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  • -銅張積層板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/56 20060101AFI20230124BHJP
   C25D 5/34 20060101ALI20230124BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C25D5/56 Z
C25D5/34
C25D3/38 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019029085
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020132958
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-082320(JP,A)
【文献】特開2009-242860(JP,A)
【文献】特開2000-219994(JP,A)
【文献】特開2018-204049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、
無通電状態で前記基材の表面にブライトナー成分を含むブライトナー液を接触させた後に、銅めっき液を用いた電解めっきを行なって前記銅めっき被膜を成膜し、
前記ブライトナー液のブライトナー成分の濃度は5mg/L以上であり、
前記基材の前記ブライトナー液との接触時間は5秒以上であり、
前記ブライトナー液に含まれるブライトナー成分はビス(3-スルホプロピル)ジスルフィドである
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項2】
ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、該基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、
前記基材の搬送経路に、ブライトナー成分を含むブライトナー液を貯留した前処理槽と、銅めっき液を用いた電解めっきを行なうめっき槽とを、上流から下流に向かってこの順に配置し、
前記ブライトナー液のブライトナー成分の濃度は5mg/L以上であり、
前記基材の前記ブライトナー液との接触時間は5秒以上であり、
前記ブライトナー液に含まれるブライトナー成分はビス(3-スルホプロピル)ジスルフィドである
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などには、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は、例えば、銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を形成する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を形成する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
この種の銅張積層板を用いてフレキシブルプリント配線板を製造する方法としてセミアディティブ法が知られている。セミアディティブ法によるフレキシブルプリント配線板の製造は、つぎの手順で行なわれる(特許文献1参照)。まず、銅張積層板の銅めっき被膜の表面にレジスト層を形成する。つぎに、レジスト層のうち配線パターンを形成する部分に開口部を形成する。つぎに、レジスト層の開口部から露出した銅めっき被膜を陰極として電解めっきを行ない、配線部を形成する。つぎに、レジスト層を除去し、フラッシュエッチングなどにより配線部以外の導体層を除去する。これにより、フレキシブルプリント配線板が得られる。
【0005】
セミアディティブ法において、銅めっき被膜の表面にレジスト層を形成するあたり、ドライフィルムレジストを用いることがある。この場合、銅めっき被膜の表面を化学研磨した後に、ドライフィルムレジストを貼り付ける。化学研磨により銅めっき被膜の表面に微細な凹凸をつけることで、アンカー効果によりドライフィルムレジストの密着性を高めている。しかし、銅めっき被膜の表面の凹凸が過剰であると、かえってドライフィルムレジストの密着性が悪化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-278950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学研磨後の銅めっき被膜の表面粗さは、銅めっき被膜の結晶粒のサイズに影響される。結晶粒が小さいほど化学研磨後の銅めっき被膜の表面が滑らかになり、結晶粒が大きいほど化学研磨後の銅めっき被膜の表面が粗くなるという傾向がある。
【0008】
銅めっき被膜の結晶粒はめっき処理後の再結晶の進行にともない、徐々に大きくなる。再結晶が進行中の銅めっき被膜に化学研磨を行なうと、化学研磨の時点におけるめっき処理からの経過時間によって、化学研磨後の銅めっき被膜の表面粗さが変化する。そのため、配線加工における工程管理が困難になる。また、再結晶が終了した銅めっき被膜は結晶粒が大きくなっていることから、化学研磨後の表面粗さが過剰となることがある。そこで、銅張積層板の銅めっき被膜には、再結晶の進行が遅いことが求められる場合がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、再結晶の進行が遅い銅めっき被膜を有する銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の銅張積層板の製造方法は、基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、無通電状態で前記基材の表面にブライトナー成分を含むブライトナー液を接触させた後に、銅めっき液を用いた電解めっきを行なって前記銅めっき被膜を成膜し、前記ブライトナー液のブライトナー成分の濃度は5mg/L以上であり、前記基材の前記ブライトナー液との接触時間は5秒以上であり、前記ブライトナー液に含まれるブライトナー成分はビス(3-スルホプロピル)ジスルフィドであることを特徴とする。
第2発明の銅張積層板の製造方法は、ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、該基材の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、前記基材の搬送経路に、ブライトナー成分を含むブライトナー液を貯留した前処理槽と、銅めっき液を用いた電解めっきを行なうめっき槽とを、上流から下流に向かってこの順に配置し、前記ブライトナー液のブライトナー成分の濃度は5mg/L以上であり、前記基材の前記ブライトナー液との接触時間は5秒以上であり、前記ブライトナー液に含まれるブライトナー成分はビス(3-スルホプロピル)ジスルフィドであることを特徴とする
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銅めっき被膜のうち基材との界面近傍の硫黄濃度が高くなる。再結晶が進みやすい基材との界面近傍に再結晶の進行を抑制する硫黄が多く含まれるので、銅めっき被膜の再結晶の進行を遅くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
図2】めっき装置の斜視図である。
図3】前処理槽の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とからなる。図1に示すように基材10の片面のみに銅めっき被膜20が形成されてもよいし、基材10の両面に銅めっき被膜20が形成されてもよい。
【0014】
銅めっき被膜20は電解めっきにより成膜される。したがって、基材10は銅めっき被膜20が成膜される側の表面に導電性を有する素材であればよい。例えば、基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が形成されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12は、例えば、スパッタリング法により形成される。金属層12は下地金属層13と銅薄膜層14とからなる。下地金属層13と銅薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0015】
銅めっき被膜20は金属層12の表面に形成されている。特に限定されないが、銅めっき被膜20の厚さは1~3μmが一般的である。なお、金属層12と銅めっき被膜20とを合わせて「導体層」と称する。
【0016】
銅めっき被膜20は、特に限定されないが、図2に示すめっき装置3により成膜される。
めっき装置3は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。めっき装置3はロール状に巻回された基材10を繰り出す供給装置31と、めっき後の基材10(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置32とを有する。
【0017】
また、めっき装置3は基材10を搬送する上下一対のエンドレスベルト33(下側のエンドレスベルト33は図示省略)を有する。各エンドレスベルト33には基材10を把持する複数のクランプ34が設けられている。供給装置31から繰り出された基材10は、その幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプ34に把持される。基材10はエンドレスベルト33の駆動によりめっき装置3内を周回した後、クランプ34から開放され、巻取装置32で巻き取られる。
【0018】
基材10の搬送経路には、上流から下流に向かって、前処理槽40、めっき槽35、および後処理槽36がこの順に配置されている。基材10はめっき槽35内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面に銅めっき被膜20が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0019】
図3に示すように、前処理槽40は基材10の搬送方向に沿った横長の槽である。前処理槽40の内部は6つの区間41~46に区分けされている。基材10の搬送経路の上流から下流に向かって、アルカリ処理区間41、水洗区間42、酸処理区間43、水洗区間44、ブライトナー処理区間45、水洗区間46の順に並んでいる。
【0020】
アルカリ処理区間41には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ塩を用いた脱脂液が貯留されている。アルカリ処理区間41を搬送される基材10は、その全体が脱脂液に浸漬される。このアルカリ処理により基材10の表面に付着している油脂を除去する。
【0021】
各水洗区間42、44、46には水が貯留されている。水洗区間42、44、46を搬送される基材10は、その全体が水に浸漬され、これにより水洗される。
【0022】
酸処理区間43には硫酸、塩酸などの酸が貯留されている。酸処理区間43を搬送される基材10は、その全体が酸に浸漬される。この酸処理により基材10の表面(銅薄膜層14の表面)の酸化物を除去する。
【0023】
ブライトナー処理区間45にはブライトナー液が貯留されている。ブライトナー液とはブライトナー成分を含む液である。ブライトナー成分として一般的にめっき液に添加されるものを用いることができる。特に限定されないが、ブライトナー成分として、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(略称SPS)、3-メルカプトプロパン-1-スルホン酸(略称MPS)などから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0024】
ブライトナー液は硫酸および銅を含むことが好ましい。そうすれば、ブライトナー液を貯留している槽の壁面に藻が発生することを防止できる。また、ブライトナー液としてめっき槽35に貯留される銅めっき液を用いてもよい。この場合、銅めっき液には、ブライトナー成分以外の添加剤、すなわち、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などが含まれてもよい。ブライトナー液として銅めっき液を用いれば、銅めっき液とは別にブライトナー液を調製する必要がなくなる。
【0025】
ブライトナー処理区間45を搬送される基材10は、その全体がブライトナー液に浸漬される。このブライトナー処理により基材10の表面(銅薄膜層14の表面)にブライトナー液が接触し、ブライトナー成分が吸着する。
【0026】
基材10は、前処理槽40を搬送される間に、アルカリ処理、酸処理、ブライトナー処理が行なわれる。アルカリ処理、酸処理、ブライトナー処理はこの順に行なうことが好ましい。そうすれば、油脂および酸化物が除去された清浄な金属表面にブライトナー成分を吸着させることができる。ただし、前処理として少なくともブライトナー処理を行なえばよい。その他の処理は必要に応じて行なえばよい。
【0027】
前処理は無通電状態、すなわち基材10に電流を供給しない状態で行なわれる。無通電状態でブライトナー処理を行なったとしても、基材10の表面(銅薄膜層14の表面)にはブライトナー成分が吸着する。
【0028】
各区間41~46の内部に、基材10に向かって処理液(アルカリ、酸、ブライトナー液、洗浄水)を噴出するノズルを設けることが好ましい。
【0029】
図2に示すように、めっき槽35は基材10の搬送方向に沿った横長の単一の槽である。めっき槽35には銅めっき液が貯留されている。めっき槽35内を搬送される基材10は、その全体が銅めっき液に浸漬されている。
【0030】
銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば、特に限定されず用いられる。水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などが挙げられる。無機銅塩として、硫酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅などが挙げられる。アルカンスルホン酸銅塩として、メタンスルホン酸銅、プロパンスルホン酸銅などが挙げられる。アルカノールスルホン酸銅塩として、イセチオン酸銅、プロパノールスルホン酸銅などが挙げられる。有機酸銅塩として、酢酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅などが挙げられる。
【0031】
銅めっき液に用いる水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、硫酸銅と塩化銅とを組み合わせる場合のように、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1つのカテゴリー内の異なる2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、銅めっき液の管理の観点からは、1種類の水溶性銅塩を単独で用いることが好ましい。
【0032】
銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。
【0033】
銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などが挙げられる。銅めっき液はブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を含んでもよいし、2種類以上を含んでもよい。
【0034】
ブライトナー成分は硫黄を含む。ブライトナー成分として、特に限定されないが、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(略称SPS)、3-メルカプトプロパン-1-スルホン酸(略称MPS)などから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。レベラー成分は窒素を含有するアミンなどで構成される。レベラー成分として、特に限定されないが、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ヤヌス・グリーンBなどから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。ポリマー成分として、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体から選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。塩素成分として、特に限定されないが、塩酸、塩化ナトリウムなどから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0035】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜20を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~30mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜20の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を0.5~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜20を形成できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材10端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜20を形成できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0036】
銅めっき液の温度は23~38℃が好ましい。また、めっき槽35内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。銅めっき液を撹拌する手段は、特に限定されないが、噴流を利用した手段を用いることができる。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材10に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0037】
めっき槽35の内部には、基材10の搬送方向に沿って複数のアノードが配置されている。アノードの材質および構造は、特に限定されないが、例えばチタンに酸化イリジウムをコーティングしたメッシュ状の不溶性電極でよい。また、基材10には、それを把持するクランプ34を介して電流が供給されている。基材10とアノードとの間に電流を流すと、基材10をカソードとした電解めっきが行なわれる。電解めっきを行なうことで、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜でき、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0038】
めっき槽35の内部に配置された複数のアノードは、それぞれに整流器が接続されている。したがって、アノードごとに異なる電流密度となるように設定できる。電流密度は0.3~10A/dm2に設定することが好ましい。また、電流密度は基材10の搬送方向の下流側に向かって、段階的に上昇するよう設定することが好ましい。
【0039】
以上のように、無通電状態で基材10の表面にブライトナー液を接触させた後に、銅めっき液を用いた電解めっきを行なって銅めっき被膜20を成膜する。このような方法により形成された銅めっき被膜20は基材10との界面近傍に不純物として硫黄を多く含む。すなわち、図1に示すように、銅めっき被膜20は基材10との界面近傍の高硫黄濃度層21と、その上に積層された低硫黄濃度層22とからなる。ここで、高硫黄濃度層21は相対的に硫黄濃度が高い層であり、低硫黄濃度層22は相対的に硫濃度が低い層である。
【0040】
このように、高硫黄濃度層21と低硫黄濃度層22とが形成される理由は、つぎのとおりであると考えられる。
前処理槽40で基材10がブライトナー液と接触することで基材10の表面、すなわち銅薄膜層14の表面にブライトナー成分が吸着する。この状態の基材10に対して電解めっきを行なうと、電解の初期において、銅薄膜層14の表面に吸着していたブライトナー成分を取り込みつつ銅めっき被膜20が形成される。そのため、銅めっき被膜20のうち基材10との界面近傍はブライトナー成分に由来する硫黄を多く含むこととなり、高硫黄濃度層21となる。
【0041】
引き続き電解めっきを行なうと、ブライトナー成分は銅めっき液から供給されるのみであるため、通常の電解で得られる硫黄濃度の層が形成される。これが低硫黄濃度層22である。
【0042】
このような構造を有する銅めっき被膜20は再結晶の進行が遅いという性質を有する。その理由は不明なところもあるが、概ねつぎのとおりであると考えられる。
銅めっき被膜20は電解めっきが終了した直後から、不純物が多い部分が伸びようとし、不純物が少ない部分が縮もうとする。しかし、銅めっき被膜20は基材10と密着しているため実際には伸び縮みできず、それゆえ銅めっき被膜20に応力が発生する。特に、銅めっき被膜20のうち基材10との界面近傍では応力が大きくなる。そのため、銅めっき被膜20の再結晶は基材10との界面近傍から進行する。
【0043】
一方、銅めっき被膜20のうち基材10との界面近傍は硫黄濃度が高い。銅めっき被膜20中の硫黄は再結晶の進行を抑制する効果がある。再結晶が進みやすい基材10との界面近傍に再結晶の進行を抑制する硫黄が多く含まれることから、銅めっき被膜20の再結晶の進行を遅くできる。
【0044】
上記の効果を奏するには、電解めっきを行なう前に、基材10の表面に十分な量のブライトナー成分が吸着していればよい。そこで、ブライトナー液のブライトナー成分の濃度(以下、「ブライトナー濃度」と称する。)を5mg/L以上とすることが好ましい。また、基材10のブライトナー液との接触時間(以下、「接触時間」と称する。)を5秒以上とすることが好ましい。なお、接触時間は、基材10の搬送速度およびブライトナー処理区間45の長さにより調整できる。
【0045】
ブライトナー成分は銅に吸着することから、銅薄膜層14の表面がブライトナー成分で覆われた時点で吸着が進まなくなると考えられる。ブライトナー成分の吸着量が飽和状態となった後は、ブライトナー濃度を高くしても、接触時間を長くしても、高硫黄濃度層21の硫黄濃度は高くならないと考えられる。この観点からすれば、ブライトナー濃度、および接触時間に上限はない。
【0046】
なお、銅めっき被膜20は硫黄以外の不純物、例えば、銅めっき液の添加剤に由来する窒素、塩素、炭素、酸素などを含んでもよい。
【実施例
【0047】
つぎに、実施例を説明する。
(再結晶時間測定試験)
まず、再結晶時間測定試験を行なった。
つぎの手順で、基材を準備した。ベースフィルムとして、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの片面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ150nmの銅薄膜層を形成した。
【0048】
つぎに、ブライトナー液を調製した。ブライトナー液はブライトナー成分を含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬、以下同じ。)を用いた。また、ブライトナー液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L含有する。
【0049】
つぎに、銅めっき液を調製した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を50mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィドを用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0050】
基材に対して前処理および電解めっきを行ない、基材の片面に厚さ2.0μmの銅めっき被膜を成膜した。前処理としてアルカリ処理、酸処理、ブライトナー処理をこの順に行なった。アルカリ処理は基材を脱脂液(ユケン工業株式会社製 パクナLF-612N2、40g/L)に浸漬することにより行なった。酸処理は基材を硫酸(関東化学株式会社製の96%硫酸を100g/Lに調整)に浸漬することにより行なった。アルカリ処理、酸処理の処理時間はそれぞれ20秒である。
【0051】
また、銅めっき液の温度を31℃とした。電解めっきにおいて、めっき開始から終了までの電流密度を0.4A/dm2で40秒、1.5A/dm2で40秒、3.0A/dm2で175秒と変化させた。
【0052】
以上の手順において、ブライトナー処理における接触時間を5、15、25秒の3パターンで変化させた。また、ブライトナー液のブライトナー濃度を5、15、25mg/Lの3パターンで変化させた。さらに、ブライトナー処理を行なわない試料も作成した。
【0053】
以上の処理により得られた10種類の銅張積層板をそれぞれ試料1~10と称する。試料1~10について、銅めっき被膜の再結晶時間を測定した。再結晶時間は四探針法により銅めっき被膜の抵抗率の変化を観察することで測定した。銅めっき被膜の再結晶の進行にともない、結晶粒が大きくなり、抵抗率が変化する。抵抗率が一定になった時点で再結晶終了と判断する。めっき処理から再結晶終了までの経過時間を再結晶時間とした。なお、抵抗率の測定器として、三菱ケミカルアナリティック製のロレスタAX MCP-T370を用いた。
【0054】
その結果を表1に示す。
【表1】
【0055】
表1より、ブライトナー処理を行なうと(試料2~10)、それを行なわない場合(試料1)に比べて銅めっき被膜の再結晶の進行が遅くなることが分かる。また、接触時間を長くするほど再結晶時間が長くなる。接触時間を5秒以上にすれば、再結晶時間を十分に長くできる。少なくとも、接触時間が5~25秒の範囲で再結晶時間を十分に長くできる。また、ブライトナー濃度を濃くするほど再結晶時間が長くなる。ブライトナー濃度を5mg/L以上にすれば、再結晶時間を十分に長くできる。少なくとも、ブライトナー濃度が5~25mg/Lの範囲で再結晶時間を十分に長くできる。
【0056】
(光沢度測定試験)
つぎに、試料1~10について光沢度測定試験を行なった。
試料1~10のそれぞれに対して、めっき直後の銅めっき被膜の表面の光沢度を測定した。また、めっき処理から1週間経過した試料1~10のそれぞれに対して化学研磨を行ない、化学研磨後の銅めっき被膜の表面の光沢度を測定した。さらに、めっき処理から2週間経過した試料1~10のそれぞれに対して化学研磨を行ない、化学研磨後の銅めっき被膜の表面の光沢度を測定した。光沢度の測定器として、日本電色工業株式会社製のVSR400を用いた。
【0057】
その結果を表2に示す。
【表2】
【0058】
光沢度は銅めっき被膜の表面粗さの指標として用いることができる。光沢度が高いほど滑らかであり、光沢度が低いほど粗い。表2より、接触時間を5秒以上、ブライトナー濃度を5mg/L以上とすれば、めっき処理から2周間後でも光沢度0.9以上を維持でき、化学研磨後の銅めっき被膜の表面を滑らかにできることが確認できた。
【符号の説明】
【0059】
1 銅張積層板
10 基材
11 ベースフィルム
12 金属層
13 下地金属層
14 銅薄膜層
20 銅めっき被膜
21 高硫黄濃度層
22 低硫黄濃度層
図1
図2
図3