(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】塗液含浸強化繊維ファブリック、シート状一体物、プリプレグ、プリプレグテープおよび繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 15/12 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
B29B15/12
(21)【出願番号】P 2019530219
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2019020471
(87)【国際公開番号】W WO2019235237
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018107418
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】越智 隆志
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保
(72)【発明者】
【氏名】青木 惇一
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0202182(US,A1)
【文献】特開平01-016612(JP,A)
【文献】特表2014-522332(JP,A)
【文献】特開平03-222704(JP,A)
【文献】特開平01-124668(JP,A)
【文献】特開2017-077544(JP,A)
【文献】特開2017-144364(JP,A)
【文献】特開2018-075531(JP,A)
【文献】特開2017-164682(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173617(WO,A1)
【文献】特開2002-166218(JP,A)
【文献】特開平01-178412(JP,A)
【文献】国際公開第2007/062516(WO,A1)
【文献】特開平03-047714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 15/08-15/14
11/16
B05D 1/00-7/24
B05C 1/00-3/20
B29C 70/00-70/88
D06B 1/00-23/30
D06C 3/00-29/00
D06G 1/00-5/00
D06H 1/00-7/24
D06J 1/00-1/12
B29K 101/10
105/08
C08J 5/04-5/10
5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗液が貯留された塗布部の内部に、
シート状物である強化繊維ファブリックを、
実質的に鉛直方向下向きに通過させて塗液を強化繊維ファブリックに付与する塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法であって、
前記塗布部は互いに連通された液溜り部と狭窄部を備え、
前記液溜り部は強化繊維ファブリックの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、
該断面積が連続的に減少する部分は、強化繊維ファブリック表面に直交する面での断面視においてテーパー状であり、かつ、テーパー状である場合の開き角度が、7度以上90度以下であり、
前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有し、
液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の鉛直方向高さが10mm以上であ
り、かつ、液溜り部内に強化繊維ファブリックの幅を規制するための幅規制機構を備え、狭窄部の直下における強化繊維ファブリックの幅(W)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅(L2)との関係が、L2≦W+10(mm)を満たす、塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法。
【請求項2】
前記幅規制機構が前記液溜り部および狭窄部の全域にわたって具備されている請求項
1に記載の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法。
【請求項3】
歪み速度3.14s
-1で測定した塗液の粘度が1~60Pa・sである請求項1
または2に記載の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法。
【請求項4】
塗液が熱硬化性樹脂を含む請求項1~
3の何れかに記載の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法。
【請求項5】
ポリマー粒子を含んだ塗液を用い、かつ、塗布部内における該塗液の温度を前記ポリマー粒子を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)よりも20℃以上低い状態で塗液を強化繊維ファブリックに付与することを特徴とする請求項1~
4の何れかに記載の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法。
【請求項6】
強化繊維ファブリックを加熱した後、液溜り部に導く請求項1~
5の何れかに記載の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法。
【請求項7】
請求項1~
6の何れかに記載の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法により塗液含浸強化繊維ファブリックを得て、得られた塗液含浸強化繊維ファブリックの少なくとも片面に離型シートを付与してシート状一体物とした後、シート状一体物を引き取るシート状一体物の製造方法。
【請求項8】
シート状一体物を形成した後に追含浸を行う請求項
7に記載のシート状一体物の製造方法。
【請求項9】
前記シート状一体物がプリプレグである、請求項
7または8に記載のシート状一体物の製造方法。
【請求項10】
請求項
9に記載のシート状一体物の製造方法によりプリプレグを得て、その後プリプレグをスリットするプリプレグテープの製造方法。
【請求項11】
請求項
9に記載のシート状一体物の製造方法によりプリプレグを得て、その後プリプレグを硬化させる繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項
10に記載のプリプレグテープの製造方法によりプリプレグテープを得て、その後プリプレグテープを硬化させる繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗液含浸強化繊維ファブリックおよびシート状一体物の製造方法に関し、特に、強化繊維ファブリックに塗液を均一に含浸する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含むマトリックス樹脂を強化繊維で補強した繊維強化複合材料(FRP)は、航空・宇宙用材料、自動車材料、産業用材料、圧力容器、建築材料、筐体、医療用途、スポーツ用途など様々な分野で用いられている。特に高い力学特性と軽量性が必要な場合には、炭素繊維強化複合材料(CFRP)が幅広く好適に用いられている。一方、力学特性や軽量性よりもコストが優先される場合にはガラス繊維強化複合材料(GFRP)が用いられる場合がある。FRPは強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸し中間基材を得、これを積層、成形し、さらに熱硬化性樹脂を用いた場合には熱硬化させて、FRPからなる部材を製造している。前記用途では平面状物やそれを折り曲げた形態のものが多く、FRPの中間基材としても1次元のストランドやロービング状物よりも、2次元のシート状物の方が部材を作製する際の積層効率や成形性の観点から幅広く使用されている。
【0003】
2次元のシート状中間基材としては、強化繊維を一方向に配列させたUD基材や強化繊維から成る織物などにマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグが幅広く使用されている。特にFRPの力学特性が優先される場合にはUD基材が使用される場合が多い。一方、複雑形状のFRPを作製する場合には賦形性に優れ、形状追従性のある織物が使用される場合が多い。
【0004】
プリプレグの製造方法の一つであるホットメルト法は、マトリックス樹脂を溶融した後、離型紙上にコーティングし、これをUD基材や織物などの上面、下面でサンドイッチした積層構造を作製後、熱と圧力でマトリックス樹脂をUD基材や織物の内部に含浸するものである。本方法は工程数が多く、また生産速度も上げられず、高コストとなる問題があった。
【0005】
含浸の効率化としては、例えば特許文献1のような提案があった。これはガラス繊維を溶融紡糸し、それを集束してストランドやロービング状としたものを熱可塑性樹脂を満たした円錐状の流路を有する液溜り部に通過させる方法であった。
【0006】
他方、シート状物の両面に同時に塗膜形成する方法が特許文献2に記載されているが、これは塗膜形成時のシート状物の揺らぎを防止するため、ウエブガイドにシート状物を通し、その後、パイプ型ドクターで塗工するものである。
【0007】
また、特許文献3には、強化繊維束を熱可塑性樹脂を満たしたマニホールドを通し、ダイから引き抜くプルトルージョン法においてダイを超音波で振動させ、含浸性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2001/028951パンフレット
【文献】特許第3252278号明細書
【文献】特開平1-178412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法ではストランドやロービング状物しか製造できず、本発明の対象とする2次元シート状中間基材であるプリプレグの製造には適用できない。また、特許文献1では含浸効率を向上させるため、ストランドやロービング状強化繊維束側面に熱可塑性樹脂の流体を当て円錐状流路内で乱流を積極的に発生させている。これは強化繊維束の配列を一部乱してマトリックス樹脂を流入させることを意図していると考えられるが、この思想を織物に適用すると、織物の平面性が乱れたり形状が歪んだりして、プリプレグの品位が低下するばかりか、FRPの力学特性が低下してしまうと考えられる。
【0010】
また、特許文献2に開示される技術では、樹脂を塗布する前のウエブガイドでの擦過により毛羽が発生し、プリプレグの品位が悪くなるとともに、織物の長時間走行性には限界があると考えられる。また、特許文献2の技術は樹脂の塗工であり、含浸は意図されていない。
【0011】
特許文献3の技術でも、樹脂が塗布される前に織物は細い通路を通るため毛羽が発生し易く、また、それがマニホールド、ダイに持ち込まれるためダイで毛羽が詰まり易く、織物の長時間走行性には限界があると考えられる。
【0012】
このように、織物などファブリック形状への効率的な塗液付与方法、特に2次元シート状中間基材であるプリプレグの効率的な製造方法は未だ確立されていなかった。
【0013】
本発明の課題は、塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法に関して、毛羽発生を抑制し、かつ毛羽が詰まることなく連続生産が可能であり、さらに強化繊維ファブリックに塗液を効率よく含浸させ、生産速度の高速化が可能な、塗液含浸強化繊維ファブリックおよびシート状一体物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決する本発明の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法は、塗液が貯留された塗布部の内部に、シート状物である強化繊維ファブリックを、実質的に鉛直方向下向きに通過させて塗液を強化繊維ファブリックに付与する塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法であって、前記塗布部は互いに連通された液溜り部と狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維ファブリックの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、該断面積が連続的に減少する部分は、強化繊維ファブリック表面に直交する面での断面視においてテーパー状であり、かつ、テーパー状である場合の開き角度が、7度以上90度以下であり、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有し、液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の鉛直方向高さが10mm以上であり、かつ、液溜り部内に強化繊維ファブリックの幅を規制するための幅規制機構を備え、狭窄部の直下における強化繊維ファブリックの幅(W)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅(L2)との関係が、L2≦W+10(mm)を満たす、塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法である。
【0015】
また、本発明のシート状一体物の製造方法は、上記の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法により塗液含浸強化繊維ファブリックを得て、得られた塗液含浸強化繊維ファブリックの少なくとも片面に離型シートを付与してシート状一体物とした後、シート状一体物を引き取るシート状一体物の製造方法である。
【0016】
また、本発明のプリプレグテープの製造方法は、前記のプリプレグの製造方法によりプリプレグを得て、その後プリプレグをスリットするプリプレグテープの製造方法である。
【0017】
さらに、本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記の製造方法によりプリプレグまたはプリプレグテープを得て、その後プリプレグまたはプリプレグテープを硬化させる繊維強化複合材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法によれば、毛羽による詰まりを大幅に抑制、防止できる。さらに、強化繊維ファブリックを連続かつ高速で走行させることが可能となり、塗液を付与した強化繊維ファブリックの生産性が向上する。
【0019】
さらに、均一に塗液が含浸した強化繊維ファブリックを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法および塗工装置を示す概略横断面図である。
【
図2】
図1における塗布部20の部分を拡大した詳細横断面図である。
【
図3】
図2における塗布部20を、
図2のAの方向から見た下面図である。
【
図4a】
図2における塗布部20を、
図2のBの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。
【
図4b】
図4aにおける隙間26での塗液2の流れを表す断面図である。
【
図6】
図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。
【
図7】
図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。
【
図8】
図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。
【
図9】
図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。
【
図10】本発明とは異なる実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。
【
図11】本発明の実施形態の一例である液溜り部内にバーを具備した態様を示す図である。
【
図12】本発明を用いたプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
【
図13】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例の概略図である。
【
図14】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例の概略図である。
【
図15】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例の概略図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る複数の塗液含浸強化繊維ファブリックを積層する態様の例を示す図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る複数の塗布部を具備する態様の例を示す図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る複数の塗布部を具備する別の態様の例を示す図である。
【
図19】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例の概略図である。
【
図20】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例の概略図である。
【
図21】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の概略図である。
【
図22】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の望ましい実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は発明の実施形態を例示するものであり、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0022】
<塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法および塗工装置の概略>
まず、
図1により本発明の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法の概略を述べる。
図1は本発明の一実施形態に係る塗液含浸強化繊維ファブリックの製造方法および装置を示す概略断面図である。塗工装置100には、強化繊維ファブリック1aを実質的に鉛直方向下向きZに走行させる走行機構である搬送ロール13、14と、搬送ロール13、14の間に設けられ、塗布機構である塗液2が溜められた塗布部20が具備されている。また、塗工装置100の前後には、強化繊維ファブリック1aを巻き出す供給装置11と、強化繊維ファブリック1を引き出すニップロール12と塗液含浸強化繊維ファブリック1bの巻取り装置15を備えることができ、また、図示していないが塗工装置100には塗液の供給装置が具備されている。さらに、必要に応じ、離型シート3を供給する離型シート供給装置16を備えることもできる。
【0023】
<強化繊維ファブリック>
ここで、強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維、有機繊維(アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、セルロースまたはその誘導体からなる繊維など)などを例示することができるが、炭素繊維を用いることが、FRPの力学特性、軽量性の観点から好ましい。
【0024】
本発明でいう、強化繊維ファブリックとは、強化繊維を多軸で配列させて、またはランダム配置させてシート化したものである。すなわち、それ自体でシートとしての形状を有している。具体的には、織物や編物などの他、強化繊維を2次元で多軸配置したものや、不織布やマット、紙など強化繊維をランダム配向させたものを挙げることができる。この場合、強化繊維はバインダーを用いての結合、また、交絡、溶着、融着などの方法を利用してシート化することもできる。織物としては、平織、ツイル、サテンの基本的な織組織の他、ノンクリンプ織物やバイアス構造、絡み織、多軸織物、多重織物などの態様を採ることができる。バイアス構造とUD構造を組み合わせた織物、すなわち、強化繊維ファブリックの走行方向に配列する繊維束とこれに概略線対称で斜めに交差する2シリーズの繊維束によって構成された織物、は、UD構造により塗布・含浸工程での引っ張りでの織物の変形を抑制するだけでなく、バイアス構造による擬似等方性も併せ持っており、好ましい形態である。また、多重織物では織物上面/下面、また織物内部の構造・特性をそれぞれ設計できる利点がある。編物では塗布・含浸工程での形態安定性を考慮すると経編が好ましいが、筒状編み物であるブレードを用いることもできる。
【0025】
強化繊維ファブリックの厚みは、特に制限は無く、目的に応じ、必要とされるFRP性能と塗布工程の安定性を勘案して決めればよい。狭窄部での通過性を考慮すると、1mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以下である。
【0026】
強化繊維ファブリックは目的に応じた適切なものを市場から入手、作製可能であるが、その一例を下記する。織物としては、例えば、東レ(株)製“トレカ(登録商標)”クロスのC06142、C06347B、C05642等、HEXCEL社製“HexForce(登録商標)”Fabricsや“PrimeTex(登録商標)”の84、G0801、XAGP282P、43195、G0939、G0803、43364、XSGP196P、SGP203CS、XC1400、48200、48287、46150、“Injectex(登録商標)”FabricsのGB201、G0986、G0926等、炭素繊維とガラス繊維のハイブリッド織物であるG1088、G0874、G0973、43743等、アラミド繊維織物である20796、21263、Quartz織物である610、593等、が挙げられる。不織布・マット・紙としては、例えば、東レ(株)製“トレカ(登録商標)”マットB030、B050、BV03等やオリベスト社製“カーボライト(登録商標)”のCEO-030、CBP-030、ZX-020等が挙げられる。
【0027】
なお、強化繊維ファブリックのロールを掛けるクリールには強化繊維ファブリックを引き出す際に張力制御機構が付与されていることが好ましい。
【0028】
<強化繊維ファブリックの平滑化>
本発明においては、強化繊維ファブリックの表面平滑性を高くすることで、塗布部での塗液の塗布量の均一性を向上させることができる。このため、強化繊維ファブリックを平滑化処理した後、塗布部に導くことができる。平滑化処理法は特に制限は無いが、対向ロールなど平滑な面を持った部材を物理的に押しあてる方法などを例示できる。平滑な面を持った部材を物理的に押しあてる方法は簡便かつ、強化繊維の配列を乱しにくいため好ましい。より具体的にはカレンダー加工などを用いることができる。
【0029】
<強化繊維ファブリックの予熱>
また、本発明において、強化繊維ファブリックを加熱した後、塗布部に導くと、塗液の温度低下を抑制し、塗液の粘度均一性を向上させられるため好ましい。強化繊維ファブリックは塗液温度近傍まで加熱されることが好ましいが、このための加熱手段としては、空気加熱、赤外線加熱、遠赤外線加熱、レーザー加熱、接触加熱、熱媒加熱(スチームなど)など多様な手段を用いることができる。中でも赤外線加熱は装置が簡便であり、また強化繊維ファブリックを直接加熱できるため、走行速度が速くても所望の温度まで効率よく加熱が可能であり、好ましい。
【0030】
<塗液>
本発明で用いる塗液は、付与する目的に応じ適宜選択することができるが、例えばプリプレグの製造に適用する場合には、マトリックス樹脂の塗液を使用することができる。本発明により得られるマトリックス樹脂が塗工された塗液含浸強化繊維ファブリックは、強化繊維ファブリックにマトリックス樹脂が含浸した状態となり、そのままシート状プリプレグとして積層、成形してFRPからなる部材を得ることができる。含浸度は、塗布部の設計や、塗布以降の追含浸により制御することができる。マトリックス樹脂としては、用途に応じ適宜選択可能であるが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることが一般的である。マトリックス樹脂は、加熱し溶融させた溶融樹脂でも室温で液状のものでも良い。また、溶媒を用いて溶液やワニス化したものでも良い。
【0031】
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などFRPに一般的に使用されるものを用いることができる。また、これらは室温で液体であればそのまま用いても良いし、室温で固体や粘稠液体であれば、加温して低粘度化する、あるいは溶融し融液として用いても良いし、溶媒に溶解し溶液やワニス化して用いても良い。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素・炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアミドイミド(PAI)などを例示できる。航空機用途などの耐熱性が要求される分野では、PPS、PES、PI、PEI、PSU、PEEK、PEKK、PAEKなどが好適である。一方、産業用途や自動車用途などでは、成形効率を上げるため、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンやPA、ポリエステル、PPSなどが好適である。これらはポリマーでも良いし、低粘度、低温塗布のため、オリゴマーやモノマーを用いても良い。もちろん、これらは目的に応じ、共重合されていても良いし、各種を混合しポリマーブレンドあるいはポリマーアロイとして用いることもできる。
【0033】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセチレン末端を有する樹脂、ビニル末端を有する樹脂、アリル末端を有する樹脂、ナジック酸末端を有する樹脂、シアン酸エステル末端を有する樹脂があげられる。これらは、一般に硬化剤や硬化触媒と組合せて用いることができる。また、適宜、これらの熱硬化性樹脂を混合して用いることも可能である。
【0034】
本発明に適した熱硬化性樹脂として、耐熱性、耐薬品性、力学特性に優れていることからエポキシ樹脂が好適に用いられる。特に、アミン類、フェノール類、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体、フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂としては脂環式エポキシ樹脂等があげられるが、これに限定されない。またこれらのエポキシ樹脂をブロモ化したブロモ化エポキシ樹脂も用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに代表される芳香族アミンを前駆体とするエポキシ樹脂は耐熱性が良好で強化繊維との接着性が良好なため本発明に最も適している。
【0035】
熱硬化性樹脂は硬化剤と組合せて、好ましく用いられる。例えばエポキシ樹脂の場合には、硬化剤はエポキシ基と反応しうる活性基を有する化合物であればこれを用いることができる。好ましくは、アミノ基、酸無水物基、アジド基を有する化合物が適している。具体的には、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が適している。具体的に説明すると、ジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため好んで用いられる。またジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため本発明には最も適している。アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ-p-アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ-p-アミノベンゾエートが好んで用いられ、ジアミノジフェニルスルホンに比較して、耐熱性に劣るものの、引張強度に優れるため、用途に応じて選択して用いられる。また、もちろん必要に応じ硬化触媒を用いることも可能である。また、塗液のポットライフを向上させる意味から、硬化剤や硬化触媒と錯体形成可能な錯化剤を併用することも可能である。
【0036】
また本発明では、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合して用いることも好適である。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物は、熱硬化性樹脂を単独で用いた場合より良好な結果を与える。これは、熱硬化性樹脂が、一般に脆い欠点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が可能であるのに対して、熱可塑性樹脂が、一般に強靭である利点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が困難であるという二律背反した特性を示すため、これらを混合して用いることで物性と成形性のバランスをとることができるためである。混合して用いる場合は、プリプレグを硬化させてなるFRPの力学特性の観点から熱硬化性樹脂を50質量%より多く含むことが好ましい。
【0037】
<ポリマー粒子>
また、本発明では、ポリマー粒子を含んだ塗液を用いると、得られるCFRPの靱性や耐衝撃性を向上させることができ、好ましい。この時、ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)は塗液温度よりも20℃以上高くすると、塗液中でポリマー粒子の形態を保持し易く、好ましい。ポリマー粒子のTgは温度変調DSCを用い、以下の条件で測定することができる。温度変調DSC装置としては、TA Instrments社製 Q1000などが好適であり、窒素雰囲気下、高純度インジウムで校正して用いることができる。測定条件は、昇温速度は2℃/分、温度変調条件は周期60秒、振幅1℃とすることができる。これで得られた全熱流から可逆成分を分離し、階段状シグナルの中点の温度をTgとすることができる。
【0038】
また、Tmは通常のDSCで昇温速度10℃/分で測定し、融解に相当するピーク状シグナルのピークトップ温度をTmとすることができる。
【0039】
また、ポリマー粒子としては、塗液に溶けないことが好ましく、このようなポリマー粒子としては、例えば、WO2009/142231パンフレット記載などを参照し、適切なものを用いることができる。より、具体的には、ポリアミドやポリイミドを好ましく用いることができ、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上できる、ポリアミドは最も好ましい。ポリアミドとしてはナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ナイロン66やナイロン6/12共重合体、特開平01-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)などを好適に用いることができる。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため、本発明の製造法では特に好ましい。また、球状であれば応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点でも好ましい態様である。
【0040】
ポリアミド粒子の市販品としては、SP-500、SP-10、TR-1、TR-2、842P-48、842P-80(以上、東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)社製)等を使用することができる。これらのポリアミド粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0041】
また、CFRPの層間樹脂層を高靭性化するためには、ポリマー粒子を層間樹脂層に留めておくことが好ましい。そのため、ポリマー粒子の数平均粒径は5~50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは7~40μmの範囲、さらに好ましくは10~30μmの範囲である。数平均粒径を5μm以上とすることで、粒子が強化繊維の束の中に侵入せず、得られる繊維強化複合材料の層間樹脂層に留まることができる。数平均粒径を50μm以下とすることで、プリプレグ表面のマトリックス樹脂層の厚みを適正化し、ひいては得られるCFRPにおいて、繊維質量含有率を適正化することができる。
【0042】
<塗液粘度>
本発明で用いる塗液としては、工程通過性・安定性の観点から最適な粘度を選択することが好ましい。具体的には、粘度を1~60Pa・sの範囲とすると、狭窄部出口での液垂れを抑制するとともに強化繊維ファブリックの高速走行性、安定走行性を向上させることができ、好ましい。ここで、粘度は歪み速度3.14s-1で液溜り部での塗液温度で測定したものを言う。測定装置としては平行円盤型やコーン型などの粘弾性測定装置を用いることができる。塗液の粘度はより好ましくは10~30Pa・sである。
【0043】
<塗布工程>
図1を参照して説明すると、塗工装置100における塗液2を強化繊維ファブリック1aに付与する方法は、強化繊維ファブリック1aを、ニップロール12により引き出し、強化繊維ファブリック1aを塗布部20に実質的に鉛直方向下向きZに通過させて、強化繊維ファブリック1aの両面に塗液2を付与するものである。これにより、塗液含浸強化繊維ファブリック1bを得ることができる。
【0044】
さらに、必要に応じ、塗液含浸強化繊維ファブリック1bの少なくとも片面に離型シート3を付与し、巻取り装置15で塗液含浸強化繊維ファブリック1bと離型シート3を同時に巻き取ってもよい。特に、塗液含浸強化繊維ファブリック1bに付与された塗液2が搬送ロール14に至っても、塗液2の一部または全部が塗液含浸強化繊維ファブリック1b表面に存在し、かつ流動性や粘着性が高い場合には、離型シート3により、塗液含浸強化繊維ファブリック1b表面の塗液2の一部が搬送ロール14に転写されるのを防ぐことができる。さらに、塗液含浸強化繊維ファブリック1b同士の接着も防ぐことができ、後工程での取り扱いが容易になる。離型シートとしては、前記効果を奏するものであれば特に制限は無いが、例えば、離型紙の他、有機ポリマーフィルム表面に離型剤を塗布したもの等を挙げることができる。
【0045】
次に
図2~4により、強化繊維ファブリック1aへの塗液2の付与工程について詳述する。
図2は、
図1における塗布部20を拡大した詳細横断面図である。塗布部20は、所定の隙間Dを開けて対向する壁面部材21a、21bを備え、壁面部材21a、21bの間には、鉛直方向下向きZ(すなわち強化繊維ファブリックの走行方向)に断面積が連続的に減少する液溜り部22と、液溜り部22の下方(強化繊維ファブリック1aの搬出側)に位置し、液溜り部22の上面(強化繊維ファブリック1aの導入側)の断面積よりも小さい断面積を有するスリット状の狭窄部23が形成されている。
図2において、強化繊維ファブリック1aは、紙面の奥行き方向に配列されている。
【0046】
塗布部20において、液溜り部22に導入された強化繊維ファブリック1aは、その周囲の塗液2を随伴しながら、鉛直方向下向きZに走行する。その際、液溜り部22の断面積は鉛直方向下向きZ(強化繊維ファブリック1aの走行方向)に向かって減少するため、随伴する塗液2は徐々に圧縮され、液溜り部22の下部に向かうにつれて塗液2の圧力が増大する。液溜り部22の下部の圧力が高くなると、前記随伴液流がそれ以上は下部に流動し難くなり、壁面部材21a、21b方向に流れ、その後、壁面部材21a、21bに阻まれ、上方へ流れるようになる。結果、液溜り部22内では強化繊維ファブリック1aの平面と、壁面部材21a、21b壁面に沿った循環流Tを形成する。これにより、仮に強化繊維ファブリック1aが毛羽を液溜り部22に持ち込んだとしても毛羽は循環流Tに沿って運動し、液圧の大きな液溜り部22下部や狭窄部23に近づくことができない。さらに下で述べるとおり、気泡が毛羽に付着することにより毛羽が循環流Tから上方に移動し、液溜り部22の上部液面付近を通過する。そのため、毛羽が液溜り部22の下部および狭窄部23に詰まることが防止されるだけでなく、滞留する毛羽は液溜り部22の上部液面から容易に回収することも可能となる。さらに、強化繊維ファブリック1aを高速で走行させた場合、前記の液圧はさらに増大するため、毛羽の排除効果がより高くなる。その結果、強化繊維ファブリック1aにより高速で塗液2を付与することが可能となり、生産性が大きく向上する。
【0047】
また、前記の増大した液圧により、塗液2が強化繊維ファブリック1aの内部に含浸しやすくなる効果がある。これは、強化繊維束のような多孔質体に塗液が含浸される際、その含浸度が塗液の圧力で増大する性質(ダルシーの法則)に基づく。これについても、強化繊維ファブリック1aをより高速で走行させた場合、液圧がより増大することから、含浸効果をより高めることができる。なお、塗液2は強化繊維ファブリック1aの内部に残留する気泡と気/液置換で含浸されるが、気泡は前記の液圧と浮力により強化繊維ファブリック1aの内部の隙間を通って、強化繊維ファブリックの面に平行な方向(鉛直方向上向き)に排出される。このとき、気泡は含浸してくる塗液2を押しのけずに排出されるため、含浸を阻害しない効果もある。また、気泡の一部は強化繊維ファブリック1aの表面から面外方向(法線方向)に排出されるが、この気泡も前記の液圧と浮力により速やかに鉛直方向上向きに排除されるため、含浸効果の高い液溜り部22の下部に留まらず、効率よく気泡の排出が進む効果もある。これらの効果により、強化繊維ファブリック1aに塗液2を効率よく含浸させることが可能となり、その結果、塗液2が均一に含浸された高品質の塗液含浸強化繊維ファブリック1bを得ることが可能となる。
【0048】
このとき、断面積が連続的に減少する鉛直方向高さH(
図6~9を参照)は10mm以上とする。これにより、強化繊維ファブリック1aによって随伴された塗液2が圧縮作用を受ける区間である、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの長さが確保され、液溜り部22の下部で発生する液圧を十分に増大させることができる。その結果、液圧により毛羽が狭窄部23に詰まるのを防止し、また液圧により塗液2が強化繊維ファブリック1aに含浸する効果を得ることができる。なお、
図2では液溜り部22全体が断面積が連続的に減少する領域となっている。また、
図2に示した態様は循環流Tの領域を大きく取れるため、毛羽が狭窄部に詰まることをより効果的に抑制することができる。前記した断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは、好ましくは50mm以上である。鉛直方向高さHの上限としては特に制限は無いが、装置重量や装置の大きさの増大を考慮すれば、200mm程度以下とすることが実用的である。
【0049】
さらに、前記の増大した液圧により、強化繊維ファブリック1aが隙間Dの中央に自動的に調心され、強化繊維ファブリック1aが液溜り部22や狭窄部23の壁面に直接擦過せず、ここでの毛羽発生を抑制する効果もある。これは、外乱などにより強化繊維ファブリック1aが隙間Dのどちらかに接近した場合、接近した側ではより狭い隙間に塗液2が押し込まれて圧縮されるため、接近した側で液圧がより増大し、強化繊維ファブリック1aを隙間Dの中央に押し戻すためである。
【0050】
狭窄部23は、液溜り部22の上面よりも断面積が小さく設計される。
図2や
図4から理解されるとおり専ら強化繊維ファブリックによる疑似平面の垂線方向の長さが小さい、すなわち部材間の間隔が狭いことで断面積は小さくなる。これは、前記のように狭窄部で液圧を高くすることで、含浸や自動調心効果を得るためである。また、狭窄部23の最上部の面の断面形状は、液溜り部22の最下部の面の断面形状と一致させることが、強化繊維ファブリック1aの走行性や塗液2の流れ制御の観点から好ましいが、必要に応じ狭窄部23の方を若干大きくしてもよい。
【0051】
ここで、
図2の塗布部20では、強化繊維ファブリック1aが完全に鉛直方向下向きZ(水平面から90度)に走行しているが、これに限定されず、前記の毛羽回収、気泡の排出効果が得られ、強化繊維ファブリック1aが安定して連続走行可能な範囲で、実質的に鉛直方向下向きであればよい。
【0052】
また、強化繊維ファブリック1aに付与される塗液2の総量は、狭窄部23の隙間Dで制御可能であり、例えば、強化繊維ファブリック1aに付与する塗液2の総量を多くしたい(目付けを大きくしたい)場合は、隙間Dが広くなるよう、壁面部材21a、21bを設置すればよい。
【0053】
図3は、塗布部20を、
図2のAの方向から見た下面図である。塗布部20には、強化繊維ファブリック1aの配列方向両端から塗液2が漏れるのを防ぐための側板部材24a、24bが設けられており、壁面部材21a、21bと側壁部材24a、24bに囲われた空間に狭窄部23の出口25が形成されている。ここで、出口25はスリット状をしており、断面アスペクト比(
図3のY/D)は塗液2を付与したい強化繊維ファブリック1aの形状に合わせて設定すればよい。
【0054】
図4aは塗布部20を、Bの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。
【0055】
図4bは隙間26での塗液2の流れを示している。隙間26が大きいと塗液2には、Rの向きに渦流れが発生する。この渦流れRは、液溜り部22の下部では外側に向かう流れ(Ra)となるため、強化繊維ファブリックの端部を変形させてしまう場合や特に強化繊維ファブリックが織物の場合には強化繊維間の間隔を拡げてしまい、そのために塗液含浸強化繊維ファブリックとしたときに強化繊維の配列ムラを発生する可能性がある。一方、液溜り部22の上部では、内側に向かう流れ(Rb)となるため、強化繊維ファブリック1aが幅方向に圧縮され、その端部が折れてしまう場合がある。
【0056】
そこで、本発明においては、隙間26を小さくする幅規制を行い、端部での渦流れの発生を抑制することが好ましい。具体的には、液溜り部22の幅L、すなわち、側板部材24aと24bの間隔Lは、狭窄部23の直下で測定した強化繊維ファブリックの幅Wと以下の関係を満たすよう構成することが好ましい。
L≦W+10(mm)
これにより、端部での渦流れ発生が抑制され、強化繊維ファブリック1aの端部での変形や折れを抑制でき、塗液含浸強化繊維ファブリック1bの全幅(W)にわたって均一に強化繊維が配列された、高品位で安定性の高い塗液含浸強化繊維ファブリック1bを得ることができる。さらに、この技術をプリプレグに適用した場合には、プリプレグの品位、品質を向上させるのみならず、これを用いて得られるFRPの力学特性や品質を向上させることができる。LとWの関係はより好ましくは、L≦W+2(mm)とすると、さらに強化繊維ファブリックの端部での変形や折れを抑制することができる。
【0057】
また、Lの下限は、W-5(mm)以上となるよう調整することが、塗液含浸強化繊維ファブリック1bの幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。
【0058】
なお、この幅規制は、液溜り部22下部の高い液圧による渦流れR発生を抑制する観点から、少なくとも液溜り部22の下部(
図4aのGの位置)で行うことが好ましい。さらに、この幅規制はより好ましくは、液溜り部22の全域で行うと、渦流れRの発生をほぼ完全に抑制することができ、その結果、強化繊維ファブリックの端部での変形や折れをほぼ完全に抑制することが可能となる。
【0059】
また、前記幅規制は、前記隙間26の渦流れ抑制の観点からは、液溜り部22だけでもよいが、狭窄部23も同様に行うと塗液含浸強化繊維ファブリック1bの側面に過剰な塗液2が付与されることを抑制する観点から好ましい。
【0060】
<幅規制機構>
前記では幅規制を側板部材24a、24bが担う場合を示したが、
図5に示すように、側壁部材24a、24b間に幅規制機構27a、27bを設け、かかる機構で幅規制を行うこともできる。これにより、幅規制機構によって規制される幅を自在に変更可能とすることで一つの塗布部により、種々の幅の塗液含浸強化繊維ファブリックを製造できる観点から好ましい。ここで、狭窄部の直下における強化繊維ファブリックの幅(W)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅(L2)との関係はL2≦W+10(mm)とすることが好ましく、より好ましくは、L2≦W+2(mm)である。また、L2の下限は、W-5(mm)以上となるよう調整することが、塗液含浸強化繊維ファブリック1bの幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。幅規制機構の形状および材質に特に制限は無いが、板形状のブッシュであると簡便であり、好ましい。また、上部、すなわち液面に近い場所では壁面部材21a、21bとの間隔よりも小さい幅(
図5参照。「Z方向からみた図」中、幅規制機構の上下方向の長さを指す)を有することで、塗液の水平方向の流れを妨げないようにでき、好ましい。一方、幅規制機構の中間部から下部にかけては塗布部の内部形状に沿った形状とすることが液溜り部での塗液の滞留を抑制でき、塗液の劣化を抑制できることから好ましい。この意味から、幅規制機構は狭窄部23まで挿入されることが好ましい。
図5は、幅規制機構として板形状ブッシュの例を示しているが、ブッシュの中間より下部が液溜り部22のテーパー形状に沿い、狭窄部23まで挿入される例を示している。
図5にはL2が液面から出口まで一定の例を示しているが、幅規制機構の目的を達成する範囲で部位によって規制する幅を変更してもよい。幅規制機構は任意の方法で塗布部20に固定することができるが、板形状ブッシュの場合には、上下方向で複数の部位で固定することで、高液圧による板形状ブッシュの変形による規制幅の変動を抑制することができる。例えば、上部はステーを用い、下部は塗布部に差し込むようにすると、幅規制機構による幅の規制が容易であり、好ましい。
【0061】
<液溜り部の形状>
前記で詳述したように、本発明においては、液溜り部22で強化繊維ファブリックの走行方向に断面積が連続的に減少することで、強化繊維ファブリックの走行方向に液圧を増大させることが重要であるが、ここで強化繊維ファブリックの走行方向に断面積が連続的に減少するとは、走行方向に連続的に液圧を増大可能であれば、その形状には特に制限は無い。液溜り部の横断面図において、テーパー状(直線状)であったり、ラッパ状などのように曲線的な形態を示してもよい。また、断面積減少部は液溜り部全長にわたって連続してもよいし、本発明の目的、効果が得られる範囲であれば、一部に断面積が減少しない部分や逆に拡大する部分を含んでいてもよい。これらについて、以下に
図6~9で例を挙げて詳述する。
【0062】
図6は、
図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21c、21dの形状が異なる以外は、
図2の塗布部20と同じである。
図6の塗布部20bのように、液溜り部22が、鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域22aと、断面積が減少しない領域22bに分かれていてもよい。このとき、前記したように、断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは10mm以上であり、好ましくは50mm以上であると、毛羽詰まり防止と含浸効果を向上させることができる。
【0063】
ここで、
図2の塗布部20や
図6の塗布部20bのように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aをテーパー状とする場合、テーパーの開き角度θは小さい方が好ましく、具体的には鋭角(90°以下)にすることが好ましい。これにより、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22a(テーパー部)で塗液2の圧縮効果を高め、高い液圧を得やすくすることができる。
【0064】
図7は、
図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21e、21fの形状が2段テーパー状となっている以外は、
図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを2段以上の多段テーパー部で構成してもよい。このとき、狭窄部23に最も近いテーパー部の開き角度θを鋭角にするのが、前記の圧縮効果を高める観点から好ましい。またこの場合も、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの高さHを10mm以上にすることが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは50mm以上である。
図7のように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを多段のテーパー部にすることで、液溜り部22に貯留できる塗液2の体積を維持しつつ、狭窄部23に最も近いテーパー部の角度θをより小さくすることができる。これにより液溜り部22の下部で発生する液圧がより高くなり、毛羽の排除効果や塗液2の含浸効果をさらに高めることが可能となる。
【0065】
図8は、
図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21g、21hの形状が階段状となっている以外は、
図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の最下部に断面積が連続的に減少する領域22aがあれば、本発明の目的である液圧の増大効果は得られるため、液溜り部22の他の部分に断面積が断続的に減少する領域22cを含んでいてもよい。液溜り部22を
図8のような形状にすることで、断面積が連続的に減少する領域22aの形状を維持しつつ、液溜り部22の奥行きBを拡大して貯留できる塗液2の体積を大きくすることができる。その結果、塗布部20dに塗液2を連続して供給できない場合でも、長時間強化繊維ファブリック1aに塗液2を付与し続けることが可能となり、塗液含浸強化繊維ファブリック1bの生産性がより向上する。
【0066】
図9は、
図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21i、21jの形状がラッパ状(曲線状)となっている以外は、
図6の塗布部20bと同じである。
図6の塗布部20bでは、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aはテーパー状(直線状)だが、これに限定されず、例えば
図9のようにラッパ状(曲線状)でもよい。ただし、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部は滑らかに接続することが好ましい。これは、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部の境界に段差があると、強化繊維ファブリック1aが段差に引っ掛かり、この部分で毛羽が発生する懸念があるためである。また、このように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域をラッパ状とする場合は、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの最下部における仮想接線の開き角度θを鋭角にするのが好ましい。
【0067】
なお、上記は滑らかに断面積が減少する例をあげて説明したが、本発明の目的を損なわない限り、本発明において液溜り部の断面積は必ずしも滑らかに減少しなくともよい。
【0068】
図10は本発明とは別の実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。本発明の実施形態とは異なり、
図10の液溜り部32は鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域を含まず、狭窄部23との境界33で断面積が不連続で急激に減少する構成である。このため、強化繊維ファブリック1aが詰まり易い。
【0069】
また、塗布部内で強化繊維ファブリックを複数本のバーに接触させることで含浸効果を向上させることも可能である。
図11にバー(35a、35bおよび35c)を3本用いた例を示しているが、バーは本数が大きいほど、強化繊維ファブリックとバーの接触長が長いほど、接触角が大きいほど、含浸度を向上させることができる。
図11の例では含浸度を90%以上とすることが可能である。なお、係る含浸効果の向上手段は複数種を組み合わせて用いても良い。
【0070】
<走行機構>
強化繊維ファブリックや本発明の塗液含浸強化繊維ファブリックを搬送するための走行機構としては、公知のローラー等を好適に用いることができる。本発明では強化繊維ファブリックが鉛直下向きに搬送されるため、塗布部を挟んで上下にローラーを配置することが好ましい。
【0071】
また、本発明では、強化繊維の配列乱れや毛羽立ちを抑制するため、強化繊維ファブリックの走行経路はなるべく直線状であることが好ましい。また、塗液含浸強化繊維ファブリックと離型シートの積層体であるシート状一体物の搬送工程において、屈曲部を有すると、内層と外層の周長差による皺が発生する場合があるため、シート状一体物の走行経路もなるべく直線状であることが好ましい。この観点からは、シート状一体物の走行経路中では、ニップロールを用いる方が好ましい。
【0072】
S字ロールとニップロールのどちらを用いるかは、製造条件や製造物の特性に応じ、適宜選択することが可能である。
【0073】
<高張力引き取り装置>
本発明では、塗布部から塗液含浸強化繊維ファブリックを引き出すための高張力引き取り装置を塗布部より工程下流に配置することが好ましい。これは、塗布部で、強化繊維ファブリックと塗液の間で高い摩擦力、せん断応力が発生するため、それに打ち勝って塗液含浸強化繊維ファブリックを引き出すためには、工程下流で高い引き取り張力を発生させることが好ましいためである。高張力引き取り装置としては、ニップロールやS字ロールなどを用いることができるが、いずれもロールと塗液含浸強化繊維ファブリックの間の摩擦力を高めることで、スリップを防止し、安定した走行を可能とすることができる。このためには、摩擦係数の高い材料をロール表面に配したり、ニップ圧力やS字ロールへの塗液含浸強化繊維ファブリックの押し付け圧を高くすることが好ましい。スリップを防止する観点からは、S字ロールの方がロール径や接触長などで容易に摩擦力を制御でき、好ましい。
【0074】
<離型シート供給装置、ワインダー>
本発明を用いてのプリプレグやFRPの製造においては適宜離型シート供給装置やワインダーを用いることができ、そのようなものとしては公知のものを使用することができるが、いずれも巻き出し、あるいは巻き取り張力を巻き出しあるいは巻き取り速度にフィードバックできる機構を備えていることがシートの安定走行の観点から好ましい。
【0075】
<追含浸>
所望の含浸度に調整するために、本発明にさらに塗布後に別途、含浸装置を用いて更に含浸度を高める手段を組み合わせることも可能である。ここでは、塗布部での含浸と区別するために、塗布後に追加で含浸することを追含浸、そのための装置を追含浸装置と称することとする。追含浸装置として用いられる装置には特に制限は無く、目的に応じて公知のものから適宜選択することができる。例えば、特開2011-132389号公報やWO2015/060299パンフレット記載のように、塗液含浸強化繊維ファブリックを、熱板で予熱し塗液含浸強化繊維ファブリック上の樹脂を十分軟化させた後、やはり加熱されたニップロールで加圧する装置を用いることで含浸を進めることができる。予熱のための熱板温度やニップロール表面温度、ニップロールの線圧、ニップロールの直径・数は所望の含浸度になるように適宜選択することができる。また、WO2010/150022パンフレット記載のようなプリプレグシートがS字型に走行する“S-ラップロール”を用いることも可能である。本発明では“S-ラップロール”を単に“S字ロール”と称することとする。WO2010/150022パンフレット
図1ではプリプレグシートがS字型に走行する例が記載されているが、含浸が可能であれば、U字型や、V型またはΛ型のようにシートとロールの接触長を調整してもよい。また、含浸圧を高め含浸度を上げる場合には、対向するコンタクトロールを付加することも可能である。さらにWO2015/076981パンフレット
図4記載のように、“S-ラップロール”に対向してコンベヤーベルトを配することで含浸効率を向上させ、プリプレグの製造速度の高速化をはかることも可能である。また、WO2017/068159パンフレットや特開2016-203397号公報などに記載のように、含浸前にプリプレグに超音波を付与し、プリプレグを急速昇温することで、含浸効率を向上させることも可能である。また、特開2017-154330号公報記載のように、超音波発生装置で複数の“しごき刃”振動させる含浸装置を用いることも可能である。また、特開2013-22868号公報記載のようにプリプレグを折り畳んで含浸することも可能である。
【0076】
<簡易追含浸>
上記では、従来の追含浸装置を適用する例を示したが、塗布部直下では未だ塗液含浸強化繊維ファブリックの温度が高い場合があり、そのような場合には塗布部を出て後、あまり時間が経っていない段階で追含浸操作を加えると、塗液含浸強化繊維ファブリックを再昇温するための熱板などの加熱装置を省略あるいは簡略化し、含浸装置を大幅に簡略化・小型化することも可能である。このように塗布部直下に位置させる含浸装置を簡易追含浸装置と称することとする。簡易追含浸装置としては加熱ニップロールや加熱S字ロールを用いることができるが、通常の含浸装置に比較し、ロール径や設定圧力、プリプレグとロールの接触長を減じることができ、装置を小型化できるだけでなく消費電力なども減じることができ、好ましい。
【0077】
また、塗液含浸強化繊維ファブリックが簡易追含浸装置に入る前に、塗液含浸強化繊維ファブリックに離型シートを付与すると、プリプレグの走行性が向上し好ましい。
図15に簡易追含浸装置を組み込んだ塗液含浸強化繊維ファブリックの製造装置の一例を示している。
【0078】
<塗液含浸強化繊維ファブリック>
本発明の製造方法で得られる塗液含浸強化繊維ファブリックにおいて塗液の含浸度は10%以上であることが望ましい。塗液の含浸度は、採取した塗液含浸強化繊維ファブリックを裂き、内部を目視することで含浸の有無を確認することができる。より定量的には、含浸度が低い場合は剥離法(目安として含浸率80%未満)により評価し、含浸度が高い場合(目安として含浸率80%以上)は塗液含浸強化繊維ファブリックの吸水率で評価することができる。剥離法は、採取したプリプレグを粘着テープで挟み、これを剥離し、マトリックス樹脂が付着した強化繊維とマトリックス樹脂が付着していない強化繊維を分離する。そして、投入した強化繊維シート全体の質量に対するマトリックス樹脂が付着した強化繊維の質量の比率を剥離法によるマトリックス樹脂の含浸率とする。吸水率は、特表2016-510077号公報に記載の方法にならい評価する。
【0079】
<プリプレグ幅>
FRPの前駆体の一種であるプリプレグは本発明で得られる塗液含浸強化繊維ファブリックの一形態であるため、本発明をFRP用途に適用する場合として、塗液含浸強化繊維ファブリックをプリプレグと称して以下説明する。
【0080】
プリプレグの幅には、特に制限は無く、幅が数十cm~2m程度の広幅でも良いし、幅数mm~数十mmのテープ状でも良く、用途に応じ幅を選択することができる。近年では、プリプレグの積層工程を効率化するため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が広く用いられるようになってきており、これに適合した幅とすることも好ましい。ATLでは幅が約7.5cm、約15cm、約30cm程度の細幅プリプレグが用いられることが多く、AFPでは約3mm~約25mm程度のプリプレグテープが用いられることが多い。
【0081】
所望の幅のプリプレグを得る方法には特に制限は無く、幅1m~2m程度の広幅プリプレグを細幅にスリットする方法を用いることができる。また、スリット工程を簡略化あるいは省略するため、最初から所望の幅となるよう本発明で用いる塗布部の幅を調整することもできる。例えば、ATL用に30cm幅の細幅プリプレグを製造する場合には、塗布部出口の幅をそれに応じて調整すればよい。また、これを効率的に製造するためには、製品幅を30cmとして製造することが好ましく、係る製造装置を複数個並列させると、同一の走行装置・搬送装置、各種ロール、ワインダーを用いて複数ラインのプリプレグを製造することができる。
図17には一例として、塗布部を5つ並列方向に連結した例を示している。この時、5枚の強化繊維ファブリック416は、それぞれ独立した5つの強化繊維予熱装置420、塗布部430を通過し、5枚のプリプレグ471が得られるようにしても良いし、強化繊維予熱装置420、塗布部430は並列方向に一体化されていてもよい。この場合には、塗布部430中で幅規制機構、塗布部出口幅を独立に5つ備えればよい。
【0082】
<スリット>
プリプレグのスリット方法にも特に制限は無く、公知のスリット装置を用いることができる。プリプレグを一旦巻き取った後、改めてスリット装置に設置し、スリットを行っても良いし、効率化のため、プリプレグ一旦巻き取ることなくプリプレグ作製工程から連続してスリット工程を配置しても良い。また、スリット工程は1m以上の広幅プリプレグを直接、所望の幅にスリットしても良いし、一旦、30cm程度の細幅プリプレグにカット・小分けした後、これを改めて所望の幅にスリットしても良い。
【0083】
なお、上記の細幅プリプレグ、プリプレグテープを複数の塗布部を並列させた場合には、それぞれ独立に離型シートを供給しても良いし、1枚の広幅離型シートを供給し、これに複数枚のプリプレグを積層させても良い。このようにして得られるプリプレグの幅方向の端部を切り落とし、ATLやAFPの装置に供給することができる。この場合には切り落とす端部の大部分が離型シートとなるため、スリットカッター刃に付着する塗液成分(CFRPの場合には樹脂成分)を減じることができ、スリットカッター刃の清掃周期を延長できるというメリットもある。
【0084】
<本発明の変形態様(バリエーション)および応用態様>
本発明においては、塗布部を複数個用い、更なる製造工程の効率化や高機能化を図ることができる。
【0085】
例えば、複数枚の塗液含浸強化繊維ファブリックを積層させるように複数の塗布部を配置することができる。
図16には一例として、2つの塗布部を用いての塗液含浸強化繊維ファブリックの積層を行う態様の例を示している。第1の塗布部431と第2の塗布部432から引き出された2枚の塗液含浸強化繊維ファブリック471は方向転換ロール445を経て、その下方の積層ロール447で離型シート446とともに積層される。塗液含浸強化繊維ファブリックと方向転換ロール間に離型シートを位置させると、塗液含浸強化繊維ファブリックがニップロールに貼りつくことを抑制し、走行を安定化することができ、好ましい。
図16では、2つの方向転換ロール445に離型シート446をサーキット走行させている装置を例示している。なお、方向転換ロールは、離型処理の施された方向転換ガイド等で代用することも可能である。
図16では高張力引き取り装置444は塗液含浸強化繊維ファブリック471の積層後に配置しているが、積層前に配置することももちろん可能である。
【0086】
このような積層型の塗液含浸強化繊維ファブリックとすることで、プリプレグ積層の効率化を図ることができ、例えば厚ものFRPを作製する場合に有効である。また、薄ものプリプレグを多層積層することで、FRPの靱性や耐衝撃性が向上することが期待でき、本製造方法を適用することで、薄もの多層積層プリプレグを効率的に得ることができる。さらに、異なる種類のプリプレグを容易に積層することで、機能性を付加したヘテロ結合プリプレグを容易に得ることができる。この場合、強化繊維の種類や繊度、フィラメント数、力学物性、繊維表面特性などを変更することが可能である。また、塗液(プリプレグの場合は樹脂)も異なるものを用いることが可能である。例えば、厚みの異なるプリプレグや力学物性が異なるものを積層したヘテロ結合プリプレグとすることができる。また、第1の塗布部で力学物性の優れる樹脂を付与し、第2の塗布部でタック性に優れる樹脂を付与し、これらを積層することで力学物性とタック性を両立できるプリプレグを容易に得ることができる。また、逆に表面にタック性の無い樹脂を配置することも可能である。また、第1の塗布部で粒子なしの樹脂を付与し、第2の塗布部で粒子含有樹脂を付与することで、表面に粒子を有するプリプレグを容易に得ることもできる。
【0087】
別の様態としては、
図17で例示し前記したように、塗布部を強化繊維ファブリックの走行方向に対し、複数個並列させる、すなわち複数個の塗布部を強化繊維ファブリックの幅方向に並列させることができる。これにより、細幅やテープ状の塗液含浸強化繊維ファブリックの製造を効率化することができる。また、塗布部毎に、強化繊維や塗液を変更すると幅方向に性質の異なる塗液含浸強化繊維ファブリックを得ることもできる。
【0088】
また、別の様態としては、強化繊維ファブリックの走行方向に対して塗布部を直列に複数個配置させることができる。
図18には一例として、2つの塗布部を直列に配置させた例を示している。第1の塗布部431と第2の塗布部432の間には高張力引き取り装置448を配置させると強化繊維ファブリック416の走行を安定化させる観点から好ましいが、塗布条件、工程下流の引き取り条件によっては省略することも可能である。また、塗布部から引き出した塗液含浸強化繊維ファブリックと高張力引き取り装置間に離型シートを位置させると、塗液含浸強化繊維ファブリックがニップロールに貼りつくことを抑制し、走行を安定化することができ、好ましい。
図18では、高張力引き取り装置448をニップロールとし、また、2つのロールに離型シート446をサーキット走行させている装置を例示している。
【0089】
このような直列型の配置とすることで、塗液含浸強化繊維ファブリックの厚み方向に塗液種類を変えることができる。また、同じ種類の塗液であっても、塗布部によって塗布条件を変えることで、走行安定性や高速走行性などを向上することもできる。例えば、第1の塗布部で力学物性の優れる樹脂を付与し、第2の塗布部でタック性に優れる樹脂を付与し、これらを積層することで力学物性とタック性を両立できるプリプレグを容易に得ることができる。また、逆に表面にタック性の無い樹脂を配置することも可能である。また、第1の塗布部で粒子なしの樹脂を付与し、第2の塗布部で粒子含有樹脂を付与することで、表面に粒子を有するプリプレグを容易に得ることもできる。
【0090】
以上のように、複数の塗布部を配置させる様態をいくつか示したが、塗布部の数に特に制限は無く、目的に応じ種々、適用することができる。また、これらの配置を複合させることももちろん可能である。更に、塗布部の各種サイズ・形状や塗布条件(温度など)も混合して用いることもできる。
【0091】
以上述べてきたように、本発明の製造方法は製造効率化・安定化のみならず、製品の高性能化・機能化も可能であり、拡張性にも優れた製造方法である。
【0092】
<塗液供給機構>
本発明において塗布部内に塗液は貯留されているが、塗工が進行するので塗液を適宜補給することが好ましい。塗液を塗布部に供給する機構には特に制限は無く、公知の装置を使用することができる。塗液は連続的に塗布部に供給することが、塗布部の上部液面を乱さず、強化繊維ファブリックの走行を安定化でき、好ましい。例えば、塗液を貯留する槽から自重を駆動力として供給したり、ポンプなどを用いて連続的に供給することができる。ポンプとしては、ギヤポンプやチューブポンプ、圧力ポンプなど塗液の性質に応じ適宜使用することができる。また、塗液が室温で固体の場合には、貯留層上部にメルターを備えておくことが好ましい。また、連続押し出し機などを用いることもできる。また、塗液供給量は塗液の塗布部上部の液面がなるべく一定となるよう、塗布量に応じ連続供給できる機構を備えることが好ましい。このためには、例えば液面高さや塗布部質量などをモニタリングし、それを供給装置にフィードバックするような機構が考えられる。
【0093】
<オンラインモニタリング>
また、塗布量のモニタリングのために、塗布量をオンラインモニタリングできる機構を備えることが好ましい。オンラインモニタリング方法についても特に制限は無く、公知のものを使用可能である。例えば、厚みを計測する装置として、例えばベータ線計などを用いることができる。この場合は、強化繊維ファブリック厚みと塗液含浸強化繊維ファブリックの厚みを計測し、その差分を解析することで塗布量を見積もることが可能である。オンラインモニタリングされた塗布量は、直ぐに塗布部にフィードバックされ、塗布部の温度や狭窄部23の隙間D(
図2参照)の調整に利用することができる。塗布量モニタリングは、もちろん欠点モニタリングとしても使用可能である。厚み計測位置としては、例えば
図12で言えば、方向転換ロール419近傍で強化繊維ファブリック416の厚みを計測し、塗布部430から方向転換ロール441の間で塗液含浸強化繊維ファブリックの厚みを計測することができる。また、赤外線、近赤外線、カメラ(画像解析)などを用いたオンライン欠点モニタリングを行うことも好ましい。
【0094】
本発明で用いる塗工装置は、強化繊維ファブリックを実質的に鉛直方向下向きに走行させる走行機構と、塗布機構を有し、前記塗布機構はその内部に塗液を貯留可能であり、さらに互いに連通された液溜り部と狭窄部を備えており、前記液溜り部は、強化繊維ファブリックの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部は、スリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有するものである。
【0095】
以下では、塗液含浸強化繊維ファブリックの一態様であるプリプレグの例に、当該塗工装置を用いたプリプレグの製造例を具体的に挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、以下は例示であり、本発明は以下に説明される態様に限定して解釈されるものではない。
【0096】
図12は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の例の概略図である。強化繊維ファブリックロール412はクリール411に掛けられ、ニップロール413により強化繊維ファブリック416は引き出され、上方に導かれる。この時、クリールに付与されたブレーキ機構により一定張力で強化繊維ファブリック416を引き出すことができる。なお、
図12では強化繊維ファブリックロール412は1本しか描画されていないが、実際には、複数個とすることができる。その後、平滑化装置418を経て、方向転換ロール419を経て、鉛直下向きに搬送される。なお、平滑化装置418は、目的に応じ、適宜スキップすることもできるし、装置を配置しないこともできる。強化繊維ファブリック416は方向転換ロール419から鉛直下向きに走行し、強化繊維予熱装置420、塗布部430を経て方向転換ロール441に到達する。塗布部430は本発明の目的を達成する範囲で任意の塗布部形状を採用することができる。例えば、
図2、
図6~
図9のような形状が挙げられる。また、必要に応じ
図5のようにブッシュを備えることもできる。さらに、
図11のように、塗布部内にバーを備えることもできる。
図12では、離型シート(上)供給装置442から巻き出された離型シート446を方向転換ロール441上で塗液含浸強化繊維ファブリック、この場合はプリプレグ471に積層し、シート状一体物とすることができる。さらに、離型シート(下)供給装置443から巻き出された離型シート446を前記シート状一体物の下面に挿入することができる。ここでは、離型シートは離型紙や離型フィルムなどを用いることができる。これを高張力引取り装置444で引き取ることができる。
図12では高張力引き取り装置444としてニップロールを描画している。その後、シート状一体物は熱板451と加熱ニップロール452を備えた追含浸装置450を経て、冷却装置461で冷却された後、引き取り装置462で引き取られ、上側の離型シート446を剥がした後、ワインダー464で巻き取り、製品となるプリプレグ/離型シートからなるシート状一体物472を得ることができる。方向転換ロール441からワインダー464までシート状一体物は基本直線状に搬送されるため、皺の発生を抑制することができる。なお、
図12では、塗液供給装置、オンラインモニタリング装置の描画は省略してある。
【0097】
図13は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。
図13では、クリール411から強化繊維ファブリック416を引き出し、そのまま平滑化装置418まで直線状に搬送され、その後、強化繊維ファブリック416を上方に導く点が
図12とは異なる。このような構成とすることで、上方に装置を設置することが不要となり、足場などの設置を大幅に簡略化することができる。
【0098】
図14は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。
図14では、階上にクリール411を設置し、強化繊維ファブリック416の走行経路を更に直線化している。
【0099】
図15は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。
図12で示した通常の追含浸装置の代わりに、簡易追含浸装置を用いた例を示している。
図15においては、簡易追含浸装置453は塗布部430の直下に設置されているため、塗液含浸強化繊維ファブリック471が高温状態で簡易追含浸装置453に導かれるため、含浸装置を簡略化・小型化できる。
図15では、一例として加熱ニップロール454を描画しているが、目的によっては、もちろん小型の加熱S字ロールでも良い。簡易追含浸装置を用いるとプリプレグ製造装置全体を非常にコンパクトにすることができることもメリットである。
【0100】
図19は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。
図19では、高張力引き取り装置として高張力引取りS字ロール449、追含浸装置として“S-ラップロール”型の加熱S字ロール455を2ロール-2セット(合計4個)用いた例を描画しているが、ロール数は目的に応じ、もちろん増減できる。また、
図19では含浸効果を高めるためのコンタクトロール456も描画しているが、目的により省略することももちろん可能である。
【0101】
図20は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。この例では“S-ラップロール”型の加熱S字ロールを高張力引き取り装置と兼用する例を示している。プリプレグ製造装置全体を非常にコンパクトにすることができるメリットがある。
【0102】
本発明は、航空・宇宙用材料、自動車材料、産業用材料、圧力容器、建築材料、筐体、医療用途、スポーツ用途など様々な分野において、軽量性と高い力学特性を両立しうる優れた材料を提供することができるが、FRP中間基材表面やFRP表面に機能性を持たせるための表面材(Surfacing material)を製造するために活用することもできる。
【0103】
従来知られた表面材としては、以下のものを例示することができる。国際公開WO2007/127032パンフレットには、耐紫外線性および耐摩耗特性を有する表面材が開示されている。これは脂環式エポキシ樹脂、熱硬化樹脂、硬化剤および/または硬化触媒、充填剤、顔料、流動調節剤を含むマトリックス樹脂フィルムと担体(ポリエステルマット)とをラミネートして一体化させたものである。また、国際公開WO2011/075344パンフレット、国際公開WO2013/086063パンフレット、国際公開WO2014/088866パンフレット、国際公開WO2017/095810パンフレットには耐紫外線性を持った層と導電層(導電能を持たせるため金属箔、金属ファブリックなどを利用する)を有した表面材が開示されている。さらに、国際公開WO2010/093598パンフレット、国際公開WO2013/086063パンフレットには導電能を持たせるためにて銀フレークや銀ナノワイヤー、炭素ナノチューブ(CNT)、導電性カーボンブラック、銀皮膜ガラスバルーンなどを含んだ層を設けた例が開示されている。また、国際公開WO2017/112766パンフレットには更に金型(モールド)からの離型性を向上させるために離型シートがラミネートされた表面材が開示されている。
【0104】
上記従来技術では、いずれも担体(有機ポリマー繊維からなる織物や不織布、ガラス繊維からなる織物や不織布など)と機能性を持たせたマトリックス樹脂フィルムと導電層(金属箔、金属ファブリックなど)とをラミネートして一体化させているため製造プロセスが煩雑であったが、本技術を用いると表面材の製造を効率化することができる。
【0105】
例えば
図1において、強化繊維ファブリック1aとして担体(有機ポリマー繊維からなる織物や不織布、ガラス繊維からなる織物や不織布など)、塗液2に含まれる樹脂として国際公開WO2007/127032パンフレットや国際公開WO2010/093598パンフレットや国際公開WO2013/086063パンフレットの記載を参考にした樹脂を用いると、極めて簡便に塗液含浸強化繊維1bとして表面材を製造することができる。このとき、離型シート3は必要に応じて用いればよいし、導電化処理された離型シートを用いることもできる。
【0106】
また、導電性表面材を製造するには、例えば
図21において、強化繊維ファブリック416として上記パンフレット記載の担体(有機ポリマー繊維からなる織物や不織布、ガラス繊維からなる織物や不織布など)を用い、離型シート(下)供給装置443に上記パンフレット記載の導電層(金属箔、金属ファブリックなど)を配置することで、導電性表面材を得ることができる。また、
図16のように担体と導電層を別の塗布部431、432に導き、マトリクス樹脂を付与した後、それを工程下流で積層することも可能である。また、ひとつの塗布部に、強化繊維ファブリックと導電層として金属箔や導電処理された離型シートとを導き、マトリックス樹脂を付与して、一体的に導電性表面材を得ることも可能である。
【0107】
また、
図21、
図16において離型シート(上)供給装置442に離型シートを配置すれば、導電性を有しかつ離型性のある表面材を得ることができる。
【0108】
以下に、より具体的な例を記載する。
【0109】
表面材の担体となる強化繊維ファブリックとしては、表面材をなるべく薄くする観点から、目付けが5~50g/m2であることが好ましく、より好ましくは10~30g/m2である。
【0110】
マトリックス樹脂としては、耐紫外線性や耐摩耗性の観点から、国際公開WO2007/127032パンフレットに記載されたような脂環式エポキシ樹脂を用いることができ、また、塗液の粘度の調整の目的で適宜でその予備重合物を用いることができる。また、マトリックス樹脂にチキソトロピー性を与えるためシリカや各種セラミックス微粒子などを塗液に含有せしめることができる。さらに、各種顔料を用いることは意匠性を高める上で好ましい。
【0111】
マトリックス樹脂にあっては、更に含浸性を付加する観点から、国際公開WO2013/086063パンフレットに記載されたような樹脂、また更に、導電性を付加・向上させる観点から国際公開WO2010/093598パンフレットや国際公開WO2013/086063パンフレットに記載されたような樹脂を用いることができる。また、国際公開WO2011/075344パンフレット、国際公開WO2014/088866パンフレット、国際公開WO2017/095810パンフレットに記載されたような樹脂を用いることもできる。
【0112】
上記したように、本発明を利用することで表面材を得ることができるが、本発明の適用範囲は上記の例には限定されず、目的に応じ、担体、マトリックス樹脂、導電層、離型シートなどを設計、選択することができる。
【実施例】
【0113】
<強化繊維ファブリック>
・炭素繊維織物1(東レ製“トレカ(登録商標)”クロス C6343B)
炭素繊維:“トレカ(登録商標)”T300B(3K))
織組織:平織
経密度:12.5本/25mm、緯密度:12.5本/25mm
目付け:198g/m2、厚み:0.23mm
・炭素繊維織物2(東レ製“トレカ(登録商標)”クロス CK6273C)
炭素繊維:“トレカ(登録商標)”T700S(12K)
織組織:平織
経密度:3本/25mm、緯密度:3本/25mm
目付け:192g/m2、厚み:0.21mm。
【0114】
<塗液>
・熱硬化性エポキシ樹脂組成物1(塗液A):
エポキシ樹脂(芳香族アミン型エポキシ樹脂+ビスフェノール型エポキシ樹脂の混合物)、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン)、ポリエーテルスルホンの混合物であり、ポリマー粒子は含有していない。この熱硬化性エポキシ樹脂1の粘度をTA Instruments社製ARES-G2を用いて、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/分で測定したところ、75℃で50Pa・s、90℃で15Pa・s、105℃で4Pa・sであった。
【0115】
・熱硬化性エポキシ樹脂組成物2(塗液B):
エポキシ樹脂(芳香族アミン型エポキシ樹脂+ビスフェノール型エポキシ樹脂の混合物)、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン)、ポリエーテルスルホンの混合物に、ポリマー粒子として、特開2011-162619号公報の実施例に記載の「粒子3」(Tg=150℃)を樹脂組成物全体の質量を100質量%としたとき13質量%となるよう添加したものを用いた。
【0116】
この熱硬化性エポキシ樹脂2の粘度をTA Instruments社製ARES-G2を用いて、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/分で測定したところ、75℃で118Pa・s、90℃で32Pa・s、105℃で10Pa・sであった。
【0117】
<プリプレグ製造装置>
図21記載の装置(なお、樹脂供給部は描画を省略している)。
【0118】
<塗布部>
図7の形態の塗布部20cタイプ(液溜り部22は2段テーパー状)
塗布部20cは、液溜り部22および狭窄部23を形成する壁面部材21e、21fにはステンレス製のブロックを用い、また側板部材24a、24bにはステンレス製のプレートを用いた。さらに塗液を加温するため、壁面部材21e、21fおよび側板部材24a、24bの外周にプレートヒーターを貼り付け、熱電対で温度計測を行いながら、塗液の温度および粘度を調整した。また強化繊維ファブリック416の走行方向は鉛直方向下向き、液溜り部22は2段テーパー状であるが、上部テーパー開き角度17°、下部テーパー開き角度は7°としたテーパー高さ(すなわちH)は特に断らない限り50mmとした。また、幅規制機構として、
図5記載のような塗布部内部形状に合わせた板状ブッシュ27を備えており、さらにこの板状ブッシュの設置位置自在に変更し、L2を適宜調整できるようにした。狭窄部23の幅Yは、L2を300mmとした場合、300mmとなるようにした。狭窄部23の隙間Dは特に断らない限り、0.3mmとした。この場合、出口スリットのアスペクト比は1500となる。また、狭窄部出口から塗液が漏れないように、狭窄部出口下面においてブッシュより外側は塞いで使用した。
【0119】
プリプレグの作製は、ニップロール413で強化繊維ファブリック416を引き出し、一旦上方に導いた。その後、強化繊維ファブリック416は方向転換ロール419を経て、鉛直下向きに搬送され、強化繊維予熱装置420で塗布部温度以上に加熱され、塗布部430に導かれ、塗液が塗布された。その後、塗布部430から塗液含浸強化繊維ファブリック(プリプレグ)471が引き出され、方向転換ロール441上で上側離型シート446(この場合は離型紙)と積層され、高張力引取りS字ロール449で引き取られた。そして、高張力引取りS字ロール449の上部ロールに下側離型シート446(この場合は離型紙)が供給され、プリプレグを離型紙で挟んだシート状一体物が形成された。さらに、これが熱板451と加熱ニップロール452を備えた追含浸装置450に導かれ、場合により追含浸を行った。その後、冷却装置461を経て、上側離型紙を剥がし、シート状一体物472が巻き取られた。
【0120】
[実施例1]
塗液として塗液Aを用い、幅規制機構として2つの板状ブッシュを用い、それらの下端間の距離L2を300mmとし、強化繊維ファブリックとして300mm幅にカットした炭素繊維織物1を用い、300mm幅のプリプレグを作製した。ただし、この実施例1では追含浸装置450の熱板451、加熱ニップロール454は使用せず、追含浸は行わなかった。なお、液溜り部の塗液温度は90℃(15Pa・s相当)とした。また、強化繊維ファブリック、プリプレグの走行速度は10m/分とした。この時の各種安定走行評価項目、含浸度を表1に示す。強化繊維ファブリックの塗液付与部での走行安定性(連続生産性)を評価するため、30分間連続走行させ、毛羽詰まり・糸切れが無いものを「Good」、毛羽が詰まり糸切れしたものを「Bad」とした。また、得られた塗液含浸強化繊維ファブリックの塗液の付与状態(塗液の付与性)を評価するため、塗液含浸強化繊維ファブリックの表面を目視確認し、表面が塗液で濡れているものを「Good」、濡れていないものを「Bad」とした。さらに、強化繊維ファブリックへの塗液の含浸性を調べるため、塗布装置直下で塗液含浸強化繊維ファブリックを素早く取得し、塗液の含浸性(含浸性)を目視確認した。塗液含浸強化繊維ファブリック内部の繊維まで塗液で濡れているものを含浸性良好「Good」、塗液含浸強化繊維ファブリック表面付近の繊維しか塗液で濡れていないものを含浸性不良「Bad」とした。
【0121】
さらに、毛羽詰まりの兆候を評価するため、30分間および60分間の連続走行後に塗布部を分解して壁面部材21の接液面を目視で観察し、毛羽の有無を調べた。連続走行後に狭窄部23の付近に毛羽が付着しているものを毛羽防止性「Poor」、連続走行後に狭窄部23から遠い部分(液溜り部22の上部付近)に毛羽が付着しているものを毛羽防止性「Fair」、連続走行後に壁面部材21の接液面に毛羽が付着していないものを毛羽防止性「Good」として、毛羽防止性を評価した。
【0122】
また、プリプレグの幅方向の目付け均一性を以下のように評価した。実施例1で得た幅300mmのプリプレグを幅方向に100mm四方で右端部、中央、左端部で切り出し、プリプレグの質量、炭素繊維の質量をそれぞれ3個の実験サンプル(n=3)で測定した。炭素繊維の質量はプリプレグから樹脂を溶剤で溶出した残渣として測定した。これから、各サンプリング位置での平均値をそれぞれ算出し、各サンプリング位置での平均値同士を比較したしたところ、炭素繊維、樹脂ともプラスマイナス2質量%の範囲に収まっており、優れた目付け均一性であった。
【0123】
【0124】
[実施例2]
塗布部のテーパー高さを10mmとした以外は、実施例1と同様にして塗布を行ったところ、優れた走行安定性を示した。
【0125】
[比較例1]
塗布部のテーパー高さを5mmとした以外は、実施例1と同様にして塗布を行ったが、走行開始数分で強化繊維ファブリックが塗布部に詰まり、走行不能となった。その後、塗布部20を分解したところ、狭窄部23に毛羽が詰まっていた。
【0126】
[比較例2]
塗布部として、
図10に示す本発明とは異なり液溜り部の連続的な断面減少部を有さないものを用い、実施例1と同様に塗布を行ったが、すぐに強化繊維ファブリックが塗布部に詰まり、走行不能となった。その後、塗布部30を分解したところ、狭窄部23に毛羽が詰まっていた。
【0127】
[実施例3,4]
幅規制機構の下端間距離L2を変更し、「L2-W」を10mm(実施例3)、20mm(実施例4)とした以外は、実施例1と同様にして塗液含浸強化繊維ファブリックの作製を行った。「L2-W」が0mmの実施例1では得られた塗液含浸強化繊維ファブリック端部の変形、折れは見られず、良好な形態であった(Excellent)が、「L2-W」が10mmの実施例3では問題となるほどではないが端部の折れ・変形が若干みられた(Good)。「L2-W」が20mmの実施例4では問題となるほどではないが端部の折れが見られ(Fair)、端部の変形も若干見られた(Good)。
【0128】
【0129】
[実施例5]
塗液として塗液Bを用いた以外は、実施例1と同様にして塗液含浸強化繊維ファブリックの作製を行った。この時、走行安定性は「Good」であったが、60分間連続走行後の毛羽防止性は「Fair」であった。
【0130】
[実施例6]
塗液温度を105℃とした以外は、実施例5と同様にして塗液含浸強化繊維ファブリックの作製を行った。この時、走行安定性は「Good」であり、60分間連続走行後の毛羽防止性も「Good」であった。
【0131】
[実施例7]
強化繊維ファブリックを炭素繊維織物2とした以外は、実施例1と同様にして塗液含浸強化繊維ファブリックの作製を行った。この時、走行安定性は「Good」であり、60分間連続走行後の毛羽防止性も「Good」であった。
【0132】
[実施例8]
熱板451と加熱ニップロール452を備えた追含浸装置450を稼働させて用いた以外は、実施例7と同様にして強化繊維ファブリックに塗液Aの含浸を行い、引き続いてそれを追含浸機装置450に導き、特開2011-132389号公報の記載を参考にしてインラインで追含浸を行った。得られたプリプレグの毛細管現象による吸水率を調べたところ、4%以下とプリプレグとして十分な含浸度であった。なお、吸水率の測定は、特表2016-510077号公報に記載の方法にならい、プリプレグを10cm×10cmにカットし、その1辺を5mm、水に5分間浸漬した時の質量変化から計算した。
【0133】
[実施例9、参考例1]
実施例8で得られたプリプレグを6層積層し、オートクレーブを用いて180℃、6kgf/cm2(0.588MPa)で2時間硬化させ、CFRPを得た(実施例9)。得られたCFRPは経糸方向の引っ張り強度が850MPaであり、航空・宇宙用の構造材料として好適な機械特性を有していた。
【0134】
また、実施例7で用いた炭素繊維織物2および塗液Aを用い、従来のホットメルト法によりプリプレグの走行速度4m/分で通常のプリプレグを作製した。このプリプレグの吸水率は4%以下と十分な含浸度であった。このプリプレグをオートクレーブを用いて180℃、6kgf/cm2(0.588MPa)で2時間硬化させたCFRPの経糸方向の引っ張り強度840MPaであった(参考例1)。
【0135】
なお、CFRP引っ張り強度は、WO2011/118106パンフレットに記載された方法と同様の方法で測定を行い、プリプレグ中の強化繊維の体積%を53.8%に規格化した値を用いた。
【0136】
[実施例10]
強化繊維ファブリック:目付け12g/m
2のポリエステル不織布
マトリックス樹脂:脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤、トリフェニルホスフィン、シリカ粒子の混合物
プリプレグ製造装置:
図21記載のプリプレグ製造装置(なお、樹脂供給部は描画を省略している)
塗布部:実施例1と同様に
図7の形態の塗布部20cタイプ(液溜り部22は2段テーパー状、上部テーパーは開き角度90°でテーパー高さ(すなわちH)は40mm、下部テーパーは開き角度60°でテーパー高さは15mm)。また、幅規制機構として、
図5記載のような塗布部内部形状に合わせた板状ブッシュ27を具備し、狭窄部23の幅Yは、L2(300mm)と同じ300mmとした(L-W=0、L2-W=0)。狭窄部23の隙間Dは0.3mmとした(出口スリットのアスペクト比は1000)。また、狭窄部出口から塗液が漏れないように、狭窄部出口下面においてブッシュより外側は塞いで使用した。
【0137】
上記の材料、装置を用い、走行速度3m/分で300mm幅のプリプレグを作製した。なお、本実施例では追含浸装置は使用しなかった。
【0138】
この時の連続走行性は「Good」、毛羽防止性(60分間)は「Good」、塗液の付与性(目視)は「Good」、含浸性(目視)は「Good」、端部の変形・折れも「Good」であった。
【0139】
[実施例11]
強化繊維ファブリック:目付け48g/m2のガラス繊維織物
塗液:マトリックス樹脂(脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形ゴム、ノボラックエポキシ樹脂、ジシアンジミド、フェニルジメチル尿素、酸化アルミニウム、シリカ粒子の混合物)に溶媒としてMEKを加えたもの。
【0140】
プリプレグ製造装置:
図22記載のプリプレグ製造装置(なお、樹脂供給部は描画を省略している)
塗布部:実施例1と同様に
図7の形態の塗布部20cタイプ(液溜り部22は2段テーパー状、上部テーパーは開き角度90°でテーパー高さ(すなわちH)は40mm、下部テーパーは開き角度60°でテーパー高さは15mm)。また、幅規制機構として、
図5記載のような塗布部内部形状に合わせた板状ブッシュ27を具備し、狭窄部23の幅Yは、L2(300mm)と同じ300mmとした(L-W=0、L2-W=0)。狭窄部23の隙間Dは特に断らない限り、0.3mmとした(出口スリットのアスペクト比は1000)。また、狭窄部出口から塗液が漏れないように、狭窄部出口下面においてブッシュより外側は塞いで使用した。
【0141】
上記の材料、装置を用い、走行速度3m/分で300mm幅のプリプレグを作製した。
【0142】
この時の連続走行性は「Good」、毛羽防止性(60分間)は「Good」、塗液の付与性(目視)は「Good」、含浸性(目視)は「Good」、端部の変形・折れも「Good」であった。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の製造方法で得られる塗液含浸強化繊維ファブリックは、CFRPに代表されるFRPとして、航空・宇宙用途や自動車・列車・船舶などの構造材や内装材、圧力容器、産業資材用途、スポーツ材料用途、医療機器用途、筐体用途、土木・建築用途など広く適用することができる。
【符号の説明】
【0144】
1a 強化繊維ファブリック
1b 塗液含浸強化繊維ファブリック
2 塗液
3 離型シート
11 供給装置
12 ニップロール
13、14 搬送ロール
15 巻取り装置
16 離型シート供給装置
20 塗布部
20b 別の実施形態の塗布部
20c 別の実施形態の塗布部
20d 別の実施形態の塗布部
20e 別の実施形態の塗布部
21a、21b 壁面部材
21c、21d 別の形状の壁面部材
21e、21f 別の形状の壁面部材
21g、21h 別の形状の壁面部材
21i、21j 別の形状の壁面部材
22 液溜り部
22a 液溜り部のうち断面積が連続的に減少する領域
22b 液溜り部のうち断面積が減少しない領域
22c 液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
23 狭窄部
24a、24b 側板部材
25 出口
26 隙間
30 比較例1の塗布部
31a、31b 比較例1の壁面部材
32 比較例1の液溜り部
33 比較例1の液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
35a、35b、35c バー
100 塗工装置
B 液溜り部22の奥行き
C 液溜り部22の上部液面までの高さ
D 狭窄部の隙間
G 幅規制を行う位置
H 液溜り部22の断面積が連続的に減少する鉛直方向高さ
L 液溜り部22の幅
L2 幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅
R、Ra、Rb 渦流れ
T 循環流
W 狭窄部23の直下で測定した塗液含浸強化繊維ファブリック1bの幅
Y 狭窄部23の幅
Z 強化繊維ファブリック1aの走行方向(鉛直方向下向き)
θ テーパー部の開き角度
411 クリール
412 強化繊維ファブリックロール
413 ニップロール
416 強化繊維ファブリック
418 平滑化装置
419 方向転換ロール
420 強化繊維予熱装置
430 塗布部
431 第1の塗布部
432 第2の塗布部
441 方向転換ロール
442 離型シート(上)供給装置
443 離型シート(下)供給装置
444 高張力引取り装置
445 方向転換ロール
446 離型シート
447 積層ロール
448 高張力引取り装置
449 高張力引取りS字ロール
450 追含浸装置
451 熱板
452 加熱ニップロール
453 簡易追含浸装置
454 加熱ニップロール
455 加熱S字ロール
456 コンタクトロール
461 冷却装置
462 引き取り装置
463 離型シート(上)巻取装置
464 ワインダー
471 プリプレグ(塗液含浸強化繊維ファブリック)
472 プリプレグ/離型シート(シート状一体物)
480 乾燥チャンバー