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特許7215238入射方向決定装置、荷電粒子線装置、入射方向決定方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】入射方向決定装置、荷電粒子線装置、入射方向決定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20230124BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20230124BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20230124BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20230124BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
H01J37/244
H01J37/20 A
H01J37/22 502B
H01J37/22 502F
H01J37/147 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019041748
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020145107
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】谷口 俊介
(72)【発明者】
【氏名】森 孝茂
(72)【発明者】
【氏名】網野 岳文
(72)【発明者】
【氏名】谷山 明
(72)【発明者】
【氏名】横山 千恵
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直紀
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特許第6458920(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/28
H01J 37/244
H01J 37/20
H01J 37/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記試料に対する前記荷電粒子線の目標とする入射方向を決定する装置であって、
前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向(但し、「前記1つの結晶面の法線方向と垂直な方向」を除く。)を回転軸として所定の角度範囲で前記入射方向を変化させ、前記所定の角度範囲内の複数の入射方向において、それぞれ前記結晶上で測定された複数の反射電子強度に関する情報を取得する強度情報取得部と、
前記複数の入射方向とそれに対応する前記複数の反射電子強度に関する情報との関係に基づいて、前記目標とする入射方向を決定する決定部と、を備える、
入射方向決定装置。
【請求項2】
前記入射方向を前記目標とする入射方向へと変更するのに必要となる前記試料および/または前記荷電粒子線の、傾斜方向および傾斜量を制御するための指令値である傾斜角度量を算出する算出部をさらに備える、
請求項1に記載の入射方向決定装置。
【請求項3】
前記荷電粒子線装置を駆動制御する駆動制御部をさらに備え、
前記駆動制御部は、前記傾斜角度量に基づき、前記試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、前記荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行う、
請求項2に記載の入射方向決定装置。
【請求項4】
前記荷電粒子線装置に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う測定指示部をさらに備え、
前記駆動制御部は、前記入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向(但し、「前記1つの結晶面の法線方向と垂直な方向」を除く。)を回転軸として、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ前記入射方向を変化させ、
前記測定指示部は、前記入射方向が前記所定間隔変化されるごとに、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う、
請求項3に記載の入射方向決定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の入射方向決定装置を備えた、
荷電粒子線装置。
【請求項6】
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記試料に対する前記荷電粒子線の目標とする入射方向を決定する方法であって、
(a)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向(但し、「前記1つの結晶面の法線方向と垂直な方向」を除く。)を回転軸として所定の角度範囲で前記入射方向を変化させ、前記所定の角度範囲内の複数の入射方向において、それぞれ前記結晶上で測定された複数の反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(b)前記複数の入射方向とそれに対応する前記複数の反射電子強度に関する情報との関係に基づいて、前記目標とする入射方向を決定するステップと、を備える、
入射方向決定方法。
【請求項7】
(c)前記入射方向を前記目標とする入射方向へと変更するのに必要となる前記試料および/または前記荷電粒子線の、傾斜方向および傾斜量を制御するための指令値である傾斜角度量を算出するステップをさらに備える、
請求項6に記載の入射方向決定方法。
【請求項8】
(d)前記傾斜角度量に基づき、前記試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、前記荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行うことで、前記荷電粒子線装置を駆動制御するステップをさらに備える、
請求項7に記載の入射方向決定方法。
【請求項9】
(e)前記入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向(但し、「前記1つの結晶面の法線方向と垂直な方向」を除く。)を回転軸として、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ前記入射方向を変化させ、
前記入射方向が前記所定間隔変化されるごとに、前記荷電粒子線装置に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行うステップをさらに備える、
請求項8に記載の入射方向決定方法。
【請求項10】
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、コンピュータによって、前記試料に対する前記荷電粒子線の目標とする入射方向を決定するプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向(但し、「前記1つの結晶面の法線方向と垂直な方向」を除く。)を回転軸として所定の角度範囲で前記入射方向を変化させ、前記所定の角度範囲内の複数の入射方向において、それぞれ前記結晶上で測定された複数の反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(b)前記複数の入射方向とそれに対応する前記複数の反射電子強度に関する情報との関係に基づいて、前記目標とする入射方向を決定するステップと、を実行させる、
プログラム。
【請求項11】
(c)前記入射方向を前記目標とする入射方向へと変更するのに必要となる前記試料および/または前記荷電粒子線の、傾斜方向および傾斜量を制御するための指令値である傾斜角度量を算出するステップをさらに備える、
請求項10に記載のプログラム。
【請求項12】
(d)前記傾斜角度量に基づき、前記試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、前記荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行うことで、前記荷電粒子線装置を駆動制御するステップをさらに備える、
請求項11に記載のプログラム。
【請求項13】
(e)前記入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向(但し、「前記1つの結晶面の法線方向と垂直な方向」を除く。)を回転軸として、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ前記入射方向を変化させ、
前記入射方向が前記所定間隔変化されるごとに、前記荷電粒子線装置に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行うステップをさらに備える、
請求項12に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は入射方向決定装置、それを備えた荷電粒子線装置、入射方向決定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、加速された電子線を収束して電子線束として、試料表面上を周期的に走査しながら照射し、照射された試料の局所領域から発生する反射電子および/または二次電子等を検出して、それらの電気信号を材料組織像として変換することによって、材料の表面形態、結晶粒および表面近傍の転位などを観察する装置である。
【0003】
真空中で電子源より引き出された電子線は、直ちに1kV以下の低加速電圧から30kV程度の高加速電圧まで、観察目的に応じて異なるエネルギーで加速される。そして、加速された電子線は、コンデンサレンズおよび対物レンズ等の磁界コイルによって、ナノレベルの極微小径に集束されて電子線束となり、同時に偏向コイルによって偏向することで、試料表面上に収束された電子線束が走査される。また、最近では電子線を集束するに際して、電界コイルも組み合わせるような形式も用いられる。
【0004】
従来のSEMにおいては、分解能の制約から、二次電子像によって試料の表面形態を観察し、反射電子像によって組成情報を調べることが主要機能であった。しかしながら、近年、加速された電子線を、高輝度に維持したまま直径数nmという極微小径に集束させることが可能になり、非常に高分解能な反射電子像および二次電子像が得られるようになってきた。
【0005】
従来、格子欠陥の観察は透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いるのが主流であった。しかし、前記のような高分解能SEMにおいても反射電子像を活用した電子チャネリングコントラストイメージング(ECCI)法を用いることによって、結晶材料の極表面(表面からの深さ約100nm程度)ではあるが、試料内部の格子欠陥(以下では、「内部欠陥」ともいう。)の情報を観察できるようになってきた(非特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-139513号公報
【文献】特開2018-022592号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本電子News Vol.43,(2011)p.7-12
【文献】顕微鏡 Vol.48,No.3(2013)p.216-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、SEM-ECCI法によって結晶性材料を観察すると、結晶方位の違いにより観察像の明暗が大きく変化する。そして、特定の結晶方位において、観察像は最も暗くなる。このような条件は、電子チャネリング条件(以下では、単に「チャネリング条件」ともいう)と呼ばれる。上記のチャネリング条件は、試料に対する電子線の入射方向の調整によって満足するようになる。
【0009】
SEMにおいて入射電子線と所定の結晶面とのなす角が変化すると、反射電子強度が変化する。そして、入射電子線と所定の結晶面とのなす角が特定の条件を満足する際に、入射電子線が結晶奥深くまで侵入し反射しづらくなり、反射電子強度が最小となる。この条件がチャネリング条件である。
【0010】
また、同じ条件であっても、転位または積層欠陥等の格子欠陥があり結晶面が局所的に乱れている部分では、一部の電子線が反射することにより反射電子強度は高くなる。その結果、背景と格子欠陥とのコントラストが強調され、内部欠陥を識別して観察できるようになる。
【0011】
このような格子欠陥に起因するコントラストを観察する方法として、オペレータが反射電子像を観察しながら、手動で試料に対する電子線の入射方向を調整し、背景が最も暗くなる条件を探す方法が考えられる。しかしながら、この方法では、多大な労力を要するだけでなく、オペレータの経験に頼らざるを得ないという問題があった。
【0012】
本発明は、SEM等の荷電粒子線装置において、チャネリング条件等の所望の条件を満足するための荷電粒子線の入射方向を簡便に決定することを可能にするための入射方向決定装置、それを備えた荷電粒子線装置、入射方向決定方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものである。
【0014】
本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置は、
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記試料に対する前記荷電粒子線の目標とする入射方向を決定する装置であって、
前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向を回転軸として所定の角度範囲で前記入射方向を変化させ、前記所定の角度範囲内の複数の入射方向において、それぞれ前記結晶上で測定された複数の反射電子強度に関する情報を取得する強度情報取得部と、
前記複数の入射方向とそれに対応する前記複数の反射電子強度に関する情報との関係に基づいて、前記目標とする入射方向を決定する決定部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一実施形態に係る入射方向決定方法は、
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記試料に対する前記荷電粒子線の目標とする入射方向を決定する方法であって、
(a)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向を回転軸として所定の角度範囲で前記入射方向を変化させ、前記所定の角度範囲内の複数の入射方向において、それぞれ前記結晶上で測定された複数の反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(b)前記複数の入射方向とそれに対応する前記複数の反射電子強度に関する情報との関係に基づいて、前記目標とする入射方向を決定するステップと、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一実施形態に係るプログラムは、
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、コンピュータによって、前記試料に対する前記荷電粒子線の目標とする入射方向を決定するプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向が、前記表面の選択された位置の結晶が有する1つの結晶面と所定値以下の角度を成し、かつ前記結晶が有する他の結晶面と所定値以上の角度を成す状態から、前記入射方向および前記1つの結晶面の法線方向の両方に交差する方向を回転軸として所定の角度範囲で前記入射方向を変化させ、前記所定の角度範囲内の複数の入射方向において、それぞれ前記結晶上で測定された複数の反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(b)前記複数の入射方向とそれに対応する前記複数の反射電子強度に関する情報との関係に基づいて、前記目標とする入射方向を決定するステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、SEM等の荷電粒子線装置において、チャネリング条件等の所望の条件を満足するための荷電粒子線の入射方向を簡便に決定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置の概略構成を示す図である。
図2】電子線の入射方向と反射電子強度との関係を模式的に示した図である。
図3】反射電子強度を測定する位置を説明するための模式図である。
図4】結晶方位図の一例を示す図である。
図5】菊池マップと実格子の模式図の対応を説明するための概念図である。
図6】指数の二乗和が10以下である結晶面を説明するための図である。
図7】菊池マップの一例を示す図である。
図8】入射方向を変化させる位置とその際の回転軸を説明するための図である。
図9】反射電子強度の測定結果を模式的に示した図である。
図10】本発明の他の実施形態における入射方向決定装置の構成を具体的に示す構成図である。
図11】試料台を傾斜させることで、試料に対する荷電粒子線の入射方向を所定角度傾斜させる方法を説明するための図である。
図12】荷電粒子線の試料表面における入射位置を固定した状態で、荷電粒子線を放出する位置を変化させることで、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変更する方法を説明するための図である。
図13】荷電粒子線の試料表面における入射位置を固定した状態で、試料を所定方向に移動させることで、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変更する方法を説明するための図である。
図14】SEMの一例を模式的に示した図である。
図15】本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置の動作を示すフロー図である。
図16】菊池マップの一例を模式的に示した図である。
図17】変更後の菊池マップの一例を模式的に示した図である。
図18】取得された複数の反射電子像の一例を示す図である。
図19】本発明の実施の形態における入射方向決定装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係る入射方向決定装置、荷電粒子線装置、入射方向決定方法およびプログラムについて、図1~19を参照しながら説明する。
【0020】
[入射方向決定装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置を備えた荷電粒子線装置の概略構成を示す図である。本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置10は、試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置100に用いられ、試料に対する荷電粒子線の目標とする入射方向を決定する装置である。
【0021】
なお、本明細書において、「入射方向」とは、試料に対する荷電粒子線の入射方向を意味するものとする。荷電粒子線には、電子線等が含まれる。また、荷電粒子線装置100には、SEM等が含まれる。
【0022】
入射方向決定装置10は、荷電粒子線装置100に直接組み込まれていてもよいし、荷電粒子線装置100に接続された汎用のコンピュータ等に搭載されていてもよい。さらに、入射方向決定装置10は、荷電粒子線装置100とは接続されていない汎用のコンピュータ等に搭載されていてもよい。
【0023】
また、図1に示すように、本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置10は、強度情報取得部1と、決定部2とを備える。
【0024】
強度情報取得部1は、試料表面の選択された位置(以下の説明において、「位置A」ともいう。)の結晶(以下の説明において、「結晶A」ともいう。)上で、複数の入射方向において測定された複数の反射電子強度に関する情報を取得する。そして、決定部2は、複数の入射方向とそれに対応する複数の反射電子強度に関する情報との関係に基づいて、目標とする入射方向を決定する。
【0025】
なお、反射電子強度に関する情報としては、例えば、反射電子強度の数値データ、反射電子像の画像データが含まれる。以下の説明において、反射電子強度に関する情報を単に「反射電子強度」ともいう。
【0026】
目標とする入射方向を決定する方法については特に制限はないが、例えば、チャネリング条件を満足する入射方向を決定したい場合においては、強度情報取得部1によって得られた複数の反射電子強度から、最も低い強度を示すものを抽出し、それに対応する入射方向を目標とする入射方向とすることができる。
【0027】
図2は、電子線の入射方向と反射電子強度との関係を模式的に示した図である。ここで、図2から分かるように、反射電子強度は、電子線の入射方向がブラッグ角を基準として、数度程度変化しただけでも急激に変化する。そのため、得られた複数の反射電子強度からチャネリング条件のような所望の条件を満たす入射方向を特定するためには、例えば、0.2°間隔程度で取得された無数の情報が必要となる。1つの入射方向において反射電子強度を得るのに数分程度の時間を要することを考慮すると、あらゆる入射方向での測定を行うことは、現実的ではない。
【0028】
そのため、強度情報取得部1は、所望の条件を満たす入射方向の近くまで合わせた後、その周囲の入射方向において、所定の間隔ごとに測定を行うことで得られた複数の反射電子像を取得するのが有効である。
【0029】
例えば、位置Aにおける結晶Aが有する1つの結晶面(以下の説明において、「結晶面a」ともいう。)に対して、チャネリング条件を満足する入射方向を決定したい場合においては、まず、入射方向が結晶面aと所定値以下の角度を成す状態へと合わせる。この際、結晶Aが有する他の結晶面(以下の説明において、「結晶面b」ともいう。)との干渉を避けるため、入射方向が結晶面bと所定値以上の角度を成すようにする必要がある。
【0030】
なお、以下の説明において、入射方向が、結晶面aと所定値以下の角度を成し、かつ結晶面bと所定値以上の角度を成す状態を「チャネリング近傍状態」ともいう。そして、強度情報取得部1は、チャネリング近傍状態から、所定の角度範囲で入射方向を変化させながら、上記の角度範囲内の複数の入射方向において、結晶A上で測定された複数の反射電子強度を取得する。
【0031】
上記のように、複数の反射電子強度を測定する位置は同一の結晶上である必要があるが、結晶によっては、歪み等の影響により同一結晶上であっても強度がわずかに変化する場合がある。そのため、複数の反射電子強度を測定する位置は同一領域上であることが好ましい。
【0032】
図3は、反射電子強度を測定する位置を説明するための模式図である。例えば、図3(a)に示すように、試料表面に形成した2つのマーカーの中点での反射電子強度を用いてもよいし、図3(b)に示すように、2つのマーカーをつなぐ線上での反射電子強度の平均値を用いてもよいし、図3(c)に示すように、4つのマーカーで囲まれる領域内の反射電子強度の平均値を用いてもよい。
【0033】
また、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変化させるに際して、入射方向または結晶面aの法線方向を回転軸としても、反射電子強度は変化しない。そのため、入射方向は、入射方向および結晶面aの法線方向の両方に交差する方向を回転軸として変化させる必要がある。
【0034】
以上のように、本発明においては、チャネリング近傍状態から、所定の角度範囲で入射方向を変化させながら測定された複数の反射電子強度を取得し、それに基づいて、目標とする入射方向を決定するため、迅速かつ高精度にチャネリング条件等を満足するための入射方向を決定することが可能となる。
【0035】
なお、入射方向を事前にチャネリング近傍状態に合わせる方法については特に制限はない。例えば、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報(以下、単に「結晶の方位情報」ともいう。)を解析することで得られる結晶方位図を参照しながら、入射方向を調整し、チャネリング近傍状態に合わせることが可能である。
【0036】
結晶の方位情報とは、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報のことである。また、結晶方位図は、測定対象となる結晶、すなわち結晶Aの結晶座標系に対する、荷電粒子線の入射方向を表す図である。ここで、試料座標系とは、試料に固定された座標系であり、結晶座標系とは、結晶格子に固定された座標系である。
【0037】
SEMには、結晶方位を解析するための電子後方散乱回折(EBSD:Electron Back Scatter Diffraction)装置が、付加的に搭載されていることが多く、これにより、結晶方位図の1つであるEBSDパターンを取得することが可能になる。
【0038】
結晶方位図には、実測されたEBSDパターンまたは電子チャネリングパターンの他、指数付けされた菊池マップ(以降の説明において、単に「菊池マップ」ともいう。)、極点図、逆極点図、結晶面のステレオ投影図、実格子の模式図が含まれる。
【0039】
図4に結晶方位図の一例を示す。図4a,4bは、菊池マップの一例を示す図であり、図4c,4dは、実格子の模式図の一例を示す図である。また、図5は、菊池マップと実格子の模式図の対応を説明するための概念図である。
【0040】
図4a,4c,5aに示す状態では、結晶が有する[001]晶帯軸の方向と荷電粒子線CBの入射方向が平行となっている。なお、図4a,4bにおける荷電粒子線CBの入射方向は図中央の十字印で示されており、図4c,4dにおける荷電粒子線CBの入射方向は紙面垂直方向である。一方、図5bに模式的に示されるように、結晶が荷電粒子線CBの入射方向に対して回転すると、菊池マップおよび実格子の模式図は、図4b,4dに示す状態に変化する。なお、本明細書においては、結晶方位図として、指数付けされた菊池マップを用いる場合を例に説明を行う。
【0041】
上記の結晶の方位情報は、EBSD法、透過EBSD法、電子チャネリングパターン(ECP:Electron Channeling Pattern)等を用いた点分析またはマッピング分析等を行うことによって取得することができる。
【0042】
なお、結晶の方位情報は、入射方向決定装置10を備えた荷電粒子線装置100によって測定することで取得してもよいし、外部の装置によって測定されたデータを取得してもよい。また、結晶の方位情報には、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報を含む数値データ、および実測されたEBSDパターンまたは電子チャネリングパターンの画像データが含まれる。
【0043】
上記の数値データには、例えば、結晶方位をロドリゲスベクトル等の回転ベクトルに変換したデータ、および、結晶方位を試料表面上の仮想的な直交座標系を基準としたオイラー角等によって表された回転行列に変換したデータ等が含まれる。さらに、数値データへの変換は、入射方向決定装置10が行ってもよいし、外部の装置が行ってもよい。なお、本発明において、「数値データ」は、数値の集合によって表されるデータを意味するものとする。
【0044】
一方、実測されたEBSDパターンまたは電子チャネリングパターンの画像データは、上述したEBSD法、ECP法等により撮像することができる。画像データは、試料表面の所定の領域において撮像された複数の画像データであってもよいし、位置Aにおいて撮像された1つの画像データであってもよい。また、画像データとしては、例えば、ビットマップ(BMP)形式、JPEG形式、GIF形式、PNG形式、TIFF形式等のデータが含まれる。
【0045】
さらに、結晶面aおよび結晶面bの選択方法についても特に制限はないが、低次の結晶面から選択することが好ましい。具体的には、結晶面を(hkl)で表した場合に、指数の二乗和、すなわちh+k+lの値が10以下である結晶面から選択することが好ましい。BCC構造を有する結晶の、指数の二乗和が10以下である結晶面を図6に例示する。また、結晶面aの二乗和に対して、過剰に大きな指数の二乗和を有する結晶面bは結晶面aのチャネリングコントラストへの影響が相対的に小さく、無視してよい。そのため、結晶面bの指数の二乗和は結晶面aの指数の二乗和の3倍以下であることが望ましい。
【0046】
チャネリング近傍状態から所定の角度範囲で入射方向を変化させる方法について、図7を参照しながらさらに具体的に説明する。図7は、菊池マップの一例を示す図である。図7(a)に示すように、結晶面aとして(200)を選択し、結晶面bとして(020)を選択した場合に、入射方向が、結晶面a((200)の菊池バンドの中心線)と所定値(α)以下の角度を成し、かつ結晶面b((020)の菊池バンドの中心線)と所定値(β)以上の角度を成す状態、すなわち入射方向が図7(b)に示す網掛け部分に含まれる状態がチャネリング近傍状態である。
【0047】
また、結晶Aが有する他の結晶面は複数であってもよい。例えば、図7(c)に示すように、結晶面b、結晶面cおよび結晶面dとして、それぞれ(020)、(-110)および(110)を選択し、結晶面b、結晶面cおよび結晶面dのそれぞれからβ、γおよびδ以上の角度をなす状態をチャネリング近傍状態として定義してもよい。
【0048】
上記のチャネリング近傍状態から、所定の角度範囲で入射方向を変化させる。図8は、入射方向を変化させる位置とその際の回転軸を説明するための図である。図8(a)に示す例では、(200)の法線方向に垂直な方向、すなわち(200)に平行な方向を回転軸として図中のB点まで入射方向を変化させる。一方、図8(b)に示す例では、(200)の法線方向から45°傾斜する方向を回転軸として図中のC点まで入射方向を変化させる。
【0049】
そして、図9は、それにより得られる反射電子強度の測定結果を模式的に示した図である。図9(a)に示すように、(200)の法線方向に垂直な方向を回転軸とした場合には、反射電子強度が最も大きく変化するため、効率的に目標とする入射方向を特定することが可能になる。
【0050】
一方、図9(b)に示すように、回転軸の方向と(200)の法線方向との傾きを小さくすると、ピークの幅が広くなる。そのため、入射方向を精密に制御できない荷電粒子線装置100を用いる場合においては、幅の広いピークから目的とする入射方向を特定する方がより真のチャネリング条件に近い条件を決定することが可能となる。したがって、回転軸の方向は、荷電粒子線装置100における荷電粒子線の入射方向の制御精度も考慮して決定することが好ましい。
【0051】
図10は、本発明の他の実施形態における入射方向決定装置の構成を具体的に示す構成図である。図10に示すように、本発明の他の実施形態に係る入射方向決定装置10は、算出部3をさらに備えてもよい。
【0052】
算出部3は、入射方向を上述した目標とする入射方向へと変更するのに必要となる傾斜角度量を算出する。傾斜角度量は、試料および/または荷電粒子線の、傾斜方向および傾斜量を制御するための指令値である。試料の結晶座標系に対する荷電粒子線の目標とする入射方向が決定されれば、測定対象の結晶の方位情報を用いて、試料座標系に対する荷電粒子線の入射方向が算出され、それを満たすための試料および/または荷電粒子線の、傾斜方向および傾斜量を算出することができる。
【0053】
傾斜角度量を算出する方法については特に制限はなく、例えば、以下の方法を採用することができる。直交する二軸の傾斜軸TxおよびTyを備えた試料台の各々の軸周りの回転量をそれぞれ、上記結晶方位図のx軸、y軸とし、結晶方位図において入射方向を示す情報の座標の変化量に応じて、Tx軸ならびにTy軸の回転方向および回転量に変換される方法等を用いることができる。
【0054】
入射方向決定装置10は、算出部3を有することによって、例えばチャネリング条件を満足し、背景が最も暗くなるよう、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変更するために必要な傾斜角度量を算出することが可能になる。
【0055】
図10に示すように、本発明の他の実施形態に係る入射方向決定装置10は、荷電粒子線装置100を駆動制御する駆動制御部4をさらに備えてもよい。駆動制御部4は、算出部3によって算出された傾斜角度量に基づき、荷電粒子線装置100が備える試料台に対して、試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、荷電粒子線装置100に対して、荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行う。
【0056】
なお、試料台への指示は、荷電粒子線装置100が備える試料台駆動装置を介して行ってもよいし、外部の試料台駆動装置を介して行ってもよい。
【0057】
試料台が駆動制御部4からの指示に応じて試料の傾斜方向および傾斜量を変更することによって、試料に対する荷電粒子線の入射方向を制御する場合において、試料の傾斜方向および傾斜量を変更する方法については特に制限は設けない。例えば、図11に示すように、試料台240を図11(a)の状態から図11(b)の状態へと傾斜させることで、試料Sに対する荷電粒子線CBの入射方向を所定角度傾斜させることができる。試料に対する荷電粒子線の入射方向の制御は、汎用的な荷電粒子線装置100に付属の試料台の駆動機構を適宜組み合わせることで行ってもよいし、特許文献1または特許文献2に開示される機構を備えた試料台を適用してもよい。
【0058】
また、荷電粒子線装置100が駆動制御部4からの指示に応じて荷電粒子線の入射方向を変更することによって、試料に対する荷電粒子線の入射方向を制御する場合において、荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更する方法についても特に制限は設けない。例えば、図12に示すように、荷電粒子線CBの試料Sの表面における入射位置を固定した状態で、荷電粒子線CBを放出する位置を図12(a)の状態から図12(b)の状態へと変化させることで、荷電粒子線CBの傾斜方向および傾斜量を変更することができる。または、図13に示すように、荷電粒子線CBの試料Sの表面における入射位置を固定した状態で、荷電粒子線装置100に付属の試料台240を図13(a)の位置から図13(b)の位置へと移動させることによっても、荷電粒子線CBの傾斜方向および傾斜量を変更することができる。
【0059】
入射方向決定装置10は、駆動制御部4を有することによって、例えばチャネリング条件を満足し、背景が最も暗くなるよう、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変更することが可能になる。
【0060】
図10に示すように、本発明の他の実施形態に係る入射方向決定装置10は、荷電粒子線装置100に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う測定指示部5をさらに備えてもよい。
【0061】
測定指示部5を有する場合においては、駆動制御部4は、チャネリング近傍状態から、入射方向および結晶面aの法線方向の両方に交差する方向を回転軸として、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ入射方向を変化させる。具体的には、駆動制御部4は、例えば、結晶方位図を参照しながら入射方向が(200)のチャネリング条件近傍とオペレータによって判断された状態から、(200)の法線方向に垂直な方向を回転軸として、0.2°間隔で2.4°の範囲で入射方向を変化させる。
【0062】
そして、測定指示部5は、入射方向が所定間隔変化されるごとに、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う。すなわち、上記の例では、入射方向が(200)のチャネリング条件近傍から2.4°傾くまでの13の方向において、それぞれ反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う。
【0063】
入射方向決定装置10は、駆動制御部4および測定指示部5を備えることにより、チャネリング近傍状態から所定の角度範囲において、複数の反射電子強度に関する情報を自動で測定するよう制御することが可能となる。
【0064】
[試料台の構成]
本発明の一実施形態に係る試料台は、駆動制御部4からの指示に応じて試料の傾斜方向および傾斜量を変更することが可能な構成を有するものである。荷電粒子線装置に内蔵されている試料台でもよいし、外付けの試料台でもよい。また、荷電粒子線装置に内蔵されている試料台と外付けの試料台とを組み合わせてもよい。
【0065】
[荷電粒子線装置の構成]
本発明の一実施形態に係る荷電粒子線装置100は、入射方向決定装置10および本体部20を備え、本体部20が駆動制御部4からの指示に応じて試料に対する荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するとともに、測定指示部5からの指示に応じて反射電子強度に関する情報を測定することが可能な構成を有するものである。
【0066】
本発明の実施の形態に係る入射方向決定装置を備えた荷電粒子線装置の構成について、さらに具体的に説明する。
【0067】
荷電粒子線装置100としてSEM200を用いる場合を例に説明する。図14は、SEM200の一例を模式的に示した図である。図14に示すように、SEM200は、入射方向決定装置10、表示装置30、入力装置40および本体部210を備える。そして、本体部210は、電子線入射装置220、電子線制御装置230、試料台240、試料台駆動装置250、検出装置260およびFIB入射装置270を備える。
【0068】
電子線入射装置220は、電子源より電子線を引き出し、加速しながら放出する電子銃221と、加速された電子線束を集束するコンデンサレンズ222と、集束された電子線束を試料上の微小領域に収束させる対物レンズ223と、それを含むポールピース224と、電子線束を試料上で走査するための偏向コイル225とから主に構成される。
【0069】
電子線制御装置230は、電子銃制御装置231と、集束レンズ系制御装置232と、対物レンズ系制御装置233と、偏向コイル制御装置235とを含む。なお、電子銃制御装置231は、電子銃221により放出される電子線の加速電圧等を制御する装置であり、集束レンズ系制御装置232は、コンデンサレンズ222により集束される電子線束の開き角等を制御する装置である。
【0070】
試料台240は、試料を支持するためのものであり、試料台駆動装置250により傾斜角度および仮想的な3次元座標上の位置を自在に変更することが可能である。また、検出装置260には、二次電子検出器261、反射電子検出器262および電子後方散乱回折(EBSD)検出器263が含まれる。
【0071】
FIB入射装置270は、試料に対してFIBを入射するための装置である。公知の装置を採用すればよいため、詳細な図示および構造の説明は省略する。図14に示すように、SEM200の内部にFIB入射装置270を備える構成においては、荷電粒子線として、電子線入射装置220から入射される電子線およびFIB入射装置270から入射されるFIBが含まれる。一般的に、FIBの入射方向は、電子線の入射方向に対して、52°、54°または90°傾斜している。なお、SEM200は、FIB入射装置270を備えていなくてもよい。
【0072】
上記の構成においては、二次電子検出器261および反射電子検出器262により、荷電粒子線像が得られ、電子後方散乱回折検出器263によって、結晶の方位情報が得られる。特に、反射電子検出器262によって、反射電子強度に関する情報を測定することが可能である。
【0073】
[装置動作]
次に、本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置の動作について図15~18を用いて説明する。図15は、本発明の一実施形態に係る入射方向決定装置の動作を示すフロー図である。以降に示す実施形態では、SEMを用いる場合を例に説明する。
【0074】
まず前提として、試料表面上でオペレータが選択した位置(以下、「位置D」という。)において、EBSD法を用いたマッピング分析を行う。なお、EBSD法を用いる場合には、試料を元の状態から約70°傾斜させた状態で分析を行う必要がある。分析後、試料の傾斜角度を元の状態に戻す。
【0075】
そして、電子後方散乱回折検出器263が検出した試料表面における結晶の方位情報を試料表面上の仮想的な直交座標系を基準としたオイラー角に変換する。続いて、オイラー角に変換された位置Dにおける方位情報に基づき、図16に示すような菊池マップ(結晶方位図)を得る。
【0076】
その後、オペレータが、表示装置30に表示された菊池マップを観察しながら、入力装置40を用いて荷電粒子線装置を操作し、図17に示されるE点が中心となるよう入射方向を調整する。E点は(-200)のブラッグ角に近い方向であり、かつ、(0-20)とは干渉の影響を受けない程度に十分な角度を成している。
【0077】
上記の状態から、駆動制御部4は、SEM200が備える試料台240に対して、試料台駆動装置250を介して、(-200)の法線方向に垂直な方向を回転軸として、0.2°間隔で2.4°の範囲で入射方向を変化させるよう指示を行う(ステップA1)。
【0078】
そして、測定指示部5は、SEM200が備える反射電子検出器262に対して、入射方向が0.2°間隔で変化されるごとに、反射電子像を測定するよう指示を行う(ステップA2)。
【0079】
その後、強度情報取得部1は、ステップA2での指示により13の入射方向において測定された13個の反射電子像を取得する(ステップA3)。図18に、取得された複数の反射電子像を示す。
【0080】
続いて、決定部2は、上記の反射電子像とそれに対応する入射方向との関係に基づいて、位置Dに存在する結晶D(反射電子像の中心に存在する結晶)が最も暗くなる入射方向を決定する(ステップA4)。図18に示す例では、(-200)から設定された初期の角度から0.2°傾斜した入射方向における反射電子像が最も暗く、チャネリング条件を満足していると判断された。
【0081】
そして、算出部3は、入射方向を、ステップA4によって決定された最も暗くなる入射方向へと変更するのに必要となる傾斜角度量を算出する(ステップA5)。続いて、駆動制御部4は、ステップA5によって算出された傾斜角度量に基づいて、SEM200が備える試料台240に対して、試料台駆動装置250を介して、試料に対する電子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示する(ステップA6)。
【0082】
これにより、チャネリング条件を満足するように、入射方向を高精度で制御することが可能となる。
【0083】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、図15に示すステップA1~A6を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態における入射方向決定装置10を実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、強度情報取得部1、決定部2、算出部3、駆動制御部4および測定指示部5として機能し、処理を行なう。
【0084】
また、本実施の形態におけるプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されてもよい。この場合は、例えば、各コンピュータが、それぞれ、強度情報取得部1、決定部2、算出部3、駆動制御部4および測定指示部5のいずれかとして機能してもよい。
【0085】
ここで、上記の実施形態におけるプログラムを実行することによって、入射方向決定装置10を実現するコンピュータについて図19を用いて説明する。図19は、本発明の実施形態における入射方向決定装置10を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【0086】
図19に示すように、コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)511と、メインメモリ512と、記憶装置513と、入力インターフェイス514と、表示コントローラ515と、データリーダ/ライタ516と、通信インターフェイス517とを備える。これらの各部は、バス521を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ500は、CPU511に加えて、またはCPU511に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていてもよい。
【0087】
CPU511は、記憶装置513に格納された、本実施の形態におけるプログラム(コード)をメインメモリ512に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ512は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置である。また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体520に格納された状態で提供される。なお、本実施の形態におけるプログラムは、通信インターフェイス517を介して接続されたインターネット上で流通するものであってもよい。
【0088】
また、記憶装置513の具体例としては、ハードディスクドライブの他、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。入力インターフェイス514は、CPU511と、キーボードおよびマウスといった入力機器518との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ515は、ディスプレイ装置519と接続され、ディスプレイ装置519での表示を制御する。
【0089】
データリーダ/ライタ516は、CPU511と記録媒体520との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体520からのプログラムの読み出し、およびコンピュータ500における処理結果の記録媒体520への書き込みを実行する。通信インターフェイス517は、CPU511と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0090】
また、記録媒体520の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))およびSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、またはCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0091】
なお、本実施の形態における入射方向決定装置10は、プログラムがインストールされたコンピュータではなく、各部に対応したハードウェアを用いることによっても実現可能である。また、入射方向決定装置10は、一部がプログラムで実現され、残りの部分がハードウェアで実現されていてもよい。さらに、入射方向決定装置10は、クラウドサーバを用いて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、SEM等の荷電粒子線装置において、チャネリング条件等の所望の条件を満足するための荷電粒子線の入射方向を簡便に決定することが可能になる。
【符号の説明】
【0093】
1.強度情報取得部
2.決定部
3.算出部
4.駆動制御部
5.測定指示部
10.入射方向決定装置
20.本体部
30.表示装置
40.入力装置
100.荷電粒子線装置
200.SEM
500.コンピュータ
CB.荷電粒子線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19