(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】端部が閉塞された管部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 41/04 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
B21D41/04 C
(21)【出願番号】P 2019107048
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】窪田 紘明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】水村 正昭
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-049544(JP,A)
【文献】特公昭49-016716(JP,B1)
【文献】特開平03-151135(JP,A)
【文献】韓国登録特許第0398609(KR,B1)
【文献】特開2008-173656(JP,A)
【文献】特開昭61-119334(JP,A)
【文献】特開昭61-189838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 41/04
B21K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の端部が閉塞された管部材の製造方法であって、
素材となる金属管の長手方向に、加熱装置、ダイス、ポンチが備えられた成形装置を用い、
前記加熱装置で前記金属管の端部を加熱し、
前記金属管の加熱された領域を前記ダイスで口絞り成形し、
前記ポンチで前記金属管を押し込み、前記金属管の端部を封口する
工程を備え
、
前記金属管の板厚をt
0
(mm)、外径をd
0
(mm)、封口後の外径をd
2
(mm)、増肉予定部の長さをL
2
(mm)としたとき、加熱範囲L
0
(mm)が、
【数1】
を満たす
ことを特徴とする端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱の終了後、前記口絞り成形の前に、加熱された前記金属管を、長手方向に、前記加熱装置に対して相対的に移動することを特徴とする請求項1に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項3】
前記金属管が鋼管であることを特徴とする請求項1又は2に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項4】
前記成形装置は、さらに、前記金属管を保持する金型を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項5】
前記加熱の手段は、高周波誘導加熱、通電加熱、又はガスバーナー加熱であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項6】
前記ポンチの前記金属管と接触する表面が、中央部が前記金属管と反対側に凹んだ凹状であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項7】
前記加熱の終了から、前記口絞り成形の開始までの時間が0.1s以上、32s以下であることを満たすことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項8】
前記金属管の板厚をt
0(mm)、外径をd
0(mm)、前記金属管が加熱される領域の長手方向の長さをL
0(mm)、封口後の管部材の閉塞された端部の外径をd
2(mm)、増肉予定部の長さをL
2(mm)としたとき、
前記ポンチの押し込み量S
t(mm)が、
【数2】
を満たすことを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【請求項9】
前記口絞り成形の開始後、製造された前記管部材が前記ダイスから離脱完了するまでの時間が10s以下であることを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端部が閉塞された管部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばピストンロッドやスタビライザーのような自動車部品には、従来から、中空の管部材が使用されている。これらの管部材は、通常、金属管の端部を閉塞することによって製造される。
【0003】
特許文献1には、円筒体と円筒体に接触した成形用へらを備え、円筒体又は成形用へらを回転させることにより円筒体の端部を外側にしぼり部を出しながら閉塞し、その後、しぼり部を溶断する円筒体の端部閉塞方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、直線状に伸びたパイプ嵌入孔とパイプ嵌入孔の一端開口近傍に形成したパイプ嵌入孔より径の大きい大径穴部を有するダイスと、大径穴部に嵌合可能な円筒状の大径パンチと、大径パンチ内を摺動自在でパイプ嵌入孔に嵌合自在な円柱状の小径パンチを用いて行う加工方法であって、パイプを一端が大径穴部内に所定長さだけ突出するようにパイプ嵌入孔に挿入し、大径パンチを小径パンチと一体にして大径穴部に嵌入させて大径穴部内に突出するパイプの上端を押しつぶし、次いで小径パンチのみを移動させてパイプ嵌入孔に嵌入させパイプの一端を閉塞させる加工方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1には、素管をスウェージング加工装置で加工し、その後加工された部位を加熱装置で加熱し、油圧プレスまたはクランクプレスを使用して、加熱した後軸方向に管を圧縮して端部を閉塞する加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-119334号公報
【文献】特開昭61-189838号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】中村正信著 「パイプ加工法」 日刊工業新聞社 昭和57年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
端部が閉塞された管部材の製造方法において重要な点は、閉塞部が確実に封口されること、及び閉塞部が十分に増肉されることである。そして、自動車部品の製造等に適用する場合、管部材の製造を短時間で行えることがコストの観点から重要となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するための端部が閉塞された管部材の製造方法を鋭意検討し本発明をなした。その要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)少なくとも一方の端部が閉塞された管部材の製造方法であって、素材となる金属管の長手方向に、加熱装置、ダイス、ポンチが備えられた成形装置を用い、前記加熱装置で前記金属管の端部を加熱し、前記金属管の加熱された領域を前記ダイスで口絞り成形し、前記ポンチで前記金属管を押し込み、前記金属管の端部を封口する工程を備えることを特徴とする端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0011】
(2)前記加熱の終了後、前記口絞り成形の前に、加熱された前記金属管を、長手方向に、前記加熱装置に対して相対的に移動することを特徴とする前記(1)の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0012】
(3)前記金属管が鋼管であることを特徴とする前記(1)又は(2)の端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0013】
(4)前記成形装置は、さらに、前記金属管を保持する金型を備えることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかの端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0014】
(5)前記加熱の手段は、高周波誘導加熱、通電加熱、又はガスバーナー加熱であることを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかの端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0015】
(6)前記ポンチの前記金属管と接触する表面が、中央部が前記金属管と反対側に凹んだ凹状であることを特徴とする前記(1)~(5)のいずれかの端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0016】
(7)前記加熱の終了から、前記口絞り成形の開始までの時間が0.1s以上、32s以下であることを満たすことを特徴とする前記(1)~(6)のいずれかの端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0017】
(8)前記金属管の板厚をt
0(mm)、外径をd
0(mm)、封口後の外径をd
2(mm)、増肉予定部の長さをL
2(mm)としたとき、加熱範囲L
0(mm)が、
【数1】
を満たすことを特徴とする前記(1)~(7)のいずれかの端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0018】
(9)前記金属管の板厚をt
0(mm)、外径をd
0(mm)、前記金属管が加熱される領域の長手方向の長さをL
0(mm)、封口後の管部材の閉塞された端部の外径をd
2(mm)、増肉予定部の長さをL
2(mm)としたとき、
前記ポンチの押し込み量S
t(mm)が、
【数2】
を満たすことを特徴とする前記(1)~(8)のいずれかの端部が閉塞された管部材の製造方法。
【0019】
(10)前記口絞り成形の開始後、製造された前記管部材が前記ダイスから離脱完了するまでの時間が10s以下であることを特徴とする前記(1)~(9)のいずれかの端部が閉塞された管部材の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、短時間で、閉塞部が確実に封口され、また、閉塞部が十分に増肉された、端部が閉塞された管部材を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】端部が閉塞された管部材の端部の概略を説明する図である。
【
図2】本発明の製造方法に用いる成形装置の概略を示す図である。
【
図3】本発明の製造方法における好ましい加熱範囲を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の端部が閉塞された管部材の製造方法の実施形態の一例を説明する。
【0023】
本発明の管部材の製造方法は、素材となる金属管の少なくとも一方の端部を閉塞することにより管部材を製造するものである。端部では、
図1に示すように金属管11の中空部12が封口され、中空部の径が小さくなる部分から先端部にかけて、管の板厚が増肉された増肉部13となる。素材となる金属管は、特に限定されるものではないが、本発明は、鋼管を用いた管部材の製造に好適である。
【0024】
本発明の製造方法では、
図2に概略を示すように、素材となる金属管11の長手方向に、加熱装置21、ダイス22、ポンチ23が同軸上に備えられた成形装置を用いる。これにより、加熱後や口絞り成形後に金属管を移動することなく、一連の工程として端部が閉塞された管部材を製造することができる。さらに、金属管11を保持する金型24を設け、金属管11を固定してもよい。
【0025】
製造工程について説明する。
【0026】
はじめに、金属管の端部を加熱装置で加熱する。加熱装置としては、たとえば、IHコイルを使用し高周波誘導加熱することができる。その他、通電加熱やガスバーナー加熱などを使用することができる。この加熱は、次の工程での口絞り成形を行いやすくするためのものであり、条件は特に限定されないが、変形抵抗が下がるオーステナイト域まで加熱するのが目安となる。
【0027】
金属管端部の加熱される領域の長手方向の長さ(以下「加熱範囲」という)が小さすぎると、金属管先端部近傍のみが増肉し、増肉予定部全体(
図1を参照)が増肉しなくなり、また加工力が大きくなる。加熱範囲が大きすぎると、広い範囲が増肉するので、その結果、十分に増肉、封口しなくなる。
【0028】
本発明者らが種々の実験を行った結果、成形前の金属管の板厚をt
0(mm)、外径をd
0(mm)、封口後の外径をd
2(mm)、増肉予定部の長さをL
2(mm)としたとき、加熱範囲L
0(mm)を以下の範囲とすることが好ましい(
図3)。封口については後述する。
【0029】
【0030】
加熱後、IHコイルを加熱部周辺から取り除く。たとえば、半割のコイルを銅ワイヤで接続したIHコイルを用いれば、金属管の長手方向と垂直な面方向にIHコイルを逃し、加熱した領域をダイス22で成形することができる。
【0031】
あるいは、金属管を、長手方向に、IHコイルに対して相対的に移動してもよい。たとえば、
図2でIHコイル(加熱装置21)を下方へ移動させたり、金属管11を上方へ移動させてもよい。移動前にIHコイルへの通電を止めれば、移動後に金属管が加熱されることはない。
【0032】
次に、金属管の加熱した領域をダイス22で口絞り成形する。金属管とダイス22を相対的に移動させ、金属管の加熱領域をダイス22の内部に進入させる。これにより、ダイス22の内部の形状に沿って、金属管が口絞り成形される。本発明の管部材の製造方法では、金属管を加熱した後、直ちに成形を行うため、熱間で、金属管の変形抵抗が十分に低い状態で成形がされる。
【0033】
金属管を加熱すると、外表面近傍の発熱が最も大きくなり、板厚方向に熱を伝導するために一定の時間が必要である。そのため、加熱終了後0.1s以上経過後に加工を開始するのが好ましい。また、加工開始までのあいだに金属管が空冷(放冷)により冷却されると、金属管の変形抵抗が上昇し、加工が難しくなる。そのため、加工開始までの時間は32s以下とするのが好ましい。
【0034】
なお、金属管の加熱されていない領域は温度が低い、すなわち硬いので、単にダイスを金属管に押し込んでも座屈することはない。
【0035】
ダイス22を加熱し、金型24を冷却してもよい。また、ダイスの内部の形状は、
図1に示すような1段階のテーパー形状でもよく、多段のテーパーを有する形状でもよい。
【0036】
次いで、口絞り成形された金属管を、ポンチで押し込み、金属管の端部を封口し、管部材を完成させる。
【0037】
ポンチの押込み量が小さすぎると、十分な増肉が得られない。また、押し込み量が大きすぎると加工力が大きくなりすぎる、そのため、押込み量を適正な範囲とすることが好ましい。
【0038】
本発明者らが種々の実験を行った結果、金属管の板厚をt0(mm)、外径をd0(mm)、加熱範囲をL0(mm)、封口後の外径をd2(mm)、増肉予定部の長さをL2(mm)としたとき、押し込み量St(mm)を以下の範囲とすることが好ましい。
【0039】
【0040】
ポンチの表面は平らな形状でもよいし、ポンチの中央部が押し込む金属管と反対側に凹んだ凹状であってもよい。
【0041】
ポンチを押し込み加工が終了した管部材はダイスから離脱する。その際、加工開始後、加工中の管とダイスとの接触時間が長いと、ダイスの温度が上がり、摩耗、損傷が起こりやすくなり好ましくない。そのため、加工開始から、加工が完了し、製造された管部材がダイスから離脱完了するまでの時間を10s以下とするのが好ましい。
【0042】
以上の一連の工程により、数秒程度で、端部が閉塞された管部材を製造することが可能となる。
【0043】
なお、便宜上、金属管を鉛直方向が長手方向となるように配置し、下に加熱装置、上にダイス、ポンチを配置した構成を用いて説明したが、配置の向きがこれに限定されるものではないことはいうまでもない。たとえば、上下を逆にしたり、横向きにしたりしても、同様の効果が得られることは明らかである。
【0044】
また、本発明の端部が閉塞された管部材の製造方法は、一方の端部を閉塞するものみ限定されるものではなく、同様の方法で両方の端部を閉塞した中空部材の製造方法にも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0045】
11 金属管
12 中空部
13 増肉部
21 加熱装置
22 ダイス
23 ポンチ
24 金型