(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】静止誘導電気機器の防音装置
(51)【国際特許分類】
H01F 27/33 20060101AFI20230124BHJP
H01F 27/04 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H01F27/33
H01F27/04 Z
(21)【出願番号】P 2018034032
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】増田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-109116(JP,U)
【文献】特開昭48-059328(JP,A)
【文献】特開2015-070182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/33
H01F 27/04
H01F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内に電気機器本体と絶縁油を収納する静止誘導電気機器において、タンク内部のタンク側面から一定の間隔を開けて可動するように遮音板を取り付け、かつ、前記遮音板の外周を形成する4辺
全てに平行になるように、当該4辺から一定の間隔を開けて延在するようにタンク側面に空隙板を取り付け、前記遮音板が電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を受けて前記タンク側面に対し垂直に動くことで、前記遮音板とタンク側面間の絶縁油が、前記遮音板と空隙板の間から吐出又は吸引させ、この絶縁油が前記遮音板と前記タンク側面間を移動するときに発生する絶縁油の摩擦抵抗によって、前記遮音板が電気機器本体から発生する騒音や振動を吸収するオイルダンパーとして作用するように構成したことを特徴とする静止誘導電気機器の防音装置。
【請求項2】
前記遮音板は、絶縁油を伝播する電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を受けて変形することがない剛性を持つ板材又は変形することがない剛性を持つように補強ステーやリブ加工を行った板材であることを特徴とする請求項1記載の静止誘導電気機器の防音装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器などの静止誘導電気機器から発生する騒音や振動を低減する防音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
防音建屋の内部に変圧器を配置し、変圧器の外箱から突出する複数のブッシングポケット等が防音建屋を貫通して外部に突き出た状態で設置した構造の防音変圧器は従来から知られている。(下記特許文献1参照)。
【0003】
この防音変圧器は、変圧器を防音建屋内部に設置することにより、遮音あるいは吸音することで外部への騒音漏れを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭59-032048
【文献】特開平01-220414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然るに、防音建屋内に変圧器を設置すると、防音建屋の設置スペースが必要な点や、防音建屋を貫通させてブッシングポケット等を設置する等、構造が複雑化する問題がある。一方、このような問題点のない変圧器として、変圧器の外箱内側に変圧器本体から絶縁油を介して伝達された振動を吸収する振動吸収体を有する変圧器が知られている(上記特許文献2参照)。
【0006】
しかし、変圧器等の静止誘導電気機器から発生する騒音や振動には、様々な周波数の騒音や振動が含まれるが、吸収できる周波数帯は振動吸収体の材質によって決まっているので、1種類の振動吸収体では効率的に騒音を低減することができないことがある。
【0007】
そこで、本発明では、前述の問題点を解決すべく、変圧器等の静止誘導電気機器の外形寸法を大きくすることなく、電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を低減することができる防音装置を備えた変圧器を提示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、タンク内に電気機器本体と絶縁油を収納する静止誘導電気機器において、タンク内部のタンク側面から一定の間隔を開けて可動するように遮音板を取り付け、かつ、前記遮音板の外周を形成する4辺全てに平行になるように、当該4辺から一定の間隔を開けてタンク側面に空隙板を取り付け、前記遮音板が電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を受けて前記タンク側面に対し垂直に動くことで、前記遮音板とタンク側面間の絶縁油が遮音板と空隙板の間から吐出又は吸引される。この絶縁油の流動により、前記絶縁油に遮音板及び空隙板との間で摩擦抵抗を発生させて、前記遮音板が電気機器本体から発生する騒音や振動を吸収するオイルダンパーとして作用するように構成したことを特徴とする防音装置を備えたことに特徴を有する。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の遮音板を、絶縁油を伝播する電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を受けて変形することがない剛性を持つ板材又は変形することがない剛性を持つように補強ステーやリブ加工を行った板材で構成したことに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、電気機器本体と絶縁油を収納する静止誘導電気機器のタンク内部に、該タンク側面から一定の間隔を開けて可動するように遮音板を取り付けることで、前記遮音板が電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を受けて前記タンク側面に対し垂直に動き、前記遮音板とタンク側面間の絶縁油が遮音板とタンク側面間から吐出又は吸引される。前記遮音板とタンク側面間を絶縁油が移動するときに発生する絶縁油の摩擦抵抗により、前記遮音板がオイルダンパーとして作用して前記騒音及び振動の運動エネルギーを吸収するので、電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を低減することができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、電気機器本体と絶縁油を収納する静止誘導電気機器のタンク内部に該タンク側面から一定の間隔を開けて可動するように遮音板を取り付け、さらに、前記遮音板の外周を形成する4辺から一定の間隔を開けてタンク側面に空隙板を取り付けることで、前記遮音板が電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を受けて前記タンク側面に対し垂直に動くことで、前記遮音板とタンク側面間の絶縁油が前記遮音板と空隙板の間から吐出又は吸引される。前記遮音板と空隙板間を絶縁油が移動するときに発生する絶縁油の摩擦抵抗により、前記遮音板がオイルダンパーとして作用して前記騒音及び振動の運動エネルギーを吸収するので、電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を低減することができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、請求項1及び請求項2記載の前記遮音板として、絶縁油を伝播する電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音及び振動を受けて変形することがない板材にしたり、補強ステーやリブ加工を追加することで、前記遮音板全体で前記騒音及び振動の運動エネルギーを吸収することができるので、効率的に電気機器本体から発生する様々な周波数の騒音や振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1に係る静止誘導電気機器の断面図である。
【
図2】本発明の実施例2に係る静止誘導電気機器の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例1について
図1を用いて説明する。
図1は本発明の実施例1に係る静止誘導電気機器の断面図である。
図1において、Aは静止誘導電気機器であり、1は電気機器本体、2は電気機器本体1を冷却する絶縁油、3は電気機器本体1と絶縁油2を収納する静止誘導電気機器Aのタンクである。
【0016】
3aはタンク3の側面(以下、タンク側面という)であり、4はタンク側面3aに取り付けられたスタッドボルト、5はタンク側面3aから一定の間隔を開けた状態でタンク側面3aに垂直な方向で動くようにスタットボルト4に2つのスプリング6の間に挟んだ状態でナット7により取り付けられた遮音板である。
【0017】
上記構成の静止誘導電気機器Aは、タンク3内部に遮音板5から構成される防音装置を収納しているので静止誘導電気機器Aの外部に防音壁等の防音設備を設置するスペースが必要ない。
【0018】
本発明の実施例1では、タンク側面3aと遮音板5の間に存在する絶縁油2は、電気機器本体1から発生する騒音や振動を受けた遮音板5が(
図2に示すように)スプリング6aとスプリング6b間をタンク側面3aに垂直な方向に振動すると遮音板5に押されてタンク側面3aと遮音板5の外周を形成する四辺5aの間から吐出又は吸引される。
【0019】
粘度の高い絶縁油2がタンク側面3aと遮音板5の間を移動して遮音板の四辺5aより吐出又は吸引されたときに発生するタンク側面3aと遮音板5との摩擦抵抗により、遮音板5が受けた電気機器本体1から発生する騒音や振動の運動エネルギーが吸収されて低減されるので、静止誘導電気機器Aから前記騒音や振動がタンク3の外部に漏れることを防ぐことができる。
【0020】
このように、遮音板5が電気機器本体1から発生する騒音や振動を受けて振動する動きを、絶縁油2がタンク側面3aと遮音板の四辺5aの間で吐出又は吸引される時に発生する前記タンク側面3aと遮音板5との摩擦抵抗を利用したオイルダンパーの作用で吸収できるので、従来例に記載した吸収体がタンクの側面に固定された構造のように吸収できる周波数帯が限定されることはなく、様々な周波数の騒音や振動を低減することが可能である。
【0021】
本発明の実施例2について
図2を用いて説明する。
図2は本発明の実施例2に係る静止誘導電気機器の防音装置の要部を拡大して示している。
図2において、Aは静止誘導電気機器であり、2は図示されない電気機器本体1を冷却する絶縁油、3は図示されない電気機器本体1と絶縁油2を収納する静止誘導電気機器Aのタンクである。
【0022】
3aはタンク3のタンク側面であり、4はタンク側面3aに取り付けられたスタッドボルト、5はタンク側面3aから一定の間隔を開けた状態でタンク側面3aに垂直な方向で動くようにスタットボルト4にスプリング6aとスプリング6bの間に挟んだ状態でナット7により取り付けられた遮音板、8は遮音板5の外周を形成する四辺5aから一定の間隔を開けてタンク側面3aに固定された空隙板である。
【0023】
本発明の実施例2では、タンク側面3aと遮音板5の間に存在する絶縁油2は、図示されない電気機器本体1から発生する騒音や振動を受けた遮音板5が(
図2に示すように)スプリング6aとスプリング6b間をタンク側面3aに垂直な方向に振動すると、遮音板5の動きに合わせて遮音板5の四辺5aと空隙板8の間で吐出又は吸引される。
【0024】
粘度の高い絶縁油2が遮音板5の四辺5aと空隙板8の間で吐出又は吸引されるときに発生する摩擦抵抗により、遮音板5が受けた騒音や振動の運動エネルギーが吸収されて低減されるので、静止誘導電気機器Aから前記騒音や振動がタンク3の外部に漏れることを防ぐことができる。
【0025】
また、
図2に示すような空隙板8に換えて、空隙板8の板厚方向にスリットを開けた空隙板8を遮音板5の4辺5aと当接する位置に固定し、タンク側面3aと遮音板5の間に存在する絶縁油2が空隙板8のスリットを通して吐出又は吸引するときに発生するスリットとの摩擦抵抗を利用してもよい。
【0026】
本発明の実施例3について
図2を用いて説明する。
図2は本発明の実施例2に係る静止誘導電気機器の防音装置の要部を拡大して示している。5は本発明の実施例1及び実施例2に記載の遮音板であり、9は遮音板5に取り付けられた補強ステーである。
【0027】
本発明の実施例3では、遮音板5に補強ステー9を取り付けることで、静止誘導電気機器Aから騒音や振動による遮音板5の変形を回避したり、遮音特性を制御することで、オイルダンパーの作用を効率よく発揮できる。
【0028】
また、
図2に示すような補強ステー9に換えて、遮音板5にリブ状の凹凸を施したり、遮音板5の材質を高張力鋼等の強度が高いものにすることで、変形の回避や遮音特性の制御を行ってもよい。
【0029】
さらに、遮音板5をタンク側面3aに取り付けているスタットボルト4の取り付け位置や本数、スプリング6、6a、6bのバネ定数を変えることで遮音板5の遮音特性を制御することもできる。
【0030】
以上説明したように、本発明の防音装置によれば、静止誘導電気機器から発生する様々な周波数の騒音又は振動を簡単な構造により確実に低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
筐体内部に電気機器本体と絶縁油を収納する使用する各種電気機器に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
A 静止誘導電気機器
1 電気機器本体
2 絶縁油
3 静止誘導電気機器のタンク
3a タンク側面
4 スタットボルト
5 遮音板
5a 遮音板の四辺
6、6a、6b スプリング
7 ナット
8 空隙板
9 補強ステー