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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】合成セグメント
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/08 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
E21D11/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019046025
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2019157622
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018045475
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】今福 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 正整
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316488(JP,A)
【文献】特開2014-088720(JP,A)
【文献】特開2005-281478(JP,A)
【文献】特開2017-106304(JP,A)
【文献】特開2007-285051(JP,A)
【文献】特開2014-088658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートと鋼殻と止水材とを有するトンネル用合成セグメントであって、
前記鋼殻は、前記合成セグメントのトンネルの軸方向側の端面である主桁面と、トンネルの周方向側の端面である継手面で構成される外周面の少なくとも前記合成セグメントの両主桁面における前記トンネル断面の円周方向およびトンネル断面の法線方向に延設され
前記合成セグメントの主桁面および継手面に少なくとも一つの外周止水溝を設け、前記外周止水溝内に外周止水材が配置され、前記鋼殻の前記コンクリートに対する内面側に少なくとも一つの内面止水材が配置され、
前記内面止水材は、前記鋼殻及び前記コンクリートに対する付着性、並びに、前記鋼殻と前記コンクリートとの間の界面における変形に対する追従性を有する、合成セグメント。
【請求項2】
前記内面止水材は、
前記付着性として、前記鋼殻及び前記コンクリートに対して1.5MPa以上の付着力を有し、
前記追従性として、400%以上の破断伸びを有する、
請求項1に記載の合成セグメント。
【請求項3】
前記内面止水材は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリルゴム系樹脂、ポリブタジエンゴム系樹脂、クロロブレンゴム系樹脂、クロロスルホン化ポリエチレン樹脂、樹脂モルタル、繊維補強モルタル、及び、非加硫ブチルゴム、並びに、これらの材料うちのいくつかによる複合材料、のうちの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の合成セグメント。
【請求項4】
前記鋼殻の内面に、前記鋼殻と前記コンクリートとの剥離を防止するための固定材を備える、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項5】
前記鋼殻の内面に、前記鋼殻と前記コンクリートとの間のずれを防止するためのずれ止めを備える、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項6】
前記鋼殻は、前記主桁面と前記継手面とで構成される前記外周面の一部のみに配置されている、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項7】
前記コンクリートのひび割れ強度と、前記内面止水材の弾性反力と、トンネル外部から作用する水圧とが、以下の関係式を満足する、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の合成セグメント。
(コンクリートひび割れ強度)>(内面止水材弾性反力)>(トンネルに作用する水圧)
【請求項8】
前記内面止水材が、前記鋼殻の内面に設けられた内面止水溝内に配置されている請求項1ないし7のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項9】
前記内面止水材の端部と前記外周止水材とが接する状態で配置されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項10】
前記合成セグメントの両主桁面に鋼殻が配置されており、前記鋼殻同士を連結する連結材と、該連結材に当接して鉄筋が配置されている請求項1ないし9のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項11】
前記連結材が、前記鉄筋の地山側と内空側の双方に当接して設けられている請求項10に記載の合成セグメント。
【請求項12】
前記止水材の少なくとも一部が、水膨潤性止水材である請求項1ないし11のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項13】
前記外周止水材が水膨潤性止水材であり、前記内面止水材が非水膨潤性止水材である請求項1ないし12のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【請求項14】
前記合成セグメントの主桁面、継手面のうち、いずれか1つ以上が、凹凸部を有する波型面を具備する前記鋼殻であるとともに、該波型面の凹部が外周止水溝もしくは内面止水溝である請求項1ないし13のいずれか1項に記載の合成セグメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル建設、特にシールド工法によるトンネル建設時に使用されるセグメントに関する。より詳しくは、鋼殻内部にコンクリートを充填した合成セグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルや海底トンネルの他、浅深度地下への新設が難しい都市部の地下道路、鉄道トンネルや下水道トンネル、地下河川トンネル等については、シールドマシンによる掘削を行い、掘り進んだトンネル内にセグメントと呼ばれる断面扇形の部材を縦横に連結して、トンネルを構築していく方法が採用される。
【0003】
トンネル内空間を道路や鉄道として利用する場合においても、また、トンネル内空間を、雨水路や下水道として利用する場合においても、トンネル壁面を境界として、内外面に作用する水圧や土圧に差異があるため、トンネル壁の防水構造は、完成後の漏水対策費や、環境に与える影響を考慮すると、重要な問題である。
【0004】
特に、多数のセグメントを縦横に連結して、トンネル壁を構成するシールドトンネルにおいては、セグメント間の継ぎ目部分(セグメントの継ぎ目)における止水構造が最も重要視されている。
【0005】
シールドトンネルの止水構造は、
(a)セグメントの背面側、即ち地山側に位置する裏込め注入材による防水、
(b)セグメントの継手面に施す防水、及び
(c)トンネルの内側に施す二次覆工による防水、
等がある。
【0006】
裏込め注入材による防水は、シールド掘削時における地山地層の乱れ等を適切な裏込め材の注入により、トンネル構造物に作用する水圧を均等化することを主目的として実施される。
一方、二次覆工による止水は、最近まで最も一般的に実施されているが、二次覆工における打継ぎ目や、覆工施工時の乾燥収縮によるひび割れ等の発生により、長期間に渡って信頼性の高い止水効果を期待することは困難となっている。
【0007】
最近の傾向として、セグメント性能の信頼性が向上したことから二次覆工を省略する場合が多く、したがって、トンネル構造物の防水構造は、トンネル壁面を構成するセグメントの継ぎ目における防水対策を如何に確実に実施できるかに係っているといえる。
【0008】
特許文献1に記載の合成セグメントの製造方法では、コンクリートの周縁部を緻密化するために、該コンクリート打設の際に鋼殻を下に凸状に置く、いわゆる舟打ちに代えて、上に凸状に置く、いわゆる伏せ打ちを採用し、その際、セグメントの地山側中央部に設けたコンクリート充填用孔周囲に止水部材を配置し、鋼殻とコンクリートの境界面における止水性を向上させて、これらの間に水が入るのを防止する方法が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献2に示される技術では、中空枠状に形成された枠部材を有する外殻体と、該外殻体内に形成されたコンクリート製の中詰め部材とが一体化された合成セグメントにおいて、前記枠部材の内周面部に固定された弾性材からなる止水部材を備え、前記枠部材内側面と前記コンクリートとの間を止水部材により止水したことで、外殻体とコンクリートとの間に円弧径方向に作用する強いせん断力に対して高い耐力を発揮すると共に、従来のようなスキンプレートを具備せずとも止水できる構造を安価に製造できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-88658号公報
【文献】特開2014-88720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の技術は何れも、
・止水性能が十分とは言えない。
・水圧とコンクリート強度の双方との関係条件を満足する止水材の弾性反力が不十分となりがちである。
・外殻を構成する鋼殻は止水材の弾性反力を受けて面外に変形し、コンクリートから剥離するために、コンクリートとの間の拘束力が低下することから、腹圧力の作用によって、コンクリートが鋼殻から抜け出てしまい、止水性能やセグメントの力学性能を計算値通りに発揮することができない。
・止水材の弾性反力が不十分の場合、鋼殻によるコンクリートの拘束力に影響を及ぼし、コンクリートが滑動することでコンクリートの損傷が発生しやすい。
・そのため、地下水圧の小さい浅深度トンネルに適用が限定されがちである。
・セグメントに掛る負荷荷重が小さく、均一な、浅深度トンネルや小断面トンネル、或いは円形トンネルに適用が限定され、負荷荷重の大きな大深度トンネルや、トンネル断面部位により、不均一な荷重が作用する非円形トンネルへの適用が困難である、
等の欠点を有している。
【0012】
本発明は、シールドトンネル建設等に使用される合成セグメントの鋼殻とコンクリートとの接合面に高い止水性能を具備するとともに、鋼殻によるコンクリートの拘束力を高めて、鋼殻とコンクリートの一体化を図るとともに、隣接するセグメント間の止水性も同時に向上させることを課題とし、高荷重や不均一な負荷が掛る大深度或いは非円形断面トンネルにも適用可能な合成セグメントを提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、セグメント強度と止水性能を向上させるため、種々の検討を行った結果、
・合成セグメントにおける鋼殻とコンクリートとの異種材料界面の止水性能を高め、
・同時に隣接する合成セグメント同士の接合面における止水性能を高め、
・水圧とコンクリート強度の双方との関係条件を満足する止水材の弾性反力を実現し、
・コンクリートに対する鋼殻の拘束力を高めて、腹圧力の作用によって、コンクリートが鋼殻から抜け出ないようにする、
ことで、優れたセグメント強度と止水性能を発揮できる、との知見に達した。
【0014】
上記知見が実現された本発明に係る合成セグメントは、
・地下水圧の高い大深度トンネルへの適用が可能となり、
・負荷荷重や断面力の大きな大深度トンネルや、大断面トンネル、或いは非円形断面トンネルへの適用が可能となり、
・高い止水性能が長期間期待できるため、トンネルの長寿命化・低維持費化が実現し、
・鋼殻とコンクリートとの拘束力の増大により、地震時のコンクリートのひび割れ、或いは地下河川等のトンネルに作用する内水圧によるひび割れを防止する、
等の効果が期待できるものである。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記に示す通りである。
【0016】
(1)コンクリートと鋼殻と止水材とを有するトンネル用合成セグメントであって、前記鋼殻は、前記合成セグメントのトンネルの軸方向側の端面である主桁面と、トンネルの周方向側の端面である継手面で構成される外周面の少なくとも一部に配置され、前記合成セグメントの主桁面および継手面に少なくとも一つの外周止水溝を設け、前記外周止水溝内に外周止水材が配置され、前記鋼殻の前記コンクリートに対する内面側に少なくとも一つの内面止水材が配置され、前記内面止水材は、前記鋼殻及び前記コンクリートに対する付着性、並びに、前記鋼殻と前記コンクリートとの間の界面における変形に対する追従性を有する、合成セグメント。
【0017】
(2)前記内面止水材は、前記付着性として、前記鋼殻及び前記コンクリートに対して1.5MPa以上の付着力を有し、前記追従性として、400%以上の破断伸びを有する、前記(1)に記載の合成セグメント。
【0018】
(3)前記内面止水材は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリルゴム系樹脂、ポリブタジエンゴム系樹脂、クロロブレンゴム系樹脂、クロロスルホン化ポリエチレン樹脂、樹脂モルタル、繊維補強モルタル、及び、非加硫ブチルゴム、並びに、これらの材料うちのいくつかによる複合材料、のうちの少なくとも1つを含む、前記(1)または(2)に記載の合成セグメント。
【0019】
(4)前記鋼殻の内面に、前記鋼殻と前記コンクリートとの剥離を防止するための固定材を備える、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0020】
(5)前記鋼殻の内面に、前記鋼殻と前記コンクリートとの間のずれを防止するためのずれ止めを備える、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0021】
(6)前記鋼殻は、前記主桁面と前記継手面とで構成される前記外周面の一部のみに配置されている、前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0022】
(7)前記コンクリートのひび割れ強度と、前記内面止水材の弾性反力と、トンネルに作用する水圧とが、以下の関係式を満足することを特徴とする前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の合成セグメント。
(コンクリートひび割れ強度)>(内面止水材弾性反力)>(トンネルに作用する水圧)
【0023】
(8)前記内面止水材が、鋼殻内面に設けられた内面止水溝内に配置されている前記(1)ないし(7)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0024】
(9)前記内面止水材の端部と前記外周止水材とが接する状態で配置されている前記(1)ないし(8)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0025】
(10)前記合成セグメントの両主桁面に鋼殻が配置されており、前記鋼殻同士を連結する連結材と、該連結材に当接して鉄筋が配置されている前記(1)ないし(9)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0026】
(11)前記連結材が、前記鉄筋の地山側と内空側の双方に当接して設けられていることを特徴とする前記(10)に記載の合成セグメント。
【0027】
(12)前記止水材の少なくとも一部が、水膨潤性止水材である前記(1)ないし(11)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0028】
(13)前記外周止水材が水膨潤性止水材であり、前記内面止水材が非水膨潤性止水材である前記(1)ないし(12)のいずれかに記載の合成セグメント。
【0029】
(14)前記合成セグメントの主桁面、継手面のうち、いずれか1つ以上が、凹凸部を有する波型面を具備する前記鋼殻であるとともに、該波型面の凹部が外周止水溝もしくは前記鋼殻内面止水溝である前記(1)ないし(13)のいずれかに記載の合成セグメント。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、鋼殻とコンクリートとの間の水密止水性能や拘束力に優れ、セグメント同士の継ぎ目における止水性能が長期間に亘って継続する、内外面への負荷荷重に対する耐力が大きな合成セグメントに関し、鋼殻とコンクリートの一体性を向上させるだけでなく、隣接合成セグメント間の止水性も向上させることができ、大深度、大断面、非円形断面シールドトンネルへの適用が可能となる合成セグメントを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】セグメントで構築されるトンネルを示す透視図である。
図2】本発明の合成セグメントの主桁面と継手面の全体を鋼殻とした場合の斜視図である。
図3】本発明の合成セグメントの四隅を鋼殻とした場合の斜視図と、鋼殻の拡大図である。
図4】本発明の合成セグメントの主桁面を鋼殻とした場合の概念図である。
図5】本発明の合成セグメントにおける内面止水材と外周止水材の接続構造を示す平面概念図である。
図6】本発明の主桁面同士を連結する連結材と鉄筋との接続構造を示す断面図である。
図7】非膨潤性と膨潤性の止水材にコンクリート打設圧が作用する状態を示す模式図である。
図8】コンクリートひび割れ強度、コンクリート打設圧及び設計水圧の関係を示すグラフである。
図9】主桁面における止水材の膨潤性等を変化させた場合の概念図である。
図10】主桁鋼板、継手鋼板等の接合面に嵌合可能な波型形状を付与した形態の模式図である。
図11図10のA部拡大図である。
図12】固定材及びずれ止めを備える合成セグメントを示す模式図である。
図13】(a)~(e)は合成セグメントの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の合成セグメントは、図1に示すように、複数の合成セグメント1がトンネル断面の軸方向X及びトンネル断面の円周方向Yで連結されることで、トンネル7が構築されるものである。
【0033】
トンネル7は、シールド工法により、地山を掘削して形成された掘削孔に設けられる。図1に示す例では、トンネル断面の円周方向(Y方向)に11基のセグメントを連結することにより、円形断面のセグメントリング70が形成されているが、これに限らず、略角筒形状や楕円断面形状に形成することもできる。セグメントリング70によって、トンネル7の法線外側(Z1方向)の地山と遮断することで、トンネル7の法線内側(Z2方向)にトンネル内空が形成される。
【0034】
図2に示すように、合成セグメントは、トンネル断面の外形を画定する1対の主桁面3、3と、この1対の主桁面の端部同士を連結し、トンネル断面の円周方向に隣接する合成セグメントとの接合面を画定する1対の継手面4、4とで湾曲矩形状に構成されている。
【0035】
本発明においては、合成セグメントの外形を画定する四辺について、鋼材で形成されるか、コンクリート成形面で形成されるかを問わずに、主桁面、或いは継手面と称することとする。
図2に示す形態においては、この合成セグメントの主桁面3と、継手面4のそれぞれを主桁鋼板31、32と、継手鋼板41、42とで形成し、主桁鋼板と継手鋼板で画定される合成セグメント外周面に、該合成セグメントの高さ方向(Z方向)2段に渡って、外周止水溝100が設けられ、止水溝のなかに外周止水材82が設置されている。止水材を止水溝のなかに設置することで止水材が拘束されて止水効果が高まる。同様に内面止水材81も内面止水溝を設けて設置することで止水効果の向上が図れる。
この形態の合成セグメントを製造する場合には、主桁鋼板と継手鋼板で形成された鋼殻6を、トンネル内面側を画定するかまぼこ状の型枠台上に載置すると共に、地山側を画定する型枠で蓋をして、枠内6aにコンクリート60を充填し、矩形状の鋼殻とコンクリートとからなる合成セグメントとしている。なお、鋼殻6は、主桁面3、3および継手面4、4の少なくとも1面に設けられてもよく、その場合には主桁面もしくは継手面を拘束する型枠を用いることでコンクリート60を充填する。なお、内面止水材81はコンクリート打設前に事前に鋼殻6に設置しておき、外周止水材82は型枠の脱型後に設置すればよい。
【0036】
<コンクリートのバリエーションについて>
また、コンクリート60の種類としては、通常のコンクリートの他、無収縮コンクリートや、適宜の膨張材を添加したコンクリートを選択して、コンクリートの充填率の向上を図ってもよい。
【0037】
<鋼殻の形態のバリエーションについて>
上記図2に示した実施形態においては、セグメントの矩形状外面を画定する主桁面と継手面の全部を鋼板で形成したが、他の本発明の実施形態としては、図3に示すように、主桁面と継手面とが接する合成セグメントのコーナー部(四隅部)のみを隅角部鋼板5で形成してもよい。この例では、内面止水材81と外周止水材82は、合成セグメントの高さ方向(Z方向)中央に一重で配置しているものであり、内面止水材81と外周止水材82が隅角部鋼板5の両面の合成セグメントの高さ方向(Z方向)の同じ位置に設けられた内面止水溝101と外周止水溝100内に設置されている。
【0038】
該コーナー部のみを鋼殻製とすることにより、合成セグメントの重量を軽減することが可能となる他、セグメント施工時に、既設のセグメント部分と接触・衝突して割れや欠け等の欠損が生じやすいセグメントのコーナー部の強度向上を図ることができる。さらには、隣接する合成セグメント同士の接合面における止水性能において、最も弱点となるセグメントのコーナー部の止水性能を適切に高めることができる。
【0039】
また、図4(a)に示すように主桁面3のみを、主桁鋼板31、32で形成してもよい。図4(b)にA-A断面を示すように、この例においては、合成セグメント1の厚み方向に2段に渡って外周止水材82と内面止水材81とが合成セグメント1の高さ方向(Z方向)の同じ位置かつ鋼殻内外面に対向して設けられた止水溝100、101のなかにペアで配置しており、鋼殻とコンクリートの境界面の止水性の向上を図るとともに、隣接するセグメントとの間の止水性も同時に向上させている。一方、鋼殻を具備しないコンクリートで形成された継手面には、図4(c)に示すように、前記主桁面3の外周止水材82および内面止水材81とZ方向が同じ位置に設けられた止水溝100に、外周止水材82のみが合成セグメントの厚み方向に2段に配置されている。図4(d)は、主桁面の鋼殻に設けられた止水溝と該溝に配置された止水材の断面拡大図である。
【0040】
一方、合成セグメントの継手面のみに鋼殻を採用することも可能である。
【0041】
いずれの場合においても、鋼殻のコンクリートと接する内面側に内面止水材を設置するとともに、セグメントの外周面においては、鋼殻からなる部分とコンクリートからなる面とに跨って、連続的に形成した外周止水溝100内に外周止水材を設置することで、鋼殻内面とコンクリートとの接合面及び、隣接する合成セグメント同士の接合面における高い止水・防水構造を達成することができる。トンネル外側の地山から作用する水圧は、セグメントリングに作用し、鋼殻内面とコンクリートの接合面に水路を形成しようとする。これに抵抗する止水・防水構造を設けることで水路を遮断することができる一方、隣接する合成セグメント同士の接合面にも同様に水圧が作用する。そのため内面止水材と外周止水材をセグメントの高さ方向(Z方向)の位置を合わせてペアで配置することで、合成セグメントの外周と内面を相乗的に止水・防水することができ、優れたセグメント強度と止水性能を発揮できる。
【0042】
図5(a)に平面図で概念的に示すように、主桁面と継手面の全体を主桁鋼板31、32と継手鋼板41、42で形成した場合には、外周止水材82と同様に、内面止水材81も四辺形をなす環状に連続的に形成することができるが、主桁面或いは継手面のみ、又は隅角部のみを鋼殻で形成する形態においては、これらの部分的な鋼殻端部において、内面止水材81端部をセグメント外縁に向かって延在させて、セグメント外周面の外周止水材82に接するように構成することで、鋼殻内面とコンクリートの接触面における止水性能を向上させることができる。
【0043】
すなわち、主桁鋼板と継手鋼板を用いて、セグメントの外周全体を鋼殻で形成する形態図5(a)を除き、内面止水材81は、主桁鋼板31、32、継手鋼板41、42、或いは隅角部鋼板5で形成された鋼殻の内面にのみ設置され、夫々の鋼板の端部において、セグメント本体外面に向かって延在する端部が矩形状の外周止水材82に接するように構成される。この状態を図5(b)~(d)に示す。
具体的には、図3の拡大図に示すように、内面止水材81の端部を延長して中詰めされたコンクリートにより形成された主桁面と継手面から突出するようにしておき、この突出部分を、後付けの外周止水材82の内側に折り込むようにして、内面止水材81端部が外周止水材82と接するようにしてもよい。
【0044】
この内面止水材81により、主桁鋼板、継手鋼板、或いは隅角部鋼板の内面とコンクリート60との接合面の止水性能が確実なものとなり、経年劣化や地震等による負荷荷重の変化があっても、鋼殻とコンクリートとの接合状態が維持される。
【0045】
主桁鋼板と継手鋼板を用いて、セグメントの外周全体を鋼殻で形成する形態、及び主桁面のみ鋼板で形成する形態、及び継手面のみ鋼板で形成する形態等においては、合成セグメントのコンクリート部分の強度向上と、鋼殻とコンクリートとの付着力を高めるために、主桁鋼板方向に延在する鉄筋と、継手鋼板方向に延在する鉄筋からなる通常の補強鉄筋構造の他、連結材を設置して、セグメント自体の強度向上と、鋼殻とコンクリートとの付着強度を高めることができる。さらに、合成セグメントの地山面や内空面をなす表層近傍に、コンクリート表面のひび割れ防止を目的として、鉄筋等からなる格子状部材等を埋設することもできる。
【0046】
<連結材の適用と鉄筋構造のバリエーションについて>
図6に示す形態においては、主桁鋼板31、32同士をトンネル軸方向に延在する軸方向の連結材61で連結している。図6の(a)~(d)において、左側の図は主桁面に直行する方向の断面図、右側は主桁面に平行な方向の断面図である。
本形態のうち、図6(a)では、上記連結材61のトンネル空間側(Z2方向側)に、これらの連結材と直交する鉄筋64を配置して、トンネル内を満たす雨水等の水圧がセグメントに及ぼす膨張力(コンクリート抜け出し力)に対する抗力を増大している。
【0047】
一方、図6(b)に示す形態では、同様に配置した連結材61の地山側(Z1方向側)に鉄筋64を配置して、地山側からトンネル内空間方向に向かう圧力(腹圧力)に対する耐久力を増大している。
【0048】
さらに、本発明の他の形態においては、図6(c)に示すように、同様に配置した鉄筋64に対して連結材61をトンネル地山側と、トンネル内空間側の双方に、例えば交互に配置して、地山側からの圧力とトンネル内空間を満たす流体等からの内圧の双方に対して、高い耐久力を実現させている。
【0049】
さらに、他の形態においては、図6(d)と、その部分拡大図に示すように、連結材に開口63を形成し、この孔に鉄筋64を貫通させることで、コンクリート抜け出し力と腹圧力の双方に抵抗することができる。さらに、設計厚みの小さい合成セグメントにおいても、密な鉄筋構造を、コンクリート打設への悪影響を抑制しつつ実現することが可能となり、セグメント全体の強度を向上させることができる。なお、開口63に替えて、鉄筋の位置決めや篏合を容易とするための切欠きを設けてもよい。
【0050】
上述した連結材は、トンネル軸方向に延在して、主桁鋼板同士を連結するが、同様の連結材を、1対の継手鋼板間を連結するように配置することもできる。即ち、1対の継手鋼板同士を、円周方向に連結する、主桁鋼板と同様のカーブを備える連結材を配置し、これと直交する鉄筋を各円周方向の連結材のトンネル空間側、地山側、或いはトンネル空間側と地山側の双方に配置するか、或いは連結材に開口を設けて、これに貫通させるか、切欠きを設けてこれに篏合させる形態の何れも、採用することができる。
【0051】
各種連結材と鉄筋との位置関係は、鉄筋の外側、即ち地山側(Z1方向側)に連結材を配置すれば、トンネル内空間を満たす流体圧力等に対して、高い抗力を発揮することができ、鉄筋のトンネル内空間側(Z2方向側)に配置すれば、地山側からの腹圧力に対して高い耐力を発揮できる。また、例えば交互に、双方に配置すれば、トンネル内外面の双方からの圧力に対する高い抗力が期待できる。これらの効力は、トンネルの地山側にスキンプレートを設けず、主桁鋼板と継手鋼板で鋼殻を形成する、いわゆる4面鋼殻セグメントの場合においては、コンクリートがスキンプレートに拘束されていないことから、特に重要になる。
さらに、連結材に設けた開口を貫通させるか、切欠きに篏合させる構造とすれば鉄筋の位置決めや仮固定が容易となる他、鉄筋構造体、ひいては合成セグメントの薄肉化設計が容易となる利点もある。
【0052】
<鋼殻内面の防水構造について>
本発明においては、前述したように、型枠の一部を成す鋼殻の内面、即ち、コンクリートとの接触面側に、必要に応じて内面止水溝を形成しておき、内面止水材を設置して、鋼殻6とコンクリート60との接合面の隙間からの漏水を防止する。止水材を止水溝のなかに設置することで止水材が拘束されて止水効果が高まる。
【0053】
内面側の止水材としては、通常の弾性ゴム製のものの他、適切な膨潤速度を備えた水膨潤性止水材を採用することができるが、防水設計にあたっては、コンクリートのひび割れ強度と、内面溝の止水材の弾性反力、及び合成セグメントにより施工されるトンネルの設計水圧等を勘案して、
(コンクリートひび割れ強度)>(内面止水材弾性反力)>(トンネルに作用する水圧)
の関係が満たされるように、コンクリートの材料特性、止水材の材料特性や寸法仕様等を適切に設定する必要がある。コンクリートひび割れ強度よりも内面止水材の弾性反力が大きい場合においては、内面止水材に接するコンクリートが局所的に過大に支圧され、コンクリートの支圧破壊を起こしてコンクリートにひび割れが発生し、水路が形成されて漏水を引き起こす。内面止水材の弾性反力よりもトンネルに作用する水圧が大きい場合は、止水材の止水効果が不足して漏水を引き起こす。
【0054】
<内面止水材の弾性反力の設定>
鋼殻内周面の内面溝に設置する止水材の弾性反力については、合成セグメントを構成するコンクリートの強度や、トンネルに作用する設計水圧を考慮し、さらには合成セグメントの製造プロセスを考慮して決定する。
即ち、合成セグメントの製造プロセスにおいて、止水材として、水膨潤性の材料を採用した場合、図7に示す様に、内面止水材の弾性反力には、材料の弾性反力に加えて、水分吸収による膨潤圧が加わるところ、止水材はコンクリート打設圧に抗して形状を維持するものの、この膨潤圧は図8に示す様に、時間の経過と共に増大する。また、コンクリートの硬化速度はコンクリートの配合やコンクリートを打設した後の養生方法・養生時間に依存する。それらを勘案の上、コンクリート中の水分による膨潤圧の増大を考慮して、(弾性反力+膨潤圧)が、硬化したコンクリート強度以下に収まるように、止水材の材料特性、大きさ(断面積や形状)等を決定する。
例えば、コンクリートの設計基準強度が42MPa、トンネルに作用する水圧が0.5MPaの場合、コンクリートのひび割れ強度は、支圧強度で評価すると15MPaとなる。従って、内面止水材弾性反力は0.5MPa<弾性反力<15MPaの範囲で設定する必要がある。止水材の材料特性は、材料が圧縮される際の圧縮率や圧縮速度、さらには膨張速度をもとに材質や形状を設定、一般的には止水材の材料特性試験を行い、製造プロセスを満足する特性を確認して設定することが望ましい。一例としては、合成セグメントの製造工程において、コンクリートの打設からコンクリートの初期強度が発現するまで1~2日に対して、止水材の膨張速度をコンクリートの初期強度が発現する速度に応じて調整することで、製造工程中のひび割れ発生を抑えることができる。水密性を高めるために、弾性反力を強く作用させたい場合は、止水材の膨張速度をコンクリートの初期強度が発現する期間よりも長く、かつコンクリートのひび割れ強度よりも小さくなるように設定すると良い。また、コンクリートへの過度の弾性反力を避けるために、圧縮率を40%程度以下にすると良い。止水材の高さは5mm~50mm程度、止水材の厚さは5mm~20mm程度に設定すると良い。
【0055】
<セグメント接合面の防水構造について>
上記内面止水構造と同様に、同鋼板及びコンクリート製の主桁面と継手面の外周面には、外周止水溝が連続的に形成され、この溝内に外周止水材が設置されて、隣接セグメントとの接合面における止水構造を形成している。このように連続的に外周止水溝を設けることによって、水の流路が遮断されて止水性能が向上する。
図2図4に示した例においては、セグメント高さ方向(Z方向)に距離を隔てて、上下2段に外周止水材82を設けて隣接セグメントと接合した際に、シール構造を形成するようにしている。
【0056】
主桁鋼板31、32と継手鋼板41、42との接続部も、溶接等により水密に接合されていること、ひび割れや剥離等の生じやすい鋼殻とコンクリートとの接合面に全周に亘って内面止水材が設置されていること、さらには、合成セグメントの外周面(接合面)に設置された外周止水材によって、セグメント同士の接合面におけるシール構造が設置されていること等により、完成したトンネルの内外面間で、高い止水・防水構造を構築することができる。
【0057】
<内面止水材のバリエーションについて>
本発明に係る合成セグメントを製造する、特に、コンクリートを充填する場合には、セグメント外側面中央を床面に置く、いわゆる舟打ちではなく、セグメントの円周方向両端の継手面を床面に置く、いわゆる伏せ打ちで、コンクリートを充填するのが好ましい。伏せ打ちの場合は、トンネル内面側を画定するかまぼこ状の型枠台上に載置することから、トンネル内面側のコンクリート表面の仕上げ処理が不要となり製造コストが抑えられる。また、伏せ打ちを採用することによって、隣接するセグメントとの継手面を構成する継手面部近傍のコンクリートが高い充填圧により、緻密なものとなり、完成したトンネルの強度向上に寄与する。
【0058】
前述したように、コンクリート打設の際には、鋼殻内面に内面止水材を溝内に配置してコンクリートを充填するが、伏せ打ちした場合、継手面に近い部位の内面止水材は、コンクリートの充填開始後、短時間でコンクリート充填圧を受け始め、充填の進行と共に高い充填圧を受けるのに対して、セグメント本体中央部近傍の内面止水材は、コンクリート充填工程後段の段階で、比較的小さな充填圧を受けることになる。
【0059】
上述した充填圧の不均衡に対応するために、主桁面に沿って配置した内面止水材の性状を、部位によって変化させることができる。
例えば、主桁面に設置する内面止水材に水膨潤性のものを採用する場合、両側の継手面に近い部分の止水材として、膨潤速度が比較的小さなものを採用し、セグメント中央部を、コンクリートに含まれる水分との接触開始が遅いことを鑑みて、相対的に膨潤速度の速い止水材とすることで、主桁面内面に設置された止水材の膨潤の程度を、部位に拘わらず略均一化して、主桁面内面全体に亘って、鋼殻とコンクリートとの間の防水構造を均一なものとすることができる。同様の考え方により、両側の継手面に近い部分の止水材として、膨潤量もしくは膨潤圧が比較的小さなものを採用、セグメント中央部には膨潤量もしくは膨潤圧が比較的大きなものを採用することもできる。
【0060】
前述した実施形態では、異なる止水材として、止水材の膨潤速度に差のある材料を採用したが、他にも、継手面に近い部分を非水膨潤性の素材とし、残りのセグメント中央部を水膨潤性素材とすることで、同様に、膨潤性の有無によって、セグメント全体として、鋼殻とコンクリートとの間の防水性能を高めることができる。
これらの実施形態の概念図を図9に示した。図示した例では、目安として、主桁面の中央1/3と両端各1/3で、膨潤速度の大小や、膨潤性の有無を変化させている。
隣接セグメントとの接合面にはトンネルの水圧が直接作用する。さらにはトンネルに外力が作用することで隣接セグメントの接合面に目違いや目開きが生じる可能性があるので、水圧と隙間に対応するために、外周止水材には水膨潤型の止水材を設けることで、外周面に比べてコンクリートとの隙間が大きくない内面側には非水膨潤型の止水材を採用することで製造コストを抑えることができる。
【0061】
<合成セグメント連結面の形状について>
合成セグメント同士の接合面、即ち、主桁面同士及び継手面同士の連結面については、単なる平板状とするよりも、連結面自体に相互に嵌合可能な形状・構造を採用することで、より強固な連結面とし、セグメント間の水密連結性を高めることができる。同時に鋼殻とコンクリートとの間においては、コンクリートが嵌合の凹凸形状に密実に充填されることで止水性と一体性が同時に高められ、合成セグメントの性能が高められる。
例えば、上記連結面に、図10に示すような波型断面をもつ主桁鋼板31、32を採用することができる。この主桁鋼板は、鋼板の内外面同士で嵌合する形状を有しており、1対の主桁鋼板について、内外面を反転させることにより、1種類の断面形状で相互に嵌合する主桁面を構成するとともに嵌合部に凹凸空間を形成することができるため、合理的であり、製造コストも削減できる。
【0062】
本例においては、合成セグメントの地山側とトンネル空間側とに、それぞれ波型の嵌合凹凸部が設けられ、合成セグメント同士を連結した時に各嵌合凹凸部に2本1対の外周止水材82が設置される。
【0063】
この外周止水材82は、単なる弾性体でも、膨潤性弾性体でもよいが、何れの場合においても、図11に拡大図を示すように、連結面を嵌合した際に、(弾性変形)+(膨潤変形)が可能な空間を形成できるように、その形状及び大きさを決定しなければならない。
【0064】
同様に鋼殻のコンクリートと接する内面部側において、各嵌合凹凸部における凹部はそのまま止水溝として用いることができるので、凹部に内面止水材を配置すれば止水材が拘束されて水密性が高まる。また、凸部はセグメント高さ(Z)方向に対してコンクリートが抜け出すことに抵抗する、ずれ止めとして機能するため、合成セグメントの耐荷性能が飛躍的に向上する。
【0065】
<外面開口孔の防水について>
前記した嵌合凹凸面の他、合成セグメントの四辺を構成する主桁面と継手面には、それぞれ隣接するセグメントと連結するためのボルト締め構造や、その他の嵌合構造が設置される場合がある。
これらの構造を内蔵するために、セグメントの主桁面或いは継手面の表面には開口孔が設置される。
開口孔内には、隣接セグメントとの連結構造自体が配置されており、この部分に水分等が侵入して発錆すると、セグメント連結強度が損なわれ、トンネル自体に強度上、極めて深刻な問題を生じるので、該開口孔の周囲に、内面止水材や外周止水材を環状に設置して、開口孔内への水分侵入を防ぎ、連結継手構造の発錆を防止してもよい。
【0066】
本発明においては、図2に示すように、合成セグメントの地山側に薄鋼板製のスキンプレート9を配置して、合成セグメントの外表面強度と止水性能を高めることもできる。
さらに、該スキンプレートの表面、或いは、スキンプレートを具備しない形態においても、合成セグメントの最外表面に樹脂層を設けて、セグメントの耐摩耗性と止水性能を向上させてもよい。
樹脂層を構成する樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂及びポリウレア樹脂等が適用できるが、何れも、シールドマシンのテーブルブラシによる表面摩耗への対処が必要となる。
【0067】
内面止水材81について補足説明する。内面止水材81は、鋼殻6及びコンクリート60に対する付着性を有する。具体的には、内面止水材81は、付着性として、鋼殻6及びコンクリート60の双方に対して、1.5MPa以上の付着力を有する。内面止水材81がこのような付着性を有することによって、鋼殻とコンクリートとの間の拘束力を増大させることができる。本開示において、「付着力」は、例えば、以下のように測定することができる。付着対象(鋼殻又はコンクリート)の材料で形成された試験片(例えば、平板)に対して、内面止水材を所定の厚さ(例えば、1mm以上)で塗布する。試験片に対して所定の付着面積を有する引張冶具を、付着面積の全体に内面止水材が付着するように、内面止水材を介して試験片に付着させる。試験片から引張冶具を引き離すように、引張冶具を試験片に対して垂直に引っ張る。引っ張りの最中、試験片と引張冶具との間に作用する引張力を公知の測定装置を用いて測定する。試験片から引張冶具が引き離されたときの引張力(N)を上記の付着面積(mm2)で除することによって、「付着力」(N/mm2(=MPa))が測定される。
【0068】
また、内面止水材81は、鋼殻6とコンクリート60との間の界面における変形に対する追従性を有する。本開示において、「鋼殻とコンクリートとの間の界面における変形」とは、鋼殻6とコンクリート60との間の相対変位を意味することができる。また、「追従性」とは、内面止水材が、破断せずに上記の相対変位だけ変形できることを意味することができる。具体的には、内面止水材81は、追従性として、400%以上の破断伸びを有する。内面止水材81がこのような追従性を有することによって、高い止水性能を得ることができる。本開示において、「破断伸び」(%)とは、止水材から作成された試験片(例えば、ダンベル状試験片)を用いて一般的な引張試験を行った際の、破断後の永久伸び(Lu-L0)を原標点距離L0に対する百分率で表したもの、を意味することができる。L0は、試験前に測定する、試験片にしるされた標点距離であり、Luは、破断後に測定する、試験片にしるされた標点距離である。
【0069】
また、内面止水材81は、鋼殻6とコンクリート60との間を液体が通ることを防止するための止水性を有する。このような止水性は、内面止水材81にかかる様々な圧力に耐えるように設計される。
【0070】
上記のような付着力、追従性及び止水性を有する内面止水材81は、様々な材料で形成されることができる。例えば、内面止水材81は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリルゴム系樹脂、ポリブタジエンゴム系樹脂、クロロブレンゴム系樹脂、クロロスルホン化ポリエチレン樹脂、樹脂モルタル、繊維補強モルタル、及び、非加硫ブチルゴム、並びに、これらの材料うちのいくつかによる複合材料(例えば、上記の材料のうちのいくつかの層を積層することによって形成される材料)、のうちの少なくとも1つを含むことができる。また、内面止水材81は、コンクリート60の打設の際に、生コンクリートの水和反応が進行するに従って生コンクリートと接着する性質を有することができる。内面止水材81は、例えば、貼付け可能又は塗布可能な形式であることができる。なお、外周止水材82は、上記のような内面止水材81と同一の材料であってもよい。
【0071】
また、図12は、固定材及びずれ止めを備える合成セグメントを示す模式図である。合成セグメント1は、固定材65と、ずれ止め66と、を備えることができる。固定材65は、鋼殻6(図12では、主桁鋼板31、32)の内面に設けられており、鋼殻6とコンクリート60との剥離を防止するように構成されている。本開示において、「剥離」とは、鋼殻6とコンクリート60とが互いに剥がれ、鋼殻6とコンクリート60との間に隙間が生じることを意味することができる。固定材65は、鋼殻6の内面から突出している。図12では、固定材65は、L字状を呈している。しかしながら、他の実施形態では、固定材65は、例えばT字状等、コンクリート60が鋼殻6から離れることを阻止することができる様々な形状を呈することができる。固定材65は、例えば金属等の様々な材料で形成されることができる。
【0072】
ずれ止め66は、鋼殻6の内面に設けられており、鋼殻6とコンクリート60との間のずれを防止するように構成されている。本開示において、「ずれ」とは、鋼殻6とコンクリート60とが、その間の界面に沿って(Y方向及びZ方向の少なくとも一方に沿って)互いに摺動することを意味することができる。ずれ止め66は、例えば、図12に示されるような、比較的大きな凹凸であってもよい。図12では、Z方向のずれを防止するためのずれ止め66のみが示されているが、紙面垂直方向に沿ってY方向のずれを防止するためのずれ止め(不図示)が設けられていてもよい。また、他の実施形態では、ずれ止め66は、例えばブラスト加工等の粗面加工によって得られるような凹凸であってもよい。
【0073】
次に、上記のような合成セグメント1の製造方法について説明する。
【0074】
図13の(a)~(e)は、合成セグメントの製造方法を示す模式図である。本実施形態では、図4に示されるような、主桁面3にのみ鋼殻6を有している合成セグメント1について説明する。したがって、鋼殻6は、主桁鋼板31、32のみを有する。
【0075】
図13(a)は、主桁鋼板31、32の内面を示している。本製造方法では、先ず、主桁鋼板31、32の内面に、少なくとも一つ(本実施形態では2つ)の内面止水材81を配置する。具体的には、内面止水溝101内に内面止水材81を貼り付ける。内面止水溝101内に内面止水材81を貼り付けることによって、主桁鋼板31、32とコンクリート60との間に液体が通過可能な通路が形成されることを、より確実に防止することができる。また、内面止水材81は、後述する外周止水材82と接続されるように、主桁鋼板31、32の継手面側の端部(図13(a)において左右の端部)まで十分に貼り付けられる。
【0076】
図13(b)(c)(d)は、合成セグメント1の高さ方向Z及び円周方向Yに沿った模式的な断面図である。図13(b)を参照して、本製造方法では、続いて、打設型枠20の上面22上に主桁鋼板31、32を互いに対向するように設置する。なお、図13(b)は、一方の主桁鋼板31のみが示されていることに留意されたい(図13(c)(d)も同様)。具体的には、本実施形態では、打設型枠20の上面22は、合成セグメント1の内空側の面と接触するように構成されており、したがって、上面22は凸状の円弧面形状を呈している。これにより、合成セグメント1の製造中、打設型枠20は、合成セグメント1が上に凸に(逆舟形状に)保持されるように、かつ、合成セグメント1の四隅が水平に並ぶように合成セグメント1を支持することができる(いわゆる、伏せ打ち)。また、上記のように、本実施形態では鋼殻6が主桁鋼板31、32のみを有するため、コンクリート60が充填される空間を画定すべく、打設型枠20の上面22上に補助型枠21、21を互いに対向するように配置する。各補助型枠21は、主桁鋼板31、32の対応する端部を連結するように配置される。なお、例えば、図3に示されるような、合成セグメント1の四隅にのみ鋼殻6(隅角部鋼板5)が配置される実施形態では、隅角部鋼板5、5同士の間を埋めるように、各主桁面3及び各継手面4に補助型枠21を配置することができる。また、例えば、図2に示されるような、主桁面3及び継手面4の全周に亘って鋼殻6が配置される実施形態では、図13(b)に示される補助型枠21、21は不要である。このように、当業者であれば、鋼殻6の形態に応じて、必要な補助型枠21を配置することができることを理解可能である。
【0077】
図13(c)を参照して、続いて、鋼殻6(主桁鋼板31、32)の内側に鉄筋64及び連結材61を設置する。連結材61は、例えば、溶接等の公知の固定手段によって主桁鋼板31、32に固定されてもよい。鉄筋64は、例えば、図6(d)に示されるように、連結材61に設けられた開口63を通して配置されてもよい。図13(c)を参照して、続いて、主桁鋼板31、32及び補助型枠21、21で囲われる空間を上方から塞ぐように、養生材23を、主桁鋼板31、32及び補助型枠21、21の上端に配置する。スキンプレート9が使用される場合には、養生材23に代えてスキンプレート9が配置されてもよい。
【0078】
図13(d)を参照して、続いて、養生材23の中央部に設けられた開口24から生コンクリートを挿入し、打設型枠20、主桁鋼板31、32、補助型枠21、21及び養生材23によって画定される空間に生コンクリートを充填する。これによって、コンクリート60が打設される。コンクリート60の養生が完了した後に、合成セグメント1を脱型する。なお、養生材23を用いないで生コンクリートを充填してもかまわない。
【0079】
図13(e)は、主桁鋼板31、32の外面を示している。続いて、主桁鋼板31、32の外面に、少なくとも一つ(本実施形態では2つ)の外周止水材82を配置する。具体的には、外周止水溝100内に外周止水材82を貼り付ける。より具体的には、上記のように、本実施形態では合成セグメント1が主桁面3にのみ鋼殻6を有しているため、継手面4はコンクリート60により構成される(例えば図4参照)。したがって、補助型枠21、21には外周止水溝100に対応する凸部が設けられており、継手面4にはコンクリート60に外周止水溝100が前記補助型枠21、21の凸部によって形成されている。また、主桁鋼板31、32の端面にも同様の外周止水溝100が予め形成されている(図示省略)。そして、外周止水溝100内に外周止水材82を配置する。上記のように、内面止水材81が主桁鋼板31、32の継手面側の端部まで十分に貼り付けられているため、外周止水材82は、内面止水材81と接合される。以上のステップによって、合成セグメント1が製造される。
【0080】
当業者であれば、合成セグメント1の製造方法は、上記の順番で実施される必要はなく、技術的に矛盾が生じない限り、他の順番で実施可能であることを理解可能である。例えば、鋼殻6の内面に内面止水材81を配置するステップ(図13(a))と、打設型枠20に鋼殻6を設置するステップ(図13(b))と、鋼殻6に鉄筋64及び連結材61を設置するステップ(図13(c))とは、この順番で実施される必要はなく、異なる順番で実施されてもよい。
【0081】
また、上記の実施形態では、合成セグメント1は、伏せ打ちによって製造されている。伏せ打ちの場合、コンクリート60の内空側の面が打設型枠20の上面22と接触することから、トンネルの内部から視認可能なコンクリート60の内空側の面を平滑に形成することができる。しかしながら、合成セグメント1は、他の打設方法によって製造されてもよい。
【0082】
例えば、合成セグメント1は、舟形打設によって製造されてもよい。この場合、打設型枠20の上面22は、上記の舟形打設とは反対に、合成セグメント1の地山側の面と接触するように構成されており、したがって、上面22は凹状の円弧面形状を呈する。これにより、合成セグメント1の製造中、打設型枠20は、合成セグメント1が下に凸に(舟形状に)保持されるように、かつ、合成セグメント1の四隅が水平に並ぶように合成セグメント1を支持する。他の点は、伏せ打ちと同様であることができる。
【0083】
また、例えば、合成セグメント1は、斜め設置で打設されてもよい。この場合、一方の継手面4を上側に、他方の継手面4を斜め下側にして補助型枠を設置する。内空側の面を斜め上になるように配置し、この面にも打設型枠を設置するとともに、地山側の面を斜め下側になるように打設型枠20を設置して、上記と同様に打設することが出来る。そして、上側の継手面4あるいはその近傍からコンクリートを打設することが出来る。この場合には、流動コンクリートなどを打設することで問題なくコンクリートを打設することが出来る。他の点は伏せ打ちと同様であることが出来る。
【0084】
また、例えば、合成セグメント1は、遠心打設によって製造されてもよい。この場合、
打設型枠20は、例えば、リング状を呈する。打設型枠20は、その内周面にリング状に配置された複数の合成セグメント1を支持し、かつ、複数の合成セグメント1の地山側の面と接触するように構成されている。遠心打設では、鋼殻6の内面に内面止水材81を配置した後に、打設型枠20の内周面に複数の合成セグメント1の鋼殻6をリング状に設置する。また、鋼殻6の形態に応じて、必要な補助型枠21を配置する。この際、必要に応じて鋼殻6の内側に鉄筋64及び連結材61が鋼殻6に設置されていてもよい。続いて、リング状の打設型枠20の中心軸周りに打設型枠20を回転させ、且つ、打設型枠20の内側の所定の位置から、打設型枠20の内周面の所定の位置に向けて生コンクリートを放出する。回転による遠心力によって、各鋼殻6の内側に生コンクリートが充填され、各鋼殻6の内側にコンクリート60が打設される。コンクリート60の養生が完了した後に、打設型枠20の回転を停止し、各合成セグメント1を脱型する。その後、鋼殻6の外周面の外周止水溝100内に外周止水材82を貼り付ける。このような遠心打設の場合、コンクリート60の地山側の面が打設型枠20の内周面と接触することから、コンクリート60の地山側の面を平滑に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る合成セグメントをシールドトンネルの構築に採用すれば、
・地下水圧の高い大深度トンネルへの適用が可能となり、
・負荷荷重や断面力の大きな大深度トンネルや、大断面トンネル、或いは非円形断面トンネルへの適用が可能となり、
・高い止水性能が長期間期待できるため、トンネルの長寿命化が実現し、
・鋼殻とコンクリートとの拘束力の増大により、地震時のコンクリートのひび割れ、或いは地下河川等のトンネルに作用する内水圧によるひび割れを防止する、
等の効果が期待でき、合成セグメントの製造コストも低減できることから、インフラ整備上の初期費用及び維持コストの低減に大いなる効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 :合成セグメント
20 :打設型枠
21 :補助型枠
22 :打設型枠の上面
23 :養生材
24 :養生材の開口
3 :主桁面
31 :一端側主桁鋼板
32 :他端側主桁鋼板
4 :継手面
41 :一端側継手鋼板
42 :他端側継手鋼板
5 :隅角部鋼板
6 :鋼殻
6a :枠内(空間)
60 :コンクリート
61 :連結材
63 :開口
64 :鉄筋
65 :固定材
66 :ずれ止め
7 :トンネル
70 :セグメントリング
8 :止水材
81 :内面止水材
82 :外周止水材
9 :スキンプレート
100 :外周止水溝
101 :内面止水溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13