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特許7215756慢性閉塞性肺疾患の増悪を早期に識別する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】慢性閉塞性肺疾患の増悪を早期に識別する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/087 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
A61B5/087
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020529838
(86)(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 IB2018055857
(87)【国際公開番号】W WO2019030632
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】102017000093172
(32)【優先日】2017-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】520049776
【氏名又は名称】レステック エス アール エル
【氏名又は名称原語表記】RESTECH S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214259
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 睦也
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ ゴッビ
(72)【発明者】
【氏名】パスクワーレ ピオ ポンピリオ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエレ デッラーカ
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-005240(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0165807(US,A1)
【文献】特表2016-523600(JP,A)
【文献】特開2015-027459(JP,A)
【文献】特表2015-522314(JP,A)
【文献】特表2017-506536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06- 5/22
A61B 9/00-10/06
A61M 11/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを実行するように適合化したマイクロプロセッサを含む、慢性閉塞性肺疾患の増悪を早期に同定するためのシステム:
・強制振動法(FOT)により、患者の肺機能を規定する第1セットのパラメータを測定するステップ(事前規定された時間周波数での測定);
・呼吸パターンを示す、次のうちの少なくとも1つ以上で表される第2セットのパラメータを同時に測定するステップ:1回換気量(VT)、平均吸気時間(Ti)及び平均呼気時間(Te)、呼吸頻度(RR)、呼吸負荷サイクル(Ti*RR)、平均吸気流量(Vt/Ti)及び平均呼気流量(Vt/Te)、並びに分時換気量(Ve);
・各測定を、所定の時間枠内で利用可能な測定から計算された、対応する中央値と比較するステップにより、上記のパラメータの異常値を含む測定を削除するステップ
前記第1セットのパラメータの及び前記第2セットのパラメータの各パラメータPについて、事前規定された時間内の傾向を表すN次多項式回帰モデルを計算するステップ
・各多項式回帰モデルについて、N次多項式回帰の少なくとも1つの係数を事前規定された閾値と比較することにより、二値性の傾向パラメータ(binary trend parameter) MIp(これは、対応する表されたパラメータPに関する生理学的重要性の進行を示す)を決定するステップ;
前記傾向パラメータMIPの加重和を計算すること、及び前記加重和をグローバル閾値THと比較することにより、慢性閉塞性肺疾患の増悪を同定するステップ。
【請求項2】
強制振動法(FOT)による患者の肺機能の測定が少なくとも2日に1回実行されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1セットのパラメータのパラメータが、以下のうちの1つ以上によって表されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム:
2~10 Hzの範囲の周波数で測定される吸気抵抗(Rinsp);
2~10 Hzの範囲の周波数で測定される吸気リアクタンス(Xinsp);
2~10 Hzの範囲の周波数で測定される吸気リアクタンスと呼気リアクタンスの差(ΔXrs)。
【請求項4】
異常値を含む測定を削除するステップが、測定の開始から所定の期間に行われたすべての測定を削除するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
異常値を含む測定を削除するステップの後に、残りの測定の数が所定の数より多いかどうかを検証するステップがあることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記パラメータの異常値を削除するステップが、以下の式に示されるように計算された所与のパラメータの値Vが閾値TRよりも高い場合に、以下の式として、現在のFOT測定OPは異常と見なされ、破棄されるべきことを考慮するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載のシステム
【数1】
この式において:
m(OP(W1))は、枠W1内で測定された所与のパラメータの値の中央値と見なされる、及び
W1は、前記計算で考慮されるFOT測定を含む、事前規定された長さの時間枠である。
【請求項7】
前記二値性の傾向パラメータMIpの加重和を計算することにより、慢性閉塞性肺疾患の増悪を同定するステップが、以下のように計算されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム
【数2】
この式において、WP(0 <WP <1)は、問題のパラメータpの傾向パラメータMIPに関連付けられた重みであり、THは閾値である。
【請求項8】
慢性閉塞性肺疾患の増悪の早期同定のための医療機器の作動方法、ここで、前記医療機器は、マイクロプロセッサを含み、前記マイクロプロセッサが、以下のステップを含む全ての処理操作を実行する
・強制振動法(FOT)により、患者の肺機能を規定する第1セットのパラメータを測定するステップ(事前規定された時間周波数での測定);
・呼吸パターンを示す、次のうちの少なくとも1つ以上で表される第2セットのパラメータを同時に測定するステップ:1回換気量(VT)、平均吸気時間(Ti)及び平均呼気時間(Te)、呼吸頻度(RR)、呼吸負荷サイクル(Ti*RR)、平均吸気流量(Vt/Ti)及び平均呼気流量(Vt/Te)、並びに分時換気量(Ve);
・各測定を、所定の時間枠内で利用可能な測定から計算された、対応する中央値と比較するステップにより、上記のパラメータの異常値を含む測定を削除するステップ
前記第1セットのパラメータの及び前記第2セットのパラメータの各パラメータPについて、事前規定された時間内の傾向を表すN次多項式回帰モデルを計算するステップ
・各多項式回帰モデルについて、N次多項式回帰の少なくとも1つの係数を事前規定された閾値と比較することにより、二値性の傾向パラメータ(binary trend parameter) MIp(これは、対応する表されたパラメータPに関する生理学的重要性の進行を示す)を決定するステップ;
・前記傾向パラメータMIPの加重和を計算すること、及び前記加重和をグローバル閾値THと比較することにより、慢性閉塞性肺疾患の増悪を同定するステップ。
【請求項9】
マイクロプロセッサで実行する際に、請求項8に記載の慢性閉塞性肺疾患の増悪を早期に同定するための方法を実行するよう適合化した、コンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患に罹患している患者の増悪を早期に同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、呼吸困難、慢性の咳や喀痰などの持続的な症状と持続的な気流制限を特徴とする慢性呼吸器疾患である(GOLD 2017)。一般的な危険因子には、タバコの煙などの有毒粒子及び/又はガスへの長時間の曝露が含まれる。COPDの進行は、増悪、即ち、症状及び基礎にある炎症プロセスが急激に悪化すること(最も深刻な場合には、患者を入院させる必要がある)によって安定期が途切れること、を特徴とする(Vogelmeier et al., 2017)。
【0003】
増悪エピソードの頻度は、患者の病歴に重要な結果をもたらし、肺の機能低下を加速させ、死亡リスクを高め、生活の質を低下させ、病状に関連する社会的及び経済的コストを増大させる。
【0004】
増悪エピソードに対する早期の治療介入が患者の健康への影響を軽減するのに役立つというエビデンス(Wilkinson, Donaldson, Hurst, Seemungal, & Wedzicha, 2004)が、COPDに苦しむ患者の管理を最適化する必要性と共に、在宅モニタリングプログラムに基づいたケアモデルの開発を促進している。提案されたプログラムの大部分は、医療遠隔相談システム及び患者教育と組み合わせて、患者の自覚症状の悪化を記録するための毎日のアンケートの使用に基づいている。これらのプログラムは、COPDの増悪による入院と救急外来にアクセスする患者数の削減に有効であることが実証されているが(McLean et al., 2012)、高い導入コストが必要なため、大規模には適用されていない。
【0005】
別のアプローチは、直接の医療監督なしで、自宅でCOPD患者が実行できる生理学的パラメータの測定と、実行された測定の分析から早期に増悪を特定できる自動アルゴリズムとの組み合わせで構成される。従って、前記アルゴリズムによって、治療中のCOPD患者の健康状態に悪化の疑いが特定された場合にのみ、医療関係者はアラートを受け、その結果、直ぐに患者と連絡をとり、その健康状態を確認し、及び/又は治療コースを最適化することができる。
【0006】
上記のアプローチでは、医療従事者が測定値を継続的に確認する必要がないため、限定的な医療チームによる多数の患者の管理が可能になり、大規模な実装が保証される。
【0007】
上記のアプローチが研究されている実験的研究は、心拍数及び血中酸素飽和度の測定(携帯型パルソメーターによって測定)を、単独又は機械的呼吸測定(携帯型肺活量計を用いる)と組み合わせて使用した。これらの研究は、増悪中のCOPDに苦しむ患者の管理を改善するのに十分な有効性を実証していない(Ringbaek et al., 2015; Vianello et al., 2016)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、強制振動法(FOT)によって測定された呼吸機能パラメータを使用して、COPDの増悪を早期に識別する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記目的及び他の目的は、以下のステップを含む慢性閉塞性肺疾患の増悪を早期に同定するための方法によって行われる:事前規定された時間周波数で、強制振動法(FOT)による患者の肺機能を規定する複数のパラメータの測定;事前規定された時間内の前記複数のパラメータの傾向の計算;前記複数のパラメータの前記傾向を記述するパラメータを事前規定された閾値と比較することによる差し迫った増悪の識別;ここで、前記複数のパラメータの傾向を計算するステップは、N次多項式回帰モデルを計算することにより行われる;及び、前記傾向を記述する前記パラメータを所定の閾値と比較することにより差し迫った増悪を識別するステップは、N次多項式回帰の少なくとも1つの係数を事前規定された閾値と比較するステップを含む。
【0010】
本発明のさらなる特徴は、従属請求項に記載されている。
【発明の効果】
【0011】
強制振動法(FOT)は、自発呼吸の周波数より高い周波数で振動する低圧外部刺激を適用する間の患者の口への圧力と流量の記録に基づいて、気道と肺の機械的特性を測定するための非侵襲的方法である(Dubois, Brody, Lewis and Burgess, 1956)。この特性により自発呼吸中に測定を実行できるため、たとえばDellacaら(Raffaele L. Dellaca, Gobbi, Pastena, Pedotti and Celli, 2010)及びGulottaら(Gulotta et al., AJRCCM, 2012)のパイロット研究で実証されたように、監視のない呼吸パラメータの遠隔モニタリングアプリケーションに最適である。
【0012】
FOT測定中に、単一又は複合周波数(通常は4~40 Hz)での圧力の小さな振動(両振幅で約1~3 cmH2O)が、マウスピース又は鼻や顔のマスクなどの代替インターフェースを使用して気道の開口部(鼻及び/又は口)を通して患者の肺に送られる。呼吸器系の反応は、インピーダンス(Zrs)の観点から評価される。インピーダンス(Zrs)は、口の圧力と振動周波数の気流の全体的な比率である。インピーダンスZrsは通常、実数成分である抵抗(Rrs)と虚数成分であるリアクタンス(Xrs)に分けられる。
【0013】
RrsとXrsは、時間ドメイン、つまり呼吸サイクル中(連続呼気分析(intra-breath analysis))、及び周波数ドメイン(周波数分析)の両方で分析できる。
【0014】
最初のケース(連続呼気分析)では、たとえばDellacaらが記載したように、RrsとXrsが各呼吸で計算される(Dellaca et al., ERJ, 2004)。したがって、RrsとXrsは、所与の測定の各呼吸、又はすべての呼吸の平均として提示される。連続呼気分析によって、呼吸が嚥下、咳などのアーチファクトの影響を受ける場合に、測定平均から一部の呼吸を自動的に除外して、RrsとXrsを使用することが可能となる。このアルゴリズムの例は、Gobbiらが説明した(Gobbi et al., IEEE Telemed, 2009)。さらに、周波数分析に関しては、連続呼気分析では通常、圧刺激に含まれる周波数の数は少なくなる;これにより、信号対雑音比を改善し、それぞれの刺激周波数において、RrsとXrsの両方への吸気と呼気の寄与をさらに分離できる(Rrs(吸気抵抗Rinspと呼気抵抗Rexpをそれぞれ得る)、Xrs(吸気リアクタンスXinspと呼気リアクタンスXexpをそれぞれ得る))。吸気パラメータと呼気パラメータの結果は、各呼吸と呼吸の平均の両方について測定自体にアーチファクトを含まずに報告できる。たとえば、FOTテストにおける5 HzでのXinspとXexpの平均差は、記号ΔXrsで示され、重度あるいは非常に重度なCOPDに罹患している患者に発生する症状である、呼気流量の減少に関連することが示されている(R. L. Dellaca et al., 2004)。FOT測定は安静時の呼吸中に実行されるため、上記測定からさまざまな呼吸パターンのパラメータ(たとえば現在の一回換気量(VT)、平均吸気及び呼気流量と時間、呼吸数、分時換気量)を導出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の特徴及び利点は、本発明の実際的な実施形態の詳細な開示から明らかになり、以下の添付図面において非限定的な例として示される。
図1図1は、本発明による、COPDの増悪の早期同定のための方法のフロー図を示す。
図2図2は、X軸と枠W2に示されるさまざまな日に取得されたRinsp測定を例示するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図を参照すると、本発明によるCOPDの増悪の早期識別のための方法は、手順を開始するステップ10;事前規定された時間周波数で、FOT法を用いて患者の肺機能と呼吸パターンを規定する一定数のパラメータを測定するステップ11;利用可能な新しい測定ごとに、測定したパラメータ(その対応する時系列を構成する)を収集するステップ12;順応期間が、時系列の最初から計算し、終了したかどうかを検証するステップ13、つまり、収集された測定値の数が最初に規定された数より多いかどうかを評価し、そうでない場合は最初のステップ10からやり直し、そうであればステップ14で異常値を削除する;所定の期間内の測定の数(異常値を除去したもの)が事前規定された数よりも多いかどうかを検証するステップ15、‐そうでない場合は、最初のステップ10からやり直し、そうであれば、ステップ16で所定の期間内の上記のパラメータの時間傾向を計算する;後者の傾向を、適切な統計的手法又は数学モデルを使用して評価し、事前に規定された数値よりも大幅に高いか低いかを検証するステップ17‐そうでない場合は、最初のステップ10からやり直し、そうであれば、ステップ18で切迫した増悪が予測される、というステップを含む。そしてまた最初のステップ10からやり直す。
【0017】
ステップ11の測定では、患者は、吸気期と呼気期にRrsとXrs、導出パラメータ及び呼吸モデルパラメータ、を別々に測定できるFOTデバイスを使用する必要がある、の間に。このデバイスは、低圧(< 5 cmH2O)の刺激発生器、圧力センサーと流量センサーのセット、患者インターフェース、呼吸回路、及び圧力発生器を操作し、センサーからデータを収集し、それらを使用して特定のアルゴリズムに従って肺インピーダンス、導出パラメータ、呼吸パターンパラメータを計算する計算ユニットで構成される。前記デバイスの実施例は、Gobbiらにより記載されている(Gobbi, Milesi, Govoni, Pedotti & Dellaca 2009)。
【0018】
各測定中、患者は鼻栓を着用し、デバイスを介して自発的に呼吸している間、たとえば2分間又は所定の呼吸数が記録されるまで、頬の振動を減らすシステム(たとえば手で頬を支えることにより)を採用する必要がある。
【0019】
FOT法によって測定される患者の肺機能を規定するパラメータは、次のうち1つあるいはそれ以上である:2~10 Hzの範囲の周波数で測定される吸気抵抗(Rinsp);2~10 Hzの範囲の周波数で測定される吸気リアクタンス(Xinsp);2~10 Hzの周波数で測定される吸気リアクタンスと呼気リアクタンスの差(ΔXrs)。
【0020】
患者の呼吸パターンは、次のパラメータの組み合わせによって記述される:現在の一回換気量(VT)、平均吸気時間(Ti)及び平均呼気時間(Te)、呼吸数(RR)、呼吸負荷サイクル(respiratory duty cycle)(Ti*RR)、平均吸気流量(Vt/Ti)及び平均呼気流量(Vt/Te)並びに分時換気量(Ve)。
【0021】
本方法の一実施例では、患者は1日1回のFOT測定を実施する必要がある。それぞれの新しい毎日の測定の平均FOT及び呼吸パターンパラメータは、前述の連続呼気分析法に従って計算され、対象の患者の対応する時系列でステップ12で収集される。
【0022】
ステップ11の測定は、例えばマウスピースのような測定インターフェースを用いて患者がFOTデバイスを介して呼吸することを必要とするため、初回の測定は、前記インターフェースへの患者の順応のため使用できないことがありうる。この測定値は除外することが望ましい。本方法の一実施例では、8日間の順応期間ステップ13が考慮されるため、この時間に含まれる測定値は以下の計算から除外される。この箇所は、オプションであり必須ではない可能性はある。
【0023】
たとえば、間違った姿勢で、頬を正しくサポートせずに、マウスピース及び/又は鼻栓の位置を間違えて、測定インターフェース周辺の漏れがある状態で、測定した場合に、歯又は舌によるフィルターの閉塞、咳、声門の部分的又は完全な閉鎖によって、もしFOT測定が異常な値を生成するならば、その異常値をステップ14で時系列から除去する必要がある。
【0024】
本発明の一実施形態では、異常値を検出する方法は、FOT測定値から計算される1つ以上のパラメータの正規化距離と、対応する中央値(現在及び過去のFOT測定を含む事前規定された長さの時間枠の中で得られる測定値から計算される)の現在の毎日の呼吸パターンとを使用する。
【0025】
特に、次の式に示すように計算された所与のパラメータの値Vが、閾値TRよりも高い場合、現在のFOT測定OPは異常と見なされ、したがって破棄されるべきと考えられた。
【0026】
【数1】
この式において:
m(OP(W1))を、枠W1内で測定された所与のパラメータの値の中央値と見なす、及び
W1は、前記計算で考慮するFOT測定(新しい測定及び過去の測定)を含む、事前規定した長さの時間枠である。
【0027】
他のアプローチを使用して、測定の時系列で異常値を検出し、このアプリケーションに適合させることができる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、枠W1は8日間続き、閾値TRは0.5に等しい。次のパラメータ:現在の一回換気量VT、5 Hzで測定された吸気抵抗Rinsp、5 Hzで測定された呼吸リアクタンスXinsp、の少なくとも1つについて前記の式が確認された場合、その測定値は異常値と見なされ無視される。
【0029】
異常値を削除した後、有意な数の測定値を得るために、所定の時間W2に少なくとも事前規定した数の測定値が存在することがステップ15でチェックされることが好ましい。本発明の好ましい実施形態では、前記時間幅W2を10日となるように選択し、W2に存在しなければならない最小のFOT測定数は5に等しい。
【0030】
W2には少なくともX%の測定値があることを確認する。たとえば、X% = 50%でありかつW2 = 10日の場合、W2に少なくとも5つの測定値があることを確認する必要がある。
【0031】
次に、適切な統計的手法又は数学的モデルを用いて、同じ時間W2で利用可能な測定から開始して、FOTのパラメータ及び呼吸モデルのすべての又は一部の傾向をステップ16で計算する。たとえば、次のことを考慮して、実行及び以前に処理された測定値に対するN次多項式回帰モデルを使用して、対象の各パラメータの傾向を定量化できる:1)計算された多項式の係数(既知項のβ0、1次項の係数のβ1、など)、2)ゼロに等しいという帰無仮説に対する各係数の統計的有意性(p値)、3)多項式回帰の相関係数(r2)。
【0032】
たとえば、線形回帰モデルとパラメータRinsp、Xinsp、DeltaXrsを使用して、β1Rinsp、β1Xinsp、β1deltaXrsを計算できる。
【0033】
考慮される各FOTパラメータについて、統計回帰モデルが進行を識別するかどうかが評価される(モデルβ1の1つ以上のパラメータがゼロと異なる確率を計算し、その確率(p値とも呼ばれる)を閾値、たとえばp <0.05と比較する)。この基準が検証された場合、パラメータFOTに関する進行が経時的に続いたことを、その統計モデルが説明することが確かめられる。
【0034】
次に、回帰の全体的な適合度及びその生理学的意義が評価される。回帰の適合度を測定するために、たとえば、相関係数r2を使用でき、これは所定の閾値よりも大きくなければならない。回帰の生理学的意義は、β1に適用される基準を通じて評価され、これは、考慮されるFOTパラメータに依存する。この例では、それぞれのβ1係数に関連付けられている基準は、β1Rinsp> 0、β1Xinsp <0、β1deltaXrs> 0である。
【0035】
統計回帰モデルが所与のFOTパラメータに関して進行を識別し、同時に前記回帰に有効な生理学的意義と高いレベルの適合度がある場合、本法は値1を対応する傾向パラメータMIに割り当て、それ以外の場合は0のままである。
【0036】
したがって、分析されたすべてのパラメータについて、事前規定された閾値を上回ったり下回ったりした場合、病状は悪化する方向の傾向と見なされる。その場合、値1が対応する傾向パラメータMIPに割り当てられる。そうでない場合、対応する傾向パラメータMIPは0に維持される。
【0037】
たとえば、3つの傾向パラメータMIRinsp、MIXinsp、及びMIdeltaXrsがあり、それぞれ1の値をとるか、0のままである。
【0038】
最後に、次の式(2)を適用して、処理された傾向パラメータの加重和を計算することにより、増悪が想定される。
【0039】
【数2】
この式において、WP(0 <WP <1)は、対象のパラメータpの傾向パラメータMIPに関連付けた重みであり、THは閾値である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、線形回帰モデルが次の各パラメータに適用された(N = 1):5 Hzで測定された吸気抵抗(Rinsp)、5 Hzで測定された吸気リアクタンス(Xinsp)の絶対値、5 Hzで測定した吸気リアクタンスと呼気リアクタンスの差(ΔXrs)。
【0041】
さらに、以下のすべての条件が以下の値について検証されている場合、すべてのパラメータについて、1に等しい値が対応する傾向パラメータMIPに割り当てられる:係数β1の絶対値(回帰直線の勾配)は0より大きくなければならず、対応するp値は0.05未満でなければならず、多項式回帰の相関係数(r2)は0.4より大きくなければならない。
【0042】
本発明の一実施例では、患者に関する測定の値は、所定のプログラムに従ってすべての処理操作を実行するマイクロプロセッサに転送され、最終結果をビューアに提供し、自動モードで、慢性閉塞性肺疾患の増悪の存在を識別する。
【0043】
1に等しい重み付けWPと事前規定された1に等しい閾値THを使用して、つまり、計算された値が次の式のように1以上だった場合に、差し迫った増悪は識別された:
1 * MIRinsp + 1 * MlXinsp + 1 * MlΔxrs≧ 1
【実施例
【0044】
本出願人は、市販の機器を使用して24人の患者に対し8か月間FOTで毎日測定を行うテストを実施した。
【0045】
モニターされた24人のCOPD患者の特徴を表1に示す。
【0046】
この研究を通して、患者は週に1回電話でインタビューを受け、次の情報:処方箋並びに薬物及び/又は抗生物質の使用、予定外の健康診断、入院、について収集した。
【0047】
増悪は次のように分類された:
軽度:現在の治療に変更があった又は短時間作用型気管支拡張薬の処方があった場合、
中等度:コルチコステロイドが処方された場合、
重度:抗生物質の全身投与が処方された場合、
非常に重度:患者が入院したとき。
【0048】
この方法のパフォーマンスを評価するために、重篤度に関係なく、すべての増悪をまとめた。さらに、サブ分析は重度及び非常に重度の増悪に対してのみ実施された。後者は患者と医療サービスの両方の観点から最も重大なイベントと見なされているためである。
【0049】
モニタリング期間中に、患者は合計26件の増悪を報告し、そのうち13件は軽度又は中等度のタイプで、13件は重度又は非常に重度のタイプだった。これらのうち、18件(69%)は上記の方法で正しく識別された。軽度又は中等度のタイプの8件の増悪(61.5%)及び重度又は非常に重度のタイプの10件の増悪(77%)は、上記の方法によって正しく識別された。
【0050】
【表1】
図1
図2