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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】複合体及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20230124BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20230124BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C08L7/00
D07B1/06 A
B60C1/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021132210
(22)【出願日】2021-08-16
(62)【分割の表示】P 2017082833の分割
【原出願日】2017-04-19
(65)【公開番号】P2021185234
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前川 奈津希
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博
(72)【発明者】
【氏名】原田 良輔
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149149(JP,A)
【文献】特開2014-227491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,D07B,B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸含有量が0.8質量%以下である被覆用ゴム組成物と、銅を含むメッキを施した被着物とからなり、前記脂肪酸には、天然ゴム由来の脂肪酸が含まれ得る複合体。
【請求項2】
前記ゴム組成物がゴム成分として天然ゴムのみを含む請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記ゴム組成物は、脂肪酸含有量が0.8質量%以下の天然ゴムを含む請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
前記被着物は、該被着物表面に付着する脂肪酸付着量が、被着物表面に付着するゴム組成物量を100質量%として、0.8質量%以下である請求項1~3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の複合体を用いた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からカーカス、ベルトに使用されるコード被覆用のゴム組成物には、天然ゴムやイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム成分、カーボンブラック等の補強用充填剤、等を含む配合が汎用されている。
【0003】
このような被覆用ゴム組成物には、コードとの接着性が要求され、種々の技術が提案されているが、性能要求は厳しく、良好な初期接着性だけでなく、劣化後の接着性の確保についても更なる改善が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、良好な初期接着性、高湿熱劣化後の接着性を持つゴム-コード複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、脂肪酸含有量が0.8質量%以下である被覆用ゴム組成物と、銅を含むメッキを施した被着物とからなる複合体に関する。
【0006】
前記ゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴムのみを含むことが好ましい。
前記ゴム組成物は、脂肪酸含有量が0.8質量%以下の天然ゴムを含むことが好ましい。
前記被着物は、該被着物表面に付着する脂肪酸付着量が0.8質量%以下であることが好ましい。
本発明はまた、前記複合体を用いた空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、脂肪酸含有量が0.8質量%以下である被覆用ゴム組成物と、銅を含むメッキを施した被着物とからなる複合体であるので、良好な初期接着性、高湿熱劣化後の接着性を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の複合体は、脂肪酸含有量が0.8質量%以下である被覆用ゴム組成物と、銅を含むメッキを施した被着物とからなる。
【0009】
所定以下の脂肪酸量の被覆用ゴム組成物と、所定の被着物とからなる本発明の複合体は、銅を含むメッキを施した被着物とゴムとの間に良好な初期接着性を付与し、更に長時間高湿度の環境下に放置した後においても被着物とゴムの間の強固な接着性を維持できる。
【0010】
〔被覆用ゴム組成物〕
本発明における被覆用ゴム組成物(被着物を被覆するゴム組成物)は、脂肪酸含有量が0.8質量%以下である。これにより、良好な被覆するコード等の被着物との接着性が得られる。該脂肪酸含有量は、0.7質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましい。脂肪酸含有量は少ないほど望ましく、下限は特に限定されない。
なお、前記被覆用ゴム組成物(100質量%)中の脂肪酸含有量は、後述の実施例の方法により測定できる。
【0011】
本発明において、脂肪酸としては、一般式:CCOOH(n及びmは1以上の整数)で表される1価のカルボン酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸)、等が挙げられる。ゴム組成物は、通常、天然ゴム中の非ゴム成分に含まれる脂肪酸、添加剤として配合されるステアリン酸等の脂肪酸、等を含有しているが、前記被覆用ゴム組成物は、このような脂肪酸の含有量が少ないものである。
【0012】
例えば、天然ゴムは、天然ゴムラテックスのタッピング、凝固、洗浄、脱水、乾燥、パッキングの各工程を順に行う方法等の一般的な製法により製造されている。そして、得られた天然ゴムやそれを用いたゴム組成物に天然ゴム中の非ゴム成分の1種である脂肪酸が残留している場合、そのようなゴム組成物を、銅を含むメッキを施したコード等の被着物に被覆し、ベルト、カーカス等のゴム-被着物複合体を製造しても、該ゴム組成物と被着物の接着性(初期接着性、高湿熱劣化後の接着性)に劣る。
【0013】
本発明では、被覆用ゴム組成物中の脂肪酸含有量を所定以下に調整することにより、初期接着性だけでなく、高湿熱劣化後の接着性も改善することが可能となる。
【0014】
本願所定の脂肪酸含有量を有する前記被覆用ゴム組成物は、例えば、ゴム成分として、脂肪酸含有量が少ない天然ゴム(NR)を使用すること、添加剤として配合するステアリン酸等の脂肪酸量を少なくすること、等により製造できる。
【0015】
前記被覆用ゴム組成物に含まれるNRは、脂肪酸含有量が0.9質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下が更に好ましい。脂肪酸含有量が少ないほど望ましく、下限は特に限定されない。
なお、NR(100質量%)中の脂肪酸含有量は、後述の実施例の方法により測定できる。
【0016】
このような脂肪酸含有量が少ないNRは、例えば、前述の一般的なNRの製法において、凝固工程に硫酸等を用いて凝固し、凝固ゴム(凝集ゴム)に強固な洗浄処理を施し、非ゴム成分の脂肪酸を除去することで作製できる。
【0017】
脂肪酸含有量が少ないNRとしては、例えば、脂肪酸含有量が少ないと共に、高純度化され、かつpHが2~7に調整された改質天然ゴムを好適に使用できる。該改質天然ゴムは、国際公開第2014/125700号に開示され、特に凝固工程で硫酸を用いた製法、等により調製できる。これにより、凝固工程に硫酸を用いると共に、強固な洗浄処理を施すことで、脂肪酸含有量が少ない改質天然ゴムが得られる。
【0018】
前記改質天然ゴムのpHは2~7であり、好ましくは3~6、より好ましくは4~6である。なお、改質天然ゴムのpHは、ゴムを各辺2mm角以内の大きさに切って蒸留水に浸漬し、マイクロ波を照射しながら90℃で15分間抽出し、浸漬水をpHメーターを用いて測定された値であり、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定する。
【0019】
前記改質天然ゴム中のリン含有量は、好ましくは200ppm以下、より好ましくは150ppm以下である。なお、リン含有量は、ICP発光分析等、従来の方法で測定できる。
【0020】
前記改質天然ゴムは、アセトン中に室温(25℃)下で48時間浸漬した後の窒素含有量が0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。上記窒素含有量は、アセトン抽出によりゴム中の人工の老化防止剤を除去した後の測定値である。窒素含有量は、ケルダール法、微量窒素量計等、従来の方法で測定できる。窒素は、タンパク質やアミノ酸に由来するものである。
【0021】
前記改質天然ゴムは、例えば、天然ゴムラテックスをケン化処理する工程1-1と、ケン化天然ゴムラテックスを洗浄する工程1-2と、酸性化合物で処理する工程1-3とを含む製造方法、等により調製できる。
【0022】
〔製法1〕
(工程1-1)
工程1-1では、天然ゴムラテックスをケン化処理する。ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することで実施でき、必要に応じて撹拌などを行っても良い。
【0023】
(工程1-2)
工程1-2では、前記工程1-1で得られたケン化天然ゴムラテックスを洗浄する。
工程1-2は、例えば、前記工程1-1で得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集(凝固)させて凝集ゴム(凝固ゴム)を作製した後、得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理し、更に洗浄することにより実施できる。具体的には、凝集ゴムの作製後に、水で希釈して水溶性成分を水層に移して、水を除去することで非ゴム成分を除去でき、更に凝集後に塩基性化合物で処理することで凝集時にゴム内に閉じ込められた非ゴム成分を再溶解させることができる。これにより、凝集ゴム中に強く付着したタンパク質、脂肪酸などの非ゴム成分、硫酸イオン等を除去できる。
【0024】
凝集方法(凝固方法)としては、硫酸などの酸を添加してpHを調整し、必要に応じて更に高分子凝集剤を添加する方法などが挙げられる。これにより、大きな凝集塊ではなく、直径数mm~1mm以下から、20mm程度の粒状ゴムが形成され、塩基性化合物処理によりタンパク質などが充分に除去される。上記硫酸として、硫酸濃度85質量%以下の硫酸水溶液を用いることが好ましく、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。上記pHは、好ましくは3.0~5.0、より好ましくは3.5~4.5の範囲に調整される。
【0025】
次いで、得られた凝集ゴム(凝固ゴム)に対して、塩基性化合物による処理が施される。ここで、塩基性化合物としては特に限定されないが、タンパク質、脂肪酸などの除去性能の点から、塩基性無機化合物が好適である。
【0026】
塩基性無機化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などの金属水酸化物;アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩などの金属炭酸塩;アルカリ金属炭酸水素塩などの金属炭酸水素塩;アルカリ金属リン酸塩などの金属リン酸塩;アルカリ金属酢酸塩などの金属酢酸塩;アルカリ金属水素化物などの金属水素化物;アンモニアなどが挙げられる。なかでも、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩、アンモニアが好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0027】
凝集ゴムを塩基性化合物で処理する方法は、凝集ゴムを上記塩基性化合物に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムを塩基性化合物の水溶液に浸漬する方法、凝集ゴムに塩基性化合物の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。塩基性化合物の水溶液は、各塩基性化合物を水で希釈、溶解することで調製できる。
【0028】
上記塩基性化合物の水溶液のpHとしては、9~13が好ましく、処理効率の点から、10~12がより好ましい。上記処理温度は、好ましくは10~50℃、処理時間は、通常、1分~48時間である。
【0029】
塩基性化合物の処理後、洗浄処理が行われる。該洗浄処理により、凝集時にゴム内に閉じ込められたタンパク質、脂肪酸などの非ゴム成分を充分除去すると同時に、凝集ゴムの表面だけでなく、内部に存在する塩基性化合物、硫酸イオン等も充分に除去することが可能となる。特に、当該洗浄処理でゴム全体に残存する塩基性化合物を除去することにより、後述の酸性化合物による処理をゴム全体に充分に施すことが可能となり、ゴムの表面だけでなく、内部のpHも2~7に調整できる。
【0030】
洗浄方法としては、ゴム全体に含まれる非ゴム成分、塩基性化合物、硫酸イオン等を充分に除去可能な手段を好適に用いることができ、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離する方法、静置してゴムを浮かせ、水相のみを排出してゴム分を取り出す方法が挙げられる。洗浄回数は、タンパク質、脂肪酸などの非ゴム成分、塩基性化合物、硫酸イオンを所望量に低減することが可能な任意の回数を採用できるが、乾燥ゴム300gに対して水1000mLを加えて撹拌した後に脱水するという洗浄サイクルを繰り返す手法なら、3回(3サイクル)以上が好ましく、5回(5サイクル)以上がより好ましく、7回(7サイクル)以上が更に好ましい。
【0031】
洗浄処理は、ゴム中のリン含有量が200ppm以下及び/又は窒素含有量が0.15質量%以下になるまで洗浄するものであることが好ましい。
【0032】
(工程1-3)
工程1-3では、工程1-2で得られた洗浄後のゴムに酸性化合物による処理が施される。前記のとおり、当該処理を施すことでゴム全体のpHが2~7に調整され、前記各種性能に優れた改質天然ゴムを提供できる。
【0033】
酸性化合物としては特に限定されず、塩酸、硝酸、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ほう酸、ボロン酸、スルファニル酸、スルファミン酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸などの有機酸などが挙げられる。なかでも、酢酸、ギ酸などが好ましい。
【0034】
凝集ゴムを酸で処理する方法は、凝集ゴムを上記酸性化合物に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムを酸性化合物の水溶液に浸漬する方法、凝集ゴムに酸性化合物の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。上記処理温度は、好ましくは10~50℃、処理時間は、通常3秒~24時間である。
【0035】
酸性化合物の水溶液への浸漬などの処理では、pHを6以下に調整することが好ましい。該pHの上限は、より好ましくは5以下、更に好ましくは4.5以下である。下限は特に限定されず、浸漬時間にもよるが、酸が強すぎるとゴムが劣化したり、廃水処理が面倒になるため、好ましくは1以上、より好ましくは2以上である。なお、浸漬処理は、酸性化合物の水溶液中に凝集ゴムを放置しておくこと等で実施できる。
【0036】
処理後に、酸性化合物の処理に使用した該化合物を除去した後、処理後の凝集ゴムの洗浄処理を適宜実施してもよい。洗浄処理としては、上記と同様の方法が挙げられ、例えば、洗浄を繰り返すことで非ゴム成分、硫酸イオン等を更に低減し、所望の含有量に調整すればよい。また、酸性化合物の処理後の凝集ゴムをロール式の絞り機等で絞ってシート状などにしてもよい。凝集ゴムを絞る工程を追加することで、凝集ゴムの表面と内部のpHを均一にすることができ、所望の性能を持つゴムが得られる。必要に応じて、洗浄や絞り工程を実施した後、クレーパーに通して裁断し、乾燥することにより、前記改質天然ゴムが得られる。なお、乾燥は、通常の乾燥機を用いて実施できる。
【0037】
前記被覆用ゴム組成物において、前記改質天然ゴム等のNRの含有量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。80質量%以上にすることで、良好な接着性、低燃費性等が得られる。
【0038】
ゴム成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、NR以外に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、などのゴムを併用してもよい。
【0039】
前記被覆用ゴム組成物には、カーボンブラックを配合することが好ましい。これにより、ゴムの強度等を向上できる。カーボンブラックとしては、特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられる。
【0040】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、65m/g以上がより好ましい。50m/g以上にすることで、ゴム組成物とタイヤコードとの接着性が向上する傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは、150m/g以下が好ましく、130m/g以下がより好ましい。150m/g以下にすることで、良好な低発熱性が得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K6217、7項のA法によって求められる。
【0041】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。5質量部以上にすることで、ゴム組成物とタイヤコードとの接着性が向上する傾向がある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは65質量部以下である。80質量部以下にすることで、良好な低発熱性が得られる傾向がある。
【0042】
前記被覆用ゴム組成物は、加硫剤として硫黄を含むことが好ましい。
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは2.8質量部以上である。2.5質量部以上にすることで、タイヤコードとの接着層に充分な硫黄が供給され、良好な接着性が得られる傾向がある。また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは6質量部以下である。10質量部以下にすることで、破断応力や破断時伸びなどのゴム特性が充分に得られる傾向がある。
【0043】
前記被覆用ゴム組成物には、加硫促進剤が配合されてもよい。加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。なかでも、架橋反応性に優れる点からスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系化合物等が挙げられる。
【0044】
前記被覆用ゴム組成物には、前記成分以外にも、通常ゴム工業で使用される添加剤、例えば、各種老化防止剤、ワックス、アロマオイルなどのオイル、などを適宜配合することができる。
【0045】
前記被覆用ゴム組成物では、添加剤として添加する脂肪酸の配合量(ステアリン酸等の配合量)は、接着性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下で、添加しなくてもよい。
【0046】
前記被覆用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0047】
前記被覆用ゴム組成物(加硫ゴム組成物)は、加硫熱量35~65ECU、加硫温度150~190℃の加硫条件で加硫されたものが好ましい。ゴムを加硫する場合、加硫に必要な熱量を与える必要があり、このことは日本ゴム協会誌第59巻第3号(1986)129ページなどに記載されている。加硫熱量については、基準温度149.5℃で1分間(60秒間)熱量を与えたときの等価加硫量を1ECUとすると、例えば、149.5℃で30分間加硫する場合の加硫熱量は30ECUとなる。
【0048】
上記加硫条件で加硫することで、良好な接着性(初期接着性、高湿熱劣化後の接着性)が得られる。加硫熱量は40~55ECU、加硫温度は150~185℃がより好適である。
【0049】
前記被覆用ゴム組成物は、カーカスコード、バンドコード等のタイヤコードを被覆するゴム組成物として使用される。具体的には、特開2009-13220号公報の図面等に示されるカーカス、特開平6-270606号公報の図面等に示されるバンドに使用される。
【0050】
〔銅を含むメッキを施した被着物〕
前記複合体(ゴムと被着物との複合体)を構成する被着物としては、コード等が挙げられる。銅を含むメッキを施したコードとしては、銅を含むメッキを施したスチールコードを好適に使用できる。該スチールコードとしては特に限定されないが、例えば、1×n構成の単撚りスチールコード、k+m構成の層撚りスチールコード等が挙げられる。ここで、1×n構成の単撚りスチールコードとは、n本のフィラメントを撚りあわせて得られる1層の撚りスチールコードである。また、k+m構成の層撚りスチールコードとは、撚り方向、撚りピッチの異なる2層構造を持ち、内層にk本のフィラメント、外層にm本のフィラメントを有するスチールコードである。nは1~27の整数、kは1~10の整数、mは1~3の整数である。銅を含むメッキとしては、ゴム組成物に対する接着性の観点から、黄銅(真鍮)でメッキしたものが好適である。
【0051】
前記複合体は、銅を含むメッキを施したコード等の被着物を前記被覆用ゴム組成物により被覆して得られる。該複合体は、該コードをゴムにより被覆して得られるタイヤの部材(例えば、ベルト、ブレーカー、カーカス)に好適に使用できる。
【0052】
前記ゴム及び被着物からなる複合体において、前記被着物の表面に付着する脂肪酸付着量は、0.8質量%以下であることが好ましい。これにより、良好な接着性(初期接着性、高湿熱劣化後の接着性)が得られる。該脂肪酸付着量は、0.6質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。脂肪酸付着量は少ないほど望ましく、下限は特に限定されない。
なお、被着物表面に付着する脂肪酸付着量は、後述の実施例の方法により測定できる。
【0053】
本発明の空気入りタイヤは、例えば、以下の工程により製造できる。
先ず、銅を含むメッキを施したコード等の被着物を前記被覆用ゴム組成物で被覆した後、ベルト等の部材の形状に成形する。次に、成形した部材を他のタイヤ部材と貼りあわせることにより、未加硫タイヤを調製する。その後、未加硫タイヤを加硫することにより、本発明の空気入りタイヤを得ることができる。
【実施例
【0054】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0055】
以下に、製造例・比較製造例で用いた各種薬品について説明する。
フィールドラテックス:ムヒバラテックス社から入手したフィールドラテックス
エマールE-27C(界面活性剤):花王(株)製のエマールE-27C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分27質量%)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
Wingstay L(老化防止剤):ELIOKEM社製のWingstay L(ρ-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物)
エマルビンW(界面活性剤):LANXESS社製のエマルビンW(芳香族ポリグリコールエーテル)
タモールNN9104(界面活性剤):BASF社製のタモールNN9104(ナフタレンスルホン酸/ホルムアルデヒドのナトリウム塩)
Van gel B(界面活性剤):Vanderbilt社製のVan gel B(マグネシウムアルミニウムシリケートの水和物)
【0056】
<実施例及び比較例>
(老化防止剤分散体の調製)
水 462.5gにエマルビンW 12.5g、タモールNN9104 12.5g、Van gel B 12.5g、Wingstay L 500g(合計1000g)をボールミルで16時間混合し、老化防止剤分散体を調製した。
【0057】
(製造例1)
フィールドラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、該ラテックス1000gに、10%エマールE-27C水溶液25gと25%NaOH水溶液60gを加え、室温で24時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。次いで、老化防止剤分散体6gを添加し、2時間撹拌した後、更に水を添加してゴム濃度15%(w/v)となるまで希釈した。次いで、ゆっくり撹拌しながら硫酸(濃度50質量%)を添加してpHを4.0に調整した後、カチオン系高分子凝集剤を添加し、2分間撹拌し、凝集させた。これにより得られた凝集物(凝集ゴム)の直径は0.5~5mm程度であった。得られた凝集物を取り出し、2質量%の炭酸ナトリウム水溶液1000mlに、常温で4時間浸漬した後、ゴムを取出した。これに、水2000mlを加えて2分間撹拌し、極力水を取り除く作業を7回繰り返した。その後、水500mlを添加し、pH4になるまで2質量%ギ酸を添加し、15分間放置した。更に、水を極力取り除き、再度水を添加して2分間撹拌する作業を3回繰返した後、水しぼりロールで水を絞ってシート状にした後、90℃で4時間乾燥して固形ゴム(高純度天然ゴムA)を得た。
【0058】
(製造例2)
7回の洗浄工程を5回に変更した以外は、製造例1と同様にして、固形ゴム(高純度天然ゴムB)を得た。
【0059】
(比較製造例1)
7回の洗浄工程を3回に変更した以外は、製造例1と同様にして、固形ゴム(高純度天然ゴムa)を得た。
【0060】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR1~3:前記製造例1~2、比較製造例1
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN339(NSA:88m/g)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C
90%不溶性硫黄:三新化学工業(株)製のサンフェルEX
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ
【0061】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合比に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、90%不溶性硫黄及び加硫促進剤以外の材料を7分間混練りし、混練り物を得た。次に、表1に示す配合比に従い、オープンロールを用いて、混練り物、90%不溶性硫黄及び加硫促進剤を100℃で2分間混練りし、シート状の未加硫ゴム組成物を得た。
次に、得られた未加硫ゴム組成物でスチールコード(黄銅メッキ(Cu:63質量%、Zn:37質量%)、構成:単撚り(1×2)、外径:0.59mm、フィラメントの外径:0.295mm)を被覆し、タイヤ成型機上にて、ベルトに成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせて未加硫タイヤを作製した。未加硫タイヤを表1の条件で加硫することにより、試験タイヤ(タイヤサイズ:185/70R14)を製造した。
【0062】
前記で得られた各固形ゴム、ゴム組成物、コードについて、下記により評価し、結果を表1~2に示した。
【0063】
<脂肪酸含有量(付着量)の測定>
各固形ゴム、これを用いたゴム組成物中の脂肪酸含有量、コード表面の脂肪酸付着量を、反応熱分解による脂肪酸定量で測定した。FT-IRのATR法で測定し、1711cm-1のピークで同定した。
【0064】
<pHの測定>
各固形ゴム5gを3辺の合計が5mm以下(約1~2×約1~2×約1~2(mm))に切断して100mlビーカーに入れ、常温の蒸留水50mlを加えて2分間で90℃に昇温し、その後90℃に保つように調整しながらマイクロ波(300W)を13分(合計15分)照射した。次いで、浸漬水をアイスバスで冷却して25℃とした後、pHメーターを用いて、浸漬水のpHを測定した。
【0065】
<窒素含有量の測定>
(アセトン抽出(試験片の作製))
各固形ゴムを1mm角に細断したサンプルを約0.5g用意した。サンプルをアセトン50g中に浸漬して、室温(25℃)で48時間後にゴムを取出し、乾燥させ、各試験片(老化防止剤抽出済み)を得た。
(測定)
得られた試験片の窒素含有量を以下の方法で測定した。
窒素含有量は、微量窒素炭素測定装置「SUMIGRAPH NC95A((株)住化分析センター製)」を用いて、上記で得られたアセトン抽出処理済みの各試験片を分解、ガス化し、そのガスをガスクロマトグラフ「GC-8A((株)島津製作所製)」で分析して窒素含有量を定量した。
【0066】
<リン含有量の測定>
各固形ゴムについて、ICP発光分析装置(P-4010、(株)日立製作所製)を使用してリン含有量を求めた。
【0067】
<初期状態の接着性>
JIS K6256-1に準拠して、製造後の各試験タイヤから取り出したベルトプライを、引張試験機により50mm/分の引張速度で引っ張り、スチールコードの被覆率を求めた。比較例1を100とし、指数表示した。数値が大きいほど、スチールコードとトッピングゴムとの初期接着性が良好である。
【0068】
<老化状態の接着性>
70℃及び相対湿度95%の環境下で、製造後の各試験タイヤを10日間放置して老化させた。そして、JIS K6256-1に準拠して、老化後の各試験タイヤから取り出したベルトプライを、引張試験機により50mm/分の引張速度で引っ張り、スチールコードの被覆率を求めた。比較例1を100とし、指数表示した。数値が大きいほど、スチールコードとトッピングゴムとの高湿熱劣化後接着性が良好である。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1~2から、実施例では、脂肪酸含有量が少ないゴム組成物と所定のコードから作製したベルトは、脂肪酸含有量が比較的多量の比較例に比べて、初期接着性、高湿熱劣化後接着性に優れていることが明らかとなった。