(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】酸化カルシウムを含む焼成物
(51)【国際特許分類】
C01F 11/04 20060101AFI20230124BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20230124BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C01F11/04
B01J20/04 A
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2018188537
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】518353038
【氏名又は名称】株式会社プラスラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】520381090
【氏名又は名称】株式会社ITO知財インベストメント
(73)【特許権者】
【識別番号】518353049
【氏名又は名称】有限会社エルシオン
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】沢田 新一
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-120013(JP,A)
【文献】国際公開第2004/089092(WO,A1)
【文献】特開2009-234807(JP,A)
【文献】特開2011-207779(JP,A)
【文献】特開2001-139991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/04
B01J 20/04
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムおよび/または水酸化カルシウムを含有する開始材料から酸化カルシウムを含有する焼成物を製造する方法であって、
開始材料を1000℃以上で4時間以上焼成して一次焼成物を得る一次焼成工程と、
一次焼成物を微粉砕する微粉砕工程と、
一次焼成物を600℃以上で1時間以上焼成して二次焼成物を得る二次焼成工程と、
二次焼成物を真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて外気温まで冷却させる二次冷却工程と、
を含む方法。
【請求項2】
二次冷却工程後に焼成物を粉砕する工程を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
開始材料の一部または全部が貝殻である請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
貝殻の一部または全部がホタテ貝殻である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の方法によって製造された焼成物。
【請求項6】
請求項5に記載の焼成物を水性媒体に懸濁させた懸濁液。
【請求項7】
請求項5に記載の焼成物を真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて保存する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化カルシウムを含む焼成物、およびその製造方法等に関する。特に炭酸カルシウムを含む生物材料から得られる酸化カルシウムを含む生物材料焼成物、およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、貝殻、卵殻、ウニ殻などの廃棄物の活用方法として、これら焼成物に関する研究が行われている。これら廃棄物の主成分は炭酸カルシウムであり、高温焼成により炭酸カルシウムから二酸化炭素が遊離して生じる酸化カルシウムが焼成物の主成分であると言われている。
【0003】
石灰石を焼成してできる従来の酸化カルシウム(生石灰)は5質量倍の水と触れると瞬時に接触した水が100℃を超えるほどの高熱を発するのに対し、貝殻などの市販焼成物にはそのような水和発熱反応が見られない。各種工程の間に空気中の水蒸気や二酸化炭素と反応し、酸化カルシウムが減少したことが要因の1つと考えられる。
【0004】
従来の石灰石由来水酸化カルシウム(消石灰)は非常に強い毒性を有するのに対して、貝殻などの生物材料の焼成物に由来する水酸化カルシウムは肌刺激性が弱いなど安全性が高く食品添加剤として認可されている。他方、貝殻などの生物材料の焼成物に由来する水酸化カルシウムには、有機毒物吸着効果、殺菌効果、ウイルス不活化効果などがあることが報告されている(例えば特許文献1~4)。このように、貝殻、卵殻、ウニ殻などの焼成物に由来する水酸化カルシウムは衛生環境に対処する素材としてすでに報告・市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-233720号公報
【文献】特開2008-179555号公報
【文献】特開2012-062257号公報
【文献】特許第5019123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来では、貝殻などの焼成物については水酸化カルシウムの利用を意図しており、また水酸化カルシウムを多く含む焼成物の微粉末を得ることは可能であった。他方、酸化カルシウムが主体の焼成物は、強アルカリ特性に加えて、酸化・還元・ラジカル反応等の新規特性が期待できる。しかし、このような酸化カルシウムが主体の焼成物は実際には製造できていなかった。
【0007】
本発明は、以上の背景によりなされたものである。第1の目的は酸化カルシウム含有割合の多い焼成物を提供することである。第2の目的は容易に微粉末に粉砕することが可能な前記焼成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、炭酸カルシウムおよび/または水酸化カルシウムを含有する開始材料から酸化カルシウムを含有する焼成物を製造する方法であって、
開始材料を1000℃以上で4時間以上焼成して一次焼成物を得る一次焼成工程と、
一次焼成物を微粉砕する微粉砕工程と、
一次焼成物を600℃以上で1時間以上焼成して二次焼成物を得る二次焼成工程と、
二次焼成物を真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて外気温まで冷却させる二次冷却工程と、
を含む方法が提供される。
【0010】
前記方法は、二次冷却工程後に焼成物を粉砕する工程を含まなくともよい。
【0011】
前記開始材料の一部または全部が貝殻でもよい。また貝殻の一部または全部がホタテ貝殻でもよい。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、前記方法によって製造された焼成物が提供される。この焼成物の平均粒径は2μm以下であってもよい。この焼成物の示差熱熱重量分析によって測定される30~1000℃における重量減少割合は1%以下であってもよい。この焼成物のBET比表面積は0.5m2/g以上3.0m2/g以下であってもよい。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、前記焼成物を水性媒体に懸濁させた懸濁液が提供される。
【0014】
本発明の第4の態様によれば、前記焼成物を真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて保存する方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の焼成物は酸化カルシウム含有率が非常に高い。またこの焼成物は平均粒径の小さい微粉末である。そしてこの焼成物を実際に使用したところ、従来品よりも優れた効果を得ることが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】潤滑油を対象とした吸着除去効果評価の試験結果を示す。
【
図2】臭気を対象とした吸着除去効果評価の試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
【0018】
<<用語の定義>>
【0019】
本発明において、用語「外気温」とは、焼成を行う装置(焼成炉)が置かれている周囲環境の気温を意味する。一律に定義できないが、100℃未満、80℃未満、60℃未満または50℃未満の温度と解釈してもよい。
【0020】
本発明において、用語「不活性ガス」とは、100℃以下の温度において酸化カルシウムと反応しない気体を意味する。窒素ガス、ヘリウムやアルゴンなどの貴ガスの他、酸素も含まれる。
【0021】
本発明において、用語「酸性領域」とは、pHが6以下の領域を意味する。用語「中性領域」とは、pHが6超8未満の領域を意味する。「アルカリ性領域」とは、pHが8以上の領域を意味する。pHが10以上の領域を「強アルカリ性領域」、pHが8以上10未満の領域を「弱アルカリ性領域」と表現することもある。なお、本発明においてpHは25℃において測定される値である。
【0022】
<<開始材料>>
本発明の方法では、炭酸カルシウムおよび/または水酸化カルシウムを含む材料を開始材料として使用する。炭酸カルシウム、水酸化カルシウムは強熱することで酸化カルシウムに変化する。
【0023】
本発明では、特に、炭酸カルシウムを含む生物材料を開始材料として使用する。このような生物由来開始材料としては、例えば貝殻、卵殻、ウニ殻、珊瑚、甲殻が挙げられる。入手容易性、操作性および加工性の観点から貝殻、卵殻および甲殻が好ましく、貝殻が特に好ましい。
【0024】
貝殻とは、炭酸カルシウムを含む貝の外殻を指す。貝は一般的に一枚貝、二枚貝、巻貝といった分類に分けられる。構造が簡単であり洗浄が容易なので二枚貝の貝殻が好ましい。一枚貝としてはアワビなどが挙げられる。二枚貝としてはホタテ、カキ、シジミ、ハマグリ、アサリなどが挙げられる。巻貝としてはサザエなどが挙げられる。貝殻の中でもホタテ貝殻とカキ貝殻が特に好ましく、ホタテ貝殻が最も好ましい。
【0025】
卵殻とは、炭酸カルシウムを含む卵の外殻を指す。鳥類などの卵生生物が作り出す材料である。入手容易性の観点から鶏や鶉の卵殻が好ましい。
【0026】
甲殻とは、炭酸カルシウムを含む甲殻類の外殻を指す。甲殻類としてはエビ、カニ、フジツボなどが挙げられる。洗浄が容易なのでカニの甲殻が好ましい。
【0027】
<<方法>>
本発明の第1の態様では、以下に説明する方法が提供される。
【0028】
(一次焼成工程)
本発明の方法は上述した開始材料を焼成炉にて焼成する一次焼成工程を含む。
【0029】
焼成炉内の雰囲気は任意であるが酸素含有雰囲気が好ましい。酸素含有雰囲気とは、酸素を1体積%以上、3体積%以上、5体積%以上、10体積%以上、20体積%以上含む雰囲気であればよい。通常は空気(大気雰囲気)である。燃焼除去効率を高めるため、酸素を30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上、80体積%以上、90体積%以上含む雰囲気でもよいし、純粋な酸素ガス雰囲気(すなわち酸素含有率100%の雰囲気)を使用してもよい。
【0030】
一次焼成工程において、開始材料に含まれる炭酸カルシウム/水酸化カルシウムの全部または一部が熱分解して酸化カルシウムに変化する。生物由来材料の場合、タンパク質などの有機物を含む場合がある。本工程において、これら有機物に由来する多くの元素は熱分解や燃焼によりガスとなって除去される。
【0031】
一次焼成工程の焼成温度は1000℃以上、1050℃以上、1100℃以上、1150℃以上、1200℃以上、1250℃以上、1300℃以上、1350℃以上、1400℃以上、1450℃以上である。これら温度以上で焼成することで充分に有機物を除去でき焼成物の純度が高くなる。一次焼成工程の焼成温度は約2600℃(酸化カルシウムの融点)以下であり、2000℃以下、1800℃以下、1600℃以下が好ましい。
【0032】
一次焼成工程の昇温速度に特に制限はないが、1~20℃/分、3~18℃/分、5~16℃/分、7~14℃/分、9~12℃/分が好ましい。
【0033】
一次焼成工程の焼成時間は4時間以上、4.5時間以上、5時間以上、5.5時間以上、6時間以上である。これら時間以上で焼成することで充分に有機物を除去でき焼成物の純度が高くなる。他方、焼成時間の上限は特に制限はなく、10時間以下、9時間以下、8時間以下が好ましい。
【0034】
当然のことながら、焼成温度は上記の焼成温度範囲であれば一定でも変動してもよい。また焼成時間とは、焼成炉内の温度が上記の焼成温度範囲になっている合計時間を意味する。
【0035】
(一次冷却工程)
本発明の方法は上述した一次焼成工程によって得られる一次焼成物を冷却する一次冷却工程を含んでもよい。
【0036】
冷却目標温度は任意であるが、通常は後の操作のために焼成物を外気温まで冷却させる。
【0037】
冷却速度は任意に設定することができる。任意の冷却手段を用いて急激に冷却してもよいし、放熱によって自然冷却させてもよい。
【0038】
一次冷却工程は任意の雰囲気下で行ってよい。焼成工程と同じ雰囲気下でも異なる雰囲気下でもよい。例えば、不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、大気雰囲気下で行ってもよい。
【0039】
一次冷却工程は焼成炉内で行ってもよいし、焼成炉外に取り出して行ってもよいし、一部を焼成炉内で行い残りを焼成炉外で行ってもよい。
【0040】
(予備粉砕工程)
本発明の方法は一次焼成物を粉砕する予備粉砕工程を含んでもよい。
【0041】
予備粉砕工程は、一次焼成物を微粉砕する前に一次焼成物を粉砕する任意の工程である。特に生物由来材料であれば含まれていた有機物が消失しているため、一次焼成物は極めて脆弱である。このため、容易に粉砕することができる。予備粉砕工程には任意の装置および手段が使用され得る。予備粉砕工程は必須工程ではないが、一次焼成物を予め粉砕しておくことで、後述する微粉砕工程の効率が向上し最終製品の品質の安定化および微粉末化に繋がる。
【0042】
予備粉砕工程は任意の雰囲気下で行ってよい。他の工程の雰囲気下と同じでも異なっていてもよい。
【0043】
(純化工程)
本発明の方法は一次焼成物を純化する純化工程を含んでもよい。
【0044】
純化工程は、一次焼成物の粉末ないし微粉末を、例えばエアフィルタ、マイクロミストフィルタ、活性炭フィルタなどから1以上のフィルタを通過させて行ってもよい。
【0045】
純化工程は任意の雰囲気下で行ってよい。他の工程の雰囲気下と同じでも異なっていてもよい。
【0046】
(微粉砕工程)
本発明の方法は一次焼成物を微粉砕する微粉砕工程を含んでもよい。
【0047】
微粉砕工程は、一次焼成物を微粉末の状態にまで微粉砕して一次焼成物の微粉砕を得る工程である。後述する二次焼成を行う前、即ち一次焼成と二次焼成の間に行う。二次焼成前に行うことで、二次焼成後に行うよりも最終産物である焼成物の平均粒径を小さくすることが可能であった。
【0048】
一次焼成物を微粉砕するための手段は任意の手段が使用できる。例えば特殊コンプレッサーで高圧ガス粒子を加速し、粒子衝突により対象を微粉砕する装置(ナノジェットマイザー;NJ-300-D、株式会社アイシンナノテクノロジーズ製)が挙げられる。ここで高圧ガスとしては、乾燥空気でもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが好ましい。
【0049】
微粉砕工程は任意の雰囲気下で行ってよい。他の工程の雰囲気下と同じでも異なっていてもよい。
【0050】
予備粉砕工程、微粉砕工程、および/または純化工程を行う場合、一次焼成工程の後、かつ、後述する二次焼成工程の前に行う。
【0051】
(二次焼成工程)
本発明の方法は一次焼成物を焼成炉にて焼成する二次焼成工程を含む。
【0052】
一次焼成工程において残存したり一次焼成後の各工程の間に生じたりした、水酸化カルシウムや炭酸カルシウムを酸化カルシウムに熱分解する。
【0053】
特に言及していない限り、一次焼成工程の記載は本工程にも適用される。
【0054】
二次焼成工程の焼成温度は600℃以上、700℃以上、800℃以上、850℃以上、900℃以上、950℃以上である。これら温度以上で焼成することで充分に炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムを酸化カルシウムへと変化させることができる。二次焼成工程の焼成温度は約2600℃(酸化カルシウムの融点)以下であり、通常1500℃以下、1200℃以下、1000℃以下である。
【0055】
二次焼成工程の焼成時間は1時間以上、1.5時間以上または2時間以上である。これら温度以上で焼成することで充分に炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムを酸化カルシウムへと変化させることができる。他方、焼成時間の上限は特に制限はない。焼成炉への負荷やエネルギーコストの観点から7時間以下、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下が好ましい。
【0056】
(二次冷却工程)
本発明の方法は上述した二次焼成工程によって得られる二次焼成物を真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて冷却する二次冷却工程を含む。
【0057】
特に言及していない限り、一次冷却工程の記載は本工程にも適用される。
【0058】
真空雰囲気下とは、大気圧(約10万Pa)と比べて十分小さいことを意味する。具体的には1000Pa以下、100Pa以下、10Pa以下、1Pa以下、0.1Pa以下、0.01Pa以下、0.001Pa以下、0.0001Pa以下を意味する。
【0059】
不活性ガス雰囲気下とは、上述したような不活性ガスの雰囲気下を意味する。気圧に制限はないが、例えば1万Pa~20万Pa、5万Pa~15万Pa、8万Pa~12万Pa以上としてもよい。
【0060】
真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下で冷却することで、焼成によって生じた酸化カルシウムを未反応のまま保存することができる。真空雰囲気下の場合、真空化手段によって二次焼成工程において生じた遊離ガスが除去され、焼成物中の酸化カルシウムが保存される。また特に焼成物の粒径が小さくなることがわかった。このため真空雰囲気下の方が好ましい。
【0061】
二次冷却工程と後述する密封工程の間で他の工程(例えば粉砕工程など)を含まないことが好ましい。他の工程を行っている間に、焼成物中の酸化カルシウムが変質する恐れがあるからである。
【0062】
(密封工程)
本発明の方法は得られた二次焼成物を密封用容器に密封する工程を含んでもよい。
【0063】
密封用容器はガスを遮断し対象物を密閉できれば任意のものが使用できる。二次焼成物は真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて密封用容器の中に密封される。この結果、密封用容器の内部に二次焼成物が封入されたパッケージが完成する。
【0064】
<<焼成物>>
本発明の第2の態様では、第1の態様の方法によって製造された焼成物が提供される。
【0065】
本発明の焼成物の平均粒径は、通常は、2.0μm以下、1.9μm以下、1.8μm以下である。
【0066】
焼成物の平均粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定すればよい。このような装置として、例えば、CILAS(株式会社アイシンナノテクノロジーズより入手可能)が挙げられる。
【0067】
本発明の焼成物の波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)によって測定可能な元素に占めるカルシウム元素の割合は、通常は、99.0atom%以上、99.1atom%以上、99.2atom%以上、99.3atom%以上、99.4atom%以上、99.5atom%以上、99.6atom%以上、99.7atom%以上、99.8atom%以上、99.9atom%以上である。なお、波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)では炭素や酸素は測定されない。
【0068】
これに加えて/これとは別に、本発明の焼成物の蛍光X線分析法(XRF)によって測定されるカルシウム元素以外の元素のピーク強度は、カルシウム元素のピーク強度の1/1000以下、1/1500以下、1/2000以下、1/2500以下、1/3000以下である。
【0069】
波長分散型蛍光X線分析法(XRF)の装置としては、RIX3100(理学電機工業株式会社製)が挙げられる。
【0070】
焼成物の酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および炭酸カルシウム含有量は示差熱熱量重量分析装置を用いて推定される。焼成物が水酸化カルシウムを含む場合、200℃~500℃において重量減少が観測される。焼成物が炭酸カルシウムを含む場合、500℃~1000℃において重量減少が観測される。示差熱熱重量分析前に前処理は行わなくてよい。
【0071】
本発明の焼成物の示差熱熱重量分析によって測定される30~1000℃における重量維持割合は、通常は、99.0%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上である。上限は通常100%以下である。重量維持割合とは、30℃時点における重量に対する1000℃時点における重量の百分率である。
【0072】
換言すれば、本発明の焼成物の示差熱熱重量分析によって測定される30~1000℃における重量減少割合は、通常は、1%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下である。重量減少割合とは、30℃時点における重量に対する30℃時点から1000℃時点までにおける重量減少の百分率である。
【0073】
このような装置として、例えば、TGA851e(メトラー・トレド社製)が挙げられる。示差熱熱重量分析の測定は、窒素100mL/min気流中、10℃/分の昇温速度にて30℃から1000℃まで昇温して行う。
【0074】
本発明の焼成物のBET比表面積は、通常は、0.2m2/g以上、0.3m2/g以上、0.4m2/g以上、0.5m2/g以上、0.6m2/g以上、0.7m2/g以上、0.8m2/g以上、0.9m2/g以上、1.0m2/g以上、1.1m2/g以上、1.2m2/g以上、1.3m2/g以上、1.5m2/g以上、1.7m2/g以上、1.9m2/g以上、2.0m2/g以上である。他方、通常は、3.0m2/g以下、2.8m2/g以下、2.6m2/g以下、2.4m2/g以下、2.2m2/g以下、2.1m2/g以下である。
【0075】
BET比表面積を解析する装置として、例えば、Quantachrome社製ChemBET3000が挙げられる。BET比表面積の測定方法は特に制限されず通常使用される条件で測定してよい。
【0076】
本発明の焼成物は、優れた吸着能力を有しており、有害物質の吸着に使用可能である。
【0077】
本発明の焼成物は、水性媒体に懸濁させて使用することができる。
【0078】
(水性媒体)
水性媒体の90質量%以上、91質量%以上、92質量%以上、93質量%以上、94質量%以上、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上は水である。当然ながら、水性媒体の100質量%が水でも良い(即ち水性媒体は純水でもよい)。
【0079】
水以外の媒体としては、水に可溶な液体であれば特に制限はない。典型的にはメタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコールなどのアルコールが挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(開始材料)
ホタテ貝殻を開始材料として使用した。
【0082】
(実施例)
開始材料を1450℃で6時間一次焼成した。焼成後の一次焼成物を放置して外気温まで自然冷却させた。外気温まで冷えた一次焼成物を予備粉砕し、撹拌して均一化させた。この一次焼成物をエアフィルタ、マイクロミストフィルタ、活性炭フィルタを通した後、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)によって微粉砕した。その後、焼成物を950℃の条件で2時間二次焼成した。焼成完了後、真空化手段を用いて真空雰囲気下(10-4Pa以下)で二次焼成物を放置して外気温まで自然冷却させた。こうして実施例の粉末状の焼成物を得た。
【0083】
(比較例1)
開始材料を1450℃で6時間一次焼成した。焼成後の一次焼成物を放置して外気温まで自然冷却させた。外気温まで冷えた一次焼成物を予備粉砕し、撹拌して均一化させた。この焼成物を1450℃の条件で4時間二次焼成した。この二次焼成物を放置して外気温まで自然冷却させた。二次冷却後、実施例と同様に微粉砕した。こうして比較例1の粉末状の焼成物を得た。
【0084】
(比較例2)
開始材料を1450℃で6時間一次焼成した。焼成後の一次焼成物を放置して外気温まで自然冷却させた。外気温まで冷えた一次焼成物を予備粉砕し、撹拌して均一化させた。こうして比較例2の粉末状の焼成物を得た。
【0085】
(比較例3)
開始材料を1100℃で4時間一次焼成した。焼成後の一次焼成物を放置して外気温まで自然冷却させた。外気温まで冷えた一次焼成物を予備粉砕し、撹拌して均一化させた。こうして比較例3の粉末状の焼成物を得た。
【0086】
なお、特段の記載がない限り、いずれの工程も大気雰囲気下、大気圧下で実行した。また焼成工程における昇温速度はいずれも10℃/分に設定した。
【0087】
(比較例4)
比較例4の粉末として、市販のホタテ貝殻焼成物を使用した。
【0088】
<<粉末の評価>>
実施例および比較例の粉末に関して以下に説明する測定方法によって測定した。
【0089】
(粒径)
粒度分布測定装置(CILAS)を使用して、各粉末の平均粒径を測定した。測定結果を表1に示す。
【0090】
(酸化カルシウム含有量)
示差熱熱量重量分析装置(TGA851e)を使用して、各粉末の酸化カルシウム含有量を測定した(解析温度は30℃~1000℃)。200~500℃までの重量減少(%)を水酸化カルシウム含有量(%)とし、30℃~1000℃で維持された重量(%)を酸化カルシウム含有量(%)とした。測定結果を表1に示す。
【0091】
(BET比表面積の測定)
各粉末のBET比表面積は、Quantachrome社製ChemBET3000を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
実施例の粉末の純度は極めて高い。また実施例の焼成物は比較例の焼成物と比べて平均粒径が有意に小さかった。したがって、本発明の方法によって酸化カルシウム純度が極めて高い微粉末を得ることができた。
【0094】
さらに以下に説明する評価方法にて各粉末を評価した。
【0095】
(吸着性能:潤滑油)
潤滑油を濃度が1体積%となるよう純水に加え、撹拌して潤滑油懸濁液を調製した(潤滑油懸濁液は淡黄色であった)。この潤滑油懸濁液100質量部に対して、各粉末を0.04質量部、0.2質量部、1質量部添加して懸濁した。その後、3000rpm、10分間の遠心分離によって粉末を沈殿させ、上清の濁度を濁度計(Turbidimeter、TR-55、笠原理化工業株式会社製)を用いて計測した。濁度が小さいほど、潤滑油が除去されたことを意味する。結果を
図1Aに示す。図から明らかな通り、実施例の粉末が最も優れていることがわかった。
【0096】
純水100質量部に対して各粉末を0.04質量部、0.2質量部、1質量部配合して得られた上清についても同様の試験を行った。結果を
図1Bに示す。図から明らかな通り、実施例の粉末の上清が最も優れていることがわかった。
【0097】
(吸着性能:臭気1)
豚挽肉10gを、純水100質量部に対して各粉末を0.04質量部、0.2質量部、1質量部配合して得られた上清5mLとともに密封し、37℃で3日間放置した。3日後の臭気を臭度計(Handheld Odor Meter、OMX-SR、神栄テクノロジー株式会社製)を使用して測定した。結果を
図2Aに示す。図から明らかな通り、実施例の粉末の上清が最も優れていることがわかった。
【0098】
(吸着性能:臭気2)
消臭対象としてラット飼育使用済のおが屑を準備した。このおが屑10gに各粉末0.04g、0.2g、1gをよく混ぜて30分間放置した。30分後の臭気を前記臭気計を使用して測定した。結果を
図2Bに示す。図から明らかな通り、実施例の粉末が最も優れていることがわかった。
【0099】
(殺菌性能)
各粉末の質量濃度が1600ppm、800ppm、400ppm、200ppm、100ppmである純水懸濁液を調製した。この懸濁液の殺菌性能を評価した。
【0100】
池の濁水に2%のDMEM培地(D5796,Sigma Life Science、Sigma-Aldorich Japan、Tokyo)を添加し、室温で18時間放置して、殺菌対象の一般生菌群および大腸菌群を培養した。一般生菌群の菌数および大腸菌群の菌数は、それぞれ4.6および4.2(Log10CFU/mL)であった。
【0101】
上記一般生菌および大腸菌群を含んだ液体100体積部に上記水懸濁液100体積部を添加、よく撹拌した後、室温で30分放置した。一般生菌群および大腸群数測定用培地キット(それぞれコンパクトドライ「ニッスイ」TC及びCF、日水製薬株式会社製)を使用して一般生菌数および大腸菌群数を測定した。一般生菌数の結果を
図3Aに、大腸菌群数の結果を
図3Bに示す(横軸は粉末の最終濃度である)。図から明らかな通り、実施例の粉末の懸濁液が最も優れていることがわかった。