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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】被覆着色剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20230124BHJP
   C09B 67/08 20060101ALI20230124BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20230124BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20230124BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20230124BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230124BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230124BHJP
   G03G 9/09 20060101ALI20230124BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230124BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C09D17/00
C09B67/08 C
C09D11/037
C09D11/322
C09D7/41
C09D7/63
C09D201/00
G03G9/09
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019008322
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020117590
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木智彦
(72)【発明者】
【氏名】青谷朋之
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷進典
(72)【発明者】
【氏名】平林勇輝
(72)【発明者】
【氏名】町田幸祐
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-235956(JP,A)
【文献】特開2007-169470(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173901(WO,A1)
【文献】特開2018-162430(JP,A)
【文献】特開平05-117567(JP,A)
【文献】特開2000-319536(JP,A)
【文献】特表2008-528746(JP,A)
【文献】特開平07-247367(JP,A)
【文献】特開2014-051557(JP,A)
【文献】米国特許第06433039(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 67/08
C09D 7/41
C09D 7/63
C09D 11/037
C09D 11/322
C09D 201/00
G03G 9/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆着色剤、水、塩基性物質、および架橋剤を含む被覆着色剤組成物であり、
被覆着色剤は、着色剤の表面が樹脂(P)で被覆された被覆着色剤であって、
前記樹脂(P)が、α-オレフィン、およびポリカルボキシル基もしくは酸無水物基含有モノマーを含む単量体の共重合体と、オキシカルボン酸との反応物であって、カルボキシル基を有する樹脂であり、
前記オキシカルボン酸は、2価または3価のカルボキシル基を有する、
被覆着色剤組成物
【請求項2】
樹脂(P)の数平均分子量が、2,000~35,000である請求項1記載の被覆着色剤組成物
【請求項3】
樹脂(P)の酸価が、100~600mgKOH/gである請求項1または2記載の被覆着色剤組成物
【請求項4】
前記α-オレフィンの炭素数が、6~50である、請求項1~3いずれか1項に記載の被覆着色剤組成物
【請求項5】
前記オキシカルボン酸の分子量が、80~350である請求項1~4いずれか1項に記載の被覆着色剤組成物
【請求項6】
インクジェット記録用インク、フレキソ印刷用インキ、トナー、または塗料用である、請求項1~5いずれか1項に記載の被覆着色剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載の被覆着色剤組成物の製造方法であって、
被覆着色剤と塩基性化合物と水を添加して、樹脂(P)のカルボキシル基を中和する工程、及び架橋剤を添加して樹脂(P)を架橋させる工程を順次行う、被覆着色剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に水性インクジェット記録用インクに好適に用いられる被覆着色剤および該被覆着色剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像が記録された印刷物等を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録媒体として普通紙を含めた幅広い基材が使用可能、記録媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。近年特に、記録物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いるものが主流となってきている。
【0003】
顔料分散体において、意匠性を必要とする分野では、粗粒の少ない微細な顔料をより効率よく得られる易分散性が求められている。この課題に対して、特許文献1には、α-オレフィンを含む共重合物で被覆した着色剤、特許文献2には、着色剤粒子がα-オレフィンを含む共重合物を含む水性着色剤分散体が開示されている。
【0004】
その一方で、顔料分散体を用いるインクジェット記録用インクは、顔料の再分散性が不足していると、インク吐出ノズル部分で顔料が固着し、ノズルの目詰まりを起こしてしまうことがある。特許文献1、2に開示された方法では、ノズルの目詰まりにおいて改善の余地があった。
【0005】
そこで、特許文献3では、N-ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位と、酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位を含むブロック共重合体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-162430号公報
【文献】特許第6402435号
【文献】特開2015-093917号公報
【0007】
しかし、特許文献3に開示された分散剤では、水系分散体で反発効果に寄与するカルボキシル基部位が適切に配されておらず、顔料の易分散性や、意匠性をもたらすための塗工物の光沢性が十分でなかった。再分散性と易分散性、そしてノズルの目詰まり抑制と塗工物の光沢性を、それぞれ両立させることが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、易分散性と再分散性が良好な着色剤を提供することを課題とする。すなわち、本発明はノズルの目詰まり抑制と、光沢性に優れるインクジェット記録用インク、フレキソ印刷用インキ、トナー、または塗料を得られることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。
【0010】
<1>着色剤の表面が樹脂(P)で被覆された被覆着色剤であって、
前記樹脂(P)が、α-オレフィン、およびポリカルボキシル基もしくは酸無水物基含有モノマーを含む単量体の共重合体と、水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸との反応物であって、カルボキシル基を有する樹脂である、被覆着色剤。
【0011】
<2>樹脂(P)の数平均分子量が、2,000~35,000である上記被覆着色剤。
【0012】
<3>樹脂(P)の酸価が、100~600mgKOH/gである上記被覆着色剤。
【0013】
<4>α-オレフィンの炭素数が、6~50である、上記被覆着色剤。
【0014】
<5>前記オキシカルボン酸の分子量が、80~350である、上記被覆着色剤。
【0015】
<6>上記被覆着色剤、水、および塩基性物質を含む、被覆着色剤組成物。
【0016】
<7>さらに架橋剤を含む、上記被覆着色剤組成物。
【0017】
<8>インクジェット記録用インク、フレキソ印刷用インキ、トナー、または塗料用である、上記被覆着色剤。
【0018】
<9>インクジェット記録用インク、フレキソ印刷用インキ、トナー、または塗料用である、上記被覆着色剤組成物。
【0019】
<10>上記被覆着色剤の製造方法であって、
水溶性有機溶剤、水溶性無機塩、着色剤、ならびに樹脂(P)を混練機で混合し、次いで水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去する、被覆着色剤の製造方法。
【0020】
<11>上記被覆着色剤組成物の製造方法であって、
被覆着色剤と塩基性化合物と水を添加して、樹脂(P)のカルボキシル基を中和する工程、及び架橋剤を添加して樹脂(P)を架橋させる工程を順次行う、被覆着色剤組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、再分散性と易分散性が良好な着色剤、ノズルの目詰まり抑制と光沢性に優れるインクジェット記録用インク、フレキソ印刷用インキ、トナー、捺染剤、文具、または塗料を得られることができる。
その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
表面がα-オレフィンユニットを含む樹脂(P)により被覆された被覆着色剤は、疎水性の高いα-オレフィンユニットが着色剤に対して高い樹脂吸着能を持ち、また、樹脂(P)中のカルボキシル基部位が高密度に配されることによる優れた静電反発と高い親水性、さらに、樹脂(P)が架橋されることによる着色剤の強固な被覆により、上記課題を解決できる着色剤となることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明は、着色剤の表面が樹脂(P)で被覆された被覆着色剤であって、
前記樹脂(P)が、α-オレフィン、およびポリカルボキシル基もしくは酸無水物基含有モノマーを含む単量体の共重合体の、水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸との反応物であって、カルボキシル基を有する樹脂であることを特徴とする。
α-オレフィンと、ポリカルボキシル基もしくは酸無水物基含有モノマーとを含む単量体の共重合体は、カルボキシル基もしくは酸無水物基を有する。当該カルボキシル基もしくは酸無水物基は、水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸と反応し、当該反応物は、カルボキシル基を有する樹脂となる。
【0023】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明の被覆着色剤およびその製造方法について説明する。
なお、本願では、「C.I.」は、カラーインデックス(C.I.)を意味する。
【0024】
[被覆着色剤]
本発明の被覆着色剤は、着色剤表面が樹脂(P)により被覆されてなるものであり、当該樹脂は、α-オレフィン、およびポリカルボキシル基もしくは酸無水物基含有モノマーを含む単量体の共重合体の、水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸との反応物であって、カルボキシル基を有する。
【0025】
本明細書で着色剤は、無機顔料、有機顔料、および染料から適宜選択して使用できる。以下、被覆前の着色剤を、単に着色剤ということがある。
【0026】
無機顔料は、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属錯塩、その他無機顔料等が挙げられる。カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
金属酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化鉄、水酸化鉄、ジルコニア、アルミナ等が挙げられる。
金属錯塩は、金属錯塩染料が挙げられる。例えば、モノアゾ染料1分子に金属1原子が配位結合した1:1型金属錯塩染料、及びモノアゾ染料2分子に金属原子1原子が配位結合した1:2型金属錯塩染料が挙げられる。
その他無機顔料は、例えば、群青、黄鉛、硫化亜鉛、コバルトブルー等が挙げられる。
【0027】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
【0028】
具体的には、例えば、
C.I.PigmentRed1、2、3、4、5、6、7、9、10、14、17、22、23、31、32、38、41、48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、52:1、52:2、53:1、57:1、60:1、63:1、66、67、81:1、81:2、81:3、83、88、90、105、112、119、122、123、144、146、147、148、149、150、155、166、168、169、170、171、172、175、176、177、178、179、184、185、187、188、190、200、202、206、207、208、209、210、216、220、224、226、242、246、254、255、264、266、269、270、272、279、
C.I.PigmentYellow1、2、3、4、5、6、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、42、43、53、55、60、61、62、63、65、73、74、77、81、83、86、93、94、95、97、98、100、101、104、106、108、109、110、113、114、115、116、117、118、119、120、123、125、126、127、128、129、137、138、139、147、148、150、151、152、153、154、155、156、161、162、164、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、179、180、181、182、185、187、188、193、194、199、213、214、
C.I.PigmentOrange2、5、13、16、17:1、31、34、
36、38、43、46、48、49、51、52、55、59、60、61、62、64、71、73、
C.I.PigmentGreen7、10、36、37、58、59、62、63、
C.I.PigmentBlue1、2、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、66、79、79、80
C.I.PigmentViolet1、19、23、27、32、37、42
C.I.PigmentBrown25、28
C.I.PigmentBlack1、7
C.I.PigmentWhite1、2、4、5、6、7、11、12、18、19、21、22、23、26、27、28等を挙げることができる。
【0029】
これらの中で好ましく用いることができる着色剤として、以下のものを挙げることができる。
C.I.PigmentRed31、48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、122,146、147、148、150、170、176、177、184、185、202、242、254、255、264、266、269、
C.I.PigmentYellow12、13、14、17、74、83、108、109、120、150、151、154、155、180、185、213
C.I.PigmentOrange36,38、43、64、73
C.I.PigmentGreen7、36、37、58、62、63、
C.I.PigmentBlue15:1、15:3、15:6、16、22、60、66、
C.I.PigmentViolet19、23、32、
C.I.PigmentBrown25、
C.I.PigmentBlack1、7
C.I.PigmentWhite6
【0030】
染料としては、分散染料が挙げられる。分散染料は、加熱により昇華する性質を有する染料である。分散染料としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240、343;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、60、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、165、359、360等が挙げられる。
これらの被覆着色剤を用いたインクジェット記録用インクは、十分な色再現性及び耐光性を保持することができる。但し、本発明においてはこれらの着色剤に限定されるものではなく、また、インクジェット記録用インク用に限定されるものでもない。
【0031】
着色剤の平均一次粒子径は、用途により変動し得るが、通常5~1,000nmである。ここで用いる着色剤は、通常、未処理の着色剤が用いられるが、何らかの処理工程を経た着色剤を用いてもよい。また、用いる着色剤は、単一種類でも複数種類でもよい。平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡を用い10万倍での観察試料中の全着色剤粒子の一次粒子径を計測してその平均値から求めることができる。
【0032】
[樹脂(P)]
本発明に用いられる樹脂(P)は、α-オレフィン、およびポリカルボキシル基もしくは酸無水物基含有モノマーを含む単量体の共重合体と、水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸との反応物であって、カルボキシル基を有する。
樹脂(P)を得る方法は、例えば、α-オレフィンと無水マレイン酸を重合し、α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(以下、重合体(p)とも言う)を得た後に、水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸を反応させる方法が好ましい。
【0033】
また、樹脂(P)は、α-オレフィン、およびポリカルボキシル基もしくは酸無水物基含有モノマーを含む単量体の共重合体と、水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸との反応物であって、カルボキシル基を含みさえすれば特に制限はされない。具体的には、αオレフィンと酸無水物基含有モノマーとそれ以外のエチレン性不飽和単量体との共重合体であり、一般的な重合方法で得られるものを使用することができる。例えば特開2007-58125号公報記載の方法が挙げられる。また、市販のα-オレフィン無水マレイン酸樹脂を変性して使用することも可能である。例えば、ダイヤカルナM30(三菱ケミカル社製)などが挙げられる。酸無水物基含有モノマーのかわりに、酸無水物基含有モノマーの酸無水物基が開環したポリカルボキシル基含有モノマーを用いても良い。
【0034】
[α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)]
[α-オレフィン]
α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)におけるα-オレフィンとしては、特に制限はないが、樹脂(P)の着色剤への吸着率と高い酸価を両立する観点から炭素数6~50のものを使用することが好ましく、炭素数8~38のものを使用することがより好ましく、炭素数12~38のものを使用することが最も好ましい。
具体例としては、1-ヘキセン(炭素数6)、1-ヘプテン(炭素数7)、1-オクテン(炭素数8)、1-ノネン(炭素数9)、1-デセン(炭素数10)、1-ドデセン(炭素数12)、1-テトラデセン(炭素数14)、1-ヘキサデセン(炭素数16)、1-オクタデセン(炭素数18)、1-エイコセン(炭素数20)、1-ドコセン(炭素数22)、1-テトラコセン(炭素数24)、1-オクタコセン(炭素数28)、1-トリアコンテン(炭素数30)、1-ドトリアコンテン(炭素数32)、1-テトラトリアコンテン(炭素数34)、1-ヘキサトリアコンテン(炭素数36)、1-オクタトリアコンテン(炭素数38)等が挙げられる。
【0035】
α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)では、α-オレフィンを2種類以上混合して使用することも可能である。混合して使用することで樹脂の溶解性や融点などを、所望の性状へ合わせることが容易となる。
【0036】
[酸無水物基含有モノマー]
α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)における酸無水物基含有モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸や無水イタコン酸などが挙げられ、無水マレイン酸が最も好ましい。
【0037】
α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)は、好ましくはα-オレフィンと無水マレイン酸に、ラジカル開始剤、および連鎖移動剤を添加し、重合させることで得られる。重合方法としては、例えば、α-オレフィンモノマーに、無水マレイン酸、ラジカル開始剤及び連鎖移動剤を添加し、重合させる方法が好ましい。またα-オレフィンと無水マレイン酸との重合方法は無溶剤で行ってもよく、また溶剤を併用して行ってもよい。また無水マレイン酸はα-オレフィンと共に一度に仕込んでもよく、あるいは重合系に徐々に添加してもよい。これらの重合方法に関しては特に制限されるものではない。上記の重合方法により得られた重合体は、本質的にはα-オレフィンと無水マレイン酸の交互重合体である。ただし、初期の配分量比を変更することにより、無水マレイン酸含量を調節することができるし、また、2種類以上のα-オレフィンを用いた場合には、ランダムに配列したα-オレフィンの間に無水マレイン酸が交互に配列する重合体となる。
【0038】
前記α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)において、α-オレフィンと無水マレイン酸の使用モル比は、得られる重合体において、分散安定性の観点から、前者/後者の使用モル比が30/70~99/1が好ましく、40/60~95/5がより好ましく、45/55~80/20がさらに好ましい。
【0039】
この際用いられるラジカル開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス2,4-ジメチルバレロニトリル等のアゾビス化合物、キュメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジt-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の過酸化物等が挙げられる。
【0040】
溶液重合の場合には、重合溶媒として、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が用いられるが特にこれらに限定されるものではない。これらの重合溶媒は、2種類以上混合して用いても良いが、最終用途で使用する溶剤であることが好ましい。
【0041】
前記重合体(p)の酸価は、樹脂(P)を調整する観点から、100~600mgKOH/gが好ましく、150~500mgKOH/gがより好ましい。酸価が100mgKOH/g未満であると、被覆着色剤の水や水溶性溶剤への親和性が低く、着色剤の再分散性が劣ることがあり、600mgKOH/gを超えると、水や水溶性溶剤への親和性が過剰となり、着色剤への樹脂吸着率が低下し、結果として着色剤の再分散性が悪化する傾向がある。
【0042】
また前記重合体(p)の数平均分子量は、樹脂(P)を調整する観点から、2,000~30,000が好ましく、3,000~25,000がより好ましい。前記数平均分子量が2,000未満であると、着色剤分散体の再分散性が低下することがあり、30,000を超えると、水や水溶性溶剤への親和性が劣ることがあり、粘度が高くなってしまうことがある。
【0043】
[水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸]
本発明の樹脂(P)は、前述したようにα-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)に水又は2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸を反応させる方法、具体的にはエステル化変性により得られる。
【0044】
2価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸としては、タルトロン酸、リンゴ酸、4-ヒドロキシフタル酸等が挙げられる。
【0045】
3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸としては、クエン酸等が挙げられる。
【0046】
とりわけ、水又は分子量が80~350の2価もしくは3価のカルボキシル基をもつカルボキシル基をもつオキシカルボン酸が好ましく、水がより好ましい。
2価もしくは3価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸の分子量が、80~350であると、重合体(p)とのエステル化反応が進行しやすく、親水性と疎水性のバランスに優れた被覆着色剤組成物が得られるため、顔料の分散安定化効果が高まり、再分散性が向上しやすい。
また、水と重合体(p)のエステル化反応で得られた樹脂(P)では、再分散性、ノズルの目詰まり抑制、光沢性が著しく良化する。これは、主鎖骨格に余分な骨格が付かないことによる分子鎖の柔軟性と、高密度な電荷反発部位の付与が両立できたためと考えている。
【0047】
なお、1価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸では、再分散性の課題を解決することができない。これは、2価もしくは3価のものと比べ、カルボキシル基の密度が小さくなり、高密度な電荷反発部位の付与が得られないためと考えている。しかし、発明の効果を逸しない範囲で1価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸を用いることを排除しない。
1価のカルボキシル基をもつオキシカルボン酸としては、α-オキシ酪酸、12-ヒドロキシステアリン酸、乳酸、α-ヒドロキシミリスチン酸、α-ヒドロキシパルミチン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシエイコサン酸、α-ヒドロキシドコサン酸、α-ヒドロキシテトラエイコサン酸、α-ヒドロキシヘキサエイコサン酸、α-ヒドロキシオクタエイコサン酸、α-ヒドロキシトリアコンタン酸、β-ヒドロキシミリスチン酸、10-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、リシノール酸、グリコール酸、ヒドロアクリル酸、α-ヒドロキシイソ酪酸、δ-ヒドロキシカプロン酸、α-ヒドロキシドトリアコンタン酸、α-ヒドロキシテトラトリアコンタン酸、α-ヒドロキシヘキサトリアコンタン酸、α-ヒドロキシオクタトリアコンタン酸、α-ヒドロキシテトラコンタン酸、グリセリン酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロバ酸等が挙げられる。
【0048】
上記エステル化変性反応は、50~300℃で行われ、必要に応じて適当な溶剤の存在下で行ってもよい。さらに必要に応じて適宜、エステル化触媒を添加して行ってもよい。該エステル化触媒は、特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、塩化水素、p-トルエンスルホン酸、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、テトラブチルアンモニウムブロマイド、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられ、反応系の固形分に対して0.03~5重量%使用するのが好ましい。
【0049】
前記樹脂(P)の、酸無水物価は小さい方が好ましい。0~50mgKOH/gが好ましく、0~30mgKOH/gがより好ましく、0~10mgKOH/gが特に好ましい。酸無水物価が50を超えると、エステル化による開環反応によるカルボキシル基の生成が十分に進んでおらず、被覆着色剤における静電反発が不足し、再分散性が低下する傾向がある。
【0050】
前記樹脂(P)の酸価は、100~600mgKOH/gが好ましく、150~500mgKOH/gがより好ましく、150~400mgKOH/gがとくに好ましい。酸価が100mgKOH/g未満であると、被覆着色剤の水や水溶性溶剤への親和性が低く、着色剤の再分散性が劣ることがあり、600mgKOH/gを超えると、水や水溶性溶剤への親和性が過剰となり、着色剤への樹脂吸着率が低下し、着色剤の再分散性が劣る傾向がある。
【0051】
前記樹脂(P)の数平均分子量は、2,000~35,000が好ましく、3,000~25,000がより好ましい。前記数平均分子量が2,000未満であると、顔料への樹脂の吸着や立体反発効果が得にくくなり分散性が低下するために、再分散性が低下することがあり、35,000を超えると、水や水溶性溶剤への親和性が劣ることがあり、粘度が高くなってしまうことによる作業性低下のほか、着色剤への樹脂吸着量も低下することがある。
【0052】
[被覆着色剤の製造]
本発明の被覆着色剤は、具体的には、以下の工程(1)及び工程(2)を順次行うことで得ることが好ましい。
工程(1):着色剤、前記樹脂(P)、水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を含有する混合物を混練機で混合して微細化する工程。
工程(2):水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を除去する工程。
【0053】
工程(1)の着色剤の微細化方法は、特に限定されず任意の方法を適用できるが、ソルトミリング処理による摩砕混練工程等が好適である。
例えば、少なくとも着色剤、樹脂(P)、水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を含有する混合物を、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、アトライター、横型サンドミル、縦型サンドミル及び/又はアニューラ型ビーズミル等の混練機を用いて摩砕混練を行うことができる。また着色剤の種類や、求められている微細化の程度等に応じて、処理条件等を適宜調整することができ、機械的に混練する際に加熱を行うことが好ましい。これらの摩砕混練方法の中でも、樹脂(P)の着色剤への樹脂吸着量を飛躍的に向上させ、再分散性を向上させるために、ニーダーを使用することが好ましい。
【0054】
水溶性無機塩は、破砕助剤として働くものであり、水溶性無機塩の硬度の高さを利用して着色剤を破砕する。摩砕混練方法で使用する水溶性無機塩は、その名称の如く水溶性を示す無機塩であればよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で限定されない。好ましい例として、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。価格の点から塩化ナトリウム(食塩)を用いることが好ましい。
【0055】
摩砕混練方法で使用する水溶性有機溶剤は、着色剤及び水溶性無機塩を湿潤する働きをするものであり、水に溶解(混和)し、且つ用いる水溶性無機塩を実質的に溶解しないものである必要がある。更に、樹脂(P)と適度に親和性がある必要がある。
そのような水溶性有機溶剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、及びこれらと同族のジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及びトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、及びこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;あるいは、スルホラン;γ-ブチロラクトンなどのラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類;グリセリン及びその誘導体など、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0056】
中でも、高沸点、低揮発性で、高表面張力の多価アルコール類が好ましく、特にジエチ
レングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類が好ましい。
【0057】
また、水溶性有機溶剤の加える量は特に限定されないが、着色剤100質量部に対し、5~1,000質量部用いることが好ましく、50~500質量部用いることがより好ましい。また、水溶性無機塩は、処理効率と生産効率の両面から、着色剤100質量部に対し、50~2,000質量部用いることが好ましく、300~1,000質量部用いることがより好ましい。また、樹脂(P)の量は、インクジェット記録用インクの印刷評価及び再分散性の観点から、固形分換算で着色剤100質量部に対し、5~100質量部用いることが好ましく、10~80質量部用いることが好ましい。
【0058】
工程(2)は、例えば工程(1)を行った後、摩砕混練機から着色剤を含む混合物を取り出し、イオン交換水を投入して撹拌を行い、懸濁液を得る。加える水の分量は、懸濁液を得るのに充分な量であればよく、特に限定されない。必要に応じて加温してもよい。例えば、工程(1)の重量の10~10,000倍の重量の水を加えて混合撹拌する。このときの混合撹拌条件は特に限定されないが、温度25~90℃で行うことが好ましい。ついで、ろ過等の操作により、ろ液を除去することで、摩砕混練機で用いた水溶性有機溶剤、水溶性無機塩を除去することができ、着色剤が樹脂(P)で被覆された被覆着色剤を得ることができる。厳密に言えば、上記被覆着色剤はイオン交換水を含むので、さらに水を除去する工程を行ってもよい。水を除去する方法であれば限定されないが、好適な方法としては、乾燥処理を行う方法を挙げることができる。乾燥条件としては、例えば、常圧下、80~120℃の範囲で12~48時間程度の乾燥を行う方法、減圧下、25~80℃の範囲で12~60時間程度の乾燥を行う方法などが例示できる。乾燥処理は特に限定されないが、スプレードライ装置を利用する方法も例示できる。乾燥処理と同時もしくは乾燥処理後に粉砕処理を行ってもよい。
【0059】
[被覆着色剤組成物]
本発明の被覆着色剤組成物は、少なくとも被覆着色剤、塩基性化合物、水を含み、さらに架橋剤を含むことが好ましい。これらの被覆着色剤組成物の製造方法としては、着色剤分散体の再分散性の観点から、以下の工程(3)及び工程(4)を順次行うことが好ましい。
工程(3):被覆着色剤と、塩基性化合物と水を添加して、樹脂(P)のカルボキシル基を中和する工程
工程(4):架橋剤を添加して、樹脂(P)を架橋させる工程
樹脂(P)のカルボキシル基を中和する工程と架橋剤を添加して樹脂(P)と架橋剤とを架橋させる工程では、温度、時間は適宜選択して決定することができる。中和工程の時間は、好ましくは0.5~10時間、更に好ましくは1~5時間、中和工程の温度は、好ましくは40~95℃である。架橋工程の時間は、好ましくは0.5~10時間、更に好ましくは1~5時間、架橋工程の温度は、好ましくは40~95℃である。
【0060】
被覆着色剤組成物中の水の含有量は、保存安定性の観点から、組成物全体に対して30~85質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。以下、特に断らない限り、水はイオン交換水を指す。
【0061】
被覆着色剤組成物における被覆着色剤の含有量は、印刷適正と保存安定性の観点から、組成物全体に対して5~40質量%が好ましく、10~30質量%以下がより好ましい。また被覆着色剤組成物の着色剤粒子の体積メディアン径は、インクジェットプリンターのノズルの目詰まり防止及びインクジェット記録用インクの保存安定性の観点から、20~200nmが好ましく、25~150nmがより好ましく、30~130nmがさらに好ましく、35~90nmが最も好ましい。なお、体積メディアン径の測定は、レーザー回折・散乱法を用いる。
【0062】
[塩基性化合物]
本発明の被覆着色剤組成物は、樹脂(P)のカルボキシル基をイオン化することで、被覆着色剤の分散安定化を図ることができる。このために、被覆着色剤組成物及びそれを用いたインクジェット記録用インクは中性又はアルカリ性に調整されたものであることが好ましい。但し、アルカリ性が強過ぎると、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、7~10のpH範囲とするのが好ましい。この際に使用されるpH調整剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、アンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等を使用することができる。後述する被覆着色剤の樹脂(P)をイオン化することで、中和され被覆着色剤が水性液媒体中に、分散又は溶解される。
【0063】
樹脂(P)の中和度は、被覆着色剤組成物の保存安定性の観点から、10~100モル%反応させることが好ましく、30~100モル%反応させることがより好ましく、50~100モル%反応させることが特に好ましい。
ここで中和度は、塩基性化合物のモル当量を樹脂(P)のカルボキシル基のモル量で除したものである。下記式によって求めることができる。
{(塩基性化合物の重量(g)/塩基性化合物の当量)/[(樹脂(P)の酸価(KOHmg/g)×樹脂(P)の重量(g)/(56.1×1000)]}×100
【0064】
[架橋剤]
本発明において、架橋剤を含んでもよい。架橋剤は、被覆着色剤組成物中で、被覆着色剤表面の樹脂(P)を適度に架橋するため、分子中に2つ以上のカルボキシル基と反応しうる反応性官能基を有する化合物が好ましく用いられる。反応性官能基として好ましくは、イソシアネート基、アジリジン基、カルボジイミド基、オキセタン基、オキサゾリン基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、より好ましくは、アジリジン基、カルボジイミド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、特に好ましくは、エポキシ基である。インクジェット記録用インクとしての再分散性を向上させる観点からも架橋剤の添加は好ましい。
架橋剤の分子量(式量または、数平均分子量Mn)は、反応のし易さ、及び再分散性の観点から、100~2,000が好ましく、120~1,500が更に好ましく、150~1,000が特に好ましい。架橋剤に含まれる反応性官能基の数は、架橋後の樹脂(P)の分子量を制御して再分散性を向上する観点から、2~6が好ましい。
【0065】
本発明に用いられる架橋剤の具体例としては、下記が挙げられる。
分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物:例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー。
有機ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;トリレン-2,4-ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;脂環式ジイソシアネート;芳香族トリイソシアネート;それらのウレタン変性体等の変性体が挙げられる。イソシアネート基末端プレポリマーは、有機ポリイソシアネート又はその変性体と低分子量ポリオール等とを反応させることにより得ることができる。
【0066】
分子中に2つ以上のアジリジン基を有する化合物:例えば、N,N'-ジフェニルメタン-4,4'-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、N,N'-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N'-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、2,2'-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1、3、5-トリアジン、4,4'-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
【0067】
分子中に2つ以上のカルボジイミド基を有する化合物:例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネート化合物を脱炭酸縮合反応させることによって生成した高分子量ポリカルボジイミドが挙げられる。このような高分子量ポリカルボジイミドとしては、日清紡績株式会社のカルボジライトシリーズが挙げられる。
【0068】
分子中に2つ以上のオキセタン基を有する化合物:例えば、4,4'-(3-エチルオキセタン-3-イルメチルオキシメチル)ビフェニル(OXBP)、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(EHO)、1,4-ビス[{(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ}メチル]ベンゼン(XDO)、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル(DOX)、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル(DOE)、1,6-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ヘキサン(HDB)、9,9-ビス[2-メチル-4-{2-(3-オキセタニル)}ブトキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-[2-{2-(3-オキセタニル)}ブトキシ]エトキシフェニル]フルオレン等が挙げられる。
【0069】
分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物:例えば、脂肪族基又は芳香族基に2個以上、好ましくは2~3個のオキサゾリン基が結合した化合物、より具体的には2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、1,3-フェニレンビスオキサゾリン、1,3-ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物。
【0070】
分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物:例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル。
【0071】
これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0072】
架橋剤は、水中で効率よく樹脂(P)のカルボキシル基と反応する観点から、適度に水溶性があることが好ましく、例えば架橋剤を25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が0.1~50gが好ましく、0.2~40gがさらに好ましく、更に好ましくは0.5~30gが最も好ましい。
【0073】
架橋剤の添加量は、前記樹脂(P)のカルボキシル基に対して10~150モル%反応させる量であることが好ましい。中でも20~120モル%反応させる量を添加することがより好ましく、30~100モル%反応させる量を添加することが好ましい。
【0074】
<インクジェット記録用インク>
本発明の被覆着色剤は、例えば、インクジェット記録用インクの着色剤として好適に使用できる。
本明細書のインクジェット記録用インクは、被覆着色剤、または被覆着色剤組成物を含む。
本明細書のインクジェット記録用インクは、水を溶媒(媒体)として使用するが、インクの乾燥を防止するため、水溶性溶剤を併用することが好ましい。また、被覆着色剤の分散安定性が向上するため、印刷後の基材への浸透性、濡れ広がり性が向上する。
水溶性溶剤は、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他水溶性溶剤等が挙げられる。
【0075】
前記多価アルコール類は、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、5-ヘキセン-1,2-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-へプタンジオールが好ましい。
【0076】
前記多価アルコールアルキルエーテル類は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
前記多価アルコールアリールエーテル類は、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル等が挙げられる。
【0077】
前記含窒素複素環化合物は、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミイダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
前記アミド類は、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
前記アミン類は、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン
等が挙げられる。
前記含硫黄化合物類は、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
【0078】
前記その他水溶性溶剤は、糖が好ましい。糖類は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類等が挙げられる。糖は、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等が挙げられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α-シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む。また、これらの糖類の誘導体としては、前記糖類の還元糖(例えば、糖アルコール〔一般式:HOCH2(CHOH)nCH2OH(ただし、n=2~5の整数を表す)で表される〕、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸等が挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、マルチトール、ソルビットが好ましい。
【0079】
水溶性溶剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0080】
水溶性有機溶剤の含有量は、インクジェット記録用インク全体に対して、3~60質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましい。また、水の含有量は、インクジェット記録用インク全体に対して、10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。適度な水溶性有機溶剤の含有量により、ヘッドからのインク吐出安定性が向上する。
【0081】
インクジェット記録用インクは、バインダー樹脂を含有することが好ましい。これにより、印字した塗膜の耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。
バインダー樹脂は、例えば(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0082】
バインダー樹脂の含有量は、インクジェット記録用インクの不揮発分全体に対して、2~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0083】
本明細書のインクジェット記録用インクは、必要に応じて添加剤を含有できる。添加剤は、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、インクジェット記録用インク全体に対して、0.05~10質量%が好ましく、0.2~5質量%がより好ましい。
【0084】
本明細書のインクジェット記録用インクは、各種のインクジェット用プリンターに使用できる。インクジェット方式は、例えば、荷電制御型、スプレー型等の連続噴射型、ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等のオンデマンド型等が挙げられる。
【実施例
【0085】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0086】
(数平均分子量(Mn))
数平均分子量(Mn)は、TSKgelカラム(東ソ-社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソ-社製、HLC-8320GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)である。
【0087】
(酸価)
三角フラスコ中に試料、約1gを精密に量り採り、蒸留水/ジオキサン(重量比:蒸留水/ジオキサン=1/9)混合液50mlを加えて溶解する。上記試料溶液に対して、電位差測定装置(京都電子工業株式会社製、装置名「電位差自動滴定装置AT-710M」)を用いて、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液(力価F)で滴定を行い、滴定終点までに必要な水酸化カリウム・エタノール溶液の量(α(mL))を測定した。乾燥状態の樹脂の値として、酸価(mgKOH/g)を次式により求めた。
酸価(mgKOH/g)={(5.611×α×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
ただし、S:試料の採取量(g)
α:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の消費量(ml)
F:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の力価
【0088】
(酸無水物価)
酸無水物価は、以下のようにして求められる。具体的には、樹脂(P)をa(g)秤量した後にキシレン中に溶解させ、酸無水物基の当量以上のオクチルアミンをb(mmol)添加することで酸無水物基と1級アミノ基を反応させた。その後、室温まで冷却し、残存するオクチルアミン量を、0.1Mエタノール性過塩素酸を用いて滴定することにより定量した。滴定量をc(ml)とすると、以下の式から樹脂(P)の酸無水物価が求められる。
酸無水物価(mgKOH/g)=(b-0.1×c)×56.10/a
【0089】
<α-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p)の製造>
(製造例1)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、α-オレフィンとして1-オクテンを53.4g、無水マレイン酸を46.6g仕込み、キシレン10g、連鎖移動剤としてチオグリコール酸オクチル0.2gをフラスコに仕込み、窒素置換した後、130℃で加熱、撹拌した。そこへ、撹拌しながら、開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.0gとキシレン20gとの混合物を、2時間かけて滴下した。その後、温度を130℃に保ったままさらに1時間撹拌して反応させ、キシレンを減圧濃縮して完全に除去し、数平均分子量は4,000、不揮発分100%のα-オレフィンと酸無水物基を有する重合体(p-1)を得た。
【0090】
(製造例2~5)
表1に記載した原料と仕込み量に変更した以外は重合体(p-1)と同様にして合成を行い、重合体(p-2~p-6)を得た。なお、分子量の調整は、連鎖移動剤と開始剤の添加量を変更し、適宜調整した。それぞれの数平均分子量、酸価、不揮発分は表1に記載した通りである。
【0091】
【表1】
【0092】
<樹脂(P)の製造>
(製造例7)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器にα-オレフィンと酸無水物基を有する重合体p-1を92.1g、水を7.9g、キシレンを20g、触媒としてジアザビシクロウンデセンを0.2g加え、撹拌しながら90℃に加温した。1時間後に温度を100℃に変更してさらに1時間保持し、さらに90℃に変更し4時間保持し、溶剤を減圧濃縮して完全に除去し、樹脂(P-1)を得た。得られた共重合物の数平均分子量は4,300であった。
【0093】
(製造例8~20)
表2に記載した原料と仕込み量に変更した以外は樹脂(P-1)と同様にして合成を行い、樹脂P-2~P-14を得た。
【0094】
(製造例21)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器にα-オレフィンと酸無水物基を有する重合体p-1を100g、キシレンを20g加え、撹拌しながら90℃に加温した。1時間後に温度を100℃に変更してさらに1時間保持し、さらに90℃に変更し4時間保持し、溶剤を減圧濃縮して完全に除去し、樹脂(P-15)を得た。得られた共重合物の数平均分子量は4,000であった。
【0095】
【表2】
【0096】
・12-HSA(12-ヒドロキシステアリン酸)

<被覆着色剤の製造>
(実施例1)
着色剤としてC.I.ピグメントレッド122、DIC社製、「FASTOGENSuperMagentaRGT」35.0部、塩化ナトリウム175.0部、樹脂(P)としてP-1を固形分換算で12.25部、水溶性溶剤としてジエチレングリコール35.0部をステンレス製ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、80℃で3時間混練した。この混合物を水1,000部に投入し、約40℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及び水溶性有機溶剤を除き、減圧下40℃で乾燥して被覆着色剤を得た。
【0097】
<被覆着色剤組成物の製造>
得られた被覆着色剤を20部、塩基性化合物として水酸化カリウムの10%水溶液を、被覆着色剤の製造時に用いた樹脂(P)の酸価から中和度が100%になるように加え、防腐剤としてPROXELGXL(S)(Lonza製)を0.03部、さらに不揮発分が22%になるようにイオン交換水を加え、70℃のオイルバスで加温しながらディスパーで約1時間撹拌した。次いで出力600Wの超音波ホモジナイザーを使用し、内温が15℃になるように調整しながら5分間処理を行った。
次いで、常温(25℃)で架橋剤としてデナコールEX321(エポキシ基含有化合物、ナガセケムテックス製、不揮発分100%、エポキシ当量140g/eq)を、前記樹脂(P)のカルボキシル基に対してモル比で0.5eqになるように加えた。次いで、70℃のオイルバスで加温しながらディスパーで約1時間撹拌し、不揮発分が22%になるようにイオン交換水で調整し、被覆着色剤組成物を得た。
【0098】
<被覆着色剤組成物を含むインクジェット記録用インクの製造>
得られた被覆着色剤組成物を33.3部、プロピレングリコールを16.65部、1,2-ヘキサンジオールを16.65部、イオン交換水を33.3部、レベリング剤としてサーフィノールDF110D(エアープロダクツジャパン製)を0.1部混合し、インクジェット記録用インクを製造した。
【0099】
[実施例2~13、比較例1~9]
使用する着色剤、樹脂(P)を表3に従って変更した以外は、実施例1と同様にして被覆着色剤並びに被覆着色剤組成物、被覆着色剤組成物を含むインクジェット記録用インクを得た。
【0100】
【表3】
【0101】
・PR150(C.I.ピグメントレッド150、東京色材製、「TOSHIKIRED150TR」)
・PV19(C.I.ピグメントバイオレット19、クラリアントジャパン社製、「In
kJetMagentaE5B02」)
・PY74(C.I.ピグメントイエロー74、クラリアント製、「Hansayellow5GX01」)
・PB15:3(C.I.ピグメントブルー15:3、トーヨーカラー製、「LIONOLBLUEFG-7351」)
・PBl7(C.I.ピグメントブラック7、オリオン・エンジニアドカーボンズ製、「Printex35」)

【0102】
<粗粒量試験>
実施例並びに比較例で得られた被覆着色剤組成物に関して、分散体中の粗粒量の評価を下記のように行った。具体的には定量の被覆着色剤組成物の25mmφのガラスファイバー製フィルター(GF/BGEヘルスケアライフサイエンス社製)への通過時間で評価した。粗粒が多い場合はフィルターが目詰まりをおこし通過時間が長く観測される。またさらに粗粒が多い場合はフィルターが閉塞し着色剤分散体を全量ろ過することができない。一般にインクジェットヘッドへインクを供給する経路に使用されるフィルターは1μmより大きく、またインクジェット記録用インクの着色剤濃度は被覆着色剤組成物に比べ低いものが一般的であり、本試験方法によりろ過を通過すれば十分といえるが、よりろ過速度が速い方が被覆着色剤粒子の再溶解性や解砕性が高く、生産性に優れると言える。具体的な評価条件を以下に示す。コックを経由して減圧ポンプを付属したサクションベッセルに15mlの目盛のついたファンネルと25mmφのガラスファイバー製フィルター(GF/BGEヘルスケアライフサイエンス社製)をのせた直径25mmフィルターホルダー(ADVANTEC社製)をのせる。サクションベッセル内が減圧されないようにコックを使用して減圧ポンプを稼働する。被覆着色剤組成物15gをファンネルにはかり取る。ポンプとサクションベッセルの開圧をスタートとし被覆着色剤組成物全量がフィルターを通過する時間を計測する。この時のサクションベッセル内の圧力は0.05MPa~0.07Mpaである。
◎:30秒未満でろ過ができる(非常に良好)
○:30秒以上、60秒未満でろ過ができる(良好)
△:60秒以上90秒未満でろ過ができる(実用上問題なし)
×:90秒未満でろ過できない(不良)
【0103】
<再分散性試験>
再分散性評価用液として、グリセリン5%(花王株式会社製、化粧品用濃グリセリン)、トリエチレングリコール10%、アセチレノールE100(川研ファインケミカル株式会社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)を0.5%とし、イオン交換水を加えて、全量が100%になるよう計量し、マグネチックスターラーで撹拌してよく混合し作成した。
各被覆着色剤組成物を、マイクロピペットを用いてスライドグラス上に10μL滴下し、60℃40%RHの環境で24時間放置することで、前記被覆着色剤組成物を蒸発乾固させた。スライドグラス上の固形物に、再分散性評価用液を200μL滴下し、前記固形物の再分散性を目視で観察し、下記の評価基準に従って評価した。
◎:固形物が30秒未満で均一に再分散した。(極めて良好)
○:固形物が30秒以上60秒未満で均一に再分散した。(良好)
△:固形物が再分散したが、60秒以上経過後も残渣があった。(実用上問題なし)
×:固形物が再分散しなかった。(不良)
【0104】
<吐出ノズルの目詰まり試験>
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM-930C、ピ
エゾ方式)に上記で得られたインクジェット記録用インクを装填し、40℃20RHの環境で1週間放置した後、ノズルチェックパターンを印刷し、以下の基準で吐出ノズルの目詰まりを評価した。
◎:全ノズルがクリーニングなしで吐出した。(極めて良好)
○:1回のクリーニングで目詰まりが回復した。(良好)
△:2回のクリーニングで目詰まりが回復した。(実用上問題なし)
×:2回のクリーニング後も目詰まりが回復しないノズルがあった。(不良)
【0105】
<光沢性試験>
実施例並びに比較例で得られたインクジェット記録用インクをインクジェットプリンター(エプソン社製「PM-750C」)のカートリッジに装填し、コート紙(王子製紙製OKトップコート+、米坪104.7g/m2)に印刷した。
印刷物を25℃、相対湿度50%で24時間放置後、光沢計「グロスチェッカーIG-330」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定角度は60°とした。測定する場所を変え、合計5点の平均値を求めて得られた値を光沢の値とした。値が大きい方が良好な光沢である。
◎:光沢性(60°)50以上(きわめて良好)
〇:光沢性(60°)40以上50未満(良好)
△:光沢性(60°)30以上40未満(実用上問題なし)
×:光沢性(60°)30未満(不良)

【0106】
表3の結果から、本発明の被覆着色剤を用いると、再分散性と易分散性が良好で、ノズルの目詰まり抑制と光沢性に優れる被覆着色剤組成物、並びにインクジェット記録用インクが得られることが示された。
樹脂(P)が疎水性の高いα-オレフィンユニットが着色剤に対して高い吸着能を持ち、水又はオキシカルボン酸によるエステル化により高密度で静電反発部位が形成されるため、高い立体反発効果を得られることから、易分散性と再分散性に優れる被覆着色剤、またノズルの目詰まり抑制と光沢性に優れるインクジェット記録用インクが得られたと考えられる。
また、樹脂(P)の数平均分子量を3,000~25,000にすることで、再分散性やノズルの目詰まり抑制が向上することが示された。樹脂(P)の数平均分子量が適切な範囲内であると着色剤への樹脂(P)の吸着や立体反発が効果的に行われたためと考えられる。
また、樹脂(P)の酸価が150~400mgKOH/gであると、樹脂の親水性、静電反発がより好ましい範囲となり、再分散性が向上したと考えられる。
また、樹脂(P)を構成するα‐オレフィンの炭素数が12~38であると、樹脂の疎水性がより好ましい範囲となり、分散剤としての機能が最適化され、再分散性の向上につながったと考えられる。
また、樹脂(P)の側鎖を構成するオキシカルボン酸の分子量が、80~350であると、重合体(p)とのエステル化反応が進行しやすく、親水性と疎水性のバランスに優れた被覆着色剤組成物が得られるため、再分散性の向上が確認された。また、水と重合体(p)のエステル化反応で得られた樹脂(P)では、再分散性、ノズルの目詰まり抑制、光沢性が著しく良化する結果となった。これは、主鎖骨格に余分な骨格が付かないことによる分子鎖の柔軟性と、高密度な電荷反発部位の付与が両立でき、樹脂被覆と高い親水性の両立につながったためと考えている。この効果は、エステル化反応を経ない樹脂(P-15)では発現せず、樹脂(p)と水とのエステル化反応で酸無水物部位が開環した効果であると考えている。