うボールとを備えた等速ジョイントが知られている。
【0003】
特許文献1には、加熱されたワーク(成形材料)に塑性変形加工を施す工程と、塑性変形加工が施されたワークに熱処理を施す工程と、熱処理を施したワークにしごき加工を施す工程とを備えた外輪部材(外側ジョイント部材)の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、等速ジョイントに設けられた駆動軸(軸部)に転造加工を施して雄スプラインを形成した後、雄スプラインに高周波焼入れを施す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-270345号公報
【文献】特開2005-231475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の外側ジョイント部材の製造方法は、工程が多く、サイクルタイムが長くなる。
【0006】
本発明は、サイクルタイムの向上を図ることができる外側ジョイント部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、有底筒状のカップ部と、
前記カップ部の底部から延びる軸状の部位であって、外周面にスプライン歯が形成されたスプライン軸を有する軸部と、
を備えた外側ジョイント部材の製造方法であって、
成形材料に対する、前記カップ部の外周面の形状、前記カップ部の内周面の形状、及び、前記スプライン軸の形状の鍛造成形を、鍛造ダイス及びパンチを用い、前記パンチで成形材料を前記鍛造ダイスに押しこむ鍛造工程の中の一工程で同時に行う、外側ジョイント部材の製造方法にある。この製造方法によれば、スプライン軸の成形を鍛造工程とは別に行う場合と比べて、サイクルタイムの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の製造方法で製造された外側ジョイント部材を備えた等速ジョイントの軸方向断面を示す図である。
図2】外側ジョイント部材の製造工程を示すフローチャートである。
図3】外側ジョイント部材の製造工程の中で実行される鍛造工程を示すフローチャートである。
図4】鍛造工程で鍛造加工された成形材料の形状を、一工程ごとに示した図である。
図5A】ダイスに成形材料を配置した状態であって、パンチで成形材料を押し出す前の状態を示す図である。
図5B】ダイスに配置された成形材料をパンチで押し出した状態を示す図である。構成する工程と基材の温度との関係を示す図である。
図6A】第二ダイスを中心軸線方向から見た図である。
図6B図6AのVIB-VIB線における第二ダイスの断面図である。
図7A図6Bの一部を拡大した図であって、成形材料のスプライン軸となる部位が規制部に挿入された状態を示す。
図7B図7Aとの比較例を示す図であって、スプライン成形部に先端歯が形成されていない第二ダイスの規制部に成形材料が挿入された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1.等速ジョイント100の概略構成)
以下、本発明に係る外側ジョイント部材の製造方法について、図面を参照しながら説明する。まず、図1を参照して、本発明の製造方法により製造される外側ジョイント部材を用いた等速ジョイント100の概略構成について説明する。
【0010】
ここで、一般に、等速ジョイントは、少なくとも、外側ジョイント部材と、内側ジョイント部材と、転動体とを備える。等速ジョイントは、例えば、フロントドライブシャフトのアウトボードジョイントとして好適に使用されるものであり、ボール型ジョイント、トリポード型ジョイント等、種々のジョイントを適用できる。また、ボール型ジョイントの例としては、固定式ボール型等速ジョイント(BJ、UFJ等)、スライド式ボール型等速ジョイント(DOJ、LJ等)等がある。本実施形態では、等速ジョイントが、固定式ボール型等速ジョイントである場合を例に挙げて説明する。
【0011】
図1に示すように、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と、内側ジョイント部材20と、転動体としての6つのボール30と、保持器40とを備える。なお、図1では、内側ジョイント部材20、ボール30及び保持器40が仮想線(一点鎖線)で図示されている。
【0012】
外側ジョイント部材10は、中心軸線L1方向一方側(図1左側)が開口する有底筒状のカップ部11と、中心軸線L1方向他方側(図1右側)へ延び、カップ部11に一体形成される軸部12とを備える。カップ部11には、凹球面状の内周面11aに中心軸線L1方向に延びる外側ボール溝部11bが形成される。軸部12は、カップ部11の底部から延びる軸状の部位である。軸部12には、図示しない他の動力伝達軸に連結されるスプライン軸13と、外周面におねじが形成されたネジ軸14と、ネジ軸14に設けられたカシメ溝部15とが形成される。スプライン軸13は、軸線方向に延びる複数のスプライン歯13aが外周面に形成された雄スプラインである。
ている。
【0013】
内側ジョイント部材20は、環状に形成され、凸球面状の外周面20aに中心軸線L2方向に延びる内側ボール溝部20bが形成される。保持器30には、ボール40を1つずつ収容して保持可能な複数の窓部30aが形成される。保持器30は、外側ジョイント部材10の内周面11aと内側ジョイント部材20の外周面20aとの間に配置される。そして、保持器30に保持されたボール40は、外側ボール溝部11bと内側ボール溝部20bとの間に転動可能に配置される。
【0014】
内側ジョイント部材20は、ボール40を転動させながら、外側ジョイント部材10に対してジョイント中心Oまわりに相対回転する。即ち、内側ジョイント部材20は、外側ジョイント部材10に対して角度(ジョイント角)をとることができる。保持器30は、ボール40の転動に伴ってジョイント中心Oまわりを回転する。保持器30に保持されたボール40は、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルクの伝達を行う。
【0015】
(2.外側ジョイント部材10の製造工程)
次に、図2に示すフローチャートを参照しながら、外側ジョイント部材10の製造工程を説明する。
【0016】
図2に示すように、外側ジョイント部材10の製造工程は、最初の工程として、外側ジョイント部材10を形成する成形材料B(ビレット)を加熱する加熱工程(S1)を実行する。加熱工程(S1)が終了すると、外側ジョイント部材10の製造工程は、加熱された成形材料Bに対する鍛造加工を行う鍛造工程(S2)を実行する。この鍛造工程(S2)における鍛造加工は、温間鍛造であり、加熱工程(S1)で加熱された成形材料Bに対する塑性変形加工を行う。鍛造工程(S2)において、成形材料Bには、カップ部11及び軸部12が形成されると共に、軸部12には、スプライン軸13となる部位に複数のスプライン歯13aが形成される。なお、鍛造工程(S2)の詳細については、後述する。
【0017】
鍛造工程(S2)が終了すると、外側ジョイント部材10の製造工程は、鍛造加工後の成形材料Bを冷却する第一冷却工程(S3)を実行する。ここで、外側ジョイント部材10の製造工程は、加熱工程(S1)から第一冷却工程(S3)までの処理において、成形材料Bに対する焼入れ処理を並行して実行する。即ち、外側ジョイント部材10の製造工程は、加熱工程(S1)で加熱された成形材料Bの温度が所定の温度域となった状態で焼入れ処理が開始できるように、鍛造工程(S2)を短時間(例えば40秒)で行う。そして、外側ジョイント部材10の製造工程は、加熱工程(S1)において、鍛造加工後の成形材料Bの温度が焼入れ処理における冷却を開始するのに適した温度域となるような温度域まで加熱する。
【0018】
このように、外側ジョイント部材10の製造工程は、加熱工程(S1)及び鍛造工程(S2)を通して成形材料Bになされた加熱を、成形材料Bに対する焼入れ処理のための加熱として利用する。つまり、外側ジョイント部材10の製造工程は、鍛造工程(S2)を終了した成形材料Bを冷却することにより、成形材料Bに対する焼入れ処理を行うことができる。
【0019】
この場合、外側ジョイント部材10の製造工程は、鍛造加工後に成形材料Bの焼入れ処理に行うにあたり、一旦冷却された成形材料Bを加熱する工程を省略することができるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。さらに、外側ジョイント部材10の製造工程は、加熱処理の回数を少なくできるので、加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを抑制できる。
【0020】
なお、本実施形態において、焼入れ処理は、加熱工程(S1)において加熱した成形材料Bの熱を利用して行う場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。つまり、外側ジョイント部材10の製造工程は、鍛造加工後に冷却された成形材料Bを、焼入れ処理の実行前に再度加熱してもよい。そしてこの場合、鍛造工程(S2)における鍛造加工は、必ずしも温間鍛造でなくてもよく、冷間鍛造であってもよい。この場合においても、外側ジョイント部材10の製造工程は、鍛造工程(S2)でスプライン歯13aを成形することにより、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0021】
焼入れ工程(S3)が終了すると、外側ジョイント部材10の製造工程は、成形材料Bに形成されたスケールの除去を行うスケール除去工程(S4)を実行する。スケール除去工程(S4)は、焼入れ処理において酸化した成形材料Bの表面に付着するスケールを除去する。具体的に、スケール除去工程(S4)は、ショットブラスト処理(アルミナ粒子等による)、ショットピーニング処理、バレル処理、ウエットブラスト処理等を行うことにより、成形材料Bに付着したスケールの除去を行う。
【0022】
スケール除去工程(S4)の終了後、外側ジョイント部材10の製造工程は、成形材料Bに対する仕上加工及び旋削加工を行う仕上・旋削工程(S5)を実行する。仕上・旋削工程(S5)は、カップ部11の仕上加工や、カップ部11の外周面に形成する外周溝の旋削加工、軸部12のネジ軸14となる部位に対するおねじ及びカシメ溝部15の旋削加工等を行う。
【0023】
ここで、外側ジョイント部材10の製造工程は、ネジ軸14及びカシメ溝部15を焼入れ処理後の旋削加工で形成するのに対し、スプライン軸13を、焼入れ処理前の鍛造加工において成形する。この点に関して、本実施形態において、成形材料Bには、炭素含有量を0.40%~0.60%とする鋼材(S55C)が用いられているため、焼入れ処理後の成形材料Bは、高硬度となる。また、焼入れ処理後の成形材料Bに対し、切削加工等でスプライン軸13となる部位にスプライン歯13aを形成しようとした場合、スプライン歯13aの加工に要する時間が長くなり、サイクルタイムが増加する。
【0024】
そこで、本実施形態における外側ジョイント部材10の製造工程は、焼入れ工程(S3)の前に実行する鍛造工程(S2)において、スプライン軸13となる部位にスプライン歯13aを鍛造成形する。これにより、本実施形態における外側ジョイント部材10の製造工程は、サイクルタイムの向上とスプライン歯13aの加工精度の向上との両立を図ることができる。これに加え、本実施形態における外側ジョイント部材10の製造工程は、スプライン軸13となる部位に対し、スプライン歯13aを鍛造加工により成形し、ネジ軸14となる部位に対し、おねじを旋削加工により形成することで、転造加工を行う工程を省略できる。よって、本実施形態における外側ジョイント部材10の製造工程は、サイクルタイムの向上を図ることができる。
【0025】
仕上・旋削工程(S5)の終了後、外側ジョイント部材10の製造工程は、成形材料Bに対する塗装を行う塗装工程(S6)を実行する。続いて、塗装工程(S6)の終了後、外側ジョイント部材10の製造工程は、成形材料Bに塗られた塗料の乾燥を行う乾燥工程(S7)を実行する。乾燥工程(S7)は、成形材料Bに乾燥熱を当てることで、塗料を乾燥させる。
【0026】
乾燥工程(S7)の終了後、外側ジョイント部材10の製造工程は、乾燥工程(S7)で加熱された成形材料Bを冷却する第二冷却工程(S8)を実行する。ここで、外側ジョイント部材10の製造工程は、乾燥工程(S7)及び第二冷却工程(S8)の処理において、成形材料Bに対する焼戻し処理を並行して実行する。即ち、外側ジョイント部材10の製造工程は、乾燥工程(S7)において、乾燥熱により加熱された成形材料Bの温度が所定の温度域となった状態で焼戻し処理が開始できるように、成形材料Bを加熱する。
【0027】
そして、外側ジョイント部材10の製造工程は、乾燥工程(S7)で成形材料Bになされた加熱を、成形材料Bに対する焼戻し処理のための加熱として利用する。つまり、外側ジョイント部材10の製造工程は、乾燥工程(S7)を終了した成形材料Bを冷却することにより、成形材料Bに対する焼戻し処理を行うことができる。
【0028】
よって、本実施形態における外側ジョイント部材10の製造工程は、サイクルタイムの短縮を図ることができる。さらに、外側ジョイント部材10の製造工程は、加熱処理の回数を少なくすることができるので、加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。
【0029】
なお、本実施形態における外側ジョイント部材10の製造方法は、乾燥工程(S7)での加熱を、焼戻し処理のための加熱として利用しているが、焼戻し処理のための加熱は、乾燥処理とは別に行ってもよい。この場合、外側ジョイント部材10の製造工程は、塗料の乾燥処理及び焼戻し処理の各々において適切な温度帯で、塗料の乾燥処理及び焼戻し処理を行うことで、塗料焼けや焼戻し処理における不具合の発生を確実に回避できる。
【0030】
(3.鍛造加工)
次に、外側ジョイント部材10の製造工程の中で実行される鍛造工程(S2)について説明する。上記したように、鍛造工程(S2)で行う鍛造加工は、温間鍛造である。図3に示すように、鍛造工程(S2)は、荒鍛造工程(S21)と、仕上鍛造工程(S22)とを備える。
【0031】
図4に示すように、荒鍛造工程(S21)において、成形材料Bに対する鍛造加工は、3回に亘って行われ、荒鍛造工程(S21)が終了した後の成形材料Bには、カップ部11及び軸部12の形状が大まかに成形される。そして、仕上鍛造工程(S22)は、荒鍛造された成形材料Bに対し、カップ部11及び軸部12の仕上鍛造加工を行いつつ、スプライン軸13となる部位に対し、スプライン歯13aを鍛造成形する。
【0032】
このように、カップ部11の形状及び軸部12に対するスプライン軸13の形状は、鍛造工程(S2)の中の一工程である仕上鍛造工程(S22)で同時に鍛造成形される。よって、外側ジョイント部材10の製造工程は、スプライン軸13の成形を鍛造工程(S2)とは別に行う場合と比べて、サイクルタイムの向上を図ることができる。
【0033】
(4.金型装置50)
次に、図5A及び図5Bを参照しながら、仕上鍛造工程(S22)で用いる金型装置50について説明する。金型装置50は、図5Aに示すように、金型装置50は、ダイス51と、パンチ52とを主に備える。金型装置50は、超硬材料により形成されたものであり、ダイス51及びパンチ52には、焼付きを防止するためのコーティングが施されている。
【0034】
金型装置50を用いた仕上鍛造加工において、荒鍛造された成形材料Bは、ダイス51に対し、図5Aに示す上側から挿入される。そして、金型装置50は、成形材料Bが挿入されたダイス51の上側にパンチ52を挿入し、しごき加工を行う。以下において、図5A及び図5Bに示す上側を「入口側」と称す。
【0035】
ダイス51は、円筒状に形成された複数の部材を組み合わせて形成される。具体的に、ダイス51は、第一ダイス60と、第一ダイス60に収容される第二ダイス70と、第一ダイス及び第二ダイス70よりも入口側に配置される第三ダイス80とを備える。なお、これら第一ダイス60、第二ダイス70及び第三ダイス80は、同軸に配置される。
【0036】
第一ダイス60は、仕上鍛造加工された成形材料Bの軸部12となる部位を収容可能に形成される。第一ダイス60は、第一収容部61と、第一収容部61の入口側に設けられる第二収容部62とを備える。
【0037】
第一収容部61には、仕上鍛造加工された成形材料Bの軸部12となる部位の外径よりも大きな内径を有する円筒内周面61aが形成される。なお、第一収容部61には、円筒内周面61aに対して入口側とは反対側(図4A下側)となる位置に、ピン収容部61bが形成される。このピン収容部61bには、成形材料Bを入口側へ押し出すノックアウトピンPが移動可能に収容される。
【0038】
第二収容部62には、第一収容部61に形成される円筒内周面61aよりも大きな内径を有する円筒内周面62aが形成される。そして、第二収容部62に形成される円筒内周面62aと第一収容部61に形成される円筒内周面61aとは、第一ダイス60の中心軸線に直交する円環状の接続面60aにより接続される。
【0039】
第二ダイス70は、仕上鍛造工程(S22)において、成形材料Bのスプライン軸13となる部位の外周面に複数のスプライン歯13aを成形する。なお、第二ダイス70の詳細については、後述する。
【0040】
第三ダイス80は、仕上鍛造工程(S22)において、カップ部11の外周面を成形する。第三ダイス80には、カップ部11の外径に対応する内径を有する円筒内周面80aが形成される。なお、第三ダイス80の上面(入口側を向く面)と円筒内周面80aとの接続部分には、入口側へ向かうにつれて拡径する係止面80bが形成される。
【0041】
図5Aに示すように、荒鍛造された成形材料Bに対し、金型装置50で仕上鍛造を行うにあたり、荒鍛造後の成形材料Bは、第三ダイス80の内部に配置される。なお、荒鍛造された成形材料Bに関して、カップ部11となる部位の外径は、第三ダイス80の円筒内周面80aの内径よりも大きく、第三ダイス80の内部に配置された成形材料Bは、カップ部11となる部位が係止面80bに係止される。
【0042】
図5Bに示すように、パンチ52は、ダイス51に成形材料Bが配置された状態で、第三ダイス80に挿入される。これにより、ダイス51に配置された成形材料Bは、パンチ52に押し出され、カップ部11となる部位の外周面に対するしごき加工が行われる。また、パンチ52は、成形材料Bを押し出す際に接触する部位が、外側ジョイント部材10の内周面形状に対応する形状に形成される。よって、成形材料Bには、仕上鍛造工程(S22)での鍛造加工により、カップ部11の内周面形状が鍛造成形される。
【0043】
また、成形材料Bのスプライン軸13となる部位は、入口側から第二ダイス70の内部に押し出されることにより、外周面に複数のスプライン歯13aが鍛造成形される。そして、成形材料Bの軸部12となる部位のうち、第二ダイス70の内部を通過した部位は、第一収容部61の円筒内周面61aの内部に収容される。
【0044】
なお、第二ダイス70の内周面には、水溶性の潤滑剤を塗布しておくことが望ましい。これにより、第二ダイス70は、成形材料Bが押し出された際に発生する摺動抵抗を抑制できる。
【0045】
ここで、図6Aから図7Bを参照しながら、第二ダイス70について説明する。図6A及び図6Bに示すように、第二ダイス70は、スプライン成形部71と、スプライン成形部71の入口側に形成される規制部72と、規制部72の入口側に形成される案内部73とを備える。
【0046】
スプライン成形部71は、スプライン軸13の外形形状に対応する内周面形状を有する部位である。スプライン成形部71は、仕上鍛造工程(S22)での鍛造加工において、荒鍛造された成形材料Bのスプライン軸13となる部位の外周面を塑性変形させることにより、スプライン歯13aを成形する。
【0047】
規制部72は、内周面として、荒鍛造された成形材料Bのスプライン軸13となる部位がスプライン成形部71へ向けて押し出されたときに、成形材料Bが径方向へ変位することを規制する規制面72aを有する部位である。これにより、第二ダイス70は、スプライン軸13と外側ジョイント部材10を構成する他の部位(カップ部11やネジ軸14等)との同軸度を高めることができる。
【0048】
なお、本実施形態において、規制面72aは、荒鍛造された成形材料Bのスプライン軸13となる部位の外径に対応した内径を有する円筒内周面であるが、これに限られるものではない。即ち、規制面72aは、成形材料Bの径方向への変位を規制可能な形状であれば、円筒内周面以外の形状(例えば、正多角形状など)であってもよい。
【0049】
案内部73は、成形材料Bの軸部12となる部位を規制部72へ円滑に案内する部位である。案内部73の内径は、軸部12の外径よりも大きく、案内部73は、入口側へ向かうにつれて内径が大きくなるように形成される。
【0050】
ここで、上記した外側ジョイント部材10の製造工程において、加熱工程(S1)で成形材料Bを加熱した際の熱を利用して焼入れ処理を行うにあたり、鍛造工程(S2)を短時間で行うことが要求される。これに対し、第二ダイス70は、案内部73を設けることにより、成形材料Bを規制面72aの内部へ円滑に誘導することができる。よって、金型装置50は、仕上鍛造工程(S22)における鍛造加工を円滑に、且つ、確実に行うことができる。
【0051】
続いて、スプライン成形部71について詳細に説明する。図7Aに示すように、スプライン成形部71は、複数のスプライン成形歯74と、複数のスプライン成形歯74の各々の入口側に連続して形成される複数の先端歯75とを備える。なお、図7Aでは、図面を簡素化するため、スプライン成形部71に形成されるスプライン成形歯74及び先端歯75のうち一部のみを図示する。
【0052】
スプライン成形歯74は、スプライン軸13において周方向に隣接するスプライン歯13aの間に形成される歯溝に対応した形状に形成される。具体的に、スプライン成形歯74は、スプライン軸13に形成された各々の歯溝底面に対応する成形歯頂面74aと、スプライン軸13に形成された各々の歯溝側面に対応する一対の成形歯側面74bとを備える。第二ダイス70の中心軸線方向に直交するスプライン成形歯74の断面形状は、第二ダイス70の中心軸線方向全域に亘り、同一形状である。即ち、成形歯頂面74aの高さ寸法h(規制面72aからの径方向内方への突出寸法)は、第二ダイス70の中心軸線方向全域に亘って同一である。同様に、成形歯頂面74aの周方向における幅寸法wa及び成形歯側面74bの周方向における幅寸法wbは、第二ダイス70の中心軸線方向全域に亘って同一である。
【0053】
これに対し、先端歯75は、入口へ向かうにつれて先細りとなるように形成される。具体的に、先端歯75は、成形歯頂面74aに対して入口側に連続して形成される先端歯頂面75aと、成形歯側面74bに対して入口側に連続して形成される一対の先端歯側面75bとを備える。
【0054】
また、先端歯頂面75aの高さ寸法h(規制面72aからの径方向内方への突出寸法)は、入口側へ向かうにつれて小さくなる。同様に、先端歯頂面75aの周方向における幅寸法wa及び先端歯側面75bの周方向における幅寸法wbは、入口側へ向かうにつれて小さくなる。これにより、先端歯75は、成形材料Bのスプライン軸13となる部位がスプライン成形部71に押し出された際に、先端歯75に接触した部位を、第二ダイス70の軸線方向へ移動させつつスプライン成形歯74の周方向両側へ流すことができる。
【0055】
この点に関して、例えば、図7Bに示すように、スプライン成形歯74の入口側に先端歯75が形成されていない場合に、入口側から押し出されてスプライン成形歯74の入口側を向く端面に接触した成形材料Bの一部が、当該端面にせき止められるおそれがある。この場合、せき止められた成形材料Bは、スプライン成形部71へ移動できずに規制部72の内部に滞留する。その結果、仕上鍛造後の成形材料Bにおいて、規制部72の内部に滞留した成形材料Bが、スプライン軸13よりもカップ部11側において瘤のように残存する一方、スプライン歯13aには欠肉が発生する。
【0056】
特に本実施形態において、鍛造工程(S2)における鍛造加工は、温間鍛造であり、冷間鍛造である場合と比べて、成形材料Bの硬度が低い。よって、スプライン成形歯74の入口側を向く端面に接触した成形材料Bは、冷間鍛造である場合と比べて変形しやすく、当該端面にせき止められやすい状態となっている。
【0057】
これに対し、スプライン成形部71には、先端歯75が設けられ、その先端歯75は、一対の先端歯側面75bの幅寸法wbが入口側へ向かうにつれて小さくなるように形成される。これにより、第二ダイス70は、スプライン成形部71に向けて押し出された成形材料Bが規制面72aの内部に滞留することを防止しつつ、スプライン成形部71に押し出された成形材料Bをスプライン成形歯74の周方向両側へ流すことができる。よって、第二ダイス70は、温間鍛造による鍛造加工においても、仕上鍛造加工後の成形材料Bにおいてスプライン歯13aに欠肉が発生することを防止でき、鍛造加工によるスプライン軸13の加工精度を高めることができる。
【0058】
また、先端歯75は、先端歯頂面75aの幅寸法waが入口側へ向かうにつれて小さくなるように形成される。第二ダイス70は、先端歯75の入口側を向く先端をより尖った形状とすることができる。特に本実施形態において、先端歯75の入口側端部は、先端歯頂面75aと先端歯側面75bとが一点に収束するように尖った槍状に形成される。これにより、先端歯75は、スプライン成形部71に押し出された成形材料Bを、スプライン成形歯74の周方向両側へより流れやすくすることができる。
【0059】
さらに、第二ダイス70において、規制面72aの内径は、荒鍛造された成形材料Bのスプライン軸13となる部位の外径に対応する寸法に設定されている。この場合、規制面72aは、規制面72aの内部に挿入された成形材料Bが径方向へ膨らむことを規制できる。その結果、スプライン成形部71に向けて押し出された成形材料Bは、規制面72aの内部に滞留できず、周方向に隣接するスプライン成形歯74の間に形成された歯溝へ誘導されやすくなる。よって、第二ダイス70は、仕上鍛造加工後の成形材料Bにおいてスプライン歯13aに欠肉が発生することを防止できる。
【0060】
(5.その他)
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できる。
【符号の説明】
【0061】
10:外側ジョイント部材、 11:カップ部、 12:軸部、 13:スプライン軸、 13a:スプライン歯、 70:第二ダイス(鍛造ダイス)、 71:スプライン成形部、 72:規制部、 72a:規制面、 73:案内部、 74;スプライン形成歯、 74a:成形歯頂面、 74b:成形歯側面、 75:先端歯、 75a:先端歯頂面、 75b:先端歯側面、 B:成形材料、 wa:成形歯頂面及び先端歯頂面の幅寸法、 wb:成形歯頂面及び先端歯側面の幅寸法
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B