(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】脳症判定プログラム、脳症判定方法および情報処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20230124BHJP
A61B 5/372 20210101ALI20230124BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/372
(21)【出願番号】P 2019113743
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 健
(72)【発明者】
【氏名】梅田 裕平
(72)【発明者】
【氏名】伊海 佳昭
(72)【発明者】
【氏名】平岡 和明
(72)【発明者】
【氏名】角田 友将
(72)【発明者】
【氏名】門岡 良昌
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-016194(JP,A)
【文献】特開2018-092349(JP,A)
【文献】YOO, Jaejun et al.,Topological Analysis of EEG Connectivity Patterns of Depressed Patients using Persistence Landscape,2014年06月,URL:https://www.researchgate.net/publication/313468714_Topological_Analysis_of_EEG_Connectivity_Patterns_of_Depressed_Patients_using_Persistence_Landscape
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
脳波データに基づいて複数のアトラクタを生成し、
前記複数のアトラクタに対してパーシステントホモロジ変換を実行してベッチ数を算出し、
前記ベッチ数に基づき算出したベッチ系列の1次成分に基づいて、脳症の発症を判定する
処理を実行させることを特徴とする脳症判定プログラム。
【請求項2】
前記判定する処理は、前記ベッチ系列の1次成分の面積を算出し、前記1次成分の面積が閾値以上である場合に、前記脳症が発症していると判定することを特徴とする請求項1に記載の脳症判定プログラム。
【請求項3】
前記判定する処理は、前記1次成分の面積が閾値以上であり前記脳症と判定された場合、前記面積の大きさによって前記脳症の確度を判定することを特徴とする請求項1に記載の脳症判定プログラム。
【請求項4】
前記生成する処理は、前記脳波データを所定時間で区切った区間ごとに、複数の疑似アトラクタを生成し、
前記算出する処理は、前記区間ごとに、前記ベッチ数を算出し、
前記算出する処理は、前記区間ごとに、前記ベッチ系列を算出し、
前記判定する処理は、前記区間ごとの前記ベッチ系列の1次成分の面積の平均値が前記閾値以上である場合に、前記脳症が発症していると判定することを特徴とする請求項2に記載の脳症判定プログラム。
【請求項5】
前記判定する処理は、前記ベッチ系列の1次成分の面積が閾値以上である場合に、せん妄が発症していると判定することを特徴とする請求項2に記載の脳症判定プログラム。
【請求項6】
コンピュータが、
脳波データに基づいて複数のアトラクタを生成し、
前記複数のアトラクタに対してパーシステントホモロジ変換を実行してベッチ数を算出し、
前記ベッチ数に基づき算出したベッチ系列の1次成分に基づいて、脳症の発症を判定する
処理を実行することを特徴とする脳症判定方法。
【請求項7】
脳波データに基づいて複数の疑似アトラクタを生成する生成部と、
前記複数のアトラクタに対してパーシステントホモロジ変換を実行してベッチ数を算出する算出部と、
前記ベッチ数に基づき算出したベッチ系列の1次成分に基づいて、脳症の発症を判定する判定部と
を有することを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳症判定プログラム、脳症判定方法および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の脳波を計測し、正常時とは異なる挙動を検出することにより、せん妄などを含む脳症を早期に検出することが行われている。特に、せん妄は、突然発症し、数時間から数週間にわたり症状が継続することから、早期の検出が重要である。せん妄をはじめ多くの脳症には、低周波で挙動が激しく動く状態であるDiffuse slowingが出現することから、周波数解析やスペクトル解析を用いた手法が利用されている。近年では、低周波成分が強く出現する傾向にあることを利用した検出技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/039689号
【文献】特開2017-97643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、脳症の検出精度が良くない場合がある。例えば、Diffuse slowingの周波数は、一定しない患者もあり、周波数成分に明確に出現しない患者も存在する。このため、どの周波成分を検出対象とするかは、個人差があり、一概に設定するのが難しい。また、Diffuse slowingは、低周波が局所的に大きくなる場合や低周波全体がやや上昇する場合があり、ノイズの影響と区別がつきにくいこともある。このようなことから、誤検出や検出漏れが発生することがある。
【0005】
一つの側面では、脳症の検出精度を向上させることができる脳症判定プログラム、脳症判定方法および情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の案では、脳症判定プログラムは、コンピュータに、脳波データに基づいて複数のアトラクタを生成し、前記複数のアトラクタに対してパーシステントホモロジ変換を実行してベッチ数を算出する処理を実行させる。脳症判定プログラムは、コンピュータに、前記ベッチ数に基づき算出したベッチ系列の1次成分に基づいた、脳症の発症を判定する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、脳症の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1にかかる検出装置を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施例1にかかる検出装置の機能構成を示す図である。
【
図3】
図3は、脳波データDBに記憶される脳波データを説明する図である。
【
図4】
図4は、Diffuse slowingの波形部分を説明する図である。
【
図5】
図5は、対象とする時系列データの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、パーシステントホモロジについて説明するための図である。
【
図7】
図7は、バーコードデータと生成される連続データとの関係について説明するための図である。
【
図8】
図8は、せん妄の検出判定を説明する図である。
【
図9】
図9は、処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、単位長さの区切りによる判定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願の開示する脳症判定プログラム、脳症判定方法および情報処理装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、各実施例は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【実施例1】
【0010】
[検出装置の説明]
図1は、実施例1にかかる検出装置10を説明する図である。
図1に示す検出装置10は、測定された患者の脳波を示す脳波データを解析して、せん妄を含む脳症を早期に検出するコンピュータ装置の一例である。なお、本実施例では、一例として、せん妄の検出について説明する。
【0011】
実施例1にかかる検出装置10は、振幅が大きく横幅の広い波形の多数が現れるDiffuse slowingを正確に検出することで、せん妄の検出精度を向上させる。Diffuse slowingの波形は、横幅が一定した場合には周波数の強度として出現するが、横幅が一定しない場合には明確に出現しない場合がある。そこで、実施例1にかかる検出装置10は、脳波データの波形の横幅のぶれに依存することなく、せん妄の特徴を示す波形を数値化して、せん妄検出を実現する。
【0012】
具体的には、
図1に示すように、検出装置10は、時系列データである患者の脳波データに対して、TDA(Topological Data Analysis)を用いた解析手法を実行することで、脳波データの異常を検出する。例えば、検出装置10は、脳波データを入力とし、脳波データから有限個のアトラクタである疑似アトラクタを生成し、疑似アトラクタに対してパーシステントホモロジ変換(PH変換)を実行してベッチ数を算出する。そして、検出装置10は、ベッチ数を用いたベッチ系列に基づき、せん妄を検出する。
【0013】
[機能構成]
図2は、実施例1にかかる検出装置10の機能構成を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、検出装置10は、通信部11、記憶部12、制御部20を有する。
【0014】
通信部11は、他の装置との間の通信を制御する処理部であり、例えば通信インタフェースなどである。例えば、通信部11は、脳波を測定する測定器から脳波データを受信し、医療従事者などが利用する管理装置から各種指示を受信し、管理装置の検出結果を送信する。
【0015】
記憶部12は、各種データや制御部20が実行する各種プログラムなどを記憶する記憶装置の一例であり、例えばメモリやハードディスクなどである。この記憶部12は、脳波データDB13や検出結果DB14を記憶する。
【0016】
脳波データDB13は、脳波を測定する測定器によって測定された患者の脳波を示す脳波データを記憶するデータベースである。
図3は、脳波データDB13に記憶される脳波データを説明する図である。
図3に示す脳波データの特徴は、時系列データの一例であり、周波数範囲が0.5から30Hz、波形振幅が20から70μVであり、周期性がない。なお、横軸は時間であり、縦軸は振幅である。
【0017】
検出結果DB14は、後述する制御部20による検出結果を記憶するデータベースである。具体的には、検出結果DB14は、各患者に対応付けて、脳波データやせん妄の検出結果を記憶する。
【0018】
制御部20は、検出装置10全体の処理を司る処理部であり、例えばプロセッサなどである。この制御部20は、取得部21、変換部22、検出部23を有する。なお、取得部21、変換部22、検出部23は、プロセッサなどが有する電子回路やプロセッサなどが実行するプロセスの一例である。
【0019】
ここで、実施例1で着目するDiffuse slowingについて説明する。
図4は、Diffuse slowingの波形部分を説明する図である。
図4に示すように、Diffuse slowingの波形部分は、振幅が大きな波形が出現し、その振幅が大きい箇所の数により、せん妄の度合いが大きくなる。このような振幅が大きい波形は、TDA処理によりアトラクタを生成した場合に、大きな円となる。
【0020】
つまり、振幅が大きい波形に対して、パーシステントホモロジ変換を実行した場合、発生時間も消滅時間も遅いことから、生存時間が長くなるので、1次の穴が多く出現し、ベッチ系列の1次成分に特徴が現れる。また、生存時間が長いほど、せん妄の度合いは高くなることから、1次成分の数が多いほど、せん妄の度合いが高くなる。したがって、実施例1では、脳波データから疑似アトラクタを生成し、疑似アトラクタに対してパーシステントホモロジ変換を実行して、ベッチ系列の1次成分を抽出することで、せん妄の検出を実行する。なお、ベッチ系列の1次成分とは、1次のベッチ数をもとに得られるベッチ系列と言い換えることもできる。
【0021】
取得部21は、患者の脳波データを取得する処理部である。例えば、取得部21は、脳波を測定する測定器から患者の脳波データを取得し、各患者に対応付けた脳波データを脳波データDB13に格納する。
【0022】
変換部22は、脳波データに対してPH変換を実行する処理部である。具体的には、変換部22は、脳波データを入力とし、小区分に区切ったデータから有限個のアトラクタである疑似アトラクタを生成する。そして、変換部22は、複数の疑似アトラクタそれぞれをパーシステントホモロジ変換して得られたベッチ数による複数のベッチ系列を生成する。そして、変換部22は、生成した各ベッチ系列を検出部23に出力する。
【0023】
例えば、変換部22は、一般的な手法を用いてベッチ系列を生成することができる。一例を挙げると、変換部22は、ベッチ数を計算する半径の区間[rmin,rmax]をm-1等分し、各半径ri(i=1,・・・,m)におけるベッチ数B(ri)を計算し、ベッチ数を並べた[B(r1),B(r2),B(r3),・・・,B(rm)]のベッチ系列を生成する。
【0024】
ここで、
図5から
図7を用いて、パーシステントホモロジ変換およびベッチ系列の生成を説明する。
図5は、対象とする時系列データの一例を示す図である。
図6は、パーシステントホモロジについて説明するための図である。
図7は、バーコードデータと生成される連続データとの関係について説明するための図である。
【0025】
図5を用いて、疑似アトラクタの生成について説明する。例えば
図5に示すような、関数f(t)(tは時間を表す)で表される連続データを考える。そして、実際の値としてf(1),f(2),f(3),・・・,f(T)が与えられているとする。本実施の形態における疑似アトラクタは、連続データから遅延時間τ(τ≧1)毎に取り出されたN点の値を成分とする、N次元空間上の点の集合である。ここで、Nは埋め込み次元を表し、一般的にはN=3又は4である。例えばN=3且つτ=1である場合、(T-2)個の点を含む以下の疑似アトラクタが生成される。
【0026】
疑似アトラクタ={(f(1),f(2),f(3))、(f(2),f(3),f(4))、(f(3),f(4),f(5))、・・・、(f(T-2),f(T-1),f(T))}
【0027】
続いて、変換部22は、疑似アトラクタを生成し、パーシステントホモロジ変換を用いてベッチ系列へ変換する。なお、ここで生成されるアトラクタは、有限個の点集合であることから「疑似アトラクタ」と呼ぶこととする。
【0028】
ここで、「ホモロジ」とは、対象の特徴をm(m≧0)次元の穴の数によって表現する手法である。ここで言う「穴」とはホモロジ群の元のことであり、0次元の穴は連結成分であり、1次元の穴は穴(トンネル)であり、2次元の穴は空洞である。各次元の穴の数はベッチ数と呼ばれる。そして、「パーシステントホモロジ」とは、対象(ここでは、点の集合(Point Cloud))におけるm次元の穴の遷移を特徴付けるための手法であり、パーシステントホモロジによって点の配置に関する特徴を調べることができる。この手法においては、対象における各点が球状に徐々に膨らまされ、その過程において各穴が発生した時刻(発生時の球の半径で表される)と消滅した時刻(消滅時の球の半径で表される)とが特定される。
【0029】
図6を用いて、パーシステントホモロジをより具体的に説明する。ルールとして、1つの球が接した場合には2つの球の中心が線分で結ばれ、3つの球が接した場合には3つの球の中心が線分で結ばれる。ここでは、連結成分及び穴だけを考える。
図6(a)のケース(半径r=0)においては、連結成分のみが発生し、穴は発生していない。
図6(b)のケース(半径r=r
1)においては、穴が発生しており、連結成分の一部が消滅している。
図6(c)のケース(半径r=r
2)においては、さらに多くの穴が発生しており、連結成分は1つだけ持続している。
図6(d)のケース(半径r=r
3)においては、連結成分の数は1のままであり、穴が1つ消滅している。
【0030】
パーシステントホモロジの計算過程において、ホモロジ群の元(すなわち穴)の発生半径と消滅半径とが計算される。穴の発生半径と消滅半径とを使用することで、バーコードデータを生成することができる。バーコードデータは穴次元毎に生成されるので、複数の穴次元のバーコードデータを統合することで1塊のバーコードデータが生成できる。連続データは、パーシステントホモロジにおける球の半径(すなわち時間)とベッチ数との関係を示すデータである。
【0031】
図7を用いて、バーコードデータと生成される連続データとの関係について説明する。上段のグラフはバーコードデータから生成されるグラフであり、横軸が半径を表す。下段のグラフは連続データ(ベッチ系列)から生成されるグラフであり、縦軸はベッチ数を表し、横軸は時間を表す。上で述べたように、ベッチ数は穴の数を表しており、例えば上段のグラフにおいて破線に対応する半径の時には存在している穴の数が10であるので、下段のグラフにおいては破線に対応するベッチ数も10である。ベッチ数は、ブロック毎に計数される。なお、下段のグラフは疑似的な時系列データのグラフであるので、横軸の値自体が意味を持つわけではない。
【0032】
検出部23は、変換部22により生成されたベッチ系列に基づき、せん妄を検出する処理部である。具体的には、検出部23は、変換部22から取得したベッチ系列のうち、1次元の成分である穴の数にしたがって、せん妄の有無を判定する。
【0033】
図8は、せん妄の検出判定を説明する図である。
図8に示すように、検出部23は、変換部22により生成されたベッチ系列のうち1次元のベッチ系列を取得し、
図8の(a)に示す領域である1次の面積(スコア)を算出する。なお、面積は、横の値および縦の値がグラフ上で既知であることから、長方形、台形、三角形などの各種面積の算出方法を用いることで、算出することができる。
【0034】
そして、検出部23は、面積が閾値以上の場合に、せん妄が発症と判定し、面積が閾値未満の場合に、せん妄が未発症と判定する。このようにして、検出部23は、患者のせん妄の発症有無を検出し、検出結果を検出結果DB14に格納する。また、検出部23は、せん妄を検出した場合には、医療従事者に通知し、ディスプレイ等に表示する。
【0035】
また、検出部23は、面積が大きいほど、せん妄の確度(確からしさ)が高いと判定することもできる。例えば、検出部23は、面積が第1の閾値以上の場合は、確度1と判定し、面積が第1の閾値以上かつ第2の閾値未満の場合は、確度2と判定し、面積が第2の閾値以上の場合は、確度3と判定し、面積によって確度を判定することもできる。
【0036】
[処理の流れ]
図9は、処理の流れを示すフローチャートである。なお、ここでは、取得部21が、測定器から脳波データを取得して、脳波データDB13に格納しているものとする。
【0037】
図9に示すように、変換部22は、処理開始が指示されると(S101:Yes)、患者の脳波データを脳波データDB13から取得し(S102)、脳波データから疑似アトラクタを生成し、疑似アトラクタに対してパーシステントホモロジ変換を実行する(S103)。そして、変換部22は、パーシステントホモロジ変換によって得られたベッチ数を用いて複数のベッチ系列を生成する(S104)。
【0038】
その後、検出部23は、ベッチ系列の1次成分の面積を算出し(S105)、面積が閾値以上であれば(S106:Yes)、せん妄の発症を検出し(S107)、面積が閾値未満であれば(S106:No)、異常なしと判定する(S108)。
【0039】
そして、処理を継続する場合は(S109:No)、次の患者の脳波データに対してS102以降の処理が繰り返され、処理を終了する場合は(S109:Yes)、せん妄の検出処理が終了する。
【0040】
[効果]
上述したように、検出装置10は、脳波データからアトラクタを生成し、アトラクタに対してパーシステントホモロジ変換を実行して、ベッチ系列の1次成分を抽出することで、せん妄の検出を実行することができる。この結果、検出装置10は、脳波データの波形の横幅のぶれに依存することなく、せん妄の特徴を示す波形を数値化して、せん妄検出を実行することができるので、検出精度を向上させることができる。
【0041】
ここで、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて、実施例1による手法と、周波数解析などを用いた一般技術との検出精度の比較を説明する。
図10は、効果を説明する図である。
図10では、せん妄を発症している78名の患者(陽性:Positive)と、せん妄を発症していない118名の患者(陰性:Negative)とを用いて、陽性者を正しく陽性として捕捉する率を感度(sensitivity)と、陰性者を正しく陰性と判断する率を特異度(specificity)との関係を図示する。
【0042】
図10に示すように、一般技術では、グラフの下の部分の面積であるAUC(Area Under the Curve)の値が0.71であり、実施例1では、AUCの値が0.79である。AUCは、0から1までの値をとり、値が1に近いほど判別能が高いことを示すことから、一般技術よりも実施例1の方が高精度である。したがって、実施例1による手法を用いることにより、一般的な周波数解析よりも、せん妄を高精度かつ早期に検出することができる。
【実施例2】
【0043】
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0044】
[重みの考慮]
例えば、パーシステントホモロジ変換では、1次の穴(円)の直径が大きいほど、せん妄の度合い(可能性や確度)が反映されることから、直径が大きいほど大きい重みを付与して重要視することもできる。
図11は、重みを考慮した判定を説明する図である。
図11に示すように、バーコードデータから生成されるベッチ系列では、図の右に行くほど、円の直径が大きい。例えば、検出装置10は、1次ベッチ系列の範囲内で、所定範囲ごとに右に行くほど重みを大きく設定する。そして、検出装置10は、算出された面積に、面積の出現範囲に応じた重みを乗算する。検出装置10は、乗算後の値が大きいほど、せん妄の可能性が高いと判定する。
【0045】
[単位区切り]
TDA処理では、保持する情報が大きいので、時系列が長すぎる場合、患者の状態変化の影響を反映してしまい、せん妄判定のノイズとなる。例えば、測定器の装着直後では、患者が動くことによりノイズが発生し、ある程度の長い時間継続して測定していても、患者の動きによるノイズが発生する。そこで、このような影響を減少させるために、ベッチ系列に変換する時系列の単位長さを特徴が出る中で、比較的短い長さである1秒から4秒程度とする。また、面積(スコア)を単位長さに区切って算出し、余計な影響と考えられる面積を除去してスコア化する。
【0046】
図12は、単位長さの区切りによる判定を説明する図である。
図12に示すように、検出装置10は、脳波データを2秒間隔で区切って、各間隔の脳波データに対してTDA処理およびパーシステントホモロジ変換を実行した後、1次成分の面積を算出する。そして、検出装置10は、ノイズと判断される予め定めた閾値(例えば9)以上の面積を除外して、間隔ごとに算出された面積の平均値を算出する。その後、検出装置10は、平均値が閾値以上の場合に、せん妄の発症と判定する。
【0047】
[データや数値等]
上記実施例で用いたデータ例、数値例、閾値、表示例等は、あくまで一例であり、任意に変更することができる。なお、実施例1では、1次成分において1つの領域が発生した場合を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、1次成分において2つ以上の領域が発生した場合は、各領域の面積の合計値を用いて、せん妄の検出を行う。また、より右側の領域の面積に重みを付与することもできる。
【0048】
[症状判別等]
例えば、せん妄を含む症状ごとに面積の閾値が設定可能な場合、1次成分の面積から脳症の詳細な症状まで検出することができる。例えば、閾値Aから閾値Bの範囲はせん妄、閾値Bから閾値Cの範囲は症状X、閾値C以上は症状Yと予め設定しておくことで、詳細な症状を検出することができる。
【0049】
[システム]
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0050】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0051】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0052】
[ハードウェア]
図13は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図13に示すように、検出装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図13に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0053】
通信装置10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他の装置との通信を行う。HDD10bは、
図2に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0054】
プロセッサ10dは、
図2に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図2等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、検出装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、取得部21、変換部22、検出部23等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、取得部21、変換部22、検出部23等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0055】
このように、検出装置10は、プログラムを読み出して実行することで検出方法を実行する情報処理装置として動作する。また、検出装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、検出装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 検出装置
11 通信部
12 記憶部
13 脳波データDB
14 検出結果DB
20 制御部
21 取得部
22 変換部
23 検出部