(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】電池用ケースおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/169 20210101AFI20230124BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/16 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/164 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/133 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20230124BHJP
H01M 50/131 20210101ALI20230124BHJP
【FI】
H01M50/169
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/129
H01M50/159
H01M50/16
H01M50/164
H01M50/133
H01M50/103
H01M50/131
(21)【出願番号】P 2021526121
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2020022919
(87)【国際公開番号】W WO2020250950
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019107770
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
(72)【発明者】
【氏名】能勢 幸一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 靖人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
(72)【発明者】
【氏名】永田 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】茨木 雅晴
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-186005(JP,A)
【文献】特開2015-032513(JP,A)
【文献】特開2012-104414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/10-50/198
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と容器蓋から成る電池用ケースであって、
前記容器本体と前記容器蓋のどちらか一方あるいは両方がめっき鋼板にポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムをラミネートしたラミネート鋼板から成り、
前記容器本体と前記容器蓋の接合部は、前記めっき鋼板の溶接部、前記フィルムの融着部、前記溶接部と前記融着部の間の空隙部を有し、
ここで、前記空隙部の長さ/前記めっき鋼板の板厚≦10.0 であり、
前記空隙部の長さ/前記接合部の長さ<0.50 であり、かつ
電池ケースの内面の少なくとも一部が前記フィルムで被覆された電池用ケース。
【請求項2】
前記溶接部および前記融着部を含めた接合部の長さが8.0mm以下であり、接合部における空隙部が2.00mm以下である、請求項1に記載の電池用ケース。
【請求項3】
前記ラミネート鋼板の厚みが0.15mm以上、1.00mm以下である、請求項1または2に記載の電池用ケース。
【請求項4】
前記めっき鋼板に使われる、めっきは、Al,Cr,Ni,Sn,Znの中から、1種または複数の種類の元素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池用ケース。
【請求項5】
前記溶接部および前記融着部を含めた接合部が、前記容器本体の底面に略平行であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電池用ケース。
【請求項6】
角型の形状で、高さ、幅、奥行の最短辺が10.0mm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電池用ケース。
【請求項7】
容器の蓋がSUS、Al、SUSのラミネート材、またはAlのラミネート材から成る、請求項1~6のいずれか1項に記載の電池用ケース。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の電池用ケースを製造するための方法であって、
前記容器本体と前記容器蓋を構成する板材どうしを重ね合わせて、当該重ね合わせた箇所を加熱して、前記接合部を形成することを特徴とする、前記電池用ケースを製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器本体と容器蓋からなる電池用ケースに関するものであり、特に前記容器本体と前記容器蓋のどちらか一方あるいは両方がフィルムラミネート鋼板から成り、前記フィルムラミネート鋼板を接合することにより、前記容器と前記容器蓋の接合部は、鋼板の溶接部、空隙部、フィルムの融着部を有し、かつ、電池用ケースの内面がフィルムで被覆された電池用ケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄電池やキャパシタ等の蓄電素子のケースとして、主に、金属板材を使用して、プレス加工や、捲き締め、レーザー溶接等により、円筒型や直方体の缶を形成する形式のものと、金属箔をガスバリア層として有する樹脂フィルムをヒートシールしたヒートシール部によりケース(この場合は柔らかいので、袋体ともいう)を形成するパウチ形式のものと、2種類が広く知られている。
なお、本願明細書において、特に断りのない限り、「ヒートシール」とは樹脂を熱によって融着固化させる行為を意味し、「ヒートシール部」とはヒートシールをして樹脂が融着固化した箇所を意味する。また、本願明細書において、特に断りのない限り、溶接とは金属材料による接合を意味し、融着(ヒートシール)とは樹脂材料による接合を意味する。
【0003】
パウチ形式の電池は、ヒートシール用樹脂をラミネートした金属箔(ラミネート金属箔)で包装し、ヒートシール用樹脂同士をヒートシールすることによりヒートシール部を形成して、蓄電素子部と外界とを遮断した状態で使用される。これは、電池の電解液が外部に漏洩したり、水蒸気が環境から混入したりすることは電池の寿命に致命的であるからである。
【0004】
しかしながら、従来の、ラミネート金属箔をヒートシールのみで接合した電池セルの場合、ヒートシール部は電池内部の電解液の漏洩パス、あるいは外環境から内部へ水蒸気などが混入する侵入パスになり、ヒートシール部の経路長さが電池セルの寿命を決める一因となる。そのため、電池セルの寿命を長くするにはヒートシール部の経路長を長くすることが有効となるが、一方、ヒートシール部の経路長を長くすると、無駄な空間が増え、空間あたりのセル容量が小さくなる。したがって、ヒートシールにより接合するラミネートパックの電池セルには、単位空間あたりのセル容量と電池の寿命との間にトレードオフの関係がある。
【0005】
なお、これまで、パウチ型電池ケースに用いられるラミネート金属箔としては、ラミネートアルミニウム箔が使用されてきた。これは、薄い金属箔が得易い、というアルミニウムの特徴と共に、パウチ型ケースが、食品包装用の樹脂パウチ袋体から発展した経緯と関係している。つまり、食品包装パウチ袋では、食品の寿命延長のためにガスバリア性を持たせるべく、アルミニウムがバリア層として蒸着されていた。これを、軽量かつ、ヒートシールにより簡易接合できる電池容器として適用する場合、特に非水電解質を使用するリチウムイオン電池などに於いては、食品よりも格段に厳しいガスバリア性が求められるため、ガスバリア層の信頼性を向上させる必要がある。このため、ガスバリア層のアルミニウムの厚みを厚くした結果、アルミニウム蒸着膜からアルミニウム箔の適用に至ったという経緯による。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2010-086744号公報)には、リチウムイオン電池本体、キャパシタ、電気二重層キャパシタ等の電気化学セル本体を密封収納する外装体、電池外装用包装材として、「基材層と、表面に化成処理が施された金属箔層と、酸変性ポリオレフィン層と、熱接着性樹脂層とを、少なくとも順次積層して構成される電気化学セル用包装材料」が開示されている。ここでは、あくまで「基材層」は樹脂フィルムであり、この表現だけでも、金属箔層が付随的な役割にあることが分かる。実際に明細書内部でも、「金属箔層12は、外部からリチウムイオン電池の内部に水蒸気が浸入することを防止するための層」とされているが、特許文献1では、金属箔層12は溶接されておらず、樹脂層をヒートシールして電池の密閉性を得ている。
【0007】
特許文献2には、バリア性に優れた電池用外装材として、第一の樹脂フィルム、金属蒸着層、導電性塗膜層、金属めっき層、第二の樹脂フィルムを積層した電池用外装材が開示されている。この電池用外装材は、薄肉であり、かつバリア性に優れると、記載されている。ただし、特許文献2では、金属めっき層は溶接されておらず、樹脂フィルムをヒートシールして電池を封止している。
【0008】
特許文献3には、金属板材を使用して、プレス加工や、捲き締め、レーザー溶接等により、円筒型や直方体の缶を形成する形式の電池ケースの例として、鋼板と、その両面を被覆する金属メッキ層と、を有する板材により構成されている電池容器が開示されている。特許文献3では、防錆剤として耐食性の高い樹脂材料を塗布して、錆など腐食の進行を防止している。ただし、樹脂はヒートシールされておらず、容器の気密性は板材のカシメによって得ている。
【0009】
特許文献4では、高いガスバリア性を実現する接合部を持つ樹脂金属複合シール容器が開示されている。より詳しくは、ラミネートした金属箔の端面をヒートシールにより封止してなる容器であって、その端面のヒートシール部より外側にさらに、溶接ビードにより金属封止したシール部を持つ、樹脂金属複合シール容器である。
【0010】
電池は、さらなる小型化、長寿命化、低コスト化等が求められており、それを実現するために電池容器についても様々な研究、開発が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2010-086744号公報
【文献】特開2004-342564号公報
【文献】特開2011-060644号公報
【文献】国際公開第2013/132673号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ラミネート型リチウムイオン電池では、容器を封止するために、樹脂材料を熱融着(ヒートシール)することによって得られるヒートシール部が採用されることが多い。しかし、ヒートシール部では封止性が十分でなく、大気中の水蒸気が電池内部に侵入し、電池を劣化させることがある。つまり、ヒートシール部だけでは、長期的な使用で性能劣化が進みやすいことがある。
【0013】
金属箔や金属板を溶接することによる封止は、ヒートシールによる封止に比べて、封止性の向上が期待できる。ただし、レーザー等により、樹脂ラミネート箔を溶接する場合、概して、ラミネート箔は箔厚みと樹脂(フィルム)厚みが同程度の厚みであるため、樹脂(フィルム)と箔が混在して融着することがある。そのため、樹脂(フィルム)を十分にレーザー等で蒸発させないと金属箔が溶接できない。したがって、金属箔を溶接するために、樹脂(フィルム)を除去する工程が必要となり、製造時の作業負荷やコストの上昇につながりやすい。また、電池は、充放電時に電池内部が膨張収縮し、充放電を繰り返すうちに樹脂ラミネート箔の溶接部では(箔の溶接なので、強度が十分でないため)破損が生じやすい。
【0014】
樹脂ラミネート鋼板を溶接する場合、鋼板を溶接する際の熱が、溶接部以外にも伝熱し、溶接部以外の樹脂(フィルム)が薄くなり、下地の鋼板が溶接後に露出しやすくなることがある。これにより、耐食性が低下し、長期的な使用で性能劣化が進みやすくなる。
【0015】
また、樹脂ラミネート箔を用いて、樹脂の融着すなわちヒートシール、および箔の溶接の両方を実現しようとする場合、レーザー等による溶接の際に、金属箔が熱で変形するため、溶接前にヒートシールすることが必要となる。つまり、ヒートシール処理工程と、溶接処理工程を、別工程として行う必要があり、製造時の作業負荷やコストの上昇につながりやすい。
【0016】
上記のように、電池容器では、長期にわたって性能を安定に維持すること(長寿命化)、製造時の作業負荷やコストの抑制(低コスト化)が求められている。さらに、電池容量を高めるために、電池容器を小型化しつつそれらを効率よく積載できること(積載性)も求められている。これらの状況に鑑みて、本願発明は、従来よりも小型化、高積載性、長寿命化、低コスト化を実現する、電池用ケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者は鋭意検討を行い、以下の知見を得て、本願発明の完成に至った。
【0018】
現在、リチウムイオン電池のような非水電解液を電解液とする電池の内、樹脂をラミネートされたAlやSUSの材料を熱溶着したラミネート型容器が用いられるものがある。一方で、角型電池などの場合は、AlやSUS材に対しレーザー溶接した角型容器が用いられている。
【0019】
(I)容器を、樹脂の熱融着によって、ヒートシールした場合では、樹脂フィルム同士の融着部(ヒートシール部)から大気中の水蒸気が電池内部に侵入することがあるため、溶接に比べて長期的な使用で性能が劣化しやすいが、樹脂をヒートシールする代わりに、鋼板(金属材料)を溶接することでシール性(密閉性)を高めることができ、長寿命化につながる。また、鋼板の溶接部は、金属箔の溶接部よりも高い溶接強度が得られる。また、鋼板から構成された容器は、金属箔で構成されたものに比べて、概して剛性が高く、また、接合部(鋼板の溶接部、フィルムの融着部、およびそれらの間の空隙部を含む領域)が小さいことから、容器の小型化ができ、ひいては積載性を高めることができる。
【0020】
(II)レーザー等による溶接時の熱影響で、ラミネート鋼板の樹脂フィルム同士が融着(ヒートシール)することができる。この場合、溶接部とともにヒートシール部もできるため、強固な接合となり、さらにシール性(密閉性)を高めることができる。また、ヒートシール処理工程と、溶接処理工程を、別工程として行う必要がなく、製造時の作業負荷やコストを低減できる。
【0021】
(III)レーザー等による溶接時の熱影響で、樹脂フィルムが軟化、再固化する際に、空隙部が生じることがある。空隙部は、当然のことながら融着しておらず接合強度を向上させない。また、空隙部は、樹脂フィルムの熱分解ガスが滞留しやすく、その後に周辺からの溶接熱等によりガスが膨張等することにより、当該空隙部近辺の樹脂フィルムや溶接部を損傷させる恐れがあり、短寿命化につながりやすい。さらに、空隙部が大きいほど、溶接部や融着部による接合力を大きくする必要があり、容器の小型化を困難にする。
一方で、空隙部が存在することにより得られる利点もある。電池は、電池利用時は充放電により発熱し、使用していない場合は温度が室温に戻る。このサイクルにおいて、電池容器、およびそれを構成するラミネート鋼板は膨張、収縮を繰りかえす。このときに、ラミネート樹脂が変形し、融着部(ヒートシール部)に応力がかかり、融着された樹脂どうしが剥離することがある。そのような場合に、空隙部が存在していると、樹脂の変形部が空隙部に逃れることができ、融着部(ヒートシール部)にかかる応力が低下し、剥離を抑制することができ、長寿命化につながる。
【0022】
(IV)空隙部の長さを、鋼板厚み等との関係で規定することにより、上記の空隙部による不利益を問題とならない程度まで緩和できること、且つ融着部(ヒートシール部)の剥離を抑制することができることを、本発明者らが見出した。
【0023】
本発明により、以下の態様が提供される。
【0024】
[1]容器本体と容器蓋から成る電池用ケースであって、
前記容器本体と前記容器蓋のどちらか一方あるいは両方がめっき鋼板にポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムをラミネートしたラミネート鋼板から成り、
前記容器本体と前記容器蓋の接合部は、前記めっき鋼板の溶接部、前記フィルムの融着部、前記溶接部と前記融着部の間の空隙部を有し、
ここで、前記空隙部の長さ/前記めっき鋼板の板厚≦10.0 であり、
前記空隙部の長さ/前記接合部の長さ<0.50 であり、かつ
電池ケースの内面の少なくとも一部が前記フィルムで被覆された電池用ケース。
[2]前記溶接部および前記融着部を含めた接合部の長さが8.0mm以下であり、接合部における空隙部が2.00mm以下である、[1]に記載の電池用ケース。
[3]前記ラミネート鋼板の厚みが0.15mm以上、1.00mm以下である、[1]または[2]に記載の電池用ケース。
[4]前記めっき鋼板に使われる、めっきは、Al,Cr,Ni,Sn,Znの中から、1種または複数の種類の元素を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の電池ケース。
[5] 前記溶接部および前記融着部を含めた接合部が、前記容器本体の底面に略平行であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載の電池用ケース。
[6]角型の形状で、高さ、幅、奥行の最短辺が10.0mm以上である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の電池用ケース。
[7]容器の蓋がSUS、Al、SUSのラミネート材、またはAlのラミネート材から成る、 [1]~[6]のいずれか1つに記載の電池用ケース。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の電池用ケースを製造するための方法であって、
前記容器本体と前記容器蓋を構成する板材どうしを重ね合わせて、当該重ね合わせた箇所を加熱して、前記接合部を形成することを特徴とする、前記電池用ケースを製造するための方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、接合強度低下、ガス滞留による融着部(ヒートシール部)の剥離、小型化阻害、低積載性等が解消され、従来よりも小型化、高積載性、長寿命化、低コスト化を実現する、電池用ケースおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の一態様である、電池用ケースの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に、本発明の一態様である、電池用ケースの模式図を示す。電池用ケースは、容器本体と容器蓋とを接合して構成される。また、容器本体と前記容器蓋のどちらか一方あるいは両方がめっき鋼板にポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムをラミネートしたラミネート鋼板から構成される。電池用ケースの内部に、正極、負極およびセパレータから構成されるセルおよび、電解質液が封入され、電池を形成することができる。
【0028】
図2は、
図1の接合部の拡大模式図であって、接合部は溶接部、融着部、およびそれらの間の空隙部を含む領域である。なお、本願明細書において、特に断りのない限り、溶接とは金属材料による接合を指し、融着とは樹脂材料による接合を指す。容器本体と前記容器蓋の少なくとも一方が樹脂ラミネート鋼板で構成されているので、この樹脂ラミネート鋼板に含まれるめっき鋼板による溶接が実現され、樹脂ラミネート鋼板に含まれる樹脂による融着が実現される。
【0029】
融着部は、樹脂が熱で溶融固化したものであり、いわゆるヒートシール部とも呼ばれるものである。融着部(ヒートシール部)は金属により構成されたものではなく樹脂のみで接合されており、そのガスバリア性は、金属層や、金属により構成された溶接部に比べて、低く、特に水蒸気の侵入が寿命に致命的な影響を与える。そのため、高いガスバリア性が要求される電池において、融着部のみによる接合は十分なガスバリア性を発揮できないという問題がある。しかし、本願発明の一態様による接合部は、融着部に加えて、溶接部を有している。溶接した部分は、金属によりガスのバリアが形成されるため、溶接部では樹脂融着部と比較して、外部からの水蒸気の侵入、および、電解液の外部への漏洩が、無視できるほど低減できる。これは、大幅な寿命延長を可能とするという顕著な効果を奏する。
【0030】
なお、溶接はレーザー等の熱源によって実現される。この熱は、めっき鋼板を溶接するだけでなく、その近辺の樹脂フィルムにも伝わり、樹脂フィルムの一部の融着も実現される。すなわち、レーザー等による溶接工程は、融着工程も兼ねており、作業負担の軽減やコストの低下につながる。
【0031】
溶接のために、樹脂ラミネート鋼板にレーザー等で加熱すると、加熱箇所から熱が伝わり、加熱部に近いほど高温になり、加熱部から遠ざかるほど低温になる。温度に応じて、フィルムの主成分であるポリオレフィン系樹脂は、溶融または蒸発する。樹脂が溶融した箇所では融着部が形成され、一方で樹脂が蒸発した箇所は空隙部が形成される。樹脂が蒸発した箇所のうち、めっき鋼板が露出し、加熱部およびその近傍の特に温度が高い箇所で、めっき鋼板の溶接部が形成される。加熱箇所からある程度離れた箇所では、ポリオレフィン系樹脂の蒸発温度より高く、めっき鋼板の融点より低い温度になるので、そこに、空隙部のみが残る。さらに加熱箇所から離れた箇所では、ポリオレフィン系樹脂の蒸発温度より低く、ポリオレフィン系樹脂の融点より高い温度になるので、融着部が形成される。
【0032】
したがって、本願発明の一態様による接合部は、
図2に示されるような、溶接部と融着部の間に空隙部を有している。空隙部は、当然のことながら溶接も融着もしておらず接合強度を向上させない。また、空隙部は、樹脂フィルムの熱分解ガスが滞留しやすく、その後に周辺からの溶接熱等によりガスが膨張等することにより、当該空隙部近辺の樹脂フィルムや溶接部に欠陥を生じる恐れがある。さらに、空隙部が大きいほど、溶接部や融着部による接合力を大きくする必要があり、容器の小型化を困難にし、積載性を低下させる。そのため、空隙部をできるだけ小さくすることが、小型化、積載性、および長寿命化の点で有利である。
ただし、空隙部が存在することにより得られる利点もある。電池用容器は、充放電時の活物質による膨張収縮を抑えるために、拘束して設置されることが多い。また、樹脂ラミネート鋼板において、樹脂の厚みが同じ場合、鋼板の板厚が厚い方が熱膨張による鋼板の体積変化量が大きくなり、鋼板に追随する樹脂の体積変化率は大きくなる。電池は、電池利用時は充放電により発熱し、使用していない場合は温度が室温に戻る。このサイクルにおいて、容器およびそれを構成するラミネート鋼板は膨張、収縮を繰りかえす。このときに、樹脂自体の膨張及び鋼板の膨張により樹脂が圧迫され、樹脂は変形する。この変形によって、樹脂、特に融着部(ヒートシール部)に応力がかかり、融着された樹脂どうしが剥離することがある。より詳しくは、融着部(ヒートシール部)には、空隙部側の端と、非空隙部側の端が存在しているが、非空隙部側の方には十分にレーザー溶接時の熱が伝わっていないため、フィルム間の接着強度が低い部分が存在する。そのため、熱による樹脂の膨張収縮が起きると融着部の非空隙部側の端部から樹脂どうしの剥離が起きやすい。このような場合に、空隙部が存在していると、樹脂の変形部が空隙部に逃れることができ、融着部(ヒートシール部)にかかる応力が低下し、剥離を抑制することができ、ひいては長寿命化につながる。
【0033】
本発明の一態様である、電池用ケースは、下記の関係が満たすものである。
空隙部の長さ/めっき鋼板の板厚≦10.0 ・・・(1)
空隙部の長さ/接合部の長さ<0.50 ・・・(2)
【0034】
空隙部は、樹脂フィルムの一部が溶融、蒸発した箇所に対応する。そのため、空隙部の大きさについて、その高さ(断面縦方向の距離)は最大でも樹脂フィルムの厚み程度であるが、その長さ(断面横方向の距離)は、溶接のための熱の伝熱の状況に応じて変化し、一般に、入熱量が大きいほど、または入熱時間が長いほど、長くなる。
【0035】
本発明者らは、鋭意検討の結果、空隙部の長さは、めっき鋼板の板厚によって変化し得ることを見出した。
【0036】
特許文献4のように、樹脂をラミネートした金属箔を用いた場合も、金属箔を溶接するには、金属箔にラミネートされた樹脂を除去しておく必要がある。ただし、樹脂フィルムと金属箔の厚さは同程度である。そのため、金属箔を溶接するための入熱で、相当広範囲の樹脂フィルムが溶融、蒸発する。そのため、空隙部が大きくなりやすい。また、金属箔を溶接するための入熱で、ラミネート樹脂が同時に蒸発し、その樹脂の蒸発ガスにより、溶融した金属箔が吹き飛ばされることもある(いわゆる爆飛)。なお、特許文献4は、このような爆飛を回避するために、金属箔を構成する金属の融点が樹脂の熱分解温度よりある程度高くなるように、材料を選定している。金属の融点と樹脂の分解温度が離れている程、樹脂が分解してガスが発生してから、金属が溶融するまでのタイムラグが大きいことにより、爆飛の原因となる樹脂の分解ガスを金属が溶融する前に十分に放散できると、特許文献4では推定されている。また、特許文献4では、ラミネート樹脂をヒートシールした上で、溶接を別途行っている。
【0037】
これに対して、本願発明の一態様では、金属箔の代わりに、めっき鋼板に樹脂をラミネートした、樹脂ラミネートめっき鋼板を用いる。めっき鋼板は、金属箔よりも板厚が大きく、熱容量も大きい。また、一般的に、樹脂と金属(鋼板)では、金属の方が熱伝導率は高い。そのため、樹脂ラミネートめっき鋼板に溶接のための入熱を行っても、樹脂フィルムの溶融、蒸発する範囲を、樹脂ラミネート金属箔に比べて、相当小さくすることができる。つまり、空隙部が相対的に小さく、空隙部の長さも短くできる。同様に、樹脂フィルムの融着(ヒートシール)される範囲も、樹脂ラミネート金属箔に比べて、相当小さくすることができる。つまり、融着部(ヒートシール部)が相対的に小さく、融着部の長さも短くできる。
また、概して、めっき鋼板は、金属箔よりも厚みが大きいので、剛性が高い。したがって、めっき鋼板で構成された容器は、金属箔で構成された容器に比べて、それらを幾重にも重ねて積載することもでき、すなわち積載性を高くすることができる。リチウムイオン電池等の電池は通常、複数積載して使用されるが、積載のために許容される面積が限られている場合、より多数の電池を積載できることが有利である。具体的には、乗用自動車等の汎用工業製品では、電池の積載スペースは、規格や技術標準に基づきつつ、デザインの観点からの要求もあり、製品ごとに応じて決定されることが多い。そのような多種多様に決定された積載スペースに、効率良く積載できることが有利である。そのため、電池(電池容器)を、所望の電力量を満たしつつ、積載スペースからはみ出すことなく、安定して積載できるかどうかで積載性の良否を判定してもよい。本発明の一態様では、容器の剛性が高く、積載スペースに応じた形状(寸法)にすることで、積載性を高くすることができ、有利である。また、めっき鋼板は、金属箔よりも厚みが大きいので、その溶接部の強度も高い。電池は、充放電時に電池内部が膨張収縮し、充放電を繰り返すうちに樹脂ラミネート箔の溶接部では(箔の溶接なので、強度が十分でないため)破損が生じやすいが、鋼板の溶接部では強度が高く、破損を生じにくい。
なお、複数の電池容器を所定の位置に積載する場合(例えば自動車等では複数の電池容器を積載することがある)、電池容器は垂直方向に積み重ねてもよいし、あるいは水平方向に並べて置いてもよいし、または垂直積み重ねと水平並置を組み合わせてもよい。いずれの場合でも、同数の電池容器を積載する場合は、積載に必要な空間が小さい方が限られたスペースを有効に活用できる。本願発明の一態様では、空隙部の長さも短くできるので、積載に必要な空間を小さくすることができ、有利である。一方で、上述したとおり、空隙部が存在することにより、融着部の剥離を抑制することができる。
【0038】
本発明の一態様では、箔などに比べて、比較的厚い鋼板を採用することにより、空隙部の長さが比較的短くなる。逆に言うと、空隙部長さとめっき鋼板の板厚について、以下の関係を満たしている。
空隙部の長さ/めっき鋼板の板厚≦10.0 ・・・(1)
この比率が10.0以下であれば、めっき鋼板の板厚が相対的に厚くなり、言い換えると空隙部の長さが相対的に短くなり、上述した不具合(接合強度低下、ガス滞留による融着部(ヒートシール部)の剥離、小型化阻害、低積載性等)が解消される。これらの不具合を解消する観点から、この比率は小さいほど、好ましく、空隙部の長さ/めっき鋼板の板厚≦1.0であってもよい。下限値は特に限定されるものではないが、空隙部が存在する限り、この比率は0超であるので、空隙部の長さ/めっき鋼板の板厚>0としてもよい。空隙部が存在することにより、溶接部と融着部が物理的に離隔しており、溶接部に樹脂が混入することを防ぐことができる。また、上述したとおり、空隙部が存在することにより、融着部の剥離を抑制することができる。
一方、この比率が10.0を超えると、めっき鋼板の板厚が相対的に薄くなり、言い換えると空隙部の長さが相対的に長くなり、上述した不具合が発生しやすい。
【0039】
ここで、めっき鋼板の厚みは変化するものであってもよい。一例として、出発の鋼板板厚は一定でも、絞り成形等で、フランジ、縦壁、底で板厚が変わってもよい。めっき鋼板の厚みが変化する場合、上記式(1)におけるめっき鋼板の板厚は、接合部におけるめっき鋼板の板厚の平均値を用いてもよい。
また、溶接箇所となるめっき鋼板を薄くすることにより、溶接を速やかに行うことができる。また、樹脂フィルムを融着する箇所で、鋼板の厚みを相対的に薄くすることにより、樹脂フィルムへの伝熱を促進して、樹脂の融着を促進することができる。めっき鋼板の厚みを変化させて、入熱制御する代わりに、またはそれに加えて、溶接の際に用いる治具に、そのような吸熱作用をもたせてもよい。より詳しくは、治具は内部が水冷されていても良い。またヒートシール部の長さを制御するため、もしくはヒートシール部の形状を制御するために、治具はCu、Al、Feなどの熱伝導率の異なる治具を使っても良い。それらを部分的に組み合わせた治具でもよい。
【0040】
空隙部の長さが(樹脂ラミネート金属箔の場合より)比較的短くなるために、接合部(溶接部+空隙部+融着部)の長さに対する空隙部の長さの比率も小さくなる。本発明の一態様では、下記式を満たす
空隙部の長さ/接合部の長さ<0.50 ・・・(2)
この比率が0.50未満であれば、接合部に対する空隙部の長さが相対的に大きく、空隙部による不具合(接合強度低下、ガス滞留による融着部(ヒートシール部)の剥離、小型化阻害、低積載性等)が解消される。これらの不具合を解消する観点から、この比率は小さいほど、好ましく、空隙部の長さ/接合部の長さ≦0.20であってもよい。下限値は特に限定されるものではないが、空隙部が存在する限り、この比率は0超であるので、空隙部の長さ/接合部の長さ>0としてもよい。空隙部が存在することにより、溶接部と融着部が物理的に離隔しており、溶接部に樹脂が混入することを防ぐことができる。また、上述したとおり、空隙部が存在することにより、融着部の剥離を抑制することができる。
一方、この比率が0.50以上であると、接合部に対する空隙部の長さが相対的に大きく、空隙部による不具合(接合強度低下、ガス滞留による融着部(ヒートシール部)の剥離、小型化阻害、低積載性等)が発生しやすい。
【0041】
接合部における空隙部の長さは、2.00mm以下であってもよい。空隙部による不具合(接合強度低下、ガス滞留による融着部(ヒートシール部)の剥離、小型化阻害、低積載性等)を解消する観点から、特に電池ケースの小型化や高積載性を実現する観点から、空隙部は小さいほど好ましく、すなわち空隙部の長さは短いほど好ましく、望ましくは1.00mm以下、さらに望ましくは0.50mm以下であってもよい。
一方で、上述したとおり、空隙部が存在することにより、融着部の剥離を抑制することができる。この観点から、空隙部の長さの下限は、0.10mm以上、より好ましくは0.30mm以上としてもよい。
また、空隙部の長さは、2.00mm超であると、接合部に対する空隙部の長さが相対的に大きく、空隙部による不具合(接合強度低下、ガス滞留による融着部(ヒートシール部)の剥離、小型化阻害、低積載性等)が発生しやすくなり、特に電池ケースの小型化や高積載性が困難となることがある。
【0042】
接合部の長さは、8.0mm以下であってもよい。電池ケースの小型化や高積載性を実現する観点から、接合部の長さは短いほど好ましく、望ましくは5.0mm以下、さらに望ましくは3.0mm以下と2.0mm以下であってもよい。
接合部の長さは、8.0mm超であると、接合部の長さが大きく、電池ケースの小型化や高積載性が困難となることがある。
【0043】
樹脂ラミネートめっき鋼板の厚みが0.15mm以上、1.00mm以下であってもよい。めっき鋼板が薄いと溶接金属を形成するための金属量が不足し、溶接欠陥が発生しやすくなり、また金属の変形も生じやすく、溶接の制御が困難になることがある。一方、厚すぎると、そもそも容器としての重量が増すため、軽量化の観点から不利な場合がある。
【0044】
また、融着(ヒートシール)用のラミネート樹脂の厚さは10~200μmが好ましく、15~100μmがより好ましい。ラミネート樹脂が薄いとヒートシール時に溶融する樹脂が少なくなり過ぎ、融着部としての欠陥(樹脂の存在しないシールとしての欠陥)が発生し始める場合がある。一方、厚すぎると、溶接時に分解ガスを多く発生するようになり、空隙部が大きくなりやすくなる上に、溶接されるべきめっき鋼板が溶接されにくくなる場合がある。
【0045】
融着部(ヒートシール部)の長さは、0.4mm以上、2.4mm以下であってもよい。電池ケースの小型化や高積載性を実現する観点から、接合部は短いほど好ましく、融着部は接合部に含まれるので、融着部の長さは短いほど好ましい。ただし、融着部の長さが0.4mm以下であると、融着部の剥離が生じやすくなることがある。また、融着部が短いと、融着部に欠陥が生じやすい。融着部の欠陥は溶接部(鉄)への電解液の経路となり、その後溶接部では電解液による腐食が生じる。さらに、腐食した箇所を経由して、電解液が、溶接部(鉄)に到達し、そこでの腐食も生じやすくなる。
また、融着部の長さが2.4mm以上であると、接合部の長さが大きくなり、電池ケースの小型化や高積載性が困難となることがある。
【0046】
樹脂ラミネートめっき鋼板に使われる、めっきは、めっき鋼板の溶接や、ラミネート樹脂の融着に影響を与えない範囲で、適宜選択してもよい。電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、めっきの種類を選択してもよい。めっき鋼板に使われる、めっきは、Al,Cr,Ni,Sn,Znの中から、1種または複数の種類の元素を含むものであってもよい。これらの元素をふくむめっきは、常法によって得ることが可能である。複数元素を含むめっきにおいて、めっき元素は合金層、層状、一部粒状一部層状のうち一種または複数の状態でめっきされていても構わない。耐食性、入手容易性の観点等から、めっきとして、酸化クロム層と金属クロム層を有するティンフリースティールや、ニッケル層、あるいはニッケル層とニッケル-鉄合金層を有する様なニッケルめっきであってもよい。
めっき量は、電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、適宜選択してもよく、5mg/m2から30g/m2の範囲であってもよい。5mg/m2以下だとめっきが全体に付着できず、耐電解液密着性が低下しやすい。30g/m2以上だと加工時にめっきにクラックが入り、ピール強度などが低下する原因となることがある。
なお、めっきはめっき浴の種類がいくつかありうるが、めっき浴によらず性能が発現する。まためっき方法も電気めっき以外に、溶射や蒸着、溶融めっきであっても構わない。
【0047】
樹脂ラミネートめっき鋼板に用いられる、鋼板は、めっき性や、溶接性、ラミネート樹脂の融着性に問題を与えない範囲で、適宜選択してもよい。電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、鋼板の種類を選択してもよい。鋼板の厚みにより、耐食性や容器強度を確保することもできるので、コストパフォーマンスのよい鋼板を採用してもよい。鋼板として、ステンレス鋼のほか、純鉄、炭素鋼、低合金鋼等を採用してもよい。
【0048】
樹脂ラミネートめっき鋼板に用いられる、樹脂は、ポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂は、ヒートシール用樹脂としても好適であり、また、電池用ケースの内面樹脂を兼ねることもでき、本発明の一態様では、電池ケースの内面の少なくとも一部が前記フィルムで被覆される。
【0049】
前記溶接部および前記融着部を含めた接合部のポリオレフィン系樹脂とは、下記(式1)の繰り返し単位を有する樹脂を主成分にする樹脂である。主成分とは、(式1)の繰り返し単位を有する樹脂が、50質量%以上を構成することである。
-CR1H-CR2R3- (式1)
(式1中、R1、R2は各々独立に炭素数1~12のアルキル基または水素を示し、R3は炭素数1~12のアルキル基、アリール基又は水素を示す)
ポリオレフィン系樹脂は、前述のこれらの構成単位の単独重合体でも、2種類以上の共重合体であってもよい。繰り返し単位は,5個以上化学的に結合していることが好ましい。5個未満では高分子効果(例えば,柔軟性,伸張性など)が発揮し難いことがある。
【0050】
上記繰り返し単位を例示すると、エチレン、プロペン(プロピレン),1- ブテン,1-ペンテン,4-メチル-1-ペンテン,1-ヘキセン,1-オクテン,1- デセン,1-ドデセン等の末端オレフィンを付加重合した時に現われる繰り返し単位, イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィンや,スチレンモノマーの他に,o-メチルスチレン,m-メチルスチレン,p-メチルスチレン,o- エチルスチレン,m- エチルスチレン,o-エチルスチレン,o-t-ブチルスチレン,m-t- ブチルスチレン,p-t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン,モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン,末端メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0051】
このような繰り返し単位の単独重合体を例示すると, 末端オレフィンの単独重合体である低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,架橋型ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリペンテン,ポリへキセン,ポリオクテニレン,ポリイソプレン,ポリブタジエン等が挙げられる。また,上記繰り返し単位の共重合体を例示すると,エチレン-プロピレン共重合体,エチレン-ブテン共重合体,エチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体,エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボーネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや,スチレン系共重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが,これらに限定されるものではなく,上記の繰り返し単位を満足していればよい。また,ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。また,これらの樹脂は単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。
【0052】
また,本発明に使用するポリオレフィンは,上記のオレフィン単位が主成分であればよく,上記の単位の置換体であるビニルモノマー,極性ビニルモノマー,ジエンモノマーがモノマー単位もしくは樹脂単位で共重合されていてもよい。共重合組成としては,上記オレフィン単位に対して50質量%以下,好ましくは30質量%以下である。50質量%超では腐食原因物質に対するバリア性等のオレフィン系樹脂としての特性が低下することがある。
【0053】
上記極性ビニルモノマーの例としては,アクリル酸,アクリル酸メチル,アクリル酸エチル等のアクリル酸誘導体,メタクリル酸,メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル等のメタクリル酸誘導体,アクリロニトリル,無水マレイン酸,無水マレイン酸のイミド誘導体,塩化ビニル等が挙げられる。
【0054】
取扱性,腐食原因物質のバリア性から最も好ましいのは,低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,架橋型ポリエチレン,ポリプロピレン又はこれらの2種類以上の混合物である。
【0055】
本発明で使用するラミネート樹脂(ヒートシール用樹脂)として、これらポリオレフィン系樹脂は一般的に好適であるが、工業的にはポリエチレンまたはポリプロピレンを主とするものが、コスト、流通、熱ラミネートの容易性等の観点で、さらに好適である。
【0056】
ここでポリプロピレンを主とする樹脂とは、ポリプロピレンを50質量%以上含有する樹脂をいい、ポリプロピレン純粋樹脂の他に、合計が50質量%未満の割合で低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなど各種ポリエチレン、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィンを重合した樹脂などを挙げることができる。また、めっき鋼板との密着性を向上させるために酸変性ポリオレフィンとしたものでも良い。ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でも、また、重合するポリプロピレン以外のオレフィンが1種類でも2種類以上でも、主となるポリプロピレンが50質量%以上となっていれば良い。より好ましくはポリプロピレンが70質量%以上、90質量%以上のものから、ポリプロピレンそのものまでである。好ましくは、重合されるものは、ポリプロピレン単独の時よりも分解温度を低下させるものの方が好ましく、ポリエチレン系の樹脂が特に好適である。
【0057】
本発明容器に用いる樹脂ラミネートめっき鋼板は、ヒートシール用樹脂を被覆していない側の面、つまり、通常は容器の外面となる側の面については、めっき鋼板の表面そのままでも、酸化物形成やめっき被覆、あるいは種々の樹脂ラミネートを施していても良い。特に、ヒートシール用樹脂よりも薄い被覆が施されている場合は、溶接に影響は無く、絶縁性や、放熱性などの機能を持たせるために外面側を被覆したラミネートめっき鋼板も本発明の範疇である。特に20μm以下、または12μm以下の厚みのPETフィルムを外面に被覆して絶縁性を与えることは、経済性、取扱い性、加工性等の観点からも好適である。
【0058】
また、電池用容器の内面側の融着(ヒートシール)用樹脂は、単層である必要はなく、金属との密着性を向上させるために酸変性させたポリプロピレン層をめっき鋼板に接する側にラミネートし、ヒートシール性を向上させたポリプロピレン層をその外層にラミネートするなど、複層の樹脂ラミネートを施すことも可能である。
【0059】
さらに、電池用容器の内面側は、耐電解液性を向上させるために、めっき鋼板に表面処理を施すことが可能であり、電解クロメート、樹脂クロメート等各種クロメート処理や、その他のクロメートフリー化成処理を施しても良い。なお製品として既にクロム含有表面処理の施されているティンフリースティールは、各種クロメート処理を施した金属面と同等に耐電解液性が良好である。化成処理する方法として、以下を用いてもよい。化成処理の前に、下地処理としてスケール除去処理をしてもよい。スケール除去処理法として、酸洗,サンドブラスト処理,グリッドブラスト処理等が挙げられる。化成処理法を例示するとクロメート処理,Cr+6を使用しないクロメートフリー処理,ストライクめっき処理,エポキシプライマー処理,シランカップリング処理,チタンカップリング処理等が挙げられる。中でも酸洗,サンドブラスト処理後,クロメート処理又はクロメートフリー処理,ストライクめっき処理,エポキシプライマー処理を併用した下地処理が,樹脂組成物とめっき鋼板との化学的な密着力を強化する観点から好ましい。
【0060】
溶接部および融着部を含む接合部について、その位置は特に限定されるものではないが、溶接作業性や、無駄な材料の低減等を考慮して、容器本体と容器蓋の端部とを溶接することが好ましい。
また、溶接部および融着部を含む接合部について、その配向方向は特に限定されるものではなく、接合部が容器本体の底部(または容器蓋)と略平行であってもよい。この態様では、容器本体の開口部をフランジ構造として、当該フランジ部と容器蓋の外縁部とを重ね合わせて、溶接することができ、溶接作業性が向上する。また、このような接合部は、容器本体の側胴部に対して突出するような形態であるが、本発明による接合部の長さは、鋼板板厚に対して所定の比率に限定されているので、その突出の程度は僅かである。そのため、容器を複数並置した場合でも、接合部どうしが干渉して、積載性を低下させる問題は生じにくい。
一方で、接合部が、容器本体の側胴部と略平行(言い換えると容器本体の底部(または容器蓋)と略垂直)であってもよい。この態様は、容器本体に容器蓋が嵌合するように、容器本体の開口部の内縁寸法と容器蓋の外径寸法を調整すること等により実現してもよい。この接合部は、容器本体の側胴部に対して突出せず(言い換えると側胴部に沿って延伸しており)、容器を複数並置した場合でも、接合部どうしが干渉して、積載性を低下させる問題は生じない。
なお、略平行(略垂直)とは、平行(垂直)方向に対して、数度、例えば±5度以内、より好ましくは±3度以内の範囲内にあることを指す。
【0061】
電池用ケースの形状、大きさは、用途等に応じて適宜選択することができる。電池用ケースが角型の形状、円筒形の形状等であってもよい。なお、角型は円筒型と比べ、放熱性に優れるため大型化しやすく経済性に優れ、積載性も良いとされており、好ましい。
電池用ケースの高さ、幅、奥行の最短辺が10.0mm以上であってもよい。短辺が10.0mm以上となることで、電池ケースの内部容積が大きくできる(一方で、空隙部を小さくすることにより、有効な空間の占有率を高めることもできる)。そのため、電池をモジュール化する場合に、電池の必要個数を減らすことができ、モジュール組み立てが容易である。
【0062】
電池用ケースを構成する容器蓋が、ステンレス鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板のラミネート材、アルミニウム板のラミネート材、であってもよい。これらの材料は、現行のリチウムイオンバッテリーにおいて、その電解液との関係でひろく採用されている。本願発明の一態様である電池ケースでも、それらの実績ある材料を、用いることができる。
【0063】
電池用ケースは、容器本体および容器蓋を接合することにより形成される。容器本体と容器蓋を構成する板材どうしを重ね合わせて、重ね合わせた箇所にレーザー等により熱を加えることにより、それらが接合され、接合部が形成される。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。
【0064】
レーザー等による加熱部に近いほど高温になり、加熱部から遠ざかるほど低温になる。温度に応じて、めっき鋼板の金属は溶融し、フィルムの主成分であるポリオレフィン系樹脂は、溶融または蒸発する。そのため、加熱部およびその近傍の特に温度が高い箇所で、めっき鋼板の溶接部が形成される。加熱箇所からある程度離れた箇所では、ポリオレフィン系樹脂の蒸発温度より高く、めっき鋼板の融点より低い温度になるので、そこに、空隙部のみが残る。さらに加熱箇所から離れた箇所では、ポリオレフィン系樹脂の蒸発温度より低く、ポリオレフィン系樹脂の融点より高い温度になるので、融着部が形成される。言い換えると、ヒートシール処理工程と、溶接処理工程を、別工程として行う必要がなく、製造時の作業負荷やコストを低減できる。
なお、樹脂の蒸発によって発生したガスが空隙部に残留すると、溶接不良の原因となることがある。そこで、ガスを空隙部に残留しないように、すなわちガスが逃げやすいように、溶接箇所を設計することが好ましく、フランジ溶接の場合には、フランジを上向きにすることが好ましい。また、溶接時に、溶接箇所にAr等の不活性ガスを吹きかけることで、溶接部の酸化を抑制するとともに、樹脂の蒸発によって発生するガスの拡散を促進し、可燃性ガスが空隙部に残留しないようにすることも可能である。これにより、より長寿命化が期待できる。
【0065】
溶接、および融着は、加熱により生じるものであり、熱源は特に限定されるものではなく、レーザー、電子ビーム等を用いることができる。入力するエネルギー、走査速度等は、接合する材料に応じて、適宜調整することができる。
レーザー溶接の方法は公知の方法でよい。たとえば、炭酸ガスレーザーや、半導体レーザー等を線源として使用することができ、またファイバーを通したレーザー光でも、レンズで収束したレーザー光でも、反射鏡を使用して反射させたレーザー光を使用しても良い。
【0066】
図3に実際に容器本体及び容器蓋をレーザー加熱により接合した箇所の断面写真を示す。上下2枚の金属材(光反射するので白く見える)が側面端部で溶接されている。レーザー溶接部の内部(写真右方向)に融着(ヒートシール)された樹脂が見える。溶接部と融着部の間に空隙部が見える。なお、空隙部には、写真撮影用の埋め込み樹脂が充填されている。
【実施例】
【0067】
本発明について、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0068】
表1に示す条件の材料から構成される容器本体および容器蓋を用意した。容器本体は、容器本体開口部に容器本体底部に対して平行なフランジを備えており、当該フランジ部と容器蓋の外縁部を重ね合わせて、レーザー加熱により接合して、電池用ケースを作製した。電池用ケースの外形寸法は、26.5×148.0×91.0mmとした。レーザー照射条件は、表2に示す範囲で、照射対象となる材料に応じて適宜選択した。
【0069】
なお、ラミネート鋼板の母材として、0.12~0.25mm厚のTFSを用いた。
また、めっき条件として、Crめっきは、電解Crめっきを施した。Crめっき浴は、クロム酸250g/L、硫酸3g/Lを含む、サージェント浴を用いた。電解条件として、めっき浴温度50℃で、電流密度30A/dm2を用いた。
Niめっきは、電解Niめっきを施した。Niめっき浴は、塩化ニッケル240g/L、 塩酸125mL/Lを含む、ストライク浴を用いた。電解条件として、pH -1.0~1.5、めっき浴温度25℃で、電流密度-4A/dm2を用いた。
Znめっきは、電解Znめっきを施した。Znめっき浴は、ZnSO4:200g/L, H2SO4:15g/L,NaSO4:45g/L を含む浴を用いた。電解条件として、pH 1-2.5、めっき浴温度;50℃で、電流密度: 30A/dm2 を用いた。
Snめっきは、電解Snめっきを施した。Snめっき浴は、SnSO4;36g/L、p-フェノールスルフォン酸115g/Lを含む浴を用いた。電解条件として、pHは1.0~1.5、めっき浴温度25℃で、電流密度は4A/dm2を用いた。電解条件として、めっき浴温度45℃で、電流密度30A/dm2を用いた。
Alめっきは、抵抗加熱による真空蒸着によって行った。加熱温度900℃、真空度:10-3Paとした。
上記のめっきでは、付着量が100mg/m2 となるように行った。
化成処理としては、以下のクロメート処理を行った。
クロメート処理は無水クロム酸25g/L,硫酸3g/L,硝酸4g/Lからなる常温の浴に,適宜リン酸,塩酸,フッ化アンモニウム等を加えて用い,陰極電流密度25A/dm2でクロメート処理層を形成した。クロメート処理の目付量を多くする場合は処理時間は20秒で,約15nmほどクロメート処理層が形成していた。
厚みの測定方法は、XPS分析(PHI社製Quantum2000型,X線源はAlKα(1486.7eV)単色化,X線出力は15kV 1.6mA)によりクロメート処理層の厚さを直接測定した。
【0070】
【0071】
得られた電池用ケースについて、シール性、および積載性、および長寿命性の評価を行った。結果は表1に記載する。評価内容は以下のとおりである。
【0072】
(シール性)容器の高さの1/3まで電解液を入れ、容器の上下をさかさまにして、溶接部に液が十分触れるようにして、80℃で2週間保持を行った。容器から電解液の漏れがなければGood(G)として、容器から電解液が漏れたらBad(B)とした。
【0073】
(積載性)
作製した電池用ケース28本を、26.5mm×148.0mmの面を底面として、隣接するように水平方向に並べた。28本の電池用ケースを積載するために要した占有面積が、基準面積(現行の一般的な乗用自動車におけるバッテリー占有面積)に問題なく積載できた場合をGood(G)、フランジ部の干渉等により積載できなかった場合をBad(B)とした。
また、No.41では、26.5mm×148.0mmの面を底面として、複数の電池用ケースを垂直方向に積み重ねられる(縦積)ことも確認した。
【0074】
(長寿命性[空隙部による融着部の剥離抑制])
作製した電池ケースを用いて、加熱・冷却のサイクル試験を実施した。
加熱・冷却サイクル試験は、80℃の温度で1時間保持、その後20℃の温度で1時間保持し、これを1サイクルとした。この試験を、150サイクル行なって、接合部、特に融着部の状態、の断面観察を実施した。
もとの融着部長さを1としたときに、サイクル試験終了後の融着部長さの減少率が5%以下の場合はVery Good(V)、5%超15%以下の減少率の場合はGood(G)、15%超の減少率の場合はBad(B)とした。
融着部長さは、埋め込み研磨により接着部を光学顕微鏡で確認した。融着部の端部に関しては、500倍の倍率で融着しているかどうか(剥離していないかどうか)を確認した。 接合部全体の長さに関しては、変化することがあるため、適宜観察倍率を合わせて測定を実施した。観察用試料(接合部)は、同条件で作製された電池ケースから、サイクル試験前後で3箇所ずつ切り出し、その接合部に含まれる空隙部および融着部の長さを測定した平均値で評価した。
【0075】
本発明の範囲である、空隙部の長さ/めっき鋼板の板厚、および、空隙部の長さ/接合部の長さを満たすものは、良好なシール性、積載性、長寿命性が得られた(シール性、積載性はGood(G)で、長寿命性はGood(G)またはVery Good(V)であった)。
【0076】
No.35-38、Aでは、ラミネートめっき鋼板ではなく、ラミネート金属箔を用いた。No35,36,38は、上記の加熱(実施例と同じ)を行ったが、うまく溶接ができなかった。No.37では、ヒートシールした後に、端部の溶接を行い、接合部を形成することはできたが、空隙部が相対的に大きくなった。また、先にヒートシールのみを行う場合(溶接と同時にヒートシールを行わない場合)、ヒートシール部の強度およびシール性が十分に得られるように、比較的広い範囲でヒートシールを行う必要があり、すなわち、融着部が比較的大きくなった。No.Aでは、金属箔をヒートシールのみで接合した場合であり、つまり溶接をせず、空隙部も存在しない場合である。そのため、No.35-38、Aでは、シール性、積載性、長寿命性の少なくとも一つ以上が不良であった。
【0077】
No.39は、空隙部の長さ/めっき鋼板の板厚が10超であり、シール性が不良であった。No.40は、空隙部の長さ/接合部の長さが0.5超であり、積載性が不良であった。
【0078】
別途、一部試験体は、容器本体底部に対して垂直に延在するフランジを備えた容器を作製した。それらの容器でも、本発明の範囲である、空隙部の長さ/めっき鋼板の板厚、および、空隙部の長さ/接合部の長さを満たすことができ、良好なシール性、積載性、長寿命性が得られた(シール性、積載性はGood(G)で、長寿命性はGood(G)またはVery Good(V)であった)。特に、隣接する容器どうしで、フランジの干渉がないので、積載性はさらに向上することができた。
【0079】