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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】注入装置
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/165 20060101AFI20230124BHJP
   F04B 15/02 20060101ALI20230124BHJP
   F04B 53/14 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
E04F21/165 M
E04F21/165 R
E04F21/165 H
F04B15/02 A
F04B53/14 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018221625
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020084612
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】清水 督史
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-003558(JP,A)
【文献】特開2018-172547(JP,A)
【文献】実開昭60-177256(JP,U)
【文献】特開平01-247770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/165
F04B 15/02
F04B 53/14
E04G 23/02
E04G 21/20
B05C 5/00
B65D 83/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントスラリーを対象物に注入するための注入装置であって、
シリンダー部に対し往復動するプランジャー部の、復動により吸込口から吸い込んだ前記セメントスラリーを往動により吐出口から吐出する往復ポンプ部を備え、
前記プランジャー部は、前記シリンダー部に対し非摺接状態で往復動するプランジャー本体と、軸方向に相互に離間して前記プランジャー本体に装着され、往復動に際し前記シリンダー部に摺接する2つの環状シール材と、を有し、
前記各環状シール材の径方向外周部は、往復動に際し、前記シリンダー部の内周面に付着した前記セメントスラリーを掻き出すように進む形状に形成され、
前記吸込口は前記シリンダー部の周面に形成され、且つ前記吐出口は前記シリンダー部の先端部に形成され、
先端側の前記環状シール材は、前記吸込口を含む領域において往復動し、基端側の前記環状シール材は、前記吸込口よりも基端側の領域において往復動することを特徴とする注入装置。
【請求項2】
前記各環状シール材は、断面方形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の注入装置。
【請求項3】
前記各環状シール材は、硬度ショアA45度~90度のゴム材で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の注入装置。
【請求項4】
前記プランジャー部は、前記プランジャー本体に設けられ、前記各環状シール材が装着される2つのシール装着部を、有し、
前記各シール装着部は、前記環状シール材を支持する装着軸部と、軸方向において前記環状シール材を挟持すると共に、摺動に伴う前記環状シール材の前記径方向外周部における軸方向の変形を許容する一対の装着挟持部と、を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の注入装置。
【請求項5】
前記プランジャー本体は、2つの前記シール装着部を境に別体で構成された、基端部プランジャー、中間部プランジャーおよび先端部プランジャーを含み、
前記中間部プランジャーは、基端側の前記環状シール材を装着した状態で前記基端部プランジャーにネジ止めされ、
前記先端部プランジャーは、先端側の前記環状シール材を装着した状態で前記中間部プランジャーにネジ止めされていることを特徴とする請求項4に記載の注入装置。
【請求項6】
前記シリンダー部は、前記吸込口が形成された内周面側の吸込口形成縁部が面取り形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の注入装置。
【請求項7】
前記シリンダー部は、前記プランジャー本体に対応するシリンダー本体と、前記シリンダー本体の基端から軸方向に延長された直動ガイド部と、を有し、
前記プランジャー部は、前記プランジャー本体の基端から軸方向に延長され、前記直動ガイド部に摺接する直動被ガイド部を、更に有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の注入装置。
【請求項8】
前記シリンダー本体の前記直動ガイド部側の基端部には、前記シリンダー本体の内部と外部とを連通する連通孔が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の注入装置。
【請求項9】
操作レバーを有し、前記操作レバーによる回動運動を前記プランジャー部の往復運動に変換するポンピング機構部を、更に備え、
前記ポンピング機構部は、レバー本体および前記レバー本体から延びるプランジャー作動部を含む前記操作レバーと、前記プランジャー作動部と前記直動被ガイド部とを回動自在に連結するガイドピンと、前記シリンダー部に設けられ、前記プランジャー作動部を先端部で回動自在に支持する支持片と、を有し、
前記プランジャー作動部は、前記ガイドピンを両持ちで且つ延在方向にスライド自在に支持していることを特徴とする請求項7または8に記載の注入装置。
【請求項10】
操作レバーと、前記操作レバーによる回動運動を前記プランジャー部の往復運動に変換するポンピング機構部と、を更に備え、
前記ポンピング機構部は、前記プランジャー部との連結部を前記プランジャー部と同軸上において往復運動させる直線運動機構で構成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に生じた浮きやひび割れ等の対象物に対し、セメントスラリーを注入するための注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の注入装置として、エポキシ樹脂をコンクリートクラック等に注入する補強用注入材・充填材の混合注出装置が知られている(特許文献1参照)。
この混合注出装置は、フレームにそれぞれ支持した主剤タンクおよび硬化剤タンクと、主剤タンクにサクション側ホースを介して接続された主剤側のピストンポンプと、硬化剤にサクション側ホースを介して接続された硬化剤側のピストンポンプと、両ピストンポンプを同時に作動させる操作レバーと、一対の送出ホースを介して両ピストンポンプのデリベリー側に接続された混合部付きのノズルと、を備えている。両ピストンポンプは、それぞれ下端部をフレームに傾斜自在に取り付けられ、上端部でロッド連結ポイントを介して操作レバーに連結されている。また、操作レバーの先端部は、連結ピンを介してフレームにヒンジ連結されている。
連結ピンを中心に操作レバーを上下作動させ、各ピストンポンプのシリンダーに対しピストンを往復動させると、それぞれの送出ホースを介して主剤および硬化剤が混合部に供給され、ここで混合されてノズルから吐出される。
【0003】
一方、特許文献1の「従来の技術」の欄には、エポキシ樹脂と硬化剤の混合物を注入する装置として、グリースポンプが用いられることが記載されている。そして、この種のグリースポンプの具体的な例として、レバー式グリースガンが知られている(特許文献2参照)。特許文献2の「従来の技術」の欄には、図4と共に典型的なレバー式グリースガンが記載されている。
このレバー式グリースガンは、注入物のチューブを収容する外筒と、外筒に取り付けられ、シリンダー室およびプランジャーを有するキャップと、キャップに取り付けられた注油口金と、キャップに揺動可能に取り付けられたリンクと、プランジャーおよびリンクにそれぞれ揺動可能に取り付けられたレバーと、を備えている。そして、キャップのシリンダー室とチューブ接続口とが連通し、且つシリンダー室と注油口金接続口とが連通している。また、注油口金接続口側の流路には、逆止弁が介設されている。
レバーを操作してプランジャーを引くと、チューブ内の注入物がシリンダー室に吸引され、続いてプランジャーを押すと、シリンダー室の注入物がチューブ接続口を介して注油口金から吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-28913号公報
【文献】実用新案登録第3046945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、従来の混合注出装置やレバー式グリースガンでは、プランジャー(ピストン)がシリンダー内を往復動することで、注入物のポンプ作用が為される。一方、プランジャーの往復動は、レバー(操作レバー)の回動操作により行われる。このため、レバーを含むリンク機構により、レバー操作による回動運動がプランジャーの往復直線運動に変換される。このリンク機構において、特許文献1ではピストンポンプ(シリンダー)がフレームに対し傾動し、特許文献2ではレバーに連結されたリンクがキャップに対し揺動する。このため、往復直線運動するプランジャーには、レバーとの接点において、シリンダーの傾動時の摩擦やリンクの回動時の摩擦により、往復動方向に直交する方向に運動変換に伴う微小な力が作用する。すなわち、往復直線運動するプランジャーは、シリンダー内において、往復動に同期するように微小に揺動することになる。
例えば、特許文献2におけるこの微小な揺動は、レバーを引く動作では、復動するプランジャーの先端をシリンダーの後壁に押し付けるように作用し、レバーを押す動作では、往動するプランジャーの先端をシリンダーの前壁に押し付けるように作用する。注入物がエポキシ樹脂の場合には、プランジャーとシリンダーとの間に入り込んだエポキシ樹脂が潤滑剤として機能し、シリンダーの往復動(摺動)が円滑に行われる。しかし、後述するように、注入物がセメントスラリーの場合には、シリンダーの往復動(摺動)が円滑に行われなくなる問題がある。
セメントスラリーは、微粒子のセメントに水を混合したものであり、親水性があり、また硬化後は、熱膨張係数、強度、弾性係数等においてコンクリートと同等であり、しかも火災に強いため、エポキシ樹脂に対し優位性を有している。
注入物がセメントスラリーの場合には、微小な揺動に合わせてプランジャーとシリンダーとの間(特に、狭くなる先端部と基端部)にセメントスラリーの微粒子が噛み込む形となり、シリンダーの往復動(摺動)が円滑に行われなくなる問題があった。すなわち、従来の往復ポンプ機構によりセメントスラリーを注入しようとすると、数度のポンピング(操作レバー回動操作)からレバー操作が徐々に重くなり、最終的にレバー操作が不可能となってしまう問題があった。そして、このことが、道路や橋梁等の大規模な補修工事を除き、セメントスラリーがほとんど用いられない主たる原因となっていた。
【0006】
本発明は、注入物がセメントスラリーであっても、ポンピングの円滑さが損なわれることのない注入装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の注入装置は、セメントスラリーを対象物に注入するための注入装置であって、シリンダー部に対し往復動するプランジャー部の、復動により吸込口から吸い込んだセメントスラリーを往動により吐出口から吐出する往復ポンプ部を備え、プランジャー部は、シリンダー部に対し非摺接状態で往復動するプランジャー本体と、軸方向に相互に離間してプランジャー本体に装着され、往復動に際しシリンダー部に摺接する2つの環状シール材と、を有し、各環状シール材の径方向外周部は、往復動に際し、シリンダー部の内周面に付着したセメントスラリーを掻き出すように進む形状に形成され、吸込口はシリンダー部の周面に形成され、且つ吐出口はシリンダー部の先端部に形成され、先端側の環状シール材は、吸込口を含む領域において往復動し、基端側の環状シール材は、吸込口よりも基端側の領域において往復動することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、シリンダー部に対し往復動するプランジャー部は、シリンダー部に対し、プランジャー本体が非摺接状態となる一方、プランジャー本体に装着した2つの環状シール材が摺接状態となる。そして、一対の環状シール材が復動することで、吸込口からシリンダー部内にセメントスラリーが吸い込まれ(流入)、往動することで、シリンダー部内のセメントスラリーが吐出口から吐出される(流出)。この場合、各環状シール材の径方向外周部は、往復動に際し、シリンダー部の内周面に付着したセメントスラリーを掻き出すように進む形状に形成されている。このため、往復動する各環状シール材とシリンダー部の内周面との間において、セメントスラリー(微粒子)の噛み込みが抑制される。したがって、プランジャー部を往復動させるポンピングにおいて、摺動抵抗が低減され、ポンピングの円滑さが損なわれることがない。
また、先端側の環状シール材により、ポンプとしての機能が発揮される。さらに、基端側の環状シール材により、非摺接状態となるプランジャー部とシリンダー部との基端側の間隙に対し、セメントスラリーの侵入が抑制される。これにより、ポンプ機能を損なうことなく、シリンダー部とプランジャー部との間の摺動抵抗を低減させることができる。
なお、「掻き出すように進む形状」とは、例えばシリンダー部の内周面に接触し状態(単なる接触)の環状シール材において、その径方向外周部の角部が断面直角或いは断面鋭角となる形状である。また、吸込口および吐出口は、シリンダー部の周面および先端部にそれぞれ設けられるものであってもよいし、シリンダー部の二股の先端部に逆止弁付きでそれぞれ設けられるものであってもよい。
【0009】
この場合、各環状シール材は、断面方形に形成されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、径方向外周部がセメントスラリーを掻き出す形状の環状シール材を、簡単に作製することができる。なお、各環状シール材は、断面長方形であってもよいし、断面正方形であってもよい。
【0011】
また、各環状シール材は、硬度ショアA45度~90度のゴム材で構成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、環状シール材は適度な弾力性と硬度を有することとなる。このため、往復動時の摺動抵抗により、環状シール材(径方向外周部)が極端に変形することがなく、往復動に際し、セメントスラリーを掻き出すように進む形状を適切に維持することができる。
【0013】
また、プランジャー部は、プランジャー本体に設けられ、各環状シール材が装着される2つのシール装着部を、有し、各シール装着部は、環状シール材を支持する装着軸部と、軸方向において環状シール材を挟持すると共に、摺動に伴う環状シール材の径方向外周部における軸方向の変形を許容する一対の装着挟持部と、を含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、シール装着部に装着した(保持した)環状シール材の径方向外周部を、摺動抵抗に応じて適宜変形させることができる。これにより、環状シール材の摺動抵抗を低減することができると共に、環状シール材のシール装着部からの脱落を防止することができる。
【0015】
この場合、プランジャー本体は、2つのシール装着部を境に別体で構成された、基端部プランジャー、中間部プランジャーおよび先端部プランジャーを含み、中間部プランジャーは、基端側の環状シール材を装着した状態で基端部プランジャーにネジ止めされ、先端部プランジャーは、先端側の環状シール材を装着した状態で中間部プランジャーにネジ止めされていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、各環状シール材が硬質のものであっても、これをプランジャー本体に適切に装着することができる。また、摺動抵抗による環状シール材のシール装着部から脱落を防止し得る形態で、環状シール材をプランジャー本体に装着することができる。
なお、基端側の環状シール材を挟持する一対の装着挟持部は、一方が基端部プランジャーに他方が中間部プランジャーに形成され、先端側の環状シール材を挟持する一対の装着挟持部は、一方が中間部プランジャーに他方が先端部プランジャーに形成されていることが好ましい。また、基端側の環状シール材を支持する装着軸部は、基端部プランジャーおよび中間部プランジャーのいずれか一方に形成され、先端側の環状シール材を支持する装着軸部は、中間部プランジャーおよび先端部プランジャーのいずれか一方に形成されていることが好ましい。
【0019】
この場合、シリンダー部は、吸込口が形成された内周面側の吸込口形成縁部が面取り形状に形成されていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、往復動する環状シール材(先端側)が吸込口にさしかかったときに、吸引口形成縁部の面取り形状により、環状シール材の吸込口への引っ掛かりが抑制される。これにより、先端側の環状シール材の損傷が抑制されると共に、ポンピングの円滑さが損なわれることがない。
【0021】
一方、シリンダー部は、プランジャー本体に対応するシリンダー本体と、シリンダー本体の基端から軸方向に延長された直動ガイド部と、を有し、プランジャー部は、プランジャー本体の基端から軸方向に延長され、直動ガイド部に摺接する直動被ガイド部を、更に有していることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、シリンダー部に対するプランジャー部の往復動に際し、プランジャー部の直動被ガイド部がシリンダー部の直動ガイド部によりガイドされるため、シリンダー本体に対するプランジャー本体の直進性が精度良く維持される。これにより、ポンピンクにおいて、シリンダー本体内におけるプランジャー本体の微小な揺動(ブレ)が抑制される。したがって、シリンダー本体と環状シール材との間において、セメントスラリー(微粒子)の噛み込みが抑制され、この点でも、ポンピングの円滑さが損なわれることがない。
【0023】
この場合、シリンダー本体の直動ガイド部側の基端部には、シリンダー本体の内部と外部とを連通する連通孔が設けられていることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、基端側の環状シール材からセメントスラリーが漏れても、これを連通孔からシリンダー本体の外部に排出することができ、直動ガイド部と直動被ガイド部との間隙にセメントスラリーが侵入するのを抑制することができる。
また、プランジャー本体と共に基端側の環状シール材が往動すると、連通孔を介してシリンダー本体にエアーが流入し、復動すると、連通孔を介してシリンダー本体からエアーが流出する。すなわち、連通孔が通気口として機能する。このため、環状シール材を設けることによるプランジャー本体の無駄な往復動負荷を軽減することができる。
【0025】
また、操作レバーを有し、操作レバーによる回動運動をプランジャー部の往復運動に変換するポンピング機構部を、更に備え、ポンピング機構部は、レバー本体およびレバー本体から延びるプランジャー作動部を含む前記操作レバーと、プランジャー作動部と直動被ガイド部とを回動自在に連結するガイドピンと、シリンダー部に設けられ、プランジャー作動部を先端部で回動自在に支持する支持片と、を有し、プランジャー作動部は、ガイドピンを両持ちで且つ延在方向にスライド自在に支持していることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、レバー本体を押し引き(回動)させると、ガイドピンは、プランジャー作動部に対し相対的にスライドしながら往復動する。一方、ガイドピンによりプランジャー作動部と回動自在に連結された直動被ガイド部は、直動ガイド部に案内されて往復動する。このように、簡単な構造で、操作レバーの回動運動をプランジャー部の往復直線運動に変換することができる。また、このポンピング機構部と直動ガイド部および直動被ガイド部との協働により、プランジャー部の直進性を維持することができる。
【0027】
また、操作レバーと、操作レバーによる回動運動をプランジャー部の往復運動に変換するポンピング機構部と、を更に備え、ポンピング機構部は、プランジャー部との連結部をプランジャー部と同軸上において往復運動させる直線運動機構で構成されていることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、ポンピング機構部が、プランジャー部との連結部をプランジャー部と同軸上において往復運動させる直線運動機構で構成されているため、上記の直動ガイド部や直動被ガイド部が無くても、操作レバーの往復回動運動を、プランジャー部の往復直線運動に効率良く且つ精度良く変換することができる。したがって、シリンダー部に対するプランジャー部の直進性が精度良く担保される。すなわち、往復動する2つの環状シール材は、ブレを生ずることなく直進する。このため、摺動時の各環状シール材の形状が安定し、各環状シール材とシリンダー部の内周面との間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態に係る注入装置の側面視外観図である。
図2】注入装置の要部の構造図である。
図3】注入装置の要部の平面図である。
図4】往復ポンプ部におけるシリンダー部の分解図(a)、およびプランジャー部の分解図(b)である。
図5】環状シール材廻りの拡大図であって、非往復動時の図(a)、往動時の図(b)および復動時の図(c)である。
図6】第1変形例に係る環状シール材廻り拡大図(a)、および第2変形例に係る環状シール材廻り拡大図(b)である。
図7】第2実施形態に係る注入装置のポンピング機構部の構造図である。
図8】第2実施形態の変形例に係る注入装置のポンピング機構部の構造図である。
図9】第3実施形態に係る注入装置のポンピング機構部の模式図である。
図10】第4実施形態に係る注入装置のポンピング機構部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る注入装置について説明する。この注入装置は、コンクリート構造物の「浮き」や「ひび割れ」等の対象物に、セメントスラリーを注入するためのものである。実際の施工では、この注入装置に、対象物(施工方法)別の注入ノズルを接続して用いられる。なお、セメントスラリーは、微粒子(超微粒子)のセメントと水とを混合したものであり、厳密には「ポリマーセメントスラリー」と称呼される。そして、「浮き」用のセメントスラリーは、液だれを考慮して粘性の高いものが用いられ、「ひび割れ」用のセメントスラリーは、浸透性を考慮して粘性の低いものが用いられる。
【0031】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る注入装置の側面視外観図であり、図2および図3は、それぞれ注入装置における要部の構造図および平面図である。これらの図に示すように、この注入装置10は、手動式のものであり、セメントスラリーを加圧状態で貯留するスラリー貯留部11と、スラリー貯留部11が着脱自在に装着される往復ポンプ部12と、往復ポンプ部12を作動させるための操作レバー14を有するポンピング機構部13と、を備えている。
【0032】
また、往復ポンプ部12は、吸込口22および吐出口23を含むシリンダー部21と、シリンダー部21に対し往復動するプランジャー部24と、吐出口23に組み込んだ逆止弁25と、を有している(図2参照)。操作レバー14は、先端側でシリンダー部21に回動自在に支持されると共に、プランジャー部24に連結されており、操作レバー14を手動で押し引き(ポンピング)することで、プランジャー部24を往復動させ、ポンプ作用を奏する。
【0033】
具体的には、プランジャー部24が復動すると、吸込口22を介してセメントスラリーがスラリー貯留部11からシリンダー部21に流入する(吸込)。続いて、プランジャー部24が往動すると、吸込口22が閉じ、その後シリンダー部21のセメントスラリーが吐出口23から流出する(吐出)。これを繰り返すことで、スラリー貯留部11のセメントスラリーが、往復ポンプ部12から吐出される。なお、本実施形態は、スラリー貯留部11においてセメントスラリーを加圧するタイプのものとしたが、加圧しない例えばチューブタイプのものであってもよい。
【0034】
シリンダー部21の吐出口23には、逆止弁25を介して、対象物に応じた専用の注入ノズルNが着脱可能に接続されるようになっている(図1参照)。ポンピングを繰り返すことにより、セメントスラリーが、往復ポンプ部12を介して注入ノズルNから吐出され、対象物に注入される。この場合の対象物は、コンクリート構造物の外壁等であり、注入装置10(手動式)は、例えばコンクリート打放し仕上げ、モルタル塗り仕上げ、タイル張り仕上げ等における、ひび割れ改修工法、欠損部改修工法、浮き改修工法(ピンニング工法、充填工法)等に、共通して用いられる。また、あと施工アンカー等において、下穴のエポキシ樹脂に代えてセメントスラリーを注入する場合にも用いられる。
【0035】
スラリー貯留部11は、前側の太径筒部32と後側の細径筒部33とで一体に形成された筒体31と、筒体31内に組み込まれ、セメントスラリーを加圧する加圧機構部34と、を有している。セメントスラリーは、太径筒部32に貯留され、加圧機構部34は、太径筒部32の後端部から細径筒部33に亘って内蔵されている。加圧機構部34は、細径筒部33から突出したハンドル36と、ハンドル36から延びるロッド37と、ロッド37の先端に取り付けたわん型パッキン38と、わん型パッキン38を前方に付勢する圧縮バネ39と、を有している。
【0036】
太径筒部32の前端は開放されており、これに形成したリング状雄ネジ41により、往復ポンプ部12にネジ接合されている。詳細は後述するが、往復ポンプ部12のシリンダー部21には、太径筒部32の軸心に位置して吸込口22が形成されており、この吸込口22を介して太径筒部32(の内部)とシリンダー部21(の内部)とが連通している(いずれも図2参照)。また、圧縮バネ39は、太径筒部32の内部において、わん型パッキン38と太径筒部32の内部後端との間に配設されている。圧縮バネ39に抗してハンドル36を後方に引くと、わん型パッキン38が後退し、続いてハンドル36を離すと、圧縮バネ39によりわん型パッキン38が前進する。
【0037】
細径筒部33には、軸方向に延びるストレート開口43と、ストレート開口43の後端に直角に連なるクランク開口44とが形成されており、このストレート開口43およびクランク開口44から、ハンドル36が操作可能に突出している(図1参照)。ストレート開口43に臨むハンドル36を、圧縮バネ39に抗して後方に引き回動させてクランク開口44に掛止めすることにより、わん型パッキン38が最後端位置に移動する。この状態でスラリー貯留部11を往復ポンプ部12から外すことで、太径筒部32へのセメントスラリーの充填が可能となる。
【0038】
セメントスラリーを充填したら、スラリー貯留部11を往復ポンプ部12に装着する。続いて、ハンドル36をクランク開口44からストレート開口43に移動させ、圧縮バネ39によりわん型パッキン38を介して、貯留されているセメントスラリーに圧力を加えた状態とする。ポンピングにより、スラリー貯留部11のセメントスラリーが消費されてゆくと、その消費量分、圧縮バネ39によりわん型パッキン38が徐々に前進する。
【0039】
図2図3および図4に示すように、往復ポンプ部12は、吸込口22を介してスラリー貯留部11と連通するシリンダー部21と、シリンダー部21に対し往復動するプランジャー部24と、シリンダー部21の吐出口23に組み込んだ逆止弁25と、シリンダー部21の背面側(スラリー貯留部11側)に設けた筒体接合部26と、を備えている。筒体接合部26は、スラリー貯留部11(太径筒部32)の蓋体を兼ねるものであり、円形の蓋板部46と、蓋板部46の縁端から突出するリング状の接合部47と、で一体に形成されている。
【0040】
蓋板部46に中心部には、シリンダー部21の吸込口22に連なる円孔48が形成されている。また、接合部47には、上記の太径筒部32のリング状雄ネジ41に螺合するリング状雌ネジ49が形成されている。これにより、スラリー貯留部11は、往復ポンプ部12に相互に着脱自在に装着される。往復ポンプ部12にスラリー貯留部11を装着すると、円孔48および吸込口22を介して、シリンダー部21とスラリー貯留部11とが連通する。
【0041】
シリンダー部21は、シリンダーとして機能する内側が断面円形に形成され、外側が断面略方形に形成されている。筒体接合部26に対しシリンダー部21は、筒体接合部26の径方向に延在し、溶着等により筒体接合部26に一体的に固着されている。また、シリンダー部21は、吸込口22が形成されたシリンダー本体51と、シリンダー本体51から操作レバー14側に延びる直動ガイド部52と、を有している。シリンダー本体51は、筒体接合部26に対応する位置に配設される一方、直動ガイド部52は、操作レバー14を越えて延在している。なお、言うまでもないが、シリンダー本体51と直動ガイド部52とは、同軸上に配設されている。
【0042】
シリンダー本体51と直動ガイド部52とは、一体に形成されており、シリンダー本体51は、後述するプランジャー部24のプランジャー本体71に対応し、直動ガイド部52は、後述するプランジャー部24の直動被ガイド部72に対応している。すなわち、シリンダー本体51は、往復動するプランジャー本体71と協働して実質上のポンプとして機能する一方、直動ガイド部52は、直動被ガイド部72(プランジャー部24)の往復動をガイドし、プランジャー本体71の直進性を担保している。
【0043】
詳細は後述するが、外径において、プランジャー本体71と直動被ガイド部72とは、同径に形成されている。これに対し、内径において、シリンダー本体51は、直動ガイド部52よりも太径に形成されている。なお、シリンダー本体51と直動ガイド部52とが同径に形成される一方、直動被ガイド部72よりもプランジャー本体71が細径に形成されていてもよい。すなわち、直動ガイド部52と直動被ガイド部72との間隙(嵌め合い)は狭く、直動被ガイド部72を精度良くガイドできる(がたつきがない)寸法となっている。一方、シリンダー本体51とプランジャー本体71との間隙(嵌め合い)は広く、シリンダー本体51とプランジャー本体71との間にセメントスラリーの微粒子が噛み込まない寸法となっている。
【0044】
言い換えれば、往復動に際し、直動ガイド部52に対し直動被ガイド部72が(潤滑油を介して)摺接し、プランジャー本体71の直進性が担保されている。一方、往復動に際し、シリンダー本体51に対しプランジャー本体71は摺接することはなく、これに代えて後述する2つの環状シール材73A,73Bが摺接し、ポンプ機能を奏する。
【0045】
また、環状シール材73Bが摺接するシリンダー本体51の内周面において、吸込口22が臨む内周面部分が面取り形状に形成されている。すなわち、シリンダー本体51の内周面側において、吸込口22が形成された吸込口形成縁部55が、環状に面取りされている。これにより、往復動する(先端側の)環状シール材73Bは、この面取り形状により吸込口22への引っ掛かりが抑制される。したがって、環状シール材73Bの損傷が抑制されると共に、ポンピングの円滑さが損なわれることがない。
【0046】
また、シリンダー本体51の直動ガイド部52側の基端部には、三方に位置して、シリンダー本体51の内部と外部とを連通する3つの連通孔57が設けられている(図2および図4(b)参照)。プランジャー本体71の基部側には環状シール材73Aが設けられており、この環状シール材73Aから直動ガイド部52側にセメントスラリーが漏れても、これを適宜連通孔57からシリンダー本体51の外部に排出できるようになっている。また、連通孔57は、往動動する環状シール材73Aにより拡大・縮小するシリンダー本体51の内部空間の通気口としても機能している。
【0047】
すなわち、シリンダー本体51に3つの連通孔57を設けることにより、直動ガイド部52と直動被ガイド部72との間隙にセメントスラリーが侵入するのを防止することができ、直動ガイド部52に対する直動被ガイド部72の円滑な往復動(ガイド)を可能にしている。また、シリンダー本体51の内部空間を通気することにより、シリンダー本体51に対するプランジャー本体71の円滑な往復動を可能にしている。なお、連通孔57の数は、1以上であれば任意である。
【0048】
上述のように、直動ガイド部52は操作レバー14を越えて延在しており、後述するように、二股形状の操作レバー14は、直動ガイド部52の中間部を挟むように配設されている。そして、詳細は後述するが、操作レバー14と直動被ガイド部72との連結部は、直動被ガイド部72を軸方向に直交する方向に貫通するガイドピン74で構成されている。このため、直動ガイド部52には、ガイドピン74がスライド自在に係合すると共に軸方向に延びる一対の長孔58が形成されている。
【0049】
直動ガイド部52にガイドされて往復動する直動被ガイド部72は、ガイドピン74を介して操作レバー14により作動する。このため、直動被ガイド部72から両側に突出したガイドピン74は、直動ガイド部52に形成された一対の長孔58に沿って往復動する。これにより、操作レバー14を、直動ガイド部52の中間部に配設することが可能となっている。
【0050】
図2および図4(b)に示すように、シリンダー部21(シリンダー本体51)の吐出口23には、接続アタッチメントを兼ねる逆止弁25が取り付けられている。逆止弁25の外周部には、シリンダー本体51に接続されるシリンダー側雄ネジ部61aと、注入ノズルNに接続されるノズル側雄ネジ部61bと、これらの中間に位置する六角の工具掛け部61cと、が形成されている。上述のように、注入ノズルNは、対象物に応じて複数種のものが用意されており、本実施形態では、これら複数種の注入ノズルNを接続できるように、ノズル側雄ネジ部61bが異なる複数種の逆止弁25が用意されている。なお、図1に示した注入ノズルNは、ピンニング工法用(「浮き」用)のものである。
【0051】
逆止弁25の内部には、シリンダー本体51に連なる吐出流路63が形成されている。吐出流路63には、逆止弁25の弁体を構成する球体64と、球体64を付勢するコイルバネ65と、コイルバネ65を受けるリングネジ66と、を有している。また、吐出流路63の吸込口22側には、逆止弁25の弁座を構成する狭小部63aが形成されている。リングネジ66は、コイルバネ65を圧縮するようにノズル側雄ネジ部61bの内側に螺合している。
【0052】
リングネジ66により圧縮されたコイルバネ65は球体64を付勢し、球体64は狭小部63aに密接される。これにより、逆止弁25は閉弁(閉塞)される。一方、プランジャー部24が往動し、シリンダー部21内の圧力が高まると、コイルバネ65に抗して球体64が狭小部63aから離れる。これにより、逆止弁25は開弁(開放)され、シリンダー部21内のセメントスラリーが、吐出流路63を介してシリンダー部21から吐出される。
【0053】
このように、逆止弁25は、プランジャー部24の往動時以外は吐出流路63を閉塞している。これにより、注入ノズルNからのセメントスラリーの液だれが防止される。
【0054】
一方、シリンダー部21の基部側には、直動ガイド部52から前方に延びる板状の支持片68が設けられている(図2および図3参照)。詳細は後述するが、支持片68はポンピング機構部13の一部を構成しており、先端部で操作レバー14を回動自在に支持し、基端部で直動ガイド部52(シリンダー部21)の側面(前面)に溶着等により取り付けられている。この支持片68により、操作レバー14の回動支点の位置と、操作レバー14と直動被ガイド部72(プランジャー部24)との連結点の位置との離間距離、言い換えれば操作レバー14の操作角度と、プランジャー部24の往復動ストロークとが規制されるようになっている。
【0055】
図2図3および図4(a)に示すように、プランジャー部24は、シリンダー本体51に対し往復動するプランジャー本体71と、直動ガイド部52に対し往復動する直動被ガイド部72と、プランジャー本体71に取り付けられた2つの環状シール材73A,73Bと、を備えている。2つの環状シール材73A,73Bは、軸方向において相互に離間して配設されており、先端側の環状シール材73Bは、吸込口22を含む領域において往復動し、基端側の環状シール材73Aは、吸込口22よりも基端側の領域において往復動する。なお、言うまでもないが、プランジャー本体71と直動被ガイド部72とは、同軸上に配設されている。
【0056】
上述のように、直動ガイド部52は、操作レバー14を越えて延在しており、直動ガイド部52に対応する直動被ガイド部72も、操作レバー14を越えて延在している。そして、直動被ガイド部72の中間部には、操作レバー14との連結部を構成するガイドピン74が取り付けられている。すなわち、直動被ガイド部72の中間部には、軸方向に直交するガイドピン74用の貫通孔75が形成されている。
【0057】
プランジャー本体71の先端部および基端部には、軸方向に相互に離間して2つのシール装着部77が形成されており、この2つのシール装着部77にそれぞれ環状シール材73A,73Bが装着されている。各シール装着部77は、各環状シール材73A,73Bを支持する装着軸部78と、軸方向において各環状シール材73A,73Bを挟持すると共に、摺動に伴う各環状シール材73A,73Bの径方向外周部73ab(図5参照)における軸方向の変形を許容する一対の装着挟持部79と、を有している。この場合、プランジャー本体71は、2つのシール装着部77を境に軸方向に3分割された構造になっており、2つの環状シール材73A,73Bは、3分割された部材を組み上げる際に組み付けられるようになっている。
【0058】
具体的には、図4(a)に示すように、プランジャー本体71は、別体で構成された基端部プランジャー81、中間部プランジャー82および先端部プランジャー83を有している。基端部プランジャー81は、直動被ガイド部72と一体に形成されている。そして、中間部プランジャー82は、基端側の環状シール材73Aを装着した状態で基端部プランジャー81に螺合し、且つ先端部プランジャー83は、先端側の環状シール材73Bを装着した状態で中間部プランジャー82に螺合している。
【0059】
基端部プランジャー81は、直動被ガイド部72と一体に且つ同径に形成された本体長寸部85と、本体長寸部85の先端に一体に形成された(一方の)装着挟持部79と、を有している。中間部プランジャー82は、直動被ガイド部72(本体長寸部85)と同径に形成された本体短寸部87と、本体短寸部87の基端に一体に形成されたネジ付きの装着軸部78および装着挟持部79と、本体短寸部87の先端に一体に形成された装着挟持部79と、を有している。また、先端部プランジャー83は、ネジ付きの装着軸部78と、これに一体に形成された装着挟持部79と、を有している。
【0060】
基端部プランジャー81に、基端側の環状シール材73Aおよび中間部プランジャー82を組み込むと、基端側の環状シール材73Aは、装着軸部78に軸支され且つ一対の装着挟持部79により挟持された状態となる。同様に、中間部プランジャー82に、先端側の環状シール材73Bおよび先端部プランジャー83を組み込むと、環状シール材73Bは、装着軸部78に軸支され且つ一対の装着挟持部79により挟持された状態となる。
【0061】
この場合、本体長寸部85や本体短寸部87に比して装着挟持部79が細径に形成されているため、詳細は後述するが、各環状シール材73A,73Bは、その径方向内周部73aaが一対の装着挟持部79により挟持された状態で、径方向外周部73abが変形可能となる(図5参照)。なお、実施形態の各環状シール材73A,73Bは、径方向の内側半部強(径方向内周部73aa)が一対の装着挟持部79により挟持され、外側半部弱(径方向外周部73ab)が変形可能となっている(図5参照)。
【0062】
各環状シール材73A,73Bは、硬度ショアA45度~90度のゴム材、例えばウレタンゴムで構成されている。すなわち、実施形態の環状シール材73A,73Bは、一般的なOリングに比して硬度が高く変形し難いものとなっている。また、各環状シール材73A,73Bは、往復動に際し、シリンダー部21(シリンダー本体51)の内周面に付着したセメントスラリーを掻き出し得るように断面方形に形成されている。すなわち、各環状シール材73A,73Bは、シリンダー本体51に摺接する際にセメントスラリーを掻き出すように進んで、シリンダー本体51との間に極力セメントスラリーが噛み込まないような形状に形成されている。
【0063】
図5に示すように、非往復動(非摺接)の状態において、一対の装着挟持部79により挟持された各環状シール材73A,73Bは、断面方形となる自由状態の形状を維持している(同図(a)参照)。この状態からプランジャー部24が往動すると、摺動抵抗により環状シール材73A,73Bの径方向外周部73abが進行方向後方に反るようにわずかに変形する(同図(b)参照)。同様に、プランジャー部24が復動すると、摺動抵抗により環状シール材73A,73Bの径方向外周部73abが進行方向後方に反るようにわずかに変形する(同図(c)参照)。
【0064】
この変形により、径方向外周部73abの角部位が、シリンダー本体51の内周面に強く摺接し、セメントスラリーを掻き出すように進む。これにより、シリンダー本体51と摺動する環状シール材73A,73Bとの間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制され、摺動抵抗が低減することとなる。
【0065】
基端部の環状シール材73Aは、シリンダー本体51とプランジャー本体71との間隙に入り込んだセメントスラリーが、直動被ガイド部72側に漏れないように機能している。加えて、基端側の環状シール材73Aと、シリンダー本体51に形成した上記の連通孔57との協働により、直動ガイド部52と直動被ガイド部72との間隙にセメントスラリーが侵入するのを防止している。
【0066】
先端側の環状シール材73Bは、往動および復動においてそれぞれ吸込口22を通過する。往動において環状シール材73Bは、吸込口22を通過した直後にセメントスラリーを押圧し、逆止弁25を開弁してセメントスラリーを吐出する。環状シール材73Bが復動に移行すると、逆止弁25を閉弁し、逆止弁25と環状シール材73Bとの間が負圧状態となる。そして、環状シール材73Bが吸込口22を通過するときに、この負圧とスラリー貯留部11の正圧とにより、スラリー貯留部11のセメントスラリーがシリンダー本体51内に流入する。
【0067】
図1図2および図3に示すように、ポンピング機構部13は、シリンダー部21に設けた上記の支持片68と、支軸76を介して支持片68に支持された操作レバー14と、直動被ガイド部72に取り付けられたガイドピン74とを有している。操作レバー14は、手持ち部分となる棒状のレバー本体91と、レバー本体91から先方に延び先端部で支持片68に回動自在に軸支されたプランジャー作動部92とで構成されている。そして、プランジャー作動部92は、ガイドピン74を両持ちで且つ延在方向にスライド自在に支持している。
【0068】
レバー本体91は、細径筒部33の位置まで長く延びており、支軸76を中心に押し引き回動(ポンピング)させることにより、プランジャー部24を作動(往復動)させる。作業者は、一方の手で細径筒部33を持って注入装置10を保持し、他方の手でレバー本体91を持ってポンピングを行う。言うまでもないが、支軸76とガイドピン74との間の距離に比して、支軸76とレバー本体91の握り部分との距離が長いため、「てこ」の原理を利用した手動操作となる。
【0069】
プランジャー作動部92は、先端に向かって二股形状に形成されており、レバー本体91が螺合する基部側のレバー取付け部94と、レバー取付け部94から先方に延びる板状の一対の出力片部95と、で一体に形成されている(図3参照)。各出力片部95には、延在方向に長い係合孔96が形成されており、この一対の係合孔96に対し、ガイドピン74が両持ちで且つ延在方向にスライド自在に支持されている(図2参照)。これにより、操作レバー14による回動運動がプランジャー部24の往復運動に変換される。
【0070】
すなわち、直動被ガイド部72(プランジャー部24)が直動ガイド部52に案内されて往復動すると、直動被ガイド部72に設けられたガイドピン74は、直動ガイド部52の一対の長孔58に沿って往復動する。一方で、操作レバー14を押し引き(往復回動)させると、操作レバー14に支持されたガイドピン74は、一対の係合孔96に沿って相対的にスライドしながら往復動する(図2参照)。これにより、操作レバー14は、直動ガイド部52の中間部で、ガイドピン74を介して往復の回動運動を往復の直線運動に変換しつつ直動被ガイド部72に力(ポンピング力)を伝達する。
【0071】
図3に示すように、ガイドピン74は、平頭のボルト98と、ダブルナット99(止めネジ)とを有している。この場合、ガイドピン74は、直動被ガイド部72、直動ガイド部52の一対の長孔58およびプランジャー作動部92の一対の係合孔96を貫通したボルト98に、止めネジとしてダブルナット99を螺合するようになっている。また、上記の支軸76も、ガイドピン74と同様の構造を有し、支持片68およびプランジャー作動部92の一対の出力片部95を貫通したボルト98に、ダブルナット99を螺合するようになっている。
【0072】
以上のように、第1実施形態の注入装置10によれば、シリンダー部21に対し往復動するプランジャー部24は、シリンダー本体51に対し、プランジャー本体71が非摺接状態となる一方、プランジャー本体71に装着した2つの環状シール材73A,73Bが摺接状態となる。シリンダー本体51に摺接する各環状シール材73A,73Bは、その径方向外周部73abが、往復動に際し、シリンダー本体51の内周面に付着したセメントスラリーを、掻き出すように進む断面方形に形成されている。このため、往復動する各環状シール材73A,73Bとシリンダー本体51の内周面との間において、セメントスラリーの(微粒子)噛み込みが抑制される。また、摺動に際し、各環状シール材73A,73Bが適宜変形して摺動抵抗を低減する。したがって、プランジャー部24を往復動させるポンピングにおいて、その円滑さが損なわれることがない。
【0073】
また、直動被ガイド部72の往復動が直動ガイド部52によりガイドされるため、シリンダー本体51に対するプランジャー本体71の直進性が精度良く維持される。すなわち、2つの環状シール材73A,73Bは、ブレを生ずることなく直進する。このため、摺動時の各環状シール材73A,73Bの形状が安定し、この点でも、各環状シール材73A,73Bとシリンダー本体51の内周面との間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制される。
【0074】
[変形例]
次に、図6を参照して、環状シール材73A,73Bの変形例について簡単に説明する。
図6(a)は、第1変形例に係る環状シール材73A,73Bを表している。この環状シール材73A,73Bでは、径方向外周部73abの両角部位が外側に広がって断面が鋭角に形成されている。この断面略方形の環状シール材73A,73Bでは、シリンダー本体51の内周面に摺接するときに、セメントスラリーを掻き出すように作用する。このため、シリンダー本体51と環状シール材73A,73Bとの間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制され、摺動抵抗が低減する。
【0075】
図6(b)は、第2変形例に係る環状シール材73A,73Bを表している。この環状シール材73A,73Bでは、径方向外周部73abの軸方向の中間部が窪むことで、径方向外周部73abの両角部位が断面鋭角に形成されている。この場合も、この断面略方形の環状シール材73A,73Bでは、シリンダー本体51の内周面に摺接するときに、セメントスラリーを掻き出すように作用する。このため、シリンダー本体51と環状シール材73A,73Bとの間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制され、摺動抵抗が低減する。
【0076】
次に、図7ないし図10を参照して、注入装置10における他の複数の実施形態について説明する。これらの実施形態は、ポンピング機構部13に、機構学上の直線運動機構(平行運動機構)を適用したものであり、ポンピング機構部13とプランジャー部24との連結部を、プランジャー部24と同軸上において直接、厳正直線運動させるものである。このため、これら他の実施形態では、上記の第1実施形態における直動ガイド部52および直動被ガイド部72を省略することが可能である。また、操作レバー14の一部が直線運動機構の一部を兼ねる場合が生ずるため、厳密な意味において、第1実施形態の操作レバー14と他の実施形態の操作レバー14とは、同一ではない。
【0077】
[第2実施形態]
ここで、図7を参照して、第2実施形態に係る注入装置10Aについて説明する。この実施形態では、ポンピング機構部13Aが、いわゆるリンク機構で構成され、プランジャー部24を直接、往復直線運動させる構造になっている。すなわち、このポンピング機構部13Aは、プランジャー部24との連結部をプランジャー部24と同軸上において往復直線運動させる、パンタグラフの機構(直線運動機構)で構成されている。
【0078】
図7に示すように、ポンピング機構部13Aは、上記の一対の出力片部95を兼ねる第1リンク101と、第1リンク101の先端部に連結された第2リンク102と、第1リンク101の中間位置に連結された第3リンク103と、第2リンク102の中間位置に連結された第4リンク104と、を有している。一方、このポンピング機構部13Aでは、シリンダー部21に上記の支持片68に代えて、二股形状であって側面視「L」字状を為す固定ガイド106が取り付けられている。そして、固定ガイド106が、リンク機構における固定節を構成している。
【0079】
第1リンク101とプランジャー部24とは、上記のガイドピン74に相当する第1回転対偶111により連結され、第1リンク101と第2リンク102とは、第2回転対偶112により連結されている。また、第2リンク102の基端側は、第3回転対偶113により固定ガイド106に連結されている。さらに、第1リンク101と第3リンク103の一方の端部とは、第4回転対偶114により連結され、第2リンク102と第4リンク104の一方の端部とは、第5回転対偶115により連結されている。そして、第3リンク103と第4リンク104との他方の端部同士は、第6回転対偶116により連結されている。なお、各回転対偶111,112,113,114,115,116は、上記と同様に、ボルト98およびダブルナット99で構成されていることが好ましい。
【0080】
第1リンク101は、上記の一対の出力片部95と同様に、一対の第1リンク片101aを有している。これに対しプランジャー部24の基端部は、一対の第1リンク片101aに挟まれた状態で、第1回転対偶111を介して相互に回動自在に連結されている。同様に、第2リンク102の一方の端部および第3リンク103の一方の端部も、一対の第1リンク片101aに挟まれた状態で、それぞれ第2回転対偶112および第4回転対偶114を介して相互に回動自在に連結されている。また、第2リンク102の他方の端部は、二股形状の固定ガイド106に挟まれた状態で、第3回転対偶113を介して、固定ガイド106に回動自在に支持されている。
【0081】
第4リンク104は、一対の第4リンク片104aを有しており、その一方の端部が一対のスペーサリング118および第2リンク102を挟んだ状態で、第5回転対偶115を介して相互に回動自在に連結されている。そして、第3リンク103の他方の端部と第4リンク104の他方の端部とは、第3リンク103が固定ガイド106に挟まれ且つ固定ガイド106が一対の第4リンク片104aに挟まれた状態で、第6回転対偶116を介して、固定ガイド106に回動自在に且つスライド自在に連結されている。
【0082】
第2回転対偶112、第4回転対偶114、第5回転対偶115および第6回転対偶116により連結された第1リンク101、第2リンク102、第3リンク103および第4リンク104は、平行四辺形の4節回転連鎖を為し、パンタグラフの主体部分を構成している。第1リンク104のレバー本体91側には、第1回転対偶111を介してプランジャー部24が連結され、また第2リンク102の基端部は、第3回転対偶113を介して固定ガイド106に支持されている。
【0083】
そして、第3回転対偶113、第6回転対偶116および第1回転対偶111が直線上に位置すると共に、第6回転対偶116が固定ガイド106に形成された一対のスライドガイド119に、両持ちの状態でスライド自在に係合している。一対のスライドガイド119は、プランジャー部24の往復動方向に平行となるように延在しており、第6回転対偶116がパンタグラフにおける追跡点を、第1回転対偶111がパンタグラフにおける描点を構成している。
【0084】
したがって、このポンピング機構部13Aでは、操作レバー14(レバー本体91+第1リンク101)を回動(ポンピング)させると、第6回転対偶116がスライドガイド119により移動を直線上に規制された状態で、第3回転対偶113を中心に各リンク101,102,104,104が所定の相対運動を行う(限定連鎖)。この場合、追跡点を構成する第6回転対偶116が、プランジャー部24の進退動方向に平行となるように移動規制されるため、描点を構成する第1回転対偶111は、これに倣って平行移動する。すなわち、第1リンク101とプランジャー部24との連結部を構成する第1回転対偶111は、プランジャー部24と同軸上において往復直線運動する。
【0085】
このように、第2実施形態の注入装置10Aによれば、ポンピング機構部13Aにより、ポンピング機構部13A(第1リンク101)とプランジャー部24との連結部である第1回転対偶111が、プランジャー部24と同軸上において直線移動し、プランジャー部24を直接、往復直線運動させる。このため、第1回転対偶111において、わずかな回転抵抗が生ずるものの、操作レバー14の往復回動運動を、プランジャー部24の往復直線運動に効率良く且つ精度良く変換することができる。したがって、シリンダー部21に対するプランジャー部24の直進性が精度良く担保される。すなわち、2つの環状シール材73A,73Bは、上記の直動ガイド部52や直動被ガイド部72によらずとも、ブレを生ずることなく直進する。このため、摺動時の各環状シール材73A,73Bの形状が安定し、各環状シール材73A,73Bとシリンダー本体51の内周面との間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制される。
【0086】
[変形例]
図8は、第2実施形態の変形例に係る注入装置10Aを表している。この変形例では、固定ガイド106に対し、上記の第6回転対偶116が回動自在に支持される一方、第3回転対偶113が回動自在に且つスライド自在に支持されている。この場合も、第3回転対偶113、第6回転対偶116および第1回転対偶111が直線上に位置している。そして、第3回転対偶113が係合するスライドガイド119は、プランジャー部24の往復動方向に平行となるように形成されている。この場合には、第3回転対偶113がパンタグラフにおける追跡点を、第1回転対偶111がパンタグラフにおける描点を構成することとなる。
【0087】
操作レバー14を回動させると、第3回転対偶113がスライドガイド119により移動を直線上に規制された状態で、第6回転対偶116を中心に各リンク101,102,104,104が所定の相対運動を行う(限定連鎖)。追跡点を構成する第3回転対偶113が、プランジャー部24の往復動方向に平行となるように移動規制されるため、描点を構成する第1回転対偶111は、これに倣って平行移動する。すなわち、第1リンク101とプランジャー部24との連結部を構成する第1回転対偶111は、プランジャー部24と同軸上において往復直線運動する。
【0088】
このように、変位例の注入装置10Aでも、上記のポンピング機構部13Aと同様の作用・効果を奏する。もっとも、このポンピング機構部13Aでは、第6回転対偶116を中心に各リンク101,102,104,104が所定の相対運動を行うため、操作レバー14の回動角度は、上記のほぼ倍の角度となり、その分操作に要する力は軽減される。
【0089】
[第3実施形態]
次に、図9を参照して、第3実施形態に係る注入装置10Bについて説明する。この実施形態でも、ポンピング機構部13Bが、プランジャー部24を直接、往復直線運動させる構造になっている。すなわち、このポンピング機構部13Bは、プランジャー部24との連結部をプランジャー部24と同軸上において往復直線運動させる、スコットラッセルの機構(直線運動機構)で構成されている。
【0090】
図9は、第3実施形態のポンピング機構部13Bを模式的に表している。同図に示すように、ポンピング機構部13Bは、上記の一対の出力片部95に連なるメインリンク121と、メインリンク121の中間位置に連結されたサブリンク122と、を有している。この場合も、シリンダー部21には固定ガイド106が設けられ、固定ガイド106が、リンク機構における固定節を構成している。
【0091】
メインリンク121とプランジャー部24とは、メインリンク121と操作レバー14との接合部において出力対偶124により連結され、メインリンク121とサブリンク122の一方の端部とは、中間対偶125により連結されている。また、メインリンク121の先端部は、スライド対偶126により固定ガイド106のスライドガイド119に回転自在且つスライド自在に連結されている。さらに、サブリンク122の他方の端部は、固定対偶127を介して固定ガイド106に回動自在に支持されている。なお、各対偶124,125,126,127は回転対偶であり、上記と同様に、ボルト98およびダブルナット99で構成されていることが好ましい。
【0092】
中間対偶125は、出力対偶124とスライド対偶126との中間位置にあり、メインリンク121の長さの1/2がサブリンク122の長さとなっている。スライドガイド119は、プランジャー部24の往復動方向に直交する方向に延在し、スライドガイド119の延長線上に固定対偶127が位置している。すなわち、このポンピング機構部13Bは、出力対偶124が直線運動を行う、スコットラッセルの機構で構成されている。
【0093】
したがって、このポンピング機構部13Bでは、操作レバー14を回動させると、スライド対偶126がスライドガイド119により移動を直線上に規制された状態で、固定対偶127を中心に各リンク121,122が所定の相対運動を行う(限定連鎖)。この場合、スライド対偶126が、プランジャー部24の往復動方向と直交する方向に移動規制されるため、出力対偶124はプランジャー部24をその往復動方向に移動させる。すなわち、メインリンク121とプランジャー部24との連結部を構成する出力対偶124は、プランジャー部24と同軸上において往復直線運動する。
【0094】
このように、第3実施形態の注入装置10Bによれば、ポンピング機構部13Bにより、ポンピング機構部13B(メインリンク121)とプランジャー部24との連結部である出力対偶124が、プランジャー部24と同軸上において直線運動し、プランジャー部24を直接、往復直線運動させる。このため、第3実施形態においても、第2実施形態と同様の作用・効果を奏する。すなわち、シリンダー部21に対するプランジャー部24の直進性が精度良く担保される。このため、摺動時の各環状シール材73A,73Bの形状が安定し、各環状シール材73A,73Bとシリンダー本体51の内周面との間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制される。
【0095】
[第4実施形態]
次に、図10を参照して、第4実施形態に係る注入装置10Cについて説明する。この実施形態でも、ポンピング機構部13Cが、プランジャー部24を直接、往復直線運動させる構造になっている。第4実施形態のポンピング機構部13Cでは、ギヤとリンクとを組み合わせて、プランジャー部24との連結部をプランジャー部24と同軸上において往復直線運動させる、直線運動機構が構成されている。
【0096】
図10は、第4実施形態のポンピング機構部13Cを模式的に表している。同図に示すように、ポンピング機構部13Cは、大ギヤ131と、大ギヤ131に対し1/2の歯数(ピッチ円直径)となる小ギヤ132と、大ギヤ131および小ギヤ132に噛み合う中間ギヤ133と、を有している。また、ポンピング機構部13Cは、上記の一対の出力片部95に連なる連結リンク135と、小ギヤ132とプランジャー部24との間に渡した出力リンク136と、を有している。
【0097】
連結リンク135は、操作レバー14と一体に連結した状態で、大ギヤ131の第1支軸141に回動自在に支持されている。また、中間ギヤ133は、第2支軸142を介して連結リンク135に回転自在に支持され、小ギヤ132は、第3支軸143を介して連結リンク135に回転自在に支持されている。出力リンク136は、一方の端部が小ギヤ132に対し同軸上において固定され、他方の端部が第4支軸144を介してプランジャー部24に相互に回動自在に連結されている。
【0098】
この場合、大ギヤ131に対し小ギヤ132は、1/2の歯数に形成され、中間ギヤ133は、小ギヤ132を相対的に大ギヤ131と同方向に回転させる。大ギヤ131は、シリンダー部21に設けた支持部材146に支持固定され、操作レバー14と連結リンク135とは、第1支軸141を中心に一体に回動する。また、連結リンク135と出力リンク136とは、同じ長さに形成されている。そして、プランジャー部24の軸線上に、第1支軸141および第4支軸144が位置している。
【0099】
したがって、このポンピング機構部13Cでは、操作レバー14を回動(ポンピング)させると、第1支軸141を中心に連結リンク135が同方向に回動する。連結リンク135が回動すると、大ギヤ131に噛み合っている中間ギヤ133が回転すると共に、中間ギヤ133に噛み合っている小ギヤ132が回転する。これにより、小ギヤ132に固定されている出力リンク136が、第3支軸143を中心に連結リンク135の回動角度の倍の角度で回動する。このとき、出力リンク136とプランジャー部24との連結部を構成する第4支軸144は、プランジャー部24と同軸上において往復直線運動する。
【0100】
このように、第4実施形態の注入装置10Cによれば、ポンピング機構部13Cにより、ポンピング機構部13C(出力リンク136)とプランジャー部24との連結部を構成する第4支軸144が、プランジャー部24と同軸上において直線移動し、プランジャー部24を直接、往復直線運動させる。このため、第4実施形態においても、第2実施形態と同様の作用・効果を奏する。すなわち、シリンダー部21に対するプランジャー部24の直進性が精度良く担保される。このため、摺動時の各環状シール材73A,73Bの形状が安定し、各環状シール材73A,73Bとシリンダー本体51の内周面との間において、セメントスラリーの噛み込みが抑制される。
【符号の説明】
【0101】
10,10A,10B,10C…注入装置、11…スラリー貯留部、12…往復ポンプ部、13,13A,13B,13C…ポンピング機構部、14…操作レバー、21…シリンダー部、22…吸込口、23…吐出口、24…プランジャー部、25…逆止弁、51…シリンダー本体、52…直動ガイド部、55…吸込口形成縁部、57…連通孔、58…長孔、68…支持片、71…プランジャー本体、72…直動被ガイド部、73A,73B…環状シール材、73aa…径方向内周部、73ab…径方向外周部、74…ガイドピン、77…シール装着部、78…装着軸部、79…装着挟持部、81…基端部プランジャー、82…中間部プランジャー、83…先端部プランジャー、91…レバー本体、92…プランジャー作動部、95…出力片部、96…係合孔、101…第1リンク、102…第2リンク、103…第3リンク、104…第4リンク、106…固定ガイド、121…メインリンク、122…サブリンク、131…大ギヤ、132…小ギヤ、135…連結リンク、136…出力リンク
図1
図2
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図5
図6
図7
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図10