(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】自動車の外装部材用成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/38 20060101AFI20230124BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20230124BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20230124BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20230124BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20230124BHJP
C08G 59/66 20060101ALI20230124BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20230124BHJP
B29B 15/08 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
B32B27/38
B32B5/00 A
B32B5/28 Z
C08G59/20
C08G59/24
C08G59/66
C08G59/68
B29B15/08
(21)【出願番号】P 2018539446
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2018025037
(87)【国際公開番号】W WO2019013025
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017136807
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温久
(72)【発明者】
【氏名】金子 隆行
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107903(WO,A1)
【文献】特開2001-291757(JP,A)
【文献】特開2002-327041(JP,A)
【文献】特開2009-197180(JP,A)
【文献】特開2002-322588(JP,A)
【文献】特開2012-077159(JP,A)
【文献】特開2013-133339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 59/00-59/72
C08J 5/04-5/10、5/24、7/04-7/06
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
C08L 1/01-101/14
B29B 11/16、15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料の表面に、樹脂組成物が硬化されてなる被膜が形成された自動車の外装部材用成形品であって、
前記樹脂組成物は以下の成分[A]~[C]を含
み、
成分[B]中のチオール基数(H)と、成分[A]中のエポキシ基総数(E)の比、H/E比が0.8~1.3の範囲を満たし、かつ、成分[C]を、前記成分[A]100質量部に対し、0.1質量部以上15質量部未満含む、自動車の外装部材用成形品。
成分[A]:脂肪族エポキシ樹脂
成分[B]:チオール化合物
成分[C]:第四級ホスホニウム塩
【請求項2】
前記成分[C]が、化学式1で示される化合物である、請求項1
に記載の自動車の外装部材用成形品。
【化1】
R1~R4はそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
R5及びR6はそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基を示す。
M1及びM2はそれぞれ独立して、周期表における第16族から選ばれる元素を示す。
【請求項3】
前記成分[B]が、2級チオール構造または3級チオール構造を有する、請求項1
または2に記載の自動車の外装部材用成形品。
【請求項4】
前記成分[B]が、化学式2で示されるチオール構造を2個以上有する、請求項1~
3のいずれかに記載の自動車の外装部材用成形品。
【化2】
R7は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
R8は、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
nは、1以上の自然数を示す。
【請求項5】
前記成分[A]が脂環構造を有する、請求項1~
4のいずれかに記載の自動車の外装部材用成形品。
【請求項6】
前記成分[A]がシクロヘキサン環を有する、請求項
5に記載の自動車の外装部材用成形品。
【請求項7】
前記成分[A]が水添ビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項1~
6のいずれかに記載の自動車の外装部材用成形品。
【請求項8】
前記繊維強化複合材料は複数の強化繊維層を有し、
前記強化繊維層の中で被膜と接する強化繊維層の形態が、平織りの強化繊維織物、綾織りの強化繊維織物、繻子織りの強化繊維織物又は一方向性の強化繊維織物から選択される、請求項1~
7のいずれかに記載の自動車の外装部材用成形品。
【請求項9】
前記繊維強化複合材料が、強化繊維として炭素繊維を含む、請求項1~
8のいずれかに記載の自動車の外装部材用成形品。
【請求項10】
繊維強化複合材料を成形温度80℃以上300℃以下で成形する工程、及び、
前記繊維強化複合材料の表面にて成分[A]~[C]を含む樹脂組成物を30℃以上80℃未満で硬化させて被膜とする工程を有する、請求項1~
9のいずれかに記載の自動車の外装部材用成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の成形品とその製造方法に関する。特に表面に被膜を形成することで、強化繊維の形態と樹脂材料との収縮に起因する成形品の表面凹凸を大幅に低減することで優れた表面品位を持つ、硬化被覆を有する成形品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マトリクス樹脂と強化繊維から成る繊維強化樹脂(Fiber Reinforced Plastic:FRP)部材、その中でも炭素繊維を用いたCFRPは、軽量で機械特性に優れることから、輸送用機器などへの適用が進んでいる。中でも自動車の外装部材用途などの機械特性に加えて高い美観性が要求される用途において、CFRPは欠陥が無く平滑である表面が求められることが多い。
【0003】
繊維強化樹脂成形品の製造方法としては、シートモールディングコンパウンド(SMC)成形法やバルクモールディングコンパウンド(BMC)成形法などが使われることが多い。近年は、レジントランスファーモールディング(RTM)法が注目され、適用が進んでいる。レジントランスファーモールディング(RTM)法は、強化繊維を連続繊維の形態で使用することができ、機械的特性が非常に高く、かつ短いサイクルタイムで成形できることにより生産性に優れる。
【0004】
しかし、これらの成形法で得られた繊維強化樹脂成形品は、表面に樹脂の充填不良による欠陥が生じたり、強化繊維の形態と樹脂の収縮に伴って表面凹凸が発生したりして、従来からよく用いられている金属部材に比べて表面の平滑性が劣ることが多かった。この課題を解消するために繊維強化樹脂成形品の表面を補修・研磨してから塗装する必要があり、そのために大きな労力をかけなくてはならない場合があった。しかし、このような処理を行ったとしても、表面の平滑性が十分出ない場合もあった。特に、表面積の大きなものや、曲面や垂直に屈曲した面等の複雑な形状を有している繊維強化樹脂成形品は、補修・研磨に多くの時間がかかることが多かった。
【0005】
このような課題に対し、以下の方法が提案されている。まず、特許文献1に係る方法では、RTM法により繊維強化樹脂含浸体を得た後に、繊維強化樹脂含浸体の表面と金型表面の間に繊維強化樹脂成形体を被覆するための組成物(マトリクス樹脂とは別の樹脂)を注入する。そして、注入完了後に再度型締めを行い、繊維強化樹脂成形体を被覆するための組成物を硬化させることで、成形体表面の繊維目やピンホールを隠蔽した繊維強化樹脂成形体を得る。
【0006】
また、繊維強化樹脂成形体を被覆するための組成物には、被膜として透明性に優れることや、生産性向上のために短時間で硬化することと、一方で保存安定性を有することが求められ、例えば、エポキシ樹脂とチオール化合物とホスフィン類を組み合わせ硬化速度の向上を図った電子部品用エポキシ組成物(特許文献2)、特定構造の脂環式エポキシ樹脂と硬化剤、硬化促進剤、チオールを組み合わせ、光透過性や低応力性に優れた光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物(特許文献3)、エポキシ樹脂とチオール系硬化剤と硬化助剤を組み合わせ、良好な保存安定性を有するエポキシ樹脂コーティング組成物(特許文献4)、分子内にエポキシ基及び/又はチイラン基を2個以上有する化合物とイオン液体と分子内にチオール基を2個以上有するポリチオール化合物を組み合わせ、硬化特性と保存安定性のバランスを兼ね備えた樹脂組成物(特許文献5)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-209510号公報
【文献】特開2008-088212号公報
【文献】特開2009-13263号公報
【文献】国際公開第2010/137636号
【文献】特開2015-221900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の樹脂成形体被覆組成物を用いると、かかる組成物からなる硬化被膜を表面に形成することでマトリクス樹脂の充填不良によるピンホールなどの表面欠陥を解消できる。しかし、強化繊維基材の形態と、マトリクス樹脂と硬化被膜からなる表層樹脂全体の収縮に伴う表面凹凸は、十分に低減することができなかった。なぜなら、強化繊維基材の形態と表層樹脂全体の収縮に伴う表面凹凸は、硬化時の表層樹脂全体の樹脂層の厚さと、樹脂が硬化したときの温度と通常使用される温度の差による表層樹脂全体の熱収縮と、に大きく依存することが問題の根本としてあり、これにより生じる下記の問題を解決できていなかったからである。
【0009】
この表面凹凸について、強化繊維基材として少なくとも表層に織物基材を用いる場合を例にとると、強化繊維束の織構造に伴って、横糸と縦糸が交差する織目部分に凹部分が形成され、基材表面に凹凸が形成される。そのため、平滑に加工された成形型表面と織物基材の間で形成される繊維強化樹脂成形体の被覆成形体の表層樹脂全体の厚さは一様ではなくなる。つまり、織物基材の凹凸の凸部分では表層樹脂全体は薄く、凹の部分(織目の部分)では表層樹脂全体は厚くなる。
【0010】
すなわち、被覆用樹脂が硬化する時点においては、平滑に仕上げられた成形型の表面形状が転写されたとしても、脱型し冷却すると、マトリクス樹脂および硬化被膜のいずれもが熱収縮する。表層樹脂全体が薄い部分では熱収縮の絶対量が小さいため表面の変化は小さいが、表層樹脂全体が厚い部分では大きく変化する。このため、結果として常温まで冷却された繊維強化樹脂の表面には凹凸が生じることとなっていた。
【0011】
従来の方法では、繊維強化複合材料を成形した温度と同じ温度で硬化被膜を形成してきた。このため、その温度で被覆組成物を形成しても、通常使用される温度まで冷却すると樹脂の熱収縮によって、凹凸が生じる。そこで、熱収縮を小さくするべく繊維強化複合材料を成形した温度よりも低い温度で硬化被膜を形成することが求められるが、特許文献1に記載の材料は成形品の生産性という点について鑑みた場合、被膜を低温で十分に高速硬化できるものではなく、高速硬化させようと硬化温度を上げた場合に樹脂の変色を招き、品位が劣るものであった。
【0012】
また、特許文献2に記載のエポキシ樹脂組成物は、電子部品の表面に用いることを目的としており、特に半導体用封止剤を主な用途としているが、これらに用いられるエポキシ樹脂組成物には高い硬度が求められるものであり、繊維強化複合材料用への転用を考えた場合、繊維強化複合材料が一般に用いられる用途においては表面の硬度が高過ぎるものであり、また品位の低下が懸念されるものであった。
【0013】
特許文献3においても、同様に光半導体素子封止用のエポキシ樹脂組成物であるから、特許文献2に記載の発明と同様、繊維強化複合材料用への転用を考えた場合の品位の低下等が懸念されるものであった。
【0014】
特許文献4と5においては、繊維強化複合材料の被膜として形成することについて記載がなかった。
【0015】
そこで本発明の課題は、繊維強化樹脂を成形した際、成形温度(硬化温度)と常温との温度差により生じる表面凹凸を低減することができ、かつ表面品位が高く耐候性にも優れる成形品と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであり、本発明の成形品は、繊維強化複合材料の表面に、次の成分[A]~[C]を含む樹脂組成物を硬化させた被膜が形成されたものである。
成分[A]:脂肪族エポキシ樹脂
成分[B]:チオール化合物
成分[C]:第四級ホスホニウム塩
ここで、上記被膜は、繊維強化複合材料の表面の一部が被膜となったものではなく、別途、表面に形成されたものである。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、前記樹脂組成物は、前記成分[A]100質量部に対し、前記成分[C]を0.1質量部以上15質量部未満含むものである。
【0018】
本発明の成形品の好ましい態様によれば、前記成分[A]は、脂環構造を有する。
【0019】
本発明の成形品の好ましい態様によれば、前記成分[A]は、シクロヘキサン環を有する。
【0020】
本発明の成形品の好ましい態様によれば、前記成分[A]は、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂である。
【0021】
本発明の成形品の好ましい態様によれば、前記成分[B]は、2級チオール構造または3級チオール構造を有する。
【0022】
本発明の成形品の好ましい態様によれば、前記成分[B]は、化学式2で示されるチオール構造を2個以上有する。
【0023】
【0024】
R7は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
【0025】
R8は、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
【0026】
nは、1以上の自然数を示す。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、前記成分[C]は、化学式1で示される化合物である。
【0028】
【0029】
R1~R4はそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
【0030】
R5及びR6はそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基を示す。
【0031】
M1及びM2はそれぞれ独立して、周期表における第16族から選ばれる元素を示す。
【0032】
本発明の成形品の好ましい態様によれば、前記繊維強化複合材料は複数の強化繊維層を有し、それらの強化繊維層の中で被膜と接する強化繊維層の形態が、平織りの強化繊維織物、綾織りの強化繊維織物、繻子織りの強化繊維織物又は一方向性の強化繊維織物から選択される。
【0033】
本発明の成形品の好ましい態様によれば、前記繊維強化複合材料が、強化繊維として炭素繊維を含む。
【0034】
本発明の成形品の製造方法は、繊維強化複合材料を成形温度80℃以上300℃以下で成形する工程、及び、成分[A]~[C]を含む樹脂組成物を30℃以上80℃未満で硬化させて被膜とする工程を有する。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、繊維強化樹脂を成形した際、強化繊維の形態に伴って表面に生じる、表面凹凸を大幅に低減することができる成形品や、その製造方法を提供することが可能となる。これにより、繊維強化複合材料の表面の品位を高めることができ、特に自動車用途への繊維強化複合材料の適用が進み、自動車の更なる軽量化による燃費向上、地球温暖化ガス排出削減への貢献が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の成形品の望ましい実施の形態について、詳細に説明する。
【0037】
本発明の成形品は、繊維強化複合材料の少なくとも一方の表面に、以下の成分[A]~[C]を含む樹脂組成物を硬化させた被膜が形成されている。すなわち、平板状の繊維強化複合材料を例にとると、一方の表面にかかる被膜を有してもよいし、両面にかかる被膜を有してもよい。平板状以外の材料を考える場合、ある一つの面に被膜が形成されていてもよく、複数の面、さらには、全ての面に被膜が形成されていてもよい。
成分[A]:脂肪族エポキシ樹脂
成分[B]:チオール化合物
成分[C]:第四級ホスホニウム塩
[成分[A]:脂肪族エポキシ樹脂]
本発明で用いられる成分[A]は、脂肪族エポキシ樹脂である。脂肪族エポキシ樹脂とは、水酸基を複数有するアルコールから得られる脂肪族グリシジルエーテルを意味する。
【0038】
本発明における成分[A](脂肪族エポキシ樹脂)として好ましく用いることができる脂肪族グリシジルエーテルの例としては、例えば、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、グリセリンのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンのジグリシジルエーテル、トリメチロールエタンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールのテトラグリシジルエーテル、ドデカヒドロビスフェノールAのジグリシジルエーテル、およびドデカヒドロビスフェノールFのジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0039】
成分[A]として脂肪族エポキシ樹脂を用いることで、芳香族エポキシ樹脂の場合に生じる紫外線吸収による硬化物の着色を抑制でき、また組成物そのものの粘度を低く抑えることができ、成形型内のキャビティへ流し込みやすくなることが期待される。また構造の面からは、成分[A]としては脂環構造を有することで、本発明に係る被膜の強度が増し、より高品位の成型体を得られる。この観点から、より好ましくは成分[A]はシクロヘキサン環を有する。また、成分[A]としてより好ましいものは、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、例えば、ドデカヒドロビスフェノールAのジグリシジルエーテル、およびドデカヒドロビスフェノールFのジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
[その他のエポキシ樹脂]
本発明で用いられる樹脂組成物は上記成分[A]の他に、本出願の特性を損なわない範囲で必要に応じて、他のエポキシ樹脂を含んでも良い。成分[A]以外のエポキシ樹脂の例としては、例えば、水酸基を複数有するフェノールから得られる芳香族グリシジルエーテル、アミンから得られるグリシジルアミンを有するエポキシ樹脂、およびカルボキシル基を複数有するカルボン酸から得られるグリシジルエステルなどが好ましく挙げられる。
【0040】
芳香族グリシジルエーテルの例としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールADのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテル等のビスフェノールから得られるジグリシジルエーテル、フェノールやアルキルフェノール等から得られるノボラックのポリグリシジルエーテル、レゾルシノールのジグリシジルエーテル、ヒドロキノンのジグリシジルエーテル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルのジグリシジルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテル、1,6-ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル、トリス(p-ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル、テトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタンのテトラグリシジルエーテル、およびビスフェノールAのジグリシジルエーテルと2官能イソシアネートを反応させて得られるオキサゾリドン骨格を有するジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
グリシジルアミンの例としては、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキル置換体、および水添品などが挙げられる。
【0042】
グリシジルエステルの例としては、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、およびダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0043】
[成分[B]:チオール化合物]
本発明で用いられる成分[B]はチオール化合物であり、より具体的には、成分[A](脂肪族エポキシ樹脂)のエポキシ基と反応可能なチオール基を一分子中に2個以上有する化合物を指し、エポキシ樹脂の硬化剤として作用するものが好ましい。
【0044】
成分[B]としてチオール化合物を用いることで、繊維強化複合材料を成形した温度よりも低い温度で硬化被膜を形成する際にも、十分に高速硬化させ、生産性を高めることが可能となることが期待される。
【0045】
チオール化合物の例としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、ビスフェノールA型チオール等が好ましく挙げられ、特に1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンがより好ましい。
【0046】
一方で、成形型内のキャビティへ樹脂組成物を流し込む間には、十分流し込める低粘度を維持する安定性が求められ、その観点から成分[B]は2級チオール構造または3級チオール構造を有することが好ましく、以下の化学式2で示されるチオール構造を2個以上有することがより好ましい。
【0047】
【0048】
R7は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
【0049】
R8は、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
【0050】
nは、1以上の自然数を示す。
【0051】
R7、R8がともに水素原子である場合、被膜用樹脂組成物を調製した際に安定性が低く、短時間で増粘し、成型が困難になる場合がある。
【0052】
好ましくはnは1以上10以下の自然数を示し、より好ましくはnは1以上5以下の自然数を示す。
【0053】
このような構造を持つチオール化合物の例としては、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンなどが好ましく挙げられる。
【0054】
本発明における成分[A]と成分[B]の配合量は、成分[B]中のチオール基数(H)と、成分[A]中のエポキシ基総数(E)の比、H/E比が0.8~1.3の範囲を満たす配合量であることが好ましい態様である。H/E比が0.8を下回る場合、過剰に存在するエポキシ樹脂同士の重合が進み、硬化物の物性の低下を招く場合がある。また、H/E比が1.3を上回る場合、過剰に存在する硬化剤成分のために系の反応点の濃度が減少し、反応速度が低下し、十分な高速硬化性を発揮できなくなる場合がある。
【0055】
[成分[C]:第四級ホスホニウム塩]
本発明で用いられる成分[C]は、第四級ホスホニウム塩である。これらは速硬化性発現のための硬化促進剤として作用するため好ましい。
【0056】
第四級ホスホニウム塩を本発明に適用すると、詳細な機構は定かではないが、主剤液と硬化剤液を混合した後の粘度上昇が少なく安定であり、成形型内のキャビティに樹脂組成物を流し込む際の低粘度安定性に優れる一方で、その後の硬化反応が十分に速く硬化時間を短縮できる。
【0057】
本発明における成分[C]として好ましく用いられる第四級ホスホニウム塩の具体例としては、テトラエチルホスホニウムブロミド、トリブチルメチルホスホニウムヨージド、テトラエチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルホスホニウムテトラフルオロボレート、トリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロリド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムスルファート、トリブチル-n-オクチルホスホニウムブロミド、テトラ-n-オクチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムジシアナミド、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムクロリド、トリブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムヨージド、(ブロモメチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(クロロメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(シアノメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージド、イソプロピルトリフェニルホスホニウムヨージド、トリフェニルビニルホスホニウムブロミド、アリルトリフェニルホスホニウムブロミド、アリルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、(ホルミルメチル)トリフェニルクロリド、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、トリフェニルプロピルホスホニウムブロミド、トリフェニルプロパルギルホスホニウムブロミド、アミルトリフェニルホスホニウムブロミド、アセトニルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、3-ブロモプロピルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、シクロプロピルトリフェニルホスホニウムブロミド、2-ジメチルアミノエチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘプチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、(3-トリメチルシリル-2-プロピル)トリフェニルホスホニウムブロミド、トリフェニル(テトラデシル)ホスホニウムブロミド、(2-トリメチルシリルエチル)トリフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリブチル(1,3-ジオキサン-2-イルメチル)ホスホニウムブロミド、trans-2-ブタン-1,4-ビス(トリフェニルホスホニウムクロリド)、(tert-ブトキシカルボニルメチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(4-ブロモベンジル)トリフェニルホスホニウムブロミド、シンナミルトリフェニルホスホニウムブロミド、(4-クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(3-カルボキシプロピル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(2-クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロリド、エトキシカルボニルメチル(トリフェニル)ホスホニウムブロミド、メトキシカルボニルメチル(トリフェニル)ホスホニウムブロミド、(1-ナフチルメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、フェナシルトリフェニルホスホニウムブロミド、2-(トリメチルシリル)エトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、4-(カルボキシブチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(1,3-ジオキサン-2-イル)メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、(2,4-ジクロロベンジル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(3,4-ジメトキシベンジル)トリフェニルホスホニウムブロミド、4-エトキシベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、(2-ヒドロキシベンジル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(3-メトキシベンジル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(4-ニトロベンジル)トリフェニルホスホニウムブロミド、2-(1,3-ジオキサン-2-イル)エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、2-(1,3-ジオキサン-2-イル)エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、トリフェニル(2-チエニルメチル)ホスホニウムブロミド、ドデシルトリブチルホスホニウムクロリド、エチルトリオクチルホスホニウムブロミド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロリド、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート、メチルトリブチルホスホニウムヨージド、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムo,o-ジエチルホスホロジチオエート、テトラブチルホスホニウムベンゾトリアゾレート、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリエチルペンチルホスホニウムブロミド、トリエチルオクチルホスホニウムブロミド、トリエチルペンチルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルオクチルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリ-n-ブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどが挙げられる。
【0058】
本発明における成分[C]として用いられる第四級ホスホニウム塩としては、成分[A]や成分[B]への溶解性やコスト、さらに低粘度安定性と高速硬化性の両立の観点から化学式1で示される化合物が好ましい態様であり、その具体例としては、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート、テトラブチルホスホニウムo,o-ジエチルホスホロジチオエートなどが好ましく挙げられる。
【0059】
【0060】
R1~R4はそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基或いはアラルキル基、又はアリール基を示す。
【0061】
R5及びR6はそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基を示す。
【0062】
M1及びM2はそれぞれ独立して、周期表における第16族から選ばれる元素を示し、特に酸素、硫黄であることが好ましい。
【0063】
本発明で用いられる成分[C]の含有量は、成分[A]100質量部に対して0.1質量部以上15質量部未満が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上12質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上10質量部以下である。成分[C]が0.1質量部よりも少ない場合、硬化に要する時間が長くなり十分な高速硬化性を発揮できない場合がある。一方、成分[C]が15質量部以上の場合、低粘度を維持する時間が短くなり、成形型内のキャビティに樹脂組成物を流し込むことが困難となる場合がある。
[被膜用樹脂組成物のキュアインデックス]
本発明に係る樹脂組成物は、定温保持下での誘電測定で求められるキュアインデックスが90%となる時間をt90としたとき、t90が次の式(式1)を満たす特定温度Tを有することが好ましい。
・t90≦30・・・・・(式1)
(t90は、温度Tにおける測定開始からキュアインデックスが90%に到達する時間(分)を表す)。
【0064】
誘電測定は、粘度や弾性率との一義的な対応はとれないが、低粘度液体から高弾性率非晶質固体まで変化する熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを求める上で有益である。誘電測定では、熱硬化性樹脂に高周波電界を印加して測定される複素誘電率から計算されるイオン粘度(等価抵抗率)の時間変化から、硬化プロファイルを求める。
【0065】
誘電測定装置としては、例えば、Holometrix-Micromet社製のMDE-10キュアモニターを使用することができる。測定方法としては、まず、TMS-1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に、内径が32mmで、厚さが3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を所定の温度Tに設定する。次に、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎ、プレスを閉じてエポキシ樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡する。誘電測定は、1、10、100、1000、および10000Hzの各周波数で行い、装置付属のソフトウェア(ユーメトリック)を用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Log(σ)を得る。
【0066】
硬化所要時間tにおけるキュアインデックスは、次(式2)で求められ、キュアインデックスが90%に達する時間をt90とした。
・キュアインデックス={log(αt)-log(αmin)}/{log(αmax)-log(αmin)}×100・・・(式2)
・キュアインデックス:(単位:%)
・αt:時間tにおけるイオン粘度(単位:Ω・cm)
・αmin:イオン粘度の最小値(単位:Ω・cm)
・αmax:イオン粘度の最大値(単位:Ω・cm)。
【0067】
誘電測定によるイオン粘度の追跡は、硬化反応が速くても比較的容易である。さらに、イオン粘度は、ゲル化以降も測定が可能であり、硬化の進行とともに増加し、硬化完了に伴って飽和するという性質をもつ。そのため、硬化反応の進行を追跡するために用いることができる。上記のようにイオン粘度の対数を、最小値が0%になり、飽和値(最大値)が100%になるように規格化した数値をキュアインデックスといい、熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを記述するために用いられる。初期の粘度上昇の速さに関わる指標としてキュアインデックスが10%に到達する時間を用い、硬化時間に関わる指標としてキュアインデックスが90%に到達する時間を用いることにより、初期の粘度上昇が小さく、短時間で硬化できるために好ましい条件を記述することができる。
【0068】
なお、繊維強化複合材料の成形温度とのバランスを考慮すると、被膜用樹脂組成物の硬化温度、すなわち、前記特定温度Tは30℃以上80℃未満であることが好ましい。この温度範囲とすることで、脱型後の熱収縮を小さくし、表面品位の良好な繊維強化複合材料を得ることができる。
【0069】
[被膜用樹脂組成物の配合]
本発明の被膜用樹脂組成物は、成分[A]を含む主剤液と、成分[B]を主成分(なお、ここでいう主成分とは、硬化剤液中において質量基準で最大量の成分であることを意味する。)として含む硬化剤液とを、それぞれ前記した配合量で配合しておき、使用直前に前記した配合量となるように、主剤液と硬化剤液を混合して得られる。前記した成分[C]は、主剤液、硬化剤液のどちらに配合することができるが、硬化剤液に含まれることがより好ましい態様である。
【0070】
他の配合成分は、主剤液と硬化剤液のどちらに配合しても良く、あらかじめどちらかあるいは両方に混合して使用することができる。主剤液と硬化剤液は、混合前に、別々に加温しておくことが好ましく、成形型への注入など、使用の直前にミキサーを用いて混合して2液型エポキシ樹脂組成物を得ることが、樹脂の可使時間の点から好ましい。
【0071】
[繊維強化複合材料]
本発明に用いる繊維強化複合材料において、強化繊維とともに複合材料を形成するマトリクス樹脂の種類としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれをも適宜適用することができる。マトリクス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いると、機械的特性に優れる繊維強化樹脂成形品を得られるため、好ましい。また、耐熱性の観点から、マトリクス樹脂のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましい。
【0072】
本発明に用いる繊維強化複合材料はその成形方法は特に問わないが、成形方法としては、(i)適当な長さにカットされた強化繊維束に熱硬化性樹脂を予め含浸させてシート状に形成した中間基材を成形型で加圧加熱して所定の形状に成形するSMC成形法や、(ii)適当な長さにカットされた強化繊維束と熱硬化性樹脂、充填材を混合しバルク状にした中間材料を成形型で加圧加熱して所定の形状に成形するBMC成形法、(iii)平行に引き揃えたり、織物にしたりしてシート状にした強化繊維束にマトリクス樹脂が含浸された中間基材であるプリプレグを、成形型に積層配置しプレスで加熱加圧したり、成形型に積層配置して真空バッグして加熱したり、オートクレーブで加圧加熱して成形するプリプレグ成形法、(iv)両面型からなる成形型の一方の型上に配置した織物やNCFなどの強化繊維基材上に液状のマトリクス樹脂を供給し、両面型を閉じて加圧加熱するリキッドコンプレッション法などを適用可能であり、中でもRTM法を用いると、短いサイクルタイムと高い機械的特性を両立させることができる。また、繊維強化複合材料を成形する温度は、80℃以上300℃以下であることが好ましく、90℃以上200℃以下であることがより好ましい。繊維強化複合材料を成形する温度が80℃を下回ると、被膜用樹脂組成物の硬化温度と重なることがあり、被膜硬化後の熱収縮を小さくし表面品位を良くする効果が発現しないことがある。繊維強化複合材料を成形する温度が300℃を上回ると、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂の分解を招き表面が荒れ、被膜用樹脂組成物による表面品位向上効果が低減する場合がある。
【0073】
本発明に用いる繊維強化複合材料において、用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維およびボロン繊維等が好適である。中でも、軽量でありながら、強度や、弾性率等の力学物性が優れる繊維強化複合材料が得られるという理由から、炭素繊維が好適に用いられる。強化繊維は、短繊維および連続繊維のいずれであってもよく、両者を併用することもできる。高Vfの繊維強化複合材料を得るためには、強化繊維としては連続繊維が好ましく用いられる。
【0074】
本発明に係る成形品に有色塗装を施さずに、強化繊維基材自体を外部から視認可能とする製品の場合は、特に成形品の商品価値が高い。この場合は、織構造によって表現される独特の模様が意匠性に優れるため、平織り、綾織及び繻子織などの形態の織物が好んで用いられることがある。
【実施例】
【0075】
次に、実施例により、本発明における被膜用エポキシ樹脂組成物と繊維強化複合材料について、さらに詳細に説明する。
【0076】
<樹脂原料>
各実施例の被膜用樹脂組成物を得るために、次の樹脂原料を用いた。表1中のエポキシ樹脂組成物の含有割合の単位は、特に断らない限り「質量部」を意味する。
1.エポキシ樹脂
・“リカレジン”(登録商標)HBE-100(新日本理化(株)製):水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量215
・“リカレジン”(登録商標)DME-100(新日本理化(株)製):1,4-シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、エポキシ当量158
・“エポトート”(登録商標)YD-128(新日鉄住金化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量189
2.チオール化合物
・PEMP(SC有機化学(株)製):ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)
・“カレンズMT”(登録商標)NR1(昭和電工(株)製):1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン―2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン
・“カレンズMT”(登録商標)PE1(昭和電工(株)製):ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)
3.第四級ホスホニウム塩
・エチルトリフェニルホスホニウムブロミド(東京化成工業(株)製)
・“ヒシコーリン”(登録商標)PX-4ET(日本化学工業(株)製):テトラブチルホスホニウムo,o-ジエチルホスホロジチオエート
4.その他物質
・メタキシリレンジアミン(東京化成工業(株)製)
・HN-5500(日立化成(株)製):メチルヘキサヒドロフタル酸無水物
・トリ-p-トリルホスフィン(東京化成工業(株)製)
<被膜用樹脂組成物の調製>
表1に記載した配合比により、エポキシ樹脂を配合し主剤液とした。表1に記載した配合比で、成分[B](チオール化合物)と成分[C](第四級ホスホニウム塩)、その他の物質を配合して硬化剤液とした。これらの主剤液と硬化剤液とを用い、これらを表1に記載した配合比で混合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0077】
<被膜用樹脂組成物の粘度の測定>
ISO 2884-1(1999)における円錐平板型回転粘度計を使用した測定方法に準拠し、被膜用樹脂組成物の混合調製1分後の粘度を測定し、粘度安定性の指標とした。装置には、東機産業(株)製のTVE-33H型を用いた。ここでローターは1゜34’×R24を用い、測定温度は50℃、サンプル量は1cm3とした。
【0078】
<誘電測定>
エポキシ樹脂の硬化を追跡するために、誘電測定を行った。誘電測定装置として、Holometrix-Micromet社製のMDE-10キュアモニターを使用した。TMS-1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に、内径が32mmで、厚さが3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を50℃に設定し、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎプレスを閉じ、エポキシ樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡した。誘電測定は、1、10、100、1000および10000Hzの各周波数で行い、付属のソフトウェアを用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Log(α)を得た。
【0079】
次に、次の(式2)によりキュアインデックスを求め、キュアインデックスが90%に到達する時間t90を求めた。
・キュアインデックス={log(αt)-log(αmin)}/{log(αmax)-log(αmin)}×100 ・・・(式2)
・キュアインデックス:(単位:%)
・αt:時間tにおけるイオン粘度(単位:Ω・cm)
・αmin:イオン粘度の最小値(単位:Ω・cm)
・αmax:イオン粘度の最大値(単位:Ω・cm)。
【0080】
<被膜用樹脂硬化板の作成>
プレス装置下面に、一辺50mmの正方形をくり抜いた、厚さ2mmの銅製スペーサーを設置し、プレスの温度を50℃に設定し、エポキシ樹脂組成物をスペーサーの内側に注ぎ、プレスを閉じた。30分後にプレスを開け、樹脂硬化板を得た。その後、105℃3時間の熱処理を加えた。
【0081】
<硬化物着色>
上記の樹脂硬化板について着色の有無を判断した。具体的には、樹脂硬化板から切り出した30mm角、厚さ2mmの試験片を使用し、分光測色計(CM-700d、コニカミノルタ(株)製)を用いて、硬化物の色調をL*a*b*表色系で表した。L*a*b*表色系は物質の色を表すのに用いられているもので、L*により明度を表し、a*とb*により色度を表す。ここで、a*は赤方向、-a*は緑方向、b*は黄方向、-b*は青方向を示す。測定条件は波長380~780nmの範囲において、D65光源、10°視野として、正反射光を含まない条件での分光透過率を測定した。このとき、|a*|≦2であって、かつ|b*|≦5であるものは「着色無し」、それ以外を「着色有り」とした。
【0082】
<繊維強化複合材料の作製>
繊維強化複合材料には、下記のRTM成形法によって作製したものを用いた。
【0083】
350mm×700mm×1.6mmの板状キャビティを持つ金型のキャビティに、強化繊維として炭素繊維織物CO6343B(炭素繊維:T300-3K、組織:平織、目付:198g/m2、東レ(株)製)を6枚積層し、プレス装置で型締めを行った。次に、120℃の温度(成形温度)に保持した金型内を、真空ポンプにより、大気圧-0.1MPaに減圧し、あらかじめエポキシ樹脂組成物(東レ(株)製TR-C38)を、樹脂注入機を用いて注入した。エポキシ樹脂組成物の注入開始後10分で金型を開き、脱型して、繊維強化複合材料を得た。
【0084】
<硬化被膜の形成>
被膜用金型の温度を50℃に調整し、下型に120mm×60mmにカットした繊維強化複合材料を置き、上型を閉じた後、金型内を真空引きした。その後、表1の配合比に従い、前記したようにして被膜用樹脂組成物を混合調製し、金型内に樹脂を流し込み、30分後に上型を開け、表面に被膜が形成された繊維強化樹脂成形品を取り出した。
【0085】
<表面平滑性>
表面平滑性の評価は成形品表面のウェーブスキャン(WS)値の確認で行った。自動車用途において、最も表面が良い状態は「クラスA」と呼ばれている。「クラスA」の統一的な基準は定められていないものの、一般に、表面の小さなピッチで出てくる凹凸量を示すショートウェーブ(SW)が20以下、表面の大きなピッチで出てくる凹凸量を示すロングウェーブ(LW)が8以下であることが多い。被膜の形成された繊維強化樹脂成形品の表面を、ウェーブスキャン機器(ウェーブスキャンデュアル)を用いてLW値を5回測定し、その平均値を、表1に記載した。
【0086】
<耐候性>
耐候性は、被膜の形成された成形品をキセノンウェザーメーター(スガ試験機(株)製SX75)中に置き、50日間経過前後の変化で評価した。試験はSAE J2527に基づき実施した。静置前後で、着色や表面のひび割れ・荒れの無かったものを「A」、僅かな変色やひび割れ・荒れのあったものを「B」、著しい変色やひび割れ・荒れのあるものを「C」とした。
【0087】
表1の配合比に従い、前記したようにして被膜用樹脂組成物を混合調製し、前記したように粘度測定、誘電測定を行った。また、この被膜用樹脂組成物を用いて前記した方法で樹脂硬化板を作製し着色評価を行った。さらに、繊維強化複合材料上に被膜用樹脂組成物で被膜を形成し、表面平滑性、耐候性を評価した。
【0088】
(実施例1)
表1に示したように、脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)HBE-100」50質量部と、脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)DME-100」50質量部からなる主剤液と、チオール化合物「“カレンズMT”(登録商標)NR1」104質量部に第四級ホスホニウム塩「“ヒシコーリン”(登録商標)PX-4ET」3質量部を相溶させた硬化剤液と、からエポキシ樹脂組成物を混合調製した。この被膜用エポキシ樹脂組成物は、50℃の温度で保持しても増粘が低く抑えられ、低粘度状態が維持されていた。また、50℃の温度でのt90で表される脱型可能時間が短いため、硬化被膜を有する繊維強化複合材料の成形において、成形時間の短縮にも効果的であることが分かった。また、この被膜用エポキシ樹脂組成物の硬化物は、着色が無かった。この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は、良好な表面平滑性を示し、また耐候性評価においても変色など無く良好な耐候性を示した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例2)
チオール化合物「“カレンズMT”(登録商標)NR1」を83部にしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。50℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は着色が無かった。この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は、良好な表面平滑性を示し、また耐候性評価においても変色など無く良好な耐候性を示した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例3、4)
脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)HBE-100」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液中のチオール化合物「“カレンズMT”(登録商標)PE1」を実施例3は63質量部、実施例4は81質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。いずれも、50℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は着色が無かった。この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は、良好な表面平滑性を示し、また耐候性評価においても変色など無く良好な耐候性を示した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例5)
脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)DME-100」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液をチオール化合物「PEMP」77質量部と、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド2.5質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。50℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は着色が無かった。この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は、良好な表面平滑性を示し、また耐候性評価においても変色など無く良好な耐候性を示した。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例6,7)
脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)HBE-100」90質量部と脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)DME-100」10質量部からなる主剤液と、硬化剤液にはチオール化合物「“カレンズMT”(登録商標)PE1」71質量部、第四級ホスホニウム塩「“ヒシコーリン”(登録商標)PX-4ET」を実施例6は0.1部、実施例7は10部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。いずれも50℃での粘度安定性に優れ、また脱型可能時間が短かった。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は着色が無かった。この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は、良好な表面平滑性を示し、また耐候性評価においても変色など無く良好な耐候性を示した。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
主剤液をビスフェノールA型エポキシ樹脂「“エポトート”(登録商標)YD-128」100質量部、硬化剤液のチオール化合物「“カレンズMT”(登録商標)NR1」を100質量部にしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。この被膜用エポキシ樹脂組成物は成分[A]を含まないため、この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は実施例に比べて耐候性が劣った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例2)
脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)HBE-100」100質量部からなる主剤液と、メタキシリレンジアミンを32質量部からなる硬化剤液としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。この被膜用エポキシ樹脂組成物は成分[B]、[C]を含まないため、50℃で十分に早く硬化せず、高温にすることで硬化し、硬化物は着色した。この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は、硬化被膜を高温で成形せざるを得ず、表面平滑性が劣るものであった。結果を表1に示す。
【0095】
アミン硬化剤として「メタキシリレンジアミン」を用いており、一般的にアミン硬化剤は「序盤は早く硬化するが、終盤硬化が遅くなる」傾向がある。そのため、この例では早く固めるため温度を上げざるを得ず、高温硬化のため表面平滑が悪化したと推定している。また、メタキシリレンジアミンは芳香環を有するため、硬化物が着色しやすくなる傾向がある。
【0096】
(比較例3)
脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)DME-100」100質量部からなる主剤液と、酸無水物「HN-5500」106質量部とトリ-p-トリルホスフィン5質量部からなる硬化剤液としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。この被膜用エポキシ樹脂組成物は成分[B]、[C]を含まないため、50℃で十分に早く硬化せず、高温にすることで硬化した。この被膜用エポキシ樹脂組成物を用いて作製した硬化被膜を有する繊維強化複合材料は、硬化被膜を高温で成形せざるを得ず、表面平滑が劣るものであった。結果を表1に示す。
【0097】
酸無水物として「HN-5500(チルヘキサヒドロフタル酸無水物)」、促進剤として「トリ-p-トリルホスフィン」を用いており、一般的に酸無水物硬化は「温度に対し反応が鋭敏」な傾向がある。そのため、この例では早く固めるため温度を上げざるを得ず、高温硬化のため表面平滑が悪化したと推定している。一方、この酸無水物は芳香環を有しないため、硬化物の着色はしづらいものになる。
【0098】
(比較例4)
脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)HBE-100」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液をチオール化合物「PEMP」57質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。この被膜用エポキシ樹脂組成物は成分[C]を含まないため、50℃でも高温でも硬化しなかった。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例5)
脂肪族エポキシ樹脂「“リカレジン”(登録商標)HBE-100」100質量部からなる主剤液と、硬化剤液をエチルトリフェニルホスホニウムブロミド2.5質量部としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。この被膜用エポキシ樹脂組成物は成分[B]を含まないため、50℃でも高温でも硬化しなかった。結果を表1に示す。
【0100】
以上のように、本発明の被膜用樹脂組成物は、繊維強化複合材料の被膜成形に適しており、外観、表面品位にも優れた被膜を有する成形品を生産性良く得られる。
【0101】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の被膜用樹脂組成物は、混合調製後のエポキシ樹脂組成物の低温(例えば50℃)での粘度安定性に優れ、成形時に短時間で硬化し、高品位の繊維強化複合材料を与える。これにより、特に自動車用途への繊維強化複合材料の適用が進み、自動車の更なる軽量化による燃費向上、地球温暖化ガス排出削減への貢献が期待できる。