IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-環状部材の成形方法及び成形装置 図1
  • 特許-環状部材の成形方法及び成形装置 図2
  • 特許-環状部材の成形方法及び成形装置 図3
  • 特許-環状部材の成形方法及び成形装置 図4
  • 特許-環状部材の成形方法及び成形装置 図5
  • 特許-環状部材の成形方法及び成形装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】環状部材の成形方法及び成形装置
(51)【国際特許分類】
   B21J 5/06 20060101AFI20230124BHJP
   B21K 21/06 20060101ALI20230124BHJP
   B21J 5/10 20060101ALI20230124BHJP
   B21D 19/08 20060101ALI20230124BHJP
   B21D 28/30 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
B21J5/06 E
B21K21/06 B
B21J5/10 Z
B21D19/08 Z
B21D28/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019021774
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020127957
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 恵太
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚文
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-20330(JP,A)
【文献】特開平11-10273(JP,A)
【文献】特開2013-237056(JP,A)
【文献】特開2011-212735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0040161(US,A1)
【文献】中国特許第103447767(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/06
B21K 21/06
B21J 5/10
B21D 19/08
B21D 28/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側に設けられた厚肉部と、前記厚肉部よりも内側に設けられた薄肉部とを有する環状部材の成形方法であって、
前記環状部材の成形方法は、コンテナ、第1パンチ、第2パンチ、補助パンチを備えた成形装置を用いて行われ、
前記コンテナを用いて素材となる板部材の外周を拘束した状態で、前記板部材の前記外周から一定距離離間した前記外周に沿った一定範囲を前記板部材の厚さ方向に前記第1パンチ及び前記第1パンチと対向する第2パンチを用いて挟圧し、前記挟圧の状態を保持しつつ、補助パンチを用いて挟圧されている挟圧部よりも内側の部分を、前記厚さ方向の一方に押し出すことにより、前記挟圧部に前記厚さ方向と交差する方向の引っ張り張力を付与しながら、前記挟圧部に前記薄肉部を成形する成形工程を含む、環状部材の成形方法。
【請求項2】
前記成形工程の後、成形された前記薄肉部よりも内側の部分を除去する除去工程を含む、
請求項1に記載の環状部材の成形方法。
【請求項3】
前記板部材が円板部材で、
前記環状部材が円環部材である、
請求項1または2記載の環状部材の成形方法。
【請求項4】
外周側に設けられた厚肉部と、前記厚肉部よりも内側に設けられた薄肉部と、を有する環状部材の成形装置であって、
前記環状部材の成形装置は、コンテナ、第1パンチ、第2パンチ、補助パンチを備え、
前記コンテナは、素材となる板部材の外周を拘束
前記第1パンチ及び前記第1パンチと対向する前記第2パンチで、前記板部材の前記外周から一定距離離間した前記外周に沿った一定範囲を、前記板部材の厚さ方向に挟圧することができ
前記挟圧の状態を保持したまま、挟圧されている挟圧部よりも内側の部分を前記厚さ方向の一方に前記補助パンチを押し出し可能としたことで
前記挟圧部に前記厚さ方向と交差する方向の引っ張り張力を付与しながら、前記挟圧部に前記薄肉部を成形可能な、
環状部材の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状部材の成形方法及び成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
差厚形状を有する環状部材にプレス加工や機械加工を施すことで、ギア、ドライブプレート、軸受け部品等が製造されている。このような差厚形状を有する環状部材は、素材となる板部材を外面拘束するコンテナに装填し、上下一対のパンチ金型により挟圧して塑性流動を起こすことで内部の板厚を減じると同時に、外縁部の板厚を増す鍛造加工を行った後、内部をくり貫く一連のプレス加工により成形される(特許文献1参照)。
この一連のプレス加工において、鍛造加工は非常に高い成形負荷(パンチ荷重及びパンチ面圧)を要する。したがって、プレス機械の能力及び金型の強度が不足している場合、そもそも成形できない。そのため、成形負荷を低減するための対策が必要とされる。
一般的な対策として、挟圧するパンチ金型の一方に穴を設け、鍛造加工時に、「捨て軸」を同時に成形し、板部材の閉塞状態を回避することで成形負荷を低減する工法がある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-1274号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本塑性加工学会,鍛造分科会編,精密鍛造,2010年,第4章 精密鍛造の事例,p244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術では上パンチ荷重の低減効果が十分ではなく、大型の板部材の成形や高強度材の成形においてプレス機械の能力が不足し、鍛造加工において十分な塑性流動を付与できず、大きな板厚比が得られない。
また、非特許文献1に記載の方法では金型に開孔部を設ける必要があるため、パンチの受圧面積が小さくなる。結果としてパンチ面圧の低減効果が十分に得られず、量産時にパンチ破損を引起こすケースが見られる。
本発明は、差厚形状を有する環状部材を、比較的小さなパンチ荷重で得ることが可能な環状部材の成形方法及び成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のものを提供する。
外周側に設けられた厚肉部と、前記厚肉部よりも内側に設けられた薄肉部とを有する環状部材の成形方法であって、素材となる板部材の外周を拘束した状態で、前記板部材の前記外周から一定距離離間した前記外周に沿った一定範囲を前記板部材の厚さ方向に挟圧しつつ、挟圧されている挟圧部よりも内側の部分を、前記厚さ方向の一方に押し出すことにより、前記挟圧部に前記厚さ方向と交差する方向の引っ張り張力を付与しながら、前記挟圧部に前記薄肉部を成形する成形工程を含む、環状部材の成形方法。
【0007】
前記成形工程の後、成形された前記薄肉部よりも内側の部分を除去する除去工程を含んでもよい。
【0008】
前記板部材が円板部材で、前記環状部材が円環部材であってもよい。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明はさらに以下のものを提供する。
外周側に設けられた厚肉部と、前記厚肉部よりも内側に設けられた薄肉部と、を有する環状部材の成形装置であって、素材となる板部材の外周を拘束するコンテナと、前記板部材の前記外周から一定距離離間した前記外周に沿った一定範囲を、前記板部材の厚さ方向に挟圧する第1パンチ及び前記第1パンチと対向する第2パンチと、挟圧されている挟圧部よりも内側の部分を前記厚さ方向の一方に押し出す補助パンチと、を備え、前記挟圧部に前記厚さ方向と交差する方向の引っ張り張力を付与しながら、前記挟圧部に前記薄肉部を成形可能な、
環状部材の成形装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、差厚形状を有する環状部材を、比較的小さなパンチ荷重で得ることが可能な環状部材の成形方法及び成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る成形方法及び成形装置10で製造された環状部材1であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
図2】成形装置10を示す分解断面図である。
図3】成形装置10を示す組立断面図である。
図4】実施形態の環状部材1の成形方法による成形工程を説明する図であり、(a)から(d)は各成形工程を示す。
図5】比較形態の環状部材の成形方法による成形工程を説明する図であり、(a)から(c)は各成形工程を示す。
図6】(a)はミーゼスの降伏曲線で、(b)はミーゼスの降伏曲線に示す降伏応力と引張応力との方向を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る成形方法及び成形装置10で製造された、一例としての環状部材1であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。実施形態の環状部材1は円環部材であるが、これに限定されず、環状であれば、例えば多角形の環状部材であってもよい。
【0013】
図1に示すように、環状部材1は、外周側から、厚肉部2と薄肉部3とを有する差圧形状部材で、薄肉部3の中央に開口部4が設けられている。
環状部材1は、例えば、薄肉部3の板厚aと厚肉部2の板厚bとの板厚比b/aが1.5~2.5となるように形成される。また、厚肉部2と薄肉部3との間には、薄肉部3とのなす角度θが鈍角となる傾斜面が形成される。
環状部材1の素材としては、鉄鋼、及びアルミ又は銅等の非鉄材料等の金属材料が用いられる。
【0014】
実施形態の環状部材1は、引張強さが108MPa、伸びが33%の純アルミ板材(A1050P)を円盤状に切り出した板部材1Aより成形されたものである。
また、実施形態の環状部材1は、薄肉部3の板厚aが3.5mm、厚肉部2の板厚bが7.4mmであり、板厚比b/a=2.1である。外径d1は66.3mm、内径d2が40.0mm、厚肉部2の内径d3は61.7mmである。厚肉部2と薄肉部3との間は角度θが135度の斜面となっている。ただし、これらの数値は一例であって本発明がこの値に限定されるものではない。
【0015】
(成形装置10)
図2は、実施形態の成形装置10を示す分解断面図で、図3は、実施形態の成形装置10を示す組立断面図である。以下の説明において図中の上下方向を、明細書中でも上下方向として説明する。
成形装置10は、軸線Aを中心として同軸に配置された、下ベース部材11と、下パンチ12と、上パンチ13と、コンテナ14と、上ベース部材15と、補助パンチ16と、を備える。
下ベース部材11と、下パンチ12と、上パンチ13と、コンテナ14とは、円環状で、下パンチ12と上パンチ13の最大外径及びコンテナ14の内径は、成形される環状部材1の外径と略等しい。
【0016】
(下ベース部材11)
下ベース部材11の中央には、下ベース貫通孔11aが設けられている。下ベース部材11の上面には、外縁から一定距離内側に円形凹部であるコンテナ載置凹部11bが設けられている。コンテナ載置凹部11bよりもさらに内側には、コンテナ載置凹部11bよりもさらに窪んだ円形凹部である下パンチ載置凹部11cが設けられている。
【0017】
(下パンチ12)
下パンチ12の外周面の上部には、上面の径が下面の径より小さくなるように段部12aが設けられている。上面から段部12aに至る部分は斜面となっており、実施形態で上面と斜面との間の角度は135度である。
下パンチ12の下面の外径は下パンチ載置凹部11cの外径と略等しく、下パンチ12が下ベース部材11の下パンチ載置凹部11c内に載置されると、下パンチ12の下ベース部材11に対する径方向の相対移動が防止される。
下パンチ12の中央には下パンチ挿通孔12bが設けられ、その内径は下ベース貫通孔11aの内径と等しい。下パンチ12が下ベース部材11の下パンチ載置凹部11cに載置されると、下ベース貫通孔11aと下パンチ挿通孔12bとが連通して同径の補助パンチ挿通孔17が形成される。
【0018】
(上パンチ13)
上パンチ13は下パンチ12と対向する。上パンチ13の外周面の下部には、下面の径が上面より小さくなるように段部13aが設けられている。下面から段部13aに至る部分は斜面となっており、実施形態で下面と斜面との間の角度は135度である。
上パンチ13の上面の外径は、下パンチ12の下面の外径と略等しく、上パンチ13の下面の外径は、下パンチ12の上面の外径と略等しい。上パンチ13の内径は下パンチ12の内径より大きい。
上パンチ13の中央には上パンチ挿通孔13bが設けられ、その内径は下パンチ挿通孔12b及び下ベース貫通孔11aの内径よりも大きい。
【0019】
(コンテナ14)
コンテナ14は、中央に拘束開口部14aが設けられている。拘束開口部14aの内径は下パンチ12(段部12aより下方)及び上パンチ13(段部13aより上方)の外径と略同じである。
コンテナ14の厚さは、下パンチ12上に板部材1Aが載置されたときに、下パンチ12と板部材1Aとの合計厚さよりも大きく、下パンチ12と板部材1Aと上パンチ13との合計厚さより小さい。
したがって、拘束開口部14aの内部において、下パンチ12、板部材1A、上パンチ13は外面が拘束されて、径方向の相対移動が防止される。ただし、拘束開口部14a内において、上パンチ13は上下動可能である。
【0020】
(上ベース部材15)
上ベース部材15は円板状であり、下面に上パンチ保持凹部15aが設けられている。上パンチ保持凹部15aの内径は上パンチ13の外径と略等しく、上パンチ13上に上ベース部材15が載置されたときに、上パンチ13が上パンチ保持凹部15a内に嵌り、上ベース部材15と上パンチ13との径方向の相対移動が防止される。
なお、上ベース部材15は、例えば、油圧エネルギをシリンダ力に変換して上下方向に直線運動する押圧装置である油圧シリンダ(図示せず)によって上下動可能で、油圧シリンダの駆動により上ベース部材15が下方に降下されることにより、上パンチ13が板部材1A側(下パンチ12側)に移動する。
【0021】
(補助パンチ16)
補助パンチ16は、上端が半球面部16aで、半球面部16aより下方は円柱状部16bである。円柱状部16bの外径は、上述した下ベース貫通孔11aと下パンチ挿通孔12bとが連通して設けられた補助パンチ挿通孔17の内径よりわずかに小さく、補助パンチ16は、図示しない油圧シリンダ等によって補助パンチ挿通孔17内を上下動可能である。
【0022】
(成形方法)
図4は実施形態の環状部材1の成形方法による成形工程を説明する図である。図中右側は、板部材1Aを実施形態の成形装置10のコンテナ14内に配置し、下パンチ12と上パンチ13とで挟持した状態を示した部分断面図で、図中左側は、板部材1Aの全体形状を示した斜視図であり、図4(a)から図4(d)は各成形工程を示す。
【0023】
図4(a)は初期状態で、まず、板部材1Aの外周をコンテナ14の内周で拘束し、外周から一定距離離間した外周に沿った一定範囲を厚さ方向に下パンチ12と上パンチ13とで挟持する。実施形態において板部材1Aは、φ=66.2mm、厚さH=6.0mmである。
板部材1Aにおける下パンチ12と上パンチ13とで挟持された挟圧部1aには、まだ圧力が加わっていないので、板部材1Aの表面は平坦なままである。
【0024】
図4(a)の状態から、図4(b)に示すように上パンチ13を降下させて、挟圧部1aに圧力P1を付与する。圧力P1は実施形態では300kNである。挟圧部1aは挟圧により塑性流動を起こして薄肉部へと変形を開始する。
【0025】
図4(b)に次いで、図4(c)に示すように、圧力P1を一定に保ったまま、補助パンチ16を補助パンチ挿通孔17内へ上昇させて板部材1Aの下面と当接させる。さらに補助パンチ16を上昇させることにより、板部材1Aの中央部1bを上方に持ち上げ、挟圧部1aへの厚さ方向(圧縮方向)と交差する方向(直交する方向)への引張り張力の付与を開始する。
【0026】
図4(d)は、図4(c)の状態の次の引張り工程で、挟圧部1aよりも内側の中央部1bは補助パンチ16に押されて上方に盛り上がっていく。そして、補助パンチ16により挟圧部1aに加える圧力P2が30kNになったところで成形工程を終了する。
このとき、挟圧部1aは、圧力P1が300kNにおいて、中央方向に引っ張り応力が加わり、さらに塑性流動が進み、所望の薄さの薄肉部3が形成される。
また、挟圧部1aよりも外側の外周部1cは、外周側に流動した挟圧部1aの材料により盛り上がり、厚肉部2が形成される。このとき、肉薄部3と肉厚部2との間は135度の傾斜の斜面となっている。
【0027】
さらに、図示しない工程において、板部材1Aにおける、挟圧部1aよりも内側の補助パンチ16に押されて上方に盛り上がった中央部1bをくり抜いて除去することで、鍛造加工による環状部材1が完成する。
実施形態における完成した環状部材1において、薄肉部3の厚さは3.5mm、厚肉部2の厚さは7.4mm、全体としての径は66.3mmである。
【0028】
(比較形態)
図5は比較形態の環状部材の成形方法による成形工程を説明する図である。図4同様に図中右側は、板部材1Aを比較形態の成形装置110内に配置し、下パンチ112と上パンチ113とで挟持した状態を示した部分断面図で、図中左側は、各工程での板部材101Aの全体形状を示した斜視図である。図5(a)から図5(d)は各成形工程を示す。
比較形態の成形装置110は、下パンチ112に下パンチ挿通孔が設けられておらず、下パンチ112は略円板状である。また、補助パンチも備えていない。したがって、比較形態において図4(d)のような引張り工程は含まない。
【0029】
図5(a)は初期状態で、まず、板部材101Aの外周をコンテナ114の内周で拘束し、外周から一定距離離れた一定範囲を厚さ方向に下パンチ112と上パンチ113とで挟持する。比較形態において板部材101Aは、φ=66.2mm、厚さH=5.8mmである。
板部材1Aにおける下パンチ112と上パンチ113とで挟持された挟圧部101aにはまだ圧力が加わっていないので、板部材101Aの表面は平坦なままである。
【0030】
図5(a)の状態から、図5(b)に示すように上パンチ113を降下させて、挟圧部101aに圧力P3の付与を開始する。挟圧部101aは挟圧により塑性流動を起こして薄肉部へと変形を開始する。しかし、実施形態と異なり、挟圧部101aへの厚さ方向と交差する方向への引張り張力の付与はない。
【0031】
実施形態と同様の300kNでは、挟圧部101aが所望の薄さに変形させることができないので、図5(b)の状態の次に、図5(c)に示すように圧力P3として460kNを加える。
【0032】
圧力P3として460kNを加えることにより、挟圧部101aにおいて塑性流動が進み、所望の薄さの薄肉部3が形成される。挟圧部101aよりも外側の外周部101cは、外周側に流動した挟圧部101aの材料により盛り上がり、厚肉部2が形成される。なお、比較形態においても挟圧部101aよりも内側の中央部101bは、挟圧部101aからの塑性流動により盛り上がりは生じる。
【0033】
さらに、実施形態と同様に、図示しない工程において、板部材101Aにおける、挟圧部1aよりも内側の上方に盛り上がった中央部101bをくり抜いて除去することで、比較形態の環状部材が完成する。
【0034】
比較形態の環状部材は、実施形態と同様に薄肉部の厚さは3.5mm、厚肉部の厚さは7.4mm、全体としての径は66.3mmである。
【0035】
実施形態において、圧縮応力P1が、比較形態の圧縮応力P3より小さい値においても、比較形態と同様の差厚形状を有する環状部材1を成形できたのは、以下の理由による。
図6(a)はミーゼスの降伏曲線で、図6(b)はミーゼスの降伏曲線に示す降伏応力と引張応力との方向を説明する図である。図6(b)に示すように、下パンチ12と上パンチ13とにより挟持される挟圧部1aの降伏応力をσ1とし、補助パンチ16によって引っ張られることにより挟圧部1aに加わる引張応力をσ2とする。図6(a)の横軸は引張応力σ2、縦軸は圧縮方向の降伏応力σ1である。
【0036】
図中Yは、補助パンチ16が設けられていない、すなわち引張応力σ2が0である比較形態の場合の降伏応力の値である。Y’は、補助パンチ16が設けられ、引張応力σ2が所定値のXである実施形態での降伏応力の値である。
実施形態では、所定の大きさの引張応力σ2が加わる。これによって、圧縮方向の降伏応力の値YがY’へと下がる。ゆえに比較形態の場合のP3より小さな圧縮圧力であるP1で、塑性変形が可能となった。
【0037】
以上のように、本実施形態によると、差圧形状の環状部材1を成形するために、下パンチ12と上パンチ13とにより挟圧されている挟圧部1aよりも内側の部分を、補助パンチ16によって厚さ方向の一方に押し出す。
これにより、挟圧部1aに厚さ方向と交差する方向の引っ張り張力を付与しながら、挟圧部1aに薄肉部を成形することができる。
このため、圧部1aよりも内側の部分を補助パンチ16等によって、厚さ方向の一方に押し出さない比較形態の場合に比べて、挟圧部1aに加えるパンチ荷重が小さくてよい。
したがって、成形装置においてプレス機構の能力が比較的低くても鍛造加工において十分な塑性流動を付与することができ、大きな板厚比を得ることができる。これにより、成形装置10の製造コストを削減することができる。
【符号の説明】
【0038】
P1 圧縮応力
P2 圧力
P3 圧縮応力
1 環状部材
1A 板部材
1a 挟圧部
1b 中央部
1c 外周部
2 厚肉部
3 薄肉部
4 開口部
10 成形装置
11 下ベース部材
12 下パンチ
13 上パンチ
14 コンテナ
14a パンチ外面拘束孔
15 上ベース部材
16 補助パンチ
17 補助パンチ挿通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6