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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】車両のヘッドライト制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20230124BHJP
   B60Q 1/08 20060101ALI20230124BHJP
   F21S 41/151 20180101ALI20230124BHJP
   F21S 41/125 20180101ALI20230124BHJP
   F21S 41/663 20180101ALI20230124BHJP
   F21W 102/10 20180101ALN20230124BHJP
   F21W 102/20 20180101ALN20230124BHJP
   F21W 103/60 20180101ALN20230124BHJP
   F21Y 113/10 20160101ALN20230124BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230124BHJP
【FI】
B60Q1/14 Z
B60Q1/08
F21S41/151
F21S41/125
F21S41/663
F21W102:10
F21W102:20
F21W103:60
F21Y113:10
F21Y115:10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018243771
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020104623
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 直宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 育郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
(72)【発明者】
【氏名】友枝 優
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126226(JP,A)
【文献】特開2016-117352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
B60Q 1/08
F21S 41/151
F21S 41/125
F21S 41/663
F21W 102/10
F21W 102/20
F21W 103/60
F21Y 113/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、
前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、
前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、
を有し、
前記ヘッドライトは、前記車両から異なる距離に光を照射する複数の光源部材、を有し、
複数の前記光源部材は、前記車両の両側部の軌道に沿って照射する光の照射範囲において、前記車両に近い位置より前記車両から遠い位置に対して長い波長の光を照射し、
前記制御部は、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射する、
車両のヘッドライト制御装置。
【請求項2】
車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、
前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、
前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、
を有し、
前記制御部は、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射し、
前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って光を照射するとした場合に路肩または路面に描画されている通行区分帯の仕切マークに対して光を照射することになるとき、前記路肩または前記仕切マークへの光の照射を抑制するように照射範囲を変更する、
両のヘッドライト制御装置。
【請求項3】
車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、
前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、
前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、
を有し、
前記制御部は、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射し、
前記車両が進路を修正する場合には、さらに、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って光を照射するとともに、両側部の軌道に沿う照射範囲の前端の間に、進路の修正方向を示すように光を照射する、
両のヘッドライト制御装置。
【請求項4】
車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、
前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、
前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、
を有し、
前記ヘッドライトは、車両の前部において車幅方向の両側に一対で設けられ、
一対の前記ヘッドライトは、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿う一対の照射範囲に対して、前記車両の前側において交差させた光を照射し、
前記制御部は、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射する、
両のヘッドライト制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って光を照射する場合、前記進路の中央部は、車両の両側部に沿った照射範囲と比べて減光または非照射とされる、
請求項1から4のいずれか一項記載の車両のヘッドライト制御装置。
【請求項6】
前記判断部により安全性が判断されている前記進路の状況または前記進路に対する前記車両の走行状況を監視する監視部、を有し、
前記制御部は、
前記判断部が前記車両の進路を安全と判断し、かつ前記監視部により異常な状況が検出されていない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記進路の中央部より強い光を照射し、
それ以外の場合には、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射する、
求項1から5のいずれか一項記載の車両のヘッドライト制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のヘッドライト制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両では、夜間走行での視認性を高めて安全性を改善するために、ヘッドライトが用いられる(特許文献1)。
ヘッドライトは、たとえば夜間走行中に車両の前方へ光を照射する。これにより、たとえば進路の落下物や走行中の車両の前を横切ろうとする歩行者などを照らし出すことができる。また、ドライバなどの乗員は、進路が安全であることを、視覚を通じて確認することができる。
そして、ヘッドライトは、車両において長年にわたって使い続けられている車両の装備であり、ヘッドライトによる照射をしない場合と比べて安全性を各段に改善するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-184602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヘッドライトが果たす役割や機能について再検討してみると、ヘッドライトは、必ずしも乗員の視認性や安心感に対して十分に寄与しているとは言い切れない点がある。
たとえば、ヘッドライトは、通常、車両の前方の中央部分を中心に光を照射する。この場合、車両の前方の中央部分は明るく照らされるものの、その左右両側の部分は、中央部分より暗くなる。その結果、たとえば走行中の車両の前を横切ろうとする歩行者などは、車両の前方の中央での照射範囲に到達したタイミングで、突発的に乗員により視認され易い。
特に、自動運転中の車両や運転支援が機能している車両においては、乗員が運転を直接的に操作できていない状況も生じ得る可能性もあり、車両は、そのような状況においても乗員に過度の不安を与えないようにする必要があると考えられる。
【0005】
このように車両のヘッドライトでは、安全性や安心感をさらに高めることができるように、改善する余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の第一のヘッドライト制御装置は、車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、を有し、前記ヘッドライトは、前記車両から異なる距離に光を照射する複数の光源部材、を有し、複数の前記光源部材は、前記車両の両側部の軌道に沿って照射する光の照射範囲において、前記車両に近い位置より前記車両から遠い位置に対して長い波長の光を照射し、前記制御部は、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射する。
本発明に係る車両の第二のヘッドライト制御装置は、車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、を有し、前記制御部は、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射し、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って光を照射するとした場合に路肩または路面に描画されている通行区分帯の仕切マークに対して光を照射することになるとき、前記路肩または前記仕切マークへの光の照射を抑制するように照射範囲を変更する。
本発明に係る車両の第三のヘッドライト制御装置は、車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、を有し、前記制御部は、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射し、前記車両が進路を修正する場合には、さらに、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って光を照射するとともに、両側部の軌道に沿う照射範囲の前端の間に、進路の修正方向を示すように光を照射する。
本発明に係る車両の第四のヘッドライト制御装置は、車両の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライトであって照射範囲を変更可能なヘッドライトと、前記ヘッドライトによる照射を制御する制御部と、前記車両が進行する進路の安全性を判断する判断部と、を有し、前記ヘッドライトは、車両の前部において車幅方向の両側に一対で設けられ、一対の前記ヘッドライトは、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿う一対の照射範囲に対して、前記車両の前側において交差させた光を照射し、前記制御部は、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトから前方へ光を照射することにより、前記進路の中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射し、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記中央部より強い光を照射する。
【0007】
好適には、前記制御部は、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って光を照射する場合、前記進路の中央部は、車両の両側部に沿った照射範囲と比べて減光または非照射とされる、とよい。
【0008】
好適には、前記判断部により安全性が判断されている前記進路の状況または前記進路に対する前記車両の走行状況を監視する監視部、を有し、前記制御部は、前記判断部が前記車両の進路を安全と判断し、かつ前記監視部により異常な状況が検出されていない場合、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記進路で進行する前記車両の両側部の軌道に沿って、前記進路の中央部より強い光を照射し、それ以外の場合には、照射範囲を変更可能な前記ヘッドライトにより、前記中央部を含めた前記進路の全体に対して光を照射する、とよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、車両が進行する進路の安全性を判断する判断部が、車両の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能なヘッドライトにより、進路で進行する車両の両側部の軌道に沿って、中央部より強い光を照射する。これにより、たとえば走行中の車両の前を横切ろうとする歩行者などは、車両の両側部の軌道を横切るタイミングで、乗員により視認され得る。その結果、本発明では、通常のヘッドライトのように進路の中央部を含めた進路の全体に対して光を照射している場合と比べて、早期に、走行中の車両の前を横切ろうとする歩行者などを、乗員に視認させることができる。
しかも、本発明においてヘッドライトがこのような両側部の軌道中心の照射範囲になる場合は、判断部が、車両が進行する進路の安全性を判断する場合に限っている。判断部が車両の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能なヘッドライトにより、進路の中央部を含めた進路の全体に対して通常通りに光を照射する。このような進路の安全性についての基本的な判断に応じてヘッドライトの照射範囲を変更することにより、乗員は、ヘッドライトの照射状態の切り替えにより、通常通りに注意すべき走行状態にあることを自然に把握することができる。
また、進路で進行する車両の両側部の軌道に沿って光を照射する場合において、制御部は、進路の中央部を、それ以外の場合よりも減光または非照射とするとよい。これにより、車両の両側部の軌道が強調して照らされることになる。走行中の車両の前を横切ろうとする歩行者などには、乗員に視認させ易くなる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車両としての自動車およびヘッドライトによる路面の照射範囲についての説明図である。
図2図2は、図1の自動車に適用されるヘッドライト制御装置の説明図である。
図3図3は、第一実施形態での配光制御部による光の照射範囲の切替制御の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の第二実施形態での可変ヘッドライトの説明図である。
図5図5は、本発明の第三実施形態での可変ヘッドライトの照射範囲についての説明図である。
図6図6は、本発明の第四実施形態での可変ヘッドライトの照射範囲についての説明図である。
図7図7は、第四実施形態での配光制御部による光の照射範囲の切替制御の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、本発明の第五実施形態での可変ヘッドライトの照射範囲についての説明図である。
図9図9は、第五実施形態での配光制御部による光の照射範囲の切替制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0017】
[第一実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る車両としての自動車1およびヘッドライト3による路面の照射範囲についての説明図である。
図1の自動車1は、乗員が乗車する車室が設けられる車体2と、車体2の前部に配置される一対のヘッドライト3と、を有する。
一対のヘッドライト3は、車体2の前部において、左右の車幅方向の両側となる両側部の位置に設けられる。
一対のヘッドライト3は、走行する自動車1の前方を光で照射する。
図1(A)に示すように、一対のヘッドライト3は、通常、自動車1の進行方向である自動車1の前方へ光を照射する。
この場合、一対のヘッドライト3は、自動車1の前縁から前方へ離れた照射範囲31に光を照射する。照射範囲31とヘッドライト3との間には、図中に破線で示すように、光路が形成される。そして、その前方に離れた通常の照射範囲31についての車幅方向の中央部に対して強い光を照射することになる。
【0018】
このようなヘッドライト3は、たとえば夜間走行中に自動車1の前方へ光を照射する。これにより、たとえば進路の落下物や走行中の自動車1の前を横切ろうとする歩行者などを照らし出すことができる。また、ドライバなどの乗員は、進路が安全であることを、視覚を通じて確認することができる。
そして、ヘッドライト3は、自動車1において長年にわたって使い続けられている自動車1の装備であり、ヘッドライト3による照射をしない場合と比べて安全性を各段に改善するものである。
しかしながら、ヘッドライト3が果たす役割や機能について再検討してみると、ヘッドライト3は、必ずしも乗員の視認性や安心感に対して十分に寄与しているとは言い切れない点がある。
たとえば、ヘッドライト3は、通常、自動車1の前方の中央部分を中心に光を照射する。この場合、自動車1の前方の中央部分は明るく照らされるものの、その左右両側の部分は、中央部分より暗くなる。その結果、たとえば走行中の自動車1の前を横切ろうとする歩行者などは、自動車1の前方の中央での通常の照射範囲31に到達したタイミングで、突発的に乗員により視認され易い。
この他にもたとえば、ヘッドライト3が自動車1の前方へ固定的に光を照射する場合、長い直線路の終端のコーナ入り口において自動車1の前に突然に路肩の木々が現れることになる。ドライバはこのような状況を予期している可能性もあるが、運転を直接的に操作していない少なくとも助手席などに着座するその他の乗員にあっては、突然の木々の出現を不安に感じる可能性がある。
この他にもたとえば、走行中の自動車1は、路面に対して滑って通行区分帯に対して姿勢が傾いたり、自動車1が通行区分帯の範囲内で左右へ片寄りしたりする可能性がある。ドライバはこのような状況を予期している可能性もあるが、運転を直接的に操作していない少なくとも助手席などに着座するその他の乗員にあっては、自動車1が正しく走行できていないと不安に感じる可能性がある。
特に、自動運転中の自動車1や、運転支援が機能している自動車1においては、乗員が運転を直接的に操作していない状況も生じ得る可能性がある。自動車1は、このような状況下においても乗員に過度の不安を与えないようにする配慮が必要である。
このように自動車1のヘッドライト3では、安全性や安心感をさらに高めることができるように、改善する余地がある。
【0019】
図2は、図1の自動車1に適用されるヘッドライト制御装置10の説明図である。
図2のヘッドライト制御装置10は、進路生成部11、前センサ12、進路安全判断部13、走行制御部14、外乱逸脱監視部15、配光制御部16、可変ヘッドライト17、を有する。
この他にも、図2のヘッドライト制御装置10は、経路生成部18、走行帯選択部19、通信装置20、GPS(Global Positioning System)受信機21、走行操作部材22、動力装置23、制動装置24、操舵装置25、を有する。
進路生成部11、進路安全判断部13、走行制御部14、外乱逸脱監視部15、配光制御部16、経路生成部18、走行帯選択部19などの各部は、自動車1に搭載されるコンピュータ装置としてのECU(Electric Control Unit)29に実現されてよい。ECU29は、メモリおよびCPUを有する。メモリに記録されているプログラムをCPUが読み込んで実行することにより、上述した各部がECU29に実現される。
なお、進路生成部11、走行制御部14、進路安全判断部13、前センサ12、外乱逸脱監視部15は、自動車1の走行を制御するための動力装置23、制動装置24、および操舵装置25の動作を制御し、自動車1の自動運転または運転支援のための処理を実行するものである。
経路生成部18、走行帯選択部19、通信装置20、GPS受信機21、走行操作部材22は、自動車1の自動運転または運転支援のための情報または操作入力を取得するものである。
【0020】
通信装置20は、たとえば所定の無線通信規格に対応した地上または衛星の基地局との間でデータを送受する。無線通信規格には、携帯電話機などで利用されている通信規格であっても、ビーコン通信などを含む高度道路交通システム(ITS: Intelligent Transport Systems)で利用される通信規格であってもよい。
通信装置20は、自動車1が走行する地域の交通情報、他の移動体の現在地や移動経路などの移動情報、信号機などの交通管制情報を、地上または衛星の基地局から取得する。通信装置20は、自動車1が自動運転などで必要とする情報を、取得する。
【0021】
GPS受信機21は、GPS衛星などからの複数の電波を受信し、自車である自動車1の現在地の情報を生成する。
【0022】
経路生成部18は、たとえば地図情報を用いて、自車の現在地から目的地までの移動経路を生成する。地図情報は、通信装置20により受信したものであっても、ECU29のメモリなどに記録されているものであってもよい。
【0023】
走行帯選択部19は、たとえば道路の走行帯情報に基づいて、自動車1が移動経路としての道路を通過するための走行帯を選択する。
【0024】
走行操作部材22は、自動車1の乗員が自動車1の走行を制御するために直接に操作する操作部材である。走行操作部材22には、たとえばハンドル、ペダル、レバー、タッチパネル、ボタン、などがある。
【0025】
進路生成部11は、経路生成部18、走行帯選択部19、通信装置20、GPS受信機21などから、これらで生成された情報を取得する。
進路生成部11は、基本的に、現在地から経路生成部18により生成された経路および走行帯選択部19により選択された走行帯において、現在地から移動する自動車1の短距離的な進路を生成する。
進路生成部11は、自動車1の進行に応じて現在地が更新されると、新たな現在地から移動する自動車1の短距離的な進路を生成する。
進路生成部11は、自動車1の進行に応じて、自動車1の短距離的な進路の生成を繰り返す。
進路生成部11は、通信装置20が走行帯の規制情報などを取得している場合、それ以外の走行帯で移動する自動車1の進路を生成する。
ここで、短距離的な進路は、たとえば自動車1から前センサ12により安全確認可能な距離でよい。ただし、短距離的な進路は、それより長くても短くでもよい。短距離的な進路は、進路の環境に応じて適応的な距離とされてよい。
【0026】
前センサ12は、自動車1から進路方向である前方を観察するセンサである。
前センサ12は、たとえば複眼カメラ、単眼カメラ、レーザ、ライダ、でよい。
前センサ12は、その検出に基づいて、自動車1の進路方向である前方に存在する物体、たとえば固定物、落下物、走行帯の規制部材、ゲート、他の自動車、歩行者、路面状態などについての空間情報を得ることができるものでよい。
【0027】
進路安全判断部13は、前センサ12の検出により得られる空間情報に基づいて、進路生成部11により生成された短距離的な進路についての走行の安全性を判断する。進路安全判断部13は、たとえば自動運転または運転支援による進路で自動車1が進行する進路の安全性を判断する。
進路安全判断部13は、前センサ12による観測範囲における短距離的な進路について、通過に支障をきたす他の物体が存在しないか否かを判断する。
そして、観測範囲における短距離的な進路に、通過に支障をきたす他の物体が存在しない場合、進路安全判断部13は、その観測範囲における短距離的な進路について安全と判断する。
観測範囲における短距離的な進路に、通過に支障をきたす他の物体が存在する場合、進路安全判断部13は、その観測範囲における短距離的な進路について安全でないと判断する。この場合、進路生成部11は、新たな異なる短距離的な進路を生成する。進路生成部11は、進路安全判断部13により安全と判断される進路が得られるように、新たな短距離的な進路の生成を繰り返す。
【0028】
走行制御部14は、たとえば自動運転の場合、安全と判断された短距離的な進路を進路生成部11から取得し、動力装置23、制動装置24、操舵装置25を制御することにより自動車1の走行を制御する。
また、走行制御部14は、運転支援の場合、走行操作部材22から操作入力がある場合、たとえば操作入力、短距離的な進路、および外乱逸脱監視部15からの入力に基づいて、自動車1の走行を制御する。
安全と判断された短距離的な進路は、自動車1の進行に応じて、進路生成部11により更新される。
安全と判断された短距離的な進路が更新された場合、走行制御部14は、更新された短距離的な進路により、自動車1の走行を制御する。
【0029】
動力装置23は、自動車1の駆動輪を回転駆動するための装置である。動力装置23は、たとえば内燃機関、モータ、トランスミッションなどで構成される。走行制御部14は、速度を維持または加速する場合に、動力装置23を制御する。
制動装置24は、自動車1の車輪の回転を制動または抑制するための装置である。制動装置24は、車輪の回転を制動するブレーキ装置、負荷状態の内燃機関、モータなどで構成される。走行制御部14は、減速または停止する場合に、制動装置24を制御する。
操舵装置25は、自動車1の操舵輪の向きを制御するための装置である。操舵装置25は、ステアリングアーム、ステアリングモータなどで構成される。走行制御部14は、自動車1の進行方向を左右へ向ける場合に、制動装置24を制御する。
【0030】
外乱逸脱監視部15は、安全性が判断されている進路の状況または進路に対する自動車1の走行状況を監視する。外乱逸脱監視部15は、予定調和を乱す外乱などを監視して検出する。
外乱逸脱監視部15は、前センサ12の検出により得られる空間情報に基づいて、安全と判断されている短距離的な進路およびその周辺での空間における、安全判断後の変化を外乱として検出する。
たとえば、安全と判断された短距離的な進路に、その判断後に新たな歩行者が侵入したことによる変化が生じた場合、外乱逸脱監視部15は、その歩行者を外乱として検出する。
外乱逸脱監視部15は、前センサ12の検出により得られる空間情報に基づいて、安全と判断された短距離的な進路に対する自動車1が実際に走行する進路の逸脱を検出する。
たとえば、安全と判断された短距離的な進路としての走行帯の両側の通行区分帯の仕切マークの検出位置がずれて、自動車1が走行する位置が走行帯の中央部からずれている場合、または自動車1の向きが、走行帯に沿った方向に対して傾いた場合、外乱逸脱監視部15は、自動車1の進路の逸脱を検出する。
【0031】
可変ヘッドライト17は、自動車1の進行方向へ向かって光を照射するためのヘッドライト3として用いられる。そして、可変ヘッドライト17は、図1に示すように、光の照射範囲を変更可能である。このような可変ヘッドライト17には、たとえば図1(A)の通常の照射範囲31へ光を照射する光源部材と、図1(B)の本実施形態での照射範囲32へ光を照射する光源部材とを有するものがある。
【0032】
配光制御部16は、可変ヘッドライト17に接続され、可変ヘッドライト17による照射を制御する。
配光制御部16は、たとえば、可変ヘッドライト17による光の照射を、図1(A)の状態と図1(B)の状態との間で切り替える。
【0033】
図3は、第一実施形態での配光制御部16による光の照射範囲の切替制御の流れを示すフローチャートである。
制御部としての配光制御部16は、図3の処理を、たとえば自動車1の走行中に繰り返し実行する。
【0034】
図3のステップST1において、配光制御部16は、可変ヘッドライト17の点灯開始を判断する。
配光制御部16は、たとえば走行する自動車1の周囲が暗い場合、乗員が操作部材を操作した場合、可変ヘッドライト17の点灯を開始すると判断し、処理をステップST2へ進める。それ以外の場合は、配光制御部16は、図3の処理を終了する。
【0035】
ステップST2において、配光制御部16は、図2の各部から、たとえば進路安全判断部13や外乱逸脱監視部15から現在の走行状態に関する情報を取得する。
【0036】
ステップST3において、配光制御部16は、進路安全判断部13から取得した情報に基づいて、短距離的な進路について安全と判断したか否かを判断する。
進路安全判断部13が、現在の短距離的な進路について安全と判断している場合、配光制御部16は、処理をステップST4へ進める。
進路安全判断部13が、現在の短距離的な進路について安全と判断していない場合、配光制御部16は、処理をステップST7へ進める。
【0037】
ステップST4において、配光制御部16は、外乱逸脱監視部15から取得した情報に基づいて、安全と判断されている現在の短距離的な進路についての外乱の検出の有無を判断する。
外乱逸脱監視部15が、現在の短距離的な進路についての判断後に外乱や逸脱を検出していない場合、配光制御部16は、処理をステップST5へ進める。
外乱逸脱監視部15が、現在の短距離的な進路についての判断後に外乱や逸脱を検出している場合、配光制御部16は、処理をステップST7へ進める。
【0038】
ステップST5において、配光制御部16は、図1(B)に示すように、照射範囲を変更可能な可変ヘッドライト17により、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って、中央部より強い光を照射する。
図1(B)において、一対の可変ヘッドライト17は、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿った一対の照射範囲32に対して、反対側の可変ヘッドライト17から光を照射する。ただし、図1(B)の配光では、自動車1の進路の中央部は、進路の両側部の軌道に沿う一対の照射範囲32と比べて、減光または非照射とされた状態となる。道路の路面には、進路にしたがって進行する自動車1の両側部の軌道に沿って、進路の中央部より強い光が照射される。
また、一対の可変ヘッドライト17は、自動車1の前側において光を交差させて、一対の照射範囲32へ照射する。これにり、一対の照射範囲32およびその間の空間に、一対の可変ヘッドライト17の光を行き渡らせることができる。これに対して、仮にたとえば図1(B)において一点鎖線で示すように、各照射範囲32に対してそれと同じ側の可変ヘッドライト17から光を照射した場合、自動車1の前側の中央部分において可変ヘッドライト17の光が交差しなくなり、自動車1の前側の中央部分に光を行き渡らせることができない。
【0039】
ステップST7において、配光制御部16は、図1(A)に示すように、照射範囲を変更可能な可変ヘッドライト17により、通常のヘッドライト3と同様に進路の中央部を含めた進路の全体に対して光を照射する。
図1(A)の配光では、自動車1の進路の中央部は、図1(B)と比べて強い光が照射される。
【0040】
ステップST6において、配光制御部16は、可変ヘッドライト17の消灯を判断する。
可変ヘッドライト17を消灯する場合、配光制御部16は、可変ヘッドライト17を消灯して、図3の処理を終了する。
可変ヘッドライト17を消灯しない場合、配光制御部16は、処理をステップST2へ戻す。なお、配光制御部16は、ステップST2からST6までの処理を、たとえば進路生成部11による短距離的な進路の更新周期より短い制御周期で繰り返してよい。
【0041】
以上のように、本実施形態では、自動運転または運転支援による進路などで自動車1が進行する進路の安全性を判断する進路安全判断部13が、自動車1の進路を安全と判断する場合、照射範囲を変更可能な可変ヘッドライト17により、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って、進路の中央部より強い光を照射する。これにより、たとえば走行中の自動車1の前を横切ろうとする歩行者などは、自動車1の両側部の軌道を横切るタイミングで、乗員により視認され得る。その結果、本実施形態では、通常のヘッドライト3のように進路の中央部を含めた進路の全体に対して光を照射している場合と比べて、早期に、走行中の自動車1の前を横切ろうとする歩行者などを、乗員に視認させることができる。
この場合、進路の中央部は、通常の照射である場合よりも減光または非照射とされることになる。ただし、本実施形態では、右側の可変ヘッドライト17は、左側の側部の軌道に沿う照射範囲32に光を照射し、左側の可変ヘッドライト17は、右側の側部の軌道に沿う照射範囲32に光を照射している。左右の可変ヘッドライト17の光は、自動車1の前で交差している。この場合、進路の中央部において自動車1に近い位置には、通常の光の照射の場合と同様に、路面へ照射する光が存在する。通常の光の照射の場合と同様に、自動車1の車幅の全体において光を照射することができる。
しかも、本実施形態において可変ヘッドライト17がこのような両側部の軌道に沿う一対の照射範囲32に光を照射する場合は、進路安全判断部13が、自動運転または運転支援などによる進路で自動車1が進行する進路の安全性を判断する場合に限っている。進路安全判断部13が自動車1の進路を安全と判断できない場合、照射範囲を変更可能な可変ヘッドライト17から前方へ光を照射することにより、通常のヘッドライト3と同様に進路の中央部を含めた進路の全体に対して光を照射する。このような進路の安全性についての基本的な判断に応じて可変ヘッドライト17の照射範囲を変更することにより、乗員は、可変ヘッドライト17の照射状態の切り替えにより、通常通りに注意すべき走行状態にあることを自然に把握することができる。
【0042】
また、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って光を照射する場合において、配光制御部16は、進路の中央部を、自動車1の両側部に沿った照射範囲32と比べて減光される。または、進路の中央部を、非照射とする。これにより、自動車1の両側部の軌道が強調して照らされることになる。走行中の自動車1の前を横切ろうとする歩行者などには、乗員に視認させ易くなる。
たとえば、可変ヘッドライト17は、通常、自動車1の前方の中央部分を中心に光を照射する。この場合、自動車1の前方の中央部分は明るく照らされるものの、その左右両側の部分は、中央部分より暗くなる。その結果、たとえば走行中の自動車1の前を横切ろうとする歩行者などは、自動車1の前方の中央において照射範囲32に到達するタイミングで、突発的に乗員により視認され易い。
【0043】
本実施形態では、さらに、進路安全判断部13により安全性が判断されている進路の状況または進路に対する自動車1の走行状況を監視する外乱逸脱監視部15、を有し、配光制御部16は、進路安全判断部13が自動車1の進路を安全と判断し、かつ外乱逸脱監視部15により異常な状況が検出されていない場合において、照射範囲を変更可能な可変ヘッドライト17により、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って、進路の中央部より強い光を照射する。よって、安全性が判断されている進路の状況または進路に対する自動車1の走行状況について、異常な状況が検出された場合、照射範囲を変化させて、乗員に注意を喚起することができる。しかも、照射範囲の変化後には、通常のヘッドライト3と同様に中央部を含めた進路の全体に対して光を照射するので、進路を注意する乗員には、異常検出の原因となる人や物を容易に把握することができる。
【0044】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る自動車1のヘッドライト制御装置10について説明する。以下の説明では、上述した実施形態と同等の構成については同一の符号を付して、その説明を省略する。以下、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0045】
図4は、本発明の第二実施形態での可変ヘッドライト17の説明図である。
図4の可変ヘッドライト17は、車体2の左側の側部に設けられるものである。車体2の左側の側部に設けられる可変ヘッドライト17も同様の構造を有する。
図4の可変ヘッドライト17は、複数の光源部材としてのLED素子41を有する。
LED素子41には、たとえば赤色に発光するもの、緑色に発光するもの、青色に発光するものがある。発光される光の波長は、赤色、緑色、青色の順番で長くなる。
【0046】
そして、可変ヘッドライト17において、複数のLED素子41は、車幅方向に沿って並べて設けられる。なお、複数のLED素子41は、上下方向または前後方向に並べて、または、これらを組み合わせた配列で可変ヘッドライト17に設けられてよい。
複数のLED素子41は、図4の複数のスポット範囲42に示すように、車両の側部の軌道に沿って一列状に光を照射する。図4では、車体2の中央側のLED素子41は、その外側のLED素子41より前側となる位置へ光を照射する。複数のLED素子41は、自動車1から異なる距離に光を照射する。
複数のLED素子41は、車両の側部の軌道に沿って照射する光の照射範囲32において、前側に照射するものが、後側に照射するものと比べて長い波長の光を出力する。複数のLED素子41は、自動車1に近い位置より自動車1から遠い位置に対して長い波長の光を照射する。
なお、図4では、車体2の左側の側部に設けられる可変ヘッドライト17の複数のLED素子41は、車両の左側の側部の軌道に沿って一列状に光を照射している。この他にもたとえば、車体2の左側の側部に設けられる可変ヘッドライト17の複数のLED素子41は、第一実施形態と同様に、車両の右側の側部の軌道に沿って一列状に光を照射してもよい。
【0047】
以上のように、本実施形態において、可変ヘッドライト17において自動車1から異なる距離に光を照射する複数の光源部材は、自動車1の両側部の軌道に沿って照射する光の照射範囲32において、自動車1に近い位置より自動車1から遠い位置に対して長い波長の光を照射する。
よって、雨などでぬれた路面などにおいても、遠方の位置からの反射光を好適に得ることができる。遠方の位置からの反射光は、水たまりなどにより乱反射し難い。乱反射を抑制して、自動車1の遠方の位置についての視認性を向上させることができる。
しかも、自動車1が遠い位置に対して長い波長の光である赤に近い色の光を照射していたとしても、自動車1に近づくことにより自動車1の照射光は、たとえば青色に近づいて、純粋な赤色ではなくなる。よって、歩行者や他の自動車の乗員は、自動車1に近づいてゆくことにより、自動車1の前照灯と後照灯とを識別することができる。
【0048】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る自動車1のヘッドライト制御装置10について説明する。以下の説明では、上述した実施形態と同等の構成については同一の符号を付して、その説明を省略する。以下、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0049】
図5は、本発明の第三実施形態での可変ヘッドライト17の照射範囲についての説明図である。
図5(A)は、第三実施形態での可変ヘッドライト17の照射範囲の説明図である。
図5(B)は、第一実施形態での可変ヘッドライト17の照射範囲の説明図である。
【0050】
図5において自動車1が走行する片側一車線の道路は、路面に描画された複数の通行区分帯の仕切マーク51を有する。自動車1は、隣接する通行区分帯の仕切マーク51の間を走行帯として走行する。
本実施形態において、可変ヘッドライト17は、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って光を照射する場合、さらに路面の路肩側の側部の軌道に沿う照射範囲32の前端から自動車1の中央部の軌道までの範囲(以下、前照射範囲33という。)に対しても光を照射する。路肩側の路面は、略L字型に光が照射される。前照射範囲33は、路肩側の反対側の可変ヘッドライト17から照射される。なお、前照射範囲33は、路肩側の可変ヘッドライト17から照射されてもよい。
【0051】
以上のように、本実施形態では、配光制御部16は、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って光を照射する場合、さらに路面の路肩側の側部の軌道に沿う照射範囲32の前端から自動車1の中央部の軌道までの前照射範囲33へ光を照射する。これにより、図5に示すように自動車1の前をゆっくりと横切ろうとする歩行者などが存在し、その歩行者などが自動車1の前照射範囲33に対して、前側から侵入することがあったとしても、その侵入する歩行者などへ光を照射することができる。図5(A)に示す本実施形態では、図5(B)に示す第一実施形態の場合と比べて、横断中の歩行者に対して光を早期に照射することができる。横断中の歩行者の早期発見が可能である。
しかも、両側部の軌道に沿う一対の照射範囲32の前端同士の間に対して、全体的に光を照射するのではなく、路面の路肩側の側部の軌道に沿う照射範囲32の前端から自動車1の中央部の軌道までの前照射範囲33へ光を照射する。よって、対向車の乗員に対して路面などで反射されたグレア光を照射し難くできる。通常のヘッドライト3の光では、対向車の可変ヘッドライト17の光と自車の可変ヘッドライト17の光とにより中央分離帯にいる歩行者などが一瞬消えて視認されなくなることがあるが、そのような事態が生じ難くできる。
【0052】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る自動車1のヘッドライト制御装置10について説明する。以下の説明では、上述した実施形態と同等の構成については同一の符号を付して、その説明を省略する。以下、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0053】
図6は、本発明の第四実施形態での可変ヘッドライト17の照射範囲についての説明図である。
図6(A)に示すように、自動車1は、走行中の走行帯に対して傾いた姿勢になる可能性がある。
この場合、上述した実施形態と同様に自動車1の両側部の軌道に沿って光を照射すると、図6(A)に示すように、自動車1の側部の軌道に沿う照射範囲32が、路面に描画されている走行帯(通行区分帯)の仕切マーク51と重なる可能性がある。この場合、可変ヘッドライト17は、通行区分帯の仕切マーク51に光を照射して照らし出すことになる。この他にもたとえば、可変ヘッドライト17は、道路の路肩の外側にある草木に光を照射して照らし出すことになる。乗員は、自動車1の前にあるはずのない仕切マーク51や草木が照らし出されることにより、不安になる可能性がある。たとえその後の自動運転の制御により自動車1の向きが走行帯に沿うように修正されるとしても、乗員は、不安になる可能性がある。
【0054】
図7は、第四実施形態での配光制御部16による光の照射範囲の切替制御の流れを示すフローチャートである。
制御部としての配光制御部16は、図7の処理を、たとえば自動車1の走行中に繰り返し実行する。なお、図7において、図3と同様の処理については同一のステップ番号を使用し、その説明を省略する。
ステップST4において、安全と判断された短距離的な進路について外乱などが検出されていない場合、配光制御部16は、処理をステップST11へ進める。
【0055】
ステップST11において、配光制御部16は、自動車1の走行帯に対する自動車1のずれ(傾き)を判断する。配光制御部16は、たとえば仕切マーク51に対して光を照射してしまう程度に、自動車1が傾いているか否かを判断する。
自動車1のずれが生じていない場合、配光制御部16は、処理をステップST5へ進める。
自動車1のずれが生じている場合、配光制御部16は、処理をステップST12へ進める。
【0056】
ステップST12において、配光制御部16は、照射範囲を変更可能な可変ヘッドライト17により、自動車1の両側部の軌道に沿って、仕切マーク51に対して光を照射しないように、光を照射する。
たとえば、配光制御部16は、図6(B)に示すように、仕切マーク51と交差しないように、仕切マーク51と交差する一方側の照射範囲32を短くする。照射範囲32についての仕切マーク51を超える部分の照射を消す。
または、配光制御部16は、図6(C)に示すように、仕切マーク51と交差しないように、仕切マーク51と交差する一方側の照射範囲32を、走行帯の中央側へ向けて屈曲させる。照射範囲32についての仕切マーク51を超える部分を、自動車1の進行方向に沿うように曲げてずらす。
または、配光制御部16は、図6(D)に示すように、仕切マーク51と交差しないように、両側の一対の照射範囲32についての仕切マーク51を超える部分およびそれに対応する部分を、走行帯の中央側へ向けて屈曲させる。
その後、配光制御部16は、処理をステップST6へ進める。
以上の処理を繰り返すことにより、配光制御部16は、たとえば自動運転中に一時的に照射範囲32が仕切マーク51や路肩の草木を照らし出すように自動車1の姿勢が傾いたとしても、仕切マーク51や路肩の草木を照らし出さないようにすることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、配光制御部16は、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って光を照射するとした場合に路肩または路面に描画されている通行区分帯の仕切マーク51に対して光を照射することになるとき、路肩または仕切マーク51への光の照射を抑制するように照射範囲32を変更する。
よって、たとえば、自動車1が通行区分帯に対して傾くようにずれて走行している状況が生じたとしても、傾いて走行する自動車1の前に通行区分帯の仕切マーク51が突然に現れるように照らし難くできる。
この他にもたとえば、長い直線路の終端のコーナ入り口において、自動車1の前に突然に現れるように路肩の草木を照らし難くできる。運転を直接的に操作していない乗員は、走行中に、これらの仕切マーク51や路肩の草木が進路に突然に視認されてしまうことにより不安になり難くなる。
走行中の自動車1が路面に対して滑るなどして通行区分帯に対して姿勢が傾いたとしても、進行方向の前方に仕切マーク51や路肩の草木が照らされることがなくなるので、乗員は、それらが照らし出されることによる不安を感じることはない。乗員は、運転を直接的に操作していない場合でも、予定調和の下で、自動車1の自動運転などが適切に実行されていることを感じ取ることができる。
【0058】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態に係る自動車1のヘッドライト制御装置10について説明する。以下の説明では、上述した実施形態と同等の構成については同一の符号を付して、その説明を省略する。以下、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0059】
図8は、本発明の第五実施形態での可変ヘッドライト17の照射範囲についての説明図である。
図8(A)に示すように、自動車1が走行する位置は、走行中の走行帯の中央から左右へ横ずれすることがある。この場合、自動車1は、このまま自動運転などによる走行を続けるためには、図中に矢線で示すように、その走行位置を、走行帯の中央を走行するように修正する必要がある。自動車1は、進路を修正する必要がある。
この進路の修正期間中の自動車1の挙動について、乗員は不安に感じる可能性がある。乗員は、運転を直接的に操作していない場合、予定調和的な正常な制御による自動車1の挙動と、自動車1が正常に動作していない場合の挙動とを判別することが難しい。
【0060】
図9は、第五実施形態での配光制御部16による光の照射範囲の切替制御の流れを示すフローチャートである。
ステップST4において、安全と判断された短距離的な進路について外乱などが検出されていない場合、配光制御部16は、処理をステップST21へ進める。
【0061】
ステップST21において、配光制御部16は、自動車1の走行帯に対する自動車1の横ずれを判断する。配光制御部16は、自動車1の走行帯の左右にある一対の通行区分帯の仕切マーク51の中央位置に対する、自車の中央位置の横ずれ量が所定の閾値以上であるか否かに基づいて、自動車1の横ずれを判断する。
自動車1の横ずれが生じていない場合、配光制御部16は、処理をステップST5へ進める。
自動車1の横ずれが生じている場合、配光制御部16は、処理をステップST22へ進める。
【0062】
ステップST22において、配光制御部16は、照射範囲を変更可能な可変ヘッドライト17により、自動車1の両側部の軌道に沿う一対の照射範囲32とともに、自動車1の進路の修正方向を示す逆三角形マーク35を表示するように、光を照射する。
たとえば、配光制御部16は、図9(B)に示すように、自動車1の両側部の修正軌道に沿うように、左右両側の一対の照射範囲32を湾曲させる。
また、配光制御部16は、左右両側の一対の照射範囲32の間に、逆三角形マーク35を表示する。逆三角形マーク35は、後側の頂点が自動車1の中央部の修正軌道と重なるように、不等辺三角形に表示される。
この場合、自動車1が修正軌道に沿って進行するにつれて、図9(C)に示すように、左右両側の一対の照射範囲32の湾曲の状態と、逆三角形マーク35の形状が変化する。
また、自動車1が軌道の修正により走行帯の中央を走行するようになると、図9(C)に示すように、左右両側の一対の照射範囲32は、ステップST5の処理により、湾曲していない進路に沿った直線状になる。また、逆三角形マーク35は消失する。
【0063】
以上のように、本実施形態では、配光制御部16は、自動車1が進路を修正する場合、進路で進行する自動車1の両側部の軌道に沿って光を照射するとともに、両側部の軌道に沿う照射範囲32の前端の間に、進路の修正方向を示す逆三角形マーク35を表示する。
よって、たとえば、走行中の自動車1が通行区分帯の範囲内で左右へ片寄りして、それを修正するように自動車1が進路を修正している場合でも、乗員は、路面に表示されている逆三角形マーク35により、自動車1が正常に進路を修正していること、およびその修正方向および位置を把握することができる。
走行中の自動車1が路面の通行区分帯の範囲内で左右へ片寄りするなどしたとしても、修正する進行方向が逆三角形マーク35などにより表示されることにより、乗員は、片寄りや修正中の自動車1の動きにより不安を感じることはない。乗員は、運転を直接的に操作していない場合でも、予定調和の下で、自動車1の自動運転などが適切に実行されていることを感じ取ることができる。
【0064】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるのもではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0065】
たとえば上記実施形態では、自動車1は、基本的に前方へ進行するものとして説明している。
この他にもたとえば、自動車1は、後方や側方へ進行してもよい。この場合、前センサ12は、自動車1の進路方向である後方や側方をを観察すればよい。前センサ12は、自動車1の周囲のたとえば360度を全体的に観察するものでもよい。
【0066】
上記実施形態では、可変ヘッドライト17は、自動車1の前部において左右の両端部に設けられている。
この他にもたとえば、可変ヘッドライト17は、自動車1の前部の中央部または全体に設けられてもよい。また、可変ヘッドライト17は、自動車1の前後左右の外周に沿って設けられてもよい。この場合でも、可変ヘッドライト17において、たとえば複数のLED素子41などの光源部材を配列することにより、照射範囲を変更することが可能になる。
【符号の説明】
【0067】
1…自動車(車両)、2…車体、3…ヘッドライト、10…ヘッドライト制御装置、11…進路生成部、12…前センサ、13…進路安全判断部、14…走行制御部、15…外乱逸脱監視部、16…配光制御部、17…可変ヘッドライト、18…経路生成部、19…走行帯選択部、20…通信装置、21…GPS受信機、22…走行操作部材、23…動力装置、24…制動装置、25…操舵装置、29…ECU、31…通常の照射範囲、32…両側部の軌道に沿った照射範囲、33…前照射範囲、35…逆三角形マーク、41…LED素子(光源部材)、42…スポット範囲、51…仕切マーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9