IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図1
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図2
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図3
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図4
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図5
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図6
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図7
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図8
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図9
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図10
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図11
  • 特許-運転席用エアバッグ装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】運転席用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/203 20060101AFI20230124BHJP
   B60R 21/2346 20110101ALI20230124BHJP
【FI】
B60R21/203
B60R21/2346
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020063221
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160504
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】石井 力
(72)【発明者】
【氏名】河村 功士
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-006598(JP,A)
【文献】特開2018-122798(JP,A)
【文献】特開2020-026211(JP,A)
【文献】特開平10-226294(JP,A)
【文献】特開平07-149199(JP,A)
【文献】実開平01-150156(JP,U)
【文献】特開平09-263206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動時に運転者を保護可能に膨張するエアバッグが、ステアリングホイールにおける操舵時に把持するリング部の中央付近に位置するボス部に、折り畳まれて収納され、
前記エアバッグの膨張完了時の外周壁が、
運転者を受止可能な運転者側壁部と、該運転者側壁部の外周縁に対して外周縁を接続させて、前記リング部における後下がりに傾斜したリング面に支持される車体側壁部と、を備えて構成されるとともに、
前記車体側壁部の中央付近に、膨張用ガスを流入させるために開口された流入用開口と、該流入用開口の周縁に配置されて前記ボス部側に固定される取付部と、を配設させて構成されて、
前記エアバッグが、前記流入用開口と前記取付部とを共用して、膨張完了時の前記外周壁を構成するアウタバッグと、前記アウタバッグの内側で膨張するように配設されるとともに、前記アウタバッグへの膨張用ガスを供給可能な供給口を有するインナバッグと、を備えて構成され、
前記インナバッグが、前記アウタバッグより先に膨張を完了させ、前記アウタバッグが、前記供給口から供給される膨張用ガスによって、膨張する構成としている運転席用エアバッグ装置であって、
前記インナバッグが、膨張時、後部側を、前記リング面の後端側より後方に突出させ、かつ、前記リング面からの高さ寸法として、前部側より後部側を高くする形状として、構成されていることを特徴とする運転席用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記インナバッグの膨張完了時の外周壁が、
前記アウタバッグの前記運転者側壁部と対向する上側壁部と、
該上側壁部の外周縁に対して外周縁を接続させて、前記車体側壁部と対向し、かつ、前記流入用開口と前記取付部とを配設させてなる下側壁部と、
を備えて構成され、
前記供給口が、
前記下側壁部の後部側に配設される下側供給口と、
前記上側壁部における前記下側供給口より前方側の左右両側に配設される上側供給口と、
を備えて構成されるとともに、
前記下側供給口が、開口時の開口面積を、開口時の前記上側供給口の合計の開口面積より、広くして、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグにおける前記アウタバッグの膨張完了形状が、前部側の厚さ寸法を、後部側の厚さ寸法より、大きくするように、構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の運転席用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動時に運転者を保護可能に膨張するエアバッグが、膨張完了時の外周壁を構成するアウタバッグと、アウタバッグの内側で膨張するように配設されるとともに、アウタバッグへの膨張用ガスを供給可能な供給口を有するインナバッグと、を備えて構成される運転席用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の運転席用エアバッグ装置では、エアバッグが、ステアリングホイールにおける操舵時に把持するリング部の中央付近に位置するボス部に、折り畳まれて収納されていた(例えば、特許文献1,2参照)。エアバッグの膨張完了時の外周壁は、運転者を受止可能な運転者側壁部と、運転者側壁部の外周縁に対して外周縁を接続させて、リング部における後下がりに傾斜したリング面に支持される車体側壁部と、を備えて構成されるとともに、車体側壁部の中央付近に、膨張用ガスを流入させるために開口された流入用開口と、流入用開口の周縁に配置されてボス部側に固定される取付部と、を配設させて構成されていた。そして、エアバッグは、流入用開口と取付部とを共用して、膨張完了時の外周壁を構成するアウタバッグと、アウタバッグの内側で膨張するように配設されるとともに、アウタバッグへの膨張用ガスを供給可能な供給口を有するインナバッグと、を備えて構成されていた。このようなエアバッグでは、アウタバッグの浮き上がりを防止するように、膨張を完了させたインナバッグにより、アウタバッグをリング面に素早く押し付けたり(特許文献1参照)、あるいは、リング面での支持部位の面積の狭いアウタバッグを、膨張を完了させて内圧を維持したインナバッグにより、支持できるように構成されていた(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-6598号公報
【文献】特開2018-122798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のエアバッグ装置では、運転者がステアリングホイールに接近して着座している場合、作動時、運転者が前方移動することから、アウタバッグが膨張途中で、かつ、インナバッグも膨張途中であれば、運転者の胸部等が、後下がりのリング面としているリング部の後端に、直ちに、干渉する事態を招く虞れが生じ、このような接近している運転者の胸部等の保護に関し、課題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、作動時、リング部に運転者が接近していても、膨張途中のエアバッグにより、好適に運転者を保護できる運転席用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る運転席用エアバッグ装置では、作動時に運転者を保護可能に膨張するエアバッグが、ステアリングホイールにおける操舵時に把持するリング部の中央付近に位置するボス部に、折り畳まれて収納され、
前記エアバッグの膨張完了時の外周壁が、
運転者を受止可能な運転者側壁部と、該運転者側壁部の外周縁に対して外周縁を接続させて、前記リング部における後下がりに傾斜したリング面に支持される車体側壁部と、を備えて構成されるとともに、
前記車体側壁部の中央付近に、膨張用ガスを流入させるために開口された流入用開口と、該流入用開口の周縁に配置されて前記ボス部側に固定される取付部と、を配設させて構成されて、
前記エアバッグが、前記流入用開口と前記取付部とを共用して、膨張完了時の前記外周壁を構成するアウタバッグと、前記アウタバッグの内側で膨張するように配設されるとともに、前記アウタバッグへの膨張用ガスを供給可能な供給口を有するインナバッグと、を備えて構成され、
前記インナバッグが、前記アウタバッグより先に膨張を完了させ、前記アウタバッグが、前記供給口から供給される膨張用ガスによって、膨張する構成としている運転席用エアバッグ装置であって、
前記インナバッグが、膨張時、後部側を、前記リング面の後端側より後方に突出させ、かつ、前記リング面からの高さ寸法として、前部側より後部側を高くする形状として、構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る運転席用エアバッグ装置では、運転者がステアリングホイールのリング部に接近している状態で作動すると、まず、インナバッグが膨張する。インナバッグは、後部側を、リング面の後端側より後方に突出させるように、膨張することから、アウタバッグの外周壁を介在させて、インナバッグの後部側が、接近していた運転者の胸部付近を、リング部の後端から離すように、後方へ押すこととなって、運転者におけるリング部の後端側との干渉を抑制できる。そして、運転者の胸部付近の前方には、アウタバッグを介在させて、インナバッグが配設されていることから、アウタバッグは、インナバッグの供給口からの膨張用ガスにより膨張すれば、リング部の後端側を含めたリング面を覆うように、膨張を完了できて、運転者は、リング部に支持されて膨張を完了させたアウタバッグにより、保護される。また、インナバッグは、膨張時、リング面からの高さ寸法として、前部側より後部側を高くする形状として、前部側を薄くしており、胸部付近をリング部の後端付近に配置させている運転者の顎付近が、ボス部付近(流入用開口付近)に接近していても、薄くしている分、後方への押圧力を低減できて、エアバッグの膨張初期における運転者の顎付近へのダメージを抑制できる。
【0008】
したがって、本発明に係る運転席用エアバッグ装置では、作動時、リング部に運転者が接近していても、膨張途中のエアバッグにより、好適に運転者を保護することができる。
【0009】
そして、本発明に係る運転席用エアバッグ装置では、前記インナバッグの膨張完了時の外周壁が、前記アウタバッグの前記運転者側壁部と対向する上側壁部と、
該上側壁部の外周縁に対して外周縁を接続させて、前記車体側壁部と対向し、かつ、前記流入用開口と前記取付部とを配設させてなる下側壁部と、
を備えて構成され、
前記供給口が、
前記下側壁部の後部側に配設される下側供給口と、
前記上側壁部における前記下側供給口より前方側の左右両側に配設される上側供給口と、
を備えて構成されるとともに、
前記下側供給口が、開口時の開口面積を、開口時の前記上側供給口の合計の開口面積より、広くして、配設されていることが望ましい。
【0010】
このような構成では、インナバッグの膨張時、開口面積の広い下側供給口から、アウタバッグの車体側壁部の側に膨張用ガスを供給することから、その膨張用ガスを吐出する反力により、インナバッグの上側壁部が、特に、後部側が、上方へ移動することとなり、その挙動は、リング面の後端に接近している運転者の胸部付近を、後方へ押圧する作用を生じさせることから、的確に、運転者の胸部付近をリング部から離すように後方へ押すことができる。さらに、下側供給口は、開口面積を、左右両側の上側供給口の合計の開口面積より、大きくしており、迅速に膨張用ガスを流すことができて、インナバッグの後部側が、素早く、運転者の胸部付近をリング部から離すように後方へ押すことができ、そして、アウタバッグの後部側の膨張も促進することができる。また、上側供給口は、下側供給口より前方に位置するインナバッグの上側壁部の左右両側に配設されており、接近していた運転者の顎付近に膨張用ガスを直接的に当てることなく、アウタバッグの前部側に、左右両側に分岐させつつ、膨張用ガスを供給できて、接近していた運転者の顎付近を、アウタバッグにより、ボス部付近から離隔させるように押すことができ、運転者の頭部付近とリング部との間に、膨らんだアウタバッグを介在させることができる。さらに、上側供給口は、下側供給口を設けた下側壁部と、上下を逆とした上側壁部に開口されており、インナバッグに作用する反力の方向を、下側供給口側と逆方向としているため、上側壁部自体を上方へ浮き上がらせるように変形させること無く、安定した開口面を維持して、膨張用ガスを上向きとしてアウタバッグ側へ供給することができる。その結果、インナバッグの下側供給口と上側供給口とから供給される膨張用ガスにより、アウタバッグの全体が、バランスよく、膨張を完了させて、運転者を受け止めることができる。
【0011】
そしてまた、本発明に係る運転席用エアバッグ装置では、前記エアバッグの膨張完了形状が、前部側の厚さ寸法を、後部側の厚さ寸法より、大きくするように、構成されていることが望ましい。
【0012】
このような構成では、後下がりに傾斜したリング面により、膨張完了時のエアバッグが支持されると、アウタバッグの運転者側壁部を、鉛直方向に沿わせるように配置させることができて、上下方向に沿った略鉛直面となる受止面において、前方移動する運転者の頭部から腹部にかけての略全面を、均等に受け止めることが可能となり、部分的な反力を運転者に与えずに運転者を受け止めて保護できることから、前方移動する運転者の拘束性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における運転席用のエアバッグ装置を搭載したステアリングホイールの概略平面図である。
図2】実施形態のエアバッグ装置を搭載したステアリングホイールの概略縦断面図であり、図1のII-II部位に対応する。
図3】実施形態のエアバッグ装置のエアバッグを単独で膨張させた状態の概略斜視図である。
図4】実施形態のエアバッグ装置のエアバッグの構成材料を示す平面図であり、アウタバッグの構成材料を示す。
図5】実施形態のエアバッグ装置のエアバッグの構成材料を示す平面図であり、インナバッグとテザーとの構成材料を示す。
図6】実施形態のエアバッグの初期折り体を形成する折畳工程を説明する概略縦断面図である。
図7】実施形態のエアバッグの初期折り体を形成する折畳工程を説明する概略平面図である。
図8】実施形態のエアバッグの折畳完了体を形成するラジアル折りを説明する概略平面図である。
図9】実施形態のエアバッグの折畳完了体を形成するラジアル折りを説明する概略平面図であり、図8の後の工程を示す。
図10】実施形態のエアバッグ装置の作動時を説明する図である。
図11】実施形態のエアバッグ装置の作動時を説明する図であり、図10の後の状態を示す。
図12】実施形態のエアバッグ装置の作動時におけるインナバッグの挙動を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態のエアバッグ装置10は、図1,2に示すように、ステアリングホイールWのボス部Bに取付固定される運転席用のエアバッグ装置10である。ステアリングホイールWは、操舵時に把持するリング部R、リング部Rの中央に配置されるボス部B、及び、リング部Rとボス部Bとを連結するスポーク部S、を有したステアリングホイール本体1と、ボス部Bの上部に配設されるエアバッグ装置10と、を備えて構成されている。
【0015】
なお、本明細書でのエアバッグ装置10、エアバッグ29、ステアリングホイールW等の上下・左右・前後の方向は、特に断らない限り、ステアリングホイールWを車両のステアリングシャフトSSにナットN止めして接続させた状態における車両の直進操舵時を基準として、上下方向は、そのステアリングシャフトSSの軸方向に沿った上下方向に対応し、左右方向は、そのステアリングシャフトSSの軸直交方向の車両の左右方向に対応し、前後方向は、そのステアリングシャフトSSの軸直交方向の車両の前後方向に略対応する方向としている。
【0016】
実施形態のステアリングホイール本体1は、ボス部Bから延びるスポーク部Sが、左右の前後両側に延びる4本のスポーク部SLF,SLB,SRF,SRBとして、構成され、リング部Rが、ボス部Bの後側で、各スポーク部Sを連結するような平面視として略U字状に、形成されている。そのため、リング部Rが、ボス部Bから左右に延びるそれぞれの左右方向の幅寸法LL,LR(左側寸法LL、右側寸法LR)より、ボス部Bから前方に延びる前後方向の幅寸法(前側寸法)LFを、小さくする構成としている。さらに、実施形態では、リング部Rは、ボス部Bから後方に延びる前後方向の幅寸法(後側寸法)LBも、前方側の幅寸法LFより大きいものの、ボス部Bから左右に延びるそれぞれの左右方向の幅寸法LL,LRより、小さくする構成としている。なお、前部側のスポーク部SLF,SRFは、操舵時に把持可能であり、リング部Rの左部Rlや右部Rrの近傍では、把持可能なリング部Rの前部Rfとしての機能も果たす。
【0017】
また、ステアリングホイール本体1は、リング部R、ボス部B、及び、スポーク部Sを相互に連結するように配設される芯金2と、リング部Rとリング部R近傍のスポーク部Sの芯金2の部位を覆うウレタン等からなる被覆層3と、を備えて構成されている。芯金2は、リング部Rに配置されるリング芯金部2a、ボス部Bに配置されてステアリングシャフトSSと接続されるボス芯金部2b、及び、各スポーク部Sに配置されてリング芯金部2aとボス芯金部2bとを連結する図示しないスポーク芯金部、から構成される。
【0018】
さらに、ステアリングホイール本体1は、ボス部Bの下面側に、ロアカバー5を配設させて構成されている。
【0019】
なお、車両搭載時のステアリングホイールWのリング部Rは、操舵し易いように、前部Rfより後部Rb側を下方に下げており、そのため、エアバッグ29を支持するリング部Rの上面側のリング面RP側は、後下がりに傾斜して、斜め上後向きに向いて配設される。
【0020】
エアバッグ装置10は、エアバッグ29を折り畳んだ略円柱状の折畳完了体90と、エアバッグ29に膨張用ガスGを供給するインフレーター15と、折畳完了体90を覆ってボス部Bの上面側に配置される合成樹脂製のエアバッグカバー(パッド)20と、折畳完了体90(エアバッグ29)をステアリングホイールWのボス部Bに搭載するために保持して収納する金属製のバッグホルダ(ケース)11と、を備えて構成されている。バッグホルダ11は、折畳完了体90を取付固定して収納する部位であるとともに、インフレーター15とエアバッグカバー20とを保持する部位でもある。
【0021】
なお、エアバッグ29を折り畳んだ折畳完了体90には、底面側の内部に、エアバッグ29をバッグホルダ11に取付固定するための板金製の四角環状としたリテーナ25が配設されている。そして、エアバッグ29は、リテーナ25を組み付けた状態で、初期折り体88に折り畳まれ(図6のD,図7のC参照)、さらに、初期折り体88から折畳完了体90に折り畳まれて(図9のB参照)、バッグホルダ11に取付固定される。リテーナ25は、四隅にボルト27を下方へ突設させた四角環状の底壁部26を備え、底壁部26は、中央に、インフレーター15の後述する本体部16を挿入させる連通用開口26aを配設させている。
【0022】
インフレーター15は、円柱状の本体部16を備え、本体部16の外周面には、四角環状のフランジ部17が突設されている。フランジ部17には、リテーナ25のボルト27を貫通させる図示しない貫通孔が形成されている。本体部16のフランジ部17より上方の上部側には、膨張用ガスGを吐出させる複数のガス吐出口16aが配設されている。
【0023】
エアバッグカバー20は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等の合成樹脂製として、ステアリングホイールWの中央付近のボス部Bの上面側に配設されている。エアバッグカバー20は、ボス部Bの内部に折り畳まれて収納された折畳完了体90の上方を覆う天井壁部21と、天井壁部21の下面から略円筒状に延び、略円柱状の折畳完了体90の外周を覆う側壁部22と、を備えて構成されている。
【0024】
天井壁部21には、膨張するエアバッグ29に押されて前後両側に開くドア部21aが、配設されている。各ドア部21aは、前後方向の縁にヒンジ部21bを設けて、周囲に、上方から見て略H字状の薄肉の破断予定部21cを設けて構成されている。
【0025】
エアバッグカバー20の側壁部22は、バッグホルダ11における側壁支持部13の係止部13aに係止される係止縁部22aを備えるとともに、側壁支持部13にリベット23止めされるように、リベット23を挿通させる連結孔22bを備えている。
【0026】
バッグホルダ11は、板金製として、折畳完了体90、インフレーター15、及び、エアバッグカバー20、を保持し、さらに、図示しない連結ブラケットを利用して、エアバッグ装置10をステアリングホイール本体1側に取り付ける板金製の部材として構成されている。バッグホルダ11は、略円環状のベースプレート部12と、ベースプレート部12の外周縁から上下両側に突出する側壁支持部13と、を備えて構成されている。
【0027】
ベースプレート部12の中央には、エアバッグ29の流入用開口34に対応して、インフレーター15の本体部16を下方から挿入可能な略円形の挿入孔12aが、開口し、挿入孔12aの周縁には、リテーナ25の各ボルト27を貫通させる四個の貫通孔12bが形成されている。挿入孔12aの周縁における貫通孔12bを設けた部位は、リテーナ25を利用して、折畳完了体90とインフレーター15とを取り付けるための取付座12cとなる。
【0028】
側壁支持部13には、既述したように、エアバッグカバー20の側壁部22を連結保持するための係止部13aとリベット23を挿通させる連結孔13bとが、形成されている。
【0029】
エアバッグ29は、図1,2の二点鎖線や図11のBに示すように、前部29a側の厚さ寸法Tfを、後部29b側の厚さ寸法Tbより、大きくした略円板状の膨張完了形状としている。エアバッグ29の外周壁30は、アウタバッグ31から構成されて、図2,3に示すように、膨張用ガスGを流入させるための流入用開口34を中央付近に設けて、エアバッグ29の膨張完了時にリング部Rのリング面RP側に支持される車体側壁部32と、車体側壁部32の外周縁33に対して外周縁40を連ならせて、流入用開口34の上方を塞いで、車体側壁部32と対向するように配設される運転者側壁部39と、を備えて構成されている。
【0030】
車体側壁部32の円形に開口した流入用開口34の周縁は、バッグホルダ11への取付部35としており、取付部35には、リテーナ25のボルト27を貫通させる4つの貫通孔35aが形成されている(図2~4参照)。取付部35は、内側面をリテーナ25の底壁部26の下面側に当接されて、バッグホルダ11の取付座12cに固定される略四角環状の部位としている。
【0031】
そして、このエアバッグ29は、流入用開口34と貫通孔35aを有した取付部35とを共用して、膨張完了時の外周壁30を構成するアウタバッグ31と、アウタバッグ31の内側で膨張するように配設されるとともに、アウタバッグ31への膨張用ガスGを供給可能な供給口68(L,R)、73を有するインナバッグ65と、を備えて構成されている。さらに、実施形態の場合、アウタバッグ31内には、膨張完了時の流入用開口34からの離隔距離を規制するための4本のテザー44(FL,FR,BL,BR)が配設されている。
【0032】
インナバッグ65は、膨張完了時の外周壁66が、アウタバッグ31の運転者側壁部39と対向する上側壁部67と、上側壁部67の外周縁67aに対して外周縁70aを接続させて、車体側壁部32と対向し、かつ、流入用開口34と貫通孔35aを有した取付部35とを配設させてなる下側壁部70と、を備えて構成されている(図3,5参照)。インナバッグ65は、平らに展開した状態で、上側壁部67と下側壁部70とを同じ外形形状として、前部65aの左右方向の幅寸法Bfより後部65b側の幅寸法Bbを大きくした略台形形状とし、そして、上側壁部67と下側壁部70との外周縁67a,70a相互を結合させて、形成されている。そのため、インナバッグ65は、膨張完了時、前部65a側の厚さ寸法hfより、後部65b側の厚さ寸法hbを厚くするように、膨張する(図11のA、図2参照)。
【0033】
そして、供給口は、図3,12に示すように、下側壁部70の後部70b側における左右方向の中央に配設される下側供給口71と、上側壁部67における下側供給口71より前方側の左右両側に配設される上側供給口68(L,R)と、から構成されている。下側供給口71は、左右方向に延びた長穴形状として開口され、上側供給口68L,68Rは、共に、円形状の開口されている。
【0034】
但し、下側供給口71が、開口時の開口面積を、開口時の上側供給口68L,68Rの合計の開口面積より、広くして、配設されている。なお、下側供給口71は、左右方向に延びた長穴としているが、膨張用ガスGを供給するインナバッグ65の膨張時には、対向する縁71a,71bが相互に離れるように引っ張られて略円形の開口となる(図5の括弧書き参照)。そのため、実施形態の場合、下側供給口71は、上側供給口68L,68Rより、開口時の開口面積を広くしている(下側供給口71と上側供給口68L,68Rとの開口時の面積比としては、約1:1:3としている)。
【0035】
アウタバッグ31を形成する基布は、図4に示すように、運転者側壁部39を形成する運転者側基布60と、車体側壁部32を形成する車体側基布50と、から形成されている。さらに、車体側基布50は、流入用開口34を有した後側基布51と、後側基布51の前縁側の弧部52aに後縁側の弧部56bを結合させる前側基布55と、から構成されている。これらの基布60,51,55は、ポリアミドやポリエステル等の合成繊維製のバッグ用基布から形成されている。
【0036】
運転者側基布60は、前部側の弓形部60aと、後部側の円形状を半分とした半円部60bと、を備えた略円形状として、外周縁61の後縁側を半円弧部61bとし、前縁側を弧部61aとしている。
【0037】
車体側基布50の後側基布51は、前部側の弓形部51aと、後部側の円形状を半分とした半円部51bと、を備えて略円形状として、外周縁52の後縁側を半円弧部52bとし、前縁側を弧部52aとしている。後側基布51の半円部51bは、運転者側基布60の半円部60bと同じ外形形状としており、その外周側の縁の半円弧部52bは、運転者側基布60の半円部60bの外周側の縁となる半円弧部61bと結合(縫合)される部位としている。
【0038】
そして、前側基布55は、前後に弓形部55a,55bを配設させた略楕円形状として、外周縁56の前後の縁を弧部56a,56bとしている。なお、弧部56aは、膨張完了時のエアバッグ29の外周壁30の状態としては、前縁側となり、運転者側基布60の前縁側の弧部61aと結合(縫合)される部位としており、弧部61aと同じ外形形状としている。また、前側基布55の弧部56bは、膨張完了時のエアバッグ29の外周壁30の状態としては、前側基布55の後縁側となり、車体側基布50の後側基布51における前縁側の弧部52aと結合(縫合)される部位として、弧部52aと同じ外形形状としている。
【0039】
また、前側基布55は、左右方向の幅寸法WLを、他の運転者側基布60や後側基布51と同様としているものの、左右両端を結ぶ直線C1を基準とする前後の幅寸法F1,F2として、前側の幅寸法F1を後側の幅寸法F2より大きくしている。そのため、左右両端を結ぶ直線C1に折目79を付けて二つ折りすると、前側の弓形部55aは、後側の弓形部55bと重なる内側部55aaと、後側の弓形部55bからはみ出る張出部55abと、を有することとなる。なお、折目79は、後述する初期折り体88の折目79となり、内側部55aaは、弓形部55bとともに、後述する折込部78を形成する部位となる。また、張出部55abは、運転者側基布60の前縁側部位とともに、後述する折返部86を形成する部位となる。
【0040】
さらに、エアバッグ29には、車体側壁部32の前側基布55の部位に、ベントホール37が形成されている。
【0041】
また、アウタバッグ31内には、膨張完了時の後部29b側の厚さ寸法Tb(図11のB参照)を規制するテザー44(FL,FR,BL,BR)が、流入用開口34の周囲に配設されている。各テザー44は、図5に示すように、運転者側壁部39側に連結される4本の上側部45と、車体側壁部32の流入用開口34の周縁の取付基部47から4本の腕部48を延ばす下側部46と、から構成されて、各上側部45と下側部46の対応する各腕部48とを結合させて、形成されている。各上側部45は、上端45a側を、運転者側壁部39側に結合させ、下端45b側を、各腕部48の先端に結合させている。下側部46の取付基部47は、流入用開口34の周縁の耐熱性を高める補強布42と兼用とされ、流入用開口34から放射状に延びる各腕部48を、各上側部45の下端45bと結合させて、テザー44(FL,FR,BL,BR)を形成している。そして、前部側のテザー44FL,44FRより、後部側のテザー44BL,44BRを短くするように、下側部46の各腕部48の長さ寸法が、各テザー44(FL,FR,BL,BR)に対応して、設定されている。
【0042】
なお、エアバッグ29(アウタバッグ31)の膨張完了時の前部29a側では、流入用開口34の前方側に、車体側壁部32の前側基布55を配設させて、運転者側壁部39より、前後方向の膜長が長いことから、厚く膨らみ、後部29b側に長さの短いテザー44BL,44BRが配設されて、後部29b側の厚さ寸法Tbが規制されていることと相俟って、リング部Rのリング面RP側での膨張完了時に前部29a側の厚さ寸法Tfが、後部29b側の厚さ寸法Tbより、厚くなり(図11のB参照)、エアバッグ29の膨張完了時、略鉛直面に沿うように配設される運転者側壁部39により、運転者Dを受け止めることができる。
【0043】
また、インナバッグ65を形成する基布は、図5に示すように、上側壁部67を形成する上側基布73と、下側壁部70を形成する下側基布74と、から形成され、それぞれ、ポリアミドやポリエステル等の合成繊維製のバッグ用基布から形成されている。
【0044】
エアバッグ29の製造は、アウタバッグ31とインナバッグ65とをそれぞれ製造する。アウタバッグ31の製造は、流入用開口34や貫通孔35aを設けていない状態の車体側基布50の後側基布51に、補強布42(下側部46)を縫合して、流入用開口34と貫通孔35aとを孔開け加工して形成する。また、ベントホール37を設けていない状態の車体側基布50の前側基布55に、ベントホール用の補強布(図符号省略)を縫合して、ベントホール37を孔開け加工して形成する。運転者側基布60には、各テザー44の上側部45の上端45aを縫合する。
【0045】
そして、前側基布55の後縁側の弧部56bと、後側基布51の前縁側の弧部52aを縫合して、車体側基布50を形成する。ついで、車体側基布50と運転者側基布60との外表面側相互を合わせて、後側基布51の後縁側の半円弧部52bと運転者側基布60の後縁側の半円弧部61bとを縫合するとともに、前側基布55の前縁側の弧部56aと、運転者側基布60の前縁側の弧部61aとを縫合すれば、アウタバッグ31を形成することができる。その後、縫代が外表面側に露出しないように、流入用開口34を利用して、アウタバッグ31を反転させ、流入用開口34を利用して、テザー44の各上側部45の下端45bと下側部46の各腕部48とを引き出して縫合により結合して、それぞれの結合部位をアウタバッグ31内に収納すれば、アウタバッグ31の製造を完了させることができる。
【0046】
インナバッグ65は、流入用開口34や貫通孔35a等を設けていない状態の下側基布74に、孔開けて加工して、流入用開口34や貫通孔35a、さらに、下側供給口71を形成し、また、上側供給口68(L,R)を設けていない上側基布73に、孔開け加工して、上側供給口68(L,R)を形成し、そして、外周縁73a,74a相互を縫合すれば、インナバッグ65を製造することができる。そして、製造したインナバッグ65は、流入用開口34や貫通孔35aを一致させるように、アウタバッグ31内に収納すれば、エアバッグ29を製造することができる。なお、アウタバッグ31とインナバッグ65との流入用開口34や貫通孔35aを一致させる場合には、リテーナ25をインナバッグ65内に入れて、対応する貫通孔35a相互に、リテーナ25の各ボルト27を貫通させれば、一致させることができる。
【0047】
そして、このように製造したエアバッグ29は、リテーナ25を利用して、流入用開口34や貫通孔35aを一致させて、アウタバッグ31内にインナバッグ65を配設した状態として、初期折り体88を形成するように折り畳んだ後、折畳完了体90とするように折り畳む。
【0048】
初期折り体88を形成する際には、まず、図6のA~Cと図7のA,Bに示すように、車体側壁部32を形成する車体側基布50の前側基布55に、左右方向に沿う折目79を設けて、二つ折りして、車体側壁部32の上に、平らに運転者側壁部39を重ねて、初期折り準備体77を形成する。この初期折り準備体77は、平らに展開した運転者側壁部39の前縁側部位62の下方において、膨張完了時のエアバッグ29(アウタバッグ31)の前部29a側の車体側壁部32の前縁側部位(前側基布)55を、流入用開口34側の後方側に折り込んだ折込部78、が形成されている状態である。折込部78は、前側基布55の前部側の弓形部55aと後部側の弓形部55bとを、両者の境界部位(直線C1の部位)に折目79を設けて、二つ折りして形成されており、後部側の弓形部55bを下方に配置させ、弓形部55bの上方に前部側の弓形部55aの内側部55aaが重なって、形成されている。
【0049】
そしてさらに、初期折り体88は、図6のC,Dと図7のB,Cに示すように、初期折り準備体77における折込部78に連なる運転者側壁部39の前縁側部位62を、折込部78に連なる流入用開口34から延びる車体側壁部32の前端部53側に対して、折目82を付けて、接近させるように折り返した折返部86、を設ければ、形成することができる。
【0050】
そして、折畳完了体90に折り畳む際には、図8~9に示すように、初期折り体88をラジアル折りする。ラジアル折りは、初期折り体88における流入用開口34から外周縁88a側に延びる複数個所(実施形態では流入用開口34から放射状に配置された16箇所)を、流入用開口34側に接近させて、初期折り体88における流入用開口34から外周縁88a側に延びる略円環状の周縁部位89を、流入用開口34の上方側に集合させる折り畳み方である。
【0051】
ラジアル折りに使用するバッグ折り機95は、図8~9に示すように、底側基板96の周囲に、底側基板96の中央側に移動する8つずつの2種類の押し込み具98,99を配設させて構成されている。底側基板96の上面側の中央96aには、初期折り体88から突出したリテーナ25の各ボルト27を嵌めるセット部97が、配設されている。
【0052】
押し込み具98は、初期折り体88の外周縁88aにおける8つの箇所88bを把持でき、かつ、中央96a側に押し込むことができるように、構成されている(図9参照)。さらに、押し込み具98のセット部97側には、折畳完了体90の略円柱状の外周面における円弧状の曲面に対応する型面98aが、形成されている。押し込み具99は、セット部97側を先細りとした略三角板形状としている。
【0053】
なお、底側基板96の上方には、押し込み具98,99の押し込み時に、初期折り体88の高さ寸法を規制して、略円柱状の折畳完了体90を形成できるように、図示しない天井側基板が配置されることとなる。
【0054】
そして、バッグ折り機95を使用する際には、初期折り体88の各ボルト27をセット部97にセットし、ついで、底側基板96のセット部97から、所定高さ(折畳完了体90の高さ寸法と同等)となる位置に、図示しない天井側基板を配置させ、図8に示すように、各押し込み具98,99を、セット部97側に移動させるとともに、初期折り体88の外周縁88aの所定の8つの箇所88bを、押し込み具98に把持させる。その後、図9のAに示すように、まず、各押し込み具99をセット部97側(流入用開口34側)に移動させて、初期折り体88における押し込み具98のセット部97側の領域を残して、初期折り体88の外周縁88aの8つの押し込み箇所88cを、セット部97側に押し込む。その後、各押し込み具98における外周縁88aの把持箇所88bの把持を解除し、各押し込み具98をセット部97側に移動させて、8つの箇所88bを、図9のBに示すように、セット部97側に押し込めば、略円柱状の折畳完了体90を形成できる。
【0055】
なお、このようにラジアル折りした折畳完了体90は、折畳形状を維持できるように、まず、昇温した押し型で加熱圧縮成形し、さらに、常温とした押し型で冷却圧縮成形して、折り崩れを防止する。
【0056】
折り崩れを防止する処理を行なった後には、図示しないラッピング材により折畳完了体90を包み、エアバッグ装置10を組み立てる。この組立時には、折畳完了体90をエアバッグカバー20の側壁部22の内周面側に嵌め、折畳完了体90から延びる各ボルト27を、バッグホルダ11の貫通孔12bに、貫通させるとともに、エアバッグカバー20の係止縁部22aをバッグホルダ11の係止部13aに係止させ、さらに、リベット23を連結孔13b,22bに貫通させて、バッグホルダ11の側壁支持部13とエアバッグカバー20の側壁部22とを連結する。その後、バッグホルダ11の挿入孔12a内へ、下方からインフレーター15の本体部16を挿入させつつ、バッグホルダ11から突出している各ボルト27を、インフレーター15のフランジ部17に貫通させて、各ボルト27に図示しないナットを締結させれば、エアバッグカバー20を取付済みのバッグホルダ11に、折畳完了体90とインフレーター15とが取付固定されて、エアバッグ装置10が組み立てられる。
【0057】
エアバッグ装置10の車両への搭載は、ステアリングシャフトSSへ組付済みのステアリングホイール本体1に、バッグホルダ11から延びる図示しない取付ブラケットを締結すれば、エアバッグ装置10をステアリングホイール本体1に取り付けることができ、ステアリングホイールWの組立が完了するとともに、ステアリングホイールWを、エアバッグ装置10とともに、車両へ搭載することができる。
【0058】
なお、エアバッグ装置10のステアリングホイール本体1への取り付け時には、インフレーター15に、作動信号入力用の図示しないリード線を結線することとなる。
【0059】
車両への搭載後、インフレーター15に作動信号が入力されれば、インフレーター15は、膨張用ガスGをガス吐出口16aから吐出させることから、折り畳まれたエアバッグ29は、膨張用ガスGを流入させて膨張し、図示しないラッピング材を破断させ、さらに、エアバッグカバー20の天井壁部21のドア部21aを押し開き、ドア部21aの開いた開口から突出して、ボス部Bの上方からリング部Rの上面を覆うように、展開膨張することととなる(図1,2の二点鎖線参照)。
【0060】
そして、実施形態のエアバッグ装置10では、図10のA,Bに示すように、運転者DがステアリングホイールWのリング部Rに接近している状態で作動すると、まず、インナバッグ65が膨張する。インナバッグ65は、後部65b側を、リング面RPの後端Rbe側より後方に突出させるように、膨張することから、アウタバッグ31の外周壁30を介在させて、インナバッグ65の後部65b側が、接近していた運転者Dの胸部DB付近を、リング部Rの後端Rbeから離すように、後方へ押すこととなって、運転者Dにおけるリング部Rの後端Rbe側との干渉を抑制できる。そして、運転者Dの胸部DB付近の前方には、アウタバッグ31を介在させて、インナバッグ65が配設されていることから、図10のBや図11のA,B、さらに、図12のA,Bに示すように、アウタバッグ31は、インナバッグ65の供給口68,71からの膨張用ガスGにより膨張すれば、リング部Rの後端Rbe側を含めたリング面RPを覆うように、膨張を完了できて、運転者Dは、リング部Rに支持されて膨張を完了させたアウタバッグ31により、保護される。また、インナバッグ65は、膨張時、リング面RPからの高さ寸法として、前部65a側の高さ寸法hfより後部65b側の高さ寸法hbを高くする形状として、前部65a側を薄くしており、図10のAに示すように、運転者D´の顎DJ´付近が、ボス部B付近(流入用開口34(図2参照)付近)に接近していても、インナバッグ65が、前部65aを薄くしている分、前部65a側の後方への押圧力を低減できて、エアバッグ29の膨張初期における接近している運転者D´の顎DJ´付近へのダメージを抑制できる。
【0061】
したがって、実施形態の運転席用エアバッグ装置10では、作動時、リング部Rに運転者D,D´が接近していても、膨張途中のエアバッグ29により、好適に運転者D,D´を保護することができる。
【0062】
そして、実施形態の運転席用エアバッグ装置10では、インナバッグ65の膨張完了時の外周壁66が、アウタバッグ31の運転者側壁部39と対向する上側壁部67と、上側壁部67の外周縁67aに対して外周縁70aを接続させて、車体側壁部32と対向し、かつ、流入用開口34と取付部35とを配設させてなる下側壁部70と、を備えて構成されている。そして、供給口が、下側壁部70の後部70b側に配設される下側供給口71と、上側壁部67における下側供給口71より前方側の左右両側に配設される上側供給口68L,68Rと、を備えて構成されている。さらに、下側供給口71が、開口時の開口面積を、開口時の上側供給口68L,68Rの合計の開口面積より、広くして、配設されている。
【0063】
そのため、実施形態では、インナバッグ65の膨張時、図10のBや図12のAに示すように、開口面積の広い下側供給口71から、アウタバッグ31の車体側壁部32の後端32a側に膨張用ガスGを供給することから、その膨張用ガスGを吐出する反力により、インナバッグ65の上側壁部67が、特に、後部67b側が、上方へ移動することとなり、その挙動は、リング面RPの後端Rbeに接近している運転者Dの胸部DB付近を、後方へ押圧する作用を生じさせることから、的確に、運転者Dの胸部DB付近をリング部Rから離すように後方へ押すことができる。さらに、下側供給口71は、開口面積を、左右両側の上側供給口68L,68Rの合計の開口面積より、大きくしており、迅速に膨張用ガスGを流すことができて、インナバッグ65の後部65b側が、素早く、運転者Dの胸部DB付近をリング部Rから離すように後方へ押すことができ(図10のA,B参照)、そして、アウタバッグ31の後部31b側の膨張も促進することができる。また、上側供給口68L,68Rは、下側供給口71より前方に位置するインナバッグ65の上側壁部67の左右両側に配設されており、接近していた運転者D´の顎DJ´付近に膨張用ガスGを直接的に当てることなく、アウタバッグ31の前部31a側に、左右両側に分岐させつつ、膨張用ガスGを供給できて(図12のA参照)、接近していた運転者D´の顎DJ´付近を、アウタバッグ31により、ボス部B(流入用開口34)付近から離隔させるように押すことができ、運転者D,D´の頭部DH付近とリング部Rとの間に、膨らんだアウタバッグ31を介在させることができる(図11のA参照)。さらに、上側供給口68L,68Rは、下側供給口71を設けた下側壁部70と、上下を逆とした上側壁部67に開口されており、インナバッグ65に作用する反力の方向を、下側供給口71側と逆方向とした下向きの方向としているため、上側壁部67自体を上方へ浮き上がらせるように変形させること無く、安定した開口面を維持して、膨張用ガスGを上向きとしてアウタバッグ31側へ供給することができる。その結果、インナバッグ65の下側供給口71と上側供給口68L,68Rとから供給される膨張用ガスGにより、アウタバッグ31の全体が、バランスよく、膨張を完了させて、運転者Dを受け止めることができる。
【0064】
なお、アウタバッグ31が膨張を完了させた後、インフレーター15からの膨張用ガスGの供給が停止されれば、アウタバッグ31が膨張完了形状を維持していても、インナバッグ65は、膨張完了状態から、若干、萎む状態となる(図11のB参照)。
【0065】
また、実施形態の運転席用エアバッグ装置10では、エアバッグ29の膨張完了形状が、前部29a側の厚さ寸法Tfを、後部29b側の厚さ寸法Tbより、大きくするように、構成されている(図11のB参照)。
【0066】
そのため、実施形態では、後下がりに傾斜したリング部Rのリング面RP側で膨張完了時のエアバッグ29(アウタバッグ31)が支持されると、エアバッグ29の運転者側壁部39を、鉛直方向に沿わせるように配置させることができて、上下方向に沿った略鉛直面となる受止面41において、前方移動する運転者Dの頭部DHから腹部DSにかけての略全面を、均等に受け止めることが可能となり、部分的な反力を運転者Dに与えずに運転者Dを受け止めて保護できることから、前方移動する運転者Dの拘束性能を向上させることができる。
【0067】
なお、実施形態の場合、厚さ寸法Tf,Tbの差は、前側基布55を設けたり、あるいは、テザー44を配設させて、設定しているが、外周壁30の形状や膜長の長さを変えるだけ、あるいは、テザーだけで、前部29a側と後部29b側の厚さ寸法Tf,Tbに差を設けるようにしてもよい。
【0068】
また、実施形態のエアバッグ装置10では、ステアリングホイールWのリング部Rが、ボス部Bから左右に延びるそれぞれの左右方向の幅寸法LL,LRより、ボス部Bから前方に延びる前後方向の幅寸法LFを、小さくする構成としている。
【0069】
このようなステアリングホイールWでは、リング部Rの前部Rf側で、膨張完了時のエアバッグ29が、直接、支持され難いが、エアバッグ29自体が、前部29a側を厚く膨張させていれば、運転者Dの受止時、運転者側壁部39が前方移動しようとしても、後部29b側に比べて、前部29a側では、厚さ寸法Tfのある分、車体側壁部32が、リング部Rの左右の左部Rlや右部Rrの前端側(前面)Rlf,Rrf、あるいは、リング部Rの前部Rf側の前面Rff側に圧接させて、反力を確保しやすく、前方移動量を、後部29b側と同等にできて、円滑に、運転者側壁部39の略鉛直面となる受止面41で、前方移動する運転者Dの頭部DHから腹部DSにかけての略全面を、略同等の受止ストロークとして、ソフトに受け止めることが可能となる。
【0070】
なお、実施形態では、前後方向の長さ寸法の短いステアリングホイールWに搭載する運転席用エアバッグ装置10について説明したが、リング部Rが略円環状としているステアリングホイールに、本発明のエアバッグ装置を搭載してもよい。この場合でも、インナバッグは、膨張時、後部側を、リング面の後端側より後方に突出させ、かつ、リング面からの高さ寸法として、前部側より後部側を高くする形状とするように、構成すればよい。
【符号の説明】
【0071】
10…運転席用エアバッグ装置、29…エアバッグ、29a…前部、29b…後部、30…外周壁、31…アウタバッグ、32…車体側壁部、33…外周縁、
34…流入用開口、35…取付部、39…運転者側壁部、40…外周縁、65…インナバッグ、65a…前部、65b…後部、66…外周壁、67…上側壁部、
67a…外周縁、68(L,R)…上側供給口、70…下側壁部、70a…外周縁、70b…後部、71…下側供給口、
G…膨張用ガス、R…リング部、Rbe…後端、RP…リング面、B…ボス部、hf…(インナバッグの前部側の)高さ寸法、hb…(インナバッグの後部側の)高さ寸法、Tf…(エアバッグの膨張完了時の前側部の)厚さ寸法、Tb…(エアバッグの膨張完了時の後側部の)厚さ寸法、
D,D´…運転者、DJ,DJ´…顎、DB…胸部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12