(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】比導電率の測定方法、比導電率の演算プログラム及び比導電率の測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 22/00 20060101AFI20230124BHJP
G01R 27/02 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G01N22/00 Y
G01N22/00 V
G01N22/00 T
G01R27/02 R
(21)【出願番号】P 2019082284
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2022-01-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 2018 Asia-Pacific Microwave Conference 開催日 平成30年11月6日 開催場所 国立京都国際会館(京都府京都市左京区)
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一生
(72)【発明者】
【氏名】松井 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】長楽 公平
(72)【発明者】
【氏名】安陪 光紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 禧夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 創太郎
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-284540(JP,A)
【文献】特開2000-046756(JP,A)
【文献】特開2016-015375(JP,A)
【文献】特開2001-255346(JP,A)
【文献】特開平11-014558(JP,A)
【文献】Microwave Measurement of Dielectric Properties of Low-Loss Materials by the Dielectric Rod Resonator Method,IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES,1985年07月,VOL. MTT-33, NO. 7,pp. 586-592
【文献】平衡形円板共振器による複素誘電率測定法,電子通信学会技術研究報告マイクロ波,1975年,pp. 27-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-G01N 22/04
G01R 27/00-G01R 27/32
G01R 29/00-G01R 29/26
H01P 1/20-H01P 1/219
H01P 7/00-H01P 7/10
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の銅箔と、前記銅箔の両面側に配置され、前記銅箔を挟む第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板と、中心部にそれぞれ孔を有すると共に、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板の中心に一致させて前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を両側から挟む第1の導体平板及び第2の導体平板と、前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板がそれぞれ有する前記孔内にそれぞれ配置された励振線と、を有する共振器に接続された測定器に出力された
周波数と振幅との関係を示す情報に基づいて前記銅箔と前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板の比導電率σ
rを求める比導電率の測定方法であって、
前記測定器を用いて前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を厚さt
1としたとき
の周波数と振幅との関係を示す情報を取得し、処理装置を用いて、前記測定器
を用いて取得された前記周波数と振幅との関係を示す情報から共振周波数f
1及び当該共振周波数f
1に対応する無負荷Q
u1を取得する第1測定工程と、
前記測定器を用いて前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を前記厚さt
1と異なる厚さt
2としたとき
の周波数と振幅との関係を示す情報を取得し、前記処理装置を用いて、前記測定器
を用いて取得された前記周波数と振幅との関係を示す情報から共振周波数f
2及び当該共振周波数f
2に対応する無負荷Q
u2を取得する第2測定工程と、
前記処理装置を用いて、前記共振周波数f
1と、前記無負荷Q
u1と、前記共振周波数f
2及び前記無負荷Q
u2とを含む演算式に基づいて前記比導電率σ
rを求める演算工程と、
を、
含む比導電率の測定方法。
【請求項2】
前記演算工程は、次式(1)に基づいて比導電率σ
rを算出する請求項1に記載の比導電率の測定方法。
式(1)
但し、
とする。
【請求項3】
前記厚さt
2は前記厚さt
1の2倍であり、前記第2測定工程に用いる前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板は、前記第1測定工程で用いるそれぞれ厚さt
1である第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板をそれぞれ重ねて前記厚さt
2とする請求項1に記載の比導電率の測定方法。
【請求項4】
円形の銅箔と、前記銅箔の両面側に配置され、前記銅箔を挟む第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板と、中心部にそれぞれ孔を有すると共に、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板の中心に一致させて前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を両側から挟む第1の導体平板及び第2の導体平板と、前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板がそれぞれ有する前記孔内にそれぞれ配置された励振線と、を有する共振器に接続された測定器に出力された
周波数と振幅との関係を示す情報に基づいて前記銅箔と前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板の比導電率σ
rを求める比導電率の演算プログラムであって、
前記測定器を用いて取得された前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を厚さt
1としたとき
の周波数と振幅との関係を示す情報から共振周波数f
1及び当該共振周波数f
1に対応する無負荷Q
u1を取得する第1測定工程と、
前記測定器を用いて取得された前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を前記厚さt
1と異なる厚さt
2としたとき
の周波数と振幅との関係を示す情報から共振周波数f
2及び当該共振周波数f
2に対応する無負荷Q
u2を取得する第2測定工程と、
前記共振周波数f
1と、前記無負荷Q
u1と、前記共振周波数f
2及び前記無負荷Q
u2とを含む演算式に基づいて前記比導電率σ
rを求める演算工程と、
を、
処理装置に実行させる比導電率の演算プログラム。
【請求項5】
円形の銅箔と、前記銅箔の両面側に配置され、前記銅箔を挟む第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板と、中心部にそれぞれ孔を有すると共に、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板の中心に一致させて前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を両側から挟む第1の導体平板及び第2の導体平板と、前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板がそれぞれ有する前記孔内にそれぞれ配置された励振線と、を有する共振器に接続され
、前記励振線によって励振したときの周波数と振幅との関係を示す情報を取得する測定器と、
前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板の厚さの値を取得する厚さ取得部と、
前記測定器に出力される
周波数と振幅との関係を示す情報から共振周波数を取得する共振周波数取得部と、
前記測定器に出力される
周波数と振幅との関係を示す情報から無負荷Qの値を取得する無負荷Q取得部と、
前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板が厚さt
1であるときの共振周波数f
1及び当該共振周波数f
1に対応する無負荷Q
u1と、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板が前記厚さt
1と異なる厚さt
2であるときの共振周波数f
2及び当該共振周波数f
2に対応する無負荷Q
u2とを含む演算式に基づいて前記銅箔と前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板の比導電率σ
rを求める演算を行う演算部と、
を、含む比導電率の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比導電率の測定方法、比導電率の演算プログラム及び比導電率の測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、ICT(Information and Communication Technology)機器の通信速度の高速化が求められている。このような流れの中、ICT機器に使用されるプリント基板に用いられる基材自体の伝送損失を改善する低損失化、換言すると、誘電正接tanδの低下が進んでいる。このような事情を背景として、基材となる材料の比誘電率εr、誘電正接tanδ等の誘電特性を正確に測定することが求められている。このような誘電特性を測定する機器として、例えば、特許文献1には、一対の金属板(導体平板)で円板共振シート(銅箔)と試料(基材)を挟んだ状態で測定を行う円板共振器が開示されている。現状において、このような円板共振器による材料の比誘電率εr、誘電正接tanδの測定は、例えば、1GHz程度の周波数帯で行われることが多いが、円板共振器を用いた測定方法自体は、測定すべき周波数領域の拡大や材料の低誘電正接化に対応できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、円板共振器を用いて誘電正接tanδを求めるためには、導体平板及び銅箔の比導電率σrが既知でなければならず、円板共振器を用いて誘電正接tanδを求める際は、予め、この比導電率σrを測定していた。ところが、この比導電率σrは、周波数依存性を有するにも拘わらず、従来、高周波域(例えば、20GHzを超えるような周波数域)における比導電率σrの測定方法が確立されていない。このため、比導電率σrを測定することができない高周波域では、円板共振器を用いた誘電正接tanδの測定値は不正確なものであった。
【0005】
1つの側面では、本明細書開示の発明は、広範囲の周波数域における導体の比導電率σrを測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様は、円形の銅箔と、前記銅箔の両面側に配置され、前記銅箔を挟む第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板と、中心部にそれぞれ孔を有すると共に、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板の中心に一致させて前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を両側から挟む第1の導体平板及び第2の導体平板と、前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板がそれぞれ有する前記孔内にそれぞれ配置された励振線と、を有する共振器に接続された測定器に出力された値に基づいて前記銅箔と前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板の比導電率σrを求める比導電率の測定方法であって、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を厚さt1としたときに前記測定器に出力される共振周波数f1及び当該共振周波数f1に対応する無負荷Qu1を取得する第1測定工程と、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を前記厚さt1と異なる厚さt2としたときに前記測定器に出力される共振周波数f2及び当該共振周波数f2に対応する無負荷Qu2を取得する第2測定工程と、前記共振周波数f1と、前記無負荷Qu1と、前記共振周波数f2及び前記無負荷Qu2とを含む演算式に基づいて前記比導電率σrを求める演算工程と、をコンピュータが実行する比導電率の測定方法である。
【0007】
他の態様は、円形の銅箔と、前記銅箔の両面側に配置され、前記銅箔を挟む第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板と、中心部にそれぞれ孔を有すると共に、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板の中心に一致させて前記第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板を両側から挟む第1の導体平板及び前記第2の導体平板と、前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板がそれぞれ有する前記孔内にそれぞれ配置された励振線と、を有する共振器に接続された測定器に出力された値に基づいて前記銅箔と前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板の比導電率σrを求める比導電率の演算プログラムであって、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を厚さt1としたときに前記測定器に出力される共振周波数f1及び当該共振周波数f1に対応する無負荷Qu1を取得する第1測定工程と、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板を前記厚さt1と異なる厚さt2としたときに前記測定器に出力される共振周波数f2及び当該共振周波数f2に対応する無負荷Qu2を取得する第2測定工程と、前記共振周波数f1と、前記無負荷Qu1と、前記共振周波数f2及び前記無負荷Qu2とを含む演算式に基づいて前記比導電率σrを求める演算工程と、をコンピュータに実行させる比導電率の演算プログラムである。
【0008】
さらに、他の態様は、円形の銅箔と、前記銅箔の両面側に配置され、前記銅箔を挟む第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板と、中心部にそれぞれ孔を有すると共に、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板の中心に一致させて前記第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板を両側から挟む第1の導体平板及び前記第2の導体平板と、前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板がそれぞれ有する前記孔内にそれぞれ配置された励振線と、を有する共振器に接続される測定器と、前記第1の誘電体平板及び第2の誘電体平板の厚さの値を取得する厚さ取得部と、前記測定器に出力される共振周波数を取得する共振周波数取得部と、前記測定器に出力される無負荷Qの値を取得する無負荷Q取得部と、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板が厚さt1であるときの共振周波数f1及び当該共振周波数f1に対応する無負荷Qu1と、前記第1の誘電体平板及び前記第2の誘電体平板が前記厚さt1と異なる厚さt2であるときの共振周波数f2及び当該共振周波数f2に対応する無負荷Qu2とを含む演算式に基づいて前記銅箔と前記第1の導体平板及び前記第2の導体平板の比導電率σrを求める演算を行う演算部と、を含む比導電率の測定システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、広範囲の周波数域における導体の比導電率σrを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は第1実施形態の比導電率の測定システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】
図2は第1実施形態の共振器を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は処理装置のハードウェア構成の概略構成を示す説明図である。
【
図4】
図4は第1実施形態の比導電率の測定システムに含まれる処理装置の機能ブロック図である。
【
図5】
図5(A)は厚さt
1の誘電体平板の側面図であり、
図5(B)は厚さt
2の誘電体平板の側面図である。
【
図6】
図6は第1実施形態の比導電率の測定方法を示すフローチャートの一例である。
【
図7】
図7(A)は厚さt
1の誘電体平板を設置した共振器を模式的に示す断面図であり、
図7(B)は厚さt
2の誘電体平板を設置した共振器を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は第1実施形態における測定器の測定結果の一例を示すグラフである。
【
図9】
図9は第2実施形態の共振器を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。ただし、図面中、各部の寸法、比率等は、実際のものと完全に一致するようには図示されていない場合がある。また、図面によっては、説明の都合上、実際には存在する構成要素が省略されていたり、寸法が実際よりも誇張されて描かれていたりする場合がある。
【0012】
(第1実施形態)
まず、
図1から
図4を参照して、第1実施形態の比導電率の測定方法に実施に用いられる比導電率の測定システム(以下、単に「測定システム」という)の概略構成について説明する。
図1を参照すると測定システム100は、共振器10と、測定器20と処理装置30を含む。
【0013】
図2を参照すると、共振器10は、いわゆる円板共振器である。共振器10は、円形の銅箔11と、この銅箔11の両面側に配置され、銅箔11を挟む第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13を含む。第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13は、複素誘電率(比誘電率ε
r、誘電正接tanδ)の測定対象であって、例えば、基板の素材となる。
【0014】
共振器10は、いずれも純銅製である第1の導体平板14及び第2の導体平板15を含む。第1の導体平板14は中心部に孔14aを有している。第2の導体平板15は中心部に孔15aを有している。第1の導体平板14及び第2の導体平板15は、第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13の中心AXに一致させて第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13を両側から挟むように設置される。
【0015】
共振器10は、第1の導体平板14が有する孔14a内に配置された励振線16aを含む。励振線16aは、ケーブル16内に配置されている。共振器10は、第2の導体平板15が有する孔15a内に配置された励振線17aを含む。励振線17aは、ケーブル17内に配置されている。ケーブル16及びケーブル17は、それぞれ、測定器20に接続されている。
【0016】
本実施形態では、銅箔11と第1の導体平板14及び第2の導体平板15の比導電率σ
rを求める。ここで、比導電率σ
rは、
図2において、太線で示した銅箔11と第1の導体平板14及び第2の導体平板15の表面部分のσ
0に対する比導電率の平均値である。σ
0は万国標準軟銅の導電率であり、σ
0(=58×10
6S/m)である。
【0017】
測定器20は、ネットワークアナライザーであり、所望の周波数を出力し、その出力結果に基づいて、共振器にセットされた第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13の複素誘電率(比誘電率εr、誘電正接tanδ)を測定することができる。
【0018】
処理装置30は、測定器20と電気的に接続されている。
図3を参照すると、処理装置30は、CPU(Central Processing Unit)31、ROM(Read Only Memory)32、RAM(Random Access Memory)33、記憶部(ここではHDD(Hard Disk Drive))34、入出力インタフェース35、可搬型記憶媒体用ドライブ36、表示部39、入力部40等を備えている。これら処理装置30の構成各部は、バス38に接続されている。表示部39は、液晶ディスプレイ等を含み、入力部40は、キーボードやマウス、入力ボタン等を含む。処理装置30では、ROM32あるいはHDD34に格納されているプログラム(演算プログラムを含む)、或いは可搬型記憶媒体用ドライブ36が可搬型記憶媒体37から読み取ったプログラム(演算プログラムを含む)をCPU31が実行することにより、
図4に示す、測定システム100に含まれる処理装置30の各部の機能が実現される。
【0019】
図4は第1実施形態の比導電率の測定システムに含まれる処理装置の機能ブロック図である。処理装置30は、CPU31がプログラムを実行することで、厚さ取得部41、共振周波数取得部42、及び無負荷Q取得部43及び演算部44として機能する。なお、厚さ取得部41は、入力部40を介して入力される第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13の厚さの値を取得する。
【0020】
つぎに、本実施形態の比導電率σrの測定方法について説明する。この測定方法は、実施形態の測定システム100を用い、比導電率の演算プログラムを実行することで行われる。
【0021】
詳細な測定方法について説明する前に、測定方法の概略について説明する。本実施形態では、比導電率σ
rは、以下の式(1)に基づいて求められる。
式(1)
但し、
である。
【0022】
式(1)は、以下の式(2)に式(3)代入することで導出される第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13の異なる厚さ毎の誘電正接tanδを表す式(4)及び式(5)に測定器20の出力値を代入することで得られる。
式(2)
式(3)
式(4)
式(5)
【0023】
共振器10を用い、励振線16a、17aで励振を行うことで、TM0m0モードのみ励振され)、各TM0m0モードの共振周波数f0m0と無負荷Q,Quの測定値から第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13に対して垂直方向の比誘電率εrと誘電正接tanδが求まる。ここで共振周波数は共振ピークにおける周波数の値であり、無負荷Qは、共振ピークより一定値(例えば、3dB)下がった点における共振周波数の幅により求められる負荷Qと、ピークにおける挿入損失の値を用いて求めることができる。次数mが高次になるにつれて共振周波数が上昇するため、1回の測定で複数の周波数帯にわたる複素誘電率の測定が可能である。
【0024】
ここで、tanδは、TM0m0モードの無負荷Q,Quから導体損の影響を差し引いて求められるため、一般的に式(2)によって表すことができる。そして式(2)中のQ
cは、共振器10に含まれる導体である銅箔11、第1の導体平板14及び第2の導体平板15の導体損失によるQ値であり、式(3)で与えられる。式(3)中、tは第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13の厚さ、δ
sは導体の表皮深さを示し、μ
0(=4π×10
-7H/m)は真空中の透磁率を示している。また、σ=σ
0σ
rは導電率を示し、σ
0(=58×10
6S/m)は上述の如く万国標準軟銅の導電率、σ
rは
図2において、太線で示した銅箔11と第1の導体平板14及び第2の導体平板15の表面部分のσ
0に対する比導電率の平均値である。なお、一般的に、周波数が高くなるほど電流は表皮効果によって厚さδ
s程度に導体表面に集中する。このため、比導電率σ
rの実効的な値は導体表面の面粗さなどの影響によって固体の導電率より下がり、かつ周波数依存性を持つ。
【0025】
本実施形態では、
図5(A)に示すように第1の誘電体平板121及び第2の誘電体平板131の厚さをt
1とした場合と、
図5(B)第1の誘電体平板122及び第2の誘電体平板132の厚さをt
2とした場合の測定結果を用いる。具体的に、式(2)及び式(3)に対し、第1の誘電体平板121及び第2の誘電体平板131が厚さt
1であるときの共振周波数f
1及びこの共振周波数f
1に対応する無負荷Q
u1を代入することで、tanδを示す式(4)が得られる。同様に、第1の誘電体平板122及び第2の誘電体平板132が厚さt
2であるときの共振周波数f
2及びこの共振周波数f
2に対応する無負荷Q
u2を代入することで、tanδを示す式(5)が得られる。式(4)が示すtanδと式(5)が示すtanδは、いずれも同一素材である第1の誘電体平板12(121、122)及び第2の誘電体平板13(131、132)のtanδである。また、tanδは、厚さに依存しないため、両者は同値となる。このため、式(4)と式(5)を纏めることにより、式(1)を得ることができる。
【0026】
つぎに、
図6から
図8を参照して比導電率σ
rの測定方法の一例について説明する。厚さの異なる二組の第1の誘電体平板12及び第2の誘電体平板13を準備する。すなわち、厚さがそれぞれt
1である第1の誘電体平板121及び第2の誘電体平板131の組と、厚さがそれぞれt
2である第1の誘電体平板122及び第2の誘電体平板132の組を準備する。厚さt
1及び厚さt
2は、ステップS1において、それぞれ入力部40を介して厚さ取得部41に入力される。これにより、厚さ取得部41は、厚さt
1及び厚さt
2を取得する。なお、厚さt
1及び厚さt
2の値が、既に入力されていたり、記憶されていたりする場合には、取得部41は、これらの値を読み出すことで厚さt
1及び厚さt
2を取得することができる。
【0027】
ステップS1に引き続いて行われるステップS2において、共振周波数取得部42によって共振周波数f
1が取得され、無負荷Q取得部43によって無負荷Q
u1が取得される。共振周波数f
1及び無負荷Q
u1は、
図7(A)に示すように、厚さt
1の第1の誘電体平板121及び第2の誘電体平板131を共振器10にセットした状態で測定することによって得ることができる。
図8は、次数mを順次変化させながらTM
0m0モードの共振波形を観察した測定結果の一例を示している。このような測定結果から共振周波数f
1及び無負荷Q
u1を得ることができる。
【0028】
ステップS3では、共振周波数取得部42によって共振周波数f
2が取得され、無負荷Q取得部43によって無負荷Q
u2が取得される。共振周波数f
2及び無負荷Q
u2は、
図7(B)に示すように、厚さt
2の第1の誘電体平板122及び第2の誘電体平板132を共振器10にセットした状態で測定することによって得ることができる。この場合も、ステップS2と同様に共振周波数f
2及び無負荷Q
u2を得ることができる。なお、ステップS2とステップS3は順番を入れ替えて行ってもよい。
【0029】
ステップS3に引き続いて行うステップS4では、演算部44が比導電率σrを算出する。比導電率σrの算出は、式(1)に厚さt1、共振周波数f1、無負荷Qu1、厚さt2、共振周波数f2、無負荷Qu2を代入することで行われる。
【0030】
本実施形態では、t2>t1としている。一般に縁端効果による補正量ΔRは、誘電体平板の厚さが大きいほど大きくなるため、ΔR1<ΔR2となり、t1に対応する共振周波数f1はt2に対応する共振周波数f2よりもわずかに高くなる。また、誘電体中の蓄積エネルギーは厚さtに正比例するので、厚さt1に対応する無負荷Qu1は厚さt2に対応する無負荷Qu2よりも低い。その一方で、第1の導体平板14及び第2の導体平板15は、共通しているので、導体上を流れる電流は変わらないので比導電率σrは両者で等しくなる。さらに第1の誘電体平板121(122)及び第2の誘電体平板131(321)のtanδは、厚さtに依存しないため両者で等しくなる。
【0031】
これにより、例えば、20HZmを超え、さらには、例えば、110HZmのような高周波域まで、広範囲の周波数域における導体の比導電率σrを測定することができる。
【0032】
このようにして得られたσ0の値を、例えば、式(2)に戻して演算することで、tanδの値を得ることができる。
【0033】
(第2実施形態)
つぎに、
図9を参照して、第2実施形態について説明する。第1実施形態では、第1の誘電体平板121及び第2の誘電体平板131を厚さt
1とし、第1の誘電体平板122及び第2の誘電体平板132を厚さt
2としていた。本実施形態では、ステップS3において共振周波数f
2及び無負荷Q
u2を求める際に、厚さt
1の第1の誘電体平板121を重ねて厚さt
2とし、厚さt
1の第2の誘電体平板131を重ねて厚さt
2とする。
【0034】
二枚の第1の誘電体平板121を重ねる際、及び、二枚の第2の誘電体平板131を重ねる際は、合せ面の間に空隙が生じないように、以下のような処理をする。例えば、誘電体平板表面のほこり等の異物をエアーにより取り除き、異物を挟むことによる空隙発生を減らす。また、誘電体平板表面に徐電器をかけ、静電気による異物付着を防ぐ。反りがある誘電体平板に対しては中心が凸となっている方の面を内側に向けて、凸面同士が接するように重ね、中央部に空隙ができないようにする。また、二枚の第1の誘電体平板121及び二枚の第2の誘電体平板131を共振器10にセットした状態でこれを脱泡器にかけ、空隙を除去する措置も有効である。
【0035】
このようにして求めた共振周波数f2及び無負荷Qu2を式(1)に代入することで、第1実施形態と同様に、広範囲の周波数域における導体の比導電率σrを測定することができる。
【0036】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 共振器
11 銅箔
12、121、122 第1の誘電体平板
13、131、132 第2の誘電体平板
14 第1の導体平板
15 第2の導体平板
16a、17a 励振線
20 測定器
30 処理装置
41 厚さ取得部
42 共振周波数取得部
43 無負荷Q取得部
44 演算部