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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】食肉保存方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/16 20060101AFI20230124BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20230124BHJP
【FI】
A23B4/16
A23L13/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018089032
(22)【出願日】2018-05-07
(65)【公開番号】P2019195270
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591105801
【氏名又は名称】丸大食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梯 英智
(72)【発明者】
【氏名】能勢 誠
(72)【発明者】
【氏名】最上 健太郎
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-016973(JP,A)
【文献】特開2004-142752(JP,A)
【文献】特開昭57-018959(JP,A)
【文献】Food Research International, 2010, Vol.43, p.277-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/00- 4/32
A23L 13/00-13/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉のガス置換包装において、酸素、二酸化炭素、及び窒素を含む混合ガスを用いることを特徴とし、前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が35~60、二酸化炭素の体積が10~15であり、含まれる窒素の体積を1としたとき、含まれる酸素の体積が0.7~1.5であり、
食肉が、特定加熱食肉製品及び/又はスライスされた赤身の食肉である、
食肉ガス置換包装方法。
【請求項2】
前記混合ガスに含まれる窒素の体積を1としたとき、二酸化酸素の体積が0.2~1.3である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が40~55、二酸化炭素の体積が10~14である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合ガスが、酸素、二酸化炭素、及び窒素の3種混合ガスである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ガス置換された、食肉のパック品であって、
前記ガスが、酸素、二酸化炭素、及び窒素を含む混合ガスであり、前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が35~60、二酸化炭素の体積が10~15であり、含まれる窒素の体積を1としたとき、含まれる酸素の体積が0.7~1.5であり、
食肉が、特定加熱食肉製品及び/又はスライスされた赤身の食肉である、
食肉パック品。
【請求項6】
前記混合ガスに含まれる窒素の体積を1としたとき、二酸化酸素の体積が0.2~1.3である、請求項5に記載の食肉パック品。
【請求項7】
前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が40~55、二酸化炭素の体積が10~14である、請求項5又は6に記載の食肉パック品。
【請求項8】
前記混合ガスが、酸素、二酸化炭素、及び窒素の3種混合ガスである、請求項5~7のいずれかに記載の食肉パック品。
【請求項9】
食肉パック品のガス置換包装用の混合ガスであって、
酸素、二酸化炭素、及び窒素を含み、
酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が35~60、二酸化炭素の体積が10~15であり、含まれる窒素の体積を1としたとき、含まれる酸素の体積が0.7~1.5であり、
食肉が、特定加熱食肉製品及び/又はスライスされた赤身の食肉である、
混合ガス。
【請求項10】
含まれる窒素の体積を1としたとき、二酸化酸素の体積が0.2~1.3である、請求項9に記載の混合ガス。
【請求項11】
含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が40~55、二酸化炭素の体積が10~14である、請求項9又は10に記載の混合ガス。
【請求項12】
酸素、二酸化炭素、及び窒素の3種混合ガスである、請求項9~11のいずれかに記載の混合ガス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉の保存方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉の流通においては、消費者に届くまで食肉の鮮度や見た目の良好さが保たれることが重要である。食肉のパック品(特にコンシューマーパック品)、すなわち、店頭において業者や消費者が内容を見やすく、また使用しやすいようにした包装形態においては、鮮度や見た目の良好さは売り上げに直結するため、特に重要である。近年、食肉流通分野においてはガス置換包装が実用化されており、特にコンシューマー用食肉のガス置換包装においては体積比酸素70~80%及び二酸化炭素20~30%の混合ガスが用いられる。特に高濃度の酸素を配合することで肉色素のミオグロビンを酸素化して鮮赤色のオキシミオグロビンの状態に保ち、また、二酸化炭素の静菌作用を利用して微生物を制御することが意図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-015946号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本包装学会誌Vol.2,No.4,(1993),p211-222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、食肉のパック品(特にコンシューマーパック品)において、より簡便安価で、良好な鮮度や見た目の良さが保たれる、食肉保存方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、通常用いられる酸素及び二酸化炭素の2種混合ガスに、さらに窒素を加えて混合ガスとし、当該混合ガスを食肉のガス置換包装(特にコンシューマーパック)に用いることで、より簡便安価に、且つ良好な鮮度や見た目の良さを保つことができることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
食肉のガス置換包装において、酸素、二酸化炭素、及び窒素を含む混合ガスを用いることを特徴とし、前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が30~75、二酸化炭素の体積が10~20である、食肉ガス置換包装方法。
項2.
前記混合ガスに含まれる窒素の体積を1としたとき、二酸化酸素の体積が0.2~1.3である、項1に記載の方法。
項3.
前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が35~60、二酸化炭素の体積が10~15である、項1又は2に記載の方法。
項4.
前記混合ガスが、酸素、二酸化炭素、及び窒素の3種混合ガスである、項1~3のいずれかに記載の方法。
項5.
食肉が、特定加熱食肉製品及び/又はスライスされた食肉である、項1~4のいずれかに記載の方法。
項6.
ガス置換された、食肉のパック品であって、
前記ガスが、酸素、二酸化炭素、及び窒素を含む混合ガスであり、前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が30~75、二酸化炭素の体積が10~20である、食肉パック品。
項7.
前記混合ガスに含まれる窒素の体積を1としたとき、二酸化酸素の体積が0.2~1.3である、項6に記載の食肉パック品。
項8.
前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が35~60、二酸化炭素の体積が10~15である、項7又は8に記載の食肉パック品。
項9.
前記混合ガスが、酸素、二酸化炭素、及び窒素の3種混合ガスである、項6~8のいずれかに記載の食肉パック品。
項10.
食肉が、特定加熱食肉製品及び/又はスライスされた食肉である、項6~9のいずれかに記載の食肉パック品。
項11.
食肉パック品のガス置換包装用の混合ガスであって、
酸素、二酸化炭素、及び窒素を含み、
酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が30~75、二酸化炭素の体積が10~20である、
混合ガス。
項12.
含まれる窒素の体積を1としたとき、含まれる二酸化酸素の体積が0.2~1.3である、項11に記載の混合ガス。
項13.
含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が35~60、二酸化炭素の体積が10~15である、項11又は12に記載の混合ガス。
項14.
酸素、二酸化炭素、及び窒素の3種混合ガスである、項11~13のいずれかに記載の混合ガス。
項15.
食肉が、特定加熱食肉製品及び/又はスライスされた食肉である、項11~14のいずれかに記載の混合ガス。
【発明の効果】
【0008】
特定の比率で酸素、二酸化炭素、及び窒素を含む混合ガスを、食肉ガス置換包装用ガスとして用いることにより、より簡便安価に、食肉の良好な鮮度や見た目の良さを保つことができる。なお、これら3種ガスの中では窒素が最も安価であり、よって通常用いられる酸素及び二酸化炭素を含む混合ガス(好ましくは2種混合ガス)に窒素をさらに混合させることにより、より安価な食品パック品のガス置換包装用の混合ガスを調製することができる。また、当該混合ガスにおいて窒素ガス比率が高いほど安価ということができる。ただし、食肉の良好な鮮度や見た目の良さを保つという効果は従来用いられているガスと同等又はそれ以上である。
【0009】
以上のように、本発明によれば、従来から用いられている食肉パック品のガス置換包装用の混合ガス(例えば体積比酸素70~80%及び二酸化炭素20~30%の混合ガス)と同等又はそれ以上の、食肉の良好な鮮度や見た目の良さを保つ効果が得られ、且つ安価である、混合ガスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0011】
本発明に包含される食肉ガス置換包装方法は、酸素、二酸化炭素、及び窒素を含む混合ガスを用いることを特徴とする。前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が30~75、二酸化炭素の体積が10~20である。この場合において、窒素の体積は15~60であることは容易に算出できる。
【0012】
また、前記混合ガスに含まれる酸素、二酸化炭素、及び窒素の合計体積を100としたとき、酸素の体積が35~60、二酸化炭素の体積が10~15であることが好ましく、酸素の体積が40~55、二酸化炭素の体積が10~14であることがより好ましく、酸素の体積が45~50、二酸化炭素の体積が11~13であることがさらに好ましい。
【0013】
なお、当該混合ガスにおけるこれら3種のガスの含有割合について、本明細書では体積比を用いて説明するが、気体の体積比はモル比と同一であるので、モル比と言い換えてもよい。
【0014】
また、前記混合ガスにおいて、含まれる窒素の体積を1としたとき、含まれる二酸化酸素の体積が0.2~1.3であることが好ましく、0.22~1であることがより好ましく、0.23~0.75であることがさらに好ましく、0.25~0.5であることがよりさらに好ましく、0.27~0.4であることが特に好ましい。
【0015】
また、前記混合ガスにおいて、含まれる窒素の体積を1としたとき、含まれる酸素の体積が0.7~4であることが好ましく、0.8~3であることがより好ましく、0.9~2.5であることがさらに好ましく、1~2であることがよりさらに好ましく、1~1.5であることが特に好ましい。
【0016】
本発明に効果を損なわない限り、上記混合ガスには、酸素、二酸化炭素、及び窒素以外の他の置換ガスが含まれていてもよい。例えば、希ガス(例えばアルゴン等)などを用いることができる。ただし、特に好ましくは、酸素、二酸化炭素、及び窒素のみを含む混合ガス(3種混合ガス)である。
【0017】
当該方法によりガス置換包装される食肉は、特に制限はされないが、赤身肉であることが好ましい。置換ガスに酸素を配合することで赤身肉の肉色素のミオグロビンを酸素化して鮮赤色のオキシミオグロビンの状態に保つことができ、見た目が良好に保たれうる。
【0018】
また、当該食肉は、加熱食肉製品、特定加熱食肉製品、非加熱食肉製品、又は乾燥食肉製品のいずれであってもよいが、特に特定加熱食肉製品であることが好ましい。特定加熱食肉製品としては、具体的には、例えばローストビーフ、ローストラム、鴨ロースト等が例示できる。
【0019】
また、当該食肉は、原木(塊)であってもよいが、スライスされた食肉であることが好ましい。スライスされることにより、内部の赤身が見えるため、本発明の方法により鮮度や見た目が良好に保たれるという効果が、より好ましく発揮される。例えば、スライスされた特定加熱食肉製品が好ましく、特にスライスされたローストビーフが好ましい。スライス厚は特に制限されないが、例えば1~5mm程度が例示される。
【0020】
本発明の食肉ガス置換包装方法に用いられる包装材料(例えば容器及び/又はフィルム)の材質としては、ガスバリア性を有しており、置換されたガスが容易に外気と混合されないものが好ましい。このような材料としては、公知のものを好ましく用いることができる。例えば、バリヤ剤として、PVDC(塩化ビニリデン)、EVOH(エチレン-酢ビ共重合物のけん化物)等を用いることができる。また、例えば、PE/PVDE/PE、EVOH/PP/PE、NY/PE、S-PVC/PVDC/PE、PE/PVDC/PSP、PE/EVOH/LLDPE、アクリロニトリル共重合体、等を挙げることができる。なお、/はそれぞれの材料が積層されていることを示し、PEはポリエチレンを、PPはポリポロピレンを、NYはナイロンを、S-PVCは軟質塩化ビニルを、PSPは発砲スチロールを、PETはポリエステルを、LLDPEはリニア低密度ポリエチレンを、それぞれ示す。
【0021】
また、特にコンシューマパックの場合は、少なくとも一部又は全体が透明であって消費者から中身が容易に見えるパックであることが好ましい。
【0022】
ガス置換包装の方法については、公知のガス置換包装方法を用いることができる。例えば、ノズル式ガス置換法、チャンバー式ガス置換法、ガスフラッシュ置換法、呼吸式ガス置換法等を用いることができる。
【0023】
本発明は、食肉パック品(特にコンシューマパック品)も包含する。当該食肉パック品は、上記特定の混合ガスで置換包装されたパック品である。また、当該パック品に包装される食肉についても、上述した内容が該当する。なお、当該食肉パック品は、食肉及び上記特定の混合ガスを有するパック品ということもできる。パック品の形態は特に制限はされないが、業者又は消費者から食肉がみえる形態であることが好ましく、また、容器及び/又はフィルムがガスバリア性を有しており、置換されたガスが容易に外気と混合されないことが好ましい。
【0024】
またさらに、本発明は、上記特定の混合ガスの食肉パック品(特にコンシューマパック品)のガス置換包装用の混合ガスとしての使用も包含する。この場合の食肉についても、上述した内容が該当する。
【0025】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例
【0026】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
ガス置換による食肉の色及び生菌数への影響の検討
常法によりローストビーフ原木を調製し、これを半解凍(すなわち、冷凍した後中心部分だけ凍った状態まで解凍)した後、1mm~4mm厚にスライスした。このようにして、スライスされたローストビーフを得た。以下、当該スライスされたローストビーフを単にローストビーフと称する。
【0027】
ローストビーフを5枚(約50g)ずつガスバリア性容器(23cm×20cm×4.5cm、ポリプロピレン製)に包装した。具体的には、ガスバリア性容器に入れて透明のガスバリア性フィルム(PET/PE製)でトップシール包装した。その際、下記表1に記載の体積比の混合ガスによりガス置換し、10℃で暗所に静置して、以下のようにして経時変化を観察及び検討した。なお、ここでのPETはポリエチレンテレフタレートを、PEはポリエチレンを、それぞれ示す。また、「/」は積層していることを示す。
<官能評価>
ガス置換包装後、毎日、ローストビーフの色(赤色の減衰)を、専門パネラーが目視により確認した。ローストビーフとして店頭に並べられる場合を想定したとき、赤色の減衰が特に問題のない程度である場合には「○」、若干赤色の減衰が問題と思われる場合には「△」、赤色の減衰が問題である場合は「×」と評価した。なお、ここでいう問題とは、ローストビーフの色が鮮やかな赤色ではなく茶がかった色となっており、消費者の購入意欲を削ぐ状態になることをいう。当該結果を表1にあわせて示す。
【0028】
【表1】
【0029】
<L表色系による検討>
また、上記目視による確認とあわせて、L表色系を用い、a値(赤方向)を検討した。具体的には、ローストビーフのスライス面の色調を、色彩色差計CR-300(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。a値の降下は赤みが失われたことを示す指標となる。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】