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特許7215312サイバーフィジカルシステム型加工システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】サイバーフィジカルシステム型加工システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4069 20060101AFI20230124BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20230124BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20230124BHJP
   B24B 51/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G05B19/4069
G05B19/4155 V
B24B5/04
B24B51/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019081193
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020177579
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若園 賀生
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-153907(JP,A)
【文献】特開平3-166055(JP,A)
【文献】特開2019-30218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/416
G05B 19/42 - 19/46
B24B 5/04
B24B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
現実世界に配置され、且つ、工作物を加工する機械本体及び指令値に基づいて前記機械本体を制御する制御装置を備える工作機械と、
前記機械本体及び前記工作物を再現した仮想世界におけるモデルを作動することにより、前記工作物及び前記機械本体における実加工現象を前記仮想世界における仮想加工現象として生成するコンピュータ装置と、
を備え、
前記コンピュータ装置は、
前記工作機械の前記制御装置に通信可能に接続され、
前記実加工現象に関連する値を含む前記指令値を前記制御装置と同期して取得し、
取得した前記指令値に基づいて前記モデルを作動することにより、現在における前記仮想加工現象である現在仮想加工現象を生成し、
前記現在仮想加工現象が前記実加工現象に一致するように前記モデルを構築し、
取得した前記指令値及び生成した前記現在仮想加工現象に基づいて、構築された前記モデルを作動することにより、将来における前記仮想加工現象である将来仮想加工現象を生成し、且つ、
前記将来仮想加工現象に基づいて前記指令値を修正するための最適指令値を前記制御装置に出力するサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項2】
前記コンピュータ装置は、
前記実加工現象に関連する値を含む前記指令値を所定の周期で取得することによって同期する同期部と、
前記同期部により同期した同期時点における前記現在仮想加工現象を取得した前記指令値に基づいて演算することにより生成すると共に、前記同期部により同期した同期時点よりも後の任意時点における前記将来仮想加工現象を、前記指令値に基づいて演算することにより生成する加工現象演算部と、
前記加工現象演算部が生成した前記現在仮想加工現象及び前記将来仮想加工現象に基づき、前記最適指令値を決定すると共に決定した前記最適指令値を前記制御装置に出力する最適指令値決定部と、を有し、
前記制御装置は、
前記最適指令値決定部から出力された前記最適指令値を取得し、且つ、取得した前記最適指令値により修正された前記指令値に基づいて前記機械本体を制御するように構成された請求項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項3】
前記コンピュータ装置は、
前記機械本体の前記実加工現象と前記現在仮想加工現象との間に生じた差異を比較する差異比較部を有し、且つ、
前記同期部は、
前記差異比較部の比較によって前記差異が所定の基準値を満たさない場合に、前記指令値を同期する請求項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項4】
前記コンピュータ装置は、
前記制御装置から前記指令値を取得して更新可能に記憶するデータベースを有し、
前記加工現象演算部は、
前記現在仮想加工現象及び前記将来仮想加工現象を前記データベースに記憶された前記指令値である記憶指令値に基づいて生成し、
前記差異比較部は、
前記制御装置から取得した前記指令値と前記データベースに記憶された前記記憶指令値との間に生じた前記差異を比較し、
前記同期部は、
前記差異比較部の比較によって前記差異が所定の基準値を満たさない場合に、前記指令値を同期する請求項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項5】
前記コンピュータ装置は、
前記加工現象演算部によって演算された前記将来仮想加工現象が予め設定された所定加工現象であるか否かを判定する判定部を有し、
前記最適指令値決定部は、
前記判定部によって前記将来仮想加工現象が前記所定加工現象と異なる場合に、前記最適指令値を決定すると共に前記制御装置に出力する請求項2-4のうちの何れか一項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項6】
前記制御装置に対して、前記指令値を前記コンピュータ装置と同期するように出力する指令値出力部を有する請求項2-5のうちの何れか一項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項7】
前記コンピュータ装置は、
前記加工現象演算部によって演算された前記将来仮想加工現象に基づいて、前記工作物に対する加工品質を推測する機械学習部を有しており、
前記最適指令値決定部は、
前記機械学習部によって推測された前記加工品質に基づいて前記最適指令値を決定すると共に前記制御装置に出力する請求項2-6のうちの何れか一項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項8】
前記機械本体は、
砥石車と、前記砥石車を軸線回りに回転駆動可能に支持する砥石台と、前記工作物を軸線回りに回転駆動可能に支持する主軸台と、を有する研削盤である請求項1-のうちの何れか一項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項9】
前記コンピュータ装置は、
前記仮想世界において、前記砥石車に対応する仮想砥石車と、前記砥石台に対応する仮想砥石台と、前記主軸台に対応する仮想主軸台と、前記工作物に対応する仮想工作物を有する前記モデルを構築するモデル構築部を有する請求項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【請求項10】
前記コンピュータ装置は、
前記現実世界に配置された前記機械本体の前記制御装置とネットワークを介して接続されるクラウドスペースに配置される請求項1-のうちの何れか一項に記載のサイバーフィジカルシステム型加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイバーフィジカルシステム型加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、現実世界に配置された製品等について、コンピュータ装置がデジタルデータに基づいて製品等を仮想世界において再現したモデルを用いて仮想的に将来発生する現象を予測することが可能なサイバーフィジカルシステムが提案されている。一方で、このような製品等に将来発生する現象を予測する装置として、例えば、特開2018-153907号公報に開示された研削加工シミュレーション装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-153907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、サイバーフィジカルシステムでは、コンピュータ装置によって、製品等の状態とサイバー世界上に仮想的に構築されたモデルの状態とを同期させることが可能である。このため、上記従来の研削加工シミュレーション装置に比べて、より高精度に製品等に生じる現象をシミュレーションすることが可能である。
【0005】
即ち、上記従来の研削加工シミュレーション装置では、現実世界における研削加工により時々刻々と変化する機械本体や工作物等の実加工現象を反映することなく、予め設定されている理想的な加工現象に基づいて研削加工シミュレーションを実行する。このため、現実世界において実際に研削盤や工作物に生じる実加工現象を正確にシミュレーションすることが困難になる場合がある。
【0006】
特に、工作機械の分野においては、大量生産される工作物が均一の寸法精度及び性状を有して加工されることが望まれている。従って、工作機械の分野においては、加工において工作物の寸法精度や性状を悪化させるような実加工現象をより正確に予測することにより生成し、工作物の加工精度を向上させることは極めて重要である。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためのなされたものであり、その目的は、現実世界における工作機械及び工作物に生じる実加工現象を仮想世界上にて精度良く生成し、工作機械による工作物の加工精度の向上が可能なサイバーフィジカルシステム型加工システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、現実世界に配置され、且つ、工作物を加工する機械本体及び指令値に基づいて前記機械本体を制御する制御装置を備える工作機械と、
前記機械本体及び前記工作物を再現した仮想世界におけるモデルを作動することにより、前記工作物及び前記機械本体における実加工現象を前記仮想世界における仮想加工現象として生成するコンピュータ装置と、
を備え、
前記コンピュータ装置は、
前記工作機械の前記制御装置に通信可能に接続され、
前記実加工現象に関連する値を含む前記指令値を前記制御装置と同期して取得し、
取得した前記指令値に基づいて前記モデルを作動することにより、現在における前記仮想加工現象である現在仮想加工現象を生成し、
前記現在仮想加工現象が前記実加工現象に一致するように前記モデルを構築し、
取得した前記指令値及び生成した前記現在仮想加工現象に基づいて、構築された前記モデルを作動することにより、将来における前記仮想加工現象である将来仮想加工現象を生成し、且つ、
前記将来仮想加工現象に基づいて前記指令値を修正するための最適指令値を前記制御装置に出力するサイバーフィジカルシステム型加工システムにある。
【0009】
これによれば、コンピュータ装置は、現実世界に配置された工作機械の制御装置と同期して取得した指令値に基づいて将来仮想加工現象を生成することができる。これにより、現実世界に配置された機械本体及び工作物における実加工現象を反映して、より正確に将来仮想加工現象を生成することにより予測することができる。そして、コンピュータ装置は、生成した将来仮想加工現象に基づいて指令値を修正するための最適指令値を工作機械の制御装置に出力することができる。
【0010】
これにより、正確に生成された(予測された)将来仮想加工現象に基づいて指令値を修正することが可能となる。従って、制御装置がコンピュータ装置から繰り返し出力される最適指令値を新たな指令値として取得し、且つ、機械本体を制御することにより、工作物の加工精度を大幅に向上させることができると共に、自律的に工作機械を作動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サイバーフィジカルシステム型加工システムの構成を示す構成図である。
図2図1のコンピュータ装置の構成を示す構成図である。
図3】サイバーフィジカルシステム型加工システムの作動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.サイバーフィジカルシステム型加工システムの概要)
以下、サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System:以下、単に「CPS」とも称呼する。)型加工システムについて、図面を参照しながら説明する。CPS型加工システム(以下、単に「加工システム」とも称呼する。)は、図1に示すように、現実世界に配置された工作機械10として工作物Wを研削加工する機械本体の研削盤11及び制御装置12と、仮想世界に配置されたコンピュータ装置20と、を備えている。
【0013】
(2.研削盤11の構成)
現実世界における機械本体としての研削盤11は、図1に示すように、砥石車111と、砥石台112と、主軸台113と、を備えている。尚、図示を省略するが、研削盤11には、研削点の周辺をクーラントにより冷却する冷却装置が備えられている。研削盤11は、主軸台113により回転駆動される工作物Wの周面に、砥石台112により回転駆動される砥石車111の周面を接触させて、工作物Wの周面を研削する研削加工を行う。
【0014】
砥石車111は、大量の砥粒により円盤状に形成され、砥石台112に砥石軸線Cg回りに回転駆動可能に支持される。砥石台112は、研削盤11の作動を制御する制御装置12からの指令値PIにより、砥石車111を砥石軸線Cg回りに回転させる。又、砥石台112は、制御装置12からの指令値PIにより砥石車111を砥石軸線Cgの方向及び送り方向(X軸線方向)に移動させる。尚、砥石台112に対して主軸台113を送り方向(X軸線方向)に移動させるようにしても良い。主軸台113は、工作物Wを主軸線Cw回りに回転可能に支持し、制御装置12からの指令値PIにより工作物Wを主軸線Cw回りに回転させる。
【0015】
制御装置12は、機械本体である研削盤11の作動を統括的に制御するものであり、具体的には研削盤11を構成する砥石台112及び主軸台113を指令値PIに基づいて制御する。ここで、指令値PIとしては、工作物W(主軸台113)及び砥石車111(砥石台112)の位置や、砥石車111の回転数、主軸台113の主軸(工作物W)の回転速度、切込速度、研削工程(粗研削、精研削及び微研削)の切替タイミング、クーラントの有無、温度、工作物Wの材質、工作物Wの径等である。
【0016】
又、指令値PIは、研削盤11が現実に工作物Wを研削加工する実加工現象に関連する値(パラメータ)も含んでおり、後述する現在仮想加工現象及び将来仮想加工現象の生成に必要な各種パラメータである。ここで、実加工現象は、研削盤11が実際に工作物を研削加工している研削加工状態、具体的に、砥石車111の砥粒の摩耗状態や工作物Wの被研削加工状態(形状や面粗さ等)を含む。
【0017】
これにより、制御装置12は、任意の加工条件に従い、砥石車111と工作物Wとの相対位置や砥石車111の回転数及び工作物Wの回転速度を制御することにより、研削盤11が工作物Wに研削加工を施す。そして、制御装置12は、指令値PIをコンピュータ装置20に出力する。又、制御装置12は、後述するコンピュータ装置20の最適指令値決定部26から出力された最適指令値PKを取得し、且つ、取得した最適指令値PKを用いて研削盤11を制御する。
【0018】
(3.コンピュータ装置20の構成)
仮想世界(サイバー世界)に配置されたコンピュータ装置20は、CPU、ROM、RAM、インターフェース、記憶装置等を備え、ネットワークを介して現実世界の研削盤11の制御装置12と接続されている。ここで、コンピュータ装置20は、制御装置12がネットワークを介して接続可能な、所謂、クラウドスペースに配置される。
【0019】
コンピュータ装置20は、研削盤11の制御装置12から指令値PIを同期して取得し、取得した指令値PIに基づいて実加工現象を仮想世界における仮想加工現象として生成する。そして、コンピュータ装置20は、取得した指令値PIに基づいて現在における仮想加工現象である現在仮想加工現象を生成すると共に将来における仮想加工現象である将来仮想加工現象を生成する。そして、コンピュータ装置20は、将来仮想加工現象に基づいて指令値PIを修正するための最適指令値PKを制御装置12に出力する。
【0020】
ここで、現在仮想加工現象は、機械本体である研削盤11及び工作物Wの実加工現象に対応する。将来仮想加工現象は、加工(研削加工)によって、機械本体である研削盤11及び工作物Wに将来生じる現象(状態)である。
【0021】
コンピュータ装置20は、図2に示すように、同期部21と、モデル構築部22と、加工現象演算部23と、差異比較部24と、判定部25と、最適指令値決定部26と、データベース27と、を備えている。
【0022】
同期部21は、制御装置12から所定の周期で指令値PIを取得することにより、前回の周期で取得した指令値PIを現在の指令値PI(特に、実加工現象に関連するパラメータ)と同期する。又、同期部21は、制御装置12から取得した指令値PIをデータベース27に更新可能に記憶する。
【0023】
モデル構築部22は、現実世界に設置された研削盤11及び工作物Wをコンピュータ上で生成してモデルを構築する。具体的に、モデル構築部22は、研削盤11の砥石車111に対応する仮想砥石車、砥石台112に対応する仮想砥石台、主軸台113に対応する仮想主軸台及び工作物Wに対応する仮想工作物を再現したモデルを構築する。
【0024】
モデル構築部22は、仮想砥石車、仮想砥石台、仮想主軸台及び仮想工作物が砥石車111、砥石台112、主軸台113及び工作物Wの状態と一致、即ち、現在仮想加工現象が実加工現象と一致するように、モデルを構築する。尚、モデル構築部22は、研削盤11及び工作物Wを再現したモデルに加えて、例えば、機械挙動を再現した機械挙動モデルや、静圧状態における研削盤11の加工状態を再現した静圧制御モデル、或いは、研削盤11の加工状態を計測する計測モデル等を構築することも可能である。
【0025】
加工現象演算部23は、同期部21により同期した同期時点よりも後の任意時点における将来仮想加工現象を、指令値PIに基づいて演算することにより生成する。又、加工現象演算部23は、データベース27に更新可能に記憶された指令値PIである記憶指令値PHに基づいて将来仮想加工現象を生成する。
【0026】
又、加工現象演算部23は、同期部21により同期された指令値PI又はデータベース27に記憶された記憶指令値PHに基づいて、モデル構築部22によって再現されたモデルを作動させて現在仮想加工現象を生成する。そして、加工現象演算部23は、生成した現在仮想加工現象に基づいて将来仮想加工現象を生成する。
【0027】
具体的に、加工現象演算部23は、指令値PI又は現在仮想加工現象に基づいて、数値解析やシミュレーション等の演算を行い、将来仮想加工現象を生成する。これにより、加工現象演算部23は、研削盤11及び工作物Wにおいて時々刻々と変化する実加工現象を反映した将来仮想加工現象を生成することができる。そして、加工現象演算部23は、将来仮想加工現象を生じさせる場合の仮想指令値PIを記憶指令値PHとしてデータベース27に出力する。これにより、データベース27は、仮想指令値PIを記憶指令値PHとして更新して記憶する。
【0028】
差異比較部24は、制御装置12から取得した指令値PIとデータベース27に記憶された記憶指令値PH即ち仮想指令値PIとの間に生じた差異を比較する。又、差異比較部24は、研削盤11の実加工現象と現在仮想加工現象との間に生じた差異を比較する。そして、差異比較部24の比較によって差異が所定の基準値を満たさない場合には、同期部21は、記憶指令値PHを制御装置12から取得した指令値PIに同期させる。
【0029】
判定部25は、加工現象演算部23によって演算された将来仮想加工現象が予め設定された所定加工現象であるか否かを判定する。判定部25は、将来仮想加工現象として、例えば、研削加工によって研削された仮想工作物(工作物W)の寸法や、研削加工によって研削された仮想工作物(工作物W)の研削焼けの有無或いは面粗さ等を、これらについて予め設定された基準である所定加工現象と比較する。
【0030】
最適指令値決定部26は、加工現象演算部23が生成した将来仮想加工現象に基づき、指令値PIを修正する(較正する)ための最適指令値PKを決定すると共に決定した最適指令値PKを制御装置12に出力する。具体的に、最適指令値決定部26は、判定部25によって将来仮想加工現象が所定加工現象と異なる場合、例えば、仮想工作物(工作物W)の研削焼けの発生や、仮想砥石台(砥石台112)及び仮想主軸台(主軸台113)の軸受の寿命、その他の異常に応じて、最適指令値PKを決定すると共に制御装置12に出力する。
【0031】
この場合、最適指令値PKは、例えば、仮想砥石車(砥石車111)の回転数を増加させたり、仮想工作物(工作物W)の回転速度を低減したりするように決定される。そして、最適指令値決定部26は、決定した最適指令値PKを制御装置12に出力する。これにより、制御装置12は、最適指令値PKに従って、例えば、仮想砥石車(砥石車111)の回転数を増加したり、仮想工作物(工作物W)の回転速度を低減したりして、実加工現象において研削焼け等の発生を防止する。そして、制御装置12が最適指令値PKを新たな指令値PIとしてコンピュータ装置20に出力することにより、コンピュータ装置20は新たな指令値PIを入力して現実世界の研削盤11と同期する。
【0032】
ここで、最適指令値決定部26は、例えば、研削加工された工作物Wの品質に関連する場合には、次回に工作物Wを研削加工する際に出力される。一方、最適指令値決定部26は、例えば、研削盤11の機械的な異常である場合、異常が重大であれば直ちに出力されて研削盤11の作動が停止され、異常が軽度であれば次回に工作物Wを研削加工する際に出力される。
【0033】
(4.CPS型加工システムの作動)
次に、現実世界に配置された機械本体である研削盤11及び制御装置12と、仮想世界に配置されたコンピュータ装置20を備えたCPS型加工システムの作動について、図3に基づいて説明する。CPS型加工システム(研削加工システム)においては、オペレータは、先ず、加工条件として、例えば、工程ごとの切込量、砥石車111の回転数、研削工程の切替タイミング、主軸台113(工作物W)の回転速度、工作物Wの情報を制御装置12に入力する。これにより、制御装置12は、指令値PI(NCプログラム)を生成すると共に、ネットワークを介して指令値PIをコンピュータ装置20に出力する。尚、指令値PIには、研削盤11の諸元に関する各種データ、具体的に、砥石車111の径データや、砥石台112及び主軸台113のX軸方向、Y軸方向の座標データ、工作物Wの形状データ等を含むことができる。
【0034】
コンピュータ装置20においては、制御装置12から指令値PIを同期して取得し、取得した指令値PIをデータベース27に記憶指令値PHとして記憶する。尚、この場合、コンピュータ装置20は、取得した指令値PIをデータベース27に記憶することなく、モデル構築部22及び加工現象演算部23に出力しても良い。
【0035】
モデル構築部22は、データベース27に記憶された記憶指令値PH又は制御装置12から取得した指令値PI、具体的には、研削盤11の諸元に関する各種データに基づき、仮想砥石車、仮想砥石台、仮想主軸台及び仮想工作物をコンピュータ上(サイバー空間)に生成する。これにより、モデルは、研削盤11と同一の諸元を有して生成される。
【0036】
そして、制御装置12が研削盤11を制御して研削加工を開始させるのと同期して、コンピュータ装置20は仮想的に研削加工を開始する。具体的に、現実世界の研削盤11においては、制御装置12が指令値PIに基づき、砥石車111、砥石台112及び主軸台113を作動させて工作物Wを研削加工する。
【0037】
一方、コンピュータ装置20においては、加工現象演算部23が、制御装置12から取得した指令値PI又はデータベース27に記憶された記憶指令値PHに基づき、研削盤11による実加工現象を現在仮想加工現象として生成する。ここで、生成される現在仮想加工現象は、実加工現象と同期した状態で生成される。
【0038】
そして、加工現象演算部23は、現在仮想加工現象に基づいて将来仮想加工現象を生成する。尚、この場合、加工現象演算部23は、現在仮想加工現象を生成することを省略して、制御装置12から取得した指令値PI又はデータベース27に記憶されている記憶指令値PHに基づいて将来仮想加工現象を生成しても良い。
【0039】
加工現象演算部23は、モデル構築部22によって構築されたモデルをコンピュータ上で作動させた状態で研削加工についてのシミュレーションを実行したり、指令値PIをもちいて数値演算することにより、将来仮想加工現象を生成する。例えば、加工現象演算部23は、仮想工作物(即ち、同期して作動している研削盤11によって研削加工される工作物W)の焼け深さを算出することにより、将来仮想加工現象である研削焼けの有無をシミュレーションや数値演算する。
【0040】
加工現象演算部23がシミュレーションを実行している最中も、現実世界の研削盤11は継続して工作物Wに研削加工を施している。このため、コンピュータ装置20の同期部21は、所定の周期で制御装置12から指令値PIを取得する。或いは、データベース27が記憶指令値PHを記憶している場合には、差異比較部24が制御装置12から取得した指令値PI即ち実加工現象と記憶指令値PH即ち現在仮想加工現象との間に生じた差異を比較する。そして、差異が所定基準値よりも大きい場合、同期部21はデータベース27に記憶されている記憶指令値PHを制御装置12から取得した指令値PIに更新する。
【0041】
これにより、モデル構築部22は研削盤11を同期したモデルを繰り返し生成することができ、加工現象演算部23は実加工現象に同期した現在仮想加工現象又は同期した指令値PIに基づき将来仮想加工現象を演算して生成することができる。
【0042】
コンピュータ装置20においては、判定部25が、将来仮想加工現象が所定加工現象(例えば、研削焼けが発生していない加工現象)であるか否かを判定する。判定部25により、将来仮想加工現象が所定加工現象でない、即ち、将来仮想加工現象において研削焼けが発生することが予測される場合には、最適指令値決定部26は、予測される研削焼けの発生が抑制されるように最適指令値PKを決定する。
【0043】
そして、最適指令値決定部26は、決定した最適指令値PKをネットワークを介して制御装置12に出力する。制御装置12は、コンピュータ装置20の最適指令値決定部26から最適指令値PKを取得する。そして、制御装置12は、最適指令値PKを用いて指令値PIを修正して研削盤11を制御する。
【0044】
ここで、コンピュータ装置20の加工現象演算部23は、将来仮想加工現象として、例えば、研削加工におけるびびりの発生や面粗さが悪化する加工現象もシミュレーション又は数値演算によって生成する(予測する)ことができる。又、判定部25は、びびりの発生しない又は面粗さが悪化しない加工現象を所定加工現象とし、将来仮想加工現象が所定加工現象であるか否かを判定することができる。
【0045】
これにより、判定部25により、将来仮想加工現象が所定加工現象でない、即ち、将来仮想加工現象においてびびりの発生や面粗さが悪化することが予測される場合には、最適指令値決定部26は、予測されるびびりの発生や面粗さの悪化が抑制されるように最適指令値PKを決定する。
【0046】
この場合、最適指令値決定部26は、例えば、仮想砥石車(砥石車111)の砥粒の摩耗状態や仮想砥石台(砥石台112)及び仮想主軸台(主軸台113)の回転数を修正するための最適指令値PKを決定して、制御装置12に出力する。尚、びびりの発生や面粗さの悪化が予測される場合には機械的な異常である可能性があるため、最適指令値決定部26は、例えば、研削盤11の作動を停止させる最適指令値PKを出力することも可能である。又、機械的な異常である軸受の寿命が予測される場合、最適指令値決定部26は、例えば、研削盤11の製造メーカに対して軸受の点検や交換を依頼するメンテナンス情報をネットワークを介して接続された製造メーカの外部端末装置に出力することも可能である。
【0047】
以上の説明からも理解できるように、サイバーフィジカルシステム型加工システムによれば、コンピュータ装置20は、現実世界に配置された工作機械10の制御装置12と同期して取得した指令値PIに基づいて将来仮想加工現象を生成することができる。これにより、現実世界に配置された研削盤11及び工作物Wにおける実加工現象を反映して、より正確に将来仮想加工現象を生成することにより予測することができる。そして、コンピュータ装置20は、生成した将来仮想加工現象に基づいて指令値PIを修正するための最適指令値PKを工作機械10の制御装置12に出力することができる。
【0048】
これにより、正確に生成された(予測された)将来仮想加工現象に基づいて指令値PIを修正することが可能となる。従って、制御装置12がコンピュータ装置20から繰り返し出力される最適指令値PKを新たな指令値PIとして取得し、且つ、研削盤11を制御することにより、工作物Wの加工精度を大幅に向上させることができると共に、自律的に指令値PIを修正して工作機械10を作動させることが可能となる。
【0049】
(5.第一変形例)
上記実施形態のコンピュータ装置20においては、加工現象演算部23及び判定部25が協働して将来仮想加工現象を予測し、最適指令値決定部26が最適指令値PKを決定するようにした。これに加えて、コンピュータ装置20が、図2にて破線により示すように、機械学習部28を有し、工作物Wに対する加工品質に関連する最適指令値PKを決定する場合には、機械学習部28が最適指令値PKを決定するように構成することも可能である。以下、第一変形例を説明する。
【0050】
機械学習部28は、加工現象演算部23によって演算された将来仮想加工現象に基づいて、工作物Wに対する加工品質を推測する。機械学習部28は、周知の機械学習技術(具体的には、機械学習プログラム)に基づき、将来仮想加工現象及び仮想工作物の加工品質を訓練データセットとして学習する。これにより、例えば、データベース27に体系化して蓄積される将来仮想加工現象及び加工品質に関する情報量を増やすことができる。その結果、研削盤11によって研削加工される工作物Wの加工品質を向上させることができる。
【0051】
(6.第二変形例)
上記実施形態においては、工作機械の制御装置12がコンピュータ装置20に指令値PIを出力するように実施した。これにより、制御装置12が研削盤11を制御することに対して、同期して、コンピュータ装置20は、将来仮想加工現象を演算して生成するようにした。
【0052】
これに加えて、図1にて破線により示すように、例えば、オペレータによって操作される指令値出力部13を設けることも可能である。指令値出力部13は、制御装置12に対して、指令値PIをコンピュータ装置20と同期するように出力することができる。従って、オペレータは、例えば、研削盤11による工作物Wに対する加工品質の良否を判定する場合等、コンピュータ装置20による将来仮想加工現象の演算が必要な場合に、指令値出力部13を操作してコンピュータ装置20に出力値を出力することができる。
【0053】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び上記各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0054】
例えば、上記実施形態においては、機械本体が研削盤11であるとした。しかしながら、機械本体としては、研削盤11に限定されるものではなく、他の工作機械、例えば、切削加工機や旋盤等を採用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
10…工作機械、11…研削(機械本体)、111…砥石車、112…砥石台、113…主軸台、12…制御装置、13…指令値出力部、20…コンピュータ装置、21…同期部、22…モデル構築部、23…加工現象演算部、24…差異比較部、25…判定部、26…最適指令値決定部、27…データベース、28…機械学習部、W…工作物、PI…指令値、PH…記憶指令値、PK…最適指令値
図1
図2
図3