IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人日本医科大学の特許一覧

<>
  • 特許-腫瘍状態の評価方法 図1
  • 特許-腫瘍状態の評価方法 図2
  • 特許-腫瘍状態の評価方法 図3
  • 特許-腫瘍状態の評価方法 図4
  • 特許-腫瘍状態の評価方法 図5
  • 特許-腫瘍状態の評価方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】腫瘍状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20230124BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALN20230124BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20230124BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20230124BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230124BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12N5/0786
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018561442
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2018000792
(87)【国際公開番号】W WO2018131705
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017005102
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 拓麿
(72)【発明者】
【氏名】武田 幸樹
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098873(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0063382(US,A1)
【文献】国際公開第2014/148557(WO,A1)
【文献】特表2012-507733(JP,A)
【文献】SWISHER, E.M., et al.,Somatic Mosaic Mutations in PPM1D and TP53 in the Blood of Women With Ovarian Carcinoma,JAMA Oncol.,2016年,vol.2, no.3,,p.370-372,Supplement
【文献】ZHU, J., et al.,Expression and significance of myeloid differentiation factor 88 in non-small cell lung carcinoma an,Genet. Mol. Res.,vol.14, no.4,2015年,p.14239-14245
【文献】DIAZ, L.K., et al.,CD44 expression is associated with increased survival in node-negative invasive breast carcinoma,Clin. Cancer Res.,2005年,vol.11, no.9,p.3309-3314
【文献】ONCOLOGY LETTERS,2013年,Vol. 6,P. 1343-1345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者について、腫瘍の発症若しくは再燃の有無を評価する腫瘍状態の評価方法であって、
前記被者から採取された血液試料から回収された血漿又は血清中のcfDNAから、体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べ、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されていない場合に、
当該被から採取された血液試料から回収された末梢血単核細胞層に含まれるDNAから、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べ、
前記被験者が、過去に、腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異を有する原発巣に対して、腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けたことがあり、
前記被験者の前記末梢血単核細胞層に含まれるDNAから前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出された場合に、
前記被験者の腫瘍が再発又は新たな転移が生じている可能性が高いと評価し、
前記末梢血単核細胞層に含まれるDNAからの前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出を、
前記被者から採取された血液試料から末梢血単核細胞層を回収する回収工程と、
前記末梢血単核細胞層に含まれるDNAから、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べる変異検出工程と、
により行い、
前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出を、デジタルPCR法により行い、
前記腫瘍マーカー遺伝子がKRAS遺伝子である、腫瘍状態の評価方法。
【請求項2】
前記被験者が、前記血液試料の採取時点において腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けているか、又は前記血液試料の採取時以前に腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けたことがある、請求項1に記載の腫瘍状態の評価方法。
【請求項3】
前記回収工程において、前記血液試料からの末梢血単核細胞層の回収を、Ficoll密度勾配遠心法により行う、請求項1又は2に記載の腫瘍状態の評価方法。
【請求項4】
前記腫瘍が、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸直腸癌、大腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺癌、すい臓癌、膀胱癌、腎臓癌、黒色腫、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頚部癌、脳腫瘍、肝細胞癌、血液悪性腫瘍、又はこれらの癌を引き起こす前癌である、請求項1~のいずれか一項に記載の腫瘍状態の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍組織における腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の有無を、比較的非侵襲的に検出する方法、及び腫瘍状態の評価方法に関する。
本願は、2017年1月16日に、日本に出願された特願2017-005102号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤の治療効果の予測因子として、シグナル伝達に関与する癌遺伝子上の体細胞変異が注目を集めている。例えば、大腸がん治療における分子標的薬である抗EGFR(上皮成長因子受容体)抗体薬であるセツキシマブやパニツムマブの治療効果の予測因子として、RAS遺伝子変異が挙げられる。また、肺がん治療におけるゲフィチニブ、エルロチニブ等の低分子化合物の分子標的薬の治療効果の予測因子として、EGFRの点突然変異や欠損等が挙げられる。また、白血病におけるイマチニブ奏功性の予測因子として、BCR-ABL融合遺伝子や、EGFR陰性肺がん患者におけるEML4-ALK融合遺伝子等も、実際の臨床現場にて検査が行われている。
【0003】
分子治療薬の治療効果の予測のためには、一般的に、腫瘍組織の体細胞変異が指標となることから、生検により採取された腫瘍組織サンプル中の癌遺伝子の遺伝子型を検査する。また、体細胞変異がいつ生じてもおかしくはないため、治療効果の予測因子となる体細胞変異は、経時的にモニタリングし、リアルタイムに癌の状態を把握することが望ましい。しかしながら、化学療法を受ける患者の大半は肺や肝臓などの体の深部に腫瘍が存在する。そのため、これらの部位からの生検は患者にとって非常に大きな侵襲であり、経時的に生検を行うことは困難である。
【0004】
一方で近年、がん患者では健常者に比べて、血中のcf(cell-free)DNA量が多く、血中のcfDNA量が腫瘍マーカーとして期待できることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、大腸がんに対する抗EGFR抗体薬の薬剤耐性獲得の有無が、腫瘍組織中のKRAS遺伝子の体細胞変異と同様に、血中のcfDNA中のKRAS遺伝子の体細胞変異とも相関することも報告されている。すなわち、血中のcfDNA中のKRAS遺伝子の体細胞変異を検出することによって腫瘍の状態を把握できることも報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献2及び3参照。)。通常の生検では繰り返し生検が難しい場合においても、血液を組織の代理検体とすることにより、体細胞変異のモニタリングが可能になりつつある。
【0005】
しかし、血清や血漿中のcfDNA量は、10コピー程度と非常に少ない上に、その中の腫瘍マーカー遺伝子のアリルの割合も0.1%程度と少ない。このため、原発巣組織で腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異が検出されるがん患者でも、当該体細胞変異がcfDNAから検出されるとは限らない。また、末梢血中にはCTC(末梢血循環腫瘍細胞、末梢血循環がん細胞)などが含まれており、CTCの個数と患者予後に相関があることは既に報告されているが、がん種や検出技術によってCTCの検出頻度は大きく異なる。例えば、FDAで認可されているJ&J社のセルサーチでステージIVの大腸がん患者から検出されるCTCの数の平均はたったの5個である(例えば、非特許文献4参照。)。このように、血液等の比較的非侵襲的に採取可能な体液試料を対象とするリキッドバイオプシーは、がん患者の負担を低減させつつリアルタイムの状態の把握を可能にする生検であるが、リキッドバイオプシーによって腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の検出を行うためには、検出精度をより充分に高める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/148557号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Schwarzenbach,et al.,Nature Review,2011,vol.11,p.426-437.
【文献】Misale,et al.,Nature,2012,vol.486(7404),p.532-536.
【文献】Diaz,et al.,Nature,2012,vol.486(7404),p.537-540.
【文献】Cohen, et al.,JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY,2008,vol.26(19),p.3213-3221.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腫瘍組織における腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の有無を、血液試料からより高精度に検出する方法、及び腫瘍状態の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、血漿や血清中のDNAではなく、末梢血単核細胞層(PBMC層)のDNAを供試試料とすることにより、被験者の腫瘍組織における腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異をより高精度に検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の第一態様に係る腫瘍状態の評価方法は、被験者について、腫瘍の発症若しくは再燃の有無を評価する腫瘍状態の評価方法であって、前記被者から採取された血液試料から回収された血漿又は血清中のcfDNAから、体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べ、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されていない場合に、当該被から採取された血液試料から回収された末梢血単核細胞層に含まれるDNAから、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べ、前記被験者が、過去に、腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異を有する原発巣に対して、腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けたことがあり、前記被験者の前記末梢血単核細胞層に含まれるDNAから前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出された場合に、前記被験者の腫瘍が再発又は新たな転移が生じている可能性が高いと評価し、前記末梢血単核細胞層に含まれるDNAからの前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出を、前記被者から採取された血液試料から末梢血単核細胞層を回収する回収工程と、前記末梢血単核細胞層に含まれるDNAから、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べる変異検出工程と、により行い、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出を、デジタルPCR法により行い、前記腫瘍マーカー遺伝子がKRAS遺伝子である。
上記第一態様において、前記被験者が、前記血液試料の採取時点において腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けているか、又は前記血液試料の採取時以前に腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けたことがあってもよい。
上記第一態様において、前記回収工程において、前記血液試料からの末梢血単核細胞層の回収を、Ficoll密度勾配遠心法により行ってもよい。
上記第一態様において、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出を、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法、次世代シーケンサー法、又は電気化学的検出方法により行ってもよい。
上記第一態様において、前記腫瘍が、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸直腸癌、大腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺癌、すい臓癌、膀胱癌、腎臓癌、黒色腫、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頚部癌、脳腫瘍、肝細胞癌、血液悪性腫瘍、又はこれらの癌を引き起こす前癌であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様に係る腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の検出方法により、がん患者の腫瘍組織における腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の有無を、比較的低侵襲な血液試料から高感度に検出することができる。このため、当該検出方法を利用した本発明の上記態様に係る腫瘍状態の評価方法により、がん患者の腫瘍状態、特に、腫瘍の再燃の可能性や、分子標的薬の奏功性について、生検等の侵襲的で負担の大きい検査を要することなく、比較的非侵襲的に精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において、患者AのPBMC中DNAのデジタルPCR結果(KRAS_G12V)、FAM:KRAS変異型(G12V)、VIC:KRAS野生型を示す図である。
図2】実施例1において、患者BのPBMC中DNAのデジタルPCR結果(KRAS_G12V)、FAM:KRAS変異型(G12V)、VIC:KRAS野生型を示す図である。
図3】実施例1において、患者CのPBMC中DNAのデジタルPCR結果(KRAS_G12V)、FAM:KRAS変異型(G12V)、VIC:KRAS野生型を示す図である。
図4】実施例1において、患者Aの血漿中のCEA及びCA19-9の濃度の経時的変化を示した図である。
図5】実施例1において、患者Bの血漿中のCEA及びCA19-9の濃度の経時的変化を示した図である。
図6】実施例1において、患者Cの血漿中のCEA及びCA19-9の濃度の経時的変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の検出方法>
本発明の一実施形態に係る腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の検出方法(以下、「本発明に係る検出方法」ということがある。)は、腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異を検出するための供試試料として、PBMC層のDNAを用いることを特徴とする。PBMC層のDNAを用いることによって、血清や血漿に含まれるDNAを用いる場合よりも、cfDNA中の腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異をより高感度に検出することができる。本実施形態に係る検出方法は、具体的には、被者から採取された血液試料からPBMC層を回収する回収工程と、回収されたPBMC層に含まれるDNAから、体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べる変異検出工程と、を有する。
【0014】
一般的に、cfDNA中の腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異を検出する際には、白血球由来の正常なDNA、つまり野生型遺伝子由来核酸の混入による変異型遺伝子由来核酸の検出感度の低下を防ぐため、血球成分を除いた血清又は血漿中のDNAから遺伝子変異を検出する。また、バフィーコート層は、CTCの検出等に供されているが、PBMC層と同様に血球成分を多く含むため、cfDNA中の腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の探索には用いられていない。同様に、PBMC層には、白血球成分などは除かれているものの、リンパ球などの単核球成分が多分に含まれているため、一般的な液体生検における遺伝子解析試料には、通常は選択されない。血球由来のDNAを多く含むPBMC層は体細胞変異の検出には適さないという従来の知見とは異なり、PBMC層のDNAを用いるほうが、血清や血漿のDNAを用いるよりも、体細胞変異をより高感度に検出できることは、本発明者らにおいて初めて見出された知見である。
【0015】
腫瘍マーカー遺伝子とは、腫瘍を発症している患者群(がん患者群)と、健常者群のような腫瘍を発症していない群とにおいて、腫瘍組織において発現量が顕著に異なる遺伝子である。本実施形態において用いられる腫瘍マーカー遺伝子は、がん患者群のほうが健常者群よりも発現量が少なくなる遺伝子であってもよいが、がん患者群のほうが健常者群よりも発現量が多くなる遺伝子が好ましい。なかでも、本実施形態において用いられる腫瘍マーカー遺伝子は、野生型と体細胞変異を起こした変異型とで、抗腫瘍治療において好ましい治療方法に相違があるために、がん患者の腫瘍組織の遺伝子型の鑑別が臨床上要求される腫瘍マーカー遺伝子が好ましい。このような腫瘍マーカー遺伝子としては、RAS遺伝子、EGFR遺伝子、BCR-ABL融合遺伝子、EML4-ALK融合遺伝子等が挙げられる。
本実施形態に係る検出方法においては、特にKRAS遺伝子の体細胞変異の検出をすることが好ましい。
【0016】
者から採取された血液試料からPBMC層を回収する方法は、特に限定されるものではなく、血液からPBMC層を分離するために使用されている公知の方法の中から適宜選択して用いることができる。血液からPBMC層を分離する方法としては、例えば、Ficoll密度勾配遠心法、「BD Vacutainer CPT細胞調製チューブ」(日本ベクトンディッキンソン社製)を用いる方法等が挙げられる。これらの方法は常法により行うことができる。なお、Ficollは、例えば、GEヘルスケアジャパン社製の試薬を利用することができる。Ficoll密度勾配遠心法では、血液試料にFicollを添加して遠心分離処理を行う。これにより、Ficoll層と血漿・血清層の間に挟まれるようにしてPBMC層が形成される。
【0017】
次いで、回収されたPBMC層に含まれるDNAを抽出し、このDNA中に体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸(体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子に由来する核酸)が含まれているかどうかを検出する。PBMC層からのDNAの抽出は、常法により行うことができる。また、PBMC層から抽出されたDNA中の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出や、検出された腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の遺伝子型の決定は、常法により行うことができる。なお、腫瘍マーカー遺伝子由来核酸とは、腫瘍マーカー遺伝子のゲノムDNAの全長若しくはその部分、又はこれらをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等によって人工的に増幅させた増幅産物等が挙げられる。
【0018】
腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出は、例えば、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法、次世代シーケンサー法、又は電気化学的検出方法等により行うことができる。電気化学的検出方法は、DNA測定において最も汎用性が高く簡便な方法である。
【0019】
本実施形態においてPBMC層から抽出されたDNA中の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出には、DNAの定量的検出を高感度に行える点から、リアルタイムPCR法やデジタルPCR法が好ましい。また、デジタルPCRと同様の理論により、次世代シーケンサーを用いたDNA量の定量方法も、腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出に利用することができる。但し、PBMC層中のDNAは、血清又は血漿中のDNAと同様に断片化がおきているおそれがあるため、PCR産物長が100~200bp程度、若しくは100bp以下になるようにプライマーを設計することが好ましい。
【0020】
例えば、PBMC層から抽出されたDNA中の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の存在やそのステイタス(遺伝子型)は、デジタルPCRを用いて検出することによって決定できる。特にデジタルPCRを用いて検出することによって決定できる。特にバイオラッド社のドロップレットデジタルPCR(ddPCR)の技術(Hindson,et.al.,Analytical Chemistry,2011,vol.83(22),pp. 8604-8610)やRainDance Technologies社のデジタルPCR装置「RainDrop Digital PCR System」を利用することにより、高感度に検出することができる。ドロップレットの数が多ければ多いほど、解析精度が高くなる。0.01%の突然変異を検出する性能を担保するためには、一つの突然変異を検出するために10,000ドロップレットが必要である。充分な検出感度を担保するために、PCRのマスターミックス中の界面活性剤濃度を規定することが好ましい。例えば、DNA伸長酵素などの保存液として用いられるエチレングリコール又はグリセロールは、終濃度で0.15%以下に、又はTriton-Xは、終濃度0.0003%以下であることが好ましい。当該界面活性剤が前記終濃度以上になると、エマルジョン数が激減し、高感度にPCR産物を検出することが困難になる。この場合、増幅する遺伝子箇所は、非遺伝子領域と遺伝子領域とのどちらでも任意の選択が可能である。
【0021】
また、PBMC層から抽出された核酸及び核酸断片を鋳型として用いるPCRにより、当該核酸中に含まれるであろう腫瘍マーカー遺伝子のアリルコピー数の絶対量を増加させた後、10コピー数程度に希釈してから、公知の突然変異検出方法を行うことも好ましい。さらに、当該方法を、前記のデジタルPCRと組み合わせてもよい。
【0022】
その他の方法としては、例えば、PBMC層から抽出された核酸を鋳型として用いるリアルタイムPCR等により、腫瘍マーカー遺伝子中の体細胞変異を含む領域のDNA断片を増幅し、得られた増幅産物に対して検出する目的の体細胞変異の遺伝子型に特異的にハイブリダイズ可能なプローブを接触させて会合体が形成されたか否かを高感度に検出する方法が挙げられる。
【0023】
前記プローブは、例えば放射性同位元素(H、32P、33P等)、蛍光剤(ローダミン、フルオレセン等)、又は発色剤で検出可能に標識される。また、当該プローブは、アンチセンスオリゴマー、例えばPNA、モルホリノ-ホスホロアミデート類、LNAであってもよい。なお、当該プローブの塩基長さは、約8ヌクレオチドから約100ヌクレオチド、好ましくは約10ヌクレオチドから約75ヌクレオチド、より好ましくは約15ヌクレオチドから約50ヌクレオチド、さらに好ましくは約20ヌクレオチドから約30ヌクレオチドである。
【0024】
PBMC層中の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の存在やそのステイタスは、インベーダー法(Michael Olivier, Mutation Research 573:103-110, 2005)を使用して分析することができる。インベーダー法とは、PCRなどによって調製された二本鎖DNA、あるいはmRNAに対して、部分的に三重塩基を形成するように、アレルプローブとインベーダーオリゴとがハイブリダイゼーションを行う。ここで、アレルプローブの5’末端の一部は、前記二本鎖DNAやmRNAと非相補的な配列(フラップ部)を有するように設計されているが、インベーダーオリゴは完全にそれらに対して相補的な配列を有している。2種のアレルプローブは、それぞれ野生型、変異型に対して相補的になるように設計されており、上記二本鎖DNAやmRNAに対し競合的にハイブリダイゼ-ションを行い、完全相補でハイブリダイゼーションした際に、フラップエンドヌクレアーゼが一部三重塩基になっている部分を認識し、アレルプローブのフラップ部が、同反応系に存在する自己相補型FRETカセットにハイブリダイゼーションする。この時に、前記の一部三重塩基になる部分が形成され、目的の突然変異をフラップエンドヌクレアーゼが切断し、FRETカセット内の蛍光修飾されたDNA断片が遊離して、FRET内の消光物質と乖離するために蛍光を発する。理論上、一度切断されたアレルプローブのフラップ部は、別のFRETカセットに再度ハイブリダイゼーションすることができ、シグナルが増幅される非常に高感度に突然変異を検出できる手法である。
【0025】
当該分野で知られているリガーゼ連鎖反応を、腫瘍マーカー遺伝子中の変異部位をコードする領域を含む断片を増幅させるために使用することができる(例えば、Wu,et.al.,Genomics,1989,vol.4,pp.560-569を参照。)。また、アレル特異的PCRとして知られている技術を使用することもできる(例えば、Ruano and Kidd,Nucleic Acids Research,1989,vol.17,pp.8392を参照。)。当該技術によれば、特定の腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異にその3’末端でハイブリダイズするプライマーが使用される。特定の体細胞変異が存在していない場合は、増幅産物は観察されない。また、Amplification Refractory Mutation System(ARMS)(例えば、Newton et.al.,Nucleic Acids Research,1989,vol.17,pp.7参照。)も使用することができる。
【0026】
PBMC層中の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出や、検出された腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の遺伝子型の決定には、遺伝子変異を検出する場合や、遺伝子の挿入及び欠失を検出する場合に使用されるその他の方法も利用することができる。当該方法としては、具体的には、例えば、サンガー法を基礎とするシークエンス解析法を利用し、PBMC層中の腫瘍マーカー遺伝子のゲノムDNA若しくはmRNA、又はこれらの増幅産物等の塩基配列を直接決定する方法が挙げられる。また、塩基配列の決定は、PCRを介して行うこともできる。その他、遺伝子又は周りのマーカー遺伝子に対する制限断片長多型(RFLP)プローブを、多型断片におけるアレルの改変又は挿入をスコア付けするために使用することができる。一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)解析もまた、アレルの塩基変化変異体を検出するために使用することができる(Orita et.al.,Proceedings of the National Academy of Sciences,USA,1989,vol.86,pp.2766-2770、及びGenomics,1989,vol.5,pp.874-879)。
【0027】
なお、PBMC層から抽出された核酸中の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸を検出するために使用される試薬をキット化することにより、本実施形態に係る検出方法をより簡便に行うことができる。当該キットには、PBMC層中の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出やその遺伝子型の決定方法についてのプロトコルが記載された書面や、Ficoll等の血液試料からPBMC層を回収するため試薬などが含まれていてもよい。
【0028】
本実施形態に係る検出方法に供される血液試料は、いずれの被験者から採取されたものであってもよいが、腫瘍の発症が疑われる被験者や、血液試料の採取時点又はそれ以前に、がんを発症している被験者、又はがんを発症していたと確定診断を受けた被験者から採取された血液試料であることが好ましい。なかでも、血液試料の採取時点において腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けている患者、又は血液試料の採取時以前に腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けたことがある患者であることがより好ましい。
【0029】
<腫瘍状態の評価方法>
本発明の一実施形態に係る腫瘍状態の評価方法(以下、「本発明に係る評価方法」ということがある。)は、本発明の上記実施形態に係る検出方法により、被者のPBMC層に含まれるDNAから、体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べ(検査工程)、その検出結果に基づいて、前記被験者について、腫瘍の発症若しくは再燃の有無、又は分子標的薬に対する感受性を評価する(評価工程)。
本実施形態に係る腫瘍状態の評価方法では、さらに、検査工程の前又は後に、血液試料から回収された血漿又は血清に含まれるDNAから前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べてもよい(血漿血清検出工程)。この場合、前記血液試料から回収された血漿又は血清に含まれるDNAからは、前記体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されなくてもよい。
本実施形態に係る腫瘍状態の評価方法では、さらに、検査工程の前又は後に、前記血液試料から末梢血循環がん細胞が検出されるか否かを調べてもよい(末梢血循環がん細胞検出工程)。この場合、前記血液試料から末梢血循環がん細胞が検出されなくてもよい。また、これらの工程は、検査工程と並行して行ってもよい。
【0030】
多くの腫瘍患者において、cfDNAに占める、腫瘍組織に由来する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の量は少ない。そのため、検出感度の点から、腫瘍組織の腫瘍マーカー遺伝子の遺伝子型が体細胞変異型であったとしても、血清や血漿中のDNAから体細胞変異型の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出できない場合が多い。これに対して、本実施形態に係る検出方法は、被験者の体内に存在している、腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異型である腫瘍組織を、低侵襲的に採取可能な血液から高感度に検出することができる。つまり、本発明の上記実施形態に係る検出方法の検出結果に基づいて、被験者の体内に、腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異型である腫瘍組織が存在している可能性を、高精度に評価することができる。後記実施例で示すように、腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異型である腫瘍組織を有するがん患者において、血漿中の核酸からは野生型の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸しか検出できない場合や、血中からCTCが検出されない場合であっても、PBMC層の核酸からは、当該腫瘍組織と同じ変異型の腫瘍マーカー遺伝子由来核酸を検出できる場合がある。
【0031】
例えば、被者のPBMC層に含まれる核酸に体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出された場合には、当該被験者の体内には、当該腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異型である腫瘍組織が存在している可能性が高い、と評価する。逆に、被者のPBMC層に含まれる核酸に体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されなかった場合には、当該被験者の体内には、当該腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異型である腫瘍組織が存在している可能性は低い、と評価できる。
【0032】
者が、過去にがんの確定診断を受けたことがない場合や、原発巣に対して腫瘍部分の外科的切除処置を受けていた場合には、体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出された場合に、腫瘍が発症した可能性が高いと評価できる。また、抗腫瘍療法により寛解していた被験者では、体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出された場合には、腫瘍が再燃、つまり、転移又は再発が生じている可能性が高いと評価できる。
【0033】
腫瘍切除後のがん患者においては、再発や転移が生じた場合には速やかに検出し適切な治療を施すことが重要である。このため、再発や転移の有無について、定期的に検査が行われる。この際、被者への侵襲性やコスト等の点から、臨床実務上、CT(コンピュータ断層撮影)を高頻度に使うことはあまりされておらず、CEAやCA-19などのごく一般的な腫瘍マーカーをモニタリングする方法が用いられている。しかし、これらの腫瘍マーカーは、腫瘍が存在していても異常値を示さない場合がある。また健常者や腫瘍以外の疾患への罹患によっても、しばしば基準値を超えてしまうことがあり、確度が低いという問題がある。
【0034】
これに対して、本実施形態に係る評価方法では、PBMC層に含まれる核酸から体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸の検出を行うため、CTに比較してがん患者に対する負担やコストが小さく、モニタリングに適している上に、検出感度に優れており、より確度の高い評価ができる。このため、本実施形態に係る評価方法は、特に、血液試料の採取時点において腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けている、又は血液試料の採取時以前に腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けたことがあるがん患者から採取された血液試料に対して行うことが好ましい。これらのがん患者から採取された血液試料に対して行うことにより、腫瘍の再発や転移の有無や、腫瘍組織における体細胞変異の導入の有無について、CEAやCA-19等の特定の腫瘍マーカーにのみ基づく場合よりも、比較的高い確度で信頼性の高い評価が期待できる。通常、がん治療においては、腫瘍マーカー検査のための採血が、月に1回程度の頻度で行われている。そこで、腫瘍マーカー検査の血液サンプルの残余分を使用して経時的に本実施形態に係る評価方法を行うことも可能である。
【0035】
本実施形態に供される血液試料が、腫瘍部分の外科的切除処置若しくは抗腫瘍療法を受けている被者、又は採血時以前に腫瘍部分の外科的切除処置若しくは抗腫瘍療法を受けたことがある被者から採取されたものである場合、被者の腫瘍の種類は特に限定されない。また、原発性腫瘍であってもよく、転移性腫瘍であってもよく、再発性腫瘍であってもよい。さらに、腫瘍が、被者の体内の複数個所に存在していてもよい。当該腫瘍には、脳、肝臓、腎臓、膀胱、乳房、胃、卵巣、結腸直腸、前立腺、膵臓、乳房、肺、外陰部、甲状腺、結腸直腸、食道、及び肝臓の癌、肉腫、膠芽細胞腫、頭頸部癌、白血病並びにリンパ性悪性疾患が含まれる。より詳細には、神経芽細胞腫、腸癌(例えば、直腸癌、大腸癌、家族性大腸ポリポーシス癌及び遺伝性非ポリポーシス大腸癌)、食道癌、口唇癌、喉頭癌、下咽頭癌、舌癌、唾液腺癌、胃癌、腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺動脈乳頭癌、腎臓癌、腎実質癌、卵巣癌、頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、絨毛癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌、尿管癌、メラノーマ、脳腫瘍(例えば、膠芽細胞腫、星状細胞腫、髄膜腫、髄芽細胞腫及び末梢神経外胚葉性腫瘍)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病骨(AML)、慢性髄性白血病(CML)、成人T細胞白血病、肝細胞癌、胆嚢癌、気管支癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、多発性骨髄腫、基底細胞腫、奇形腫、網膜芽細胞腫、脈絡膜メラノーマ、精上皮腫、横紋筋肉腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyngeoma)、骨肉腫、軟骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、ユーイング肉腫及び形質細胞腫が含まれ得る。本実施形態に供される血液試料が採取される被者の切除された腫瘍としては、転移性髄芽腫、消化管間質腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、結腸直腸癌、大腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、慢性骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病、甲状腺癌、すい臓癌、膀胱癌、腎臓癌、黒色腫、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頚部癌、脳腫瘍、肝細胞癌、血液悪性腫瘍、又はこれらの癌を引き起こす前癌が好ましく、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、肝細胞癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎臓癌、頭頸部癌、又は子宮頸癌がより好ましい。
【0036】
本実施形態に供される血液試料が、腫瘍部分の外科的切除処置若しくは抗腫瘍療法を受けている被者、又は採血時以前に腫瘍部分の外科的切除処置若しくは抗腫瘍療法を受けたことがある被者から採取されたものである場合、当該被験者が受けている抗腫瘍療法としては、特に限定されるものではない。具体的には、化学療法、放射線治療等が挙げられる。化学療法と放射線治療とを組み合わせてもよい。
【0037】
化学療法に使用される化学治療剤としては、特に限定されず、細胞毒性又は細胞分裂阻害性を有する化合物であり得る。具体的には、(i)代謝拮抗剤、例えばフルオロウラシル、カペシタビン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロ-2’-デオキシウリジン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、又はメトトレキセート;(ii)DNA断片化剤、例えば、ブレオマイシン;(iii)DNA架橋剤、例えば、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、又はナイトロジェンマスタード;(iv)インターカレート剤、例えばアドリアマイシン(ドキソルビシン)、又はミトキサントロン;(v)タンパク合成阻害剤、例えば、L-アスパラギナーゼ、シクロヘキシミド、ピューロマイシン、又はジフテリア毒素;(vi)トポイソメラーゼI毒、例えばカンプトセシン、又はトポテカン;(vii)トポイソメラーゼII毒、例えばエトポシド(VP-16)、又はテニポシド;(viii)微小管関連剤、例えばコルセミド、コルヒチン、パクリタキセル(paclitexel)、ビンブラスチン、又はビンクリスチン;(ix)キナーゼ阻害剤、例えば、フラボピリドール、スタウロスポリン、STI571(CPG57148B)、又はUCN-01(7-ヒドロキシスタウロスポリン);(x)様々な治験薬、例えばチオプラチン(thioplatin)、PS-341、フェニルブチレート、ET-18-OCH3、又はファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(L-739749、L-744832);ポリフェノール類、例えばケルセチン、レスベラトロール、ピセタノール、エピガロカテキン没食子酸塩、テアフラビン類、フラバノール類、プロシアニジン類、ベツリン酸及びその誘導体;(xi)ホルモン、例えばグルココルチコイド又はフェンレチニド;(xii)抗ホルモン、例えばタモキシフェン、フィナステライド、又はLHRHアンタゴニストが含まれる。また、フォリン酸(ロイコボリン)、オキサリプラチン、イリノテカン、ダウナルビシン、タキソテール、及びマイトマイシンCも含まれる。さらに、セツキシマブ、パニツムマブ、ベバシヅマブ、ゲフィニチブ、エルロチニブ、レゴラフェニブ、クリゾチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、エベロリムス、トラスツズマブ、ラパチニブ、及びリツキシマブ等の分子標的薬も含まれる。これらの化学療法剤のうち1種のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。本実施形態に係る評価方法において、血液試料を採取される被験者が採血時点又はそれ以前に化学療法を受けている場合、当該化学療法は、フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、カペシタビン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ、及びパニツムマブから選択される1種以上の化学療法剤による化学療法であることが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る評価方法においては、体細胞変異を検出する対象の腫瘍マーカー遺伝子を、腫瘍組織が野生型と体細胞変異を起こした変異型とのいずれであるかによって抗腫瘍治療において好ましい治療方法に相違があるために腫瘍組織の遺伝子型の鑑別が臨床上要求される遺伝子とすることが好ましく、RAS遺伝子、EGFR遺伝子、BCR-ABL融合遺伝子、又はEML4-ALK融合遺伝子とすることがより好ましく、KRAS遺伝子がとすることが特に好ましい。本実施形態に係る評価方法においては、さらに、これらの腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異の検出結果に基づいて、使用する腫瘍マーカー遺伝子がコードする腫瘍マーカーを標的とした分子標的薬に対する感受性を評価することが好ましい。
【0039】
例えばEGFR阻害剤の治療効果の予測因子としてKRAS遺伝子変異が用いられており、KRAS遺伝子が野生型の腫瘍組織を有するがん患者と、KRAS遺伝子が体細胞変異型の腫瘍組織を有するがん患者とでは、異なる種類の分子標的薬の投与が推奨されている。例えば、セツキシマブ(抗体225としてもまた公知である)等のEGFR阻害剤に対して、KRAS遺伝子が野生型である腫瘍組織は感受性であるが、KRAS遺伝子が体細胞変異型である腫瘍組織は非感受性である。このため、一般的に、セツキシマブはKRAS遺伝子が野生型であるがん患者に対して投与され、KRAS遺伝子が体細胞変異型であるがん患者に対しては、パニツムマブ等の他の分子標的薬が選択される。そこで、KRAS遺伝子を腫瘍マーカー遺伝子として本実施形態に係る評価方法を行い、被験者の体内の腫瘍組織のKRAS遺伝子の遺伝子型をより確度よく検出し、この検出結果に基づいて当該被験者の体内の腫瘍組織の、KRASを標的とする分子標的薬に対する感受性及び当該分子標的薬を投与した場合の奏効性を高精度に評価することができ、この評価結果によって、当該被験者に適した治療方法を選択できる。つまり、本実施形態に係る評価方法により得られる評価は、化学療法剤の治療効果の予測に臨床上非常に有用である。
【0040】
がんの不均一性から、原発巣に腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異が存在しても、転移巣に同一の変異があるとは限らない。実際に、大腸がんでは、原発巣と転移巣(肝臓)とにおけるKRAS遺伝子の変異一致率は約90%しかなく、10%の患者では、原発巣で使用していたセツキシマブに対し転移巣は非感受性であり、奏功しないことになる。このため、転移巣の腫瘍マーカー遺伝子の遺伝子型を迅速に検出し、当該検出結果に基づいて、被験者の腫瘍の再燃の有無や分子標的薬の感受性を評価することが重要である。
【0041】
また、腫瘍組織に腫瘍マーカー遺伝子の体細胞変異が生じることによって、分子標的薬に対する感受性が変化することがある。例えば、当初は野生型のKRAS遺伝子が発現している腫瘍組織であっても、体細胞変異が生じ、セツキシマブ等のEGFR阻害剤に対して耐性を獲得してしまう場合がある。そこで、耐性獲得後には速やかに他の分子標的薬への変更を行えるように、がん患者に対して本実施形態に係る評価方法を経時的に行い、腫瘍組織の遺伝子型を検出して、腫瘍マーカー遺伝子がコードする腫瘍マーカーを標的とする分子標的剤に対する耐性獲得の可能性をモニタリングすることも重要である。
【0042】
例えば、検査工程において、被者のPBMC層に含まれる核酸に体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出された場合には、当該被験者の体内にある腫瘍は、当該腫瘍マーカー遺伝子がコードする腫瘍マーカーを標的とする分子標的剤に対して非感受性である又は耐性を獲得した可能性が高いと評価する。逆に、被者のPBMC層に含まれる核酸に体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されなかった場合には、当該被験者の体内にある腫瘍は、当該腫瘍マーカー遺伝子がコードする腫瘍マーカーを標的とする分子標的剤に対して感受性である又は耐性を獲得していない可能性が高いと評価する。
【0043】
例えば、過去に、腫瘍マーカー遺伝子が体細胞変異を有する原発巣に対して、腫瘍部分の外科的切除処置又は抗腫瘍療法を受けたことがある被験者の場合、検査工程において、当該被験者のPBMC層に含まれるDNAから当該体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出された場合に、腫瘍が再発又は新たな転移が生じている可能性が高いと評価する。逆に、当該被験者のPBMC層に含まれるDNAから当該体細胞変異を有する腫瘍マーカー遺伝子由来核酸が検出されなかった場合に、当該被験者では腫瘍が再発又は新たな転移が生じている可能性が低いと評価する。
【実施例
【0044】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の試験は、日本医科大学付属病院内の倫理審査委員会で承認されており、全ての患者からは本研究を包含するインフォームドコンセントを得て行った。
【0045】
[実施例1]
3名の再発性大腸癌患者(患者A~C)のPBMC層の核酸から、体細胞変異型のKRAS遺伝子由来核酸が検出されるか否かを調べた。
【0046】
(臨床サンプル)
既に原発巣は切除されており、かつ新たに転移巣(肝臓)がある再発性大腸癌患者3名(患者A~C)の末梢血6~9mLを、転移巣の外科的切除手術の術前又は術後に採血した。患者Aの採血日は2015年7月29日、患者B、Cの採血日は2015年7月22日で、PBMC分離以降の遺伝子変異検出まで同日に行った。
【0047】
患者Aは、2014年5月23日に上行結腸癌、転移性肝腫瘍と診断され、2014年6月12日にmFOLFOX6化学療法(フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチン)を開始し、2014年7月19日~2015年10月23日に、FOLFOX化学療法(フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチン)とベバシズマブとの併用療法を行った。CTの結果、患者Aでは、採血日の前日である2015年7月28日には、肝転移巣における腫瘍組織の増大が確認された(図示せず。)。
【0048】
患者Bは、2009年11月4日に直腸癌(ステージIII)を外科的に切除する手術を受け、2009年11月30日~9月24日にmFOLFOX6化学療法(20コース)を受け、2010年10月27日からTS-1にPSKを併用する化学療法(内服)を開始した。2012年4月27日に多発肺転移が同定され、2012年6年27日~2014年3月30日にmFOLFOX6化学療法とベバシズマブ(隔週投与)との併用療法を行い、2014年5月14日~2015年12月29日にFOLFIRI化学療法を受け、2016年1月6日~5月29日にイリノテカンとTS-1の併用療法を受けた。CTの結果、患者Bでは、採血日以前の2015年5月27日には、SD(病状安定化)を保持していたが、2016年8月10日には、病状の進行が認められた。
【0049】
患者Cは、2011年1月18日に直腸癌に対して手術した。また、同時性肝転移に対して、FOLFOX化学療法とパニツムマブ(隔週投与)との併用療法を行った。その後、2012年5月2日に、肝転移に対して肝の部分切除手術を受け、2012年12月5日~2015年4月16日にはFOLFOX化学療法とセツキシマブ(隔週投与)との併用療法を行った。その後、セツキシマブに対する耐性を獲得してしまったため、2015年5月13日からは、FOLFIRI化学療法とベバシズマブの併用療法を行った。CTの結果、患者Cでは、2015年7月1日には、いずれもSD(病状安定化)を保持していた。
【0050】
(末梢血からのPBMCの分離)
再発性大腸癌患者(患者A~C)について、末梢血の一部からFicoll密度勾配遠心法によりPBMC層の分離を、以下の手順にて行った。全血試料をFicoll密度勾配遠心にかける方法は、単球細胞の分離に最もよく使用される方法である。
【0051】
具体的には、まず、採血管に全血試料を分取した後、クラスII安全キャビネット内で、PBSバッファーで全血を1:1に希釈した。次いで、Ficollを入れた50mL容プラスチックチューブを一定角度に固定し、希釈した全血試料をFicollの上に慎重に積層した。このチューブを20℃、833×g(2,125rpm)で 20分間遠心処理(Thermo Scientific Sorvall X1R を使用)した。この時、遠心分離機の加速は最大「9」にセットし、減速は「0」 (ブレーキ無し)で行った。遠心処理により、PBMCはFicoll層と血漿層の間に集められた。この積層状態を保持したまま、当該チューブを遠心分離機から取り外し、Ficoll層と血漿層の間にあるPBMC層を注意深く取り出し、新しい15mL容のプラスチックチューブへ分取した。この15mL容チューブにPBSバッファーを添加してPBMC層中の細胞を洗浄した後、当該15mL容チューブを遠心分離機にセットして425×g(1,518rpm)で10分間(加速・減速はそれぞれ9段階)遠心処理した。その後、上清を捨て、再度細胞をPBSバッファーで洗浄した後、上清を捨て、細胞を適当な量のPBSバッファーへ懸濁した。調製した懸濁液を調製PBMCsとした。
【0052】
(調製PBMCsからのDNAの精製)
得られた調製PBMCsからDNAを抽出・精製した。DNAの抽出・精製は、QIAamp(登録商標) DNA Mini(キアゲン社製)キットを用い、当該キットに付属のインストラクションに従って行った。
【0053】
また、調製PBMCsに含まれるDNA濃度を、市販のキット(製品名:Qubit2.0、Life Technologies社製)を用いて蛍光測定し、DNA濃度を算出した。
【0054】
(末梢血からの血漿の分離)
大腸癌患者3名(A~C)から採取した末梢血の一部を遠心分離処理(1,500rpm、10分間)した。得られた粗血漿成分をさらに遠心分離処理(1,500rpm、10分間)した後、細胞断片を除去した上清部を回収し、これを血漿試料とした。
【0055】
(血漿試料からのcfDNAの単離精製)
血漿からのcfDNAの単離精製は、QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit(キアゲン社製)を用いて、当該キットに付属されているインストラクションに従って行った。当該キットに供した調製血漿の量は1mLとし、スピンカラムからの最終溶出は、TE緩衝液50μLを用いて行った。
【0056】
(cfDNAの定量)
cfDNAの定量は、Qubit(登録商標) Fluorometer(Life Technologies社製)を用いて行った。測定するサンプルは全て、単離したDNAを所定の反応液で200倍に希釈して用いた。
【0057】
(デジタルPCRによるKRAS遺伝子変異の検出定量)
QUANTSTUDIO(登録商標) 3DデジタルPCRシステムにより、各患者の調製PBMCs及び血漿試料から抽出精製したDNA中のKRAS遺伝子の体細胞変異を検出した。検出には、FAM(登録商標)で標識したプローブをKRAS変異型(G12V)のアリルに特異的にハイブリダイズ可能なプローブとして用い、VIC(登録商標)で標識したプローブをKRAS野生型のアリルに特異的にハイブリダイズ可能なプローブとして用いた。また、図示はしないが、KRAS変異型(G12D)の検出も同様に行った。
【0058】
図1~3に、患者A~CのPBMCs中のDNAに対するデジタルPCR結果を示す。図中、縦軸がFAMの蛍光強度を、横軸がVICの蛍光強度を示す。
図中、丸で囲われた領域のドットが、KRAS遺伝子の体細胞変異の検出を示すドットである。
【0059】
(血漿中のCEA及びCA19-9の測定)
血漿中のCA19-9、CEAを、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)により測定した。CA19-9の基準値は、37U/mL以下、CEAの基準値は5.0ng/mL以下とした。
【0060】
図4~6に、患者A~Cの血漿中のCEA濃度及びCA19-9濃度の測定結果を示す。図中、右軸がCEA濃度(ng/mL)を、左軸がCA19-9濃度(U/mL)を示す。
【0061】
(CTCの個数の計測)
CTC濃縮回収装置(製品名:「ClearCell FX システム」、ClearBridge社製)を用い、患者A~Cの末梢血7.5mLを供し、CTCの個数を計測した。
【0062】
CTCは、患者A~Cの3名全員の末梢血からは、1個も検出できなかった。
【0063】
(FFPE切片からのDNAの単離精製)
患者A~Cの転移巣及び原発巣から採取した組織標本として、これらのホルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE切片)からもDNA単離を行った。FFPE切片からのDNA単離精製は、QIAamp DNA FFPE Tissue Kit(キアゲン社)を用いて、当該キットに付属されているインストラクションに従って行った。1サンプルにつき、10μmにスライスされたFFPE切片を3枚用い、これから抽出したDNAをTE緩衝液100μLに溶出した。
【0064】
(ダイレクトシークエンシング)
原発巣や転移巣の手術標本として上記FFPE切片から抽出したDNAに含まれるKRAS遺伝子由来核酸、並びに原発巣の外科的切除手術の術前又は術後に採取された血漿中のKRAS遺伝子由来核酸の塩基配列解析は、ダイレクトシークエンシングにて行った。より詳細には、KRAS遺伝子の塩基配列に特異的なプライマーを用い、ビッグダイターミネーター法によるサイクルシークエンシングを常法により行った。
【0065】
表1に、デジタルPCRによる、患者A~Cの調製PBMCsから抽出・精製されたDNA中のKRAS遺伝子の単位体積量当たりのコピー数及び体細胞変異の割合(%)を示す。患者A~CのPBMC層のDNAには、体細胞変異型のKRAS遺伝子由来核酸が検出された。PBMC層に含まれているKRAS遺伝子のコピー数や体細胞変異の割合は患者によって様々であった。QUANTSTUDIO(登録商標) 3D デジタルPCRシステムの検出可能限界は0.1%であるため、3症例ともに解析装置の検出範囲内であることから、がん患者のPBMC層からKRAS遺伝子変異が検出可能であることがわかった。
【0066】
【表1】
【0067】
また、各患者の原発巣と転移巣の組織切片から抽出したDNA中に含まれるKRAS遺伝子の遺伝子型と、血漿のDNA(cfDNA)及びPBMC層のDNAからの体細胞変異型のKRAS遺伝子由来核酸の検出結果を表2に示す。表2中、「WT」は、体細胞変異型のKRAS遺伝子由来核酸が検出されなかったことを意味し、「-」は転移巣の組織切片を取得せず、遺伝子型を調べなかったことを意味する。
【0068】
【表2】
【0069】
この結果、3症例全てにおいて、血漿中のDNA(cfDNA)では野生型のKRAS遺伝子しか検出されなかったのに対して、PBMC層のDNAではいずれも変異型のKRAS遺伝子が検出された。特に、転移巣の遺伝子型が確認できた患者Bにおいて、転移巣の2種類の変異型(G12D及びG12V)の両方が、PBMC層のDNAからも検出されており、PBMC層の核酸からは、転移巣と同じ体細胞変異型のKRAS遺伝子が検出できることが確認された。また、患者Cでは、転移巣が確認された時点ではセツキシマブを投与していたが、PBMC層のDNAから遺伝子型を測定した時点では、薬剤耐性が獲得されてしまったためにベバシズマブの投与に切り換えられていることから、PBMC層の遺伝子型と同様に、転移巣もG12Vの体細胞変異型である可能性が極めて高い。このため、患者Cの結果からも、PBMC層のDNAは、血漿中のDNAよりも、腫瘍組織の遺伝子型が反映されており、PBMC層のDNAを供試試料とすることによって、腫瘍組織の腫瘍マーカー遺伝子の遺伝子型をより高感度に検出できることが明らかである。患者Aの転移巣の遺伝子型は確認できていないが、PBMC層のDNA中から検出された体細胞変異は、原発巣と同じ遺伝子型(G12V)であったことから、転移巣の遺伝子型も、原発巣やPBMC層と同様にG12Vの変異型である可能性が高い。また、図4図6に示されるように、患者のCEA及びCA19-9の血中濃度が安定しない場合でも、本発明の腫瘍状態の評価方法によれば、腫瘍状態について安定した結果を得ることが可能であり、また腫瘍組織の腫瘍マーカー遺伝子の変異型をも特定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6