(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230124BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20230124BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230124BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230124BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20230124BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230124BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230124BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230124BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230124BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230124BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230124BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230124BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20230124BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20230124BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230124BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230124BHJP
C07K 16/22 20060101ALN20230124BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K47/60
A61K47/12
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/18
A61K47/26
A61P43/00 111
A61P25/02 101
A61P29/00
A61P25/04
A61P19/02
A61P19/08
A61P13/10
A61P1/18
A61P15/00
C07K16/22
(21)【出願番号】P 2021182945
(22)【出願日】2021-11-10
(62)【分割の表示】P 2018507426の分割
【原出願日】2017-03-24
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2016061353
(32)【優先日】2016-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100117846
【氏名又は名称】鈴木 ▲頼▼子
(74)【代理人】
【識別番号】100137464
【氏名又は名称】濱井 康丞
(74)【代理人】
【識別番号】100177482
【氏名又は名称】川濱 周弥
(72)【発明者】
【氏名】山本 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】筑紫 亮儀
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/022083(WO,A1)
【文献】特開2014-150761(JP,A)
【文献】国際公開第2005/063291(WO,A1)
【文献】特表2007-511566(JP,A)
【文献】特表2010-513522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 - 47/69
A61P 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント
、製薬学的に許容される緩衝剤
、及び製薬学的に許容される界面活性剤を含有し、pHが
4.6~5.5である、安定な医薬組成物であって、
該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、及び
(2)(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント
から選択され、
前記PEG化が、該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させたものであり、
前記の製薬学的に許容される緩衝剤が、クエン酸又はその製薬学的に許容される塩であ
り、前記の製薬学的に許容される界面活性剤が、ポリソルベート80である、医薬組成物。
【請求項2】
製薬学的に許容される等張化
剤を更に含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
製薬学的に許容される緩衝剤の濃度が、1~200mmol/Lである、請求項1
又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
医薬組成物が液体製剤、又は凍結乾燥製剤である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
医薬組成物が液体製剤である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
製薬学的に許容される等張化剤が、アルギニン、D-ソルビトール、D-マンニトール、トレハロース、スクロース、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、イノシトール、ズルシトール、アラビトール、イソマルト、ラクチトール、及びマルチトールからなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項2~
5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
製薬学的に許容される等張化剤の濃度が、1~500mmol/Lである、請求項2~
6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
製薬学的に許容される界面活性剤の濃度が、0.001~1%(w/v)である、請求項
1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの濃度が、0.1~200mg/mLである、請求項1~
8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾が重鎖可変領域N末端のピログルタミル化である、請求項1又は
11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
製薬学的に許容される緩衝剤
及び製薬学的に許容される界面活性剤を使用し、pHを
4.6~5.5に調整することを特徴とする、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを安定化する方法であって、
該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、及び
(2)(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント
から選択され、
前記PEG化が、該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させたものであり、
前記の製薬学的に許容される緩衝剤が、クエン酸又はその製薬学的に許容される塩であ
り、前記の製薬学的に許容される界面活性剤が、ポリソルベート80である、前記方法。
【請求項14】
製薬学的に許容される等張化
剤を使用する、請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレングリコールを結合させた抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有してなる、安定な医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
神経成長因子(nerve growth factor;NGF)は、神経栄養因子(neurotrophic factor)と総称される液性因子の一つであり、生体内においてニューロンの発生、分化、機能維持において重要な役割を担っている。
【0003】
本出願人により、ポリエチレングリコール(以下、PEG)を結合させた(以下、「PEG化」と略記することもある)抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントが、ヒトNGFが病態形成に関与する各種疾患の予防又は治療(例えば、変形性関節症に伴う関節痛(OA疼痛)、リウマチに伴う関節痛、癌性疼痛、神経因性疼痛、慢性腰痛、術後疼痛、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、骨折痛、膀胱痛症候群等の疼痛や、間質性膀胱炎、急性膵炎、慢性膵炎、子宮内膜症等)に有用であることが公表されている(特許文献1)。
【0004】
他方、近年様々な抗体等のタンパク質を含む医薬品が開発され、実際に医療の現場に提供されている。これらの医薬品の多くは、静脈内投与や皮下投与等により投薬されるため、医療の現場には、液体製剤、あるいは凍結乾燥製剤等の非経口医薬組成物の形態として提供される。とりわけ、非経口医薬組成物は、直接体内に投与されることを前提とされるため、安定な医薬品製剤であることが望ましい。
すなわち、抗体等のタンパク質を含有する溶液では、不溶性異物の形成等を抑制することが望ましく、また、有効性の観点から、分解物、多量体、類縁体等の形成を抑制することが望ましい。
したがって、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有してなる、安定な医薬組成物を開発するには、いまなお改善の余地がある。
【0005】
なお、抗ヒトNGF抗体又はヒトNGFを含有する安定な医薬組成物に関する発明(特許文献2、3、及び4)が知られているが、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントに関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/022083号
【文献】国際公開第2010/032220号
【文献】国際公開第95/05845号
【文献】国際公開第2011/116090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有してなる、安定な医薬組成物を提供することにある。
詳細には、本発明の目的は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有し、例えば、熱や温度条件等により増大する、分解物、多量体、酸性側類縁体、塩基性側類縁体の生成を抑制してなる、安定な医薬組成物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有し、例えば、凍結融解、物理的振動等により増大する、不溶性異物の生成を抑制してなる、安定な医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、溶液のpHを特定の範囲に調整し、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを製剤化することにより、安定な医薬組成物を調製することができること(後記実施例1)、また、特定の等張化剤を添加すること(後記実施例2)、界面活性剤を添加すること(後記実施例3)等により、さらに安定な医薬組成物を提供することができること等を知見して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有し、pHが4~5.5である、安定な医薬組成物であって、
該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、及び
(2)(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント
から選択され、
前記PEG化が、該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させたものである、医薬組成物、
[2]製薬学的に許容される緩衝剤、製薬学的に許容される等張化剤、及び製薬学的に許容される界面活性剤を更に含有する、[1]の医薬組成物、
[3]pHが4.5~5.5である、[1]又は[2]の医薬組成物、
[4]製薬学的に許容される緩衝剤が、クエン酸、酢酸、及びヒスチジン、並びにそれらの製薬学的に許容される塩からなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]~[3]のいずれかの医薬組成物、
[5]製薬学的に許容される緩衝剤が、クエン酸又はその製薬学的に許容される塩である、[1]~[4]のいずれかの医薬組成物、
[6]製薬学的に許容される緩衝剤の濃度が、1~200mmol/Lである、[1]~[5]のいずれかの医薬組成物、
[7]医薬組成物が液体製剤、又は凍結乾燥製剤である、[1]~[6]のいずれかの医薬組成物、
[8]医薬組成物が液体製剤である、[1]~[7]のいずれかの医薬組成物、
[9]製薬学的に許容される等張化剤が、アルギニン、D-ソルビトール、D-マンニトール、トレハロース、スクロース、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、イノシトール、ズルシトール、アラビトール、イソマルト、ラクチトール、及びマルチトールからなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]~[8]のいずれかの医薬組成物、
[10]製薬学的に許容される等張化剤の濃度が、1~500mmol/Lである、[1]~[9]のいずれかの医薬組成物、
[11]製薬学的に許容される界面活性剤が、ポリソルベート又はポロキサマーの少なくとも一方である、[1]~[10]のいずれかの医薬組成物、
[12]製薬学的に許容される界面活性剤が、ポリソルベート80である、[1]~[11]のいずれかの医薬組成物、
[13]製薬学的に許容される界面活性剤の濃度が、0.001~1%(w/v)である、[1]~[12]のいずれかの医薬組成物、
[14]PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの濃度が、0.1~200mg/mLである、[1]~[13]のいずれかの医薬組成物、
[15]PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する、[1]の医薬組成物、
[16]PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する、[1]の医薬組成物、
[17]抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾が重鎖可変領域N末端のピログルタミル化である、[1]又は[16]の医薬組成物、
[18]pHを4~5.5に調整することを特徴とする、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを安定化する方法であって、
該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、及び
(2)(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント
から選択され、
前記PEG化が、該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させたものである、前記方法、
[19]製薬学的に許容される緩衝剤、製薬学的に許容される等張化剤、及び製薬学的に許容される界面活性剤を使用する、[18]の方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有してなる安定な医薬組成物、詳細には、分解物、多量体、酸性側類縁体、塩基性側類縁体、不溶性異物の生成を抑制してなる、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有してなる、安定な医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】等張化剤(D-マンニトール)及び界面活性剤(ポリソルベート80)を含むpH4.0~6.0の範囲の処方(試料No.D-1~D-7)について、25℃又は40℃2週の保管条件における分解物の増加量(%)を示すグラフである。●は20mmol/L クエン酸、■は20mmol/L ヒスチジンを緩衝剤として用いたサンプルの結果を示す。
【
図2】等張化剤(D-マンニトール)及び界面活性剤(ポリソルベート80)を含むpH4.0~6.0の範囲の処方(試料No.D-1~D-7)について、25℃又は40℃2週の保管条件における酸性側類縁体の増加量(%)を示すグラフである。●は20mmol/L クエン酸、■は20mmol/L ヒスチジンを緩衝剤として用いたサンプルの結果を示す。
【
図3】等張化剤(D-マンニトール又はD-ソルビトール)及び界面活性剤(ポリソルベート80)を含み、クエン酸により所定pH(4.6、4.9、5.2)に調整した処方について、5℃、25℃、40℃での保管後の多量体量(%)を示すグラフである。
【
図4】等張化剤(D-マンニトール又はD-ソルビトール)及び界面活性剤(ポリソルベート80)を含み、クエン酸により所定pH(4.6、4.9、5.2)に調整した処方について、5℃、25℃、40℃での保管後の分解物量(%)を示すグラフである。
【
図5】等張化剤(D-マンニトール又はD-ソルビトール)及び界面活性剤(ポリソルベート80)を含み、クエン酸により所定pH(4.6、4.9、5.2)に調整した処方について、5℃、25℃、40℃での保管後の酸性側類縁体量(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「安定」とは、例えば、熱、光、温度、湿度、振とう、及び/又は凍結融解に対して安定であることを意味する。例えば、医薬組成物を所定条件下に保存後、前記医薬組成物中に含まれる、多量体、分解物、酸性側類縁体、又は塩基性側類縁体の量、あるいはそれらの総量がある特定量以下であることを意味する。また、ある態様として、医薬組成物を所定条件下に保存後、不溶性異物が、目視により観察されないことを意味する。
【0013】
前記「多量体」は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントが集まって生成する複合体である。多量体を測定する方法としては、特に制限されないが、例えば、サイズ排除クロマトグラフ法(SE-HPLC法)、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、マイクロフローイメージング法等が含まれ、ある態様としては、SE-HPLC法である。SE-HPLC法においては、検出されたピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として計算する。なお、メインピークとは、活性本体のピークを意味する。SE-HPLCのメインピークより保持時間が短いピークを合わせて多量体とする。SE-HPLC法により測定される多量体の量としては、ある態様として10%以下、別の態様として5%以下である。
【0014】
前記「分解物」は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの一部が脱離して生成する断片体である。分解物を測定する方法としては、特に制限されないが、例えば、SE-HPLC法、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法等が含まれ、ある態様としては、SE-HPLC法である。SE-HPLC法による分解物の測定方法は前記したSE-HPLC法による多量体の測定と同様にして行う。なお、SE-HPLCのメインピークより保持時間が長いピークを合わせて分解物とする。SE-HPLC法により測定される分解物の量としては、ある態様として10%以下、別の態様として5%以下である。
また、分解物の量の増加量(特定の条件で特定の期間保管後の分解物量と試験(保存)開始時の分解物量の差分)については、例えば、2.5%以下、ある態様として2.0%以下であり、ある態様としては、25℃2週、1箇月(4週)又は40℃2週保存後の分解物の量の増加量が例えば2.5%以下、ある態様として2.0%以下であり、別の態様としては、40℃2週保存後の分解物の量の増加量が2.5%以下であり、他の態様としては、40℃2週保存後の分解物の量の増加量が2.0%以下である。
【0015】
前記「酸性側類縁体」は、陽イオン交換クロマトグラフ法、又はイメージングキャピラリー等電点電気泳動法による分析で主成分より早く溶出するピークとして認められる類縁体である。酸性側類縁体を測定する方法としては、特に制限されないが、例えば、陽イオン交換クロマトグラフ法(IE-HPLC法)、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、イメージングキャピラリー等電点電気泳動法(icIEF法)等が含まれ、ある態様としては、IE-HPLC法、又はicIEF法である。IE-HPLC法及びicIEF法は、前記したSE-HPLC法と同様にしてピークの百分率(%)を計算する。IE-HPLC法及び/又はicIEF法により測定される酸性側類縁体の量としては、ある態様として50%以下、別の態様として35%以下、他の態様として25%以下である。
また、酸性側類縁体の量の増加量(特定の条件で特定の期間保管後の酸性側類縁体量と試験(保存)開始時の酸性側類縁量の差分)については、例えば、15%以下、ある態様として10%以下である。より具体的には、25℃2週、1箇月(4週)又は40℃2週保存後の酸性側類縁体の量の増加量が例えば15%以下、ある態様として10%以下である。
【0016】
前記「塩基性側類縁体」は、IE-HPLC法又はicIEF法による分析で主成分より遅く溶出するピークとして認められる類縁体である。塩基性側類縁体を測定する方法としては、特に制限されないが、例えば、IE-HPLC法、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、icIEF法等が含まれ、ある態様としては、IE-HPLC法又はicIEF法である。IE-HPLC法及びicIEF法は、前記したSE-HPLC法と同様にしてピークの百分率(%)を計算する。icIEF法により測定される塩基性側類縁体の量としては、ある態様として50%以下、別の態様として25%以下、他の態様として20%以下である。
【0017】
前記「不溶性異物」は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントや医薬品添加物等が集まって生成する不溶性の複合体である。不溶性異物は例えば、第十六改正日本薬局方に記載の注射剤の不溶性異物検査法又はそれに準じて目視により確認することができる。
【0018】
「安定な医薬組成物」とは、冷蔵温度(2~8℃)で少なくとも1箇月(4週)、好ましくは3箇月、より好ましくは6箇月、さらに好ましくは1年、より好ましくは2年;又は室温(22~28℃)で少なくとも2週、好ましくは1箇月、さらに好ましくは3箇月、より好ましくは6箇月、好適には1年;又は加速条件(37~43℃)で少なくとも2週、好ましくは1箇月(4週)、多量体、分解物、酸性側類縁体又は塩基性側類縁体の量、あるいはそれらの総量が上述のある特定量以下である医薬組成物を意味する。
【0019】
抗体にはIgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEの5つのクラスが存在する。抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万~7万の重鎖と2万~3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してIgγ、Igμ、Igα、Igδ、Igεとよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のサブクラスが存在し、それぞれに対応する重鎖はIgγ1、Igγ2、Igγ3、Igγ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれIgλ、Igκとよばれる。抗体分子の基本構造のポリペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S-S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15万~19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
【0020】
鎖内S-S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100~110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位又はドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにアミノ末端(N末端)に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)とよばれている。可変領域よりカルボキシ末端(C末端)側のアミノ酸配列は、各クラス又はサブクラスごとにほぼ一定で定常領域とよばれており、各ドメインは、それぞれCH1、CH2、CH3、又はCLと表される。
【0021】
抗体の抗原結合部位は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域によって構成され、結合の特異性はこの部位のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgの定常領域の構造の差を反映している。軽鎖と重鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域にほぼ限られることがわかっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR;それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3)とよばれている。可変領域の残りの部分はフレームワーク領域(FR)とよばれ、比較的一定である。
【0022】
抗体の重鎖定常領域のCH1ドメインとCH2ドメインとの間にある領域はヒンジ領域とよばれ、この領域は、プロリン残基を多く含み、2本の重鎖をつなぐ複数の鎖間S-S結合を含む。例えば、ヒトのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の各ヒンジ領域には、重鎖間のS-S結合を構成している、それぞれ、2個、4個、11個、2個のシステイン残基を含む。ヒンジ領域は、パパインやペプシン等のタンパク質分解酵素に対する感受性が高い領域である。抗体をパパインで消化した場合、ヒンジ領域の重鎖間S-S結合よりもN末端側の位置で重鎖が切断され、2個のFabフラグメントと1個のFcフラグメントに分解される。Fabフラグメントは、軽鎖と、重鎖可変領域(VH)、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成される。抗体をペプシンで消化した場合、ヒンジ領域の重鎖間S-S結合よりもC末端側の位置で重鎖が切断され、F(ab’)2フラグメントが生成される。F(ab’)2フラグメントは、2つのFab’フラグメントがヒンジ領域中の重鎖間S-S結合で結合した二量体構造のフラグメントである。Fab’フラグメントは、軽鎖と、重鎖可変領域(VH)、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成され、このヒンジ領域の部分には重鎖間S-S結合を構成していたシステイン残基が含まれる。Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメントは、いずれも可変領域を含み、抗原結合活性を有する。
【0023】
抗体を細胞で発現させる場合、抗体が翻訳後に修飾を受けることが知られている。翻訳後修飾の例としては、重鎖C末端のリジンのカルボキシペプチダーゼによる切断、重鎖及び軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾等が挙げられ、種々の抗体において、重鎖C末端のリジンが欠失することや重鎖N末端のグルタミンの大部分がピログルタミン酸への修飾を受けることが知られている(Journal of Pharmaceutical Sciences, 2008, Vol. 97, p. 2426)。また、このような翻訳後修飾が抗体の活性に影響を及ぼすものではないことも当該分野で知られている(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
【0024】
本発明の医薬組成物は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、PEG化した以下の(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント及び/又はPEG化した以下の(2)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する:
(1)配列番号1のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号3のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、
(2)(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント。
(国際公開第2013/022083号)
【0025】
1つの実施形態において、前記(2)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾は、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化である。1つの実施形態において、前記(2)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、配列番号1のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾されたアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号3のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントである。
【0026】
本発明に用いられるPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの定常領域としては、どのようなサブクラスの定常領域(例えば、重鎖定常領域としてIgγ1、Igγ2、Igγ3、又はIgγ4の定常領域、軽鎖定常領域としてIgλ又はIgκの定常領域)も選択可能であり得る。好ましくは、本発明に用いられるPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、重鎖定常領域として、ヒトIgγ1定常領域である重鎖定常領域を含む。好ましくは、本発明に用いられるPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、軽鎖定常領域として、ヒトIgκ定常領域である軽鎖定常領域を含む。好ましくは、本発明に用いられるPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、ヒトIgγ1定常領域である重鎖定常領域及びヒトIgκ定常領域である軽鎖定常領域を含む。
【0027】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、以下の(3)及び/又は(4)のPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する:
(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、
(4)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント。
【0028】
1つの実施形態において、前記(4)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾は、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化である。1つの実施形態において、前記(4)のPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、配列番号1のアミノ酸番号1のグルタミンがピログルタミン酸に修飾された配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントである。
【0029】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、PEG化した以下の(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント及びPEG化した以下の(2)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する:
(1)配列番号1のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号3のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、
(2)(1)の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント。
【0030】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、以下の(3)及び(4)のPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する:
(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント、
(4)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの翻訳後修飾により生じたFab’フラグメントである抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント。
【0031】
本発明には、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、以下の特徴を有する抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する医薬組成物も含まれる:
配列番号1の31から35のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号1の50から65のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号1の98から110のアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに配列番号3の24から39のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号3の55から61のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3の94から102のアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント。
【0032】
本発明には、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、以下の(a)及び(b)から選択される宿主細胞を培養することで生産できる該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する医薬組成物も含まれる:
(a)配列番号1のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号3のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、
(b)配列番号1のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと配列番号3のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0033】
本発明には、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとして、以下の(a)及び(b)から選択される宿主細胞を培養することで生産できる該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化した抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有する医薬組成物も含まれる:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0034】
本発明において、Fab’フラグメントは、軽鎖と、重鎖可変領域(VH)、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖のフラグメントから構成される、1価の抗体のフラグメントであり、このヒンジ領域の部分には、重鎖-軽鎖間のS-S結合を構成しているシステイン残基以外の少なくとも1つのシステイン残基(本明細書中、「ヒンジ領域システイン」とも称する)が含まれる。ヒンジ領域システインは、PEGでの修飾部位として使用することができる。Fab’フラグメント中のヒンジ領域システインの数は、使用する抗体のクラスによって1~数個の間で異なり得るが、当業者によって容易に調整可能である。例えば、ヒトのIgG1クラス(通常、ヒンジ領域において、2個のヒンジ領域システインを有する)のFab’フラグメントを作製する場合、重鎖のヒンジ領域において、最初のヒンジ領域システインのコード部位と2番目のヒンジ領域システインのコード部位との間に停止コドンを挿入することによって、ヒンジ領域中に1個のヒンジ領域システインを有するFab’フラグメントを作製することができ、2番目のヒンジ領域システインのコード部位の後に停止コドンを挿入することによって、ヒンジ領域中に2個のヒンジ領域システインを有するFab’フラグメントを作製することができる。
【0035】
本発明に用いられるPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基に、チオール反応基を結合させたPEG誘導体のチオール反応基を共有結合させPEG化することにより作製することができる。Fab’フラグメントへのPEGの結合は、当該分野で公知の方法を使用して実施可能である(例えば、欧州特許第0948544号明細書)。本発明においては、直鎖又は分枝鎖の、任意の平均分子量のPEG又はその誘導体が使用可能であり、使用目的に応じて当業者により容易に選択され得る。ヒンジ領域システインへのPEGの結合を容易にするために、PEGの誘導体を使用してもよい。例えば、マレイミドのようなチオール反応基をリンカーを介して結合させたPEG誘導体を使用し、ヒンジ領域システインのチオール基とマレイミド基を共有結合させることができる。一般的にPEGの平均分子量は、約500~約50000Daであり、好ましくは、約5000~約40000Daであり、より好ましくは、約10000~約40000Daの範囲である。
【0036】
本発明に用いられるPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、本明細書に開示される抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者に容易に作製され得る。本発明に用いられるPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの作製方法としては、国際公開第2013/022083号に開示された方法が挙げられる。
【0037】
一単位医薬組成物(製剤)中のPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの量としては、Fab’-PEG換算で、例えば、0.1~200mg、ある態様として、0.1~40mg、別の態様として、20~40mg、他の態様として、60~150mg、また他の態様として、40~120mgが挙げられる。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0038】
医薬組成物が固体状態(例えば、凍結乾燥製剤、噴霧乾燥製剤など)の場合、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの量としては、Fab’-PEG換算で、例えば、0.1~200mg、ある態様として、0.1~40mg、別の態様として、20~40mg、他の態様として、60~150mg、また他の態様として、40~120mgが挙げられる。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
用時溶解するとき、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの濃度としては、用時溶解後のFab’-PEG換算で、例えば、0.1~200mg/mL、ある態様として、0.1~40mg/mL、別の態様として、20~40mg/mL、他の態様として、60~150mg/mL、また他の態様として、40~120mg/mLが挙げられる。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0039】
医薬組成物が液体状態(溶液)の場合、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの濃度としては、Fab’-PEG換算で、例えば、0.1~200mg/mL、ある態様として、0.1~40mg/mL、別の態様として、20~40mg/mL、他の態様として、60~150mg/mL、また他の態様として、40~120mg/mLが挙げられる。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
用量としては、例えば、Fab’-PEG換算で、例えば、0.1~200mg、ある態様として、0.1~40mg、別の態様として、20~40mg、他の態様として、60~150mg、また他の態様として、40~120mgを含む。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0040】
適応症としては、ヒトNGFが病態形成に関与する各種疾患の予防及び/又は治療、例えば、変形性関節症に伴う関節痛(OA疼痛)、リウマチに伴う関節痛、癌性疼痛、神経因性疼痛、慢性腰痛、術後疼痛、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、骨折痛、膀胱痛症候群等の疼痛や、間質性膀胱炎、急性膵炎、慢性膵炎、子宮内膜症等を含む。
【0041】
本発明に用いられる「製薬学的に許容される緩衝剤」としては、製薬学的に許容され、溶液状態において、所望のpH範囲内で緩衝能を有するものであれば、特に制限されない。
【0042】
具体的には、次のpH範囲内で緩衝能を有するものである。例えば、4~5.5、ある態様として4.0~5.5、別の態様として4.5~5.5、他の態様として4.6~5.2である。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。また、pHは、医薬組成物が液体製剤である場合には、該液体製剤のpHとし、医薬組成物が凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水に再溶解される時の該溶解液のpHとする。
【0043】
緩衝剤成分としては、例えば、クエン酸、酢酸、若しくはヒスチジン、又はそれらの製薬学的に許容される塩等を含む。別の態様としては、クエン酸、酢酸、又はそれらの製薬学的に許容される塩等を含む。他の態様としては、無水クエン酸及び/又はクエン酸三ナトリウム二水和物を含む。
これらの緩衝剤成分は、1種又は2種以上適宜適量使用することができる。なお、pHを所望のpH範囲内に調整するために、塩酸や水酸化ナトリウム等を適宜加えてもよい。
【0044】
緩衝剤の濃度は、pHを所望のpH範囲内に調整できる量であれば、特に制限されない。緩衝剤の濃度は、注射用水により溶解され溶液状態(液体製剤)の場合、例えば、1~200mmol/L、別の態様として、1~100mmol/L、他の態様として、5~100mmol/L、また他の態様として、1~50mmol/Lである。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
緩衝剤の量は、医薬組成物が凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水に再溶解される時の該溶解液中の緩衝剤が上述の濃度となる量である。
【0045】
本発明に用いられる「製薬学的に許容される等張化剤」としては、製薬学的に許容され、等張作用を有し、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの安定性に影響を及ぼさないもの又は安定化作用を有するものであれば、特に制限されない。
【0046】
具体的には、例えば、塩類、アミノ酸類、糖又は糖アルコール類を挙げることができる。
塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム等を挙げることができる。ある態様としては、塩化ナトリウムである。
アミノ酸類としては、例えば、アルギニン(L-アルギニン)又はその製薬学的に許容される塩(例えば、塩酸塩)、グリシン、リシン、オルニチン等を挙げることができる。ある態様としては、アルギニン、グリシンであり、別の態様としてはアルギニンである。
糖又は糖アルコール類としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、トレハロース、スクロース、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、イノシトール、ズルシトール、アラビトール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール等を挙げることができる。ある態様として、D-ソルビトール、D-マンニトールであり、別の態様として、D-ソルビトールである。
等張化剤としては、ある態様として、アルギニン又はその製薬学的に許容される塩、D-ソルビトール、D-マンニトール、トレハロース、スクロース、キシリトール、エリスリトール、イノシトール、アラビトール、イソマルト、ラクチトール、マルチトールであり、別の態様としては、L-アルギニン塩酸塩、D-ソルビトールである。
これらの等張化剤は、1種又は2種以上適宜選択され使用することができる。
なお、塩類、アミノ酸類、糖又は糖アルコールは、PEG化抗ヒト抗体Fab’フラグメントの安定性に影響をおよぼさない又は安定化する範囲内において、医薬組成物中に含まれる。
【0047】
等張化剤の濃度は、等張作用を有し、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの安定性に影響を及ぼさない濃度であれば、特に制限されない。
注射用水により溶解され溶液状態(液剤)の場合の濃度として、例えば、1~500mmol/L、ある態様として、1~400mmol/L、別の態様として、1~300mmol/L、他の態様として、50~500mmol/L、また他の態様として、100~300mmol/L、また別の態様として、200~300mmol/Lであり、さらに別の態様として、100~200mmol/Lである。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
等張化剤の量は、医薬組成物が凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水に再溶解される時の該溶解液中の等張化剤が上述の濃度となる量である。
【0048】
本発明に用いられる「製薬学的に許容される界面活性剤」としては、製薬学的に許容され、界面活性作用及びPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの安定化作用を有するものであれば、特に制限されない。
【0049】
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤、例えば、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル;モノカプリル酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール等のグリセリン脂肪酸エステル;モノステアリン酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリル等のポリグリセロール脂肪酸エステル;モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラステアリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ジステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビトールミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、例えば、ポリオキシエチレンオクタデカンアミド等の6~18のHLBを有する界面活性剤;陰イオン性界面活性剤、例えば、セチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等のC10~C18アルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、添加されたエチレンオキシド単位の平均モル数が2~4であり、アルキル基の炭素原子の数が10~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;スルホコハク酸ラウリルナトリウム等のC8~C18アルキル基を有するスルホコハク酸アルキル塩;レシチン、グリセロリン脂質等の天然の界面活性剤;スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;又はC12~C18脂肪酸のショ糖エステルを含む。
【0050】
これらの界面活性剤は、1種又は2種以上適宜選択され使用することができる。
【0051】
ある態様として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルであり、別の態様として、ポリソルベート又はプルロニック(登録商標)型界面活性剤であり、他の態様として、ポリソルベート20、21、40、60、65、80、81、85又はプルロニック型界面活性剤であり、また他の態様として、ポリソルベート20、80又はポロキサマー(ポロキサマー188)、別の態様として、ポリソルベート80である。
【0052】
なお、界面活性剤は、不溶性異物等の形成を抑制する作用を有しており、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを安定化させる範囲内において、医薬組成物中に含まれる。
界面活性剤の濃度は、界面活性作用及びPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの安定化作用を有する濃度であれば、特に制限されない。
注射用水により溶解され溶液状態(液体製剤)の場合、0.001~1%(w/v)、ある態様として0.01~0.5%(w/v)、別の態様として0.01~0.03%(w/v)である。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
界面活性剤の量は、医薬組成物が凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水に再溶解される時の該溶解液中の界面活性剤が上述の濃度となる量である。
【0053】
本発明の医薬組成物は、溶液を容器に充填して、液体製剤として、また、溶液を凍結乾燥法や噴霧乾燥法により、凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤等の非経口医薬組成物として、提供することができる。好適には、液体製剤である。
本発明の医薬組成物の中でも特に、クエン酸、アルギニン及びポリソルベートを含む液体製剤、又は、クエン酸、D-ソルビトール及びポリソルベートを含む液体製剤が好適である。
【0054】
本発明の医薬組成物には、所望により、懸濁剤、溶解補助剤、保存剤、吸着防止剤、含硫還元剤、酸化防止剤等の医薬品添加物を適宜添加することができる。
【0055】
懸濁剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
【0056】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
【0057】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができる。
【0058】
吸着防止剤としては、例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0059】
含硫還元剤としては、例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
【0060】
酸化防止剤としては、例えば、メチオニン、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
各種医薬品添加物は、本発明の所望の効果を達成できる量の範囲で、適宜適量使用することができる。
【0061】
本発明の医薬組成物の製造方法は、自体公知の製造方法により、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有し、pHを4~5.5に調整する方法を含み、所望により、製薬学的に許容される緩衝剤、製薬学的に許容される等張化剤、及び製薬学的に許容される界面活性剤を更に含有することができる。
【0062】
本発明の医薬組成物を充填する容器は、使用目的に応じて選択することができる。例えば、バイアル、アンプル、注射器のような規定容量の形状のもの、瓶のような大容量の形状のものを含む。ある態様として注射器(ディスポーザブル注射器を含む)を含む。該注射器に予め溶液を充填して、プレフィルドシリンジ溶液製剤として提供することにより、医療現場において、溶解操作等の操作が不要となり、迅速な対応が可能となる。
【0063】
容器の材質については、ガラス、プラスチック等が挙げられる。また、容器内の表面処理としては、シリカコート処理、シリコーンコート処理、サルファー処理、各種低アルカリ処理等が施されてもよい。
【0064】
本発明には、pHを4~5.5に調整することを特徴とする、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを安定化する方法が含まれる。本発明の安定化方法では、所望により、製薬学的に許容される緩衝剤、製薬学的に許容される等張化剤、及び製薬学的に許容される界面活性剤を更に使用することができる。
本発明の安定化方法で用いる「PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント」、「製薬学的に許容される緩衝剤」、「製薬学的に許容される等張化剤」、及び「製薬学的に許容される界面活性剤」については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。また、これらの各成分の配合量、配合方法等については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
本発明の安定化方法では、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを製造する際に、pHを4~5.5に調整することにより、また、所望により、製薬学的に許容される緩衝剤、製薬学的に許容される等張化剤、及び製薬学的に許容される界面活性剤を更に使用することにより、分解物、多量体、酸性側類縁体、塩基性側類縁体、不溶性異物の生成を抑制することができる。
【実施例】
【0065】
以下、参考例、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定解釈されるものではない。
【0066】
実施例において用いられた、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、国際公開第2013/022083号の実施例19に記載の製法又はそれに準じた方法により入手した。
【0067】
《参考例:PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの作製》
本実施例で用いた抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号2に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号1に、該Fab’フラグメントの軽鎖をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号4に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号3にそれぞれ示す。該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖可変領域における、CDR1、CDR2、CDR3は、それぞれ配列番号1の31から35、50から65、98から110までのアミノ酸配列からなる。該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの軽鎖可変領域における、CDR1、CDR2、CDR3は、配列番号3の24から39、55から61、94から102までのアミノ酸配列からなる。
【0068】
国際公開第2013/022083号に従い、該抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖フラグメントと軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクター(Lonza社)を構築した。CHOK1SV細胞(Lonza社)にトランスフェクションすることによりFab’フラグメントの安定発現化株を取得し、Fab’フラグメントを発現させた。培養上清をアフィニティークロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製し、Fab’フラグメントを得た。なお、工程には、ウイルスの不活化工程とウイルス除去膜工程を含む。次いで、得られた抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを還元剤で還元し、PEGマレイミド(製品名:SUNBRIGHT GL2-400MA、日油株式会社製)と結合させた。さらに陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製し、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを作製した。なお、精製したFab’フラグメントのアミノ酸修飾を分析した結果、その大部分において重鎖可変領域N末端のピログルタミル化が生じていた。
【0069】
《実施例1:至適pH選定による安定化効果》
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント濃度がFab’換算で10mg/mL(Fab’-PEG換算で約20mg/mL)となるように、表1に示す緩衝液(濃度はいずれも20mmol/L)で希釈調製した処方液(試料No.A-1~A-8)を0.22μmフィルターで滅菌ろ過後、1.3mLずつガラスバイアル(3mL容量)に充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を実施し、倒置状態で25℃1箇月の保管を実施した。
なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。
また、Fab’換算濃度及びFab’-PEG換算濃度は、紫外・可視分光光度計Nanodrop 2000c(Thermo Scientific, MA, U.S.A)を用いて測定した。2μLのサンプルをステージにアプライし、280nmにおける吸光度を測定した。タンパク濃度は、得られた280nm吸光度、及び吸光係数1.48mL/mg/cm(Fab’換算濃度の場合)、又は0.79mL/mg/cm(Fab’-PEG換算濃度の場合)を用いて算出した。
【0070】
SE-HPLC法、IE-HPLC法による評価結果を表1に示す。
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、TSKgel(登録商標)G3000SWXLカラム(東ソー製)を接続し、10mmol/Lリン酸/500mmol/L塩化ナトリウムpH7.0の組成をもつ溶液に、10%となるようアセトニトリルを添加した組成の移動相を0.5mL/分の流量で流した。サンプルはFab’換算で50μg(Fab’-PEG換算で約100μg)となる注入量とした。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定し、検出はUV280nmで実施した。
【0071】
SE-HPLC測定で検出されたピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として計算した。なお、メインピークとは、活性本体のピークを意味する。
SE-HPLCのメインピークより保持時間が短いピークを合わせて多量体、保持時間が長いピークを合わせて分解物とした。
【0072】
IE-HPLC測定は、HPLCシステムに、Propac WCX-10 カラム(Dionex製)を接続し、測定を行った。移動相Aラインに20mmol/Lの2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)/pH6.0、移動相Bラインに20mmol/LのMES/500mmol/L塩化ナトリウム/pH6.0の移動相を接続し、1mL/分の流速で流した。サンプルは移動相AでFab’換算濃度1mg/mLに希釈し、10μLを注入した。グラジエントプログラムは、移動相Bを0%で2分間保持後、50分間で5%まで移動相Bの割合を直線的に増加させた。続いて、100%まで移動相Bの割合を直線的に増加させ、洗浄を行った後、移動相Bの割合を0%まで直線的に減少させ、約10分間保持し、次のサンプル注入まで平衡化を行った。分析時間は約70分で、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は40℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0073】
ピークの百分率はSE-HPLCと同様の方法により計算した。
上記試験におけるIE-HPLCの12分付近のピークを酸性側類縁体とした。
【0074】
結果、pH7付近のA-5では多量体、分解物、酸性側類縁体の増加が認められた。
本結果より、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントはpH4~6付近で製剤化することで、多量体、分解物、及び酸性側類縁体の生成が抑制されることが示された。
【0075】
【0076】
《実施例2:等張化剤の選択による安定化効果》
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント濃度がFab’換算で20mg/mL(Fab’-PEG換算で約40mg/mL)、20mmol/Lクエン酸(pH5.5)の緩衝液の処方に6種の医薬品添加剤物(L-アルギニン塩酸塩、塩化ナトリウム、グリシン、D-ソルビトール、スクロース及びD-マンニトール)を等張となる濃度で加えた処方(試料No.B-1~B-7)における、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの安定性(多量体量、分解物量、多分散度)を評価した。各処方組成に調製したサンプルを、0.22μmフィルターで滅菌ろ過後、0.3mLずつガラスバイアル(3mL容量)に充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を実施し、正置状態で40℃4週の保管を実施した。結果を表2に示す。
なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。
【0077】
多量体量、分解物量はSE-HPLC法により、実施例1と同様にして分析した。
多分散度の測定はDynaPro Platereader(Wyatt製)を用いて動的光散乱(DLS)法により測定した。
【0078】
塩化ナトリウム添加処方では、40℃4週保管後の多量体量及び分解物量が、無添加処方と比較して、増加する傾向が認められた。
L-アルギニン塩酸塩添加処方、及びグリシン添加処方では、無添加処方と比較して、40℃4週保管後の分解物量の増加が認められた。D-ソルビトール、D-マンニトール添加処方では、40℃4週保管後の、多量体量と分解物量、多分散度は無添加処方と同等であった。
なお、無添加の処方と比較して、分解物量の増加のあった処方について、多量体量、酸性側類縁体量、塩基性側類縁体量等の変動等を考慮のうえ、総合的に安定性を判断する。
【0079】
【0080】
《実施例3:界面活性剤の添加による安定化効果》
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント濃度がFab’換算で20mg/mL(Fab’-PEG換算で約40mg/mL)、20mmol/Lクエン酸(pH5.5)処方に、界面活性剤であるポリソルベート80を3つの濃度水準(0.01、0.02、0.05%(w/v))で添加したサンプル(試料No.C-1~C-4)について、凍結融解ストレスに対する物理的安定性を評価した。サンプルは、各処方組成に調製し、0.22μmフィルターで滅菌ろ過後、0.3mLずつガラスバイアル(3mL容量)に充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を行った。
凍結融解ストレス試験は、サンプルを正置状態で-80℃の冷凍庫内に保管し凍結させた後、サンプルを冷凍庫から取り出し、5℃の冷蔵庫内に正置状態で保管し、融解させた。この凍結融解サイクルを3回繰り返すことにより行った。
なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。
【0081】
目視による、外観評価の結果を表3に示す。
外観評価では、ポリソルベート80無添加処方で、凍結融解ストレスによる多数の不溶性異物の発生が認められたが、ポリソルベート80を添加した処方では、いずれの濃度においても不溶性異物は認められなかった。
【0082】
【0083】
《実施例4:等張化剤、界面活性剤を含む処方の至適pH選定による安定化効果1》
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを濃度がFab’換算で20mg/mL(Fab’-PEG換算で約40mg/mL)含み、20mmol/Lクエン酸、又はヒスチジンを緩衝剤とし、240mmol/LのD-マンニトール、0.02%(w/v)ポリソルベート80を添加した処方(試料No.D-1~D-7)について、pH4.0~6.0の範囲でサンプルを調製し、正置状態での25℃及び40℃保管時における安定性をSE-HPLC法、IE-HPLC法、DLS法で評価した。サンプルは、各処方組成に調製後、0.22μmフィルターで滅菌ろ過し、0.3mLずつガラスバイアル(3mL容量)に充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を行った。
なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。
SE-HPLC法及びIE-HPLC法は実施例1と同様にして、DLS法は実施例2と同様にして測定した。
【0084】
結果を
図1、
図2、及び表4に示す。
分解物は、pH5.0で、初期品に比較して、増加量が最小となった。また、酸性側類縁体は、いずれの保管条件においても、pHが高くなるほど初期品からの増加量は大きくなる傾向が認められた。
表4のDLS測定結果からは、40℃2週保管品において、pHが低いほど平均粒子径及び多分散度の値が大きくなっており、凝集体を形成しやすい傾向が認められた。
【0085】
【0086】
《実施例5:等張化剤、界面活性剤を含む処方の至適pH選定による安定化効果2》
pH4.6、pH4.9、及びpH5.2にクエン酸(濃度はいずれも20mmol/L)を用いて調製した処方液に、240mmol/LのD-マンニトール及び0.02%(w/v)ポリソルベート80を加えた処方、及び240mmol/LのD-マンニトールの代わりに240mmol/LのD-ソルビトールを添加した処方(pH4.9)について、正置状態での5℃、25℃、40℃における保管安定性を評価した。なお、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを濃度がFab’換算で20mg/mL(Fab’-PEG換算で約40mg/mL)である。サンプルは、各処方組成に調製後、0.22μmフィルターで滅菌ろ過し、0.3mLずつガラスバイアル(3mL容量)に充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を行った。
なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。
多量体及び分解物はSE-HPLC法により測定し、酸性側類縁体はIE-HPLC法により測定した。SE-HPLC法及びIE-HPLC法は実施例1と同様にして実施した。
【0087】
結果を
図3~
図5に示す。
pH4.6~5.2の範囲で、D-マンニトール処方及びD-ソルビトール処方ともに安定であることが確かめられた。
【0088】
《実施例6:等張化剤、界面活性剤を含む処方の緩衝剤選定による安定化効果》
表5に示す2つの処方(試料No.E-1及びE-2)について、正置状態で各条件(5℃、25℃、40℃)下4週保管後の安定性を評価した。サンプルは、各処方組成に調製後、0.22μmフィルターで滅菌ろ過し、1.3mLずつガラスバイアル(3mL容量)に充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を行った。
なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加した。
多量体及び分解物はSE-HPLC法により測定し、酸性側類縁体はIE-HPLC法により測定した。SE-HPLC法及びIE-HPLC法は実施例1と同様にして実施した。
【0089】
結果を表6に示す。
E-1及びE-2ともに安定であった。
【0090】
【0091】
【0092】
《実施例7:緩衝剤、等張化剤、界面活性剤を含む処方の安定性評価》
20mmol/Lクエン酸を用いてpH4.9に調製した処方溶液に、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを濃度がFab’-PEG換算で40mg/mL(Fab’換算で約20mg/mL)、D-ソルビトール濃度が240mmol/L、ポリソルベート80濃度が0.02%(w/v)となるように添加した表7に示す処方について、凍結融解あるいは振とうあるいは光ストレスを与えた後、及び、正置状態で各条件(-20℃、5℃、25℃)下3箇月保管後の安定性を評価した。なお、クエン酸とクエン酸三ナトリウム二水和物は合計がクエン酸として20mmol/Lとなり、pHが4.9となる比率で添加した。塩酸又は水酸化ナトリウムは、必要に応じて緩衝液調製時にpH4.6~5.2となるように添加した。調製したサンプルは0.22μmフィルターで滅菌ろ過後、3mLバイアルに1.2mL充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を実施し、各条件で保管した。
【0093】
凍結融解試験については、実施例3と同様にして行った。
振とう安定性試験については、サンプルを横置状態で振とう機(RECIPRO SHAKER SR-1;TAITEC製)に設置し、室温下、150rpmの速度で48時間振とうすることにより行った。
光安定性試験については、サンプルを横置状態で保管し、D65ランプを用いて1000luxの光を48時間照射することにより行った。
外観は目視観察、pHはpHメーター、多量体及び分解物はSE-HPLC法、酸性側類縁体はIE-HPLC法、平均粒子径及び多分散度はDLS法により測定した。目視観察は室内光下で実施し、pHは、校正用標準液を用いて校正を実施したpHメーターを用いて実施、SE-HPLC法及びIE-HPLC法は実施例1と同様にして、また、DLS法は実施例2と同様にして実施した。
【0094】
結果を表8及び表9に示すが、保管後においても安定であった。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
《実施例8:高濃度製剤の至適pH選定による安定化効果》
PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント濃度がFab’-PEG換算で100mg/mL(Fab’換算で約50mg/mL)となるように、表10に示す組成になるようスピンカラムを用いて緩衝液交換・濃縮を実施し、0.02w/v%となるようにポリソルベート80を添加の上、0.22μmフィルターでろ過した。ろ過液を0.25mL又は1.15mLずつ3mLガラスバイアルに充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を実施し、25℃、40℃における、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの保管安定性(多量体量、分解物量、酸性側類縁体量)を評価した。
なお、所定のpHとなるよう、必要に応じてpH調整剤として、緩衝液調製時に水酸化ナトリウムを添加した。
多量体及び分解物はSE-HPLC法により測定し、酸性側類縁体はicIEF法により測定した。
【0099】
SE-HPLC測定は、HPLCシステムに、TSKgel(登録商標)G3000SWXLカラム(東ソー製)を接続し、20mmol/Lリン酸/400mmol/L塩化ナトリウムpH7.0の組成をもつ溶液に、17.5%となるようアセトニトリルを添加した組成の移動相を0.5mL/分の流量で流した。サンプルはFab’-PEG換算で50μgとなる注入量とした。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定し、検出はUV280nmで実施した。
【0100】
icIEF測定は、iCE3システムに、cIEF Cartridge FC-Coated(Protein Simple製)を接続し、測定を行った。約0.2%メチルセルロース、約2.7% Pharmalyte3-10、約1.6% Pharmalyte8-10.5、約1.1%CHAPS、約0.5%pIマーカー5.85、約0.5%pIマーカー9.46から成るサンプルマトリックス120μLと、超純水でPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント濃度10mg/mLに希釈したサンプル5μLを混和し、測定試料とした。Prefocusingは1500Vで1分、Focusingは3000Vで16分実施し、検出はUV280nmで実施した。
【0101】
表11に多量体量測定結果、表12に分解物測定結果、及び表13に酸性側類縁体測定結果を示す。高濃度製剤においてもpHが高くなるほど、多量体、分解物、酸性側類縁体量が増加する傾向が認められた。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
《実施例9:高濃度製剤の緩衝剤、等張化剤、界面活性剤を含む処方の安定性評価検討》
実施例8と同様にして、20mmol/Lクエン酸を用いて、表14のpHに調製した処方溶液に、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを濃度がFab’-PEG換算で100mg/mL(Fab’換算で約50mg/mL)、D-ソルビトール濃度が240mmol/L、L-アルギニン塩酸塩濃度が140mmol/L、ポリソルベート80濃度が0.02%(w/v)となるように添加した表14に示す処方について、正置状態で各条件(5℃、25℃)下1箇月又は3箇月保管後の安定性を評価した。調製したサンプルは0.22μmフィルターで滅菌ろ過後、3mLバイアルに0.8mL充填し、ゴム栓で打栓後、巻締を実施し、各条件で保管した。
多量体及び分解物はSE-HPLC法により測定し、酸性側類縁体及び塩基性側類縁体はicIEF法により測定した。SE-HPLC法及びicIEF法は実施例8と同様にして実施した。
【0107】
結果を表15に示すが、クエン酸、アルギニン及びポリソルベートを含む高濃度製剤、又は、クエン酸、D-ソルビトール及びポリソルベートを含む高濃度製剤は保管後においても安定であった。
【0108】
【0109】
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有してなる、安定な医薬組成物、詳細には、分解物、多量体、酸性側類縁体、塩基性側類縁体、不溶性異物の生成を抑制してなる、PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含有してなる、安定な医薬組成物を提供することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変法や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表フリーテキスト】
【0111】
配列番号1の配列は、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖フラグメントのアミノ酸配列であり、配列番号2の配列は、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖フラグメント遺伝子の塩基配列であり、配列番号3の配列は、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの軽鎖のアミノ酸配列であり、配列番号4の配列は、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの軽鎖遺伝子の塩基配列である。
【配列表】