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特許7215164熱伝導性絶縁接着シート、及び該シートの製造方法
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  • 特許-熱伝導性絶縁接着シート、及び該シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】熱伝導性絶縁接着シート、及び該シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/30 20180101AFI20230124BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20230124BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230124BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20230124BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20230124BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230124BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20230124BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20230124BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20230124BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230124BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20230124BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J7/35
C09J201/00
C09J11/04
C09J163/00
B32B27/20 Z
B32B27/26
C08K3/01
C08K5/3492
C08L101/00
C09K5/14 E
H01L23/36 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018246501
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105411
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石 智文
(72)【発明者】
【氏名】澤口 壽一
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-022195(JP,A)
【文献】特開2017-149910(JP,A)
【文献】特開2017-168846(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030079(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/225773(WO,A1)
【文献】特開2019-196433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/30
B32B 27/20
B32B 27/26
C08K 3/01
C08K 5/3492
C08L 101/00
C09J 7/35
C09J 11/04
C09J 163/00
C09J 201/00
C09K 5/14
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層以上の層(B)を有する熱伝導性絶縁接着シートであって、下記条件(1)~(3)の全てを満たす、熱伝導性絶縁接着シート。
(1)層(B)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記潜在性硬化剤(C)が、トリアジン骨格を有するエポキシ化合物を含む、熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(2)層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上である。
(3)層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である。
【請求項2】
潜在性硬化剤(C)の官能基数が2以上である、請求項1に記載の熱伝導性絶縁接着シート。
【請求項3】
複数の層(A)と、1層以上の層(B)とを有し、複数の層(A)と1層以上の層(B)とは、層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されてなる、請求項1又は2に記載の熱伝導性絶縁接着シートであって、下記条件(1)~(5)の全てを満たす、熱伝導性絶縁接着シート。
(1) 複数の層(A)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記熱伝導性フィラー(F)が、熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し、かつ窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(2) 1層以上の層(B)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記熱伝導性フィラー(F)が、窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し、かつ熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(3) 複数の層(A)のうち最も外側に位置する最外層(Aout)に含まれる熱伝導性フィラー(F)の質量が、層(B)に含まれ得る熱伝導性フィラー(F)の質量よりも相対的に多い。
(4)層(A)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上である。
(5)層(A)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である。
【請求項4】
複数の層(A)と1層以上の層(B)とを有する熱伝導性絶縁接着シートの製造方法であって、下記条件(101)~(103)の全てを満たす、熱伝導性絶縁接着シートの製造方法。
(101) 熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し、かつ窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記潜在性硬化剤(C)が、トリアジン骨格を有するエポキシ化合物を含み、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上であり、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である熱硬化型組成物シート(A’)を複数用意する工程。
(102) 窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し、かつ熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上であり、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である熱硬化型組成物シート(B’)であって、複数のシート(A’)のうち積層後に最も外側に位置する予定の最外層用シート(A’out)に含まれる熱伝導性フィラー(F)の質量が、シート(B’)に含まれ得る熱伝導性フィラー(F)の質量よりも相対的に多い、熱硬化型組成物シート(B’)を用意する工程。
(103) 前記シート(B’)が最外層にならないように、前記シート(A’)と前記シート(B’)とを交互に積層し、加圧する工程。
【請求項5】
熱を発生し得る熱発生部を含む熱発体の少なくとも1つの面に、請求項1~いずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シートを介して放熱ベース基板が積層された複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性絶縁接着シート、及び該シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家電、産業ロボット、輸送機器等の電力駆動機器はパワー半導体モジュールが搭載されている。パワー半導体素子は高電流・電圧下においても駆動が可能であるが、一方で、電力損失により発熱が生じモジュールが高温環境下に曝されるため、パワー半導体モジュールには効率的な放熱構造の存在が不可欠である。そのため一般に、各種電子部品(例えばパワー半導体素子及びこれを含むパワーカード等)の熱を発生し得る熱発生部材からヒートシンク等の放熱部材への熱伝導を促し、放熱を促進するために、放熱部材の放熱ベース基板と熱発生部材との間にサーマルインターフェースマテリアル(TIM材)を配置することが好ましい。
【0003】
種々のTIM材の中でも熱伝導性絶縁接着シートは、例えば、熱伝導性フィラーと熱硬化性樹脂の未硬化物及び/又は半硬化物とを含む熱伝導性絶縁接着シートを放熱部材と熱発生部材との間に配置し、熱プレス等の加熱・加圧により硬化させることで、簡易に形成することができるため、パワー半導体モジュールで使用されている。
【0004】
電気絶縁性を保ちつつ、熱伝導率を高めるためには、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素等の熱伝導性セラミック粒子である、熱伝導性フィラーを分散させた熱伝導性絶縁接着シートを用いる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、金属板、はんだ層、及び半導体チップがこの順に積層された半導体モジュールと、放熱部材とを含むパワー半導体装置であって、前記金属板と前記放熱部材との間に、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂硬化剤、α-アルミナ、及び窒化ホウ素等とを含有するエポキシ樹脂組成物の硬化体が配置されたパワー半導体装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、大きさの異なる3種類の熱伝導性フィラーを含む樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも一方の面上に配置された接着剤層とを備えた多層樹脂シートが記載され、接着剤層にも酸化アルミウム等のフィラーを含有し得る旨開示されている。
【0006】
特許文献3には、エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、電気絶縁性及び熱伝導性に優れた無機充填剤に、短い加圧時間で空隙を低減して電気絶縁性を確保できる硬化度を得る目的で、反応性をコントロールし速硬化させる硬化促進剤を使用した熱伝導性樹脂シートを搭載したパワーモジュールの製造法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、窒化ホウ素を除く熱伝導性球状フィラーと、粉末状又は粒状の窒化ホウ素フィラーと、バインダー樹脂とを含む熱伝導性絶縁シートであって、熱伝導性球状フィラーを含有し、窒化ホウ素フィラーを含有し得る複数の層と、窒化ホウ素フィラーを含有し、熱伝導性球状フィラーを含有し得る1層以上の層とを有し、空隙率が0.2以下である熱伝導性絶縁シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-155985号公報
【文献】国際公開第2012/046814号
【文献】特開2014-196403号公報
【文献】国際公開第2017/154962号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし近年、エレクトロニクス分野において、特に電子機器の小型化、軽量化、高密度化、及び高出力化が著しく進み、それに伴い要求される信頼性、性能のレベルも高くなっており、中でも、電子回路の高密度化、高出力化に伴う絶縁信頼性や、発熱から電子部材の劣化を防ぐための放熱性(熱伝導性)の性能向上が強く求められている。
また、部材の軽量化を狙い、上記課題を高分子材料により克服しようとする試みも始まり、絶縁性を高めた高分子材料に熱伝導性粒子を混合した熱伝導性絶縁接着部材の開発も進んでいるが、パワー半導体装置に好適な複合部材として、高い熱伝導性と絶縁性との両立は、十分ではないのが現状である。
【0010】
また、熱伝導性絶縁シートは、熱発生部材及び放熱部材の表面凹凸に良好に追従できる柔軟性を有し、熱発生部材と放熱部材とを良好に接着することが望まれる。さらに、パワー半導体装置の作製工程を簡素化するために、熱伝導性絶縁接着シートの接着及び硬化工程における加熱・加圧時間の短時間化が要求される。
【0011】
特許文献1、2に記載の発明はいずれも、140℃以上の加熱温度で4時間以上の硬化工程が必要であり、特許文献3に記載の発明は、硬化促進剤を使用しているものの、200℃で3時間程度の硬化工程が必要である。また、特許文献4に記載の発明は、180℃1時間程度の加熱硬化を要し、エネルギー消費量及び生産性が大きな課題である。
【0012】
絶縁性能を長期に渡り維持し続けることは、パワー半導体等高出力デバイスの信頼性を確保する上で必須であるが、パワー半導体装置の作製工程が1時間未満の加熱・加圧工程では、高い絶縁信頼性を十分に満たすものがないのが現状である。
【0013】
すなわち、本発明の目的は、150℃1時間未満の加熱・加圧工程で、従来よりも熱伝導性と、特に絶縁信頼性性能に優れ、かつ40℃1週間の保管条件においても安定性が良好で優れたシートライフを有する、複合部材を形成し得る熱伝導性絶縁接着シート、及び該シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の諸問題点を考慮し解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、下記〔1〕~〔6〕に関する。
【0015】
〔1〕 1層以上の層(B)を有する熱伝導性絶縁接着シートであって、下記条件(1)~(3)の全てを満たす、熱伝導性絶縁接着シート。
(1)層(B)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有する熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(2)層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上である。
(3)層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である。
【0016】
〔2〕 潜在性硬化剤(C)の官能基数が2以上である、〔1〕に記載の熱伝導性絶縁接着シート。
【0017】
〔3〕 潜在性硬化剤(C)が、トリアジン骨格を有するエポキシ化合物を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の熱伝導性絶縁接着シート。
【0018】
〔4〕 複数の層(A)と、1層以上の層(B)とを有し、複数の層(A)と1層以上の層(B)とは、層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されてなる、〔1〕~〔3〕に記載の熱伝導性絶縁接着シートであって、下記条件(1)~(5)の全てを満たす、熱伝導性絶縁接着シート。
(1) 複数の層(A)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記熱伝導性フィラー(F)が、熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し、かつ窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(2) 1層以上の層(B)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記熱伝導性フィラー(F)が、窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し、かつ熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(3) 複数の層(A)のうち最も外側に位置する最外層(Aout)に含まれる熱伝導性フィラー(F)の質量が、層(B)に含まれ得る熱伝導性フィラー(F)の質量よりも相対的に多い。
(4)層(A)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上である。
(5)層(A)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である。
【0019】
〔5〕 複数の層(A)と1層以上の層(B)とを有する熱伝導性絶縁接着シートの製造方法であって、下記条件(101)~(103)の全てを満たす、熱伝導性絶縁接着シートの製造方法。
(101) 熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し、かつ窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上であり、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である熱硬化型組成物シート(A’)を複数用意する工程。
(102) 窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し、かつ熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上であり、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である熱硬化型組成物シート(B’)であって、複数のシート(A’)のうち積層後に最も外側に位置する予定の最外層用シート(A’out)に含まれる熱伝導性フィラー(F)の質量が、シート(B’)に含まれ得る熱伝導性フィラー(F)の質量よりも相対的に多い、熱硬化型組成物シート(B’)を用意する工程。
(103) 前記シート(B’)が最外層にならないように、前記シート(A’)と前記シート(B’)とを交互に積層し、加圧する工程。
【0020】
〔6〕 熱を発生し得る熱発生部を含む熱発体の少なくとも1つの面に、〔1〕~〔4〕いずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シートを介して放熱ベース基板が積層された複合部材。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱伝導性絶縁接着シートにより、150℃1時間未満の加熱・加圧工程で、従来よりも熱伝導性と、特に絶縁信頼性性能に優れ、かつ40℃1週間の保管条件においても安定性が良好で優れたシートライフを有する、複合部材を形成し得る熱伝導性絶縁接着シート、該シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の熱伝導性絶縁接着部材の一例を示す断面図である。
図2】本発明の熱伝導性絶縁接着部材の別の一例を示す断面図である。
図3】本発明の複合部材の一例を示す断面図である。
図4】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図5】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図6】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図7】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図8】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<熱伝導性絶縁接着シート>
本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、1層以上の層(B)を有し、下記条件(1)~(3)の全てを満たすことを特徴とする。
(1)層(B)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有する熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(2)層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上である。
(3)層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である。
本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、各種電子部品(例えばパワー半導体素子及びこれを含むパワーカード等)の熱を発生し得る熱発生部材とヒートシンク等の放熱部材の放熱ベース基板との間に配置し、加熱・加圧により硬化させて使用することができる。
本明細書において、熱伝導性絶縁接着シートの加熱・加圧物(硬化物)を「熱伝導性絶縁膜」、熱発生部材/熱伝導性絶縁膜/放熱部材の放熱ベース基板からなる構造体を「複合部材」という場合がある。また、本明細書において、各種パラメータは特に明記しない限り、後述の[実施例]の項に記載の方法にて求めるものとする。
以下、詳細にわたって本発明の実施形態を説明する。
【0024】
<1層以上の層(B)>
本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、1層以上の層(B)を有し、層(B)は、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有する熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
層(B)は、熱伝導性フィラー(F)として主に、後述する窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し、高い熱伝導率を有し、熱伝導性絶縁接着シートの熱伝導性を高める機能を担う。
層(B)は、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)との合計100質量%中、熱伝導性フィラー(F)として窒化ホウ素フィラー(F2)を30~90質量%、後述する熱伝導性球状フィラー(F1)を0~30質量%含むことが好ましい。層(B)中の窒化ホウ素フィラー(F2)の含有率は、30質量%以上であると高い熱伝導性を有するため好ましく、90質量%以下であると膜形成性に優れるため好ましく、特に好ましくは40~80質量%の範囲である。また層(B)には、空隙率を低下させるため、40質量%以下の範囲で熱伝導性球状フィラー(F1)を併用することが好ましく、熱伝導性球状フィラー(F1)の含有量は、特に好ましくは、0~30質量%である。
【0025】
また、層(B)は、層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上であり、層(B)から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である。また、より好ましくは、150℃1時間加熱した時のゲル分率が80%以上であり、40℃7日間加熱した時のゲル分率が5%以下である。
高い熱伝導率を発現するためには、熱伝導性フィラー(F)同士が近接していることが望ましい。150℃1時間加熱し架橋した後のゲル分率が60%未満であると、架橋不足によりフィラーが流動し、熱伝導率が安定しない。一方、ゲル分率が60%以上であるとフィラーの動きが制限され、良好な熱伝導率を発現し、ゲル分率が80%%以上であると、より優れた熱伝導率を発揮する。
また、シートライフが悪化するのは、熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)との反応が経時で進行し、熱伝導性フィラー(F)の流動性が失われることも要因の1つである。したがって、40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下であることが重要である。
【0026】
<層(B)を形成するための熱硬化型組成物>
本発明の熱伝導性絶縁接着シートに含まれる層(B)は、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有する熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。以下に、熱硬化型組成物について説明する。
【0027】
[熱伝導性フィラー(F)]
熱伝導性フィラー(F)は、特に限定されず、1種又は2種以上を併用することができる。層(B)に含まれる熱伝導性フィラー(F)としては、窒化ホウ素フィラー(F2)が好適に用いられ、熱伝導性球状フィラー(F1)を併用してもよい。
【0028】
(窒化ホウ素フィラー(F2))
本発明では種々の窒化ホウ素フィラー(F2)を用いることができ、例えば、鱗片状、凝集体、造粒体等を使用することができる。ただし、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
窒化ホウ素フィラー(F2)は熱伝導性に異方性を有するため、鱗片状の一次粒子を造粒した造粒窒化ホウ素フィラーが好適に用いられる。しかし、変形しにくい造粒窒化ホウ素フィラーでは圧力をかけても空隙が残りやすいため、特に、易変形性造粒窒化ホウ素フィラーを用いることが好ましい。易変形性造粒窒化ホウ素フィラーを用いることで空隙率が減少し、絶縁性の向上が期待できる。また、圧力を調整し、易変形性造粒窒化ホウ素フィラーの変形を適度な範囲に調整することでフィラーの解砕を抑制し、高い熱伝導率を達成できる。
【0029】
易変形性造粒窒化ホウ素フィラーとは、平均一次粒子径が0.1~15μmの窒化ホウ素フィラー(F2)を造粒してなる、平均粒子径が2~100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下の窒化ホウ素フィラー(F2)の凝集体である。易変形性造粒窒化ホウ素フィラーは、熱伝導性絶縁接着シートを形成する際の圧力を調整し、変形を適度な範囲に調整することで、空隙率の低下と熱伝導性を両立することが容易であるため好適に用いられる。
【0030】
本発明において「一次粒子」とは、単独で存在することができる最小粒子を表し、「平均一次粒子径」とは、走査型電子顕微鏡で観察される一次粒子径の長径を意味する。「一次粒子径の長径」とは、球状粒子については一次粒子の最大直径を意味し、六角板状又は円板状粒子については、それぞれ厚み方向から観察した粒子の投影像における最大直径又は最大対角線長を意味する。具体的に「平均一次粒子径」は、300個の粒子の長径を上記方法により測定し、その個数平均として算出する。
圧縮変形率10%に要する平均圧縮力は、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT-210)を用い、測定領域内で無作為に選んだ10個の粒子について、粒子を10%変形させるための荷重を測定し、求めることができる。
【0031】
(熱伝導性球状フィラー(F1))
熱伝導性球状フィラー(F1)は、窒化ホウ素フィラー(F2)以外の、球状である熱伝導性フィラーであれば、従来公知の熱伝導性フィラーを用いることができる。
熱伝導性球状フィラー(F1)としては、例えば、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム等の金属窒化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸金属塩、ケイ酸カルシウム等のケイ酸金属塩、水和金属化合物、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、炭化ケイ素、窒化アルミナ、窒化ケイ素又はこれらの複合物等が挙げられる。これらは、1種類でもよいし複数の種類を併用してもよい。
球形度、熱伝導性、絶縁性の観点からアルミナ又は窒化アルミニウムの少なくとも一方であることが望ましい。
【0032】
本発明において球状であるとは、例えば、「平均円形度」であらわすことができる。平均円形度とは、粒子をSEM等で撮影した写真から任意の数の粒子を選び、各粒子の面積をS、周囲長をLとしたときの円形度=4πS/Lの平均値として表すことができる。円形度を測定するには、各種画像処理ソフト、又は画像処理ソフトを搭載した装置を使用することができるが、本発明では、東亜医用電子(株)製フロー式粒子像分析装置FPIA-1000を用いて測定した粒子の平均円形度から算出した平均円形度が0.9~1のものをいう。好ましくは、平均円形度が0.96~1である。
【0033】
熱伝導性球状フィラー(F1)の大きさは、特に制限されず、熱伝導性の観点から、平均粒子径10μm~100μmの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、平均粒子径10μm~50μmの範囲である。
熱伝導性球状フィラー(F1)の平均粒子径が10μm以上であると、空隙を抑制でき絶縁性を向上させることができ好ましい。また、平均粒子径が100μm以下であると、塗液中での沈降安定性に優れるため好ましい。
【0034】
[熱硬化性樹脂(R)]
熱硬化性樹脂(R)は、特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂等のポリウレタン系樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、及び塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂(R)は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
上記の中でも、シートライフの観点からは、ポリアミド樹脂が好適に用いられ、より好ましくはカルボキシル基を有するポリアミド樹脂である。
【0036】
[潜在性硬化剤(C)]
本発明では、硬化速度及び硬化物の物性をコントロールするために、熱硬化性樹脂(R)に応じ、適宜最適な潜在性硬化剤(C)を選択することができ、1種又は2種以上を用いることができる。
ここでいう潜在性硬化剤とは、常温(23℃)では熱硬化性樹脂(R)に対し活性を持たず、加熱等の刺激を加えることにより溶解、分解、転移反応などにより活性化し、硬化を促進する機能を有する化合物である。加熱により活性化する潜在性硬化剤としては、従来公知の各種物質を用いることができる。
【0037】
このような物質として例えば、エポキシ化合物、ジシアンジアミド及びその誘導体、マイクロカプセル型硬化剤、ヒドラジド化合物、アミンイミド、アミンアダクト化合物、酸無水物、フェノールノボラック、尿素化合物及びその誘導体等の化合物が挙げられ、好ましくは、エポキシ化合物、ヒドラジド化合物、アミン化合物、及びジシアンジアミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくはエポキシ化合物であり、特に好ましくはトリアジン骨格を有するエポキシ化合物である。
【0038】
また、潜在性硬化剤(C)は、ゲル分率の観点から、2官能以上の官能基を有するものが好ましく、より好ましくは官能基数が3以上である。2官能以上の官能基数であると、150℃1時間加熱した時のゲル分率が向上し、60%以上となるため好ましい。
【0039】
(トリアジン骨格を有するエポキシ化合物)
トリアジン骨格を有するエポキシ化合物としては、トリアジン骨格とエポキシ基とを有していれば特に限定されず、より好ましくは下記一般式(1)で表される化合物が用いられる。
一般式(1)
【化1】
【0040】
一般式(1)中、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基を表し、L~Lはそれぞれ独立して、2価の連結基を表す。
【0041】
一般式(1)で表されるトリアジン骨格を有するエポキシ化合物の市販品としては、例えば、TEPIC(登録商標)-G、同S、同L、同HP、同PAS(何れも日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0042】
硬化物に適度な柔軟性を付与するためには、これら3官能以上のエポキシ基含有化合物のエポキシ当量は50~500g/eq.が好ましく、50~400g/eq.がより好ましく、50~250g/eq.がより好ましい。
【0043】
潜在性硬化剤の含有量は、樹脂(R)が有する反応性官能基数に対して、0.5から2.0当量になるように含有させることが好ましい。
【0044】
熱硬化型組成物は、必要に応じて、難燃剤、充填剤、その他各種添加剤を含むことができる。難燃剤としては例えば、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウム、リン酸化合物等が挙げられる。添加剤として例えば、基材密着性を高めるためのカップリング剤、吸湿時・高温時の信頼性を高めるためのイオン捕捉剤・酸化防止剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
【0045】
<複数の層(A)、層(A)を形成するための熱硬化型組成物>
また、本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、1層以上の層(B)と、複数の層(A)とを有し、複数の層(A)と1層以上の層(B)とが、層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されたシートであってもよい。
【0046】
熱伝導性絶縁接着シートが、複数の層(A)と1層以上の層(B)とが、層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されたシートである場合、下記条件(1)~(5)の全てを満たすことが好ましい。
(1) 複数の層(A)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記熱伝導性フィラー(F)が、熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し、かつ窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(2) 1層以上の層(B)が、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、前記熱伝導性フィラー(F)が、窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し、かつ熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である。
(3) 複数の層(A)のうち最も外側に位置する最外層(Aout)に含まれる熱伝導性フィラー(F)の質量が、層(B)に含まれ得る熱伝導性フィラー(F)の質量よりも相対的に多い。
【0047】
層(A)は、熱伝導性フィラー(F)として熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し、層(A)は、熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(F1)を30~90質量%、窒化ホウ素フィラー(F2)を0~40質量%含むことが好ましい。
【0048】
層(A)中の熱伝導性球状フィラー(F1)の含有率は、30質量%以上であると高い熱伝導性を示すため好ましく、90質量%以下であると塗膜形成性に優れるため好ましく、特に好ましくは50~80質量%の範囲である。また層(A)には、熱伝導率向上のため、40質量%以下の範囲で窒化ホウ素フィラー(F2)を併用することが好ましく、窒化ホウ素フィラー(F2)の含有量は0~40質量%、特に好ましくは、10~30質量%である。
【0049】
また、最も外側に位置する層(Aout)における熱伝導性フィラー(F)の含有量が、層(B)における熱伝導性フィラー(F)の含有量よりも高いことで、発熱体や放熱ベース基板の凹凸への追従性・接着性が向上するため好ましい。
【0050】
なお、層(A)が含有する、熱伝導性球状フィラー(F1)又は窒化ホウ素フィラー(F2)等の熱伝導性フィラー(F)、熱硬化性樹脂(R)及び潜在性硬化剤(C)は、前述の層(B)の項で記載したものと同義である。
【0051】
<熱伝導性絶縁接着シートの製造方法>
本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、1層以上の層(B)を有していればよく、例えば以下のような方法で得ることができる。
熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(F1)を0~30質量%、窒化ホウ素フィラー(F2)を30~90質量%、溶剤、及び必要に応じて他の任意成分を含有する塗液を調製し、これを剥離性シートに塗工後、溶剤を揮発乾燥し、剥離性シート付きの熱硬化型組成物シート(B’)を作製する。
【0052】
また、本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、層(B)同士を重ね合せたものであってもよく、第1の剥離性シート付きの熱硬化型組成物シート(B’)の熱硬化型組成物面と、第2の剥離性シート付きの熱硬化型組成物シート(B’)の熱硬化型組成物面とを重ね合せることで、熱硬化型組成物シートを得ることができる。
【0053】
熱伝導性絶縁接着シートが、層(A)を有する場合、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(F1)を30~90質量%含み、窒化ホウ素フィラー(F2)を0~40質量%、溶剤、及び必要に応じて他の任意成分を含有する塗液を調製し、これを離形性シートに塗工後、溶剤を揮発乾燥し、剥離性シート付きの熱硬化型組成物シート(A’)を作製する。
次に、得られた剥離性シート付きの熱硬化型組成物シート(A’)の熱硬化型組成物面と、上述の剥離性シート付きの熱硬化型組成物シート(B’)の熱硬化型組成物面とを重ね合せることで、層(A)と層(B)との2層を有する熱硬化型組成物シートを得ることができる。
【0054】
本発明の熱硬化型組成物シートは、任意の組み合わせで積層することが可能だが、接着性や空隙率の観点からより好ましくは、層(A)を有し、複数の層(A)と1層以上の層(B)とが、層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されてなる3層以上の構成である。このようなシートを得るには、上述の、層(A)と層(B)との2層を有する熱硬化型組成物シートの層(B)側の剥離性シートを剥がし、露出した熱硬化型組成物面上に、第2の剥離性シート付きの熱硬化型組成物シート(A’)の熱硬化型組成物面を重ね合せることで、熱硬化型組成物シートを得ることができる。上記を繰り返すことで、多層構成のシートを得ることができる。
なお、重ね合せる際は加圧してもよく、加圧は、両面の剥離性シートの上から行ってもよいし、剥離性シートを剥がしてから行ってもよい。加圧圧着方法は特に限定されず、公知のラミネーター又はプレス処理機を使用することができる。加圧する際には加熱することが好ましい。
【0055】
最外層にある層(A)は層(Aout)と呼ぶ。具体的には、「層(Aout)/層(B)/層(Aout)]、「層(Aout)/層(B)/層(A)/層(B)/層(Aout)]や「層(Aout)/層(B)/層(A)/層(B)/層(A)/層(B)/層(Aout)]となり、任意の膜厚に合わせて積層することができる。
【0056】
より具体的には、熱伝導性絶縁接着シートの製造方法は、下記条件(101)~(103)の全てを満たすことが好ましい。
(101) 熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し、かつ窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上であり、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である熱硬化型組成物シート(A’)を複数用意する工程。
(102) 窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し、かつ熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る熱伝導性フィラー(F)と熱硬化性樹脂(R)と潜在性硬化剤(C)とを含有し、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の150℃1時間加熱した時のゲル分率が60%以上であり、熱伝導性フィラー(F)を除いた成分の40℃7日間加熱した時のゲル分率が10%以下である熱硬化型組成物シート(B’)であって、複数のシート(A’)のうち積層後に最も外側に位置する予定の最外層用シート(A’out)に含まれる熱伝導性フィラー(F)の質量が、シート(B’)に含まれ得る熱伝導性フィラー(F)の質量よりも相対的に多い、熱硬化型組成物シート(B’)を用意する工程。
(103) 前記シート(B’)が最外層にならないように、前記シート(A’)と前記シート(B’)とを交互に積層し、加圧する工程。
【0057】
[熱硬化型組成物の製造方法]
熱硬化型組成物シート(A’)を形成するための熱硬化型組成物、熱硬化型組成物シート(B’)を形成するための熱硬化型組成物は、熱伝導性フィラー(F)、熱硬化性樹脂(R)、溶剤、及び必要に応じて他の任意成分を撹拌混合することで製造することができる。
【0058】
撹拌混合には一般的な撹拌方法を用いることができる。撹拌混合機としては特に限定されず、例えば、ディスパー、ミキサー、混練機、スキャンデックス、ペイントコンディショナー、サンドミル、らいかい機、メディアレス分散機、三本ロール、及びビーズミル等が挙げられる。撹拌混合後は、熱硬化型組成物から気泡を除去するために、脱泡工程を経ることが好ましい。脱泡方法としては、特に制限されず、例えば、真空脱泡、及び超音波脱泡等が挙げられる。
【0059】
剥離性シートとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムに離型処理したものが挙げられる。
【0060】
剥離性シートへの熱硬化型組成物の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ナイフコート、ブレードコート、コンマコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビアコート、フレキソコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーンコート、ディスペンサー、インクジェット及びスピンコート等が挙げられる。
【0061】
熱硬化型組成物シート(A’)及び熱硬化型組成物シート(B’)の膜厚、単位面積当たりの塗布質量は特に限定されず、熱硬化型組成物シート(B’)の膜厚に対し、熱硬化型組成物シート(A’)の膜厚が相対的に十分厚い場合、積層により効果的に空隙を減少できる。例えば、[層(A)/層(B)/層(A)]の熱伝導性絶縁接着シートの場合、層(A)形成用の熱硬化型組成物シート(A’)の膜厚は層(B)形成用の熱硬化型組成物シート(B’)の半分程度であることが好ましいが、各熱硬化型組成物シートの厚みは、最終的に得られる[層(A)/層(B)/層(A)]の空隙率と熱伝導率を見ながら、積層時の加圧条件を勘案し決定することができる。
加圧圧着時の温度及び圧力は適宜選択することが出来るが、高圧にしすぎると窒化ホウ素フィラー(F2)崩れてしまい熱伝導性が低下し、低すぎると熱伝導性絶縁接着シート内に空隙が残り、熱を発生し得る部材を含む発熱体と放熱ベース基板との間に挟み使用する際の熱伝導性が低下する場合がある。
【0062】
加熱・加圧プレス処理方法は特に限定されず、公知のプレス処理機やラミネーターを使用することができる。加熱・加圧プレス時の温度は適宜選択することが出来るが、熱硬化性樹脂(R)の熱硬化が起こる温度以上で加熱することが望ましい。必要に応じて、減圧することにより大気圧との差で加圧プレスすることができる。
熱伝導性絶縁接着シートを複合部材に使用する場合、熱伝導性絶縁接着シートを発熱体と放熱ベース基板との間に挟み、加熱・加圧プレスを行う際は、加熱温度は150~200℃、加圧は1~3MPa、加熱時間は60分未満で十分に特性が発現可能である。
【0063】
<複合部材>
本発明の複合部材は、熱を発生し得る熱発生部を含む熱発体の少なくとも1つの面に、熱伝導性絶縁シートを介して放熱ベース基板が積層されたものである。
【0064】
[放熱ベース基板]
放熱ベース基板とは、熱を発生し得る部材を含む発熱体から発生した熱を最終的に逃がすための部材であり、放熱ベース基板としては、公知のものを使用することができる。
放熱ベース基板は金属やセラミックスが好適に使用され、特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅、鉄、タングステン、モリブデン、マグネシウム、銅―タングステン合金、銅―モリブデン合金、銅―タングステンーモリブデン合金、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、グラフェン等の炭素材料等が挙げられ、単独又は2種類以上併用して用いることができる。
【0065】
放熱ベース基板は、放熱効率を高めるためにフィンを取り付けてもよい。フィンとしては、公知のものを使用することができる。フィンの形状としては、特に限定されず、例えば、ストレートフィン型、ウェイビーフィン型、オフセットフィン型、ピンフィン型、コルゲートフィン型等が挙げられ、使用目的により適宜選択して用いることができる。
【0066】
[発熱体]
発熱体は、熱を発生し得る部材を含み、熱を発生し得る部材単独、又は、金属板等の導電性部材上にはんだ等の接合剤を介して熱を発生し得る部材が積層された形態等が挙げられる。
【0067】
熱を発生し得る部材とは、集積回路、ICチップ、ハイブリッドパッケージ、マルチモジュール、パワートランジスタ、パワー半導体素子、面抵抗器、及びLED(発光ダイオード)用基板等の種々の電子部品等が挙げられる。また、他に、建材、車両、航空機、及び船舶等に用いられ、熱を帯びやすく、性能劣化を防ぐためにその熱を外部に逃がす必要がある物品等が挙げられる。特に、本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、パワー半導体モジュールに好適に用いることができる。
【0068】
パワー半導体モジュールの形態には特に制限はないが、一般的に、パワー半導体素子が金属板等の導電性部材上にはんだ等の接合剤を介して積層された積層体であり、さらに該積層体が樹脂で封止されている構造をとる。パワー半導体モジュールの導電性部材と、前記放熱ベース基板とが、本発明の熱伝導性絶縁接着シートを介して接続されていることにより、パワー半導体モジュールが駆動した際に生じる熱が放熱ベース基板へと効率よく伝播し、放熱される。
【0069】
パワー半導体モジュールに使用される導電性部材としては、例えば、銀、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ、鉄、鉛等の金属や、それらの合金、カーボン等が挙げられ、回路パターンが形成されていてもよい。これらは、樹脂やセラミック上に積層されていてもよい。導電性部材は、パワー半導体素子と熱伝導性絶縁接着シートとの間に積層されており、パワー半導体で生じた熱を熱伝導性絶縁接着シートへ伝える役割も果たす。そのため、結果的に前記放熱ベース基板への伝熱が効果的に行われ、パワー半導体素子の放熱が促進される。
【0070】
このように本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、主に熱発生源としての電子部材(熱を発生し得る部材を含む発熱体)と冷却器(放熱ベース基板)との間をつなぎ、熱を効率良く逃がす用途に用いられる。放熱対象の物品としては特に制限はないが、例えば、集積回路、ICチップ、ハイブリッドパッケージ、マルチモジュール、パワートランジスタ、パワー半導体パッケージ、面抵抗器、及びLED(発光ダイオード)用基板等の種々の電子部品や、建材、車両、航空機、及び船舶等に用いられ、熱を帯びやすく、性能劣化を防ぐためにその熱を外部に逃がす必要がある物品等が挙げられる。
また、本発明の複合部材は、熱伝導性と絶縁性を両立し、密着性や耐久性も良好なことから、家電、産業ロボット、輸送機器等の電子機器やパワー半導体モジュールのほか、建材、車両、航空機、及び船舶にも広く使用することができる。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例において、「部」及び「%」は特に明記しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表し、Mwは質量平均分子量を表す。
【0072】
<平均粒子径>
熱伝導性球状フィラーの平均粒子径は、Malvern Instruments社製 粒度分布計マスターサイザー2000を用いて測定した。測定の際には乾式ユニットを用い、空気圧は2.5バールとした。フィード速度はサンプルにより最適化した。
【0073】
<平均円形度>
熱伝導性球状フィラー(F1)の平均円形度は、東亜医用電子(株)製フロー式粒子像分析装置FPIA-1000を用いて円形度を測定し、平均円形度を算出した。詳細には、トルエン10mlに測定粒子約5mgを分散させて分散液を調製し、超音波(20kHz、50W)を分散液に5分間照射し、分散液濃度を5,000~2万個/μlとした。この分散液を用い、上記装置により円相当径粒子群の円形度を測定し、平均円形度を算出した。
【0074】
<熱硬化性樹脂(R)の製造例>
(樹脂1:アクリル樹脂)
B-804(楠本化成株式会社製アクリル樹脂、Mw160,000、酸価7.0mgKOH/g、固形分濃度30%)を樹脂1の溶液とした。
【0075】
(樹脂2:ポリウレタンポリウレア樹脂))
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、及び窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとから得られたポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP-1011」、Mn=1006)401.9部、ジメチロールブタン酸12.7部、イソホロンジイソシアネート151.0部、及びトルエン40部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン300部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。
次に、イソホロンジアミン27.8部、ジ-n-ブチルアミン3.2部、2-プロパノール342.0部、トルエン396.0部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液815.1部を添加し、70℃3時間反応させ、トルエン144.0部及び2-プロパノール72.0部で希釈し、固形分濃度30%、Mw54,000、酸価8mgKOH/gのポリウレタンポリウレア樹脂である樹脂2の溶液を得た。
【0076】
(樹脂3:ポリエステル樹脂)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、クラレ社製 脂肪族液状ポリエステルポリオール、クラレポリオール P6010(クラレ株式会社製、OH価18.7mgKOH/g)を295.5部、5-ヒドロキシイソフタル酸(5-HIPA)を18.2部、トルエン20.4部を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いて、これに触媒としてテトラブチルオルソチタネートを0.3部投入し、110℃で3時間反応させた。その後、230℃まで昇温し、約2kPaの真空下で、1時間保持し、さらに約1kPaの真空下で2~3時間反応させ、最後に、酸化防止剤及びトルエンを希釈溶剤として加え、充分に溶解させた。以上のようにして、固形分濃度40%、Mw12,000のポリエステル樹脂である樹脂3の溶液を得た。
【0077】
(樹脂4:ポリアミド樹脂)
撹拌機、水分定量受器を付けた還流冷却管、窒素導入管、及び温度計を備えた反応容器に、炭素数36の多塩基酸化合物としてプリポール1009(クローダジャパン株式会社製、酸価194mgKOH/g)を70.78部、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物として5-ヒドロキシイソフタル酸(5-HIPA)を5.24部、炭素数36のポリアミン化合物としてプリアミン1074(クローダジャパン株式会社製、アミン価210mgKOH/g)を82.84部、トルエンを4.74部仕込んだ。これらの混合物を撹拌しながら、水の流出を確認しつつ、温度を220℃まで昇温し、脱水反応を続けた。1時間ごとにサンプリングを行い、Mwが40,000になったことを確認し、充分に冷却した後、トルエン111.34部、及びイソプロピルアルコール116.12部を希釈溶剤として加え、充分に溶解させた。以上のようにして、固形分濃度40%、Mw40,000のポリアミド樹脂である樹脂4の溶液を得た。
【0078】
(樹脂5:ポリアミド樹脂)
撹拌機、水分定量受器を付けた還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、炭素数36の多塩基酸化合物としてプリポール1009(クローダジャパン株式会社製、酸価196mgKOH/g)を329.07部、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物として5-ヒドロキシイソフタル酸(スガイ化学社製、以下「5-HIPA」ともいう)を23.59部、炭素数36のポリアミン化合物としてプリアミン1075(クローダジャパン株式会社製、アミン価210mgKOH/g)を366.51部、トルエンを21.59部仕込み、撹拌しながら、水の流出を確認しつつ、温度を220℃まで昇温し、脱水反応を続けた。1時間ごとにサンプリングを行い質量平均分子量が伸びなくなったことを確認し、冷却後、トルエン503.65部、イソプロピルアルコール525.24部を希釈溶剤として加え、十分に溶解させた。以上のようにして、 固形分濃度41%、Mw60,000、酸価6.11mgKOH/g、アミン価0.48mgKOH/g、フェノール性水酸基価10.39mgKOH/gのポリアミド樹脂である樹脂5の溶液を得た。
【0079】
以下に、実施例、及び比較例で用いた成分を以下に示す。
<熱伝導性球状フィラー(F1)>
F1-1:球状アルミナAO-509(株式会社アドマテックス製、平均粒子径=10μm、平均円形度=0.99)
F1-2:球状アルミナDAW45(デンカ株式会社製、平均粒子径=41μm、平均円形度=0.98)
F1-3:球状窒化アルミナH-Tグレード(徳山株式会社製、平均粒子径=1.2μm、平均円形度=0.90)
F1-4:球状窒化ケイ素SN-9(デンカ株式会社製、平均粒子径=4.2μm、平均円形度=0.90)
【0080】
<窒化ホウ素フィラー(F2)>
F2-1:PTX60(MOMENTIVE社製、造粒タイプ、平均粒子径=55-65μm)
F2-2:Agglomerates100(スリーエム ジャパン株式会社製、凝集タイプ、平均粒子径=65-85μm)
F2-3:Agglomerates50(スリーエム ジャパン株式会社製、凝集タイプ、平均粒子径=15-30μm)
【0081】
<硬化剤(C)>
硬化剤1:エポキシ硬化剤TEPIC-HP(日産化学株式会社製、トリアジン骨格含有、3官能)
硬化剤2:エポキシ硬化剤TEPIC-SS(日産化学株式会社製、トリアジン骨格含有、3官能)
硬化剤3:エポキシ硬化剤TEPIC-SP(日産化学株式会社製、トリアジン骨格含有、3官能)
硬化剤4:エポキシ硬化剤TEPIC-PAS(日産化学株式会社製、トリアジン骨格含有、3官能)
硬化剤5:ヒドラジド硬化剤VDH(味の素ファインテクノ株式会社製、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、2官能)
硬化剤6:ヒドラジド硬化剤UDH(味の素ファインテクノ株式会社製、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド、2官能)
硬化剤7: ジシアンジアミド硬化剤DICY7(三菱ケミカル株式会社製、ジシアンジアミド、3官能)
硬化剤8:アミン硬化剤フジキュア-7002(T&K TOKA株式会社製、イミダゾール系硬化剤、3官能)
硬化剤9:エポキシ硬化剤EX-145(ナガセケムテックス株式会社、脂肪族グリシジルエーテル、単官能)の5%トルエン溶液
【0082】
<添加剤>
D-1:アデカスタブAO-60(株式会社ADEKA製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)の10%トルエン溶液
【0083】
<溶剤>
混合溶剤:トルエンと2-プロパノールをあらかじめ質量比1:1で混合したもの。
【0084】
<熱硬化性組成物の製造>
(熱硬化型組成物1)
樹脂1溶液75.00部、及び混合溶剤88.00部を撹拌混合した後、熱伝導性フィラーとして窒化ホウ素フィラーF2-1((MOMENTIVE社製「PTX60」、造粒タイプ、平均粒子径=55-65μm)77.53部を加え、ディスパー撹拌した後、2分間超音波攪拌機にかけて脱泡を行い、熱硬化型組成物1を得た。
【0085】
(熱硬化型組成物2~42)
表1に記載した成分と配合に変更した以外は、熱硬化型組成物1と同様にして熱硬化型組成物2~42を得た。硬化剤を含む場合は、樹脂1溶液及び混合溶剤を撹拌混合する際に配合し、熱伝導性フィラーとして熱伝導性球状フィラー(F1)を含む場合は、窒化ホウ素フィラーを混合する際に配合した。
【0086】
【表1】
【0087】
<熱伝導性絶縁接着シートの製造>
[比較例1]
(シート1)
熱硬化型組成物1を、6MILのブレードコーターを用いて、剥離性シート(厚さ75μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム)に塗布した後、100℃で2分間乾燥し、一方の面が剥離性シートで覆われたシート1を得た。
【0088】
[比較例2、実施例1~40]
熱硬化型組成物1を、表2に記載の熱硬化型組成物に変更した以外は、シート1と同様にして、シート2~42を得た。
【0089】
熱伝導性絶縁接着シート中の組成比、及び、シート組成から熱伝導性フィラー(F)を除いた成分のゲル分率を表2に示す。
【0090】
<ゲル分率>
ゲル分率は、熱硬化型組成物1~42から熱伝導性フィラー(F)を除いた組成物を用いて測定した。具体的には、熱硬化型組成物1~42から熱伝導性フィラー(F)を除いた組成物を、熱硬化型組成物1~42と同様にして調整した後、各々、6MILのブレードコーターを用いて、剥離性シート(厚さ75μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム)に塗布した後、100℃で2分間乾燥し、一方の面が剥離性シートで覆われたシートを、150℃1時間、又は40℃7日間加熱を行ったシートを用いた。
より詳細には、ゲル分率は、上記150℃1時間、又は40℃7日間加熱後のシートを10cm×10cmで切りだした後、ステンレスメッシュで折りたたんだものを試料とし、該試料を、25℃のトルエン/IPA=1/1の混合溶液中に24時間浸漬した後150℃1時間乾燥を行い、浸漬前後でのシートの質量変化から算出した。
【0091】
【表2】
【0092】
[実施例2-1]
(シートS1):1層型
シート11の熱硬化型組成物面上に、剥離性シート(厚さ75μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム)を合わせ、ロールラミネーターを用いて貼り合せ、熱硬化型組成物の未硬化物及び/又は半硬化物である、両面が剥離性シートで覆われたシートS1を得た。ラミネート条件は、ロール温度上下80℃、ラミネート圧0.6MPa、速度0.5m/分とし、以降の実施例も同じ条件を用いた。
また、シートS1の両面の剥離性シートを剥離し、4隅及び中央の膜厚を株式不会社ニコン製「DIGIMICROSTANDMS-5C」で測定した平均値は138μmであった。
【0093】
[比較例2-1、2-2]
(シートS36、S37):1層型
シート11を、表3の1層目に示すシートに変更した以外は、シートS1と同様にして、シートS36及びS37を得た。
【0094】
[実施例2-2]
(シートS2):2層型
シート10の熱硬化型組成物面と、シート30の熱硬化型組成物面とを、ロールラミネーターを用いて貼り合わせ、両面が剥離性シートで覆われたBBの層構成であるシートS2を得た。
【0095】
[実施例2-3]
(シートS3):3層型
シート4の熱硬化型組成物面と、第1のシート24の熱硬化型組成物面とを、ロールラミネーターを用いて貼り合わせた。次に、シート4側の剥離性シートを剥離し、露出した熱硬化型組成物面と、第2のシート24の熱硬化型組成物面とを、先程と同様にしてロールラミネーターを用いて貼り合わせ、両面が剥離性シートで覆われたABAの層構成であるシートS3を得た。
【0096】
[実施例2-4~2-25]
(シートS4~S25):3層型
シート4及びシート24を、表3に示すシートに変更した以外は、シートS3と同様にして、シートS4~S25を得た。
【0097】
[実施例2-26]
(シートS30):4層型
第1のシート11の熱硬化型組成物面と、第1のシート31の熱硬化型組成物面とを、ロールラミネーターを用いて貼り合わせた。次に、第1のシート11側の剥離性シートを剥離し、露出した熱硬化型組成物面と、第2のシート11の熱硬化型組成物面とを、先程と同様にしてロールラミネーターを用いて貼り合わせた。次に、第2のシート11側の剥離性シートを剥離し、露出した熱硬化型組成物面と、第2のシート31の熱硬化型組成物面とを、先程と同様にしてロールラミネーターを用いて貼り合わせ、両面が剥離性シートで覆われたABBAの層構成であるシートS26を得た。
【0098】
[実施例2-27]
(シートS27):5層型
第1のシート11の熱硬化型組成物面と、第1のシート31の熱硬化型組成物面とを、ロールラミネーターを用いて貼り合わせた。次に、第1のシート11側の剥離性シートを剥離し、露出した熱硬化型組成物面と、第2のシート31の熱硬化型組成物面とを、先程と同様にしてロールラミネーターを用いて貼り合わせた。次に、第2のシート31側の剥離性シートを剥離し、露出した熱硬化型組成物面と、第2のシート11の熱硬化型組成物面とを、先程と同様にしてロールラミネーターを用いて貼り合わせた。次に、第2のシート11側の剥離性シートを剥離し、露出した熱硬化型組成物面と、第3のシート31の熱硬化型組成物面とを、先程と同様にしてロールラミネーターを用いて貼り合わせ、両面が剥離性シートで覆われたABABAの層構成であるシートS27を得た。
【0099】
[実施例2-28~2-35]
(シートS28~S35):5層型
シート11及びシート31を、表3に示すシートに変更した以外は、シートS27と同様にして、シートS28~S35を得た。
【0100】
<シートの評価>
得られたシートS1~S37を用いて、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0101】
[シートライフ評価]
シートライフが悪化するのは、熱硬化性樹脂(R)と硬化剤(C)との反応が進行するためである。そこで、経時前後での150℃1時間熱プレス後空隙率の変化により判断を行った。シートライフが不良であるものは、経時で硬化反応が進行し流動性が低下するため、熱プレスを行っても空隙率が低下しない。
より具体的には、両面が剥離性シートで覆われたシートから、5cm×5cmの試験片を4つ切り出し、1つの試験片を、3MPaの圧力で150℃1時間熱プレスを行った後の空隙率を算出した。残る1つの試験片を剥離性シートのついた状態で40℃1週間保管し、その後同様にプレスして空隙率を算出した。経時前後のプレス後空隙率の比((経時後のシートのプレス後空隙率)/(経時前のシートのプレス後空隙率))から、下記基準でシートライフを評価した。空隙率の算出方法は後述のとおりである。
◎:経時前後のプレス後空隙率の比が1.1未満(非常に良好)
○:経時前後のプレス後空隙率の比が1.1以上1.3未満(良好)
△:経時前後のプレス後空隙率の比が1.3以上1.6未満(使用可能)
×:経時前後のプレス後空隙率の比が1.6以上(使用不可)
【0102】
≪空隙率≫
空隙率は、下記式により算出した。
(空隙率)
=1-(熱伝導性絶縁接着シートの実測密度/熱伝導性絶縁接着シートの理論密度)

*(熱伝導性絶縁接着シートの実測密度)
=(熱伝導性絶縁接着シート質量(g))/(熱伝導性絶縁接着シート体積(cm))
*(熱伝導性絶縁接着シートの理論密度)
=(熱硬化型組成物シート(A’)及び熱硬化型組成物シート(B’)の質量の和(g))/(熱硬化型組成物シート(A’)及び熱硬化型組成物シート(B’)の体積の和(cm))
=(熱硬化型組成物シート(A’)及び熱硬化型組成物シート(B’)を構成する各成分の質量の和)/(熱硬化型組成物シート(A’)及び熱硬化型組成物シート(B’)を構成する各成分の体積の和)

*(熱硬化型組成物シート(A’)及び熱硬化型組成物シート(B’)を構成する各成分の体積の和)
=(熱硬化型組成物シート(A’)及び熱硬化型組成物シート(B’)を構成する各成分の(質量(g)/密度(g/cm))の和)
【0103】
窒化ホウ素フィラー(F2)及び熱伝導性球状フィラー(F1)の密度は、ピクノメーター法による測定値を用い、熱硬化性樹脂(R)、硬化剤(C)及びその他の有機成分の密度は1とした。
【0104】
[熱伝導率(初期、経時)]
両面が剥離性シートで覆われたシートを15mm×15mmに切り出し、両面の剥離性シートを剥がし、放熱ベース基板(15mm×15mm、厚さ0.2mmのアルミニウム)と、導電性部材(厚さ0.2mmの銅)との間に挟み、150℃、1MPaで1時間プレスして、熱伝導率評価用部材を得た。
熱伝導率評価用部材の両面に金を蒸着し、カーボンスプレーによりカーボンを被覆した後、キセノンフラッシュアナライザーLFA447NanoFlash(NETZSCH社製)にて、試料環境25℃での熱拡散率を測定し、熱伝導率(初期)を算出した。
なお、熱拡散率測定には、得られた複合部材の厚みを株式不会社ニコン製「DIGIMICROSTANDMS-5C」で測定し、用いた放熱ベース基板及び導電性部材の厚みを差し引いて求めた膜厚を用いた。また、熱伝導率を算出するにあたり、比熱容量はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の高感度型示差走査熱量計DSC220Cを用いて測定した値を用い、密度は組成からの計算値を用いた。
また、両面が剥離性シートで覆われたシートを、剥離性シートのついた状態で40℃1週間保管し、その後上記と同様の所作を行い、熱伝導率(経時)を算出した。
【0105】
[絶縁破壊電圧(初期、経時)]
40mm×40mm、厚さ2mmの銅ブロック(C1020P(1/2H))、中央部に25mmφの穴を打ち抜いた、50mm×50mm、厚さ25μmのポリイミドフィルム、両面の剥離性シートを剥がした熱伝導性絶縁接着シート(40mm×40mm)、及び、40mm×40mm、厚さ2mmのアルミニウムブロック(A3003P(H24)を用いて、銅ブロック/ポリイミドフィルム/熱伝導性絶縁接着シート/アルミニウムブロックの構成となるように積層し、150℃、2~3MPaの条件で1時間熱プレスして圧着し絶縁破壊電圧評価用部材を得た。
得られた絶縁破壊電圧評価用部材を、25℃50%RH環境で1晩静置した後、鶴賀電機株式会社製「TM650 耐電圧試験機」を用い、25℃50%RH環境で、サンプルをフッ素系不活性液体(スリーエム ジャパン株式会社製 フロリナートFC-3283)中に浸漬した状態で、0kVから10kVを100秒間で変化させるプログラムを用い、閾値電流2mAとした場合の絶縁破壊した電圧を検出し、絶縁破壊電圧とした。
また、両面が剥離性シートで覆われたシートを、剥離性シートのついた状態で40℃1週間保管し、その後上記と同様の所作を行い、熱伝導率を算出した。
【0106】
【表3】
【0107】
<複合部材の製造>
[実施例3-1]
両面に回路が形成されたセラミックス回路基板上の、一方の面に半田を介してパワー半導体素子を接合し、他方の面に銅製のヒートスプレッダを接触させ、パワー半導体素子を接合している側全体をエポキシ樹脂で封止し、パワー半導体モジュールを得た。
導電性部材である前記ヒートスプレッダに、実施例2-7で得た熱伝導性絶縁接着シートS7が接するよう、ヒートスプレッダ上に熱伝導性絶縁接着シートS7、放熱ベース基板であるアルミニウムブロック(厚さ2mm)の順に積層し、1MPaで150℃10分間プレスをし、複合部材(パワー半導体装置)を得た。プレス後の熱伝導性接着シートの厚みは135μmであった。
【0108】
<複合部材の評価>
[パワー半導体装置の耐久性試験]
得られた複合部材(パワー半導体装置)について、-40℃~120℃の冷熱サイクルを3000サイクル実施した後、パワー半導体装置を断面方向に切断し、熱伝導性絶縁接着シートの剥離、ボイドの状態を、SEM(走査型電子顕微鏡)で確認し、冷熱サイクル未実施物と比較した。その結果、冷熱サイクル前後での状態変化は無く、セラミックス回路基板とアルミニウム板との間の熱伝導性絶縁接着シートには、剥離やボイドの発生は認められなかった。
よって、本発明の熱伝導性絶縁接着シートを用いた複合部材は、熱伝導性、絶縁性が良く、耐久性にも優れていることが確認できた。
【符号の説明】
【0109】
100、200、201、202、203、204:複合部材
1:熱を発生し得る部材
1a:パワー半導体素子
2:熱伝導性絶縁接着シート
3:放熱ベース基板
4:導電性部材
5:半田
6:封止剤
7:発熱体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8