(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】活性種含有液噴射装置および殺菌駆除方法
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20230124BHJP
H05H 1/24 20060101ALN20230124BHJP
A61L 2/18 20060101ALN20230124BHJP
【FI】
A01M7/00 Z
H05H1/24
A61L2/18
(21)【出願番号】P 2019029857
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 圭介
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-537433(JP,A)
【文献】特開2016-171792(JP,A)
【文献】特開2003-194723(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161327(WO,A1)
【文献】特表2009-500799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
H05H 1/24
A61L 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマとなるガスを利用してプラズマを発生させ、前記ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを生成可能に設けられたプラズマ発生部と、
生成された前記プラズマ活性ガスを冷却可能に設けられた冷却手段と、
前記冷却手段で冷却された前記プラズマ活性ガスを液体に溶解させて、前記活性種を含む溶解液を生成し、前記溶解液を噴射するよう設けられた溶解噴射手段とを
有し、
前記溶解噴射手段は、前記冷却手段で冷却された前記プラズマ活性ガスを内部に導入するよう設けられた溶解容器と、前記溶解容器の内部で前記プラズマ活性ガスと前記液体とが接触して前記溶解液を生成するよう、前記溶解容器の内部に前記液体を供給する液体供給部と、前記溶解容器の内部に連通し、前記溶解容器の内部で生成された前記溶解液を噴射するよう設けられた噴射口とを有しており、前記液体供給部は、前記溶解容器の内部に挿入された、前記液体を流す筒状管を有し、前記筒状管は、側面に1または複数の孔を有している
ことを特徴とする活性種含有液噴射装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記プラズマ活性ガスが前記プラズマ発生部から前記溶解噴射手段まで移動する間に、空冷および/または水冷で前記プラズマ活性ガスを冷却するよう構成されていることを特徴とする請求項1記載の活性種含有液噴射装置。
【請求項3】
前記液体供給部は、1気圧より高い所定の圧力で、前記液体を前記溶解容器の内部に供給可能に設けられており、
前記プラズマ発生部は、生成した前記プラズマ活性ガスを前記所定の圧力より高い圧力で前記溶解容器の内部に供給可能に設けられており、
前記筒状管は、前記噴射口に連通するよう設けられていることを
特徴とする請求項
1または2記載の活性種含有液噴射装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の活性種含有液噴射装置を使用する殺菌駆除方法であって、
プラズマとなるガスを利用してプラズマを発生させて、前記ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを生成し、
生成した前記プラズマ活性ガスを冷却した後、そのプラズマ活性ガスを液体に溶解させて、前記活性種を含む溶解液を生成し、
生成した前記溶解液を対象物に噴射して、前記対象物に付着した病原菌、ウイルスまたは害虫を殺菌または駆除することを
特徴とする殺菌駆除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性種含有液噴射装置および殺菌駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマを用いて病原体や害虫等の殺菌や駆除を行う装置として、反応容器と、反応容器の内部に連通した噴射口と、反応容器の内部に液体を供給する液体供給部と、プラズマとなるガスを反応容器の内部に供給するガス供給部と、反応容器の内部に供給された液体の近傍でプラズマを発生させるよう構成されたプラズマ発生手段とを有し、反応容器の内部に液体とガスとが供給されたとき、プラズマ発生手段により液体の近傍でプラズマを発生させてガスおよび/または液体の活性種を生成し、その活性種を含む液体を噴射口から噴射するよう構成された活性種含有液噴射装置が、本発明者等により開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、プラズマを用いて医療器具や生体等の殺菌消毒を行う方法として、プラズマにより発生した活性種を液体に接触させて、その液体中に活性種を拡散させてプラズマ処理液を生成し、生成したプラズマ処理液を対象物に適用する方法がある(例えば、特許文献1参照)。この方法では、プラズマ処理液中に拡散した活性種をできるだけ消失させないよう、生成したプラズマ処理液を10℃以下または冷凍して保存することが行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】二瓶健司、▲高▼島圭介、金子俊郎、「プラズマ照射溶液直接噴霧装置による短寿命活性種生成とイチゴ炭疽病菌分生子発芽抑制」、第65回応用物理学会春季学術講演会予稿集、2018年、19p-C201-17
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の装置は、供給されたガスや液体の活性種を反応容器中で生成し、その活性種を液体に取り込むことにより、気体中に存在しているときよりも殺菌効果を高めることができ、優れた殺菌効果を得ることができる。しかし、反応容器中でプラズマを発生させたときに発生する熱により、活性種を含む液体の温度が上昇するため、プラズマの放電時間が延びると、短寿命活性種が失活してしまうおそれがあり、殺菌効果が低下する可能性があるという課題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では、プラズマ処理液を10℃以下または冷凍して保存することにより、プラズマ処理液中に拡散した活性種が消失しないようにしているが、殺菌等を行うために、冷たいプラズマ処理液や氷状のプラズマ処理液を植物や生体等に噴霧すると、それらを傷めてしまう危険性が高いという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、プラズマの放電時間が延びても、高い殺菌効果を維持することができ、植物等に対して安全に殺菌等を行うことができる活性種含有液噴射装置および殺菌駆除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る活性種含有液噴射装置は、プラズマとなるガスを利用してプラズマを発生させ、前記ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを生成可能に設けられたプラズマ発生部と、生成された前記プラズマ活性ガスを冷却可能に設けられた冷却手段と、前記冷却手段で冷却された前記プラズマ活性ガスを液体に溶解させて、前記活性種を含む溶解液を生成し、前記溶解液を噴射するよう設けられた溶解噴射手段とを有し、前記溶解噴射手段は、前記冷却手段で冷却された前記プラズマ活性ガスを内部に導入するよう設けられた溶解容器と、前記溶解容器の内部で前記プラズマ活性ガスと前記液体とが接触して前記溶解液を生成するよう、前記溶解容器の内部に前記液体を供給する液体供給部と、前記溶解容器の内部に連通し、前記溶解容器の内部で生成された前記溶解液を噴射するよう設けられた噴射口とを有しており、前記液体供給部は、前記溶解容器の内部に挿入された、前記液体を流す筒状管を有し、前記筒状管は、側面に1または複数の孔を有していることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る活性種含有液噴射装置は、ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを液体に溶解させて、ガスの活性種を含む溶解液を生成することにより、溶解液中で過酸化亜硝酸(HOONO)などの殺菌能力が高い活性種を生成し、その溶解液を対象物に噴射することで、対象物の殺菌等を行うことができる。本発明に係る活性種含有液噴射装置は、プラズマ発生部で生成したプラズマ活性ガスを冷却手段で冷却した後、液体に溶解させて溶解液を生成するため、溶解液が温度上昇するのを抑制することができる。また、プラズマ発生部でのプラズマの放電時間が延びたときでも、プラズマ発生ガスを冷却手段で冷却するため、溶解液の温度上昇を抑制することができる。このため、温度上昇により溶解液中の短寿命活性種が失活するのを防ぐことができ、高い殺菌効果を維持することができる。
【0011】
また、本発明に係る活性種含有液噴射装置は、溶解液を保存するものではなく、プラズマ活性ガスを冷却手段で室温または外気温程度まで冷却すればよいため、植物等に対して適度な温度の溶解液を噴射することができ、植物等に対して安全に殺菌等を行うことができる。本発明に係る活性種含有液噴射装置は、溶解液を噴霧するため、ガスを噴射する場合と比べても、風などで拡散しにくい。このため、野外の植物等に使用しても、高い殺菌効果を維持することができる。また、活性種を含む溶解液を生成後すぐに噴射することにより、寿命の短い活性種であっても、失活する前に対象物に付着させることができる。また、活性種は気体中よりも液体中に存在している方が殺菌効果が高まるため、プラズマ活性ガスをそのまま噴射する場合と比べて、より優れた殺菌効果を得ることができる。
【0012】
本発明に係る活性種含有液噴射装置は、例えば、農業分野で、植物や土壌、肥料等に付着した病原体や害虫の殺菌や駆除を行うために使用することができる。殺菌や駆除を行う病原体は、主に植物の病気の原因となる生物であり、例えば、糸状菌(主にカビ)および細菌(バクテリア)といった病原菌や、ウイルスなどである。病原菌は、例えば、イネいもち病、ムギうどんこ病、ダイズ紫斑病、イチゴ灰色かび病、キュウリ灰色かび病、トマト灰色かび病、ユリ葉枯病、キュウリうどんこ病、イチゴうどんこ病、トマト葉かび病、ネギさび病、キク白さび病、ネギ黒斑病、リンゴ斑点落葉病、キュウリ褐斑病、シュンギク炭疽病、セリ葉枯病、リンゴ褐斑病、馬鹿苗病などである。害虫は、主に植物を害する害虫であり、例えば、ダニやアブラムシである。
【0013】
本発明に係る活性種含有液噴射装置で、プラズマとなるガスは、空気など、プラズマを生成可能なガスであればいかなるものであってもよい。また、前記冷却手段は、前記プラズマ活性ガスが前記プラズマ発生部から前記溶解噴射手段まで移動する間に、空冷および/または水冷で前記プラズマ活性ガスを冷却するよう構成されていることが好ましい。また、プラズマ活性ガスを溶解させる液体は、水など、ガスの活性種を溶解して、過酸化亜硝酸(HOONO)などの溶解液中の活性種を生成可能なものであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る活性種含有液噴射装置で、前記溶解噴射手段は、前記冷却手段で冷却された前記プラズマ活性ガスを内部に導入するよう設けられた溶解容器と、前記溶解容器の内部で前記プラズマ活性ガスと前記液体とが接触して前記溶解液を生成するよう、前記溶解容器の内部に前記液体を供給する液体供給部と、前記溶解容器の内部に連通し、前記溶解容器の内部で生成された前記溶解液を噴射するよう設けられた噴射口とを有しているため、溶解噴射手段により、容易に溶解液を生成して噴射することができる。
【0015】
また、本発明に係る活性種含有液噴射装置で、前記液体供給部は、前記溶解容器の内部に挿入された、前記液体を流す筒状管を有し、前記筒状管は、側面に1または複数の孔を有しているため、溶解容器の内部に導入されたプラズマ活性ガスを、筒状管の側面の孔から、筒状管を流れる液体に接触させて、溶解液を生成することができる。筒状管は、液体とプラズマ活性ガスとの接触機会を増やすよう、例えば、コイル状であってもよく、側面が網状やメッシュ状、格子状であってもよく、側面に1または複数のスリットを有していてもよい。
【0016】
また、この筒状管を有する場合、前記液体供給部は、1気圧より高い所定の圧力で、前記液体を前記溶解容器の内部に供給可能に設けられており、前記プラズマ発生部は、生成した前記プラズマ活性ガスを前記所定の圧力より高い圧力で前記溶解容器の内部に供給可能に設けられており、前記筒状管は、前記噴射口に連通するよう設けられていることが好ましい。このとき、プラズマ活性ガスの圧力により、筒状管を流れる液体が、側面の孔から漏れないようにすることができると共に、プラズマ活性ガスを、筒状管の側面の孔から、筒状管を流れる液体に浸透させることができる。これにより、効率的に溶解液を生成することができる。また、筒状管を流れる液体の圧力により、生成された溶解液を噴射口から勢いよく噴射することができる。
【0017】
本発明に係る殺菌駆除方法は、本発明に係る活性種含有液噴射装置を使用する殺菌駆除方法であって、プラズマとなるガスを利用してプラズマを発生させて、前記ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを生成し、生成した前記プラズマ活性ガスを冷却した後、そのプラズマ活性ガスを液体に溶解させて、前記活性種を含む溶解液を生成し、生成した前記溶解液を対象物に噴射して、前記対象物に付着した病原菌、ウイルスまたは害虫を殺菌または駆除することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る殺菌駆除方法は、本発明に係る活性種含有液噴射装置により好適に実施することができる。本発明に係る殺菌駆除方法は、プラズマの放電時間が延びたときでも、溶解液の温度上昇を抑制することができため、温度上昇により溶解液中の短寿命活性種が失活するのを防ぐことができ、高い殺菌効果を維持することができる。また、本発明に係る殺菌駆除方法は、プラズマ活性ガスを室温または外気温程度まで冷却することにより、植物等に対して適度な温度の溶解液を噴射することができ、植物等に対して安全に殺菌等を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プラズマの放電時間が延びても、高い殺菌効果を維持することができ、植物等に対して安全に殺菌等を行うことができる活性種含有液噴射装置および殺菌駆除方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置を示す全体構成図である。
【
図2】
図1に示す活性種含有液噴射装置による殺菌試験の、プラズマ発生部での放電時間とイチゴ炭疽病菌の一種であるColletotrichum gloeosporioides(C.glo)分生子の発芽率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図1に示す活性種含有液噴射装置による殺菌試験の、C.glo分生子の懸濁液の量を変えたときの、溶解液の噴射時間とC.glo分生子の発芽率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図1に示す活性種含有液噴射装置による殺菌試験の、噴射距離とC.glo分生子の発芽率との関係を示すグラフである。
【
図5】
図1に示す活性種含有液噴射装置による殺菌試験の、(a)空気の供給量を変えたとき、(b)水の供給量を変えたときの、C.glo分生子の発芽率の変化を示すグラフである。
【
図6】(a)
図1に示す活性種含有液噴射装置、および、プラズマ活性ガスと液体とを噴射口の外部で混合させる外部混合ノズルを利用した装置による殺菌試験の、プラズマ発生部での放電時間とC.glo分生子の発芽率との関係を示すグラフ、(b) (a)で使用した外部混合ノズルを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図6は、本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置および殺菌駆除方法を示している。
図1に示すように、活性種含有液噴射装置10は、プラズマ発生部11と冷却手段12と溶解噴射手段13とを有している。
【0022】
プラズマ発生部11は、反応容器21とガス供給部22と1対の電極23a、23bと電源部24とを有している。反応容器21は、細長い筒状の石英管から成っている。ガス供給部22は、プラズマとなるガスが封入されたガスボンベから成り、反応容器21の一端側の開口に接続されている。ガス供給部22は、所定の圧力で、反応容器21の内部にガスを供給可能になっている。
図1に示す具体的な一例では、ガスは、空気から成っているが、その他にも、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴンなど、プラズマを生成可能なガスであればいかなるものであってもよい。
【0023】
一方の電極23aは、反応容器21の内部に挿入されて、反応容器21の長さ方向に沿って伸びるよう配置されている。他方の電極23bは、銅箔などから成り、薄いシート状を成している。他方の電極23bは、一方の電極23aと対向するよう、反応容器21の上下方向の所定の範囲に渡って、反応容器21の外側面に一周巻き付けて取り付けられている。また、他方の電極23bは、接地されている。電源部24は、一方の電極23aに接続されており、各電極23a、23bの間に電圧を印加可能になっている。
図1に示す具体的な一例では、電源部24は、交流電源であるが、直流電源またはパルス電源であってもよい。
【0024】
プラズマ発生部11は、ガス供給部22からプラズマとなるガスを反応容器21の内部に供給した状態で、電源部24により各電極23a、23bの間に電圧を印加することにより、反応容器21の内部でプラズマを発生可能になっている。これにより、プラズマ発生部11は、ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを生成可能になっている。また、プラズマ発生部11は、ガス供給部22からのガスの圧力により、生成したプラズマ活性ガスを反応容器21の他端側の開口から排出して、溶解噴射手段13に供給可能になっている。
【0025】
冷却手段12は、空冷ファン25と冷却回路26とを有している。冷却手段12は、プラズマ活性ガスをプラズマ発生部11から溶解噴射手段13まで流すためのガス流路14の途中で、移動するプラズマ活性ガスを冷却可能に設けられている。空冷ファン25は、ガス流路14に向かって送風するよう設けられ、空冷式でプラズマ活性ガスを冷却するよう構成されている。冷却回路26は、ガス流路14の周囲を囲うよう設けられ、水冷式でプラズマ活性ガスを冷却するよう構成されている。
【0026】
溶解噴射手段13は、溶解容器27と液体供給部28と噴射口29とを有している。溶解容器27は、細長い筒状を成し、冷却手段12で冷却されたプラズマ活性ガスを、一端側の開口から内部に導入可能に設けられている。
【0027】
液体供給部28は、液体ポンプ31と筒状管32とを有している。液体ポンプ31は、溶解容器27の一端側の開口に接続され、所定の圧力で、水などの液体を溶解容器27の内部に供給可能になっている。筒状管32は、溶解容器27の内部に挿入され、液体ポンプ31で供給される液体を流すよう、液体ポンプに接続されている。筒状管32は、コイル状を成し、側面に複数の孔を有している。液体供給部28は、溶解容器27の内部で、筒状管32の側面の孔を介して、筒状管32を流れる液体にプラズマ活性ガスを接触させて、ガスの活性種を含む溶解液を生成するようになっている。なお、
図1に示す具体的な一例では、液体ポンプ31で供給される液体は水であるが、プラズマ活性ガスの活性種を溶解して、過酸化亜硝酸(HOONO)などの溶解液中の活性種を生成可能なものであれば、いかなるものであってもよい。
【0028】
噴射口29は、溶解容器27の他端側の開口に設けられ、溶解容器27の内部の筒状管32に連通している。溶解噴射手段13は、溶解容器27の内部で生成された溶解液を、プラズマ活性ガスの圧力や液体ポンプ31からの液体の圧力により、噴射口29から噴射するようになっている。
【0029】
本発明の実施の形態の殺菌駆除方法は、活性種含有液噴射装置10により好適に実施することができる。すなわち、本発明の実施の形態の殺菌駆除方法は、プラズマ発生部11により、プラズマとなるガスを利用してプラズマを発生させて、ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを生成する。次に、生成したプラズマ活性ガスを冷却手段12で冷却した後、溶解噴射手段13により、そのプラズマ活性ガスを液体に溶解させて、活性種を含む溶解液を生成し、生成した溶解液を対象物に噴射する。これにより、対象物に付着した病原菌、ウイルスまたは害虫を殺菌または駆除することができる。
【0030】
本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置10および殺菌駆除方法は、ガスの活性種を含むプラズマ活性ガスを液体に溶解させて、ガスの活性種を含む溶解液を生成することにより、溶解液中で過酸化亜硝酸(HOONO)などの殺菌能力が高い活性種を生成し、その溶解液を対象物に噴射することにより、対象物の殺菌等を行うことができる。本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置10および殺菌駆除方法は、プラズマ発生部11で生成したプラズマ活性ガスを冷却手段12で冷却した後、液体に溶解させて溶解液を生成するため、溶解液が温度上昇するのを抑制することができる。また、プラズマ発生部11でのプラズマの放電時間が延びたときでも、プラズマ発生ガスを冷却手段12で冷却するため、溶解液の温度上昇を抑制することができる。このため、温度上昇により溶解液中の短寿命活性種が失活するのを防ぐことができ、高い殺菌効果を維持することができる。
【0031】
また、本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置10および殺菌駆除方法は、溶解液を保存するものではなく、プラズマ活性ガスを冷却手段12で室温または外気温程度まで冷却すればよいため、植物等に対して適度な温度の溶解液を噴射することができ、植物等に対して安全に殺菌等を行うことができる。本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置10および殺菌駆除方法は、溶解液を噴霧するため、ガスを噴射する場合と比べても、風などで拡散しにくい。このため、野外の植物等に使用しても、高い殺菌効果を維持することができる。また、活性種を含む溶解液を生成後すぐに噴射することにより、寿命の短い活性種であっても、失活する前に対象物に付着させることができる。また、活性種は気体中よりも液体中に存在している方が殺菌効果が高まるため、プラズマ活性ガスをそのまま噴射する場合と比べて、より優れた殺菌効果を得ることができる。
【0032】
本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置10および殺菌駆除方法は、例えば、農業分野で、植物や土壌、肥料等に付着した病原体や害虫の殺菌や駆除を行うために使用することができる。殺菌や駆除を行う病原体は、主に植物の病気の原因となる生物であり、例えば、糸状菌(主にカビ)および細菌(バクテリア)といった病原菌や、ウイルスなどである。病原菌は、例えば、イネいもち病、ムギうどんこ病、ダイズ紫斑病、イチゴ灰色かび病、キュウリ灰色かび病、トマト灰色かび病、ユリ葉枯病、キュウリうどんこ病、イチゴうどんこ病、トマト葉かび病、ネギさび病、キク白さび病、ネギ黒斑病、リンゴ斑点落葉病、キュウリ褐斑病、シュンギク炭疽病、セリ葉枯病、リンゴ褐斑病、馬鹿苗病などである。害虫は、主に植物を害する害虫であり、例えば、ダニやアブラムシである。
【0033】
なお、本発明の実施の形態の活性種含有液噴射装置10および殺菌駆除方法で、液体供給部28は、1気圧より高い所定の圧力で、液体を溶解容器27の内部に供給可能に設けられており、プラズマ発生部11は、生成したプラズマ活性ガスを所定の圧力より高い圧力で溶解容器27の内部に供給可能に設けられていてもよい。このとき、プラズマ活性ガスの圧力により、筒状管32を流れる液体が、側面の孔から漏れないようにすることができると共に、プラズマ活性ガスを、筒状管32の側面の孔から、筒状管32を流れる液体に浸透させることができる。これにより、効率的に溶解液を生成することができる。また、筒状管32を流れる液体の圧力により、生成された溶解液を噴射口29から勢いよく噴射することができる。
【実施例1】
【0034】
図1に示す活性種含有液噴射装置10を使用して、イチゴ炭疽病菌の一種であるColletotrichum gloeosporioides (C.glo)に対して殺菌試験を行った。C.glo分生子は水中で発芽するため、試験では、発芽前のC.glo分生子を添加したシャーレ内の懸濁液に向かって活性種を含む溶解液を噴射し、所定時間経過後のC.glo分生子の発芽状態を調べた。
【0035】
試験では、懸濁液として、蒸留水中に、発芽前のC.glo分生子を、1.0×107 conidia/mLの濃度で添加したものを使用した。また、プラズマ発生部11の電源部24の印加電圧を15.5kV、周波数を8~8.1kHzとした。以下では、ガス供給部22からのガス(空気)の供給量や、液体ポンプ31からの液体(水)の供給量、活性種を含む溶解液の噴射時間、噴射口29と懸濁液の表面との距離(噴射距離)、懸濁液の量などを変えて試験を行い、噴射を停止してから30分経過後のC.glo分生子の発芽状態を観察した。
【0036】
まず、プラズマ発生部11での各電極23a、23b間の放電を継続し、放電開始から所定の経過時間(放電時間)ごとに溶解液の噴射を行って、発芽率の測定を行った。この試験では、空気の供給量を4L/分、水の供給量を11mL/分、溶解液の噴射時間を10秒、噴射距離を10cm、懸濁液の量を50μLとした。試験結果として、放電時間と発芽率との関係を、
図2に示す。
【0037】
図2に示すように、放電を1時間継続しても、発芽率は10%~数%以下と小さい値でほぼ一定であり、殺菌効果が得られていることが確認された。このことから、プラズマの放電時間が延びても、高い殺菌効果が維持されているといえる。
【0038】
次に、懸濁液の量が25μL、50μL、100μLのそれぞれに場合について、溶解液の噴射時間を5秒、10秒、20秒としたときの発芽率の測定を行った。この試験では、空気の供給量を4L/分、水の供給量を11mL/分、噴射距離を10cmとした。試験結果を、
図3に示す。なお、
図3には、プラズマなしで、水と空気との混合液を10秒間噴射したときの測定結果(w/o plasma)も示している。
【0039】
図3に示すように、懸濁液の量が25μLおよび50μLと少ないときには、5秒または10秒の噴射時間でも、殺菌効果が得られることが確認された。また、懸濁液の量が100μLと多いときには、噴射時間を20秒まで延ばすことにより、殺菌効果が得られることが確認された。この結果から、溶解液の噴射時間を延ばしても殺菌能力は維持されており、噴射時間を長くすればするほど、殺菌効果が高くなるといえる。
【0040】
次に、噴射距離が10cm、15cm、20cmのぞれぞれの場合について、発芽率の測定を行った。このとき、各噴射距離について、直径1.5cmのシャーレ内での溶解液の噴射量が、0.85mLで一定となるよう噴射時間を変化させている。具体的には、溶解液の噴射時間は、噴射距離が10cmのとき10秒、15cmのとき18秒、20cmのとき25秒である。また、この試験では、空気の供給量を4L/分、水の供給量を11mL/分、懸濁液の量を50μLとした。試験結果を、
図4に示す。なお、
図4には、プラズマなしで、水と空気との混合液を10秒間噴射したときの測定結果(w/o plasma)も示している。
【0041】
図4に示すように、噴射距離が変化しても、溶解液の噴射量が同じであれば、同程度の殺菌効果が得られることが確認された。このことから、噴射口29から懸濁液まで溶解液が飛散している間、溶解液中の活性種は失活していないと考えられる。この結果から、植物に対して殺菌や駆除を行う際、所定の高さから溶解液を噴射することにより、噴射口29から近い葉(高い位置の葉)であっても、遠い葉(低い位置の葉)であっても、噴射時間を調整することにより、同程度の効果を得ることができるといえる。
【0042】
次に、空気の供給量および水の供給量を変えた場合について、発芽率の測定を行った。この試験では、溶解液の噴射時間を10秒、噴射距離を10cm、懸濁液の量を50μLとした。空気の供給量を変えたとき(水の供給量は11mL/分)、および、水の供給量を変えたとき(空気の供給量は4L/分)の試験結果を、それぞれ
図5(a)および(b)に示す。
【0043】
図5(a)に示すように、空気の供給量を増やすと殺菌効果が低くなることが確認された。また、供給量が約4L/分以下で、発芽率が5%以下となり、非常に高い殺菌効果が得られることが確認された。
図5(b)に示すように、水の供給量を増やすと殺菌効果が高くなることが確認された。また、供給量が約3.3mL/分以上になると、発芽率が5%以下となり、非常に高い殺菌効果が得られることが確認された。
【0044】
次に、プラズマ活性ガスと液体とを溶解容器27の内部で混合して噴射口29から噴射する活性種含有液噴射装置10、および、溶解噴射手段13の代わりに、プラズマ活性ガスと液体とを噴射口の外部で混合させる外部混合ノズルを利用した装置について、発芽抑制効果の比較試験を行った。試験では、プラズマ発生部11での放電を継続し、所定の放電時間ごとに発芽率の測定を行った。また、試験では、空気の供給量を4L/分、水の供給量を11mL/分、溶解液の噴射時間を10秒、噴射距離を10cm、懸濁液の量を50μLとした。試験結果を、
図6(a)に示す。
【0045】
なお、活性種含有液噴射装置10の溶解噴射手段13は、プラズマ活性ガスを1気圧より高い圧力で溶解容器27に供給し、液体供給部28からの液体に溶解させて溶解液を生成し、噴射口29から噴射するものであり、以下では内部混合ノズルと呼ぶ。また、
図6(b)に示すように、使用した外部混合ノズル40は、液体を噴射口41からそのまま噴射し、プラズマ活性ガスを噴射口41の周囲に設けられたガス噴出口42から、噴射された液体に向かって噴射して、液体とプラズマ活性ガスとを噴射口41外部の大気圧下で混合するものである。
【0046】
図6(a)に示すように、内部混合ノズルは、放電を1時間継続しても、発芽率は10%~数%以下と小さい値でほぼ一定であり、殺菌効果が得られていることが確認された。これに対し、外部混合ノズル40は、放電時間にかかわらず、発芽率は約70%以上と大きくなっており、殺菌効果はほとんど得られていないことが確認された。このことから、高圧下で液体とプラズマ活性ガスとを混合することにより、優れた発芽抑制効果が得られるといえる。なお、
図6(a)に示す内部混合ノズルの試験結果は、
図2に示す試験結果と同じものである。
【符号の説明】
【0047】
10 活性種含有液噴射装置
11 プラズマ発生部
21 反応容器
22 ガス供給部
23a、23b 電極
24 電源部
12 冷却手段
25 空冷ファン
26 冷却回路
13 溶解噴射手段
27 溶解容器
28 液体供給部
31 液体ポンプ
32 筒状管
29 噴射口
14 ガス流路
40 外部混合ノズル
41 噴射口
42 ガス噴出口