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特許7215428ポリイミド樹脂、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20230124BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019546628
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035133
(87)【国際公開番号】W WO2019069723
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2017194284
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 洋平
(72)【発明者】
【氏名】村山 智寿
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】関口 慎司
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046019(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152906(WO,A1)
【文献】特開2006-206825(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132641(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/173126(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/033213(WO,A1)
【文献】特開2013-137334(JP,A)
【文献】特開2005-289034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/10
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位Aと、ジアミンに由来する構成単位Bとを含むポリイミド樹脂であって、
構成単位Aが下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と、下記式(a-2)で表される化合物に由来する構成単位(A-2)とを含み、
構成単位Bが下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)を含み、
構成単位B中における構成単位(B-1)の比率が30~100モル%である、ポリイミド樹脂。
【化1】

(式(b-1)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基である。)
【請求項2】
構成単位A中における構成単位(A-1)の比率が10~90モル%であり、
構成単位A中における構成単位(A-2)の比率が10~90モル%である、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【請求項3】
構成単位Bが、下記式(b-2-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-1)、下記式(b-2-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-2)、及び下記式(b-2-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つである構成単位(B-2)を更に含む、請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂。
【化2】

(式(b-2-3)中、
~Rは、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、
及びZは、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、
rは、正の整数である。)
【請求項4】
構成単位B中における構成単位(B-1)の比率が30~95モル%であり、
構成単位B中における構成単位(B-2)の比率が5~70モル%である、請求項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
Rが水素原子を表わす、請求項1~のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のポリイミド樹脂が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載のポリイミド樹脂を含む、ポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の到来に伴い、光ファイバー、光導波路等の光通信分野、また液晶配向膜、カラーフィルター等の表示装置分野では、耐熱性と無色透明性とを兼ね備えた材料が求められている。
表示装置分野では、デバイスの軽量化やフレキシブル化を目的として、デバイスに用いられているガラス基板を、軽量化、フレキシブル化が可能なプラスチック基板へ代替することが検討されている。表示素子から発せられる光がプラスチック基板を通って出射されるような場合、プラスチック基板には無色透明性が要求され、さらに、位相差フィルムや偏光板を光が通過する場合(例えば、液晶ディスプレイ、タッチパネルなど)は、無色透明性に加えて、光学的等方性が高いことも要求される。
【0003】
上記のような要求を満たしうるプラスチック材料として、ポリイミド樹脂の開発が進められている。例えば、特許文献1には、透明性、耐熱性及び光学的等方性が良好なポリイミド樹脂として、テトラカルボン酸成分として1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン成分として9,9-ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを用いて合成されたポリイミド樹脂等が開示されている。
【0004】
また、近年、マイクロエレクトロニクスの分野において、樹脂フィルムが積層された支持体における当該支持体と当該樹脂フィルムを剥離する方法として、レーザーリフトオフ(LLO)と呼ばれるレーザー剥離加工が注目を浴びている。したがって、ポリイミドフィルムをレーザー剥離加工に対応可能とするためには、ポリイミドフィルムにはレーザー剥離性も要求される。波長308nmのXeClエキシマレーザーによる剥離加工に対応可能とするためには、ポリイミドフィルムは波長308nmの光を吸収する特性に優れること(即ち、波長308nmにおける光線透過率が小さいこと)が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6010533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、その課題は、無色透明性、光学的等方性、及びレーザー剥離性に優れたポリイミド樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の構成単位の組み合わせを含むポリイミド樹脂が上記課題を解決できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の[1]~[8]に関する。
[1]テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位Aと、ジアミンに由来する構成単位Bとを含むポリイミド樹脂であって、
構成単位Aが下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と、下記式(a-2)で表される化合物に由来する構成単位(A-2)とを含み、
構成単位Bが下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)を含む、ポリイミド樹脂。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(b-1)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基である。)
【0011】
[2]構成単位A中における構成単位(A-1)の比率が10~90モル%であり、
構成単位A中における構成単位(A-2)の比率が10~90モル%である、上記[1]に記載のポリイミド樹脂。
[3]構成単位B中における構成単位(B-1)の比率が30~100モル%である、上記[1]又は[2]に記載のポリイミド樹脂。
[4]構成単位Bが、下記式(b-2-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-1)、下記式(b-2-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-2)、及び下記式(b-2-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つである構成単位(B-2)を更に含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【0012】
【化2】
【0013】
(式(b-2-3)中、
~Rは、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、
及びZは、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、
rは、正の整数である。)
【0014】
[5]構成単位B中における構成単位(B-1)の比率が30~95モル%であり、
構成単位B中における構成単位(B-2)の比率が5~70モル%である、上記[4]に記載のポリイミド樹脂。
[6]Rが水素原子を表わす、上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のポリイミド樹脂が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
[8]上記[1]~[6]のいずれかに記載のポリイミド樹脂を含む、ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリイミド樹脂は、無色透明性、光学的等方性、及びレーザー剥離性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ポリイミド樹脂]
本発明のポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位Aとジアミンに由来する構成単位Bとを含むものであって、構成単位Aが下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と下記式(a-2)で表される化合物に由来する構成単位(A-2)とを含み、構成単位Bが下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)を含む。
【0017】
【化3】
【0018】
(式(b-1)中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又はメチル基である。)
【0019】
<構成単位A>
構成単位Aは、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位であり、式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)及び式(a-2)で表される化合物に由来する構成単位(A-2)を含む。構成単位(A-1)によって、無色透明性が向上し、構成単位(A-2)によって、耐熱性、光学的等方性及びレーザー剥離性が向上する。
式(a-1)で表される化合物は、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。
式(a-2)で表される化合物は、9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物である。
【0020】
構成単位A中における構成単位(A-1)の比率は、好ましくは10~90モル%であり、より好ましくは25~75モル%であり、更に好ましくは40~60モル%である。
構成単位A中における構成単位(A-2)の比率は、好ましくは10~90モル%であり、より好ましくは25~75モル%であり、更に好ましくは40~60モル%である。
構成単位A中における構成単位(A-1)と構成単位(A-2)の合計の含有比率は、好ましくは20モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、更に好ましくは80モル%以上である。構成単位(A-1)と構成単位(A-2)の合計の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Aは構成単位(A-1)と構成単位(A-2)とのみからなっていてもよい。
【0021】
構成単位Aは、構成単位(A-1)及び(A-2)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を形成するテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a-2)で表される化合物を除く);1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a-1)で表される化合物を除く);並びに1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環を1つ以上含むテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂環式テトラカルボン酸二無水物とは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環も脂環も含まないテトラカルボン酸二無水物を意味する。
構成単位Aに任意に含まれる構成単位(即ち、構成単位(A-1)及び(A-2)以外の構成単位)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0022】
<構成単位B>
構成単位Bは、ジアミンに由来する構成単位であって、式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)を含む。構成単位(B-1)によって、耐熱性、光学的等方性及びレーザー剥離性が向上する。
【0023】
式(b-1)中において、Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、及びメチル基からなる群より選択され、水素原子であることが好ましい。式(b-1)で表される化合物としては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-フルオロ-4-アミノフェニル)フルオレン、及び9,9-ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられ、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンが好ましい。
【0024】
構成単位B中における構成単位(B-1)の比率は、好ましくは30~100モル%であり、より好ましくは30~95モル%であり、更に好ましくは40~90モル%である。構成単位Bは構成単位(B-1)のみからなっていてもよい。
【0025】
構成単位Bは構成単位(B-1)以外の構成単位を含んでもよく、下記式(b-2-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-1)、下記式(b-2-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-2)、及び下記式(b-2-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つである構成単位(B-2)を更に含むことが好ましい。
【0026】
【化4】
【0027】
(式(b-2-3)中、
~Rは、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、
及びZは、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、
rは、正の整数である。)
【0028】
式(b-2-1)で表される化合物は、ビス(4-アミノフェニル)スルホンである。
式(b-2-2)で表される化合物は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンである。
式(b-2-3)におけるR、R、R及びRは、それぞれ独立に一価の脂肪族基又は一価の芳香族基を示し、これらはフッ素原子で置換されていてもよい。一価の脂肪族基としては、一価の飽和炭化水素基又は一価の不飽和炭化水素基が挙げられる。一価の飽和炭化水素基としては炭素数1~22のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が例示できる。一価の不飽和炭化水素基としては炭素数2~22のアルケニル基が挙げられ、例えば、ビニル基、プロペニル基が例示できる。一価の芳香族基としては、炭素数6~24のアリール基、アラルキル基等が例示できる。R、R、R及びRとしては、特に、メチル基又はフェニル基が好ましい。
また、Z及びZは、それぞれ独立に二価の脂肪族基又は二価の芳香族基を示し、これらの基はフッ素原子で置換されていてもよい。二価の脂肪族基としては、二価の飽和炭化水素基又は二価の不飽和炭化水素基が挙げられる。二価の飽和炭化水素基としては炭素数1~22のアルキレン基が挙げられ、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が例示できる。二価の不飽和炭化水素基としては、炭素数2~22の不飽和炭素水素基が挙げられ、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、末端に不飽和二重結合を有するアルキレン基が例示できる。二価の芳香族基としては炭素数6~24のフェニレン基、アルキル基で置換されたフェニレン基、アラルキレン基等が例示できる。Z及びZとしては、特に、プロピレン基、フェニレン基、アラルキレン基が好ましい。
また、rは正の整数を示し、10~10,000の整数であることが好ましい。
式(b-2-3)で表される化合物の市販品として入手できるものとしては、信越化学工業株式会社製の「X-22-9409」、「X-22-1660B」、「X-22-161AS」、「X-22-161A」、「X-22-161B」等が挙げられる。
【0029】
構成単位(B-2-1)は無色透明性を向上させる観点から好ましい。構成単位(B-2-2)は無色透明性を向上させる観点及び低吸水性を付与する観点から好ましい。構成単位(B-2-3)は光学的等方性及び低吸水性を付与する観点から好ましい。なお、低吸水性のポリイミド樹脂は、吸湿寸法安定性が良好である。
【0030】
構成単位Bが構成単位(B-1)及び構成単位(B-2)を含む場合、構成単位B中における構成単位(B-1)の比率は、好ましくは30~95モル%であり、より好ましくは40~90モル%であり、構成単位B中における構成単位(B-2)の比率は、好ましくは5~70モル%であり、より好ましくは10~60モル%である。
構成単位B中における構成単位(B-1)と構成単位(B-2)の合計の含有比率は、好ましくは35モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上である。構成単位(B-1)と構成単位(B-2)の合計の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Bは構成単位(B-1)と構成単位(B-2)とのみからなっていてもよい。
【0031】
構成単位(B-2)は、構成単位(B-2-1)のみであってもよく、構成単位(B-2-2)のみであってもよく、又は構成単位(B-2-3)のみであってもよい。
また、構成単位(B-2)は、構成単位(B-2-1)と構成単位(B-2-2)の組み合せであってもよく、構成単位(B-2-2)と構成単位(B-2-3)の組み合わせであってもよく、又は構成単位(B-2-1)と構成単位(B-2-3)の組み合せであってもよい。
また、構成単位(B-2)は、構成単位(B-2-1)と構成単位(B-2-2)と構成単位(B-2-3)の組み合せであってもよい。
【0032】
構成単位Bに任意に含まれる構成単位(即ち、構成単位(B-1)以外の構成単位)は、上述の構成単位(B-2)に限定されない。そのような任意の構成単位を形成するジアミンとしては、特に限定されないが、1,4-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-5-アミン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、及び2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミン(ただし、式(b-1)で表される化合物、式(b-2-1)で表される化合物、式(b-2-2)で表される化合物及び式(b-2-3)で表される化合物を除く);1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジアミン;並びにエチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン(ただし、式(b-2-3)で表される化合物を除く)が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族ジアミンとは芳香環を1つ以上含むジアミンを意味し、脂環式ジアミンとは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないジアミンを意味し、脂肪族ジアミンとは芳香環も脂環も含まないジアミンを意味する。
構成単位Bに任意に含まれる構成単位(即ち、(B-1)以外の構成単位)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0033】
本発明のポリイミド樹脂の数平均分子量は、得られるポリイミドフィルムの機械的強度の観点から、好ましくは5,000~100,000である。なお、ポリイミド樹脂の数平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。
【0034】
本発明のポリイミド樹脂は、無色透明性、光学的等方性、及びレーザー剥離性に優れるものであるため、以下のような物性値を有することができる。
【0035】
本発明のポリイミド樹脂は、厚さ10μmのポリイミドフィルムとした際に全光線透過率が、好ましくは85%以上であり、より好ましくは86%以上であり、更に好ましくは87%以上であり、特に好ましく88%以上である。
本発明のポリイミド樹脂は、厚さ10μmのポリイミドフィルムとした際にイエローインデックス(YI)が、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.4以下であり、更に好ましくは2.0以下であり、特に好ましくは1.8以下である。
【0036】
本発明のポリイミド樹脂は、厚さ10μmのポリイミドフィルムとした際の厚み位相差(Rth)の絶対値が、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは85nm以下であり、更に好ましくは60nm以下であり、特に好ましくは45nm以下である。
【0037】
本発明のポリイミド樹脂は、厚さ10μmのポリイミドフィルムとした際に波長308nmにおける光線透過率が、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.8%以下であり、更に好ましくは0.5%以下であり、特に好ましく0.3%以下である。波長308nmにおける光線透過率が小さいほど、波長308nmのXeClエキシマレーザーによるレーザー剥離性に優れる。
なお、本発明における線全光線透過率、イエローインデックス(YI)、厚み位相差(Rth)、波長308nmにおける光線透過率は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0038】
また、本発明の一態様のポリイミド樹脂は低吸水性を有する。そのため、吸水率が好ましくは2.5%以下であり、より好ましくは2.0%以下であり、更に好ましくは1.5%以下であり、特に好ましくは1.2%以下である。
なお、本発明における吸水率は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0039】
[ポリイミド樹脂の製造方法]
本発明のポリイミド樹脂は、上述の構成単位(A-1)を与える化合物及び上述の構成単位(A-2)を与える化合物を含有するテトラカルボン酸成分と、上述の構成単位(B-1)を与える化合物を含むジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。
【0040】
構成単位(A-1)を与える化合物としては、式(a-1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸(即ち、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸)、及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A-1)を与える化合物としては、式(a-1)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
構成単位(A-2)を与える化合物としては、式(a-2)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a-2)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A-2)を与える化合物としては、式(a-2)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
【0041】
構成単位(B-1)を与える化合物としては、式(b-1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(b-1)で表されるジアミンに対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B-1)を与える化合物としては、式(b-1)で表される化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0042】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物を、好ましくは10~90モル%含み、より好ましくは25~75モル%含み、更に好ましくは40~60モル%含む。
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-2)を与える化合物を、好ましくは10~90モル%含み、より好ましくは25~75モル%含み、更に好ましくは40~60モル%含む。
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物と構成単位(A-2)を与える化合物を合計で、好ましくは20モル%以上含み、より好ましくは50モル%以上含み、更に好ましくは80%以上含む。構成単位(A-1)を与える化合物と構成単位(A-2)を与える化合物の合計の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。テトラカルボン酸成分は構成単位(A-1)を与える化合物と構成単位(A-2)を与える化合物とのみからなっていてもよい。
【0043】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物及び構成単位(A-2)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物、並びにそれらの誘導体(テトラカルボン酸、テトラカルボン酸のアルキルエステル等)が挙げられる。
テトラカルボン酸成分に任意に含まれる化合物(即ち、構成単位(A-1)を与える化合物及び構成単位(A-2)を与える化合物以外の化合物)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
ジアミン成分は、構成単位(B-1)を与える化合物を、好ましくは30~100モル%含み、より好ましくは30~95モル%含み、更に好ましくは40~90モル%含む。ジアミン成分は構成単位(B-1)を与える化合物のみからなっていてもよい。
【0045】
ジアミン成分は構成単位(B-1)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、構成単位(B-2)を与える化合物を更に含むことが好ましい。
構成単位(B-2)を与える化合物としては、式(b-2-1)で表される化合物、式(b-2-2)で表される化合物、及び式(b-2-3)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を形成できる範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(b-2-1)~式(b-2-3)で表されるジアミンに対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B-2)を与える化合物としては、式(b-2-1)~式(b-2-3)で表される化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0046】
ジアミン成分が、構成単位(B-1)を与える化合物及び構成単位(B-2)を与える化合物を含む場合、ジアミン成分は構成単位(B-1)を与える化合物を好ましくは30~95モル%含み、より好ましくは40~90モル%含み、構成単位(B-2)を与える化合物を好ましくは5~70モル%含み、より好ましくは10~60モル%含む。
ジアミン成分は、構成単位(B-1)を与える化合物と構成単位(B-2)を与える化合物を合計で、好ましくは35モル%以上含み、より好ましくは50モル%以上含む。構成単位(B-1)を与える化合物と構成単位(B-2)を与える化合物の合計の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。ジアミン成分は構成単位(B-1)を与える化合物と構成単位(B-2)を与える化合物とのみからなっていてもよい。
【0047】
また、ジアミン成分に任意に含まれる化合物(即ち、構成単位(B-1)を与える化合物以外の化合物)は、構成単位(B-2)を与える化合物に限定されない。そのような任意の化合物としては、上述の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、及び脂肪族ジアミン、並びにそれらの誘導体(ジイソシアネート等)が挙げられる。
ジアミン成分に任意に含まれる化合物(即ち、構成単位(B-1)を与える化合物以外の化合物)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0048】
本発明において、ポリイミド樹脂の製造に用いるテトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0049】
また、本発明において、ポリイミド樹脂の製造には、前述のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分の他に、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、テトラカルボン酸成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、特に0.001~0.06モルが好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0050】
前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
具体的な反応方法としては、(1)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、室温~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(2)ジアミン成分及び反応溶剤を反応器に仕込んで溶解させた後、テトラカルボン酸成分を仕込み、必要に応じて室温~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(3)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、直ちに昇温してイミド化反応を行う方法等が挙げられる。
【0051】
ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤は、イミド化反応を阻害せず、生成するポリイミドを溶解できるものであればよい。例えば、非プロトン性溶剤、フェノール系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤等が挙げられる。
【0052】
非プロトン性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ピコリン、ピリジン等のアミン系溶剤、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0053】
フェノール系溶剤の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
また、カーボネート系溶剤の具体的な例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記反応溶剤の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましい。また、上記の反応溶剤は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0054】
イミド化反応では、ディーンスターク装置などを用いて、製造時に生成する水を除去しながら反応を行うことが好ましい。このような操作を行うことで、重合度及びイミド化率をより上昇させることができる。
【0055】
上記のイミド化反応においては、公知のイミド化触媒を用いることができる。イミド化触媒としては、塩基触媒又は酸触媒が挙げられる。
塩基触媒としては、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α-ピコリン、β-ピコリン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の有機塩基触媒、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基触媒が挙げられる。
また、酸触媒としては、クロトン酸、アクリル酸、トランス-3-ヘキセノイック酸、桂皮酸、安息香酸、メチル安息香酸、オキシ安息香酸、テレフタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。上記のイミド化触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、取り扱い性の観点から、塩基触媒を用いることが好ましく、有機塩基触媒を用いることがより好ましく、トリエチルアミンを用いることが更に好ましく、トリエチルアミンとトリエチレンジアミンを組み合わせて用いること特に好ましい。
【0056】
イミド化反応の温度は、反応率及びゲル化等の抑制の観点から、好ましくは120~250℃、より好ましくは160~200℃である。また、反応時間は、生成水の留出開始後、好ましくは0.5~10時間である。
【0057】
[ポリイミドワニス]
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂が有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂及び有機溶媒を含み、当該ポリイミド樹脂は当該有機溶媒に溶解している。
有機溶媒はポリイミド樹脂が溶解するものであればよく、特に限定されないが、ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤として上述した化合物を、単独又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
本発明のポリイミド樹脂は溶媒溶解性を有しているため、室温で安定な高濃度のワニスとすることができる。本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂を5~40質量%含むことが好ましく、10~30質量%含むことがより好ましい。ポリイミドワニスの粘度は1~200Pa・sが好ましく、5~150Pa・sがより好ましい。
また、本発明のポリイミドワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
本発明のポリイミドワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0058】
[ポリイミドフィルム]
本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミド樹脂を含む。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、無色透明性、光学的等方性、及びレーザー剥離性に優れる。
本発明のポリイミドフィルムの作製方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のポリイミドワニスをフィルム状に塗布又は成形した後、有機溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0059】
本発明のポリイミドフィルムは、無色透明性、光学的等方性、及びレーザー剥離性に優れるものであるため、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ、半導体部品、光学部材等の各種部材用のフィルムとして好適に用いられる。本発明のポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置の基板として、特に好適に用いられる。
【実施例
【0060】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
実施例及び比較例で得たポリイミドワニスの固形分濃度及びポリイミドフィルムの各物性は以下に示す方法によって測定した。
【0061】
(1)固形分濃度
ポリイミドワニスの固形分濃度の測定は、アズワン株式会社製の小型電気炉「MMF-1」で試料を320℃×120minで加熱し、加熱前後の試料の質量差から算出した。
(2)フィルム厚さ
フィルム厚さは、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した。
(3)全光線透過率、イエローインデックス(YI)
測定はJIS K7361-1準拠し、日本電色工業株式会社製の色彩・濁度同時測定器「COH400」を用いて行った。
(4)厚み位相差(Rth)
厚み位相差(Rth)は、日本分光株式会社製のエリプソメーター「M-220」を用いて測定した。測定波長590nmにおける、厚み位相差の値を測定した。なおRthは、ポリイミドフィルムの面内の屈折率のうち最大のものをnx、最小のものをnyとし、厚み方向の屈折率をnzとし、フィルムの厚みをdとしたとき、下記式によって表されるものである。
Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d
(5)波長308nmにおける光線透過率
株式会社島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計「UV-3100PC」を用いて測定した。
(6)吸水率
JIS K7209に従って求めた。50mm×50mmのポリイミドフィルムを50℃で24時間乾燥した後、デシケーターで室温に戻し、23℃、湿度50±5%の環境下で重量(W0)を測定した。続いて、このフィルムを23℃の蒸留水に24時間浸漬し、表面の水分を拭き取った後、1分後の重量(W1)を測定した。下記式に基づいて吸水率を算出した。
吸水率(%)=[(W1-W0)/W0]×100
【0062】
<実施例1>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた500mLの5つ口丸底フラスコに、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)34.845g(0.100モル)、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)83.018gを投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(三菱ガス化学株式会社製)11.209g(0.050モル)、9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(JFEケミカル株式会社製)22.922g(0.050モル)、及びγ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)20.755gを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)5.060g及びトリエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)0.561gを投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)158.54gを添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。続いてガラス板上へ、得られたポリイミドワニスを塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、窒素雰囲気下、熱風乾燥機中300℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、厚み14μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0063】
<実施例2>
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)の量を34.845g(0.100モル)から17.423g(0.050モル)に変更し、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(和歌山精化工業株式会社製)を12.415g(0.050モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み10μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0064】
<実施例3>
ビス(4-アミノフェニル)スルホン(和歌山精化工業株式会社製)12.415g(0.050モル)を2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(和歌山精化工業株式会社製)16.012g(0.050モル)に変更した以外は、実施例2と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み12μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0065】
<実施例4>
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)の量を34.845g(0.100モル)から30.629g(0.08790モル)に変更し、両末端アミノ変性シリコーンオイル「X-22-9409」(信越化学工業株式会社製)を16.214g(0.01210モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み10μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0066】
<実施例5>
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)の量を34.845g(0.100モル)から15.450g(0.04434モル)に変更し、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(和歌山精化工業株式会社製)を11.010g(0.04434モル)、両末端アミノ変性シリコーンオイル「X-22-9409」(信越化学工業株式会社製)を15.169g(0.01132モル)追加した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み8μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0067】
<実施例6>
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)の量を15.450g(0.04434モル)から15.360g(0.04408モル)に変更し、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(和歌山精化工業株式会社製)11.010g(0.04434モル)を2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(和歌山精化工業株式会社製)14.116g(0.04408モル)に変更し、両末端アミノ変性シリコーンオイル「X-22-9409」(信越化学工業株式会社製)の量を15.169g(0.01132モル)から15.879g(0.01184モル)に変更した以外は、実施例5と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み9μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0068】
<実施例7>
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)の量を15.360g(0.04408モル)から16.471g(0.04727モル)に変更し、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(和歌山精化工業株式会社製)の量を14.116g(0.04408モル)から15.138g(0.04727モル)に変更し、両末端アミノ変性シリコーンオイル「X-22-9409」(信越化学工業株式会社製)の量を15.879g(0.01184モル)から7.316g(0.00546モル)に変更した以外は、実施例6と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み8μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0069】
<比較例1>
1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(三菱ガス化学株式会社製)の量を11.209g(0.050モル)から22.417g(0.100モル)に変更し、9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(JFEケミカル株式会社製)22.922g(0.050モル)を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み11μmのフィルムを得た。結果を表2に示す。
【0070】
<比較例2>
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)34.845g(0.100モル)を2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(和歌山精化工業株式会社製)32.024g(0.100モル)に変更した以外は、比較例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み9μmのフィルムを得た。結果を表2に示す。
【0071】
<比較例3>
9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(JFEケミカル株式会社製)22.922g(0.050モル)を3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)(三菱化学株式会社製)14.710g(0.050モル)に変更し、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(田岡化学工業株式会社製)の量を30.629g(0.08790モル)から31.064g(0.08915モル)に変更し、両末端アミノ変性シリコーンオイル「X-22-9409」(信越化学工業株式会社製)の量を16.214g(0.01210モル)から14.539g(0.01085モル)に変更した以外は、実施例4と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み15μmのフィルムを得た。結果を表2に示す。
【0072】
<比較例4>
9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(JFEケミカル株式会社製)22.922g(0.050モル)を3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)(三菱化学株式会社製)14.710g(0.050モル)に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミドワニスを作製し、固形分濃度20質量%のポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドワニスを用いて、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製し、厚み8μmのフィルムを得た。結果を表2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1及び2中の略号は以下のとおりである。
HPMDA:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(式(a-1)で表される化合物)
BPAF:9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(式(a-2)で表される化合物)
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(式(b-1)で表される化合物)
4,4-DDS:ビス(4-アミノフェニル)スルホン(式(b-2-1)で表される化合物)
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(式(b-2-2)で表される化合物)
X-22-9409:両末端アミノ変性シリコーンオイル(式(b-2-3)で表される化合物)
【0076】
表1に示すように、実施例1~7のポリイミドフィルムは、無色透明性、光学的等方性、及びレーザー剥離性に優れている。また、実施例3~7のポリイミドフィルムは低吸水性も有している。
一方、表2に示すように、比較例1のポリイミドフィルムはレーザー剥離性が大きく劣り、比較例2のポリイミドフィルムは光学的等方性及びレーザー剥離性が大きく劣り、比較例3及び4のポリイミドフィルムは無色透明性が大きく劣る。